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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】空気ばね
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20220125BHJP
   F16F 9/04 20060101ALI20220125BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
F16F9/32 V
F16F9/04
C08J5/04 CEQ
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017202247
(22)【出願日】2017-10-19
(65)【公開番号】P2019074181
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-09-24
(73)【特許権者】
【識別番号】517413605
【氏名又は名称】ニッタ化工品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(74)【代理人】
【識別番号】100167841
【弁理士】
【氏名又は名称】小羽根 孝康
(74)【代理人】
【識別番号】100168376
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 清隆
(72)【発明者】
【氏名】安永 裕喜
(72)【発明者】
【氏名】堀内 薫
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-132641(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0111288(US,A1)
【文献】特開平05-296275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
B29B 11/16
B29B 15/08- 15/14
C08J 5/04- 5/10
C08J 5/24
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00- 101/14
F16J 3/00- 3/06
B61G 11/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側部材と、前記上側部材の下方に配置される下側部材と、前記上側部材と前記下側部材の間に介装される筒状の可撓部材とを備えた空気ばねであって、前記可撓部材は、外層及び内層と、前記外層及び内層の間に介在される中間層とを備え、前記外層及び内層は、難燃性ゴム組成物から構成され、前記中間層は、非難燃性ゴム組成物に補強コードが埋設された補強ゴム層から構成され、前記内層の厚みと前記外層の厚みのそれぞれの平均厚みが、前記中間層の厚みの1.1倍以上であることを特徴とする空気ばね。
【請求項2】
上側部材と、前記上側部材の下方に配置される下側部材と、前記上側部材と前記下側部材の間に介装される筒状の可撓部材とを備えた空気ばねであって、前記可撓部材は、外層及び内層と、前記外層及び内層の間に介在される中間層とを備え、前記外層及び内層は、難燃性ゴム組成物から構成された難燃層とされ、前記中間層は、非難燃性ゴム組成物に補強コードが埋設された補強ゴム層から構成された非難燃層とされ、前記難燃層の合計厚みが、前記非難燃層の厚みの2.2倍以上であることを特徴とする空気ばね。
【請求項3】
前記中間層は、前記補強ゴム層が1層からなる単層構造又は前記補強ゴム層が複数層積層された積層構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気ばね。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用、特に鉄道車両用として好適に用いられる、難燃性を備えた空気ばねに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州においては、様々な分野において防炎要件が厳しくなっており、鉄道車両についても、欧州の新しい統一規格であるEN45545-2が制定されるに至っている。空気ばねは、筒状の可撓部材(ダイヤフラム等)や、ストッパーなど、ゴム状弾性体として有機材料が使用されていることから、これらの部材について上記基準をクリアすることが要求される。上記基準では、ハロゲン含有ガスの発生量も厳しく制限される。
【0003】
