(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】水性ヒートシール剤、紙容器用紙基材、紙容器、及び紙容器の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09J 123/02 20060101AFI20220125BHJP
C09J 133/02 20060101ALI20220125BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20220125BHJP
B32B 1/02 20060101ALI20220125BHJP
B32B 27/10 20060101ALI20220125BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220125BHJP
B32B 29/00 20060101ALI20220125BHJP
B65D 3/22 20060101ALI20220125BHJP
C08K 5/20 20060101ALI20220125BHJP
C08L 23/00 20060101ALI20220125BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C09J123/02
C09J133/02
C09J11/06
B32B1/02
B32B27/10
B32B27/32 Z
B32B29/00
B65D3/22 B
C08K5/20
C08L23/00
C08L91/06
(21)【出願番号】P 2021553859
(86)(22)【出願日】2021-01-14
(86)【国際出願番号】 JP2021000944
(87)【国際公開番号】W WO2021153240
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2020010831
(32)【優先日】2020-01-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】菊池 浩
(72)【発明者】
【氏名】榎本 肇
(72)【発明者】
【氏名】田中 克則
(72)【発明者】
【氏名】越知 衛
【審査官】山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-045313(JP,A)
【文献】米国特許第05336528(US,A)
【文献】特開2000-007860(JP,A)
【文献】特開2001-122238(JP,A)
【文献】特許第6794089(JP,B1)
【文献】特開2007-210639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 1/02、27/10、
27/32、29/00
B65D 3/22
C08K 5/20
C08L 23/00、91/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり該紙基材を丸めて又は多角にして重ね合わせた両端部の貼り合わせ面を溶着した筒状の胴部材(1)と、
少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり前記胴部材(1)の下端へと溶着された板状の底部材(2)とを有する紙容器の製造方法であって、
前記樹脂層が、水性溶剤と、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体とワックスとを含有する水性ヒートシール剤の乾燥塗工膜からなることを特徴とする紙容器の製造方法。
【請求項2】
少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり該紙基材の丸めて又は多角にして重ね合わせた両端部の貼り合わせ面を溶着した筒状の胴部材(1)と、
少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり前記胴部材(1)の下端へと溶着された板状の底部材(2)とを有し、
前記樹脂層が、水性溶剤と、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体とワックスとを含有する水性ヒートシール剤の乾燥塗工膜からなることを特徴とする紙容器。
【請求項3】
水性ヒートシール剤の乾燥塗工膜を有する紙容器用の水性ヒートシール剤であって、
前記紙容器は、少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり該紙基材の丸めて又は多角にして重ね合わせた両端部の貼り合わせ面を溶着した筒状の胴部材(1)と、
少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり前記胴部材(1)の下端へと溶着された板状の底部材(2)とを有し、
