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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】原子炉の炉心
(51)【国際特許分類】
   G21C 1/10 20060101AFI20220125BHJP
   G21C 15/257 20060101ALI20220125BHJP
   G21C 1/12 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
G21C1/10
G21C15/257
G21C1/12
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019572823
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 RU2018000870
(87)【国際公開番号】W WO2020036509
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2020-07-22
(31)【優先権主張番号】2018129925
(32)【優先日】2018-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】520000607
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー “ステート サイエンティフィック センター オブ ザ ロシアン フェデレーション - インスティテュート フォー フィジックス アンド パワー エンジニアリング ネームド アフター エー・アイ リピンスキー”
(73)【特許権者】
【識別番号】517423567
【氏名又は名称】ジョイント ストック カンパニー“サイエンス アンド イノヴェーションズ”
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】特許業務法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロジノフ ニコライ イヴァノヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ミハイエフ アレクサンドル セルゲーエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クロトフ アレクセイ ドミトリエヴィチ
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-181445(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0027536(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0075931(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 1/10
G21C 15/257
G21C 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉の炉心であって、
1つのヒートパイプと少なくとも1つの燃料要素とを含むモジュールを少なくとも1つ備え、
前記ヒートパイプは、ヒートパイプケーシングと、芯と、冷却材とを含み、
前記燃料要素は、核燃料と容器とを含み、
前記炉心は、内部に前記少なくとも1つのモジュールが配置されるための少なくとも1つの穴を有する固体中性子減速材を炉心ケーシング内に配してなり、
前記ヒートパイプがモジュールケーシング内に配され、
燃料要素がヒートパイプの蒸発領域の周囲に、ヒートパイプケーシングと熱接触するような状態で配置されて、容器内に収納されており、
前記モジュールケーシングと前記固体中性子減速材との間の隙間は、液体中性子減速材で満たされている
ことを特徴とする原子炉の炉心。
【請求項2】
前記モジュールケーシング内が、真空にされていることを特徴とする請求項1に記載の原子炉の炉心。
【請求項3】
前記モジュールケーシング内が、熱伝導率の低い不活性ガス、例えば、キセノンで満たされていることを特徴とする請求項1に記載の原子炉の炉心。
【請求項4】
チウム、カルシウム、鉛、銀のうち一の金属が、前記ヒートパイプの冷却材として使用されることを特徴とする請求項1に記載の原子炉の炉心。
【請求項5】
水が、液体中性子減速材として使用されることを特徴とする請求項1に記載の原子炉の炉心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核エネルギーの分野に関し、炉心の外側で熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する原子炉(特に熱光起電原子炉)で使用される。
【背景技術】
【0002】
ヒートパイプを備えた炉心(特許文献1に記載の発明「ヒートパイプによって冷却されるモバイル高速炉」、2016年1月22日公開)が知られている。
【0003】
この出願による炉心には、金属ブロックに囲まれたヒートパイプおよび燃料要素(fuel element)が含まれている。燃料要素には、核燃料、上部および下部の中性子反射板、反射板の上下にあるガスキャビティが含まれる。
【0004】
ヒートパイプには、蒸発する冷却材および芯(wick)で満たされた密閉ハウジングが含まれている。
【0005】
