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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】推定装置およびバルブ制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
H01L21/302 101G
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018190225
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020061418
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】田中 崇大
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-112932(JP,A)
【文献】特開2003-5802(JP,A)
【文献】特開2007-180467(JP,A)
【文献】特開昭62-78615(JP,A)
【文献】特開2011-166101(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバを排気する真空ポンプと前記チャンバとの間に設けられる真空バルブの弁体を駆動するための開度信号に、前記弁体を加振するための加振信号を重畳させる加振部と、
加振時のチャンバ内圧力の圧力応答に基づいて、前記真空バルブを介して排気されるガスに関する排気特性を推定する推定部とを備える、推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の推定装置において、
前記推定部は、
前記加振信号の加振振幅、前記圧力応答、および、前記弁体の開度変化とチャンバ内圧力の変化との関係を表すプラントゲインに基づいて、前記真空バルブを介して排気されるガスに関する実効排気速度を推定する、推定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の推定装置において、
前記加振部は、前記弁体の開度変化とチャンバ内圧力の変化との関係を表すプラントゲインと前記加振信号の加振振幅との積が一定となるように前記加振振幅を設定する、推定装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の推定装置において、
前記排気特性は前記真空バルブを介して排気されるガスに関する実効排気速度であって、
前記加振部は、前記チャンバの容積をV、前記実効排気速度の推定開度範囲の上限開度における実効排気速度をSemaxとしたときに、前記加振信号の角周波数ωをω>Semax/Vのように設定する、推定装置。
【請求項5】
真空バルブの弁体の開度信号を生成する調圧部を備え、
前記調圧部は、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の推定装置により推定した前記排気特性に基づいて前記開度信号を生成する、バルブ制御装置。
【請求項6】
チャンバに装着される真空バルブを介して排気されるガスに関する実効排気速度およびチャンバ容積を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された実効排気速度およびチャンバ容積に基づいて前記真空バルブの弁体の開度信号を生成する調圧部と、
所定分子量および所定流量のガスが導入されている前記チャンバに装着された前記真空バルブを複数の開度に制御した場合のチャンバ内圧力に基づいて、前記記憶部に記憶された実効排気速度およびチャンバ容積を校正する校正部と、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の推定装置により推定した前記排気特性に基づいて、前記ガスの分子量および流量が前記所定分子量および前記所定流量と一致するか否かを判定する判定部とを備える、バルブ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置およびバルブ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライエッチング等の半導体プロセスにおいては、チャンバへプロセスガスを流入させつつチャンバ内圧力を所定の圧力に維持して、プロセスが行われる。チャンバへ導入されるプロセスガスは、複数ガス種の混合比、流量Qなどのプロセス条件が予め定められ、その条件になるように流量制御器で調節される。また、チャンバ圧力も重要なプロセス条件の1つであり、一般的に、チャンバと真空ポンプとの間に圧力調整用の自動圧力調整バルブ(APCバルブとも呼ばれる)が設けられる(例えば、特許文献1参照)。チャンバ圧力は真空計で計測され、予め定められた所定の圧力値になるようにバルブの弁体開度位置を制御することで、チャンバの圧力が所定圧力値に保たれる。