前記樹脂層が、水性ヒートシール剤の乾燥塗工膜であり、
該水性ヒートシール剤が、水性溶剤と、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体とワックスとを含有することを特徴とする紙容器用の水性ヒートシール剤。
【請求項4】
前記ワックスが、脂肪酸アミドワックス、カルナバワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、みつろう、マイクロクリスタリンワックス、酸化ポリエチレン-ワックス、アマイドワックスから少なくとも1つ以上選択される請求項
3に記載の紙容器用の水性ヒートシール剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙容器に使用する水性シートシール剤、該水性ヒートシール剤を用いた紙容器用紙基材、紙容器、及び紙容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
古くはアイスクリームの容器として開発された食品向け紙製容器は、その後、自動販売機の普及、コンビニエンスストアやファーストフード店の増加、アウトドアでのレジャーの普及や職場での給茶器の導入等、社会現象や生活環境の変化に伴い、各種飲料用紙カップとして改良を重ね、その需要は飛躍的に急増してきた。
また日本国内では、1970年代よりプラスチック廃棄による公害対策として、紙製容器の利点が見直され、お茶、コーヒー向けの紙カップは、その後、ヨーグルト、プリン、ゼリー等のデザート向けや納豆、総菜等、対象用途を拡大しつつある。
更に近年では、再びマイクロプラスチックを始めとする海洋プラスチックごみ問題がクローズアップされる中で、「再利用可能」「生分解性を有する」などの機能を持つ素材の一つとして、再生可能な資源である「木」を原料とする「紙」への関心が高まってきている。
【0003】
現在広く普及している食品向け紙製容器の1つである紙カップ類は、紙であるものの原料の一部にリサイクル効率を低下させるポリエチレンフィルムが使用されている。通常紙カップは、熱で溶かしたポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等をフィルム状に押し出したポリエチレンフィルムやポリプロピレンフィルム等を紙基材に貼り合わせて得る。ポリエチレンフィルムが紙カップ成型時には、バーナーや熱風等の間接加熱下による熱溶融で接着剤の役目を果たし、且つ、ポリエチレンフィルムが紙カップ内側に存在するので紙基材が直接内容物と接触する事なく防水性や強度が付与される。
しかしながら貼り合わされたポリエチレンフィルムは、紙リサイクル時に紙リサイクル処理で使用するアルカリ溶液に溶解しないため物理的に除去する必要があり、リサイクル効率の低下につながる。またプラスチックごみの海洋への流出による海洋汚染が世界的に問題となっている。持続可能な開発目標(SDGs)のターゲットとして「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」という目標が掲げられ、サミット(主要国首脳会議)でも取り組み強化が合意されるなど世界的な重要テーマとなっています。従って、これらの用途に適用可能で且つ紙リサイクル効率を低下させない、ポリエチレンフィルム代替品が求められている。またプラスチックフィルムを使用しない紙容器が求められている。
【0004】
紙カップ成型時に接着剤の役目を果たすものとして、水性のヒートシール剤が知られている。例えば、特許文献1ではアンモニアまたはアミンで中和されたオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体と、これ以外のオレフィン系熱可塑性樹脂とを特定比率で混合分散したエチレン-系樹脂水性分散液がヒートシール剤として適用できる旨の開示がなされている。
また特許文献2では、不飽和カルボン酸単位、エチレン-系炭化水素、およびアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとから構成されるポリオレフィン樹脂と、天然ワックス、および水性媒体を特定比率で含有する水性分散体がヒートシール剤として適用できる旨の開示がなされている。
しかしこれらの文献には、ヒートシール強度や耐ブロッキング性といったいわゆるヒートシール剤としての性能しか開示されておらず、紙カップに使用されるポリエチレンフィルムの代替して所望されるヒートシール機能とカップ内面コート剤に所望される防水性や強度の両立、及びリサイクル性については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-7860号公報
