(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置、液体噴射ヘッドの駆動方法および液体噴射ヘッドの駆動プログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/015 20060101AFI20220125BHJP
B41J 2/14 20060101ALI20220125BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/14 303
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2017235983
(22)【出願日】2017-12-08
【審査請求日】2020-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】特許業務法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴之
(72)【発明者】
【氏名】中川 和早
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034720(JP,A)
【文献】特開平09-052359(JP,A)
【文献】特開平05-069544(JP,A)
【文献】特開2015-044324(JP,A)
【文献】特開2015-051585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0320322(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を噴射する複数のノズルと、
前記複数のノズルに個別に連通すると共に前記液体がそれぞれ充填される複数の圧力室を有し、前記圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、前記圧力室内の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された前記液体を噴射させる制御部と
を備え、
前記複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定されており、
前記制御部は、前記液体を噴射させる際に、
前記複数のグループのうちの、一のグループにおける前記パルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおける前記パルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量
(Δtd)が、オンパルスピーク(AP)の幅を用いて、(-0.167AP≦Δtd≦0.167AP)にて規定される範囲内(ただし、Δtd=0(ゼロ)を除く)に収まるように設定する
液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記制御部は、前記液体を1滴噴射させる際に、
前記圧力室内の容積を膨張および収縮させる前記パルス信号として、オンパルスピークの幅以下のパルス幅を有する第1パルス信号と、前記第1パルス信号から所定の時間間隔を空けて設けられる第2パルス信号と、を含むようにして印加する
請求項
1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記制御部は、前記第1パルス信号および前記第2パルス信号のうち、
前記第2パルス信号について、前記ずれ量を設定する
請求項
2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記制御部は、前記液体を1滴噴射させる際に、
前記一のグループおよび前記他のグループのうちの一方のグループについては、前記パルス信号として、前記第1パルス信号および前記第2パルス信号の双方を含むようにして印加すると共に、
前記一のグループおよび前記他のグループのうちの他方のグループについては、前記パルス信号として、前記第1パルス信号および前記第2パルス信号のうちの前記第1パルス信号を含むようにして印加し、
前記一方のグループにおける前記第2パルス信号と、前記他方のグループにおける前記第1パルス信号のうちの最終パルス信号とについて、前記ずれ量を設定する
請求項
2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
前記制御部は、前記液体を1滴噴射させる際に、
前記第2パルス信号よりも前に印加される前記パルス信号が、前記第2パルス信号の直前に印加される前記第1パルス信号を含んで、複数設けられるようにする
請求項
2ないし請求項
4のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記制御部は、前記液体を1滴噴射させる際に、
前記1または複数のパルス信号のうちの、前記圧力室内の容積を膨張させるための最終パルス信号について、前記ずれ量を設定する
請求項
1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記隣接する複数の圧力室に対して共通して前記液体を供給する、1または複数の共通液体供給室を更に備えた
請求項1ないし請求項
6のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記複数のグループが、所属する前記圧力室が交互に配置されている、2つのグループである
請求項1ないし請求項
7のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1ないし請求項
8のいずれか1項に記載の液体噴射ヘッドを備えた
液体噴射記録装置。
【請求項10】
複数のノズルに連通する複数の圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、前記圧力室内の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された液体を前記ノズルから噴射させる際に、
前記複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定することと、
前記複数のグループのうちの、一のグループにおける前記パルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおける前記パルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量
(Δtd)が、オンパルスピーク(AP)の幅を用いて、(-0.167AP≦Δtd≦0.167AP)にて規定される範囲内(ただし、Δtd=0(ゼロ)を除く)に収まるように設定することと
を含む液体噴射ヘッドの駆動方法。
【請求項11】
複数のノズルに連通する複数の圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、前記圧力室内の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された液体を前記ノズルから噴射させる際に、
前記複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定することと、
前記複数のグループのうちの、一のグループにおける前記パルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおける前記パルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量
(Δtd)が、オンパルスピーク(AP)の幅を用いて、(-0.167AP≦Δtd≦0.167AP)にて規定される範囲内(ただし、Δtd=0(ゼロ)を除く)に収まるように設定することと
をコンピュータに実行させる
液体噴射ヘッドの駆動プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置、液体噴射ヘッドの駆動方法および液体噴射ヘッドの駆動プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
液体噴射ヘッドを備えた液体噴射記録装置が様々な分野に利用されている。液体噴射ヘッドでは、圧電アクチュエータにパルス信号が印加されることにより圧力室内の容積が変化し、それにより圧力室に充填された液体が、ノズルから噴射されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような液体噴射ヘッドでは一般に、印刷画質を向上させることが求められている。印刷画質を向上させることが可能な液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置、液体噴射ヘッドの駆動方法および液体噴射ヘッドの駆動プログラムを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドは、液体を噴射する複数のノズルと、これら複数のノズルに個別に連通すると共に液体がそれぞれ充填される複数の圧力室を有し、その圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータと、この圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、圧力室内の容積を膨張および収縮させて、圧力室内に充填された液体を噴射させる制御部とを備えたものである。複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士は、互いに異なる複数のグループに所属するように設定されている。制御部は、液体を噴射させる際に、複数のグループのうちの、一のグループにおけるパルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおけるパルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量(Δtd)が、オンパルスピーク(AP)の幅を用いて、(-0.167AP≦Δtd≦0.167AP)にて規定される範囲内(ただし、Δtd=0(ゼロ)を除く)に収まるように設定する。
【0006】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置は、上記本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドを備えたものである。
【0007】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドの駆動方法は、複数のノズルに連通する複数の圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、圧力室内の容積を膨張および収縮させて、圧力室内に充填された液体をノズルから噴射させる際に、複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定することと、複数のグループのうちの、一のグループにおけるパルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおけるパルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量(Δtd)が、オンパルスピーク(AP)の幅を用いて、(-0.167AP≦Δtd≦0.167AP)にて規定される範囲内(ただし、Δtd=0(ゼロ)を除く)に収まるように設定することと、を含むようにしたものである。
【0008】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドの駆動プログラムは、複数のノズルに連通する複数の圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、圧力室内の容積を膨張および収縮させて、圧力室内に充填された液体をノズルから噴射させる際に、複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定することと、複数のグループのうちの、一のグループにおけるパルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおけるパルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量(Δtd)が、オンパルスピーク(AP)の幅を用いて、(-0.167AP≦Δtd≦0.167AP)にて規定される範囲内(ただし、Δtd=0(ゼロ)を除く)に収まるように設定することと、をコンピュータに実行させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置、液体噴射ヘッドの駆動方法および液体噴射ヘッドの駆動プログラムによれば、印刷画質を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置の概略構成例を表す模式斜視図である。
【
図2】
図1に示した液体噴射ヘッドの詳細構成例を表す分解斜視図である。
【
図3】
図2に示したノズルプレートを取り外した状態における液体噴射ヘッドの構成例を表す模式底面図である。
【
図4】
図3に示したIV-IV線に沿った断面構成例を表す模式図である。
【
図5】
図4に示したV部を拡大して表す模式断面図である。
【
図6】実施の形態に係る制御部の構成例を表す概略ブロック図である。
【
図7】実施の形態に係る圧力室のグループ分けの構成例を表す模式平面図である。
【
図8】実施の形態に係るグループ間でのパルス信号同士のずれ量の一例を表す模式波形図である。
【
図9】実施の形態に係るグループ間でのパルス信号同士のずれ量の他の例を表す模式波形図である。
【
図10】
図8および
図9に示したずれ量の範囲例について説明するための模式図である。
【
図11】比較例に係るパルス信号を表す模式波形図である。
【
図12】実施の形態および比較例に係る液滴の吐出状態の実験例を表す図である。
【
図13】実施の形態に係る実施例1および比較例1での実験結果を表として表す図である。
【
図14】変形例1に係る駆動波形等の概略構成例について説明するための模式波形図である。
【
図15】変形例1に係るグループ間でのパルス信号同士のずれ量の一例を表す模式波形図である。
【
図16】変形例1に係る実施例2および比較例2での実験結果を表として表す図である。
【
図17】変形例2に係る駆動波形の概略構成例について説明するための模式波形図である。
【
図18】変形例2に係るグループ間でのパルス信号同士のずれ量の一例を表す模式波形図である。
【
図19】変形例2に係る実施例3および比較例3での実験結果を表として表す図である。
【
図20】変形例3に係るグループ間でのパルス信号同士のずれ量の一例を表す模式波形図である。
【
図21】変形例4に係るグループ間でのパルス信号同士のずれ量の一例を表す模式波形図である。
【
図22】変形例4に係る実施例4および比較例4での実験結果を表として表す図である。
【
図23】変形例5に係る液体噴射ヘッドの構成例を表す分解斜視図である。
【
図24】変形例5に係る圧力室のグループ分けの構成例を表す模式平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.実施の形態(1つのパルス信号のみを印加する場合の例)
2.変形例
変形例1(1つのメインパルス信号,1つの補助パルス信号を印加する場合の例)
変形例2(複数のメインパルス信号,1つの補助パルス信号を印加する場合の例)
変形例3(複数のメインパルス信号のみを印加する場合の例)
変形例4(複数のグループ間で異なる種類のパルス信号を印加する場合の例)
変形例5(複数列の圧力室に対して共通して液体を供給する構造の場合の例)
3.その他の変形例
【0012】
<1.実施の形態>
[プリンタ1の全体構成]
図1は、本開示の一実施の形態に係る液体噴射記録装置としてのプリンタ1の概略構成例を、模式的に斜視図にて表したものである。プリンタ1は、後述するインク9を利用して、被記録媒体としての記録紙Pに対して、画像や文字等の記録(印刷)を行うインクジェットプリンタである。このプリンタ1はまた、詳細は後述するが、インク9を所定の流路に循環させて利用する、インク循環式のインクジェットプリンタである。
【0013】
プリンタ1は、
図1に示したように、一対の搬送機構2a,2bと、インクタンク3と、インクジェットヘッド4と、循環機構5と、走査機構6とを備えている。これらの各部材は、所定形状を有する筺体10内に収容されている。なお、本明細書の説明に用いられる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0014】
