(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】3D印刷物を製造するための熱可塑性ポリエステル
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20220125BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20220125BHJP
C08G 63/42 20060101ALI20220125BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20220125BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20220125BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220125BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20220125BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20220125BHJP
B29C 64/153 20170101ALI20220125BHJP
【FI】
B29C64/314
C08G63/183
C08G63/42
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
B33Y40/00
B29C64/106
B29C64/153
(21)【出願番号】P 2019504793
(86)(22)【出願日】2017-07-28
(86)【国際出願番号】 FR2017052143
(87)【国際公開番号】W WO2018020192
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-22
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】591169401
【氏名又は名称】ロケット フレール
【氏名又は名称原語表記】ROQUETTE FRERES
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(72)【発明者】
【氏名】エレーヌ アムドロ
(72)【発明者】
【氏名】ルネ サン-ルー
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112770(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104558557(CN,A)
【文献】特表2013-504650(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0222156(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
C08L 67/00
C08G 63/183、63/42
B33Y 10/00-80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3D印刷物を製造するための熱可塑性ポリエステルの使用であって、前記ポリエステルは、
・少なくとも1種の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A);
・前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の少なくとも1種の脂環式ジオール単位(B);
・少なくとも1種のテレフタル酸単位(C)
を含み、
(A)/[(A)+(B)]比は、0.05超、0.75未満であり;
前記ポリエステルは非環式脂肪族ジオール単位を含有しないか、前記ポリエステルの全モノマー単位に対して5%未満のモル量の非環式脂肪族ジオール単位を含有し、前記ポリエステルの溶液(25℃;フェノール(50
質量%):オルト-ジクロロベンゼン(50
質量%);ポリエステル5g/L)中の還元粘度は50mL/gより大きい、使用。
【請求項2】
前記脂環式ジオール(B)は、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノールまたは前記ジオールの混合物から選択されるジオールで
あることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール(A)は、イソソルビドであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記ポリエステルは非環式脂肪族ジオール単位を含有しないか、前記ポリエステルの全モノマー単位に対して1%未満のモル量の非環式脂肪族ジオール単位を含有
することを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
(1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)+前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B))/(テレフタル酸単位(C))モル比は、1.05~1.5であることを特徴とする、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記3D印刷物は、1種以上の追加のポリマーおよび/または1種以上の添加剤を含むことを特徴とする、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
3D印刷物であって、
・少なくとも1種の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A);
・前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の少なくとも1種の脂環式ジオール単位(B);
・少なくとも1種のテレフタル酸単位(C)
を含む熱可塑性ポリエステルを含み、
(A)/[(A)+(B)]比は、0.05超、0.75未満であり;
前記ポリエステルは非環式脂肪族ジオール単位を含有しないか、前記ポリエステルの全モノマー単位に対して5%未満のモル量の非環式脂肪族ジオール単位を含有し、前記ポリエステルの溶液(25℃;フェノール(50
質量%):オルト-ジクロロベンゼン(50
質量%);ポリエステル5g/L)中の還元粘度は50mL/gより大きい、3D印刷物。
【請求項8】
前記脂環式ジオール(B)は、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノールまたは前記ジオールの混合物から選択されるジオールで
あることを特徴とする、請求項7に記載の3D印刷物。
【請求項9】
前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール(A)は、イソソルビドであることを特徴とする、請求項7または請求項8に記載の3D印刷物。
【請求項10】
前記ポリエステルは非環式脂肪族ジオール単位を含有しないか、前記ポリエステルの全モノマー単位に対して1%未満のモル量の非環式脂肪族ジオール単位を含有
することを特徴とする、請求項7~請求項9のいずれか一項に記載の3D印刷物。
【請求項11】
