(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】蛍光色素
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20220125BHJP
C07D 417/14 20060101ALN20220125BHJP
C07D 417/12 20060101ALN20220125BHJP
C09B 57/00 20060101ALN20220125BHJP
【FI】
C09K11/06
C07D417/14
C07D417/12
C09B57/00 G
(21)【出願番号】P 2017172360
(22)【出願日】2017-09-07
【審査請求日】2020-08-26
(73)【特許権者】
【識別番号】503474098
【氏名又は名称】礒部 信一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100103115
【氏名又は名称】北原 康廣
(72)【発明者】
【氏名】礒部 信一郎
(72)【発明者】
【氏名】松岡 洋平
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196608(JP,A)
【文献】特表2016-522442(JP,A)
【文献】特開2003-104976(JP,A)
【文献】特開2014-234495(JP,A)
【文献】特開2006-257089(JP,A)
【文献】特開2008-231051(JP,A)
【文献】特開2006-251350(JP,A)
【文献】国際公開第2016/068324(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/016718(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
H01L 33/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(1)で表されるベンゾチアジアゾール誘導体から成る蛍光色素。
【化1】
一般式(1)中、Xは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示し、
Yは一般式L
1-M
1で示され、
M
1は、
置換基を有してもよいピリジニウム基、あるいは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示し、
L
1は、M
1と中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、
直接結合であり、
更に、活性エステル基又は活性シリル基を含み、
活性エステル基を含む場合、前記Yが一般式L
1
-M
1
-L
2
で示され、L
2
は、M
1
と前記活性エステル基とを連結するリンカーであって、直接結合または-(CH
2
)
q
-(qは1~6の整数、ただし1を除く)であり、
活性エステル基は、N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル又はマレイミドエステルから選択され、
活性シリル基を含む場合、前記Yが一般式L
1
-M
1
-Q-Zで示され、Qはアミド結合、メチルアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合およびポリオキシエチレン結合から選択される1種の結合であり、ZはQと前記活性シリル基とを連結するリンカーであり、直接結合あるいは-(CH
2
)
r
-(rは1~10の整数)または-(O-CH
2
CH
2
)
s
-(sは1~10の整数)であり、
活性シリル基は、一般式Si(R
3
)
u
(OR
4
)
3-u
で表され、R
3
とR
4
は炭素数1~4のアルキル基であり、uは0又は1である。
【請求項2】
M
1
は、置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示す、請求項1記載の蛍光色素。
【請求項3】
活性エステル基を含む場合、前記Yが一般式L
1
-M
1
-L
2
で示され、L
2
は、M
1
と前記活性エステル基とを連結するリンカーであって、直接結合または-(CH
2
)
q
-(qは4)である、請求項1又は2に記載の蛍光色素。
【請求項4】
活性エステル基を含む場合、前記Yが一般式L
1
-M
1
-L
2
で示され、L
2
は、M
1
と前記活性エステル基とを連結するリンカーであって、-(CH
2
)
q
-(qは4)である、請求項1又は2に記載の蛍光色素。
【請求項5】
活性シリル基を含む場合、前記Yが一般式L
1
-M
1
-Q-Zで示され、Qはアミド結合、メチルアミド結合、ポリオキシエチレン結合から選択される1種の結合であり、ZはQと前記活性シリル基とを連結するリンカーであり、直接結合あるいは-(CH
2
)
r
-(rは1~8の整数)または-(O-CH
2
CH
2
)
s
-(sは1~8の整数)である、請求項1~4のいずれか1項に記載の蛍光色素。
【請求項6】
活性シリル基は、一般式Si(R
3
)
u
(OR
4
)
3-u
で表され、R
3
とR
4
はメチル基、エチル基又はn-プロピル基である、請求項1~5のいずれか1項に記載の蛍光色素。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸、タンパク質、ペプチド類、そして糖類等の生体分子の検出に用いる蛍光色素に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューバイオケミストリー分野では、現在特定遺伝子解析、遺伝子治療、テーラーメイド医療を目的とした研究が盛んに行われている。この分野では有機蛍光試薬を用いる研究が殆どであり蛍光色素が存在しなければ、DNA解析や抗体を含むタンパク質を用いた解析技術は完成しなかったと言われている。これらの分野で主に使用されている既存の蛍光試薬として、シアニン骨格を有するCy色素やローダミン骨格を有するAlexa Fluorなどの有機蛍光色素が多く用いられている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
