(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】2つの基板をボンディングするための基板ホルダおよび方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20220125BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
H01L21/02 B
H01L21/68 N
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020079346
(22)【出願日】2020-04-28
(62)【分割の表示】P 2017547970の分割
【原出願日】2015-04-10
【審査請求日】2020-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】508333169
【氏名又は名称】エーファウ・グループ・エー・タルナー・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】トーマス ヴァーゲンライトナー
(72)【発明者】
【氏名】トーマス プラッハ
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ミヒャエル ズュース
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン マリンガー
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-191789(JP,A)
【文献】特開2011-216832(JP,A)
【文献】特開2015-015269(JP,A)
【文献】特表2011-514669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 21/67-687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板(11)を第2の基板(11’)にボンディングするための方法において、
第1のステップにおいて、
前記第1の基板(11)を保持する基板ホルダを周囲温度に熱結合させると共に、前記第2の基板(11’)を保持する基板ホルダ内の加熱装置によって前記第2の基板(11’)の温度(T1u)を前記第1の基板(11)の温度(T1o)よりも高くし、前記
第1および第2の基板(11,11’)同士を互いに接近させ、これによって前記第1の基板(11)の温度(T2o,T3o)が
前記第2の基板(11’)の熱放射によって上昇し、
第2のステップにおいて、前記
第1および第2の基板(11,11’)同士の接近を停止し、前記
第1および第2の基板(11,11’)同士の間の間隔(d3)を一定に維持し、当該間隔(d3)が一定の場合に、当該間隔(d3)の真空
によって、または
当該間隔(d3)の流体の選択によって、当該間隔(d3)の熱抵抗(Rth4)を調整し、
かつ前記第1の基板(11)を保持する前記基板ホルダの熱伝導体によって、少なくとも所定の期間(t1)にわたって前記第1の基板(11)に一定の温度(T4o)を生じさせて、前記第1の基板(11)の温度(T4o)よりも高い第2の基板(11’)の温度(T1u)と前記第1の基板(11)の温度(T4o)との温度差(ΔT)を一定に維持し、
第3のステップにおいて、
前記期間(t1)内に、両前記
第1および第2の基板(11,11’)を少なくとも一時的に互いにボンディングする、
方法。
【請求項2】
前記間隔(d3)が一定であって前記一定の温度(T4o)が生じている期間(t1)を、5秒より長く
する、
請求項1
記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板ホルダと、このような基板ホルダを有する装置と、このような基板ホルダの使用と、2つの基板をボンディングするための方法と、このような方法によって製造された製品、とりわけ基板積層体と、このような方法のためのこのような基板ホルダの使用とに関する。
【0002】
半導体産業では、複数の基板、とりわけウェーハが、種々異なる方法によって互いにアライメントされ、互いに結合される。結合のプロセスはボンディングと呼ばれる。最適な結果を得るために、結合させるべき材料に応じて異なるボンディング技術を使用する必要がある。
【0003】
さて、近年では、室温でのボンディング技術もますます定着してきているが、金属は、例えば高温かつ高圧での拡散プロセスによって互いに結合される。
【0004】
