(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】光電変換素子
(51)【国際特許分類】
H01G 9/20 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
H01G9/20 119
H01G9/20 107C
H01G9/20 303A
H01G9/20 303B
H01G9/20 115A
H01G9/20 111A
(21)【出願番号】P 2018056721
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100129296
【氏名又は名称】青木 博昭
(72)【発明者】
【氏名】勝亦 健治
(72)【発明者】
【氏名】中 圭介
【審査官】原 和秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-037654(JP,A)
【文献】特開2004-273272(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115607(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/012392(WO,A1)
【文献】特開2013-054879(JP,A)
【文献】特開2011-100730(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの光電変換セルを備え、
前記光電変換セルが、
第1電極基板と、
前記第1電極基板に対向する第2電極基板と、
前記第1電極基板又は前記第2電極基板に設けられる酸化物半導体層と、
前記第1電極基板及び前記第2電極基板を接合する封止部と、
前記第1電極基板、前記第2電極基板及び前記封止部によって形成されるセル空間に充填される電解質とを備え、
前記第2電極基板が、触媒金属を含む触媒層を有し、
前記電解質がイミダゾール化合物を含み、
前記電解質中の前記イミダゾール化合物の濃度が0.2Mより高く2M以下であり、
下記式(1)で表される酸素透過速度比rが0.00040~0.00150cm
3(STP)/(day・mL)である、光電変換素子。
酸素透過速度比r=v/m (1)
(上記式(1)中、vは下記式(2)で表される前記封止部の酸素透過速度(cm
3(STP)/day)を表し、mは前記電解質の量(mL)を表す)
v=d×C×a/w (2)
(上記式(2)中、dは前記封止部の酸素透過係数(cm
3(STP)・mm/(m
2・day・atm))を表し、aは前記封止部における酸素の透過面積a(m
2)を表し、Cは前記セル空間の内部における酸素分圧と前記セル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値(atm)を表し、wは前記封止部の幅(mm)を表す)
【請求項2】
前記イミダゾール化合物がベンゾイミダゾール化合物を含む、請求項1に記載の光電変換素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、安価で、高い光電変換効率が得られることから、色素を用いた光電変換素子が注目されており、色素を用いた光電変換素子に関して種々の開発が行われている。
【0003】
このような色素を用いた光電変換素子としては、例えば下記特許文献1の光電変換素子が知られている。下記特許文献1には、導電性基板と、導電性基板に対向し、触媒層を有する対極と、導電性基板上に設けられる酸化物半導体層と、導電性基板及び対極の間に設けられる電解質と、酸化物半導体層に吸着される色素とを有する光電変換セルを備え、電解質がイミダゾール化合物を含む光電変換素子が開示されており、電解質中のイミダゾール化合物の濃度を0.01~0.2Mとすることで漏れ電流を抑制できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、色素を用いた光電変換素子においては、電解質中への酸素の侵入による光電変換素子の劣化を抑制して酸素による発電性能の低下抑制効果(以下、「耐酸素性」と呼ぶ)を高めるために、封止部の酸素透過速度を小さくすることが望ましい。
【0006】
