(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】舶用ディーゼルエンジン
(51)【国際特許分類】
B63H 21/14 20060101AFI20220125BHJP
B63H 21/38 20060101ALI20220125BHJP
B63H 21/32 20060101ALI20220125BHJP
F02G 5/02 20060101ALI20220125BHJP
F02B 37/00 20060101ALI20220125BHJP
F01N 5/02 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
B63H21/14
B63H21/38 B
B63H21/32 Z
F02G5/02 A
F02B37/00 302B
F01N5/02 J
F01N5/02 K
(21)【出願番号】P 2017040648
(22)【出願日】2017-03-03
【審査請求日】2019-10-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】595099591
【氏名又は名称】尾道造船株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303047034
【氏名又は名称】株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 陽平
(72)【発明者】
【氏名】三柳 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】山内 隆弘
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-215124(JP,A)
【文献】国際公開第2016/174761(WO,A1)
【文献】特表2009-532614(JP,A)
【文献】特開2013-181417(JP,A)
【文献】国際公開第2013/030889(WO,A1)
【文献】特開2012-21438(JP,A)
【文献】特開2013-2355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/14
B63H 21/38
B63H 21/32
F02G 5/02
F02B 37/00
F01N 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジン本体と、
前記ディーゼルエンジン本体に燃料として低硫黄留出油だけを供給する燃料供給系統と、
前記ディーゼルエンジン本体からの排ガスにより駆動して熱回収するタービン及び前記タービンと同軸回転することで前記ディーゼルエンジン本体に燃焼用気体を供給する圧縮機と、
前記タービンを駆動した後の
全量の排ガスのエネルギを熱回収する熱回収装置と、
を備え、
前記タービンは、前記ディーゼルエンジン本体の排気マニホールドからの排気管が直接連結され、
前記タービンは、前記ディーゼルエンジン本体から排出された直後の排ガスのエネルギを熱回収することでタービン出口における排ガスの温度を、硫黄成分の含有量を低く抑えることで
タービン出口側の排気管における低温腐食の発生を抑制可能な180℃以下とする、
ことを特徴とする舶用ディーゼルエンジン。
【請求項2】
ディーゼルエンジン本体と、
前記ディーゼルエンジン本体に燃料として低硫黄留出油だけを供給する燃料供給系統と、
前記ディーゼルエンジン本体からの排ガスにより駆動して熱回収するタービン及び前記タービンと同軸回転することで前記ディーゼルエンジン本体に燃焼用気体を供給する圧縮機と、
前記タービンを駆動した後の
全量の排ガスのエネルギを熱回収しないで大気に放出する煙突と、
を備え、
前記タービンは、前記ディーゼルエンジン本体の排気マニホールドからの排気管が直接連結され、
前記タービンは、前記ディーゼルエンジン本体から排出された直後の排ガスのエネルギを熱回収することでタービン出口における排ガスの温度を、硫黄成分の含有量を低く抑えることで
タービン出口側の排気管における低温腐食の発生を抑制可能な180℃以下とする、
