(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 71/02 20060101AFI20220207BHJP
C08K 5/5425 20060101ALI20220207BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220207BHJP
C09J 171/02 20060101ALI20220207BHJP
C08K 5/5435 20060101ALI20220207BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20220207BHJP
E04F 15/00 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C08L71/02
C08K5/5425
C08K3/013
C09J171/02
C08K5/5435
C08K5/544
E04F15/00 601B
(21)【出願番号】P 2017166243
(22)【出願日】2017-08-30
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2016168870
(32)【優先日】2016-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】305044143
【氏名又は名称】積水フーラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】阪上 祥平
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-048979(JP,A)
【文献】特開2006-117753(JP,A)
【文献】特開2015-086354(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 71/00-71/14
C08K 3/00-13/08
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部と、
ビニル基を有
し且つ(メタ)アクリロキシ基及びグリシジル基を有していない架橋性シリル化合物(B)1~5質量部と、
アミノ基由来の官能基を有
し且つビニル基、(メタ)アクリロキシ基及びグリシジル基を有していない架橋性シリル化合物(C)0.01~0.5質量部と、
(メタ)アクリロキシ基を有する架橋性シリル化合物及び/又はグリシジル基を有する架橋性シリル化合物である、アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)0.05~3質量部と、
硬化触媒(E)と、
無機充填剤(F)とを含
み、
上記架橋性シリル化合物(C)と上記架橋性シリル化合物(B)との質量比(上記架橋性シリル化合物(C)の質量/上記架橋性シリル化合物(B)の質量)が0.002~0.3であることを特徴とする硬化性組成物。
【請求項2】
加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部に対して無機充填剤(F)を70~160質量部含有していることを特徴とする
請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
床下地材又は床暖房パネル上に床仕上げ材を敷設するために用いられる
請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、硬化性組成物を用いて、合板及びモルタルなどの下地材上に床仕上げ材を敷設する方法が用いられている。
【0003】
近年、床下地材と床仕上げ材との間に床暖房を目的として床暖房パネルが配設されることが多くなってきている。床暖房パネルは、特許文献1にあるように、熱媒体の熱を床仕上げ材に効率良く熱伝導させるためにアルミニウム箔などの金属箔を有しており、このような場合は、この金属箔上に床仕上げ材が敷設一体化される。
【0004】
床下地材又は床暖房パネル上に床仕上げ材を敷設するために用いられる硬化性組成物には、床下地材又は床暖房パネルの金属箔上に容易に塗工することができること、床仕上げ材を床下地材又は床暖房パネルの金属箔上に強固に固定することができることが求められている。
【0005】
更に、近年、床仕上げ材のリフォームが行われることも多く、床仕上げ材の床下地材からの剥離が容易であることも求められている。
【0006】
又、床下地材と床仕上げ材との間に床暖房パネルが配設されている場合、床仕上げ材を剥離したときに金属箔も剥離してしまうと、床暖房パネルの構成体である発泡体に損傷を与えるという問題点を生じる。従って、床仕上げ材を剥離する際に、金属箔から容易に剥離することができる硬化性組成物が要求されている。
【0007】
床仕上げ材の剥離が容易な硬化性組成物として、特許文献2には、粉体成分(X)と液体成分(Y)とが混合されてなり、前記粉体成分(X)は、充填材として機能する中空粉体(a)と中実粉体(b)とからなり、前記液体成分(Y)は、湿気によって反応硬化する加水分解性シリル基含有ポリオキシアルキレンポリマー(c)と、高分子重合体を主体とする非反応性の液状成分(d)とからなり、前記粉体成分(X)と前記液体成分(Y)の割合は、重量比で、X:Y=1.0~2.0:1であり、前記中空粉体(a)と前記中実粉体(b)の割合は、容積比で、a:b=1.0~3.3:1であり、前記加水分解性シリル基含有ポリオキシアルキレンポリマー(c)と前記液状成分(d)の割合は、重量比で、c:d=0.5~2.5(ただし、0.5を除く。):1である易剥離性一液湿気硬化型接着剤が開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、(A)架橋性珪素基を有し、数平均分子量が500~50,000である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体と、(B)架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体と、(C)硬化触媒と、(D)充填剤と、(E)前記(A)成分と前記(B)成分との混合物100重量部に対して10重量部以上の有機溶剤とを含有し、 