(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデンポリマー、バインダー組成物、電極合剤、電極及び非水電解質二次電池、並びに電極合剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 214/22 20060101AFI20220125BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220125BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220125BHJP
C08L 27/16 20060101ALI20220125BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20220125BHJP
【FI】
C08F214/22
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08L27/16
C08K3/00
(21)【出願番号】P 2018035821
(22)【出願日】2018-02-28
【審査請求日】2020-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】青木 健太
(72)【発明者】
【氏名】小林 正太
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 佳奈
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-019082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08L 1/00-101/14
H01M 4/62
H01M 4/13
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデンに由来する第1の構成単位と、当該フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する第2の構成単位とを含むフッ化ビニリデンポリマーであって、
前記第2の構成単位となるモノマーは、
下記式(1)で表される化合物であり、
前記フッ化ビニリデンポリマーを構成する全てのモノマーに由来する構成単位の合計を100モル%としたときに、前記第2の構成単位を0.05~20モル%含むことを特徴とするフッ化ビニリデンポリマー
。
【化1】
(式(1)中、R
1
は水素原子であるか、又は(メタ)アクリレート基を有し、R
2
は(メタ)アクリレート基を有し、R
OH
,
COOH
は炭素数1~7の炭化水素の炭素骨格において、それらの炭素原子に結合する水素原子のうちの1つ以上がヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかで置換されている骨格である。)
【請求項2】
インヘレント粘度が0.5~5.0dl/gである請求項
1に記載のフッ化ビニリデンポリマー。
【請求項3】
電極活物質を集電体に結着するために用いられるバインダー組成物であって、請求項
1または2に記載のフッ化ビニリデンポリマーを含むバインダー組成物。
【請求項4】
請求項
3に記載のバインダー組成物と電極活物質とを含む電極合剤。
【請求項5】
請求項
4に記載の電極合剤から形成された合剤層を集電体上に備える電極。
【請求項6】
請求項
5に記載の電極を備える非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項
1または2に記載のフッ化ビニリデンポリマーを含む電極合剤の製造方法であって、
極性基含有フッ化ビニリデンポリマーまたは反応性基含有フッ化ビニリデンポリマーと、電極活物質と、非水溶媒とを含む原料電極合剤を調製する工程、及び
前記原料電極合剤に下記式(7)で表される化合物を添加して、前記極性基含有フッ化ビニリデンポリマーまたは反応性基含有フッ化ビニリデンポリマーと、該化合物とを反応させることにより、前記フッ化ビニリデンポリマーを生成する工程を含むことを特徴とする電極合剤の製造方法。
【化2】
(式(7)中、R
6及びR
7は、独立に、水素原子であるか、又は炭素数1~7の炭素骨格を有し、R
OH,
COOHは炭素数1~7の炭化水素の炭素骨格において、それらの炭素原子に結合する水素原子のうちの1つ以上がヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかで置換されている骨格である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフッ化ビニリデンポリマー及びその用途に関する。詳しくは、フッ化ビニリデンポリマー、それを用いたバインダー組成物、電極合剤、電極及び非水電解質二次電池、並びに電極合剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位を主として含むフッ化ビニリデン共重合体は、リチウムイオン二次電池等の電池のバインダー樹脂として多く利用されている。なお、バインダー樹脂は、電極活物質を集電体に接着させるために用いられるものである。
【0003】
例えば特許文献1には、ヒドロキシ基を有するヒドロキシエチルアクリレート(HEA)を含むフッ化ビニリデン共重合体が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、フッ化ビニリデン由来の構成単位の他に、カルボキシル基を含有するモノマー由来の構成単位と、窒素原子を持つ官能基を含有するモノマー由来の構成単位とを含むフッ化ビニリデン系共重合体を用いたバインダー樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-525124号公報
【文献】特開2012-219125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年では、電池の性能の向上のために、特許文献2に開示のバインダー樹脂よりも高い接着性を有するバインダー樹脂が求められている。
【0007】
本発明は、係る課題に鑑みてなされたものであり、電池に用いられるバインダー樹脂の接着性の向上に寄与する新規のフッ化ビニリデンポリマー、及びそれを用いたバインダー組成物の提供を主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、フッ化ビニリデンに由来する第1の構成単位と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する第2の構成単位とを含み、この第2の構成単位となるモノマーが、ヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかを有するアミンであり、フッ化ビニリデンポリマーに含まれる第2の構成単位の量を特定量とすることにより、接着性の向上に寄与するバインダー組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一態様に係るフッ化ビニリデンポリマーは、フッ化ビニリデンに由来する第1の構成単位と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する第2の構成単位とを含むフッ化ビニリデンポリマーであって、第2の構成単位となるモノマーは、ヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかを有する、第1級アミン、第2級アミンまたは第3級アミンであり、フッ化ビニリデンポリマーを構成する全てのモノマーに由来する構成単位の合計を100モル%としたときに、第2の構成単位を0.05~20モル%含む、フッ化ビニリデンポリマーである。
