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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】超音波プローブ移動装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/00 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
A61B8/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017215174
(22)【出願日】2017-11-08
(65)【公開番号】P2019084088
(43)【公開日】2019-06-06
【審査請求日】2020-11-04
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年5月9日 一般社団法人 日本機械学会 ロボティクス・メカトロニクス講演会2017 講演論文集
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114524
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】岩田 浩康
(72)【発明者】
【氏名】内藤 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】津村 遼介
【審査官】後藤 順也
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-516865(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105877780(CN,A)
【文献】国際公開第2013/084093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00-8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象の表面に超音波プローブを接触させた状態で、アクチュエータの動力を利用し、前記表面に沿って前記超音波プローブを移動させる超音波プローブ移動装置において、
前記超音波プローブを保持する保持体を含むプローブ保持ユニットと、前記アクチュエータの駆動により、平面視における前記検査対象の縦横方向となる直交2軸方向に、前記プローブ保持ユニットをそれぞれスライド移動させるスライド機構とを備え、
前記プローブ保持ユニットは、前記スライド機構による動力付与のみで、前記表面の形状に関わらず、前記超音波プローブを前記表面に接触させながら当該表面に対して一定の姿勢で移動可能にする表面形状追従機構を備え
前記表面形状追従機構は、前記表面の形状に追従しながら、前記保持体を前記2軸回りにそれぞれ受動的に回転可能にする受動回転機構を含み、
前記受動回転機構は、前記保持体に一体化された円弧状の湾曲レールと、当該湾曲レールをその延出方向にスライド自在に支持する中間構造体とを備え、当該スライドによる前記保持体の揺動により、前記超音波プローブの先端中央を回転中心として、前記2軸のうちの1軸回りに前記超音波プローブを回転可能にすることを特徴とする超音波プローブ移動装置。
【請求項2】
前記プローブ保持ユニットは、重力による前記表面への押圧力をキャンセルして、前記超音波プローブを一定の接触力で前記表面に接触させる接触力維持機構を備えることを特徴とする請求項1記載の超音波プローブ移動装置。
【請求項3】
検査対象の表面に超音波プローブを接触させた状態で、アクチュエータの動力を利用し、前記表面に沿って前記超音波プローブを移動させる超音波プローブ移動装置において、
前記超音波プローブを保持する保持体を含むプローブ保持ユニットと、前記アクチュエータの駆動により、平面視における前記検査対象の縦横方向となる直交2軸方向に、前記プローブ保持ユニットをそれぞれスライド移動させるスライド機構とを備え、
前記プローブ保持ユニットは、前記スライド機構による動力付与のみで、前記表面の形状に関わらず、前記超音波プローブを前記表面に接触させながら当該表面に対して一定の姿勢で移動可能にする表面形状追従機構を備え、
前記表面形状追従機構は、前記表面の形状に追従しながら、前記保持体を前記2軸回りにそれぞれ受動的に回転可能にする受動回転機構を含み、

