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特許7014185コンタクトレンズ用モノマー組成物、コンタクトレンズ用重合体及びその製造方法、並びにコンタクトレンズ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】コンタクトレンズ用モノマー組成物、コンタクトレンズ用重合体及びその製造方法、並びにコンタクトレンズ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/04 20060101AFI20220125BHJP
   C08F 220/36 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
G02C7/04
C08F220/36
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018563306
(86)(22)【出願日】2018-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2018000765
(87)【国際公開番号】W WO2018135421
(87)【国際公開日】2018-07-26
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2017005765
(32)【優先日】2017-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001564
【氏名又は名称】フェリシテ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松岡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】五反田 龍矢
【審査官】吉川 陽吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/104000(WO,A1)
【文献】特開2007-197513(JP,A)
【文献】国際公開第2017/072739(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0037690(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/04
C08F 220/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1):
【化1】
で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマーと、
(B)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、及びジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、
(C)下記式(2):
【化2】
で表される化合物単独のシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー、又は式(2)の化合物と式(2)の化合物の副生物である下記式(2’)の化合物とを含むシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーいずれかと、
【化3】
(D)下記式(3):
【化4】
[式(3)中、R1は水素原子又はメチル基であり、mは0又は1であり、nは10~20である。]で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートと、
(E)架橋剤と、を含有する組成物であり、
前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が5~20質量%であり、(B)成分の含有割合が5~25質量%であり、(C)成分の含有割合は、式(2)及び式(2’)の化合物の合計量が30~70質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、且つ(E)成分の含有割合が0.1~10質量%である、
コンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項2】
前記組成物が更に(F)前記(A)~(E)成分以外のモノマーを含有し、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(F)成分の含有割合が25質量%以下である、
請求項1に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項3】
前記組成物が更に水酸基を有する溶剤を含有し、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量部に対して、前記溶剤の含有割合が25質量部以下である、
請求項1又は2に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体からなる、
コンタクトレンズ用重合体。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載のコンタクトレンズ用モノマー組成物を45℃~75℃の温度で1時間以上維持して重合を行う重合工程1と、
前記重合工程1の後、90℃~140℃の温度で1時間以上維持して重合を行う重合工程2と、を含む、
請求項4に記載のコンタクトレンズ用重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載のコンタクトレンズ用重合体の水和物からなる、
コンタクトレンズ。
【請求項7】
請求項4に記載のコンタクトレンズ用重合体と、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールからなる群から選択される1種以上の溶剤とを混合し、前記重合体を精製する工程と、
