(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】汚染物不溶化材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B09B 3/20 20220101AFI20220125BHJP
B09C 1/02 20060101ALI20220125BHJP
B09C 1/08 20060101ALI20220125BHJP
C02F 11/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
B09B3/00 301E
B09B3/00 304K
C02F11/00 C ZAB
C02F11/00 101Z
(21)【出願番号】P 2018135989
(22)【出願日】2018-07-19
【審査請求日】2021-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮史
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-074555(JP,A)
【文献】特開平11-019917(JP,A)
【文献】特開2001-038321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00 - 5/00
B09C 1/00 - 1/10
C02F 11/00 - 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径3mm以下のコア造粒物を、平均0.2mm以上の層厚のコート層で被覆して成る、粒径5mm以下の汚染物不溶化材であって、
前記コア造粒物は、汚染物と混合セメントを混合して成り、
前記コート層は
、混合セメントと消石灰を混合して成る、ことを特徴とする汚染物不溶化材。
【請求項2】
前記コア造粒物は、前記汚染物の質量に対して0.1~1.5倍の混合セメントを含み、前記コート層は、混合セメントと、この混合セメントの質量に対して0
.25~0.8倍の消石灰を含み、平均0.2mm以上の層厚を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の汚染物不溶化材。
【請求項3】
前記汚染物不溶化材において、汚染物、混合セメントの全量、および、消石灰の質量比が1:1.1~2.5:0
.5~0.8である、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の汚染物不溶化材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の汚染物不溶化材を製造するにあたり、
汚染物に混合セメントを混合し、水の含有量を27~33mass%に調整した後に撹拌する混練工程、
前記の混練工程で得られた粘土状の混合物に混合セメントを追加し、水の含有量を20~24mass%に調整した後に粒径3mm以下に造粒してコア造粒物を得る造粒工程、
前記造粒工程で得られたコア造粒物を養生する一次養生工程、
混合セメントと消石灰を混合し、撹拌しながら、水の含有量を15~25mass%に調整した混合
物を、前記一次養生工程を経たコア造粒物に平均0.2mm以上の層厚にて被覆して粒径が5mm以下の不溶化材とする被覆工程、
前記被覆工程で得られた不溶化材を養生する二次養生工程、
を行うことを特徴とする汚染物不溶化材の製造方法。
【請求項5】
前記一次養生工程及び前記二次養生工程の少なくともいずれかを、コア造粒物又は不溶化材が空気に触れないように行うことを特徴とする請求項4に記載の汚染物不溶化材の製造方法。
【請求項6】
前記一次養生工程及び前記二次養生工程の少なくともいずれかを、2~7日間行うことを特徴とする請求項4又は5に記載の汚染物不溶化材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物を産業廃棄物として埋め立て可能にする、汚染物不溶化材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、汚泥、土壌、低質土や瓦礫等において砒素による汚染が問題となることがある。例えば、産業廃棄物の投棄等により、当該廃棄物に含まれる砒素等の有害金属により土壌が汚染される問題や、工場跡地における土壌の有害金属汚染の問題等が発生することがある。また、ゴミの焼却炉や、化学プラントにおける焼却設備等から発生する煤塵や焼却灰には、砒素以外にも6価クロム、カドミウム、鉛、水銀等の有害金属が含まれている場合があるが、これらの固形状の有害金属汚染物を最終処分するためには、ヒトへの健康被害の影響の大きな砒素を始め、有害金属の溶出を防止する必要がある。
