(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】包装用容器の製造方法及び包装用容器
(51)【国際特許分類】
D21J 3/10 20060101AFI20220125BHJP
D21H 13/10 20060101ALI20220125BHJP
B65D 1/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
D21J3/10
D21H13/10
B65D1/00 110
(21)【出願番号】P 2021547144
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011262
【審査請求日】2021-08-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】509119197
【氏名又は名称】株式会社エイエムジー
(74)【代理人】
【識別番号】100127328
【氏名又は名称】八木澤 史彦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宏紀
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-322699(JP,A)
【文献】特開平03-113091(JP,A)
【文献】特開昭52-043886(JP,A)
【文献】特開昭51-042677(JP,A)
【文献】特開昭50-016779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21J 3/00-3/12
D21J 5/00
D21J 7/00
D21H 11/00-27/42
B65D 1/00-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維と、熱可塑性樹脂で構成される樹脂繊
維と、を含む混合液を生成する混合液生成工程と、
前記混合液中に、複数の貫通孔を有する網状部材が配置された第一型部材を配置し、前記混合液を前記第一型部材へ向かう方向に吸引することによって、前記網状部材と接した状態において、第一前段品を生成する第一前段品生成工程と、
前記第一前段品を乾燥して第二前段品を生成する乾燥工程と、
第二型部材を使用して、前記第二前段品を加熱しつつ圧縮成形することによって、所定の形状を有する包装用容器を生成する成形工程と、
を有し、
前記成形工程において、前記第二型部材の温度を前記熱可塑性樹脂の融点よりも高い所定の温度範囲における基準温度(temp1)に設定し、前記包装用容器の厚さ(d2)に対する前記第二前段品の厚さ(d1)の比である圧縮比(d1/d2)を所定の基準圧縮比(n1)とし、前記成形工程の実施時間を所定の基準時間(t1)とし、
前記基準圧縮比(n1)及び前記基準時間(t1)は、前記包装用容器において前記植物繊維に対する前記熱可塑性樹脂の割合が、前記包装用容器の厚さ方向における中心側の部分に対して、表面側の部分において相対的に大きくなるように規定さ
れ、
前記樹脂繊維は、ポリオレフィン系の多分岐繊維である、
包装用容器の製造方法。
【請求項2】
前記基準圧縮比(n1)は、溶融した前記熱可塑性樹脂が前記第二前段品の表面側に効果的に移動するために、ペーパーモールドの標準的な製造条件である標準条件における圧縮比よりも大きな圧縮比として規定される、
請求項1に記載の包装用容器の製造方法。
【請求項3】
前記基準時間(t1)は、溶融した状態の前記熱可塑性樹脂が、前記第二前段品の厚さ方向において、前記第二前段品の表面側に移動した後、前記第二前段品の中心側に戻る挙動を抑制するために、ペーパーモールドの標準的な製造条件である標準条件における圧縮時間よりも短い時間として規定される、
請求項1に記載の包装用容器の製造方法。
【請求項4】
前記基準圧縮比(n1)はペーパーモールドにおける標準的な圧縮比よりも大きい圧縮比として規定されており、前記基準時間(t1)はペーパーモールドにおける標準的な時間よりも短い時間として規定されている、
請求項1に記載の包装用容器の製造方法。
【請求項5】
前記混合液において、前記植物繊維の重量(w1)に対する前記熱可塑性樹脂の重量(w2)の割合(w2/w1)は、ペーパーモールドにおける標準的な割合よりも小さい範囲において規定される基準割合(m1)である、
請求項1に記載の包装用容器の製造方法。
【請求項6】
植物繊維中に熱可塑性樹脂
で構成される樹脂繊維が分布した基材によって生成された包装用容器であって、
前記基材の厚さ方向において、前記植物繊維に対する前記熱可塑性樹脂の割合が、厚さ方向における中心側の部分に対して、表面側の部分において相対的に大きくなって
おり、
前記樹脂繊維は、ポリオレフィン系の多分岐繊維である、
包装用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスカラなどの化粧品を格納した容器を包装するための包装用容器の製造方法及び包装用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、包装用容器として、機械的強度に加えて、環境への負荷が小さいことが要求されている。そのような要求に応じるために、紙を溶解することによって得た繊維を所望の形状に成形するペーパーモールド(パルプモールドともいう。)という技術が利用されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-199872号公報