ここで、プリンタ1は、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例に対応し、インクジェットヘッド4(後述するインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4B)は、本開示における「液体噴射ヘッド」の一具体例に対応している。また、インク9は、本開示における「液体」の一具体例に対応している。なお、本開示の一実施の形態に係る液体噴射ヘッドの駆動方法は、本実施の形態のプリンタ1において具現化されるため、以下、併せて説明する。この点は、後述する各変形例においても同様である。
【0015】
搬送機構2a,2bはそれぞれ、
図1に示したように、記録紙Pを搬送方向d(X軸方向)に沿って搬送する機構である。これらの搬送機構2a,2bはそれぞれ、グリッドローラ21、ピンチローラ22および駆動機構(不図示)を有している。グリッドローラ21およびピンチローラ22はそれぞれ、Y軸方向(記録紙Pの幅方向)に沿って延設されている。駆動機構は、グリッドローラ21を軸周りに回転させる(Z-X面内で回転させる)機構であり、例えばモータ等によって構成されている。
【0016】
(インクタンク3)
インクタンク3は、インク9を内部に収容するタンクである。このインクタンク3としては、この例では
図1に示したように、イエロー(Y),マゼンダ(M),シアン(C),ブラック(B)の4色のインク9を個別に収容する、4種類のタンクが設けられている。すなわち、イエローのインク9を収容するインクタンク3Yと、マゼンダのインク9を収容するインクタンク3Mと、シアンのインク9を収容するインクタンク3Cと、ブラックのインク9を収容するインクタンク3Bとが設けられている。これらのインクタンク3Y,3M,3C,3Bは、筺体10内において、X軸方向に沿って並んで配置されている。
【0017】
なお、インクタンク3Y,3M,3C,3Bはそれぞれ、収容するインク9の色以外については同一の構成であるため、以下ではインクタンク3と総称して説明する。
【0018】
(インクジェットヘッド4)
インクジェットヘッド4は、後述する複数のノズル(ノズル孔H1,H2)から記録紙Pに対して液滴状のインク9を噴射(吐出)して、画像や文字等の記録を行うヘッドである。このインクジェットヘッド4としても、この例では
図1に示したように、上記したインクタンク3Y,3M,3C,3Bにそれぞれ収容されている4色のインク9を個別に噴射する、4種類のヘッドが設けられている。すなわち、イエローのインク9を噴射するインクジェットヘッド4Yと、マゼンダのインク9を噴射するインクジェットヘッド4Mと、シアンのインク9を噴射するインクジェットヘッド4Cと、ブラックのインク9を噴射するインクジェットヘッド4Bとが設けられている。これらのインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Bは、筺体10内において、Y軸方向に沿って並んで配置されている。
【0019】
なお、インクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Bはそれぞれ、利用するインク9の色以外については同一の構成であるため、以下ではインクジェットヘッド4と総称して説明する。また、このインクジェットヘッド4の詳細構成については、後述する(
図2~
図6)。
【0020】
(循環機構5)
循環機構5は、インクタンク3内とインクジェットヘッド4内との間でインク9を循環させるための機構である。この循環機構5は、例えば、インク9を循環させるための流路である循環流路50と、一対の送液ポンプ52a,52bとを含んで構成されている。
【0021】
循環流路50は、
図1に示したように、インクタンク3から送液ポンプ52aを介してインクジェットヘッド4へと至る部分である流路50aと、インクジェットヘッド4から送液ポンプ52bを介してインクタンク3へと至る部分である流路50bとを有している。言い換えると、流路50aは、インクタンク3からインクジェットヘッド4へと向かって、インク9が流れる流路である。また、流路50bは、インクジェットヘッド4からインクタンク3へと向かって、インク9が流れる流路である。なお、これらの流路50a,50b(インク9の供給チューブ)はそれぞれ、可撓性を有するフレキシブルホースにより構成されている。
【0022】
(走査機構6)
走査機構6は、記録紙Pの幅方向(Y軸方向)に沿って、インクジェットヘッド4を走査させる機構である。この走査機構6は、
図1に示したように、Y軸方向に沿って延設された一対のガイドレール61a,61bと、これらのガイドレール61a,61bに移動可能に支持されたキャリッジ62と、このキャリッジ62をY軸方向に沿って移動させる駆動機構63と、を有している。また、駆動機構63は、ガイドレール61a,61bの間に配置された一対のプーリ631a,631bと、これらのプーリ631a,631b間に巻回された無端ベルト632と、プーリ631aを回転駆動させる駆動モータ633と、を有している。
【0023】
プーリ631a,631bはそれぞれ、Y軸方向に沿って、各ガイドレール61a,61bにおける両端付近に対応する領域に配置されている。無端ベルト632には、キャリッジ62が連結されている。このキャリッジ62上には、前述した4種類のインクジェットヘッド4Y,4M,4C,4Bが、Y軸方向に沿って並んで配置されている。
【0024】
なお、このような走査機構6と前述した搬送機構2a,2bとにより、インクジェットヘッド4と記録紙Pとを相対的に移動させる、移動機構が構成されるようになっている。
【0025】
[インクジェットヘッド4の詳細構成]
次に、
図1に加えて
図2~
図6を参照して、インクジェットヘッド4の詳細構成例について説明する。
図2は、インクジェットヘッド4の詳細構成例を、分解斜視図で表したものである。
図3は、
図2に示したノズルプレート41(後出)を取り外した状態におけるインクジェットヘッド4の構成例を、模式的に底面図(X-Y底面図)で表したものである。
図4は、
図3に示したIV-IV線に沿った断面構成例(Z-X断面構成例)を、模式的に表したものである。
図5は、
図4に示したV部を拡大して模式的に断面図(Z-X断面図)で表したものである。
図6は、本実施の形態に係る制御部(後述する制御部49)の構成例を、概略ブロック図で表したものである。
【0026】
本実施の形態のインクジェットヘッド4は、後述する複数のチャネル(チャネルC1,C2)における延在方向(Y軸方向)の中央部からインク9を吐出する、いわゆるサイドシュートタイプのインクジェットヘッドである。また、このインクジェットヘッド4は、前述した循環機構5(循環流路50)を用いることで、インクタンク3との間でインク9を循環させて利用する、循環式のインクジェットヘッドである。
【0027】
図2に示したように、インクジェットヘッド4は、ノズルプレート(噴射孔プレート)41、アクチュエータプレート42およびカバープレート43を主に備えている。これらのノズルプレート41、アクチュエータプレート42およびカバープレート43は、例えば接着剤等を用いて互いに貼り合わされており、Z軸方向に沿ってこの順に積層されている。なお、以下では、Z軸方向に沿ってカバープレート43側を上方と称すると共に、ノズルプレート41側を下方と称して説明する。
【0028】
また、カバープレート43の上面に、所定の流路を有する流路プレート(不図示)が設けられているようにしてもよい。なお、この流路プレート内の流路には、前述した循環機構5における流路50a,50bが接続されており、この流路に対するインク9の流入と、この流路からのインク9の流出とが、それぞれなされるようになっている。
【0029】
(ノズルプレート41)
ノズルプレート41は、例えば50μm程度の厚みを有する、ポリイミド等のフィルム材からなり、
図2に示したように、アクチュエータプレート42の下面に接着されている。ただし、ノズルプレート41の構成材料は、ポリイミド等の樹脂材料には限られず、例えば金属材料であってもよい。また、
図2および
図3に示したように、このノズルプレート41には、X軸方向に沿ってそれぞれ延在する、2列のノズル列(ノズル列411,412)が設けられている。これらのノズル列411,412同士は、Y軸方向に沿って所定の間隔をおいて配置されている。このように、本実施の形態のインクジェットヘッド4は、2列タイプのインクジェットヘッドとなっている。
【0030】
ノズル列411は、X軸方向に沿って所定の間隔をおいて一直線上に並んで形成された、複数のノズル孔H1を有している。これらのノズル孔H1はそれぞれ、ノズルプレート41をその厚み方向(Z軸方向)に沿って貫通しており、例えば
図4および
図5に示したように、後述するアクチュエータプレート42における吐出チャネルC1e内に連通している。具体的には
図3に示したように、各ノズル孔H1は、吐出チャネルC1e上においてY軸方向に沿った中央部に位置するように形成されている。また、ノズル孔H1におけるX軸方向に沿った形成ピッチは、吐出チャネルC1eにおけるX軸方向に沿った形成ピッチと同一(同一ピッチ)となっている。このようなノズル列411内のノズル孔H1からは、詳細は後述するが、吐出チャネルC1e内から供給されるインク9が吐出(噴射)されるようになっている。
【0031】
ノズル列412も同様に、X軸方向に沿って所定の間隔をおいて一直線上に並んで形成された、複数のノズル孔H2を有している。これらのノズル孔H2もそれぞれ、ノズルプレート41をその厚み方向に沿って貫通しており、後述するアクチュエータプレート42における吐出チャネルC2e内に連通している。具体的には
図3に示したように、各ノズル孔H2は、吐出チャネルC2e上においてY軸方向に沿った中央部に位置するように形成されている。また、ノズル孔H2におけるX軸方向に沿った形成ピッチは、吐出チャネルC2eにおけるX軸方向に沿った形成ピッチと同一となっている。このようなノズル列412内のノズル孔H2からも、詳細は後述するが、吐出チャネルC2e内から供給されるインク9が吐出されるようになっている。
【0032】
なお、これらのノズル孔H1,H2はそれぞれ、下方に向かうに従って漸次縮径するテーパ状の貫通孔となっており(
図4および
図5参照)、本開示における「ノズル」の一具体例に対応している。
【0033】
(アクチュエータプレート42)
アクチュエータプレート42は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等の圧電材料により構成されたプレートであり、詳細は後述するが、後述する吐出チャネルC1e,C2e内の容積をそれぞれ変化させるようになっている。このアクチュエータプレート42は、その分極方向が厚み方向(Z軸方向)に沿って一方向に設定されている1つ(単一)の圧電基板によって、構成されている(いわゆる、カンチレバータイプ)。ただし、アクチュエータプレート42の構成としては、このカンチレバータイプには限られない。すなわち、例えば、分極方向が互いに異なる2つの圧電基板を厚み方向(Z軸方向)に沿って積層することによって、アクチュエータプレート42を構成するようにしてもよい(いわゆる、シェブロンタイプ)。なお、このアクチュエータプレート42は、本開示における「圧電アクチュエータ」の一具体例に対応している。
【0034】
また、
図2および
図3に示したように、アクチュエータプレート42には、X軸方向に沿ってそれぞれ延在する、2列のチャネル列(チャネル列421,422)が設けられている。これらのチャネル列421,422同士は、Y軸方向に沿って所定の間隔をおいて配置されている。
【0035】
このようなアクチュエータプレート42では、
図3に示したように、X軸方向に沿った中央部(チャネル列421,422の形成領域)が、インク9の吐出領域(噴射領域)となっている。一方、アクチュエータプレート42において、X軸方向に沿った両端部(チャネル列421,422の非形成領域)は、インク9の非吐出領域(非噴射領域)となっている。この非吐出領域は、上記した吐出領域に対して、X軸方向に沿った外側に位置している。なお、アクチュエータプレート42におけるY軸方向に沿った両端部はそれぞれ、尾部420を構成している。
【0036】
上記したチャネル列421は、
図2および
図3に示したように、Y軸方向に沿って延在する複数のチャネルC1を有している。これらのチャネルC1は、X軸方向に沿って所定の間隔をおいて互いに平行となるよう、並んで配置されている。各チャネルC1は、
図4に示したように、圧電体(アクチュエータプレート42)からなる駆動壁Wdによってそれぞれ画成されており、断面視にて凹状の溝部となっている。
【0037】
チャネル列422も同様に、
図2および
図3に示したように、Y軸方向に沿って延在する複数のチャネルC2を有している。これらのチャネルC2は、X軸方向に沿って所定の間隔をおいて互いに平行となるよう、並んで配置されている。各チャネルC2もまた、上記した駆動壁Wdによってそれぞれ画成されており、断面視にて凹状の溝部となっている。
【0038】
ここで、
図2~
図4に示したように、チャネルC1には、インク9を吐出させるための(インク9が充填される)吐出チャネルC1eと、インク9を吐出させない(インク9が充填されない)ダミーチャネルC1dとが存在している。チャネル列421において、これらの吐出チャネルC1eとダミーチャネルC1dとは、X軸方向に沿って交互に配置されている。複数の吐出チャネルC1eはそれぞれ、ノズルプレート41における複数のノズル孔H1に対して個別に連通している一方、複数のダミーチャネルC1dはそれぞれ、これらのノズル孔H1には連通しておらず、ノズルプレート41の上面によって下方から覆われている(
図4参照)。
【0039】
同様に、
図2および
図3に示したように、チャネルC2には、インク9を吐出させるための(インク9が充填される)吐出チャネルC2eと、インク9を吐出させない(インク9が充填されない)ダミーチャネルC2dとが存在している。チャネル列422において、これらの吐出チャネルC2eとダミーチャネルC2dとは、X軸方向に沿って交互に配置されている。複数の吐出チャネルC2eはそれぞれ、ノズルプレート41における複数のノズル孔H2に対して個別に連通している一方、複数のダミーチャネルC2dはそれぞれ、これらのノズル孔H2には連通しておらず、ノズルプレート41の上面によって下方から覆われている。
【0040】
なお、このような吐出チャネルC1e,C2eはそれぞれ、本開示における「圧力室」の一具体例に対応している。
【0041】
また、
図3に示したように、チャネルC1における吐出チャネルC1eおよびダミーチャネルC1dは、チャネルC2における吐出チャネルC2eおよびダミーチャネルC2dに対し、互い違いとなるように配置されている。したがって、本実施の形態のインクジェットヘッド4では、チャネルC1における吐出チャネルC1eと、チャネルC2における吐出チャネルC2eとが、千鳥状に配置されている。なお、
図2に示したように、アクチュエータプレート42において、ダミーチャネルC1d,C2dに対応する部分には、ダミーチャネルC1d,C2dにおけるY軸方向に沿った外側端部に連通する、浅溝部Ddが形成されている。
【0042】
ここで、
図2,
図4,
図5に示したように、上記した駆動壁Wdにおける対向する内側面にはそれぞれ、Y軸方向に沿って延在する駆動電極Edが設けられている。この駆動電極Edには、吐出チャネルC1e,C2eに面する内側面に設けられたコモン電極(共通電極)Edcと、ダミーチャネルC1d,C2dに面する内側面に設けられたアクティブ電極(個別電極)Edaとが存在している。なお、このような駆動電極Ed(コモン電極Edcおよびアクティブ電極Eda)は、
図4および
図5に示したように、駆動壁Wdの内側面上において、深さ方向(Z軸方向)の中間位置までしか形成されていない。
【0043】
同一の吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)内で対向する一対のコモン電極Edc同士は、コモン端子(不図示)において互いに電気的に接続されている。また、同一のダミーチャネルC1d(またはダミーチャネルC2d)内で対向する一対のアクティブ電極Eda同士は、互いに電気的に分離されている。一方、吐出チャネルC1e(または吐出チャネルC2e)を介して対向する一対のアクティブ電極Eda同士は、アクティブ端子(不図示)において互いに電気的に接続されている。
【0044】
ここで、前述した尾部420においては、
