IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社竹中工務店の特許一覧 ▶ 吉野石膏株式会社の特許一覧

特許7014369放射線遮蔽ボード及び放射線遮蔽ボードの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】放射線遮蔽ボード及び放射線遮蔽ボードの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/14 20060101AFI20220207BHJP
   C04B 14/42 20060101ALI20220207BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20220207BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20220207BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20220207BHJP
   G21F 1/12 20060101ALI20220207BHJP
   G21F 1/04 20060101ALI20220207BHJP
   G21F 1/08 20060101ALI20220207BHJP
   G21F 3/00 20060101ALI20220207BHJP
   E04B 1/92 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C04B28/14
C04B14/42 Z
C04B22/14 A
C04B24/26 E
B28B1/30
G21F1/12
G21F1/04
G21F1/08
G21F3/00 Z
E04B1/92
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018080643
(22)【出願日】2018-04-19
(65)【公開番号】P2019189476
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正樹
(72)【発明者】
【氏名】池尾 陽作
(72)【発明者】
【氏名】櫛部 淳道
(72)【発明者】
【氏名】乗物 丈巳
(72)【発明者】
【氏名】小田川 雅信
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】米澤 宗晴
(72)【発明者】
【氏名】松元 駿明
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/055074(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
B28B
G21F
E04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏と、石膏100質量部に対して、硫酸バリウムを230質量部~350質量部と、補強繊維を0.7質量部~3質量部と、ポリカルボン酸系減水剤を0.2質量部~0.5質量部とを含有する石膏含有組成物硬化体である石膏含有ボード、及び、
前記石膏含有ボードの少なくとも一方の面に埋没された不燃性繊維シートを備え、
比重が1.85~2.20であり、
厚み15mmとした場合の、X線遮蔽性能が、X線管電圧100kVに対し、鉛当量1.5mmPb以上である放射線遮蔽ボード。
【請求項2】
不燃性繊維シートが、ガラス繊維、及び炭素繊維から選ばれる繊維を含む不織布、織布、又は編布である請求項1に記載の放射線遮蔽ボード。
【請求項3】
石膏と、石膏100質量部に対して、硫酸バリウムを230質量部~350質量部補強繊維を0.7質量部~3質量部、ポリカルボン酸系減水剤を0.2質量部~0.5質量部水とを混練して石膏含有スラリーを調製する工程と、
前記石膏含有スラリーに不燃性繊維シートを埋没させる工程と、
前記石膏含有スラリーを板状に成形する工程と、
成形された前記石膏含有スラリーを硬化させ、不燃性繊維シートが埋没された石膏含有組成物硬化体を得る工程と、