【文献】特開昭52-43886号公報(特許公報昭56―54220)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本明細書において、「ペーパーモールド」は、紙繊維などの植物繊維を液体に分散させ、金網で抄き上げる工程と乾燥工程を含む紙成形品の製法を意味するものとして使用する。そして、「成形品」は、ペーパーモールドによって生成された紙成形品を意味するものとして使用する。また、「吸湿性」は、物質が水分を吸収する性質を意味するものとし、「吸湿性が大きい」とは、物質が水分を吸収し易いことを意味するものとする。そして、「耐吸湿性」は、物質が水分を吸収しにくい性質を意味するものとし、「耐吸湿性が大きい」とは、物質が水分を吸収しにくいことを意味するものとする。
【0005】
ペーパーモールドは、石油由来の原料を使用しないので、環境への負荷が小さいという利点がある。その反面、ペーパーモールドによって生成した成形品は、水分を吸収し易い。すなわち、成形品の吸湿性が大きいという不利益な性質がある。成形品が水分を吸収し、その後、吸収した水分が蒸発すると、元の成形品の形状には戻らず、変形する。
【0006】
本発明は、上記を踏まえて、環境への負荷が小さく、かつ、水分を吸収しにくい、ペーパーモールドを利用した包装用容器の製造方法及び包装用容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の発明は、植物繊維と、熱可塑性樹脂で構成される樹脂繊維及び/または樹脂粉末と、を含む混合液を生成する混合液生成工程と、前記混合液中に、複数の貫通孔を有する網状部材が配置された第一型部材を配置し、前記混合液を前記第一型部材へ向かう方向に吸引することによって、前記網状部材と接した状態において、第一前段品を生成する第一前段品生成工程と、前記第一前段品を乾燥して第二前段品を生成する乾燥工程と、第二型部材を使用して、前記第二前段品を加熱しつつ圧縮成形することによって、所定の形状を有する包装用容器を生成する成形工程と、を有し、前記成形工程において、前記第二型部材の温度を前記熱可塑性樹脂の融点よりも高い所定の温度範囲における基準温度(temp1)に設定し、前記包装用容器の厚さ(d2)に対する前記第二前段品の厚さ(d1)の比である圧縮比(d1/d2)を所定の基準圧縮比(n1)とし、前記成形工程の実施時間を所定の基準時間(t1)とし、前記基準圧縮比(n1)及び前記基準時間(t1)は、前記包装用容器において前記植物繊維に対する前記熱可塑性樹脂の割合が、前記包装用容器の厚さ方向における中心側の部分に対して、表面側の部分において相対的に大きくなるように規定される、
包装用容器の製造方法である。
【0008】
ペーパーモールドにおいて樹脂を使用する目的は、通常、成形品の機械的強度の増加(以下、「通常目的」という。)である。通常目的の観点からは、成形品の内部において樹脂が均一に分布する状態が望ましいから、成形品の内部において樹脂が均一に分布するような製造条件が要求される。以下、植物繊維と熱可塑性樹脂(以下、単に「樹脂」とも呼ぶ。)を含む成形品の内部において熱可塑性樹脂が均一に分布するためのペーパーモールドの標準的な製造条件を「標準条件」と呼ぶ。標準条件は、植物繊維の種類と樹脂の種類等によって規定されるのであるが、当業者において、成形品の内部において樹脂が均一に分布し、その結果、機械的強度が増加するための条件、すなわち、標準条件は、少なくとも経験に基づいて、当然に理解できる。成形品の耐吸湿性を向上させるために、樹脂の含有量を大きくするのが有効である(例えば、特許文献2)。しかし、樹脂の含有量を大きくすると、環境への負荷が大きくなるという問題がある。これに対して、本発明の発明者は、通常目的ではなく、耐吸湿性の向上を目的とし、環境保護の観点から、樹脂の量を抑制しつつ、成形品の耐吸湿性を向上する技術の開発を行った。この結果、成形品としての包装用容器の厚さ方向(包装用容器の基材の厚さ方向。以下同じ。「第二前段品の厚さ方向」も同様の意味である。)の中心部に対して、表面側の領域に樹脂を相対的に多く分布させる技術に想到した。この技術は、本発明の発明者が独自に開発した技術であり、以下、「表面拡散」と呼ぶ。表面拡散は、熱可塑性樹脂は加熱されると溶融して流動体となるが、植物繊維は加熱されても流動体とはならないという性質に着目し、熱可塑性樹脂が植物繊維の間を流動する挙動を制御(以下、「流動制御」と呼ぶ。)するものである。具体的には、第一の発明の構成のとおり、第二前段品を加熱しつつ圧縮するときに所定の基準圧縮比を適用することによって、溶融した樹脂を第二前段品の表面側に移動させ、さらに、所定の基準時間を適用することによって、第二前段品の表面側に移動した樹脂が中心側に戻る挙動を抑制するものである。本発明の発明者の実験により、包装用容器の厚さ方向における中心側に位置する樹脂は、耐吸湿性向上に対する寄与が小さいことが判明した。第一の発明の構成によれば、包装用容器の表面側に相対的に多くの樹脂を分布させることができるから、耐吸湿性向上のために、樹脂が相対的に少量で足りる。これにより、環境への負荷が小さく、かつ、水分を吸収しにくい、ペーパーモールドを利用した包装用容器を製造することができる。なお、第二前段品は、成形工程の過程において、変形し、最終的に包装用容器に至るのであるが、成形工程が開始して、包装用容器に至る変形中の状態も「第二前段品」と呼ぶ。
【0009】
第二の発明は、第一の発明の構成において、前記基準圧縮比(n1)は、溶融した前記熱可塑性樹脂が前記第二前段品の表面側に効果的に移動するために、ペーパーモールドの標準的な製造条件である標準条件における圧縮比よりも大きな圧縮比として規定される、包装用容器の製造方法である。
【0010】