【文献】特開2006-45313号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、紙カップ等の紙容器に使用されるポリエチレンフィルムの代替して所望されるヒートシール機能とカップ内面コート剤に所望される防水性や強度の両立、及び紙リサイクル時に分別せずにリサイクル可能な水性ヒートシール剤、及び該水性ヒートシール剤を用いた紙容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち本発明は、水性溶剤と、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体とワックスとを含有する水性ヒートシール剤を提供する。
【0008】
また本発明は、紙基材の少なくとも片面に請求項1又は2に記載の水性ヒートシール剤を有する紙容器用紙基材を提供する。
【0009】
また本発明は、紙基材の少なくとも片面に請求項1又は2に記載の水性ヒートシール剤を有する紙容器用紙基材を使用する紙容器を提供する。
【0010】
また本発明は、少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり該紙基材の丸めて重ね合わせた両端部の貼り合わせ面を加熱溶着した筒状の胴部材(1)と、
少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり前記胴部材(1)の下端へと加熱溶着された板状の底部材(2)とを有する紙容器の製造方法であって、
前記樹脂層が、前記記載の水性ヒートシール剤の乾燥塗工膜からなる紙容器の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水性ヒートシール剤は、紙カップ等の紙容器に使用されるポリエチレンフィルムの代替して所望されるヒートシール機能とカップ内面コート剤に所望される防水性や強度が両立でき、且つ紙リサイクル時に分別せずにリサイクル可能である。従って本発明の水性ヒートシール剤は、紙カップ等の紙容器におけるポリエチレンフィルムの代替として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水性ヒートシール剤は、水性溶剤と、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体とワックスとを含有することを特徴とする。
【0013】
(水性溶剤)
本発明で使用する水性溶剤としては、水、水に溶解する水溶性有機溶剤等が使用できる。水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、前記水としては、紫外線照射または過酸化水素添加等によって滅菌された水を用いることが、水性顔料分散体やそれを使用したインク等を長期保存する場合に、カビまたはバクテリアの発生を防止することができるため好適である。
水溶性有機溶剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール類;ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオールなどのジオール類;ラウリン酸プロピレングリコールなどのグリコールエステル;ジエチレングリコールモノエチル、ジエチレングリコールモノブチル、ジエチレングリコールモノヘキシル、カルビトールなどのジエチレングリコールエーテル類;プロピレングリコールエーテル、ジプロピレングリコールエーテル、およびトリエチレングリコールエーテルを含むセロソルブなどのグリコールエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ブチルアルコール、ペンチルアルコールなどのアルコール類;スルホラン、エステル、ケトン、γ-ブチロラクトンなどのラクトン類、N-(2-ヒドロキシエチル)ピロリドンなどのラクタム類、グリセリンおよびそのポリアルキレンオキサイド付加物など、水性有機溶剤として知られる他の各種の溶剤などを挙げることができる。これらの水性有機溶剤は、単独または2種以上組み合わせて使用することができる。中でも水が最も好ましい。
【0014】
(オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体)
本発明で使用するオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体としては、オレフィンと、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩、及び、α,β-不飽和カルボン酸エステルからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーとの共重合体等が挙げられる。具体的には、α,β-不飽和カルボン酸、α,β-不飽和カルボン酸の金属塩又はα,β-不飽和カルボン酸エステルとオレフィンとの共重合体であり、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-メタクリル酸-無水マレイン酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、及びこれらの金属塩等が挙げられる。これらの共重合体は、単独であっても2種以上の混合物であってもよい。