を含む、厚み15mmとした場合の、X線遮蔽性能が、X線管電圧100kVに対し、鉛当量1.5mmPb以上である放射線遮蔽ボードの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射線遮蔽ボード及び放射線遮蔽ボードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療現場において、放射線治療が種々行われている。なかでも、レントゲン、CT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影法)検査などは一般に行われており、いずれもエックス線(X線)を用いる。また、X線と一部波長が重なるγ線は、医薬品、食品などの滅菌などに使用される。
レントゲン室、CT室などの放射線治療室では、患者の患部に照射された放射線(X線)が、拡散したり、人体を貫通したりして治療施設から漏れ出ることを抑制するために、放射線治療室の周辺部には、鉛板、石膏板の両面を紙で挟み込んだ石膏ボード、石膏ボードと鉛板の積層体等を用いた遮蔽壁により区画され、放射線が遮蔽されている。
γ線は、飛程が長く、電荷を持たないため、電磁気力を使って方向を変える手段が適用できず、遮蔽は他の放射線に比較して困難であり、一般には、比重の高い鉛、鉄、コンクリートなどにより遮蔽される。例えば、厚さ10cmの鉛板により1/100~1/1000に減衰されると言われている。
【0003】
鉛板を用いた遮蔽壁は、重量が大きく、設置、移動が困難であり、使用後の解体も困難であった。さらに、火災時に鉛の溶融による放射線遮蔽能の低下、有毒ガスの発生などの懸念がある。また、鉛板と石膏ボードとの積層体の場合、使用後に廃棄処理する場合、両者を剥離する必要があるが、剥離が困難であり、廃棄時における解体効率が悪いという問題もある。
このため、目的とする放射線を効果的に遮蔽することができる放射線遮蔽壁が求められている。
【0004】
石膏に対して、ガラス繊維、及び硫酸バリウムを混合し、水を加えて混練し、石膏ボード用原紙の間に流し込み、乾燥させたときの比重が1.5~2.0の板材とする放射線遮蔽ボードが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、焼石膏と硫酸バリウムとを混合し、混合物を水と混ぜ、石膏ボード製造設備上で石膏ボードを形成する石膏ボードの製造方法が記載されており、得られた石膏ボードは、放射線遮蔽用に使用されること、色素、ガラス繊維等をさらに含みうることが記載されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5700844号公報
【文献】特許第5302734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の放射線ボードは、石膏を含む原料の流動性が低いために、硬化促進剤等を含む液体添加剤を粉体の1/3質量部含有させ、乾燥硬化させて製造される。このために製造方法は煩雑である。さらに、石膏板の保持に石膏ボード用原紙を用いた場合には、得られた放射線遮蔽ボードの耐火性が低くなるという問題もある。
特許文献2に記載の製造方法では、混合物に対する水の比率が低く、乾式方法により形成されるため、型枠内に流し込む方法には適用し難く、製造が困難である。また、特許文献2の実施例に記載されるように、石膏ボードは原紙で被覆されて形成されるため、表面に存在する原紙に起因して、耐火性において改良の余地がある。
また、特許文献1及び特許文献2の石膏ボードにおいて、耐火性を向上させる目的で、原紙を用いず、石膏板単独で用いる石膏ボードとした場合には、曲げ剛性が低下したり、ビス打ちなどによりクラックが生じたりする場合がある。
【0007】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、X線及びγ線の遮蔽能が良好であり、必要な強度を有しながら、容易に設置可能な放射線遮蔽ボードを提供することである。
また、本発明の別の実施形態が解決しようとする課題は、X線及びγ線の遮蔽能が良好であり、放射線遮蔽ボードの簡易な製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題の解決手段は、以下の実施形態を含む。
<1> 石膏と、石膏100質量部に対して、硫酸バリウムを200質量部~400質量部と、補強繊維を0.7質量部~3質量部と、減水剤を0.2質量部~0.5質量部とを含有する石膏含有組成物硬化体である石膏含有ボード、及び、前記石膏含有ボードの少なくとも一方の面に埋没された不燃性繊維シートを備え、比重が1.85~2.20である放射線遮蔽ボード。
【0009】
<2> 不燃性繊維シートが、ガラス繊維、及び炭素繊維から選ばれる繊維を含む不織布、織布、又は編布である<1>に記載の放射線遮蔽ボード。