図2に示したように、駆動電極Edと制御部(インクジェットヘッド4における後述する制御部49)との間を電気的に接続するための、フレキシブルプリント基板493が実装されている。このフレキシブルプリント基板493に形成された配線パターン(不図示)は、上記したコモン端子およびアクティブ端子に対して電気的に接続されている。これにより、フレキシブルプリント基板493を介して、後述する制御部49から各駆動電極Edに対して、駆動電圧(後述する駆動電圧Vd)が印加されるようになっている。
【0045】
(カバープレート43)
カバープレート43は、
図2に示したように、アクチュエータプレート42における各チャネルC1,C2(各チャネル列421,422)を閉塞するように配置されている。具体的には、このカバープレート43は、アクチュエータプレート42の上面に接着されており、板状構造となっている。
【0046】
カバープレート43には、
図2に示したように、一対の入口側共通インク室431a,432aと、一対の出口側共通インク室431b,432bとが、それぞれ形成されている。具体的には、入口側共通インク室431aおよび出口側共通インク室431bはそれぞれ、アクチュエータプレート42におけるチャネル列421(複数のチャネルC1)に対応する領域に形成されている。また、入口側共通インク室432aおよび出口側共通インク室432bはそれぞれ、アクチュエータプレート42におけるチャネル列422(複数のチャネルC2)に対応する領域に形成されている。
【0047】
入口側共通インク室431aは、各チャネルC1におけるY軸方向に沿った内側の端部付近に形成されており、凹状の溝部となっている(
図2参照)。この入口側共通インク室431aにおいて、各吐出チャネルC1eに対応する領域には、カバープレート43をその厚み方向(Z軸方向)に沿って貫通する、供給スリットSaが形成されている。同様に、入口側共通インク室432aは、各チャネルC2におけるY軸方向に沿った内側の端部付近に形成されており、凹状の溝部となっている(
図2参照)。この入口側共通インク室432aにおいて、各吐出チャネルC2eに対応する領域にも、上記した供給スリットSaが形成されている。このようにして、入口側共通インク室431aは、チャネル列421内で隣接する複数の吐出チャネルC1eに対して、共通してインク9を供給すると共に、入口側共通インク室432aは、チャネル列422内で隣接する複数の吐出チャネルC2eに対して、共通してインク9を供給するようになっている。
【0048】
なお、これらの入口側共通インク室431a,432aはそれぞれ、インクジェットヘッド4における入口部Tinを構成する部分となっており、本開示における「共通液体供給室」の一具体例に対応している。
【0049】
出口側共通インク室431bは、
図2に示したように、各チャネルC1におけるY軸方向に沿った外側の端部付近に形成されており、凹状の溝部となっている(
図2参照)。この出口側共通インク室431bにおいて、各吐出チャネルC1eに対応する領域には、カバープレート43をその厚み方向に沿って貫通する、排出スリットSbが形成されている。同様に、出口側共通インク室432bは、各チャネルC2におけるY軸方向に沿った外側の端部付近に形成されており、凹状の溝部となっている(
図2参照)。この出口側共通インク室432bにおいて、各吐出チャネルC2eに対応する領域にも、上記した排出スリットSbが形成されている。
【0050】
なお、これらの出口側共通インク室431b,432bはそれぞれ、インクジェットヘッド4における出口部Toutを構成する部分となっている。
【0051】
このようにして、入口側共通インク室431aおよび出口側共通インク室431bはそれぞれ、供給スリットSaおよび排出スリットSbを介して各吐出チャネルC1eに連通する一方、各ダミーチャネルC1dには連通していない。すなわち、各ダミーチャネルC1dは、これら入口側共通インク室431aおよび出口側共通インク室431bにおける底部によって、閉塞されるようになっている(
図4参照)。
【0052】
同様に、入口側共通インク室432aおよび出口側共通インク室432bはそれぞれ、供給スリットSaおよび排出スリットSbを介して各吐出チャネルC2eに連通する一方、各ダミーチャネルC2dには連通していない。すなわち、各ダミーチャネルC2dは、これら入口側共通インク室432aおよび出口側共通インク室432bにおける底部によって、閉塞されるようになっている。
【0053】
(制御部49)
ここで、本実施の形態のインクジェットヘッド4にはまた、
図6に示したように、プリンタ1における各種動作の制御を行う、制御部49が設けられている。この制御部49は、例えば、プリンタ1における画像や文字等の記録動作(インクジェットヘッド4におけるインク9の噴射動作)等を制御するものである。
【0054】
具体的には
図6に示したように、制御部49は、前述したフレキシブルプリント基板493を介して、アクチュエータプレート42における各駆動電極Edに対し、前述した駆動電圧Vdを印加することで、そのようなインク9の噴射動作を制御するようになっている。言い換えると、制御部49は、アクチュエータプレート42に対して、1または複数のパルス信号(この例では後述するパルス信号Sp1,Sp2)を印加するようになっている。これにより詳細は後述するが、アクチュエータプレート42における前述した駆動壁Wdが変形し、前述した各吐出チャネルC1e,C2e内の容積が膨張および収縮することで、各吐出チャネルC1e,C2e内に充填されたインク9が、各ノズル孔H1,H2を介して噴射されるようになっている。
【0055】
このような制御部49は、
図6に示したように、制御回路492等を搭載するIC(Integrated Circuit)基板491と、上記したフレキシブルプリント基板493とを有している。制御回路492は、上記したように、アクチュエータプレート42における各駆動電極Ed(前述した各コモン電極Edcと各アクティブ電極Edaとの間)に対し、駆動電圧Vd(パルス信号Sp1,Sp2)を印加する回路である。
【0056】
なお、この制御部49による制御動作の詳細については、後述する(
図7~
図10等)。
【0057】
[動作および作用・効果]
(A.プリンタ1の基本動作)
このプリンタ1では、以下のようにして、記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作(印刷動作)が行われる。なお、初期状態として、
図1に示した4種類のインクタンク3(3Y,3M,3C,3B)にはそれぞれ、対応する色(4色)のインク9が十分に封入されているものとする。また、インクタンク3内のインク9は、循環機構5を介してインクジェットヘッド4内に充填された状態となっている。
【0058】
このような初期状態において、プリンタ1を作動させると、搬送機構2a,2bにおけるグリッドローラ21がそれぞれ回転することで、グリッドローラ21とピンチローラ22と間に、記録紙Pが搬送方向d(X軸方向)に沿って搬送される。また、このような搬送動作と同時に、駆動機構63における駆動モータ633が、プーリ631a,631bをそれぞれ回転させることで、無端ベルト632を動作させる。これにより、キャリッジ62がガイドレール61a,61bにガイドされながら、記録紙Pの幅方向(Y軸方向)に沿って往復移動する。そしてこの際に、各インクジェットヘッド4(4Y,4M,4C,4B)によって、4色のインク9を記録紙Pに適宜吐出させることで、この記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作がなされる。
【0059】
(B.インクジェットヘッド4における詳細動作)
続いて、
図1~
図6を参照して、インクジェットヘッド4における詳細動作(インク9の噴射動作)について説明する。すなわち、本実施の形態のインクジェットヘッド4(サイドシュートタイプ)では、以下のようにして、せん断(シェア)モードを用いたインク9の噴射動作が行われる。
【0060】
まず、上記したキャリッジ62(
図1参照)の往復移動が開始されると、制御部49は、フレキシブルプリント基板493を介して、インクジェットヘッド4内の駆動電極Ed(コモン電極Edcおよびアクティブ電極Eda)に対し、前述した駆動電圧Vdを印加する。具体的には、制御部49は、吐出チャネルC1e,C2eを画成する一対の駆動壁Wdに配置された各駆動電極Edに対し、駆動電圧Vdを印加する。これにより、これら一対の駆動壁Wdがそれぞれ、その吐出チャネルC1e,C2eに隣接するダミーチャネルC1d,C2d側へ、突出するように変形する(
図4参照)。
【0061】
ここで、前述したように、アクチュエータプレート42では、分極方向が一方向に設定されていると共に、駆動電極Edが、駆動壁Wdにおける内側面上の深さ方向の中間位置までしか形成されていない。このため、制御部49によって駆動電圧Vdを印加することで、駆動壁Wdにおける深さ方向の中間位置を中心として、駆動壁WdがV字状に屈曲変形することになる。そして、このような駆動壁Wdの屈曲変形により、吐出チャネルC1e,C2eがあたかも膨らむように変形する(
図5中に示した膨張方向d11参照)。
【0062】
ちなみに、アクチュエータプレート42の構成が、このようなカンチレバータイプではなく、前述したシェブロンタイプである場合には、以下のようにして、駆動壁WdがV字状に屈曲変形する。すなわち、このシェブロンタイプの場合、アクチュエータプレート42の分極方向が厚み方向に沿って異なっている(前述した2つの圧電基板が積層されている)と共に、駆動電極Edが、駆動壁Wdにおける内側面上の深さ方向の全体に亘って形成されている。このため、上記した制御部49によって駆動電圧Vdを印加することで、駆動壁Wdにおける深さ方向の中間位置を中心として、駆動壁WdがV字状に屈曲変形することになる。その結果、この場合においても、このような駆動壁Wdの屈曲変形により、吐出チャネルC1e,C2eがあたかも膨らむように変形することになる(
図5中に示した膨張方向d11参照)。
【0063】
このように、一対の駆動壁Wdでの圧電厚み滑り効果による屈曲変形によって、吐出チャネルC1e,C2eの容積が増大する。そして、吐出チャネルC1e,C2eの容積が増大することにより、入口側共通インク室431a,432a内に貯留されたインク9が、吐出チャネルC1e,C2e内へ誘導されることになる(
図2参照)。
【0064】
次いで、このようにして吐出チャネルC1e,C2e内へ誘導されたインク9は、圧力波となって吐出チャネルC1e,C2eの内部に伝播する。そして、ノズルプレート41のノズル孔H1,H2にこの圧力波が到達したタイミングで、駆動電極Edに印加される駆動電圧Vdが、0(ゼロ)Vとなる。これにより、上記した屈曲変形の状態から駆動壁Wdが復元する結果、一旦増大した吐出チャネルC1e,C2eの容積が、再び元に戻ることになる(
図5中に示した収縮方向d12参照)。
【0065】
このようにして、吐出チャネルC1e,C2eの容積が元に戻ると、吐出チャネルC1e,C2e内部の圧力が増加し、吐出チャネルC1e,C2e内のインク9が加圧される。その結果、液滴状のインク9が、ノズル孔H1,H2を通って外部へと(記録紙Pへ向けて)吐出される(
図4および
図5参照)。このようにしてインクジェットヘッド4におけるインク9の噴射動作(吐出動作)がなされ、その結果、記録紙Pに対する画像や文字等の記録動作が行われることになる。
【0066】
特に、本実施の形態のノズル孔H1,H2はそれぞれ、前述したように、下方に向かうに従って漸次縮径するテーパ状となっているため(
図4および
図5参照)、インク9を高速度で真っ直ぐに(直進性良く)吐出することができる。よって、高画質な記録を行うことが可能となる。
【0067】
(C.インク9の循環動作)
続いて、
図1,
図2,
図4,
図5を参照して、循環機構5によるインク9の循環動作について、詳細に説明する。
【0068】
図1に示したように、このプリンタ1では、送液ポンプ52aによって、インクタンク3内から流路50a内へと、インク9が送液される。また、送液ポンプ52bによって、流路50b内を流れるインク9が、インクタンク3内へと送液される。
【0069】
この際に、インクジェットヘッド4内では、インクタンク3内から流路50aを介して流れるインク9が、入口側共通インク室431a,432a(入口部Tin)へと流入する(
図1および
図2参照)。これらの入口側共通インク室431a,432aへと供給されたインク9は、供給スリットSaを介して、アクチュエータプレート42における各吐出チャネルC1e,C2e内へと供給される(
図2,
図4,
図5参照)。
【0070】
また、各吐出チャネルC1e,C2e内のインク9は、排出スリットSbを介して、各出口側共通インク室431b,432b(出口部Tout)内へと流入する(
図2参照)。これらの出口側共通インク室431b,432bへ供給されたインク9は、インクジェットヘッド4内から流路50bへと流出される(
図1および
図2参照)。そして、流路50bへと排出されたインク9は、インクタンク3内へと戻されることになる。このようにして、循環機構5によるインク9の循環動作がなされる。
【0071】
ここで、循環式ではないインクジェットヘッドでは、乾燥性の高いインクを使用した場合、ノズル孔の近傍でのインクの乾燥に起因して、インクの局所的な高粘度化や固化が生じる結果、インク不吐出の不良が発生するおそれがある。これに対して、本実施の形態のインクジェットヘッド4(循環式のインクジェットヘッド)では、ノズル孔H1,H2の近傍に常に新鮮なインク9が供給されることから、上記したようなインク不吐出の不良が回避されることになる。
【0072】
(D.制御部49による制御動作)
ここで、
図1~
図6に加えて
図7~
図10を参照して、前述した制御部49による制御動作例について、詳細に説明する。
【0073】
(D-1.吐出チャネルC1e,C2eでのグループ分けの設定)
図7は、本実施の形態に係る吐出チャネルC1e,C2eのグループ分けの構成例を、模式的に平面図(X-Y平面図)で表したものである。
【0074】
まず、本実施の形態の制御動作の際には、アクチュエータプレート42における複数の吐出チャネルC1e,C2eのうちの、隣接する複数の吐出チャネルC1e,C2e同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定される。具体的には、本実施の形態では
図7に示したように、チャネル列421に沿って並設された複数の吐出チャネルC1eと、チャネル列422に沿って並設された複数の吐出チャネルC2eとがそれぞれ、2つのグループG1,G2にグループ分けされている。
【0075】
グループG1には、各チャネル列421,422内において、X軸方向に沿った一方の端部を始点として奇数番目(1番目,3番目,5番目,…)に配置された吐出チャネルC1e,C2eが、所属するようになっている。具体的には
図7に示したように、このグループG1には、1番目の吐出チャネルC1e(1),C2e(1)、3番目の吐出チャネルC1e(3),C2e(3)、5番目の吐出チャネルC1e(5),C2e(5)、……(2m-1)番目(m:自然数)の吐出チャネルC1e(2m-1),C2e(2m-1)が、それぞれ所属している。
【0076】
一方、グループG2には、各チャネル列421,422内において、X軸方向に沿った一方の端部を始点として偶数番目(2番目,4番目,6番目,…)に配置された吐出チャネルC1e,C2eが、所属するようになっている。具体的には
図7に示したように、このグループG2には、2番目の吐出チャネルC1e(2),C2e(2)、4番目の吐出チャネルC1e(4),C2e(4)、6番目の吐出チャネルC1e(6),C2e(6)、……(2m)番目の吐出チャネルC1e(2m),C2e(2m)が、それぞれ所属している。
【0077】
このように、
図7等において括弧内に併記したように、グループG1は奇数グループGoとして機能すると共に、グループG2は偶数グループGeとして機能するようになっている。言い換えると、これら2つのグループG1(Go),G2(Ge)同士では、所属する吐出チャネルC1eまたは吐出チャネルC2eが、X軸方向に沿って交互に配置されるようになっている。
【0078】
(D-2.グループG1,G2間でのずれ量Δtdの設定)
また、本実施の形態の制御動作では、制御部49は、このようなグループG1,G2間において、タイミングのずれ量Δtdを設定するようになっている。具体的には、制御部49は、以下詳述するように、グループG1に所属する吐出チャネルC1e,C2eに対して適用されるパルス信号Sp1と、グループG2に所属する吐出チャネルC1e,C2eに対して適用されるパルス信号Sp2との間で、そのようなずれ量Δtdを設定する。つまり、本実施の形態の制御動作では、後述する比較例(
図11,
図12参照)に係る制御動作とは異なり、2つのグループG1,G2に所属する吐出チャネルC1e,C2e同士で、適用するパルス信号Sp1,Sp2のタイミングを共通化せずに、互いに異ならせるようになっている。