(1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)+前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B))/(テレフタル酸単位(C))モル比は、1.05~1.5であることを特徴とする、請求項7~請求項10のいずれか一項に記載の3D印刷物。
【請求項12】
前記3D印刷物は、1種以上の追加のポリマーおよび/または1種以上の添加剤を含むことを特徴とする、請求項7~請求項11のいずれか一項に記載の3D印刷物。
【請求項13】
3D印刷物を製造する方法であって、
a)少なくとも1種の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)、前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の少なくとも1種の脂環式ジオール単位(B)、少なくとも1種のテレフタル酸単位(C)を含有する熱可塑性ポリエステルを提供する工程であって、(A)/[(A)+(B)]比は、0.05超、0.75未満であり、前記ポリエステルは非環式脂肪族ジオール単位も含有しないか、前記ポリエステルの全モノマー単位に対して5%未満のモル量の脂肪族非環式ジオール単位を含有し、前記ポリエステルの溶液(25℃;フェノール(50
質量%):オルト-ジクロロベンゼン(50
質量%);ポリエステル5g/L)中の還元粘度は50mL/gより大きい、工程、
b)前記工程で得られた前記熱可塑性ポリエステルを形成する工程、
c)前記形成された熱可塑性ポリエステルから物品を3D印刷する工程、
d)前記3D印刷物を回収する工程
を含む方法。
【請求項14】
工程b)において、前記熱可塑性ポリエステルは、スレッド、フィラメント、ロッド、顆粒、ペレットまたは粉末に形成されることを特徴とする、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記3D印刷工程c)は、溶融堆積法または選択的レーザー焼結法によって実施されることを特徴とする、請求項13または請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記脂環式ジオール(B)は、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノールまたは前記ジオールの混合物から選択されるジオールで
あることを特徴とする、請求項13~請求項15のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール(A)は、イソソルビドであることを特徴とする、請求項13~請求項16のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項18】
前記ポリエステルは、非環式脂肪族ジオール単位を含有しないか、前記ポリエステルの全モノマー単位に対して1%未満のモル量の非環式脂肪族ジオール単位を含有
することを特徴とする、請求項13~請求項17のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項19】
(1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)+前記1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B))/(テレフタル酸単位(C))モル比は、1.05~1.5であることを特徴とする、請求項13~請求項18のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項20】
前記3D印刷物は、1種以上の追加のポリマーおよび/または1種以上の添加剤を含むことを特徴とする、請求項13~請求項19のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3D印刷の分野に関し、特に3D印刷物を製造するための熱可塑性ポリエステルの使用であって、前記熱可塑性ポリエステルは、この用途に特に有利な特性を有する。
【背景技術】
【0002】
3D印刷分野は、この近年急成長している。現在、多くの材料、例えば、プラスチック、ワックス、金属、焼き石膏または他のセラミックスで3D印刷物の製造が可能である。
【0003】
この多様な使用可能な材料にもかかわらず、各材料から利用可能な化合物の選択は制限されることがある。
【0004】
プラスチック製3D印刷物の場合、特にいくつかの3D印刷技術において使用されるフィラメントスプールに使用できるポリマーはほとんどない。
【0005】
現在、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン)およびPLA(ポリ乳酸)等のポリマーが主な成分であり、これにポリアミドおよびフォトレジンまたはフォトポリマーが加えられる。
【0006】
ABSは、Tgが組成次第で100~115℃で変化する非晶質ポリマーであり、成形においていくつかの制限がある。実際、その使用は、220~240℃の比較的高い成形温度が必要であり、特に床温度が80℃~110℃であり、これは、特に適切な機器を必要とする。さらに、大量の物品を得るためにABSを使用すると、全ての場合において、非常に著しい収縮のために最終物品に逃げと明らかにひび割れが生じる。
【0007】
一般に、ポリヒドロキシアルカノエートが添加されるPLAは、必要とされる温度に関してそれほど要求が厳しくなく、主な特徴の1つは、3D印刷における低い収縮に由来し、このため、FDM(溶融堆積モデリング)法を使用する3D印刷の場合に炉板の使用が必要ない。しかしながら、主な制限は、約60℃である混合物の低いガラス転移温度にある。
【0008】
したがって、3D印刷に使用する代替プラスチック出発材料、特に熱可塑性ポリマーが依然として必要とされている。
【0009】
特定の熱可塑性芳香族ポリエステルは、材料の製造に直接使用が可能になる熱特性を有する。それらは、脂肪族ジオールおよび芳香族二価酸単位を含む。これらの芳香族ポリエステルの中でも、エチレングリコールおよびテレフタル酸単位を含むポリエステルであるポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。
【0010】
しかし、特定の用途または特定の使用条件下では、ある種の性質、特に衝撃強度あるいは耐熱性の改善が必要である。これが、グリコール変性PET(PETg)が開発された理由である。一般に、エチレングリコールとテレフタル酸単位に加えて、シクロヘキサンジメタノール(CHDM)単位を含むポリエステルである。このジオールをPETに導入することにより、特にPETgが非晶質である場合、その性質を意図する用途に適合させること、例えば衝撃強度または光学的性質の改善が可能になる。
【0011】
他の変性PETも、ポリエステルに1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位、特にイソソルビド(PEIT)を導入することによって開発されている。これらの変性ポ
リエステルは、未変性PETまたはCHDMを含むPETgよりもガラス転移温度が高い。加えて、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールは、例えば、デンプン等の再生可能資源から得られるという利点がある。
【0012】
