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特許7014677新規なクロロシリルアリールゲルマン、その製造方法およびその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】新規なクロロシリルアリールゲルマン、その製造方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/02 20060101AFI20220125BHJP
   B01J 31/02 20060101ALI20220125BHJP
   C07F 7/30 20060101ALI20220125BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20220125BHJP
【FI】
C07F7/02 C CSP
B01J31/02 102Z
C07F7/30 Z
C07B61/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018106110
(22)【出願日】2018-06-01
(65)【公開番号】P2018203737
(43)【公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-01-08
(31)【優先権主張番号】17173940.2
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100182545
【弁理士】
【氏名又は名称】神谷 雪恵
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ユリアン タイヒマン
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ヴァーグナー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス-ヴォルフラム レアナー
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-515955(JP,A)
【文献】特表2010-523458(JP,A)
【文献】特開昭63-234513(JP,A)
【文献】特開昭61-099150(JP,A)
【文献】KAWACHI, A. et al.,Synthesis and structures of a series of Ge-M (M=C, Si, and Sn) compounds derived from germyllithium containing three 2-(dimethylamino)phenyl groups on germanium,Journal of Organometallic Chemistry,1999年,Vol.590, No.1,pp.15-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
XGe(Y)-SiCl (I)
[式中、
基Xは、フェニル(Ph)または[-Ge(Y)-SiCl]であり
基Yは、互いに独立してフェニル(Ph)を表す]
のクロロシリルアリールゲルマン。
【請求項2】
トリクロロシリルトリフェニルゲルマンおよび/または1,2-ビス(トリクロロシリル)-1,1,2,2-テトラフェニルジゲルマンの系列から選択される、請求項1記載のクロロシリルアリールゲルマン。
【請求項3】
請求項1または2記載のクロロシリルアリールゲルマンの製造方法であって、
(a)アリールクロロゲルマンをヘキサクロロジシランとともに溶媒に溶解させ、ここで、前記アリールクロロゲルマンのアリール基は、互いに独立してフェニルを表すものとし、かつ
(b)触媒の存在下で5~40℃の温度で反応させる
ことによる方法。
【請求項4】
前記反応を室温で行う、請求項3記載の方法。
【請求項5】
トリアリールクロロゲルマンを、ヘキサクロロジシラン、略してHCDSに対して1:1のモル比で使用し、かつ/またはジアリールジクロロゲルマンを、ヘキサクロロジシランに対して1:2のモル比で使用することを特徴とする、請求項3記載の方法。
【請求項6】
トリフェニルクロロゲルマンおよび/またはジフェニルジクロロゲルマンの系列からのアリールクロロゲルマンを使用することを特徴とする、請求項3から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
溶媒としてジクロロメタンを使用することを特徴とする、請求項3から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