しかし、上述した特許文献1に記載の光電変換素子は、対極の触媒層として、白金等の触媒金属を用いた状態で封止部の酸素透過速度を小さくすると、耐酸素性は高められるものの、20000ルクス以上の高照度下に置かれた場合に、光に対する発電性能の低下抑制効果(以下、「耐光性」と呼ぶ)の点で改善の余地を有していた。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高照度下に置かれた場合でも、優れた耐酸素性を有しつつ、優れた耐光性を有する光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、以下の発明により上記課題を解決するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、少なくとも1つの光電変換セルを備え、前記光電変換セルが、第1電極基板と、前記第1電極基板に対向する第2電極基板と、前記第1電極基板又は前記第2電極基板に設けられる酸化物半導体層と、前記第1電極基板及び前記第2電極基板を接合する封止部と、前記第1電極基板、前記第2電極基板及び前記封止部によって形成されるセル空間に充填される電解質とを備え、前記第2電極基板が、触媒金属を含む触媒層を有し、前記電解質がイミダゾール化合物を含み、前記電解質中の前記イミダゾール化合物の濃度が0.2Mより高く2M以下であり、下記式(1)で表される酸素透過速度比rが0.00040~0.00150cm3(STP)/(day・mL)である、光電変換素子である。
酸素透過速度比r=v/m (1)
(上記式(1)中、vは下記式(2)で表される前記封止部の酸素透過速度(cm3(STP)/day)を表し、mは前記電解質の量(mL)を表す)
v=d×C×a/w (2)
(上記式(2)中、dは前記封止部の酸素透過係数(cm3(STP)・mm/(m2・day・atm))を表し、aは前記封止部における酸素の透過面積(m2)を表し、Cは前記セル空間の内部における酸素分圧と前記セル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値(atm)を表し、wは前記封止部の幅(mm)を表す)
【0010】
本発明の光電変換素子は、高照度下に置かれた場合でも、優れた耐酸素性を有しつつ、優れた耐光性を有することが可能となる。
【0011】
なお、本発明者らは、本発明の光電変換素子によって上記の効果が得られる理由について以下のように推察している。
【0012】
すなわち、本発明の光電変換素子においては、第2電極基板の触媒層に触媒金属が含まれると、この触媒金属が電解質中に極微量溶解する。この状態で光電変換素子が高照度下に置かれると、第1電極基板で励起された電子が電解質中に溶解した触媒金属を還元して第1電極基板の表面に析出させ、漏れ電流を増加させようとする。このとき、封止部を通して電解質中に侵入する酸素の量が多いと、触媒金属が析出しても、この触媒金属が酸素により酸化されて電解質に溶解し、漏れ電流が流れにくい状態が保持される。しかし、優れた耐酸素性を光電変換素子に付与するために、封止部を通して電解質中に侵入する酸素の量を少なくすると、析出した触媒金属の酸素による電解質への溶解が起こりにくくなり、漏れ電流が流れやすい状態となる。これに対し、電解質中にイミダゾール化合物が含まれると、イミダゾール化合物が触媒金属に吸着し、触媒金属からの漏れ電流が抑制される。このとき、電解質中のイミダゾール化合物の濃度が0.2Mより高く2M以下であると、漏れ電流が効果的に抑制される。こうして、本発明の光電変換素子により上記効果が得られたのではないかと本発明者らは推察している。
【0013】
上記光電変換素子においては、前記イミダゾール化合物がベンゾイミダゾール化合物を含むことが好ましい。
【0014】
この場合、イミダゾール化合物がベンゾイミダゾール化合物以外のイミダゾール化合物を用いる場合に比べて、漏れ電流をより十分に抑制できる。
【0015】
なお、本発明において、「cm3(STP)」とは、封止部を透過する酸素の体積が標準状態、すなわち、0℃、1atmの条件で測定された体積であることを示す。
【0016】
また、本発明において、「封止部における酸素の透過面積」とは、封止部の外周の周長と封止部の高さとの積を言う。ここで、「封止部の外周の周長」とは、「封止部と第1電極基板との界面(以下、「第1界面」と呼ぶ)における封止部の外周の周長」及び「封止部と第2電極基板との界面(以下、「第2界面」と呼ぶ)における封止部の外周の周長」のうち、より短い方の周長を言い、「第1界面における封止部の外周の周長」及び「第2界面における封止部の外周の周長」が同一の長さである場合にはその周長を言う。また、「封止部の高さ」とは、第1界面から第2界面までの距離を言う。
【0017】