本発明の発明者は、第二前段品を圧縮して包装用容器を生成するときの圧縮比が標準条件の場合には、溶融した樹脂を第二前段品の表面側へ流動させる流動制御を効果的に実施できないことを見出した。これは、圧縮比が小さい場合には、第二前段品の厚さ方向における中心部に分布する樹脂を表面側に押し出す力が不十分であることによると、考えられる。この点、第二の発明の構成によれば、基準圧縮比(n1)は、ペーパーモールドの標準的な製造条件である標準条件における圧縮比よりも大きな圧縮比として規定されているから、樹脂を第二前段品の表面側へ移動させる流動制御を効果的に実施することができる。
【0011】
第三の発明は、第一の発明の構成において、前記基準時間(t1)は、溶融した状態の前記熱可塑性樹脂が、前記第二前段品の厚さ方向において、前記第二前段品の表面側に移動した後、前記第二前段品の中心側に戻る挙動を抑制するために、ペーパーモールドの標準的な製造条件である標準条件における圧縮時間よりも短い時間として規定される、包装用容器の製造方法である。
【0012】
本発明の発明者は、第二前段品を加熱しつつ圧縮するときの時間(圧縮時間)が標準条件における時間の場合には、溶融状態の熱可塑性樹脂が、いったん第二前段品の表面側へ移動した後、中心側へ戻る挙動があることを見出し、この挙動を抑制する流動制御が表面拡散に有用であることに想到した。第三の発明の構成によれば、基準時間(t1)は、ペーパーモールドの標準的な製造条件である標準条件における圧縮時間よりも短い時間として規定されるから、第二前段品の表面側へ移動した樹脂が中心側へ戻る挙動を制限することができる。
【0013】
第四の発明は、第一の発明の構成において、前記基準圧縮比(n1)はペーパーモールドにおける標準的な圧縮比よりも大きい圧縮比として規定されており、前記基準時間(t1)はペーパーモールドにおける標準的な時間よりも短い時間として規定されている、包装用容器の製造方法である。
【0014】
本発明の発明者は、表面拡散を実施するための流動制御を実現する条件として、標準条件の圧縮比よりも大きな圧縮比で、かつ、標準条件の時間よりも短時間で成形工程を実施することが有益であることを見出した。大きな圧縮比によって、溶融した熱可塑性樹脂を第一前段品の表面側に押し出し、かつ、成形工程を短時間で実施することによって、樹脂が表面側に相対的に多く分布する状態を維持することができると考えられる。また、大きな圧縮比によって、成形品の密度を大きくすることができるから、樹脂の量が、標準条件における樹脂の量よりも少ない場合であっても、成形品の機械的強度を確保することができる。第四の発明の構成によれば、基準圧縮比(n1)はペーパーモールドによる標準的な圧縮比よりも大きい圧縮比として規定されており、基準時間(t1)はペーパーモールドにおいて樹脂繊維を使用する標準的な時間よりも短い時間として規定されているから、機械的強度を確保しつつ、表面拡散の効果を十分に奏することができる。
【0015】
第五の発明は、第一の発明の構成において、前記混合液において、前記植物繊維の重量(w1)に対する前記樹脂繊維の重量(w2)の割合(w2/w1)は、ペーパーモールドにおける標準的な割合よりも小さい範囲において規定される基準割合(m1)である、請求項1に記載の包装用容器の製造方法である。
【0016】
表面拡散によれば、成形品において、樹脂を中心側よりも表面及び表面近傍に相対的に多く分布させることができる。これにより、水分が成形品の外部から内部へ侵入することを防止することができる。すなわち、成形品の全体に樹脂を均一に分布させるのではなく、表面側に多くの樹脂を分布させるから、樹脂の量を標準条件における量よりも少なくすることができる。このことは、環境への負荷が小さいことを意味する。この点、第五の発明の構成によれば、混合液において、紙繊維の重量(w1)に対する樹脂繊維の重量(w2)の割合(w2/w1)は、ペーパーモールドにおける標準的な割合よりも小さい割合として規定されているから、環境への負荷を小さくしつつ、表面拡散の効果を奏することができる。
【0017】
第六の発明は、植物繊維中に熱可塑性樹脂が分布した基材によって生成された包装用容器であって、前記基材の厚さ方向において、前記植物繊維に対する前記熱可塑性樹脂の割合が、厚さ方向における中心側の部分に対して、表面側の部分において相対的に大きくなっている、包装用容器である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環境への負荷が小さく、かつ、水分を吸収しにくい、ペーパーモールドを利用した包装用容器の製造方法及び包装用容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態にかかる包装用容器を表側から視た概略斜視図である。
【
図2】包装用容器を裏側から視た概略斜視図である。
【
図7】吸引工程から乾燥工程へ移動する工程を示す概略図である。
【
図13】第二前段品の内部の状態を示す概念図である。
【
図14】成形工程の中間段階における第二前段品の内部の状態を示す概念図である。
【
図15】成形工程の中間段階における第二前段品の内部の状態を示す概念図である。
【
図16】成形工程の最終段階における第二前段品の内部の状態を示す概念図である。
【
図17】包装用容器の製造方法を示す概略フローチャートである。
【
図19】第二前段品の実施品の表面を示す図である。
【
図20】第二前段品の実施品の断面を示す図である。
【
図23】包装用容器の耐吸湿性を説明するための概念図である。
【
図24】包装用容器のプラスチックフィルムとの接着性を示す概念図である。
【
図25】包装用容器のアルミ箔との接着性を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。以下の説明においては、同様の構成には同じ符号を付し、その説明を省略又は簡略する。なお、当業者が適宜実施できる構成については説明を省略し、本発明の基本的な構成についてのみ説明する。
【0021】
<包装用容器の構成>
図1及び
