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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】二次電池用電解液および二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0568 20100101AFI20220125BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20220125BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20220125BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20220125BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/0567
H01M10/0569
H01M10/052
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020509908
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010633
(87)【国際公開番号】W WO2019188360
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-09-17
(31)【優先権主張番号】P 2018058122
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岩本 友美
(72)【発明者】
【氏名】門田 敦志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 辰哉
【審査官】近藤 政克
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-152291(JP,A)
【文献】特開2016-126855(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128940(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0123869(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0568
H01M 10/0567
H01M 10/0569
H01M 10/052
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩と、リチウムイオン以外の有機カチオンとアニオンからなるイオン液体またはハイドロフルオロエーテルの少なくとも何れか一方と、化学式(1)で表される化合物(A)と、を含有することを特徴とする二次電池用電解液。
【化1】

(式中、X、Y、Zはそれぞれ酸素原子またはCH基であり、X、Y、Zが同時に酸素原子になることは無い。X、Y、Zのいずれかが酸素原子の時、その酸素原子に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルキレンアルコキシ基である。X、Y、ZのいずれかがCH基の時、そのCH基に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して水素原子又は置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルキレンアルコキシ基である。)
【請求項2】
前記リチウムイオン以外の有機カチオンとアニオンからなるイオン液体のカチオンが化学式(2)で示されるピロリジニウムカチオン、あるいは化学式(3)で示されるピペリジニウムカチオンからなることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用電解液。

【化2】

【化3】

(化学式(2)、(3)中、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~5であって、直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレンアルコキシ基である。)
【請求項3】
リチウムイオン以外の有機カチオンとアニオンからなるイオン液体およびハイドロフルオロエーテルの両方を含有する、請求項1または請求項2に記載の二次電池用電解液。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の二次電池用電解液を有する二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用電解液および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
ノート型パソコン、携帯電話、電気自動車などの急速な市場拡大に伴い、高エネルギー密度の二次電池が求められている。しかしながら、二次電池は、高温下におかれると、安全性に問題があった。二次電池においては、安全性の確保のため、難燃性の材料を用いることが検討されている。電解液の溶媒内にフッ素やリンを含有させることで難燃性を高めることが出来る。特許文献1および特許文献2には、難燃性の材料としてイオン液体とリン酸エステル化合物を含む電解液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2009-142251号公報
【文献】特開2012-99474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、それらの電解液では、充放電を繰り返すごとにリン酸エステル化合物が負極上で分解してしまい、サイクル特性が著しく悪くなるといった問題がある。リン酸エステル化合物の含有量が多くなると、この問題は特に顕著であった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、良好なサイクル特性を実現する二次電池用電解液およびそれを用いた二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、リチウム塩と、イオン液体またはハイドロフルオロエーテルの少なくともいずれか一方と、リンを含有する特定構造の化合物(A)を用いる場合、得られた二次電池用電解液を用いる二次電池が良好なサイクル特性を実現することができることを見出した。すなわち、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0007】
[1]リチウム塩と、イオン液体またはハイドロフルオロエーテルの少なくとも何れか一方と、化学式(1)で表される化合物(A)と、を含有することを特徴とする二次電池用電解液。