中でも、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体が好ましい。オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体としては、エチレン-とα,β-不飽和カルボン酸のランダム共重合体またはブロック共重合体が挙げられる。
【0015】
前記オレフィンとしては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、4-メチル-1-ペンテン、ブタジエン、ジシクロペンタジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネンなどが挙げられる。中でもエチレンが好ましい。
【0016】
前記α,β-不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸が好適に用いられる。これらのα,β-不飽和カルボン酸は、単独あるいは2種以上混合して用いてもよい。
【0017】
前記α,β-不飽和カルボン酸エステルとしては、特に限定なく公知のアクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、ヒドロキシアルキルエステル、アルコキシアルキルエステル等を使用することができる。例えば具体的にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸nプロピル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸nオクチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-メトキシエチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸nプロピル、メタクリル酸nブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸nへキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸nラウリル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-エトキシエチルなどのメタクリル酸エステルを例示することができる。これらは1種又は2種以上組合せて使用することができる。
【0018】
前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の製造方法としては、公知の方法、例えば高温、高圧下のラジカル共重合により得ることができる。
【0019】
上記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体中のα,β-不飽和カルボン酸の含有量は、8~24重量%、好ましくは18~23重量%であることが望ましい。α,β-不飽和カルボン酸の含有量が8重量%未満の場合、エチレン-単位に由来する非極性な性質のために水系分散媒に対する分散性に劣り、優れたオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体樹脂水性分散液を得ることが難しくなるおそれがある。また、α,β-不飽和カルボン酸の含有量が24重量%を超える場合、得られた皮膜の耐ブロッキング性が悪くなるおそれがある。
【0020】
本発明で使用するオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体は、水性溶剤に分散させた水分散体として使用する。水性溶剤に分散させる方法としては特に限定されず公知の方法で行えばよい。例えば界面活性剤で乳化し水性溶剤中に分散させる方法や、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体を塩基性化合物で中和したのち水性溶剤中に分散させる方法等が挙げられる。
【0021】
前記乳化させる際に使用する界面活性剤としては、公知の各種アニオン性、カチオン性、ノニオン性界面活性剤、もしくは各種水溶性高分子を適宜併用して使用することができる。
【0022】