しかしながら、上記の既存の蛍光色素は、固体状態でも発光する利点を有するが、非常に高価であるため、生体分子の検出方法が高コストにならざるを得ないという問題がある。これに対し、本出願人は、アゾール誘導体からなる有機EL色素を蛍光色素として用いることを提案しており、これによれば、検出方法の低コスト化が可能で、固体状態でも高い蛍光強度を得ることが可能である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Science 283,1,January,1999,83-87
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、より一層の検出感度向上のために、より高い蛍光強度を有する蛍光色素が必要とされている。
【0007】
そこで、本発明は、低コスト化が可能で、固体状態でもより高い蛍光強度を有する蛍光色素を提供することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、ベンゾチアジアゾール誘導体から成る蛍光色素が高い蛍光強度を有することを見出して本発明を完成させたものである。すなわち、本発明の一態様に係る蛍光色素は、以下の一般式(1)で表されるベンゾチアジアゾール誘導体から成ることを特徴とする。
【0009】
【0010】
ここで、一般式(1)中、Xは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示し、Yは一般式L1-M1で示され、M1は、置換基を有してもよいピリジニウム基、2級アミニウム基、3級アミニウム基、4級アンモニウム基、ピペリジニウム基、ピペラジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基、キノリウム基、ベンゾイミダゾリウム基、ベンゾチアゾリウム基又はベンゾオキサゾリウム基である窒素カチオン含有基、あるいは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示し、L1は、M1と中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、直接結合、または、-(CH=CR1)n-(nは1~6の整数)、-(CH2)n-(nは1~6の整数)、-NHCOO-、-CONH-、-CONH(R2)-、-COO-、-SO2NH-、-HN-C(=NH)-NH-、-O-、-S-、-NR2-、-Ar-(Arは芳香族炭化水素基)、-CO-Ar-NR2-、からなる群から選択された1種以上の官能基を示し、R1は水素原子または炭素数1~4のアルキル基、R2は炭素数1~4のアルキル基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蛍光色素は、固体状態でも高い量子収率を有しており、マイクロアレイなどの基盤上もしくはビーズ上の乾燥状態でも高い蛍光強度を与える。また、Cy色素等の従来の蛍光色素に比べ安価に製造可能であるので、より低コストで生体分子の検出を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】合成例2の蛍光色素の粉末の発光状態を示す写真である。
【
図2】合成例3の蛍光色素の粉末の発光状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
実施の形態1
本実施の形態に係る蛍光色素はベンゾチアジアゾール誘導体であり、以下の一般式(1)で表わすことができる。
【0014】
【0015】
一般式(1)中、Xは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示す。芳香族炭化水素基としては単環または多環のアリール基であり、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントラセニル基等を挙げることができる。置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、ジアルキルアミノ基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。また、該置換基としてのジアルキルアミノ基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を有するアミノ基である。また、該置換基としての芳香族炭化水素基は単環又は多環を含むアリール基である。また、該置換基としての複素環基は、例えばチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基である。Xは、好ましくは、置換基を有するフェニル基であり、置換基としては、アルコキシ基またはアルキル基であり、具体例としては、p-メトキシフェニル基、p-エトキシフェニル基、p-プロポキシフェニル基、p-ブトキシフェニル基、p-ペントキシフェニル基、p-ヘキシルオキシフェニル基、p-ヘプチルオキシフェニル基、p-オクチルオキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、ジエトキシフェニル基、ジプロポキシフェニル基、ジブトキシフェニル基、ジペントキシフェニル基、ジヘキシルオキシフェニル基、p-メチルフェニル基、p-エチルフェニル基、p-プロピルフェニル基、p-ブチルフェニル基、p-ペンチルフェニル基、p-ヘキシルフェニル基、p-ヘプチルフェニル基、p-オクチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ジエチルフェニル基、ジプロピルフェニル基、ジブチルフェニル基、ジペンチルフェニル基、ジヘキシルフェニル基等を挙げることができる。
【0016】
