(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】心臓用カニューレ
(51)【国際特許分類】
A61M 60/178 20210101AFI20220125BHJP
A61M 25/00 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
A61M60/178
A61M25/00 530
(21)【出願番号】P 2019536810
(86)(22)【出願日】2017-03-08
(86)【国際出願番号】 US2017021358
(87)【国際公開番号】W WO2018052482
(87)【国際公開日】2018-03-22
【審査請求日】2020-03-06
(32)【優先日】2016-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519096471
【氏名又は名称】エバハート,インコーポレイティド
(73)【特許権者】
【識別番号】392000796
【氏名又は名称】株式会社サンメディカル技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100211177
【氏名又は名称】赤木 啓二
(72)【発明者】
【氏名】本村 正
(72)【発明者】
【氏名】ロバート ジョセフ ベンコウスキ
(72)【発明者】
【氏名】宮越 隆幸
【審査官】土谷 秀人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-213517(JP,A)
【文献】特開2013-215601(JP,A)
【文献】特表2010-533550(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0143141(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0012761(US,A1)
【文献】国際公開第00/037139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/10
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カニューレシステムであって、
入口を形成するカニューレと、
前記カニューレの周りに延びるフランジと、
前記カニューレの周りに広がる
と共に縫合糸を受け入れるように構成された第1カフであって、前記第1カフが、前記フランジと前記入口との間で前記カニューレの外面の少なくとも半分を被覆する、第1カフと、
前記フランジに隣接して前記カニューレの周りに延びると共に前記縫合糸を受け入れるように構成された第2カフと、を備え、
心筋層の全厚み並びに心内膜及び心外膜を通過する前記縫合糸が、前記第1カフ及び前記第2カフを通過して延び、
前記第1カフは、前記縫合糸が前記カニューレの軸方向に延びることができるように構成されている、システム。
【請求項2】
前記第1カフが、前記フランジと前記入口との間で前記カニューレの前記外面の大部分を被覆する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記カニューレが、心臓の心内膜を越えて前記心臓の房室の中へ5mmを超えて延びないように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記カニューレが、心臓の心内膜を越えて前記心臓の房室の中へ0.5mmを超えて延びないように構成される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記第2カフが、前記フランジと前記入口との間に配置される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記第2カフが前記第1カフと一体的に形成される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記フランジが前記第1カフと
前記第2カフとの間に配置される、
請求項1のシステム。
【請求項8】