APCバルブでは予め真空排気装置の排気特性データが記憶され、その排気特性データ基づいて調圧動作が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-093497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、予め記憶されている排気特性データは、実際に使用されるプロセスガスとは異なる標準的なガス(例えば、窒素ガスやアルゴンガス)に基づくものが一般的である。APCバルブと真空ポンプとから成る排気系の排気特性はガス種にも依存するので、排気特性データのガス種とプロセスガスとが異なると、圧力調整の精度が落ちるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい態様による推定装置は、チャンバを排気する真空ポンプと前記チャンバとの間に設けられる真空バルブの弁体を駆動するための開度信号に、前記弁体を加振するための加振信号を重畳させる加振部と、加振時のチャンバ内圧力の圧力応答に基づいて、前記真空バルブを介して排気されるガスに関する排気特性を推定する推定部とを備える。
さらに好ましい態様では、前記推定部は、前記加振信号の加振振幅、前記圧力応答、および、前記弁体の開度変化とチャンバ内圧力の変化との関係を表すプラントゲインに基づいて、前記真空バルブを介して排気されるガスに関する実効排気速度を推定する。
さらに好ましい態様では、前記加振部は、前記弁体の開度変化とチャンバ内圧力の変化との関係を表すプラントゲインと前記加振信号の加振振幅との積が一定となるように前記加振振幅を設定する。
さらに好ましい態様では、前記排気特性は前記真空バルブを介して排気されるガスに関する実効排気速度であって、前記加振部は、前記チャンバの容積をV、前記実効排気速度の推定開度範囲の上限開度における実効排気速度をSemaxとしたときに、前記加振信号の角周波数ωをω>Semax/Vのように設定する。
本発明の好ましい態様によるバルブ制御装置は、真空バルブの弁体の開度信号を生成する調圧部を備え、前記調圧部は、上述した態様のいずれかに記載の推定装置により推定した実効排気速度に基づいて前記開度信号を生成する。
本発明の好ましい態様によるバルブ制御装置は、チャンバに装着される真空バルブを介して排気されるガスに関する実効排気速度およびチャンバ容積を記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された実効排気速度およびチャンバ容積に基づいて前記真空バルブの弁体の開度信号を生成する調圧部と、所定分子量および所定流量のガスが導入されている前記チャンバに装着された前記真空バルブを複数の開度に制御した場合のチャンバ内圧力に基づいて、前記記憶部に記憶された実効排気速度およびチャンバ容積を校正する校正部と、上述した態様のいずれかに記載の推定装置により推定した前記排気特性に基づいて、前記ガスの分子量および流量が前記所定分子量および前記所定流量と一致するか否かを判定する判定部とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、真空バルブで調圧を行う際の圧力調整応答の安定性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、自動圧力制御バルブを備える真空システムの概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、APCバルブの調圧制御系を説明する図である。
図3図3は、開度θと実効排気速度Seとの関係を示す図である。
図4図4は、開度θと実効排気速度Seの開度微分値との関係を示す図である。
図5図5は、開度θとプラントゲインGpとの関係を示す図である。
図6図6は、校正処理の一例を示すフローチャートである。
図7図7は、校正処理時における開度θおよびチャンバ内圧力を示す図である。
図8図8は、開度-圧力特性を示す図である。
図9図9は、開度-排気速度特性を示す図である。
図10図10は、開度-プラントゲイン特性を示す図である。
図11図11は、校正部の詳細を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は、自動圧力制御バルブ(以下では、APCバルブと記載する)を備える真空システムの概略構成を示すブロック図である。APCバルブ1は、チャンバ3に装着されるバルブ本体1aと、バルブ本体1aを駆動制御するバルブ制御装置1bとで構成される。種々の反応プロセスが行われるチャンバ3は、バルブ本体1aと真空ポンプ4とから成る排気系によって真空排気される。図1では、真空ポンプ4にターボ分子ポンプを用いる場合を例に示したが、真空ポンプ4としてはターボ分子ポンプに限らず種々の真空ポンプを用いることができる。
【0009】
