(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】セメント系下地処理材、下地処理材、コンクリート構造物、及びコンクリートの表面保護方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20220125BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20220125BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20220125BHJP
C04B 24/24 20060101ALI20220125BHJP
C04B 41/70 20060101ALI20220125BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20220125BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/04 Z
C04B22/14 C
C04B24/24 Z
C04B41/70
C23F13/02 A
E04G23/02 A
(21)【出願番号】P 2018005393
(22)【出願日】2018-01-17
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(73)【特許権者】
【識別番号】519096806
【氏名又は名称】株式会社デンカリノテック
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(72)【発明者】
【氏名】七澤 章
(72)【発明者】
【氏名】宮口 克一
(72)【発明者】
【氏名】近江 渉
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-184859(JP,A)
【文献】特開平08-283059(JP,A)
【文献】特開2013-227210(JP,A)
【文献】特開2015-000816(JP,A)
【文献】特開昭60-258349(JP,A)
【文献】特開2011-038131(JP,A)
【文献】縦山 好幸 ,コンクリート構造物のマネージメントシステム ,プレストレストコンクリート ,第43巻第1号,社団法人技術協会,2001年01月31日,P.36-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00-32/02,
C04B 40/00-40/06,
C04B 41/60-41/72
C04B103/00-111/94
E04G 23/02
C23F 13/00-13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的防食工法でコンクリートを脱塩処理した後、表面被覆材による表面被覆処理を行う前に下地処理を行うためのセメント系下地処理材であって、
前記セメント系下地処理材100質量部に対して、セメントを40~70質量部、無水石膏を20~45質量部含有し、さらにシリカ骨材を含み、前記表面被覆材が前記セメント系下地処理材とは異なる、セメント系下地処理材。
【請求項2】
前記シリカ骨材を、前記セメント系下地処理材中、前記セメント100質量部に対して、30~60質量部含む請求項1に記載のセメント系下地処理材。
【請求項3】
さらに、ポリマーを含む請求項1
又は2に記載のセメント系下地処理材。
【請求項4】
さらに、塩素トラップ材
であるカルシウムアルミネートを含有する粉末を含む請求項1~
3のいずれか1項に記載のセメント系下地処理材。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載のセメント系下地処理材と、樹脂系下地処理材と含む下地処理材。
【請求項6】
前記樹脂系下地処理材が、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びウレタン樹脂のいずれかを含む請求項
5に記載の下地処理材。
【請求項7】
電気化学的防食工法による脱塩処理済コンクリート上に、セメント系下地処理材又は下地処理材による下地処理層と、表面被覆材による表面被覆層とを順次有するコンクリート構造物であって、
前記セメント系下地処理材が、請求項1~
4のいずれか1項に記載のセメント系下地処理材であり、
前記下地処理材が請求項
5若しくは
6に記載の下地処理材である、コンクリート構造物。
【請求項8】
電気化学的防食工法でコンクリートを脱塩処理した後、セメント系下地処理材又は下地処理材による下地処理を行い、その後、表面被覆材による表面被覆処理を行うコンクリートの表面保護方法であって、
前記セメント系下地処理材が、請求項1~
4のいずれか1項に記載のセメント系下地処理材であり、
