(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】磁性体粒子操作デバイス
(51)【国際特許分類】
C12M 1/32 20060101AFI20220125BHJP
G01N 1/34 20060101ALI20220125BHJP
B01J 19/08 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C12M1/32
G01N1/34
B01J19/08 D
(21)【出願番号】P 2020561173
(86)(22)【出願日】2019-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2019039772
(87)【国際公開番号】W WO2020129365
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2018237051
(32)【優先日】2018-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100205981
【氏名又は名称】野口 大輔
(72)【発明者】
【氏名】藤原 勢矢
(72)【発明者】
【氏名】叶井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】軸屋 博之
(72)【発明者】
【氏名】大橋 鉄雄
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-126693(JP,A)
【文献】国際公開第2018/147130(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/185908(WO,A1)
【文献】特表昭58-501985(JP,A)
【文献】特開平11-292123(JP,A)
【文献】国際公開第2016/121102(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/001629(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/086243(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3220518(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00、26-32
G01N 1/28-40、35/02
B01L 3/00
B03C 1/00
B65D 47/36-38
B01J 19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状容器内における一方の端部に溶出液層をもち、前記溶出液層との間にゲル層を挟んで処理液層が配置されている磁性体粒子操作デバイスであって、
前記管状容器の前記溶出液層側の端部に、前記管状容器の主要部分の外径よりも大きい内径を有するフランジ部が設けられ、前記フランジ部の底面中央部に開口が設けられ、前記開口が尖端部をもつ吸入器具により穿孔可能な膜によって封止されている、磁性体粒子操作デバイス。
【請求項2】
管状容器内における一方の端部に溶出液層をもち、前記溶出液層との間にゲル層を挟んで処理液層が配置されている磁性体粒子操作デバイスであって、
前記管状容器の前記溶出液層を囲っている側壁に尖端部をもつ吸入器具により穿孔可能な膜からなる穿孔可能部が設けられている、磁性体粒子操作デバイス。
【請求項3】
前記穿孔可能部の外側周囲に、前記吸入器具によって穿孔された前記穿孔可能部から流出した溶出液を受ける液受け部が設けられている、請求項
2に記載の磁性体粒子操作デバイス。
【請求項4】
前記
膜の材質はアルミニウムである、請求項1
から3のいずれか一項に記載の磁性体粒子操作デバイス。
【請求項5】
前記管状容器内は密閉された空間となっている、請求項1
から4のいずれか一項に記載の磁性体粒子操作デバイス。
【請求項6】
管状容器内における一方の端部に溶出液層をもち、前記溶出液層との間にゲル層を挟んで処理液層が配置されている磁性体粒子操作デバイスから前記溶出液層の溶出液を取り出す方法であって、
前記磁性体粒子操作デバイスの前記管状容器の前記溶出液層側の端部に、前記管状容器の主要部分の外径よりも大きい内径を有するフランジ部が設けられ、前記フランジ部の底面中央部に開口が設けられ、前記開口が尖端部をもつ吸入器具により穿孔可能な膜によって封止されており、
前記方法は、
磁性体粒子操作デバイスの前記管状容器の前記溶出液層側を上方に向けるステップと、
前記向けるステップの後、前記吸入器具の前記尖端部によって前記膜を穿孔するステップと、
前記穿孔ステップの後、前記溶出液層の前記溶出液を前記吸入器具で吸入するステップと、を備えている方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性体粒子を用いて核酸等の抽出といった処理を行なうための磁性体粒子操作デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
