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特許7014630柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法及び最大引張応力推定装置
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  • 特許-柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法及び最大引張応力推定装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法及び最大引張応力推定装置
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/23 20200101AFI20220125BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20220125BHJP
   G06F 30/10 20200101ALI20220125BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20220125BHJP
【FI】
G06F30/23
G01N3/00 Z
G06F30/10
G06F30/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018027232
(22)【出願日】2018-02-19
(65)【公開番号】P2019144765
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】矢倉 三郎
(72)【発明者】
【氏名】古田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】村田 英司
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-241448(JP,A)
【文献】特開平04-155240(JP,A)
【文献】特開2011-014060(JP,A)
【文献】特開2007-102537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/23
G01N 3/00
G06F 30/10
G06F 30/20
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁によって区画形成され、第一端面から第二端面に貫通して流体の流路を形成するセルを複数有する柱状ハニカム構造部を備えた柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定装置であって、
前記柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値と、前記柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値との間の相関関係を求める相関関係算出手段と、
推定すべき柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を測定し、前記相関関係に基づいて、前記測定された柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値に対応する柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値を求める最大引張応力値算出手段と
を備える、柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定装置。
【請求項2】
前記柱状ハニカム構造体が、前記第一端面における所定のセルの開口部、及び前記第二端面における残余のセルの開口部に配設された目封止部をさらに備える、請求項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定装置。
【請求項3】
前記最大引張応力値は、前記柱状ハニカム構造体の軸方向又は周方向に対応する方向の最大引張応力値である、請求項又はに記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の最大引張応力推定装置を用いる柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法であって、
前記相関関係算出手段によって、前記柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値と、前記柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値との間の相関関係を求める工程と、
前記最大引張応力値算出手段によって、推定すべき柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を測定し、前記相関関係に基づいて、前記測定された柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値に対応する柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値を求める工程と
を含む、柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【請求項5】
前記相関関係は、前記柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値をY座標軸、前記柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値をX座標軸としてプロットすることによって得られる、請求項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【請求項6】
前記プロットは、前記柱状ハニカム構造体を構成する材料が異なる複数の柱状ハニカム構造体及びこれに対応する複数の柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて得られた最大引張応力値に対して行われる、請求項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【請求項7】
前記複数の柱状ハニカム構造体は外形及びセルの断面形状が等しい、請求項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【請求項8】
