(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】テストステロン分泌促進剤
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20220125BHJP
A61K 31/047 20060101ALI20220125BHJP
A61K 31/216 20060101ALI20220125BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/63 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/80 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/254 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/185 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/535 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/258 20060101ALI20220125BHJP
A61K 36/73 20060101ALI20220125BHJP
A61P 5/26 20060101ALI20220125BHJP
A61P 15/12 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K31/047
A61K31/216
A61K31/7048
A61K36/63
A61K36/80
A61K36/28
A61K36/254
A61K36/185
A61K36/48
A61K36/899
A61K36/535
A61K36/258
A61K36/73
A61P5/26
A61P15/12
(21)【出願番号】P 2021553377
(86)(22)【出願日】2021-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2021023614
【審査請求日】2021-09-21
(31)【優先権主張番号】P 2020107193
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2021057563
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517063868
【氏名又は名称】株式会社日本薬業
(74)【代理人】
【識別番号】100092901
【氏名又は名称】岩橋 祐司
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 洋介
(72)【発明者】
【氏名】加藤 英介
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-181031(JP,A)
【文献】特開2019-213518(JP,A)
【文献】DONA, G. et al.,INOSITOL administration reduces oxidative stress in erythrocytes of patients with polycystic ovary s,European Journal of Endocrinology,2012年,166(4),pp.703-710
【文献】BENVENGA, S. et al.,Effects of Myo-INOSITOL Alone and in Combination with Seleno-Lmethionine on Cadmium-Induced Testicul,Current Molecular Pharmacology,2019年,12(4),pp.311-323
【文献】FARZADI, L. et al.,Effect of rosmarinic acid on sexual behavior in diabetic male rats,African Journal of Pharmacy and Pharmacology,2011年,5(16),pp.1906-1910
【文献】FARSI, A. et al.,Improvement effect of rosmarinic acid on serum testosterone level after exposing with electromagneti,International Journal of Women's Health and Reproduction Sciences,2013年,1(2),pp.45-49
【文献】GEHAN ,G. S. et al.,Ellagic acid and rosmarinic acid attenuate doxorubicin-induced testicular injury in rats,Journal of Biochemical and Molecular Toxicology,2017年,31,e21937,http://doi.org/10.1002/jbt.21937
【文献】KATO M. et al.,The anthocyanin delphinidin 3-rutinoside stimulates glucagon-like peptide-1 secretion in murine GLUT,PLoS One,2015年,10(5),e0126157,https://doi.org/10.1371/journal.pone.0126157
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580 (JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS (STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(2)で示されるデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)を有効成分とすることを特徴とするテストステロン分泌促進剤。
【請求項2】