【0010】
本発明の一態様において、上述したモノマーは、下記式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【0011】
【0012】
(式中、R1は水素原子であるか、又は(メタ)アクリレート基を有し、R2は(メタ)アクリレート基を有し、ROH,COOHは炭素数1~7の炭化水素の炭素骨格において、それらの炭素原子に結合する水素原子のうちの1つ以上がヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかで置換されている骨格である。)
本発明の一実施態様において、フッ化ビニリデンポリマーのインヘレント粘度は、0.5~5.0dl/gであることが好ましい。
【0013】
本発明の一態様として、フッ化ビニリデンポリマーを用いたバインダー組成物を提供する。本発明の一態様のバインダー組成物は、電極活物質を集電体に結着するために用いられるバインダー組成物であって、本発明に係るフッ化ビニリデンポリマーを含むものである。
【0014】
また、本発明の一態様として電極合剤を提供する。本発明の一態様に係る電極合剤は、上記バインダー組成物と電極活物質とを含むものである。
【0015】
さらに、本発明の一態様として電極を提供する。本発明の一態様に係る電極は、上記電極合剤から形成された合剤層を集電体上に備えるものである。
【0016】
さらに、本発明の一態様として非水電解質二次電池を提供する。本発明の一態様に係る非水電解質二次電池は、本発明の一態様に係る電極を備えるものである。
【0017】
また、本発明の一態様として、電極合剤の製造方法を提供する。本発明の一態様に係る電極合剤の製造方法は、極性基含有フッ化ビニリデンポリマーまたは反応性基含有フッ化ビニリデンポリマーと、電極活物質と、非水溶媒とを含む原料電極合剤を調製する工程、及び
前記原料電極合剤に下記式(7)で表される化合物を添加して、前記極性基含有フッ化ビニリデンポリマーまたは反応性基含有フッ化ビニリデンポリマーと、該化合物とを反応させることにより、前記フッ化ビニリデンポリマーを生成する工程を含むものである。
【0018】
【0019】
(式(7)中、R6及びR7は、独立に、水素原子であるか、又は炭素数1~7の炭素骨格を有し、ROH,COOHは炭素数1~7の炭化水素の炭素骨格において、それらの炭素原子に結合する水素原子のうちの1つ以上がヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかで置換されている骨格である。)
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、電池に用いられるバインダー樹脂の接着性の向上に寄与する新規のフッ化ビニリデンポリマー、及びそれを用いたバインダー組成物、電極合剤、電極及び非水電解質二次電池、並びに電極合剤の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0022】
[フッ化ビニリデンポリマー]
本実施形態のフッ化ビニリデンポリマーは、フッ化ビニリデンに由来する第1の構成単位と、フッ化ビニリデン以外のモノマーに由来する第2の構成単位とを含むものであって、第2の構成単位となるモノマーは、ヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかを有する、第1級アミン、第2級アミンまたは第3級アミンであり、フッ化ビニリデンポリマーを構成する全てのモノマーに由来する構成単位の合計を100モル%としたときに、第2の構成単位を0.05~20モル%含むものである。
【0023】
フッ化ビニリデン以外のモノマーとは、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーである。このモノマーは、例えば、下記式(1)
【0024】
【0025】
で表される化合物が挙げられる。
【0026】
式(1)中、R1は水素原子であるか、又は(メタ)アクリレート基を有し、R2は(メタ)アクリレート基を有し、ROH,COOHは、炭素数1~7の炭化水素の炭素骨格において、それらの炭素原子に結合する水素原子のうちの1つ以上がヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかで置換されている骨格である。なお、本明細書において(メタ)アクリレート基とは、アクリレート基又はメタクリレート基を指す。
【0027】
式(1)の化合物の好ましい態様は、ROH,COOHが好ましくは炭素数1~7、より好ましくは炭素数2~6の炭素骨格であり、それらの炭素原子に結合する水素原子のうちの好ましくは1以上、より好ましくは2以上が、ヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかで置換されている骨格であることである。
【0028】
式(1)で表される化合物の具体例として、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0029】
【0030】
式(2)中、R3,R4,R5はそれぞれ独立に水素原子、塩素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、Xは主鎖が原子数1~18で構成される原子団であり、R1は前記式(1)のR1と同じである。
【0031】
重合反応性の観点から、式(2)において、R3、R4、R5は炭素数1~5のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましく、水素またはメチル基であることがより好ましい。
【0032】
なお、前記式(2)において、主鎖の原子数とは、Xの右側に記載された基(‐NR1-ROH,COOH)と、Xの左側に記載された基(R4R5C=CR3‐COO-)とを、最も少ない原子数で結ぶ鎖の、骨格部分の原子数を意味する。なお、主鎖の原子数に水素原子の原子数は含めない。
【0033】
式(2)において、原子団の分子量は120以下であることが好ましく、90以下であることがより好ましく、70以下であることがさらに好ましい。
【0034】
式(2)で表される化合物としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0035】