前記(A)成分の分子鎖は、少なくとも(a1)アルキル基の炭素数が1~2である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、(a2)アルキル基の炭素数が3以上である(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、を含み、(a1)と(a2)との質量比(a1):(a2)は90:10~30:70である硬化性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第3187762号公報
【文献】特開2010-111726号公報
【文献】特開2014-25001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記易剥離性一液湿気硬化型接着剤及び硬化性組成物は、床下地材又は床暖房パネルの金属箔上から床仕上げ材を剥離する際に、床仕上げ材を床下地材、特に、金属箔から容易に剥離することができないという問題点を有する。
【0011】
本発明は、硬化前は低粘度で作業性に優れ、床仕上げ材を床下地材及び金属箔などの金属シート上に長期間に亘って強固に接着一体化できる(接着性)と共に、床仕上げ材を床下地材、特に金属シートから容易に剥離する(剥離性)ことができる硬化性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の硬化性組成物は、
加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部と、
ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)1~5質量部と、
アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)0.01~0.5質量部と、
アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)0.05~3質量部と、
硬化触媒(E)と、
無機充填剤(F)とを含むことを特徴とする。
【0013】
〔ポリオキシアルキレン重合体(A)〕
硬化性組成物は、加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)(単に「ポリオキシアルキレン重合体(A)」ということがある)を含有している。
【0014】
加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)は、加水分解性シリル基を有している。本発明において、加水分解性シリル基とは、珪素原子に1~3個の加水分解性基が結合してなる基である。
【0015】
加水分解性シリル基の加水分解性基としては、特に限定されず、例えば、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などが挙げられる。
【0016】
なかでも、加水分解性シリル基としては、加水分解反応が穏やかであることから、アルコキシシリル基が好ましい。アルコキシシリル基としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリイソプロポキシシリル基、及びトリフェノキシシリル基などのトリアルコキシシリル基;メチルジメトキシシリル基、及びメチルジエトキシシリル基などのジアルコキシシリル基;並びに、ジメチルメトキシシリル基、及びジメチルエトキシシリル基などのモノアルコキシシリル基が挙げられる。なかでも、硬化性組成物の接着性に優れていることから、ジアルコキシシリル基がより好ましく、メチルジメトキシシリル基が特に好ましい。
【0017】
加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)は、硬化性組成物の硬化性が向上し、硬化性組成物の硬化物(以下、単に「硬化物」ということがある)の初期強度を高めることができることから、1分子中に平均して1.0~5.0個の加水分解性シリル基を有していることが好ましく、1分子中に平均して1.5~3.0個の加水分解性シリル基を有していることがより好ましい。1分子中の加水分解性シリル基の数平均個数が1.0個以上であると、硬化性組成物の接着性に優れていると共に、硬化性組成物の硬化性が向上し、硬化物の初期強度が向上する。1分子中の加水分解性シリル基の数平均個数が5.0個以下であると、硬化性組成物の剥離性が向上し好ましい。
【0018】
加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)は、硬化性組成物の接着性が向上するので、その分子鎖の末端の少なくとも一方に加水分解性シリル基を有していることが好ましい。
【0019】
ポリオキシアルキレン重合体(A)における、1分子中における加水分解性シリル基の数平均個数は、1H-NMRにより求められるポリオキシアルキレン重合体(A)中の加水分解性シリル基由来のピーク面積の比により、算出することができる。
【0020】