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、X、Y、Zはそれぞれ酸素原子またはCH基であり、X、Y、Zが同時に酸素原子になることは無い。X、Y、Zのいずれかが酸素原子の時、その酸素原子に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルキレンアルコキシ基である。X、Y、ZのいずれかがCH基の時、そのCH基に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して水素原子又は置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルキレンアルコキシ基である。)
【0010】
[2]前記イオン液体のカチオンが化学式(2)で示されるピロリジニウムカチオン、あるいは化学式(3)で示されるピペリジニウムカチオンからなることを特徴とする請求項1に記載の二次電池用電解液。
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
【0013】
(化学式(2)、(3)中、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~5であって、直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレンアルコキシ基である。)
【0014】
[3]イオン液体およびハイドロフルオロエーテルの両方を含有する、[1]または[2]に記載の二次電池用電解液。
【0015】
[4]請求項1~3の何れか一項に記載の二次電池用電解液を有する二次電池。
【発明の効果】
【0016】
かかる構成によれば、化合物(A)が含有されることで負極上に安定な被膜を形成することができる。その結果、負極上での電解液の分解反応が抑制され良好なサイクル特性を実現できる。また、ハイドロフルオロエーテルを含有することにより、電解液の粘性率が低下し、電極内の細孔内部まで電解液が浸透しやすくなることでさらに良好なサイクル特性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態にかかるリチウム二次電池の断面模式図である。
図2】化合物(A)が充電時に負極上で還元されたリチウムと反応し、C-Li結合を形成する様子を示す概念図である。
図3】緻密で安定な被膜が負極上に形成される様子を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
[二次電池]
図1は、本実施形態にかかるリチウム二次電池の断面模式図である。図1に示すリチウム二次電池100は、主として積層体40、積層体40を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体40に接続された一対のリード60、62を備えている。また図示されていないが、積層体40とともに電解液が、ケース50内に収容されている。
【0020】
積層体40は、正極20と負極30とが、セパレータ10を挟んで対向配置されたものである。正極20は、板状(膜状)の正極集電体22上に正極活物質層24が設けられたものである。負極30は、板状(膜状)の負極集電体32上に負極活物質層34が設けられたものである。
【0021】
正極活物質層24及び負極活物質層34は、セパレータ10の両側にそれぞれ接触している。正極集電体22及び負極集電体32の端部には、それぞれリード62、60が接続されており、リード60、62の端部はケース50の外部にまで延びている。図1では、ケース50内に積層体40が一つの場合を例示したが、複数積層されていてもよい。
【0022】
「二次電池用電解液」
本実施形態にかかる二次電池用電解液((以下、単に「電解液」という。)は、リチウム塩と、イオン液体またはハイドロフルオロエーテルの少なくとも何れか一方と、化学式(1)で表される化合物(A)と、を含有することを特徴とする。
【0023】
【化4】
(式中、X、Y、Zはそれぞれ酸素原子またはCH基であり、X、Y、Zが同時に酸素原子になることは無い。X、Y、Zのいずれかが酸素原子の時、その酸素原子に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルキレンアルコキシ基である。X、Y、ZのいずれかがCH基の時、そのCH基に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して水素原子又は置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルキレンアルコキシ基である。)
【0024】
(リチウム塩)
本実施形態におけるリチウム塩は、電解液中で解離してリチウムイオンを供給する電解質である。リチウム塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、Li(C、Li(C)F、LiN(SO(CFF)(ただし、pは1~5の整数を示す。)、FSON(Li)SOF、FSON(Li)SOCF、CFSOLiおよび下記化合物(4)(ただし、qは1~5の整数を示す。)からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。これらのリチウム塩は、リチウムイオン二次電池用のリチウム塩として知られる化合物である。リチウム塩は、LiN(SOCF(pが1である化合物)、LiN(SO(pが2である化合物)、FSON(Li)SOF、FSON(Li)SOCF、CFSOLi、LiPFおよび化合物(4)(ただし、qは1~5の整数を示す。)からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0025】
【化5】
【0026】
化合物(4)としては、下記化合物(4-1)~(4-5)が挙げられる。
【0027】
【化6】
【0028】
化合物(4)としては、電導度の高い電解液が得られやすい点から、qが2である化合物(4-2)が好ましい。
【0029】
前記リチウム塩の濃度は、0.5~5.0mol/Lであることが好ましい。0.5mol/Lを下回ると、電解液中のリチウムイオンが少なすぎて電池特性を得ることが出来ず、1.0mol/L以上であることがより好ましい。また、5.0mol/Lを超えると、未溶解のリチウム塩が生じるため、インピーダンスが高くなり電池特性が低下する。
【0030】
(イオン液体)
イオン液体とは、常温で液体のイオン化合物のことであり、カチオン成分とアニオン成分とからなっている。カチオン成分としては、含窒素化合物カチオンからなる4級アンモニウム系、含リン化合物カチオンからなる4級ホスホニウム系などを用いることができる。
【0031】
含窒素化合物カチオンからなる4級アンモニウム系カチオンとしては、テトラアルキルアンモニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、ピロリニウムカチオン、ピロリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、チアゾリウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