また前記中和する際に使用する塩基性化合物としては、例えばアンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物が挙げられる。これらの塩基性化合物は単独、あるいは2種以上併用して用いてもよい。
塩基性化合物による中和度は、オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体が水性溶媒中で安定に存在する中和度であればよい。例えば該共重合体のカルボキシル基の30~100モル%であればよく、より好ましくは40~90モル%であることが望ましい。
【0023】
前記分散方法としては、公知の方法、例えばメディアを用いた分散装置として、ペイントシェーカー、ボールミル、アトライター、バスケットミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、スパイクミル、アジテーターミル等を使用することができ、メディアを用いないものとして超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ナノマイザー、デゾルバー、ディスパー、高速インペラー分散機等で分散することができる。
【0024】
本発明で使用するオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水分散体の固形分は特に限定はなく、ヒートシール剤として適用させる際の所望される粘度や、ヒートシール剤適用後の乾燥条件、皮膜の膜厚等により適宜決定すればよい。一般には、固形分濃度が10~40質量%の範囲で適用することが多い。
【0025】
(ワックス)
本発明の水性ヒートシール剤では、ワックスを添加することで耐ブロッキング性を保つ事ができる。前記ワックスとしては、脂肪酸アミドワックス、カルナバワックス、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス、フィッシャー・トロプシュワックス、みつろう、マイクロクリスタリンワックス、酸化ポリエチレン-ワックス、アマイドワックスなどのワックス、ヤシ油脂肪酸や大豆油脂肪酸などを挙げることができる。これらは単独で使用してもよいし併用してもよい。
中でも脂肪酸アミドワックス、カルナバワックス、フィッシャー・トロプシュワックスを使用することが好ましく、特に脂肪酸アミドワックス、カルナバワックスを使用することが好ましい。
脂肪酸アミドワックスの具体例としては、例えば、ペラルゴン酸アミド、カプリン酸アミド、ウンデシル酸アミド、ラウリン酸アミド、トリデシル酸アミド、ミリスチン酸アミド、ペンタデシル酸アミド、パルミチン酸アミド、ヘプタデシル酸アミド、ステアリン酸アミド、ノナデカン酸アミド、アラキン酸アミド、ベヘン酸アミド、リグノセリン酸アミド、オレイン酸アミド、セトレイン酸アミド、リノール酸アミド、リノレン酸アミド、これらの混合物及び動植物油脂脂肪酸アミド等が挙げられる。
【0026】
前記カルナバワックスの具体例としてはMICROKLEAR 418(Micro Powders,Inc.社製)、精製カルナバワックス1号粉末(日本ワックス株式会社)等が挙げられる。
【0027】
前記ワックスの配合量は、ワックス総量が水性ヒートシール剤固形分100質量%全量に対し1.5~20質量%であることが好ましい。ワックス総量が水性ヒートシール剤固形分100%全量に対し3質量%以上であれば耐ブロッキング性を保持できる傾向にあり、ワックス総量が水性ヒートシール剤固形分100%全量に対し15質量%以下であればヒートシール性が保持できる傾向にある。
【0028】
前記ワックスのうち、前記脂肪酸アミドワックスと前記カルナバワックスとを併用すると、耐ブロッキング性が更に向上しより好ましい。併用する場合、その比率には特に限定はないが好ましくは、脂肪酸アミドワックス:前記カルナバワックス=1:1~1:10の範囲が好ましく、1:1~1:5の範囲がなお好ましい。
【0029】
前記ワックスは、前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水分散体に直接添加し混合分散させてもよいし、前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体を水性溶剤に分散させる際に同時に添加し混合分散させてもよい。分散方法は前述の前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水性溶剤への分散方法で使用する方法を適宜用いることができる。
【0030】
また複数種のワックスを併用する際には、複数種のワックスを同時に添加してもよいし、複数の工程に分けて添加してもよい。例えば第一のワックスを前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水性溶剤に分散させる際に加えた後、第二のワックスを、得られた第一のワックスと前記オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体との水性分散液に更に追加する方法で、本発明の水性ヒートシール剤を得ることができる。
