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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】通信用電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 11/00 20060101AFI20220125BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20220125BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
H01B11/00 G
H01B11/00 J
H01B7/00 310
H01B7/18 D
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020519876
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2019019199
(87)【国際公開番号】W WO2019221152
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2020-10-29
(31)【優先権主張番号】P 2018096195
(32)【優先日】2018-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 崇樹
(72)【発明者】
【氏名】田口 欣司
(72)【発明者】
【氏名】清水 亨
(72)【発明者】
【氏名】岡野 聡
【審査官】石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-190016(JP,U)
【文献】特開2001-035270(JP,A)
【文献】特開2012-243502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 11/00
H01B 7/00
H01B 7/02
H01B 7/04
H01B 7/08
H01B 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する1対の絶縁電線が並列に配置された信号線と、
前記信号線の外周を被覆するシールド体と、
前記シールド体の外周を被覆するシースと、
高張力繊維と、を有し、
前記1対の絶縁電線が並べられた方向を横方向、前記横方向に交差する方向を縦方向として、
前記高張力繊維は、前記信号線の前記横方向の外側に、前記信号線の軸線方向に沿って配置されており、
前記高張力繊維が、前記横方向への前記信号線の屈曲を、前記縦方向への前記信号線の屈曲に比べて規制する、屈曲規制部材となる、通信用電線。
【請求項2】
前記高張力繊維は、アラミド系材料よりなる、請求項に記載の通信用電線。
【請求項3】
前記高張力繊維は、前記シールド体に被覆された領域の外側に配置される、請求項または請求項に記載の通信用電線。
【請求項4】
前記高張力繊維は、前記信号線の前記横方向の両側に配置される、請求項から請求項のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項5】
導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する1対の絶縁電線が並列に配置された信号線と、
前記信号線の外周を被覆するシールド体と、
前記シールド体の外周を被覆するシースと、
樹脂板と、を有し、
前記1対の絶縁電線が並べられた方向を横方向、前記横方向に交差する方向を縦方向として、
前記樹脂板は、前記信号線の前記縦方向の外側に、前記信号線の軸線方向に板面を沿わせて配置されており、
前記樹脂板が、前記横方向への前記信号線の屈曲を、前記縦方向への前記信号線の屈曲に比べて規制する、屈曲規制部材となる、通信用電線。
【請求項6】
前記樹脂板は、ポリオレフィンまたは塩化ビニルよりなる、請求項に記載の通信用電線。
【請求項7】
前記樹脂板の前記横方向に沿った幅が、前記信号線の前記横方向の寸法以上となっている、請求項または請求項に記載の通信用電線。
【請求項8】
前記シールド体は、前記信号線を1本のみ囲んで、前記信号線の外周を被覆し、
前記シースは、前記信号線を1本のみ囲んで、前記シールド体の外周を被覆し、
前記シースは、前記横方向に沿って長い、扁平な外形を有しており、
前記信号線の前記横方向の外側に、前記縦方向の外側よりも厚く配置された前記シースの構成材が、前記横方向への前記信号線の屈曲を、前記縦方向への前記信号線の屈曲に比べて規制する、第二の屈曲規制部材となる、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の通信用電線。
【請求項9】
前記シースの断面の外形は、楕円形である、請求項に記載の通信用電線。
【請求項10】
対をなす前記絶縁電線の前記絶縁被覆が、一体に形成されている、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の通信用電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、通信用電線に関する。