また、Yは一般式L1-M1で示され、M1は、置換基を有してもよいピリジニウム基、2級アミニウム基、3級アミニウム基、4級アンモニウム基、ピペリジニウム基、ピペラジニウム基、ピリミジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基、キノリウム基、ベンゾイミダゾリウム基、ベンゾチアゾリウム基又はベンゾオキサゾリウム基である窒素カチオン含有基、あるいは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示す。該置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルエステル基、リン酸エステル基、硫酸エステル基、ニトリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、スルホニル基、ジアルキルアミノ基、芳香族炭化水素基または複素環基を挙げることができる。該置換基としてのアルキル基は、置換または無置換の炭素数1~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。また、該置換基としてのアルケニル基は、無置換の炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基である。また、該置換基としてのアルキニル基は、無置換の炭素数2~20の直鎖状もしくは分岐状のアルキニル基である。また、該置換基としてのアルコキシ基は、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチロキシ基またはフェノキシ基である。また、該置換基としてのアルキルエステル基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキルエステルである。また、該置換基としてのジアルキルアミノ基は、炭素数1から6の直鎖状又は分岐状のアルキル基を有するアミノ基である。また、該置換基としての芳香族炭化水素基は単環又は多環を含むアリール基である。また、該置換基としての複素環基は、例えばチエニル基、フラニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、チアジアゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基またはキノリル基である。M1は、好ましくは、置換基を有してもよいピリジニウム基または置換基を有してもよい芳香族炭化水素基であり、より好ましくは無置換のピリジニウム基または無置換のフェニル基である。
【0017】
また、L1は、M1と中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、直接結合、または、-(CH=CR1)n-(nは1~6の整数)、-(CH2)n-(nは1~6の整数)、-NHCOO-、-CONH-、-CONH(R2)-、-COO-、-SO2NH-、-HN-C(=NH)-NH-、-O-、-S-、-NR2-、-Ar-(Arは芳香族炭化水素基)、-CO-Ar-NR2-、からなる群から選択された1種以上の官能基を示し、R1は水素原子または炭素数1~4のアルキル基、R2は炭素数1~4のアルキル基である。L1は、好ましくは直接結合、-(CH=CR1)n-(nは1~6の整数)、または-(CH2)n-(nは1~6の整数)である。
【0018】
また、上記の一般式(1)で示される蛍光色素は、生体分子に結合する反応性基を含んでいてもよい。反応性基は共有結合またはイオン結合により生体分子と結合する。
【0019】
上記の共有結合として、例えばアミド結合、イミド結合、ウレタン結合、エステル結合、またはグアニジン結合を形成する場合、反応性基には、生体分子のアミノ基、イミノ基、チオール基、カルボキシル基またはヒドロキシル基と反応可能な官能基が好ましい。その官能基には、例えば、イソチオシアネート基、イソシアネート基、無水マレイン酸基、エポキシ基、ハロゲン化スルホニル基、塩化アシル基、ハロゲン化アルキル基、グリオキザル基、アルデヒド基、トリアジン基、カルボジイミド基、および活性エステル化したカルボニル基(以下、活性エステル基ともいう)等を用いることができる。好ましくは、イソチオシアネート基、イソシアネート基、エポキシ基、ハロゲン化アルキル基、トリアジン基、カルボジイミド基、および活性エステル基から選択されたいずれか1種を用いることが好ましい。より好ましくは、イソチオシアネート基、イソシアネート基、エポキシ基、ハロゲン化アルキル基、トリアジン基、カルボジイミド基、および活性エステル基から選択されたいずれか1種を用いることが好ましい。さらに好ましくはトリアジン基、カルボジイミド基、または活性エステル基である。これら反応性基と反応する窒素カチオン含有基または芳香族炭化水素基の官能基としては、例えばカルボキシル基を用いることができる。例えば、活性エステル基には、N-ヒドロキシ-スクシンイミドエステルやマレイミドエステルを用いることができる。N-ヒドロキシ-スクシンイミドを用い、縮合剤としてDCCを用いることによりN-ヒドロキシ-スクシンイミドエステル体を経由してアミド結合により蛍光色素と生体分子が結合する。また、カルボジイミド基には、N,N‘-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)や1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド等のカルボジイミド試薬を用いることができる。カルボジイミド体を経由してアミド結合により蛍光色素と生体分子とを結合させることができる。
【0020】
また、蛍光色素が活性エステル基を含む場合、Yは一般式L1-M1-L2で表すこともできる。ここで、L2は、M1と前記活性エステル基とを連結するリンカーであって、直接結合または-(CH2)q-(qは1~6の整数)である。好ましくは、L2は、-(CH2)q-である。
【0021】
また、イオン結合を形成する反応性基には、アニオン性基やカチオン性基を用いることができる。アニオン性基としては、例えばスルホニル基やカルボキシル基を用いることができる。これらのアニオン性基は、生体分子のカチオン性基、例えばアミノ基とイオン結合する。また、カチオン性基としては、4級アンモニウム基やピリジニウム基等の窒素カチオン含有基を用いることができる。これらカチオン性基は、生体分子のアニオン性基、例えばカルボキシル基とイオン結合する。