【0031】
本発明のヒートシール剤は、本発明の目的を阻害しない範囲において前記成分の他に、シリカ、アルミナ、消泡剤、粘度調整剤、レベリング剤、粘着性付与剤、防腐剤、抗菌剤、防錆剤、酸化防止剤、シリコーンオイル等の添加剤が配合されていてもよい。
また、本発明の水性ヒートシール剤では、各種コーターを使用してコーティングする際に泡立つことを防止するため、ポリマー系消泡剤、シリコン系消泡剤、フッ素系消泡剤が好ましく使用される。これら消泡剤としては乳化分散型及び可溶化型などいずれも使用できる。中でもポリマー系消泡剤が好ましい。前記消泡剤の添加量としては、水性ヒートシール剤全量の0.005重量%~0.1重量%が好ましい。
【0032】
(紙容器)
本発明の水性ヒートシール剤は、紙容器を製造する際のヒートシール剤として使用することができるし、シール(接着)部位以外の塗工部分は、紙に防水性を付与するコート剤として機能する。
本発明の水性ヒートシール剤は、バーナーや熱風で加熱することにより容易に軟化し紙同士または紙と他素材とを接着させることができ、その後冷却することで接着部分が固化し紙同士または紙と他素材とを強固にシールすることができる。
【0033】
本発明の水性ヒートシール剤により接着(シール)可能な素材としては紙、不織布、プラスチック等が挙げられるが、紙が好ましい。本発明で用いる紙としては、木材パルプ等の製紙用天然繊維を用いて公知の抄紙機にて製造されるが、その抄紙条件は特に規定されるものではない。製紙用天然繊維としては、針葉樹パルプ、広葉樹パルプ等の木材パルプ、マニラ麻パルプ、サイザル麻パルプ、亜麻パルプ等の非木材パルプ、およびそれらのパルプに化学変性を施したパルプ等が挙げられる。パルプの種類としては、硫酸塩蒸解法、酸性・中性・アルカリ性亜硫酸塩蒸解法、ソーダ塩蒸解法等による化学パルプ、グランドパルプ、ケミグランドパルプ、サーモメカニカルパルプ等を使用することができる。
【0034】
前記紙基材は、目的に応じ紙の種類、厚み等を逐次選択する事ができる。例えばバーガーラップであれば米坪対応20グラム/m2程度、紙コップであれば米坪対応200~300グラム/m2、紙皿、紙スプーン、紙マドラー等であれば米坪対応50~500グラム/m2のカップ原紙等の食品用原紙が好ましい。これらの用紙は、リサイクル効率やコスト低減の観点から、ポリエチレン-フィルムやアルミ等をラミネートされていない事が好ましい。
【0035】
本発明の水性ヒートシール剤は、紙基材の2つの部位を重ね合わせた状態で接着させる接着剤としての機能を有する。具体的には、紙基材の2つの部位のうち、少なくとも片方の部位(両方の部位であってもよい)に、本発明の水性ヒートシール剤を塗工後、加熱により軟化させる。
【0036】
本発明の水性ヒートシール剤の塗工方法としては公知の方法が使用できる。例えばロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファロールコーター、キスコーター、カーテンコーター、キャストコーター、スプレイコーター、ダイコーター、オフセット印刷機、スクリーン印刷機等を使用できる。また塗工後オーブン等で乾燥工程を設けてもよい。
【0037】
前記加熱方法としては、バーナー等の熱源、熱風、電熱、赤外線、電子線等の従来公知の手段を用いる事ができるが、具体的にはバーナーや熱風で加熱する方法や、成形の形によっては熱溶着シール法や超音波シール法、あるいは高周波シール法が好ましい。この時の加熱温度は200~500℃、加熱時間は0.1~3秒が好ましい。
本発明の水性ヒートシール剤は、ヒートシールバー等の直接熱源と接触させて溶融化させる方法以外に、非接触の加熱であっても容易に加熱軟化し、且つ、熱源から離れてもある程度の時間ヒートシール機能が持続する。基材が紙の場合、直接熱源と接触させると紙が焦げる可能性があるが本発明のヒートシール剤は非接触の加熱でヒートシール機能が発現し且つその機能が持続することから、高速のラインスピードが要求される紙容器の工業生産向けヒートシール剤として特に有用である。
【0038】
本発明の水性ヒートシール剤を塗工後の固形分の膜厚としては所望の膜厚でよく、例えば食品用の紙容器に使用する場合は、2~12g/m2の範囲であれば本発明の効果を十分に得ることができる。中でも5~10g/m2の範囲であることがより好ましい。
【0039】
本発明の水性ヒートシール剤を塗工し該塗工部位を加熱軟化させた後、該塗工部位と、もう1つの部位とを重ね合わせた状態で圧着させる。圧着方法としては特に限定なく、熱板方式、超音波シール、高周波シールの方法で行うことができる。
【0040】