前記重合体を生理食塩水に浸漬して水和させる工程と、を有する、
コンタクトレンズの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ用モノマー組成物、当該組成物の重合体とその製造方法、並びに当該重合体の水和物からなるコンタクトレンズとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来型のヒドロゲルコンタクトレンズは目の角膜への酸素供給量が不十分であり、長時間装用時の安全性に問題があった。この欠点を解決し、安全性を向上させたコンタクトレンズとして、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズが開発されている。
【0003】
しかし、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズは、レンズ表面を親水性にすることが困難であるという問題点を有している。一般に、ソフトコンタクトレンズはキャストモールド法によって製造され、この方法ではポリプロピレン製モールドが用いられることが多い。シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズをこの方法で製造する場合、ポリプロピレンが疎水性であるため、シリコーンモノマーがモールド表面に配向した状態で重合される。そのためレンズ表面にシリコーン部が形成され、該表面の親水性が低くなる。レンズ表面の親水性が十分でない場合、脂質やタンパク質等が付着し、レンズの白濁や眼疾患を引き起こす懸念がある。
【0004】
そこで、シリコーンヒドロゲルコンタクトレンズを調製した後、レンズ表面にプラズマガスや親水性ポリマーによるコーティングや、親水性モノマーによる表面グラフトポリマーを形成することが提案されている。しかしながら、これらの表面処理は多くの装置を必要とし、工程が煩雑となるため、量産化において望ましくない。
【0005】
シリコーン含有共重合体を用いるソフトコンタクトレンズの表面の疎水性を改善することを目的として、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ビニル-2-ピロリドン、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリジノン等のビニル基を有する親水性モノマーを、モノマー組成物に用いる方法が提案されている。しかしながら、このような親水性モノマーを使用しても、レンズ表面の親水性は十分とは言えない。
【0006】
特許文献1は、(メタ)アクリロイル基を有するシリコーンモノマー、ビニル基を有する親水性モノマー、架橋性モノマー、及び10時間半減期温度が70℃~100℃の重合開始剤を含むシリコーンヒドロゲル用組成物からレンズを製造する方法を開示している。この方法は、原料モノマーの重合性の差を利用してレンズ表面の親水性を改善することを目的としているが、やはり満足のいく親水性は得られていない。
【0007】
特許文献2には、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリルエステルモノマー、水酸基を有する(メタ)アクリルエステルシリコーンモノマー、及び架橋剤を含むコンタクトレンズ用単量体組成物が開示されている。特許文献3には、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)、ジメタクリロイルシリコーンマクロマー、及び(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)プロピルビス(トリメチルシロキシ)メチルシラン(SiGMA)を含む組成物から得られるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズが開示されている。特許文献4には、ホスホリルコリン基又はカルボキシベタイン基含有(メタ)アクリルエステルモノマー、2級水酸基を有する(メタ)アクリルエステルシリコーンモノマー、水酸基を有さない(メタ)アクリルエステル環状シリコーンモノマー、フッ化アルキル基を有するマレイン酸又はフマル酸ジエステルシリコーンモノマー等を含む組成物から得られるコンタクトレンズが開示されている。しかし、特許文献2~4に係るコンタクトレンズは、レンズ表面の親水性に改善が見られるものの、酸素透過性が低下するという問題がある。
【0008】
特許文献5には、ホスホリルコリン基含有(メタ)アクリルエステルモノマー、水酸基を有する(メタ)アクリルエステルシリコーンモノマー、及びシリコーン(メタ)アクリレートを含む組成物が開示されており、その重合体がコンタクトレンズに利用できることが記載されている。特許文献6には、一級水酸基を有するシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー及びMPCを含む組成物が開示されており、その重合体がコンタクトレンズに利用できることが記載されている。特許文献5及び6では、レンズ表面の親水性及び酸素透過性の点で良好な結果が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2015/001811号
【文献】特開2007-009060号公報
【文献】特開2014-089477号公報
【文献】特開2007-056220号公報
【文献】特開2007-197513号公報
【文献】国際公開第2010/104000号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献5及び6に係るコンタクトレンズは、レンズ表面の親水性及び酸素透過性の点で良好であるものの、機械的強度及び装用感が十分ではなく、さらなる改良が必要と考える。
【0011】