バルブ本体1aには、バルブコンダクタンスを調整するための弁体11と、弁体11を駆動するモータ12と、弁体11の開度θを計測するためのエンコーダ13とが設けられている。エンコーダ13の開度計測値θrは、バルブ制御装置1bおよび推定装置5に入力される。チャンバ3には、流量制御器32を介してプロセスガス等が流入される。チャンバ3の圧力は真空計31によって計測される。真空計31により計測された圧力計測値Pgは、バルブ制御装置1bおよび推定装置5に入力される。推定装置5の詳細については後述する。なお、本実施の形態では、推定装置5をAPCバルブ1とは別個に独立して設けたが、推定装置5をバルブ制御装置1b内に設けても良い。
【0010】
図2は、APCバルブ1の調圧制御の概略を説明する図である。制御システムは、図2に示すように、制御対象(プラント)と制御手段(コントローラ)に分けられる。プラント出力であるチャンバ圧力は真空計31で検出されるが、この信号(圧力計測値Pg)がフィードバックされ、目標として設定される所定圧力値(圧力目標値Ps)になるように制御される。図1の構成との対応を説明すると、プラントは弁体11の開度θを入力として圧力計測値Pgを出力とするバルブ本体1aのガス排気部である。コントローラはバルブ制御装置1bおよび弁体11を駆動するモータ12を含むアクチュエータ部で、コントローラ入力は、圧力目標値Psと圧力計測値Pgとの偏差であり、コントローラ出力は開度θであってエンコーダ13にて検出される。
【0011】
図1に戻って、バルブ制御装置1bは、調圧部21、モータ駆動部22、校正部23および記憶部24を備えている。調圧部21は、圧力計測値Pgと圧力目標値Psと、チャンバ3の容積Vなどの調圧に必要な制御パラメータとに基づいて、調圧制御のための開度信号θsをモータ駆動部22に入力する。モータ駆動部22は、開度信号θsに基づいてモータ12を駆動する。
【0012】
例えば、圧力目標値Ps=Ps0の状態から導入ガス流量Qin、Ps=Ps1の状態に変更されると、調圧部21は、次式(1)に示す排気の式に基づいてチャンバ3の圧力PをPs1に近づけるような開度信号θsを生成する。チャンバ3の圧力がPs1の近傍となった後は、圧力目標値Psに対する圧力計測値Pgの偏差がゼロとなるようにフィードバック制御が行われる。式(1)において、Vはチャンバ3の容積であり、Seはチャンバ構造およびバルブコンダクタンスと真空ポンプ4の排気速度で決まる実効排気速度である。
Qin=V×(dP/dt)+Se×P …(1)
【0013】
調圧制御に必要な制御パラメータは記憶部24に記憶されている。制御パラメータの具体的な構成については後述するが、制御パラメータは、APCバルブ1が装着されているチャンバ3の容積や排気するガスの種類等に依存する。そのため、精度良い調圧制御を行うためには、APCバルブ1と真空ポンプ4とからなる排気系をチャンバ3に装着した状態における制御パラメータを取得する必要がある。校正部23は、記憶部24に記憶されている制御パラメータを実際の真空系に適応した制御パラメータに校正すための校正処理を行う。
【0014】
後述するように、校正処理では、実際に弁体11を駆動して所定開度毎に必要データ(例えば、圧力値)を取得するため、長い時間を要する。そのため、日々の生産工程において頻繁に実施されることはなく、定期メンテナンス時に実施される程度の頻度で行われる。従って、プロセス条件によっては、ガス種の混合比、流量、圧力が校正時の条件と大きく異なる。そのため、従来の校正処理だけでは最適な調圧性能を発揮することができず、圧力値が所定の目標圧力近傍で振動的応答となったり、あるいは過減衰気味で所定目標圧力まで長時間を要したりするような不適切な調圧性能にとどまるおそれがあった。
【0015】
そこで、本実施の形態では、プロセス時の調圧制御の際に実効排気速度等の制御パラメータを図1に示す推定装置5により推定し、その推定結果をバルブ制御装置1bにおける調圧制御に用いることで、調圧精度の向上を図るようにした。推定装置5は、推定部51、加振部52および検出部53を備えている。制御パラメータの推定の際には、推定装置5の加振部52からバルブ制御装置1bに加振振幅Δθの加振信号が入力される。その場合、調圧部21からは、開度信号θsに加振振幅Δθの加振信号を重畳した信号が出力される。加振振幅Δθの加振信号は、弁体11に微小振動成分(例えば、正弦波振動や三角波振動)を与える開度信号であって、検出される圧力(圧力計測値Pg)にも加振振幅Δθに対応する圧力応答が生じる。検出部53は、圧力計測値Pgから加振振幅Δθに対応する圧力応答を抽出する。推定部51は、検出部53で抽出された圧力応答に基づいて制御パラメータを推定する。
【0016】
(制御パラメータ推定の説明)
弁体11の開度θと実効排気速度Seとの関係Se(θ)は、一般に、図3に示すような単調増加曲線の関係にある。式(1)に示した排気の式を、ある平衡状態0の近傍にて微小変化量で線形化する。平衡状態0におけるチャンバ圧力P0、流量Qin0、実効排気速度Se0、開度θ0に対して微小量変化量をそれぞれΔP、ΔQin、ΔSe、Δθとすると、平衡状態0の近傍では排気の式(1)にP=P0+ΔP、Qin=Qin0+ΔQin、Se=Se0+ΔSe、θ=θ0+Δθを代入すればよい。
【0017】
