(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】ロッカアーム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F01L 1/18 20060101AFI20220125BHJP
F01M 9/10 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
F01L1/18 F
F01L1/18 D
F01L1/18 M
F01M9/10 A
(21)【出願番号】P 2018107290
(22)【出願日】2018-06-04
【審査請求日】2020-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000185488
【氏名又は名称】株式会社オティックス
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】前迫 貴之
(72)【発明者】
【氏名】山口 弘毅
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第102007012797(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012208788(DE,A1)
【文献】国際公開第2009/059626(WO,A1)
【文献】特開2004-176557(JP,A)
【文献】特開2008-057514(JP,A)
【文献】特開2001-047179(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/18
F01M 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先後方向に延び幅方向に互いに離間した二つの側壁(3)と、二つの側壁(3)の下部間を連結する底壁(4)とを備え、二つの側壁(3)にロッカシャフト(21)を通す巻き付き部(6)が形成された内燃機関のロッカアームにおいて、
底壁(4)の幅方向中央部に上方へ突出し先後方向に延びる突条(7)が一体形成され、底壁(4)の幅方向両端部の上は突条(7)と側壁(3)とで挟まれた油溜まり(9)とされ、
突条(7)の頂部に、巻き付き部(6)の内周面下部の延長上に位置する、巻き付き部(6)の半径と等しい曲率半径を持つ
、ロッカシャフト(21)との当り幅が各巻き付き部(6)とロッカシャフト(21)との当り幅よりも短い部分凹円筒面(8)が形成され、二つの巻き付き部(6)と部分凹円筒面(8)との三箇所でロッカシャフト(21)を支持するようにしたことを特徴とするロッカアーム。
【請求項2】
先後方向に延び幅方向に互いに離間した二つの側壁(3)と、二つの側壁(3)の下部間を連結する底壁(4)とを備え、二つの側壁(3)にロッカシャフト(21)を通す巻き付き部(6)が形成された内燃機関のロッカアームの製造方法において、
板金曲げ加工により、二つの側壁(3)と底壁(4)とを一体形成するとともに、底壁(4)の幅方向中央部に上方へ突出し先後方向に延びる突条(7)を一体形成して、底壁(4)の幅方向両端部の上は突条(7)と側壁(3)とで挟まれた油溜まり(9)とし、
ドリル(15)により、二つの側壁(3)に巻き付き部(6)を穴あけ加工するとともに、突条(7)の頂部に、巻き付き部(6)の内周面下部の延長上に位置する、巻き付き部(6)の半径と等しい曲率半径を持つ
、ロッカシャフト(21)との当り幅が各巻き付き部(6)とロッカシャフト(21)との当り幅よりも短い部分凹円筒面(8)を切削加工して、二つの巻き付き部(6)と部分凹円筒面(8)との三箇所でロッカシャフト(21)を支持できるようにすることを特徴とするロッカアームの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のロッカアームに関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のバルブを開閉させる動弁系部品の一つとして、ロッカシャフト式ロッカアームが知られている(特許文献1)。ロッカシャフト式ロッカアームは、幅方向に貫通するロッカシャフトの外径よりも僅かに大きい内径の孔(巻き付き部ともいう。)を有し、巻き付き部にロッカシャフトが内径と前記外径との差に基づくクリアランスをもって通されることにより、回動可能に軸着される。すなわち、すべり面である巻き付き部でロッカシャフトを受けるすべり軸受である。巻き付き部とロッカシャフトとの間は、凝着しないように、潤滑油を介在させる必要がある。