ポリオキシアルキレン重合体(A)としては、主鎖が、一般式:-(R-O)n-(式中、Rは炭素数が1~14のアルキレン基を表し、nは、繰り返し単位の数であって正の整数である。)で表される繰り返し単位を含有する重合体が好ましく挙げられる。ポリオキシアルキレン重合体の主鎖骨格は一種のみの繰り返し単位からなっていてもよいし、二種以上の繰り返し単位からなっていてもよい。
【0021】
ポリオキシアルキレン重合体(A)の主鎖骨格としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド-ポリプロピレンオキサイド共重合体、及びポリプロピレンオキサイド-ポリブチレンオキサイド共重合体などが挙げられる。なかでも、ポリプロピレンオキサイドが好ましい。ポリプロピレンオキサイドによれば、硬化性組成物は接着性に優れる。
【0022】
ポリオキシアルキレン重合体(A)の数平均分子量は、3000~16000が好ましく、4000~12000がより好ましい。数平均分子量が3000以上であるポリオキシアルキレン重合体(A)によれば、硬化性組成物の接着性が向上する。数平均分子量が16000以下であるポリオキシアルキレン重合体(A)によれば、硬化性組成物の剥離性が向上する。
【0023】
1分子中における架橋性シリル基の数平均個数と、ポリオキシアルキレン重合体(A)の数平均分子量の比(1分子中における架橋性シリル基の数平均個数/ポリオキシアルキレン重合体(A)の数平均分子量)は、1/5500~1/1500であることが好ましく、1/4500~1/2000であることがより好ましい。1分子中の架橋性シリル基の数平均個数と、ポリオキシアルキレン重合体(A)の数平均分子量の比が、1/5500以上であると、硬化物の架橋密度を高めることができ、凝集力を上げて、硬化性組成物の接着性を向上させることができる。1分子中の架橋性シリル基の数平均個数と、ポリオキシアルキレン重合体(A)の数平均分子量の比が、1/1500以下であると、硬化性組成物の剥離が向上する。
【0024】
なお、本発明において、ポリオキシアルキレン重合体(A)の数平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法を用いて、ポリスチレンにより換算された値である。例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
【0025】
<測定装置>
Waters社製 製品名「Waters 2690」
<測定条件>
カラム :Shodex GPC KF800D
(4.6mm ID250mm)×2本
カラム温度 :40℃
移動相 :テトラヒドロフラン(0.3mL/分)
サンプル濃度:0.2質量%
検出器 :RI WATERS社製 製品名「2414」
【0026】
〔ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)〕
硬化性組成物は、ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)を含有している。ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)を含有していることによって、硬化性組成物の保存中に、硬化性組成物が、空気中に含まれている水分によって不測に硬化することを抑制することができる。
【0027】
ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)はアミノ基由来の官能基を有していないことが好ましく、アミノ基由来の官能基、(メタ)アクリロキシ基及びグリシジル基を有していないことが好ましい。ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)としては、特に限定されず、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シランなどが挙げられ、ビニルトリメトキシシランが好ましい。ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0028】
硬化性組成物中におけるビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)の含有量は、ポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部に対して1~5質量部であり、2~5質量部が好ましい。ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)の含有量が1質量部以上であると、硬化性組成物の貯蔵安定性及び接着性が向上する。ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)の含有量が5質量部以下であると、硬化性組成物の硬化速度の遅延を抑制することができる。
【0029】
〔アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)〕
硬化性組成物は、アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)を含有している。アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)と加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)とを組み合わせることによって、硬化性組成物は優れた接着性を発現する。
【0030】
本発明において、アミノ基由来の官能基とは、アミノ基、及び、アミノ基の水素原子が他の原子又は原子団によって置換された官能基を含む。アミノ基の水素原子を置換する原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。アミノ基の水素原子を置換する原子団としては、2-アミノエチル基;3-(トリメトキシシリル)プロピル基、3-(トリエトキシシリル)プロピル基などの3-(トリアルコキシシリル)プロピル基、3-(メチルジメトキシシリル)プロピル基などの3-(アルキルジアルコキシシリル)プロピル基などが挙げられる。