これらのPEITの1つの問題は、衝撃強度がそれでもなお不十分なことである。加えて、ガラス転移温度は、特定のプラスチック性物品の製造には不十分である。
【0013】
従来より、ポリエステルの衝撃強度の改善のために、結晶化度が低いポリエステルの使用が知られている。イソソルビド系ポリエステルに関しては米国特許出願公開第2012/0177854号明細書に記載されており、そこには、テレフタル酸単位と、1~60モル%のイソソルビドと5~99%の1,4-シクロヘキサンジメタノールとを含むジオール単位を含む、衝撃強度が改善されたポリエステルが記載されている。
【0014】
この出願の導入部で示されるように、コモノマーの添加により、この場合には1,4-シクロヘキサンジメタノールの添加により、結晶性が排除されたポリマーを得ることが目的である。実施例において、様々なポリ(エチレン-コ-1,4-シクロヘキサンジメチレン-コ-イソソルビド)テレフタレート(PECIT)の製造と、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレン-コ-イソソルビド)テレフタレート(PCIT)の例が記載されている。
【0015】
また、PECIT型ポリマーは商業的開発の対象となってきたが、これはPCITの場合には当てはまらないことにも留意されたい。実際、イソソルビドは第二級ジオールとしての反応性が低いため、これまで、その製造は複雑であると考えられていた。したがって、Yoonら(Synthesis and Characteristics of a Biobased High-Tg Terpolyester of Isosorbide,Ethylene Glycol,and 1,4-Cyclohexane Dimethanol:Effect of Ethylene Glycol as a Chain Linker on Polymerization,Macromolecules,2013,46,7219-7231)は、PCITの合成はPECITの合成よりも達成が難しいことを示した。この論文は、PECITの生産速度に及ぼすエチレングリコール含有量の影響の研究を記載する。
【0016】
Yoonらの文献において、非晶質PCIT(ジオールの合計に対して約29%のイソソルビドと71%のCHDMを含む)を調製し、その合成と性質をPECIT型ポリマーと比較している。第7222ページの合成の項の第1パラグラフを参照すると、合成中に高温を使用すると形成されたポリマーの熱分解が誘発され、このような分解は特にイソソルビド等の脂肪族環式ジオールの存在に関連している。したがって、Yoonらは、重縮合温度が270℃に制限される方法を使用した。Yoonらは、重合時間を増やしても、この方法で十分な粘度のポリエステルを得ることは不可能なことを観察した。したがって、エチレングリコールを添加しないと、合成時間を長くしてもポリエステルの粘度は制限されたままである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、エチレングリコールがイソソルビドの配合に必須であることが知られていたが、エチレングリコールを含まないイソソルビドベースの熱可塑性ポリエステルを用いて、あらゆる印刷方法に対して3D印刷に使用するための代替プラスチック原料に対する必要性の達成を見いだしたことは、本出願人の功績である。
【0018】
したがって、本発明の目的は、3D印刷物を製造するための熱可塑性ポリエステルの使
用であって、前記ポリエステルは、
・少なくとも1種の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A);
・1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の少なくとも1種の脂環式ジオール単位(B);
・少なくとも1種のテレフタル酸単位(C)
を含み、
(A)/[(A)+(B)]比は、0.05超、0.75未満であり;
前記ポリエステルは、非環式脂肪族ジオール単位を含有しないか、ポリエステルの全モノマー単位に対して5%未満のモル量の非環式脂肪族ジオール単位を含有し、前記ポリエステルの溶液(25℃;フェノール(50%m):オルト-ジクロロベンゼン(50%m);ポリエステル5g/L)中の還元粘度は50mL/gより大きい。
【0019】
本発明の第2の目的は、上記の半結晶質熱可塑性ポリエステルから3D印刷物を製造する方法に関する。
【0020】
最後に、第3の目的は、上記の熱可塑性ポリエステルを含む3D印刷物に関する。
【0021】
本発明に従って使用される熱可塑性ポリエステルは、優れた特性を提供し、かつ3D印刷物の製造を可能にする。
【0022】
本発明によるポリマー組成物は、特に有利であり、かつ改善された特性を有する。実際に、組成物中の熱可塑性ポリエステルが存在すると、追加の特性の導入および他のポリマーの用途分野を広げることが可能となる。
【0023】
したがって、本発明による熱可塑性ポリエステルは、非常に良好な特性、特に機械的特性を有し、かつ特に3D印刷物の製造における使用のために適している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の第1の目的は、3D印刷物を製造するための熱可塑性ポリエステルの使用であって、前記ポリエステルは、
・少なくとも1種の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A);
・1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の少なくとも1種の脂環式ジオール単位(B);
・少なくとも1種のテレフタル酸単位(C)
を含み、
(A)/[(A)+(B)]モル比は、0.05超、0.75未満であり、溶液中の還元粘度は50mL/gより大きい。
【0025】
「(A)/[(A)+(B)]モル比」は、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)/1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)および1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B)の合計のモル比を意味するように意図される。
【0026】
熱可塑性ポリエステルは、非環式脂肪族ジオール単位を含有しないか、または少量を含有する。
【0027】
「少量のモル量の非環式脂肪族ジオール単位」は、特に5%未満の非環式脂肪族ジオール単位のモルの量を意味するように意図される。本発明によれば、このモルの量は、非環式脂肪族ジオール単位の合計の比率を表し、これらの単位はポリエステルの全モノマー単位に対して同一でも異なっていてもよい。
【0028】
非環式脂肪族ジオールは、直鎖状または分枝鎖状の非環式脂肪族ジオールであってもよい。飽和または不飽和の非環式脂肪族ジオールであってもよい。エチレングリコールの他に、飽和直鎖状非環式脂肪族ジオールは、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオールおよび/または1,10-デカンジオールであってもよい。飽和分枝鎖状非環式脂肪族ジオールの例としては、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、プロピレングリコールおよび/またはネオペンチルグリコールが挙げられる。不飽和脂肪族ジオールの例としては、例えば、シス-2-ブテン-1,4-ジオールが挙げられる。