下記構造式(4)で示されるmyo-イノシトールと、
及
び
下記構造式(2)で示されるデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)と、
を有効成分とすることを特徴とするテストステロン分泌促進剤。
【請求項3】
請求項
1または2に記載の分泌促進剤において、男性が摂取するものであることを特徴とするテストステロン分泌促進剤。
【請求項4】
請求項2に記載の促進剤において、さらに下記構造式(3)で示されるロスマリン酸(RA)
を含むことを特徴とするテストステロン分泌促進剤。
【請求項5】
請求項2に記載の促進剤において、myo-イノシトールは、テンヨウケンコウシ及び/又はコメヌカに由来することを特徴とするテストステロン分泌促進剤。
【請求項6】
請求項1または2に記載の促進剤において、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)はカシスに由来することを特徴とするテストステロン分泌促進剤。
【請求項7】
請求項4に記載の促進剤において、ロスマリン酸(RA)は、アカジソに由来することを特徴とするテストステロン分泌促進剤。
【請求項8】
請求項4に記載のテストステロン分泌促進剤において、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)及び/又はロスマリン酸(RA)でStARの発現が誘導されることを特徴とするテストステロン分泌促進剤。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、2020年6月22日付け出願の日本国特許出願2020-107193号、および2021年3月30日付け出願の日本国特許出願2021-57563号の優先権を主張しており、ここに折り込まれるものである。
【技術分野】
【0002】
本発明はテストステロン分泌促進作用を有する促進剤に関する。さらに詳しくは、植物抽出物やそれに含まれる成分を用いたテストステロンの合成・分泌を促進する促進剤に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、中高年以降の男性において起こるいわゆる「男性更年期」が問題となっている。
男性更年期の症状は性欲低下、抑うつ、記憶力低下、集中力低下、疲労感、ほてり、睡眠障害、筋肉量低下など多岐に渡り、その原因としては加齢による男性ホルモンの減少が考えられている。
【0004】
テストステロンは、男性ホルモン(アンドロゲン)の代表的なものとして知られ、男性では精巣のライディッヒ細胞で合成され血中に分泌される。テストステロンは、男性ホルモンの中で最も強い男性ホルモン作用を有しており、男性生殖器の発達、骨格や筋肉の発達、脳や精神面の活力亢進にも影響を及ぼすとされている。それゆえに、血中テストステロンの濃度の低下は上記のような全身に渡る様々な不調を引き起こす。また、テストステロンの低値はメタボリック症候群、心血管疾患、糖尿病、呼吸器疾患のリスクを高め、寿命に関係することが知られている(非特許文献1)。
【0005】
加齢に伴いテストステロン値が低下する症候を、いわゆる男性更年期(LOH症候群、加齢性性腺機能低下症)と呼ぶ。その潜在的な罹患者数は50代で12%、60代で20%、70代で30%、80代で50%が該当すると報告されている。
【0006】
このように、実は中高年以降の男性に非常に多い疾患であるにも関わらず、「加齢による不調」と一括りにされたり、その症状から「うつ病」と誤診されたりしてきた。しかしながら、近年の研究の進展並びにその啓発活動から、男性更年期(LOH症候群)はQOLを大幅に低下させる多臓器機能障害であり、加齢時におけるテストステロンの重要性が認識されてきている(非特許文献2)。
【0007】
そこで、本発明者らはテストステロンの合成・分泌を副作用がなく促進させる促進剤を得るために、テストステロンの合成・分泌を促進する新規素材の探索を行った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第4536823号公報
【文献】特許第6309175号公報
【文献】特許第5382512号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】J Clin Endocrinol Metab 86:724‐731,2001
【文献】日本内科学会雑誌 102巻:914~921,2013
【文献】Chinese Medical Journal(Engl).129(7):846‐853、2016
【文献】Endocrinology 137(10),4522-4523,1996
【文献】The Aging Male.(18)2:106-110、2015
【文献】J.Agric.Food Chem.2001,49,3,1546-1551
【文献】小野賢二郎、山田正仁著,神経治療学35巻3号,182-186,2018
【文献】Biosci Biotechnol Biochem.2016,80(4),791-797
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在、男性更年期の治療としては、注射によるテストステロンホルモン補充療法が行われているが、体外からの合成ホルモン補充であること、ホルモンの補充量によっては副作用の懸念がある点で一般的な治療とは言い難い。
実際に老齢雄マウスにテストステロン皮下注射群を設けて実験すると、対照群と比較してテストステロン皮下注射群では精巣内テストステロン量、精子の数・運動能、受胎能が有意に低下する報告がある(非特許文献3)。さらに、日本では保険診療でその他の内服薬や塗り薬は認可されているものがなく、症状があっても治療を受けられないこともある。
【0011】