EN45545-2では、鉄道車両に用いられる主要ゴム部材の難燃性の評価は、ISO 5660-1に準じてコーンカロリーメータ法による発熱試験(以下、発熱試験と略する。)によって行うことが規定されており、この方法で測定されたMaximum Average Rate of Heat Emission(以下、MARHE)の値が、所定値以下であることが要求される。
【0004】
具体的に、ハザードレベル(HL)1及び2では、MARHE値が90以下、HL3では、MARHE値が60以下であることが要求される。上記発熱試験に供せられる試験片のサイズは10cm×10cmであり、試験片の厚みは、ダイヤフラムの厚みのままとされる(ただし、試料片の最大厚みは25mm以下)。
【0005】
ハロゲン系難燃剤を含まないノンハロゲンの難燃性ゴムとして、たとえば、特許文献1に示すように、クロロプレンゴムに対して水酸化マグネシウム及び赤燐を配合した難燃性ゴムが開示されている。また、特許文献2には、ポリリン酸塩及び水酸化アルミニウムを配合した難燃性ゴム組成物が開示されている。このように、ノンハロゲンの難燃性ゴム組成物として、リン系難燃剤や金属水酸化物を組み合わせて配合したものが知られている。
【0006】
ところで、空気ばねを構成するダイヤフラムなどの筒状の可撓部材は、使用状態において、上端部と下端部とが上下左右方向に相対的に変位するため、良好な機械的特性(モジュラス、引張強度等)を備えることが要求される。さらに、耐候性、耐熱性、耐老化性等の物理的特性に優れていることも要求される。
【0007】
このような要求を満たすため、筒状の可撓部材は、一般的に、補強コードが埋設された補強ゴム層を中間層とし、その中間層の内側と外側とに保護ゴム層(外層及び内層)が積層された積層構造のものが使用される。上記積層構造を備えた筒状の可撓部材を難燃化する場合、各層を構成するゴム組成物中にリン系難燃剤や金属水酸化物を配合することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-146256号公報
【文献】特開2010-047644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、難燃剤として用いられる金属水酸化物は粉体であり、これをゴム組成物に配合すると、ゴム組成物の流動性が低下する。特に、補強コードが埋設される中間層を構成するゴム組成物に金属水酸化物を配合すると、ゴム組成物の流動性が低下することにより、補強コードとゴム組成物との間に未充填部分が残存したり、補強コードとゴム組成物との密着性の低下によるゴムの機械的特性の低下が懸念される。その一方で、金属水酸化物の配合量を減量すると、難燃性を発揮させるにはリン系難燃剤を多量に配合する必要が生じ、この場合もゴムの機械的特性の低下が懸念される。
【0010】
また、中間層を構成するゴム組成物に難燃剤を配合しない場合には、内外層の難燃性を高めることで可撓部材全体としての難燃性を維持する必要が生じるが、配合できる難燃剤の量に限度がある。その結果、可撓部材全体としての難燃性はEN45545-2に規定されるHLに近いレベルとなり、発熱試験を複数回実施したときにはHLを超える場合も生じ得る。
【0011】
そこで、本発明では、筒状の可撓部材の機械的特性や物理的特性を維持しつつ、難燃性を向上させることが可能な空気ばねを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の一態様として、上側部材と、前記上側部材の下方に配置される下側部材と、前記上側部材と前記下側部材の間に介装される筒状の可撓部材とを備えた空気ばねであって、前記可撓部材は、外層及び内層と、前記外層及び内層の間に介在される中間層とを備え、前記外層及び内層は、難燃性ゴム組成物から構成され、前記中間層は、非難燃性ゴム組成物に樹脂製の補強コードが埋設された補強ゴム層から構成され、前記内層の厚みと前記外層の厚みの平均厚み(以下、「内外層の平均厚み」という)が、前記中間層の厚みの1.1倍以上であることを特徴とする。
【0013】
本発明における難燃性は、ISO 5660-1に規定される発熱試験のMARHE値によって評価される。本発明において、難燃性ゴム組成物とは、難燃性ゴム組成物からなるゴム単体を発熱試験に供したときに、EN45545-2で要求される所定のHLを満たすMARHE値を有するものをいう。本発明者らは、種々のゴム組成物で上記発熱試験を行った結果、ゴムの組成にかかわらず、発熱試験の試験片の厚みが厚くなるほど、MARHE値が低下するとの知見を得て、本発明を完成させたものである。
【0014】
すなわち、本発明においては、機械的特性に大きな影響を及ぼす中間層のゴム組成物としては、難燃剤を配合しない非難燃性ゴム組成物を用い、外層及び内層を構成するゴム組成物として、難燃性ゴム組成物を用いている。これにより、筒状の可撓部材としての機械的特性の低下を抑制することが可能となる。
【0015】