【背景技術】
【0002】
高速通信の分野において、ツイナックス電線やシールデッド・パラレル・ペア(Shielded Parallel Pair;SPP)電線と称される通信用電線を用いた差動伝送方式での信号伝送が利用されている。従来一般のこの種の通信用電線の構造の一例を、図8に示す。通信用電線9は、1対の絶縁電線91,91が並列に配置された信号線90を有している。そして、信号線90の外周に、金属テープ等のフィルム状シールド92と編組シールド93が積層されたシールド体が配置されている。さらにそのシールド体の外周に絶縁性樹脂よりなるシース94が配置されている。
【0003】
近年、上記のような1対の絶縁電線が並列に配置された信号線を有する通信用電線を、自動車等の車両に用いることが検討されている。車両に通信用電線を用いる際には、狭い空間や複雑な経路への配策等の要請から、通信用電線に曲げを加える必要が生じる場合が多い。
【0004】
通信用電線において、信号線に屈曲が加えられると、伝送特性に屈曲による影響が生じる場合があり、そのような屈曲による影響を抑制するための方策が提唱されている。例えば、特許文献1に、シールドテープを備えたドレインワイヤ付きツイナックスケーブルにおいて、2本の絶縁電線とドレインワイヤの相対配置を規定することで、屈曲状態における対内伝搬遅延時間差を小さくすることが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-210919号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、通信用電線において、屈曲を受けた際の伝送特性への影響を抑えることは、車両内の空間等、曲げが加えられる条件で通信用電線を使用する際に、重要である。しかし、屈曲を受けた際の影響を抑制することに加え、そもそも、無理な屈曲による負荷が、信号線に加えられないようにすることも、重要である。屈曲によって、大きな負荷が信号線に印加されると、伝送特性に影響が生じるだけでなく、信号線の寿命の低下にもつながる。
【0007】
図8に示すような、絶縁電線91,91が並列に配置された信号線90を有する通信用電線9においては、絶縁電線91,91が並べられた方向を横方向a、その横方向aに直交する方向を縦方向bとした場合に、通信用電線9を、軸線方向の中途部で、縦方向bに曲げる際には、信号線90に大きな負荷を印加しなくても、縦方向bに屈曲させることができる。一方、通信用電線9を、軸線方向の中途部で、横方向aに曲げる際には、信号線90を横方向aに屈曲させようとすると、信号線90に大きな負荷が印加されることになる。
【0008】
1対の絶縁電線が並列に配置された信号線を有する通信用電線において、横方向への屈曲によって信号線に印加される負荷を低減することができる通信用電線を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示にかかる通信用電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する1対の絶縁電線が並列に配置された信号線と、前記信号線の外周を被覆するシールド体と、前記シールド体の外周を被覆するシースと、前記1対の絶縁電線が並べられた方向である横方向への前記信号線の屈曲を、前記横方向に交差する縦方向への前記信号線の屈曲に比べて規制する、屈曲規制部材と、を有するものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示にかかる通信用電線は、信号線の横方向への屈曲を、縦方向への屈曲に比べて規制する屈曲規制部材を有している。通信用電線が屈曲規制部材を有し、信号線の横方向への屈曲が規制されることにより、横方向への屈曲による信号線への大きな負荷の印加を、回避しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本開示の第一の実施形態にかかる通信用電線を示す断面斜視図である。
図2図2は、上記通信用電線の断面を示す図であり、図2Aは捩りを加えられていない状態を示している。図2Bは捩りを加えられた状態を示しており、図3BのA-A断面に相当する。
図3図3は、上記通信用電線の曲げを説明する図であり、図3Aは曲げを加える前の状態、図3Bは曲げを加えた後の状態を示している。
図4図4は、複数の信号線を並べた変形形態にかかる通信用電線の断面を示す図であり、図4Aはシールド体としてフィルム状シールドのみを用いる形態、図4Bはシールド体として編組シールドとフィルム状シールドを用いる形態を示している。
図5図5は、1対の絶縁電線の絶縁被覆を一体化した変形形態にかかる通信用電線の断面を示す図である。
図6図6は、本開示の第二の実施形態にかかる通信用電線を示す断面図である。
図7図7は、本開示の第三の実施形態にかかる通信用電線を示す断面図である。
図8図8は、従来一般の通信用電線を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本開示の実施形態の説明>
最初に、本開示の実施形態を列挙して説明する。
【0013】