図2に示すように、包装用容器1(以下、「容器1」という。)は、基材2によって生成される。容器1は、熱可塑性樹脂を使用したペーパーモールドによって製造される。容器1は、包装用容器の一例である。
【0022】
基材2は、植物繊維中に熱可塑性樹脂(以下、単に「樹脂」ともいう。)が分布して構成されている。なお、適宜、添加剤等を加えてもよい。
【0023】
植物繊維は、例えば、紙を構成する植物繊維である。紙を構成する植物繊維を「紙繊維」と呼ぶ。紙繊維は、例えば、木材由来の植物繊維であり、木材の元になる樹木は、広葉樹として、ブナ、カエデ、クリ、キリ、カバ、ニレ等があり、針葉樹として、スギ、マツ、モミ、ヒノキ、ツガ等があるが、これらに限定されない。なお、植物繊維は、紙を構成する繊維に限定されず、例えば、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、針葉樹(杉、檜等)、広葉樹及び綿花などの各種の植物が有する繊維であってもよい。本実施形態においては、植物繊維を構成する繊維として、紙を構成する繊維を使用する。
【0024】
熱可塑性樹脂の形態としては、樹脂繊維、または、粉末状の樹脂を使用する。本実施形態においては、樹脂繊維を使用する。なお、本実施形態とは異なり、樹脂繊維と粉末状の樹脂の双方を使用してもよい。
【0025】
樹脂繊維の種類は、例えば、ポリオレフィン樹脂繊維及びポリエステル樹脂繊維であるが、これらに限定されない。ポリオレフィン樹脂繊維を構成するポリオレフィン樹脂は、未変性のポリオレフィン樹脂、または、変性されたポリオレフィン樹脂である。未変性のポリオレフィン樹脂の場合、プロピレン単独重合体、エチレン/プロピレンランダム共重合体、エチレン/プロピレンブロック共重合体等のプロピレン系重合体が望ましい。さらに、変性されたポリオレフィン樹脂である場合、カルボン酸又は酸無水物を用いて酸変性された変性ポリオレフィン樹脂等を用いることができる。未変性樹脂と変性樹脂とを併用してもよい。また、ポリエステル樹脂繊維を構成するポリエステル樹脂は、例えば、生分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂である。この生分解性樹脂として、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル樹脂(乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3-ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体、及び2種以上の酸を用いた共重合体等)、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル樹脂(ポリカプロラクトン、上記のヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体等)、及び二塩基酸ポリエステル樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等)等がある。
【0026】
本発明において、樹脂繊維は、多分岐繊維(樹脂繊維型分岐繊維)である。本実施形態においては、ポリオレフィン系の多分岐繊維を使用する。
【0027】
基材2は、所定の厚さを有する板状の素材であり、第一面2a、第二面2b及び側面2cを有する。基材2には、化粧品容器を格納するために、陥没部2dが生成されている。陥没部2dは、第一面2aにおいて凹状であり、第二面2bにおいて凸状である。第一面2a側の陥没部2dに、マスカラ容器などの化粧品容器が配置される。その後、第一面2aの陥没部2dを除く全体にプラスチックフィルムが溶着される。第二面2b側には、製造者のロゴなどの形状に切断された金属箔が溶着される。金属箔は、例えば、アルミ箔である。本実施形態において、第一面2a及び第二面2bを基材2の「表面」と呼ぶ。第一面2aと第二面2bの間を基材2の「内側」と呼ぶ。基材2の厚さ方向において、第一面2aと第二面2bの中心位置を基材2の「中心」と呼ぶ。相対的な概念として、中心を含む領域を「中心領域」、「中心領域」に対して表面に近い領域を「表面側の領域」と呼ぶ。本明細書において、容器1の「表面」、「内側」または「中心」は、基材2の「表面」、「内側」、「中心」と同義であるとする。このことは、後述の第一前段品1A及び第二前段品1Bについて、表面、内側または中心というときにも同様であり、それぞれ、第一前段品1Aの基材(板状の素材)及び第二前段品1Bの基材(板状の素材)についての表面、内側または中心を意味する。
【0028】
容器1は、基材2の厚さ方向において、中心側の部分に比べて、表面及び表面近傍(以下、「表面側」ともいう。)に樹脂を相対的に多く分布させる技術(表面拡散)によって製造される。この結果、基材2の厚さ方向において、熱可塑性樹脂は、中心側の部分に対して、表面側の部分において相対的に多く分布している。これにより、植物繊維の重量に対する熱可塑性樹脂の重量の割合、すなわち、植物繊維に対する熱可塑性樹脂の割合は、基材2の厚さ方向において、中心側の部分に対して、表面側の部分において、相対的に大きくなっている。
【0029】
<包装用容器の製造工程の概要>