本発明の課題は、ポリプロピレン等からなる疎水性のモールドを用いて製造した場合であっても、優れた表面親水性、酸素透過性、機械的強度、及び装用感を示し得るコンタクトレンズを提供することである。なお、「優れた表面親水性」とは、実施例で詳述するWBUT(water film break up time)評価で、水膜保持時間が30秒以上である特性を指すものとする。
【0012】
本発明の他の課題は、上記コンタクトレンズを得るために好適に使用できる組成物及び重合体を提供することである。
【0013】
本発明の更なる課題は、上記重合体及びコンタクトレンズを得るための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究した結果、2種類の親水性モノマーと2種類のシロキサニル基含有シリコーンモノマーとを含有するモノマー組成物をコンタクトレンズ用原料として使用することにより、上記目的を全て達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
本発明の一形態によれば、(A)下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマーと、(B)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、及びジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーと、(C)下記式(2)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーと、(D)下記式(3)で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートと、(E)架橋剤とを含有する組成物であり、前記組成物中の全てのモノマー成分の合計100質量%に対して、(A)成分の含有割合が5~20質量%であり、(B)成分の含有割合が5~25質量%であり、(C)成分の含有割合が30~70質量%であり、(D)成分の含有割合が5~40質量%であり、且つ(E)成分の含有割合が0.1~10質量%である、コンタクトレンズ用モノマー組成物が提供される。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
【化3】
【0019】
式(3)中、R1は水素原子又はメチル基であり、mは0又は1であり、nは10~20である。
【0020】
本発明の他の形態によれば、上記コンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体からなるコンタクトレンズ用重合体、及びその製造方法が提供される。
【0021】
本発明の更なる形態によれば、上記コンタクトレンズ用重合体の水和物からなるコンタクトレンズ、及びその製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0022】
本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物は、(A)~(E)成分を必須成分として含有する。そのため、該組成物の重合体を用いて得られる本発明のコンタクトレンズは、優れた表面親水性、酸素透過性、機械的強度、及び装用感を示し得る。また、本発明のコンタクトレンズ用重合体の製造方法及びコンタクトレンズの製造方法によれば、上記優れた性能のシリコーンヒドロゲルソフトコンタクトレンズを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物は、必須成分として後述する(A)~(E)成分を含有し、更に任意成分として(F)成分を含有し得る、均一な透明液体である。本発明のコンタクトレンズ用重合体はこのコンタクトレンズ用モノマー組成物の重合体からなり、本発明のコンタクトレンズは当該コンタクトレンズ用重合体の水和物からなる。以下、本発明のコンタクトレンズ用モノマー組成物を単に組成物と称する。また、本発明のコンタクトレンズ用重合体を単に重合体と称する。
【0024】
(A)成分:ホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマー
(A)成分は、下記式(1)で表されるホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマー、具体的には2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)である。(A)成分を含有することにより、本発明の組成物の重合体から製造されるコンタクトレンズの、表面の親水性と潤滑性を良好にすることができる。
【0025】
【化4】
【0026】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(A)成分の含有割合は5~20質量%であり、好ましくは8~20質量%である。(A)成分の含有割合が5質量%未満であると、十分な表面親水性が得られない。一方、20質量%を超えると、(A)成分を組成物中に溶解させることが困難となり、また、コンタクトレンズの機械的強度の低下が懸念される。なお、本発明において、「モノマー成分」は(A)~(F)成分を指す。
【0027】
(B)成分:水酸基含有モノマー
(B)成分は、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチルアクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、及びジエチレングリコールモノビニルエーテルからなる群から選択される1種以上の水酸基含有モノマーである。(B)成分を所定量含有することにより、本発明の組成物中への(A)成分の溶解が良好となる。(A)成分の当該溶解性の点で、(B)成分の水酸基は1級水酸基であることが好ましい。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及び/又はメタクリレート」を意味し、「(メタ)アクリル」は「アクリル及び/又はメタクリル」を意味する。