前記下地処理材が請求項
5若しくは
6に記載の下地処理材である、コンクリートの表面保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント系下地処理材、下地処理材、コンクリート構造物、及びコンクリートの表面保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンクリート構造物の塩害劣化の延命化や耐久性の向上対策として、コンクリート内の鉄筋、PC鋼材及び鉄骨の腐食抑制を目的とした電気化学的防食工法による脱塩処理がある。
【0003】
従来、脱塩工法適用後は劣化因子の再浸入を防止するため、表面保護材としてエポキシ樹脂やウレタン樹脂及びアクリル樹脂等の表面保護材が塗布されている。
【0004】
しかしながら、電気化学的防食工法による脱塩処理(以下、単に「脱塩処理」ということがある)後は、コンクリート内部がアルカリ性の高い水溶液(高アルカリ水溶液)で飽和されているため、樹脂等の表面保護材を塗布すると早期に表面保護材が変質、膨れ、及び剥がれ等が発生する。一般的にはコンクリートの表面含水率が5~10%程度以下の段階で表面保護材を塗布するが、脱塩処理ではコンクリート内部までアルカリ性の高い水溶液が浸透しており、短時間では乾燥しない。
【0005】
脱塩工法と同様な高アルカリ水溶液が浸透する再アルカリ化工法では、高アルカリ水溶液に強い表面保護材料を使用することで表面保護材の早期劣化や膨れを抑制することが報告されている(非特許文献1)。しかし、このような再アルカリ化工法でも、完全に変状を抑えることができていないのが実状で、当該工法よりもコンクリート中のアルカリ性が高くなる脱塩工法では、上記のような不具合の発生を抑えることは困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】コンクリート工学年次論文集,Vol.25,No.1,pp.1553-1558,2003
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上から、本発明は、高含水率で高いアルカリ性を示す脱塩処理後のコンクリート表面に対して、その表面の水分量を減少させ、表面被覆材との接着性を良好にするセメント系下地処理材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく検討を行ったところ、下記本発明により当該課題が解決できることを見出した。すなわち、本発明は下記のとおりである。
【0009】
[1] 電気化学的防食工法でコンクリートを脱塩処理した後、表面被覆材による表面被覆処理を行う前に下地処理を行うためのセメント系下地処理材であって、セメントと、無水石膏とを含むセメント系下地処理材。
[2] 前記セメントを40~70質量%含有し、前記セメント100質量部に対して前記無水石膏を20~45質量部含む[1]に記載のセメント系下地処理材。
[3] さらに、シリカ骨材を含む[1]又は[2]に記載のセメント系下地処理材。
[4] さらに、ポリマーを含む[1]~[3]のいずれかに記載のセメント系下地処理材。
[5] さらに、塩素トラップ材を含む[1]~[4]のいずれかに記載のセメント系下地処理材。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載のセメント系下地処理材と、樹脂系下地処理材と含む下地処理材。
[7] 前記樹脂系下地処理材が、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びウレタン樹脂のいずれかを含む[6]に記載の下地処理材。
【0010】
[8] 電気化学的防食工法による脱塩処理済コンクリート上に、セメント系下地処理材又は下地処理材による下地処理層と、表面被覆材による表面被覆層とを順次有するコンクリート構造物であって、前記セメント系下地処理材が、[1]~[5]のいずれかに記載のセメント系下地処理材であり、前記下地処理材が[6]若しくは[7]に記載の下地処理材である、コンクリート構造物。
【0011】
[9] 電気化学的防食工法でコンクリートを脱塩処理した後、セメント系下地処理材又は下地処理材による下地処理を行い、その後、表面被覆材による表面被覆処理を行うコンクリートの表面保護方法であって、前記セメント系下地処理材が、[1]~[5]のいずれかに記載のセメント系下地処理材であり、前記下地処理材が[6]若しくは[7]に記載の下地処理材である、コンクリートの表面保護方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高含水率で高いアルカリ性を示す脱塩処理後のコンクリート表面に対して、その表面の水分量を減少させ、表面被覆材との接着性を良好にするセメント系下地処理材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)を詳細に説明する。なお、本明細書における部や%は、特に規定しない限り質量基準とする。