【0079】
ここで、
図8および
図9はそれぞれ、上記した2つのグループG1,G2間でのパルス信号Sp1,Sp2同士のずれ量Δtdの一例を、模式的に波形図で表したものであり、横軸は時間tを、縦軸は駆動電圧Vd(この例では正電圧)を、それぞれ示している。具体的には、
図8は、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち上がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち下がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例を示している。一方、
図9は、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち下がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち上がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例を示している。
【0080】
なお、
図8および
図9に示したパルス信号Sp1,Sp2はいずれも、立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングとの間に、ON期間Ton(「ON」のパルス幅)を有している。そして、これらのパルス信号Sp1,Sp2はいずれも、ハイ(High)状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを膨張させる(括弧内の膨張方向d11を参照)と共に、ロウ(Low)状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを収縮させる(括弧内の収縮方向d12を参照)、パルス信号(ポジティブパルス信号)となっている。
【0081】
まず、
図8に示した例では、制御部49は、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち上がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち下がりタイミングとの間に、0(ゼロ)を含む所定のずれ量Δtdを設定している。つまり、制御部49は、このようなずれ量Δtdが、0を含む所定の範囲内に収まるように設定している。
【0082】
具体的には、
図8(A)に示したグループG1(Go)のパルス信号Sp1は、タイミングt13において立ち上がると共にタイミングt14において立ち下がるパルス信号となっている。一方、
図8(B)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2の例は、タイミングt11において立ち上がると共にタイミングt12において立ち下がるパルス信号となっている。同様に、
図8(C)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2の例は、タイミングt15において立ち上がると共にタイミングt16において立ち下がるパルス信号となっている。また、
図8(D)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2の例は、タイミングt17において立ち上がると共にタイミングt13において立ち下がるパルス信号となっている。
【0083】
そして、
図8(A),
図8(B)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt13を基準としたタイミングt12までのずれ量)が、負の値となっている(Δtd<0)。一方、
図8(A),
図8(C)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt13を基準としたタイミングt16までのずれ量)が、正の値となっている(Δtd>0)。他方、
図8(A),
図8(D)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt13を基準としたずれ量)が、0となっている(Δtd=0)。つまり、この場合の例では、パルス信号Sp1の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2の立ち下がりタイミングとがそれぞれ、タイミングt13で一致している。
【0084】
また、
図9に示した例では、制御部49は、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち下がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち上がりタイミングとの間に、0を含む所定のずれ量Δtdを設定している。つまり、制御部49は、このようなずれ量Δtdが、0を含む所定の範囲内に収まるように設定している。
【0085】
具体的には、
図9(A)に示したグループG1(Go)のパルス信号Sp1は、タイミングt11において立ち上がると共にタイミングt13において立ち下がるパルス信号となっている。一方、
図9(B)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2の例は、タイミングt12において立ち上がると共にタイミングt14において立ち下がるパルス信号となっている。同様に、
図9(C)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2の例は、タイミングt15において立ち上がると共にタイミングt16において立ち下がるパルス信号となっている。また、
図9(D)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2の例は、タイミングt13において立ち上がると共にタイミングt17において立ち下がるパルス信号となっている。
【0086】
そして、
図9(A),
図9(B)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt13を基準としたタイミングt12までのずれ量)が、負の値となっている(Δtd<0)。一方、
図9(A),
図9(C)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt13を基準としたタイミングt15までのずれ量)が、正の値となっている(Δtd>0)。他方、
図9(A),
図9(D)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt13を基準としたずれ量)が、0となっている(Δtd=0)。つまり、この場合の例では、パルス信号Sp1の立ち下がりタイミングと、パルス信号Sp2の立ち上がりタイミングとがそれぞれ、タイミングt13で一致している。
【0087】
(D-3.ずれ量Δtdの範囲について)
ここで、
図10は、
図8および
図9に示したずれ量Δtdの範囲例を、模式的に表したものである。
【0088】
まず、
図10(A)に示した例では、制御部49は上記したように、ずれ量Δtdが0を含む所定の範囲(範囲R1)内に収まるように設定している。具体的には、この
図10(A)の例では、ずれ量Δtdが、閾値(-Thm)以上かつ閾値(+Thp)以下である範囲R1内に設定されている(-Thm≦Δtd≦+Thp)。つまり、
図10(A)の例では、ずれ量Δtdの絶対値が0以上に(0を含むように)設定されている。なお、このような範囲R1は、本開示における「所定の範囲」の一具体例に対応している。
【0089】
一方、
図10(B)に示した例では、制御部49は、ずれ量Δtdの絶対値が0よりも大きくなるように((ずれ量Δtdの絶対値>0)を満たすように)設定している。具体的には、この
図10(B)の例では、ずれ量Δtdが、閾値(-Thm)以上かつ0未満、または、0超過かつ閾値(+Thp)以下である、範囲R2内に設定されている(-Thm≦Δtd<0,0<Δtd≦+Thp)。つまり、上記した
図10(A)の例(図中の黒丸印を参照)とは異なり、
図10(B)の例(図中の白丸印を参照)では、ずれ量Δtdの絶対値が0を含まないように設定されている。
【0090】
(E.作用・効果)
続いて、本実施の形態のインクジェットヘッド4およびプリンタ1における作用および効果について、比較例(
図11,
図12参照)と比較しつつ、詳細に説明する。
【0091】
(E-1.比較例)
図11は、比較例に係るパルス信号Sp101を模式的に波形図で表したものであり、横軸は時間tを、縦軸は駆動電圧Vd(この例では正電圧)を、それぞれ示している。また、
図12は、実施の形態(
図12(A))および比較例(
図12(B))に係る、インク9の液滴の吐出状態の実験例を表したものであり、ノズル面Snから垂直方向に沿ったインク9の液滴の吐出状態を示している。
【0092】
図11に示したように、この比較例に係る制御動作では、
図8,
図9に示した本実施の形態の制御動作とは異なり、アクチュエータプレート42における全ての吐出チャネルC1e,C2eについて、共通化されたパルス信号Sp101が適用されている。つまり、この比較例の制御動作では、
図11中の括弧書きで示したように、例えば前述した2つのグループG1,G2に所属する吐出チャネルC1e,C2e同士についても、共通化されたパルス信号Sp101が適用されることになる。
【0093】
このような比較例の制御動作を用いた場合、アクチュエータプレート42における全ての吐出チャネルC1e,C2eについて、膨張および収縮の各タイミングが共通(一致)することになるため、例えば以下のような問題が生じるおそれがある。すなわち、例えばチャネル列421,422内で隣接する複数の吐出チャネル(吐出チャネルC1eまたは吐出チャネルC2e)において、インク9の瞬間的な一方向への流動等が生じ、これら隣接する複数の吐出チャネル間でのクロストーク(相互干渉)が発生するおそれがある。そのようなクロストークが発生すると、対応する複数のノズル(ノズル孔H1またはノズル孔H2)間において、インク9の吐出速度の変動や、インク9の液滴サイズのばらつき等が増大し、印刷画質が低下してしまうおそれがある。
【0094】
具体的には、
図12(B)に示した比較例に係る実験例(上記したパルス信号Sp101を用いた制御動作例)では、ノズル面Snから垂直方向に沿ってインク9の液滴が吐出される際に、以下のようになっている。すなわち、例えば
図12(B)中の符号P101で示した部分のように、インク9の吐出速度のばらつき等に起因して、インク9の液滴同士の間隔が不均等となり、ほぼ密着してしまっていることが分かる。
【0095】
(E-2.本実施の形態)
これに対して、本実施の形態のインクジェットヘッド4およびプリンタ1では、以下のようにして、制御部49による制御動作を行っている。
【0096】
すなわち、まず、前述した
図7に示したように、アクチュエータプレート42における複数の吐出チャネルC1e,C2eのうちの、隣接する複数の吐出チャネルC1e,C2e同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定される。具体的には、本実施の形態では、チャネル列421に沿って並設された複数の吐出チャネルC1eと、チャネル列422に沿って並設された複数の吐出チャネルC2eとがそれぞれ、2つのグループG1,G2にグループ分けされる。
【0097】
そして、制御部49は、上記比較例とは異なり、このような2つのグループG1,G2に所属する吐出チャネルC1e,C2e同士で、適用するパルス信号Sp1,Sp2のタイミングを共通化せずに、互いに異ならせている。具体的には、例えば
図8,
図9,
図10(A)に示したように、制御部49は、一方のグループにおけるパルス信号の立ち上がりのタイミングと、他方のグループにおけるパルス信号の立ち下がりのタイミングとの間のずれ量Δtdが、0を含む所定の範囲(範囲R1)内に収まるように設定する。より具体的には、例えば
図8に示したように、制御部49は、グループG1におけるパルス信号Sp1の立ち上がりタイミングと、グループG2におけるパルス信号Sp2の立ち下がりタイミングとの間に、そのようなずれ量Δtdを設定する。あるいは、例えば
図9に示したように、制御部49は、グループG1におけるパルス信号Sp1の立ち下がりタイミングと、グループG2におけるパルス信号Sp2の立ち上がりタイミングとの間に、そのようなずれ量Δtdを設定する。
【0098】
このような制御動作が行われることで、本実施の形態では上記比較例と比べ、以下のようになる。すなわち、インク9を噴射させる際に、異なるグループG1,G2同士において、上記したずれ量Δtdが0を含む範囲R1内に収まるように設定されることから、複数のグループG1,G2間で、吐出チャネルC1e,C2eの膨張や収縮のタイミングが異なることになる(
図8,
図9中に示した括弧内の膨張方向d11および収縮方向d12を参照)。これにより、本実施の形態では上記比較例と比べ、隣接する複数の吐出チャネル(吐出チャネルC1eまたは吐出チャネルC2e)において、インク9の瞬間的な一方向への流動等が抑えられることから、これら隣接する複数の吐出チャネル間でのクロストークの発生が低減する。その結果、対応する複数のノズル(ノズル孔H1またはノズル孔H2)間において、インク9の吐出速度の変動や、インク9の液滴サイズのばらつき等が、抑えられることになる。
【0099】
具体的には、
図12(A)に示した本実施の形態に係る実験例(上記したパルス信号Sp1,Sp2を用いた制御動作例)では、ノズル面Snから垂直方向に沿ってインク9の液滴が吐出される際に、以下のようになっている。すなわち、本実施の形態では上記したように、インク9の吐出速度のばらつき等が抑えられることから、前述した
図12(B)に示した比較例に係る実験例と比べ、インク9の液滴同士の間隔が均等化されていることが分かる。
【0100】
以上のことから、本実施の形態では上記比較例と比べ、印刷画質を向上させることが可能となる。また、インクジェットヘッド4の構造自体は、既存の構造から変更する必要がなく、制御部49による制御動作(パルス信号の波形)のみを変更させればよいことから、既存のインクジェットヘッドの構造を保持しつつ、そのような印刷画質の向上効果を得ることが可能となる。
【0101】
また、本実施の形態では、例えば
図8(B),
図8(C),
図9(B),
図9(C),
図10(B)に示したように、制御部49が、ずれ量Δtdの絶対値が0よりも大きくなるように設定した場合には、以下のようになる。すなわち、例えば
図8(D),
図8(D),
図10(A)に示したように、ずれ量Δtdの絶対値が0である場合(異なるグループG1,G2同士でのパルス信号Sp1,Sp2の立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングとが一致する場合)と比べ、以下の効果が得られる。具体的には、異なるグループG1,G2同士でのパルス信号Sp1,Sp2の立ち上がりタイミングと立ち下がりタイミングとが異なるため、上記したクロストークの発生が更に低減する結果、上記したインク9の吐出速度の変動や、インク9の液滴サイズのばらつき等が、更に抑えられる。よって、このようにした場合、印刷画質を更に向上させることが可能となる。
【0102】
加えて、本実施の形態では
図7に示したように、2つのグループG1,G2同士において、所属する吐出チャネルC1eまたは吐出チャネルC2eが、X軸方向に沿って交互に配置されているため、以下の効果も得られる。すなわち、奇数グループGo(グループG1)および偶数グループGe(グループG2)からなる2つのグループG1,G2にグループ分けされていることから、パルス信号の構成(設定手法)が特に簡易なものとなる。よって、本実施の形態では、インクジェットヘッド4の駆動を容易に行うことができ、利便性の向上を図ることも可能となる。
【0103】
(F.実験結果)
ここで、
図13は、本実施の形態に係る実施例1(実施例1-1~1-7)および比較例1(比較例1-1~1-4)での実験結果を、表としてまとめて表したものである。具体的には、この
図13では、実施例1-1~1-7および比較例1-1~1-4について、上記したずれ量Δtd(前述した「AP」単位での数値)と、
図12に示した実験例での判定結果との対応関係を示している。
【0104】
なお、判定結果については、実験者による目視での判定結果を、良好な結果(
図12(A)参照)から好ましくない結果(
図12(B)参照)への順に、「◎(A)」,「○(B)」,「△(C)」,「×(D)」の4段階にて示している。
【0105】