【0022】
本実施の形態に係る蛍光色素は、固体状態でも高い蛍光強度を有している。
【0023】
実施の形態2
本実施の形態に係る蛍光色素は、活性シリル基を含む以外は、実施の形態1に係るベンゾチアジアゾール誘導体と同様の構成を有している。以下、相違する部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0024】
活性シリル基は、一般式 Si(R3)u(OR4)3-uで表すことができる。R3とR4は炭素数1~4のアルキル基であり、好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、より好ましくはメチル基またはエチル基である。また、uは0または1である。
【0025】
Yは一般式L1-M1-Q-Zで示される。Qはアミド結合、メチルアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合およびポリオキシエチレン結合から選択される1種の結合であり、好ましくは、アミド結合、メチルアミド結合またはポリオキシエチレン結合である。また、ポリオキシエチレン結合は、-(O-CH2CH2)t-で表すことができ、tは1~10の整数、好ましくは1~5の整数である。
【0026】
また、ZはQと活性シリル基とを連結するリンカーであり、直接結合あるいは-(CH2)r-(rは1~10の整数)または-(O-CH2CH2)s-(sは1~10の整数)である。rは好ましくは1~8、より好ましくは1~4である。また、sは好ましくは1~8、より好ましくは1~4である。
【0027】
本実施の形態に係る蛍光色素は、以下の方法を用いて製造できる。すなわち、前記M1が、スクシンイミジルエステル基、アルコラート基、アミノ基、メルカプト基、および末端ヒドロキシ基含有ポリオキシエチレン基からなる群から選択される1種の反応性基を有し、M1含有蛍光色素とシランカップリング剤とを反応させることで製造できる。
【0028】
上記の反応性基を有するM1は、シランカップリング剤と反応し共有結合を形成する。共有結合としては、上記のアミド結合、エーテル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合、ポリオキシエチレン結合等を挙げることができる。
【0029】
シランカップリング剤には、アミノアルキルシラン、グリシジルオキシアルキルシラン、メルカプトシラン、イソチオシアネート、イソシアネートシラン、ハロゲン化シラン等を用いることができる。好ましくは、アミノアルキルシランである。アミノアルキルシランの具体例としては、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができるが、好ましくは3-アミノプロピルトリメトキシシランである。また、グリシジルオキシアルキルシランの具体例としては、ジエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、3-グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、トリエトキシ(3-グリシジルオキシプロピル)シラン等を挙げることができる。また、メルカプトシランには、3-メルカプトプロピルメチルメトキシシランや3-メルカプトプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。また、イソシアネートシランには、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランや3-イソシアネートプロピルトリメトキシシランを挙げることができる。また、イソチオシアネートには、3-チオシアナトプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。また、ハロゲン化シランには、(3-ブロモプロピル)トリメトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルクロライド、3-クロロプロピルジメトキシメチルシラン、3-ヨードプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0030】
アミド結合を形成する場合、シランカップリング剤にはアミノアルキルシランを用い、M1の反応性基としては、スクシンイミジルエステル基を用いることができる。また、エーテル結合を形成する場合、シランカップリング剤にはハロゲン化アルキルシランを用い、M1の反応性基としては、アルコラート基を用いることができる。また、チオウレア結合を形成する場合、シランカップリング剤にはイソチオシアネートシランを用い、M1の反応性基としては、アミノ基を用いることができる。また、ジスルフィド結合を形成する場合、シランカップリング剤にはメルカプトシランを用い、M1の反応性基としては、メルカプト基を用いることができる。また、ポリオキシエチレン結合を形成する場合、シランカップリング剤にはグリシジルオキシアルキルシランを用い、M1の反応性基としては、末端ヒドロキシ基含有ポリオキシエチレン基を用いることができる。
【0031】
M1含有蛍光色素とシランカップリング剤との反応は、溶媒にジクロロメタン、クロロホルム、DMF等を用い、室温から60℃の温度で、混合攪拌することにより行うことができる。必要に応じて溶媒を減圧等により除去して反応物を取り出すことができる。
【0032】
本実施の形態に係る活性シリル基を含む蛍光色素を用いることで、固体状態でも高い蛍光強度を有する蛍光シリカ粒子を製造することができる。蛍光シリカ粒子を製造する方法は、シランカップリング剤を用いてシリカ粒子を製造する方法であれば特に限定されない。例えば、特開2006-514708号公報に記載されているように、アルコキシシリル基含有有機EL色素を水溶液と混合して密集蛍光コアを形成し、その密集蛍光コアとシリカ前駆体を混合して密集コア上にシリカ殻を形成する方法を用いることができる。