【0014】
[1.セメント系下地処理材]
本実施形態のセメント系下地処理材は、電気化学的防食工法でコンクリートを脱塩処理した後、表面被覆材による表面被覆処理を行う前に下地処理を行うための処理材であり、セメントと、無水石膏とを含む。
本実施形態においては、セメントと無水石膏とによりエトリンガイトが形成される際に脱水が起こり、かつ硬化が促進される。その結果、表面の水分量が減少し、その後に形成される表面被覆材との接着性が良好となる。
【0015】
セメント系下地処理材中、セメントは40~70質量%含有することが好ましく、50~60質量%含有することがより好ましい。40~70質量%含有することで、表面の水分量を減少させ、かつ、表面被覆材との接着性をより良好にすることができる。
【0016】
また、セメント系下地処理材中、無水石膏はセメント系下地処理材100質量部に対して20~45質量部含むことが好ましく、35~45質量部含有することがより好ましい。20~45質量部含むことで、エトリンガイト形成による効果をより良好に発揮することができる。
【0017】
本実施形態におけるセメントとしては、特に限定されるものでなく、JIS R 5210に規定されている各種ポルトランドセメント、JIS R5211、JIS R5212、及びJIS R5213に規定されている各種混合セメント、JISに規定された以上の混和材混入率で製造した高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント、石灰石粉末等を混合したフィラーセメント、アルミナセメントから選ばれる1種又は2種以上が使用可能である。
【0018】
無水石膏としては、任意の無水石膏を用いることができ、例えば天然品の無水石膏、フッ酸を製造する際に産出されるフッ酸無水石膏等が挙げられる。また、無水石膏の粒子の大きさは、特に制限されず、通常用いられる無水石膏であれば問題は特に生じない。好ましくは、ブレーン比表面積で4000~8000cm2/gのものが挙げられる。
【0019】
本実施形態においては、シリカ骨材を含むことが好ましい。シリカ骨材を含むことで吸水性を向上させることができる。
シリカ骨材は、化学成分としてSiO2を90質量%以上含有することが好ましい。シリカ骨材のSiO2の純度は高いほど好ましく、95質量%以上であることがより好ましい。
【0020】
シリカ骨材としては、シリカフューム、シリカゾル、沈降シリカ、フライアッシュ、スラグ、火山灰、ケイ砂、ケイ石、ガラス粉末、岩石粉末、河川砂、山砂、陸砂、海砂、砕砂等が挙げられる。これらのシリカ質骨材は、単独で、あるいは必要に応じて2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0021】
シリカ骨材は、セメント系下地処理材中、セメント100質量部に対して、30~60質量部含むことが好ましく、30~50質量部含有することがより好ましい。35~45質量部含むことで、吸水性をより向上させることができる。
【0022】
本実施形態においては、ポリマーを含むことが好ましい。ポリマーを含むことで付着性や耐水性を向上させることができる。ポリマーとしては、例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、セルロースエーテル等のセルロース系ポリマー;ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイド系ポリマー;等が挙げられる。ポリマーは、セメント系下地処理材中0.5~5質量%含むことが好ましく、1~2質量%含むことがより好ましい。ポリマーは粉末状および液状のいずれも使用可能である。
【0023】
本実施形態においては、塩素トラップ材を含むことが好ましい。塩素トラップ材を含むことで、塩化物イオンがコンクリート中に固定化されて長期耐久性を向上させることができる。
【0024】
塩素トラップ材としては、CaO・2Al2O3(カルシウムアルミネート:以下「CA2」という)を含有する粉末が挙げられる。CA2は、炭酸カルシウムと酸化アルミニウムを原料とし、これらが所定のモル比で粉砕混合され、ロータリーキルンで焼成合成されて生成される、例えば、下記表1に示す化学成分及び物理特性を示す物質であることが好ましい。
【0025】
【0026】
セメント中に、塩素トラップ材であるCA2を含有する粉末(好ましくはCA2からなる粉末)を混和することにより、次式に示す化学反応を起こし、ハイドロカルマイト(3CaO・Al2O3・Ca(OH)2・12H2O)が多量に生成される。
【0027】