触媒として、塩化ホスホニウム塩[RP]Clまたは塩化アンモニウム塩[RN]Clを使用し、ここで、前記基Rは、Me、Et、iPr、nBu、Phから選択されることを特徴とする、請求項3から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
ヘキサクロロジシラン1モルあたり0.001~1モルの量の前記触媒を使用することを特徴とする、請求項3から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
ヘキサクロロジシラン1モルあたり少なくとも5モルの溶媒を使用することを特徴とする、請求項3から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記反応を、
混合しなが
1~24時間かけ、かつ
護ガス下
行い、次いで溶媒の除去を、
燥した無酸素環境
い、形成されたクロロシリルアリールゲルマンを結晶性生成物として取得することを特徴とする、請求項3から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
GeSi層を生成するための、請求項1もしくは2記載のまたは請求項3から11までのいずれか1項記載の方法により製造されたクロロシリルアリールゲルマンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なクロロシリルアリールゲルマン、その製造方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロシラン、ポリハロシラン、ハロゲルマン、ポリハロゲルマン、シラン、ポリシラン、ゲルマン、ポリゲルマンおよび相応する混合化合物は長い間知られている。無機化学の慣例の教本の他に、国際公開第2004/036631号(WO 2004/036631 A2)またはC.J.Ritterら,J.Am.Chem.Soc.,2005,127,9855-9864も参照のこと。
【0003】
L.Muellerらは、J.Organomet.Chem.,1999,579,156-163において、特にトリクロロシリルメチルゲルマンの製造を記載している。
【0004】
Angew.Chem.,1993,105,587-588(G.Sihら)およびTetrahedron Lett.,1970,51,4443-4447(F.Feherら)から、メチルゲルミルシランおよびフェニルゲルミルシランが知られている。
【0005】
さらに、フェニルおよび水素を含有する化合物であって、Sn-Si結合およびSn-Ge結合が存在する化合物が知られている(J.B.Ticeら,J.Inorganic Chemistry,2009,48(13),6314-6320)。この場合、これらの化合物をIR半導体として使用することが提案されている。
【0006】
Singhらは、米国特許第7,540,920号明細書(US 7,540,920 B2)において、式X-Si-Ge-X[式中、X1~6は、水素基またはハロゲン基である]のSi-Ge化合物を開示している。
【0007】
クロロシリルアリールゲルマンについては、現在のところ実際には知られていない。したがって、基礎研究によって新規な化合物を見出し、特に考えられる工業的なおよび場合により改良可能な用途をも考慮して新規の製造経路を探求する努力がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2004/036631号
【文献】米国特許第7,540,920号明細書
【非特許文献】
【0009】
【文献】J.Am.Chem.Soc.,2005,127,9855-9864
【文献】J.Organomet.Chem.,1999,579,156-163
【文献】Angew.Chem.,1993,105,587-588
【文献】Tetrahedron Lett.,1970,51,4443-4447
【文献】J.Inorganic Chemistry,2009,48(13),6314-6320
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、新規なケイ素-ゲルマニウム化合物およびその製造方法を提供することを課題としていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、ケイ素-ゲルマニウム化合物、特に
Ge-SiCl、ClSi-GeR-GeR-SiCl、ClGe-SiCl、[PhP][Ge(SiCl]、[PhP][Ge(SiCl*GaCl]、[PhP][Ge(SiCl*BBr