核酸等の目的成分を吸着させた磁性体粒子をデバイス内に収容し、デバイスの外部から磁性体粒子に対して磁場を作用させて磁性体粒子をデバイス内で移動させることで、目的成分の抽出といった処理を行なうことが提案され、実施もなされている。
【0003】
上記の処理を行なうための磁性体粒子操作デバイス(以下、単にデバイスともいう)は、チューブ状の容器内に洗浄液等からなる処理液層とゲル層とが容器の長手方向に交互に配置されたものである(特許文献1、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2012/086243A1
【文献】WO2012/176598A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁性体粒子操作デバイスにおいて、目的成分を吸着させた磁性体粒子を含む試料層はデバイスの一方の端部に配置される。デバイスの試料層の外部に磁力源を配置して試料中の磁性体粒子を磁場によって収集する。これにより、目的成分が吸着した磁性体粒子は、磁力源の動作に追随してデバイス内を移動するようになる。
【0006】
目的成分が吸着した磁性体粒子は、磁力源をデバイスの他端側へゆっくりと移動させることによってゲル層を通過させることができる。処理液層が洗浄液からなるものである場合、処理液層において磁力源をデバイスの長手方向へ素早く往復運動させると、磁性体粒子が磁力源の動作に追随することができずに洗浄液中に分散する。この動作により、目的成分に付着していた夾雑成分が処理液層において洗い落とされる。
【0007】
上記の処理が終了した後、磁性体粒子をデバイスの他方の端部に配置された溶出液層まで移動させ、溶出液層にて目的成分を磁性体粒子から遊離させる。この後、溶出液層に抽出された目的成分はデバイスから取り出されるが、これまでのデバイスでは溶出液を簡便に取り出すことができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、処理済みの目的成分を含む溶出液を簡便に取り出せる磁性体粒子操作デバイスを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、管状容器内における一方の端部に溶出液層をもち、前記溶出液層との間にゲル層を挟んで処理液層が配置されている磁性体粒子操作デバイスであって、前記溶出液層を収容する壁面に、尖端部をもつ吸入器具により穿孔可能な穿孔可能部が設けられているものである。ここで、尖端部をもつ吸入器具とは、ピペッタや注射器などである。
【0010】
本発明において、前記穿孔可能部は前記管状容器の端面を封止する壁面であってよい。その場合、前記穿孔可能部は、前記管状容器の開口端面を前記吸入器具によって穿孔可能な材質からなる膜で封止することによって形成することができ、製造が容易である。
【0011】
さらに、前記穿孔可能部の外側周囲に、前記吸入器具によって穿孔された前記穿孔可能部から流出した溶出液を受ける液受け部が設けられていることが好ましい。そうすれば、前記管状容器の前記端面から吸入器具を挿入した際に当該端面から溢れ出す溶出液がこぼれるのを防止することができる。
【0012】
前記穿孔可能部の材質としては、例えばアルミニウムを挙げることができる。
【0013】
また、前記管状容器の内部は密閉空間となっていてもよい。そうすれば、吸入器具を管状容器内の溶出液に対してアクセスさせる際に、管状容器内の液が漏れ出しにくくなり、溶出液に対する吸入器具のアクセスが容易になる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る磁性体粒子操作デバイスは、溶出液層を収容する壁面に、尖端部をもつ吸入器具により穿孔可能な穿孔可能部が設けられているので、ピペッタや注射器などの吸入器具で穿孔可能部を穿孔することによってデバイス内の端部に配置された溶出液に対して外部から容易にアクセスすることができ、溶出液をデバイスから簡便に取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】磁性体粒子操作デバイスの一実施例を示す断面図である。
【
図2】同実施例の溶出液側端部の構造を示す断面図である。
【
図3】同実施例において吸入器具により溶出液を取り出す際の様子を示す断面図である。
【
図4】磁性体粒子操作デバイスの溶出液側端部の変形例を示す断面図である。
【
図5】同変形例において吸入器具により溶出液を取り出す際の様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る磁性体粒子操作デバイスの実施形態について説明する。
【0017】
図1に示されているように、この実施例の磁性体粒子操作デバイスは、管状容器2内に管状容器2の長手方向に沿って溶出液層4と処理液層8とが互いの間にゲル層6を挟んで配置されたものである。管状容器2内の第1端側(図において下端側)に溶出液層4が配置され、その溶出液層4とはゲル層6を挟んで処理液層8が配置されている。この実施例では、2つの処理液層8が互いの間にゲル層6を挟んで配置されている。
【0018】