テトラアルキルアンモニウムカチオンとしては化学式(5)で示され、R、R7、、Rはそれぞれ独立に炭素数1~5であって、直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレンアルコキシ基を表し、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。ジエチルメチルメトキシエチルアンモニウムカチオン、トリメチルエチルアンモニウムカチオン、トリメチルプロピルアンモニウムカチオン、トリメチルへキシルアンモニウムカチオン、テトラペンチルアンモニウムカチオン、ジエチルメチル(2-メトキシエチル)アンモニウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0033】
【化7】
【0034】
ピロリジニウムカチオンとしては化学式(2)で示され、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~5であって、直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレンアルコキシ基を表し、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。1,1-ジメチルピロリジニウムカチオン、1-エチル-1-メチルピロリジニウムカチオン、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムカチオン、1-ブチル-1-メチルピロリジニウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
【化8】
【0036】
ピペリジニウムカチオンとしては化学式(3)で示され、R、Rはそれぞれ独立に炭素数1~5であって、直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレンアルコキシ基を表し、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。1,1-ジメチルピペリジニウムカチオン、1-エチル-1-メチルピペリジニウムカチオン、1-メチル-1-プロピルピペリジニウムカチオン、1-ブチル-1-メチルピペリジニウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
【化9】
【0038】
ピラゾリウムカチオンとしては、1,2‐ジメチルピラゾリウムカチオン、1-エチル-2‐メチルピラゾリウムカチオン、1-プロピル-2‐メチルピラゾリウムカチオン、1-ブチル-2‐メチルピラゾリウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
ピロリニウムカチオンとしては、1,2-ジメチルピロリニウムカチオン、1-エチル-2-メチルピロリニウムカチオン、1-プロピル-2‐メチルピロリニウムカチオン、1-ブチル-2-メチルピロリニウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0040】
ピロリウムカチオンとしては、1,2-ジメチルピロリウムカチオン、1-エチル-2-メチルピロリウムカチオン、1-プロピル-2-メチルピロリウムカチオン、1-ブチル-2-メチルピロリウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
ピリジニウムカチオンとしては、N-メチルピリジニウムカチオン、N-エチルピリジニウムカチオン、N-ブチルピリジニウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
チアゾリウムカチオンとしては、エチルジメチルチアゾリウムカチオン、ブチルジメチルチアゾリウムカチオン、ヘキサジメチルチアゾリウムカチオン、メトキシエチルチアゾリウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
含リン化合物カチオンからなる4級ホスホニウム系としては、化学式(6)で示される骨格を有するホスホニウムカチオンが挙げられる。化学式(6)において、R10、R11、R12、R13はそれぞれ独立に炭素数1~5であって、直鎖状又は分岐状のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレンアルコキシ基を表し、それぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。また、5員環、6員環等の環状構造を有してもよい。
【0044】
【化10】
【0045】
具体例としては、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラメチルホスホニウムカチオン、テトラプロピルホスホニウムカチオン、テトラブチルホスホニウムカチオン、トリエチルメチルホスホニウムカチオン、トリメチルエチルホスホニウムカチオン、ジメチルジエチルホスホニウムカチオン、トリメチルプロピルホスホニウムカチオン、トリメチルブチルホスホニウムカチオン、ジメチルエチルプロピルホスホニウムカチオン、メチルエチルプロピルブチルホスホニウムカチオン等が挙げられるが、これらに限定するものではない。
【0046】
カチオンとしては、ピロリジニウムカチオンやピペリジニウムカチオンが好ましい。これらカチオンを有するイオン液体はイオン導電率が高く、更に良好なサイクル特性を実現することができる。
【0047】
イオン液体のアニオンとしては、ClO 、PF 、BF 、AsF 、B(C 、CFSO 、Cl、Br、I等が挙げられ、そのうちBF の少なくとも一つのフッ素原子をフッ化アルキル基で置換したBF(CF、BF(C、BF(C、BF(CF 、BF(CF)(Cや、PF の少なくとも一つのフッ素原子をフッ化アルキル基で置換したPF(CF、PF(C、PF(C、PF(CF 、PF(CF)(C、PF(CF 等を用いてもよい。
【0048】
また、化学式(7)で示される化学構造式を含むアニオン等も挙げられる。化学式(7)におけるR14、R15はハロゲン、フッ化アルキルからなる群から選ばれる。また、R14、R15はそれぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。具体例としては、N(FSON(CFSON(CSON(CFSO)(CSO)である。
【0049】
【化11】
【0050】
またアニオンとしては、化学式(8)で示される化学構造式を含むアニオン等も挙げられる。化学式(8)におけるR16、R17、R18はハロゲン、フッ化アルキルからなる群から選ばれる。また、R16、R17、R18はそれぞれ同一でもよく、異なっていてもよい。具体例としては、C(CFSOC(CSO等が挙げられる。
【0051】
【化12】
【0052】
本発明では、これらのカチオンやアニオンを構成要素とするイオン液体を用いることができる。しかし、アニオンは親水性を示すBF やPF 等のアニオンより、化学式(7)のようなイミドアニオンを用いたイオン液体を用いるほうがリチウム塩の溶解性向上の観点からより好ましい。
【0053】
(ハイドロフルオロエーテル)
本発明におけるハイドロフルオロエーテルとしては、下記化学式(9)で表される化合物が挙げられる。
【0054】
【化13】
【0055】