【0003】
砒素を始めとする有害金属成分を含む固形状の汚染物の処理方法としては、従来、汚染物をセメントと混合して固化する方法があるが、水溶性の有害金属は、セメントで固化しても溶出する危険性がある。有害金属の溶出防止対策を施していない産業廃棄物の埋立ては法的に規制されており、効率的な溶出防止法の開発が強く望まれている。
【0004】
有害金属汚染土壌を不溶化するシステムとしては、例えば、有害金属を含んだ洗浄分級処理後の粒径0.5mm未満のスラッジと固形化材とを混合・造粒した後、造粒物表面を不溶化材でコーティングする連続システムが開示され、実施例として亜砒酸塩イオンを含む模擬スラッジを不溶化する例が示されている(特許文献1参照)。しかしこのシステムは、処理対象である汚染物を処理前に洗浄分級するため、洗浄水に有害金属等が溶出するという問題があった。
【0005】
また、以前の不溶化方法(特許文献2参照、但し本願出願時は未公知)では、造粒工程の後、すぐに被覆工程を行って不溶化材を得ており、この不溶化材は環境省告示13号溶出試験の埋立判定基準は満たすものの、カラム溶出試験による溶出値の経時変化では、一時的な溶出値の上昇を抑えられなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-305297号公報
【文献】特願2017-013632
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑み、汚染物に対する洗浄分級のような溶出機会を減らし、環境省告示13号に定める埋立て基準に適合するだけでなく、実環境に近い状況での評価方法となるカラム溶出試験においても埋立て基準である0.3mg/L未満を示す汚染物不溶化材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様は、
粒径3mm以下のコア造粒物を、平均0.2mm以上の層厚のコート層で被覆して成る、粒径5mm以下の汚染物不溶化材であって、
前記コア造粒物は、汚染物と混合セメントを混合して成り、
前記コート層は、混合セメントのみから成る又は混合セメントと消石灰を混合して成る、ことを特徴とする汚染物不溶化材である。
第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記コア造粒物は、前記コア造粒物は、前記汚染物の質量に対して0.1~1.5倍の混合セメントを含み、前記コート層は、混合セメントと、この混合セメントの質量に対して0~0.8倍の消石灰を含み、平均0.2mm以上の層厚を有する、ことを特徴とする。
第3の態様は、第1又は第2の態様に記載の態様であって、
前記汚染物不溶化材において、汚染物、混合セメントの全量、および、消石灰の質量比が1:1.1~2.5:0~0.8である、ことを特徴とする。
第4の態様は、
第1~第~3のいずれかの態様に記載の汚染物不溶化材を製造するにあたり、
汚染物に混合セメントを混合し、水の含有量を27~33mass%に調整した後に撹拌する混練工程、
前記の混練工程で得られた粘土状の混合物に混合セメントを追加し、水の含有量を20~24mass%に調整した後に粒径3mm以下に造粒してコア造粒物を得る造粒工程、
前記造粒工程で得られたコア造粒物を養生する一次養生工程、
混合セメントと消石灰を混合し、撹拌しながら、水の含有量を15~25mass%に調整した混合物、又は、水の含有量を15~25mass%に調整した混合セメントを、前記一次養生工程を経たコア造粒物に平均0.2mm以上の層厚にて被覆して粒径が5mm以下の不溶化材とする被覆工程、
前記被覆工程で得られた不溶化材を養生する二次養生工程、
を行うことを特徴とする汚染物不溶化材の製造方法である。
第5の態様は、第4の態様に記載の態様であって、
前記一次養生工程及び前記二次養生工程の少なくともいずれかを、コア造粒物又は不溶化材が空気に触れないように行うことを特徴とする。
第6の態様は、第4又は第5の態様に記載の態様であって、