【0028】
(B)成分の具体例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。(B)成分は、これらのモノマーのいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0029】
(A)成分の溶解性がより良好となる点で、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、エチレングリコールモノビニルエーテル、及びジエチレングリコールモノビニルエーテルが好ましく、2-ヒドロキシエチルアクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド、及びエチレングリコールモノビニルエーテルが特に好ましい。
【0030】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(B)成分の含有割合は5~25質量%である。(B)成分の含有割合が5質量%未満であると、本発明の組成物が均一透明液体とならない懸念がある。一方、25質量%を超えると、コンタクトレンズの酸素透過性が低下する懸念がある。
【0031】
(C)成分:シロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー
(C)成分は、下記式(2)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマーである。(C)成分はコンタクトレンズの酸素透過性及び透明性の向上に寄与する。
【0032】
【化5】
【0033】
式(2)のモノマーは、イタコン酸モノエチレングリコールエステルと3-ヨードプロピル[トリス(トリメチルシロキシ)]シランとのエステル化反応により得られる。イタコン酸モノエチレングリコールエステルは、例えば特許文献6に記載のように無水イタコン酸とエチレングリコールとを反応させて得られる。また、3-ヨードプロピル[トリス(トリメチルシロキシ)]シランは市販品を用いてもよいが、得られる本発明のシリコーンモノマーの純度を高くするために、高純度品を用いることが好ましい。
【0034】
上記エステル化反応において、下記式(2’)で表される構造異性体が少量副生する場合がある。本発明では、式(2)のモノマーと、少量の式(2’)のモノマーとの混合物を、(C)成分として使用してもよい。即ち、本発明において、「式(2)で表されるシロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー」は、式(2)のモノマー単独だけではなく、式(2)のモノマー以外に式(2’)の異性体が一部含まれるものも包含する。
【0035】
【化6】
【0036】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(C)成分の含有割合は30~70質量%であり、好ましくは30~60質量%である。(C)成分の含有割合が30質量%未満であると、本発明の組成物中への(A)成分の溶解が困難となる可能性や、製造されるコンタクトレンズ用重合体が白濁する可能性がある。一方、70質量%を超えると、コンタクトレンズの表面親水性が不十分となる懸念がある。
【0037】
(D)成分:シロキサニル基含有(メタ)アクリレート
(D)成分は、下記式(3)で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートである。(D)成分はコンタクトレンズの酸素透過性の向上と機械的強度の調節に寄与する。(D)成分は特開2014-031338号が開示している方法等によって調製でき、また市販品であってもよい。
【0038】
【化7】
【0039】
式(3)中、R1は水素原子又はメチル基である。mはエチレンオキシ基の数を表し、0又は1である。nはジメチルシロキサン部の繰り返し数を表し、10~20である。(D)成分は繰り返し数nが異なる複数の化合物の混合物であってよい。この場合、nは数平均分子量における平均値であり、10~20の範囲内である。nが10未満では酸素透過性が低下するため好ましくない。またnが20よりも大きい場合、コンタクトレンズの表面親水性や機械的強度が低下する。
【0040】
式(3)中のmは0であることが好ましい。即ち、(D)成分は下記式(4)で表されるシロキサニル基含有(メタ)アクリレートであることが好ましい。なお、式(4)中のR1及びnは、式(3)中のそれらと同義である。
【0041】
【化8】
【0042】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(D)成分の含有割合は5~40質量%である。(D)成分の含有割合が5質量%未満であると、コンタクトレンズの機械的強度が大きくなりすぎ、装用感が優れない懸念がある。一方、40質量%を超えると、コンタクトレンズの表面親水性が低下する懸念がある。
【0043】
また、本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(C)成分と(D)成分の合計含有割合は、好ましくは40~75質量%であり、より好ましくは60~65質量%である。この合計含有割合を40質量%以上とすることで、均一透明液体の本発明の組成物が得られ易くなる。一方、75質量%以下とすることで、コンタクトレンズが過度に硬くなることを防ぐことができる。
【0044】
(E)成分:架橋剤
(E)成分は、(A)~(D)成分のモノマーの重合反応時に架橋剤として働く。(E)成分は通常2つ以上の重合性不飽和基を有する。本発明の組成物は所定量の(E)成分を含有するため、本発明の重合体は架橋構造を有し、そのため本発明のコンタクトレンズは優れた耐溶剤性を示す。
【0045】
例えば、(E)成分は下記式(5)で表されるシリコーンジメタクリレートであってよい。
【0046】
【化9】
【0047】