プロット数が50点以上である、請求項のいずれか一項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【請求項9】
前記相関関係が一次関数で表される、請求項のいずれか一項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【請求項10】
最小二乗法による相関係数が0.6以上である、請求項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【請求項11】
前記柱状ハニカム構造体の外形が円柱状である、請求項10のいずれか一項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【請求項12】
前記セルの断面形状が四角形である、請求項11のいずれか一項に記載の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法及び最大引張応力推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
隔壁によって区画形成され、第一端面から第二端面に貫通して流体の流路を形成するセルを複数有する柱状ハニカム構造部を備えた柱状ハニカム構造体は、自動車のエンジンの排気ガスを浄化する触媒を担持する触媒担体、ディーゼルエンジンの排気ガスに含まれる粒子状物質(PM)を捕集除去するフィルタ(DPF)などに利用されている。
【0003】
このような用途に用いられる柱状ハニカム構造体は、排気ガスなどの高温の流体に晒されるため、内部に熱応力がかかる。また、この柱状ハニカム構造体には、キャニングなどの際に外部から応力がかかる。そのため、これらの応力によって柱状ハニカム構造体にクラックが発生することがある。特に、柱状ハニカム構造体がDPFとして用いられる場合には、溜まった粒子状物質(例えば、カーボン微粒子)を燃焼除去して再生させるため、この燃焼熱によってクラックが発生し易い。そこで、クラックの発生を予測するために、柱状ハニカム構造体の引張応力を評価することが必要とされている。
【0004】
柱状ハニカム構造体の引張応力を評価する方法としては、有限要素解析法を用いることが知られているが、柱状ハニカム構造体は、微小なセルが多く集合した三次元構造を有しているため、柱状ハニカム構造体の全体をモデル化して解析を行うと、計算量が膨大になり、解析に長時間を要するという問題があった。
そこで、出願人は、計算量を低減して迅速な評価を行うために、柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいてマクロ解析を行い、引張応力が最大となる位置を含むセル構造要部を選定した後、このセル構造要部の有限要素モデルにおいてミクロ解析を行う方法を提案した(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-241448号公報
【文献】特許第4404655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び2の方法は、マクロ解析及びミクロ解析の2段階の解析が必要であるため、依然として解析に時間がかかるという問題があった。特に、柱状ハニカム構造体の最大引張応力値が評価項目として要求されることも多くなっているため、柱状ハニカム構造体の最大引張応力を迅速かつ容易に推定する技術の開発が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、柱状ハニカム構造体の最大引張応力を迅速且つ容易に推測することが可能な柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法及び最大引張応力推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、これまでに蓄積した柱状ハニカム構造体の最大引張応力の解析結果を分析及び検討した結果、柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値と、柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値との間に相関関係があることを見出した。そして、本発明者らは、この相関関係を予め求めておくことにより、推定すべき柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を求めるだけ(すなわち、マクロ解析のみ)で、当該相関関係に基づいて柱状ハニカム構造体の最大引張応力値を推定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、隔壁によって区画形成され、第一端面から第二端面に貫通して流体の流路を形成するセルを複数有する柱状ハニカム構造部を備えた柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定装置であって、
前記柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値と、前記柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値との間の相関関係を求める相関関係算出手段と、
推定すべき柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を測定し、前記相関関係に基づいて、前記測定された柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値に対応する柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値を求める最大引張応力値算出手段
備える、柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定装置である。
【0010】
また、本発明は、前記最大引張応力推定装置を用いる柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法であって、
前記相関関係算出手段によって、前記柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値と、前記柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値との間の相関関係を求める工程と、