式(2)で表される化合物は、例えば、グリシジルメタクリレートを母体として使用して、この母体と、この母体を変性させる窒素原子(N)並びにヒドロキシル基(OH)及びカルボキシル基(COOH)の一方又は双方を有する化合物(以下、この化合物を「変性用化合物」という)とを反応させることによって得られる。
【0036】
変性用化合物としては、例えば、D-グルカミン、4-アミノ酪酸、N-メチル-D-グルカミン、4-アミノ-3-ヒドロキシ酪酸、アミノエタノール、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-アミノ-1-フェニルエタノール、ジエタノールアミン、O-ホスホリルエタノールアミン等が挙げられる。
【0037】
グリシジルメタクリレートと変性用化合物との反応は、例えば、有機溶媒または水中でグリシジルメタクリレート及び変性用化合物を加熱撹拌混合することによって行えばよい。
【0038】
また、重合時に式(2)で表される化合物自体を用いる場合に限らない。例えば、母体となる化合物を用いて重合を行い、その後、ポリマー中の母体を変性させることにより、外形的に、式(2)で表される化合物を用いて重合を行ったものとみられるフッ化ビニリデンポリマーも、本実施形態の範疇に含まれる。
【0039】
式(2)で表される化合物の具体例としては、式(3)~(6)で表される化合物が挙げられる。
【0040】
【0041】
本実施形態のフッ化ビニリデンポリマーは、第1の構成単位と第2の構成単位との合計を100モル%としたときに、第2の構成単位を0.01~20モル%含むことが好ましく、0.05~10モル%含むことがより好ましく、0.1~5モル%含むことがさらに好ましい。この範囲であると、本実施形態のフッ化ビニリデンポリマーに起因する接着性を好適に利用することができる。なお、各構成単位の存在量は1H NMRスペクトル又は中和滴定によって求めることができる。
【0042】
本実施形態のフッ化ビニリデンポリマーは、本発明による効果が損なわれない限りにおいて、フッ化ビニリデン及び前記式(1)で表される化合物以外の化合物(以下、「任意化合物」という)に由来する構成単位を含んでいてもよい。通常、任意モノマーの構成単位の含有率は0.01~10モル%以下である。
【0043】
任意化合物は、フッ化ビニリデン及び前記式(1)で表される化合物と共重合可能なものである限り限定されないが、例としては、フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体あるいはエチレン、プロピレン等の炭化水素系単量体、また前記式(1)と共重合可能な単量体が挙げられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なフッ素系単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロアルキルビニルエーテル等が挙げられる。前記式(1)と共重合可能な単量体としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチルに代表される(メタ)アクリル酸アルキル化合物等が挙げられる。なお、前記他のモノマーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0044】
本実施形態のフッ化ビニリデンポリマーは、フッ化ビニリデンと、式(1)で表される化合物とを従来公知の方法で重合させることによって得られる。重合方法は特に限定されるものではないが、例えば、懸濁重合、乳化重合、溶液重合、グラフト重合等の方法を挙げることができる。これらの中でも、水系の懸濁重合又は乳化重合又はグラフト重合であることが好ましい。重合に用いるフッ化ビニリデンは周知の化合物であり、一般の市販品を用いることができる。また、式(1)又は(2)で表される化合物は、それぞれ上述した方法によって得られたものを使用することができる。
【0045】
フッ化ビニリデンポリマーは、好ましくはフッ化ビニリデン80~99.99質量部と、式(1)又は(2)で表される化合物0.01~20質量部とを、より好ましくはフッ化ビニリデン85~99.95質量部と、式(1)又は(2)で表される化合物0.05~15質量部とを、さらに好ましくはフッ化ビニリデン90~99.9質量部と、式(1)又は(2)で表される化合物0.1~10質量部とを重合して得られるものである(但し、フッ化ビニリデン及び上記式(1)又は(2)で表される化合物の合計を100質量部とする)。
【0046】
本実施形態のフッ化ビニリデンポリマーは、共重合体であっても、グラフト重合体であってもよい。
【0047】
本実施形態のフッ化ビニリデンポリマーのインヘレント粘度は、0.5~5.0dl/gであることが好ましく、1.0~4.0dl/gであることがより好ましい。この範囲であれば、フッ化ビニリデンポリマーを用いた電極合剤を塗工する際に、電極の厚みムラを発生させることなく、電極作製を容易に行うことができる。なお、電極合剤及び電極については詳しくは後述する。
【0048】
なお、インヘレント粘度は、本実施形態のフッ化ビニリデンポリマー80mgを20mlのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解して、30℃の恒温槽内においてウベローデ粘度計を用いて次式により求めることができる。
【0049】
ηi=(1/C)・ln(η/η0)
この式において、ηはフッ化ビニリデンポリマー溶液の粘度、η0は溶媒のN,N-ジメチルホルムアミド単独の粘度、Cは0.4g/dlである。
【0050】
[バインダー組成物]
本実施形態のバインダー組成物は、電極活物質を集電体に結着するために用いられるバインダー組成物であって、本実施形態のフッ化ビニリデンポリマーを含むものである。
【0051】
このバインダー組成物は、非水溶媒を含んでいてもよい。非水溶媒としては、フッ化ビニリデンポリマーを溶解できる溶媒が用いられ、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラメチルウレア、トリエチルホスフェート、トリメチルホスフェート、アセトン、メチリウエチルケトン、及びテトラヒドロフラン等が挙げられる。これらの非水溶媒は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
本実施形態のバインダー組成物において、フッ化ビニリデンポリマーを100質量部とすると、非水溶媒は400~10000質量部であることが好ましく、600~5000質量部であることがより好ましい。この範囲であれば、バインダー組成物の溶液粘度は適度となるため、取扱いが容易となる。
【0053】
[電極合剤]
本実施形態の電極合剤は、上述したバインダー組成物と電極活物質とを含むものである。この電極合剤は、バインダー組成物に電極活物質を添加することにより得ることができる。なお、バインダー組成物に電極活物質を添加する場合には、電極活物質をそのままバインダー組成物に添加してもよく、電極活物質を上述した非水溶媒に添加し、撹拌混合して得られたバインダー組成物を電極合剤として用いてもよい。なお、電極合剤の調製方法はこれに限られず、別の調製方法については、後述する。
【0054】