前記第1カフが第1直径を画定し、前記第2カフが前記第1直径より大きい第2直径を画定する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記カニューレの第1端部が、前記入口に隣接して前記カニューレの周りに延びる溝を形成し、かつ前記第1カフが前記溝の中に受け入れられる締結部を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記第1カフが、複数のメッシュ層と共にフェルト芯を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
ポンプを心臓に接続するためのカニューレシステムであって、
入口を形成するカニューレと、
前記カニューレの周りに広がる
と共に縫合糸を受け入れるように構成された第1カフであって、前記第1カフが、前記入口に隣接して近位端部を有する、第1カフと、
前記第1カフの遠位端部に隣接して前記カニューレの第1端部の周りに延びる
と共に前記縫合糸を受け入れるように構成された第2カフと、
を備え
、
心筋層の全厚み並びに心内膜及び心外膜を通過する前記縫合糸が、前記第1カフ及び前記第2カフを通過して延び、
前記第1カフは、前記縫合糸が前記カニューレの軸方向に延びることができるように構成されている、システム。
【請求項12】
前記第2カフが、前記第1カフの直径より大きい直径を画定する、
請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記第2カフが、前記第1カフと一体的に形成される、
請求項11に記載のシステム。
【請求項14】
前記第1端部が、前記入口に隣接して環状溝を形成し、かつ前記第1カフが、前記環状溝の中に受け入れられる締結部を含む、
請求項11に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年9月19日に提出された米国仮特許出願第62/396606号(その内容全体が参照により本明細書に援用される)の利益を主張するPCT国際出願として2017年3月8日に提出される。
【0002】
様々な医療装置は、患者の心臓への接続を必要とし、特に心臓の房室との間の流体連絡を与える接続を必要とする。例えば、左補助人工心臓(LVAD)などの血液ポンプシステムを含めて「機械的循環補助」(MCS)と呼ばれるクラスの心臓血管用医療製品は、心室心房への流体接続を必要とする。LVADは、心臓移植までの繋ぎのため(移植までの繋ぎ)又は長期に永久的に使用するため(最終治療)の心不全の患者用医療装置である。LVADは、患者の機能不全の左心室から血液を排出し動脈へ血液を送り出すことによって、作用する。血液流入カニューレは、血液を大動脈へ送り出せるように、血液を心臓からLVAD又はその他のポンプ装置へ排出するための導管として機能する。
【発明の概要】
【0003】
本開示の特定の形態によれば、心臓用のカニューレシステムは、心筋層に接続するように構成された端部を有するカニューレを含む。いくつかの実施例において、カニューレの反対端部は、LVADポンプなどのポンプの入口に接続するように構成される。開示するいくつかの実施例において、カニューレは入口を形成し、カニューレの周りに延びるフランジ又はその他のコネクタを有する。第1カフは、カニューレの周りに広がり、フランジと入口との間でカニューレの外面の大きな部分を被覆する。例えば、第1カフは、フランジと入口との間でカニューレの外面の少なくとも半分又は大部分を被覆できる。カニューレの第1端部をこのように構成することによって、入口は、患者の心室心房の中へほとんど又は全く延びない。例えば、いくつかの実施形態において、先端は、心内膜を越えて5mmを超えて延びず、別の実施例において、先端は心内膜を越えて心室心房の中へ0.5mmを超えて延びない。更に、第1カフの遠位端部においてカニューレの第2端部に隣接するカニューレの第1端部の周りに延びる第2カフを含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0004】
【
図1】血液ポンプの入口に取り付けられたカニューレシステムの実施例を示す斜視図である。
【
図2】人体に埋植されカニューレシステムによって心臓に接続された
図1のカニューレシステム及び血液ポンプを概念的に示す。
【
図3】
図1及び2の血液ポンプの実施例を示す断面図である。
【
図4】
図1及び2のカニューレシステムの実施例及びカニューレシステムが取り付けられる心臓の部分の概略断面図である。
【
図5】
図1及び2のカニューレシステムの実施例の接続端部の斜視図である。