前記一次養生工程及び前記二次養生工程の少なくともいずれかを、2~7日間行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、汚染物に対する洗浄分級のような溶出機会を減らし、環境省告示13号に定める埋立て基準に適合するだけでなく、実環境に近い状況での評価方法となるカラム溶出試験においても埋立て基準である0.3mg/L未満を示す汚染物不溶化材を得ることが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】汚染物不溶化材の一例の構造を示す模式図である。
【
図2】汚染物不溶化材の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、特許請求の範囲、
図1の汚染物不溶化材の模式図、および、
図2のフローチャートに基づき、本発明の汚染物不溶化材およびその製造方法の詳細について説明する。
【0012】
[不溶化材]
本発明の不溶化材は、有害金属などの汚染物、特に砒素を含む汚泥を被処理物とし、後述する製造方法を用いて不溶化処理を施すことにより得られる。
【0013】
[被処理物]
本発明においては、被処理物として、例えば、乾燥重量で20mass%程度の高濃度の砒素を含有する汚泥を不溶化することが可能である。
なお、本発明の被処理物である汚染物としては、砒素の他、カドミウム、水銀等の有害金属を挙げることができる。
【0014】
[混合セメント]
汚染物を不溶化する固形化剤としては、硫酸第二鉄や塩化第二鉄等の第二鉄塩、焼成ドロマイト、カルシウム塩、マグネシウム塩やセメント等が知られているが、本発明においては固形化剤としてセメントを用いる。セメントには普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメント、混合セメントがあり、いずれも用いることができるが、汚泥の固形化と砒素の不溶化とを同時に行うことのできる普通ポルトランドセメントや混合セメントを用いることが好ましい。ここで「混合セメント」とは、ポルトランドセメントに、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、および、ポゾラン反応性があるシリカ質材料等を混合材として混合したセメントを意味し、それぞれ、高炉セメント(JIS R5211で規定)、フライアッシュセメント(JIS R5213で規定)、シリカセメント(JIS R5212で規定)と呼ばれるが、固形化後に環境省告示13号溶出試験にかけて得られた液のpHが12以上であれば、いずれを用いても構わない。
【0015】
[消石灰]
本発明の不溶化材は、汚染物と固形化剤である混合セメントの混合物に混合セメントのみを被覆することにより得てもよいし、汚染物と固形化剤である混合セメントの混合物に混合セメントと消石灰の混合物を被覆することにより得てもよい。本発明の不溶化処理に用いる消石灰は、その純度が水酸化カルシウム95%以上のものを用いることが好ましく、その一部が炭酸カルシウムになっていても効果がある。
本発明において、消石灰を用いることにより砒素などの汚染物の溶出量が低下する機構については現時点で不明であるが、水酸化カルシウムが高炉スラグ微粉末等のポゾランと反応し、表面被覆層のセメントの硬化反応を促進して汚染物の隠蔽能力が向上する、および、溶出したCaが汚染物と難溶性の化合物を形成して不溶化すること等が考えられる。
【0016】
従来の固形化剤として混合セメントを用いて汚染物を不溶化する処理方法では、汚泥の砒素含有濃度が高くなる程多量の混合セメントを必要としていたが、本発明の場合には、混合セメントと混合することにより固形化した汚染物を、さらに混合セメントと消石灰の混合物で被覆することにより、汚染物の溶出が抑制されるため、従来の不溶化処理方法と比較して、高濃度の砒素を含有する汚泥を処理する場合でも少量の混合セメントの使用により不溶化の効果が得られる。
【0017】
[汚染物不溶化材の製造方法]
本発明の製造方法では、混練工程開始前において、被処理物の汚染物と混合セメントの混合物は、水の含有量が40~45mass%のものを用いるのが好ましい。水の含有量が40%mass未満である場合、後述する混練を容易化するために、混練時に水を加える。また、水の含有量が45mass%を超えると、混練時に汚泥がペースト状になり、造粒が困難になるので、汚泥を空気に触れないように乾燥するか、混練時に添加する混合セメントを多くすることにより含水量を適宜調整する。
【0018】
[混練工程]
被処理材である汚染物と混合セメントとを質量比1:0~0.8で造粒機に投入し、混練を行う。混練中、混合物の水分含有量が27mass%未満の場合には水を追加し、混合物の乾燥重量に対して水分量が27mass%以上になる様に調整した後、混練を行う。また、混合物の水分含有量が33mass%を超える場合には、後の造粒工程において、混合セメントを追加して調整する。