前記受動回転機構には、前記超音波プローブが傾斜する際に生じるモーメントをキャンセルするように、前記保持体の回転方向に付勢力を付与する付勢部材が設けられていることを特徴とする超音波プローブ移動装置。
【請求項4】
前記表面形状追従機構は、前記表面の形状に追従しながら、前記保持体を前記2軸に直交する1軸方向に受動的に並進可能にする受動並進機構を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の超音波プローブ移動装置。
【請求項5】
前記プローブ保持ユニットには、湾曲面を有する前記表面に当接したときに、当該表面に対する接平面を形成するガイド部材が前記保持体と一体的に設けられ、当該ガイド部材と前記受動回転機構により、前記表面に対する前記超音波プローブを垂直起立姿勢に維持することを特徴とする請求項記載の超音波プローブ移動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波プローブ移動装置に係り、更に詳しくは、検査対象の表面に超音波プローブを接触させた状態で、アクチュエータの動力を利用して超音波プローブを移動させる超音波プローブ移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国の産科医療現場では、産科医不足が大きな問題となっており、その結果、産科医のみならず妊婦にも通院等の負担が生じている。そこで、本発明者らは、産科医療における産科医と妊婦の双方の負担軽減を目指し、医師の遠隔操作による経腹超音波検査を支援するロボットの開発を行ってきた。ここで、超音波検査に用いられる音波は周波数が非常に高く、体表面との間に空気層が存在するとエコー画像が途切れてしまうことから、超音波プローブを体表面に隙間なく接触させる必要がある。このため、超音波プローブの先端の接触面の一部が体表面に対して浮く片当たりにより、エコー画像の欠落が生じないように、超音波プローブを体表面に対してほぼ垂直となる垂直起立姿勢に維持し、その接触部の全域を体表面に接触させることが必要である。また、超音波プローブは、ある程度の力で体表面に接触させなければ、鮮明なエコー画像を得ることができないが、このときの接触力が過大になると身体的負担が生じるため、必要最低限の接触力を付与する必要がある。
【0003】
ところで、特許文献1には、遠隔操作により、被検査者の体表面に沿って超音波プローブを走査させるための医療用ロボット装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-100377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1の医療用ロボット装置にあっては、その構造上、妊婦の腹部等のように、大きな湾曲面となる体表面に沿って超音波プローブを移動させる場合に、前記垂直起立姿勢を維持できず、また、体表面の傾斜により、当該体表面に対する超音波プローブの接触力を一定にすることができない。
【0006】
本発明は、このような課題に着目して案出されたものであり、その目的は、より少ないアクチュエータにより、検査対象の表面形状に追従しながら適正な状態で超音波プローブを移動させることができる超音波プローブ移動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、主として、検査対象の表面に超音波プローブを接触させた状態で、アクチュエータの動力を利用し、前記表面に沿って前記超音波プローブを移動させる超音波プローブ移動装置において、前記超音波プローブを保持する保持体を含むプローブ保持ユニットと、前記アクチュエータの駆動により、平面視における前記検査対象の縦横方向となる直交2軸方向に、前記プローブ保持ユニットをそれぞれスライド移動させるスライド機構とを備え、前記プローブ保持ユニットは、前記スライド機構による動力付与のみで、前記表面の形状に関わらず、前記超音波プローブを前記表面に接触させながら当該表面に対して一定の姿勢で移動可能にする表面形状追従機構を備える、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記表面形状追従機構により、プローブ保持ユニットを直交2軸方向にスライド移動させるアクチュエータのみの駆動力で、超音波プローブは、検査対象の表面の形状に沿って受動的に動作し、当該表面に接触しながら一定の姿勢で表面上を移動可能になる。従って、操作者の操作指令により超音波プローブ移動装置を動作させる際には、検査対象の表面の形状が平面でない複雑な湾曲面形状であっても、2軸方向の操作指令のみで良く、簡単な操作により、超音波プローブを適正状態で前記表面に沿って移動させることができる。特に、操作者が、検査場所から離れた遠隔地で操作する場合でも、検査対象の表面形状に関わらず、超音波プローブによる走査を簡単且つ適切に行うことができる。