ことを特徴とする舶用ディーゼルエンジン。
【請求項3】
前記燃料供給系統は、前記ディーゼルエンジン本体に対して常温の低硫黄留出油を供給することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の舶用ディーゼルエンジン。
【請求項4】
前記熱回収装置は、前記タービンを駆動した排ガスを熱回収して蒸気を生成するためのエコノマイザ、ボイラまたは気水分離ドラム等で構成され、前記熱回収装置により生成された蒸気が潤滑油系統の不純物除去装置、温水生成設備、カーゴタンクまたは居住区の暖房設備等の蒸気を必要とする蒸気稼働装置から選択される1つまたは複数だけに供給されることを特徴とする請求項1に記載の舶用ディーゼルエンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶に主機関として搭載される舶用ディーゼルエンジンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
主機関として使用される舶用ディーゼルエンジンは、燃費向上や排ガス中のCO2を削減するために過給機が装着されている。この過給機は、ディーゼルエンジンから排出される排ガスを利用してタービン及びコンプレッサを駆動することにより、ディーゼルエンジンに吸気を圧縮供給して出力を向上させるものである。そして、排ガスのエネルギは、更にエコノマイザによって回収されている。
【0003】
従来、舶用ディーゼルエンジン、特にユニフロー式2ストローク舶用大型ディーゼルエンジンでは、脱硫されていない安価な燃料油、つまり硫黄含有量の多い燃料油が用いられてきた。より具体的には、外洋航行中に安価なC重油が使用され、近海及び港内で環境負荷の少ない良質なA重油が使用されている。しかし、国際海事機関(IMO)により採択された船舶燃料油の硫黄含有量制限に関わる国際条約議定書の規則により、2020年以降に一般海域における船舶燃料油の硫黄分規制が強化されることが決定された。
【0004】
このような舶用ディーゼルエンジンとしては、例えば、下記特許文献1に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
舶用ディーゼルエンジンで使用する燃料油は、硫黄含有量が多いことから、燃焼すると二酸化硫黄が発生し、酸素で酸化されることで三酸化硫黄になり、これが燃料中の水分に溶けると硫酸が発生する。硫黄含有量の多い燃料油の燃焼により生じた排ガスには硫黄酸化物が多く含まれるため、排ガス温度が凝縮点を下回ると、エコノマイザの低温伝熱面に結露が発生し、水と硫酸が析出することで硫酸による腐食(低温腐食)が発生する。従来、エコノマイザの低温腐食の発生を防止するため、過給機(タービン)出口、エコノマイザ入口及びエコノマイザ出口での排ガス温度を一定温度以上に維持していた。そのため、過給機において、舶用ディーゼルエンジンにおける燃費向上に制約があった。
【0007】
また、舶用ディーゼルエンジンで使用する燃料油として、安価なC重油と良質なA重油を使用すると、船体に2つの燃料供給系統が必要になるという課題があった。更に、C重油は、常温(非加熱状態)で粘度が高いことから、蒸気などを用いて加熱(昇温)することで、使用可能な適正粘度に調整する必要があった。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するものであり、低温腐食の発生を抑制する一方で燃費の向上を図ると共に、装置の小型化及び設備の低コスト化を図る舶用ディーゼルエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するための本発明の舶用ディーゼルエンジンは、ディーゼルエンジン本体と、前記ディーゼルエンジン本体に燃料として低硫黄留出油だけを供給する燃料供給系統と、前記ディーゼルエンジン本体からの排ガスにより駆動して熱回収するタービン及び前記タービンと同軸回転することで前記ディーゼルエンジン本体に燃焼用気体を供給する圧縮機を備える過給機と、を備え、前記タービンは、前記タービン出口における前記ディーゼルエンジン本体からの排ガスの温度が180℃以下になるまで熱回収する、ことを特徴とするものである。