本開示の通信用電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する1対の絶縁電線が並列に配置された信号線と、前記信号線の外周を被覆するシールド体と、前記シールド体の外周を被覆するシースと、前記1対の絶縁電線が並べられた方向である横方向への前記信号線の屈曲を、前記横方向に交差する縦方向への前記信号線の屈曲に比べて規制する、屈曲規制部材と、を有するものである。
【0014】
上記通信用電線は、信号線の横方向への屈曲を、縦方向への屈曲に比べて規制する屈曲規制部材を有している。信号線は、横方向に配列された1対の絶縁電線よりなっており、縦方向に屈曲を受けた際の負荷よりも、横方向に屈曲を受けた際の負荷が大きくなりやすい。しかし、通信用電線が屈曲規制部材を有し、信号線の横方向への屈曲が規制されることにより、横方向への屈曲による信号線への大きな負荷の印加を、回避しやすくなる。
【0015】
通信用電線に、横方向に曲げようとする外力が印加された際に、屈曲規制部材が、信号線の横方向への屈曲を規制することにより、その外力は、通信用電線の捻りとして吸収される。あるいは、信号電線を、横方向ではなく縦方向に屈曲させるように、屈曲規制部材が、曲げの方向を誘導する。このように、屈曲規制部材の存在により、通信用電線を、車両内の空間等において、曲げを要する用途に用いた場合に、信号線に横方向への屈曲による大きな負荷が印加されるのを回避しながら、通信用電線全体として、曲げを加えることが可能となる。
【0016】
ここで、前記信号線の前記横方向の外側にのみ配置された、または前記信号線の前記横方向の外側に、前記縦方向の外側よりも厚く配置された、前記信号線の軸線方向に可撓性を有する部材が、前記屈曲規制部材となるとよい。この場合には、信号線の横方向の外側に、厚い部材が配置されていることにより、その部材が、横方向への通信用電線の屈曲を妨げることになる。一方、縦方向には、そのような部材が配置されていないか、配置されていても、その厚さが小さくなっているので、縦方向への屈曲は、妨げられにくい。このように、可撓性部材が信号線の外周に不均等に配置されることにより、横方向への信号線の屈曲が、効果的に規制される。
【0017】
この場合に、前記シースは、前記横方向に沿って長い、扁平な外形を有しており、前記信号線の前記横方向の外側に、前記縦方向の外側よりも厚く配置された前記シースの構成材が、前記屈曲規制部材となるとよい。すると、シースを押出し等によって形成する際に、肉厚を縦方向と横方向で不均等にし、シースを扁平形状に形成することで、効果的に横方向への信号線の屈曲を規制する屈曲規制部材が、簡便に形成される。
【0018】
さらに、前記通信用電線は、前記横方向に並べられた複数の前記信号線を有し、前記シースは、前記複数の信号線の集合体を一括して被覆しているとよい。すると、1対のみの信号線の外周をシースで被覆する場合と比較して、通信用電線の断面形状の扁平度が高くなる。よって、横方向への信号線の屈曲が、高度に規制される。
【0019】
また、前記シースの構成材は、前記複数の信号線の集合体の外側に当たる外周部と、前記複数の信号線の相互間に当たる中間部と、に連続して配置され、前記外周部および前記中間部の厚さの合計として、前記信号線の前記横方向の外側に、前記縦方向の外側よりも厚く配置されているとよい。すると、外周部および中間部として各信号線の横方向の外側に配置されるシースの厚さの合計と、縦方向の外側に配置するシースの厚さとの間に、大きな差が設けられやすくなる。よって、通信用電線の断面形状の扁平度が高くなることの効果と合わせて、横方向への信号線の屈曲が、一層高度に規制される。
【0020】
あるいは、前記信号線の前記横方向の外側に、前記信号線の軸線方向に沿って配置された高張力繊維が、前記屈曲規制部材となるとよい。すると、高張力繊維の存在により、横方向への通信用電線の屈曲が妨げられる。よって、横方向への信号線の屈曲が、高張力繊維によって、効果的に規制される。
【0021】
また、前記信号線の外側に配置された、前記横方向の寸法が前記縦方向の寸法よりも大きく、前記シースよりも高い剛性を有する部材が、前記屈曲規制部材となるとよい。すると、屈曲規制部材が、縦方向には比較的曲がりやすい一方、横方向には曲がりにくくなっているため、信号線の横方向への屈曲が、効果的に規制される。
【0022】
この場合に、前記信号線の縦方向の外側に、前記信号線の軸線方向に板面を沿わせて配置された樹脂板が、前記屈曲規制部材となるとよい。すると、樹脂板は、板面内での折り曲げに相当する横方向への屈曲を起こしにくい一方、板厚方向への撓みに相当する縦方向への屈曲は比較的起こしやすいので、信号線の横方向への屈曲を強力に規制しながら、縦方向への屈曲の容易性も確保しやすい。また、横方向の寸法が長い屈曲規制部材が、信号線の縦方向の外側に配置されることで、横方向外側等に配置される場合よりも、通信用電線全体の大径化が抑えられ、また、信号線の平衡度が高められる。
【0023】
上記それぞれの場合に、対をなす前記絶縁電線の前記絶縁被覆が、一体に形成されているとよい。すると、対をなす絶縁電線を構成する導体の間に、絶縁被覆の構成材が、連続体として充填されることになり、その構成材も、屈曲規制部材に加えて、信号線の横方向への屈曲を規制する役割を果たす。その結果、信号線の横方向への屈曲の規制が、補助される。