を製造するための新規な合成方法として、RGeCl4-n(n=0、2、3)型の塩素化または過塩素化された有機または非有機ゲルマニウム化合物と、ヘキサクロロジシランとを、触媒量の塩化アンモニウム塩[RN]Clまたはホスホニウム塩[RP]Cl(ここで、基Rは、Me、Et、iPr、nBuである)の添加下に、あるいは化学量論量のかかる塩の添加下に反応させることが見出された。この本発明による反応によって、様々なケイ素-ゲルマニウム化合物が得られる。
【0012】
さらに、RGeCl型の出発材料が、塩化アンモニウムの存在下でのSiClとの反応によって転化し、その際、Ge-Clの位置でGe-Si結合形成が生じることが見出された。RGeClとSiCl/塩化アンモニウムとの反応の場合には、このGe-Si結合形成が、一方のGe-Clの位置でのみ生じる。さらに、第2のGe-Clの位置でGe-Ge結合形成が生じる。こうして見出されまたは製造されたゲルマニウム-ケイ素化合物を、LiAlHにより水素化ケイ素化合物に転化させることができる。本発明の範囲において、かかる化合物は、例えばPhGe-SiClからPhGe-SiHの合成により製造される。RGeCl4-n(n=0)型の化合物の反応の場合には、化学量論に応じて様々な反応が生じる。
【0013】
[RN][GeCl]塩(GeCl:SiCl:[RN]Cl、1:1:1)、
ClSi-GeCl(GeCl:SiCl:[RN]Cl、1:1:0.1)または
[PhP][Ge(SiCl](GeCl:SiCl:[PhP]Cl、1:4:1)
が生成された。[PhP][Ge(SiCl]をルイス酸(略して「LS」)と反応させることにより、相応する付加物[PhP][Ge(SiCl*LS]へと転化させることができる。
【0014】
本発明の範囲において、「当量」、略して「eq.」という単位は、ヘキサクロロジシランのモル量を基準とする触媒のモル量と理解される。例えば、0.1当量の触媒とは、ヘキサクロロジシラン1モルあたり0.1モルの触媒、またはヘキサクロロジシランに対して10モル%の触媒を意味する。
【0015】
本発明の範囲において、「ヘキサクロロジシラン」を「HCDS」とも略記する。
【0016】
したがって本発明の対象は、一般式(I)
XGe(Y)-SiCl (I)
[式中、
X=Yであるか、またはXは[-Ge(Y)-SiCl]であり、かつ
基Yは、互いに独立してフェニル(Ph)を表す]
のクロロシリルアリールゲルマンである。
【0017】
本発明によるクロロシリルアリールゲルマンの製造方法であって、
(a)アリールクロロゲルマンをヘキサクロロジシランとともに溶媒に溶解させ、ここで、前記アリールクロロゲルマンのアリール基は、互いに独立してフェニルを表すものとし、かつ
(b)触媒の存在下で5~40℃の温度で反応させる
ことによる方法も同様に対象である。
【0018】
以下、本発明を詳説する。
【0019】
本発明によるクロロシリルアリールゲルマンは、トリクロロシリルトリフェニルゲルマンおよび/または1,2-ビス(トリクロロシリル)-1,1,2,2-テトラフェニルジゲルマンの系列から選択されてよい。
【0020】
本発明による方法の工程(b)では、反応を室温で行うことが有利であり得る。
【0021】
好ましくは、本方法の工程(a)において、トリアリールクロロゲルマンを、ヘキサクロロジシランに対して1:1のモル比で使用してよく、かつ/またはジアリールジクロロゲルマンを、ヘキサクロロジシランに対して1:2のモル比で使用してよい。
【0022】
さらに、好ましくは、トリフェニルクロロゲルマンおよび/またはジフェニルジクロロゲルマンの系列からのアリールクロロゲルマンを使用することができる。
【0023】
HCDSとの望ましくない反応を避けるために、工程(a)で使用される溶媒として、好ましくは不活性のものが選択される。ジクロロメタンは、選択された温度範囲でHCDSと反応しないため、ジクロロメタンを特に有利に使用することができる。
【0024】
さらに、本発明による方法を実施する際に、触媒として塩化ホスホニウム塩[RP]Clまたは塩化アンモニウム塩[RN]Clを使用することも有利である場合があり、ここで、基Rは、Me、Et、iPr、nBu、Phから選択される。好ましくは、R=nBuを選択することができる。
【0025】
触媒の使用量が少ないほど、反応の進行が緩やかとなることが観察されている。一方で、触媒が過度に多量であると、これを転化反応の終了時に分離除去しなければならないことから、望ましくない。ヘキサクロロジシラン1モルあたり0.001~1モルの量の触媒を使用した場合に、分離除去に要するコストの点で本方法を経済的に実施できることが判明した。本方法は、ヘキサクロロジシラン1モルあたり0.01~0.1モルが使用される場合に特に有利に行われる。