【0033】
(用途)
本発明の蛍光色素は、標識された固体あるいは半固体状態の生体分子の蛍光を測定する検出方法であれば、あらゆる生体分子の検出方法に適用することができる。従来の蛍光色素に代えて用いることにより、高感度で、化学的に安定で操作性に優れ、さらに低コストの検出方法を提供することができる。本発明の蛍光色素は、生体分子試料に蛍光色素を直接反応させて標識しても良く、あるいは生体分子試料と、本発明の蛍光色素で標識されたプローブとを反応させて標識する方法を用いることもできる。さらに、本発明の蛍光色素で標識した生体分子試料を電気泳動によりサイズ分離する方法を用いることもできる。例えば、核酸を検出対象とするDNAマイクロアレイ法や、プライマーやターミネータを用いるPCR法に用いることができる。
【0034】
また、タンパク質を検出対象とする場合、通常、電気泳動後のタンパク質の検出には染色色素が用いられている。泳動後のゲル中に、染色色素、例えばクーマシーブリリアントブルー(CBB)を浸透させてタンパク質を染色し、UVを照射して発光させる方法が用いられる。しかしながら、従来の染色色素を用いる方法は簡便であるが、感度が100ng程度と低く微量のタンパク質の検出には適さない。また、ゲルを介して染色色素を浸透させるため、染色に長時間を要するという問題もある。これに対し、本発明の蛍光色素を用いると高感度であり、微量タンパク質の検出には好適である。さらに、サイズ分離したタンパク質を質量分析して同定することもできる。
【0035】
ここで、タンパク質には、アルブミン、グロブリン、グルテリン、ヒストン、プロタミン、そしてコラーゲン等の単純タンパク質、核タンパク質、糖タンパク質、リボタンパク質、リンタンパク質、金属タンパク質等の複合タンパク質のいずれも検出対象とすることができる。例えば、リンタンパク質、糖タンパク質、総タンパク質の染色色素に対応させて3種の蛍光色素を用い、二次元電気泳動で分離したタンパク質試料において、リンタンパク質、糖タンパク質及び総タンパク質を染色することができる。また、TOF-Mass等の質量分析を行うことにより、タンパク質を同定できるので、特殊なタンパク質を生成させる、ガンやウィルスによる感染症などの疾病の診断や治療に応用することが可能である。また、コラーゲンは、動物の結合組織を構成するタンパク質であり、独特の繊維状構造をとる。すなわち、3本のポリペプチド鎖からなり、そのペプチド鎖が寄り集まって三重鎖を形成する。コラーゲンは、一般に極めて免疫原性が低いタンパク質であり、食品、化粧品、医薬品等の分野で広く利用されている。しかし、コラーゲンのペプチド鎖に蛍光色素を導入しても、従来の蛍光色素ではその安定性が十分とは言えず、より安定な蛍光色素が必要とされている。そこで、本発明の蛍光色素を用いてコラーゲンを標識することにより、安定かつ高感度な検出を行うことが可能となる。
【0036】
また、タンパク質と特異的に結合する抗体を本発明の蛍光色素で標識することにより、タンパク質を標識することもできる。例えば、IgG抗体をペプシンで処理するとF(ab’)2と呼ばれるフラグメントが得られる。このフラグメントをジチオスレイトール等で還元するとFab’と呼ばれるフラグメントが得られる。Fab’フラグメントは1つもしくは2つのチオール基(-SH)を有している。このチオール基に対してマレイミド基を作用させて特異的な反応を行うことができる。すなわち、本発明の蛍光色素に反応性基としてマレイミド基を導入し、フラグメントのチオール基と反応させることにより抗体を標識することができる。この場合、抗体の生理活性(抗原捕捉能)を失うことがない。
【0037】
なお、本発明の蛍光色素でアプタマーを標識することもできる。アプタマーはオリゴ核酸からなり、塩基配列に依存して種々の特徴ある立体構造をとることができるので、その立体構造を介してタンパク質を含むあらゆる生体分子に結合することができる。この性質を利用し、本発明の蛍光色素で標識したアプタマーを特定のタンパク質に結合させ、被検出物質との結合によるそのタンパク質の構造変化に伴う蛍光変化から間接的に被検出物質を検出することができる。
【0038】
また、本発明の蛍光色素を用いて金属イオンの検出を行うこともできる。体内のDNAやタンパク質などの安定性や高次構造の維持、機能発現、そして生体内のすべての化学反応を司る酵素の活性化など、生体内で起こるあらゆる生命現象に金属イオンは関与している。そのため、生体内での金属イオンの動きをリアルタイムで観察できる金属イオンセンサは医療分野を初めとしてその重要性が叫ばれている。従来、生体分子に蛍光色素を導入した金属イオンセンサが知られている。例えば、K+イオン存在化において、K+イオン取り込んで特殊な構造をとる配列を有する核酸を利用する金属イオンセンサが提案されている(J. AM. CHEM. SOC. 2002, 124, 14286-14287)。エネルギートランスファーを起こす蛍光色素を核酸の両端に導入する。通常は色素間距離があるためエネルギートランスファーは起きない。しかし、K+イオン存在下では核酸が特殊な形をとる結果、蛍光色素がエネルギートランスファーを起こす距離に近接することで、蛍光を観察することができる。また、ペプチドに蛍光色素を導入した亜鉛イオンセンサも提案されている(J. Am. Chem. Soc. 1996, 118, 3053-3054)。これらの従来の蛍光色素に代えて本発明の蛍光色素を用いることにより、従来に比べ高感度で取り扱いが容易な金属イオンセンサを提供することが可能となる。なお、生体内に存在する金属イオンであれば、すべての金属イオンを検出することが可能である。
【0039】