【0024】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、図面を用いて本開示の実施形態にかかる通信用電線について詳細に説明する。本明細書において、「略平行」「略円形」等、構成部材の形状にかかる概念は、厳密な平行、円形等、幾何的に厳密な形状に限られず、通信用電線において許容される範囲のずれを含むものとする。
【0025】
[通信用電線の構成の概略]
以下では、複数の実施形態にかかる通信用電線について説明するが、まず、それらの実施形態に共通する構成の概略について、図1,2に示す第一の実施形態にかかる通信用電線1を例に、説明する。
【0026】
通信用電線1(または1A~1D;以下この節において同じ)は、1対の絶縁電線11,11よりなる信号線10を有している。そして、信号線10の外周を被覆するシールド体20,30と、シールド体20,30の外周を被覆するシース40を有している。
【0027】
信号線を構成する各絶縁電線11は、導体12と、導体12の外周を被覆する絶縁被覆13を有している。導体12は、柔軟性の観点から、撚線よりなることが好ましい。信号線10において、1対の絶縁電線11,11は、並列に配置されており、軸線方向を略平行に揃えて相互に接触した、パラレルペア線として形成されている。信号線10は、差動モード信号を伝達することができる。
【0028】
信号線10の外周を被覆するシールド体は、フィルム状シールド20および編組シールド30の少なくとも一方よりなっている。フィルム状シールド20は、金属膜を有するフィルム状の材料であり、金属テープ等、金属膜を高分子シート等よりなる基材と複合した複合材よりなっている。あるいは、フィルム状シールド20は、単独の金属膜(金属箔)よりなってもよい。編組シールド30は、細い金属素線を、編み込んで中空筒状に成形したものである。なお、編組シールド30の代わりに、横巻シールドが配置されてもよい。横巻シールドは、金属細線を信号線10の外周に螺旋状に巻き回したものよりなる。
【0029】
フィルム状シールド20および編組シールド30は、シールド体として、信号線10に対して、外部からのノイズの侵入および外部へのノイズの放出を遮蔽する役割を果たす。信号線10が、撚り合わせ構造を有さないパラレルペア線として形成されていることにより、撚り合わせ構造を有する場合よりも、外部からの同相モードのノイズの影響を受けやすいが、シールド体20,30を用いることで、外部からのノイズの影響を低減することができる。フィルム状シールド20と編組シールド30の両方が積層して配置されることで、特に効果的にノイズを低減することができる。この場合に、フィルム状シールド20と編組シールド30の積層順は限定されないが、図1,2に示すように、フィルム状シールド20が内側、編組シールド30が外側に配置されることで、フィルム状シールド20による伝送特性向上の効果が高く得られるとともに、編組シールド30の編み目にシース40を構成する樹脂材料が入り込み、シールド体20,30とシース40の間の密着性が高められる。フィルム状シールド20または編組シールド30の一方のみで十分なシールド性が確保される場合等には、いずれか一方のみがシールド体として用いられてもよい。なお、編組シールド30が設けられず、フィルム状シールド20のみが設けられる場合には、接地用に、フィルム状シールド20に囲まれた領域の中に、ドレイン線25が設けられ、ドレイン線25とフィルム状シールド20の間に、導通が確保されるようにしておけばよい(図4A参照)。
【0030】
シース(ジャケット)40は、樹脂材料を含む絶縁性材料よりなり、シールド体20,30の外周を被覆している。シース40は、信号線10およびシールド体20,30を物理的に保護する役割や、水等との接触による通信用電線1の特性への影響を抑制する役割を果たす。
【0031】
本開示の実施形態にかかる通信用電線1は、上記で説明した各部材に加え、屈曲規制部材を有している。信号線10において、1対の絶縁電線11,11が並列に並べられている方向を横方向aとし、その横方向aに交差(直交)する方向を縦方向bとして、屈曲規制部材は、信号線10の横方向aへの屈曲を、縦方向bへの屈曲に比べて規制する役割を果たす。つまり、信号線10を軸線方向の中途部で屈曲させようとして、同じ力が信号線10に印加された際に、屈曲規制部材が、信号線10の横方向aへの屈曲を、縦方向bへの屈曲に比べて起こりにくくする役割を果たす。
【0032】
屈曲規制部材は、上記のような役割を果たすものであれば、具体的な構成は限定されず、以下に説明する各実施形態にかかる通信用電線は、異なる形態の屈曲規制部材を有している。代表的な屈曲規制部材の形態として、以下のようなものを例示することができる。
<形態A>屈曲規制部材が、信号線10の横方向aの外側にのみ配置された、または信号線10の横方向aの外側に、縦方向bの外側よりも厚く配置された、信号線10の軸線方向に可撓性を有する部材よりなる形態。
<形態B>屈曲規制部材が、信号線10の縦方向bの外側に配置された、横方向aの寸法が縦方向bの寸法よりも大きく、シース40よりも高い剛性を有する部材よりなる形態。
【0033】