図13に示したように、ずれ量Δtdが0を含む範囲R1内に収まる(この例では、-0.167AP(-1/6・AP)≦Δtd≦+0.167AP(+1/6・AP))ように設定されている、実施例1-1~1-7ではそれぞれ、以下のようになっている。すなわち、これらの実施例1-1~1-7ではそれぞれ、前述したようにしてクロストークの発生が低減されることから、「◎(A)」または「○(B)」の良好な判定結果が得られていることが分かる。
【0106】
また、特に、ずれ量Δtdの絶対値が0よりも大きくなるように設定されている、実施例1-1~1-4,1-6,1-7ではそれぞれ、「◎(A)」という、特に良好な判定結果が得られている。すなわち、実施例1-1~1-4,1-6,1-7ではそれぞれ、ずれ量Δtdの絶対値が0である実施例1-5(判定結果:「○(B)」)と比べて、前述したようにしてクロストークの発生が更に低減する結果、更に良好な判定結果が得られていることが分かる。
【0107】
これに対して、ずれ量Δtdが上記範囲R1から外れる(この例では、Δtd<-0.167AP、または、+0.167AP<Δtd)ように設定されている、比較例1-1~1-4ではそれぞれ、以下のようになっている。すなわち、これらの比較例1-1~1-4ではそれぞれ、前述したクロストークの発生に起因して、「△(C)」という、上記実施例1-1~1-7と比べて好ましくない判定結果が得られていることが分かる。
【0108】
このようにして、
図13に示した実施例1-1~1-7および比較例1-1~1-4での実験結果により、前述した本実施の形態における効果の一例を、具体的に確認することができたと言える。
【0109】
<2.変形例>
続いて、上記実施の形態の変形例(変形例1~5)について説明する。なお、実施の形態における構成要素と同一のものには同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0110】
[変形例1]
上記実施の形態では、制御部49によってインク9を1滴噴射させる際に、1つのパルス信号(パルス信号Sp1またはパルス信号Sp2)のみを印加する場合について説明した。これに対して、以下の変形例1では、制御部49によってインク9を1滴噴射させる際に、後述する2種類のパルス信号(1つのメインパルス信号および1つの補助パルス信号を印加する場合について説明する。
【0111】
(2種類のパルス信号を用いた制御動作について)
図14は、変形例1に係る駆動波形等の概略構成例を、模式的に波形図で表したものであり、横軸は時間tを示している。具体的には、
図14(A)では、吐出チャネルC1e,C2e内の圧力変化を示す圧力変化波形P(Ce)と、吐出チャネルC1e,C2e内のインク9のメニスカスの体積変化を示すインク体積変化波形V9とを、それぞれ示している。また、
図14(B)では、変形例1に係る制御動作の際に用いられるパルス信号Sp1,Sp2の波形を示しており、縦軸は駆動電圧Vdを示している。
【0112】
まず、
図14(B)に示したように、変形例1のパルス信号Sp1,Sp2はいずれも、以下の2種類のパルス信号を有している。すなわち、変形例1のパルス信号Sp1,Sp2はいずれも、ON期間Ton1(「ON1」のパルス幅)を有する1つのパルス信号(メインパルス信号)と、このメインパルス信号から所定の時間間隔を空けて設けられると共にON期間Ton2(「ON2」のパルス幅)を有する、1つのパルス信号(補助パルス信号)とを備えている。
【0113】
メインパルス信号は、この例ではタイミングt21からタイミングt22までの期間でハイ(High)状態となっており、インク9の液滴を吐出させるためのパルス信号である。一方、補助パルス信号は、この例ではタイミングt23からタイミングt24までの期間でハイ状態となっており、メインパルス信号によって吐出したインク9の液滴の一部を引き戻すためのパルス信号である。また、これらのメインパルス信号と補助パルス信号との間(タイミングt22からタイミングt23までの期間)は、上記した所定の時間間隔としての、OFF期間Toff(「OFF」期間)となっている。
【0114】
なお、変形例1においても、これらのパルス信号Sp1,Sp2におけるメインパルス信号および補助パルス信号はいずれも、以下のようになっている。すなわち、ハイ状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを膨張させる(括弧内の膨張方向d11を参照)と共に、ロウ状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを収縮させる(括弧内の収縮方向d12を参照)、ポジティブパルス信号となっている。
【0115】
また、
図14(B)中の括弧書きで示したように、上記したメインパルス信号におけるON期間Ton1(「ON1」のパルス幅)は、オンパルスピーク(AP)の幅以下のパルス幅となっている(Ton1≦1AP)。このAPとは、吐出チャネルC1e,C2e内におけるインク9の固有振動周期の1/2の期間(1AP=(インク9の固有振動周期)/2)に対応している。これにより、通常の1滴分のインク9を吐出(1滴吐出)させる際に、インク9の吐出速度が最大となるようになっている。
【0116】
ここで、変形例1では、上記したメインパルス信号(「ON1」のパルス幅を有するパルス信号)が、本開示における「第1パルス信号」の一具体例に対応している。また、上記した補助パルス信号(「ON2」のパルス幅を有するパルス信号)は、本開示における「第2パルス信号」の一具体例に対応している。更に、上記したOFF期間Toff(「OFF」期間)は、本開示における「所定の時間間隔」の一具体例に対応している。
【0117】
このような2種類のパルス信号が各パルス信号Sp1,Sp2に設けられていることで、変形例1のインクジェットヘッド4では、制御部49によってインク9を1滴噴射させる際に、以下のようにして動作する。
【0118】
すなわち、
図14(A)に示したように、まず、タイミングt21からタイミングt21までのON期間Ton1(「ON1」)において、メインパルス信号が印加される。すると、吐出チャネルC1e,C2eの容積が膨張してその内部の圧力が低下し(圧力変化波形P(Ce)参照)、インク9の体積も低下する(インク体積変化波形V9参照)。
【0119】
次に、タイミングt22において、OFF期間Toff(「OFF」期間)になると、吐出チャネルC1e,C2eの容積が元に戻ろうと収縮し始め、その内部の圧力が増大する(圧力変化波形P(Ce)参照)。これにより、インク9の体積が増加し(インク体積変化波形V9参照)、このインク9の体積が閾値Thv(
図14(A)参照)を超えると、インク9が吐出し始める。
【0120】
続いて、タイミングt23からタイミングt24までのON期間Ton2(「ON2」)において、補助パルス信号が印加される。すると、吐出チャネルC1e,C2eの容積が再び膨張して、その内部の圧力が再び低下する(圧力変化波形P(Ce)参照)。これにより、インクジェットヘッド4から吐出したインク9の液滴の一部が、吐出チャネルC1e,C2e内に引き戻され、その結果、インク9の1滴分の吐出量(Drop Volume)が減少することになる。
【0121】
このようにして、変形例1では制御部49は、インク9を1滴噴射させる際に、吐出チャネルC1e,C2e内の容積を膨張および収縮させるパルス信号Sp1,Sp2において、メインパルス信号の後に補助パルス信号を付加させている。具体的には、制御部49はこの際に、1APの幅以下のパルス幅(ON期間Ton1)を有するメインパルス信号と、このメインパルス信号から所定の時間間隔(OFF期間Toff)を空けて設けられる補助パルス信号と、を含むようにして印加する。
【0122】
これにより変形例1では、上記したように、インクジェットヘッド4から吐出したインク9の液滴の一部が吐出チャネルC1e,C2e内に引き戻され、その結果、インク9の1滴分の吐出量が減少する(1滴吐出の際のインク9の液滴が小型化される)。つまり、変形例1では、インクジェットヘッド4の構造自体は既存の構造から変更することなく、1滴吐出の際のインク9の液滴を小型化することができ、インク9の最低吐出量を少なくすることができる。よって、変形例1では、1滴吐出させる際のインク9の液滴の小型化を容易に行うことができ、印刷画質を高精細にする(印刷画質を更に向上させる)ことが可能となる。
【0123】
なお、メインパルス信号におけるパルス幅(ON期間Ton1)を、1APの幅以下で変化させた場合には、1滴吐出の際のインク9の最低吐出量を変化させる(制御する)ことが可能となる。
【0124】
また、メインパルス信号におけるパルス幅(ON期間Ton1)を、1APの幅未満に設定した場合、1APの幅に設定した場合と比べ、例えば以下のような効果が得られる。すなわち、補助パルス信号を用いて引き戻す前の1滴分のインク9の体積が少なくなるため、1滴吐出の際のインク9の液滴を、より小型化することが可能となる。
【0125】
(ずれ量Δtdの設定について)
ここで、
図15は、変形例1に係るずれ量Δtdの一例を、模式的に波形図で表したものであり、横軸は時間tを、縦軸は駆動電圧Vd(この例では正電圧)を、それぞれ示している。具体的には、この
図15は、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち上がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち下がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例(実施の形態における
図8の例に対応)を示している。
【0126】
なお、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち下がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち上がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例(実施の形態における
図9の例に対応)については、変形例1においても実施の形態の場合と同様の対応関係であるため、図示を省略する。
【0127】
また、変形例1では、制御部49は、各パルス信号Sp1,Sp2における2種類のパルス信号(メインパルス信号および補助パルス信号)のうち、補助パルス信号について、実施の形態と同様にしてずれ量Δtdを設定する。
【0128】
すなわち、
図15に示した例では、制御部49は、パルス信号Sp1における補助パルス信号の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2における補助パルス信号の立ち下がりタイミングとの間に、0を含む所定のずれ量Δtdを設定している。つまり、制御部49は、このようなずれ量Δtdが、0を含む所定の範囲(
図10(A)に示した範囲R1参照)内に収まるように設定している。なお、制御部49は、このようなずれ量Δtdの絶対値が、0よりも大きくなるように設定してもよい(
図10(B)に示した範囲R2参照)。
【0129】
具体的には、
図15(A)に示したグループG1(Go)のパルス信号Sp1における補助パルス信号は、タイミングt33において立ち上がると共にタイミングt34において立ち下がるパルス信号となっている。一方、
図15(B)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2における補助パルス信号の例は、タイミングt31において立ち上がると共にタイミングt32において立ち下がるパルス信号となっている。同様に、
図15(C)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2における補助パルス信号の例は、タイミングt35において立ち上がると共にタイミングt36において立ち下がるパルス信号となっている。また、
図15(D)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2における補助パルス信号の例は、タイミングt37において立ち上がると共にタイミングt33において立ち下がるパルス信号となっている。
【0130】
そして、
図15(A),
図15(B)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt33を基準としたタイミングt32までのずれ量)が、負の値となっている(Δtd<0)。一方、
図15(A),
図15(C)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt33を基準としたタイミングt36までのずれ量)が、正の値となっている(Δtd>0)。他方、
図15(A),
図15(D)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt33を基準としたずれ量)が、0となっている(Δtd=0)。つまり、この場合の例では、パルス信号Sp1における補助パルス信号の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2における補助パルス信号の立ち下がりタイミングとがそれぞれ、タイミングt33で一致している。
【0131】
このようにして、変形例1の制御動作では、各パルス信号Sp1,Sp2における2種類のパルス信号(メインパルス信号および補助パルス信号)のうち、補助パルス信号について、実施の形態と同様にしてずれ量Δtdが設定されることで、以下のようになる。すなわち、変形例1においても、実施の形態で説明したクロストークの発生を低減させる機能が、発揮されることになる。よって、変形例1のように、各パルス信号Sp1,Sp2に2種類のパルス信号(メインパルス信号および補助パルス信号)が含まれるようにして、上記したように1滴吐出の際のインク9の液滴を小型化した場合についても、実施の形態と同様の効果を得ることが可能となる。すなわち、複数のノズル(ノズル孔H1またはノズル孔H2)間において、インク9の吐出速度の変動や、インク9の液滴サイズのばらつき等を抑えることができ、印刷画質の更なる向上を図ることが可能となる。
【0132】
(実験結果)
ここで、
図16は、変形例1に係る実施例2(実施例2-1~2-3)および比較例2での実験結果を、表としてまとめて表したものである。具体的には、この
図16では、実施例2-1~2-3および比較例2について、上記したずれ量Δtd(前述した「AP」単位での数値)と、
図12に示した実験例での判定結果との対応関係を示している。
【0133】
なお、判定結果については、前述した
図13の場合と同様に、実験者による目視での判定結果を、「◎(A)」,「○(B)」,「△(C)」,「×(D)」の4段階にて示している。
【0134】
図16に示したように、ずれ量Δtdが0を含む範囲R1内に収まる(この例では、-0.167AP≦Δtd≦+0.167AP)ように設定されている、実施例2-1~2-3ではそれぞれ、以下のようになっている。すなわち、これらの実施例2-1~2-3ではそれぞれ、前述したようにしてクロストークの発生が低減されることから、「◎(A)」または「○(B)」の良好な判定結果が得られていることが分かる。
【0135】
また、特に、ずれ量Δtdの絶対値が0よりも大きくなるように設定されている、実施例2-1,2-3ではそれぞれ、「◎(A)」という、特に良好な判定結果が得られている。すなわち、実施例2-1,2-3ではそれぞれ、ずれ量Δtdの絶対値が0である実施例2-2(判定結果:「○(B)」)と比べて、前述したようにしてクロストークの発生が更に低減する結果、更に良好な判定結果が得られていることが分かる。
【0136】
これに対して、ずれ量Δtdが上記範囲R1から外れる(この例では、Δtd<-0.167AP、または、+0.167AP<Δtd)ように設定されている、比較例2では、以下のようになっている。すなわち、この比較例2では、前述したクロストークの発生に起因して、「△(C)」という、上記実施例2-1~2-3と比べて好ましくない判定結果が得られていることが分かる。
【0137】
このようにして、
図16に示した実施例2-1~2-3および比較例2での実験結果により、前述した変形例1における効果の一例を、具体的に確認することができたと言える。
【0138】
[変形例2]
上記変形例1では、制御部49によってインク9を1滴噴射させる際に、2種類のパルス信号として、1つのメインパルス信号および1つの補助パルス信号を印加する場合について説明した。換言すると、変形例1では、補助パルス信号よりも前に印加されるパルス信号が、この補助パルス信号の直前に印加されるメインパルス信号のみの、1つだけ設けられている。
【0139】
これに対して、以下の変形例2では、制御部49によってインク9を1滴噴射させる際に、2種類のパルス信号として、複数のメインパルス信号および1つの補助パルス信号を印加する場合について説明する。すなわち、この変形例2では、補助パルス信号よりも前に印加されるパルス信号(メインパルス信号)が複数設けられており、いわゆる「マルチパルス方式」の駆動方法が行われるようになっている。