上述のように、成形品において樹脂の分布を均一にするためのペーパーモールドの製造条件を「標準条件」と呼ぶ。標準条件によって、成形品の機械的強度を増加する目的が達成される。これに対して、本実施形態において、樹脂は、成形品の機械的強度を増加する目的で使用されるのではなく、耐吸湿性を向上するために使用される。また、本実施形態において、樹脂は使用しつつ、樹脂の含有量を低減しつつ、耐吸湿性を向上させることができる。本実施形態において、製造条件を、あえて標準条件とは異なるようにすることによって、耐吸湿性向上の目的を達成している。ただし、機械的強度も相応に必要であるが、本実施形態において、機械的強度は、後述するように、樹脂の量の増加によってではなく、標準条件よりも大きい圧縮比によって実現する。別の観点では、本実施形態において、樹脂は機械的強度の向上には、寄与が小さい、あるいは、実質的に寄与しない。樹脂は、成形品の表面近傍に位置することによって、耐吸湿性向上に寄与する。本実施形態においては、標準条件と全く異なる製造方法を採用することによって、上述の流動制御を実施し、表面拡散を実現している。表面拡散によって、耐吸湿性の向上が達成され、表面拡散において使用される圧縮比によって、植物繊維の密度が大きくなり、その結果として、成形品の機械的強度が相応に向上する。以下、
図3を参照して、容器1の製造工程の概要を説明する。
【0030】
容器1は、製造システム100によって製造される。製造システム100の主な構成は、混合液製造槽6、混合液調整装置8、第一前段品生成装置10、乾燥装置30及び成形装置20である。
【0031】
混合液製造槽6は、所定の液体中に、紙と、熱可塑性樹脂で構成される樹脂繊維とを投入し、紙繊維と樹脂繊維とを含む混合液60を製造するための装置である。混合液製造槽6は、植物繊維と、熱可塑性樹脂で構成される樹脂繊維及び/または樹脂粉末とを含む混合液を生成する混合液生成工程を実施するための装置の一例である。すなわち、混合液製造槽 6は、混合液製造手段の一例である。混合液製造槽6において実施される処理は混合液生成工程の一例である。
【0032】
本実施形態において、所定の液体として、水を使用する。紙としては、白色のコピー用紙を使用する。なお、所定の液体は、水に限定されない。紙としては、白色のコピー用紙に限定されず、例えば、着色したコピー用紙、古新聞、古雑誌、段ボール等を使用してもよい。熱可塑性樹脂で構成される樹脂繊維として、例えば、ポリオレフィン系の樹脂で構成される多分岐繊維を使用する。多分岐繊維として、例えば、三井化学株式会社のSWP(登録商標)を使用し、例えば、E400というグレードを使用する。E400の融点は摂氏135度(℃)である。
【0033】
混合液製造槽6に、水と、紙及び樹脂繊維が投入される。この状態において、攪拌装置7によって水流を発生させると、所定時間経過後に、紙は紙繊維に分解し、紙繊維と樹脂繊維が実質的に均一に分散した混合液60が生成される。
【0034】
混合液60において、紙繊維62の重量(w1)に対する樹脂繊維64の重量(w2)の割合(w2/w1)は、標準条件における割合よりも小さい所定範囲において規定される基準割合(m1)である。例えば、標準条件における割合(w2/w1)は20パーセント(%)以上40パーセント以下であるが、基準割合(m1)は、5パーセント以上12パーセント以下の範囲において規定される。本実施形態においては、基準割合(m1)は、7パーセントとする。
【0035】
混合液製造槽6において生成された混合液60は、矢印F1に示すように、混合液調整装置8に移される。混合液調整装置8において、混合液60から、金属などの異物が除去される。さらに、混合液調整装置8において、混合液60中の水分が所定量除去され、混合液60の濃度が調整される。混合液調整装置8は、混合液調整手段の一例である。混合液調整装置8において実施される処理は混合液調整工程の一例である。
【0036】
混合液調整装置8において調整された混合液60は、矢印F2に示すように、第一前段品生成装置10に移される。第一前段品生成装置10は、混合液槽12及び吸引装置14から構成される。混合液槽12に、混合液調整装置8で調整された混合液60が入れられる。
【0037】
吸引装置14は、複数の貫通孔を有する網状部材(図示せず)が配置された第一型部材18A及び18Bを備える。第一型部材18Aが混合液60内に配置されている場合には、吸引装置14は、第一型部材18Aの上方から混合液60を吸引し、第一型部材18Aの網状部材の下方に所定の厚さ(d0)を有する第一前段品1Aを生成する。第一前段品1Aは、紙繊維及び樹脂繊維が実質的に均一に分布した状態の生成品である。第一前段品生成装置10は第一前段品生成手段の一例である。第一前段品生成装置10において実施される処理は第一前段品生成工程の一例である。
【0038】
第一前段品生成装置10によって生成された第一前段品1Aは、移送装置40によって、乾燥装置30に移送される。乾燥装置30において、第一前段品1Aの乾燥が実施され、水分が除去され、第二前段品1Bが生成される。第一前段品1A及び第二前段品1Bの形状は、
図1及び
図2に示す容器1と略相似形状であり、その外形は容器1よりも大きい。
【0039】
第二前段品1Bは、移送装置50によって、成形装置20に移送される。成形装置20において、第二型部材22を使用して、第二前段品1Bを加熱しつつ圧縮成形することによって、所定の形状を有する容器1が生成される。成形装置20は成形装置の一例である。成形装置20によって実施される処理は成形工程の一例である。
【0040】
<第一前段品生成工程について>
以下、
図4乃至
図7を参照して、第一前段品生成工程を詳細に説明する。
図4乃至
図7に示すように、第一前段品生成装置10は、混合液槽12及び吸引装置14で構成される。混合液槽12は、液体を格納するための容器であり、混合液60が格納される。
図4に概念的に示すように、混合液槽12における混合液60には、紙繊維62と樹脂繊維64が実施的に均一に分散している。
【0041】
吸引装置14は、中心部材16、中間部材17A及び17B、第一型部材18A及び18Bから構成される。吸引装置14は、中心部材16を回動軸として、