また、本発明の蛍光色素を用いて、細胞内のシグナル観察を行うこともできる。内部シグナルや環境情報に対する細胞の応答には、イオンから酵素へと多大な分子が関与している。シグナル伝達過程では特殊なプロテインキナーゼが活性化し、特殊な細胞タンパク質のリン酸化を導くことで様々な細胞応答の初期応答を担っていることが知られている。ヌクレオチドの結合と加水分解はこれらの活性に重大な役割を果たしており、ヌクレオチド誘導体を用いることで、シグナル伝達挙動を素早く観察することが出来る。例えば、プロテインキナーゼC(PKC)は細胞膜におけるシグナル伝達において重要な役割を果たしている。このCa2+依存セリン/スレオニンプロテインキナーゼはジアシルグリセロールやフォスファティジルセリンの様な膜構成脂質上で活性化され、イオンチャネルや細胞骨格タンパク質に存在するセリンやスレオニンをリン酸化することで膜表面電化を変えシグナル伝達を行っている。これらを生細胞において動的に観察することで細胞のシグナル伝達の観察を行うことができる。
【0040】
ここで、ヌクレオチド誘導体は酵素の基質や阻害剤として供給され、孤立性タンパク質の構造と力学の探査、膜結合タンパク酵素の再構成、ミトコンドリアのようなオルガネラ、除膜筋線維のような組織のヌクレオチド結合タンパク質部分に、結合してその調節を行っている。また、最近ではG-タンパク質の阻害剤や活性体のようなシグナル伝達に影響を与える化合物の存在も解ってきている。このヌクレオチド誘導体に本発明の有機EL色素からなる蛍光色素を導入することで、これらの細胞内シグナル伝達の動的観察を高感度で、かつ取り扱い容易に行うことが可能となる。
【0041】
また、本発明の蛍光色素を、組織または細胞試料中の標的核酸や標的タンパク質の発現レベルの検討に用いる組織または細胞の染色色素としても用いることができる。すなわち、本発明の染色色素を真核細胞の染色に用いると、乾燥状態でも蛍光を発することから標識後の保存などの点で従来の色素よりも優れた性能を示す。また、真核細胞のみならず、細胞骨格用色素としても十分に用いることが可能である。この他、ミトコンドリア、ゴルジ体、小胞体、ソリゾーム、脂質二重膜などの標識に用いることが可能である。これら、標識された細胞等は、湿潤及び乾燥のあらゆる条件下で観測が可能であるため、汎用性が大きい。観測に際しては、蛍光顕微鏡などを用いることができる。
【0042】
また、臨床段階で人体より採取された組織は、ミクロトームなどの機器を用いて薄膜にスライスした後、染色されている。ここでは、Cy色素及びAlexa色素が用いられている。しかしながら、既存の色素は安定性が非常に悪く、再診断の際には、再びサンプルを作製する必要がある。また、作製されたサンプルは標本として保存することが不可能である。しかし、上記の従来の色素に比べ本発明の蛍光色素は、非常に安定な色素であるので、染色した組織を標本として保存することが可能である。
【0043】
また、ガンや感染症等の診断には、抗体の特異的認識能を利用したイムノアッセイが用いられている。イムノアッセイは、標識抗体を用いて目的の抗原を検出する方法であり、標識物質に酵素を用いる酵素イムノアッセイ(ELISA法)や標識物質に蛍光色素を用いる蛍光イムノアッセイ(FIA法)等が用いられている。ELISA法は、最終的な検出は標識物質である酵素の反応によって生じるさまざまなシグナル(発色、発光、化学発光等)を検出及び定量することにより行う。一方、FIA法は、標識物質である蛍光色素に励起光を照射し、それによる蛍光を検出及び定量することにより行う。FIA法は蛍光色素を用いるため鮮明なコントラストを有し定量性に優れ、またELISA法に比べ、より短時間での検出が可能でかつ操作も簡便であるという特徴を有している。本発明の蛍光色素を用いることにより、より高感度の検出を行うことが可能となる。
【0044】
また、本発明の蛍光色素を化粧用組成物に用いることもできる。蛍光色素を含む化粧用組成物は、夜間や室内における演出用の化粧としてだけでなく、蛍光色素の明色化効果を利用して、ファンデーションや毛髪の染色剤等に用いられている。ここで、明色化効果とは、蛍光色素が紫外光を吸収して可視光を放出して、皮膚や毛髪に明るさや鮮やかさを与える効果をいう。日本の室内照明には、昼光色や白色の蛍光灯が使われているが、これらの蛍光灯からの光は、青や緑が主であり赤が少ない。そのため、女性の化粧肌は青白くくすんで見えるという問題がある。これに対し、本発明の蛍光色素を用いることにより、例えば、橙色の光を放出する蛍光色素を用い、鮮やかな赤味の色を発色させてくすみの解消を図ることが可能である。また、毛髪の染色に用いると、蛍光色素は可視領域の放出光線により毛髪の色を変えるだけでなく、毛髪の輝きを増加させることも可能である。
【0045】
また、本発明の蛍光色素をマーキング剤に用いることもできる。本発明の蛍光色素を含むマーキング剤は、通常の可視光下では不可視であるが、紫外線等の励起光を照射することにより蛍光色素を発光させて視認することができる。この性質を利用し、犯罪防止や犯罪捜査を目的として、物品や人体等の識別や物質の検出等に使用することができる。マーキング剤の対象物には、偽造や盗難等の犯罪の防止や犯罪捜査の対象となる物品や人体が含まれる。例えば、紙幣、小切手、株券、各種証明書等の重要文書や、自動車、オートバイ、自転車、美術品、家具、ブランド品、衣服等の物品、人体の皮膚、頭髪、爪等の身体表面部分、潜在指紋等の遺留物質等を挙げることができる。さらに、対象物を構成する材料に関しては、上質紙、OCR紙、ノーカーボン紙、アート紙等の紙や、塩化ビニル、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等のプラスチックや、金属や、ガラスや、セラミックスや、羊毛、木綿、絹、麻等の天然繊維や、再生セルロース繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の合成繊維や、人体皮膚や体液中のタンパク質等を挙げることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲は以下の実施例により限定されるものではない。
【0047】
合成例1
窒素カチオン含有ベンゾチアジアゾールの活性エステル体の合成について説明する。
【0048】
(1)モノブロモ体の合成
ベンゾチアジアゾールのモノブロモ体の合成スキームを以下に示す。
【0049】
【0050】