【0026】
本発明による方法を経済的に実施するもう1つの観点は、溶媒の量の選択である。この方法では、ヘキサクロロジシラン1モルあたり少なくとも5モルの溶媒を使用することが好ましく、ヘキサクロロジシラン1モルあたり10モル~100モルの溶媒を使用することが特に好ましい。
【0027】
本発明による方法では、反応を、混合しながら、好ましくは撹拌しながら、1~24時間かけて、好ましくは12時間かけて、さらには好ましくは保護ガス下で、好ましくは窒素またはアルゴン下で行い、次いで溶媒を除去することが好ましい。この溶媒の除去を、好ましくは乾燥した無酸素環境で行うことができ、特に好ましくは隔離された環境で、例えばグローブボックス内で行うことができ、さらに好ましくは標準圧力または減圧下で、好ましくは1~500hPaの範囲で行うことができ、その際、形成されたクロロシリルアリールゲルマンが結晶性生成物として得られる。
【0028】
本発明による方法を用いて、すでにSinghら(米国特許第7,540,920号明細書(US 7,540,920 B2))によって開示はされているが製造方法は開示されていない、重要な分子であるトリクロロシリルトリクロロゲルマンを提供することもできる。この目的のために本方法に簡単な改変が加えられ、すなわちアリールクロロゲルマンの代わりにGeClが用いられる。その場合さらに、転化反応は、ヘキサクロロジシランを用いて溶媒中で触媒の存在下で行われる。
【0029】
したがって、トリクロロシリルトリクロロゲルマンの製造方法であって、GeClとヘキサクロロジシランとを溶媒に溶解させ、触媒の存在下で5~40℃の温度で反応させることによる方法も本発明の対象である。
【0030】
0.001~1当量、好ましくは0.01~0.1当量の量の触媒を使用することが有利であり得る。この方法の例示的な一実施形態を、例3に示す。
【0031】
この方法に対してさらに、塩化アンモニウム塩[RN]Clまたは塩化ホスホニウム塩[RP]Clを触媒量の代わりに化学量論量で使用し、好ましくは0.5~1.5当量、特に好ましくは1当量使用するという改変を加えた場合、驚くべきことにハロゲルマニドが得られ、例えば[RN]Clまたは[RP]Clを用いた場合にトリクロロゲルマニドが得られる。例4に、R=Buである場合の好ましい一実施形態を示す。
【0032】
例4により行われる合成は、カチオン[RN]を変化させ、かつSiClのヘテロシス開裂のために所望の塩化物塩を用いることによって[RN][GeCl]塩を取得するための新規な方法である。このことは特に興味深い。なぜなら、化合物がどれだけ良好に結晶化するかがカチオンによって決まることが判明したためである。
【0033】
このようにして、本発明により多種多様な[RN][GeCl]塩および[RP][GeCl]塩を製造することができる。例えば、本方法の好ましい一実施形態では、カチオンとして[PhP]を使用することにより、トリス-トリクロロシリルゲルマニドを得ることができる(例5)。さらに、トリス-トリクロロシリルゲルマニドをGaClと反応させることができる。これは、例6で説明される。
【0034】
例示的に例7で説明されるとおり、GaClとの反応の代わりに、トリス-トリクロロシリルゲルマニドをBBrと反応させてもよい。
【0035】
本発明によるまたは本発明により製造されたSi-Ge化合物は、Si-Ge薄層を狙い通りに堆積させるために使用される材料の前駆体としての役割を果たすことができる。
【0036】
したがって、Si-Ge層を生成するための、本発明によるクロロシリルアリールゲルマンまたは本発明により製造されたクロロシリルアリールゲルマンの使用も対象である。
【0037】
同様に、Si-Ge層を生成するための本発明により製造されたトリクロロシリルトリクロロゲルマンの使用も対象である。
【0038】
さらに、本発明によるクロロシリルアリールゲルマン、本発明により製造されたクロロシリルアリールゲルマンあるいは本発明により製造されたトリクロロシリルトリクロロゲルマンを、好ましくは塩素化された形態、水素化された形態への転化下におよび/またはその熱分解下に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1a図1aは、トリクロロシリルトリフェニルゲルマン(1)の結晶構造を示す図である。
図1b図1bは、トリクロロシリルトリフェニルゲルマン(1)の29Si NMRスペクトルを示す図である。
図2a図2aは、1,2-ビス(トリクロロシリル)-1,1,2,2-テトラフェニルジゲルマン(2)の結晶構造を示す図である。
図3a図3aは、トリクロロシリルトリクロロゲルマン(3)の29Si NMRスペクトルを示す図である。