【
図6】
図1及び2のカニューレシステムの実施例の側断面図である。
【
図7A】
図6のカニューレシステムのカニューレ例を示す側面図である。
【
図7B】
図7Aの線Bに沿って見たカニューレ例の断面図である。
【
図8A】本明細書において開示するカニューレシステムのソーイングカフ(sewing cuff)例の形態を示す。
【
図8B】本明細書において開示するカニューレシステムのソーイングカフ例の形態を示す。
【
図8C】本明細書において開示するカニューレシステムのソーイングカフ例の形態を示す。
【
図8D】本明細書において開示するカニューレシステムのソーイングカフ例の形態を示す。
【
図9】開示するカニューレシステムを心臓に取り付けるための手術手順例の一部を示す。
【
図10】開示するカニューレシステムを心臓に取り付けるための手術手順例の一部を示す。
【
図11】開示するカニューレシステムを心臓に取り付けるための手術手順例の一部を示す。
【
図12】開示するカニューレシステムを心臓に取り付けるための手術手順例の一部を示す。
【
図13】開示するカニューレシステムを心臓に取り付けるための手術手順例の一部を示す。
【
図14】開示するカニューレシステムを心臓に取り付けるための手術手順例の一部を示す。
【
図15】開示するカニューレシステムを心臓に取り付けるための手術手順例の一部を示す。
【
図16】開示するカニューレシステムを心臓に取り付けるための手術手順例の一部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0005】
下記の詳細な説明において、本明細書の一部を形成しかつ本発明を実施するための具体的実施形態を例として示す添付図面を参照する。この点に関して、頂部、底部、前、後などの方向用語は、図面の向きを参照して使用する。実施形態の構成要素は、様々な向きで配置できるので、方向用語は、例示のためであり、限定的に使用されない。他の実施形態も利用でき、本発明の範囲から逸脱することなく、構造的又は論理的変更を加えることができる。したがって、下記の詳細な説明は、限定的には捉えられないものとする。
【0006】
様々なタイプの医療装置が、人体の心臓への接続を必要とする。大動脈弁バイパス又はその他の心臓ポンプの設置などの処置は、人間の心室心房への流体接続を必要とする。例えば、補助人工心臓(VAD)は、欠陥心臓の機能に部分的又は完全に取って代わる電気機械的装置である。一部のVADは短期使用のためのものであり、別のVADは長期用である。VADは、右心室(RVAD)又は左心室(LVAD)を補助する又は両方の心室(BiVAD)を補助するように設計される。使用される補助人工心臓のタイプは、多くの要因によって決まる。
【0007】
LVADは、左心臓の機能障害に応用される最も一般的な装置であるが、右心臓機能も同様に障害を生じる可能性がある。このような症状において、心臓の血液循環の問題を解決するためにRVADが必要であろう。通常、長期のVADは、心臓移植を待ちながら移植への繋ぎとして-上質の生活で患者の生命を維持しながら-使用される。別の状況において、LVADは回復への繋ぎとして応用でき、更に別の状況において、LVADは、長期的又は永久的解決法(最終治療(DT)としても知られる)として応用できる。
【0008】
LVADの場合、血液は左心室から排出されて大動脈へ送り出される。流入カニューレは、心臓をLVADの流体入口に接続するために使用される。カニューレは、心筋壁を通過して挿入されて、手術用縫合糸によって心臓の外側から係合される。概略的に、既知のLVAD流入カニューレは、臨床的に、心筋壁を貫通して心室の中へ充分に突出してカニューレの口が血液排出のために開くようにするために充分な長さの先端構造を含む。但し、心室の中へ延びるカニューレ先端と心筋壁との間の狭いスペースは、カニューレの周りに異常な血流パターンを生じる可能性があり、血液の停滞、乱流、高せん断流及び血流の分離(血餅(blood clot)の発生に繋がる可能性がある)などの好ましくない結果を生じる可能性がある。
【0009】
