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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】熱処理装置および熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/40 20060101AFI20220125BHJP
   C21D 1/10 20060101ALI20220125BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C21D9/40 B
C21D1/10 F
C21D9/40 A
C21D1/18 T
C21D1/18 U
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2017174547
(22)【出願日】2017-09-12
(65)【公開番号】P2019049037
(43)【公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】真野 義也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慎太郎
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-055526(JP,A)
【文献】特開平08-003630(JP,A)
【文献】特開平03-044421(JP,A)
【文献】特公昭58-031369(JP,B2)
【文献】国際公開第2004/029320(WO,A1)
【文献】特公昭49-027241(JP,B1)
【文献】特開昭55-041964(JP,A)
【文献】特開2005-272979(JP,A)
【文献】特開2006-183874(JP,A)
【文献】特開2009-091639(JP,A)
【文献】特開2009-203525(JP,A)
【文献】特開2015-067881(JP,A)
【文献】特開平05-033060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/00
C21D 1/18
C21D 1/42
C21D 9/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ワークの送り方向に沿って、前記ワークを狙い温度に誘導加熱する加熱装置を有する加熱部と、前記ワークが冷却されるのに伴って前記ワークの外周面又は内周面を拘束可能な拘束型を前記ワークの外周又は内周に配置した状態で前記ワークを冷却液に浸漬させることにより、前記加熱装置で加熱された前記ワークを冷却して焼入れする冷却部と、を設けてなり、
雰囲気を非酸化性雰囲気とした密閉室内に、前記加熱装置を収容した第1空間と、前記拘束型による前記ワークの外周面又は内周面の拘束が開始される直前状態にする処理が実施される第2空間とが通路を介して相互に分離して設けられ、
前記密閉室の出口側開口部を閉口した前記冷却液中で前記ワークが前記拘束型から離型される熱処理装置であって、
前記冷却部は、昇降可能に配設された加圧部材と、前記加圧部材の直下に昇降可能に配設された昇降テーブルと、を備え、
上端面に前記ワークを載置した前記昇降テーブルが前記加圧部材及び前記拘束型と一体的に下降移動して前記冷却液中で下降限に到達すると、前記ワークが前記拘束型から離型され、離型された前記ワークが前記冷却液中で前記昇降テーブルの外側に払い出されると共に、前記拘束型及び前記加圧部材が上昇移動して原点復帰することを特徴とする熱処理装置。
【請求項2】
前記加熱部は、前記密閉室の入口側開口部を介して前記第1空間に投入される前記ワークを収容可能な置換室と、前記入口側開口部を閉口する閉状態と前記入口側開口部を開口させる開状態の間を相互に移行する開閉手段と、を有し、
前記置換室内に前記ワークを投入する時、前記開閉手段は前記閉状態にあり、
前記置換室内に前記ワークが投入された状態で前記置換室の室内雰囲気が大気雰囲気から非酸化性雰囲気に置換された後、前記開閉手段が前記閉状態から前記開状態に移行する請求項1に記載の熱処理装置。
【請求項3】
前記加熱装置は、複数の前記ワークを段積み状態で支持可能な支持部材と、該支持部材で支持された前記ワークと同軸に配置された加熱コイルと、前記支持部材と前記支持部材で支持された前記ワークとの間に前記支持部材の下方側からワークを供給するワーク供給手段とを備え、
前記支持部材は、ワークの径方向に沿って進退移動可能にワークの周方向に離間した複数箇所に配設され、
各支持部材は、前記ワーク供給手段によってワークが供給されるのに伴って径方向外側に移動してワークを受け入れ、ワークを受け入れた後、径方向内側に移動してワークを支持する請求項1又は2に記載の熱処理装置。
【請求項4】
前記冷却部は、前記ワークおよび前記拘束型を前記冷却液中で前記ワークの軸線回りに回転させる回転機構と、前記冷却液を攪拌させる攪拌機構の少なくとも一方を備える請求項1~3の何れか一項に記載の熱処理装置。
【請求項5】
前記ワークが転がり軸受の軌道輪である請求項1~4の何れか一項に記載の熱処理装置。
