(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】ミラーシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/01 20060101AFI20220125BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
A61B5/01 350
A61B5/00 102A
(21)【出願番号】P 2020181381
(22)【出願日】2020-10-29
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】村山 洋
【審査官】伊知地 和之
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-130520(JP,A)
【文献】特開2017-029219(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0217727(US,A1)
【文献】特開2010-264095(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111258281(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107041732(CN,A)
【文献】国際公開第2015/098977(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザを映すミラーを備えるミラーシステムであって、
前記ミラー周辺に位置する前記ユーザの体表面温度を検出する温度検出部と、
前記体表面温度に基づいて前記ユーザの体温を推定する体温推定部と、
前記ユーザの体温が所定温度以上の場合、前記ユーザの体温が前記所定温度以上であることを示す高体温注意情報を通知する通知部と
を備え、
前記ミラーシステムは不特定多数の乗客が利用する移動体に設けられており、
前記通知部は、前記移動体の乗員に前記高体温注意情報を通知し、
前記通知部は、前記移動体の到着地に配備された通信装置に前記高体温注意情報を送信する、
ことを特徴とするミラーシステム。
【請求項2】
前記温度検出部は赤外線カメラである、
ことを特徴とする請求項
1記載のミラーシステム。
【請求項3】
前記体温推定部は、前記赤外線カメラの画像から前記ユーザの頭部を特定し、前記ユーザの頭部の特定箇所の体表面温度に基づいて前記体温を推定する、
ことを特徴とする請求項
2記載のミラーシステム。
【請求項4】
前記体温推定部は、前記赤外線カメラの画像から前記ユーザの体表面の複数箇所の体表面温度を抽出し、これら複数箇所の体表面温度の平均値に基づいて前記体温を推定する、
ことを特徴とする請求項
2記載のミラーシステム。
【請求項5】
ユーザを映すミラーを備えるミラーシステムであって、
前記ミラー周辺に位置する前記ユーザの体表面温度を検出する温度検出部と、
前記体表面温度に基づいて前記ユーザの体温を推定する体温推定部と、
前記ユーザの体温が所定温度以上の場合、前記ユーザの体温が前記所定温度以上であることを示す高体温注意情報を通知する通知部と
を備え、
前記温度検出部は放射熱温度計であり、
前記放射熱温度計は、前記ミラー周辺に複数設けられており、
前記ミラー周辺を撮影する可視光カメラと、
前記可視光カメラの画像に基づいて、前記体表面温度の検出に用いる前記放射熱温度計を選択する温度計選択部とを更に備える、
ことを特徴とするミラーシステム。
【請求項6】
ユーザを映すミラーを備えるミラーシステムであって、
前記ミラー周辺に位置する前記ユーザの体表面温度を検出する温度検出部と、
前記体表面温度に基づいて前記ユーザの体温を推定する体温推定部と、
前記ユーザの体温が所定温度以上の場合、前記ユーザの体温が前記所定温度以上であることを示す高体温注意情報を通知する通知部と
を備え、
前記温度検出部は放射熱温度計であり、
前記放射熱温度計は、温度の検出方向を変更可能な首振り機構を備えており、
前記ミラー周辺を撮影する可視光カメラと、
前記可視光カメラの画像に基づいて、前記放射熱温度計による温度の検出方向を変更する検出方向変更部とを更に備える、
ことを特徴とするミラーシステム。
【請求項7】
前記通知部は、前記ユーザに前記高体温注意情報を通知する、