30mLのナス型フラスコに化合物1(4,7-ジブロモ-2,1,3-ベンゾチアジアゾール)を1.0g(3.402mmol,ratio:1.0)、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボラン-2-イル)ピリジン 0.7g(3.402mmol,ratio:1.0)を入れ、1,4-ジオキサン10mL中、100℃に設定したオイルバスで撹拌した。これに、2M 炭酸カリウム水溶液2.6mL、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド 0.048g(0.06804mmol,ratio:0.02)、を反応溶液に添加してアルゴン雰囲気下で24時間反応させた。TLC(酢酸エチル100%)で反応が進行したのを確認後、水に反応溶液を入れ、クロロホルムで抽出した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、吸引濾過、減圧留去を行った。残渣を、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N、酢酸エチル100%)した後、減圧留去、真空乾燥させ目的物である化合物2を得た。収量は0.3g、収率は30%であった。
【0051】
(2)ベンゾチアジアゾールのフェノキシ体の合成
ベンゾチアジアゾールのフェノキシ体の合成スキームを以下に示す。
【0052】
【0053】
50mLのナス型フラスコに化合物2を0.2g(0.68mmol,ratio:1.0)、4-メトキシフェニルボロン酸 0.103g(0.68mmol,ratio:1.0)を入れ、トルエン10mL、エタノール14mL中、85℃に設定したオイルバスで撹拌した。これに2M炭酸ナトリウム水溶液0.7mL、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0) 0.072g(0.0623mmol,ratio:0.09)、を反応溶液に添加してアルゴン雰囲気下で24時間反応させた。TLC(酢酸エチル100%)で反応が進行したのを確認後、水に反応溶液を入れ、クロロホルムで抽出した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、吸引濾過、減圧留去を行った。残渣を、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N、酢酸エチル100%)した後、減圧留去、真空乾燥させ目的物である化合物3を得た。収量は0.065g、収率は30%であった。
【0054】
(3)活性エステル体の合成
窒素カチオン含有ベンゾチアジアゾールの活性エステル体の合成スキームを以下に示す。
【0055】
【0056】
15mLのナス型フラスコに化合物3を0.03g(0.0939mmol,ratio:1.0)、5-ブロモペンタン酸スクシンイミジルエステル 0.26g(0.939mmol,ratio:1.0)を入れトルエン5mL中、100℃に設定したオイルバスで反応を開始した。24時間反応後、析出した結晶を吸引濾過後真空ポンプで乾燥させ目的物である化合物4を得た。収量は0.037g、収率は66%であった。
【0057】
合成例2
フェニル基含有ベンゾチアジアゾールの活性エステル体の合成について説明する。
【0058】
(1)モノブロモ体の合成
ベンゾチアジアゾールのモノブロモ体の合成スキームを以下に示す。
【0059】
【0060】
30mLのナス型フラスコに化合物1を1.0g(3.40mmol,ratio:1.0)、4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボラン-2-イル)安息香酸メチル0.89g(3.40mmol,ratio:1.0)を入れ、1,4-ジオキサン10mL中、100℃に設定したオイルバスで撹拌した。これに、2M炭酸カリウム水溶液2.6mL、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド 0.048g(0.068mmol,ratio:0.02)、を反応溶液に添加してアルゴン雰囲気下で24時間反応させた。TLC(酢酸エチル100%)で反応が進行したのを確認後、水に反応溶液を入れ、クロロホルムで抽出した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、吸引濾過、減圧留去を行った。残渣を、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N、酢酸エチル100%)した後、減圧留去、真空乾燥させ目的物である化合物5を得た。収量は0.3g、収率は28%であった。
【0061】
(2)メチルエステル体の合成
ベンゾチアジアゾールのメチルエステル体の合成スキームを以下に示す。
【0062】
【0063】
50mLのナス型フラスコに化合物5を0.2g(0.68mmol,ratio:1.0)、4-メトキシフェニルボロン酸 0.103g(0.68mmol,ratio:1.0)を入れ、トルエン10mL、エタノール14mL中、85℃に設定したオイルバスで撹拌した。これに、2M炭酸ナトリウム水溶液0.7mL、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)0.072g(0.0623mmol,ratio:0.09)、を反応溶液に添加してアルゴン雰囲気下で24時間反応させた。TLC(酢酸エチル100%)で反応が進行したのを確認後、水に反応溶液を入れ、クロロホルムで抽出した。これを硫酸マグネシウムで乾燥させ、吸引濾過、減圧留去を行った。残渣を、シリカゲルカラムクロマト精製(Kanto 60N、酢酸エチル100%)した後、減圧留去、真空乾燥させ目的物である化合物6を得た。収量は0.065g、収率は30%であった。
【0064】
(3)カルボン酸体の合成
ベンゾチアジアゾールのカルボン酸体の合成スキームを以下に示す。
【0065】
【0066】
100mLのナス型フラスコに化合物6を0.5g(1.37mmol,ratio:1.0)、水酸化カリウムを0.19g(3.42mmol,ratio:2.5)、水20mLを入れ、1,4-ジオキサン40mL中、85℃に設定したオイルバスで反応を開始した。3時間反応後、反応溶液を水に入れ、室温で攪拌しながらpHが1になるまで塩酸を加えた。析出した結晶を吸引濾過後、真空ポンプで乾燥させ目的物である化合物7を得た。収量は0.47g、収率は98%であった。