【請求項6】
環状のワークを狙い温度に誘導加熱する加熱工程と、
前記ワークが冷却されるのに伴って前記ワークの外周面又は内周面を拘束可能な拘束型を前記ワークの外周又は内周に配置した状態で前記ワークを冷却液に浸漬させることにより、前記加熱工程で加熱された前記ワークを冷却して焼入れする冷却工程とを備え
前記加熱工程と、前記冷却工程のうち、前記拘束型による前記ワークの外周面又は内周面の拘束が開始される直前状態にする処理とを、雰囲気を非酸化性雰囲気とした密閉室内に通路を介して相互に分離して設けた第1空間と第2空間とで順次実施し、その後、前記密閉室の出口側開口部を閉口した前記冷却液中で前記ワークを前記拘束型から離型する熱処理方法であって、
前記冷却工程では、昇降可能な加圧部材の直下に昇降可能に配設した昇降テーブルが、その上端面に前記ワークを載置した状態で前記加圧部材及び前記拘束型と一体的に下降移動して前記冷却液中で下降限に到達すると、前記ワークを前記拘束型から離型し、離型した前記ワークを前記冷却液中で前記昇降テーブルの外側に払い出すと共に、前記拘束型及び前記加圧部材を上昇移動させて原点復帰させることを特徴とする熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理装置および熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、転がり軸受の軌道輪のように、SUJ2等の鋼材からなる環状部材の製造過程においては、環状部材に必要とされる機械的強度等を付与するための熱処理(焼入硬化処理)が実施される。この熱処理は、環状部材の基材(環状のワーク)を狙い温度に加熱するための加熱処理が実施される加熱工程や、加熱されたワークを冷却して焼入れする冷却処理が実施される冷却工程などを含む。加熱工程は、メッシュベルト型連続炉などの雰囲気加熱炉、あるいは、誘導加熱装置を用いて実施することができる。特に、誘導加熱であれば、ワークのみを直接加熱することができるために高いエネルギー効率を達成できることに加え、コンパクトな熱処理装置を実現できる、という利点がある。
【0003】
ところで、上記のワークに対する加熱処理や冷却処理を、酸素が存在する雰囲気で実施すると、ワークの表面に酸化スケールが生成される。ワーク表面に生成された酸化スケールは、ワークの光輝性を奪って外観品質を低下させる他、コンタミの発生原因にもなり得るため、研磨、研削あるいはショットブラストなどの適宜の手段によって完全に除去するのが好ましい。しかしながら、酸化スケールを完全に除去するのは容易ではなく、特に、微小な穴や凹凸を有する複雑形状のワーク表面に酸化スケールが生成された場合、酸化スケールを完全に除去するには多大な工数を要する。従って、熱処理に伴う酸化スケールの生成が問題となる場合には、例えば下記の特許文献1,2に開示されているように、加熱処理や冷却処理を含む一連の熱処理工程を非酸化性雰囲気で実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-59116号公報
【文献】特開2002-105532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2の熱処理装置では、誘導加熱されたワークがそのまま冷却・焼入れされるため、焼入完了後のワークの形状精度(特に、外周面又は内周面の真円度)が安定しない。このため、後工程でワークの形状精度を修正(矯正)する処理を追加的に施す必要が生じ、コスト高を招来するおそれがある。
【0006】
また、特許文献1,2に開示されている熱処理装置は、非酸化性雰囲気にすることのできる容器内に、ワークを狙い温度に誘導加熱する加熱部と、加熱後のワークを冷却する冷却部とを上下に並べて設け、適宜の手段で保持したワーク(一のワーク)を加熱部で狙い温度に誘導加熱した後、加熱されたワークを冷却部の配設位置まで下降させて冷却・焼入れするように構成されている。係る構成の熱処理装置では、一のワークに対する熱処理(加熱および加熱後の冷却)が完了するまで後続のワークに対して何らの処理も施すことができない。従って、処理効率が低く、転がり軸受の軌道輪のような量産部品の製造過程で使用する熱処理装置としては好ましくない。
【0007】
以上の実情に鑑み、本発明は、ワークの外観品質や形状精度を低下させることなく、ワークに対する熱処理(焼入硬化処理)を効率良く実施することのできる熱処理装置および熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために創案された本発明に係る熱処理装置は、環状のワークの送り方向に沿って、ワークを狙い温度に誘導加熱する加熱装置を有する加熱部と、ワークが冷却されるのに伴ってワークの外周面又は内周面を拘束可能な拘束型をワークの外周又は内周に配置した状態でワークを冷却液に浸漬させることにより、加熱装置で加熱されたワークを冷却して焼入れする冷却部とを設けてなり、加熱装置を収容した第1空間と、拘束型によるワークの外周面又は内周面の拘束が開始される直前状態にする処理が実施される第2空間とが雰囲気を非酸化性雰囲気とした密閉室内に相互に分離して設けられ、密閉室の出口側開口部を閉口した冷却液中でワークが拘束型から離型されることを特徴とする。