式(5)中、p及びrは互いに等しく、0又は1である。qはジメチルシロキサン部の繰り返し数を表し、10~70である。式(5)で表されるシリコーンジメタクリレートは繰り返し数qが異なる複数の化合物の混合物であってよい。この場合、qは数平均分子量における平均値であり、入手性の面から10~70の範囲内である。
【0048】
(E)成分の具体例としては、上記式(5)のシリコーンジメタクリレートに加え、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、メチレンビスアクリルアミド、アリルメタクリレート、(2-アリルオキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート、及び2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルメタクリレート等が挙げられる。(E)成分は、これら架橋剤のいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0049】
本発明の組成物において、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(E)成分の含有割合は0.1~10質量%である。(E)成分の含有割合が0.1質量%未満であると、コンタクトレンズの耐溶剤性が低下する。一方、10質量%を超えると、コンタクトレンズが脆く破損が生じる懸念があり、また機械的強度が高くなりすぎてコンタクトレンズの装用感が悪化するおそれがある。
【0050】
(F)成分:(A)~(E)成分以外のモノマー
(F)成分は、(A)~(E)成分以外のモノマーである。(F)成分は任意成分であり、コンタクトレンズの含水率の調整等を目的として使用される。
【0051】
(F)成分としては、アミド基、カルボキシル基、及びエステル基から選択される官能基を1種以上有するモノマーを例示できる。アミド基を有するモノマーの具体例としては、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピペリジン-2-オン、N-ビニル-ε-カプロラクタム、N-ビニル-3-メチル-2-カプロラクタム、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド等が挙げられる。カルボキシル基を有するモノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸、2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸等が挙げられる。エステル基を有するモノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレートや、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート等が挙げられる。(F)成分はこれらモノマーのいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。
【0052】
本発明の組成物が(F)成分を含有する場合、全てのモノマー成分の合計を100質量%としたとき、(F)成分の含有割合は25質量%以下が好ましい。25質量%以下であれば、(A)成分の組成物中への溶解性が良好で、またコンタクトレンズの表面親水性も良好である。
【0053】
本発明の組成物は、上記(A)~(F)成分に加え、溶剤を含有していてもよい。溶剤は各成分の組成物中の溶解性を改善し得るものであれば特に限定されないが、水酸基を有する溶剤であることが好ましい。水酸基を有する溶剤を用いることにより、本発明の組成物中での(A)成分の溶解速度が高くなり、その溶解が容易になる。
【0054】
水酸基を有する溶剤はアルコール類やカルボン酸類であってよい。アルコール類の具体例としては、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、tert-アミルアルコール、1-ヘキサノール、1-オクタノール、1-デカノール、1-ドデカノール等が挙げられる。カルボン酸類の具体例としては、グリコール酸、乳酸、酢酸等が挙げられる。該溶剤はこれらのいずれか1種類であっても、2種類以上の混合物であってもよい。(A)成分の溶解性及び組成物のpH安定性の点において、該溶剤はエタノール、1-プロパノール、及び2-プロパノールから選ばれる1種以上からなるのが特に好ましい。
【0055】
本発明の組成物が溶剤を含有する場合、組成物中の全てのモノマー成分の合計を100質量部としたとき、溶剤の含有割合は好ましくは25質量部以下である。25質量部以下であれば、コンタクトレンズの機械的強度が良好である。
【0056】
本発明の組成物は、上記(A)~(F)成分に加え、重合開始剤を含有していてもよい。重合開始剤は公知のものであってよく、好ましくは熱重合開始剤である。熱重合開始剤を用いると、重合途中の温度変化による各モノマー成分の共重合性の変化が容易である。熱重合開始剤の例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェイトジハイドレート、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]ジハイドレート、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-{1,1-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル}プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]等のアゾ系重合開始剤や、ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシヘキサノエート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド等の過酸化物系重合開始剤等が挙げられる。これら重合開始剤は単独で使用してよく、また2種類以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうち、安全性と入手性の点でアゾ系重合開始剤が好ましく、反応性の点から2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、及び2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)が特に好ましい。