【0031】
アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)は、ビニル基を有していないことが好ましく、ビニル基、(メタ)アクリロキシ基及びグリシジル基を有していないことが好ましい。アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)としては、アミノ基由来の官能基を有しておれば、特に限定されず、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N,N’-ビス-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリエトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(メチルジメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ビス-[3-(トリエトキシリル)プロピル]ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。
【0032】
アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、及び、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシランが好ましく挙げられ、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0033】
硬化性組成物中におけるアミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)の含有量は、ポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部に対して0.01~0.5質量部であり、0.2~5質量部がより好ましい。アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)の含有量が0.01質量部以上であると、硬化性組成物の接着性を向上させることができる。アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)の含有量を0.5質量部以下とすることによって、硬化性組成物の剥離性を向上させることができる。
【0034】
硬化性組成物中において、アミノ基を有する架橋性シリル化合物(C)とビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)との質量比(アミノ基を有する架橋性シリル化合物(C)の質量/ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)の質量)は、0.002~0.5が好ましく、0.002~0.3がより好ましく、0.002~0.2が特に好ましい。アミノ基を有する架橋性シリル化合物(C)とビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)との質量比が0.002以上であると、硬化性組成物の接着性を向上させることができる。アミノ基を有する架橋性シリル化合物(C)とビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)との質量比が0.5以下であると、硬化性組成物の剥離性が向上する。
【0035】
〔アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)〕
硬化性組成物は、アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)を含んでいる。アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)はポリオキシアルキレン重合体(A)と組み合わせて用いることによって、硬化性組成物の接着性が向上する。
【0036】
アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)は、アミノ基由来の官能基及びビニル基を有していないことが好ましい。アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)としては、例えば、(メタ)アクリロキシ基を有する架橋性シリル化合物、エポキシ基を有する架橋性シリル化合物、カルボキシ基を有する架橋性シリル化合物、ハロゲン原子を有する架橋性シリル化合物、カルバメート基を有する架橋性シリル化合物、及び、酸無水物基を有する架橋性シリル化合物などが挙げられる。アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。これらの中でも、硬化性組成物が高い接着性及び剥離を両立できるので、(メタ)アクリロキシ基を有する架橋性シリル化合物、エポキシ基を有する架橋性シリル化合物が好ましい。ここで、(メタ)アクリロキシ基とは、アクリロキシ基(CH2=CHCOO-)又はメタクリロキシ基(CH2=CCH3COO-)を意味する。
【0037】
(メタ)アクリロキシ基を有する架橋性シリル化合物としては、例えば、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、及び、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシランなどが挙げられ、硬化性組成物の接着性が向上するので、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0038】