電極合剤に用いられる電極活物質は特に限定されるものではなく、従来公知の負極用電極活物質(以下、負極活物質ともいう)、正極用の活物質(以下、正極活物質ともいう)を用いることができる。
【0055】
負極活物質としては例えば、炭素材料、金属・合金材料、金属酸化物等が挙げられるが、中でも炭素材料が好ましい。
【0056】
炭素材料としては、人造黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素等が挙げられる。炭素材料は、1種を単独で用いても、2種以上を用いてもよい。
【0057】
このような炭素材料を使用すると、電池のエネルギー密度を高くすることができる。
【0058】
正極活物質としては、例えば、リチウムを含むリチウム系正極活物質が挙げられる。リチウム系正極活物質としては例えば、LiCoO2およびLiCoxNi1-xO2(0≦x<1)等の一般式LiMY2で表わされる複合金属カルコゲン化合物、または複合金属酸化物、LiMn2O4などのスピネル構造をとる複合金属酸化物およびLiFePO4などのオリビン型リチウム化合物等が挙げられる。ここでMは、Co、Ni、Fe、Mn、CrおよびV等の遷移金属の少なくとも一種であり、YはOおよびS等のカルコゲン元素である。
【0059】
本実施形態の電極合剤は、フッ化ビニリデンポリマーと、電極活物質との合計100質量部あたり、フッ化ビニリデン重合体は0.5~15質量部であることが好ましく、0.7~10質量部であることがより好ましく、活物質は85~99.5質量部であることが好ましく、90~99.3質量部であることがより好ましい。この範囲であれば、電極合剤を用いて後述する非水電解質二次電池用電極を製造した際に、後述する合剤層と、集電体との剥離強度に優れる。
【0060】
本実施形態の電極合剤は、フッ化ビニリデンポリマー、非水溶媒及び電極活物質他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、導電助剤、顔料分散剤等が挙げられる。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、黒鉛微粉末および黒鉛繊維等の炭素物物質、並びにニッケル及びアルミニウム等の金属微粉末または金属繊維を用いることができる。顔料分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン等を用いることができる。電極合剤に他の成分が含まれる場合には、他の成分は、通常、フッ化ビニリデンポリマー100質量部に対して2~400質量部で使用する。
【0061】
電極合剤の製造方法は特に限定されず、公知の方法によって各成分を混合すればよい。その際、各成分を混合する順番は特に限定されない。
【0062】
次に、電極合剤の別の調製方法について説明する。
【0063】
本調整方法は、上述のフッ化ビニリデンポリマーの元となる極性基含有フッ化ビニリデンポリマーまたは反応性基含有フッ化ビニリデンポリマーと、電極活物質と、非水溶媒とを含む原料電極合剤を調製する工程と、原料電極合剤に後述する式(7)で表される化合物を添加して、当該極性基含有フッ化ビニリデンポリマーまたは反応性基含有フッ化ビニリデンポリマーと、当該化合物とを反応させることにより、本実施形態に係る上述のフッ化ビニリデンポリマーを生成する工程を含んでいる。以下、極性基含有フッ化ビニリデンポリマーと反応性基含有フッ化ビニリデンポリマーとを区別する必要がない場合には、これらをまとめて「原料フッ化ビニリデンポリマー」とも称する。原料電極合剤中の原料フッ化ビニリデンポリマーが変性されることで、上述のフッ化ビニリデンポリマーと、電極活物質と、非水溶媒とを含む電極合剤を得ることができる。本調製方法は、電極合剤に含まれるフッ化ビニリデンポリマーが、第2の構成単位となるモノマーが前記式(1)で表される化合物であるフッ化ビニリデンポリマーである場合において、好適に利用できる。
【0064】
原料フッ化ビニリデンポリマーは、下記式(7)で表される化合物(以下、化合物(7)とも称する)と反応することにより上述のフッ化ビニリデンポリマーに変換される、原料となるフッ化ビニリデンポリマーのことを指す。
【0065】
【0066】
式(7)中、R6及びR7は、独立に、水素原子であるか、又は炭素数1~7の炭素骨格を有する基である。ROH,COOHは炭素数1~7の炭化水素の炭素骨格において、それらの炭素原子に結合する水素原子のうちの1つ以上がヒドロキシル基及びカルボキシル基の少なくともいずれかで置換されている骨格であり、上述の式(1)におけるROH,COOHと同一である。
【0067】
化合物(7)の例としては、式(2)で表される化合物の生成方法の説明において例示した、D-グルカミン等の各化合物を挙げることができる。
【0068】
式(1)で表される化合物は、例えば、アクリロイロキシプロピルコハク酸またはグリシジルアクリレートを母体として使用して、この母体と、化合物(7)とを反応させることによって得られるものであり得る。したがって、原料フッ化ビニリデンポリマーは、化合物(7)と反応することにより前記式(1)で表されるモノマーが生成されることになる母体化合物と、フッ化ビニリデンとを重合することにより得られるフッ化ビニリデンポリマーである。
【0069】
極性基および反応性基は、化合物と反応することが可能な官能基を意図しており、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基が挙げられる。
【0070】
化合物(7)と反応することにより前記式(1)で表されるモノマーが生成されることになる母体化合物としては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸、カルボキシエチルアクリル酸、カルボキシルプロピルアクリル酸、アクリロイロキシエチルコハク酸、アクリロイロキシプロピルコハク酸、ヒドロキシエチルアクリル酸、およびヒドロキシプロピルアクリル酸等が挙げられる。
【0071】
原料フッ化ビニリデンポリマーと、化合物(7)との反応は、電極合剤を製造する際に当該化合物を添加し、15~85℃、好ましくは20~80℃、更に好ましくは25~70℃で撹拌することで行われる。
【0072】
原料フッ化ビニリデンポリマーと、化合物(7)との重量比は、99.9:0.1~30:70、好ましい範囲は99.7:0.3~40:60、更に好ましくは99.5:0.5~50:50である。
【0073】
以上により、本実施形態に係るフッ化ビニリデンポリマーと、電極活物質と、非水溶媒とを含む電極合剤を調製することができる。
【0074】
[電極]
本実施形態の電極は、上述した電極合剤から形成された合剤層を集電体上に備えるものである。なお、本明細書において、合剤層とは、電極合剤から形成される層を意味する。
【0075】
集電体は電極の基材であり、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、鉄、ステンレス鋼、鋼、銅、アルミニウム、ニッケル、及びチタン等を挙げることができる。本実施形態の電極を用いて後述する非水電解質二次電池を得るためには、集電体としてアルミニウム箔を用いることが好ましい。集電体の形状は、箔または網であることが好ましい。集電体の厚みは、通常は5~100μmであり、好ましくは5~20μmである。