上記のうち、形態Aにおいては、屈曲規制部材が、信号線10の軸線方向に可撓性を有しており、屈曲規制部材を構成する材料自体としては、縦方向bおよび横方向aの両方への屈曲が可能であるが、配置における信号線10との位置関係により、信号線10の屈曲方向を規制する機能を発揮する。つまり、屈曲規制部材の構成材が、信号線10の横方向aの外側に厚く配置されていることにより、その構成材が、信号線10の横方向aへの屈曲を、縦方向bへの屈曲に比べて、妨げやすくなる。一方、形態Bにおいては、屈曲規制部材が、シース40よりも高い剛性を有することで、縦方向bおよび横方向aの両方への信号線10の屈曲を抑制するものとなるが、縦方向bに薄い形状を有している。よって、屈曲の抑制の程度が、縦方向bへの屈曲において、横方向aへの屈曲よりも小さくなっており、相対的に、横方向aへの屈曲を妨げるものとなる。
【0034】
本開示の実施形態にかかる通信用電線1は、パラレルペア線よりなる信号線10を備え、さらに、その信号線10の外周にシールド体20,30を有することにより、1GHz以上のような高周波帯域での差動信号の伝送に、好適に用いることができる。しかし、信号線10に、屈曲による負荷が加えられると、屈曲による影響が、伝送特性に及ぼされる可能性がある。さらには、屈曲による負荷に起因して、通信用電線1の寿命が低下する可能性がある。信号線10は、1対の絶縁電線11,11が横に並んで配列された構造を有することにより、屈曲によって印加される負荷の大きさに、異方性を有する。つまり、信号線10が軸線方向の中途部で屈曲される際に、縦方向bに屈曲される場合には、信号線10にそれほど大きな負荷が印加されないが、横方向aに屈曲される場合には、信号線10に大きな負荷が印加される。
【0035】
本開示の実施形態にかかる通信用電線1は、上記のような屈曲規制部材を有することにより、図8に示すような屈曲規制部材を有さない従来一般の通信用電線9よりも、信号線10の横方向aへの屈曲を起こしにくい。そのため、信号線10に屈曲によって印加される負荷が低減され、結果として、屈曲による負荷に起因する伝送特性への影響が抑制され、また信号線10の屈曲寿命が向上される。
【0036】
以下、各種の屈曲規制部材を有する通信用電線の実施形態について説明する。各実施形態において、対応する部材は、共通の符号にて表示する。各種の屈曲規制部材は、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
[第一の実施形態:シースが扁平形状を有する場合]
図1,2に、本開示の第一の実施形態にかかる通信用電線1の構成を示す。また、図3に、その通信用電線1を曲げる際の状態を示す。
【0038】
本実施形態にかかる通信用電線1は、上記で説明したように、1対の絶縁電線11,11が並列に配置された信号線10と、信号線10の外周を被覆するフィルム状シールド20と編組シールド30よりなるシールド体と、シールド体20,30の外周を被覆するシース40と、を有している。ここでは、シース40が扁平形状を有しており、その扁平形状の効果により、シース40自体が、上記形態Aの屈曲規制部材として機能する。
【0039】
具体的には、シース40は、横方向aに長い扁平な外形を有している。つまり、図2Aに示すように、シース40の断面の外形において、横方向aの最大寸法が、縦方向bの最大寸法よりも大きくなっている。図示した形態では、シース40の断面の外形は、楕円形となっている。そして、シース40の構成材が、信号線10の横方向aの外側に、縦方向bの外側よりも厚く配置されている。つまり、横方向aにおけるシース40の肉厚の最大値t1が、縦方向bにおけるシース40の肉厚の最大値t2よりも大きくなっている(t1>t2)。
【0040】
図8のように、従来一般の通信用電線9においては、シース94の断面の外形が、略円形となっている。信号線90が、横に1対の絶縁電線91,91を並べた横長の形状を有していることにより、フィルム状シールド92および編組シールド93で信号線90を被覆した集合体の外形も、横長の扁平形状を有している。このような扁平形状の外周に、断面略円形のシース94を配置していることにより、シース94の肉厚が、横方向aにおいて、縦方向bよりも薄くなっている。このように、信号線90の横方向aの外側に存在するシース94の肉厚が薄いことにより、シース94は、信号線90の横方向aへの屈曲を妨げにくい。上記のように、信号線90が横方向aに屈曲されると、縦方向bに屈曲される場合よりも、信号線90に大きな負荷が印加されることになる。
【0041】
上記の通信用電線9に対し、本実施形態にかかる通信用電線1においては、シース40が、扁平な外形を有し、縦方向bよりも横方向aの方が肉厚に形成されていることにより、信号線10の横方向aへの屈曲を、縦方向bへの屈曲に比べて規制することができる。通信用電線1全体を、縦方向bに屈曲させる場合には、薄いシース材を曲げ変形させるだけで済み、また、シース40の曲げ変形量も小さくて済むのに対し、横方向aに屈曲させる場合には、厚いシース材を曲げ変形させる必要があるうえ、曲げの内側に位置するシース材を圧縮し、外側に位置するシース材を伸ばす曲げ変形の量も、大きくなるからである。
【0042】