ここで、平衡状態0ではQin0=Se0×P0、dP0/dt=0であり、さらに、ΔSe×ΔPを二次微小量として無視すると、平衡状態0の近傍における線形化した排気の式は次式(2)のようになる。さらに、平衡状態0の近傍においては、ΔSe=(∂Se/∂θ│0)×Δθと表せるので、式(2)は式(3)のように表せる。なお、「∂Se/∂θ│0」は、平衡状態0における∂Se/∂θであることを表している。
Qin=V×(dP/dt)+Se×P …(1)
Qin0+ΔQin=V×(d(P0+ΔP)/dt)+(Se0+ΔSe)×(P0+ΔP)
ΔQin=V×(d(ΔP)/dt)+Se0×ΔP+P0×ΔSe …(2)
ΔQin=V×(d(ΔP)/dt)+Se0×ΔP+P0×(∂Se/∂θ│0)×Δθ…(3)
【0018】
式(3)をラプラス変換するとd/dt→S(ラプラス変換の複素変数)と変換されるので、変換後の式は次式(4)のように表される。なお、式(4)では、ラプラス変換後の各量の表記は変換前と同じ表記とした。
ΔP/P0={ΔQin/P0-(∂Se/∂θ│0)×Δθ}/(V×S+Se0) …(4)
【0019】
式(4)は、入力ΔQinおよびΔθと圧力応答(圧力変動振幅)ΔPとの関係を表している。本実施の形態では入力Δθに対する圧力応答(圧力変動振幅)ΔPに着目しており、式(4)においてΔQin=0とした次式(5)を用いる。重畳される加振振幅Δθの加振信号(例えば、正弦波信号)は、通常の調圧過程では稀な信号形態であるので、ΔQinに加振信号と同様の外乱信号が入ることは極めて稀であり、ここではΔQinについて考慮する必要がない。
ΔP/P0={-(∂Se/∂θ│0) /(V×S+Se0)}×Δθ …(5)
【0020】
式(5)において、角振動数ωおよび虚数jを用いてS=jωとしたときの「-(∂Se/∂θ│0) /(V×jω+Se0)」は、Δθを加振入力、ΔP/P0を出力として観測するときの伝達関数である。伝達関数「-(∂Se/∂θ│0) /(V×jω+Se0)」は実効排気速度Seを含んでいるので、伝達関数の振幅値および位相値は、同一開度においてガス種、流量が異なれば各々異なる値を取る。すなわち、基準とするガスに関して予め各開度ごとに振幅値、位相値を記憶しておき、実測された振幅値、位相値と基準ガスの振幅値、位相値と比較することで実効排気速度値Seを推測することができる。
【0021】
以下では、取り扱いが簡単になるω→0の場合とω→+∞の場合について考える。
(ω→0の場合)
この場合、伝達関数「-(∂Se/∂θ│0) /(V×jω+Se0)」においてV×jωの部分はV×jω→0となるので、伝達関数の振幅値の極限値は(∂Se/∂θ│0) /Se0となる。これは、プラントゲインGpと呼ばれるもの(例えば、特開20181-112263号公報を参照)と同じものである。すなわち、ω→0の極限で得られる伝達関数Gp=(∂Se/∂θ│0) /Se0は静的なプラントゲインであって、伝達関数「-(∂Se/∂θ│0) /(V×jω+Se0)」は動的なプラントゲインであると言える。静的なプラントゲインGp(θ)はガス種および流量ごとでの差異が小さいことが判っており、差異の検出は容易でない。
【0022】
(ω→+∞の場合)
ω→+∞の場合には(V×ω)≫Se0であるから、振幅値の極限値は(∂Se/∂θ│0) /(Vω)となる。図3に示すように実効排気速度Seはガスごとに差異が大きく、実効排気速度Seの開度微分値は、図4に示すように、極端にθが小さい開度領域および極端にθが大きい開度領域を除くと、実効排気速度値の大小と相関した大小関係を有する。そのため、図4の矢印で示す範囲(推定実施範囲)では実効排気速度Seの開度微分値はガスごとの差異が顕著に現れ、精度良く推定を行うことができる。
【0023】
ω→+∞の場合には、式(5)を振幅値に関する式に書き直すと、平衡状態0における実効排気速度Seの開度微分値は次式(6)のように表される。従って、比較的ωが高い加振振幅Δθの加振信号を与えて圧力変動振幅ΔPを測定し、それらを式(6)に代入することで∂Se/∂θ│0の値を取得することができる。
∂Se/∂θ│0=(ΔP/P0)×ω×V/Δθ …(6)
【0024】
ただし、ωが高すぎると測定する圧力振幅がωに反比例で低減するので、検出が困難になる。従って、対象ガスの内、時定数が最も短いガス(図3に示す例ではヘリウムガス)の時定数の逆数より若干高いωで検出するのが良い。例えば、ω=(Se/V)×数倍程度のように設定する。Seは開度θによって異なるので、ここでのSeはおおよその値であって例えば平均的値である。Seとして図3に示す推定実行範囲の上限(開度θ2)における実効排気速度値Semaxを用いた場合には、ω>Semax/Vのように設定すればよい。
【0025】
バルブ制御装置1bの記憶部24には、基準となる実効排気速度の開度微分値と開度との関係を表すデータセットが予め記憶されている。推定部51は、その基準のデータセットと上述の測定データ(実効排気速度の開度微分値)とを比較することで、排気しているガスに対応する実効排気速度Seを推定する。
【0026】