<3> 減水剤が、ポリカルボン酸系減水剤を含む<1>又は<2>に記載の放射線遮蔽ボード。
【0010】
<4> 石膏と、硫酸バリウムと、補強繊維と、減水剤と、水と、を混練して石膏含有スラリーを調製する工程と、前記石膏含有スラリーに不燃性繊維シートを埋没させる工程と、前記石膏含有スラリーを板状に成形する工程と、成形された前記石膏含有スラリーを硬化させ、不燃性繊維シートが埋没された石膏含有組成物硬化体を得る工程と、を含む放射線遮蔽ボードの製造方法。
【0011】
以下に、本開示の放射線遮蔽ボードの好ましい態様を示す。
<A> 石膏は二水石膏を含む放射線遮蔽ボード。
<B> 補強繊維が、有機繊維及び無機繊維から選ばれる放射線遮蔽ボード。
<C> 補強繊維が、ガラス繊維を含む放射線遮蔽ボード。
<D> 不燃性繊維シートの坪量が50g/m~85g/mである放射線遮蔽ボード。
<E> 石膏含有ボードの少なくとも一方の面から、少なくとも一方の面に埋没された不燃性繊維シートまでの距離が0.05mm以上5mm以下である。
なお、本明細書において、石膏含有ボードの少なくとも一方の面における「面」とは、板状の石膏含有ボードの投影図における最も大きな投影面積を示す箇所の表面を指す。便宜上、一方の面を「表面」、他方の面を「裏面」と称することがある。
また、当該「面」に垂直な面を石膏含有ボードの「側面」とする。
石膏含有ボードの一方の面(表面)から他方の面(裏面)までの距離を「石膏含有ボードの厚み」とする。
本明細書において石膏含有組成物とは、石膏、硫酸バリウムなどを含む粉体組成物を指し、前記石膏含有組成物粉体に水を混合して、石膏含有ボードを作製する石膏含有スラリーを調製するものである。
【0012】
以下に、本開示の放射線遮蔽ボードの製造方法の好ましい態様を示す。
<F> 石膏含有組成物と水とを含む石膏含有スラリーの粘度が5dPa・s(デシパスカル・秒)~100dPa・sである放射線遮蔽ボードの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、X線及びγ線の遮蔽能が良好であり、必要な強度を有しながら、容易に設置可能な放射線遮蔽ボードを提供することができる。
また、本発明の別の実施形態によれば、X線及びγ線の遮蔽能が良好であり、放射線遮蔽ボードの簡易な製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の放射線遮蔽ボード及びその製造方法について詳細に説明する。
〔放射線遮蔽ボード〕
本開示の放射線遮蔽ボード〔以下、適宜、「遮蔽ボード」と称することがある〕は、石膏と、石膏100質量部に対して、硫酸バリウムを200質量部~400質量部と、補強繊維を0.7質量部~3質量部と、減水剤を0.2質量部~0.5質量部と、を含有する石膏含有組成物硬化体である石膏含有ボード、及び、前記石膏含有ボードの少なくとも一方の面に埋没された不燃性繊維シート〔以下、適宜、「繊維シート」と称することがある〕を備え、比重が1.85~2.20である。
遮蔽ボードは、板状の形状をとる。板状であれば、厚み方向への投影形状、即ち、板状の遮蔽ボードの表面から観察した際の形状は任意であり、設置場所、使用目的に応じて適宜選択される。
【0015】
本開示の遮蔽ボードの作用機構は明確ではないが、以下のように考えている。
遮蔽ボードを形成する石膏含有組成物硬化体である石膏含有ボードは、結晶水としての水分を含むことができる石膏に対し、質量比で2倍量から4倍量の硫酸バリウムを含むことで、得られる遮蔽ボードは高比重となり、X線及びγ線などに対する放射線遮蔽能が向上すると考えられる。
無機粉体である硫酸バリウムの含有量が増加すると、硬化に関与する石膏の含有量が相対的に低くなり、得られる遮蔽ボードは柔軟性及び靱性が低下する傾向にある。本開示の遮蔽ボードの作製に用いられる石膏含有組成物硬化体である石膏含有ボードは、補強繊維を0.7質量部~3質量部含むことで、板状に成形する際の石膏含有スラリーの流動性を維持しつつも、得られる遮蔽ボードにおける柔軟性、靱性が向上し、例えば、ビス打ちなどによる遮蔽ボードのクラックの発生が抑制され、裁断時の破断も抑制される。さらに、石膏含有組成物硬化体は減水剤を0.2質量部~0.5質量部含有することで、板状に成形する際の石膏含有スラリーの流動性を、工業的に遮蔽ボードを製造するに適切な範囲に維持することができる。
これら、石膏含有組成物硬化体に含まれる各成分の機能が相俟って、遮蔽能が良好であり、必要な強度を有しながら、容易に設置可能な遮蔽ボードが形成されると考えている。