前記最大応力値算出手段によって、推定すべき柱状ハニカム構造体に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を測定し、前記相関関係に基づいて、前記測定された柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値に対応する柱状ハニカム構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値を求める工程
含む、柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、柱状ハニカム構造体の最大引張応力を迅速且つ容易に推測することが可能な柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法及び最大引張応力推定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法が対象とする柱状ハニカム構造体の斜視図である。
図2】柱状ハニカム構造体の単位構造部を表す部分拡大図である。
図3図2に示される単位構造部の有限要素モデルを表す図である。
図4】4種類(材料A~D)の材料から形成された柱状ハニカム構造体及びこれに対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて得られた最大引張応力値に対してプロットを行った結果である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法及び最大引張応力推定装置の好適な実施の形態について、図面を参酌しながら、具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されて解釈されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、改良などを行うことができる。各実施形態に開示されている複数の構成要素は、適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよいし、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0014】
(柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法)
図1には、本実施形態に係る柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定方法が対象とする柱状ハニカム構造体の斜視図が示されている。
柱状ハニカム構造体10は、隔壁1によって区画形成され、第一端面2aから第二端面2bに貫通して流体の流路を形成するセル3を複数有する柱状ハニカム構造部を備えている。また、柱状ハニカム構造体は、第一端面2aにおける所定のセル3の開口部、及び第二端面2bにおける残余のセル3の開口部に配設された目封止部5をさらに備えていてもよい。目封止部5は、複数のセル3のいずれか一方の開口部に配設され、当該セル3の開口部を封止している。このような構造を有する柱状ハニカム構造体10では、熱応力、外部応力などの各種応力によって、端面(第一端面2a及び第二端面2b)及び周面4にクラックが発生し易い。そのため、好ましい実施形態では、柱状ハニカム構造体10の端面及び周面4の最大引張応力値を推定する。より好ましい実施形態では、推測精度の観点から、柱状ハニカム構造体10の端面の最大引張応力値を測定する。
【0015】
本実施形態における柱状ハニカム構造体10の外形としては、特に限定されず、円柱状、楕円柱状、三角柱、四角柱などの多角形柱状などの各種形状であることができる。その中でも好ましい実施形態における柱状ハニカム構造体10の外形は円柱状である。
また、本実施形態における柱状ハニカム構造体10に形成されるセル3の断面形状(すなわち、柱状ハニカム構造体10の軸方向(Z方向)に垂直な断面における形状)も特に限定されず、円形、楕円形、三角形や四角形などの多角形などの各種形状であることができる。その中でも好ましい実施形態における柱状ハニカム構造体10に形成されるセル3の断面形状は四角形である。
なお、本実施形態における柱状ハニカム構造体10の大きさ、隔壁1の厚み、セル3の大きさなども特に限定されず、用途に応じて適宜調整することができる。
【0016】
本実施形態に係る柱状ハニカム構造体10の最大引張応力推定方法は、柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値と、柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値との間の相関関係を求める工程(第1ステップ)と、推定すべき柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を測定し、相関関係に基づいて、測定された柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値に対応する柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値を求める工程(第2ステップ)とを含む。
ここで、本明細書において「柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体」とは、柱状ハニカム構造体10と外形が同じであり且つセル3が形成されていない構造体のことを意味する。
【0017】
第1ステップにおいて、柱状ハニカム構造体10及びこれに対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値を求める方法としては、特に限定されず、有限要素法を用いた公知の方法に準じて行うことができる。
柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値は、柱状ハニカム構造体10の全体をモデル化して解析することで求めてもよいが、有限要素モデルの要素数、節点数、自由度数を減らして計算量を少なくする観点から、特許文献1及び2で提案された方法を用いて求めることが好ましい。具体的には、柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値は、柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体のマクロ解析を行ってセル構造要部を選定した後、セル構造要部の有限要素モデルにおいてミクロ解析を行うことによって求めることができる。
【0018】