管状容器2の第2端側部分(図において上端側部分)は他の部分よりも外径及び内径の大きい中空円筒部となっており、その端面がキャップ18により閉じられている。管状容器2の端面の縁とキャップ18との間に樹脂製のパッキン20が挟み込まれていることによって管状容器2の第2端は気密を保って密閉されており、それによって管状容器2の内部は密閉空間となっている。管状容器2の第2端側部分の内部には試料層10が配置されている。試料層10は処理液層8との間にゲル層6を挟んで設けられている。
【0019】
溶出液は、緩衝液(トリス緩衝液、リン酸緩衝液、蒸留水など)であってよい。処理液の主成分は、アルコールなどの有機溶剤であってよく、具体例ではエタノールである。処理液には、塩類、界面活性剤などが含まれていてよい。ゲルは、上下の液層を構成する材料に対して不溶性で化学的に不活性な物質であれば任意の材料であってよいが、例えば炭化水素系材料であってよく、具体例では、プラスチベースにミネラルオイルを一定量添加したものである。
【0020】
管状容器2の第2端側部分に配置される試料層10は、核酸などの目的成分を吸着させた磁性体粒子を含むものであり、その磁性体粒子を当該デバイスの外部の磁力源(例えば、永久磁石)によって操作することで、目的成分に対する所定の処理を行なうことができる。磁力源を当該デバイスの外側で試料層10に近接させると、磁性体粒子が磁力源の動作に追随するようになる。この状態で、磁力源を管状デバイス2の長手方向に沿って各処理液層8へ移動させ、各処理液層8にて所定の動作を行なわせた後、最終的に溶出液層4まで移動させる。
【0021】
各処理液層8では、磁力源を管状容器2の長手方向へ高速で往復動作させるといった目的成分に対する所定の処理がなされる。各処理液層8を構成する処理液としては、目的成分から夾雑成分を洗い落とすための洗浄液が挙げられる。各処理液層8にて所定の処理がなされた目的成分は溶出液層4に移行させられ、溶出液層4にて磁性体粒子から離脱させられる。すなわち、所定の処理がなされた目的成分は溶出液層4に抽出される。
【0022】
図2は管状容器2の第1端が上方を向いた状態を示している。
図2に示されているように、管状容器2の第1端側の端面には、管状容器2の第2端側部分を除く主要部分の外径よりも大きい内径を有し、管状容器2の第1端側(
図2において上側)が開口したフランジ部14が設けられている。フランジ部14の底面中央部に開口2aが設けられており、その開口2aが膜16によって封止されている。膜16は、注射針などの尖端部材によって穿孔可能な材質からなるものであり、フランジ部14の底面を覆うように管状容器2に接着されている。開口2aを封止している膜16は、溶出液層4を収容する壁面の一部をなすとともに、尖端部を有するピペッタや注射器などの注入器具によって穿孔可能な穿孔可能部12となっている。穿孔可能部12をなす膜16としては、アルミニウム薄膜のほか、樹脂フィルムなどを用いることができる。
【0023】
溶出液層4を収容する壁面の一部が穿孔可能部12となっているため、
図3に示されているように、抽出された目的成分を含む溶出液層4に対して吸入器具を直接的にアクセスさせることができ、溶出液を吸入によって簡便に取り出すことができる。なお、管状容器2の第2端側の端面はキャップ18及びパッキン20によって密閉されているため、
図3ように管状容器2の第1端が上方を向くように配置しても、管状容器2内の液が第2端側から漏れ出すことはない。
【0024】
吸入器具によって穿孔可能部12を穿孔する際、吸入器具によって穿孔された穿孔可能部12から流出した溶出液をフランジ14によって受けることができ、溶出液がこぼれることを防止できる。すなわち、フランジ部14は、吸入器具を穿孔可能部12からから管状容器2内に挿入したときに管状容器2内から押し出されて穿孔可能部12から流出した溶出液を受ける液受け部をなしている。
【0025】
また、
図4に示されているように、溶出液層4に対して吸入器具を直接的にアクセスさせるための穿孔可能部12’を、溶出液層4が配置されている管状容器2の一端部の側面に設けることもできる。この変形例では、管状容器2の一端部の側面に開口2aが設けられており、その開口が膜16’によって封止されて穿孔可能部12’が形成されている。膜16’は、上記実施例の膜16と同様、尖端部を有するピペッタや注射器などの注入器具によって穿孔可能な材質からなるものである。
【0026】
上記のように、管状容器2の一端部の側面に穿孔可能部12’を設けても、
図5に示されているように、吸入器具を溶出液層4に対して直接的にアクセスさせることができ、溶出液を吸入によって簡便に取り出すことができる。この場合、
図4及び
図5に示されているように、管状容器2の一端部に、管状容器2の他端側(
図4及び
図5において上側)が開口したフランジ部14’を設けることで、吸入器具によって穿孔可能部12’を穿孔する際に穿孔可能部12’から流出した溶出液を受けるための液受け部としてフランジ部14’を利用することができる。
【0027】
以上のように、磁性体粒子操作デバイスは、所定の処理がなされた目的成分を含む溶出液層4に対して吸入器具により直接的にアクセスすることができるので、磁力源による磁性体粒子の操作から溶出液の取出しまでの一連の動作を、人手を介することなく全自動で行なうことも可能となる。
【符号の説明】
【0028】
2 管状容器
2a,2a’
4 溶出液層
6 ゲル層
8 処理液層
10 試料層
12,12’ 穿孔可能部
14,14’ フランジ部
16,16’ 膜