【0019】
汚染物の水分の含有量が前記の範囲内であれば、汚泥と混合セメントが均一に混ざった粘土状となるため好ましい。なお、被処理材である汚染物の性質は、必ずしも一定ではないため、当該汚泥の水分の含有量が前記の範囲であっても、水分が不足して均一に混ざらないことがあるが、その場合には、均一な粘土状になるまで水を追加して混練することができる。
【0020】
造粒機には流動層造粒機、押出し造粒機、パン型造粒機等があるが、本発明の製造方法の場合には、汚染物と混合セメントの混錬工程と、後述する造粒工程を連続して行うことができ、尚且つ高密度に造粒できる高速撹拌式造粒機等を使用することが好ましい。
【0021】
[造粒工程]
前記の混練工程で得られた粘土状の汚染物と混合セメントの混合物に、混合セメントを追加して撹拌し、粘土状混合物の水の含有量を20~24mass%に調整した後に粒径3mm以下に造粒する。造粒工程で得られる粒子は、例えば複数種の篩を用いることで所望のサイズ範囲に調整できる。
【0022】
このとき、汚染物の質量1に対し、0.1~1.5になる様に混合セメントを追加するのが好ましい。混合セメントの量は所望の粒径で分散されるのに必要な量であればいい。また、混合セメントの量が多いほど、造粒物の強度が増し、より高濃度の重金属汚染物に対応できるが、汚染物に対する混合セメントの質量比が1.5以下の場合、最終的に得られる不溶化材が増大を抑制可能であり、処理コストの増加を抑制できる。
【0023】
また、混練工程で混合物の水分が33mass%を超えていた場合、汚染物に対する混合セメントの質量比が1.5を超えない範囲で、粒径3mm以下に解砕されるまで混合セメントを追加する。そして水の含有量を上記範囲すなわち20~24mass%に調整する。
【0024】
粒径が3mm以下にならない場合は、撹拌を継続する。それでもなお粒径が3mmを超える場合は、混合セメントを追加する、または撹拌速度を上げる。下限は0.5mm以上であることがハンドリングなどの観点から好ましく、0.5mm未満の場合には、水を追加したり、撹拌速度を下げたりすればよい。
【0025】
[一次養生工程]
本発明の製造方法においては、前記の造粒工程により形成したコア造粒物を、引き続き養生する。ここで言う養生とは、造粒工程後に他の操作をせずにそのままの状態で保持することを示す。養生の目的は、混練工程および造粒工程で硬化したセメントの強度向上で、カラム溶出試験で0.3mg/L未満を満たす不溶化材を得ることにある。養生は室温で、2~7日間行うことが好ましい。また、非大気暴露下でかかる期間の養生を行うことで、中性化が抑制され、水和反応により十分な強度が発現し、耐久性、水密性及びコート層との密着性等を確保することができる。
【0026】
[被覆工程]
混合セメントと消石灰の混合粉末を前記被覆工程で得たコア造粒物に投入し、速度を抑えて撹拌しながら水を添加して、コア造粒物に混合セメント又は混合セメントと消石灰の混合物を被覆することでコート層を得る。その際、コート層は混合セメントと、この混合セメントの質量に対して0~0.8倍の消石灰を含み、平均0.2mm以上の層厚を有することが好ましい。消石灰の量が多いほど重金属の溶出抑制効果が高くなるが、汚染物が低濃度であれば、消石灰を添加せずとも十分不溶化できる場合がある。また、汚染物に対する消石灰の質量比が0.8以下であれば処理コストの増加を抑制でき、好ましい。
【0027】
汚染物不溶化材の構成ごとの質量比について以下にまとめる。
造粒工程にて形成されるコア造粒物に関しては、先に述べたように、コア造粒物に含まれる汚染物の質量1に対し混合セメントの含有量が0.1~1.5であるのが好ましい。
被覆工程にて形成されるコート層に関しては、先に述べたように、汚染物の質量1に対し消石灰の含有量が0~0.8であるのが好ましい。なお、先に述べたように、本実施形態では被覆工程においても混合セメントを添加している。
そして、汚染物不溶化材全体として見たとき、最終的に、投入した汚染物、混合セメントの全量、および、消石灰の質量比は1:1.1~2.5:0~0.8となるのが好ましい。混合セメントの含有量が汚染物の質量1に対して質量比で1.1以上であれば重金属の溶出抑制効果が十分であり、質量比が2.5以下であれば処理コストの増加を抑制でき、それぞれ好ましい。
【0028】