その一方で、中間層で使用されるゴム組成物は非難燃性ゴム組成物である。一般的な空気ばねの場合、筒状の可撓部材における内層、中間層及び外層の厚みは、各層とも同程度の厚みに設計される(中間層が2プライの場合)。そうすると、可撓部材全体としての難燃性は、中間層が難燃性を備えている場合に比べて低下することになる。その結果、内外層を構成するゴム組成物に難燃剤を多く配合しても、可撓部材全体としての難燃性はEN45545-2に規定されるHLに近いレベルとなる。
【0016】
そこで、本発明では、内外層の平均厚みを、中間層の厚みの1.1倍以上に厚くすることで、可撓部材としてのMARHE値を低下させ、要求されるHLを安定してクリアすることが可能となる。なお、可撓部材は、基本的には、外層、中間層及び内層の3層構造とされるが、これに限らず、可撓部材の少なくとも一部に前記3層以外のゴム層を加えることも可能である。この場合は、追加するゴム層が難燃層であるか非難燃層であるかによって、可撓部材の厚みを調整すればよい。
【0017】
すなわち、上側部材と、前記上側部材の下方に配置される下側部材と、前記上側部材と前記下側部材の間に介装される筒状の可撓部材とを備えた空気ばねであって、前記可撓部材は、外層及び内層と、前記外層及び内層の間に介在される中間層とを備え、前記外層及び内層は、難燃性ゴム組成物から構成された難燃層とされ、前記中間層は、非難燃性ゴム組成物に補強コードが埋設された補強ゴム層から構成された非難燃層とされ、前記難燃層の合計厚みが、前記非難燃層の厚みの2.2倍以上であるようにしてもよい。
【0018】
前記中間層は、前記補強ゴム層が1層からなる単層構造であってもよいし、前記補強ゴム層が複数層積層された積層構造であってもよい。また、前記可撓部材は、下部及び上部の厚みよりも中間部の厚みが厚くなるように形成してもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様に係る空気ばねによれば、可撓部材において、中間層を構成するゴム組成物として非難燃性のものを使用し、外層及び内層を構成するゴム組成物として難燃性ゴム組成物を使用し、可撓部材の内外層の平均厚みを、中間層の厚みの1.1倍以上としたため、可撓部材の機械的特性や物理的特性の低下を抑えつつ、安定して難燃性を確保することが可能な空気ばねを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明に係る空気ばねの第1実施形態を示す縦断面図
図2可撓部材の断面概略図
図3図1の可撓部材を示す斜視図
図4】本発明の第2実施形態を示す可撓部材の断面概略図
図5】発熱試験における可撓部材の厚みとMARHE値の関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明の第1実施形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係る空気ばねの実施形態を示す縦断面図である。図2は、図1の空気ばねで使用される可撓部材を示す斜視図であり、図3は可撓部材の断面概略図である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態の空気ばね1は、鉄道車両用であり、上側部材2と、その下方に配置される下側部材3と、上側部材2及び下側部材3の間にダイヤフラムやベローズなどの筒状の可撓部材4を備える。上側部材2は、可撓部材4と車体とを接続する部材であり、本実施形態では上面板が使用されているが、これに限らず、たとえば、車体の一部を上側部材2として利用してもよい。下側部材3は、可撓部材4と台車枠とを接続する部材であり、本実施形態では一般にストッパーと称される弾性機構7を備えているが、これに限らず、たとえば、弾性機構7を除いた構成としてもよい。
【0023】
下側部材3は、弾性機構7と、弾性機構7の頂板8の上面外周縁部から外周部にかけて装着される環状で帯状の下面板9と、頂板8にボルト止めされるフランジ部を有する円盤状の上側部材受部11とを備える。
【0024】
弾性機構7は、環状の頂板8と、環状の底板12との間にゴム製で環状の弾性材層13と環状の硬質板14とが交互に積層された積層ゴムを備えた構造とされる。本実施形態では、頂板8、底板12及び硬質板14として金属板が用いられている。弾性機構7としては、積層ゴム構造を備え、ストッパーとしての機能を有するものであればよく、コニカルストッパー等であってもよい。また、下側部材3として、前述のごとく、弾性機構7を除いた構成とすることも可能である。
【0025】
可撓部材4の上端及び下端にはビードコアに補強ゴム層を巻き付けた肉厚のビード部が形成されている。可撓部材4の上端側ビード部は、上側部材2に設けられた円盤状のビード受部2aに外嵌される。下端側ビード部は、弾性機構7の頂板8に設けられたビード受部8aに外嵌される。
【0026】