【0076】
合剤層は、電極合剤を集電体に塗布後、乾燥させることによって得ることができる。電極合剤の塗布方法としては、例えば、バーコーター、ダイコーター、コンマコーターで塗布する等の方法が挙げられる。電極合剤は、集電体の少なくとも一方面、好ましくは両面に塗布する。
【0077】
なお、電極合剤の乾燥は、通常、50~150℃の温度で1~300分行えばよい。また、乾燥させる際の圧力は特に限定されないが、通常は、大気圧下又は減圧下で行う。
【0078】
合剤層の厚さは、通常は20~250μmであり、好ましくは20~150μmである。また、合剤層の目付量は、通常は20~700g/m2であり、好ましくは30~500g/m2である。
【0079】
電極合剤を乾燥後、さらに熱処理を行ってもよい。熱処理は、通常、100~250℃の温度で1~300分行う。なお、熱処理は上述した乾燥の処理と重複するが、これらの処理は、別個の工程として行ってもよく、連続的に行われる工程であってもよい。
【0080】
さらに電極合剤を乾燥後、合剤層に対してプレス処理を行ってもよい。プレス処理は、通常1~200MP・Gで行えばよい。プレス処理を行えば、電極密度を向上させることができるため好ましい。
【0081】
[非水電解質二次電池]
本実施形態の非水電解質二次電池は、上述した電極合剤を集電体に塗布し、乾燥することにより得られる。なお、電極の相構成としては、電極合剤を集電体の一方面に塗布した場合には、合剤層/集電体の二層構成であり、電極合剤を集電体の両面に塗布した場合には、合剤層/集電体/合剤層の三層構成である。
【0082】
[非水電解質二次電池]
本実施形態の非水電解質二次電池は、上述した電極を備えるものである。この非水電解質二次電池は、本実施形態の電極合剤を用いているため、プレス、スリット、捲回等の工程で電極に亀裂又は剥離が生じにくい。そのため、本実施形態の非水電解質二次電池は、生産性の向上を図ることができる。
【0083】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0084】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0085】
[実施例1]
〔ポリフッ化ビニリデン(1)の製造〕
内容量2リットルのオートグレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.4g、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート2.3g、酢酸エチル5g、フッ化ビニリデン(VDF)420gを仕込み、25℃で15時間懸濁重合を行った。この間の最高圧力は4.0MPaに達した。重合完了後、重合体スラリーを脱水、水洗した。その後、80℃で20時間乾燥を行い、粉末状のポリフッ化ビニリデン(1)(以下、PVDF(1)という)を得た。PVDF(1)のインヘレント粘度は2.1dl/gであった。
【0086】
〔PVDF(1)へのグラフト重合〕
ポリエチレン製の袋(ラミジップ(登録商標)、株式会社日本生産社製)にPVDF(1)60gを入れ、袋内を窒素置換した。その後、袋の入り口をヒートシールし、密封した。
【0087】
次に、前記PVDF(1)が密封された袋に電子線を、PVDF(1)の吸収線量が30kGyとなるように照射し、電子線照射PVDF(1)を作製した。
【0088】
その後、300mlのサンプル瓶に、メタクリル酸グリシジル(GMA)(東京化成工業(株)製)0.52g、トルエン51.4gを仕込み、そこへ電子線照射PVDF(1)30gを投入し、25℃、3時間撹拌混合した。
【0089】
撹拌混合した反応物を取り出し、吸引ろ過瓶に取り付けたヌッチェに移した。イオン交換水を用いて、ヌッチェ内で反応物の洗浄およびろ過を行い、未反応のメタクリル酸グリシジルを除去した。その後、エタノールを用いて、ヌッチェ内で反応物の洗浄およびろ過を行い、トルエン、メタクリル酸グリシジルの単独重合体を除去した。その後、75℃で5時間乾燥を行い、VDF/GMA重合体を得た。
【0090】
得られたVDF/GMA重合体について、1H NMR測定よりGMA導入量を測定した。それらの結果を表1に示す。また、1H NMRの測定方法は以下の通りである。
【0091】
(1H NMR測定)
VDF/GMA重合体の1H NMRスペクトルを下記条件で求めた。
【0092】
装置:Bruker社製、AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター
測定条件
周波数:400MHz
測定溶媒:DMSO-d6
測定温度:25℃
重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびメタクリル酸グリシジルに由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてメタクリル酸グリシジルに由来する3.75ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルの積分強度に基づき算出した。
【0093】
得られたVDF/GMA重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、99.73モル%であり、メタクリル酸グリシジルに由来する構成単位の量(モル%)(GMA量)は0.27モル%であった。
【0094】
次に、50mlのサンプル瓶に、VDF/GMA重合体2g、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)18g、N-メチル-D-グルカミン(NMG)(東京化成製)0.32gを入れ、60℃で2時間撹拌混合を行った。加熱撹拌終了後、水を貧溶媒とした再沈操作により、重合体を回収した。
【0095】
回収した重合体を吸引ろ過瓶に取り付けたヌッチェに移した。イオン交換水を用いて、ヌッチェ内で重合体の洗浄およびろ過を行い、未反応のNMGを除去した。その後、エタノールを用いて、ヌッチェ内で重合体の洗浄およびろ過を行った。その後、75℃で5時間乾燥を行い、VDF/NMG重合体を得た。
【0096】
得られたVDF/NMG重合体について、インヘレント粘度を測定した。結果を表1に示す。また、インヘレント粘度の測定方法は以下の通りである。
【0097】
(インヘレント粘度の測定)
インヘレント粘度ηiを算出するために、重合体80mgを20mlのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解することによって重合体溶液を作製する。当該重合体溶液の粘度ηを、30℃の恒温槽内においてウベローデ粘度計を用いて測定する。インヘレント粘度ηiは、当該粘度ηを用いて下記式によって求められる。
ηi=(1/C)・ln(η/η0)
上記式において、η0は溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミドの粘度、Cは0.4g/dlである。
【0098】
〔電極の製造(1)〕