本開示の遮蔽ボードは前記石膏含有ボードに埋没された不燃性繊維シートを備える。ここで、「埋没された」とは、不燃性繊維シートが遮蔽ボードの表面に露出しない位置に存在することを指す。不燃性の繊維シートが石膏含有ボードに埋没されて備えられることで、遮蔽ボードは曲げ強度が向上し、不燃性繊維シートによる外観への影響が生じることなく、耐火性能が高い遮蔽ボードとなる。
【0016】
製造方法に関しては、既述の、遮蔽ボード製造に供される石膏含有スラリーの流動性が良好であるために、石膏の水硬性を利用して石膏含有スラリーを板状に流し込み成形すると、繊維シートの繊維間の空隙に石膏含有スラリーが浸透し、繊維シートが石膏含有スラリーに被覆された状態となり易く、結果として、繊維シートが石膏含有ボードに埋没されて備えられる遮蔽ボードが簡易に製造できる。
なお、本開示は上記推定機構には何ら制限されない。
【0017】
(石膏含有組成物硬化体:石膏含有ボード)
本開示の遮蔽ボードは、石膏含有組成物硬化体である石膏含有ボード(以下、石膏含有ボードと称することがある)を備える。
石膏含有組成物硬化体は、石膏と、石膏100質量部に対して、硫酸バリウムを200質量部~400質量部と、補強繊維を0.7質量部~3質量部と、減水剤を0.2質量部~0.5質量部と、を含有する。
【0018】
-石膏-
放射線は、弾性散乱によるエネルギー吸収により遮蔽することが有効であるために、本開示の遮蔽ボードの形成のための組成物は、水素密度の高い石膏を含む。
石膏は、公知の硫酸カルシウムを含有する石膏材料であって、水を含んで速やかに硬化しうる材料であれば、任意に選択して用いることができる。
石膏の種類については「石膏石灰ハンドブック 技報堂(1972年刊)」に詳細に記載されており、ここに記載の硬化性石膏であればいずれも使用しうる。
石膏の種類としては、無水石膏、半水石膏(CaSO・1/2HO:三方晶)、二水石膏(CaSO・2HO)が挙げられる。
石膏含有組成物硬化体を形成する場合には、石膏含有組成物粉体を構成する半水石膏と硫酸バリウムとを含む粉体と、水とを混練して硬化体とすることが好ましい。従って、結果として、石膏含有組成物硬化体である石膏含有ボードは二水石膏を含む。
半水石膏は、一般的にはα型半水石膏(α石膏)とβ型半水石膏(β石膏)に分類され、いずれも用いることができ、いずれの石膏を用いる場合でも、得られる硬化体は、二水石膏を含む。
なかでも、入手容易な点から、β石膏が好ましい。
なお、石膏含有組成物粉体に用い得るβ型半水石膏は二水石膏を大気中で焼成して得られ、α型半水石膏は二水石膏を水中で焼成して得られる。
【0019】
-硫酸バリウム-
石膏含有組成物硬化体は、硫酸バリウムを含有する。
石膏含有組成物硬化体が硫酸バリウムを含有することで、X線及びγ線の遮蔽効果が良好となる。即ち、X線及びγ線は、密度の高い材料により効果的に遮蔽されるので、鉛、タングステン、ビスマス、鉄、酸化鉄、鉄鉱石、磁鉄鉱、赤鉄鉱、重晶石、バリウム、及びバリウム化合物等を用いることができる。本開示の遮蔽ボードにおいては、遮蔽性向上効果が高く、入手が容易であり、ハンドリング性に優れるという観点から、硫酸バリウムを選択している。硫酸バリウムは、粉体であり、市販品としても入手可能である。また、硫酸バリウムとして、硫酸バリウムを多く含む重晶石を用いてもよい。
硫酸バリウムの平均粒子径は、石膏含有スラリーの流動性の観点から、5μm~50μmであるのが好ましく、5μm~30μmであるのがより好ましい。
硫酸バリウムは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、例えば、互いに粒径の異なる硫酸バリウムの組み合わせ、純度、産地の異なる硫酸バリウムの組み合わせなどが挙げられる。
【0020】
石膏含有組成物硬化体における硫酸バリウムの含有量は、石膏100質量部に対して、200質量部~400質量部の範囲であり、200質量部~390質量部の範囲であることが好ましく、230質量部~350質量部の範囲であることがより好ましい。
硫酸バリウムの含有量が上記範囲であることで、遮蔽ボードの高比重化が達成され、X線及びγ線に対する遮蔽能が十分に得られ、より良好となる。
【0021】
-補強繊維-
石膏含有組成物硬化体は、石膏100質量部に対して、補強繊維を0.7質量部~3質量部含有する。
補強繊維としては、特に制限はなく、通常、セメント組成物、繊維強化樹脂材料などに用いられる補強繊維であれば特に制限はない。