一方、本発明の水性ヒートシール剤を紙用コート剤として使用する場合も、塗工面の塗工後の固形分の膜厚としては所望の膜厚でよく、例えば食品用の紙容器に使用する場合は、2~12g/m2の範囲であれば本発明の効果を十分に得ることができる。中でも5~10g/m2の範囲であることがより好ましい。
【0041】
本発明の水性ヒートシール剤を紙用コート剤として使用する場合は、前述の塗工方法で所望の膜厚となるように塗工した後、加熱乾燥、常温乾燥等の乾燥方法で乾燥させればよい。
【0042】
本発明の水性ヒートシール剤を使用できる紙容器は、紙コップ、カップ麺、各種飲料、アイスクリーム、プリン、ゼリー等のデザート、米菓、ポテトチップス、チョコレート菓子、ビスケット等のスナック菓子、ハンバーガーやホットドックのラップ紙、ピザ等の持ち帰り用容器、から揚げやポテト等のホットスナック用容器、納豆等の総菜を対象とするカップ類を始めとする食品用紙容器に広く使用される。
【0043】
(紙容器の製造方法)
本発明の水性ヒートシール剤を用いて紙容器を製造する具体的態様として、例えば紙カップ様の紙容器の製造方法について具体的に述べる。なお本発明においては本具体的態様に限定されることなくヒートシール可能な紙容器に全て適用可能である。
【0044】
具体的態様として、少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり該紙基材の丸めて重ね合わせた両端部の貼り合わせ面を加熱溶着した筒状の胴部材(1)と、
少なくとも容器内面及び容器を組み立てる際の貼り合わせ面に樹脂層が設けられた紙基材からなり前記胴部材(1)の下端へと加熱溶着された板状の底部材(2)とを有する紙容器の製造方法について述べる。
【0045】
前記筒状の胴部材(1)、前記板状の底部材(2)共に、樹脂層が設けられた紙基材を所望の形状に切り抜いたものであり、該樹脂層に本発明のヒートシール剤を用いる。
まず、紙基材の少なくとも貼り合わせ面、好ましくは全面に本発明のヒートシール剤を塗工する。塗工方法としては前述の塗工方法を適宜用いることができる。塗工後、ヒートシール剤塗工面の水性溶剤を乾燥機等で除去したのち、必要に応じて印刷を施す。印刷はヒートシール剤とは反対側の面に施されることが多い。
【0046】
次に、前記筒状の胴部材(1)は扇状に、前記板状の底部材(2)は円形に切り抜く。
前記扇状に切り抜かれた筒状の胴部材(1)の両端の貼り合わせ面をバーナーや熱風等の熱源で加熱しヒートシール剤を加熱軟化させ、貼り合わせ面同士を重ね合わせ圧着する。加熱、重ね合わせ、圧着の順に特に限定はなく、例えば貼り合わせ面を熱源で加熱した後該面同士を重ね合わせ、その後圧着でもよいし、貼り合わせ面同士を重ね合わせた後熱源で加熱しその後圧着でもよいし、貼り合わせ面同士を重ね合わせた後圧着しながら熱源で加熱してもよい。貼り合わせ面を熱源で加熱した後該面同士を重ね合わせ、その後圧着する方法が、確実にヒートシール剤が加熱軟化するので好ましい。この時の加熱温度は200~500℃、加熱時間は0.1~3秒が好ましい。これにより、ヒートシール剤塗工面が内側となった筒状の胴部材が得られる。前記扇状の紙基材は、ブランカーと呼ばれる扇型に紙基材を打ち抜く機械を用いてよく、紙容器のブランク(胴部)を作製する事ができる。
【0047】
一方、前記円形に切り抜かれた底部材(2)は、前記筒状となった胴部材の内側に、ヒートシール剤塗工面がカップ内側となるように設置後、底部材と胴部材との接触部を熱源で加熱し底部材側と胴部材側のヒートシール剤を前述と同様に加熱軟化し接着させる。この時ヒートシール剤が軟化し底部材と胴部材の隙間と埋めるため、水漏れ等が生じることはない。
【0048】
紙カップの製造においては、この後公知の工程、例えば胴部材の底側の下端を内側に折り込み、回転する円形の型で圧着させ、紙カップ底部を仕上げる方法で紙カップを得ることができる。仕上げの際に必要に応じ胴部材と底部材の連結をより強固にすべく、ヒートシール部分を前述の熱源で加熱させてもよい。最後に、胴部材の上端の飲み口に相当する部分は、必要に応じツールを回転させながら紙カップの外側に巻き込むカーリングと呼ばれる成型処理を行う。
【0049】
前記具体的態様の紙容器は、主に底部材が円板状であるカップ形状の容器であるもののであるが、形状はこれに限定されず、例えば底部材が矩形板状の直方体、多角形あるいは立方体形状の容器であってもよい。また、必要に応じて、別途製造された蓋材等によって容器を密封し、例えば、電子レンジ等で加熱する際には蓋材を外したり、あるいは一部を開封して使用するものであってもよい。
【0050】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0051】
<オレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の製造方法>