【0003】
ロッカシャフト式ロッカアームの製造方法は、鍛造などが多く、板金曲げ加工は少ない。
【0004】
図3に示すように、鍛造によるロッカアーム51の中間部は幅方向に中実であり、この中間部に巻き付き部56が形成される。よって、ロッカアーム51とロッカシャフト50との当り幅(潤滑油が介在されるから「濡れ長さ」ともいう。)は、巻き付き部56の長さすなわち該中間部の幅であって、十分に大きいため、巻き付き部56とロッカシャフト50との面圧が低くなり、摩耗信頼性を高めやすい。また、巻き付き部56に、潤滑油を溜める油溜まり59を設けたり、潤滑油を通す油孔(図示略)を設けたりすることも容易にできる。
【0005】
図4に示すように、板金曲げ加工によるロッカアーム61は、曲げ加工された板金よりなる二つの側壁63と底壁64とを備え、二つの側壁63の中間部に巻き付き部66が形成される。よって、ロッカアーム61とロッカシャフト60との当り幅(濡れ長さ)は、二つの側壁63の板厚分にすぎず、短いため、巻き付き部66とロッカシャフト60との面圧が高くなり、摩耗信頼性を高めにくい。また、巻き付き部66に、油溜まりや油孔を設けることが難しい。但し、板金曲げ加工によるロッカアーム61は、製造性が良く、低コスト化でき、軽量化しやすいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、
図5に示すように、板金曲げ加工によるロッカアーム61の底壁64に、巻き付き部66の下部と連続する、巻き付き部66の半径と等しい曲率半径を持つ部分凹円筒面68を加工して、部分凹円筒面68でもロッカシャフト60を支持するようにし、巻き付き部66とロッカシャフト60との面圧を低くすることが考えられる。ドリルにより巻き付き部66の穴あけ加工と部分凹円筒面68の切削加工とを一度に連続して行うことができるが、ドリルにより部分凹円筒面68を精度良く切削加工するのは難しいうえに、部分凹円筒面68の加工長さが長いことから、加工時間が長くかかり、コストアップになり、精度を確保することが困難である。
【0008】
そこで、本発明の目的は、板金曲げ加工によるロッカアームにおいて、底壁の幅方向中央部に突条を形成することにより、底壁に部分凹円筒面を短い加工時間で精度良く形成できるようにし、二つの側壁の巻き付き部と部分凹円筒面との三箇所でロッカシャフトを支持することにより、巻き付き部とロッカシャフトとの面圧を低減し、摩耗信頼性を高めることにある。また、底壁の幅方向両端部の上を油溜まりとして、巻き付き部とロッカシャフトとの潤滑性を確保することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]ロッカアーム
先後方向に延び幅方向に互いに離間した二つの側壁と、二つの側壁の下部間を連結する底壁とを備え、二つの側壁にロッカシャフトを通す巻き付き部が形成された内燃機関のロッカアームにおいて、
底壁の幅方向中央部に上方へ突出し先後方向に延びる突条が一体形成され、底壁の幅方向両端部の上は突条と側壁とで挟まれた油溜まりとされ、
突条の頂部に、巻き付き部の内周面下部の延長上に位置する、巻き付き部の半径と等しい曲率半径を持つ、ロッカシャフトとの当り幅が各巻き付き部とロッカシャフトとの当り幅よりも短い部分凹円筒面が形成され、二つの巻き付き部と部分凹円筒面との三箇所でロッカシャフトを支持するようにしたことを特徴とするロッカアーム。
【0010】
(作用)
底壁の幅方向中央部に突条が形成され、突条の頂部に部分凹円筒面が形成されるため、部分凹円筒面の幅方向長さ(加工長さ)は底壁の幅よりも短く、さらに各巻き付き部とロッカシャフトとの当り幅よりも短い。このため、底壁に部分凹円筒面を短い加工時間で精度良く形成できるようになる。二つの巻き付き部と部分凹円筒面との三箇所でロッカシャフトを支持することにより、巻き付き部とロッカシャフトとの面圧が低減される。また、底壁の幅方向両端部の油溜まりに溜まった潤滑油は、巻き付き部及び部分凹円筒面とロッカシャフトとの間に供給される。
【0011】
[2]ロッカアームの製造方法
先後方向に延び幅方向に互いに離間した二つの側壁と、二つの側壁の下部間を連結する底壁とを備え、二つの側壁にロッカシャフトを通す巻き付き部が形成された内燃機関のロッカアームの製造方法において、
板金曲げ加工により、二つの側壁と底壁とを一体形成するとともに、底壁の幅方向中央部に上方へ突出し先後方向に延びる突条を一体形成して、底壁の幅方向両端部の上は突条と側壁とで挟まれた油溜まりとし、