ここで化学式(9)におけるR19、R20は、それぞれ独立にアルキル基または含フッ素アルキル基であり、R19、R20の少なくとも一方が含フッ素アルキル基である。また、R19、R20に含まれる水素原子の数は合計1以上であり、かつR19、R20に含まれる炭素原子の数は合計3以上10以下で表される化合物である。具体例としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、ジフルオロメチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)ペンタン、エチル1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル、メチル1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル、メチル2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、メチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチル1,1,2,2,3,3,3-オクタフルオロプロピルエーテル、メチル1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチルエーテル、エチル1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチルエーテル、ジフルオロメチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、ジフルオロメチル2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、メチル1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル、メチル1,1,3,3,3-ペンタフルオロ-2-トリフルオロメチルプロピルエーテル、ジフルオロメチル2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル等が挙げられる。化合物(A)との相溶性の点から、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、ジフルオロメチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、あるいは2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテルがより好ましい。
【0056】
(化合物(A))
本実施態様の化合物(A)は、下記化学式(1)で表される化合物である。
【0057】
【化14】
【0058】
式中、X、Y、Zはそれぞれ酸素原子またはCH基であり、X、Y、Zが同時に酸素原子になることは無い。X、Y、Zのいずれかが酸素原子の時、その酸素原子に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルキレンアルコキシ基である。X、Y、ZのいずれかがCH基の時、そのCH基に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して水素原子又は置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルキレンアルコキシ基である。
【0059】
炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基が挙げられる。また、置換基としては、フッ素、臭素、ヨウ素のようなハロゲン原子でも良い。
【0060】
炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、イソポロポキシ基が挙げられる。また、置換基としては、フッ素、臭素、ヨウ素のようなハロゲン原子でも良い。
【0061】
炭素数1~4のアルキレンアルコキシ基としては、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基が挙げられる。また、置換基としては、フッ素、臭素、ヨウ素のようなハロゲン原子でも良い。
【0062】
特定な構造を有する本発明の化合物(A)を含む電解液が優れたサイクル特性を示す。その理由を化合物(A)のR~Rがそれぞれメチル基、Xが酸素原子、YおよびZがそれぞれCH基である場合を用いて説明する。本発明の化合物(A)は、リン酸エステル化合物と異なり、P=O結合に隣接するC-H結合を少なくとも1つ有する。このC原子はカルバニオンイオンになる傾向が高く、図2に示される様に充電時に負極上で還元されたリチウムと反応し、C-Li結合を形成する。さらに、図3に示される様に、このLi原子と、隣接した分子のP=O結合の酸素原子との静電的作用により、緻密で安定な被膜が負極上に形成される。一旦被膜が形成されて負極表面が覆われると、それ以降は図2に示される様な反応は起こらず、被膜形成はストップする。電解液と負極の間に前記被膜が形成されることで、電解液と負極表面との直接接触を防ぐことが可能となり、サイクル中の電解質の分解反応を抑制することが出来る。また、ハイドロフルオロエーテルを含有することにより、上記効果を奏したまま、電解液の粘性率が低下し、電極内の細孔内部まで電解液を浸透させることが可能となる。
【0063】
化合物(A)は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。化合物(A)の電解液中に占める割合は、該電解液に用いる全溶媒量を100体積%としたとき、5体積%以上70体積%以下であることが好ましい。5体積%を下回ると、負極上での安定な被膜形成を十分に行うことが出来ず、70体積%を上回ると、相対的に揮発性の低いイオン液体の割合が少なくなり、高温下におかれると、揮発性によるセル膨れなどの問題が生じる。また同様に、相対的に粘性率の低いハイドロフルオロエーテルの割合が少なくなり、電極内の細孔内部まで電解液を浸透させる効果が得られなくなる。
【0064】
(その他の溶媒)
本発明の電解液は、該電解液が相分離しない範囲内であれば、前記リチウム塩、前記イオン液体、前記ハイドロフルオロエーテル、前記化合物(A)以外にその他の溶媒が含まれていてもよい。その他の溶媒としては、たとえば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、メチル-n-プロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート、エチル-n-プロピルカーボネート、エチルイソプロピルカーボネート、ジ-n-プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、3-フルオロプロピルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、4-クロロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、ビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等の炭酸エステル、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等のカルボン酸エステル、γ-ブチロラクトン等の環状エステル、プロパンサルトン等の環状スルホン酸エステル、スルホン酸アルキルエステル等が挙げられる。前記その他の溶媒の含有量は、該電解液に用いる全溶媒量を100体積%としたとき、10体積%以下であることが好ましく、5体積%以下であることがより好ましい。