【0057】
添加する重合開始剤の量は、組成物中の全てのモノマー成分の合計を100質量部としたとき、好ましくは0.1~3質量部であり、より好ましくは0.1~2質量部であり、特に好ましくは0.2~1質量部である。0.1質量部未満の場合、組成物の重合性が不十分で、重合開始剤を配合する利点が得られないおそれがある。3質量部超の場合は、コンタクトレンズ用重合体を洗浄してコンタクトレンズを製造するときに、重合開始剤分解物の抽出除去が不十分になるおそれがある。
【0058】
本発明の組成物は、上記(A)~(F)成分に加え、本発明の目的を阻害しない範囲で、重合性紫外線吸収剤、重合性色素(着色剤)等の添加剤を含有していてもよい。紫外線吸収剤を配合することにより、日光等の紫外線による目の負担を低減できる。また、色素を配合することにより、カラーコンタクトレンズとすることができる。
【0059】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、各成分を任意の順又は一括して撹拌(混合)装置に投入し、10℃~50℃の温度で、均一になるまで撹拌(混合)することにより製造できる。ただし、組成物が重合開始剤を含有する場合は、混合時に重合反応が開始しないように留意が必要であり、40℃以下で混合するのが好ましい。(A)成分の溶解性が良好となる点において、(A)、(B)、及び(C)成分の3成分を混合溶解した後、他の成分を添加して混合することが好ましい。
【0060】
本発明の重合体は、上記本発明の組成物の重合体からなる。以下、本発明の重合体の製造方法について説明する。以下に示す製造方法は該重合体を得る方法の一実施形態にすぎず、本発明の重合体は当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0061】
本発明の組成物をモールドに充填して重合反応を行うことにより、本発明の重合体を製造できる。該モールドとしては、ポリプロピレン等からなる疎水性表面を有するモールドを使用してよい。
【0062】
重合反応は、例えば、使用する重合開始剤の分解温度に合わせて45℃~140℃の温度で組成物を1時間以上維持する1段階重合法により行ってよいが、以下に示す重合工程1及び重合工程2を含む2段階以上の重合法によって実施するのが好ましい。この場合、コンタクトレンズの表面の親水性をより向上させることができる。重合終了後、例えば60℃以下まで冷却し、重合体をモールドから取り出してよい。
【0063】
[重合工程1]
重合工程1では、必要に応じて組成物に上記重合開始剤を添加し、45℃~75℃の温度で1時間以上重合を行う。
【0064】
重合工程1の重合温度は、好ましくは50℃~70℃であり、より好ましくは55℃~70℃である。重合工程1の重合温度が45℃~75℃であれば、表面親水性等の物性が良好な重合体を安定して得ることができる。
【0065】
重合工程1の重合時間は、好ましくは2時間以上、12時間以下である。重合工程1の重合時間が1~12時間であれば、表面親水性等の物性が良好な重合体を効率よく得ることができる。
【0066】
[重合工程2]
重合工程2は重合工程1の後に実施され、重合工程1よりも高い温度である90℃~140℃で重合反応を行う工程である。
【0067】
重合工程2の重合温度は、好ましくは100℃~120℃である。重合工程2の重合温度が90℃~140℃であれば、表面親水性等の物性が良好な重合体を安定して得ることができ、ポリプロピレン等からなるモールドを変形させずに重合体を効率よく得ることができる。
【0068】
重合工程2の重合時間は、好ましくは1時間以上、10時間以下である。重合工程2の重合時間が1~10時間であれば、表面親水性等の物性が良好な重合体を効率よく得ることができる。
【0069】
重合工程1及び2を行う雰囲気は特に限定されないが、重合工程1及び2のいずれも、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行うのが重合率を向上させる点で好ましい。この場合、組成物に不活性ガスを通気したり、モールドの組成物充填場所を不活性ガス雰囲気としてよい。
【0070】
モールド内の圧力は大気圧~微加圧でよい。不活性ガス雰囲気中で重合する場合は、ゲージ圧で1kgf/cm2以下とすることが好ましい。
【0071】
本発明のコンタクトレンズは、上記重合体の水和物からなるシリコーンヒドロゲルコンタクトレンズである。即ち、本発明の重合体を水和し、含水させてヒドロゲル状とすることで、本発明のコンタクトレンズが得られる。なお、本明細書中において「シリコーンヒドロゲル」とは、重合体中にシリコーン部を有するヒドロゲルのことをいう。本発明の組成物はシリコーン含有モノマーである(C)及び(D)成分を含有するので、その重合体はシリコーン部を有しており、水和(含水)させることによりシリコーンヒドロゲルを形成できる。
【0072】
コンタクトレンズの含水率(コンタクトレンズの総質量に対する水の割合)は、好ましくは35質量%以上60質量%以下であり、より好ましくは35質量%以上50質量%以下である。含水率が35~60質量%であれば、酸素透過性とのバランスに優れたものとすることができる。
【0073】
次に、本発明のコンタクトレンズの製造方法について説明する。以下に示す製造方法は本発明のコンタクトレンズを得る方法の一実施形態にすぎず、本発明のコンタクトレンズは当該製造方法によって得られるものに限定されない。
【0074】