【0029】
脂肪族非環式ジオール単位のこのモル量は、有利には1%未満である。好ましくは、ポリエステルは、非環式脂肪族ジオール単位を含有せず、より好ましくはエチレングリコールを含有しない。
【0030】
驚くべきことに、合成に使用される非環式脂肪族ジオール、つまりエチレングリコールの量が少なくても、溶液中での高い還元粘度と、特にイソソルビドが良好に組み込まれた非晶質熱可塑性ポリエステルが得られる。1つの理論によって縛られることなく、これはエチレングリコールの反応速度が1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの反応速度よりもはるかに速いという事実によって説明され、これは後者のポリエステルへの組み込みを大きく制限する。したがって、得られるポリエステルは、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールの低い集積度、つまりガラス転移温度が比較的低い。
【0031】
モノマー(A)は、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトールであり、イソソルビド、イソマンニド、イソイジドまたはその混合物であってもよい。好ましくは、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール(A)は、イソソルビドである。
【0032】
イソソルビド、イソマンニドおよびイソイジドは、それぞれソルビトール、マンニトールおよびイジトールの脱水によって得られる。イソソルビドに関して、商品名Polysorb(登録商標)Pの名前で本出願人によって販売されている。
【0033】
脂環式ジオール(B)は、脂肪族環式ジオールとも呼ばれる。それは、特に1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノールまたはこれらのジオールの混合物から選択できるジオールである。脂環式ジオール(B)は、非常に好ましくは、1,4-シクロヘキサンジメタノールである。脂環式ジオール(B)は、シス型立体配置であるか、トランス型立体配置であるか、またはシスおよびトランス型立体配置におけるジオールの混合物であってもよい。
【0034】
1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)/1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)および1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B)の合計のモル比、すなわち(A)/[(A)+(B)]は、0.05超、0.75未満である。(A)/[(A)+(B)]モル比が0.30未満である場合、熱可塑性ポリエステルは、半結晶質であり、かつX線回折線の存在をもたらす結晶質相の存在および示差走査型熱量測定(DSC)分析における吸熱溶融ピークの存在によって特徴付けられる。
【0035】
他方、(A)/[(A)+(B)]モル比が0.30より高い場合、熱可塑性ポリエステルは、非晶質であり、かつX線回折線の欠如および示差走査型熱量測定(DSC)分析における吸熱溶融ピークの欠如によって特徴付けられる。
【0036】
3D印刷物を製造するために特に適切である熱可塑性ポリエステルは、
・モル量が2.5~54モル%の範囲の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A);
・モル量が5~42.5モル%の範囲の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B);
・モル量が45~55モル%の範囲のテレフタル酸単位(C)
を含む。
【0037】
用途次第でかつ3D印刷物に関する所望の特性次第で、熱可塑性ポリエステルは、半結晶質熱可塑性ポリエステルまたは非晶質熱可塑性ポリエステルであってもよい。
【0038】
例えば、用途によっては、不透明で、機械的特性が向上した物品を得る場合、熱可塑性ポリエステルは半結晶質であってもよく、したがって、
・モル量が2.5~14モル%の範囲の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A);
・モル量が31~42.5モル%の範囲の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B);
・モル量が45~55モル%の範囲のテレフタル酸単位(C)
を含む。
【0039】
有利には、熱可塑性ポリエステルが半結晶質である場合、モル比が、0.10~0.25の(A)/[(A)+(B)]である。
【0040】
逆に、物品が透明であることが所望される場合、熱可塑性ポリエステルは、非晶質であってもよく、したがって、
・モル量が16~54モル%の範囲の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A);
・モル量が5~30モル%の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B);
・モル量が45~55モル%の範囲のテレフタル酸単位(C)
を含む。
【0041】
有利には、熱可塑性ポリエステルが非晶質である場合、モル比(A)/[(A)+(B)]が0.35~0.65である。
【0042】
当業者は、ポリエステルの単位のそれぞれの量を決定する分析条件を容易に見つけられる。例えば、ポリ(1,4-シクロヘキサンジメチレン-コ-イソソルビドテレフタレート)のNMRスペクトルから、1,4-シクロヘキサンジメタノールに関連する化学シフトは0.9~2.4ppmおよび4.0~4.5ppmであり、テレフタレート環に関連する化学シフトは7.8~8.4ppmであり、イソソルビドに関連する化学シフトは4.1~5.8ppmである。それぞれのシグナルの積分により、ポリエステルのそれぞれの単位の量の決定が可能になる。
【0043】
熱可塑性ポリエステルは、それらが半結晶質である場合、ガラス転移温度は85~200℃、例えば90~115℃であり、それらが非晶質である場合、ガラス転移温度は例えば116~200℃である。
【0044】
ガラス転移温度および融点は、従来法により、特に10℃/分の加熱速度を使用する示差走査型熱量測定(DSC)法を使用して測定される。実験プロトコルの詳細は、以下の
実施例に詳細に記載されている。
【0045】
本発明に従って使用される熱可塑性ポリエステルは、それらが半結晶質である場合、融点は210~295℃、例えば240~285℃である。
【0046】
有利には、熱可塑性ポリエステルが半結晶質である場合、融解熱は、10J/gより大きく、好ましくは20J/gより大きく、この融解熱の測定は、このポリエステルの試料を16時間、170℃で加熱処理し、次いで試料を10℃/分で加熱することにより、DSCで融解熱を評価することを含む。
【0047】
本発明によるポリマー組成物の熱可塑性ポリエステルは、特に明度L*が40より大きい。有利には、明度L*は、55より大きく、好ましくは60より大きく、最も好ましくは65より大きく、例えば70より大きい。パラメーターL*は、CIELabモデルを介して分光測光器を使用して決定できる。
【0048】