図4a図4aは、トリクロロゲルマニド(4)の結晶構造を示す図である。
図5a図5aは、トリス-トリクロロシリルゲルマニド(5)の結晶構造を示す図である。
図5b図5bは、トリス-トリクロロシリルゲルマニド(5)の29Si NMRスペクトルを示す図である。
図6a図6aは、トリス(トリクロロシリル)ゲルマニドとGaClとの付加物(6)の結晶構造を示す図である。
図6b図6bは、トリス(トリクロロシリル)ゲルマニドとGaClとの付加物(6)の29Si NMRスペクトルを示す図である。
図7a図7aは、トリス(トリクロロシリル)ゲルマニドとBBrとの付加物(7)の結晶構造を示す図である。
図7b図7bは、トリス(トリクロロシリル)ゲルマニドとBBrとの付加物(7)の29Si NMRスペクトルを示す図である。
【0040】
以下の例により本発明をさらに説明するが、これにより対象を限定するものではない。これらの例では、「室温」という概念を「RT」と略記する。
【実施例
【0041】
結晶構造を求めるための分析方法
いずれの構造のデータも、MoKα線(λ=0.71073Å)を用いたミラー光学系を備えたGenixマイクロフォーカス管を備えたSTOE IPDS IIデュアルビーム回折計を用いて173Kで収集し、X-AREAプログラム(Stoe & Cie、2002)のフレームスケーリング手順を用いてスケーリングした。構造を、SHELXSプログラム(Sheldrick、2008)を用いた直接法で解析し、完全行列最小二乗法技術によりFに対して精密化した。セルパラメーターを、I>6σ(I)の反射のθ値に対する精密化によって求めた。
【0042】
使用物質:
ヘキサクロロジシラン、略して「HCDS」、Evonik Industries AG製GeCl、トリフェニルクロロゲルマン、ジフェニルジクロロゲルマン。
【0043】
例1:トリクロロシリルトリフェニルゲルマン(1)の製造
合成を、式1にしたがって、触媒量の0.1当量の[nBuN]Clを添加してPhGeClおよびSiClから行った。
【0044】
【化1】
【0045】
式1:触媒量の0.1当量の[nBuN]Clの添加下でのPhGeClとSiClとの反応
5ml、すなわち78.3ミリモルのCHCl中の、500mgに相当する1.47ミリモルのPhGeClと、40mg、すなわち0.14ミリモルの[nBuN]Clとの無色透明な溶液に、撹拌しながら室温で、400mgに相当する1.49ミリモルのSiClを加えた。無色透明な反応溶液が得られ、これを12時間撹拌した。ゆっくりと溶媒を除去した後、この反応溶液から無色の結晶性固体の形態の粗生成物(1)を単離することができた。収率は59%であった。この粗生成物はなおも、出発材料PhGeClを約30%含んでいた。X線回折法により、上記(1)の結晶構造を求めることができた(図1a)。図1a中の印のない原子は、水素を表す。
【0046】
上記(1)の29Si NMRスペクトルを、図1bに示す。
【0047】
H、13Cおよび29Si NMR分光分析のすべての結果:
【化2】
【0048】
例2:1,2-ビス(トリクロロシリル)-1,1,2,2-テトラフェニルジゲルマン(2)の製造
合成を、式2にしたがって、触媒量(0.1当量)の[nBuN]Clを添加してPhGeClおよびSiClから行った。
【0049】
【化3】
【0050】
式2:触媒量(0.1当量)の[nBuN]Clの添加下でのPhGeClとSiClとの反応
5ml、すなわち78.3ミリモルのCHCl中の、500mg、すなわち1.68ミリモルのPhGeClと、90mg、すなわち0.17ミリモルの[nBuN]Clとを含む無色透明な溶液に、室温で、903mg、すなわち3.36ミリモルのSiClを加えた。得られた反応溶液を、次いで室温で12時間撹拌した。
【0051】
ゆっくりと溶媒を除去した後、この反応溶液から粗生成物を収率77%で得ることができた。この粗生成物から、EtOでの抽出および後続の結晶化によって無色の結晶性固体(2)として単離することができた。この場合の収率は、57%であった。X線回折法により、上記(2)の結晶構造を求めることができた。これを図2aに示す。
【0052】
H、13Cおよび29Si NMR分光分析のすべての結果:
【化4】
【0053】
例3:トリクロロシリルトリクロロゲルマン(3)の製造
合成を、式3にしたがって、触媒量としての0.1当量の[nBuN]Clを添加してGeClおよびSiCl(1:1)から行った。
【0054】
【化5】
【0055】
式3:R=Buである触媒[nBuN]Clを触媒量(0.1当量)添加して行うGeClとSiCl(1:1)との反応