【0009】
また、前記接触力維持機構により、検査対象の表面形状に関わらず、当該表面に対する超音波プローブの接触力が、操作者の操作によらずに一定に維持され、安全性を考慮した必要最低限の接触力を常時維持することができる。
【0010】
更に、前記受動回転機構と前記ガイド部材により、検査対象の表面形状に関わらず、表面に対する超音波プローブの垂直起立姿勢が、操作者の操作によらずに受動的に維持されるため、取得した超音波画像の部分的な欠落を低減し、適正な超音波画像の取得を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係る超音波プローブ移動装置の概略斜視図である。
図2】検査対象の表面上を超音波プローブが走査する状態を表す前記超音波プローブ移動装置の概略斜視図である。
図3図2の概略正面図である。
図4図2の概略側面図である。
図5】検査時における前記超音波プローブ移動装置の配置を説明するための概念図である。
図6】先端部を下方から見た概略拡大斜視図である。
図7】(A)は、湾曲レールによるy軸回りの回転を説明するための概念図であり、(B)は、装置の姿勢を変えたときの(A)と同様の概念図である。
図8】(A)、(B)は、接触力維持機構を説明するための概念図であり、(C)は、装置の姿勢を変えたときの(A)と同様の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1には、本実施形態に係る超音波プローブ移動装置の概略斜視図が示され、図2には検査対象の表面上を超音波プローブが走査する状態を表す前記超音波プローブ移動装置の概略斜視図が示されている。また、図3には、図2の概略正面図が示され、図4には、図2の概略側面図が示されている。
【0014】
なお、以下の説明において、特に明記しない限り、位置又は方向を表す用語については、図1の姿勢を基準とする。すなわち、図1の直交3軸におけるx軸方向を「横方向」又は「左右方向」と称し、同y軸方向を「縦方向」又は「前後方向」と称し、同z軸方向を「高さ方向」又は「上下方向」と称する。
【0015】
これらの図の超音波プローブ移動装置10は、特に限定されるものではないが、本実施形態において、妊婦の経腹超音波検査時に使用される。この超音波プローブ移動装置10は、医師等の操作者の遠隔操作により、図2~4に示されるように、検査対象となる被検査者の腹部表面(体表面B)に沿って超音波プローブPを移動させるように動作する。また、超音波プローブ移動装置10は、例えば、図5に模式的に示されるように、フレームやアーム等の支持体Aによって支持され、被検査者Hの検査時の身体の向きに応じて、被検査Hに対する全体の傾斜角度θが検査前に予め調整されるようになっている。なお、図5は、被検査者Hの頭部側から身体を見た図になっている。つまり、この超音波プローブ移動装置10は、被検査者Hの前後を分割する冠状面Kに平行となる姿勢で配置される。
【0016】
前記超音波プローブ移動装置10は、図1図4に示されるように、超音波プローブP(図2等参照)が保持されるプローブ保持ユニット11と、検査時の平面視における被検査者Hの縦横方向(頭尾方向と左右方向)となる直交2軸方向に、プローブ保持ユニット11をそれぞれスライド移動させるスライド機構12とにより構成される。
【0017】
前記プローブ保持ユニット11は、図1のx軸方向から見たとき、また、同y軸方向から見たときに、それぞれz軸に対してほぼ対称となる形状となっている。このプローブ保持ユニット11は、超音波プローブPの取り付け部位を含む下部構造体14と、下部構造体14を揺動可能に支持する中間構造体15と、中間構造体15を上下方向にスライド移動可能に支持するとともに、スライド機構12に取り付けられる上部構造体16とにより構成される。
【0018】