【0009】
ここで、本発明でいう「拘束型によるワークの外周面又は内周面の拘束が開始される直前状態」とは、外周又は内周に拘束型が配置された加熱完了後のワークを拘束型とともに冷却液に浸漬する直前の状態や、冷却液中に設置(固定的に配置)された拘束型の外周又は内周に加熱完了後のワークを挿入する直前の状態、を含む概念である。すなわち、拘束型は、加熱完了後のワークとともに冷却液に浸漬される場合がある他、常時冷却液に浸漬されている場合もあり、拘束型の配置態様はワークの種類・形状等に応じて適宜設定される。また、本発明でいう「非酸化性雰囲気」とは、酸素が一切存在しない雰囲気のみならず、ワークの表面に酸化スケールが生成されない程度に酸素が僅かに存在する雰囲気(例えば、酸素濃度が100ppm以下)も含む概念である。後述する本発明に係る熱処理方法においても同様である。
【0010】
上記の構成を有する熱処理装置によれば、加熱済のワークはその外周面又は内周面が拘束型に拘束された状態で冷却・焼入れされるので、機械的強度のみならず、外周面又は内周面の形状精度(特に真円度)に優れた高品質のワーク(熱処理完了品)を安定的に得ることができる。また、ワークを狙い温度に誘導加熱する加熱処理と、加熱されたワークを冷却して焼入れする冷却処理とを、非酸化性雰囲気で同時進行することができる。このため、ワークの表面に酸化スケールを生成させることなく、複数のワークに対して効率良く熱処理を施すことが可能となる。
【0011】
密閉室は、第1空間と第2空間の間に介在する通路をさらに有するものとすることができる。密閉室にこのような通路を設けておけば、冷却部(第2空間)の直前位置に、冷却処理待ちのワークを配置することが可能となるので、冷却部の1サイクル動作完了後には、後続のワークに対する冷却処理にスムーズに移行することができる。従って、ワークに対する熱処理を一層効率良く行うことが可能となる。
【0012】
加熱部は、密閉室の入口側開口部を介して第1空間に投入されるワークを収容可能な置換室と、上記入口側開口部を閉口する閉状態と上記入口側開口部を開口させる開状態の間を相互に移行する開閉手段と、をさらに有するものとすることができる。係る構成において、置換室にワークを投入する時、開閉手段が閉状態にあり、置換室内にワークが投入(収容)された状態で置換室の室内雰囲気が大気雰囲気から非酸化性雰囲気に置換された後、開閉手段が閉状態から開状態に移行するようにしておけば、密閉室の室内雰囲気を非酸化性雰囲気に維持したまま、ワークを第1空間(加熱部)に投入することができる。
【0013】
加熱装置は、例えば、複数のワークを段積み状態で支持可能な支持部材と、支持部材で支持されたワークと同軸に配置された加熱コイルと、支持部材と支持部材で支持されたワークとの間にワーク(後続のワーク)を供給するワーク供給手段とを備えるものとすることができる。この場合、ワーク供給手段のワーク供給動作に伴って、支持部材で支持されたワークに送り力を付与することができるので、加熱装置を簡素な構成とすることができる。
【0014】
冷却部は、ワークおよび拘束型を冷却液中でワークの軸線回りに回転(一体回転)させる回転機構と、冷却液を撹拌させる撹拌機構の少なくとも一方を備えるものとすることができる。このようにすれば、ワーク全体を均一に冷却することが可能となるので、焼入れ完了後のワークの形状精度を高める上で有利となる。
【0015】
本発明に係る熱処理装置は、例えば、転がり軸受の軌道輪のような量産部品(となる環状のワーク)に熱処理を施すための熱処理装置として好適に用い得る。
【0016】
また、上記の目的を達成するために創案された本発明に係る熱処理方法は、環状のワークを狙い温度に誘導加熱する加熱工程と、ワークが冷却されるのに伴ってワークの外周面又は内周面を拘束可能な拘束型をワークの外周又は内周に配置した状態でワークを冷却液中に浸漬させることにより、加熱工程で加熱されたワークを冷却して焼入れする冷却工程とを備え、加熱工程と、冷却工程のうち、拘束型によるワークの外周面又は内周面の拘束が開始される直前状態にする処理とを、雰囲気を非酸化性雰囲気とした密閉室内に相互に分離して設けた第1空間と第2空間とで順次実施し、その後、密閉室の出口側開口部を閉口した冷却液中でワークを拘束型から離型することを特徴とする熱処理方法を提供する。
【0017】
このような熱処理方法であれば、上述した本発明に係る熱処理装置と同様の作用効果を享受することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上から、本発明に係る熱処理装置および熱処理方法によれば、ワークの外観品質や形状精度を低下させることなく、ワークに対する熱処理(焼入硬化処理)を効率良く実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る熱処理装置の全体構造を示す概略斜視図である。
図2図1に示す熱処理装置の概略正面図である。
図3】加熱部の概略断面図である。
図4】加熱装置の斜視図である。
図5】熱処理装置を構成する冷却部の概略断面図である。
図6】冷却工程の実施状態を示す概略断面図である。