また本発明において、「封止部の幅」とは、「第1界面における封止部の幅」及び「第2界面における封止部の幅」のうち、より短い方の幅を言い、「第1界面における封止部の幅」及び「第2界面における封止部の幅」が同一の幅である場合にはその幅を言う。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高照度下に置かれた場合でも、優れた耐酸素性を有しつつ、優れた耐光性を有する光電変換素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の光電変換素子の実施形態を示す切断面端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の光電変換素子の実施形態について
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の光電変換素子の実施形態を示す切断面端面図である。
【0021】
図1に示すように、光電変換素子100は1つの光電変換セル50を備えている。光電変換セル50は、第1電極基板10と、第1電極基板10に対向する第2電極基板20と、第1電極基板10上に設けられる酸化物半導体層13と、酸化物半導体層13に吸着される色素と、第1電極基板10及び第2電極基板20を接合する封止部30と、第1電極基板10、第2電極基板20及び封止部30によって形成されるセル空間に充填される電解質40とを備える。第2電極基板20は、本実施形態では、導電性基板21と、導電性の触媒層22とを有しており、触媒層22は触媒金属を含む。
【0022】
電解質40はイミダゾール化合物を含み、電解質40中のイミダゾール化合物の濃度は0.2Mより高く2M以下となっている。
【0023】
また、光電変換素子100においては、下記式(1)で表される酸素透過速度比rが、0.00040~0.00150cm3(STP)/(day・mL)となっている。
酸素透過速度比r=v/m (1)
(上記式(1)中、vは下記式(2)で表される封止部30の酸素透過速度(cm3(STP)/day)を表し、mは電解質の量(mL)を表す)
v=d×C×a/w (2)
(上記式(2)中、dは封止部30の酸素透過係数(cm3(STP)・mm/(m2・day・atm))を表し、aは封止部30における酸素の透過面積(m2)を表し、Cはセル空間の内部における酸素分圧とセル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値(atm)を表し、wは封止部30の幅(mm)を表す)
【0024】
この光電変換素子100は、高照度下に置かれた場合でも、優れた耐酸素性を有しつつ、優れた耐光性を有することが可能となる。
【0025】
次に、第1電極基板10、第2電極基板20、酸化物半導体層13、封止部30、電解質40及び色素について詳細に説明する。
【0026】
<第1電極基板>
第1電極基板10は、透明基板11と、透明基板11の上に設けられる電極としての透明導電層12とを備えている(
図1参照)。
【0027】
透明基板11を構成する材料は、透明な材料であればよく、このような透明な材料としては、例えばホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、白板ガラス、石英ガラスなどのガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、及び、ポリエーテルスルフォン(PES)などの絶縁材料が挙げられる。透明基板11の厚さは、光電変換素子100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば50μm~40mmの範囲にすればよい。
【0028】
透明導電層12を構成する材料としては、例えばスズ添加酸化インジウム(ITO)、酸化スズ(SnO2)、及び、フッ素添加酸化スズ(FTO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。透明導電層12は、単層でも、異なる導電性金属酸化物で構成される複数の層の積層体で構成されてもよい。透明導電層12が単層で構成される場合、透明導電層12は、高い耐熱性及び耐薬品性を有することから、FTOで構成されることが好ましい。透明導電層12の厚さは例えば0.01~2μmの範囲にすればよい。
【0029】
<第2電極基板>
第2電極基板20は、本実施形態では、導電性基板21と、導電性の触媒層22とを備える(
図1参照)。
【0030】
導電性基板21は、例えばチタン、ニッケル、白金、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ステンレス等の金属材料で構成される。この場合、導電性基板21は、基板と電極を兼ねることになる。また、導電性基板21は、基板と電極を分けて、上述した絶縁性の透明基板11に電極としてITO、FTO等の導電性酸化物からなる透明導電層を形成した積層体で構成されてもよい。
【0031】