被覆工程において投入される混合セメントと消石灰における水の含有量は、15~25mass%に調整する。被覆工程において混合セメントのみを用いる場合も同様の範囲とする。この範囲であればコア造粒物の周囲に平均0.2mm以上の厚みで混合セメントと消石灰より成るコート層を設けることができ、最終的には後述の回収工程にて、目的とする粒径5mm以下の不溶化材が得られる。なお、コート層の厚みは、例えばコーティング工程で添加するセメントに着色剤を添加し、造粒した不溶化材の断面を顕微鏡観察することで測定できる。
【0029】
なお、前述の様に、被処理材である汚染物の性質は、必ずしも一定ではないため、投入する水に過不足が生じる場合がある。水が不足、もしくは、混合セメントまたは消石灰が過剰な場合には、一部の混合セメント及び消石灰が粉末のまま残るため、混合セメントと消石灰の混合物の被覆層が薄くなり、十分な不溶化効果が得られない。その場合は水を追加すれば良い。水が過剰、もしくは混合セメントまたは消石灰が不足な場合は、不溶化材同士が養生工程で互いに接着して塊になり易い。その場合は、混合セメントを追加するか、混合セメントと消石灰の混合物で被覆されたコア造粒物を空気に触れないように乾燥すればよい。
【0030】
[二次養生工程]
本発明の製造方法においては、前記の被覆工程により形成した不溶化材を、引き続き養生する。ここで言う養生とは、被覆工程後に他の操作をせずにそのままの状態で保持することを示す。養生の目的は、混練工程および造粒工程で硬化したセメントの強度向上で、カラム溶出試験で0.3mg/L未満を満たす不溶化材を得ることにある。養生は室温で、2日間~7日間行うことが好ましい。また、非大気暴露下でかかる期間の養生を行うことで、中性化が抑制され、水和反応により十分な強度が発現し、耐久性、水密性及びコア粒状物との密着性等を確保することができる。
【0031】
有害金属含有汚染物を固型化する場合、埋立の際に転圧し、埋立後も上に重機や他廃棄物が乗るため、圧縮された場合の破壊強度に優れている必要がある。そこで本実施形態のように一次養生工程と二次養生工程とを経ることにより、圧縮された場合の破壊強度を向上させることもできる。また、造粒機として、特に高速撹拌造粒機を使用する場合には不溶化材の破壊強度を向上させることができるので好ましい。
【0032】
[回収工程]
養生後の不溶化材は、例えば、JISZ8801-1(2006)に定める金属製網ふるいで、目開き500μmのものおよび4.75mmのものを用い、粒径が0.5mm以上5mm以下の不溶化材を回収し、最終的な汚染物不溶化材とすることができる。本発明の製造方法により得られる汚染物不溶化材は、汚染物を含有する粒子と混合セメントの混合物が、混合セメントと消石灰の混合物で被覆された構造を有している。当該不溶化材がその様な構造を有することは、例えば、当該不溶化材を樹脂に埋め込んだ後断面を研磨し、その断面を波長分散型X線分析装置(WDX)やエネルギー分散型X線分析装置(EDX)等を用いて汚染物の分布を観察すれば、確認することができる。
【0033】
ここで粒径が0.5mm以上5mm以下とは、環境省告示13号の規定の試料の項に、「日本工業規格Z八八〇一-(二〇〇六)に定める網ふるい(目開きが〇・五ミリメートルのもの及び四・七五ミリメートルのもの)を用いて粒径が〇・五ミリメートル以上五ミリメートル以下となるようにしたものとする。」と記載されている通り、目開き500μmのものおよび4.75mmの網ふるいを用いて分級された二次造粒物の粒径を意味する。したがって、ここで用いる粒径は平均粒径ではなく、公称粒径であり、その形状は問わない。なお、本発明の製造方法により得られる汚染物不溶化材の形状は、ほぼ球形である。
【0034】
ここで粒径0.5mm未満の二次造粒物を除外するのは、粒径が0.5mm未満の二次造粒物は、水が不足したために造粒物に付着しなかった混合セメントまたは消石灰の粉末である可能性が高いためである。0.5mm未満の二次造粒物は、混練工程に繰り返すことができる。また、粒径が5mmを超える二次造粒物は、環境省告示13号の規定により、分析前に粉砕しなければならないため、混合セメントと消石灰の混合物を被覆する意義が失われるので、やはり除外する。
【実施例】
【0035】
[供試試料]
水分を40%含み、乾燥時の組成がCa:30mass%、As:20mass%(亜砒酸塩、mass%はAsとしての値)を含む汚泥。
[汚泥中の砒素含有量の測定方法]
汚泥を乾燥後、粉砕してプレス成形し、蛍光X線分析装置(XRF、リガク社製ZSX PrimusII)を用いて、20kV-2mAで全スキャンし、FP(ファンダメンタル・パラメーター)法で半定量化して測定した。