図7】他の実施形態に係る冷却工程の実施状態を示す概略断面図である。
図8】(a)図および(b)図は、他の実施形態に係る拘束型を用いた場合における冷却工程の実施状態を示す概略断面図である。
図9】他の実施形態に係る冷却部の部分概略断面図である。
図10】他の実施形態に係る加熱装置の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係る熱処理装置の全体構造を示す概略斜視図であり、図2は、同熱処理装置の概略正面図である。図1および図2に示す熱処理装置1は、SUJ2等の鋼材からなる環状のワークW(本実施形態では、転がり軸受の外輪の基材)を、図2中に二点鎖線で示す経路に沿って送りながらワークWに焼入硬化処理を施すように構成された、いわゆる連続式の熱処理装置1であって、ワークWの送り方向に沿って、ワークWを狙い温度(焼入温度)に誘導加熱する加熱工程が実施される加熱部2と、加熱部2で加熱されたワークWを冷却して焼入れする冷却工程が実施される冷却部3とが設けられている。さらに、この熱処理装置1は、非酸化性雰囲気で加熱工程および冷却工程が実施されるように構成されている。以下、加熱部2および冷却部3の詳細構造を説明する。
【0022】
図3に示すように、加熱部2は、加熱装置20、加熱室5、置換室8および通路室7を備える。
【0023】
加熱装置20は、ワークWを狙い温度に誘導加熱するためのものであって、本実施形態の加熱装置20は、図3および図4に示すように、複数のワークWを段積み状態で支持可能な支持部材21と、支持部材21で支持されたワークWの径方向外側に配置された加熱コイル22と、支持部材21の下方側に配置され、支持部材21に対してワークW(後続のワークW)を供給するワーク供給手段23とを備える。
【0024】
支持部材21は、支持すべきワークWの周方向に離間した複数箇所(例えば3箇所)に配設されている。各支持部材21は、支持すべきワークWの径方向に沿って進退移動可能に設けられており、ワーク供給手段23によって下方側からワークWが供給されるのに伴って支持すべきワークWの径方向外側に移動してワークWを受け入れ、ワークWを受け入れた後には、支持すべきワークWの径方向内側に移動してワークWを支持する。
【0025】
加熱コイル22は、例えば、銅管等の導電性金属からなる管状体を螺旋状に巻き回したいわゆる多巻きコイルからなり、支持部材21で支持されたワークWと同軸に配置されている。加熱コイル22としては、ワークWの軸方向寸法の数倍~数十倍程度の全長(軸方向)寸法を有するものが使用される。このような全長寸法を有する加熱コイル22を使用することにより、支持部材21によって段積み状態で支持された複数のワークWが通電状態の加熱コイル22の対向領域を上側に送られていくのに伴って、各ワークWが順次狙い温度に誘導加熱される。
【0026】
ワーク供給手段23は、例えば、支持部材21で支持されたワークWと同軸に配置された伸縮自在のシリンダロッド23aを有する動力シリンダ(油圧シリンダ、エアシリンダ、あるいは電動シリンダ)で構成される。シリンダロッド23aの先端には、ワークWを載置可能なフランジ部23bが設けられている。
【0027】
以上の構成を有する加熱装置20は、本発明でいう第1空間Aとしての加熱室5の内部空間に収容・配置されており、加熱室5の上流側および下流側(ワークWの送り方向後方側および前方側)に置換室8および通路室7がそれぞれ隣接配置されている。
【0028】
ここで、加熱室5は、図2に示すように、通路室7および後述する焼入れ準備室6と協働して、室内雰囲気(熱処理装置1の運転中における室内雰囲気)が非酸化性雰囲気に保たれる密閉室4を形成している。密閉室4は、ワークWの送り方向に沿って、加熱室5、通路室7および焼入れ準備室6を順に配置してなり、図3および図5に示すように、第1空間Aとしての加熱室5の内部空間と、本発明でいう第2空間Bとしての焼入れ準備室6の内部空間とは、両室5,6間に設けられた通路室7の内部空間(通路C)を介して繋がっている。従って、密閉室4は、相互に分離して設けられた第1空間Aと第2空間Bとを有している。密閉室4は、さらに、加熱室5の内部空間にワークWを投入するための入口側開口部4a(図3参照)と、焼入れ準備室6の底壁に設けられた出口側開口部4b(図5参照)とを有する。入口側開口部4aは、図3に示す開閉手段(第2の開閉手段)12によって開口又は閉口され、出口側開口部4bは、図5に示すように、冷却液貯留槽35に貯留された冷却液36の液面によって常に閉口されている。
【0029】
図示は省略しているが、密閉室4の内部空間には、密閉室4の内部空間に存在する空気を脱気するための脱気装置から延びた脱気管の一端、および密閉室4の内部空間に不活性ガスあるいは還元性ガスを供給するためのガス供給装置から延びたガス供給管の一端がそれぞれ開口している。
【0030】
置換室8は、熱処理装置1の運転中、ワークWを加熱室5の内部空間に投入する際に、加熱室5を含む密閉室4の室内雰囲気を非酸化性雰囲気に保つために設置されている。そのため、図示は省略しているが、置換室8の内部空間には、置換室8の内部空間に存在する空気を脱気するための脱気装置から延びた脱気管の一端、および置換室8の内部空間に不活性ガスあるいは還元性ガスを供給するためのガス供給装置から延びたガス供給管の一端が開口している。