【0010】
従って、燃料供給系統により低硫黄留出油がディーゼルエンジン本体に燃料として供給されるため、ディーゼルエンジン本体で低硫黄留出油が燃焼して発生した排ガスは、硫黄成分の含有量が低く抑えられる。そのため、排ガスの温度が低下しても、配管などにおける低温腐食の発生が抑制されることから、過給機は、タービンが排ガスにより駆動されることでこの排ガスが持つ熱エネルギをより多く回収することができる。そして、過給機は、タービンが排ガスにより駆動されて熱回収し、この排ガスの温度が180℃以下になるまで効率的に熱回収することができる。その結果、低温腐食の発生を抑制することができる一方で、ディーゼルエンジン本体における燃費の向上を図ることができ、また、複数の燃料供給系統や燃料の加熱装置などを不要として装置の小型化及び設備の低コスト化を図ることができる。
【0011】
本発明の舶用ディーゼルエンジンでは、前記燃料供給系統は、前記ディーゼルエンジン本体に対して常温(非加熱状態)の低硫黄留出油を供給することを特徴としている。
【0012】
従って、燃料供給系統によりディーゼルエンジン本体に常温(非加熱状態)の低硫黄留出油を供給することで、燃料の加熱装置を不要として装置の小型化及び設備の低コスト化を図ることができる。
【0013】
本発明の舶用ディーゼルエンジンでは、前記タービンを駆動した排ガスを熱回収しないで大気に放出する煙突が設けられることを特徴としている。
【0014】
従って、タービンを駆動した排ガスを熱回収しないで煙突から大気に放出することで、熱交換器などの設備を不要として装置の簡素化を図ることができる。
【0015】
本発明の舶用ディーゼルエンジンでは、前記タービンを駆動した排ガスを熱回収して蒸気を生成するためのエコノマイザ、ボイラまたは気水分離ドラム等で構成される熱回収装置が設けられ、前記熱回収装置により生成された蒸気が潤滑油系統の不純物除去装置、温水生成設備、カーゴタンクまたは居住区の暖房設備等の蒸気を必要とする蒸気稼働装置から選択される1つまたは複数だけに供給されることを特徴としている。
【0016】
従って、熱回収装置により排ガスを熱回収して蒸気を生成し、この蒸気を必要とする蒸気稼働装置のうちの少なくとも1つだけに供給することで、蒸気の供給箇所を減少して熱回収装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の舶用ディーゼルエンジンによれば、ディーゼルエンジン本体の燃料として低硫黄留出油だけを用いることで、低温腐食の発生を抑制することができる一方で、ディーゼルエンジン本体における燃費の向上を図ることができ、また、複数の燃料供給系統や燃料の加熱装置などを不要として装置の小型化及び設備の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、第1実施形態の舶用ディーゼルエンジンを表す概略図である。
【
図2】
図2は、第2実施形態の舶用ディーゼルエンジンを表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る舶用ディーゼルエンジンの好適な実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではなく、また、実施形態が複数ある場合には、各実施形態を組み合わせて構成するものも含むものである。
【0020】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態の舶用ディーゼルエンジンを表す概略図である。
【0021】
第1実施形態にて、
図1に示すように、舶用ディーゼルエンジン11は、例えば、船舶推進用の主機関として用いられ、2ストローク1サイクルのユニフロー掃気方式のクロスヘッド式内燃機関である。
【0022】
この舶用ディーゼルエンジン11において、ディーゼルエンジン本体12は、シリンダライナ13と、ピストン14と、掃気トランク15と、排気マニホールド16と、排気弁17と、インジェクタ(燃料噴射弁)18とを備えている。
【0023】