前記下部構造体14は、超音波プローブPの装着部位となる下端側の先端部18と、先端部18をx軸回りに揺動可能に支持する先端支持部19と、先端支持部19の上側に固定されるとともに、湾曲しながら左右方向(x軸方向)に延びる円弧状の湾曲レール20とを備えている。
【0019】
前記先端部18は、最下端側に位置するリング状のガイド部材22と、ガイド部材22の上側に一体的に取り付けられ、超音波プローブPを着脱自在に保持する構造の保持体23とからなる。
【0020】
前記ガイド部材22は、後述するプローブ保持ユニット11の作用により、球面のような湾曲面を有する体表面B(図2等参照)に、所定の接触力で先端部18が押し当てられたときに、前記湾曲面に対する接平面C(図3,4参照)に沿って体表面Bに接触するようになっている。また、図6に示されるように、保持体23に保持された超音波プローブPの先端に位置する超音波ビームの送受信部分となる接触部P1が、ガイド部材22の中央の中空部分22Aを通じて下側に表出するようになっている。なお、ガイド部材22は、体表面Bに沿って超音波プローブPを走査させる際に、当該体表面Bに接触しながら移動することから、外縁部分に丸みを持たせた形状とし、当該移動時の体表面B上での引っ掛かりを防止するようになっている。
【0021】
なお、ガイド部材22としては、図示した真円のリング状のものに限らず、体表面Bに接触する際の超音波プローブPの位置決めとなる接平面Cを形成可能な部材、すなわち、体表面Bに接触する最低3点の相対位置関係が不変となる形状を有する部材を種々採用することができる。
【0022】
前記保持体23は、ガイド部材22に対して超音波プローブPを垂直方向に起立させる姿勢で超音波プローブPを固定するようになっている。この際、超音波プローブPは、その接触部P1が体表面Bに接触可能な高さ位置で保持体23に固定される。本実施形態では、検査時において、体表面Bの弾性によりガイド部材22を少し沈ませることを考慮し、超音波プローブPは、その接触部P1がガイド部材22の中空部分22Aよりもやや上方となる図6中奥行側に後退するように配置される。なお、逆に、超音波プローブPを中空部分22Aから外側にやや突出させる配置も可能である。
【0023】
前記先端支持部19は、保持体23の左右両側に取り付けられた回転ピン25を介して、先端部18全体をx軸回りとなるピッチ方向に回転可能に支持する。また、回転ピン25には、先端部18の揺動時に抵抗力を付与するための図示省略したばね等の付勢部材が設けられている。この付勢部材は、次のような付勢力を作用させるように設定される。すなわち、後述するように、超音波プローブPが、接平面Cに対してほぼ垂直方向に起立する垂直起立姿勢のままで湾曲面となる体表面B上を移動する際に、体表面Bの傾斜に沿って超音波プローブPが傾くときに、超音波プローブPを含む先端部18の自重によるピッチ方向の回転時のモーメントをキャンセル可能に設定される。
【0024】
前記湾曲レール20は、図7(A)の概念図に示されるように、保持体23に保持された状態の超音波プローブPの接触部P1における中央点27を中心とする円弧に沿う形状をなし、中間構造体15に対してローラ29(図1等参照)を介してスライド自在になっている。このスライドにより、中間構造体15に対する湾曲レール20の連結位置が変位することになり、当該変位によって保持体23が揺動することになる。つまり、前記スライドにより、湾曲レール20に一体的に繋がる超音波プローブPの前記中央点27を中心として、y軸回りのロール方向に超音波プローブPが回転可能になる。また、中間構造体15と湾曲レール20の間には、ばね等の付勢部材31が、ワイヤ32を介してプーリ33に掛け回された状態で取り付けられている。この付勢部材31は、次のような付勢力を作用させるように設定される。すなわち、超音波プローブPが前記垂直起立姿勢のままで湾曲面をなす表面B上を移動する際に、体表面Bの傾斜に沿って超音波プローブPが傾くときに、超音波プローブPを含む下部構造体14の自重によるロール方向の回転時のモーメントをキャンセル可能に設定される。
【0025】