【0031】
図3に示すように、置換室8には、その内部空間にワークWを投入するための開口部8aが設けられており、この開口部8aは、開閉手段(第1の開閉手段)11によって開口又は閉口される。第1の開閉手段11としては、例えば昇降式のシャッターを採用することができる。
【0032】
置換室8と加熱室5との間には開閉手段(第2の開閉手段)12が設けられており、第2の開閉手段12によって密閉室4の入口側開口部4aが開口又は閉口される。すなわち、第2の開閉手段12は、密閉室4の入口側開口部4aを開口させる開状態と、密閉室4の入口側開口部4aを閉口する閉状態との間を相互に移行可能となっており、例えば昇降式のシャッターで構成される。後段でも説明するが、第2の開閉手段12は、第1の開閉手段11が開状態となったとき、密閉室4の入口側開口部4aを閉口する閉状態になる。
【0033】
図示は省略しているが、加熱部2は、置換室8の内部空間に投入されたワークWを加熱室5の内部空間に移送するための移送手段を有する。この移送手段としては、例えば、置換室8および加熱室5の底面に跨るようにして敷設された搬送コンベア、あるいは動力シリンダ(油圧シリンダ、エアシリンダ、電動シリンダ)などを採用することができる。
【0034】
通路室7の内部空間は、加熱装置20で狙い温度に加熱され、加熱装置20の外側(加熱コイル22の上側)に排出された加熱完了後のワークWを、第2空間Bとしての焼入れ準備室6の内部空間に向けて移送するための通路Cとして活用される。通路室7の内部空間には、図示しない搬送コンベア等の移送手段が設けられている。
【0035】
冷却部3は、前述したとおり、加熱部2で狙い温度に加熱されたワークWを冷却して焼入れする冷却工程が実施される部位であり、本実施形態の冷却部3は、ワークWの外周面を拘束型33で拘束した状態でワークWを冷却・焼入れ可能に構成されている。図1図2および図5に示すように、冷却部3は、主な構成として、通路室7の下流側に隣接配置された焼入れ準備室6と、プレス装置30、拘束型33、昇降テーブル34および冷却液貯留漕35とを備える。
【0036】
プレス装置30は、通路室7の内部空間(通路C)を介して焼入れ準備室6の内部空間(第2空間B)に移送されてきたワークWを下方側に加圧し、ワークWを冷却液貯留漕35に貯留された冷却液36に浸漬させる加圧部材31と、加圧部材31を昇降可能に保持した昇降ユニット32とを備える。本実施形態では、加圧部材31の下端に拘束型33が取り付け固定されており、拘束型33は加圧部材31と一体的に昇降移動する。図1および図2に示すように、昇降ユニット32は焼入れ準備室6(密閉室4)の外側に配置されており、加圧部材31、加圧部材31に取り付け固定された拘束型33、さらには下端に加圧部材31を保持した軸部材の一部のみが第2空間Bに配置されている。加圧部材31を保持した軸部材は、焼入れ準備室6の天井壁を貫通する貫通穴に挿通されており、この貫通穴(貫通穴の内壁面と軸部材の外径面との間の隙間)は図示外のシール材で封止されている。
【0037】
図5に示すように、冷却液貯留漕35は、焼入れ準備室6の下方側に設置され、ワークWを冷却して焼入れするための冷却液36を貯留した上面開口の漕で構成される。冷却液36としては、公知の焼入れ油、あるいは水溶性焼入れ液などを使用することができる。本実施形態の冷却液貯留槽35の上面開口部は、密閉室4(焼入れ準備室6)の壁部によって第1開口部35aと第2開口部35bとに区分されている。焼入れ準備室6に設けられた密閉室4の出口側開口部4bは、冷却液貯留槽35に貯留された冷却液36のうち、第1開口部35a内に存在する冷却液36の液面で閉口されている。
【0038】
図5に示すように、昇降テーブル34は、加圧部材31の直下に配設されて冷却液36中で昇降する。昇降テーブル34の上端面34aはワークWを載置する載置面とされ、昇降テーブル34が上昇限に位置したときには、昇降テーブル34の上端面34aが冷却液貯留槽35に貯留された冷却液36の液面よりも上方に位置して、通路室7の内部空間を移送されてきたワークWを受け取る。
【0039】
冷却液貯留槽35の内部(冷却液36中)には、拘束型33から離型された焼入れ済のワークWを昇降テーブル34から払い出すための払い出し手段(図示せず)と、払い出されたワークWを受け取って冷却液貯留槽35(熱処理装置1)の外側に排出するための排出手段37とが設けられている。この排出手段37としては、例えば、上記の昇降テーブル34とは別に設けられた昇降テーブルを採用することができる。このワーク排出用昇降テーブルは、冷却液貯留槽35のうち、上記の第2開口部35bの直下位置で昇降可能に設けられており、焼入れ済のワークWを第2開口部35bを介して冷却液貯留槽35の外側に排出する。
【0040】
熱処理装置1は主に以上の構成を有し、以下のようにしてワークWに自動的に焼入れ硬化処理を施す。以下、熱処理装置1の運転開始時に実行される熱処理準備工程を含め、上記の加熱工程および冷却工程の実施態様を説明する。
【0041】
[熱処理準備工程]