又、突出したカニューレ先端の血液接触面は、強力な凝血カスケードに対する生理学的反応として血餅及びその他の傷つき易い細胞/フィブリンの沈着の元となる可能性がある。血餅は、「ウェッジ血栓」-心筋層とカニューレ壁との間のギャップに発現する血栓-などのように、カニューレの周りに形成される傾向がある。このような血餅がLVADの中へ吸い込まれる場合、発作に繋がる可能性がある。更に、LVADポンプ及びカニューレが身体構造とぴったりと嵌らないために左心室においてカニューレ先端が位置異常の場合、血餅の問題を深刻化する可能性がある。更に、傾斜したカニューレ先端も、突出する先端が不整列である場合、隔壁を擦って摩耗する可能性がある。傾斜する先端は、隔壁に突き当たる場合閉塞される可能性もある。
【0010】
上述の問題を軽減するための試みは、これまで不充分であった。例えば、左心室における血流パターンを最適化するための試みにおいて、カニューレ先端の様々な形状が応用されてきたが、左心室における血流パターンを正常化するための満足すべき解決策はない。いくつかの既知のLVADは、カニューレの円滑な金属面に付加されたテクスチャ加工面を含む。純チタン又はチタン合金で作られたチタン焼結ビーズが、時にはLVADカニューレ用の表面テクスチャ加工として使用される。チタン焼結ビーズは、血餅の薄い層の形成を許容又は強化し、最終的に新生内膜組織内方成長(neo-intimal tissue ingrowth)を生じる可能性がある。新生内膜組織で被覆されたカニューレ-言い換えれば、内皮形成カニューレ面-は、優れた抗血栓性を示すことができる。但し、最近の臨床報告によれば、流入カニューレが適切にテクスチャ加工されても、血餅(又はオーバーパンヌス形成(over pannus formation))が形成され、虚血性発作(脳血管発作又はCVA)を生じる。
【0011】
本明細書において開示する装置例は、心臓の流入カニューレ挿入部位の周りでの血流の停滞及び流入カニューレの位置異常を防止する又は最小限に抑えるように作用する。最終的目標は、この問題から生じる可能性のある虚血性発作などの脳血管発作の危険を軽減することである。特に、開示する様々な実施形態は、現在のLVAD流入カニューレに伴う根源的原因に対処するのに役立つ。
【0012】
いくつかの開示する実施例において、心室の中へのカニューレ先端の突出は、最小限に抑えるか又は排除される。左心室において血流の障害物がないので、血流はより生理学的パターンを持ち、特に、心尖の周りでの血流停滞を避けるために有益である。カニューレは、カニューレ壁と心筋層との間にほとんど又は全くウェッジを示さないので、理論的には、ウェッジ血栓形成の可能性はない。又、左心室における血液接触表面積は僅かである。
【0013】
カニューレは心室の中へはあまり延びないので、心室壁に対して傾斜する先端は無く、位置異常の可能性を排除するか、又は少なくとも減少する。開示されるようなカニューレ先端が心室の中へ突出しない配列は、不全心臓が修復されて、心臓サイズが縮んだ後でも流入口の閉塞を防止する。
【0014】
図1は、血液ポンプ10に接続されたカニューレシステム100の一例を示し、
図2は、人体12の中に埋植された血液ポンプ10を示す。図示する実施例において、ポンプ10はLVADであり、カニューレシステム100によって心臓14に接続される。典型的な埋植状況においては、心臓14の左心室16は、心不全で弱っているので、左心室16から大動脈18(身体へ酸素飽和血を供給する)へ充分に血液を送り出せない。患者の心臓12が動脈血液を適切に身体へ送り出せなくなったとき、LVADの埋植が必要であるかも知れない。心臓14の左心室16は、左心室16の心尖に穴を作るために円形ナイフで除芯(cored)される。LVAD流入カニューレシステム100は、左心室16から血液を引き出して大動脈18へ血液を送り出すために、左心室16の中へ縫合される。
【0015】
図3は、埋植可能血液ポンプ10の例を示し、血液ポンプは、いくつかの実施形態においてLVADポンプである。ポンプ10は、カニューレシステム100を介して心室16に接続される入口を含む。インペラ22が回転して、血液を入口20から引き込み、血液出口24へ送る。血液出口24は流出グラフトに接続し、グラフトを通過して血液は大動脈18へ戻る。インペラ22は、図示する実施例においては永久磁石を含むモーター回転子30に接続される。モーター回転子30のこの磁石は、モーターコイル32又は巻線によって生成された回転磁場によって回転する。血液は、非回転シートリング36に対して位置付けられた回転シールリング34を含む機械的シールによってモーター回転子30への進入を制限される。クッションリング38が、シートリング36の反対側にシールリング34に隣接して位置付けられる。モーターコイル32、モーター回転子30、シートリング36及びシールリング32は、水入口40及び水出口42を通過してポンプ10を出入りして流れる循環滅菌水によって冷却され潤滑される。