エポキシ基を有する架橋性シリル化合物としては、例えば、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン及び3-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシジル基を有する架橋性シリル化合物、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられ、グリシジル基を有する架橋性シリル化合物が好ましく、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0039】
硬化性組成物中におけるアミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)の含有量は、ポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部に対して0.05~3質量部であり、1~3質量部がより好ましい。アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)の含有量が0.05質量部以上であると、硬化性組成物の接着性が向上する。アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)の含有量が3質量部以下であると、硬化性組成物の剥離性が向上する。
【0040】
〔硬化触媒(E)〕
硬化性組成物は、硬化触媒(E)を含有している。硬化触媒(E)は、ポリオキシアルキレン重合体(A)、ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)、アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)及びアミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)が含有する加水分解性シリル基が加水分解することによって形成されたシラノール基同士の縮合反応を促進するための触媒である。
【0041】
硬化触媒としては、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキサイド、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫フタレート、ビス(ジブチル錫ラウリン酸)オキサイド、ジブチル錫ビス(アセチルアセトナート)、ジブチル錫ビス(モノエステルマレート)、オクチル酸錫、ジブチル錫オクトエート、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)、ビス(ジブチル錫ビストリエトキシシリケート)オキサイド、ジブチル錫オキシビスエトキシシリケート、及び1,1,3,3-テトラブチル-1,3-ジラウリルオキシカルボニル-ジスタノキサンなどの有機錫系化合物;テトラ-n-ブトキシチタネート、及びテトライソプロポキシチタネートなどの有機チタン系化合物などが挙げられる。硬化触媒(E)は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0042】
硬化性組成物中における硬化触媒(E)の含有量は、ポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部に対して0.1~10質量部が好ましく、0.5~5質量部がより好ましい。硬化触媒(E)の含有量が0.1質量部以上であると、硬化性組成物の硬化性が向上する。硬化触媒(E)の含有量が10質量部以下であると、硬化性組成物の熱安定性が向上する。
【0043】
〔無機充填剤(F)〕
硬化性組成物は、無機充填剤(F)を含有している。硬化性組成物が無機充填剤(F)を含有していることによって、硬化性組成物は優れた剥離性を有する。
【0044】
無機充填剤(F)としては、特に限定されず、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、含水ケイ酸、無水ケイ酸、微粉末シリカ、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、クレー、タルク、カーボンブラック、及びガラスバルーンなどが挙げられ、炭酸カルシウムが好ましい。無機充填剤(F)は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0045】
炭酸カルシウムの平均粒子径は、0.01~5μmが好ましく、0.05~2.5μmがより好ましい。炭酸カルシウムの平均粒子径が上記範囲内であると、硬化性組成物の硬化物のゴム弾性及び引張応力を向上させることができ、硬化性組成物の接着性及び剥離性を向上させることができる。
【0046】
硬化性組成物中における無機充填剤(F)の含有量は、ポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部に対して70~160質量部であり、100~140質量部が好ましい。無機充填剤(F)の含有量が70質量部以上であると、硬化性組成物の接着性及び剥離性が向上する。無機充填剤(F)の含有量が160質量部以下であると、硬化性組成物の硬化物のゴム弾性を向上させることができ、硬化性組成物の剥離性を向上させることができると共に、硬化性組成物の硬化前における粘度を抑えて作業性を向上させることができる。
【0047】
〔他の添加剤〕