この工程では、熱処理装置1の運転開始時(熱処理装置1へのワークWの投入前)に、加熱室5、焼入れ準備室6および通路室7からなる密閉室4の室内雰囲気(第1空間A、第2空間Bおよび通路Cの雰囲気)を大気雰囲気から非酸化性雰囲気に置換する、雰囲気置換処理が実施される。この雰囲気置換処理は、密閉室4の入口側開口部4aおよび出口側開口部4bを閉口した状態(出口側開口部4bは、冷却液貯留槽35に貯留された冷却液36の液面で常に閉口されている)で、密閉室4に接続された図示外の脱気装置を作動させて密閉室4の内部空間に存在する大気を脱気しつつ、密閉室4に接続された図示外のガス供給装置を作動させて密閉室4の内部空間に不活性ガス(例えば、ヘリウムガスやアルゴンガスなどの希ガス、あるいは窒素ガス等)あるいは還元性ガス(例えば、水素ガス、一酸化炭素ガス、二酸化窒素ガス等)を供給することにより行われる。これにより、密閉室4(第1空間A、第2空間Bおよび通路C)の室内雰囲気を迅速に非酸化性雰囲気にすることができる。
【0042】
上記の雰囲気置換処理は、後述する加熱工程および冷却工程の実施中に、ワークWの表面に酸化スケールが生成されない程度に密閉室4内の酸素濃度が低下するまで行えば良く、必ずしも密閉室4内の酸素濃度がゼロになるまで行う必要はない。なお、ワークWの表面に酸化スケールが生成されない程度の酸素濃度は100ppm以下である。
【0043】
[加熱工程]
以上のようにして、密閉室4の室内雰囲気を非酸化性雰囲気にした後、図3に示すように、ワークWを置換室8の内部空間に投入する。このとき、第2の開閉手段12は閉状態に維持し、密閉室4の入口側開口部4aを閉口しておく。置換室8の内部空間にワークWを投入した後、第1の開閉手段11を開状態から閉状態に移行させ、置換室8の入口側開口部8aを閉口する。この状態で、置換室8に接続された図示外の脱気装置を作動させて置換室8の内部空間に存在する大気を脱気しつつ、置換室8に接続されたガス供給装置を作動させて置換室8の内部空間に不活性ガスあるいは還元性ガスを供給することにより、置換室8の室内雰囲気を非酸化性雰囲気にする。
【0044】
置換室8の室内雰囲気が非酸化性雰囲気になった後、置換室8の入口側開口部8aを閉口したまま、第2の開閉手段12を閉状態から開状態に移行させて気密室4の入口側開口部4aを開口させ、ワークWを加熱室5の内部空間に移送してワーク供給手段23のフランジ部23b上に載置する。ワークWが加熱室5の内部空間に移送された後、第2の開閉手段12を開状態から閉状態に移行させ、密閉室4の入口側開口部4aを閉口する。以上の手順で加熱室5の内部空間にワークWを投入することにより、密閉室4の室内雰囲気を非酸化性雰囲気に維持したまま、加熱室5(密閉室4)の内部空間にワークWを投入することができる。
【0045】
ワーク供給手段23のフランジ部23b上に載置されたワークWは、ワーク供給手段23のシリンダロッド23aが伸長することによって支持部材21の上側に送られ、支持部材21で支持される。以降、後続のワークWが、順次、以上で述べた手順(置換室8の内部空間に投入→置換室8の室内雰囲気を非酸化性雰囲気に置換→置換室8の内部空間から加熱室5の内部空間に移送→ワーク供給手段23の伸長)を踏んで支持部材21と支持部材21で支持されたワークWとの間に供給されるのに伴って、支持部材21で支持されたワークWに上向きの送り力が付与される。このようして、ワークWは、通電状態の加熱コイル22の対向領域を上側に送られながら狙い温度に誘導加熱され、加熱コイル22の上側に排出される。加熱コイル22の上側に排出された加熱完了後のワークWは、図示外の適宜の手段によって通路室7の内部空間に払い出された後、通路室7の内部空間に設けられた図示外の搬送手段によって焼入れ準備室6の内部空間に向けて送られる(以上、図3および図4を参照)。
【0046】
[冷却工程]
この工程では、以上で説明したように、加熱部2(加熱工程)で狙い温度に加熱されたワークWを冷却して焼入れする冷却処理が実施される。具体的には、図5に示すように、まず、通路室7の内部空間を移送されてきたワークWを、昇降テーブル34の上端面34aで載置するようにして受け取る。次いで、プレス装置30の昇降ユニット32(図2参照)を駆動して加圧部材31および加圧部材31の下端に取り付け固定された拘束型33を一体的に下降させ、昇降テーブル34の上端面34aに載置されたワークWの外周に拘束型33を配置することにより、拘束型33によるワークWの外周面の拘束が開始される直前状態にする。この状態において、ワークWの外周面と拘束型33の内周面のはめあいはすきまばめ(JIS B 0401-1を参照)とされ、また、拘束型33の下端面と昇降テーブル34の上端面34aとは当接状態にある。
【0047】
以上のようにして、拘束型33によるワークWの外周面の拘束が開始される直前状態にした後、図6に示すように、加圧部材31、拘束型33、ワークWおよび昇降テーブル34を一体的に下降移動させて、これらを冷却液貯留槽35に貯留された冷却液36に浸漬させる。冷却液36に浸漬されたワークWは、わずかに縮径変形した後、拡径変形するといった変形挙動を示すため、ワークWは、ワークWの外周面が拘束型33の内周面に拘束された状態で冷却・焼入れされる。これにより、ワークWの冷却・焼入れに伴うワークW外周面の形状精度(特に外周面の真円度)の低下を効果的に防止することができる。