ことを特徴とする請求項
1から6のいずれか1項記載のミラーシステム。
【請求項8】
前記ユーザの体温が所定温度以上の場合、前記ユーザが接触した可能性のある箇所の除菌または前記ミラーの周辺の換気の少なくともいずれかを行う除菌実施部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1から
7のいずれか1項記載のミラーシステム。
【請求項9】
前記ユーザの年齢、体格、性別、人種、周辺温度、摂食履歴、過去の体温履歴の少なくとも1つに基づいて前記所定温度を個別に設定する温度学習部を更に備える、
ことを特徴とする請求項1から
8のいずれか1項記載のミラーシステム。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか1項記載のミラーシステムを備えることを特徴とする航空機用化粧室ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザを映すミラーを備えるミラーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線センサを用いてユーザの体温を非接触で測定する技術が開発されている。
例えば、下記特許文献1において、赤外線体温計は、生体の閉鎖された測定部(耳内、口腔、腋下)からの赤外線の強度を検出する赤外線センサを有し、前記赤外線センサからの経時的な赤外線検出信号から得られる実測体温上昇率に基づき、平衡体温をCPUで予測演算し、表示器に表示することで、外気温や測定状態(プローブ部の測定部位での状態)に左右されない、安定した体温(平衡体温)を短時間で測定できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、感染症対策として、不特定多数の人が長時間同じ空間にいる必要がある時に、当該空間内に入場する前に各入場者の検温を行い、体温が高い人は入場しないよう促す運用がなされる場合がある。
しかしながら、当該空間への入場後に体調が悪化して体温が高くなる可能性もあり、同空間内に滞在する時間が長い場合には、継続して体温を確認できることが好ましい。一方で、例えば決まった時間ごとに係員(当該空間において役務を行う者。移動体における乗員を含む)が巡回して各入場者の体温を測定するのは、係員の役務を増加させるとともに、入場者にとっても煩わしいという課題がある。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、ユーザおよび係員に煩雑な作業を行わせることなく、長時間にわたってユーザの体温をモニタすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明の一実施形態は、ユーザを映すミラーを備えるミラーシステムであって、前記ミラー周辺に位置する前記ユーザの体表面温度を検出する温度検出部と、前記体表面温度に基づいて前記ユーザの体温を推定する体温推定部と、前記ユーザの体温が所定温度以上の場合、前記ユーザの体温が前記所定温度以上であることを示す高体温注意情報を通知する通知部とを備え、前記ミラーシステムは不特定多数の乗客が利用する移動体に設けられており、前記通知部は、前記移動体の乗員に前記高体温注意情報を通知し、前記通知部は、前記移動体の到着地に配備された通信装置に前記高体温注意情報を送信することを特徴とする。
また、本発明の一実施形態は、ユーザを映すミラーを備えるミラーシステムであって、前記ミラー周辺に位置する前記ユーザの体表面温度を検出する温度検出部と、前記体表面温度に基づいて前記ユーザの体温を推定する体温推定部と、前記ユーザの体温が所定温度以上の場合、前記ユーザの体温が前記所定温度以上であることを示す高体温注意情報を通知する通知部とを備え、前記温度検出部は放射熱温度計であり、前記放射熱温度計は、前記ミラー周辺に複数設けられており、前記ミラー周辺を撮影する可視光カメラと、前記可視光カメラの画像に基づいて、前記体表面温度の検出に用いる前記放射熱温度計を選択する温度計選択部とを更に備えることを特徴とする。