例えば、記憶部24に記憶されている基準のデータセットがヘリウムガス(He)に関するデータセットであって、実際に排気しているガスがキセノン(Xe)であった場合を考える。図4の開度θ1において加振振幅Δθの加振信号による圧力変動振幅ΔPが取得されたとすると、ΔθおよびΔPを式(6)に代入することで、キセノンガスの実効排気速度の開度微分値(ここでは、(∂Se/∂θ)Xeと記載することにする)が得られる。開度θ1におけるヘリウムガスの実効排気速度の開度微分値は(∂Se/∂θ)Heである。
【0027】
静的なプラントゲインGp=(∂Se/∂θ) /Seは、上述したようにガスの種類の違いによる差異が小さい。ここで、ヘリウムガスのプラントゲインGpHeとキセノンガスのプラントゲインGpXeとが等しいと仮定すると、∂Se/∂θと実効排気速度Seとの間には次式(7)の関係が成り立つ。すなわち、実効排気速度の開度微分値の比と実効排気速度の比とは、ほぼ等しいとみなすことができる。
(∂Se/∂θ)Xe/(∂Se/∂θ)He=SeXe/SeHe …(7)
【0028】
したがって、推定部51は、取得されたデータ(∂Se/∂θ)Xeと基準ガスのデータ(∂Se/∂θ)Heとの比率を算出し、算出された比率を基準ガスの実効排気速度SeHeに乗算することで、現実の実効排気速度SeXeを算出する。算出結果(SeXe)はバルブ制御装置1bに送信され、調圧部21による調圧制御に用いられる。この場合、記憶部24には、基準ガス(He)に関するデータ(∂Se/∂θ)HeおよびSeHeが記憶されているとする。
【0029】
また、記憶部24に基準ガス(He)のデータとしてプラントゲインGpHeが記憶されている場合、GpHe≒GpXeの関係が成り立つので、プラントゲインGpHeのデータと式(6)とから実際の実効排気速度(キセノンガスに対する実効排気速度)を直接算出することができる。上述したようにGp=(∂Se/∂θ) /Seなので、式(6)は次式(8)のように変形できる。加振に関する角周波数ωおよび加振振幅Δθと計測された圧力変動振幅ΔPと圧力計測値Pgとを式(8)に代入することで、開度θ1における現実の実効排気速度Se(=SeXe)が得られる。
Se=(ΔP/Pg)×ω×V/(Gp×Δθ) …(8)
【0030】
一方でプラントゲインGpは加振振幅Δθと圧力変動振幅ΔPにも関係しており、次式(9)のように表現することもできる。なお、|(ΔP/Δθ)|は、(ΔP/Δθ)の絶対値を表している。
Gp=|dP/dθ|/P …(9)
【0031】
図5に示すように、プラントゲインGp(θ)は開度の小さい領域で最大値を取ることが分かっている。図5では、プラントゲインGp(θ)が最大となる開度をθ_Gp_maxのように表記している。このようにθ_Gp_maxで圧力振幅が大きくなるので、Gp感度に反比例するようにΔθ値を設定することで、開度によらず安定した圧力振幅を得ることができる。すなわち、(Gp(θ)×Δθ)の値が一定となるように加振振幅Δθを設定することで、測定する圧力振幅値ΔPが大枠同じ程度となるので測定精度上合理的である。
【0032】
(加振条件の具体例)
次に、具体的な数値を用いて加振の条件について説明する。記憶部24には基準ガスに関する制御パラメータが記憶されているが、実際にチャンバ3に導入されるプロセスガスは一般的に基準ガスとは異なっている。ここでは基準ガスがヘリウムガスで、実際に流されるガスがキセノンガスである場合について説明する。チャンバ3に導入するガスの流量Qinが100[sccm]程度である場合、弁体11は比較的小さな開度領域で制御される。
【0033】
APCバルブ1と真空ポンプ4とからなる排気系の実効排気速度Seは、弁体開度が小さい領域ではAPCバルブ1のコンダクタンスが支配的となる。ガスの分子量をMとしたとき、APCバルブ1のコンダクタンスは1/√Mに比例するので、コンダクタンスが支配的な領域においては実効排気速度Seもほぼ1/√Mに比例することになる。ヘリウムガスの分子量は4でキセノンガスの分子量は131なので、ヘリウムガスに対する実効排気速度SeHeはキセノンガスに対する実効排気速度SeXeの6倍程度となる。一方、バルブ開度が大きい領域では真空ポンプ4の排気速度が支配的になるので、実効排気速度の比SeHe/SeXeは真空ポンプ4の排気速度Spの比SpHe/SpXeとほぼ等しくなる。しかし、ここでは説明を簡単にするために、実効排気速度の比SeHe/SeXeは、バルブ開度が大きい領域でもほぼ相似的に6倍程度という関係が維持されるものと仮定する。
【0034】
なお、プロセスガスとして複数種類のガスを含む混合ガスが導入される場合には、混合ガスに含まれるガスの各々の分子量を平均化したものが使用される。
【0035】
ここでは、基準ガスにおける最小開度から最大開度までの実効排気速度SeHeを30[L/s]~3000[L/s]とし、校正時に取得されたチャンバ3の容積VをV=100[L]とする。加振の角周波数ωを上述したようにω=(Se/V)×数倍程度と設定する場合、時定数V/Seはキセノンガスよりもヘリウムガスのほうが短いので、ヘリウムガスの時定数によって角周波数ωの上限が決まる。すなわち、SeHeは30[L/s]~3000[L/s]なので、SeHe/V=0.3~30[rad/s]である。加振する角周波数ωをその2倍に設定するとω=0.6~60[rad/s]となる。