図5の矢印A1方向に回動可能に構成されている。中心部材16は、真空吸引装置(図示せず)と接続されている。中間部材17A及び17Bは中空の部材である。第一型部材18A及び18Bは、混合液60から板状の第一前段品1Aに生成するための型である。第一型部材18A及び18Bは、中間部材17A及び17Bと接続していない方の面が開口した箱状の部材であり、底部18aは多数の貫通孔が形成された網状部材(図示せず)で構成されている。
底部18aは凸部を有する。真空吸引装置によって発生させる負圧は、中心部材16及び中間部材17A及び17Bを介して底部18aを構成する網状部材に作用する。
【0042】
図4に示すように、第一型部材18Aが混合液60内に配置された状態において、真空吸引装置を作動させ、矢印Z1に示す第一型部材18Aに向かう方向、すなわち、上方に向かって混合液60吸引すると、
図5に示すように、第一型部材18Aの底部18aを構成する網状部材の表面に混合液60中の紙繊維62及び樹脂繊維64が積層し、厚さd0を有する生成品として、第一前段品1Aが生成される。第一前段品1Aの厚さd0は、例えば、3.0ミリメートル(mm)である。第一前段品1Aの密度は、例えば、0.20グラム/立法センチメートル(g/cm
3)である。
【0043】
第一型部材18Aにおいて第一前段品1Aの生成が完了すると、
図5に示すように、吸引装置14は矢印A1方向に回転し、
図6に示すように、第一型部材18Aが上方に位置を変更する。そして、第一型部材18Bが下方に位置を変更し、混合液60中に配置される。
【0044】
図6に示す状態において、第一前段品1Aは、移送装置40の保持部44によって保持される。移送装置40の保持部44は、軸部42に接続されている。第一前段品1Aは、軸部42内に配置された吸引機構によって矢印Z1方向に吸引され、
図7に示すように、保持部44に吸着し、保持される。吸引機構としては、移送装置40の外部に第二の真空吸引装置を備え、軸部42に接続するように構成してもよい。
【0045】
図7の状態から、軸部42が矢印X1に示す水平方向へ移動して、第一前段品1Aを簡乾燥装置30に移送する。
【0046】
<乾燥工程について>
図3を参照して、乾燥工程について説明する。乾燥装置30は、ベルトコンベアー32及びヒーター(図示せず)を備える箱状の装置である。乾燥装置30の内部が所定の温度に調整された状態において、第一前段品1Aは、ベルトコンベアー32上に載置され、矢印X1方向へ移動させられる。第一前段品1Aに含まれる水分は、乾燥装置30内において矢印X1方向へ移動する過程において蒸発し、第二前段品1Bが生成される。
【0047】
第二前段品1Bの厚さd1は、例えば、2.5ミリメートル(mm)である。第二前段品1Aの密度は、例えば、0.25グラム/立法センチメートル(g/cm3)である。
【0048】
第二前段品1Bは、移送装置50によって、成形装置20に移送される。移送装置50の構成は、移送装置40の構成と同様である。第二前段品1Bにおいては、厚さ方向における表面側の領域において、中心領域よりも、紙繊維の重量に対する樹脂繊維の重量の割合が実質的に大きいということはない。すなわち、第二前段品1Bにおいては、紙繊維中に樹脂繊維が実質的に一様に分布している。あるいは、第二前段品1Bにおいて、厚さ方向における表面側の領域において、中心領域よりも、紙繊維の重量に対する樹脂繊維の重量の割合は小さい。
【0049】
<成形工程について>
次に、
図8乃至
図12を参照して、成形工程について説明する。
図8に示すように、成形装置20は、第二型部材22を備える。第二型部材22は、上方型部材22A及び下方型部材22Bで構成される。上方型部材22Aは矢印Z1及びZ2に示す上下方向へ移動可能である。上方型部材22Aが上下方向へ移動することによって、第二型部材22を開閉する。上方型部材22A及び下方型部材22Bは、圧縮成形用の金型である。
【0050】
上方型部材22Aには凹部22aが生成されている。下方型部材22Bには、凹部22aに対応する形状の凸部22bが生成されている。凹部22a及び凸部22bの形状は、陥没部2d(
図1及び
図2参照)の形状に対応する。
【0051】
上方型部材22A及び下方型部材22Bには、それぞれ、ヒーター22cが内蔵されている。ヒーター22cによって、熱を発生し、上方型部材22A及び下方型部材22Bによって生成されるキャビティ内の温度を設定することができる。本実施形態において「上方型部材22A及び下方型部材22Bの温度」は、このキャビティ内の温度を意味する。
上方型部材22A及び下方型部材22Bの温度は、ヒーター22cを調整することによって、樹脂繊維64の融点よりも高い所定範囲の基準温度(temp1)に設定される。基準温度(temp1)は、例えば、樹脂繊維64の融点を基準として、その融点よりも高い温度であり、その高さの程度は摂氏5度(℃)以上摂氏25度(℃)以下の範囲で規定される。樹脂繊維64の融点は、例えば、摂氏135度(℃)である。上方型部材22A及び下方型部材22Bによって形成されるキャビティ内の温度は、例えば、摂氏150度に設定する。
【0052】
図9に示すように、下方型部材22Bに、第二前段品1Bを配置する。そして、上方型部材22Aを矢印Z2に示す下方へ移動し、
図10及び
図11に示すように、第二前段品1Bを加熱しつつ圧縮する。第二型部材22が閉じて、凹部22aと凸部22bで構成されるキャビティが閉鎖されると、キャビティ内の温度は、基準温度(temp1)となる。この状態において、第二前段品1B内の樹脂繊維64は溶融するが、紙繊維62は溶融しない。樹脂繊維64は溶融すると、圧縮によって、紙繊維62の間を通過し、第二前段品1Bの表面側へ移動する。以下、樹脂繊維64が溶融した状態のもの、及び、溶融した後に固化した状態のものを「樹脂」と呼ぶ。なお、明細書に添付の図においては、樹脂の符号は樹脂繊維64の符号と同一に示されている。
【0053】