好ましくは共有結合を形成する原子を有する表面を備えた基板同士は、接着力によって互いに直接的に結合される。しかしながら接着力は、始めは単なるファンデルワールス結合に過ぎないので、表面間における最大の結合強度を呈さない。適切なプロセス、特に熱処理によって、このようなファンデルワールス結合を共有結合に変換することができる。共有結合の形成による2つの表面の結合が実施されるボンディングプロセスは、ヒュージョン(融着)ボンディングプロセスと呼ばれる。近年では、このようなボンディングを改善するために、特に接触面積を最大化することが決定的に寄与するということがますます明らかになってきている。このことから、このような表面を室温でも、とりわけ熱処理なしでも、または非常にわずかな温度上昇のみでも互いに結合させるための全く新しい可能性がもたらされた。最近の測定結果は、このような最適化によって、互いに結合される材料の理論的な強度にほぼ相当する結合強度が達成され得ることを示している。
【0005】
ヒュージョンボンディングの場合には特に、両基板のいずれも、アライメントの前および/または間および/または後にとりわけ熱的負荷によって制御不能に歪まないように注意しなければならない。歪みは、基板の拡大または縮小を引き起こし、ひいては基板の、互いに位置合わせすべきマーク、特にチップの変位および/または誤配向を引き起こす。この変位および/または誤配向は、一般的に中心から縁部に向かって増大する。これによって生じる誤差は、従来技術では、しかもとりわけ半導体産業では、ランアウト(run-out)という名称で知られている。この誤差を補償することはランアウト補償と呼ばれる。この誤差は、以下により詳細に説明される。
【0006】
2つの基板をパーマネントボンディング(永久接合)する際の極めて大きな技術的問題のうちの1つが、個々の基板の間の機能ユニットのアライメント(位置合わせ)精度である。基板はアライメント設備によって互いに対して極めて正確にアライメントされ得るが、しかしボンディング過程自体の間に、基板の歪みが生じるおそれがある。こうして生じた歪みにより、機能ユニットは必ずしも全ての位置において互いに対して適正にアライメントされているとは限らない。基板の特定の点におけるアライメントの不正確性は、歪み、スケーリング誤差、レンズ欠陥(拡大誤差もしくは縮小誤差)等の結果となり得る。半導体産業においては、このような問題にかかわるテーマ領域は全て「オーバレイ(重ね合わせ)」という概念に包含される。このテーマに関する相応する概論は、例えばMack, Chris著の『Fundamental Principles of Optical Lithography - The Science of Microfabrication』(出版社WILEY、2007年,再版2012年)に記載されている。
【0007】
各機能ユニットは、実際の製造プロセスの前にコンピュータでデザインされる。例えば、導体路、マイクロチップ、MEMS、またはマイクロシステム技術を用いて製造可能なあらゆる別の構造体も、CAD(computer aided design)プログラムにおいてデザインされる。しかし、機能ユニットの製造中には、コンピュータにおいて構築された理想的な機能ユニットと、クリーンルーム内で製造された実際の機能ユニットとの間に必ず、ずれが存在することが判っている。相違点は、主としてハードウェアの制限、すなわちテクニカルエンジニアリング的な問題に起因し得るが、しかし、しばしば物理的な限界にも起因し得る。すなわち、フォトリソグラフィプロセスにより製造される構造体の解像精度は、フォトマスクのアパーチュアの大きさや、使用される光線の波長により制限される。マスク歪みは直接にフォトレジストに転写される。機械のリニアモータは、規定された許容誤差内で再現可能となる位置にしか到達し得ない。したがって、基板の機能ユニットが、コンピュータにおいて構築された構造体に正確に等しくなり得ないことは不思議ではない。したがって、全ての基板は、既にボンディングプロセスの前に、理想状態からの無視し得ないずれを有しているわけである。
【0008】
2つの基板の、互いに向かい合って位置する2つの機能ユニットの位置および/または形状を、両基板のいずれも結合過程によって歪められないと仮定して比較してみると、一般に既に、両機能ユニットの完全ではない整合が存在していることが判る。なぜならば、これらの機能ユニットは、上で説明した誤差により、理想的なコンピュータモデルから偏倚しているからである。極めて頻度の高い誤差は、