以上の構成によれば、先端支持部19と回転ピン25、及び、湾曲レール20とその延出方向にスライド自在に支持する中間構造体15は、体表面Bの形状に追従しながら、保持体23をx軸,y軸の2軸回りにそれぞれ受動的に回転可能にする受動回転機構を構成する。この受動回転機構において、保持体23のx軸回りにおける回転は、その回転軸上の回転ピン25により行われる一方、同y軸回りにおける回転は、中央点27を通る図7(A)の紙面直交方向の回転軸上に存在しない湾曲レール20のスライドによって行われる。このため、保持体23に繋がる回転要素を回転ピン25のみとして、保持体23を2軸回りに回転させることができ、もう一方の回転方向に係る回転要素を保持体23に直接設けることによる移動時の体表面B上での引っ掛かりを防止し、保持体23のスムーズな受動動作が可能になる。
【0026】
前記中間構造体15は、図1等に示されるように、上部構造体16に対してローラ34を介して上下方向にスライド可能に取り付けられている。この中間構造体15は、保持体23に装着された超音波プローブPを体表面Bに接触させながら移動する際に、当該体表面Bからの反力による上下方向の変位に追従して、上下方向に受動的にスライド自在となっている。従って、中間構造体15及び上部構造体16は、体表面Bの形状に追従しながら、保持体23をz軸方向に受動的に並進可能にする受動並進機構を構成する。
【0027】
以上により、プローブ保持ユニット11は、スライド機構12による動力付与のみで、体表面Bの形状に関わらず、超音波プローブPを体表面Bに接触させながら、体表面Bに対して一定の姿勢で移動可能にする表面形状追従機構を備えていることになる。
【0028】
前記上部構造体16には、超音波プローブPが体表面B上を移動する際に、当該体表面Bに対し、超音波プローブPを常時一定の接触力で接触させる接触力維持機構を備えている。
【0029】
この接触力維持機構は、図8(A)に概念的に示されるように、中間構造体15を上下方向にスライド可能に繋がる本体フレーム35と、本体フレーム35に取り付けられて回転可能に設けられた滑車36と、滑車36に掛け回されて中間構造体15に一部領域が固定されたワイヤ37と、滑車37を隔てて中間構造体15の反対側となるワイヤ37の一部領域に固定されたカウンターウエイト39と、本体フレーム35とカウンターウエイト39との間で接続され、一定の付勢力を付与する付勢部材40とを備えている。
【0030】
前記カウンターウエイト39は、超音波プローブPが体表面Bに接触する際に、当該体表面Bに作用する超音波プローブPや下部構造体14等の重力の影響、すなわち、当該重力による体表面Bへの押圧力をキャンセル可能な重さに設定され、当該重力とのバランスを取るようになっている。ここで、前述した受動並進機構により、体表面Bの凹凸や傾斜に応じて中間構造体15が高さ方向(上下方向)に変位したときでも、滑車37とワイヤ37の動作により、図8(A)、(B)に示されるように、カウンターウエイト39が上下方向に変位しながら前記重力とのバランスを取るようになっている。
【0031】
前記付勢部材40としては、例えば、定荷重ばねが用いられ、カウンターウエイト39の上下方向の変位に関わらず、カウンターウエイト39を上向きに引っ張る方向の一定の付勢力Fを付与するようになっている。このため、滑車36を隔てた反対側の中間構造体15には、付勢力Fと同一の大きさの下向きの力が常時作用することになり、当該常時一定の力が、超音波プローブP及びガイド部材22(図示省略)による体表面Bへの接触力Fとなる。
【0032】
前記スライド機構12は、図1等に示されるように、プローブ保持ユニット11が取り付けられて、プローブ保持ユニット11全体を横方向(左右方向)に移動可能にx軸方向に延びるレール状の第1の直動アクチュエータ41と、第1の直動アクチュエータ41が取り付けられて、第1の直動アクチュエータ41とともにプローブ保持ユニット11を縦方向(前後方向)に移動可能にy軸方向に延びるレール状の第2の直動アクチュエータ42とからなる。
【0033】
これら直動アクチュエータ41,42は、詳細な図示を省略するが、モータの駆動によるねじ軸の回転により、当該ねじ軸に係合する取付部分を延出方向に移動させる公知の送りねじ軸構造を有するものが用いられる。なお、スライド機構12としては、アクチュエータの駆動により、プローブ保持ユニット11を直交2軸方向に移動させることができる限り、種々の構造のものを採用することが可能である。これら直動アクチュエータ41,42は、図示しない前記操作者等による操作指令によって駆動される。
【0034】