[式]7Ca(OH)2+CaO・2Al2O3+19H2O→2(3CaO・Al2O3・Ca(OH)2・12H2O)
【0028】
このハイドロカルマイトは、塩化物イオンCl-が水中に遊離している状態で、次式に示すように、塩化物イオンCl-をフリーデル氏塩(3CaO・Al2O3・CaCl2・11H2O)に固定化する。
【0029】
[式]3CaO・Al2O3・Ca(OH)2・12H2O+2Cl-→3CaO・Al2O3・CaCl2・11H2O+2OH-
【0030】
このように、CA2により、可溶性の塩化物イオンがフリーデル氏塩として固定化され、水中に遊離し易い可溶性の塩化物イオンが減少し、塩化物イオンによる不動態皮膜の損傷を抑える効果を発揮すると考えられる。
【0031】
塩素トラップ材は、セメント系下地処理材のセメント100質量部に対し、3~15質量部含むことが好ましく、5~10質量部含有することがより好ましい。3~15質量部含むことで、塩化物イオンの固定化をより良好にすることができる。
【0032】
本実施形態においては、本発明の効果を阻害しない限り種々の添加剤を含んでもよい。例えば、流動化剤、空気連行剤、防錆剤、増粘剤、粘土鉱物、ポゾラン物質、潜在水硬性物質、急硬剤、急結剤、消泡剤、抗菌剤、ロジン誘導体等を添加することができる。
【0033】
[2.下地処理材]
本実施形態に係る下地処理材は、本発明のセメント系下地処理材と、樹脂系下地処理材と含む。当該セメント系下地処理材と樹脂系下地処理材とを含むことで、その後形成される表面保護材との接着性をより向上させることができる。
【0034】
樹脂系下地処理材は、表面保護材との接着性の観点から、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、及びウレタン樹脂のいずれかを含むことが好ましく、エポキシ樹脂を含むことがより好ましい。
【0035】
エポキシ樹脂としては、界面活性剤の添加により水中で分散することができるエポキシエマルジョン、又はエポキシ樹脂存在下にラジカル重合性モノマーを乳化重合して得られるエポキシ変性アクリルエマルジョンの1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物のエポキシ樹脂(A)とエポキシ樹脂用硬化剤(B)とからなることが好ましい。エポキシ樹脂(A)はエポキシ基を1分子中に2個以上持つポリエポキシ化合物で、水中で分散することができるものであれば特に限定されず、エポキシ樹脂用硬化剤(B)は、エポキシ樹脂を硬化することができれば特に限定されない。
【0036】
アクリル樹脂としては、アクリル酸の誘導体及び/又はメタアクリル酸の誘導体を主成分とするもの等が挙げられる。ウレタン樹脂としては、ウレタン基(NHCOO)をもつ水系硬質ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0037】
エポキシ樹脂、アクリル樹脂、又はウレタン樹脂の使用量は、セメント100質量部に対して30~200質量部(水性エポキシ樹脂の場合、エポキシ樹脂Aとエポキシ樹脂硬化剤Bの合計)の範囲が好ましく、80~150質量部の範囲がより好ましい。
【0038】
また、セメント系下地処理材と樹脂系下地処理材との配合質量比(セメント系下地処理材/樹脂系下地処理材)は、30/10~40/5であることが好ましく、20/4~30/6であることがより好ましい。15/3.5~17/2.5であることで、それぞれの効果を良好に発揮させることができる。
【0039】
[3.コンクリート構造物]
本実施形態に係るコンクリート構造物は、電気化学的防食工法による脱塩処理済コンクリート上に、本発明のセメント系下地処理材又は本発明の下地処理材による下地処理層と、表面被覆材による表面被覆層とを順次有する。
【0040】
表面被覆層となる表面被覆材としては、公知のものを適宜することができる。例えば、下地調整材と仕上材との組み合わせからなる表面被覆材を用いることができる。
下地調整材としては、アクリル系エマルション、アクリルゴム系樹脂エマルション等が挙げられる。仕上材としては、シリコン樹脂、反応硬化形ウレタン樹脂等が挙げられる。
【0041】
脱塩処理されるコンクリート構造物としては、海からの塩分や融雪剤の散布による塩分等により塩害を受けた構造物で、例えば、マンションやビル等の建物、トンネル、プレキャスト、橋梁、橋脚、橋台、桟橋、高欄、床版下面、バルコニー、煙突、コンクリートポール、タンク、法枠、堤防、コンクリート管等が挙げられる。
【0042】
[4.コンクリートの表面保護方法]
本実施形態に係るコンクリートの表面保護方法は、電気化学的防食工法でコンクリートを脱塩処理した後、セメント系下地処理材又は下地処理材による下地処理を行い、その後、表面被覆材による表面被覆処理を行うコンクリートの表面保護方法であって、セメント系下地処理材が、本発明のセメント系下地処理材であり、下地処理材が本発明の下地処理材である、コンクリートの表面保護方法である。