活物質としてリチウム-ニッケル-コバルト-マンガン複合酸化物(NCM523;Li1.00Ni0.50Co0.20Mn0.30O2、平均粒子径11μm)100重量部に対して、導電助剤としてカーボンブラック(SP;Timcal Japan社製、Super P(登録商標)、平均粒子径40nm、比表面積60m2/g)1重量部を加え、30秒間混合し、活物質100重量部に対してVDF/NMG重合体2重量部を含む10重量%濃度バインダー溶液(溶媒:NMP)を加えて3分間混合し、次いでNMPを加えて5分間混合し、活物質とVDF/NMG重合体とSPとの合計固形分濃度が76%の電極合剤を得た。
【0099】
得られた電極合剤を、集電体である厚さ15μmのアルミ箔上にバーコーターで塗布し、これを恒温槽を用いて、窒素雰囲気下にて110℃で30分間一次乾燥を行い、次いで窒素雰囲気下にて130℃で2時間二次乾燥して、電極を作製した。
【0100】
得られた電極について、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。また、剥離強度の測定方法は以下の通りである。
【0101】
(剥離強度の測定)
アルミ箔と電極合剤層との接着力は、塗工により形成した電極の上面をプラスチックの厚板と貼り合わせ、JIS K 6854-1に準じて引張試験機(ORIENTEC社製「STA-1150 UNIVERSAL TESTING MACHINE」)を使用し、ヘッド速度10mm/分で90°剥離強度として評価した。プラスチックの厚板は、アクリル樹脂製であり、厚さ5mmである。
【0102】
[実施例2]
実施例1のN-メチル-D-グルカミンに代えて、D-グルカミン(ADG)(東京化成製)を0.15g使用した以外は実施例1と同様にしてVDF/ADG重合体を得た。得られた重合体について、インヘレント粘度を測定した。また、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0103】
[実施例3]
実施例1のN-メチル-D-グルカミンに代えて、4-アミノ-3-ヒドロキシ酪酸(HGABA)(東京化成製)を0.10g使用した以外は実施例1と同様にして重合体を得た。得られた重合体について、インヘレント粘度を測定した。また、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0104】
[実施例4]
〔フッ化ビニリデン系共重合体(1):VDF/GA〕
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水900g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.2g、ブチルペルオキシピバレート1.92g、フッ化ビニリデン400gの各量を仕込み、45℃に加熱した。重合中に圧力を一定に保つ条件で、アクリル酸グリシジル(GA)(東京化成製)を含む0.05重量%GA水溶液を反応容器に連続的に供給した。得られたスラリーを脱水、乾燥してVDF/GA共重合体をフッ化ビニリデン系共重合体(1)として得た。GAは、全量4.0gを添加した。
【0105】
得られたVDF/GA共重合体について、1H NMR測定よりGA導入量を測定した。それらの結果を表2に示す。また、1H NMRの測定方法は以下の通りである。
【0106】
(1H NMR測定)
VDF/GA共重合体の1H NMRスペクトルを下記条件で求めた。
【0107】
装置:Bruker社製、AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター
測定条件
周波数:400MHz
測定溶媒:DMSO-d6
測定温度:25℃
重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびアクリル酸グリシジルに由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてアクリル酸グリシジルに由来する3.75ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルの積分強度に基づき算出した。
【0108】
得られたVDF/GA重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、99.60モル%であり、アクリル酸グリシジルに由来する構成単位の量(モル%)(GA量)は0.40モル%であった。
【0109】
また、得られたVDF/GA共重合体のインヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は2.86dl/gであった。
【0110】
次に、50mlのサンプル瓶に、VDF/GA共重合体1.8g、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)38.2g、N-メチル-D-グルカミン(NMG)(東京化成製)0.44gを入れ、60℃で2時間撹拌混合を行った。加熱撹拌終了後、水を貧溶媒とした再沈操作により、重合体を回収した。
【0111】
回収した重合体を吸引ろ過瓶に取り付けたヌッチェに移した。イオン交換水を用いて、ヌッチェ内で重合体の洗浄およびろ過を行い、未反応のNMGを除去した。その後、エタノールを用いて、ヌッチェ内で重合体の洗浄およびろ過を行った。その後、75℃で5時間乾燥を行い、VDF/NMG共重合体を得た。
【0112】
得られたVDF/NMG共重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0113】
[実施例5]
実施例4のNMGに代えてADGを0.20g使用した以外は実施例4と同様にしてVDF/ADG共重合体を得た。得られたVDF/ADG共重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
【0114】
[実施例6]
実施例1のNMGを0.016gとした以外は実施例1と同様にしてVDF/NMG重合体を得た。得られたVDF/NMG重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
【0115】
[実施例7]
実施例1で得られたVDF/GMA重合体を用いて、実施例1と同様に電極を作製する際、混合比がVDF/GMA重合体:NMG=99.17:0.83の重量割合となるようNMGを電極合剤に添加して得られた電極について、剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
【0116】
[実施例8]
[フッ化ビニリデン系共重合体(2):VDF/APS]
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1096g、メトローズ90SH-100(信越化学工業(株)製)0.2g、50wt%ジイソプロピルペルオキシジカーボネート-フロン225cb溶液2.2g、フッ化ビニリデン426g、およびアクリロイロキシプロピルコハク酸の初期添加量0.2gの各量を仕込み、26℃まで1時間で昇温した。その後、26℃を維持し、6wt%アクリロイロキシプロピルコハク酸水溶液を0.5g/minの速度で徐々に添加した。得られた重合体スラリーを脱水、乾燥して極性基を含むフッ化ビニリデン共重合体(VDF/APS)を得た。アクリロイロキシプロピルコハク酸は、初期に添加した量を含め、全量4.0gを添加した。