【0036】
さらに、(∂Se/∂θ)Heの値を3~300[L/(s・%)] とすると、伝達関数の振幅値「(∂Se/∂θ)He/(V×ω)」は(∂Se/∂θ)He/(V×ω)=(3~300)/(100×(0.6~60))=1/(20~2000)となる。一般に、圧力目標値Psへの収束誤差が±1%以内(1/100以下)であれば調圧完了と見なしても良い場合が多いので、ΔP/P0の圧力変動の悪影響が調圧に対して十分に無視でき(収束誤差よりも小さいこと)、かつ圧力変動が観測可能な0.1%とすると、0.001=ΔP/P0=Δθ/(20~2000)である。これを満たすには、Δθ=0.02~2%(Xeでは1/6の値の範囲)であり、弁体11の加振は通常の駆動機構でも可能であることが分かる。
【0037】
また、調圧条件およびシステムの振動条件がシビアな場合、例えば、許容される収束誤差が厳しく加振周波数付近に構造物の共振点が存在するような場合、調圧完了まで加振するのでなく、例えば、調圧イベントの開始時点など圧力変動が小さいタイミングで短時間加振するだけでも検出可能である。ω=60[rad/s]の場合、1周期は100ms程度なので数周期(例えば、2周期程度(200ms))程度の加振でも良い。調圧過程にあって、加振する振動数ωよりも遅い応答で圧力変動が大きい場合でも、フィルタにてω成分を抽出すれば検出可能である。
【0038】
上述のように、本実施の形態ではガス排気中に∂Se/∂θを推定することができる。そのため、校正処理中にも∂Se/∂θを推定し、その推定結果を校正処理が適切に行われているか否かの判定に利用することができる。まず、校正処理について説明し、次いで校正処理における推定結果の利用方法について説明する。
【0039】
(校正処理)
図11は、校正部23の詳細を示すブロック図である。校正部23は、開度生成部231、演算部232および判定部233を備えている。開度生成部231は、モータ駆動部22に校正用の開度信号θcを出力する。演算部232は、開度信号θcにより開閉制御したときに得られる圧力計測値Pgから開度-圧力特性を取得し、実効排気速度Se(θ)、開度-プラントゲイン特性、チャンバ3の容積Vを算出する。判定部233は、チャンバ3に導入されているガスのガス種および流量に関する判定を行う。なお、本実施の形態では、校正処理を行う校正部23をAPCバルブ1のバルブ制御装置1bに設けたが、校正部23をAPCバルブ1内ではなく独立した校正装置として設けても良い。
【0040】
図6は、バルブ制御装置1bの校正部23で実行される校正処理の一例を示すフローチャートである。また、図7は、校正処理時における開度θおよびチャンバ内圧力を示す図である。図7においてラインL31は開度計測値θr(%)を示し、ラインL32は真空計31により計測される圧力計測値Pg(Pa)を示す。
【0041】
図6のステップS1では、指定されたガス種のガスを所定流量Qinだけ流量制御器32からチャンバ3内に流入させる。そして、圧力計測値Pgが安定するまで待つ。校正処理時のガス種や所定流量Qinについては、例えば、APCバルブ1のマニュアル等に設定されており、オペレータはマニュアルの記載に従って所定のガスを所定流量Qinだけチャンバ3に流入させる。
【0042】
ステップS2では、複数の開度計測値θr(i)における圧力を取得する処理を行う。なお、i=1~N(正の整数)である。校正処理においては、校正部23の指令により校正用の開度信号θcが開度生成部231からモータ駆動部22へ入力される。図7に示す例では、θr=100%であって圧力計測値Pgが安定している時刻t1において、開度信号θcを100%から0%へと変更する。
【0043】
開度変更により圧力計測値Pgは上昇するが、圧力計測値Pgが安定してほぼ一定値となったならば、真空計31の圧力計測値Pg(1)を取得する。同様に、図7の時刻t2,t3,・・・,tNにおいて開度信号θcをθc(2),θc(3),・・・,θc(N)の順に出力し、複数の開度計測値θr(2),θr(3),・・・,θr(N)=100%に対して圧力計測値Pg(2),Pg(3),・・・,Pg(N)を取得する。
【0044】
ステップS3では、ビルドアップ法によりチャンバ3の容積Vを求める。具体的には、図7の時刻taにおいて開度信号θcを100%→0%と変更し、変更後の圧力計測値Pgを複数取得する。開度は0%なので、チャンバ3の圧力Pとガス流入量Qinと容積Vとの間には次式(10)の関係が成り立つ。そのため、時刻taの後に計測される圧力計測値Pgの変化からチャンバ3の容積Vを算出することができる。
Qin=V×(dP/dt) …(10)
【0045】