導電性基板21の厚さは、光電変換素子100のサイズに応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、例えば5μm~4mmとすればよい。
【0032】
触媒層22は触媒金属を含む。触媒金属としては、例えば白金、金、銀、パラジウム、ロジウムなどが挙げられる。なお、導電性基板21が触媒金属からなる場合には、第2電極基板20は必ずしも触媒層22を有していなくてもよい。この場合、導電性基板21が触媒層22を兼ねることになる。
【0033】
<酸化物半導体層>
酸化物半導体層13は酸化物半導体粒子で構成されている。酸化物半導体粒子は、例えば酸化チタン(TiO2)、酸化ケイ素(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タングステン(WO3)、酸化ニオブ(Nb2O5)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化スズ(SnO2)又はこれらの2種以上で構成される。
【0034】
酸化物半導体層13の厚さは特に制限されるものではないが、通常は2~40μmであり、好ましくは10~30μmである。
【0035】
<封止部>
封止部30は、封止部30の厚さ方向に封止部30を見た場合に無端状となっており、内側に開口を有する。開口の形状は、特に制限されるものではなく、開口の形状としては、例えば円形状、及び、四角形などの多角形状が挙げられる。
【0036】
封止部30を構成する材料は、特に限定されるものではないが、封止部30を構成する材料としては、例えば変性ポリオレフィン樹脂、ビニルアルコール重合体などの熱可塑性樹脂、及び、紫外線硬化樹脂などの樹脂が挙げられる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えばアイオノマー、無水マレイン酸変性ポリオレフィン、エチレン-ビニル酢酸無水物共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体およびエチレン-ビニルアルコール共重合体などが挙げられる。中でも、無水マレイン酸変性ポリオレフィンが好ましい。この場合、第1電極基板10及び第2電極基板20に対して、より高い接着強度が得られる。
【0037】
封止部30の酸素透過速度vは上記式(2)で表され、特に限定されるものではないが、0.00006~0.00030cm3(STP)/dayであることが好ましい。この場合、酸化物半導体層13を第1電極基板10側から平面視した場合の面(発電面)内における出力密度のムラがより生じにくくなる。
【0038】
また、上記式(2)中のCは、セル空間の内部における酸素分圧とセル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値である。例えば大気圧下では、通常、セル空間の外部における酸素分圧が0.209atmであり、この酸素分圧は通常、セル空間の内部における酸素分圧よりも十分に大きいため、Cは0.209(atm)と近似できる。なお、セル空間の外部における酸素分圧が変化すれば、Cの値も変化する。
【0039】
また上記式(2)中の酸素透過面積aは、封止部30の高さ(厚さ)と封止部30の外周の周長との積を表す。
【0040】
また上記式(2)中の幅wは、封止部30の幅を表し、封止部30における酸素の透過距離に相当する。
【0041】
上記式(2)中の酸素透過面積aと幅wとの比(a/w)は、特に限定されるものではないが、a/wは0.0012~0.0070であることが好ましい。この場合、封止部30の形状安定性がより向上することにより、光電変換素子100の耐酸素性をより向上させることができる。
【0042】
また上記式(2)中の酸素透過係数dは特に限定されるものではないが、0.03~300cm3(STP)・mm/(m2・day・atm)であることが好ましい。この場合、上記式(2)中の酸素透過係数dが、0.03cm3(STP)・mm/(m2・day・atm)未満である場合と比べて、封止部30からの酸素透過速度vを極端に小さくせずに済み、酸素透過速度比rを一定範囲(0.00040~0.00150cm3(STP)/(day・mL))に収めるために封止部30の幅wを極端に小さくせずに済み、封止部30と第1電極基板10との間、および、封止部30と第2電極基板20との間でより十分な接着強度が得られる。また、上記式(2)中のdが300cm3(STP)・mm/(m2・day・atm)より大きい場合と比べて、封止部30の酸素透過能をより低減できるため、封止部30からの酸素透過による電解質40の劣化をより十分に抑制できる。その結果、光電変換素子100の耐酸素性がより向上する。
【0043】