補強繊維は有機繊維及び無機繊維から選択することができる。
無機繊維としては、鋼繊維、ガラス繊維、炭素繊維などが挙げられる。
有機繊維としては、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維等が挙げられる。
なかでも、耐火性及び耐久性が良好であるという観点からは、ガラス繊維、炭素繊維等が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。
補強繊維のサイズとしては、石膏含有スラリーの流動性及び補強繊維の添加効果を十分に得られる観点から、直径が5μm~30μmが好ましく、8μm~20μmがより好ましく、10μm~20μmがさらに好ましい。また、長さが2mm~15mmが好ましく、2mm~7mmがより好ましく、3mm~7mmがさらに好ましい。
補強繊維の含有量は、石膏100質量部に対して、0.7質量部~3質量部であり、0.6質量部~2.5質量部が好ましく、0.5質量部~2.5質量部がより好ましい。
含有量が上記範囲であることで、石膏含有スラリーの流動性を維持しつつ、得られる遮蔽ボードの靱性及び柔軟性がより良好となる。
【0022】
-減水剤-
石膏含有組成物硬化体は、減水剤を含有する。
減水剤には特に制限はなく、石膏含有組成物粉体に使用される公知の減水剤を適宜選択して使用しうる。減水剤は一般的には、石膏含有組成物粉体の分散性を向上させることで、石膏含有スラリーの流動性を改善したり、石膏含有組成物粉体から得られる石膏含有組成物硬化体の強度を向上させたりする機能を期待して使用される。
減水剤としては、ポリカルボン酸系減水剤、ナフタレン系減水剤、リグニン系減水剤、アミノスルホン酸系減水剤、メラミン系減水剤、及びビスフェノール系減水剤を含むことが好ましく、ポリカルボン酸系減水剤を含むことがより好ましい。
減水剤の含有量は、石膏100質量部に対して、0.2質量部~0.5質量部であり、0.2質量部~0.4質量部が好ましく、0.3質量部~0.4質量部がより好ましい。
減水剤の含有量が、石膏100質量部に対して0.2質量部以上であることで、石膏含有スラリーの流動性がより良好となり、石膏100質量部に対して0.5質量部以下であることで、石膏含有組成物硬化体である石膏含有ボードの強度がより良好となる。
【0023】
-水-
石膏含有組成物粉体に水を加えて、石膏含有スラリーを調製することができる。石膏含有組成物粉体が、さらに水を含むことで流動性が発現し、石膏含有ボードの製造に適した石膏含有スラリーが得られる。石膏含有スラリーの調製に用いる水には特に制限はなく、水道水、イオン交換水、蒸留水、純水などから選択して用いることができる。
石膏含有スラリーにおける水の含有量は、既述の各成分の含有量、物性により適宜調製することができる。なかでも、ハンドリング性の観点からは、得られる石膏含有スラリーの粘度が、5dPa・s~100dPa・sの範囲となる量で含まれることが好ましく、スラリーの粘度が、5dPa・s~30dPa・sの範囲となる量で含まれることがより好ましく、5dPa・s~20dPa・sの範囲となる量で含まれることがさらに好ましい。石膏含有スラリーの粘度が上記範囲であることで、石膏含有スラリーを板状に成形する際の作業性が向上し、遮蔽ボードの製造を効率よく行なうことができる。
石膏含有スラリーの粘度は、ブルックフィールド型粘度計(B型粘度計)を使用して、上記粘度に適応した条件により、常温(25℃)にて測定した値を用いている。
【0024】
-その他の成分-
石膏含有組成物硬化体は、効果を損なわない範囲において、必要に応じてその他の成分を含有することができる。
その他の成分としては、各種放射線に対する放射線遮蔽能を有する成分、石膏の硬化調整剤(硬化促進剤、硬化遅延剤)、耐火材(バーミキュライト等)、撥水材(オルガノポリシロキサン等)等が挙げられる。
その他の成分を用いる場合、その他の成分は必要に応じて1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
-石膏含有スラリーの調製-
石膏含有スラリーは、常法により調製することができる。
例えば、上記石膏含有組成物粉体の各成分が均一に分散するように混合して、水を添加して撹拌して石膏含有スラリーを調製する方法、水を撹拌しながら、各成分を適宜添加し、十分に混合して石膏含有スラリーを調製する方法などが挙げられる。石膏含有スラリーを硬化させて、石膏含有組成物の硬化体である石膏含有ボードを得ることができる。