シリンダライナ13は、シリンダジャケット(図示略)内に配置され、上部にシリンダカバー21が固定されて空間部を区画しており、この空間部内にピストン14が上下方向に沿って往復動自在に設けられることで、燃焼室22が形成される。シリンダカバー21は、排気弁17が設けられており、排気弁17は、動弁装置23により開閉可能となっている。そして、燃焼室22は、排気管24を介して排気マニホールド16が連結されており、この排気弁17は、燃焼室22と排気管24とを開閉するものである。
【0024】
シリンダカバー21は、インジェクタ18が設けられており、インジェクタ18は、燃焼室22に対して燃料を噴射することができる。このインジェクタ18は、燃料供給管25により燃料噴射ポンプ26、フィルタ27、燃料加圧ポンプ28を介して燃料タンク29が連結されている。
【0025】
また、シリンダライナ13は、下部に設けられた複数の掃気ポート30を介して掃気トランク15が連結されている。掃気トランク15は、吸気管(図示略)を介して空気が供給可能となっている。ピストン14は、下端部にピストン棒14aの上端部が連結されている。図示しないが、クランクシャフトは、ディーゼルエンジン本体12の下部に回転自在に支持されており、クランクを介して連接棒の下端部が回動自在に連結されている。ディーゼルエンジン本体12は、クロスヘッドが上下方向に沿って移動自在に支持され、クロスヘッドは、ピストン棒14aの下端部と連接棒の上端部が回動自在に連結されている。
【0026】
そのため、ピストン14が下死点(
図1の実線位置)に移動すると、掃気ポート30が開くことで、掃気トランク15の空気が掃気ポート30から燃焼室22に導入され、ピストン14が上昇すると、掃気ポート30と燃焼室22の導通がピストン14により遮断される。このとき、動弁装置23により排気弁17が上昇することで、燃焼室22と排気管24との連通が閉じられ、ピストン14の上昇により燃焼室22内の空気が圧縮される。そして、ピストン14が上死点(
図1の二点鎖線位置)まで移動すると、燃焼室22の圧力が所定の圧縮圧力になり、インジェクタ18が燃焼室22に燃料を噴射する。すると、燃焼室22内で空気と燃料が混合して燃焼し、燃焼エネルギによりピストン14が下降する。このとき、動弁装置23により排気弁17が下降することで、燃焼室22と排気管24とが連通すると、燃焼によって生じた排ガスが燃焼室22から排気管24を通して排気マニホールド16に押し出される一方、掃気ポート30から空気が燃焼室22に導入される。
【0027】
舶用ディーゼルエンジン11は、ディーゼルエンジン本体12に過給機31が連結されている。過給機31は、コンプレッサ(圧縮機)32とタービン33が回転軸34を介して同軸上に連結されて構成されている。そのため、コンプレッサ32とタービン33は、回転軸34により一体回転することができる。コンプレッサ32は、外部から吸気する吸気管L1が連結されると共に、掃気トランク15に至る空気導管L2が連結されており、この空気導管L2に空気冷却器37が設けられている。タービン33は、排気マニホールド16からの排気管L3が連結されると共に、外部に排気する排気管L4が連結されている。
【0028】
そして、過給機31は、排気管L4が煙突35に連結されている。この煙突35は、タービン33を駆動することで熱回収されて温度が低下した排ガスを外部に排出するものである。即ち、過給機31は、タービン33を駆動した排ガスを排気管L4を通して熱回収しないで煙突35から大気に放出する。
【0029】
第1実施形態の舶用ディーゼルエンジン11は、ディーゼルエンジン本体12と、コンプレッサ32とタービン33とから構成される過給機31と、インジェクタ18と燃料供給管25と燃料噴射ポンプ26とフィルタ27と燃料加圧ポンプ28と燃料タンク29から構成される燃料供給系統36とを備えている。そして、燃料供給系統36は、ディーゼルエンジン本体12に燃料として低硫黄留出油だけを供給するものである。
【0030】
この低硫黄留出油とは、例えば、ISO 8217で規定されるDMX級、DMA級、DMZ級、DMB級と定義される留出油である。即ち、低硫黄留出油は、含有する硫黄成分が0.5%以下であることが望ましく、0.1%以下であることが最適である。そして、この低硫黄留出油は、C重油に比べて粘度が極端に低く、ISO 8217 DMA級でmin.2.0cSt at 40℃(max.6.0cSt at 40℃)である。そのため、燃料供給系統36は、燃料を加熱する加熱装置が不要となり、ディーゼルエンジン本体12に対して常温(非加熱状態)の低硫黄留出油を供給するものである。