上記式(2)中の酸素透過係数dは0.15~300cm3(STP)・mm/(m2・day・atm)であることがより好ましい。この場合、封止部30を構成する材料をあらかじめ減圧下に置いて、封止部30を構成する材料中に含まれる酸素を除去した材料を用いることができる。これは、酸素透過係数dが0.15cm3(STP)・mm/(m2・day・atm)以上であると、酸素透過係数dが0.15cm3(STP)・mm/(m2・day・atm)未満である場合に比べて、減圧下で酸素がより除去しやすくなるためである。このため、酸素透過能をより低減でき、光電変換素子100の耐酸素性の低下をより十分に抑制できる。
【0044】
封止部30の高さは特に制限されるものではないが、60μm以下であることが好ましい。この場合、封止部30の高さが60μmを超える場合に比べて、セル空間の内部に多量の酸素が侵入しにくくなり、光電変換素子100の出力の低下がより十分に抑制され、光電変換素子100がより優れた耐酸素性を有することが可能となる。但し、第1電極基板10及び第2電極基板20に対する封止部30の接着性を考慮すると、封止部30の高さは、8μm以上であることが好ましい。
【0045】
<電解質>
電解質40は酸化還元対と、有機溶媒と、イミダゾール化合物とを含む。
【0046】
酸化還元対としては、例えばヨウ化物イオン/ポリヨウ化物イオン(例えばI-/I3
-)、臭化物イオン/ポリ臭化物イオンなどのハロゲン原子を含む酸化還元対のほか、亜鉛錯体、鉄錯体、コバルト錯体などのレドックス対が挙げられる。なお、ヨウ化物イオン/ポリヨウ化物イオンは、ヨウ素(I2)と、アニオンとしてのアイオダイド(I-)を含む塩(イオン性液体や固体塩)とによって形成することができる。アニオンとしてアイオダイドを有するイオン性液体を用いる場合には、ヨウ素のみ添加すればよく、有機溶媒や、アニオンとしてアイオダイド以外のイオン性液体を用いる場合には、LiIやテトラブチルアンモニウムアイオダイドなどのアニオンとしてアイオダイド(I-)を含む塩を添加すればよい。
【0047】
また電解質40は、通常、有機溶媒を含んでいる。電解質40に含まれる有機溶媒としては、アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、プロピオニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、バレロニトリル、ピバロニトリルなどを用いることができる。
【0048】
また電解質40は、有機溶媒に代えて、イオン液体を用いてもよい。イオン液体としては、例えばピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、トリアゾリウム塩等の既知のヨウ素塩であって、室温付近で溶融状態にある常温溶融塩が用いられる。このような常温溶融塩としては、例えば、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウムアイオダイド、1-エチル-3-プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムアイオダイド、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムアイオダイド、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムアイオダイド、又は、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムアイオダイドが好適に用いられる。
【0049】
また電解質40は、上記有機溶媒に代えて、上記イオン液体と上記有機溶媒との混合物を用いてもよい。
【0050】
(イミダゾール化合物)
電解質40はイミダゾール化合物を含む。電解質40に含まれるイミダゾール化合物としては、例えばベンゾイミダゾール化合物又は下記(1)式で表されるイミダゾール化合物(以下、「イミダゾール化合物A」と呼ぶ)などを用いることができる。
【化1】
(上記式(1)中、R
1~R
4はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1~4の炭化水素基、-SR
5又は-OR
6を表す。R
5及びR
6はそれぞれ独立に、水素原子又は脂肪族炭化水素基を表す。)
【0051】
ベンゾイミダゾール化合物は、無置換のベンゾイミダゾール化合物でも置換基を有する置換されたベンゾイミダゾール化合物でもよい。上記置換基としては、炭化水素基、ニトリル基、スルフォニル基及びフォスフォニル基などが挙げられる。
【0052】