【0140】
(複数のメインパルス信号を用いた制御動作について)
図17は、変形例2に係る駆動波形の概略構成例を、模式的に波形図で表したものであり、横軸は時間tを示している。具体的には、この
図17では、変形例2に係る制御動作の際に用いられるパルス信号Sp1,Sp2の波形を示しており、縦軸は駆動電圧Vdを示している。
【0141】
図17に示したように、変形例2のパルス信号Sp1,Sp2はいずれも、補助パルス信号(「ON2」のパルス幅を有するパルス信号)よりも前に印加されるメインパルス信号として、以下の複数(2つ)のパルス信号が設けられている。すなわち、そのようなメインパルス信号として、ON期間Ton11(「ON11」のパルス幅)を有するパルス信号と、ON期間Ton12(「ON12」のパルス幅)を有するパルス信号と、の2つが設けられている。
【0142】
このような2つのメインパルス信号のうち、ON期間Ton11を有するパルス信号は、この例では、タイミングt41からタイミングt42までの期間でハイ状態となっている。また、ON期間Ton12を有するパルス信号は、この例では、タイミングt43からタイミングt44までの期間でハイ状態となっている。一方、補助パルス信号は、この例では、タイミングt45からタイミングt46までの期間でハイ状態となっている。
【0143】
また、変形例2では、ON期間Ton11を有するパルス信号と、ON期間Ton12を有するパルス信号との間(タイミングt42からタイミングt43までの期間)に、所定の時間間隔としてのOFF期間Toff1(「OFF1」期間)が設けられている。同様に、ON期間Ton12を有するパルス信号と、補助パルス信号との間(タイミングt44からタイミングt45までの期間)に、所定の時間間隔としてのOFF期間Toff2(「OFF2」期間)が設けられている。
【0144】
なお、変形例2においても、これらのパルス信号Sp1,Sp2における2つのメインパルス信号および1つの補助パルス信号はいずれも、以下のようになっている。すなわち、ハイ状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを膨張させる(括弧内の膨張方向d11を参照)と共に、ロウ状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを収縮させる(括弧内の収縮方向d12を参照)、ポジティブパルス信号となっている。
【0145】
また、
図17中の括弧書きで示したように、上記した2つのメインパルス信号のうち、ON期間Ton12(「ON12」のパルス幅)を有するパルス信号では、このON期間Ton12が、APの幅以下のパルス幅となっている(Ton12≦1AP)。
【0146】
ここで、変形例2では変形例1とは異なり、上記した2つのメインパルス信号のうち、ON期間Ton12(「ON12」のパルス幅)を有するパルス信号が、本開示における「第1パルス信号」の一具体例に対応している。つまり、複数のメインパルス信号のうち、補助パルス信号の直前に印加されるメインパルス信号のみが、本開示における「第1パルス信号」の一具体例に対応している。また、変形例2では変形例1とは異なり、上記したOFF期間Toff1(「OFF1」期間)およびOFF期間Toff2(「OFF2」期間)のうち、OFF期間Toff2(「OFF2」期間)のみが、本開示における「所定の時間間隔」の一具体例に対応している。
【0147】
このようにして、変形例2では制御部49は、インク9を1滴噴射させる際に、吐出チャネルC1e,C2e内の容積を膨張および収縮させるパルス信号Sp1,Sp2において、以下のようなパルス信号を印加する。具体的には、制御部49はこの際に、1APの幅以下のパルス幅(ON期間Ton12)を有するメインパルス信号と、このメインパルス信号から所定の時間間隔(OFF期間Toff2)を空けて設けられる補助パルス信号と、を含むようにして印加する。より具体的には、制御部49はこの際に、吐出チャネルC1e,C2e内の容積を膨張および収縮させるパルス信号Sp1,Sp2として、上記した2つのメインパルス信号(ON期間Ton11,ON期間Ton12を有する2つのパルス信号)と、1つの補助パルス信号とを、それぞれ印加する。つまり、制御部49はこの際に、補助パルス信号よりも前に印加されるメインパルス信号が、この補助パルス信号の直前に印加されるメインパルス信号(ON期間Ton12を有するパルス信号)を含んで、複数設けられるようにする。
【0148】
これにより変形例2においても、前述した変形例1と同様にして、インクジェットヘッド4の構造自体は既存の構造から変更することなく、1滴吐出の際のインク9の液滴を小型化することができ、インク9の最低吐出量を少なくすることができる。よって、変形例2においても変形例1と同様に、1滴吐出させる際のインク9の液滴の小型化を容易に行うことができ、印刷画質を高精細にする(印刷画質を更に向上させる)ことが可能となる。
【0149】
また、変形例2では特に、上記したように、マルチパルス方式の場合において補助パルス信号を付加するようにしたので、例えば以下のような効果も得られる。すなわち、このマルチパルス方式では一般に、パルス信号の個数やパルス幅に応じて、インク9を1滴吐出する際の吐出量が離散的な値(離散値)となるが、補助パルス信号を付加することで、そのような離散値の間を埋める吐出値を規定することが可能となる。よって、変形例2では、設定可能なインク9の吐出値の数を増加させることができ、利便性を向上させることも可能となる。
【0150】
(ずれ量Δtdの設定について)
ここで、
図18は、変形例2に係るずれ量Δtdの一例を、模式的に波形図で表したものであり、横軸は時間tを、縦軸は駆動電圧Vd(この例では正電圧)を、それぞれ示している。具体的には、この
図18は、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち上がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち下がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例(実施の形態における
図8の例に対応)を示している。
【0151】
なお、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち下がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち上がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例(実施の形態における
図9の例に対応)については、変形例2においても実施の形態の場合と同様の対応関係であるため、図示を省略する。
【0152】
また、変形例2においても変形例1と同様に、制御部49は、各パルス信号Sp1,Sp2における2種類のパルス信号(2つのメインパルス信号および1つの補助パルス信号)のうち、補助パルス信号について、実施の形態と同様にしてずれ量Δtdを設定する。
【0153】
すなわち、
図18に示した例では、制御部49は、パルス信号Sp1における補助パルス信号の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2における補助パルス信号の立ち下がりタイミングとの間に、0を含む所定のずれ量Δtdを設定している。つまり、制御部49は、このようなずれ量Δtdが、0を含む所定の範囲(
図10(A)に示した範囲R1参照)内に収まるように設定している。なお、制御部49は、このようなずれ量Δtdの絶対値が、0よりも大きくなるように設定してもよい(
図10(B)に示した範囲R2参照)。
【0154】
具体的には、
図18(A)に示したグループG1(Go)のパルス信号Sp1における補助パルス信号は、タイミングt53において立ち上がると共にタイミングt54において立ち下がるパルス信号となっている。一方、
図18(B)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2における補助パルス信号の例は、タイミングt51において立ち上がると共にタイミングt52において立ち下がるパルス信号となっている。同様に、
図18(C)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2における補助パルス信号の例は、タイミングt55において立ち上がると共にタイミングt56において立ち下がるパルス信号となっている。また、
図18(D)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2における補助パルス信号の例は、タイミングt57において立ち上がると共にタイミングt53において立ち下がるパルス信号となっている。
【0155】
そして、
図18(A),
図18(B)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt53を基準としたタイミングt52までのずれ量)が、負の値となっている(Δtd<0)。一方、
図18(A),
図18(C)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt53を基準としたタイミングt56までのずれ量)が、正の値となっている(Δtd>0)。他方、
図18(A),
図18(D)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt53を基準としたずれ量)が、0となっている(Δtd=0)。つまり、この場合の例では、パルス信号Sp1における補助パルス信号の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2における補助パルス信号の立ち下がりタイミングとがそれぞれ、タイミングt53で一致している。
【0156】
このようにして、変形例2においても変形例1と同様に、各パルス信号Sp1,Sp2における2種類のパルス信号(2つのメインパルス信号および1つの補助パルス信号)のうち、補助パルス信号について、実施の形態と同様にしてずれ量Δtdが設定されることで、以下のようになる。すなわち、変形例2においても、実施の形態で説明したクロストークの発生を低減させる機能が、発揮されることになる。よって、変形例2においても、実施の形態および変形例1と同様の効果を得ることが可能となる。すなわち、複数のノズル(ノズル孔H1またはノズル孔H2)間において、インク9の吐出速度の変動や、インク9の液滴サイズのばらつき等を抑えることができ、印刷画質の更なる向上を図ることが可能となる。
【0157】
なお、変形例2では、制御部49はインク9を1滴噴射させる際に、吐出チャネルC1e,C2e内の容積を膨張および収縮させるパルス信号Sp1,Sp2として、上記した2つのメインパルス信号と、1つの補助パルス信号とを、それぞれ印加している。すなわち、変形例2では、マルチパルス方式の場合において、いわゆる「2ドロップ波形」の場合を例に挙げて説明した。しかしながら、この例には限られず、「3ドロップ以上の波形」の場合についても、変形例2と同様にして、補助パルス信号を付加的に印加するようにしてもよい。つまり、制御部49はインク9を1滴噴射させる際に、吐出チャネルC1e,C2e内の容積を膨張および収縮させるパルス信号Sp1,Sp2として、3つ以上のメインパルス信号と、1つの補助パルス信号とを、それぞれ印加するようにしてもよい。なお、この場合においても、3つ以上のメインパルス信号のうち、補助パルス信号の直前に印加されるメインパルス信号のみが、本開示における「第1パルス信号」の一具体例に対応している。
【0158】
(実験結果)
ここで、
図19は、変形例2に係る実施例3(実施例3-1~3-5)および比較例3(比較例3-1~3-4)での実験結果を、表としてまとめて表したものである。具体的には、この
図19では、実施例3-1~3-5および比較例3-1~3-4について、上記したずれ量Δtd(前述した「AP」単位での数値)と、
図12に示した実験例での判定結果との対応関係を示している。
【0159】
なお、判定結果については、前述した
図13,
図16の場合と同様に、実験者による目視での判定結果を、「◎(A)」,「○(B)」,「△(C)」,「×(D)」の4段階にて示している。
【0160】
図19に示したように、ずれ量Δtdが0を含む範囲R1内に収まる(この例では、-0.167AP≦Δtd≦+0.167AP)ように設定されている、実施例3-1~3-5ではそれぞれ、以下のようになっている。すなわち、これらの実施例3-1~3-5ではそれぞれ、前述したようにしてクロストークの発生が低減されることから、「◎(A)」または「○(B)」の良好な判定結果が得られていることが分かる。
【0161】
また、特に、ずれ量Δtdの絶対値が0よりも大きくなるように設定されている、実施例3-1,3-3~3-5ではそれぞれ、「◎(A)」という、特に良好な判定結果が得られている。すなわち、実施例3-1,3-3~3-5ではそれぞれ、ずれ量Δtdの絶対値が0である実施例3-2(判定結果:「○(B)」)と比べて、前述したようにしてクロストークの発生が更に低減する結果、更に良好な判定結果が得られていることが分かる。
【0162】
これに対して、ずれ量Δtdが上記範囲R1から外れる(この例では、Δtd<-0.167AP、または、+0.167AP<Δtd)ように設定されている、比較例3-1~3-4ではそれぞれ、以下のようになっている。すなわち、これらの比較例3-1~3-4ではそれぞれ、前述したクロストークの発生に起因して、「×(D)」という、上記実施例3-1~3-5と比べて好ましくない判定結果が得られていることが分かる。
【0163】
このようにして、
図19に示した実施例3-1~3-5および比較例3-1~3-4での実験結果により、前述した変形例2における効果の一例を、具体的に確認することができたと言える。
【0164】
[変形例3]
上記変形例2では、補助パルス信号よりも前に印加されるパルス信号(メインパルス信号)を複数設け、いわゆる「マルチパルス方式」の駆動方法を行う場合について説明した。
【0165】
これに対して、以下の変形例3では、複数のメインパルス信号のみを印加することで、「マルチパルス方式」の駆動方法を行うようにした場合について説明する。
【0166】
(ずれ量Δtdの設定について)
図20は、変形例3に係るずれ量Δtdの一例を、模式的に波形図で表したものであり、横軸は時間tを、縦軸は駆動電圧Vd(この例では正電圧)を、それぞれ示している。具体的には、この
図20は、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち上がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち下がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例(実施の形態における
図8の例に対応)を示している。
【0167】
なお、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち下がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち上がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例(実施の形態における
図9の例に対応)については、変形例3においても実施の形態の場合と同様の対応関係であるため、図示を省略する。
【0168】
ここで、
図20に示したように、変形例3のパルス信号Sp1,Sp2はいずれも、「マルチパルス方式」が適用されるメインパルス信号として、以下の複数(3つ)のパルス信号が設けられている。すなわち、そのようなメインパルス信号として、ON期間Ton11(「ON11」のパルス幅)を有するパルス信号と、ON期間Ton12(「ON12」のパルス幅)を有するパルス信号と、ON期間Ton13(「ON13」のパルス幅)を有するパルス信号と、の3つが設けられている。
【0169】
なお、変形例3においても、これらのパルス信号Sp1,Sp2における3つのメインパルス信号はいずれも、以下のようになっている。すなわち、ハイ状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを膨張させると共に、ロウ状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを収縮させる、ポジティブパルス信号となっている。
【0170】