最後に、本発明に従って使用される前記熱可塑性ポリエステルの溶液中の還元粘度は、50mL/gより大きく、好ましくは150mL/g未満であり、この粘度は、導入されたポリマーの濃度が5g/Lである条件において、撹拌しながら130℃でポリマーを溶解した後、フェノールおよびオルト-ジクロロベンゼンの等質量混合物中、25℃でウベローデ毛細管粘度計を使用して測定できる。
【0049】
溶液中の還元粘度を測定するこの試験は、溶媒の選択と使用されるポリマーの濃度により、下記方法に従って調製された粘性ポリマーの粘度の測定に完全に適している。
【0050】
有利には、熱可塑性ポリエステルが半結晶質である場合、溶液中の還元粘度は70mL/g超、150mL/g未満であり、熱可塑性ポリエステルが非晶質である場合、溶液中の還元粘度は55~90mL/gである。
【0051】
本発明に従って使用される熱可塑性ポリエステルの半結晶質または非晶質特性は、170℃において16時間の熱処理後、X線回折線または示差走査型熱量測定(DSC)分析における吸熱融合ピークの存在もしくは存在しないことによって特徴付けられる。したがって、X線回折線が存在し、かつ示差走査熱量測定(DSC)分析において吸熱融合ピークが存在する場合は熱可塑性ポリエステルは半結晶質であり、存在しない場合は非晶質である。
【0052】
1つの特定の実施形態によれば、3D印刷物を製造するために1種以上の追加のポリマーを熱可塑性ポリエステルと混合して使用できる。
【0053】
追加のポリマーを使用する場合、例えば、熱可塑性ポリエステルを3D印刷用に成形または熱可塑性ポリエステルを調製する時に添加できる。
【0054】
追加のポリマーは、ポリアミド、フォトレジン、フォトポリマー、本発明によるポリエステル以外のポリエステル、ポリスチレン、スチレンコポリマー、スチレン-アクリロニトリルコポリマー、スチレン-アクリロニトリル-ブタジエンコポリマー、ポリ(メタクリル酸メチル)、アクリルコポリマー、ポリ(エーテル-イミド)、ポリ(2,6-ジメチルフェニレンオキシド)等のポリ(フェニレンオキシド)、ポリ(フェニレンスルフェート)、ポリ(エステル-カーボネート)、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリスルホンエーテル、ポリエーテルケトンおよびこれらのポリマーの混合物から選択できる。
【0055】
追加のポリマーは、ポリマーの衝撃特性の改善を可能にするポリエステル、特に官能性
ポリオレフィン、例えば官能化エチレンまたはプロピレンポリマーおよびコポリマー、コア-シェルコポリマーまたはブロックコポリマー等であってもよい。
【0056】
3D印刷物の製造中、それに特定の特性を与えるために熱可塑性ポリエステルに1種以上の添加剤を添加できる。
【0057】
したがって、添加剤の例として、有機または無機、ナノメートルまたはナノメートルではない、官能化または非官能化特性のフィラーまたは繊維が挙げられる。それらは、シリカ、ゼオライト、ガラス繊維またはビーズ、粘土、雲母、チタネート、シリケート、グラファイト、炭酸カルシウム、カーボンナノチューブ、木部繊維、炭素繊維、ポリマー繊維、タンパク質、セルロース系繊維、リグノセルロース繊維および構造分解されない粒状デンプンであってもよい。これらのフィラーまたは繊維は、硬度、剛性または水もしくは気体透過性の改善を可能にする。
【0058】
添加剤はまた、乳白剤、染料および顔料から選択されてもよい。それらは、酢酸コバルトならびに以下の化合物から選択できる。:HS-325 Sandoplast(登録商標)Red BB(これは、Solvent Red 195の名称でも知られる、アゾ官能基を有する化合物である)、アントラキノンであるHS-510 Sandoplast(登録商標)Blue 2B、Polysynthren(登録商標)Blue RおよびClariant(登録商標)RSB Violet。
【0059】
添加剤は、例えば、BASFからのTinuvin(商標):例えば、tinuvin
326、tinuvin Pまたはtinuvin 234等のベンゾフェノンもしくはベンゾトリアゾール型の分子、またはBASFからのChimassorb(商標):例えば、Chimassorb 2020、Chimassorb 81もしくはChimassorb 944等のヒンダードアミン等のUV抵抗剤であってもよい。
【0060】
添加剤は、不燃剤または難燃剤、例えばハロゲン化誘導体もしくは非ハロゲン化難燃剤(例えば、Exolit(登録商標)OP等のリン系誘導体)、またはメラミンシアヌレートの範囲(例えば、melapur(商標):melapur 200)、または水酸化アルミニウムもしくは水酸化マグネシウム等であってもよい。
【0061】
最後に、添加剤は、帯電防止剤または他の抗ブロック剤、例えば疎水性分子の誘導体、例えばCroda社から発売されているIncroslip(商標)またはIncromol(商標)等であってもよい。
【0062】
したがって、本発明による熱可塑性ポリエステルは、3D印刷物の製造に使用される。
【0063】
3D印刷物は、当業者に公知の3D印刷技術に従って製造できる。
【0064】
例えば、3D印刷は、溶融堆積モデリング(FDM)または選択的レーザー焼結によって実施できる。好ましくは、3D印刷は、溶融堆積モデリングによって実施される。
【0065】
溶融堆積による3D印刷は、特に3軸、x軸、y軸およびz軸に沿って移動するノズルを通してプラットフォーム上に熱可塑性ポリマー材料のスレッドを押し出すことからなる。物品の印刷が終了するまで、プラットフォームはそれぞれの新しい層が適用された状態で1レベル下がる。
【0066】
したがって、当業者は、本発明による熱可塑性ポリエステルが3D印刷法のいずれか1つに従って使用できるように、本発明による熱可塑性ポリエステルの形成を容易に適合さ
せることができるであろう。
【0067】
熱可塑性ポリエステルは、スレッド、フィラメント、ロッド、顆粒、ペレットまたは粉末の形態であってもよい。例えば、溶融堆積による3D印刷に関して、熱可塑性ポリエステルは、冷却前にロッドまたはスレッドの形態、好ましくはスレッドの形態であってもよく、次に巻き上げられてもよい。次いで、そのようにして得られたスレッドスプールを物品製造のための3D印刷機において使用できる。別の例において、選択的レーザー焼結による3D印刷に関して、熱可塑性ポリエステルは粉末の形態であってもよい。
【0068】
好ましくは、本発明による物品の製造が溶融堆積による3D印刷によって実施される場合、3D印刷に使用される特性は、熱可塑性ポリエステルの半結晶質または非晶質特性に応じて最適化できる。
【0069】
したがって、溶融堆積による3D印刷において、熱可塑性ポリエステルが半結晶質である場合、印刷ノズルの温度は、好ましくは、250℃~270℃であり、床の温度は40℃~60℃である。熱可塑性ポリエステルが非晶質である場合、印刷ノズルの温度は、好ましくは、170℃~230℃であり、床の温度は最高で50℃で加熱されてもまたは加熱されなくてもよい。
【0070】
特定の実施形態によれば、物品の製造が、半結晶質熱可塑性ポリエステルから出発する溶融堆積による3D印刷によって実施される場合、前記物品を不透明にし、機械的特性、特に衝撃強度を改善するために再結晶できる。
【0071】
再結晶は、130℃~150℃、好ましくは135℃~145℃、例えば、140℃の温度において、3時間~5時間、好ましくは3時間30分~4時間30分、例えば、4時間にわたって実施できる。
【0072】