[汚泥中の水分含有量の測定方法]
汚泥を105℃で24時間乾燥し、乾燥前後の重量の差から水分含有量を計算した。
【0036】
[砒素溶出試験]
本発明の製造方法により得られた汚染物不溶化材の耐砒素溶出性は、環境省告示13号に規定する「産業廃棄物に含まれる金属等の検定方法」に準拠して行った。
また、不溶化材の長期安定性を評価する為に、筒状の容器に不溶化材を充填し、一定速度で通水して通過した液を一定時間ごとに採取し、溶出値を分析するカラム溶出試験を行った。
【0037】
[実施例1]
前記の供試試料の汚泥720g、高炉セメントB種360g、水11mlを日本アイリッヒ製インテンシブミキサーR02型に入れてロータ回転数3000rpmで撹拌して混錬した。均一な粘土状になったところで、高炉セメントB種360gを投入し、ロータ回転数3000rpmで撹拌して造粒し、平均粒径が0.9mmのコア造粒物を得た。なお、平均粒径は20個のコア造粒物をノギスを用いて計測し、それらの平均値を求めることで得た。このコア造粒物を株式会社生産日本社製チャック付ポリエチレン袋「ユニパック(登録商標)」にいれて密封し、室温で3日間養生した(一次養生)。
インテンシブミキサーにコア造粒物および高炉セメントB種630gと消石灰360gの混合粉末を投入し、ロータ回転数900rpmで撹拌しながら水226mlを徐々に添加して粒成長させた。さらに造粒物どうしの接着を防ぐため、高炉セメントB種90gを投入し、ロータ回転数900rpmで撹拌して造粒物表面の余分な水分を吸収した。
本実施例の場合、汚染物:高炉セメントB:消石灰の質量比は1:2:0.5になる。
得られた不溶化材を(株)生産日本社製チャック付ポリエチレン袋「ユニパック(登録商標)」にいれて密封し、室温で2日間養生した(二次養生)。
その後、ふるい掛けにより回収した0.5mm以上5mm以下の汚染物不溶化材について、環境省告示13号に規定する溶出試験およびカラム溶出試験を行ったところ、砒素の溶出値は13号に規定する溶出試験においては0.014mg/L、カラム溶出試験における最大値は0.020mg/Lとなり、埋立て基準(0.3mg/L)未満となった。
本実施例および他の試験例の結果を、後掲の表1にまとめて示す。なお、表1における水分含有量は仕込み量である。
【0038】
[実施例2]
実施例1と同様に処理を行った。ただし、一次養生工程においてコア造粒物をデシケータに入れ、真空引き後にアルゴンガスを封入することで、アルゴン雰囲気で養生を行った。
得られた不溶化材について各溶出試験を行ったところ、砒素の溶出値は13号に規定する溶出試験においては0.017mg/L、カラム溶出試験における最大値は0.043mg/Lとなり、埋立て基準(0.3mg/L)未満となった。
【0039】
[比較例1]
一次養生工程まで実施例1と同様に処理し、被覆工程なしで各溶出試験を行ったところ、砒素の溶出値は13号に規定する溶出試験においては0.513mg/L、カラム溶出試験における最大値は11.07mg/Lとなり、埋立て基準(0.3mg/L)を満たせなかった。
【0040】
[比較例2]
一次養生工程を挟まずに、造粒工程の後すぐに被覆工程を行ったところ、砒素の溶出値は13号に規定する溶出試験においては0.089mg/L、カラム溶出試験における最大値は0.196mg/Lとなり、埋立て基準(0.3mg/L)未満になったが、カラム溶出試験においては一時的に基準付近まで上昇し、長期安定性について不安が残る結果となった。
【0041】
[比較例3]
実施例1と同様に処理を行ったが、被覆工程での高炉セメントと消石灰に加えた水分を、各実施例に比べて意図的に不足させた。その結果、0.5mm未満の二次造粒物がコートされずにローター内に対総質量で17mass%以上残り、コート層の厚さが0.19mmとなった。砒素の溶出値は13号に規定する溶出試験においては0.021mg/L、カラム溶出試験における最大値は0.426mg/Lとなり、13号に規定する溶出試験については埋立て基準(0.3mg/L)未満になったが、カラム溶出試験においては一時的に基準以上になった。
【0042】
【0043】
以上の結果から明らかな様に、本発明の製造法を用いると、汚染物を直接処理し、環境省告示13号に定める埋立て基準に適合するだけでなく、実環境に近い状況での評価方法となるカラム溶出試験においても溶出最大値が0.1mg/L未満となる汚染物不溶化材を得ることが可能になる。