上記重合反応の後、重合体は、未反応のモノマー成分(未反応物)、各成分の残渣、副生成物、残存した溶剤等との混合物の状態にある場合がある。このような混合物をそのまま水和処理に供することも可能であるが、水和処理の前に、精製用溶剤を用いて重合体を精製することが好ましい。
【0075】
精製用溶剤としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、これらの混合物等が挙げられる。精製は、例えば、10℃~40℃の温度で、重合体をアルコール溶剤に10分間~5時間浸漬し、次に水に10分間~5時間浸漬する、等のように実施できる。また、アルコール溶剤に浸漬後、アルコール濃度20~50重量%の含水アルコールに10分間~5時間浸漬し、更に水に浸漬してもよい。水としては、純水、イオン交換水等が好ましい。
【0076】
重合体を生理食塩水に浸漬し、所定の含水率となるように水和させることによって、本発明のコンタクトレンズが得られる。生理食塩水は、ホウ酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水等であってよい。また、生理食塩水を含有するソフトコンタクトレンズ用保存液に浸漬してもよい。生理食塩水の浸透圧は250~400mOms/kgであることが水和の点で好ましい。
【0077】
本発明のコンタクトレンズは、レンズ表面の親水性が良好で、脂質等の汚れが付着しにくく、また付着した場合も洗浄除去が容易であり、且つ機械的強度に優れているので、所望により通常の使用形態で1カ月程度使用することができる。当然ながら、それより短期間で交換してもよい。
【実施例
【0078】
以下、実施例及び比較例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。まず、実施例及び比較例で用いた成分を以下に示す。
【0079】
(A)成分(ホスホリルコリン基含有メタクリルエステルモノマー)
MPC:(2-メタクリロイルオキシエチル)ホスホリルコリン
【0080】
(B)成分(水酸基含有モノマー)
HEA:2-ヒドロキシエチルアクリレート
HEMA:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
HPMA:2-ヒドロキシプロピルメタクリレート(2-ヒドロキシプロピルエステル、2-ヒドロキシ-1-メチルエチルエステル混合物、日本触媒製)
HBMA:2-ヒドロキシブチルメタクリレート(2-ヒドロキシブチルエステル、2-ヒドロキシ-1-エチルエチルエステル混合物、シグマ・アルドリッチ製)
HPA:2-ヒドロキシプロピルアクリレート(2-ヒドロキシプロピルエステル、2-ヒドロキシ-1-メチルエチルエステル混合物、東京化成製)
HBA:4-ヒドロキシブチルアクリレート
HEAA:ヒドロキシエチルアクリルアミド
EMVE:エチレングリコールモノビニルエーテル
DEMVE:ジエチレングリコールモノビニルエーテル
【0081】
(C)成分(シロキサニル基含有イタコン酸ジエステルモノマー)
ES:イタコン酸モノエチレングリコールエステルと3-ヨードプロピル[トリス(トリメチルシロキシ)]シランとのエステル化反応物である式(2)の化合物
【0082】
(D)成分(シロキサニル基含有メタクリレート)
FM-0711:式(3)で表される化合物(R1=メチル基、m=0、n=11、数平均分子量Mn=約1000)
【0083】
(E)成分(架橋剤)
TEGDV:トリエチレングリコールジビニルエーテル
DEGDV:ジエチレングリコールジビニルエーテル
EGDV:エチレングリコールジビニルエーテル
VEEA:2-(2-ビニルオキシエトキシ)エチルアクリレート
FM-7711:式(5)で表される化合物(p=r=0、数平均分子量Mn=約1,000)
FM-7721:式(5)で表される化合物(p=r=0、数平均分子量Mn=約5,000)
TEGDMA:テトラエチレングリコールジビニルエーテル
【0084】
(F)成分((A)~(E)成分以外のモノマー)
NVP:N-ビニルピロリドン
DMAA:N,N-ジメチルアクリルアミド
NIPA:N-イソプロピルアクリルアミド
VMA:N-ビニル-N-メチルアセトアミド
VFA:N-ビニルホルムアミド
MA:メタクリル酸
MMA:メチルメタクリレート
【0085】
溶剤
EtOH:エタノール
NPA:1-プロパノール(ノルマルプロピルアルコール)
IPA:2-プロパノール(イソプロピルアルコール)
【0086】
重合開始剤
AIBN:2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(10時間半減期温度65℃)
ADVN:2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(10時間半減期温度51℃)
【0087】
実施例及び比較例の組成物、重合体、及びコンタクトレンズについて、以下の項目を評価した。以後、各評価項目及び各表での「組成物」、「重合体」及び「コンタクトレンズ」とは、各々実施例だけでなく、比較例に係るものも含む。
【0088】
組成物の均一性及び透明性
組成物を無色透明な容器へ入れ、組成物の状態を目視により以下の基準で評価した。
○:均一透明
×:白濁又は沈殿あり
【0089】
重合体の形態
重合体の形態を目視により以下の基準で評価した。
○:固体
×:液体(粘調液体含む)
【0090】
重合体の透明性
重合体の透明性を目視により以下の基準で評価した。
○:透明
△:微濁
×:白濁
【0091】
コンタクトレンズの透明性
重合体を精製した後、ISO-18369-3に記載の生理食塩水中に浸漬し膨潤させて得られるヒドロゲル(コンタクトレンズ)の透明性を、目視により以下の基準で評価した。
○:透明
△:微濁
×:白濁
【0092】
コンタクトレンズの表面親水性(WBUT)