(製造例1)
エチレン77.8部、アクリル酸エチル11.1部、アクリル酸11.2部を、定法により合成し、エチレンアクリル酸エチルアクリル酸共重合体を得た。
得られた共重合体の25部と、該共重合体の酸価に対し中和率100%となるアンモニア、及び水性溶剤として水を仕込み、攪拌してオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体の水分散体(A1)を得た。
【0052】
(製造例2)
エチレン77.8部、アクリル酸エチル11.1部、アクリル酸11.2部を、定法により合成し、エチレンアクリル酸エチルアクリル酸共重合体を得た。
得られた共重合体の25部と、共重合体の酸価に対し中和率100%となるアンモニア、水性溶剤として水、及びワックスとして脂肪酸アミドワックス1.5部を仕込み、攪拌してオレフィン-α,β不飽和カルボン酸共重合体と脂肪酸アミドワックスとの水分散体(A2)を得た。
【0053】
<水性ヒートシール剤の作製>
(実施例1~8、及び比較例1~7)
製造例1または製造例2で得た水分散体(A1)または(A2)を使用し、表1または2の組成に従って、実施例または比較例の水性ヒートシール剤を得た。
【0054】
<評価>
(ヒートシール性)
バーコーター#16を用いて実施例または比較例の水性ヒートシール剤をカップ原紙(日本製紙(株)社製)に塗布後、100℃にて30秒乾燥させた。その後塗工紙を3.0cm×5.0cmに断裁し、短面通しを塗工面と非塗工面を5mm幅で密着させるべく2枚でテープ仮止めし、片面をホットプレートで5秒間加熱後、直ちに非加熱にて、1Kgf/m2、1秒密着条件下のヒートシール機を用いてヒートシールし、密着状況を目視評価した上で、完全密着するホットプレートの最低温度を調査した。
6:200℃で完全密着する。
5:210℃で完全密着する。
4:220℃で完全密着する。
3:230℃で完全密着する。
2:240℃で完全密着する。
1:240℃以上でも密着しない。
【0055】
(シール部耐水性)
ヒートシール性の評価方法でシートシールしたシール部分に水を垂らし、シール部分からの水の漏れ具合を目視で確認した。
4:全く水漏れなし。
3:部分的にごく僅かに水漏れが見られる。
2:部分的にわずかに水漏れが見られる。
1:全面に渡って水漏れが見られる。
【0056】
(滑り性)
バーコーター#16を用いて実施例または比較例の水性ヒートシール剤をカップ原紙(日本製紙(株)社製)に塗布後、100℃にて30秒乾燥させた。その後塗工紙を3.0cm×5.0cmに断裁し、試験片とした。該試験片の塗工面と非塗工面とが接触するように数枚重ねて置き、上部の一枚だけをサンプルを抜取り、その時の試験片の挙動を目視で確認した。
4:試験片を重ねたときに一枚ずつ試験片を取ることが出来る。
3:ごく僅かに下の試験片が上の試験片に付いてくる挙動がある。
2:たまに下の試験片が上の試験片に付いてくる挙動がある。
1:下の試験片が上の試験片に付いてくる。
【0057】
(耐ブロッキング性)
(耐ブロッキング性)
ヒートシール性の評価で作成した塗工紙の塗工面と非塗工面が接触するように重ね合わせ、10kgf/cm2の加重をかけ、40℃の環境下に48時間経時させ、取り出し後、塗工面と非塗工面の接着具合を、次の4段階で目視評価した。
(評価基準)
4:全くブロッキングが見られない。
3:部分的に僅かにブロッキングが見られる。
2:部分的にブロッキングが見られる。
1:全面に渡ってブロッキングが見られる。
【0058】
(リサイクル性)
ヒートシール性の評価で作成した実施例1~8の塗工紙を3.0cm×5.0cmに断裁し、水酸化ナトリウム1質量%水溶液に入れ、ペイントシェーカー(浅田鉄工株式会社)で30分攪拌させた後の状態を確認したところ、紙が十分に離解し、フィルム状のものは確認されなかった。
一方、市販の紙コップを3.0cm×5.0cmに断裁し、同様の評価を行ったところ、フィルム状のものが残存していることが確認された。従って、実施例で得たポリエチレンフィルムがシート状に残ることが確認された。
従って実施例1~8の塗工紙は、紙リサイクル効率を低下させないことがわかる。
【0059】
実施例1~8、及び比較例1~7の各積層体の評価結果を表1、2に示す。
【0060】
【0061】
【0062】
表中、略語は次の通りである。
スチレン-アクリル樹脂:Neocryl A-2095(楠本化成株式会社)
カルナバワックス:MICROKLEAR 418(Micro Powders,Inc.)
フィッシャー・トロフィッシュワックス(a):MP-22XF(Micro Powders,Inc.)
フィッシャー・トロフィッシュワックス(b):MP-28C(Micro Powders,Inc.)
微粉末ポリエチレン:フローセン uF1.5N(住友精化株式会社)