GeClとCHClとの30:70の混合物中の100mg、すなわち0.4ミリモルの[nBuN]Clを含む無色透明な溶液に、室温で、1g、すなわち3.7ミリモルのSiClを加え、そのようにして得られた反応混合物を、室温で12時間撹拌した。この反応溶液から、生成物(3)を、他の揮発性成分とともに、窒素冷却した受け器へと凝縮させた。その後の1013hPaでの蒸留により、純粋な(3)が22%の収率で無色透明な液体として単離された。
【0056】
上記(3)の29Si NMRスペクトルを、図3aに示す。
【0057】
29Si NMR分光分析のすべての結果:
【化6】
【0058】
例4:トリクロロゲルマニド(4)の製造
例3と同様に行ったが、ただし、[nBuN]Clを、1当量と同義である化学量論量で使用した点が異なる。転化反応を、式4によるレドックス反応で行った。
【0059】
【化7】
【0060】
式4:化学量論量、すなわち1当量の[nRN]Cl(R=Buである)の添加下でのGeClとSiCl(1:1)との反応
CHCl中の、300mg、すなわち1.4ミリモルのGeClと、390mg、すなわち1.4ミリモルの[nBuN]Clとの無色透明な溶液に、室温で、375mg、すなわち1.4ミリモルのSiClを加え、そのようにして得られた反応混合物を、室温で12時間撹拌した。溶媒をゆっくりと除去した後、この反応溶液からトリクロロゲルマニド(4)を帯黄色の結晶性固体として単離することができた。X線回折法により、上記(4)の構造を求めることができた。これを図4aに示す。分かりやすくするために、図4aにはカチオン[nBuN]は図示されていない。
【0061】
例5:トリス-トリクロロシリルゲルマニド(5)の製造
合成を、式5にしたがって、化学量論量の、この場合は1当量の[PhP]Clを添加して、1:4のモル比のGeClおよびSiClから行った。
【0062】
【化8】
【0063】
式5:化学量論量(1当量)の[PhP]Clの添加下でのGeClとSiCl(1:4)との反応
溶媒としてのCHCl中の、93mg、すなわち0.4ミリモルのGeClと、163mg、すなわち0.4ミリモルの[PhP]Clとを含む無色透明な溶液に、室温で478mg、すなわち1.7ミリモルのSiClを加え、そのようにして得られた反応混合物を、室温で12時間撹拌した。溶媒をゆっくりと除去した後、この混合物から上記(5)を帯黄色の結晶性固体として99%の収率で単離することができた。X線回折法により、上記(5)の結晶構造を求めることができた。これを図5aに示す。分かりやすくするために、図5aにはカチオン[PhP]は図示されていない。
【0064】
この反応では、GeClが還元され、さらにゲルマニウム原子に対して3箇所でシリル化が生じる。
【0065】
上記(5)の29Si NMRスペクトルを、図5bに示す。
【0066】
Hおよび29Si NMR分光分析のすべての結果:
【化9】
【0067】
例6:トリス(トリクロロシリル)ゲルマニドとGaClとの付加物(6)の製造
上記(6)の合成を、式6にしたがって、トリス-トリクロロシリルゲルマニド(5)およびGaClから行った。
【0068】
【化10】
【0069】
式6:5とGaClとの反応
50mg、すなわち0.1ミリモルの5と、10mg、すなわち0.1ミリモルのGaClとを、室温で固体として混合し、次いでCHClに完全に溶解させた。透明な黄色の反応混合物を、室温で12時間撹拌した。ゆっくりと溶媒を除去した後、この透明な黄色の反応溶液から、上記(6)を、黄色の結晶性固体として82%の収率で得ることができた。X線回折法により、上記(6)の結晶構造を求めることができた。これを図6aに示す。分かりやすくするために、図6aにはカチオン[PhP]は図示されていない。
【0070】
上記(6)の29Si NMRスペクトルを、図6bに示す。
【0071】
Hおよび29Si NMR分光分析のすべての結果:
【化11】
【0072】
例7:トリス(トリクロロシリル)ゲルマニドとBBrとの付加物(7)の製造
上記(7)の合成を、式7にしたがって、トリス-トリクロロシリルゲルマニド(5)およびBBrから行った。
【0073】
【化12】
【0074】
式7:5とBBrとの反応
CHCl中の5の透明な黄色の溶液に、室温でBBrを加えた。4日後、そのようにして得られた黄色の反応溶液から無色の結晶が析出した。X線回折法により、上記(7)の結晶構造を求めることができた。これを図7aに示す。分かりやすくするために、図7aにはカチオン[PhP]は図示されていない。
【0075】
上記(7)の29Si NMRスペクトルを、図7bに示す。
【0076】
11Bおよび29Si NMR分光分析のすべての結果:
【化13】
図1a
図1b
図2a
図3a
図4a
図5a
図5b
図6a
図6b
図7a
図7b