コンタクトレンズの表面親水性を、WBUT(water film break up time)により評価した。詳しくは、ISO生理食塩水中にコンタクトレンズを一晩浸漬し、ピンセットで外周部をつまんで水面から引き上げ、水面から引き上げた時からレンズ表面の水膜が切れるまでの時間(水膜保持時間)を測定した。水膜が切れた状態は目視により判定した。この測定を3回行い、その平均値を求め、30秒以上の場合を表面親水性が良好と判定した。
【0093】
コンタクトレンズの含水率
ISO-18369-4に記載の方法で含水率を測定した。
【0094】
コンタクトレンズの機械的強度
山電社製BAS-3305(W)破断強度解析装置を用い、JIS-K7127に従ってコンタクトレンズのモジュラス[MPa]を測定し、機械的強度を評価した。詳しくは、コンタクトレンズを幅2mmに切断したサンプルを使用し、200gfのロードセルを用い、クランプ間6mmとして1mm/秒の速度で引張り、モジュラスを測定した。モジュラスが0.2MPa以上0.7MPa未満の場合、機械的強度が良好と判定した。
【0095】
コンタクトレンズの酸素透過性
ISO 18369-4に記載のポーラログラフィー法による測定方法に従い、2~4枚のコンタクトレンズを重ね合わせたサンプルの酸素透過係数を測定した。測定にはRehder Development Company社のO2 Permeometer Model 201Tを用いた。レンズの厚さをx軸に、測定により求められたt/Dk値をy軸にプロットし、回帰線の傾きの逆数を酸素透過係数とした。酸素透過係数が大きいほど酸素透過性が良好である。
【0096】
コンタクトレンズの表面潤滑性
潤滑性を指先での官能評価により評価した。評価用の標準コンタクトレンズとしてpolymacon及びomafilcon Aを用いた。polymaconの潤滑性を2、omafilcon Aの潤滑性を8として、1~10の10段階で評価した。評価点6以上の場合は表明潤滑性良好、5以下の場合は表面潤滑性不良と判定した。
【0097】
実施例1
0.5g(5.0質量%)のMPC、1.0g(10.0質量%)のHEA、4.0g(40.0質量%)のES、及び0.5g(5質量部)のEtOHを容器中で混合し、室温下でMPCが溶解するまで撹拌した。更に、1.9g(19.0質量%)のFM-0711、0.1g(1.0質量%)のTEGDV、2.5g(25.0質量%)のNVP、及び0.05g(0.5質量部)のAIBNを容器に添加し、室温下で均一になるまで撹拌して組成物を得た。この組成物について上記評価を行った。
【0098】
0.3gの上記組成物を、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとして2枚のポリプロピレン板の間に挟みこんだ25mm×70mm×0.2mmのセル内に流し込み、オーブン内へ置いた。オーブン内の窒素置換を行った後、65℃まで昇温し該温度で3時間維持した後、更に120℃に昇温し2時間維持して、組成物を重合させて重合体を得た。重合体をセルから取り出し、上記評価を行った。
【0099】
上記重合体を2-プロパノール40gに4時間浸漬した後、イオン交換水50gに4時間浸漬して未反応物等を除去して精製した。更に重合体をISO-18369-3に記載の生理食塩水に浸漬し、膨潤(水和)させてコンタクトレンズを作製した。このコンタクトレンズを各評価試験に適したサイズ及び形状のサンプルに加工し、各評価を行った。組成物中の各成分の配合割合、重合条件、及び各評価結果を表1に示す。
【0100】
実施例2~27
各成分の含有割合及び重合条件を表1~4に示すように変更したこと以外は実施例1と同様に、実施例2~27の組成物、重合体、及びコンタクトレンズを調製し、評価試験を行った。結果を表1~4に示す。
【0101】
比較例1
1.98g(19.8質量%)のHEA、4.95g(49.5質量%)のES、及び0.5g(5質量部)のEtOHを容器中で混合し、室温下で撹拌した。更に、1.98g(19.8質量%)のFM-0711、0.1g(1.0質量%)のTEGDV、0.99g(9.9質量%)のDMAA、及び0.1g(1.0質量部)のAIBNを容器に添加し、室温下で均一になるまで撹拌して比較例1の組成物を得た。この組成物について上記評価を行った。
【0102】
0.3gの上記組成物を、厚さ0.1mmのポリエチレンテレフタレートシートをスペーサーとして2枚のポリプロピレン板の間に挟みこんだ25mm×70mm×0.2mmのセル内に流し込み、オーブン内へ置いた。オーブン内の窒素置換を行った後、65℃まで昇温し該温度で3時間維持した後、更に120℃に昇温し2時間維持して、組成物を重合させて比較例1の重合体を得た。重合体をセルから取り出し、上記評価を行った。
【0103】
比較例1の重合体を2-プロパノール40gに4時間浸漬した後、イオン交換水50gに4時間浸漬して未反応物等を除去して精製した。更に重合体をISO-18369-3に記載の生理食塩水に浸漬し、膨潤(水和)させて比較例1のコンタクトレンズを作製した。このコンタクトレンズを各評価試験に適したサイズ及び形状のサンプルに加工し、各評価を行った。比較例1の組成物中の各成分の配合割合、重合条件、及び各評価結果を表5に示す。表面親水性の評価でWBUTが0秒と悪い結果であったので、それ以外の評価は実施しなかった。
【0104】
比較例2~5
各成分の含有割合及び重合条件を表5に示すように変更したこと以外は比較例1と同様に、比較例2~5の組成物、重合体、及びコンタクトレンズを調製し、評価試験を行った。結果を表5に示す。比較例5は比較例1と同様、WBUTが0秒と悪い結果であったので、それ以外の評価は実施しなかった。比較例2及び3では組成物が均一とならなかったため重合を実施しなかった。従って、比較例2及び3の重合体及びコンタクトレンズは調製できず、その評価も実施できなかった。比較例4は、コンタクトレンズの表面親水性は良好であったが、機械的強度が0.9MPa、酸素透過性が67であり、実施例と比較して劣っていた。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】