ヒートパイプは、炉心外側の熱をガス冷却材(ガスタービンの作動体(空気またはСО2))に伝達するように配置される。タービン入口での作動体(空気)の最高温度は、約1100Kである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国出願公開2016/0027536号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】M.S. El-Genk, J-M.P. Tournier, "SAIRS" - Scalable AMTEC Integrated Reactor Space Power System// Progress in Nuclear Energy, Vol. 45, No.1, pp. 25-34, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の技術的な解決策の欠点は、炉心出口での冷却材の温度が比較的に低いことであり、これにより熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換することができない。
【0009】
本発明における技術的解決策に最も近い技術は、非特許文献1に記載の高速炉SAIRSである。
【0010】
この高速炉では、炉心は1本のヒートパイプおよび3つの燃料要素で構成されるモジュールを60個含む。モジュールは互いに近くに配置され、三角形のパッケージを形成する。
【0011】
燃料要素のカバーは、熱伝導によりヒートパイプに熱を伝達するレニウム三面体インサートを介してヒートパイプの本体にはんだ付けされる。各燃料要素の一端にはガスキャビティがある。濃縮度83.7%の窒化ウランペレットが燃料として使用される。
【0012】
この技術的な解決策の欠点は、炉心出口での冷却材の温度が比較的に低い(1200K)ため、熱電、熱電子、熱光起電の電力変換器を効率的に使用できないことである。
【0013】
本発明の目的は、上記欠点を解消すること、つまり、炉心出口で冷却材温度を上昇させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
モジュール、燃料要素、ヒートパイプを含む原子炉の炉心における上記欠点を解消するため、次の構成が提案される。
【0015】
原子炉の炉心であって、1つのヒートパイプと少なくとも1つの燃料要素とを含むモジュールを少なくとも1つ備え、前記ヒートパイプは、ヒートパイプケーシングと、芯と、冷却材とを含み、前記燃料要素は、核燃料と容器とを含み、前記炉心は、内部に前記少なくとも1つのモジュールが配置されるための少なくとも1つの穴を有する固体中性子減速材固体を炉心ケーシング内に配してなり、前記ヒートパイプがモジュールケーシング内に配され、燃料要素がヒートパイプの蒸発領域の周囲に、ヒートパイプケーシングと熱接触するような状態で配置されて、容器内に収納されており、前記モジュールケーシングと前記固体中性子減速材との間の隙間は、液体中性子減速材で満たされている。
【0016】
また、特定の態様として、次のような構成が提案される。
【0017】
第1に、前記モジュールケーシング内が、真空にされていること。
【0018】
第2に、前記モジュールケーシング内が、熱伝導率の低い不活性ガス、例えば、キセノンで満たされていること。
【0019】
第3に、水が、液体中性子減速材として使用されること。
【0020】
第4に、アルコール液など、少なくともマイナス40℃までは凍結しない液体が、液体中性子減速材として使用されること。
【0021】
第5に、例えば、リチウム、カルシウム、鉛、銀などの高沸点で低融点の金属が、前記ヒートパイプの冷却材として使用されること。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、原子力発電所の効率が向上し、特に熱光起電エネルギー変換を備えた原子炉の炉心の使用範囲の拡大に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態に係る原子炉の炉心の一部の断面図である。
図2】実施形態に係る原子炉の炉心モジュールの一部の縦断面図である。
図3図2の原子炉の炉心モジュールの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づき本発明の実施の形態に係る原子炉の炉心について説明する。
【0025】
なお、各図において、次の参照番号が示されている。
【0026】
1-モジュールハウジング、2-ヒートパイプ本体、3-燃料要素の容器(can)、4-固体中性子減速材、5-断熱材、6-ヒートパイプの芯、7-固体中性子減速材のシェル(shell)、8-核燃料、である。
【0027】
本発明の概要は次の通りである。
【0028】
原子炉の炉心には、少なくとも1つの炉心モジュール、固体中性子減速材4、および液体中性子減速材が含まれている。
【0029】
炉心モジュールは、少なくとも1つのヒートパイプ、少なくとも1つの燃料要素、および断熱材5を含む。
【0030】
炉心モジュールは、中性子を弱吸収する材料(low-capture material)、例えば、ジルコニウム合金のケーシング1の形で作られている。
実施の形態における一の特定の場合では、炉心モジュールのケーシング(モジュールケーシング)1内が真空にされる。また、別の特定の場合には、ケーシング1内は、低熱伝導率である不活性ガス、例えば、キセノンで満たされている。
【0031】
真空または不活性ガスは、炉心モジュールのケーシング1、ヒートパイプのケーシング(ヒートパイプケーシング)2、断熱材5の材料腐食に対する保護を提供する。
【0032】
ヒートパイプは、ケーシング2内部に芯6を収納する形で作られており、高沸点で低融点金属である冷却材を含んでいる。
【0033】
実施の形態の特別な場合には、リチウム、カルシウム、鉛、および銀がヒートパイプの冷却材として使用される。
【0034】
ヒートパイプのケーシング2と芯6は、モリブデンのような高融点材料でできている。ヒートパイプは、原子炉の炉心外の燃料要素で発生した熱を放出できるように設計されている。
【0035】
燃料要素は、核燃料8からなり、核燃料8はヒートパイプのケーシング2の周囲であって、ヒートパイプの蒸発領域に、ヒートパイプのケーシング2と熱接触した状態で配さ、容器3で外側が囲まれる。