図2に示すように、可撓部材4は、外層15及び内層16と、外層15及び内層16の間に介在される中間層17とを備えた積層構造とされている。外層15及び内層16は、難燃性ゴム組成物から構成され、中間層17は、非難燃性ゴム組成物に補強コード18が埋設された補強ゴム層17aから構成される。
【0027】
補強コードとしては、ポリアミド、ポリエステル、レーヨン、ポリビニルアルコール等の樹脂製コードが挙げられるが、強度の点でポリアミド製コードを用いるのが好ましい。補強ゴム層は1層からなる単層構造であってもよいが、強度的に複数層積層された積層構造であることが好ましい。特に、2層等の偶数層であることが強度のバランス面で好ましい。
【0028】
本発明の空気ばねに用いられるゴム組成物のゴム成分としては、天然ゴムのほか、合成ゴムとして、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエンゴムなどのジエン系ゴムや、エチレン-プロピレン-ジエン・ターポリマー、イソブチレン-イソプレンンゴムなどのオレフィン系ゴムや、ウレタンゴムなどを挙げることができ、これらのゴムを単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、本実施態様では、内外層のゴム成分としては、耐候性、耐熱性、耐老化性等の物理的特性に優れたクロロプレンを主成分として用い、中間層のゴム成分としては、機械的特性に優れた天然ゴムを用いている。
【0029】
本発明においては、難燃剤としてノンハロゲン系難燃剤を用いることが望ましい。ノンハロゲン系難燃剤としては、金属水酸化物、金属酸化物、リン系、シリコーン系、窒素化合物系、有機金属化合物系などが挙げられ、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。ただ、可撓部材4の機械的特性及び物理的特性をバランスよく維持するには、リン系難燃剤及び金属水酸化物を適宜組み合わせて使用することが好ましい。
【0030】
リン系難燃剤としては、当業者に公知のリン酸塩を使用することができるが、特に、ゴム燃焼時にゴム表面にイントメッセント(発泡膨張層)を形成するイントメッセント系のリン酸塩が、より高い難燃性が得られる点で好ましい。
【0031】
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等を挙げることができ、これらを1種単独で、又は、2種以上を組み合わせて使用することができる。特に、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムは、より高い難燃性が得られる点で好ましい。
【0032】
外層15及び内層16を構成する難燃性ゴム組成物には上記難燃剤が配合され、中間層を構成する非難燃性ゴム組成物には難燃剤は配合されない。可撓部材4で用いられるゴム組成物には、上記のゴム成分や難燃剤以外に、硫黄、カーボンブラック、加硫促進剤、老化防止剤、加硫促進助剤、加硫遅延剤、シリカ、シランカップリング剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、可塑剤、ワックスやオイル等の軟化剤、加工助剤等の公知の配合剤を、本発明の効果を損なわない範囲において適宜配合して用いることができる。
【0033】
本実施形態では、中間層17は、2プライの補強ゴム層17a、17aで構成される。内外層の平均厚み(X+Y)/2は、それぞれ中間層の厚みZの1.1倍以上である。なお、各層の厚みは、中間層17と、内外層15及び16とでゴム組成が異なることから、可撓部材4の断面を光学的又はX線や電子線を用いた表面分析等により確認することができる。
【0034】
図3は、空気ばねに組み込む前の可撓部材の形状を示す斜視図である。図示のごとく、可撓部材4は筒状で、上部4a及び下部4cよりも中間部4bの径が大きくなるように形成されており、この中間部4bが、可撓部材4を組み込んだ空気ばね1が加圧されて使用状態におかれたときに、上側部材2と下側部材3との間で外部に露出する部分となる。
【0035】
図3において、可撓部材4の上端開口4dの径をd1、可撓部材4の下端開口4eの径をd2、可撓部材4の最大径部4fの径をd3としたとき、可撓部材の上部4aは、上端開口4dの端縁から可撓部材の外径が(d1+d3)/2になるまでの領域を意味し、可撓部材の下部4cは、下端開口4eの端縁から可撓部材の外径が(d2+d3)/2になるまでの領域を意味する。そして、可撓部材の中間部4bは、可撓部材の外径が(d1+d3)/2から(d2+d3)/2までの領域を意味する。
【0036】
可撓部材4の中間部4bは、可撓部材を加硫成形する際に、上部4a及び下部4cよりも拡径されるため肉厚が薄くなりやすく、その結果、中間部4bの難燃性が低下するおそれがある。そこで、可撓部材4を加硫成形する前の未加硫ゴム成形体において、加硫後に中間部4bを構成する部分の内外層の厚みを他の部分よりも予め厚くしておくことも可能である。