熱可塑性ポリエステルは、上記で定義されるように3D印刷物の製造に関する多くの利点を有する。
【0073】
実際に、特に少なくとも0.05の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)/1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)および1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の脂環式ジオール単位(B)の合計のモル比により、ならびに溶液中の還元粘度が50mL/gより大きく、かつ好ましくは150mL/g未満であることにより、熱可塑性ポリエステルは、流動性がなく、ひび割れもなく、特に衝撃強度に関して良好な機械的特性を有する3D印刷物を得ることができる。
【0074】
より具体的には、熱可塑性ポリエステルが非晶質熱可塑性ポリエステルである場合、3D印刷物の製造のために従来使用されていたポリマーよりもガラス転移温度が高く、得られる物品の耐熱性の改善を可能にする。
【0075】
そして、3D印刷物の製造に使用される熱可塑性ポリエステルが半結晶質熱可塑性ポリエステルである場合、3D印刷物は物理的に強く安定するために十分な結晶性を有する。次いで、半結晶質熱可塑性ポリエステルは、有利には、その後の加熱による再結晶によって結晶化度が増加する可能性があり、それにより衝撃強度を含む機械的特性の改善を可能にする。
【0076】
最後に、本発明による熱可塑性ポリエステルは、ポリアミド、フォトレジンまたはフォトポリマー等の3D印刷物の製造に使用される通常のポリマーと混合される場合、3D印刷物に利用しやすい特性の範囲を広げることができるため、有利である。
【0077】
本発明の第2の目的は、3D印刷物を製造する方法であって、
a)上記で定義した熱可塑性ポリエステルを提供する工程、
b)先行する工程で得られた熱可塑性ポリエステルを形成する工程、
c)形成された熱可塑性ポリエステルから物品を3D印刷する工程、
d)3D印刷物を回収する工程
を含む方法に関する。
【0078】
工程b)の形成は、工程c)で使用される3D印刷法に応じて当業者によって調整される。
【0079】
したがって、熱可塑性ポリエステルは、スレッド、フィラメント、ロッド、顆粒、ペレットまたは他に粉末に形成できる。例えば、3D印刷が溶融堆積によって実施される場合、形成は、有利には、スレッド、特に巻線である。巻線は、スレッド状の形態で熱可塑性ポリエステルの押し出しから得ることができ、その後、前記スレッドは冷却され、巻き上げられる。
【0080】
3D印刷は、当業者に公知の技術に従って実施できる。例えば、3D印刷工程は、溶融堆積によって実施できる。
【0081】
あるいは、提供されたポリエステルが半結晶質熱可塑性ポリエステルである場合、本発明による方法は、再結晶化の工程e)をさらに含むことができる。この再結晶化工程により、特に3D印刷物を不透明にし、衝撃強度等の機械的特性を改善できる。
【0082】
再結晶化工程は、130℃~150℃、好ましくは135℃~145℃、例えば、140℃の温度において、3時間~5時間、好ましくは3時間30分~4時間30分、例えば、4時間の期間にわたって実施できる。
【0083】
本発明の第3の目的は、上記の熱可塑性ポリエステルから製造された3D印刷物に関する。3D印刷物はまた、1種以上の追加のポリマーおよび1種以上の添加剤を含むことができる。
【0084】
ポリマー組成物を得るために特に適切である熱可塑性ポリエステルは、
・少なくとも1種の1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)、1,4:3,6-ジアンヒドロヘキシトール単位(A)以外の少なくとも1種の脂環式ジオール単位(B)、および少なくとも1種のテレフタル酸単位(C)を含むモノマーを反応器中に導入する工程であって、モル比((A)+(B))/(C)は、1.05~1.5の範囲であり、前記モノマーは、非環式脂肪族ジオールを含有しないか、導入された全モノマーに対して5%未満のモル量の非環式脂肪族ジオール単位を含有する、工程;
・反応器中に触媒系を導入する工程;
・前記モノマーを重合してポリエステルを形成する工程であって、
・オリゴマー化の第1段階であって、その間に、反応媒体が265~280℃、有利には270~280℃の範囲の温度、例えば275℃で不活性雰囲気下において撹拌される、オリゴマー化の第1段階;
・オリゴマーの縮合の第2段階であって、その間に、形成されたオリゴマーが、ポリエステルを形成するように278~300℃、有利には280~290℃の範囲の温度、例えば285℃で減圧下で撹拌される、オリゴマーの縮合の第2段階
からなる工程;
・熱可塑性ポリエステルを回収する工程
を含む合成方法によって調製できる。
【0085】
方法のこの第1段階は、不活性雰囲気、すなわち少なくとも1種の不活性気体の雰囲気下で実施される。この不活性気体は、特に、二窒素であってもよい。この第1段階は、気体流下で実施でき、圧力下、例えば、1.05~8バールの圧力において実施できる。
【0086】
好ましくは、圧力は、3~8バール、最も好ましくは、5~7.5バール、例えば、6.6バールである。これらの好ましい圧力条件下において、全モノマーの互いとの反応は、この段階中のモノマーの損失の制限によって促進される。
【0087】
オリゴマー化の第1段階の前に、モノマーの脱酸素化の工程が優先的に実施される。例えば、モノマーを反応器に導入して真空にし、次いで窒素等の不活性ガスの導入により実施できる。この減圧-不活性ガス導入サイクルは、数回、例えば、3~5回繰返しが可能である。好ましくは、試薬と、特にジオールが完全に溶解するように、この減圧-窒素サイクルは60~80℃の温度で実施される。この脱酸素化工程は、方法の終了時に得られるポリエステルの着色特性を改善する利点を有する。
【0088】
オリゴマーの縮合の第2段階は、減圧下で実施される。圧力は、段階的にランプを使用して減少させるか、あるいはランプとステップとの組合せを使用した圧力減少により、この第2段階の間に連続的に減少できる。好ましくは、この第2段階の終了時に、圧力は10ミリバール未満、最も好ましくは1ミリバール未満である。
【0089】
重合工程の第1段階は、継続時間が20分~5時間であることが好ましい。有利には、第2段階は継続時間が30分~6時間であり、この段階は、反応器が真圧下、すなわち1バール未満の圧力に置かれた瞬間から始まる。
【0090】
この方法はまた、反応器に触媒系を導入する工程を含む。この工程は、工程前、または上記の重合工程の間に実施できる。
【0091】
触媒系は、場合により不活性担体上に分散または固定された触媒または触媒の混合物を意味するように意図される。
【0092】
触媒は、ポリマー組成物を得るために、高粘度のポリマーを得るために適した量で使用される。
【0093】
エステル化触媒は、オリゴマー化段階で有利に使用される。このエステル化触媒は、スズ、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、亜鉛、マンガン、カルシウムおよびストロンチウムの誘導体、パラ-トルエンスルホン酸(PTSA)もしくはメタンスルホン酸(MSA)等の有機触媒、またはこれらの触媒の混合物から選択できる。このような化合物の例として、米国特許出願公開第2011282020A1号明細書のパラグラフ[0026]~[0029]および国際公開第2013/062408A1号パンフレットの第5ページに記載されるものが挙げられる。