【0065】
(その他の成分)
また、本発明の電解液は、機能を向上させるために、必要に応じて他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、たとえば、従来公知の過充電防止剤、脱水剤、脱酸剤、高温保存後の容量維持特性を改善するための特性改善助剤が挙げられる。
【0066】
過充電防止剤としては、たとえば、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t-ブチルベンゼン、t-アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2-フルオロビフェニル、o-シクロヘキシルフルオロベンゼン、p-シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4-ジフルオロアニソール、2,5-ジフルオロアニソールおよび2,6-ジフルオロアニオール等の含フッ素アニソール化合物が挙げられる。過充電防止剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。電解液が過充電防止剤を含有する場合、電解液中の過充電防止剤の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましい。電解液に過充電防止剤を0.1質量%以上含有させることにより、過充電による二次電池の破裂・発火を抑制することがさらに容易になり、二次電池をより安定に使用できる。
【0067】
脱水剤としては、たとえば、モレキュラーシーブス、芒硝、硫酸マグネシウム、水素化カルシウム、水素化カリウム、水素化ナトリウム、水素化リチウムアルミニウム、塩化カルシウム、金属ナトリウム等が挙げられる。本発明の電解液に用いる溶媒は、前記脱水剤で脱水を行った後に精留を行ったものを使用することが好ましい。また、精留を行わずに前記脱水剤による脱水のみを行った溶媒を使用してもよい。
【0068】
特性改善助剤としては、たとえば、フルオロエチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、エリスリタンカーボネート、スピロ-ビス-ジメチレンカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、フェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;エチレンサルファイト、1,3-プロパンスルトン、1,4-ブタンスルトン、メタンスルホン酸メチル、ブスルファン、スルホラン、スルホレン、ジメチルスルホン、ジフェニルスルホン、メチルフェニルスルホン、ジブチルジスルフィド、ジシクロヘキシルジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、N,N-ジメチルメタンスルホンアミド、N,N-ジエチルメタンスルホンアミド等の含硫黄化合物;1-メチル-2-ピロリジノン、1-メチル-2-ピペリドン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチルスクシイミド等の含窒素化合物;ヘプタン、オクタン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物が挙げられる。これら特性改善助剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。電解液が特性改善助剤を含有する場合、電解液中の特性改善助剤の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましい。
【0069】
また、本発明の電解液は、実用上充分な電導度を得る点から、電導度が0.25S・m-1以上であることが好ましい。また、回転型粘度計により測定した粘度(20℃)は、0.1~200cPであることが好ましい。
【0070】
「正極」
(正極活物質層)
正極活物質層24は、正極活物質、正極用バインダー、及び、必要に応じた量の正極用導電助剤から主に構成されるものである。
【0071】
(正極活物質)
正極活物質層24に用いる正極活物質は、リチウムイオンの吸蔵及び放出、リチウムイオンの脱離及び挿入(インターカレーション)、又は、リチウムイオンとリチウムイオンのカウンターアニオン(例えば、PF )とのドープ及び脱ドープを可逆的に進行させることが可能な電極活物質を用いることができる。
【0072】
例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、リチウムマンガンスピネル(LiMn)、及び、一般式:LiNiCoMn(x+y+z+a=1、0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦a≦1、MはAl、Mg、Nb、Ti、Cu、Zn、Crより選ばれる1種類以上の元素)で表される複合金属酸化物、リチウムバナジウム化合物(LiV)、オリビン型LiMPO(ただし、Mは、Co、Ni、Mn、Fe、Mg、Nb、Ti、Al、Zrより選ばれる1種類以上の元素又はVOを示す)、チタン酸リチウム(LiTi12)、LiNiCoAl(0.9<x+y+z<1.1)等の複合金属酸化物が挙げられる。
【0073】
正極活物質層24における正極活物質の構成比率は、質量比で80%以上90%以下であることが好ましい。また正極活物質層24における導電助剤の構成比率は、質量比で0.5%以上10%以下であることが好ましく、正極活物質層24におけるバインダーの構成比率は、質量比で0.5%以上10%以下であることが好ましい。
【0074】
(正極バインダー)
バインダーは、活物質同士を結合すると共に、活物質と正極集電体22とを結合する。バインダーは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PESU)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂が挙げられる。
【0075】
また、上記の他に、バインダーとして、例えば、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFPTFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムを用いてもよい。
【0076】
また、バインダーとして電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダーが導電助剤の機能も発揮するので導電助剤を添加しなくてもよい。イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等の高分子化合物にリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。