ベンゾイミダゾール化合物において、置換基である炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基が挙げられるが、漏れ電流をより十分に抑制する観点からは脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基の炭素数は特に制限されるものではないが、1~4であることが好ましい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状又は分岐状のいずれでもよいが、他の分子に対する分子間力がより大きく、漏れ電流を抑制するバリア層をより緻密に形成しやすいという理由から、直鎖状であることが好ましい。さらに脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよいが、電解質40中の酸化還元対と反応しにくいことから飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましい。
【0053】
さらに、置換基である炭化水素基は、ベンゼン環の炭素原子に結合する水素原子を置換するものでも、イミダゾール環に結合する水素原子を置換するものでもよいが、イミダゾール環に結合する水素原子を置換するものであることが好ましい。この場合、置換基である炭化水素基が、ベンゼン環の水素原子を置換するものである場合に比べて、漏れ電流をより十分に抑制することができる。
【0054】
ベンゾイミダゾール化合物の具体例としては、例えば1-ブチルベンゾイミダゾール(NBB)、1-メチルベンゾイミダゾ-ル(NMB)、トリメチルベンゾイミダゾール、1-プロピルベンゾイミダゾール及び1,2-ジメチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
イミダゾール化合物Aは上記式(1)で表される。
【0056】
上記式(1)において、R1~R4で表される炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基は、直鎖状又は分岐状のいずれでもよい。さらに脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基でも不飽和炭化水素基でもよい。
【0057】
R5及びR6で表される脂肪族炭化水素基の炭素数は、特に制限されるものではないが、例えば1~3である。
【0058】
イミダゾール化合物Aの具体例としては、例えば1-メチルイミダゾール(MI)、イソプロピルイミダゾール(IPI)、ジメチルイミダゾール、エチルメチルイミダゾール、ジメチルプロピルイミダゾール、ブチルメチルイミダゾール、メチルプロピルイミダゾール及びメチルベンゾイミダゾールなどが挙げられる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
またイミダゾール化合物は、1種類のイミダゾール化合物で構成されてもよく、複数種類のイミダゾール化合物で構成されてもよい。
【0060】
イミダゾール化合物としては、ベンゾイミダゾール化合物が好ましい。この場合、イミダゾール化合物がベンゾイミダゾール化合物以外のイミダゾール化合物である場合に比べて、漏れ電流をより十分に抑制することができる。
【0061】
また、電解質40中のイミダゾール化合物の濃度は0.3~1.8Mであることが好ましい。
【0062】
電解質40中のイミダゾール化合物の濃度が上記範囲内にあると、電解質40中のイミダゾール化合物の濃度が上記範囲を外れる場合に比べて、漏れ電流をより十分に抑制できる。
【0063】
電解質40中のイミダゾール化合物の濃度は0.5~1.65Mであることがさらに好ましい。
【0064】
また電解質40には添加剤を加えることができる。添加剤としては、4-t-ブチルピリジン、グアニジウムチオシアネートなどが挙げられる。
【0065】
さらに電解質40としては、上記電解質にSiO2、TiO2、カーボンナノチューブなどのナノ粒子を混練してゲル様となった擬固体電解質であるナノコンポジットゲル電解質を用いてもよく、また、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド誘導体、アミノ酸誘導体などの有機系ゲル化剤を用いてゲル化した電解質を用いてもよい。
【0066】
電解質40の量mと封止部30の酸素透過速度vとの比、すなわち、上記式(1)で表される酸素透過速度比rは0.00040~0.00150cm3(STP)/(day・mL)である。この場合、上記式(1)で表されるrが上記範囲を外れる場合と比べて、光電変換素子100が、より優れた耐酸素性を有することが可能となる。
【0067】