【0026】
(不燃性繊維シート)
本開示の遮蔽ボードは、既述の石膏含有ボード、及び、石膏含有ボードの少なくとも一方の面に埋没された不燃性繊維シート(以下、繊維シートと称することがある)を備える。
遮蔽ボードが、石膏含有ボードに加え、石膏含有ボードに埋没された繊維シートを備えることで、遮蔽ボードの曲げ剛性が向上する。また、繊維シートは、遮蔽ボードの表面に露出せず内部に存在すること、及び、繊維シート自体が不燃性であること等に起因して、本開示の遮蔽ボードは耐火性能に優れる。不燃性繊維シートとは、不燃性の繊維材料または不燃処理を施した繊維材料を基材とした繊維シートを指す。
繊維シートは、繊維により構成され、必要な強度と、柔軟性とを備える限り、織布であっても、編布であっても、不織布であってもよい。なかでも、製造が容易であり、コスト的に有利な不織布が好ましい。
繊維シートは、不燃性の材料、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維などの繊維からなるシートであってもよく、ポリエステルなどの合成繊維、木綿などの天然繊維からなる繊維シートを、公知の不燃化剤、例えば、リン系不燃化処理剤を用いて不燃化処理したシートであってもよい。
なかでも、曲げ強度の向上効果がより良好であり、不燃性が高いガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種の繊維からなる不織布、織布、又は編布が好ましく、ガラス繊維からなる不織布がより好ましい。
【0027】
繊維シートは、強度と耐久性の観点から、坪量が50g/m以上であることが好ましく、60g/m以上であることがより好ましい。また、柔軟性などのハンドリング性を考慮すれば、繊維シートの坪量は85g/m以下とすることが好ましい。
【0028】
繊維シートが、石膏含有ボードの少なくとも一方の面に埋没されるとは、繊維シートが、遮蔽ボードの基体となる石膏含有ボードの二つの「面」のうち、少なくとも一方の面に露出しない状態で石膏含有ボードに内在されることを指す。
繊維シートの配置位置は、石膏含有ボードの表面に露出しない限り特に制限はない。繊維シートの内在による曲げ剛性の向上効果を十分に得られるという観点からは、石膏含有ボードの少なくとも一方の面から、石膏含有ボードの内部に存在する繊維シートまでの距離が0.05mm以上5mm以下であることが好ましく、0.05mm以上2mm以下であることがより好ましい。
繊維シートは、石膏含有ボードの両側の面のうち、一方の面のみに埋没されて備えられればよい。なお、曲げ剛性向上効果の観点からは、石膏含有ボードの両側の面にそれぞれ1枚ずつ埋没されて備えられることが好ましい。
なお、繊維シートの配置位置は、遮蔽ボードを、遮蔽ボードの面方向と垂直な方向に切断し、断面を観察することで測定することができる。
【0029】
(遮蔽ボードの物性)
-比重-
本開示の遮蔽ボードは、上記石膏含有組成物の硬化体を含む。
石膏含有組成物硬化体が、硫酸バリウムを上記含有量で含むために、比重は、1.85以上となり、石膏を含んで構成される公知の遮蔽ボードに比較し比重が高く、このため、放射線遮蔽能、なかでもX線及びγ線の遮蔽能が良好となる。
比重は、硫酸バリウムの含有量の増加に従って上昇する傾向にあるが、含有量が増加するに従い、硬化に関与する石膏の含有量が相対的に低くなる。そのような観点から、遮蔽ボードの比重は、2.2以下とすることが好ましい。
遮蔽ボードの比重は、以下の方法で測定することができる。
厚さ15mmの遮蔽ボードを、石膏含有ボードの標準的なサイズである幅3尺(約90.9cm)×長さ6尺(約181.8cm)に裁断し、室温(25℃)にて質量を測定し、得られた質量を遮蔽ボードの体積(約2.48×10cm)で割って比重とする。なお、厚さが異なる遮蔽ボードにおいても同様の方法にて比重を測定することができる。
【0030】
-サイズ-
遮蔽ボードのサイズ、形状には特に制限はなく、設置目的に応じて適宜選択される。
遮蔽ボードの厚みは、一般的には、5mm~50mmとすることができる。
本開示の遮蔽ボードのX線遮蔽性能は、例えば、X線管電圧100kVに対し、厚みを15mmとした場合、鉛当量1.5mmPb以上である。
【0031】
本開示の遮蔽ボードは上記構成としたため、X線及びγ線の遮蔽能が良好であり、必要な強度を有しながら、容易に設置可能である。
また、ビス打ちなどを行なってもクラックが生じ難く、裁断が容易に行なえるため、種々の使用場所に対応した形状への加工、固定化が容易であり、簡易に設置できる。