【0037】
この場合、中間部4bの全域において可撓部材の厚みを厚くしてもよいし、中間部4bの一部について全周にわたって帯状に可撓部材の厚みを厚くしてもよい。これにより、加硫後の可撓部材の中間部4bの厚みを上部4a及び下部4cの厚みと同等又はそれ以上とすることができ、可撓部材4の中間部4bの難燃性を良好に維持することができる。
【0038】
[第2実施形態]
本実施形態では、可撓部材4の中間部4bにおいて、ゴム層を追加して可撓部材の厚みを厚くした点が特徴とされ、その他の構成は第1実施形態と同様とされる。
【0039】
図4に示すように、本実施形態では、可撓部材4の中間部4bにおいて、補強ゴム層17aと補強ゴム層17aとの間に緩衝ゴム層19を設けている。すなわち、中間部4bにおいては、可撓部材の厚みが薄くなるため、補強コード層17a及び17aのコード18同士が近接する。その状況で、空気ばねに外力が加わって可撓部材が変位すると、コード18,18同士がこすれ合い、耐久性が低下するおそれが生じる。
【0040】
そのため、補強ゴム層17aと補強ゴム層17aとの間に緩衝ゴム層19を設けることにより、コード18,18同士の接触を防止し、可撓部材4の耐久性を維持すると共に、可撓部材の中間部4bの難燃性を良好に維持することが可能となる。
【0041】
緩衝ゴム層19として、非難燃性ゴム組成物を用いる場合、緩衝ゴム層19は中間層17と同じ非難燃層とされる。従って、この場合には、補強ゴム層17a及び17aの両層の厚みに緩衝ゴム層19の厚みを足した厚みを非難燃層の厚みとし、難燃層である外層15及び内層16の合計厚みが、非難燃層の2.2倍以上になるように調整すればよい。
【0042】
また、緩衝ゴム層19として、難燃性ゴム組成物を用いる場合、緩衝ゴム層19は、外層15及び内層16と同じ難燃層とされる。従って、この場合には、補強ゴム層17a及び17aの両層の厚みを足した厚みを非難燃層の厚みとし、難燃層である外層15、内層16及び緩衝ゴム層19の合計厚みが、非難燃層の2.2倍以上になるように調整すればよい。緩衝ゴム層19は、中間部4bの全域に設けてもよいし、中間部4bの一部について全周にわたって帯状に設けてもよい。
【実施例
【0043】
本実施例では、可撓部材を作製して、EN45545-2に規定される発熱試験を実施し難燃性を評価した。以下にその詳細について説明する。
【0044】
[可撓部材の作製]
先ず、表1に示すように、4種類のゴム組成物を調製した(組成A~D)。ゴム組成物のゴム成分としては、クロロプレンゴム(CR)、天然ゴム(NR)及びエチレン-プロピレン-ジエン・ターポリマー(EPDM)の3種類を用いた。カーボンブラックとしては、HAFを使用した。 難燃剤としては、イントメッセント系のリン酸塩及び/又は金属水酸化物を用いた。表1に示す量で各原料を配合した後、バンバリーミキサーにて混練しゴム組成物を調製した。
【0045】
【表1】
【0046】
次に、調製したゴム組成物(組成A及び組成B)を用いて、表2に示すように、厚みの異なる3種類の可撓部材を作製し(試料1、試料3及び試料4)、そこから発熱試験に供する試料を10cm×10cmのサイズでカットした。なお、試料1と、試料2とは同一の可撓部材からカットした厚み違いの試料である。
【0047】
可撓部材の具体的な構成としては、内外層を構成する難燃性ゴム組成物として組成Aを使用し、中間層を構成する非難燃性ゴム組成物として組成Bを使用した。補強コードとしては直径0.6mmのポリアミド製コードを使用し、組成Bのゴム組成物をトッピングして補強ゴムシートを形成し、これを2プライ積層して1.8mm厚みの中間層を形成した。
【0048】
上記中間層を所定の厚みの内層及び外層で挟んで積層して未加硫ゴム成形体を形成した後、これを加硫金型内にセットした。次いで、未加硫ゴム成形体の内側にブラダーと称されるゴム膜を配置し、このブラダーに蒸気を供給して未加硫ゴム成形体を加温・加圧することにより、可撓部材を加硫成形した。得られた3種類の可撓部材は、いずれも空気ばねに使用するのに必要な機械的特性及び物理的特性を満たすものであった。
【0049】
本実施例では、可撓部材以外に、組成A及びBとは別の組成(組成C及び組成D)の難燃性ゴム組成物を使用した単層のゴムシート(試料5~8)、及び、組成Aの難燃性ゴム組成物を使用した単層のゴムシート(試料9)をそれぞれ加硫成形し、10cm×10cmのサイズでカットして試料1~4と同様に発熱試験に供した。
【0050】
【表2】
【0051】
[発熱試験]
表2に示す9種類の試料(試料1~9)について、ISO 5660-1に準じて発熱試験を実施した。試験時間20分間、測定間隔2秒毎、輻射量25kW/m2の測定条件で発熱速度を測定し、MARHEを算出した。結果を表2に示す。