【0031】
また、過給機31は、タービン33がディーゼルエンジン本体12から排出された排ガスにより駆動されることで、この排ガスの熱エネルギを回収する。本実施形態では、過給機31ができるだけ多くのエネルギを回収することが望ましく、排ガスは、過給機31(タービン33)における出口温度が180℃以下になるまで熱回収する。この場合、コンプレッサ32やタービン33を高効率化したり、多段式の過給機を適用したりすることで、排ガスの熱回収量を増加することができる。
【0032】
燃料供給系統36では、燃料タンク29に燃料として低硫黄留出油が貯留されており、燃料加圧ポンプ28が駆動すると、燃料タンク29の低硫黄留出油が所定圧力まで加圧されて燃料供給管25に送給され、燃料噴射ポンプ26が駆動することで、所定圧力の低硫黄留出油がインジェクタ18に送られ、このインジェクタ18の弁開放時に低硫黄留出油だけがディーゼルエンジン本体12の燃焼室22に噴射される。
【0033】
そして、ディーゼルエンジン本体12の排気マニホールド16から排出された排ガスは、過給機31のタービン33を駆動する。タービン33が駆動回転すると、回転軸34を介して一体に連結されたコンプレッサ32が駆動回転し、吸気を圧縮して掃気トランク15に供給する。過給機31(タービン33)から排出された排ガスは、熱エネルギが回収されて180℃以下まで温度低下し、煙突35から外部に放出される。このとき、排ガスは、低硫黄留出油が燃焼したものであるから、含有する硫黄成分がほとんどなく、排気管L4が低温腐食することが抑制される。
【0034】
このように第1実施形態の舶用ディーゼルエンジンにあっては、ディーゼルエンジン本体12と、ディーゼルエンジン本体12に燃料として低硫黄留出油だけを供給する燃料供給系統36と、ディーゼルエンジン本体12からの排ガスにより駆動して熱回収するタービン33及びタービン33と同軸回転することでディーゼルエンジン本体12に燃焼用気体としての空気を供給するコンプレッサ32を備える過給機31とを備えている。
【0035】
従って、燃料供給系統36により低硫黄留出油がディーゼルエンジン本体12に燃料として供給されるため、ディーゼルエンジン本体12で低硫黄留出油が燃焼して発生した排ガスは、硫黄成分の含有量が低く抑えられる。そのため、排ガスの温度が低下しても、配管などにおける低温腐食の発生が抑制されることから、過給機31は、タービン33が排ガスにより駆動されることで、この排ガスが持つ熱エネルギをより多く回収することができる。その結果、低温腐食の発生を抑制することができる一方で、ディーゼルエンジン本体12における燃費の向上を図ることができ、また、複数の燃料供給系統や燃料の加熱装置、硫黄分回収用のスクラバなどを不要として装置の小型化及び設備の低コスト化を図ることができる。
【0036】
第1実施形態の舶用ディーゼルエンジンでは、タービン33は、ディーゼルエンジン本体12からの排ガスを温度が180℃以下になるまで熱回収する。従って、過給機31は、排ガスから効率的に熱回収することができる。
【0037】
第1実施形態の舶用ディーゼルエンジンでは、燃料供給系統36は、ディーゼルエンジン本体12に対して常温(非加熱状態)の低硫黄留出油を供給する。従って、燃料の加熱装置を不要として装置の小型化及び設備の低コスト化を図ることができる。
【0038】
第1実施形態の舶用ディーゼルエンジンでは、タービン33を駆動した排ガスを熱回収しないで大気に放出する煙突35を設けている。従って、熱交換器の設備を不要として装置の簡素化を図ることができる。
【0039】
[第2実施形態]
図2は、第2実施形態の舶用ディーゼルエンジンを表す概略図である。
【0040】
第2実施形態において、
図2に示すように、舶用ディーゼルエンジン11は、ディーゼルエンジン本体12と、コンプレッサ32とタービン33とから構成される過給機31と、インジェクタ18と燃料供給管25と燃料噴射ポンプ26とフィルタ27と燃料加圧ポンプ28と燃料タンク29から構成される燃料供給系統36、熱回収装置41とを備えている。