【0094】
好ましくは、亜鉛誘導体またはマンガン、スズもしくはゲルマニウム誘導体がエステル交換の第1の段階中に使用される。
【0095】
重量による量の例として、導入されたモノマーの量に対して、オリゴマー化の段階で触媒系に含まれる10~500ppmの金属を使用できる。
【0096】
エステル交換の終了時において、最初の工程からの触媒は、亜リン酸またはリン酸の添加により任意選択的にブロックされるか、またはスズ(IV)の場合、トリフェニルホス
ファイトもしくはトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、あるいは米国特許出願公開第2011/282020A1号明細書の段落番号[0034]に記載のもの等の亜リン酸塩によって還元できる。
【0097】
オリゴマーの縮合の第2段階は、任意選択的に、触媒を添加して実施できる。この触媒は、有利には、スズ誘導体、好ましくはスズ、チタン、ジルコニウム、ゲルマニウム、アンチモン、ビスマス、ハフニウム、マグネシウム、セリウム、亜鉛、コバルト、鉄、マンガン、カルシウム、ストロンチウム、ナトリウム、カリウム、アルミニウムもしくはリチウムの誘導体、またはこれらの触媒の混合物から選択される。このような化合物の例としては、例えば、欧州特許第1882712B1号明細書の段落番号[0090]~[0094]に記載されるものであってもよい。
【0098】
好ましくは、触媒は、スズ、チタン、ゲルマニウム、アルミニウムまたはアンチモン誘導体である。
【0099】
重量による量の例として、導入されたモノマーの量に対して、オリゴマーの縮合の段階の触媒系に含まれる10~500ppmの金属を使用できる。
【0100】
最も好ましくは、触媒系が重合の第1段階と第2段階の間に使用される。前記系は、有利には、スズをベースとする触媒、またはスズ、チタン、ゲルマニウムおよびアルミニウムをベースとする触媒の混合物からなる。
【0101】
例として、重量による量として、導入されたモノマーの量に対して、触媒系に含まれる10~500ppmの金属を使用できる。
【0102】
本調製方法によれば、モノマーの重合の工程中、酸化防止剤が有利に使用される。これらの酸化防止剤により、得られるポリエステルの着色を減少できる。酸化防止剤は、一次および/または二次酸化防止剤であってもよい。一次酸化防止剤は、化合物Hostanox(登録商標)03、Hostanox(登録商標)010、Hostanox(登録商標)016、Ultranox(登録商標)210、Ultranox(登録商標)276、Dovernox(登録商標)10、Dovernox(登録商標)76、Dovernox(登録商標)3114、Irganox(登録商標)1010またはIrganox(登録商標)1076等の立体障害フェノール、またはIrgamod(登録商標)195等のホスホネートであってもよい。二次酸化防止剤は、Ultranox(登録商標)626、Doverphos(登録商標)S-9228、Hostanox(登録商標)P-EPQまたはIrgafos 168等の三価リン化合物であってもよい。
【0103】
重合添加剤として、酢酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドまたはテトラエチルアンモニウムヒドロキシド等、望ましくないエーテル化反応を制限可能な少なくとも1種の化合物を反応器に導入することも可能である。
【0104】
最後に、この方法は、重合工程で得られるポリエステルを回収する工程を含む。そのようにして回収された熱可塑性ポリエステルは、その後、再び3D印刷の目的のために再形成される前に、ペレットまたは顆粒等の取り扱いが容易な形態で包装できる。
【0105】
合成方法の一変形形態によれば、熱可塑性ポリエステルが半結晶質である場合、モル質量を増加させる工程が、半結晶性熱可塑性ポリエステルを回収する工程の後に行われる。
【0106】
モル質量を増加させる工程は、後重合によって実施され、半結晶性熱可塑性ポリエステルの固体状態重縮合(PCS)の工程または少なくとも1種の鎖延長剤の存在下で半結晶
性熱可塑性ポリエステルの反応押出工程からなってもよい。
【0107】
したがって、製造方法の一変形形態によれば、後重合工程はPCSによって実施される。
【0108】
PCSは、一般にガラス転移温度とポリマーの融点との間の温度で行われる。したがって、PCSを実施するためには、ポリマーは半結晶性であることが必要である。好ましくは、後者は融解熱が10J/gより大きく、好ましくは20J/gより大きく、この融解熱の測定は、低粘度ポリマーの試料を170℃で16時間、低溶体化熱処理し、次に試料を10K/分で加熱することにより、DSCによって融解熱を評価する。
【0109】
有利には、PCS工程は190~280℃、好ましくは200~250℃の温度で実施され、この工程は、半結晶性熱可塑性ポリエステルの融点未満の温度で実施されなければならない。
【0110】
PCS工程は、不活性雰囲気下、例えば窒素下、またはアルゴン下、または減圧下で実施できる。
【0111】
製造方法の第2の変形形態によれば、後重合工程は少なくとも1種の鎖延長剤の存在下での半結晶性熱可塑性ポリエステルの反応押出によって実施される。
【0112】
鎖延長剤は、反応押出において、半結晶性熱可塑性ポリエステルのアルコール、カルボン酸および/またはカルボン酸エステル官能基と反応できる2個の官能基を含む化合物である。鎖延長剤は、例えば、2個のイソシアネート、イソシアヌレート、ラクタム、ラクトン、カーボネート、エポキシ、オキサゾリンおよびイミド官能基を含む化合物から選択することができ、前記官能基は、同一であっても異なっていてもよい。熱可塑性ポリエステルの鎖延長は、溶融材料と反応器のガスとの間の良好な界面を確保するために、高粘性媒体を十分に分散撹拌しながら混合可能な全ての反応器で実施できる。特に、この処理工程に適している反応器は押出成形である。
【0113】
反応押出は、一軸スクリュー押出機、共回転二軸スクリュー押出機または反対回転二軸スクリュー押出機で実施できる。しかしながら、共回転押出器を使用してこの反応押出を実施することが好ましい。
【0114】
反応押出工程は、
・ポリマーを押出機に導入して、前記ポリマーを溶融する工程;
・その後、溶融ポリマーに鎖延長剤を導入する工程;
・次に、押出機でポリマーを鎖延長剤と反応させる工程;
・次に、押出工程で得られた半結晶性ポリエステルを回収する工程
によって実施されてもよい。
【0115】
押出の間、押出機内の温度はポリマーの融点よりも高くなるように調整される。押出成形機内の温度は、150~320℃であってもよい。
【0116】
モル質量を増加させる工程後に得られた半結晶質熱可塑性ポリエステルは、回収され、その後、再び3D印刷の目的のために形成される前に、ペレットまたは顆粒等の取り扱うことが容易な形態で包装できる。
【0117】
純粋に例示的なものであり、保護の範囲を制限するものではない次の実施例により明確に理解されるであろう。
【実施例】
【0118】
ポリマーの特性を、次の方法によって観察した。
【0119】
溶液中の還元粘度
溶液中の還元粘度は、導入されたポリマーの濃度が5g/Lである条件で、ポリマーを撹拌しながら130℃で溶解した後、フェノールとオルト-ジクロロベンゼンの等質量混合物中、25℃でウベローデ毛細管粘度計を使用して評価した。