【0043】
電気化学的防食工法でコンクリートを脱塩処理する方法としては、公知の方法、すなわち、コンクリート内部にある鋼材とコンクリート表面に設置した電極との間に、例えばナトリウム又はカリウムの水酸化物等溶液等の電解質溶液を介して直流電流を流すことによって、コンクリート内部の塩分をコンクリート表面の外に取り出す方法が挙げられる。
【0044】
脱塩処理後は、適宜表面を平滑にした後、本発明のセメント系下地処理材又は本発明の下地処理材による下地処理を行う。その後、既述の表面被覆材による表面被覆処理を行ってコンクリートの表面保護を行う。
【0045】
セメント系下地処理材、下地処理材、表面被覆材による各処理における塗布方法としては、コンクリート構造物に均一に塗布できるものであれば手段は限定されず、ハケやローラー、コテ塗り等の通常の塗布手段を任意に選択することができる。各処理剤による塗布量や塗布回数等は、表面保護を行う構造物等に応じて適宜設定することができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
[実施例1~4、比較例1]
(1)セメント系下地処理材の作製
下記材料を下記表2に示す配合となるように混合して、実施例及び比較例に係るセメント系下地処理材を作製した。
【0048】
・セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
・無水石膏:天然無水石膏、市販品
・シリカ質骨材:ケイ砂、1.2mm以下
・ポリマー:セルロース系、エチレン・オキサイド(EO)/プロピレン・オキサイド(PO)系
・塩素トラップ材:RISクロルフィックスエース(デンカ(株)製)
【0049】
【0050】
(2)樹脂系下地処理剤
樹脂系下地処理剤として、下記主剤と硬化剤とからなる処理剤を用意した。
・主剤:ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂15%,ビスフェノールA型固形エポキシ樹脂25%,変性エポキシ樹脂3%,水57%
商品名:ハイパーエポ薄塗りタイプ 主剤 日本スタッコ(株)製
・硬化剤:変性脂肪族ポリアミン17%,メタキシリレンジアミン2%,水81%,密度1.03g/cm3
商品名:ハイパーエポ薄塗りタイプ 硬化剤 日本スタッコ(株)製
なお、主剤と硬化剤とは、1:1で使用する。
【0051】
(3)下地処理材による下地処理
(1)の各セメント系下地処理材15部と、(2)の樹脂系下地処理剤7部とを使用直前に混合して下地処理材とした。脱塩処理済の鉄筋コンクリート供試体に、各例の下地処理材を2mmの厚みで被覆した後、1週間の養生後に市販の表面被覆材1又は表面被覆材2を塗布し、(A)12ケ月後に表面被覆材の接着性、及び(B)膨れ、浮き、剥がれ等の変質の有無について、評価を行った。
【0052】
なお、脱塩処理済の鉄筋コンクリート供試体は下記のようにして得たものを使用した。
すなわち、下記表3に示す配合で異形鉄筋φ12mmを埋め込んだ、鉄筋コンクリート供試体を作製し、28日間の封緘養生後に脱塩工法を適用し、1週間後にブラスト処理を行って、脱塩処理済の鉄筋コンクリート供試体とした。
【0053】
鉄筋コンクリート供試体の作製の際に使用した各材料は下記のとおりである。
・セメント:普通ポルトランドセメント、市販品
・細骨材:新潟県姫川産、砕石、5mm以下
・粗骨材:新潟県姫川産、砕石、20mm以下
・水:水道水
・混和剤:AE高性能減水剤、市販品
・NaCl:工業用、市販品
【0054】
【0055】
表面被覆材1,2としては、下記の表面被覆材を使用した。
・表面被覆材1:
下地調整材;SFアンダー(エスケー化研(株)製)
仕上材;セラミクリーン(エスケー化研(株)製)
・表面被覆材2:
下地調整材;ニッペアンダーフィラー弾性エクセルホワイト(日本ペイント(株)製)
仕上材;オーデフレッシュU100IIホワイト(日本ペイント(株)製)
【0056】
(4)評価について
(A)表面被覆材と下地処理材との接着性について
JIS A 6909により表面被覆材塗布後28日間経過後に付着強度の測定を行った。結果を下記表4に示す。
【0057】
(B)変質の有無について
表面被覆材の経時変化は、試験体を屋外に放置し、施工12ケ月後に表面被覆材の接着性、膨れ、浮き、剥がれなどの変質がないか目視観察を行った。結果を下記表4に示す。
【0058】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明のセメント系下地処理材は、脱塩処理されるコンクリート構造物としては、海からの塩分や融雪剤の散布による塩分等により塩害を受けた構造物で、脱塩処理された各種コンクリート構造物に特に好適に用いることができる。