【0041】
熱回収装置41は、例えば、エコノマイザ、ボイラ、気水分離ドラム等で構成され、過給機31と煙突35を連結する排気管L4に設けられている。熱回収装置41は、給水管L11と蒸気管L12が接続されており、給水管L11から送給された給水と排気管L4からの排ガスとが熱交換して給水が加熱されて蒸気が生成されることで熱回収を行い、この蒸気が蒸気管L12から排出される。この蒸気管L12は、下流側が4つに分岐され、1つの分岐管L13が潤滑油系統の不純物除去装置(ピューリファイアー)42に連結され、1つの分岐管L14が温水生成設備43に連結され、1つの分岐管L15がカーゴタンク44に連結され、1つの分岐管L16が居住区の暖房設備45に連結されている。
【0042】
即ち、過給機31から排出される排ガスは、温度が180℃以下であることから、熱回収装置41は、少量の蒸気を生成することができ、この生成した蒸気を不純物除去装置42と温水生成設備43とカーゴタンク44と居住区の暖房設備45に供給している。
【0043】
また、燃料供給系統36は、ディーゼルエンジン本体12に燃料として低硫黄留出油だけを供給するものである。
【0044】
そのため、過給機31は、タービン33が排ガスにより駆動すると、コンプレッサ32が駆動回転して吸気を圧縮して掃気トランク15に供給する。過給機31(タービン33)から排出された排ガスは、熱エネルギが回収されて180℃以下まで温度低下し、熱回収装置41に送られる。熱回収装置41は、給水管L11から送給された給水を排ガスにより加熱して蒸気を生成し、蒸気管L12を通して不純物除去装置42、温水生成設備43、カーゴタンク44、居住区の暖房設備45等の蒸気を必要とする蒸気稼働装置に供給される。
【0045】
一方、熱回収装置41から排出された排ガスは、煙突35から外部に放出される。このとき、排ガスは、低硫黄留出油が燃焼したものであるから、含有する硫黄成分がほとんどなく、排気管L4が低温腐食することが抑制される。
【0046】
このように第2実施形態の舶用ディーゼルエンジンにあっては、ディーゼルエンジン本体12と、ディーゼルエンジン本体12に燃料として低硫黄留出油だけを供給する燃料供給系統36と、ディーゼルエンジン本体12からの排ガスにより駆動して熱回収するタービン33及びタービン33と同軸回転することでディーゼルエンジン本体12に燃焼用気体としての空気を供給するコンプレッサ32を備える過給機31と、熱回収装置41とを備えている。
【0047】
従って、排ガスの温度が低下しても、配管などにおける低温腐食の発生が抑制されることから、過給機31は、タービン33が排ガスにより駆動されることで、この排ガスが持つ熱エネルギをより多く回収することができる。その結果、低温腐食の発生を抑制することができる一方で、ディーゼルエンジン本体12における燃費の向上を図ることができ、また、複数の燃料供給系統や燃料の加熱装置、硫黄分回収用のスクラバなどを不要として装置の小型化及び設備の低コスト化を図ることができる。
【0048】
第2実施形態の舶用ディーゼルエンジンでは、熱回収装置41により生成された蒸気を潤滑油系統の不純物除去装置42と温水生成設備43とカーゴタンク44と居住区の暖房設備45等の蒸気を必要とする蒸気稼働装置から選択される1つまたは複数だけに供給している。従って、蒸気の供給箇所を減少することでエコノマイザ41の小型化を図ることができる。
【符号の説明】
【0049】
11 舶用ディーゼルエンジン
12 ディーゼルエンジン本体
13 シリンダライナ
14 ピストン
15 掃気トランク
16 排気マニホールド
17 排気弁
18 インジェクタ(燃料噴射弁)
22 燃焼室
31 過給機
32 コンプレッサ(圧縮機)
33 タービン
35 煙突
36 燃料供給系統
37 空気冷却器
41 熱回収装置
42 不純物除去装置(蒸気稼働装置)
43 温水生成設備(蒸気稼働装置)
44 カーゴタンク(蒸気稼働装置)
45 居住区の暖房設備(蒸気稼働装置)
L1 吸気管
L2 空気導管
L3,L4 排気管
L11 給水管
L12 蒸気管