マクロ解析では、まず、柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルを作成し、柱状中実構造体の有限要素モデルに対して内部温度分布及び外部圧力を与えることによって引張応力値を求める。次に、柱状中実構造体における引張応力値の分布に基づいて、柱状ハニカム構造体10において引張応力値を計算すべきセル構造要部(最大引張応力値を有する部分を含むセル構造要部)の選定を行う。
柱状中実構造体の有限要素モデルは、全体の有限要素モデルであってもよいが、それぞれ同形となるように1/2、1/4又は1/8に分割した部分的な有限要素モデルとすることが好ましい。部分的な有限要素モデルを作成することにより、全体の有限要素モデルを作成する場合に比べて、引張応力を求めるのにかかる計算量を低減することができる。
【0019】
柱状中実構造体の有限要素モデルは、柱状中実構造体の剛性特性に基づいて作成することができる。柱状中実構造体の剛性特性は、次の式(1)によって表すことができる。
【0020】
【数1】
【0021】
σx:X軸方向垂直応力、σy:Y軸方向垂直応力、σz:Z軸方向(流路方向)垂直応力、
τxy:X軸に垂直な面のY軸方向せん断応力、τyz:Y軸に垂直な面のZ軸方向せん断応力、τzx:Z軸に垂直な面のX軸方向せん断応力、
εx:X軸方向引張(又は圧縮)歪み、εy:Y軸方向引張(又は圧縮)歪み、εz:Z軸方向引張(又は圧縮)歪み、
γxy:XY面内せん断歪み、γyz:YZ面内せん断歪み、γzx:ZX面内せん断歪み、
K11,K12,K13,K21,K22,K23,K31,K32,K33,K44,K55,K66:弾性係数。
【0022】
式(1)は、応力と歪みとの関係を表している。式(1)において、左辺は応力を示し、右辺のうち右項は歪みを示し、左項は弾性係数行列を表す。弾性係数行列は12の弾性係数を成分とする行列として示される。左辺において、σで表される成分は垂直応力、τで表される成分はせん断応力を表し、右辺の右項において、εで表される成分は引張(又は圧縮)歪み、γで表される成分はせん断歪みを表す。弾性係数のうち、K11,K22,K33はヤング率であり、K44,K55,K66は剛性率と相関関係がある。
【0023】
式(1)の各項は、次のように求められる。
まず、柱状ハニカム構造体10のうち、繰り返し構造とみなせる1単位のセル構造体としての有限要素モデルを作成する。図2は、柱状ハニカム構造体10の単位構造部(4つのセル3及びそれらを形成する隔壁1)を表す部分拡大図であり、図3は、その単位構造部の有限要素モデルを表す図である。図2に示される単位構造部20は、隔壁1の厚さt、セルピッチpでセル3を構成する。次に、条件として単位構造部20(柱状ハニカム構造体10)を構成する材料の機械的性質として、ヤング率E及びポアソン比νを与えた上で、図3に示される有限要素モデル30に対し、複数方向の外部圧力(仮想応力)として、例えばσx、σy、σz、τxy、τyz、τzxを、それぞれ単独に与えた6ケースについて、応力解析を実施すると、それぞれについてεx、εy、εz、γxy、γyz、γzxの出力を得られる。これらを式(1)に代入することにより、連立方程式の解として式(1)の各項を求めることができる。
あるいは、式(1)の各項を求める別の方法として、均質化法を用いることもできる。
【0024】
次に、式(1)に基づいて、柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルを作成した後、この有限要素モデルに対して温度分布を与える。温度分布は、実際の使用条件に基づいて、有限要素モデルの各節点へ温度を与えればよい。そして、与えた温度分布に基づいて有限要素解析を行って引張応力値を計算し、引張応力値の分布を求める。柱状中実構造体の引張応力値の分布は、柱状ハニカム構造体10の引張応力値の分布と相関しているため、柱状中実構造体において求めた引張応力値の分布を基に、柱状ハニカム構造体10の引張応力値の分布を算出することができる。
【0025】
マクロ解析におけるセル構造要部の選定は、式(2)を用いて求められた応力E2の値の最大値を含む位置の選択によって行うことができる。
Ε2=C1σ1x+C2σ1y+C3σ1z+C4τ1xy+C5τ1zx+C6τ1yz (2)
σ1x:マクロ解析において求められたX軸方向垂直応力、
σ1y:マクロ解析において求められたY軸方向垂直応力、
σ1z:マクロ解析において求められたZ軸方向(流路方向)垂直応力、
τ1xy:マクロ解析において求められたX軸に垂直な面のY軸方向せん断応力、
τ1zx:マクロ解析において求められたZ軸に垂直な面のX軸方向せん断応力、
τ1yz:マクロ解析において求められたY軸に垂直な面のZ軸方向せん断応力、
C1:X軸方向垂直応力σ1xの影響重み係数、
C2:Y軸方向垂直応力σ1yの影響重み係数、
C3:Z軸方向垂直応力σ1zの影響重み係数、
C4:X軸に垂直な面のY軸方向せん断応力τ1xyの影響重み係数、
C5:Z軸に垂直な面のX軸方向せん断応力τ1zxの影響重み係数、
C6:Y軸に垂直な面のZ軸方向せん断応力τ1yzの影響重み係数。
【0026】
式(2)において、C1~C6の値は、隔壁1の厚さ、セル3のピッチ、柱状ハニカム構造体10の構成材料のヤング率、ポアソン比により異なる。予め対象となる柱状ハニカム構造体10の一部にかかる有限要素モデルについて、各方向(X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)から外部圧力(荷重成分)のみを与え、発生した応力の値により決定しておくことができる。
【0027】
好ましい実施形態において、セル構造要部の選定を容易にする観点から、最大引張応力値は、柱状ハニカム構造体10の軸方向又は周方向に対応する方向の最大引張応力値とする。柱状ハニカム構造体10の軸方向に対応する方向の最大引張応力値を求めることにより、柱状ハニカム構造体10の周面4の最大引張応力値を迅速且つ容易に推定することができる。また、柱状ハニカム構造体10の周方向に対応する方向の最大引張応力値を求めることにより、柱状ハニカム構造体10の端面の最大引張応力値を迅速且つ容易に推定することができる。
【0028】
ミクロ解析では、セル構造要部の有限要素モデルを作成し、セル構造要部の有限要素モデルに対して温度分布を与える。温度分布は、実際の使用条件に基づいて、有限要素モデルの各節点へ温度を与えればよい。そして、有限要素解析を行い、セル構造要部における最大引張応力を求める。
【0029】
上記のようにして得られた有限要素モデルにおける最大引張応力値は、柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値をY座標軸、柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値をX座標軸としてプロットすることによって相関関係を求めることができる。