【0048】
昇降テーブル34が下降限に到達すると、拘束型33からワークWが離型される。ワークWが離型された拘束型33は、加圧部材31とともに上昇移動して原点復帰する。一方、拘束型33から離型されたワークWは、図5中に白抜き矢印で示すように、冷却液貯留槽35の内部に設けられた図示外の払い出し手段によって昇降テーブル34の外側に払い出されて排出手段37(ワーク排出用昇降テーブル)に受け取られ、その後、排出手段37が上昇することによって冷却液貯留槽35の外側(熱処理装置1の外側)に排出される。以上のようにして、ワークWに対する焼入れ硬化処理が完了する。
【0049】
以上で説明したように、本発明に係る熱処理装置1を用いてワークWに焼入硬化処理を施せば、加熱装置20で狙い温度に加熱されたワークWは、その外周面が拘束型33に拘束された状態で冷却・焼入れされるので、機械的強度のみならず、外周面の形状精度(特に真円度)に優れた高品質のワークW(熱処理完了品)を安定的に得ることができる。また、本発明に係る熱処理装置1では、ワークWに焼入硬化処理を施すために必要な工程、すなわち加熱工程および冷却工程を非酸化性雰囲気で同時進行することができるので、ワークWの表面に酸化スケールを生成させることなく、複数のワークWに対して効率良く焼入硬化処理を施すことが可能となる。
【0050】
また、密閉室4は、加熱室5の内部空間(第1空間A)と焼入れ準備室6の内部空間(第2空間B)との間に介在する通路Cを有し、第1空間Aに収容された加熱装置20で加熱されたワークWは、通路Cを介して第2空間Bに移送される。この場合、通路C内(第2空間Bの直前位置)に、加熱処理済みのワークWであって冷却処理待ちのワークWを配置することが可能となるので、冷却部3の1サイクル動作完了後には、後続のワークWに対する冷却処理にスムーズに移行することができる。従って、複数のワークWに対する焼入硬化処理を一層効率良く行うことが可能となる。
【0051】
以上より、本発明に係る熱処理装置1によれば、ワークWの表面に酸化スケールを生成させたり、ワークWの形状精度を低下させたりすることなく、複数のワークWに対する焼入硬化処理を効率良く実施することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態に係る熱処理装置1およびこれを用いた熱処理方法について説明したが、熱処理装置1には、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更を施すことが可能である。
【0053】
例えば、冷却部3には、ワークWおよびワークWを拘束した拘束型33を冷却液36中でワークWの軸線回りに一体回転させる回転機構を設けることができる。図7は、その一例であり、昇降テーブル34に回転機構を設けている。この場合、加圧部材31をワークWの軸線回りに空転可能に設けると共に、昇降テーブル34に加圧部材31に嵌合されるピン34bを設け、昇降テーブル34と、昇降テーブル34に設けたピン34bが嵌合された加圧部材31とを冷却液36中に浸漬させた状態で昇降テーブル34を回転駆動することにより、加圧部材31と昇降テーブル34の間に配設されたワークWおよび拘束型33をワークWの軸線回りに一体回転させることができる。このようにすれば、冷却液36に浸漬されたワークWを均一に冷却することができるので、焼入れ完了後のワークWの形状精度を一層高めることができる。
【0054】
また、詳細な図示は省略するが、冷却部3には、上記の回転機構に加え、あるいはこれに替えて、少なくともワークWが冷却液36に浸漬されたときに冷却液36を撹拌させるための撹拌機構を設けることもできる。このようにすれば、冷却部3に回転機構を設けた場合と同様に、冷却液36に浸漬されたワークWを均一に冷却する上で有利となる。
【0055】
また、拘束型33は、以上で説明した実施形態のように、プレス装置30の加圧部材31に取り付け固定する他、図8(a)(b)に示すように、冷却液36中に固定的に配設することも可能である。図8(a)(b)に示す拘束型33は、その内周面でワークWの外周面を拘束するものであり、かつ、2つのワークWの軸方向寸法を合算した軸方向寸法を有する。この場合、焼入れ準備室6の内部空間(第2空間B)に移送されてきたワークWは、拘束型33(拘束型33の内周に圧入されたワークW)の上側に配置される。その後、加圧部材31が下降移動して下方側に加圧されるのに伴って、冷却液36へのワークWの浸漬と、拘束型33によるワークW外周面の拘束とが同時進行する。そして、図8(b)に示すように、拘束型33の内周への後続のワークWの押し込みが完了するのに伴って、拘束型33の内周に配置されていた2つのワークWのうち、下側のワークWが拘束型33から離型される。このような拘束型33を採用する場合、本発明でいう「拘束型によるワークの外周面の拘束が開始される直前状態にする処理」とは、第2空間Bに移送されてきたワークWの上端面に加圧部材31の下端面を当接させる処理、となる。また、この場合、以上で説明した実施形態で用いていた昇降テーブル34は必ずしも必要ではなく、離型されたワークWを受ける適当な受け部材を加圧部材31の直下位置に配置しておけば良い。