このように扁平なシース40を有する通信用電線1を、図3Aに示すように、軸線方向の中途部において、横方向aに曲げることを考える。このような曲げは、例えば、通信用電線1の一端を、軸線方向に対して横方向aに存在する機器に接続する場合等の配策経路において、形成される。通信用電線1に横方向aの曲げを加えるためには、通信用電線1の図面手前側の部位を固定した状態で、曲げを加えたい箇所を挟んで反対側の図面奥側の部位に、横方向aと軸線方向を含む面内(曲げ面内)で、横方向a(図面右方向)へ向かう力を印加する。
【0043】
この際、上記のように、横方向aに厚く形成された扁平形状のシース40の構成材が屈曲規制部材として作用することで、信号線10および通信用電線1全体が、そのまま曲げ面内で横方向aに屈曲するのが、妨げられる。つまり、1対の絶縁電線11,11が並んだ方向を曲げ面内に維持したまま、横方向aに屈曲するのが、妨げられる。すると、図3Bに斜視図を、図2BにA-A断面図を示すように、通信用電線1が、軸線方向の周りに回転し、捩れる(運動r)。この捩れに伴い、図3中に仮想的なガイド線Gで示すように、通信用電線1の軸線方向が、面外にも曲がることになる。そして、曲げを加えた部位を挟んで、手前側の領域A1と奥側の領域A2の間で、通信用電線1の断面の方向が約90°回転した状態となる。つまり、手前側の領域A1では、1対の絶縁電線11,11が横方向aに並んだ状態に維持されているのに対し、奥側の領域A2では、1対の絶縁電線11,11が縦方向bに並んだ状態となっている。
【0044】
このように、通信用電線1全体に対して印加された、曲げ方向面内で横方向aに向かう力が、通信用電線1全体の捩れによって吸収される。その結果、シース40に囲まれた領域の中に存在する信号線10に対して印加される、信号線10を横方向aに屈曲させようとする力が低減され、信号線10が曲げ方向面内で横方向aに屈曲される事態が回避される。信号線10は、主に、横方向aへの屈曲ではなく、縦方向bへの屈曲を伴う捩れによって、通信用電線1の全体形状としての曲げに追随することになる。信号線10の横方向aへの屈曲が規制されることにより、信号線10に屈曲によって大きな負荷が印加されるのが回避され、そのような屈曲による負荷に起因した伝送特性への影響や、寿命の低下が抑制される。
【0045】
シース40の構成材は、特に限定されるものではないが、ある程度柔軟性の低い材料よりなる方が、信号線10の横方向aへの屈曲を妨げる効果に優れる。例えば、少なくとも横方向aの肉厚t1が、絶縁被覆13の肉厚よりも厚く形成されていることが好ましい。
【0046】
本実施形態においては、シールド体20,30や信号線10の保護等の目的で従来から通信用電線に設けられるシース40が、屈曲規制部材としての役割を兼ねており、簡素な構成で、通信用電線1に屈曲規制部材が導入されている。また、樹脂組成物の押出し成形等によってシース40を形成する際に、シース40の肉厚を、横方向t1と縦方向t2で不均等に設定するだけで、屈曲規制部材を簡便に形成することができる。
【0047】
本実施形態の変形例として、図4Aに示すように、複数の信号線10を、扁平なシース40で一括して被覆した通信用電線1Aを挙げることができる。ここでは、信号線10とドレイン線25がフィルム状シールド20で被覆された集合体が2組、横方向aに並べられている。そして、それら2組の集合体の外周が、連続したシース40により、一括して被覆されている。シース40は、横方向aに長い扁平な外形を有しており、2対の信号線10の集合体の外側に当たる外周部41,41に加え、2対の信号線10の相互の間の位置に当たる中間部42に配置されている。外周部41,41および中間部42に配置されたシース40の構成材は、全て連続している。そして、外周部41,41および中間部42の厚さの合計としての、信号線10の横方向aの外側に配置されたシース40の構成材の厚さ(t3+t3+t4)が、縦方向bの厚さ(t5+t5)よりも大きくなっている。
【0048】
このように、複数の信号線10が、扁平なシース40で被覆されることで、図1~3に示したように、1対のみの信号線10の外周がシース40で被覆される場合よりも、シース40の扁平度が高くなり、シース40が一層横長となる。その結果、シース40の扁平形状によって信号線10の横方向aへの屈曲を規制する効果が、一層高められる。また、各信号線10の横方向aへの屈曲の規制が、外周部41,41に配置されたシース材のみならず、中間部42に配置されたシース材によってももたらされる。よって、信号線10の横方向aに配置され、信号線の横方向への屈曲を妨げる効果を有するシース40の肉厚が、外周部41,41と中間部42の合計で規定されることになる。すると、縦方向bの肉厚との比としての横方向aの肉厚が、1対の信号線10のみの外周をシース40で被覆する場合よりも、大きくなり、横方向aへの信号線10の屈曲を規制する効果が高くなる。ただし、外周部41,41のみの肉厚(t3)単独でも、縦方向bの肉厚(t5)よりも大きくなっていれば、横方向aへの信号線10の屈曲が、さらに強力に規制される。
【0049】