【0052】
なお、MARHE値は、試料1~4及び9については、試料1のMARHE値を100とするインデックス表示で示している。試料5~6については、試料5のMARHE値を100とするインデックス表示で示している。試料7~8については、試料7のMARHE値を100とするインデックス表示で示している。
【0053】
[評価結果]
図5は、試料1~4の厚みと、MARHE値の関係を示すグラフ(黒丸プロット)である。このグラフより、可撓部材の厚みに比例して、MARHE値が低くなっている、すなわち、難燃性が高くなっていることがわかる。この傾向は、特定のゴム組成及び構造にのみ見られるのではなく、ゴム組成の異なる単層構造の試料5~6及び試料7~8の間でも同様の傾向が認められた。これにより、ゴム組成にかかわりなく、可撓部材の厚みが厚くなるほど、難燃性が高くなることが確認された。なお、試料1~4のハザードレベル(HL)については、試料1及び2はHL2をクリアするレベルであり、試料3及び4については、HL3をクリアするレベルであった。
【0054】
従来の空気ばねにおいては、可撓部材の内外層は補強ゴム層である中間層を外部環境から保護するためのものであって、これを積極的に厚く形成しようという思想はなかった。これに対し、本発明では、上記評価結果の知見に基づき、可撓部材の内外層にのみ難燃性ゴム組成物を用いるとともに、中間層よりも積極的に層厚を厚くすることによって、可撓部材の機械的特性や物理的特性の性能を維持しつつ、難燃性を確保することを可能としている。
【0055】
ISO 5660-1の発熱試験においては、n=3で試験が実施され、3回の試験で得られたMARHE値の平均値が採用される。同じ可撓部材からカットした同じ厚みの複数の試料を測定した結果から、MARHE値としては10程度の範囲でばらつきが生じることがわかっている。一方、図5のグラフの結果より、中間層の厚みが1.8mmのときに、内外層の平均厚みを2.0mmにすると、MARHE値は10低下する。
【0056】
すなわち、内層、中間層及び外層の厚みが同じである可撓部材において、内外層を構成する難燃性ゴム組成物について所定のHLをクリアする組成を決定した後、内外層の平均厚みを中間層の1.1倍以上に形成することにより、ゴム組成を変更することなくMARHE値のばらつきを加味して予め全体的にMARHE値10程度下げることができる。
【0057】
図5中に、試料9のMARHE値を記す(四角プロット)。試料9では組成Aで構成される厚み5.2mmのゴムシートのMARHE値は60である。これにより、可撓部材を構成するゴム組成物を全て難燃性ゴム組成物(組成A)としたときには、MARHE値は60程度になると見込まれる。中間層を構成するゴム組成物として非難燃性のものを使用して中間層の厚みを1.8mmとする場合、可撓部材の厚みを7.2mmとすれば、MARHE値を60とすることができる。すなわち、内外層の平均厚みを中間層の1.5倍とすることにより、組成Aの難燃性レベルを維持することができる。
【0058】
試料1及び試料2について検討してみると、両者は、同じ可撓部材から切り出されたものである。この可撓部材は、厚み5.4mmになるように形成されたものであり、成形後に空気ばねに組み入れて実際に使用した後、空気ばねを分解し可撓部材を取り出した。試料1は、可撓部材の下部から切り出し、試料2は、可撓部材の中間部から切り出した。試料1の厚みは5.4mmであり、試料2の厚みは4.6mmである。
【0059】
これは、未加硫ゴム成形体を加硫成形する際に、ブラダ―によって未加硫ゴム成形体にかかる圧力が中間部で大きくなり、その結果、中間部の厚みが薄くなったものと推察された。この結果より、未加硫ゴム成形体の中間部の厚みを予め厚くしておくことで、加硫成形後の可撓部材の中間部の厚みを、可撓部材の上部及び下部と同等以上の厚みに維持することができ、可撓部材全体の難燃性を良好に維持することが可能となる。
【0060】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。たとえば、本実施形態においては、内外層の厚みは異なっていてもよく、たとえば、外層を内層よりも厚く設定してもよい。また、本発明の空気ばねは、鉄道車両のみならず、トラック・バス等の車両にも適用可能である。
【0061】
本実施形態及び上記変形例に開示されている構成要件は互いに組合せ可能であり、組合せることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 空気ばね
2 上側部材
3 下側部材
4 可撓部材
7 弾性機構
8 頂板
9 下面板
11 上側部材受部
12 底板
13 弾性材層
14 硬質板
15 外層
16 内層
17 中間層
18 補強コード
図1
図2
図3
図4
図5