図11に示すように、キャビティが閉鎖された状態で、所定の基準時間(t1)が経過すると、
図12に示すように、上方型部材22Aを矢印Z1に示す上方へ移動する。そうすると、第二型部材22が開き、凹部22aと凸部22bで構成されるキャビティ内の温度は低下し、溶融した樹脂は次第に固化し、第二前段品1B内における樹脂の移動速度が低下する。樹脂が固化し、樹脂の位置が固定された段階で、容器1となる。第二前段品1Bは、成形工程において状態を変化させるが、成形工程に入る前の状態から容器1となる変化中の状態も「第二前段品1B」と呼ぶ。
【0054】
容器1の厚さ(d2)は所定の厚さに規定される。容器1の厚さは、例えば、1.0ミリメートル(mm)である。容器1の密度は、例えば、0.64グラム/立法センチメートル(g/cm3)である。
【0055】
容器1の厚さ(d2)は、第二前段品1Bの厚さ(d1)との関係において規定される。あるいは、第二前段品1Bの厚さ(d1)は容器1の厚さ(d2)によって規定されると言ってもよい。容器1の厚さ(d2)が決まっているとき、容器1を本実施形態に規定する仕様にするための厚さが厚さ(d1)である。第二前段品1Bの厚さd1を「基準厚さd1」とも呼ぶ。具体的には、容器1の厚さ(d2)に対する、成形工程に入る前の第二前段品1Bの厚さ(d1)の比である圧縮比(d1/d2)が、所定の基準圧縮比(n1)として規定される。
【0056】
基準圧縮比(n1)及び基準時間(t1)は、容器1において、樹脂の量が、容器1の厚さ方向における中心側の部分に対して、表面側の部分において相対的に多くなるように規定される。
【0057】
所定の基準圧縮比(n1)は、また、溶融した樹脂が、第二前段品1Bの厚さ方向における外側に効果的に移動することができる圧縮比として規定されている。基準時間(t1)は、溶融した樹脂が、第二前段品1Bの厚さ方向において、第二前段品1Bの表面側に移動した後、第二前段品1Bの中心側に戻る挙動を抑制することができる時間として規定されている。
【0058】
基準圧縮比(n1)は標準的な圧縮比よりも大きい所定範囲の圧縮比として規定されている。標準的な圧縮比は、例えば、1.5乃至2.0であるのに対して、基準圧縮比(n1)は、例えば、2.5以上5.0以下である。本実施形態において、基準圧縮比(n1)は、2.5である。基準圧縮比(n1)を標準的な圧縮比よりも大きい圧縮比とすることによって、溶融した状態の樹脂が第二前段品1Bの厚さ方向に移動し易くすると共に、最終的に製造される容器1の機械的強度も向上する。第二前段品1Bの厚さd1を標準的な条件よりも大きくし、基準圧縮比(n1)を標準的な圧縮比よりも大きくすることによって、容器1の密度が大きくなり、機械的強度が向上する。すなわち、容器1においては、密度によって、機械的強度を確保している。
【0059】
基準時間(t1)は、標準的な時間よりも短い所定範囲の時間として規定されている。例えば、標準的な時間は10秒(second)であるのに対して、基準時間(t1)は3秒乃至7秒の間において規定される。本実施形態において、基準時間(t1)は5秒である。これにより、溶融した状態の樹脂が第二前段品1Bの表面側に移動した後、中心側に戻る挙動を抑制することができる。
【0060】
上述の基準圧縮比(n1)及び基準時間(t1)は、容器1の厚さ方向における表面側の紙繊維62に対する樹脂の割合が、第二前段品1Bの厚さ方向における表面側の紙繊維62に対する樹脂の割合よりも大きくなるように規定されるということもできる。また、基準圧縮比(n1)及び基準時間(t1)は、第二前段品1Bの厚さ方向における中心領域に分布する樹脂繊維64が溶融し、樹脂が第二前段品1Bの厚さ方向における表面側に移動し、かつ、その樹脂が中心領域に完全には戻らないように規定されるということもできる。
【0061】
図13乃至
図16を参照して、第二前段品1Bが成形工程に入る前の状態から容器1に至るまでの間における、第二前段品1Bの内部の状態を概念的に説明する。第二前段品1Bが成形工程に入る前においては、
図13に示すように、第二前段品1Bは厚さd1を有し、紙繊維62との関係において、樹脂繊維64は実質的に均一に分布している。この状態において、第二前段品1Bは、型部材22によって矢印P1及びP2に示す上下方向から圧力を加えられ、加熱されつつ、圧縮させられる。
【0062】
図14及び
図15に示すように、樹脂繊維64は、加熱されつつ上下方向から圧縮される工程において溶融する。一方、紙繊維62は溶融しない。このため、
図15の矢印B1及びB2に示すように、溶融した樹脂は、圧縮により、紙繊維62の間を通過し、第二前段品1Bの表面側へ移動する。型部材22が完全に閉じると、
図16に示すように、第二前段品1Bは、厚さd2となる。型部材22が完全に閉じた状態において、基準時間(t1)が経過すると、型部材22は開き、型部材22によって生成されるキャビティ内の温度は低下する。そうすると、溶融した樹脂は固化し、容器1が生成される。このとき、固化した樹脂は、容器1の厚さ方向において、中心部よりも表面側に相対的に多く分布する。
【0063】
<容器1の製造方法の概要>
図17を参照して、上述の容器1の製造方法の概要を再度、簡潔に説明する。まず、紙繊維62の重量(w1)に対する樹脂繊維54(w2)の重量の割合(w2/w1)が基準割合(m1)となるように、紙と樹脂繊維を混合液製造槽6(
図3参照)に投入する(
図17のステップST1)。続いて、所定の厚さ(d0)を有する第一前段品1Aを生成する(ステップST2)。続いて、第一前段品1Aを乾燥し、基準厚さ(d1)を有する第二前段品1Bを生成する(ステップST3)。続いて、基準温度(temp1)、基準圧縮率(n1)、及び基準時間(t1)において第二前段品1Bを加熱しつつ圧縮成形し、容器1を生成する(ステップST4)。