硬化性組成物は、その作用効果を損なわない範囲内において、チキソ性付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、沈降防止剤など他の添加剤を含んでいてもよい。
【0048】
酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスヒンダードフェノール系酸化防止剤、レスヒンダードフェノール系酸化防止剤及びポリフェノール系酸化防止剤などが挙げられ、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、及びヒンダードアミン系酸化防止剤が好ましく挙げられる。硬化性組成物中における酸化防止剤の含有量は、ポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.3~10質量部がより好ましい。
【0049】
紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤などが挙げられ、及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。硬化性組成物中における紫外線吸収剤の含有量は、ポリオキシアルキレン重合体(A)100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましい。
【0050】
〔硬化性組成物の製造〕
硬化性組成物の製造は、加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)と、ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)、アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)、アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)、硬化触媒(E)及び無機充填剤(F)と、必要に応じて添加される添加剤とを公知の要領で混合することによって行うことができる。混合は減圧下で行うことが好ましい。
【0051】
〔硬化性組成物の使用〕
硬化性組成物は、床下地材上、又は、床下地材上に敷設された床暖房パネル上に、床仕上げ材を敷設一体化させるために用いることができる。
【0052】
床下地材を構成する部材としては、例えば、合板、パーチクルボード、木根太、石膏ボード、スレート板、及びコンクリート板などが挙げられる。
【0053】
床暖房パネルは、汎用のものを用いることができ、発泡シートからなり且つ熱媒体を流通させる流通管を配設するための配設用凹部を有するパネル本体と、上記配設用凹部に配設された流通管と、パネル本体上に配設される金属箔などの金属シートとを有している。
【0054】
床仕上げ材を構成する部材としては、例えば、合板、ミディアム・デンシティ・ファイバーボード(MDF:Medium Density Fiberboard)、タイル、塩化ビニルシート、及び石材などが挙げられる。
【0055】
床仕上げ材を床下地材上に直接、敷設一体化する場合は、床下地材上に硬化性組成物を塗工した後、この塗工面上に床仕上げ材を敷設し、しかる後、所定期間に亘って養生することによって、硬化性組成物を空気中の湿気によって硬化させて床下地材と床仕上げ材とを接着一体化させて床構造を構築することができる。
【0056】
床下地材上に配設された床暖房パネル上に床仕上げ材を敷設一体化させる場合は、床暖房パネルの金属シート上に硬化性組成物を塗工した後、この塗工面上に床仕上げ材を敷設し、しかる後、所定期間に亘って養生することによって、硬化性組成物を空気中の湿気によって硬化させて、床暖房パネルの金属シートと床仕上げ材とを接着一体化させて床構造を構築することができる。
【0057】
上記硬化性組成物は、優れた接着性を有していることから、床仕上げ材を床下地材又は床暖房パネル上に長期間に亘って強固に敷設一体化させることができ、長期間に亘って安定した床構造を構築することができる。
【0058】
そして、床仕上げ材は、リフォームなどによって剥離、除去されることがあるが、硬化性組成物は、優れた剥離性を有することから、床仕上げ材を床下地材又は床暖房パネルから容易に剥離、除去することができる。硬化性組成物は、特に、金属シートに対して優れた剥離性を有しており、床暖房パネルの金属シート上に敷設一体化された床仕上げ材を金属シートから金属シートを損傷させることなく容易に剥離、除去することができる。よって、床仕上げ材の交換を伴うリフォーム作業を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0059】
本発明の硬化性組成物は、上述の如き構成を有しているので、硬化前は低粘度で作業性に優れ、床仕上げ材を床下地材及び金属箔などの金属シート上に長期間に亘って強固に接着一体化できると共に、床仕上げ材を床下地材、特に金属シートから容易に剥離することができる
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0061】
実施例及び比較例において、下記の化合物を使用した。
〔加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A)〕
・加水分解性シリル基含有ポリオキシアルキレン重合体(A1)(数平均分子量Mn:9000、カネカ社製 商品名「EST280」、メチルジメトキシシリル基を1分子中に数平均で2.2個含有)
・加水分解性シリル基含有ポリアルキレンオキサイド(A2)(数平均分子量Mn:4500、金淵工業化学社製 商品名「SAX015」、メチルジメトキシシリル基を1分子中に数平均で2.1個)
〔ビニル基を有する架橋性シリル化合物(B)〕
・ビニルトリメトキシシラン(B)