従って、放射線遮蔽機能を付与した壁、パーティション、ドアを簡易に構成することが可能となる。また、医療施設における放射線検査中の患者から放出されるγ線に対して、被ばく低減対策としての遮蔽パーティションとすることができる。
さらに、新築物件に対しては、計画段階からの遮蔽設計仕様に変更が発生した際にも迅速に対応でき、後施工による放射線遮蔽能の付与も簡易に行ないうる。
また、一般的な石膏ボードと同様に、内装工事として完全な乾式施工が可能であり、内装工事現場における汚れの発生、施工時の振動及び騒音が低減でき、工事期間の大幅な短縮が図れる。
さらに、石膏自体は放射化され難い材料であり、使用後の廃棄も容易であるという利点をも有する。
【0032】
〔遮蔽ボードの製造方法〕
本開示の放射線遮蔽ボードの製造方法は、石膏と、硫酸バリウムと、補強繊維と、減水剤と、水と、を混練して石膏含有スラリーを調製する工程(工程(I))と、前記石膏含有スラリーに繊維シートを埋没させる工程(工程(II))と、前記石膏含有スラリーを板状に成形する工程と(工程(III))、成形された前記石膏含有スラリーを硬化させ石膏含有組成物硬化体とする工程(工程(IV))と、を有する。
【0033】
工程(I)では、まず、石膏と、硫酸バリウムと、補強繊維と、減水剤と水とをミキサーで混練して石膏含有スラリーを調製する。次に、工程(II)において、工程(I)で調製した石膏含有スラリーを第1の繊維シート上に投入する。投入された石膏含有スラリーは、既に配置された第1の繊維シートの繊維間の空隙に侵入し、第1の繊維シートの下方に浸み出すことで、第1の繊維シートは石膏含有スラリーに埋没される。
次に、工程(III)では、石膏含有スラリーを成形機に石膏含有スラリーを連続的に投入し、板状に連続成形して搬送する。
工程(IV)では、成形された石膏含有スラリーは搬送中から石膏の水和反応により硬化し、板状の石膏含有組成物硬化体が得られる。
【0034】
次いで、石膏含有組成物硬化体を、所望により実施される乾燥工程に導き、乾燥後に所定寸法に切断することで放射線遮蔽ボードが得られる。
上記製造方法は、公知の石膏ボードの成形機を応用して実施し得る連続法を例に挙げて説明したが、製造方法上記の例に限定されない。製造方法としては、例えば、任意の形状の型枠を用いたバッチ法によって遮蔽ボードを製造する方法をとることもできる。
【0035】
このようにして、石膏含有ボードと、前記石膏含有ボードに埋没された繊維シートとを含む遮蔽ボードを簡易に得ることができる。
繊維シートを構成する繊維の太さ、繊維シートの坪量、石膏含有スラリーの粘度、流動性などを調節することで、繊維シートの配置位置を調製することができる。
得られた遮蔽ボードは、耐水性を向上させる目的で、撥水剤、耐水性塗料等を少なくとも片面に塗布したり、カルシウムと反応して硬化するカリ石鹸、カルボン酸塩水溶液等を塗布したり、等の手段をとってもよい。
また、工程(II)において、第1の繊維シート上に投入した石膏含有スラリー上に、さらに、第2の繊維シートを配置することができる。石膏含有スラリーは第2の繊維シートの空隙に侵入し、第2の繊維シートは石膏含有スラリーに埋没する。このため、第2の繊維シートを配置することで、第1の繊維シートと第2の繊維シートが石膏含有ボードの表面及び裏面にそれぞれ埋没した遮蔽ボードを得ることができる。
本開示の製造方法によれば、本開示の遮蔽ボードを簡易に製造しうる。
【実施例
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本開示はこの実施例に制限されるものではなく、その技術的思想を逸脱しない範囲において、当業者が通常に行う設計変更、応用の変型例の範囲を含むことはいうまでもない。
【0037】
〔実施例1〕
(石膏含有組成物1の調製)
β型半水石膏、硫酸バリウム、減水剤(ポリカルボン酸系減水剤)及びガラス繊維(平均直径10μm、長さ3mm)の各成分を、硬化後の遮蔽ボードが下記表1に示す目標組成となり、且つ、比重が1.85となる量で秤量し、容器に投入し、室温(25℃)にて、充分に撹拌混合して石膏含有組成物粉体を得た。
得られた石膏含有組成物粉体に、適量の水(水道水)を加え、十分に撹拌して石膏含有スラリーを調製した。
【0038】
(遮蔽ボードの成形)
成形機の搬送路上に第1の繊維シートであるガラス繊維不織布(坪量:50g/m)を配置し、成形機内に上記で得た石膏含有スラリーを連続的に供給した。