【0016】
ポンプ10は、例えばチタンから作られ、患者の皮膚を横切っていくつかの実施形態において外部バッテリ動力のコントローラに接続される経皮ケーブルを介して動力を受ける。血液出口24は、流出グラフトによって大動脈18に接続される。流出グラフトは、可撓性であり、いくつかの実施例において密封ポリエステル材料又はe-PYFE(ポリテトラフルオロエチレン)で作られる。
【0017】
図4は、カニューレシステム100の実施形態を示す概略的断面図である。図示する実施例において、カニューレシステム100は、患者の心臓14への流体接続を与える。本明細書において説明するいくつかの実施例は、ポンプ10の入口20に流体接続を与えるためのLVADシステムとして説明されるが、カニューレシステム100は、心臓への流体接続を必要とするその他の処置にも応用できる。例えば、カニューレシステム100は、例えば心尖大動脈導管など心室から大動脈への流路に患者の心室を接続するために使用できる。
【0018】
図示するカニューレシステム100は、カニューレ110が心臓14の所望の房室16と流体連絡するように、心臓14の心筋層120に接続される第1端部又は接続端部112を持つカニューレ110を含む。カニューレ110の反対端部114は、例えばポンプ10の入口20に接続される。LVADに関連して実現されたとき、カニューレ110の接続端部112は、心臓14の左心室の心尖に接続される。特に、接続端部112は、カニューレ110の入口118が心臓14の左心室16と流体連絡するように心筋層120を通過して延びる。
図4に示すように、カニューレ110の入口118は、心室16の内部と流体連絡するが、心臓14の心内膜122を越えてあまり延びない。例えば、カニューレ110のいくつかの実施形態は、約14mm~16mmの内径を持つが、直径は、小児科用装置の場合8mm程度から人工心臓に使用するための25mm程度までの範囲とすることができる。
【0019】
第1の近位ソーイングカフ130は、カニューレ110の接続端部112の周りに広がり、
図4に示す実施例においては、本質的に、心筋層120を通過して延びる接続端部112の部分の外面全体を被覆する。第2の遠位ソーイングカフ132は、近位ソーイングカフ130の遠位端部においてカニューレ110の第2端部114に隣接して接続端部112の周りに延びる。遠位ソーイングカフ132は、ソーイングカフ130、132が一緒に「シルクハット」構成を形成するように、近位ソーイングカフ130の直径より大きい直径を持つ。いくつかの実施例において、近位ソーイングカフ130と遠位ソーイングカフ132は、2つの別個の構成要素であるが、別の実施例において、近位ソーイングカフ130と遠位ソーイングカフ132は、一体的に形成される。遠位ソーイングカフ132は、いくつかの実施形態において近位ソーイングカフ130の直径の約2倍の直径を持ち、半可撓性である。これによって、遠位ソーイングカフ132を通過して延びる縫合糸140が、左心室16の心室内形状を「開放」できるようにする。いくつかの例において、遠位ソーイングカフ132は、小児の心室の場合にはもっと小さくでき、遠位ソーイングカフ132は、近位ソーイングカフ130と同じ又はほぼ同じ直径を持つことができる。いくつかの例において、遠位ソーイングカフ132の直径は、心筋層120が非常に薄い右心房用の場合など心筋層120のために支持を与える必要がある場合、近位ソーイングカフ130の直径の3倍ほどにすることができる。近位及び遠位ソーイングカフ130、132の一方又は両方は、除芯された心筋層120の治癒を速めるための特徴を含むことができる。
【0020】
下でさらに論じるように、心室16の心尖は、接続端部112を心室16の心尖の中へ挿入できるようにするために除芯できる。接続端部112は、カニューレ110の接続端部112の周りに縫合糸140の配列によって固定される。縫合糸140は、綿撒糸134を通過して挿入される。綿撒糸は、通常はPTFE又はPETの小さいファブリックパッチであり、縫合糸140が心筋を切断しないようにする。縫合糸140は、心筋層120の全厚みを通過し心内膜122及び心外膜124を通過する。縫合糸140は、また、近位及び遠位ソーイングカフ130、132を通過して延び、綿撒糸134の上方で結ばれる。