また、副作用が少ないと考えられる植物などの天然素材の中でテストステロンの合成・分泌を促進する物質は、男性ホルモンから女性ホルモンに変換をする酵素であるアロマターゼの活性を阻害してテストステロンの減少を抑制する甜茶(ユキノシタ科)抽出物(特許文献1)や、キャロブ及び針桑の複合抽出物を有効成分とするもの(特許文献2)が知られている。また、テストステロンを増加させる作用をもつものとしてアナトー(ベニノキ科、ベニノキ)由来のゲラニルゲラニオール(特許文献3)などが公知であるが、依然その数は少なく課題を残していた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、本発明者らは上記の課題を鑑み、副作用が少ないと考えられる天然素材からテストステロンの合成・分泌を促進させる物質がないかを鋭意検討した結果、新たにライディッヒ細胞よりテストステロン分泌を促進する天然素材を発見した。加えて、そのメカニズムの一つはStAR遺伝子発現の上昇によるものであることを見出した。さらに3種の天然素材に関してはテストステロンの分泌を促す関与成分を特定し、それらの成分には併用効果があることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下を包含する。
本発明にかかるテストステロン分泌促進剤は、下記構造式(4)で示されるmyo-イノシトールを有効成分とすることを特徴とする。
また、本発明にかかるテストステロン分泌促進剤は、
下記構造式(4)で示されるmyo-イノシトールと、
下記構造式(3)で示されるロスマリン酸(RA)
及び/又は、
下記構造式(2)で示されるデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)と、
を有効成分とすることを特徴とする。
また、前記テストステロン分泌促進剤において、男性が摂取するものであることが好適である。
また、前記促進剤において、myo-イノシトールは、テンヨウケンコウシ及び/又はコメヌカに由来することが好適である。
また、前記促進剤において、ロスマリン酸(RA)は、アカジソに由来することが好適である。
また、前記促進剤において、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)はカシスに由来することが好適である。
また、本発明にかかるテストステロン分泌促進剤は、オリーブ葉、アイブライト、エキナケア、エゾウコギ、カシス、鶏血藤、コーンシルク、アカジソ、セイヨウニンジン、テンヨウケンコウシ(Rubus suavissimus)、メリロート、これらの抽出物からなる群より選択される1種または2種以上であることが好適である。
また、本発明にかかるテストステロン分泌促進剤において、テンヨウケンコウシ(Rubus suavissimus)の抽出物が水または含水エチルアルコールで抽出された抽出物であることが好適である。
また、本発明にかかるテストステロン分泌促進剤の製造方法は、テンヨウケンコウシ(Rubus suavissimus)より、水または含水エチルアルコールで抽出されることを特徴とする。
また、本発明にかかるテストステロン分泌促進剤は、シアニジン-3-ルチノシド(C3R)、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)及びロスマリン酸(RA)からなる群より選択される1種または2種以上を有効成分とすることが好適である。
また、本発明にかかるテストステロン分泌促進剤において、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)及び/又はロスマリン酸(RA)でStARの発現が誘導されることが好適である。
また、本発明にかかるテストステロン分泌促進剤は、下記構造式(3)で示されるロスマリン酸(RA)
を有効成分とする。
また、本発明にかかるテストステロン分泌促進剤は、下記構造式(2)で示されるデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)
を有効成分とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るテストステロン分泌促進剤は、植物由来の天然素材を用いてテストステロンの生合成と分泌を増加させる。
さらに、本発明に係るテストステロン分泌促進剤は、天然素材からなる植物由来の成分であることから、ホルモン製剤を体外から体内に補充する治療法と比べて副作用の心配が少なく、安全に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】水と40%エチルアルコールで抽出したテンヨウケンコウシエキスのテストステロン分泌促進活性を示した図である。
【
図2】テストステロン生合成の経路を示す図である。
【
図4】テンヨウケンコウシ抽出物のCaco-2細胞透過成分のテストステロン分泌促進活性を示した図である。
【
図5】テンヨウケンコウシ抽出物のCaco-2細胞傷害率を示した図である。
【
図6】myo-イノシトール(MI)、シアニジン-3-ルチノシド(C3R)、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)、ロスマリン酸(RA)のテストステロン分泌促進活性試験の結果である。
【
図7】テンヨウケンコウシ抽出物における活性ピークの
1H-NMR(下段)と参考データ(Biological Magnetic Resonance Bank)(上段)を比較した図である。
【
図8】デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)についてのStAR発現の促進確認試験の結果である。
【
図9】ロスマリン酸(RA)についてのStAR発現の促進確認試験の結果である。
【
図10】各成分を併用した場合のテストステロン分泌促進活性試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、様々な天然素材の中からテストステロン分泌促進機能が有意に高い素材を探索した結果、ライディッヒ細胞においてテストステロン分泌を促進する天然素材を見つけ出した。そして、その分泌促進メカニズムの一つとしてStAR遺伝子発現の上昇によるものであることを見出した。本発明における実施例で使用した天然素材についての詳細は次のとおりである。しかし、本発明に係る天然素材の形態はこれらに限定されるものではない。
【0017】
(1)オリーブ葉はモクセイ科(Oleaceae)のオリーブ(Olea europea)の葉を乾燥させ粉末状にしたものである。
(2)アイブライト(セイヨウコゴメグサ)はEuphrasia rostkoviana HAYNE及びその他の同属植物(Scrophulariaceae) の地上部を水で抽出して製したエキス末である。