図8(http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Overlay_typical_model_terms_DE.svg, 24.05.2013およびMack, Chris著の『Fundamental Principles of Optical Lithography- The Science of Microfabrication. Chichester』(出版社WILEY、第312頁、2007年、再版2012年)からの写し)に図示されている。図面に示したように、オーバレイ(重ね合わせ)誤差は、大ざっぱには、全体的なオーバレイ誤差と局所的なオーバレイ誤差、もしくは対称的なオーバレイ誤差と非対称的なオーバレイ誤差とに区別され得る。全体的なオーバレイ誤差は均一であり、したがって場所とは無関係である。全体的なオーバレイ誤差は、互いに向かい合って位置する2つの機能ユニットの間に、位置とは無関係に、同じ偏差を生ぜしめる。典型的な全体的なオーバレイ誤差は、両基板の互いに相対的な並進もしくは回転により生じる誤差I.およびII.である。両基板の並進もしくは回転は、それぞれ互いに向かい合って位置する全ての機能ユニットに関する、基板上での相応する並進的もしくは回転的な誤差を発生させる。局所的なオーバレイ誤差は、場所に関連して発生し、主として弾性問題および/または塑性問題により発生し、この場合には特に、連続的に伝播するボンディングウェーブにより生ぜしめられる弾性問題および/または塑性問題により発生する。図示のオーバレイ誤差のうち、特に誤差III.およびIV.は「ランアウト(run-out)」誤差と呼ばれる。この「ランアウト」誤差は、特にボンディング過程中での少なくとも1つの基板の歪みにより生じる。少なくとも1つの基板の歪みにより、第1の基板の機能ユニットも、第2の基板の機能ユニットに関して歪められる。しかし、誤差I.およびII.は、同じくボンディングプロセスによって生じ得るが、しかし大抵は誤差III.およびIV.によって著しく重畳されるので、誤差I.およびII.は、極めて検知困難となるか、もしくは測定困難となる。
【0009】
2つの基板を接近させる際の最大の問題は、周囲環境が一般的に、基板との熱力学的な均衡状態にはないということにある。全ての熱力学的な示強変数、特別なケースではとりわけ温度が、考慮すべき全てのサブシステムに対して等しい場合には、熱力学的な均衡が常に存在する。多くの場合、一方の基板、とりわけ下側の基板ホルダに固定される方の基板は、比較的高い温度を有する。
【0010】
多くの場合、既に説明した基板のランアウト誤差を制御された状態で補償するために、下側の基板に関して、上側の基板の温度よりも高い別の温度を設定することが望ましいか、またはそれどころかそのようにすることが企図される。この場合、下側の基板を相応に温度調節すること、とりわけ加熱または冷却することが必要となり得る。
【0011】
ここで、本発明による基板ホルダ上に位置固定された第1の上側の基板を第2の下側の基板に接近させると、第2の下側の基板と、とりわけまた下側の基板ホルダ全体とが、上側の第1の基板を加熱し、熱膨張させ、特に非常に複雑な加熱分布に供する。この加熱分布は、温度・時間曲線によって求められる。この場合、第1の基板と第2の基板との間のわずかな温度差でさえも、上側の第1の基板の顕著な歪みを引き起こし得るか、または複雑な温度推移にしたがって上側の第1の基板を加熱することとなり得る。上側の基板の温度は、両基板の間の間隔が増加するにつれて上昇し、短時間、飽和領域において一定のままであり、その後、さらなるプロセスによってとりわけ指数関数的に減少し、その後は、境界条件が変化しなければ一定のままである。従来技術は特に、温度が時間の関数として変化する温度領域において基板同士が互いに結合されるという問題を有する。つまり、ボンディングウェーブは、それぞれ異なる時間に、または換言すればそれぞれ異なる位置においてそれぞれ異なる温度に曝され、これによって上で説明されたランアウト誤差を生成する。
【0012】
したがって、本発明の課題は、従来技術の欠点を克服して、とりわけランアウト誤差を補償することができ、とりわけ完全に回避することができる、改善された基板ホルダおよび改善された方法を提供することである。
【0013】
上記の課題は、それぞれ独立請求項に記載されている本発明による基板ホルダ、本発明による装置、本発明による使用、本発明による方法、および本発明による製品、ならびに本発明による使用によって解決される。
【0014】
本発明の有利な発展形態は、従属請求項に記載されている。明細書、特許請求の範囲、および/または図面に記載されている少なくとも2つの特徴からなる全ての組み合わせも、本発明の枠内にある。記載された値範囲では、挙げられた範囲内にある値自体も、限界値として開示されたものとみなされ、かつ任意の組み合わせの形で請求可能であるべきである。
【0015】