【0021】
いくつかの実施形態において、接続端部112は、心内膜122を越えて心臓の中へ5mmを超えて延びず、いくつかの実施例においては、接続端部112は、心内膜122を越えて心臓14の中へ0.5mmを超えて延びない。近位ソーイングカフ130は、縫合糸140が第1カフの内部の一部分を横切れるように充分な厚み及び強度で構成される。図示する実施例において、近位ソーイングカフは、縫合糸140が概ね軸方向(
図4に示す通り上下)に近位カフ130の近位端部から遠位端部まで延びることができるように構成される。これによって、縫合糸140が心内膜122を入口118と同平面に引っ張れるようにする。心内膜122を接続端部112全体の周りで入口118と同平面又は実質的に同平面まで引っ張れるようにする近位カフ130がないと、接続端部112は、入口118が除芯エリアの心筋層及び心内膜の全ての上方に在るようにするためにはもっと長くなければならなくなる。より正確には、図示する実施例において、近位カフ130は、心内膜122を入口118と同平面まで引っ張るために縫合糸140を保持して、左心室16の中への接続端部112の挿入を最小限に抑えることができるようにする。
【0022】
縫合糸140が心内膜122及び近位ソーイングカフ130を通過すると、心筋層120及び心内膜122は、近位ソーイングカフ130に対してぴったりと引き寄せられる。これによって、左心室16を循環する血液が、治癒しつつある心筋層120に曝されるのを防いで、血餅が形成されてポンプ10の中へ引き込まれる危険を減少する。これは、又、血液が接続端部112に沿って漏出するのを防止又は少なくとも減少するためのシールを与える。漏出は、遠位ソーイングカフ132によって停止される必要がある。
【0023】
心内膜122及び近位ソーイングカフ130を通過して延びる縫合糸140は、左心室16内部において止血及び左心室16の中へのカニューレ入口118の均等の延長を与える。心内膜122が近位ソーイングカフ130に対して固定されると、可撓性遠位ソーイングカフ132は、左心室16の心尖をV字形よりU字形に僅かに形状を直すように、心筋層120を引っ張る効果を有する。単一のソーイングカフ又はカニューレ先端を左心室心尖に固定するためのその他の装置しか使用しない既知のポンプ接続の場合、縫合糸が遠位カフで締め付けられたとき、心内膜が「開いてしまい」、左心室の血液への切断された心筋層の露出を悪化させ、塞栓が発作を生じる可能性を増大する。近位ソーイングカフ130に対して心内膜122が固定されると、遠位カフ132は、厚い心筋層120に対処する柔軟性を持つ。遠位カフ132は、又、近位ソーイングカフ130を心内膜120と同平面に維持しながら、厚い心筋層120に対処するために先端110に沿って移動可能とすることもできる。
【0024】
上述のように、接続端部112は、理想的にはできる限り小さく、いくつかの実施例においては0.5mm~5mmの間、心室16の中へ延びる。但し、開示するカニューレシステム100の形態は、概ね均等の先端延長を与え、心室16の中へ更に延びる(例えば、10~20mm)もっと長いカニューレ先端に応用できる。
【0025】
上述のように、開示するカニューレシステム100は、左心室又は右心室に関連する使用に限定されない。心室の血液排出に加えて、カニューレシステム100は、右心房又は左心房にも応用できる。例えば、左心房カニューレ挿入は、心筋梗塞によって生じる心臓弛緩性心不全及び急性心不全に有益である。心筋梗塞は、心室心尖を脆くするので、心尖カニューレ挿入は応用できない。
【0026】
心室心房の中へ突出するカニューレシステム100の部分はほとんど又は全くないので、患者の心臓が回復しポンプ10を体外へ出す状況(心臓回復症例)において止血プラグを安全にカニューレ110の中へ挿入できる。
【0027】
図5は、カニューレシステム100の接続端部112の実施例を示す斜視図であり、
図6は、カニューレシステム100の側断面図である。
図7Aはカニューレ110の側面図であり、
図7Bは、線7Aの線Bに沿って見たカニューレ110の側断面図である。カニューレ110は、例えばチタンで製造でき、カニューレ110の表面は、円滑にするか又はテクスチャ加工でき、非被覆とするか、又は抗血栓性コーティングなどのコーティングで被覆できる。