【0117】
得られたVDF/APS共重合体について、1H NMR測定よりAPS導入量を測定した。それらの結果を表2に示す。また、1H NMRの測定方法は以下の通りである。
【0118】
(1H NMR測定)
VDF/GA共重合体の1H NMRスペクトルを下記条件で求めた。
【0119】
装置:Bruker社製、AVANCE AC 400FT NMRスペクトルメーター
測定条件
周波数:400MHz
測定溶媒:DMSO-d6
測定温度:25℃
重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびアクリロイロキシプロピルコハク酸に由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてAPSに由来する4.18ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルの積分強度に基づき得られたVDF/APS重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、99.64モル%であり、アクリロイロキシプロピルコハク酸に由来する構成単位の量(モル%)(APS量)は0.36モル%であった。
【0120】
また、得られたVDF/APS共重合体のインヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は2.50dl/gであった。
【0121】
得られたVDF/APS重合体を用いて、実施例1と同様に電極を作製する際、混合比がVDF/APS:NMG=99.17:0.83の重量割合となるようNMGを電極合剤に添加して得られた電極について、剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
【0122】
[比較例1]
〔ポリフッ化ビニリデン(2)の製造〕
内容物2リットルのオートクレーブに、イオン交換水1075g、メチルセルロース0.4g、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート2.5g、酢酸エチル5g、フッ化ビニリデン420gの各量を仕込み、25℃懸濁重合してポリフッ化ビニリデン(2)(以下、PVDF(2)という)を得た。
【0123】
得られたPVDF(2)について、インヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は1.70dl/gであった。
【0124】
得られたPVDF(2)について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0125】
[比較例2]
実施例1と同様にして得られたPVDF(1)を用い、グラフト重合を行った。
【0126】
〔PVDF(1)へのグラフト重合〕
ポリエチレン製の袋(ラミジップ(登録商標)、株式会社日本生産社製)にPVDF(1)60gを入れ、袋内を窒素置換した。その後、袋の入り口をヒートシールし、密封した。
【0127】
次に、前記PVDF(1)が密封された袋に電子線を、PVDF(1)の吸収線量が30kGyとなるように照射し、電子線照射PVDF(1)を作製した。
【0128】
その後、300mlのサンプル瓶に、アクリル酸-2-ヒドロキシエチル(HEA)(東京化成工業(株)製)2.6g、イオン交換水36.3g、イソプロピルアルコール13gを仕込み、そこへ電子線照射PVDF(1)30gを投入し、25℃、3時間撹拌混合した。
【0129】
撹拌混合した反応物を取り出し、吸引ろ過瓶に取り付けたヌッチェに移した。イオン交換水を用いて、ヌッチェ内で反応物の洗浄およびろ過を行い、未反応のアクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシエチルの単独重合体を除去した。その後、エタノールを用いて、ヌッチェ内で反応物の洗浄およびろ過を行った。その後、75℃で5時間乾燥を行い、VDF/HEA重合体を得た。
【0130】
得られたVDF/HEA重合体について、1H NMR測定よりHEA導入量を測定した。それらの結果を表1に示す。
【0131】
1H NMRの測定方法における装置、測定条件は実施例1の通りである。重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびHEAに由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてHEAに由来する3.55ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルの積分強度に基づき算出した。
【0132】
得られたVDF/HEA重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、98.8モル%であり、HEA由来する構成単位の量(モル%)(HEA量)は1.2モル%であった。
【0133】
また得られたVDF/HEA重合体について、実施例1と同様にしてインヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は1.5dl/gであった。
【0134】
得られたVDF/HEA重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0135】
[比較例3]
比較例1のHEAを0.52g使用した以外は比較例1と同様にしてVDF/HEA重合体を得た。得られた重合体について、比較例1と同様にして1H NMR測定及びインヘレント粘度及び剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0136】
[比較例4]
比較例2のHEAに代えてアクリル酸-2-(ジメチルアミノ)エチル(DMAEA)を使用した以外は比較例2と同様にしてVDF/DMAEA重合体を得た。得られた重合体について、1H NMR測定よりDMAEA導入量を測定した。それらの結果を表1に示す。1H NMRの測定方法における装置、測定条件は実施例1の通りである。重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびDMAEAに由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてDMAEAに由来する2.30ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルの積分強度に基づき算出した。
【0137】
得られたVDF/DMAEA重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、99.46モル%であり、DMAEAに由来する構成単位の量(モル%)(DMAEA量)は0.54モル%であった。
【0138】