この相関関係は、柱状ハニカム構造体10の外形及びセル3の断面形状の違いによって変化するため、外形及びセル3の断面形状が等しい複数の柱状ハニカム構造体10及びこれに対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて得られた最大引張応力値に対してプロットを行うことが好ましい。他方、この相関関係は、柱状ハニカム構造体10を構成する材料、隔壁1の厚さt、柱状ハニカム構造体10及びセル3のサイズなどの条件の違いによっては影響され難いため、これらの条件が異なる複数の柱状ハニカム構造体10及びこれに対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて得られた応力値に対してプロットを行うことが好ましい。その中でも好ましい実施形態では、柱状ハニカム構造体10を構成する材料が異なる複数の柱状ハニカム構造体10及びこれに対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて得られた最大引張応力値に対してプロットを行う。
【0030】
本実施形態におけるプロット数は、相関関係が得られる程度であれば特に限定されない。好ましい実施形態におけるプロット数は、より正確な相関関係を得る観点から、好ましくは50点以上、より好ましくは80点以上、さらに好ましくは100点以上である。
【0031】
好ましい実施形態において、上記の相関関係は一次関数で表される。このときの最小二乗法による相関係数は、特に限定されないが、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.8以上、さらに好ましくは0.85以上である。相関係数が0.6以上であれば、推定される柱状ハニカム構造体10の最大引張応力値の精度を十分に担保することができる。
【0032】
ここで、4種類(材料A~D)の材料から形成された柱状ハニカム構造体10及びこれに対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて得られた最大引張応力値に対してプロットを行った結果を図4に示す。なお、柱状ハニカム構造体10の外形は円柱状、セル3の断面形状は四角形、プロット数の合計は120とした。また、最大引張応力値に関し、端面では、柱状ハニカム構造体10の周方向に対応する方向の最大引張応力値とし、周面4では、柱状ハニカム構造体10の軸方向に対応する方向の最大引張応力値とした。
図4に示すように、端面においては、相関係数が0.9167の一次関数で表される相関関係が得られ、周面4においては、相関係数が0.651の一次関数で表される相関関係が得られた。
【0033】
次に、ステップ2では、まず、推定すべき柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を測定する(マクロ解析)。推定すべき柱状ハニカム構造体10は、相関関係を得るために用いた柱状ハニカム構造体10と、外径及びセル3の断面形状が等しいことが好ましい。
その後、上記の相関関係に基づいて、測定された柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値に対応する柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値を、推定すべき柱状ハニカム構造体10の最大引張応力値として求める。これにより、柱状ハニカム構造体10の全体の解析又はミクロ解析が不要となり、柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおけるマクロ解析だけで、柱状ハニカム構造体10の最大引張応力値を迅速且つ容易に推測することができる。
【0034】
(柱状ハニカム構造体の最大引張応力推定装置)
本発明の柱状ハニカム構造体10の応力推定装置は、柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値と、柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値との間の相関関係を求める手段と、推定すべき柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を測定し、相関関係に基づいて、測定された柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値に対応する柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値を求める手段とを備える。
【0035】
この応力推定装置は、パソコンなどのコンピュータとして構成され、各種処理を実行するCPUなどを備えたコントローラと、各種処理プログラムや各種データを記憶する大容量メモリであるHDDと、各種情報を画面表示するディスプレイと、ユーザーが各種指令を入力するマウスやキーボードなどの入力装置とを一般に備えている。
【0036】
CPUは、柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値と、柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値との間の相関関係を求め、その相関関係をHDDに記憶する。CPUは、柱状ハニカム構造体10の外形及びセル3の断面形状などの各種条件をユーザーが入力することによって、当該条件に応じた相関関係が得られるように設定してもよい。
また、CPUは、推定すべき柱状ハニカム構造体10に対応する柱状中実構造体の有限要素モデルにおいて最大引張応力値を測定し、相関関係に基づいて、測定された柱状中実構造体の有限要素モデルにおける最大引張応力値に対応する柱状ハニカム構造体10の有限要素モデルにおける最大引張応力値を、推定すべき柱状ハニカム構造体10の最大引張応力値として求める。そして、CPUで求められた結果はディスプレイ上に表示される。
上記のような構成を有する柱状ハニカム構造体10の最大引張応力推定装置によれば、上記の柱状ハニカム構造体10の最大引張応力推定方法を実施することができるため、柱状ハニカム構造体10の応力を迅速且つ容易に推測することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 隔壁
2a 第一端面
2b 第二端面
3 セル
4 周面
5 目封止部
10 柱状ハニカム構造体
20 単位構造部
図1
図2
図3
図4