【0028】
図5~7に示す実施例において、コネクタ135は、第2カフ132を近位カフ130の遠位端部に隣接して接続端部112に固定する。図示する実施形態において、コネクタ135は、カニューレ110の接続端部112の周りに延びるフランジ136を含む。フランジは、下向きに傾斜するショルダ136aを形成する。このフランジ136の目的は、第2カフ132の一方の側を固定することである。心臓14に取り付けられると、フランジ136及び第2カフ134は、心筋層120の外部に位置付けられる。カニューレ110の本体はネジ切られ、コネクタ135は、更に、フランジ136とナット142との間に第2ソーイングカフ132を挟むために、カニューレにネジ式に係合するナット142を含む。ネジ部は、又、ポンプ10の入口20へのカニューレの第2端部114の接続を容易にする。
【0029】
図示するカニューレ110は、更に、入口118に隣接してカニューレ110の周りに延びる溝138を有する。1つの実施例において、カニューレ110の円筒形本体は、16.00mmの内径及び19.5mmの外径を有し、フランジ136は27.00mmの直径を有し、溝138は、18.00mmの直径を有する。更に、図示する実施例において、カニューレ110は、頂部から底部まで30.00mmの高さを持つ。接続端部112は、ショルダ136aの外縁から入口118までを計測して10.00mmの第1高さh1を有し、ショルダ136aの頂部とカニューレ110の外面の接合部から入口118までを計測して7.33mmの第2高さh2を有する。溝138は、2.00mmの高さを持ち、カニューレの外面の中へ0.75mm延びる。
【0030】
図5及び
図6に示す実施例において、第1ソーイングカフ130は、基本的にフランジ136と入口118との間の接続端部112の部分の外面全体を被覆する。他の実施例において、近位ソーイングカフ130は、フランジ136と入口118との間の接続端部112の外面の大部分を被覆し、更に別の実施例において、近位ソーイングカフ130は、フランジ136と入口118との間の接続端部112の外面の少なくとも半分を被覆する。
【0031】
近位ソーイングカフ130(及びこれに対応する接続端部112の部分)の深さ(
図6に示す上下寸法)は、いくつかの実施例において約7mmであるが、薄い右心室用の場合の3mmから異常に厚い心筋層120を持つ患者の場合の20mmまでの範囲を持つことができる。近位ソーイングカフ130の厚み(
図6において側面から側面までの寸法)は、いくつかの実施例において1~3mmであり、
図5及び
図6に示す実施形態においては2mmの厚みである。概略的に、近位ソーイングカフ130の厚みは、針及び縫合糸140が近位ソーイングカフ130の最上部を刺して近位ソーイングカフ130の少なくとも一部分を横切れるようにするのに充分である。近位ソーイングカフ130は、インプラント等級のメッシュの多数層とフェルト芯を組み合わせて製作できる。メッシュ又はその他のインプラント等級のファブリックは、心内膜を近位カフ130と同平面まで引っ張る縫合糸140を保持するのに充分な強度を持つ必要がある。他の変形はフェルト芯を含まない。いくつかの実施形態は、例えば3層のメッシュを採用する。フェルト芯は、止血を助ける。近位ソーイングカフ130のフェルトとメッシュの複合構造は、心内膜122から来る縫合糸140のために構造的強度を与える。メッシュは、心内膜122からメッシュまで及びメッシュを覆って形成される偽性新内膜層(pseudo neointima layer)の固定を可能にする。近位ソーイングカフ130の厚みは、近位ソーイングカフ130の近位端へ進入し近位ソーイングカフ130の遠位端から出て行く縫合糸140を受け入れることができる。図示する近位ソーイングカフ130は、概ね長方形の断面を持つが、他の実施形態は、丸、台形、楕円形又は縫合糸配置を容易にするその他の形状を持つ。
【0032】
図8A~
図8Dは、近位ソーイングカフ130の実施例の更なる細部を示す。いくつかの実施形態において、近位ソーイングカフ130は、接続端部112の周りに延びる締結部で接続端部112に固定される。特に、締結部は、近位ソーイングカフ130を接続端部112に取り付けるために溝138に受け入れられる。
【0033】
図8Aは、
図8Bに示される形状に形成される前の近位ソーイングカフ130を示す。