【0067】
(4)活性エステル体の合成
フェニル基含有ベンゾチアジアゾールの活性エステル体の合成スキームを以下に示す。
【0068】
【0069】
100mLのナス型フラスコに化合物7を0.47g(1.34mmol,ratio:1.0)、N-ヒドロキシスクシンイミド0.23g(2.01mmol,ratio:1.5)、1,4-ジオキサン20mLを入れ室温で撹拌した。これに、1,4-ジオキサン10mLに溶解させたWSC(水溶性カルボジイミド)0.38g(2.01mmol,ratio:1.5)を反応溶液に滴下した後、室温で2時間反応させた。TLC(クロロホルム100%)で反応が進行したのを確認後、反応溶液を水に入れクロロホルムで抽出した。有機層を水で二回程、洗浄した後、硫酸マグネシウム乾燥させ吸引濾過、減圧留去の順に処理を行った。残渣をクロロホルムで溶解させ、シリカゲルカラムクロマト精製(ワコーゲルC300、クロロホルム100%)した後、減圧留去、真空乾燥させ目的物である化合物8を得た。収量は0.42g、収率は53%であった。
【0070】
合成例3
フェニル基含有ベンゾチアジアゾールの活性シリル体の合成について説明する。
フェニル基含有ベンゾチアジアゾールの活性シリル体の合成スキームを以下に示す。
【0071】
【0072】
100mLのナス型フラスコに化合物8を0.3g(0.652mmol,ratio:1.0)、3-アミノメチルプロピルトリエトキシシラン 0.23g(0.978mmol,ratio:1.5)、クロロホルム40mLを入れ室温で撹拌した。TLC(クロロホルム100%)で反応が進行したのを確認後、反応溶液を減圧留去した。残渣をクロロホルムで溶解させ、シリカゲルカラムクロマト精製(ワコーゲルC300、クロロホルム100%)した後、減圧留去、真空乾燥させ目的物である化合物9を得た。収量は0.2g、収率は68%であった。
【0073】
合成例4(比較例)
比較例として、4,7-ジ(メトキシフェニル)-1,2,5-オキサジアゾロピリジンのピリジニウム体の活性エステル体を用いた。
【0074】
4-メトキシアセトフェノン10を出発原料として用いて、酢酸中、硝酸と亜硝酸ナトリウムの存在下、30℃で2日間反応を行い、N-オキシド体11を収率78%で得た。次に、アセトニトリル中、塩化第一銅次亜リン酸ナトリウムの存在下、80℃で14時間の還元反応を行いジケトン体12を収率62%で得た。さらに、エタノール中、4-ピコリルアミンの存在下、80℃で2日間の反応を行い、ピリジニウム体を収率70%で得た。トルエン中、100℃で3日間、5-ブロモペンタン酸スクシンイミジルエステルと反応させ、ピリジニウム体の活性エステル体13を収率78%で得た。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
(吸収スペクトルおよび蛍光スペクトル測定)
合成した蛍光色素について、溶媒にDMSOを用いて、蛍光波長の測定および吸収波長の測定を行った。その結果を表1に示す。また、合成例2,3の化合物の粉末の発光状態を示す写真を
図1,2に示す。
【0079】
【0080】
(結果)
合成例1~3の蛍光色素は、オキサジアゾロピリジン骨格を有する合成例4の蛍光色素に比べ、高い量子効率と蛍光強度を有することを確認した。これより、本発明の蛍光色素を用いることで、より一層の検出感度の向上が期待できる。
本明細書は、下記の実施形態を含む。
1.
以下の一般式(1)で表されるベンゾチアジアゾール誘導体から成る蛍光色素。
【化14】
一般式(1)中、Xは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示し、Yは一般式L
1
-M
1
で示され、M
1
は、置換基を有してもよいピリジニウム基、2級アミニウム基、3級アミニウム基、4級アンモニウム基、ピペリジニウム基、ピペラジニウム基、イミダゾリウム基、チアゾリウム基、オキサゾリウム基、キノリウム基、ベンゾイミダゾリウム基、ベンゾチアゾリウム基又はベンゾオキサゾリウム基である窒素カチオン含有基、あるいは置換基を有してもよい芳香族炭化水素基を示し、L
1
は、M
1
と中心ベンゼン環とを連結するリンカーであり、直接結合、または、-(CH=CR
1
)
n
-(nは1~6の整数)、-(CH
2
)
n
-(nは1~6の整数)、-NHCOO-、-CONH-、-CONH(R
2
)-、-COO-、-SO
2
NH-、-HN-C(=NH)-NH-、-O-、-S-、-NR
2
-、-Ar-(Arは芳香族炭化水素基)、-CO-Ar-NR
2
-、からなる群から選択された1種以上の官能基を示し、R
1
は水素原子または炭素数1~4のアルキル基、R
2
は炭素数1~4のアルキル基である。
2.
活性エステル基を含み、前記Yが一般式L
1
-M
1
-L
2
で示され、L
2
は、M
1
と前記活性エステル基とを連結するリンカーであって、直接結合または-(CH
2
)
q
-(qは1~6の整数)である、上記1記載の蛍光色素。
3.
前記M
1
が、前記置換基を有してもよいピリジニウム基である上記1または2に記載の蛍光色素。
4.
前記M
1
が、前記置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である上記1または2に記載の蛍光色素。
5.
活性シリル基を含み、前記Yが一般式L
1
-M
1
-Q-Zで示され、Qはアミド結合、メチルアミド結合、エーテル結合、チオエーテル結合、チオエステル結合、チオウレア結合、ジスルフィド結合およびポリオキシエチレン結合から選択される1種の結合であり、ZはQと前記活性シリル基とを連結するリンカーであり、直接結合あるいは-(CH
2
)
r
-(rは1~10の整数)または-(O-CH
2
CH
2
)
s
-(sは1~10の整数)である、上記1記載の蛍光色素。
6.
前記M
1
が、前記置換基を有してもよい芳香族炭化水素基である上記5に記載の蛍光色素。