【0077】
(正極集電体)
正極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0078】
(正極用導電助剤)
正極用導電助剤は、正極活物質層24の導電性を良好にするものであれば特に限定されず、公知の導電助剤を使用できる。例えば、黒鉛、カーボンブラック等の炭素系材料や、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。
【0079】
「負極」
(負極活物質層)
負極は、負極活物質層を有する。負極活物質層は、負極活物質を有し、必要に応じて負極バインダーと負極用導電助剤とをさらに有する。
【0080】
(負極活物質)
負極活物質はリチウムイオンを吸蔵・放出可能な化合物であればよく、公知のリチウム二次電池用の負極活物質を使用できる。負極活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、アルミニウム、シリコン、スズ等のリチウムと化合することのできる金属、SiO(0<x<2)、二酸化スズ等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)等を含む粒子が挙げられる。
【0081】
(負極集電体)
負極集電体32は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
【0082】
(負極用導電助剤)
負極用導電助剤としては、例えば、カーボンブラック類等のカーボン粉末、カーボンナノチューブ、炭素材料、銅、ニッケル、ステンレス、鉄等の金属微粉、炭素材料及び金属微粉の混合物、ITO等の導電性酸化物が挙げられる。
【0083】
(負極バインダー)
負極に用いるバインダーは正極と同様のものを使用できる。またこの他に、バインダーとして、例えば、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等を用いてもよい。
【0084】
負極活物質層34中の負極活物質、導電助剤及びバインダーの含有量は特に限定されない。負極活物質層34における負極活物質26の構成比率は、質量比で70%以上98%以下であることが好ましい。また負極活物質層34における導電助剤の構成比率は、質量比で1%以上20%以下であることが好ましく、負極活物質層34におけるバインダーの構成比率は、質量比で1%以上10%以下であることが好ましい。
【0085】
負極活物質とバインダーの含有量を上記範囲とすることにより、得られた負極活物質層34において、バインダーの量が少なすぎて強固な負極活物質層を形成できなくなる傾向を抑制できる。また、電気容量に寄与しないバインダーの量が多くなり、十分な体積エネルギー密度を得ることが困難となる傾向も抑制できる。
【0086】
「セパレータ」
セパレータ10は、電気絶縁性の多孔質構造から形成されていればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0087】
「ケース」
ケース50は、その内部に積層体40及び電解液を密封するものである。ケース50は、電解液の外部への漏出や、外部からのリチウム二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。
【0088】
例えば、ケース50として、図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミ箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
【0089】
「リード」
リード60、62は、アルミ等の導電材料から形成されている。リード60、62を正極集電体22、負極集電体32にそれぞれ溶接し、正極20の正極活物質層24と負極30の負極活物質層34との間にセパレータ10を挟んだ状態で、電解液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールする。
【0090】
[二次電池の製造方法]
本実施形態にかかるリチウム二次電池100の製造方法について説明する。
【0091】
まず正極活物質、バインダー及び溶媒を混合する。必要に応じ導電助剤を更に加えても良い。溶媒としては例えば、水、N-メチル-2-ピロリドン等を用いることができる。正極活物質、導電助剤、バインダーの構成比率は、質量比で80wt%~98wt%:0.1wt%~10wt%:0.1wt%~10wt%であることが好ましい。これらの質量比は、全体で100wt%となるように調整される。
【0092】
塗料を構成する成分の混合方法は特に制限されず混合順序もまた特に制限されない。上記塗料を、正極集電体22に塗布する。塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。負極についても、同様に負極集電体32上に塗料を塗布する。
【0093】
続いて、正極集電体22及び負極集電体32上に塗布された塗料中の溶媒を除去する。除去方法は特に限定されない。例えば、塗料が塗布された正極集電体22及び負極集電体32を、80℃~150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
【0094】
そして、このようにして正極活物質層24、負極活物質層34が形成された電極を必要に応じ、ロールプレス装置等によりプレス処理を行う。ロールプレスの線圧は用いる材料によって異なるが、正極活物質層24の密度が所定の値となるように調整する。正極活物質層24の密度と線圧との関係は、正極活物質層24を構成する材料比率との関係を踏まえた事前検討により求めることができる。
【0095】
次いで、正極活物質層24を有する正極20と、負極活物質層34を有する負極30と、正極と負極との間に介在するセパレータ10と、電解液と、をケース50内に封入する。
【0096】
例えば、正極20と、負極30と、セパレータ10とを積層し、予め作製した袋状のケース50に、積層体40を入れる。
【0097】
最後に本実施態様の電解液をケース50内に注入し、ケース50を真空封止することにより、リチウム二次電池が作製される。なお、ケースに電解液を注入するのではなく、積層体40を電解液に含浸させてもよい。正極活物質層24は所定の密度に調整されているため、電解液は正極活物質層24内に形成される空隙内に充分含浸する。
【0098】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
【実施例
【0099】
以下に示す手順により、実施例1~88および比較例1~8の二次電池用電解液を作製し、その電解液を用いる二次電池を作製した。充放電サイクルなどの評価を行った。なお、実施例1~88に用いた化合物について、表2~5に示した。具体的には、化学式(1)で表される化合物(A)としては、化合物No.と、化学式(1)のX、Y、Z、R、R、Rにそれぞれ該当する構造式を記載した。
【0100】
【化15】
【0101】