また、本発明の一実施形態は、ユーザを映すミラーを備えるミラーシステムであって、前記ミラー周辺に位置する前記ユーザの体表面温度を検出する温度検出部と、前記体表面温度に基づいて前記ユーザの体温を推定する体温推定部と、前記ユーザの体温が所定温度以上の場合、前記ユーザの体温が前記所定温度以上であることを示す高体温注意情報を通知する通知部とを備え、前記温度検出部は放射熱温度計であり、前記放射熱温度計は、温度の検出方向を変更可能な首振り機構を備えており、前記ミラー周辺を撮影する可視光カメラと、前記可視光カメラの画像に基づいて、前記放射熱温度計による温度の検出方向を変更する検出方向変更部とを更に備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、ミラーの使用時に自動的にユーザの体温を検温するので、ユーザおよび係員の手間をかけることなく体温を測定することができ、特に大人数が長時間に渡って1つの場所に留まる場合などに、継続的に体温をモニタする上で有利となる。
また、人を介さず装置が自動的に検温を行うので、ユーザが何らかの感染症に感染している場合などに不要な感染者の増加を抑制することができる。
また、ユーザの意思に関わらず検温を行うので、例えば発熱に際してユーザが自覚症状の少ない場合でも体調が急変する前にケアを行うことができ、症状の悪化を抑制する上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態1にかかるミラーシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】赤外線カメラの設置方法を模式的に示す図である。
【
図3】赤外線カメラの設置方法を模式的に示す図である。
【
図4】ミラーシステムによる処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態2にかかるミラーシステムの構成を示すブロック図である。
【
図6】可視光カメラの設置方法を模式的に示す図である。
【
図7】可視光カメラの設置方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(実施の形態1)
以下に添付図面を参照して、本発明にかかるミラーシステムの好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態1にかかるミラーシステムの構成を示すブロック図である。
実施の形態1では、温度検出部として赤外線カメラ14を用いる実施例について説明する。
ミラーシステム10は、例えば不特定多数の乗客が利用する移動体に設けられている。移動体とは、例えば航空機や新幹線、クルーズ船など、ユーザが化粧室を使用することが想定される程度の長時間の乗車が想定される乗り物である。また、ミラーシステム10は、例えば不特定多数のユーザが利用する空港や駅、デパートなどの化粧室などに設けられていてもよい。
【0009】
本実施の形態では、ミラーシステム10は、航空機用化粧室ユニットに設けられている。
航空機用化粧室ユニットは、通常のトイレ個室よりやや広い程度の面積に、便器や手洗い用シンク等が収容されている。航空機用化粧室ユニット内のミラー12は、通常手洗い用シンクに隣接する壁面に設けられている。航空機用化粧室ユニットは比較的面積が狭く、またミラー12とユーザの距離も小さいため、より高精度に後述する体温検出を行うことができる。
【0010】
ミラーシステム10は、ミラー12、赤外線カメラ14、化粧室内モニタ16、アテンダントモニタ18、コックピットモニタ20、自動除菌機構22、通信部24、制御部30を備える。
【0011】
ミラー12は、ユーザU(本実施の形態では化粧室に入室した乗客)を映す。
本実施の形態では、ミラー12は、例えば
図2等に示すように、ユーザUが通常の鏡使用位置(例えばミラー12が手洗い場に設けられている場合には手洗い用シンクの前など)に来た際に、ユーザUの顔~上半身程度を映すことができる大きさであるものとする。
【0012】
赤外線カメラ14は、ミラー12周辺に位置するユーザUの体表面温度を検出する温度検出部として機能する。
赤外線カメラ14は、物体から放出される赤外線を検知する。物体表面から放出される赤外線量は、当該物体表面の温度に比例するため、ユーザUを撮影範囲に含む赤外線カメラ14の画像によりユーザUの体表面温度を2次元的に検出することができる。
【0013】
図2および
図3は、赤外線カメラの設置方法を模式的に示す図である。