石膏含有スラリーは、第1の繊維シートの繊維間の間隙に浸透した。
石膏含有スラリーの投入後、成形機内を搬送される際に、石膏含有スラリーの表面が平滑化される。その後、第1の繊維シートと同じガラス繊維不織布(第2の繊維シート)を石膏含有スラリーの表面に配置した。第2の繊維シートは、石膏含有スラリーの内部に僅かに沈み込んだ。
成形機で成形された石膏含有スラリーは速やかに硬化し2枚の繊維シートを有する遮蔽ボードとなる。その後、乾燥工程に導き余剰水分を取り除いた。
得られた遮蔽ボードの厚みは、15mmであった。また、遮蔽ボードの厚み方向に切断して断面を観察したところ、第1の繊維シート及び第2の繊維シートと、それぞれの近傍の遮蔽ボード表面との距離はいずれも約0.3mmであった。
その後、経時により
【0039】
〔実施例2~実施例6、比較例1、比較例2〕
実施例1において、石膏含有組成物硬化体に含まれる成分の目標組成を表1に記載の如く換えた以外は、実施例1と同様にして実施例2~実施例3、比較例1の遮蔽ボードを得た。実施例4~6、比較例2において、石膏含有組成物硬化体に含まれる成分の目標組成を表2に記載の如く換え、石膏含有スラリー粘度を10dPa・sに調整した以外は、実施例1と同様にして遮蔽ボードを得た。
【0040】
(遮蔽ボードの評価)
得られた遮蔽ボードの物性を以下のように評価した。結果を表1に示す。
-石膏含有組成物の粘度-
既述のように、ブルックフィールド型粘度計(B型粘度計)を用いて、室温にて粘度を測定した。
【0041】
-曲げ破壊荷重-
得られた遮蔽ボードをJIS A 6901 曲げ破壊荷重試験に準拠して、長さ方向の曲げ破壊荷重を測定した。
【0042】
-ビス打ち試験-
得られた遮蔽ボードの縁部から10mm離した位置に、充電式インパクトドライバを用いてビスを打込んだ。下地はLGS65形を用い、打ち込んだビスは、タッピンねじ(頭径8mm、胴径3.5mm)を使用した。
なお、以下の基準で、A及びBは実用上問題のないレベルであり、Aが好ましい。
(評価基準)
A:目視で確認できるクラックは観察されない
B:目視で確認できるクラックが僅かに観察される
C:目視で明らかに確認できるクラックの発生が観察される
【0043】
-X線遮蔽能-
JIS Z 4501「X線防護用品の鉛当量試験方法」に順じ、透過X線量を測定して鉛当量を求めた。試験体として厚さ15mmの遮蔽ボードを用いた。測定条件を以下に示す。
X線装置:エクスロン・インターナショナル(株)製 MG-452型
X線管焦点-試料間距離 1500mm
X線管焦点-測定器間距離 50mm
測定器:電離箱照射線線量率計 東洋メディック(株)製 RAMTEC-1000D型 A-4プローブ使用
【0044】
-γ線遮蔽能-
床から1.2mの高さで、線源と検出器の測定中心までの距離を35cmとし、その間に試料がある場合、無い場合について、線量率をそれぞれ10回測定した平均値より遮蔽率を求めた。セシウム137線源は鉛製のコリメータ内に設置し、試験体方向にのみγ線が照射される。試験体として厚さ15mmの遮蔽ボードを用いた。
厚さの異なる鉛板(厚さ1.0mm、3.0mm、6.0mm)を用いて同様に遮蔽率を求め、これを対照として試料の鉛当量を求めた。測定条件を以下に示す。
線源:セシウム137線源 10MBq
測定器:応用光研工業(株)製、S-3070(1インチ(2.54cm)φ NaIシンチレーション検出器)
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】

【0047】
表1及び表2に記載の如く、実施例1~実施例6では、遮蔽ボードを製造するために用いた石膏含有スラリーの流動性が良好であり、且つ、得られた遮蔽ボードは、曲げ破壊荷重が実用上問題のない高レベルであり、ビス打ちを行なっても目視にて観察されるクラックの発生が認められず、X線及びγ線に対する放射線遮蔽能が良好であることが分かる。
他方、減水剤の含有量が少ない石膏含有スラリーを用いた比較例1の石膏含有ボードは、板状に成形できなかった。このため、同様の試料が得られず、以降の評価を行なわなかった。
また、補強繊維の含有量が少ない石膏含有組成物を用いた比較例2の遮蔽ボードは、石膏含有スラリーの流動性には問題は無かったが、補強繊維による靱性の改良効果が不十分であり、ビス打ち試験では目視で確認できるクラックが発生した。このため、比較例2の遮蔽ボードを躯体等にビス留めして用いる場合、クラックから放射線が透過することが懸念される。