上記式(1)のrは0.00005~0.00100cm3(STP)/(day・mL)であることが好ましい。この場合、酸化物半導体層13を第1電極基板10側から平面視した場合の面(発電面)内における出力密度のムラがより生じにくくなる。
【0068】
<色素>
色素としては、例えばビピリジン構造、ターピリジン構造などを含む配位子を有するルテニウム錯体、ポルフィリン、エオシン、ローダニン、メロシアニンなどの有機色素などの光増感色素や、ハロゲン化鉛系ペロブスカイト結晶などの有機-無機複合色素などが挙げられる。ハロゲン化鉛系ペロブスカイトとしては、例えばCH3NH3PbX3(X=Cl、Br、I)が用いられる。ここで、色素として光増感色素を用いる場合には、光電変換素子100は色素増感光電変換素子となり、光電変換セル50は色素増感光電変換セルとなる。
【0069】
上記色素の中でも、ビピリジン構造又はターピリジン構造を含む配位子を有するルテニウム錯体からなる光増感色素が好ましい。この場合、光電変換素子100の光電変換特性をより向上させることができる。
【0070】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば上記実施形態では、第1電極基板10が透明基板11を有し、透明基板11上に透明導電層12を介して酸化物半導体層13が設けられているが、酸化物半導体層13が第2電極基板20の導電性基板21上に設けられていてもよい。但し、この場合、触媒層22は第1電極基板10の透明導電層12上に設けられることとなる。
【0071】
また、上記実施形態では、光電変換素子100は、1つの光電変換セル50を備えているが、光電変換素子は、光電変換セル50を複数備えていてもよい。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の内容を、実施例を挙げてより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
まず、5.4cm×5.4cmのフィルムに四角形状の開口を形成し、封止部を形成するための封止部形成体を得た。このとき、封止部形成体の構成材料としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン(商品名:バイネル4164、デュポン社製、酸素透過係数d:195cm3(STP)・mm/(m2・day・atm))を用いた。
【0074】
次に、ガラスからなる10cm×10cm×2.2mmの透明基板の上に、0.6μmのFTOからなる透明導電層を形成してなる積層体を準備した。
【0075】
次に、透明導電層の上に、酸化物半導体層の前駆体を形成した。酸化物半導体層の前駆体は、透明導電層上に酸化チタンナノペーストを印刷した後、460℃で90分間加熱して焼成することにより5cm×5cm×厚さ10μmの四角形状の酸化チタン多孔質膜からなる酸化物半導体層を得た。こうして構造体を得た。
【0076】
一方、t-ブタノールとアセトニトリルとの混合溶媒にZ907からなる光増感色素を溶解させて色素溶液を得た。
【0077】
そして、上記のようにして得られた構造体を上記色素溶液中に一晩浸漬することにより、酸化物半導体層の表面に光増感色素を吸着させた。そして、透明導電層上に酸化物半導体層を包囲するように、上記のようにして用意した封止部形成体を配置した。
【0078】
次に、酸化物半導体層上に電解質を0.15mL滴下した。電解質は、アルゴン雰囲気下、3-メトキシプロピオニトリルからなる溶媒中に、ヨウ素と、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムアイオダイドと、1-ブチルベンゾイミダゾール(NBB)とを添加することにより得た。このとき、電解質中のヨウ素、1,2-ジメチル-3-プロピルイミダゾリウムアイオダイド及びNBBの濃度がそれぞれ0.01M、0.6M、0.25Mとなるようにした。
【0079】
一方、厚さ0.04mmのチタン箔上に白金を、その厚さが5nmとなるようにスパッタして得られる対向基板であって5.4cm×5.4cm×0.04mmの第2電極基板を用意した。このとき、チタン箔の表面において、封止部を形成する予定の周縁部には、触媒層が成膜されないようにマスキングを施した。そして、第2電極基板のチタン箔のうち触媒層が成膜されていない周縁部に、上記のようにして得られた封止部形成体を配置し、熱ラミネート法によって接着させた。こうして、封止部形成体を形成した第2電極基板を用意した。
【0080】