図2には、ミラー12をハーフミラーとする方法を示す。この場合、赤外線カメラ14は、例えばミラー12の裏面側の略中央位置(ミラー12の表面側にユーザUの顔が位置する可能性が高い位置)に配置する。赤外線カメラ14は、ミラー12の裏面側に透過した赤外線を撮影する。
【0014】
図3には、ミラー12を全反射ミラーとする方法を示す。
この場合、例えばミラー12のうちユーザUの顔が位置する可能性が高い位置に切欠き12Aを設け、この切欠きから赤外線カメラ14のレンズを露出させて撮影を行う。すなわち、赤外線カメラ14を位置P1に配置する。
また、例えばミラー12の上部12B(または下部側)に沿って赤外線カメラ14を配置し、ユーザUの顔が位置する可能性が高い方向に撮影方向を調整した上で撮影を行ってもよい。すなわち、赤外線カメラ14を位置P2に配置する。
【0015】
図1の説明に戻り、化粧室内モニタ16は、ミラー12が設置された化粧室内に設けられたモニタであり、化粧室内のユーザUに情報を提示する。化粧室内モニタ16は、ディスプレイのように任意の情報(文字や画像)を表示できるものであってもよいし、旅客機のシートベルト着用サインのように決まった情報のみを表示可能なものであってもよい。
【0016】
アテンダントモニタ18およびコックピットモニタ20は、航空機(移動体)の乗員に情報を提示するモニタである。より詳細には、アテンダントモニタ18は、航空機のアテンダントが出入りするギャレーやアテンダント席付近に設けられ、アテンダントに対して情報を提示する。また、コックピットモニタ20は、航空機の操縦席付近に設けられ、パイロットに対して情報を提示する。アテンダントモニタ18およびコックピットモニタ20も、化粧室内モニタ16と同様に、ディスプレイのように任意の情報(文字や画像)を表示できるものであってもよいし、決まった情報のみを表示可能なものであってもよい。
【0017】
自動除菌機構22は、化粧室内の各部、特にユーザUを初めとする化粧室の利用者が触れる可能性がある場所を自動的に除菌する。化粧室の利用者が触れる可能性がある場所とは、例えば化粧室の出入り口のドアノブ、出入り口のロック操作部、便座、便座洗浄操作部、手洗い用水栓の出止操作部などが挙げられる。
自動除菌機構22は、例えば紫外線の照射、消毒液の散布、化粧室内の空気の換気などを自動的に行うことにより化粧室内の各部を除菌する。
【0018】
通信部24は、無線通信により地上(または飛行中の他の航空機)にある他の通信装置との間で情報を送受信する。本実施の形態では、他の通信装置は、例えば航空機の到着地の空港や医療施設などに配備されているものとする。
【0019】
制御部30は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部などを含んで構成され、上記CPUが制御プログラムを実行することにより、体温推定部300、通知部302、記録部304、除菌実施部306として機能する。
【0020】
体温推定部300は、赤外線カメラ14で検出された体表面温度に基づいてユーザUの体温を推定する。人体の体表面温度に基づく体温(中枢温)の推定方法は、従来公知の技術であるため詳細な説明を省略する。
【0021】
体温推定部300は、例えば赤外線カメラ14の画像からユーザUの頭部を特定し、ユーザUの頭部の特定箇所の体表面温度に基づいて体温を推定する。頭部の特定箇所とは、例えば額やこめかみ等である。一般に航空機内の室温は25度前後に調整されており、赤外線カメラ14の撮影画像上ではユーザU(人間)は他の物体よりも明らかに高温に映る。ミラー12に対向したユーザUの頭部は略楕円形に映り、更に鼻や目などは周囲の部分との温度差があるため特徴点として抽出できる。体温推定部300は、その特徴点から上記特定箇所(額やこめかみ)の位置を推定し、特定箇所の体表面温度に基づいてユーザUの体温(中枢温)を推定する。
【0022】
また、体温推定部300は、例えば赤外線カメラ14の画像からユーザUの体表面の複数箇所の体表面温度を抽出し、これら複数箇所の体表面温度の平均値に基づいて体温を推定するようにしてもよい。この方法は、例えばユーザUに前髪があったり、帽子を被ったりして額(特定箇所)の体表面温度が得られない可能性がある場合などに有利である。
【0023】
通知部302は、体温推定部300で推定したユーザUの体温が所定温度以上の場合、ユーザUの体温が所定温度以上であることを示す高体温注意情報を通知する。所定温度とは、例えば37.5度などの固定値としてもよいし、後述する実施例のように変動値としてもよい。