(3)エキナケア(ムラサキバレンギクのラテン名)はEchinacea purpurea(Compositae)の乾燥地上部を水で抽出して製したエキス末である。
(4)五加参(エゾウコギ)はエゾウコギEleutherococcus senticosus Maxim.(Araliaceae)の根を水で抽出して製したエキス末である。
(5)カシス(クロスグリ)はクロフサスグリ Ribes nigrum (Saxifragaceae)の果実を水で抽出し、カラムにて含水エチルアルコールで溶出して製したエキス末である。
(6)鶏血藤(ケイケットウ)はケイケットウSpatholobus suberectus の茎を含水エチルアルコールで抽出して製したエキス末である。
(7)コーンシルクはトウモロコシZea mays L. (Gramineae ) の花柱及び柱頭を水で抽出して製したエキス末である。
(8)アカジソはシソ Perilla frutescens Britton var.acuta Kudo 又はチリメンジソ Perilla frutescens Britton var.crispa Decaisneの葉及び枝先を水で抽出して製したエキス末である。
(9)西洋人参(セイヨウニンジン)はアメリカニンジンPanax quinquefolium Linne(Araliaceae)の根を水で抽出して製したエキス末である。
(10)テンヨウケンコウシはRubus suavissimus S. Lee(Rosaceae)の葉を水もしくは含水エチルアルコールで抽出して製したエキス末である。なお、本成分は甜茶と呼ばれることがある。しかし、特許文献1で使用されている甜茶とは由来が全く異なるものである。
(11)メリロート(セイヨウエビラハギ)はセイヨウエビラハギ Melilotus officinalis Lam.又はMelilotus altissimus Thuill.(Leguminosae)の地上部を水で抽出して製したエキス末である。
【0018】
さらにこれらの中で、カシスではシアニジン-3-ルチノシド(C3R)、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)が、アカジソではロスマリン酸(RA)が、テンヨウケンコウシ(Rubus suavissimus)ではmyo-イノシトールがテストステロンを分泌促進させる関与物質として特定された。その中でも、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)とロスマリン酸(RA)はStARの発現を誘導していることが確認された。以下、これらの特定された成分について詳述する。
【0019】
シアニジン-3-ルチノシド(C3R)はアントシアニン成分の一つで以下の構造式(1)で示されるシアニジンの誘導体である。シアニジン-3-グルコシドはベリー類をはじめとする多くの赤色液果類に含まれるが、シアニジン-3-ルチノシド(C3R)はカシス特有の成分で、ブルーベリーやビルベリーなどには含まれていない。主に眼の血流を促す効果や抗酸化作用が知られている。カシスに含まれるアントシアニンのうち、約35%を占める。シアニジン-3-ルチノシド(C3R)にはKeracyanin等のシノニムがある。
【0020】
【0021】
デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)は以下の構造式(2)で示され、シアニジン-3-ルチノシド(C3R)と同様にカシスに含まれるアントシアニンの1種であり、ブルーベリーやビルベリーなどには含まれていないカシス特有の成分である。眼の血流を促す効果や緑内障、軸性近視の予防効果が知られ、抗酸化力に優れている。カシスに含まれるアントシアニンのうち、約46%を占める。デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)にはTulipanin等のシノニムがある。
【0022】
【0023】
シアニジン-3-ルチノシド(C3R)やデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)はグルコシド類同様に経口摂取にて体内に吸収されることが分かっている。ルチノシド類はグルコシド類と異なり、抱合体化やメチル化はされずにアントシアニンのままの状態で摂取後1~2時間後までに速やかに血中に移行し、尿中に排泄されることが確認されており、アントシアニンのまま体内で有効成分として機能すると考えられている(非特許文献6)。
【0024】
ロスマリン酸(RA)は以下の構造式(3)で示され、アカジソ、ローズマリー等のしそ科の植物に含まれるポリフェノールである。抗酸化作用や抗アレルギー作用、抗炎症作用が知られており、近年ではアルツハイマー病に対する効果も報告されている。ロスマリン酸は経口投与により体内に吸収され、機能性を発揮することが報告されている(非特許文献7)。食用としてのロスマリン酸はアカジソ、ローズマリーの他にもレモンバーム、セージ、スペアミント等にも含まれ、使用されている。
【0025】
ロスマリン酸(RA)には(R)-O-(3,4-Dihydroxycinnamoyl)-3-(3,4-dihydroxyphenyl)latic acid、3,4-Dihydroxycinnnamic acid(R)-1-carboxy-
2-(3,4-Dihydroxyphenyl)ethyl ester等のシノニムがある。
【0026】
【0027】
myo-イノシトールは以下の構造式(4)で示され、イノシトールに存在する9つの異性体の内の一つであり、自然界の各種食品に含まれている。経口摂取により腸管より体内に吸収される。体内で浸透圧を調整するオスモライトとして使用されることが知られており、脂質や糖代謝を調整している。また、myo-イノシトールは多嚢胞卵巣症候群(PCOS)の治療に有用であることが知られている。
なお、myo-イノシトールは、前記テンヨウケンコウシのほか、コメヌカ(日本食品化学工学会誌 Vol.59, No.7, 301~318 (2012)に詳しい)などにも含まれ、97%以上の純度のものが築野ライスファインケミカルズ(株)から商品化されている。