ステップS4では、APCバルブ1の開度θにおける実効排気速度Se(θ)を算出する。チャンバ3に流入するガスの流量値QinとステップS2で取得した開度θr(1)~θr (N)における圧力計測値Pg(2)~Pg(N)とに基づいて、図8に示すような開度-圧力特性(すなわち、P(θ))が得られる。実効排気速度Se(θ)は、平衡状態では次式(11)の関係が成り立つ。図8に示す開度-圧力特性(すなわち、P(θ))と式(11)とから図9に示す開度-実効排気速度特性(すなわち、Se(θ))が得られる。
Se(θ)=Qin/P(θ) …(11)
【0046】
ステップS5では、図8に示す開度-圧力特性と式(9)とからプラントゲインGp(θ)を算出する。その結果、図10に示すような開度-プラントゲイン特性が得られる。ステップS6では、校正処理によって取得された制御パラメータ、すなわち、チャンバ3の容積V、開度-実効排気速度特性(Se(θ))および開度-プラントゲイン特性(Gp(θ))を、APCバルブ1の記憶部24に記憶する。記憶部24に予め制御パラメータが記憶されている場合には、その制御パラメータを校正処理により取得された制御パラメータで補正したり、あるいは、そのまま書き替える。
【0047】
(校正処理における推定結果の利用)
校正処理の精度を上げるためには、上述したように指定された通りの流量Qinをチャンバ3へ導入する必要があり、ガス種についても指定されたガスを流入させるのが好ましい。そうすることで、チャンバ容積Vや実効排気速度Seの校正を精度よく行うことができる。以下では、加振振幅Δθの加振信号を開度信号に与えて圧力変動振幅ΔPを取得することで、校正用ガスのガス種(ガスの分子量)および流量を推定装置5で推定させる。校正部23の判定部233では、その推定結果に基づいて適切なガスが適切な流量で導入されているかを判定し、その判定結果をオペレータに提示するようにした。その結果、不適切な校正処理が行われるのを防止できる。
【0048】
図11に示したように、校正部23には、ガス種および流量に関する判定を行う判定部233が設けられている。判定を行う際には、校正部23は、加振振幅Δθの加振信号の出力を要求し、推定装置5による実効排気速度Seの推定を行わせる。判定部233は、推定装置5により推定された実効排気速度Seに基づいて、チャンバ3に導入されているガスのガス種および流量が、マニュアルに設定されているガス種および流量か否かを判定する。
【0049】
図6に示した校正処理では、ステップS2において複数の開度計測値θr(i)における圧力を取得しているが、その圧力取得の際に加振振幅Δθの加振信号を与えて実効排気速度を推定装置5に推定させる。例えば、開度計測値θr(i)の圧力計測値Pg(i)を取得した後に加振部52から所定時間だけ加振信号を出力させ、加振振幅Δθiおよび計測された圧力変動振幅ΔPiに基づいて実効排気速度の開度微分値を算出する。算出後は開度を開度計測値θr(i+1)に変更し、同様に圧力計測値Pg(i+1)と実効排気速度の開度微分値を算出する。その結果、複数の開度計測値θr(2),θr(3),・・・,θr(N)に対して、実効排気速度の開度微分値がそれぞれ取得されることになる。実効排気速度の推定は、1~Nのいずれか1つのタイミングで行えばよい。
【0050】
説明の前提条件として、APCバルブ1の出荷時には、記憶部24にアルゴンガスに関する制御パラメータ(実効排気速度Se(θ)Ar)が記憶されていると仮定する。また、APCバルブ1のマニュアルには、校正時の設定条件としてガス種はアルゴンガスで流量はQinに設定することが記載されているとする。
【0051】
推定装置5は、校正部23から加振の指令が入力されると、加振部52から加振振幅Δθの加振信号を出力させる。推定装置5の推定部51は、実効排気速度Seを推定する。開度計測値θr(i)における圧力計測値Pg(i)と、加振時の角周波数ω、加振振幅Δθiおよび圧力変動振幅ΔPiとを前述した式(6)に代入することで、開度計測値θr(i)における実効排気速度の開度微分値(∂Se/∂θ)iが次式(12)のように算出される。このように、開度計測値θr(i)において、圧力計測値Pg(i)と実効排気速度の開度微分値(∂Se/∂θ)iとが取得される。
(∂Se/∂θ)i=(ΔPi/Pg(i))×ω×V/Δθi …(12)
【0052】
さらに、推定部51は、バルブ制御装置1bの記憶部24に記憶されている基準データとしての実効排気速度Se(θi)Arを読み出し、開度θiにおける開度微分値(dSe/dθ)Ar(θi)を離散的に算出する。そして、次式(13)により、データΔPi取得時の開度計測値θr(i)における実効排気速度Se(i)を算出する。算出された実効排気速度Se(i)は、校正部23に出力される。
Se(i)={(∂Se/∂θ)i/(dSe/dθ)Ar(θi)}×Se(θi)Ar …(13)
【0053】
校正部23の判定部233は、実測データである実効排気速度Se(i)に基づいて次式(14)によりチャンバに導入されているガスの流量Qin(i)を算出する。さらに、式(15)により、導入されているガスの分子量Miを算出する。
Qin(i)=Se(i)×Pg(i) …(14)