【0024】
また、通知部302は、例えばユーザUに高体温注意情報を通知する。すなわち、通知部302は、化粧室内モニタ16に、ユーザUの体温が通常予測される範囲よりも高く、発熱している可能性がある旨のメッセージやアイコンなどを表示する。
この通知を見たユーザUは、例えば乗員に発熱している可能性がある旨を申告して、可能であればより楽に過ごせる席に移動したり、氷嚢や保冷剤、または毛布など発熱に伴う症状を緩和できる物品を受け取るなどの支援を受けることができる。また特に、体調不良の自覚がない(自覚症状のない)ユーザUに対して自身が発熱していることを自覚させ、体調悪化を防止する対策を早期に行うことができる。
【0025】
また、航空機の乗客全員の同意が予め得られる場合には、化粧室の次の利用者に直前の利用者の体温(高温注意情報の有無であってもよい)を提示するようにしてもよい。このような構成によって、例えば航空機に自動除菌機構22が搭載されていない場合に、次の利用者は、発熱がある直前の利用者の化粧室利用後に化粧室の除菌作業が行われたことを乗員に確認してから利用することができる。
【0026】
また、通知部302は、例えば航空機(移動体)の乗員にも高体温注意情報を通知する。すなわち、通知部302は、アテンダントモニタ18またはコックピットモニタ20の少なくともいずれかに、現在化粧室を使用しているユーザUの体温が所定温度以上であることを通知する。
この通知を見た乗員は、例えば化粧室を利用したユーザUに対して体調に異変がないか確認したり、体温計を用いて体温を実測したり、必要があれば他の乗客から離れた席に誘導したりすることができる。また、乗員は、航空機に自動除菌機構22が搭載されていない場合に、ユーザUが使用した化粧室の除菌作業を行うことができる。すなわち、発熱が疑われるユーザUに対するケアを積極的に行うことができるとともに、当該ユーザUの発熱による他の乗客に対する影響を最小限とするよう対応することができる。
【0027】
また、通知部302は、例えば航空機(移動体)の到着地に配備された通信装置にユーザUの高体温注意情報を送信する。すなわち、通知部302は、通信部24を介して到着地の空港等の係員に対して当該航空機に発熱者(ユーザU)が搭乗している旨を通知する。
この通知を見た係員は、発熱者を受け入れるための体制、例えば医務室の確保や救急車の要請、特定の感染症に感染していないかの検査の準備等を予め行うことができ、航空機の到着後、発熱者に対して迅速にケアを提供することができる。
【0028】
記録部304は、化粧室を利用した乗客(ユーザU)の体温、化粧室の利用時刻(例えば入退室時刻)、当該時刻における航空機の位置情報などを記録する。このとき、併せて赤外線カメラ14で撮影した画像を保存してもよい。
このような記録を行うことによって、例えば航空機が到着地に到着後、ユーザUや航空機の他の乗客が何らかの感染症に感染していたことが判明した場合、ユーザUが発熱したタイミングを確認したり、ユーザUの次に化粧室を利用した乗客の健康状態を確認したり、感染症への感染が確認された乗客間の接触状態などを確認することができ、感染症拡大を防ぐ上で有利となる。
また、例えば航空機の客室内に全乗客の移動状態を記録可能な可視光カメラを設置してフライト中の画像を記録しておき、一部の乗客が何らかの感染症に感染していたことが後日判明した場合、移動経路を含む周囲にいた乗客に対して注意喚起を行うようにしてもよい。
【0029】
除菌実施部306は、ユーザUの体温が所定温度以上の場合、ユーザUが接触した可能性のある箇所の除菌またはミラー12の周辺の換気の少なくともいずれかを行う。本実施の形態では、除菌実施部306は、ユーザUの体温が所定温度以上の場合に自動除菌機構22を稼働させることにより、化粧室内の除菌や換気を行う。
【0030】
図4は、ミラーシステムによる処理の手順を示すフローチャートである。
ユーザU(乗客)が化粧室に入室すると(ステップS400:Yes)、制御部30は赤外線カメラ14を起動し、赤外線カメラ14による撮影を開始する(ステップS402)。
なお、本実施の形態ではミラー12が化粧室という入退室状態が明確な場所に設置されているため、ユーザUの入退室に伴って赤外線カメラ14を起動するのが経済的であるが、ミラー12が比較的オープンな場所(新幹線のデッキなど)に設けられている場合には赤外線カメラ14は常時起動してもよい。