【0028】
myo-イノシトールにはHexahydroxycuclohexane,Cyclohexanehexanol,meso-Inositol,Myo-Inosit等のシノニムがある。
【0029】
【0030】
本発明で使用する天然素材の材料となる各々の植物体の使用部位は、前述した部位が好ましいが、その他にも花、花穂、果皮、果実、茎、葉、枝、枝葉、幹、樹皮、根茎、根皮、根、種子、又は全草等から選ばれる1種または2種以上の部位を用いることができる。本願での天然素材の形態としては、これらの天然素材から溶媒を用いて直接抽出することで得られるもののほか、圧搾処理を施した後に得られる圧搾液及び/又は残渣に溶媒を加えて抽出することで得られるもの、植物を乾燥させてすり潰し粉末状にしたもの等、広範囲の形態が含まれる。上記に加え、工業的に合成されたものでも良い。
【0031】
本発明における天然素材の抽出物は公知の方法で製造したものでよく、例えば、水、メタノール、エタノール等のアルコール類又はこれらの混合溶媒のような抽出溶液を用いて、常温抽出または加温抽出することにより製造でき、必要によっては、減圧または加圧下で抽出してもよい。得られた抽出エキスはそのまま使用することも可能であるが、通常は濃縮又は凍結乾燥で乾固したものを使用する。
【0032】
本発明に係る促進剤は単独で摂取してもよく、また、医薬的に許容される担体、賦形剤、可塑剤、着色剤、防腐剤等と混合して経口用組成物の形で摂取してもよい。当該経口用組成物に用いる担体としては、例えば、糖アルコール(例として、マンニトール)、無機物(例として、炭酸カルシウム)、微結晶性セルロース、セルロース(例として、カルボキシメチルセルロース)、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、寒天、ステアリン酸マグネシウム、タルク等が挙げられる。
前記経口用組成物の形態は特に限定されることはなく、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、トローチ剤、または溶液(飲料)等の形態とすることができる。
【0033】
また、本発明に係る促進剤は、一般食品、健康食品、保健機能食品(特定保健用食品、機能性表示食品等)に配合された状態で、好適に摂取することができる。
前記食品としては、例えば、乳飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、アルコール飲料、粉末飲料、コーヒー飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、麦茶飲料等の飲料類;プリン、ゼリー、ババロア、ヨーグルト、アイスクリーム、ガム、グミ、チョコレート、キャンディー、キャラメル、ビスケット、クッキー、おかき、煎餅等の菓子類;コンソメスープ、ポタージュスープ等のスープ類;味噌、醤油、ドレッシング、ケチャップ、たれ、ソース、ふりかけなどの各種調味料;ストロベリージャム、ブルーベリージャム、マーマレード、リンゴジャム等のジャム類;赤ワイン等の果実酒;シロップ漬のチェリー、アンズ、リンゴ、イチゴ、桃等の加工用果実;うどん、冷麦、そうめん、ソバ、中華そば、スパゲッティ、マカロニ、ビーフン、はるさめ及びワンタン等の麺類;その他、各種加工食品等が挙げられる。
【0034】
また、その摂取量はテンヨウケンコウシエキスの場合、60kgヒトを対象にすると、1日に50~1500mg程度が好適である。その他成分として摂取する場合には、myo-イノシトール(МI)では1日に100~10000mg程度、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)では1日に1~200mg程度、ロスマリン酸(RA)では1日に3~500mg程度が好適である。
【0035】
本発明に係るテストステロン分泌促進剤は、ヒトに限らず、ヒト以外の動物に対しても前記効果を奏し得るものである。よって、本発明に係るテストステロン分泌促進剤は家畜やペット用の飼料に配合することもできる。
また、近年男性の不妊症が増加しているが、その原因の一部として精巣機能障害、勃起不全(ED)が挙げられる。精巣上体内のテストステロン濃度を上昇させると、精巣上体内の精子成熟過程を改善する事が知られている。一方、テストステロン低下による症状として勃起不全(ED)があるため、テストステロンの分泌が促進されることによって男性更年期だけではなく、男性の不妊の改善にも有用な可能性が考えられる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに制約されるものではない。
〔実施例1〕テストステロン分泌促進活性試験
発明者らは100の天然素材に対してテストステロン分泌促進実験を行った。素材の選択は国内外で入手できる天然素材の内、現在の食薬区分において国内では「食」と判断される素材を選択した。
【0037】
サンプルの調製方法は以下のように行った。
それぞれの素材を、50%ジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液にて100mg/mLの濃度で溶解した。
【0038】
活性の測定方法は以下のように行った。
I-10細胞(JCRB細胞バンク、JCRB9097)を48ウェルプレート(Thermo Scientific社製)に2×104cells/wellで播種し、24時間後に培地を除去し、サンプルを添加した培地を加えた。なお、培地はF-10(SIGMA-Aldrich社製)に10%ウシ血清(Gibco社製)、penicillin 100unit/mL、streptomycin sulfate 100μg/mL、gentamycin sulfate 50μg/mL(いずれも富士フィルム和光純薬製)を加えたものである。サンプル添加後24時間後に培地を回収し、テストステロンELISAキット(ケイマンケミカル製)を用いてマイクロプレートリーダー(バイオテック製)でテストステロン量を定量した。
なお、対照としては50%DMSO水溶液を用いた。
結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
表1の通り、11素材が対照(50%DMSO水溶液のみ)に対して2倍以上の有意なテストステロンの上昇を認めた。