(式中、X、Y、Zはそれぞれ酸素原子またはCH基であり、X、Y、Zが同時に酸素原子になることは無い。X、Y、Zのいずれかが酸素原子の時、その酸素原子に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルキレンアルコキシ基である。X、Y、ZのいずれかがCH基の時、そのCH基に結合するR、R、Rは、それぞれ独立して水素原子又は置換もしくは無置換の炭素数1~4のアルキル基、アルコキシ基、アルキレンアルコキシ基である。)
【0102】
また、比較例1~8に用いた化合物について、表3および表5に示した。具体的には、化学式(1)で表される化合物(A’)としては、化合物No.と、化学式(1)のX、Y、Z、R、R、Rにそれぞれ該当する構造式を記載した。
【0103】
(式中、X、Y、Zはいずれも酸素原子であり、R、R、Rのいずれもメチル基もしくはCFCH基、もしくは、RはCHOCHCH基、R、Rはメチル基である。)
【0104】
また、実施例1~41、実施例76~88および比較例1~3、7,8で用いたイオン液体としては、表1にNo.I-1~I-9で示した。具体的な構造を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
「二次電池のサイクル特性の評価方法」
<充放電評価>
二次電池のサイクル特性の評価を、以下に示す方法により行う。作製したラミネートセル型二次電池を用いて充放電評価を行った。25℃において、0.1Cに相当する定電流で4.2Vまで充電し、0.1Cに相当する定電流で3Vまで放電することで行った。1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目、200サイクル目の放電容量の割合を求め、「100サイクル後の容量維持率」、「200サイクル後の容量維持率」とした。
【0107】
「電解液のイオン導電率の測定」
交流インピーダンスメータを用い、温度20度における10kHz時のイオン導電率を測定した。結果を表2~5に示す。
【0108】
「二次電池電解液と評価用二次電池の作製と評価」
(実施例1)
<電解液の作製>
イオン液体No.I-1と、化合物No.A-1を体積比70:30で混合し、リチウム塩であるLiN(SOF)を2.0mol/Lの濃度で混合して電解液を作製した。
【0109】
<電極の作製>
正極活物質としてNCA(組成式:Li1.0Ni0.78Co0.19Al0.03)、導電材としてカーボンブラック、バインダーとしてPVDFを準備した。これらを溶媒中で混合し、塗料を作製し、アルミ箔からなる正極集電体上に塗布した。正極活物質と導電材とバインダーの質量比は、95:2:3とした。塗布後に、溶媒は除去した。その後正極活物質層の密度が3.0g/cmになるようにプレスして正極シートを作製した。これから、直径12mmφの負極を作製した。
【0110】
負極活物質としての人造黒鉛と、負極用結着剤としてのスチレンブタジエンゴムとを95:5(人造黒鉛:スチレンブタジエンゴム)の質量比で混合し、CMC(カルボキシメチルセルロース)を1wt%水に溶解したものを溶媒として、負極スラリーを作製した。負極スラリーを厚さ10μmの銅箔からなる正極集電体上に均一に塗布した後に乾燥した。これから、直径13mmφの負極を作製した。
【0111】
<評価用二次電池の作製>
上記で作製した直径12mmφの正極および直径13mmφの負極と、それらの間にポリプロピレンセパレータを挟んでラミネートケースに入れ、このケースに、上記で調整した電解液を注入した後、真空シールし、評価用のラミネートセル型リチウムイオン二次電池を作製した。
<二次電池のサイクル特性の評価>
前述の評価方法を用いて、サイクル特性の評価を行った。評価結果を表2~5に示す。
【0112】
(実施例2~15)
化合物No.A-2~A-15をそれぞれ用いる以外は、実施例1と同様に、実施例2~15の電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。それぞれの結果を表2に示す。
【0113】
(実施例16)
イオン液体にNo.I-3を用いること以外は、実施例1と同様に電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表2に示す。
【0114】
(実施例17~30)
化合物No.A-2~A-15をそれぞれ用いる以外は、実施例16と同様に、実施例17~30の電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例16と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。夫々の結果を表2、3に示す。
【0115】
(実施例31~33)
イオン液体にNo.I-2、I-4、I-5をそれぞれ用いること以外は、実施例1と同様に電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表3に示す。
【0116】
(実施例34~37)
イオン液体にNo.I-2~I-5をそれぞれ用いること以外は、実施例9と同様に電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表3に示す。
【0117】
(実施例38~41)
イオン液体にNo.I-6~I-9をそれぞれ用いること以外は、実施例15と同様に電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表3に示す。
【0118】
(実施例42)
化合物No.A-1とハイドロフルオロエーテルとして1,1,2,2-テトラフルオロメチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルを体積比65:35で混合し、リチウム塩であるLiN(SOF)を1.7mol/Lの濃度で混合して電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表4に示す。
【0119】
(実施例43~64)
ハイドロフルオロエーテルとして2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、ジフルオロメチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカンフルオロ-3-メトキシ-4-(トリフルオロメチル)ペンタン、エチル-1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロイソブチルエーテル、エチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル、メチル1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル、メチル2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、メチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチル1,1,2,2,3,3,3-オクタフルオロプロピルエーテル、メチル1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチルエーテル、エチル1,1,2,2,3,3,4,4,4-ノナフルオロブチルエーテル、ジフルオロメチル2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、ジフルオロメチル2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、メチル1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルエーテル、メチル1,1,3,3,3-ペンタフルオロ-2-トリフルオロメチルプロピルエーテル、ジフルオロメチル2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル1,1,2,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテルをそれぞれ用いる以外は、実施例42と同様に、実施例43~64の電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例42と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。それぞれの結果を表4,5に示す。
【0120】
(実施例65~75)
化合物No.A-2~A-12をそれぞれ用いる以外は、実施例42と同様に、実施例65~75の電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例42と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。夫々の結果を表4、5に示す。
【0121】
(実施例76)
イオン液体にNo.I-1と化合物No.A-1、ハイドロフルオロエーテルとして1,1,2,2-テトラフルオロメチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルを体積比47:7:46で混合し、リチウム塩であるLiN(SOF)を1.7mol/Lの濃度で混合して電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0122】
(実施例77~84)
イオン液体にNo.I-2~I-9をそれぞれ用いること以外は、実施例76と同様に、実施例77~84の電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例76と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0123】
(実施例85)
化合物No.A-2とハイドロフルオロエーテルとして2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテルを用いること以外は、実施例78と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例78と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0124】
(実施例86)
化合物No.A-7とハイドロフルオロエーテルとしてジフルオロメチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルを用いること以外は、実施例78と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例78と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0125】
(実施例87)
化合物No.A-9とハイドロフルオロエーテルとしてジフルオロメチル2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロブチルエーテルを用いること以外は、実施例78と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例78と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0126】
(実施例88)
化合物No.A-12とハイドロフルオロエーテルとしてメチル1,1,3,3,3-ペンタフルオロ-2-トリフルオロメチルプロピルエーテルを用いること以外は、実施例78と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例78と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0127】
(比較例1~3)
化合物No.A’-1~化合物No.A’-3をそれぞれ用いる以外は、実施例1と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例1と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。それぞれの結果を表3に示す。
【0128】
(比較例4)
化合物No.A’-1を用いる以外は、実施例42と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例42と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0129】
(比較例5)
化合物No.A’-2を用いる以外は、実施例64と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例64と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0130】
(比較例6)
化合物No.A’-3を用いる以外は、実施例42と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例42と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0131】
(比較例7)
化合物Aを含まないこと以外は実施例78と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例78と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0132】
(比較例8)
化合物No.A’-3を用いる以外は実施例78と同様に、電解液を作製し、評価用のリチウムイオン二次電池を作製した。実施例78と同様の方法で、得られたリチウムイオン二次電池を評価した。結果を表5に示す。
【0133】
表2、3に、実施例1~41および比較例1~3を、表4、5に、実施例42~88および比較例4~8の二次電池のサイクル特性の評価結果をまとめた。表2~5に示すように、本発明の化合物(A)を含む電解液を備える実施例1~88の二次電池は、比較例1~8の二次電池よりもサイクル特性に優れる。
【0134】
【表2】
【0135】
【表3】
【0136】
【表4】
【0137】
【表5】
【符号の説明】
【0138】
10…セパレータ、20…正極、22…正極集電体、24…正極活物質層、30…負極、32…負極集電体、34…負極活物質層、40…積層体、50…ケース、60,62…リード、100…リチウム二次電池。
図1
図2
図3