【0031】
ユーザUが赤外線カメラ14の撮影範囲に入ると(ステップS404)、体温推定部300は、赤外線カメラ14の画像からユーザUの体表面温度を検出し(ステップS406)、体表面温度に基づいてユーザUの体温を推定する(ステップS408)。
ステップS408で推定した温度が所定温度未満の場合は(ステップS410:No)、そのまま本フローチャートの処理を終了する。
一方、ステップS408で推定した温度が所定温度以上の場合(ステップS410:Yes)、通知部302は、化粧室内モニタ16、アテンダントモニタ18、コックピットモニタ20などに高体温注意情報を表示したり、通信部24を介して高体温注意情報を到着地に送信したりして、ユーザUが発熱している可能性があることを通知する(ステップS412)。
また、ユーザU(乗客)が化粧室から退出すると(ステップS413:Yes)、除菌実施部306は、自動除菌機構22を稼働させ、化粧室内を自動除菌する(ステップS414)。なお、衛生上の観点から、ユーザUの発熱の有無に関わらず自動除菌を行ってもよいが、利用ユーザUの発熱の有無によって除菌作業の程度を変更するのが現実的である(例えばユーザUが発熱していない場合には紫外線照射および換気のみ、ユーザUが発熱している場合には紫外線照射および換気に加えて消毒液を用いてふき取りを行うなど)。
また、ユーザUが化粧室を退室すると、赤外線カメラ14は待機状態に戻る。
【0032】
以上説明したように、実施の形態1にかかるミラーシステム10によれば、ミラー12の使用時に自動的にユーザUの体温を検温するので、ユーザUおよび乗員の手間をかけることなく体温を測定することができ、特に大人数が長時間に渡って1つの場所(本実施の形態では航空機内)に留まる場合などに、継続的に体温をモニタする上で有利となる。
また、実施の形態1にかかるミラーシステム10によれば、人を介さず装置が自動的に検温を行うので、ユーザUが何らかの感染症に感染している場合などに不要な感染者の増加を抑制することができる。
また、実施の形態1にかかるミラーシステム10によれば、ユーザUの意思に関わらず検温を行うので、例えば発熱に際してユーザが自覚症状の少ない場合でも体調が急変する前にケアを行うことができ、症状の悪化を抑制する上で有利となる。
また、実施の形態1にかかるミラーシステム10によれば、温度検出部として赤外線カメラ14を用いるので、ユーザUの体表面温度を2次元的に検出することができ、体温推定に適した箇所の体表面温度を用いて精度よく体温を推定することができる。
また、実施の形態1にかかるミラーシステム10によれば、ユーザUが高体温の場合、化粧室内を自動的に除菌するので、乗員の作業負担を軽減することができるとともに、乗員の衛生状態を良好に保ち、感染症等の拡大を防止する上で有利となる。
また、実施の形態1にかかるミラーシステム10によれば、化粧室利用者の体温等を記録するので、航空機の乗客に何らかの感染症の感染者が見つかった場合に、行動履歴を参照して他の乗客に注意を促すことができ、感染症の拡大を防止する上で有利となる。
【0033】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2にかかるミラーシステムの構成を示すブロック図である。
実施の形態2では、温度検出部として放射熱温度計を用いる実施例について説明する。
なお、実施の形態2において、実施の形態1同様の構成については実施の形態1と同じ符号を付し、詳細な説明を省略する。
【0034】
図5に示すミラーシステム10’は、実施の形態1のミラーシステム10の赤外線カメラ14に代えて放射熱温度計40を備えるとともに、可視光カメラ42を備える。また、制御部30は、検温制御部308として機能する。
【0035】
実施の形態2における温度検出部である放射熱温度計40は、赤外線カメラ14と同様にユーザUの体表面から放射される赤外線量に基づいて体表面温度を検出するが、赤外線カメラ14がユーザUの体表面の2次元的な温度分布を検出可能であるのに対して、放射熱温度計40は体表面の一点の温度を検出する。放射熱温度計40を用いることによって赤外線カメラ14と比較して安価にユーザUの体温を検出することができる。
【0036】
可視光カメラ42は、ミラー12周辺を撮影範囲とする。より詳細には、ミラー12は、例えばユーザUが通常のミラー使用位置に来た際に、ミラー12が映す範囲、すなわちユーザUの顔~上半身程度を映すことができるように撮影範囲を設定する。
可視光カメラ42を用いることにより、放射熱温度計40による体温検出箇所を特定することができ、より精度よくユーザUの体温を検出することができる。また、可視光カメラ42を用いることにより、例えば記録部304に記録したデータ上で個々のユーザUをより確実に特定することができる。
【0037】
検温制御部308は、可視光カメラ42の撮影画像に基づいて放射熱温度計40による体温検出状態を制御する。このような検温制御部308を設けるのは、放射熱温度計40は上述のように体表面の一点の温度を検出するものであり、適切な検出方向を設定する必要があるためである。
本実施の形態では、検温制御部308は、放射熱温度計の設置態様により温度計選択部または検出方向変更部のいずれかとして機能する。
【0038】
図6および
図7は、放射熱温度計の設置方法を模式的に示す図である。
図6には、放射熱温度計40を複数設置する方法を示す。この場合、ミラー12の中央部に縦方向に間隔を置いて複数の切欠き40Aを設け、この切欠きから放射熱温度計40の受光面を露出させる。
図6の例では3つの放射熱温度計40が設けられている。
可視光カメラ42の設置位置は任意であるが、
図6ではミラー12の前に立ったユーザUを撮影範囲に含むようにミラー12の上部に配置されている。
検温制御部308は、可視光カメラ42の撮影画像を画像解析してユーザUの頭部の位置を検出し、複数設置された放射熱温度計40のうちユーザUの頭部の特定箇所(例えば額)に最も近い位置を検出箇所とする放射熱温度計40を選択する(
図6の例では中間位置の放射熱温度計40)。そして、選択した放射熱温度計40によりユーザUの体表面温度を検出する。
すなわち、
図6の例では、放射熱温度計40はミラー12周辺に複数設けられており、検温制御部308は、可視光カメラ42の画像に基づいて体表面温度の検出に用いる放射熱温度計40を選択する温度計選択部として機能する。
【0039】
図7には、首振り機能を有する放射熱温度計40を設置する方法を示す。この場合、例えばミラー12の周囲(
図7の例ではミラー12の上部)に受光面を上下左右に移動可能な放射熱温度計40を設置する。
図7では可視光カメラ42の図示は省略しているが、可視光カメラ42の撮影範囲と放射熱温度計40の検温範囲とは重なっているのが好ましいため、例えば放射熱温度計40の横に並べて可視光カメラ42を設置するのが好ましい。
検温制御部308は、可視光カメラ42の撮影画像を画像解析してユーザUの頭部の位置を検出し、放射熱温度計40の受光方向をユーザUの頭部の特定箇所(例えば額)方向に向ける。そして、当該受光方向を保持した状態で放射熱温度計40によりユーザUの体表面温度を検出する。
すなわち、
図7の例では、放射熱温度計40は、温度の検出方向を変更可能な首振り機構を備えており、検温制御部308は、可視光カメラ42の画像に基づいて、放射熱温度計40による温度の検出方向を変更する検出方向変更部として機能する。
【0040】
以上説明したように、実施の形態2にかかるミラーシステム10’によれば、実施の形態1にかかるミラーシステム10の効果に加えて、放射熱温度計40を用いることによって赤外線カメラ14と比較して安価にユーザUの体温を検出することができる。
実施の形態2にかかるミラーシステム10’によれば、可視光カメラ42を用いることにより、記録部304に記録したデータ上で個々のユーザUをより確実に特定することができ、例えばユーザUが何らかの感染症に感染していた場合に追跡を行いやすくなり、感染症の拡大を防止する上で有利となる。
【0041】
(実施の形態3)
実施の形態3では、機械学習や人工知能(AI)を用いて、高体温と判定する体温(所定温度)を個々の乗客(ユーザU)に対して個別に設定する。
これは、不特定多数の様々な人が利用する移動体などにおいて、高体温と判定する体温を一律に所定温度と設定すると、体温は所定温度未満であるが実際には体調の異変が生じている乗客を見逃したり、体温は所定温度以上であるが体調の異変が生じていない乗客に対して報知を行って当人を不安にさせたり、乗員のマンパワーを浪費したりする可能性があるためである。
【0042】