そして、封止部形成体を形成した第2電極基板を、封止部形成体を介して上記構造体に対向するように配置し、封止形成体を190℃で加熱しながらプレスして透明導電層と第2電極基板とを接着させた。このとき、封止部形成体に十分な応力をかけることにより、厚さ(高さ)0.0050cm(50μm)、幅2mmの封止部を得た。ここで、封止部の外周長を21cmとし、封止部の厚さ(高さ)を0.0050cm(50μm)とすることにより、封止部の高さと封止部の外周の周長との積である酸素透過面積aを0.105×10-4m2とした。こうして光電変換素子を得た。
【0081】
上記のようにして得られた光電変換素子について、下記式(1)で表される電解質の量m(mL)と封止部の酸素透過速度v(cm3(STP)/day)との比である酸素透過速度比r(cm3(STP)/(day・mL))、及び、下記式(2)で表される酸素透過速度v(cm3(STP)/day)を求めた。結果を表1に示す。なお、式(2)中、Cの値としては、セル空間の外部における酸素分圧が0.209atmであり、セル空間の内部における酸素分圧が約0atmであるため、0.209(atm)を用いた。
酸素透過速度比r=v/m (1)
(上記式(1)中、vは下記式(2)で表される封止部の酸素透過速度(cm3(STP)/day)を表し、mは電解質の量(mL)を表す)
v=d×C×a/w (2)
(上記式(2)中、dは封止部の酸素透過係数(cm3(STP)・mm/(m2・day・atm))を表し、aは封止部における酸素の透過面積(m2)を表し、Cはセル空間の内部における酸素分圧とセル空間の外部における酸素分圧との差の絶対値(atm)を表し、wは封止部の幅(mm)を表す)
【0082】
(実施例2~4及び比較例1~4)
電解質中のイミダゾール化合物濃度、電解質量m、封止部の酸素透過係数d、高さh、外周長、高さh×外周長、酸素透過面積a、幅w、大気中の酸素分圧p、酸素透過速度v、及び酸素透過速度比rを表1に示す通りとしたこと以外は実施例1と同様にして光電変換素子を作製した。
【0083】
<耐光性>
上記のようにして得られた実施例1~4及び比較例1~4の光電変換素子について、作製直後に1sunの擬似太陽光を10時間照射した後、直ちに200ルクスの白色光を照射した状態でI-V測定を行い、出力値を算出した。そして、実施例1~4及び比較例1~4の出力値を、比較例1の出力値を100とした相対値である出力比R1として算出した。この出力比R1を耐光性の指標とした。結果を表1に示す。なお、比較例1の出力値を100(基準)としたのは、電解質中のベンゾイミダゾール化合物の濃度が低いほど耐光性が低いと考えられるところ、比較例1における電解質中のベンゾイミダゾール化合物の濃度が実施例1~4及び比較例1~4のうち最低であるからである。また、IV測定に用いた光源、照度計および電源は以下の通りとした。
光源:白色LED(製品名「LEL-SL5N-F」、東芝ライテック社製)
照度計:製品名「デジタル照度計51013」、横河メータ&インスツルメンツ社製
電源:電圧/電流 発生器(製品名「R6246I」、ADVANTEST製)
耐光性の合格基準は以下の通りとした。
(合格基準)出力比R1が100より大きいこと
【0084】
<耐酸素性>
上記実施例1~4及び比較例1~4の光電変換素子を別途用意し、これらの光電変換素子について、乾燥空気中の85℃のオーブンで1000時間加熱した後、20℃の暗所に24時間静置し、続いて、200ルクスの白色光を照射した状態でI-V測定を行い、出力値を算出した。そして、実施例1~4及び比較例1~4の出力値を、比較例2の出力値を100とした相対値である出力比R2として算出した。この出力比R2を耐酸素性の指標とした。結果を表1に示す。なお、比較例2の出力値を100(基準)としたのは、封止部の酸素透過速度比rが大きいほど耐酸素性が低いところ、比較例2における酸素透過速度比rが実施例1~4及び比較例1~4のうち最大であるからである。また、IV測定に用いた光源、照度計および電源としては、出力比R1の測定に用いたときの光源、照度計および電源と同じものを使用した。また、表1中、「-」は、封止部に剥がれが発生したため、出力を算出できなかったことを示す。
耐酸素性の合格基準は以下の通りとした。
(合格基準)出力比R2が100より大きいか、又は「-」でないこと
【表1】
【0085】
表1に示すように、実施例1~4の光電変換素子は、耐酸素性及び耐光性の点で合格基準を満たすことが分かった。これに対し、比較例1~4の光電変換素子は、耐酸素性及び耐光性の少なくとも1つの点で合格基準を満たさないことが分かった。
【0086】
以上の結果から、本発明の光電変換素子は、高照度下に置かれた場合でも、優れた耐酸素性を有しつつ、優れた耐光性を有することが確認された。
【符号の説明】
【0087】
10…第1電極基板
13…酸化物半導体層
20…第2電極基板
22…触媒層
30…封止部
40…電解質
50…光電変換セル
100…光電変換素子