また、変形例3では制御部49は、各パルス信号Sp1,Sp2における複数のパルス信号(この例では3つメインパルス信号)のうちの、以下のパルス信号について、ずれ量Δtdを設定する。すなわち、制御部49は、このような複数のパルス信号のうち、インク9の噴射に寄与する(吐出チャネルC1e,C2eを膨張させるための)最終パルス信号(この例では、ON期間Ton13を有するパルス信号)について、実施の形態と同様にしてずれ量Δtdを設定する。
【0171】
ここで、
図20に示した例では、制御部49は、パルス信号Sp1におけるON期間Ton13を有するパルス信号の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2におけるON期間Ton13を有するパルス信号の立ち下がりタイミングとの間に、0を含む所定のずれ量Δtdを設定している。つまり、制御部49は、このようなずれ量Δtdが、0を含む所定の範囲(
図10(A)に示した範囲R1参照)内に収まるように設定している。なお、制御部49は、このようなずれ量Δtdの絶対値が、0よりも大きくなるように設定してもよい(
図10(B)に示した範囲R2参照)。
【0172】
具体的には、
図20(A)に示したグループG1(Go)のパルス信号Sp1におけるON期間Ton13を有するパルス信号は、タイミングt63において立ち上がると共にタイミングt64において立ち下がるパルス信号となっている。一方、
図20(B)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2におけるON期間Ton13を有するパルス信号の例は、タイミングt61において立ち上がると共にタイミングt62において立ち下がるパルス信号となっている。同様に、
図20(C)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2におけるON期間Ton13を有するパルス信号の例は、タイミングt65において立ち上がると共にタイミングt66において立ち下がるパルス信号となっている。また、
図20(D)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2におけるON期間Ton13を有するパルス信号の例は、タイミングt67において立ち上がると共にタイミングt63において立ち下がるパルス信号となっている。
【0173】
そして、
図20(A),
図20(B)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt63を基準としたタイミングt62までのずれ量)が、負の値となっている(Δtd<0)。一方、
図20(A),
図20(C)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt63を基準としたタイミングt66までのずれ量)が、正の値となっている(Δtd>0)。他方、
図20(A),
図20(D)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt63を基準としたずれ量)が、0となっている(Δtd=0)。つまり、この場合の例では、パルス信号Sp1におけるON期間Ton13を有するパルス信号の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2におけるON期間Ton13を有するパルス信号の立ち下がりタイミングとがそれぞれ、タイミングt63で一致している。
【0174】
このようにして、変形例3においても、各パルス信号Sp1,Sp2における複数のパルス信号のうち、インク9の噴射に寄与する最終パルス信号について、実施の形態と同様にしてずれ量Δtdが設定されることで、以下のようになる。すなわち、変形例3においても、実施の形態で説明したクロストークの発生を低減させる機能が、発揮されることになる。よって、変形例3においても、実施の形態および変形例1,2と同様の効果を得ることが可能となる。すなわち、複数のノズル(ノズル孔H1またはノズル孔H2)間において、インク9の吐出速度の変動や、インク9の液滴サイズのばらつき等を抑えることができ、印刷画質の更なる向上を図ることが可能となる。
【0175】
なお、変形例3では、マルチパルス方式の場合において、「3ドロップ波形」の場合を例に挙げて説明した。しかしながら、この例には限られず、「2ドロップ波形または4ドロップ以上の波形」の場合についても、変形例3と同様にして、ずれ量Δtdを設定するようにしてもよい。
【0176】
[変形例4]
これまでに説明した、実施の形態および変形例1~3ではいずれも、複数のグループ間で、同じ種類のパルス信号を共通して印加する場合について説明した。
【0177】
これに対して、以下の変形例4では、複数のグループ間で異なる種類のパルス信号を印加する場合について説明する。具体的には、この変形例4では一例として、一方のグループについては、実施の形態において説明したように、1つのパルス信号のみを印加すると共に、他方のグループについては、変形例1において説明したように、1つのメインパルス信号と1つの補助パルス信号とを印加する場合について説明する。
【0178】
(ずれ量Δtdの設定について)
図21は、変形例4に係るずれ量Δtdの一例を、模式的に波形図で表したものであり、横軸は時間tを、縦軸は駆動電圧Vd(この例では正電圧)を、それぞれ示している。具体的には、この
図21は、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち上がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち下がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例(実施の形態における
図8の例に対応)を示している。
【0179】
なお、グループG1(Go)におけるパルス信号Sp1の立ち下がりタイミングと、グループG2(Ge)におけるパルス信号Sp2の立ち上がりタイミングとの間で、ずれ量Δtdを規定した場合の例(実施の形態における
図9の例に対応)については、変形例4においても実施の形態の場合と同様の対応関係であるため、図示を省略する。
【0180】
ここで、
図21に示したように、変形例4のパルス信号Sp1には、変形例1で説明したように、1つのメインパルス信号(ON期間Ton1を有するパルス信号)と、1つの補助パルス信号(ON期間Ton2を有するパルス信号)とが設けられている。また、変形例1と同様に、これらのメインパルス信号と補助パルス信号との間には、OFF期間Toff(「OFF」期間)が設けられている。一方、変形例4のパルス信号Sp2には、実施の形態で説明したように、1つのパルス信号(メインパルス信号,ON期間Tonを有するパルス信号)のみが設けられている。
【0181】
なお、変形例4においても、これらのメインパルス信号および補助パルス信号はいずれも、以下のようになっている。すなわち、ハイ状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを膨張させると共に、ロウ状態の期間において吐出チャネルC1e,C2eを収縮させる、ポジティブパルス信号となっている。
【0182】
また、変形例4では制御部49は、パルス信号Sp1,Sp2における1または複数のパルス信号のうちの、以下のパルス信号について、ずれ量Δtdを設定する。すなわち、制御部49は、パルス信号Sp1における補助パルス信号(この例では、ON期間Ton2を有するパルス信号)と、パルス信号Sp2においてインク9の噴射に寄与する最終パルス信号(この例では、ON期間Tonを有するパルス信号)とについて、実施の形態と同様にしてずれ量Δtdを設定する。
【0183】
ここで、
図21に示した例では、制御部49は、パルス信号Sp1におけるON期間Ton2を有するパルス信号の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2におけるON期間Tonを有するパルス信号の立ち下がりタイミングとの間に、0を含む所定のずれ量Δtdを設定している。つまり、制御部49は、このようなずれ量Δtdが、0を含む所定の範囲(
図10(A)に示した範囲R1参照)内に収まるように設定している。なお、制御部49は、このようなずれ量Δtdの絶対値が、0よりも大きくなるように設定してもよい(
図10(B)に示した範囲R2参照)。
【0184】
具体的には、
図21(A)に示したグループG1(Go)のパルス信号Sp1におけるON期間Ton2を有するパルス信号は、タイミングt73において立ち上がると共にタイミングt74において立ち下がるパルス信号となっている。一方、
図21(B)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2におけるON期間Tonを有するパルス信号の例は、タイミングt71において立ち上がると共にタイミングt72において立ち下がるパルス信号となっている。同様に、
図21(C)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2におけるON期間Tonを有するパルス信号の例は、タイミングt75において立ち上がると共にタイミングt76において立ち下がるパルス信号となっている。また、
図21(D)に示したグループG2(Ge)のパルス信号Sp2におけるON期間Tonを有するパルス信号の例は、タイミングt77において立ち上がると共にタイミングt73において立ち下がるパルス信号となっている。
【0185】
そして、
図21(A),
図21(B)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt73を基準としたタイミングt72までのずれ量)が、負の値となっている(Δtd<0)。一方、
図21(A),
図21(C)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt73を基準としたタイミングt76までのずれ量)が、正の値となっている(Δtd>0)。他方、
図21(A),
図21(D)に示したパルス信号Sp1,Sp2同士を組み合わせた場合の例では、上記したずれ量Δtd(この例ではタイミングt73を基準としたずれ量)が、0となっている(Δtd=0)。つまり、この場合の例では、パルス信号Sp1におけるON期間Ton2を有するパルス信号の立ち上がりタイミングと、パルス信号Sp2におけるON期間Tonを有するパルス信号の立ち下がりタイミングとがそれぞれ、タイミングt73で一致している。
【0186】
このようにして、変形例4においても、パルス信号Sp1における補助パルス信号と、パルス信号Sp2においてインク9の噴射に寄与する最終パルス信号とについて、実施の形態と同様にしてずれ量Δtdが設定されることで、以下のようになる。すなわち、変形例4においても、実施の形態で説明したクロストークの発生を低減させる機能が、発揮されることになる。よって、変形例4においても、実施の形態および変形例1~3と同様の効果を得ることが可能となる。すなわち、複数のノズル(ノズル孔H1またはノズル孔H2)間において、インク9の吐出速度の変動や、インク9の液滴サイズのばらつき等を抑えることができ、印刷画質の更なる向上を図ることが可能となる。
【0187】
なお、変形例4では、各パルス信号Sp1,Sp2におけるメインパルス信号がいずれも、1つのみ設けられている場合を例に挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、各パルス信号Sp1,Sp2におけるメインパルス信号のうちの少なくとも一方が、複数設けられている(前述したマルチパルス方式を適用する)ようにしてもよい。
【0188】
(実験結果)
ここで、
図22は、変形例4に係る実施例4(実施例4-1~4-7)および比較例4(比較例4-1~4-6)での実験結果を、表としてまとめて表したものである。具体的には、この
図22では、実施例4-1~4-7および比較例4-1~4-6について、上記したずれ量Δtd(前述した「AP」単位での数値)と、
図12に示した実験例での判定結果との対応関係を示している。
【0189】
なお、判定結果については、前述した
図13,
図16,
図19の場合と同様に、実験者による目視での判定結果を、「◎(A)」,「○(B)」,「△(C)」,「×(D)」の4段階にて示している。
【0190】
図22に示したように、ずれ量Δtdが0を含む範囲R1内に収まる(この例では、-0.167AP≦Δtd≦+0.167AP)ように設定されている、実施例4-1~4-7ではそれぞれ、以下のようになっている。すなわち、これらの実施例4-1~4-7ではそれぞれ、前述したようにしてクロストークの発生が低減されることから、「◎(A)」または「○(B)」の良好な判定結果が得られていることが分かる。
【0191】
また、特に、ずれ量Δtdの絶対値が0よりも大きくなるように設定されている、実施例4-1~4-3,4-5~4-7ではそれぞれ、「◎(A)」という、特に良好な判定結果が得られている。すなわち、実施例4-1~4-3,4-5~4-7ではそれぞれ、ずれ量Δtdの絶対値が0である実施例4-4(判定結果:「○(B)」)と比べて、前述したようにしてクロストークの発生が更に低減する結果、更に良好な判定結果が得られていることが分かる。
【0192】
これに対して、ずれ量Δtdが上記範囲R1から外れる(この例では、Δtd<-0.167AP、または、+0.167AP<Δtd)ように設定されている、比較例4-1~4-6ではそれぞれ、以下のようになっている。すなわち、これらの比較例4-1~4-6ではそれぞれ、前述したクロストークの発生に起因して、「△(C)」という、上記実施例4-1~4-7と比べて好ましくない判定結果が得られていることが分かる。
【0193】
このようにして、
図22に示した実施例4-1~4-7および比較例4-1~4-6での実験結果により、前述した変形例4における効果の一例を、具体的に確認することができたと言える。
【0194】
[変形例5]
これまでに説明した、実施の形態および変形例1~4ではいずれも、各チャネル列内において隣接する複数の吐出チャネル同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定していた。
【0195】
これに対して、以下の変形例5では、複数のチャネル列における吐出チャネルに対して共通してインクを供給する構造とすると共に、各チャネル列間で隣接する複数の吐出チャネル同士についても、互いに異なる複数のグループに所属するように設定する場合について説明する。
【0196】
(カバープレート43Aの構成)
図23は、変形例5に係るインクジェットヘッド(インクジェットヘッド4A)の構成例を、分解斜視図で表したものである。変形例5のインクジェットヘッド4Aは、実施の形態で説明したインクジェットヘッド4において、カバープレート43の代わりに以下説明するカバープレート43Aを設けたものに対応している。
【0197】
このカバープレート43Aでは、カバープレート43における2つの入口側共通インク室431a,432aの代わりに、
図23に示したように、1つの入口側共通インク室430aが設けられている。入口側共通インク室431aは、チャネル列421内で隣接する複数の吐出チャネルC1eに対してインク9を供給する一方、入口側共通インク室432aは、チャネル列422内で隣接する複数の吐出チャネルC2eに対してインク9を供給している。すなわち、入口側共通インク室431a,432aはそれぞれ、チャネル列421,422内の複数の吐出チャネルC1e,C2eに対して、個別にインク9を供給している。これに対して、変形例5の入口側共通インク室430aは、チャネル列421,422間で隣接する複数の吐出チャネルC1e,C2eに対して、共通してインク9を供給するようになっている。
【0198】
なお、このような入口側共通インク室430aは、インクジェットヘッド4Aにおける入口部Tinを構成する部分となっており、本開示における「共通液体供給室」の一具体例に対応している。
【0199】
(グループ分けの設定について)
図24は、変形例5に係る吐出チャネルC1e,C2eのグループ分けの構成例を、模式的に平面図(X-Y平面図)で表したものである。
【0200】
変形例5の制御動作の際には、この
図24に示したように、チャネル列421内の複数の吐出チャネルC1eと、チャネル列422内の複数の吐出チャネルC2eとがそれぞれ、実施の形態(
図7参照)と同様に、2つのグループ(前述した奇数グループおよび偶数グループ)にグループ分けされている。また、変形例5では実施の形態とは異なり、チャネル列421内の複数の吐出チャネルC1eと、チャネル列422内の複数の吐出チャネルC2eとについても、異なるグループにグループ分けされている。したがって、変形例5では