図8A及び
図8Bに示す実施例において、インプラント等級の粘着性テープ154(シリコン又はウレタンなど)は、フェルト芯156の片側に締結される。フェルト芯156は、チタンワイヤ160を覆って位置付けられ、インプラント等級のメッシュ158は、ワイヤ160及びフェルト156の周りに巻かれて、多層のメッシュ158によって取り囲まれたフェルト芯156を持つ近位ソーイングカフ130を形成する。チタンワイヤ160は、溝138の中へ引き込まれ、近位ソーイングカフ130をカニューレ110に固定するために撚られる。別の実施形態において、チタンワイヤ160は、チタンバンド161に取り換えられる。この実施例を
図8C及び
図8Dに示す。フェルト156及びメッシュ158は、
図8A及び
図8Bに示すのと同様にチタンバンド161の周りに位置付けられる。チタンバンド161の一方の端部は、チャンネル164を形成するように折り曲げられる1つ又は複数のタブ162を含む。チタンバンド161を使用して形成された近位ソーイングカフ130は、チタンバンド161を接続端部112の周りの溝138の中に位置付けることによって、接続端部112に締結される。タブ162と反対のチタンバンド161の端部は、チャンネル164の中へ挿入され、タブ162は折り曲げられて、近位カフ130を接続端部に締結する。
【0034】
図9~
図16は、カニューレシステム100を心臓14の左心室16に接続するための手術手順の形態を示す。
図9において、左心室16の心尖は、除芯ナイフ又はパンチャ又は同様のカッティング具を使用して除芯されて、心筋層120を貫通する開口部150を生成する。
図9において、心筋層120は、カニューレ110の接続端部112の高さh1とほぼ同じ又はh1とh2との間の深さdを持つ。したがって、前述のように、接続端部112は、心室16の中へ僅かしか延びない。心室16を除芯する前に、心尖が上を向くように胸部の中で心臓の位置が直される。心臓の収縮を助けるために外科用リネンを追加できる。
図10及び
図11は、開口150が漏斗のような形状を形成するように開口150の内側ではなく外側を広げるために心尖開口150の周りで実施されるウェッジカット152を含めて、開口150の修正を示す。このウェッジカットは、心内膜を近位ソーイングカフ130と同平面になるように引っ張れるように厚い心筋層に必要な場合がある。余分な心筋柱帯を更に除去できる。これは、視野の障害物を減少して、心筋層の断裂の危険を減少する。
【0035】
図12~
図14に示すように、カニューレ110の接続端部112を取り付けるために、数本の編んだ2-0マットレス縫合糸が、例えば半円の35mm半径テーパーポイント針(CV300TI-CRON針など)を使用して、外側から内側へ綿撒糸134を通して心筋層120に通される。特定の実施例において、8本~12本の縫合糸140が使用される。縫合糸140は、1針で近位及び遠位ソーイングカフ130、132に通される。上述のように、近位ソーイングカフ130及び遠位ソーイングカフ132は、針及び縫合糸140が、1つのモーションで、近位カフ130の入口端部を貫通して、近位カフ130の少なくとも一部分を通過し、遠位カフ132を突き刺すように、構成される。上述のCV300 TI-CRON針は、1つのモーションで近位及び遠位ソーイングカフ130、132の両方に通すのに充分な大きさである。図示する実施例において、縫合糸140の経路は、心外膜124、心筋層120、心内膜122、近位ソーイングカフ130及び遠位ソーイングカフ132である。
【0036】
接続端部112は、近位ソーイングカフ130が除芯された心筋膜120内部に配置され、遠位ソーイングカフ132が心筋層120外部で心外膜124に当てられた状態で、パラシュート式に下げられる。マットレス縫合糸140は結索されて、
図15に示すように遠位ソーイングカフ132の周りに連続的に通る縫合糸が与えられる。
図16は、心臓内部から見たカニューレ110の入口118及び近位ソーイングカフ130の一部分を示す。
図16に示すように、入口118は、心内膜122を越えて心室16の中へ僅かしか又は全く突出しない。
【0037】
本開示の範囲及び主旨から逸脱することなく、本開示の様々な修正及び変更が、当業者には明らかになり、本開示の範囲は本明細書に示される例示的実施例に不当に限定されるものではないことが分かるはずである。