〔アミノ基由来の官能基を有する架橋性シリル化合物(C)〕
・N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(C)
〔アミノ基由来の官能基以外の官能基を有する架橋性シリル化合物(D)〕
・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(D1)(グリシジル基を有する架橋性シリル化合物)
・3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(D2)(アクリロキシ基を有する架橋性シリル化合物)
〔硬化触媒(E)〕
・有機錫硬化触媒(E)(ジブチル錫ジアセチルアセトナート、日東化成社製 商品名「U―220H」)
〔無機充填材(F)〕
・炭酸カルシウム(F)(日東粉化社製 商品名「NCC2310」、平均粒子径:0.1μm)
〔酸化防止剤〕
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバジャパン社製 商品名「irganox1010」)
【0062】
(実施例1~9、比較例1~4)
加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A1)、加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体(A2)及び炭酸カルシウム(F)を表1に示した所定量ずつ攪拌機に供給して均一に混合した後、10分間に亘って減圧脱泡した。
【0063】
次に、表1及び表2に示した所定量ずつの有機錫硬化触媒(E)、ビニルトリメトキシシラン(B)、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(C)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(D1)、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(D2)及びヒンダードフェノール系酸化防止剤を上記攪拌機に供給して均一に混合した後、10分間に亘って減圧脱泡して白色ペースト状の硬化性組成物を得た。
【0064】
なお、表1において、加水分解性シリル基を有するポリオキシアルキレン重合体は、単に「ポリオキシアルキレン重合体」と記載した。
【0065】
得られた硬化性組成物について、粘度、粘度比、平面引張試験及び剥離性を下記の要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0066】
(粘度)
硬化前の硬化性組成物の粘度(Pa・s)をBH型回転粘度計(東京計器社製)を用いて回転数10rpm、23℃の条件下にて測定した。
【0067】
(粘度比)
硬化前の硬化性組成物における回転数1rpm及び回転数10rpmの粘度(Pa・s)をBH型回転粘度計(東京計器社製)を用いて23℃の条件下にて測定し、粘度比(回転数1rpmの粘度/回転数10rpmの粘度)を算出した。
【0068】
(平面引張試験:木材)
硬化性組成物を一辺が70mmの平面正方形状のラワン合板(厚さ12mm)上に400g/m2塗工した。ラワン合板の硬化性組成物の塗工面上に、一辺が40mmの平面正方形状の針葉樹合板(厚さ12mm)を載置した後、針葉樹合板上に0.01MPaの荷重を30秒間加えて圧着させて試験体を作製した。しかる後、試験体を23℃、相対湿度50%の雰囲気下に2週間静置させた。次に、インストロン引張試験機(インストロンジャパン社製)を用いてクロスヘッドスピード5mm/分で試験体の引張試験を行い、試験体の針葉樹合板が破壊した面積割合を測定した。
【0069】
(平面引張試験:アルマイト合金)
硬化性組成物をJIS H4000に規定されているA5052Pの第1アルマイト合金板(縦50mm×横12mmの平面長方形状、厚さ4mm)上に400g/m2塗工した。第1アルマイト合金板の硬化性組成物の塗工面上に、JIS H4000に規定されているA5052Pのアルマイト合金板(縦50mm×横12mmの平面長方形状、厚さ4mm)を載置した。なお、第1アルマイト合金板及び第2アルマイト合金板の縦方向同士が直交するようにした。第1アルマイト合金板及び第2アルマイト合金板の重複部分上に0.01MPaの荷重を30秒間かけて圧着させて試験体を作製した。しかる後、試験体を23℃、相対湿度50%の雰囲気下に1週間静置させた。次に、インストロン引張試験機(インストロンジャパン社製)を用いてクロスヘッドスピード5mm/分で試験体の引張試験を行い、第1アルマイト合金板と第2アルマイト合金板との間の引張応力の最大値を測定した。
【0070】
(剥離性1)
「平面引張試験:アルマイト合金」の測定時と同様の要領で試験体を作製、静置させた。インストロン引張試験機(インストロンジャパン社製)を用いて、第1アルマイト合金板を固定すると共に、第2アルマイト合金板を第1アルマイト合金板との接着部分から縦方向に1cmだけ離間した部分において固定した。クロスヘッドスピード5mm/分にて引張試験を行った。第1アルマイト合金板と第2アルマイト合金板との接着部分において、硬化性組成物の硬化物と第1アルマイト合金板との界面で剥離した割合を算出した。
【0071】
(剥離性2)
硬化性組成物をJIS H4000に規定されているA5052Pのアルマイト合金板(縦50mm×横12mmの長方形状、厚さ4mm)の上に400g/m2塗工し、23℃、相対湿度50%の雰囲気下に1週間静置させた。しかる後、エタノールで清浄にした指で擦ることで硬化性組成物の硬化物の除去が可能か否かを確認した。下記の基準に基づいて評価した。
○:硬化性組成物を除去できた
×:硬化性組成物を除去できなかった
【0072】