以上の構成の超音波プローブ移動装置10では、外部からの操作指令によるスライド機構12の駆動により、超音波プローブPが縦横方向に任意に移動する。この際、前記接触力維持機構により、超音波プローブPは、常に一定の接触力で体表面Bに接触しながら移動する。また、体表面Bの凹凸や傾斜に追従して、中間構造体15が上部構造体16に対して受動的に上下動し、超音波プローブPが体表面Bに常に接触した状態で移動する。そして、超音波プローブPが体表面Bに接触したときの反力により、ガイド部材22がその全面を体表面Bに接触させようとして、接平面C(図3,4等参照)に沿った姿勢になるように、体表面Bの形状に追従して、超音波プローブPを保持する保持部23を含む先端部18全体が前述の2軸回りに受動的に回転する。これによって、ガイド部材22に対して垂直姿勢に保持された超音波プローブPは、体表面Bの形状に関わらず、接平面Cに対して前記垂直起立姿勢のまま体表面B上を移動することになる。これにより、体表面Bに接触する際の超音波プローブPの姿勢が、理想とする前記垂直起立姿勢に維持されるため、体表面Bに対する超音波プローブPの傾きによる片当たりが抑制され、エコー画像の部分的な欠落の防止に寄与できる。
【0035】
次に、超音波プローブ移動装置10の設置について説明する。
【0036】
例えば、被検査者Hが仰向けに寝ながら超音波検査を行う場合、つまり、被検査者Hの前後を分割する冠状面が、被検査者Hの配置面となるベッドにほぼ水平になるような場合、超音波プローブ移動装置10は、スライド機構12が水平面に平行となる図1の水平姿勢で設置される。このとき、スライド機構12は、前記水平面上の直交2軸方向に配置されることになる。
【0037】
一方、図5に示されるように、被検査者Hが左右どちらかに傾いた横向きの姿勢で寝ながら超音波検査を行う場合、超音波プローブ移動装置10は、前記配置面となるベッドSの表面に対する前記冠状面Kの傾斜に合せた傾斜姿勢で設置される。この傾斜姿勢では、スライド機構12が、冠状面Kの平行面上における直交2軸方向に配置されることになる。なお、例えば、図5の場合、被検査者Hの左右方向に沿って第1の直動アクチュエータが配置され、同頭尾方向(同図中紙面直交方向)に沿って第2の直動アクチュエータが配置される。
【0038】
また、図7に示されるように、冠状面Kの傾斜状態に応じて、湾曲レール20にワイヤ32を固定する取付位置Dが変更される。すなわち、同図(A)に示されるように、前記水平姿勢のときは、ワイヤ32の取付位置Dが湾曲レール20の延出方向のほぼ中央に固定される。一方、同図(B)に示されるように、前記傾斜姿勢のときは、水平姿勢の場合よりも、ワイヤ32を伸ばして、傾斜角度θに対応して、湾曲レール20の前記中央から外れた取付位置Dに固定される。
【0039】
なお、前記傾斜姿勢のときにおいても、図8(C)に示されるように、超音波プローブP及びガイド部材22(図示省略)の体表面Bに対する接触力Fは、接触力維持機構の付勢部材40と超音波プローブPの姿勢関係が相対的に変わらないため、付勢部材40による一定の付勢力が作用し、超音波プローブ移動装置10の設置姿勢に関わらず、常に一定の前記接触力Fを体表面Bに作用させることができる。
【0040】
また、前記実施形態では、超音波プローブ移動装置10を妊婦の経腹超音波検査に使用される場合を図示説明したが、本発明はこれに限らず、他の検診を含む超音波プローブPの走査用として使用することも可能である。ここで、移動時に維持される超音波プローブPの姿勢は、前記垂直起立姿勢に限らず、保持体23による超音波プローブPの保持状態を変えることで、所望とする一定の姿勢での維持が可能となる。
【0041】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 超音波プローブ移動装置
11 プローブ保持ユニット(表面形状追従機構)
12 スライド機構
14 下部構造体(受動回転機構)
15 中間構造体(受動回転機構、受動並進機構)
16 上部構造体(受動並進機構)
19 先端支持部(受動回転機構)
20 湾曲レール(受動回転機構)
22 ガイド部材
23 保持体
25 回転ピン(受動回転機構)
31 付勢部材
35 本体フレーム(接触力維持機構)
36 滑車(接触力維持機構)
37 ワイヤ(接触力維持機構)
39 カウンターウエイト(接触力維持機構)
40 付勢部材(接触力維持機構)
B 体表面(表面)
C 接平面
H 被検査者(検査対象)
P 超音波プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8