【0041】
〔実施例2〕テンヨウケンコウシにおける成分抽出方法
発明者らは実施例1でテストステロン合成・分泌活性が特に高かったテンヨウケンコウシを抽出する際に水とエチルアルコール含水物で抽出されるエキスの量が異なるかを検討した。
【0042】
抽出は以下の通り行った。
1.テンヨウケンコウシの乾燥葉(松浦薬業製)をミルにて粉砕し、粉末にする。
2.得られた粉末葉を5gずつ2つのビーカーに入れ、片方には100mlの水を、もう一方には100mlの40%エチルアルコールを加えて攪拌する。
3.攪拌後、ラップをかけて冷蔵庫内にて5日間静置する。
4.抽出液と粉末葉をNo.2ろ紙(アドバンテック東洋製)で分離し、得られた抽出液は200mLのなす型フラスコに移す。
5.凍結乾燥機(東京理化製)にて24時間凍結乾燥を行い、十分に乾燥してからフラスコも含めたエキスの総重量を測定した。このときの総重量を(i)とする。
6.5で得られた総重量(i)からフラスコ重量(ii)を引いて、得られたエキス量を算出した。
結果を表2に示す。
【0043】
【0044】
表2より、水で抽出したよりも40%エチルアルコールで抽出した方が、得られるエキスの量がやや多いことが示された。
また、これらを実施例1の方法でテストステロン量を定量したところ、
図1に示すように40%エチルアルコールで抽出したエキスの方が高いテストステロン分泌促進活性を示した。
したがって、テンヨウケンコウシに関しては水よりもエチルアルコールを含んだ溶媒で抽出した方が高いテストステロン分泌促進活性を得られることが示された。なお、エチルアルコールの濃度は10~90質量%、好ましくは20~80質量%、さらに好ましくは30~70質量%、最も好ましくは40~60質量%である。
【0045】
〔実施例3〕テストステロン分泌促進の作用機序
さらに発明者らはテストステロン分泌促進の活性機構を解析するため、テストステロン生合成関連遺伝子の発現量の変化を調べた。
ところで、テストステロン生合成関連遺伝子には
図2に示す通り、ステロイドホルモン合成の律速段階にあたるステップに関わる因子であり、コレステロールのミトコンドリア外膜から内膜への移行を促進するSteroidogenic acute regulatory protein(StAR)、コレステロールを基質としてC22位とC20位を連続的に水酸化し、さらにもう一段階のオキシゲナーゼ反応を触媒するとともにC20-C22間の共有結合を切断してプレグネノロンを生成するCYP11A1(P450scc)、単一酵素で17α-水酸化反応とC17-C20間の切断反応の二つの反応を触媒し、プレグネノロンからDehydroepiandrosterone(DHEA)、プロゲステロンからアンドロステンジオンを生成するCYP17A1(P450c17)、δ-5-3-β-ヒドロキシステロイド前駆体のδ-4‐ケトステロイドへの酸化的変換ならびに3-β-ヒドロキ-および3-ケト-5-α-アンドロスタンステロイドの相互変換を触媒する3β-hydroxy-δ5-steroid dehydrogenase(HSD3β)、17-ケトステロイドの還元と17β-ヒドロキシステロイドの脱水素を触媒し、DHEAよりアンドロステンジオール、アンドロステンジオンよりテストステロンを生成する17β-hydroxy steroid dehydrogenase(HSD17β)が挙げられる。
【0046】
中でも律速段階にあるStARのステロイドホルモン合成への関わりは大きく、ステロイドホルモンの合成系において最も重要な段階と考えられている。StAR遺伝子に異常があるために副腎及び性腺のほとんどすべてのステロイドホルモンが合成されないリポイド過形成症(Prader病)という疾患がある。この疾患では出生時より副腎不全症状を呈し、また46、XYの固体では精巣での男性ホルモン産生障害のために外性器が女性化する。
また、動物にてStARの発現が減少するとテストステロンを始め、ステロイドホルモン量が減少することが報告されている(非特許文献4)。
【0047】
さらに、24ヶ月齢の老齢マウスを男性更年期動物モデルとし、漢方薬である柴胡加竜骨牡蠣湯を経口投与すると、男性更年期モデルマウスのStARの発現を増加させ、血清テストステロンレベルを改善し、男性更年期の一症状である性的活動の減少が改善されたという報告がある。この研究はStARの発現を活性化することによって血清テストステロンレベルを改善でき、男性更年期によって引き起こされる諸症状を改善できる可能性を示唆している(非特許文献5)。
【0048】
解析実験は以下の通り行った。
I-10細胞(JCRB細胞バンク、JCRB9097)を6ウェルプレート(日本ジェネティクス製)に1×10
5cell/mLで2mL/well播種し、F-10培地(10%FBS、penicillin 100unit/mL、streptomycin sulfate 100μg/mL、gentamycin sulfate 50μg/mL)中でインキュベーター(三洋電機製)で3日間培養(37℃、10%CO
2条件下)した。
上記細胞にF-10培地で100倍希釈したサンプル(100mg/mL、50%DSMO水溶液)溶液を添加してインキュベーター(三洋電機製)で3日間培養(37℃、10%CO
2条件下)した。
この細胞をPBS溶液により洗浄後、アキュターゼ(ナカライテスク製)により剥離して回収した。
回収した細胞を卓上マイクロ冷却遠心分離機(久保田商事製)により300gで3分間、遠心分離をした後、上清を除去した。
ReliaPrep(登録商標)RNA Cell Miniprep System(プロメガ製)又はMaxwell(登録商標)RCS simply RNA Cells Kit(プロメガ製)を用いてTotal RNAを抽出した。
Total RNA(0.5~1.0μg)をReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Master Mix(東洋紡製)を用いて逆転写後、GeneAce SYBR(登録商標)qPCR Mix α No ROX(ニッポンジーン製)と表3に示すプライマーを用いてThermal Cycler Dice Real Time System(タカラバイオ製)により解析した。
本実験において、対照は50%DSMO水溶液とした。