【0120】
DSC
ポリエステルの熱特性を、示差走査型熱量測定(DSC)によって測定した。試料を最初に開放るつぼ中、窒素雰囲気下で10℃から320℃まで加熱し(10℃/分)、10℃まで冷却し(10℃/分)、最初の工程と同じ条件下で320℃まで再加熱する。ガラス転移温度は、第2の加熱の中点でとられた。任意の融点は、第1の加熱の吸熱ピーク(開始)で決定される。
【0121】
同様に、融解エンタルピー(曲線下面積)は、第1の加熱において決定される。
【0122】
以下に提示された説明例のために、次の試薬を使用した。
1,4-シクロヘキサンジメタノール(純度99%、シスおよびトランス異性体の混合物)
イソソルビド(純度>99.5%)、Roquette Freres社製、Polysorb(登録商標)P
テレフタル酸(純度99+%)、Acros社製
Irganox(登録商標)1010、BASF AG社製
ジブチルスズオキシド(純度98%)、Sigma-Aldrich社製
【0123】
実施例1:3D印刷物の製造のための非晶質熱可塑性ポリエステルの使用
非晶質熱可塑性ポリエステルP1は、3D印刷における本発明による使用のために調製される。
【0124】
A:重合
859g(6モル)の1,4-シクロヘキサンジメタノール、871g(6モル)のイソソルビド、1800g(10.8モル)のテレフタル酸、1.5gのIrganox1010(酸化防止剤)および1.23gのジブチルスズオキシド(触媒)を7.5Lの反応器に加える。イソソルビド結晶から残留酸素を抽出するために、反応媒体の温度が60℃~80℃になったら4回の減圧-窒素サイクルを実施する。
【0125】
次に、6.6バールの圧力下で、反応混合物を275℃(4℃/分)まで加熱し、エステル化度87%が得られるまで常に撹拌した(150rpm)。エステル化度は、回収された蒸留物の質量から推測する。次いで、対数傾斜に従って圧力を90分で0.7ミリバールに下げ、温度を285℃にする。
【0126】
これらの減圧および温度条件は、初期トルクに対して12.1Nmのトルクの増加が得られるまで維持された。
【0127】
最後に、反応器の底部バルブを介してポリマーロッドをキャストし、温度を調節した水浴で15℃まで冷却し、約15mgの顆粒G1に切断する。
【0128】
そのようにして得られた樹脂は、溶液中の還元粘度が54.9mL/gである。
【0129】
ポリエステルP1の1H NMR分析により、ジオールに対して44モル%のイソソルビドを含有することを示す。
【0130】
(第2の加熱において測定される)熱特性に関して、ポリエステルP1は、ガラス転移温度が125℃である。
【0131】
B:ロッドを形成するための顆粒の押し出し
300ppm未満の残留水分量を達成するために、前の工程で得られた顆粒G1を110℃において減圧乾燥する。この例では、顆粒の含水量は210ppmである。
【0132】
ロッド/スレッドの押し出しは、それぞれ直径1.75mmの2つの穴を有するダイを備えたCollin押出機によって行われる。このアセンブリーは、冷却されたサイジングダイおよび水冷浴によって完了される。
【0133】
押し出しのパラメーターを以下の表1にまとめる。
【0134】
【0135】
押出機の出口では、得られたスレッドは1.75mmの直径を有する。次いで、60℃の熱気流によって冷却した後に表面乾燥させ、次いで巻き取る。
【0136】
C:溶融堆積による3D印刷物の形成
Markerbot社製の3D印刷機(Replicator 2)上にスプールを設置する。
【0137】
ノズル温度を185℃に固定し、床を55℃に加熱する。
【0138】
得られた印刷物は、互いに縁部で連結したいくつかの平面五面体で形成された3D多面体である。
【0139】
目視観察により、製造された物品は流動性またはいかなるひび割れもないことが示される。さらに、得られた物品は透明であり、また良好な表面仕上げも有する。
【0140】
したがって、本発明による非晶質熱可塑性ポリエステルは、印刷物の製造に特に適している。
【0141】
実施例2:3D印刷物の製造のための半結晶質熱可塑性ポリエステルの使用
半結晶質熱可塑性ポリエステルP2は、3D印刷における本発明による使用のために調製される。
【0142】
A:重合
1432g(9.9モル)の1,4-シクロヘキサンジメタノール、484g(3.3モル)のイソソルビド、2000g(12.0モル)のテレフタル酸、1.65gのIrganox1010(酸化防止剤)および1.39gのジブチルスズオキシド(触媒)を7.5Lの反応器に添加する。イソソルビド結晶から残留酸素を抽出するために、反応媒体の温度が60℃になったら4回の減圧-窒素サイクルを実施する。
【0143】
次に、6.6バールの圧力下で、反応混合物を275℃(4℃/分)まで加熱し、エステル化度87%が得られるまで常に撹拌した(150rpm)。エステル化度は、回収された蒸留物の質量から推測する。
【0144】
次いで、対数傾斜に従って圧力を90分で0.7ミリバールに下げ、温度を285℃にする。
【0145】
これらの減圧および温度条件は、初期トルクに対して12.1Nmのトルクの増加が得られるまで維持された。
【0146】
最後に、反応器の底部バルブを介してポリマーロッドをキャストし、温度を調節した水浴で15℃まで冷却し、約15mgの果粒状に切断する。
【0147】
したがって、顆粒G2は、170℃において減圧オーブン中で2時間結晶化される。
【0148】
モル質量を増加させるための工程は、窒素流下(1500L/時間)、210℃で20時間、これらの顆粒10kgに対して固相後縮合を実施した。固相後縮合後の樹脂は、溶液中の還元粘度が103.4ml.g-1である。
【0149】
ポリエステルの1H NMR分析により、ポリエステルP2がジオールに対して17.0モル%のイソソルビドを含有することを示す。
【0150】
熱特性に関して、ポリエステルP2は、溶融エンタルピーが23.2J/gであり、ガラス転移温度が96℃および融点が253℃である。
【0151】
B:ロッドを形成するための顆粒の押し出し
300ppm未満の残留水分量を達成するために、顆粒G2を150℃において減圧乾燥させる。本実施例に関して、顆粒の含水量は110ppmである。
【0152】
ロッド/スレッドの押し出しは、それぞれ直径1.75mmの2つの穴を有するダイを備えたCollin押出成形機によって行われる。このアセンブリーは、冷却されたサイジングダイおよび水冷浴によって完了される。
【0153】
押し出しのパラメーターを以下の表2にまとめる。
【0154】
【0155】
押出機の出口では、得られたスレッドは1.75mmの直径を有する。次いで、60℃の熱気流によってそれを冷却した後に表面乾燥させ、次いで巻き取る。
【0156】
C:溶融堆積による3D印刷物の形成
Markerbot社からの3D印刷機(Replicator 2)上にスプールを設置する。
【0157】
ノズル温度を270℃に固定し、床を55℃に加熱する。
【0158】
得られた印刷物は、互いに縁部で連結したいくつかの平面五面体で形成された3D多面体である。
【0159】
目視観察により、製造された部品は流動性またはいかなるひび割れもないことが示される。
【0160】
140℃で4時間の再結晶により物品を不透明にし、特に衝撃強度に関してその機械的特性が増加可能となる。
【0161】
したがって、本発明による半結晶質熱可塑性ポリエステルはまた、3D印刷物の製造に特に適している。