図24に示したように、奇数グループG1oとして機能するグループG11と、偶数グループG1eとして機能するグループG12と、奇数グループG2oとして機能するグループG21と、偶数グループG2eとして機能するグループG22と、の4つのグループが設けられている。
【0201】
グループG11(G1o)には、チャネル列421内において、X軸方向に沿った一方の端部を始点として奇数番目(1番目,3番目,5番目,…)に配置された吐出チャネルC1eが、所属するようになっている。具体的には
図24に示したように、このグループG11には、1番目の吐出チャネルC1e(1)、3番目の吐出チャネルC1e(3)、5番目の吐出チャネルC1e(5)、……(2m-1)番目(m:自然数)の吐出チャネルC1e(2m-1)が、それぞれ所属している。
【0202】
また、グループG21(G2o)には、チャネル列422内において、X軸方向に沿った一方の端部を始点として奇数番目(1番目,3番目,5番目,…)に配置された吐出チャネルC2eが、所属するようになっている。具体的には
図24に示したように、このグループG21には、1番目の吐出チャネルC2e(1)、3番目の吐出チャネルC2e(3)、5番目の吐出チャネルC2e(5)、……(2m-1)番目の吐出チャネルC2e(2m-1)が、それぞれ所属している。
【0203】
一方、グループG12(G1e)には、チャネル列421内において、X軸方向に沿った一方の端部を始点として偶数番目(2番目,4番目,6番目,…)に配置された吐出チャネルC1eが、所属するようになっている。具体的には
図24に示したように、このグループG12には、2番目の吐出チャネルC1e(2)、4番目の吐出チャネルC1e(4)、6番目の吐出チャネルC1e(6)、……(2m)番目の吐出チャネルC1e(2m)が、それぞれ所属している。
【0204】
また、グループG22(G2e)には、チャネル列422内において、X軸方向に沿った一方の端部を始点として偶数番目(2番目,4番目,6番目,…)に配置された吐出チャネルC2eが、所属するようになっている。具体的には
図24に示したように、このグループG22には、2番目の吐出チャネルC2e(2)、4番目の吐出チャネルC2e(4)、6番目の吐出チャネルC2e(6)、……(2m)番目の吐出チャネルC2e(2m)が、それぞれ所属している。
【0205】
このように変形例5では、2つのグループG11(G1o),G12(G1e)同士では、所属する吐出チャネルC1eがX軸方向に沿って交互に配置されていると共に、2つのグループG21(G2o),G22(G2e)同士では、所属する吐出チャネルC2eがX軸方向に沿って交互に配置されている。
【0206】
(作用・効果)
このようにして変形例5では、チャネル列421,422間で隣接する複数の吐出チャネルC1e,C2eに対して共通してインク9を供給する入口側共通インク室430aを設けると共に、各チャネル列421,422間で隣接する複数の吐出チャネルC1e,C2e同士についても、互いに異なる複数のグループに所属するようにしたので、以下のようになる。すなわち、入口側共通インク室430aから隣接する複数の吐出チャネルC1e,C2eに対して、共通してインク9が供給される際に、これら隣接する複数の吐出チャネルC1e,C2eにおいて、インク9の瞬間的な一方向への流動等が抑えられる。よって、このような入口側共通インク室430aを設けた場合においても、実施の形態等と同様にしてずれ量Δtdを設定することで、印刷画質を向上させることが可能となる。
【0207】
<3.その他の変形例>
以上、実施の形態および変形例をいくつか挙げて本開示を説明したが、本開示はこれらの実施の形態等に限定されず、種々の変形が可能である。
【0208】
例えば、上記実施の形態等では、プリンタ1およびインクジェットヘッド4における各部材の構成例(形状、配置、個数等)を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の形状や配置、個数等であってもよい。また、上記実施の形態等で説明した各種パラメータの値や範囲、大小関係等についても、上記実施の形態等で説明したものには限られず、他の値や範囲、大小関係等であってもよい。
【0209】
具体的には、例えば、上記実施の形態等では、2列タイプの(2列のノズル列411,412を有する)インクジェットヘッド4を挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、1列タイプ(1列のノズル列を有する)のインクジェットヘッドや、3列以上の複数例タイプ(3列以上のノズル列を有する)インクジェットヘッドであってもよい。
【0210】
また、例えば、上記実施の形態等では、各吐出チャネル(吐出溝)および各ダミーチャネル(非吐出溝)がそれぞれ、アクチュエータプレート42内でY軸方向に沿って延在している場合について説明したが、この例には限られない。すなわち、例えば、各吐出チャネルおよび各ダミーチャネルがそれぞれ、アクチュエータプレート42内で斜め方向に沿って延在するようにしてもよい。
【0211】
更に、ノズル孔H1,H2の形状についても、上記実施の形態等で説明したような円形状には限られず、例えば、三角形状等の多角形状や、楕円形状や星型形状などであってもよい。
【0212】
加えて、上記実施の形態等では、各吐出チャネルC1e,C2eの延在方向(Y軸方向)の中央部からインク9を吐出する、いわゆるサイドシュートタイプのインクジェットヘッドの例について説明したが、この例には限られない。すなわち、各吐出チャネルC1e,C2eの延在方向に沿ってインク9を吐出する、いわゆるエッジシュートタイプのインクジェットヘッドにおいて、本開示を適用するようにしてもよい。
【0213】
また、上記実施の形態等では、主に、インクタンクとインクジェットヘッドとの間でインク9を循環させて利用する、循環式のインクジェットヘッドを例に挙げて説明したが、この例には限られない。すなわち、インク9を循環させずに利用する、非循環式のインクジェットヘッドにおいて、本開示を適用するようにしてもよい。
【0214】
更に、上記実施の形態等では、制御部49による制御動作の手法を具体的に挙げて説明したが、上記実施の形態等で挙げた例には限られず、他の手法を用いて制御動作を行うようにしてもよい。具体的には、例えば、吐出チャネルC1e,C2eのグループ分けの手法については、上記実施の形態等で説明した手法には限られず、例えば、3つ以上のグループにグループ分けするようにしたり、各チャネル列内やチャネル列間とは異なる方向で、隣接する吐出チャネルを規定するようにしてもよい。
【0215】
加えて、上記実施の形態等では、各吐出チャネルC1e,C2e内の容積を膨張させるパルス信号が、ハイ(High)状態の期間において膨張させるパルス信号(ポジティブパルス信号)である場合について説明したが、この場合には限られない。すなわち、ハイ状態の期間において膨張させると共にロウ(Low)状態の期間において収縮させるパルス信号の場合だけでなく、逆に、ロウ状態の期間において膨張させると共にハイ状態の期間において収縮させるパルス信号(ネガティブパルス信号)としてもよい。
【0216】
また、例えば、ON期間の直後のOFF期間中に、更に、液滴の吐出を補助するための信号を、付加的に印加するようにしてもよい。この液滴の吐出を補助するための信号としては、例えば、各吐出チャネルC1e,C2e内の容積を収縮させる(膨張した容積を一旦収縮させた後に、更に収縮させる)ためのパルス信号などが挙げられる。なお、このような液滴の吐出を補助するための信号を付加したとしても、これまでに説明してきた本開示の内容(駆動方法等)には、影響を及ぼさない。
【0217】
更に、上記実施の形態等で説明した一連の処理は、ハードウェア(回路)で行われるようにしてもよいし、ソフトウェア(プログラム)で行われるようにしてもよい。ソフトウェアで行われるようにした場合、そのソフトウェアは、各機能をコンピュータにより実行させるためのプログラム群で構成される。各プログラムは、例えば、上記コンピュータに予め組み込まれて用いられてもよいし、ネットワークや記録媒体から上記コンピュータにインストールして用いられてもよい。なお、このようなプログラムは、本開示における「液体噴射ヘッドの駆動プログラム」の一具体例に対応している。
【0218】
加えて、上記実施の形態等では、本開示における「液体噴射記録装置」の一具体例として、プリンタ1(インクジェットプリンタ)を挙げて説明したが、この例には限られず、インクジェットプリンタ以外の他の装置にも、本開示を適用することが可能である。換言すると、本開示の「液体噴射ヘッド」(インクジェットヘッド4)を、インクジェットプリンタ以外の他の装置に適用するようにしてもよい。具体的には、例えば、ファクシミリやオンデマンド印刷機などの装置に、本開示の「液体噴射ヘッド」を適用するようにしてもよい。
【0219】
また、これまでに説明した各種の例を、任意の組み合わせで適用させるようにしてもよい。
【0220】
なお、本明細書中に記載された効果はあくまで例示であって限定されるものではなく、また、他の効果があってもよい。
【0221】
また、本開示は、以下のような構成を取ることも可能である。
(1)
液体を噴射する複数のノズルと、
前記複数のノズルに個別に連通すると共に前記液体がそれぞれ充填される複数の圧力室を有し、前記圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータと、
前記圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、前記圧力室内の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された前記液体を噴射させる制御部と
を備え、
前記複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定されており、
前記制御部は、前記液体を噴射させる際に、
前記複数のグループのうちの、一のグループにおける前記パルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおける前記パルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量が、0(ゼロ)を含む所定の範囲内に収まるように設定する
液体噴射ヘッド。
(2)
前記制御部は、前記液体を噴射させる際に、
前記ずれ量の絶対値が、0よりも大きくなるように設定する
上記(1)に記載の液体噴射ヘッド。
(3)
前記制御部は、前記液体を1滴噴射させる際に、
前記圧力室内の容積を膨張および収縮させる前記パルス信号として、オンパルスピークの幅以下のパルス幅を有する第1パルス信号と、前記第1パルス信号から所定の時間間隔を空けて設けられる第2パルス信号と、を含むようにして印加する
上記(1)または(2)に記載の液体噴射ヘッド。
(4)
前記制御部は、前記第1パルス信号および前記第2パルス信号のうち、
前記第2パルス信号について、前記ずれ量を設定する
上記(3)に記載の液体噴射ヘッド。
(5)
前記制御部は、前記液体を1滴噴射させる際に、
前記一のグループおよび前記他のグループのうちの一方のグループについては、前記パルス信号として、前記第1パルス信号および前記第2パルス信号の双方を含むようにして印加すると共に、
前記一のグループおよび前記他のグループのうちの他方のグループについては、前記パルス信号として、前記第1パルス信号および前記第2パルス信号のうちの前記第1パルス信号を含むようにして印加し、
前記一方のグループにおける前記第2パルス信号と、前記他方のグループにおける前記第1パルス信号のうちの最終パルス信号とについて、前記ずれ量を設定する
上記(3)に記載の液体噴射ヘッド。
(6)
前記制御部は、前記液体を1滴噴射させる際に、
前記第2パルス信号よりも前に印加される前記パルス信号が、前記第2パルス信号の直前に印加される前記第1パルス信号を含んで、複数設けられるようにする
上記(3)ないし(5)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(7)
前記制御部は、前記液体を1滴噴射させる際に、
前記1または複数のパルス信号のうちの、前記圧力室内の容積を膨張させるための最終パルス信号について、前記ずれ量を設定する
上記(1)または(2)に記載の液体噴射ヘッド。
(8)
前記隣接する複数の圧力室に対して共通して前記液体を供給する、1または複数の共通液体供給室を更に備えた
上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(9)
前記複数のグループが、所属する前記圧力室が交互に配置されている、2つのグループである
上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の液体噴射ヘッド。
(10)
上記(1)ないし(9)のいずれかに記載の液体噴射ヘッドを備えた
液体噴射記録装置。
(11)
複数のノズルに連通する複数の圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、前記圧力室内の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された液体を前記ノズルから噴射させる際に、
前記複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定することと、
前記複数のグループのうちの、一のグループにおける前記パルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおける前記パルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量が、0(ゼロ)を含む所定の範囲内に収まるように設定することと
を含む液体噴射ヘッドの駆動方法。
(12)
複数のノズルに連通する複数の圧力室内の容積を変化させる圧電アクチュエータに対して1または複数のパルス信号を印加することにより、前記圧力室内の容積を膨張および収縮させて、前記圧力室内に充填された液体を前記ノズルから噴射させる際に、
前記複数の圧力室のうちの隣接する複数の圧力室同士が、互いに異なる複数のグループに所属するように設定することと、
前記複数のグループのうちの、一のグループにおける前記パルス信号の立ち上がりタイミングと、他のグループにおける前記パルス信号の立ち下がりタイミングと、の間のずれ量が、0(ゼロ)を含む所定の範囲内に収まるように設定することと
をコンピュータに実行させる
液体噴射ヘッドの駆動プログラム。
(13)
前記0(ゼロ)を含む所定の範囲が、以下の[1]式にて示される範囲である(AP:オンパルスピーク)
上記(1)ないし(12)のいずれかに記載の、液体噴射ヘッド、液体噴射記録装置、液体噴射ヘッドの駆動方法、または、液体噴射ヘッドの駆動プログラム。
-0.167AP(-1/6・AP)≦前記ずれ量≦+0.167AP(+1/6・AP) ……[1]
【符号の説明】
【0222】
1…プリンタ、10…筺体、2a,2b…搬送機構、21…グリッドローラ、22…ピンチローラ、3(3Y,3M,3C,3B)…インクタンク、4(4Y,4M,4C,4B),4A…インクジェットヘッド、41…ノズルプレート、411,412…ノズル列、42…アクチュエータプレート、420…尾部、421,422…チャネル列、43,43A…カバープレート、430a,431a,432a…入口側共通インク室、431b,432b…出口側共通インク室、49…制御部、491…IC基板、492…制御回路、493…フレキシブルプリント基板、5…循環機構、50…循環流路、50a,50b…流路、6…走査機構、61a,61b…ガイドレール、62…キャリッジ、63…駆動機構、631a,631b…プーリ、632…無端ベルト、633…駆動モータ、9…インク、P…記録紙、d…搬送方向、Tin…入口部、Tout…出口部、H1,H2…ノズル孔、C1,C2…チャネル、C1e,C2e…吐出チャネル、C1d,C2d…ダミーチャネル、Wd…駆動壁、Ed…駆動電極、Edc…コモン電極、Eda…アクティブ電極、Dd…浅溝部、Sa…供給スリット、Sb…排出スリット、Sn…ノズル面、Vd…駆動電圧、Sp1,Sp2…パルス信号、d11…膨張方向、d12…収縮方向、G1,G11,G12,G2,G21,G22…グループ、Go,G1o,G2o…奇数グループ、Ge,G1e,G2e…偶数グループ、Ton,Ton1,Ton11,Ton12,Ton13,Ton2…ON期間、Toff,Toff1,Toff2…OFF期間、Δtd…ずれ量、R1,R2…範囲、+Thp,-Thm,Thv…閾値、P(Ce)…圧力変化波形、V9…インク体積変化波形、t…時間、t11~t17,t21~t24,t31~t37,t41~t46,t51~t57,t61~t67,t71~t77…タイミング。