結果を
図3に示す。
【0049】
【0050】
図3よりStARが11種において対照と比較して有意に高い発現を示した。このことから、テストステロン合成分泌を促進するのにStARが関与していることが示唆された。
【0051】
〔実施例4〕腸管上皮透過性の確認
本発明の実施例ではライディッヒ細胞モデルであるI-10細胞に直接サンプルを添加しているが、生体においては経口摂取後に腸管から吸収されなければライディッヒ細胞まで成分が到達できない。
そこで発明者らは本発明に係る促進剤が腸管上皮を透過するかを確認するため、腸管上皮細胞モデルであるCaco-2細胞を用いてテンヨウケンコウシ抽出物が活性を示すかを調べた。
Caco-2細胞(理研細胞バンク、RCB0988)を透過性試験に用いるインサート(BioCoat Collagen I inserts、Corning社製)上に播種し、ミリセルERS-2(メルクミリポア社製)を用いて経上皮抵抗(TEER)を数日おきに測定し、600Ω・cm
2程度になるまで培養する。インサート内にサンプル(テンヨウケンコウシを40質量%エチルアルコールで抽出した抽出物でそれぞれ5、10、20mg/mLの濃度)を加えた培地0.2mLを添加し、一晩静置後、基底膜側の培地(0.6mL)を回収し、I-10細胞に添加して実施例1の方法でテストステロン分泌促進活性を測定した。結果を
図4に示す。コントロールには40質量%エチルアルコールを用いた。
【0052】
さらに、これらの濃度のテンヨウケンコウシ抽出物のCaco-2細胞に対する細胞傷害性をCytotoxicity LDH Assay kit-WST(同仁化学株式会社製)を用いて調べた。結果を
図5に示す。
【0053】
図4に示すように、基底膜側の培地はI-10細胞のテストステロン分泌を濃度依存的に促進していることが示された。
また、
図5に示すように、有意な細胞傷害性は確認できなかった。
これらのことより、テンヨウケンコウシ抽出物には腸管を透過し、且つライディッヒ細胞のテストステロン分泌を促進させる成分が含まれていることが示された。
【0054】
〔実施例5〕関与成分特定の試験
発明者らは、テストステロン上昇させる11種の天然素材について、その関与成分特定をするために以下のような試験を行った。結果を
図6に示し、テンヨウケンコウシについて得られたピーク図と参考データとの比較を
図7に示す。
【0055】
試験は以下の方法で行った。
テンヨウケンコウシの抽出物については、甜茶5gを40%エタノール水溶液にて4℃で4日間抽出し、得られた抽出液からエタノールを除去後、ヘキサン、酢酸エチル、1-ブタノールにより順次溶媒分配して水層(750 mg)を得た。水層を全量DIAION HP-20カラムクロマトグラフィー(2.4×20cm)に通してから水で洗浄し、50%メタノール水溶液、メタノールを順次流した。非吸着画分(水画分、444mg)を濃縮後、Cosmosil 75C18-OPNカラムクロマトグラフィー(1.5×3.0cm)に添加し、水、60%メタノール水溶液を流して水溶出画分(444mg)を得た。この水溶出画分をカラムとしてInertsustain C18(20×250mm、GLサイエンス)、移動相はグラジエント(20%メタノール水溶液から65%メタノール水溶液、0.1%トリフルオロ酢酸添加、60分)を用いたHPLCにより分画した。得られた画分を続いてCosmosil PBr(10×250mm、ナカライテスク)、移動相はグラジエント(1%メタノール水溶液から15%メタノール水溶液、0.1%トリフルオロ酢酸添加、60分)を用いたHPLCにより分画した。最後に、得られた画分をShodex Asahipak NH2P-50 4E(4.6×250mm、SHOWA DENKO K.K.)、移動相は85%アセトニトリル水溶液を用いたHPLCにより分画し、得られたピークの1H-NMRとESI-MSを測定し、参考データ(Biological Magnetic Resonance Bank)と比較することでmyo-イノシトールと同定した。
また、カシス、アカジソについてはこれらの素材に含まれる成分が複数知られているため、複数の化合物を用いてケミカルバイオロジー的手法にて関与成分を探索した。その結果、カシスにおいてはシアニジン-3-ルチノシド(C3R)とデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)、アカジソにおいてはロスマリン酸(RA)を同定した。
テストステロン分泌促進活性試験は〔実施例1〕の方法で行った。
ポジティブコントロールとしてGGOH(ゲラニルゲラニオール)を用いた。GGOH(ゲラニルゲラニオール)は中央~南アメリカに自生する植物であるが、現在はインド、アフリカ等全世界的に栽培されているベニノキ科ベニノキ(アナトー:Bixa orella)の種子から得られる天然のイソプレノイド化合物である。テストステロン増強剤として開示され(特許文献3)、テストステロン増強作用について報告されている(非特許文献8)。
【0056】
図6より分かるように、カシス由来のシアニジン-3-ルチノシド(C3R)とデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)、アカジソ由来のロスマリン酸(RA)において対照と比較してテストステロンの有意な分泌促進が見られた。また、テンヨウケンコウシ(Rubus suavissimus)由来のmyo-イノシトール(MI)でもテストステロンの分泌促進が確認できた。これらの成分はテストステロン分泌促進の関与成分であると考えられる。
【0057】
〔実施例6〕StAR発現の促進確認の試験
実施例5で判明した関与成分について、さらに発明者らはStARの発現が促進されているかを確認するためにデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)とロスマリン酸(RA)について[実施例3]の方法でStAR発現の促進確認試験を行った。結果を
図8と
図9に示す。
【0058】
図8と