ドリルにより、二つの側壁に巻き付き部を穴あけ加工するとともに、突条の頂部に、巻き付き部の内周面下部の延長上に位置する、巻き付き部の半径と等しい曲率半径を持つ、ロッカシャフトとの当り幅が各巻き付き部とロッカシャフトとの当り幅よりも短い部分凹円筒面を切削加工して、二つの巻き付き部と部分凹円筒面との三箇所でロッカシャフトを支持できるようにすることを特徴とするロッカアームの製造方法。
【0012】
(作用)
ドリルによる巻き付き部6の穴あけ加工と部分凹円筒面の切削加工は、一度に連続して行うことができる。底壁の幅方向中央部に突条を形成し、突条の頂部に部分凹円筒面を形成するため、部分凹円筒面の幅方向長さ(加工長さ)は底壁の幅よりも短く、さらに各巻き付き部とロッカシャフトとの当り幅よりも短い。このため、底壁に部分凹円筒面を短い加工時間で精度良く形成できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、板金曲げ加工によるロッカアームにおいて、底壁の幅方向中央部に突条を形成することにより、底壁に部分凹円筒面を短い加工時間で精度良く形成できるようになり、二つの巻き付き部と部分凹円筒面との三箇所でロッカシャフトを支持することにより、巻き付き部とロッカシャフトとの面圧を低減し、摩耗信頼性を高めることができる。また、底壁の幅方向両端部の上を油溜まりとし、巻き付き部及び部分凹円筒面とロッカシャフトとの潤滑性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は実施例のロッカアームを示し、(a)は斜視図、(b)はIb-Ib断面図、(c)はIc-Ic断面図、(d)はロッカシャフトを通したときの断面図である。
【
図2】
図2(a)は同ロッカアームに巻き付き部と部分凹円筒面を形成するときの断面図、(b)は同ロッカアームを内燃機関に搭載したときの断面図である。
【
図3】
図3は従来例の鍛造によるロッカアームを示し、(a)は斜視図、(b)は断面図、(c)はロッカシャフトを通したときの断面図である。
【
図4】
図4は従来例の板金曲げ加工によるロッカアームを示し、(a)は斜視図、(b)はIVb-IVb断面図、(c)はIVc-IVc断面図、(d)はロッカシャフトを通したときの断面図である。
【
図5】
図5は従来例の板金曲げ加工によるロッカアームの改良案を示し、(a)は斜視図、(b)はVb-Vb断面図、(c)はVc-Vc断面図、(d)はロッカシャフトを通したときの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.巻き付き部
巻き付き部は、側壁の先後方向の、中間部に形成されていてもよいし、後部に形成されていてもよい(いわゆるスイングアームタイプ)。
【0016】
2.カムに当接する部位
カムに当接する部位は、側壁に回転可能に軸着されたローラが好ましいが(いわゆるローラアームとなる)、側壁に固定されたスリッパでもよい。
【0017】
3.バルブを押圧する部位
バルブを押圧する部位は、通常、側壁の先後方向の先部に形成されている。バルブを押圧する部位は、特に限定されないが、二つの側壁の先端部の下部の間を連結する作用部である態様を例示できる。この作用部は、二つの側壁と一体形成されたものであることが好ましい。また、作用部は、その下面がバルブ押圧面(パッド面)となっている態様や、作用部に押圧部材としてのアジャスタピンが螺合された態様を例示できる。
【実施例】
【0018】
図1及び
図2に示す実施例のロッカアーム1は、ロッカシャフト21に回転可能に軸着されるロッカアーム本体2と、ロッカアーム本体2に回転可能に軸着されたローラ10とを含み構成された、いわゆるローラアームである。
【0019】
ロッカアーム本体2は、先後方向に延び幅方向に互いに離間した二つの側壁3と、二つの側壁3の巻き付き部6よりも下部の間を連結する底壁4と、二つの側壁3の先端部の下部の間を連結する作用部5とを備え、これらは鋼材により一体形成されている。より詳しくは、これらは曲げ加工された鋼材の板金よりなるものである。
【0020】
二つの側壁3の先後方向の中間部には、ロッカシャフト21の外径よりも僅かに大きい内径の巻き付き部6(孔)が幅方向に貫設され、巻き付き部6にロッカシャフト21が前記外径と内径の差に基づくクリアランスをもって通されることにより、ロッカアーム1本体は回動可能に軸着される。すなわち、すべり面である巻き付き部6でロッカシャフト21を受けるすべり軸受である。
【0021】