図4Aの通信用電線1Aにおいては、シールド体として、各信号線10の外周を個別に被覆するフィルム状シールド20のみが配置されているが、図4Bに示す通信用電線1A’のように、さらに、編組シールド30が配置されてもよい。この場合には、信号電線10の外周がフィルム状シールド20で被覆された集合体2組が横方向aに並べられ、それら2組の集合体の外周を一括して、編組シールド30が被覆し、さらにその編組シールド30の外周を一括して、シース40が被覆するように構成すればよい。ドレイン線25は設ける必要がない。
【0050】
この場合には、信号線10の横方向aの外側(外周部41,41)に配置されたシース40の構成材の厚さ(t3’)が、縦方向bの厚さ(t5’)よりも大きくなっている。この形態の通信用電線1A’においても、図4Aの通信用電線1Aの場合と同様に、シース40の扁平形状によって信号線10の横方向aへの屈曲を規制する高い効果が得られる。図4Aの通信用電線1Aとは異なり、中間部42に相当する位置には、シース材が配置されないので、中間部42のシース材によって横方向aへの屈曲を規制する効果は得られないが、ドレイン線25を有さないことにより、構成の簡素性においては、本形態の方が優れている。
【0051】
別の変形例として、図5に示すように、1対の絶縁電線を構成する絶縁被覆13’が、一体に形成された形態の通信用電線1Bを挙げることができる。つまり、2本の導体12,12が、図1~3のように1本ずつ独立した絶縁被覆13に被覆されているのではなく、一体に連続した絶縁被覆13’によって被覆されている。このように絶縁被覆13’が一体に形成されることで、横方向aに並んだ1対の導体12,12の間の領域の全体が、絶縁被覆13’の構成材によって占められることになる。
【0052】
このような形態においては、2本の導体12,12の間の領域を横方向aに連続して占める絶縁被覆材13’も、信号線10を横方向aに屈曲しにくくする効果を有している。つまり、絶縁被覆材13’は、扁平形状を有するシース40の屈曲規制部材としての機能を補助するものとなり、本実施形態にかかる形態をはじめ、種々の形態の屈曲規制部材と組み合わせることで、通信用電線全体として、横方向aへの信号線10の屈曲を抑制する効果を高めることができる。
【0053】
[第二の実施形態:高張力繊維を用いる形態]
図6に、本開示の第二の実施形態にかかる通信用電線1Cの構成を示す。
【0054】
本実施形態にかかる通信用電線1Cにおいては、信号線10の外周が編組シールド30によって被覆された集合体の横方向aの外側に、その集合体に隣接して、信号線10の軸線方向に沿わせて、高張力繊維よりなる介在紐50が配置されている。つまり、信号線10の横方向aの両側の外側に、編組シールド30を介して、介在紐50,50が配置されている。この介在紐50が、上記形態Aにかかる屈曲規制部材として機能する。介在紐50は、アラミド系材料等の高張力繊維よりなる長尺状の可撓性を有する部材であり、各種の公知の電線において、シースの内側に配置されるのと同様の介在紐を用いることができる。
【0055】
さらに、通信用電線1Cにおいては、信号線10と編組シールド30、そして両側の介在紐50,50よりなる集合体の外周が、シース40によって被覆されている。ここでは、シース40は、断面略円形の外形を有している。
【0056】
信号線10の横方向aの外側に介在紐50が配置されていることにより、通信用電線1Cを、軸線方向の中途部で、横方向aに曲げようとすると、信号線10だけでなく、介在紐50も一緒に、横方向aに屈曲させる必要がある。すると、介在紐50が設けられていない場合と比較して、同じ力を曲げ方向面内で印加しても、通信用電線1Cに横方向aの屈曲を加えるのが難しくなる。また、通信用電線1Cの横方向aへの曲げに伴い、曲げの外側に位置する介在紐50に、特に大きな張力が印加される。介在紐50は、シース40とは異なり、張力を印加された際に伸長しないので、この張力が、通信用電線1Cの横方向aへの屈曲を解消させる方向に作用する。
【0057】
このように、介在紐50の存在が、通信用電線1C全体および信号線10の、横方向aへの屈曲を妨げる一方、通信用電線1C全体および信号線10の縦方向bへの屈曲には、大きな影響を与えない。よって、信号線10の横方向aの外側に配置された介在紐50が、縦方向bへの屈曲に比べて、横方向aへの屈曲を規制する屈曲規制部材として機能する。作業者が通信用電線1Cに曲げを加えようとした際に、屈曲規制部材としての介在紐50が、横方向aへの屈曲を妨げることにより、横方向aではなく、縦方向bに信号線10を屈曲させるように促し、曲げの方向を誘導する役割を果たす。
【0058】
介在紐50は、信号線10の横方向aの片側にのみ配置されても、ある程度は、屈曲規制部材としての効果を発揮するが、信号線10の横方向aの両側への屈曲を効果的に妨げる観点から、図6のように、信号線10の横方向aの両側に配置されることが好ましい。なお、介在紐50は、信号線10の縦方向bの外側にも配置されてもよいが、その場合には、介在紐50に占められる領域の厚さが、信号線10の横方向aにおいて、縦方向bよりも厚くなっている必要がある。
【0059】