図9から分かるように、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)とロスマリン酸(RA)のいずれについても他のテストステロン生合成関連遺伝子と比較してStARの発現が上昇していた。このことから、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)とロスマリン酸(RA)ではどちらもStARの発現が誘導されていると考えられる。
【0059】
〔実施例7〕関与成分の併用効果
発明者らはさらに実施例5で判明した関与成分につき、単独ではなく併用したときにテストステロンの分泌促進効果が上昇するかを[実施例1]の方法でテストステロン分泌促進活性試験を行い検討した。結果を
図10に示す。
【0060】
図10より分かるように、myo-イノシトール(МI)、ロスマリン酸(RA)、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)それぞれ単独よりもmyo-イノシトール(МI)とロスマリン酸(RA)、myo-イノシトール(МI)とデルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)の併用においてテストステロンの分泌促進が上昇することが確認できた。このことから、成分を併用することでより多くテストステロンが分泌されることが示唆された。
【0061】
処方例1:野菜ジュース
〔成分〕 〔配合量〕
(1)テンヨウケンコウシ含水エタノール抽出物 0.5
(2)野菜搾り汁 84.5
(3)リンゴ5倍濃縮果汁 5.0
(4)レモン3倍濃縮果汁 2.0
(5)アスコルビン酸ナトリウム 0.05
(6)精製水 残余
〔製法〕
(1)~(6)を混合して野菜ジュースを得る。
【0062】
処方例2:クッキー
〔成分〕 〔配合量〕
(1)テンヨウケンコウシ含水エタノール抽出物 10.0
(2)ショートニング 40.0
(3)牛乳 5.0
(4)アスパルテーム 7.5
(5)卵 7.5
(6)ベーキングパウダー 0.001
(7)薄力粉 残余
〔製法〕
攪拌機を用いて(2)~(4)を混合後、(5)を少しずつ加えて均一になるまで混合した。当該混合物に予め混合しておいた(6)、(7)及び(1)を加えて混錬し、クッキー生地を得た。冷蔵庫で30分静置後、成型し、焼く。
【0063】
処方例3:グミ
〔成分〕 〔配合量〕
(1)テンヨウケンコウシ含水エタノール抽出物 2.5
(2)リンゴ5倍濃縮果汁 45.0
(3)ハチミツ 41.5
(4)レモン搾り汁 5.0
(5)ゼラチン 6.0
(6)シナモン 適量
〔製法〕
(1)~(4)を加熱混合し、(5)と(6)を加えてさらに均一になるまで加熱混合する。当該混合液を型に流し入れ、4℃で1時間冷却した。型から外してグミを得た。
【0064】
処方例4:錠剤型サプリメント
〔成分〕 〔配合量〕
(1)テンヨウケンコウシ含水エタノール抽出物 10.0
(2)微結晶セルロース 75.0
(3)アスコルビン酸ナトリウム 10.0
(4)グリセリン脂肪酸エステル 3.0
(5)タルク 1.8
(6)ステアリン酸ナトリウム 0.2
〔製法〕
(1)~(6)を均一に混合した後、単発式打錠機を用いて打錠し、直径5mm、質量15mgの錠剤を得た。
【0065】
処方例5:顆粒型サプリメント
〔成分〕 〔配合量〕
(1)テンヨウケンコウシ含水エタノール抽出物 15.0
(2)アスコルビン酸 25.0
(3)酢酸d-α-トコフェロール 1.5
(4)粉末還元麦芽糖水あめ 54.0
(5)アスパルテーム 0.6
(6)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5
(7)リボフロビン酪酸エステル 0.2
(8)スクラロース 0.2
(9)ショ糖脂肪酸エステル 2.0
〔製法〕
(1)~(6)を混合した混合物と、(7)と(8)を25mLのエタノールに溶解した溶解液を混合し、練合後、押出し造粒機を用いて造粒する。得られた造粒物に(9)を添加・混合して顆粒剤を得る。
【0066】
処方例6:錠剤型サプリメント
〔成分〕 〔配合量〕
(1)エゾウコギ乾燥粉末 10.0
(2)微結晶セルロース 75.0
(3)アスコルビン酸ナトリウム 10.0
(4)グリセリン脂肪酸エステル 3.0
(5)タルク 1.8
(6)ステアリン酸ナトリウム 0.2
〔製法〕
(1)~(6)を均一に混合した後、単発式打錠機を用いて打錠し、直径5mm、質量15mgの錠剤を得た。
【0067】
処方例7:顆粒型サプリメント
〔成分〕 〔配合量〕
(1)西洋人参乾燥粉末 15.0
(2)アスコルビン酸 25.0
(3)酢酸d-α-トコフェロール 1.5
(4)粉末還元麦芽糖水あめ 54.0
(5)アスパルテーム 0.6
(6)ヒドロキシプロピルセルロース 1.5
(7)リボフロビン酪酸エステル 0.2
(8)スクラロース 0.2
(9)ショ糖脂肪酸エステル 2.0
〔製法〕
(1)~(6)を混合した混合物と、(7)と(8)を25mLのエタノールに溶解した溶解液を混合し、練合後、押出し造粒機を用いて造粒する。得られた造粒物に(9)を添加・混合して顆粒剤を得る。
【0068】
処方例8:グミ
〔成分〕 〔配合量〕
(1)アカジソ水抽出物 2.5
(2)リンゴ5倍濃縮果汁 45.0
(3)ハチミツ 41.5
(4)レモン搾り汁 5.0
(5)ゼラチン 6.0
(6)シナモン 適量
〔製法〕
(1)~(4)を加熱混合し、(5)と(6)を加えてさらに均一になるまで加熱混合する。当該混合液を型に流し入れ、4℃で1時間冷却した。型から外してグミを得た。
【0069】
処方例9:錠剤型サプリメント
〔成分〕 〔配合量〕
(1)myo-イノシトール 67.0
(2)アカジソエキス末(ロスマリン酸含有) 0.6
(3)カシスエキス末(カシスアントシアニン含有) 1.2
(4)微結晶セルロース 26.2
(5)グリセリン脂肪酸エステル 2.5
(6)タルク 1.5
(7)ステアリン酸ナトリウム 0.6
(8)酸味料 0.4
(9)香料 適量
〔製法〕
(1)~(9)を均一に混合した後、単発式打錠機を用いて打錠し、直径11mm、質量400mgの錠剤を得た。
【要約】
テストステロンの合成・分泌を副作用がなく促進させる促進剤を得ることを課題とする。
様々な天然素材の中からテストステロン分泌促進能が有意に高い素材を探索した結果、ライディッヒ細胞よりテストステロンの分泌を促進する素材を11種見出した。さらに、それらの内3種について関与成分を特定した。