Mi=MAr×{Se(θi)Ar/Se(i)} …(15)
【0054】
校正時にチャンバ3に導入されているガスがマニュアルの指示通りアルゴンガスであれば、式(15)で算出される分子量Miは、アルゴンガスの分子量MArにほぼ等しい値となる。バルブのコンダクタンスが支配的な小さい開度領域においては、理想的にはMi=MArとなるはずであるが、検出誤差等により若干ずれた値のMiが算出される。判定部233は、式(15)で算出される分子量Miとアルゴンガスの分子量MAr=40との差が許容範囲内であれば、導入されている校正用のガスはマニュアル通りのアルゴンガスである、すなわち一致すると判定する。また、式(14)により算出される流量Qin(i)とマニュアルに設定されている流量Qinとの差が許容範囲内であれば、マニュアル通りの流量に設定されている、すなわち一致すると判定する。
【0055】
一方、分子量Miとアルゴンガスの分子量MAr=40との差が許容範囲を超える場合には、および、流量Qin(i)と流量Qinとの差が許容範囲を超える場合には、校正部23から警報を出力し、オペレータにガス種や流量の設定が不適切であることを知らせる。
【0056】
上述した実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)図1に示す推定装置5は、チャンバ3を排気する真空ポンプ4とチャンバ3との間に設けられるAPCバルブ1の弁体11を駆動するための開度信号θsに、弁体11を加振するための加振信号を重畳させる加振部52と、加振時のチャンバ内圧力の圧力応答(例えば、圧力変動振幅ΔP)に基づいて、APCバルブ1を介して排気されるガスに関する排気特性を推定する推定部51とを備える。排気特性としては、例えば、実効排気速度Seや、実効排気速度の開度微分値∂Se/∂θや、プラントゲインGpや、ガスの分子量などがある。
【0057】
その結果、実際に排気しているガスの排気特性、例えば実効排気速度Seを取得することができる。推定装置5により推定された実効排気速度を用いてAPCバルブ1による調圧を行うことで、プロセスガスに対応する制御パラメータを予め用意されていなかった場合でも、圧力調整応答の安定性向上を図ることができる。
【0058】
(2)さらに、加振信号の加振振幅Δθ、圧力応答である圧力変動振幅ΔP、および、弁体11の開度変化とチャンバ内圧力の変化との関係を表すプラントゲインGpに基づいて、APCバルブ1を介して排気されるガスに関するAPCバルブ1の実効排気速度Seを式(8)により推定するようにしても良い。
【0059】
(3)弁体11の開度変化とチャンバ内圧力の変化との関係を表すプラントゲインGp(θ)と加振信号の加振振幅Δθとの積(Gp(θ)×Δθ)が一定となるように加振振幅Δθを設定することで、開度によらず同程度の値の安定した圧力振幅値ΔPを得ることができる。
【0060】
(4)加振振幅Δθの加振信号を与えて圧力変動振幅ΔPを取得する場合には、比較的ωが高い加振振幅Δθの加振信号を与えて圧力変動振幅ΔPを測定するのが好ましい。しかし、ωが高すぎると測定する圧力振幅がωに反比例で低減し検出が困難になるので、チャンバ3の容積をV、実効排気速度の推定開度範囲(図3に示す推定実施範囲)の上限開度θ2における実効排気速度をSemaxとしたときに、加振信号の角周波数ωをω>Semax/Vのように設定するのが望ましい。
【0061】
(5)バルブ制御装置1bは、チャンバ3に装着されるAPCバルブ1の実効排気速度Seおよびチャンバ容積Vを記憶する記憶部24と、記憶部24に記憶された実効排気速度Seおよびチャンバ容積Vに基づいてAPCバルブ1の弁体11の開度信号θsを生成する調圧部21と、所定分子量および所定流量Qinのガスが導入されているチャンバ3に装着されたAPCバルブ1を複数の開度に制御した場合のチャンバ内圧力(圧力計測値Pg)に基づいて、記憶部24に記憶された実効排気速度Seおよびチャンバ容積Vを校正する校正部23と、推定装置5により推定した実効排気速度に基づいて、ガスの分子量および流量が所定分子量および所定流量と一致するか否かを判定する判定部233とを備える。
【0062】
判定部233の判定結果を利用することで、校正用ガスをチャンバ3に導入して行う校正処理が正しい設定条件(ガス種、流量)で行われているか否かを認識することができる。それにより、記憶部24に記憶された実効排気速度Seおよびチャンバ容積Vの校正を精度よく行うことができ、圧力調整応答の安定性向上を図ることができる。
【0063】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0064】
1…自動圧力制御バルブ(APCバルブ)、1a…バルブ本体、1b…バルブ制御装置、3…チャンバ、4…真空ポンプ、5…推定装置、11…弁体、21…調圧部、23…校正部、51…推定部、52…加振部、231…開度生成部、232…演算部、233…判定部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図11