例えば、一般に、子供は成人に比べて平熱が高く、また成人の中でも高齢になるにつれ平熱が低くなる傾向にある。すなわち、ユーザUの平熱はユーザUの年齢に相関があると考えられる。
また、一般に筋肉量または脂肪量が多い人(体の体積が大きい人)は、筋肉量および脂肪量が少ない人と比較して平熱が高い傾向にある。すなわち、ユーザUの平熱はユーザUの体格に相関があると考えられる。
また、一般に男性の方が女性と比べて体格が大きく、平熱が高い傾向にある。すなわち、ユーザUの平熱はユーザUの性別に相関があると考えられる。
また、一般に白人の方が黄色人種と比べて平熱が高い傾向にある。すなわち、ユーザUの平熱はユーザUの人種に相関があると考えられる。
【0043】
このようなユーザUの属性は、例えば実施の形態2のように可視光カメラ42で撮影した画像に基づいて、画像解析により一定の精度で推定することができる。よって、例えば予めそれぞれの属性に基づく平熱の予測値を設定するとともに、それぞれの属性に対して重みづけをしておく。そして、化粧室に入室した個々のユーザUに対してそれぞれ所定温度(高体温と判定する温度、予測平熱+αによって算出)を設定し、これに基づいて高体温か否かを判定する。
また、例えば個々に設定した所定温度と実際に測定した体温とを一定期間毎に比較して、より精度よく個々の所定温度を設定できるように上記重み付けを再評価するように(学習を行うように)してもよい。
【0044】
また、体温を変動させる要因として、周辺温度(周囲の気温が高いほど体温、特に体表面温度が高くなる)、飲食の有無(一般的に食事を取ったり飲酒したりすると体温が上がる)なども挙げられる。
周辺温度については、航空機内の空調設定温度および航空機内に設置された温度計から得ることができる。また、飲食の有無については、航空機内で機内食が提供されるタイミングはある程度決まっており、また航空機内に設置された可視光カメラ42の画像を用いて個々の乗客への飲食物の提供状況なども解析可能である。
上記したユーザUの属性に基づいて設定した所定温度に対して、更に周辺温度や飲食の有無といった要素を加えることによって、上記所定温度をより精度よく設定することが可能となる。
【0045】
また、例えば飛行機の搭乗時に体温が37.0度だった人が37.5度になった場合と、35.8度だった人が37.5度になった場合とでは、後者の方が何らかの体調異変が生じている可能性が高いと考えられる。すなわち、検出された体温に対する評価は、本人の過去の体温履歴によって変化する。
このため、例えば飛行機の搭乗前に個々の乗客に対して検温を行い、検温値を乗客の顔データと関連づけておき、化粧室に入室した際には可視光カメラ42により顔を認識してこれをキーに搭乗時の検温値を参照し、現在の体温と比較して高体温注意情報を通知するかを判断してもよい。
なお、現在体温の評価の際には、例えば搭乗(初期検温のタイミング)からの経過時間や、複数回化粧室に入室している場合には前回の体温値なども考慮するのが好ましい。
また、航空機への搭乗時のみならず、例えば空港への入場時などにも検温を行っている場合には、これを参照できるようにしてもよい。
【0046】
すなわち、ミラーシステム10(10’)に、ユーザUの年齢、体格、性別、人種、周辺温度、摂食履歴、過去の体温履歴の少なくとも1つに基づいて、高体温注意情報を通知する閾値である所定温度を個別に設定する温度学習部を更に備えることによって、より精度よく高体温注意情報を通知することができ、高体温注意情報の有用性を向上させることができる。
【0047】
10(10’) ミラーシステム
12 ミラー
14 赤外線カメラ
16 化粧室内モニタ
18 アテンダントモニタ
20 コックピットモニタ
22 自動除菌機構
24 通信部
30 制御部
300 体温推定部
302 通知部
304 記録部
306 除菌実施部
308 検温制御部
40 放射熱温度計
42 可視光カメラ
U ユーザ
【要約】
【課題】ユーザおよび係員に煩雑な作業を行わせることなく、長時間にわたってユーザUの体温をモニタすること。
【解決手段】ミラーシステム10は、ユーザUを映すミラー12を備える。温度検出部である赤外線カメラ14は、ミラー12周辺に位置するユーザUの体表面温度を検出する。体温推定部300は、体表面温度に基づいてユーザUの体温を推定する。通知部302は、ユーザUの体温が所定温度以上の場合、ユーザUの体温が所定温度以上であることを示す高体温注意情報を通知する。
【選択図】
図1