また、図6に示した形態では、介在紐50が、編組シールド30に被覆された領域の外側に配置されているが、シールド体の内側に介在紐50が配置される形態としてもよい。ただし、図6のように、編組シールド30に被覆された領域の外側に介在紐50が配置される場合の方が、信号線10からの距離の遠さにより、信号線10の横方向aへの屈曲を妨げる効果を、大きく発揮することができる。また、信号線10の平衡度を高く維持しやすい。一方、介在紐50がシールド体の内側に配置される場合には、信号線10を構成する絶縁電線11の間の電磁的結合が増大し、スキューの低減および耐ノイズ性の向上にも高い効果を有する。また、通信用電線1Cの製造工程において、介在紐の配置を簡便に行うことができる。
【0060】
[第三の実施形態:樹脂板を用いる形態]
図7に、本開示の第三の実施形態にかかる通信用電線1Dの構成を示す。
【0061】
本実施形態にかかる通信用電線1Dにおいては、信号線10の縦方向bの外側に、信号線10の軸線方向に板面を沿わせて、樹脂板60が配置されている。樹脂板60は、シース40の構成材よりも高い剛性を有しており、シース40よりも、各方向への曲げ変形を起こしにくくなっている。この樹脂板60が、上記形態Bにかかる屈曲規制部材として機能する。
【0062】
通信用電線1Dにおいては、信号線10の外周が編組シールド30に被覆されている。そして、信号線10の縦方向bの両側の、編組シールド30の外側の位置に、樹脂板60が配置されている。つまり、2枚の樹脂板60,60の間に、信号線10を編組シールド30で被覆した集合体が、挟み込まれた状態となっている。そして、その信号線10、編組シールド30、樹脂板60,60を含む集合体の外周が、シース40によって被覆されている。ここでも、シース40は、断面略円形の外形を有している。
【0063】
樹脂板60は、厚み方向には、撓ませるようにして、比較的容易に曲げることができるが、厚み方向に交差する面内方向には、容易に折り曲げることができない。つまり、図7に示すように、信号線10の軸線方向に板面を沿わせ、厚み方向を縦方向bに向けて樹脂板60を配置した状態で、樹脂板60は、縦方向bには比較的容易に曲げることができるが、横方向aには容易に曲げることができない。
【0064】
通信用電線1Dに、シース40よりも剛性の高い樹脂板60が設けられることで、樹脂板60が設けられない場合と比較して、横方向aおよび縦方向bの両方への屈曲が妨げられる。しかし、上記のような樹脂板60の曲げの容易性の異方性により、屈曲が妨げられる程度が、横方向aへの屈曲において、縦方向bへの屈曲よりも大きくなる。このようにして、通信用電線1Dおよび信号線10の横方向aへの屈曲が、縦方向bへの屈曲に比べて規制され、樹脂板60が、屈曲規制部材として機能する。作業者が通信用電線1Dに曲げを加えようとした際に、屈曲規制部材としての樹脂板60が、横方向aへの屈曲を縦方向bの屈曲よりも強力に妨げることにより、横方向aではなく、縦方向bに信号線10を屈曲させるように促し、曲げの方向を誘導する役割を果たす。
【0065】
樹脂板60に限らず、シース40の構成材よりも高い剛性を有する材料よりなり、横方向aの寸法(幅)が縦方向bの寸法(厚み)よりも大きく形成された板状の部材であれば、樹脂板60と同様の形態Bにかかる屈曲規制部材として用いることができる。ただし、縦方向bへの曲げも全く行えないような材料であると、通信用電線1Dをいずれの方向にも曲げることができなくなるので、ある程度の柔軟性を有する材料よりなることが好ましい。この観点から、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル等よりなる樹脂板60を用いることが好ましい。
【0066】
また、そのような板状の屈曲規制部材は、信号線10の縦方向bの外側に限られず、信号線10の外側の任意の位置に配置されてもよいが、信号線10を過度に大径化させない観点、また信号線10の平衡度を高める観点から、上記の形態のように、信号線10の縦方向bの外側に配置されることが好ましい。また、信号線10の縦方向bの外側に配置されることで、板状部材50の幅を大きく取りやすい。板状部材50の幅が大きい方が、横方向aへの信号線10の屈曲を制限する効果に優れる。好ましくは、板状部材の幅が、信号線10の横方向aの寸法以上となっていることが好ましい。また、板状部材は、信号線10の縦方向bの片側にのみ設けられてもよいが、両側に設けられることで、横方向aの屈曲を規制する効果が高くなる。
【0067】
本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1,1A~1D,1A’ 通信用電線
10 信号線
11 絶縁電線
12 導体
13,13’ 絶縁被覆
20 フィルム状シールド
25 ドレイン線
30 編組シールド
40 シース
41 外周部
42 中間部
50 介在紐(高張力繊維)
60 樹脂板
9 従来一般の通信用電線
90 信号線
91 絶縁電線
92 フィルム状シールド
93 編組シールド
94 シース
a 横方向
b 縦方向
r 通信用電線の回転運動
t1 横方向におけるシースの肉厚の最大値
t2 縦方向におけるシースの肉厚の最大値
t3、t3’ 信号線の外周部の横方向におけるシースの肉厚
t4 2対の信号線の間に配置されたシースの構成材の肉厚
t5、t5’ 縦方向におけるシースの肉厚
A1 手前側の領域
A2 奥側の領域
G ガイド線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8