【0064】
<参考例:実験結果について>
容器1について、耐吸湿性の試験を実施した。
図18を参照して、試験結果について説明する。紙繊維62の重量(w1)に対する樹脂繊維64の重量(w2)の割合(w2/w1)である基準割合(m1)を6%の場合と12%の場合とについて、第一前段品1Aを生成し、その第一前段品1Aから第二前段品1Bを生成した。そして、第二前段品1Bを加熱しつつ圧縮して、試験対象である容器1を生成した。樹脂繊維は、三井化学株式会社のSWP(登録商標)のE400というグレードを使用した。E400の融点は摂氏135度(℃)である。基準温度(temp1)は摂氏150度、基準圧縮率(n1)は2.5、基準時間(t1)は5秒(sec)とした。そして、容器1を、湿度85パーセント(%)、温度を摂氏35度(℃)に設定した閉鎖空間内に12時間(hour)放置し、重量の増加を測定した。基準割合(m1)が6パーセントの場合には重量の増加率は5.5パーセントであり、基準割合(m1)が12パーセントの場合には重量の増加率は4.8パーセントであった。このことから、基準割合(m1)を6%よりも大きくすることによって、重量の増加率は低下し、耐吸湿性が向上することがわかる。また、重量の増加率の低下は、基準割合(m1)の増加に比例しないこともわかる。さらに、基準割合(m1)が増加するほど、重量の増加率の低下は緩やかになることも予想できる。このことから、容器1の表面側の領域に、樹脂繊維64が溶融して固化した樹脂が相応の割合で分布していれば、容器1の中心側に分布する樹脂は、耐吸湿性への寄与は小さいことがわかる。
【0065】
<第二前段品1B及び容器1の表面及び内部の状態>
図19乃至
図22を参照して、第二前段品1B及び容器1の表面及び内部の状態を説明する。内部の状態は、それぞれの基材の厚さ方向における断面の状態を示す。
図19乃至
図22は、第二前段品1B及び容器1の顕微鏡写真である。顕微鏡写真の拡大率は20倍を採用した。
図19乃至
図22において、樹脂の割合が多いほど白く見え、紙繊維の割合が多いほど黒く見えている。
【0066】
図19に示すように、第二前段品1Bの表面は、紙繊維の割合が大きい部分(黒っぽく見える部分)が露出している。これに対して、
図21に示すように、容器1の表面は、全体的に白っぽく見える。これは、紙繊維の割合が大きい部分は露出せず、樹脂によって実質的に覆われていることを意味する。
【0067】
図20に示すように、第二前段品1Bの断面における中心領域A1は、紙繊維の間に熱可塑性樹脂が一様に分布している。第二前段品1Bの断面における表面側の領域A2は、中心領域A1と比較して、紙繊維に対する樹脂の割合が小さい領域となっている。
【0068】
図22に示すように、容器1の断面において、中心領域A1と、表面側の領域A2とを対比すると、紙繊維に対する樹脂の割合は、中心領域A1よりも表面側の領域A2において大きいことがわかる。
【0069】
図20と
図22を対比すると、第二前段品1Bにおいて、中心領域A1に分布していた樹脂が、成形工程において、表面側の領域A2に移動したことがわかる。
【0070】
また、成形工程の前において、表面側の領域A2は、中心領域A1に対して、紙繊維に対する樹脂の割合が小さい領域である(
図20参照)。これに対して、成形工程後においては、表面側の領域A2は、中心領域A1に対して、紙繊維に対する樹脂の割合が大きい領域である(
図22参照)。すなわち、紙繊維に対する樹脂の割合に着目すると、成形工程の前後において、中心領域A1と表面側の領域A2の特性は入れ替わっていることがわかる。
【0071】
<容器1の耐吸湿性>
図23に示すように、容器1の表面に到達した水分子200は、容器1の表面に分布する樹脂繊維64が溶解して固化した樹脂によって、矢印C1及びC2に示すように、容器1の外側にはじき返される。このため、水分子200は、容器1の内部には容易に侵入できない。
【0072】
<容器1のプラスチックフィルムとの接着性>
図24に示すように、プラスチックフィルム210は、容器1の表面に分布する樹脂繊維64が溶解して固化した樹脂と一体化する。プラスチックフィルム210は樹脂で構成されるから、容器1と強固に接着される。
【0073】
<容器1の金属箔との接着性>
図25に示すように、金属箔220は、容器1の表面に分布する樹脂繊維64が溶解して固化した樹脂と溶着する。金属箔220は、例えば、アルミニウム箔である。特に、金属箔220の表面が平滑ではなく、ある程度の凹凸を有する非平滑面である場合には、樹脂が凹凸の間に入り込み、金属箔220は容器1の表面と強固に接着される。あるいは、容器1の表面を微細な凹凸を有する形状にすることによっても、金属箔は容器1の表面に強固に接着される。
【0074】
なお、本発明の化粧品容器は、上記実施形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加えることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 包装用容器
2 基材
6 混合液製造槽
8 混合液調整装置
10 第一前段品生成装置
18A,18B 第一型部材
22 第二型部材
22A 上方型部材
22B 下方型部材
20 成形装置20
30 乾燥装置
60 混合液
62 紙繊維
64 樹脂繊維
100 製造システム
【要約】
本発明は、環境への負荷が小さく、かつ、水分を吸収しにくい、ペーパーモールドを利用した包装用容器の製造方法及び包装用容器を提供することを目的とする。本発明の包装容器1は、植物繊維中に熱可塑性樹脂が分布した基材2によって生成されており、基材2の厚さ方向において、熱可塑性樹脂は、基材2の中心側の部分に対して、表面側の部分において相対的に多く分布している。