底壁4の上面の先端は、巻き付き部6の先端よりも先側にあり、且つ、ロッカアーム1の先端よりも(本例では作用部5の後端よりも)後側にある。底壁4の上面の後端は、巻き付き部6の後端よりも後側にあり、且つ、ロッカアーム1の後端よりも(本例ではローラ10の下部よりも)先側にある。
【0022】
底壁4の幅方向中央部には、上面から上方へ突出し先後方向に延びる断面山形状の突条7が一体形成されている。突条7は、後述する曲げ加工時に形成されたものである。突条7の先後方向中間部の頂部には、巻き付き部6の内周面下部の延長上に位置する、巻き付き部6の半径と等しい曲率半径を持つ、ロッカシャフト21との当り幅が各巻き付き部6とロッカシャフト21との当り幅よりも短い部分凹円筒面8が形成され、二つの巻き付き部6と部分凹円筒面8との三箇所で、ロッカシャフト21を支持できるようになっている。
【0023】
底壁4の幅方向両端部の上は、突条7と側壁3とで挟まれた油溜まり9とされている。底壁4の上面はその先端及び後端が中間部よりも高い形状をなしているため、油溜まり9に潤滑油が溜まりやすい。なお、底壁4の幅方向中央部の下面には溝があり、この溝は後述する曲げ加工時に突条7の形成に伴って形成されたものである。
【0024】
作用部5も、底壁4と同時に同様に曲げ加工されたものであり、よって上面には突条が形成され(格別の機能はない)、下面には溝が形成されている。作用部5の下面がバルブ押圧面となっている。
【0025】
ローラ10は、二つの側壁3の先後方向の後部の間に回転可能に軸着されている。より詳しくは、二つの側壁3の先後方向の後部に止め孔11が形成され、ピン12が止め孔11に通されてかしめにより取り付けられ、ピン12の中間部にローラ10が例えばニードル13を介して回転可能に軸着されている。
【0026】
以上のように構成されるロッカアーム1は、次の方法で製造される。
(1)板金を曲げ加工することにより、二つの側壁3と底壁4とを一体形成するとともに、底壁4の幅方向中央部に突条7を形成し、底壁4の幅方向両端部の上は油溜まり9とする。
【0027】
(2)
図2(a)から
図1(b)への変化で示すように、ドリル15により、二つの側壁3に巻き付き部6を穴あけ加工するとともに、突条7の頂部に部分凹円筒面8を切削加工する。このドリル15による巻き付き部6の穴あけ加工と部分凹円筒面8の切削加工とは、一度に連続して行うことができる。
底壁4の幅方向中央部に突条7を形成し、突条7の頂部に部分凹円筒面8を形成するため、部分凹円筒面8の幅方向長さ(加工長さ)は底壁4の幅よりも短
く、さらに各巻き付き部6とロッカシャフト21との当り幅よりも短い。このため、底壁4に部分凹円筒面8を短い加工時間で精度良く形成できる。
【0028】
本実施例のロッカアーム1は、例えば
図2(b)及び
図1(d)に示すように、内燃機関に搭載される。両巻き付き部6にはシリンダヘッド(図示略)に固定されたロッカシャフト21が通され、ローラ10には例えばその下方からカム22が当接し、作用部5のバルブ押圧面にはその下方からバルブ23のステム端部が当接する。
【0029】
ローラ10にカム22のベース円22aが当接する時には、巻き付き部6の下部及び部分凹円筒面8とロッカシャフト21との間に、前記ロッカシャフト21の外径と巻き付き部6の内径との差に基づくクリアランスがある。油溜まり9に溜まった潤滑油は、このクリアランスに供給されるので、巻き付き部6及び部分凹円筒面8とロッカシャフト21との潤滑性を確保することができる。
【0030】
ローラ10にカム22のノーズ22bが当接する時には、ロッカアーム1が前下がりに揺動して、作用部5がバルブ23を押圧し、バルブフェース(図示略)が所定のリフト量でシリンダを開弁する。この時、ロッカアーム1全体がノーズ22bから受ける荷重とバルブ23から受ける応力により持ち上がるため、巻き付き部6の下部及び部分凹円筒面8とロッカシャフト21とは、前記クリアランスがなくなって、接触する。二つの巻き付き部6と部分凹円筒面8との三箇所でロッカシャフト21を支持することにより、巻き付き部6とロッカシャフト21との面圧が低減され、摩耗信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ロッカアーム
2 ロッカアーム本体
3 側壁
4 底壁
5 作用部
6 巻き付き部
7 突条
8 部分凹円筒面
9 油溜まり
10 ローラ
11 止め孔
12 ピン
13 ニードル
15 ドリル
21 ロッカシャフト
22 カム
22a ベース円
22b ノーズ
23 バルブ