【0056】
また、以上では、ワークWの一例として転がり軸受の外輪(の基材)を挙げ、拘束型33でワークWの外周面を拘束した状態でワークWを冷却・焼入れする場合に熱処理装置1を使用したが、熱処理装置1は、焼入れに伴う内周面の形状精度(特に真円度)の崩れを防止することが好ましいワークW(例えば、転がり軸受の内輪の基材)に焼入れ硬化処理を施す場合にも好ましく用いることができる。図9はその一例であり、加圧部材31の下端面にワークWの内周面を拘束可能な拘束型33’を取り付け固定している。
【0057】
この場合、熱処理装置1を構成する冷却部3の動作態様や、冷却液36への浸漬に伴うワークWの形状変化の態様は図5および図6を参照して説明した実施形態と基本的に同様である。要するに、ワークWは、冷却液36に浸漬されると、まず、縮径変形し、その後拡径変形する。このため、ワークWの内周面は、冷却液36に浸漬された初期段階で拘束型33’に拘束されるが、離型される段階では基本的に拘束型33’で拘束されていない。従って、ワークWの内周面の形状精度は、以上で説明したワークWの外周面を拘束型33で拘束する場合ほど高めることはできないが、ワークWの冷却・焼入れの過程でワークWの内周面が一時的に拘束型33’の外周面で拘束されるので、本発明で採用しているいわゆる型拘束焼入れを採用しない場合に比べれば、ワークWの内周面の形状精度を高めることができる。
【0058】
また、以上で説明した熱処理装置1の加熱部2に設けた加熱装置20はあくまでも一例であり、他の加熱装置が用いられる場合もある。図10はその一例であり、他の実施形態に係る加熱装置40の部分斜視図である。同図に示す加熱装置40は、ワークWを一個ずつ誘導加熱可能に構成された加熱装置であって、先端にワークWを載置可能なフランジ部41bが設けられた伸縮自在のシリンダロッド41aを有する支持部材41と、ワークWの外径側に位置する外径側コイル42と、ワークWの内径側に位置する内径側コイル43とを備え、両コイル42,43はシリンダロッド41aと同軸に配置されている。外径側コイル42は、符号44で示す絶縁材料からなるコイル保持部材によって保持されている。
【0059】
図10に示す加熱装置40を採用した場合、加熱室5の内部空間(第1空間A)に投入されたワークWは、以下のようにして誘導加熱され、通路室7の内部空間(通路C)に払い出される。
【0060】
まず、以上で説明した実施形態と同様に、ワークWが投入された置換室8の室内雰囲気が非酸化性雰囲気になった後、ワークWを第1空間Aに移送して支持部材41のフランジ部41b上に載置する。ワークWが第1空間Aに移送された後、第2の開閉手段12を開状態から閉状態に移行させ、密閉室4の入口側開口部4aを閉口する。支持部材41のシリンダロッド41aが伸長動作することにより、フランジ部41b上に載置されたワークWは上昇移動して通電状態の外径側コイル42と内径側コイル43の間に導入され、狙い温度に誘導加熱される。ワークWの加熱完了後、支持部材41のシリンダロッド41aが短縮動作し、フランジ部41bが下降限に到達すると、図示外の適宜の手段によって加熱完了後のワークWが通路Cに払い出される。なお、加熱完了後のワークWが通路Cに払い出されるのと同時に、後続のワークWが支持部材41のフランジ部41b上に載置されるようにしておけば、加熱装置40によるワークWの誘導加熱を効率良く行うことができる。
【0061】
なお、上記の加熱装置40を採用する場合、図3,4等に示す加熱装置20を採用する場合に比べて密閉室4の高さ寸法を小さくすることが可能となり、熱処理装置1をコンパクト化することができる、という利点がある。
【0062】
また、以上では、転がり軸受の軌道輪(外輪又は内輪)に焼入れ硬化処理を施すに際して本発明に係る熱処理装置1を適用したが、本発明に係る熱処理装置1は、その他の環状のワーク、例えば、すべり軸受、等速自在継手を構成する外側継手部材や内側継手部材、転がり軸受や等速自在継手に組み込まれる保持器(の基材)に焼入れ硬化処理を施す際にも好ましく適用することができる。
【0063】
本発明は前述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、さらに種々なる形態で実施し得る。すなわち、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内のすべての変更を含む。
【符号の説明】
【0064】
1 熱処理装置
2 加熱部
3 冷却部
4 密閉室
4a 入口側開口部
4b 出口側開口部
5 加熱室
6 焼入れ準備室
7 通路室
8 置換室
11 開閉手段(第1の開閉手段)
12 開閉手段(第2の開閉手段)
20 加熱装置
21 支持部材
22 加熱コイル
23 ワーク供給手段
33 拘束型
33’ 拘束型
35 冷却液貯留槽
36 冷却液
40 加熱装置
A 第1空間
B 第2空間
C 通路
W ワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10