【0036】
燃料要素の容器3は、モリブデンなどの高融点の耐火材料でできている。
【0037】
核分裂性同位体含有量が20%以下の酸化物、窒化物、炭化物の形態のウランまたはプルトニウム同位体は、核燃料8用の核分裂性物質として使用される。
【0038】
燃料要素の目的は、核燃料8で発生する核反応による熱を得ることである。断熱材5は、炉心モジュールの内側で、炉心モジュールのケーシング1と燃料要素の容器3との間に配される。断熱材5は、例えば、モリブデンなどの高融点金属の箔で作られた多層熱シールドの形で作られている。
【0039】
断熱材5の目的は、炉心モジュールのケーシング1から液体中性子減速材への熱漏れを防ぐことである。
【0040】
固体中性子減速材4は、円柱状または穴のある多面体の形のベリリウムなどの中性子減速材料でできている。全部の中性子減速材料は固体減速材4のシェル7に収納されている。固体中性子減速材4の穴に複数の炉心モジュールが配置されている。炉心モジュールと固体中性子減速材4との間は、中性子の液体減速材で満たされている。
【0041】
特定のケースでは、液体中性子減速材として、水または、温度が少なくともマイナス40℃に低下しても凍結しない液体、たとえば、アルコール溶液が、使用される。
【0042】
固体中性子減速材4と液体中性子減速材は、中性子の熱スペクトルを取得するように設計されている。
【0043】
さらに、液体中性子減速材は、固体中性子減速材4と炉心モジュールのケーシング1を冷却する冷却材として機能する。
【0044】
固体中性子減速材4のシェル7は、液体中性子減速材の腐食作用から固体中性子減速材を保護するように設計されている。
【0045】
原子炉の炉心は次のように動作する。
【0046】
燃料要素の核燃料8では、核分裂反応で熱が放出される。発生した熱は、ヒートパイプのケーシング2を介して、ヒートパイプの芯6を満たす冷却材に伝達される。冷却材は、芯6から蒸発し、冷却材の蒸気は、ヒートパイプのケーシング2の内部空間を満たし、その蒸気の熱は、原子炉の炉心の外側のエネルギー変換器に運ばれ、そこで凝縮し、芯6を介してヒートパイプの蒸発領域に戻る。
【0047】
蒸発する冷却材による熱伝達は、熱源とその消費部との間に温度降下がほとんどないため、原子炉の炉心の出口だけでなく、エネルギー変換器入口でも比較的に高い冷却材温度(1500~1800K)を得ることができる。これにより、原子力発電所の効率が向上し、そのような発電所の範囲が拡大する。
【0048】
固体中性子減速材4と液体中性子減速材は、低濃縮の核燃料8で熱中性子に核分裂反応の可能性を提供する。液体中性子減速材は、固体中性子減速材4の機能を補完し、固体中性子減速材4を冷却する冷却材としても機能する。
【0049】
断熱材5のため、モジュールのケーシング1からの熱漏れが最小限に抑えられ、液体中性子減速材の温度は低い。これにより、大気圧で水またはアルコールの水溶液を液体中性子減速材として使用できる。
【実施例
【0050】
原子炉の炉心の特定の実施例
固体中性子減速材4は、直径760mm、全高約700mm、直径40mmの217個の穴を持ついくつかのベリリウムディスクで構成されている。ベリリウムディスクは、ジルコニウム合金E110製のシェル7で完全に囲まれている。
【0051】
固体中性子減速材4の穴に炉心モジュールが配置されている。水は液体中性子減速材として使用される。モジュールを備えた固体中性子減速材4の穴は同心円状に配置され、モジュールの中心間の最小距離は42mmである。
【0052】
原子炉の炉心モジュールは、直径約35mm、壁厚1.5mmのジルコニウム合金E110製の円筒体1の形で作られている。モジュールケーシング1の内部にはヒートパイプがある。
【0053】
外径が約14mmのヒートパイプのケーシング2は、モリブデンでできている。ヒートパイプのケーシング2の内面には、約40ミクロンの正方形メッシュサイズを有するモリブデングリッドの2層で作られたヒートパイプの芯6が取り付けられている。
【0054】
ヒートパイプの芯6は、液体リチウムで満たされている。核燃料8とともにヒートパイプの蒸発領域は、燃料要素の容器3に囲まれている。燃料要素の容器3とモジュールケーシング1との間に、モリブデンの4層とジルコニウム箔の5層で作られた多層熱シールドの形態で作られている断熱材5が配置される。モジュールケーシング1内には、10-1Pa以下の残留ガス圧で真空が生成される。
【0055】
外径20mm、壁厚1mmの燃料要素の容器3は、19.75%の濃縮度の二酸化ウランの核燃料8ペレットで満たされたモリブデンでできている。
【0056】
燃料柱(fuel column)の高さは約500mmである。燃料ペレットと燃料要素の容器3の間に環状のギャップ(図示せず)が作成され、ガス状核分裂生成物を核燃料8の上にある空洞に排出させる。
【0057】
炉心内の燃料要素の総数は、モジュールの数に等しくなる。炉心の熱出力が1200kWの場合、1つの燃料要素の平均電力は約5.7kWである。
【0058】
燃料要素の外容器3の設計温度は1525Kである。Li7は、ヒートパイプの冷却材として使用され、大気圧の水は液体減速材として使用される。
【0059】
最も近い技術的な解決策と比較すると、本開示に係る原子炉の炉心の利点は、炉心出口の冷却材の温度を1200Kから1500K、およびそれ以上に上げることであり、これにより、原子力発電所の効率の向上されることである。さらに、特に熱光起電エネルギー変換を備えた原子炉の炉心の使用範囲を拡大することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 モジュールのケーシング
2 ヒートパイプのケーシング
3 燃料要素の容器
4 固体中性子減速材
5 断熱材
6 芯
7 固体中性子減速材の外側シェル
8 核燃料
図1
図2
図3