また得られたVDF/DMAEA重合体について、実施例1と同様にしてインヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は1.5dl/gであった。
【0139】
得られたVDF/DMAEA重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0140】
[比較例5]
実施例1で得られたVDF/GMA重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0141】
[比較例6]
〔フッ化ビニリデン系共重合体(2):VDF/CEA〕
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水900g、メトローズ90SH-1000.4g、ブチルペルオキシピバレート2g、フッ化ビニリデン396g、およびカルボキシエチルアクリレート(CEA)0.2gの各量を仕込み、50℃まで2時間で昇温した。
【0142】
その後、50℃を維持し、30g/lのCEA水溶液を重合圧力が一定となる速度で徐々に添加した。CEAは初期に添加した量を含め、全量5.92gを添加した。
【0143】
重合は、CEA水溶液添加終了と同時に停止し、昇温開始から合計13.1時間行った。
【0144】
重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、更に80℃で20時間乾燥してVDF/CEA共重合体を得た。
【0145】
得られた重合体について、1H NMR測定よりCEA導入量を測定した。1H NMRの測定方法における装置、測定条件は実施例1の通りである。VDF/CEA共重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびCEAに由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてCEAに由来する4.19ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルの積分強度に基づき算出した。
【0146】
得られたVDF/CEA共重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、97.28モル%であり、CEAに由来する構成単位の量(モル%)(CEA量)は2.72モル%であった。
【0147】
また得られたVDF/CEA共重合体について、実施例1と同様にしてインヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は2.65dl/gであった。
【0148】
〔フッ化ビニリデン系共重合体(3)〕
ジムロート冷却管、滴下ロート、および磁気撹拌子を備えた500ml三口フラスコに、10.1gのVDF/CEA共重合体、および150mlのNMPを入れ溶解した。
【0149】
得られた溶液に、5.30g(0.0445mol)の塩化チオニルを室温で滴下し、滴下終了後、80℃で1.5時間加熱撹拌した。
【0150】
撹拌終了後、室温まで法令し、4.34g(0.0456ml)の3-ヒドロキシピリジン(HP)を入れ、さらに90℃で1.5時間加熱撹拌した。
【0151】
撹拌終了後、水/メタノール混合溶媒を貧溶媒とした再沈操作によりポリマーを回収し、フッ化ビニリデン系共重合体(3)を得た。得られたフッ化ビニリデン系共重合体(3)について、実施例1と同様にしてインヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は2.07dl/gであった。
【0152】
このフッ化ビニリデン系共重合体(3)と、インヘレント粘度1.3dl/gのPVDF(株式会社クレハ製 KF#1700)との混合比が10:90の重量割合となるよう混合し、VDF/HP共重合体を得た。
【0153】
得られたVDF/HP共重合体について、実施例1と同様にしてインヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は1.4dl/gであった。
【0154】
また、得られたVDF/HP共重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0155】
[比較例7]
比較例2のHEAに代えてアクリロイロキシプロピルコハク酸(APS)を使用した以外は比較例2と同様にしてVDF/APS重合体を得た。得られた重合体について、1H NMR測定よりHEA導入量を測定した。それらの結果を表1に示す。1H NMRの測定方法における装置、測定条件は実施例1の通りである。重合体のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量、およびAPSに由来する構成単位の量を、1H NMRスペクトルで、主としてAPSに由来する4.18ppmに観察されるシグナルと、主としてフッ化ビニリデンに由来する2.24ppmおよび2.87ppmに観察されるシグナルの積分強度に基づき算出した。
【0156】
得られたVDF/APS重合体が有するフッ化ビニリデンに由来する構成単位の量(モル%)(VDF量)は、99.67モル%であり、APSに由来する構成単位の量(モル%)(APS量)は0.33モル%であった。
【0157】
また得られたVDF/APS重合体について、実施例1と同様にしてインヘレント粘度を測定したところ、インヘレント粘度は1.5dl/gであった。
【0158】
得られたVDF/APS重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0159】
[比較例8]
比較例1で得られたPVDF(2)を用いて、実施例1と同様に電極を作製する際、混合比がPVDF(2):NMG=99.17:0.83の重量割合となるようNMGを電極合剤に添加して得られた電極について、剥離強度を測定した。結果を表1に示す。
【0160】
[比較例9]
重合体としてPVDF(株式会社クレハ製 KF#7300)を用いた以外は、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
【0161】
[比較例10]
実施例4で得られたVDF/GA共重合体について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
【0162】
[比較例11]
実施例8で得られたフッ化ビニリデン系共重合体(2)について、実施例1と同様にして電極を作製し、剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
【0163】
[比較例12]
重合体としてPVDF(株式会社クレハ製 KF#7300)を用いて、実施例1と同様に電極を作製する際、混合比がPVDF:NMG=99.17:0.83の重量割合となるようNMGを電極合剤に添加して得られた電極について、剥離強度を測定した。結果を表2に示す。
【0164】
【0165】
【産業上の利用可能性】
【0166】
本発明のフッ化ビニリデンポリマーは、非水電解質二次電池において電極活物質を集電体に結着するために用いられるバインダー組成物に利用することができる。