本発明の核心部分は、位置固定された、とりわけ上側の基板(以下では第1の基板とも呼ばれる)を所期のように調整することができるようにするために、吸収されたあらゆる熱が制御された状態でとりわけ基板ホルダの裏側に放出され、そこで熱交換器を介して排出されるように、本発明による基板ホルダ、とりわけ上側の基板ホルダ(以下では第1の基板ホルダとも呼ばれる)を構成することにある。
【0016】
本発明のさらなる重要な特徴は、温度差ΔTを本発明に基づいて所期のように調整することができるようにするために、本装置の熱抵抗を所期のように最適化することである。
【0017】
とりわけ本発明の重要な特徴は、熱抵抗の適切な選択によって下側の基板と上側の基板との間に所期の温度差ΔTを調整することである。この温度差ΔTは、一般的に時間の関数、または両基板の間の間隔の関数である。しかしながら本発明によれば、下側の基板の温度飽和の温度領域における温度差ΔTが主として重要であり、本明細書の以下の記載では、この温度領域にはdが付されている。この温度領域dでは、温度差ΔTを一定に維持することが求められる。温度差ΔTを所期のように調整および維持することによって、不利な「ランアウト」誤差を低減することができるか、またはそれどころか完全に排除することさえ可能となる。
【0018】
とりわけ温度飽和領域dにおける温度差ΔTは、一般的に、(i)熱抵抗によって、および/または(ii)とりわけ下側の基板ホルダ内の加熱装置の加熱要素によって、および/または(iii)冷却要素、特に冷却流体によって、所期のように調整される。
【0019】
本発明によれば、本基板ホルダは、基板を保持するための位置固定表面を有し、前記基板ホルダは、前記位置固定表面から熱を排出するための、好ましくはおよび/または前記位置固定表面に熱を供給するための熱伝導体を有する。
【0020】
本発明のさらなる対象は、第1の基板を第2の基板にボンディングするための装置において、前記装置は、両前記基板のうちの少なくとも一方を保持するための先行する実施形態のいずれか1つによる少なくとも1つの基板ホルダを有する、装置に関する。これに関して、とりわけ基板ホルダに関する説明が参照される。
【0021】
本発明のさらなる対象は、上側の基板ホルダとしての、本発明による基板ホルダの使用に関する。
【0022】
本発明の、とりわけ独立したさらなる対象は、第1の基板を第2の基板にボンディングするための方法であって、第1のステップにおいて、前記基板同士を互いに接近させ、これによって前記第1の基板の温度が上昇し、第2のステップにおいて、前記基板同士の接近を停止し、前記基板同士の間の間隔を一定に維持し、当該間隔が一定の場合に、少なくとも所定の期間にわたって前記第1の基板の一定の温度が生じるようにし、第3のステップにおいて、前記第1の基板が一定の温度である前記期間内に、両前記基板を少なくとも一時的に互いにボンディングする、方法に関する。
【0023】
このような状況は、十分に定義された温度領域dでは両基板の間の温度差ΔTが一定であると説明することもできる。さらには、熱抵抗を正しく選択することによって、温度差ΔTの大きさを調整することができる。
【0024】
本発明のさらなる対象は、第1の基板および第2の基板を有する製品、とりわけ基板積層体において、前記基板同士が、本発明による方法によって互いにボンディングされている、製品に関する。
【0025】
本発明のさらなる対象は、このような方法の実施中における、基板を保持するためのこのような基板ホルダの使用に関する。
【0026】
一般的に、基板ホルダ、とりわけ上側の基板ホルダを、周囲温度にできるだけ良好に熱的結合させるべきである。このことによって熱の供給および/または排出をもたらすことができる。両基板を接近させることによってとりわけ上側の基板は、下側の基板または下側の基板ホルダによって加熱される。とりわけ上側の基板ホルダの熱質量が大きく、またこの基板ホルダの熱伝導率ができるだけ高くなっていることにより、熱はとりわけこの上側の基板から排出される。そこで、本発明による基板ホルダは、下側の基板または下側の基板ホルダに接近する際における基板ホルダの温度分布と、とりわけまた上側の基板の温度分布とが、所期のように調整され得るように構成されている。
【0027】
この場合、本発明による基板ホルダの熱抵抗は、熱伝導体の、ひいては上側の基板の、冷却流体への温度適応ができるだけ迅速かつ効率的に行われるように設計されている。したがって、熱抵抗は好ましくは最小化されている。冷却流体は、好ましくは周囲雰囲気である。したがって、冷却流体の温度は、好ましくは室温である。
【0028】
とりわけ上側の基板ホルダまたはとりわけ上側の基板における温度・時間曲線を把握することにより、とりわけボンディングのために最適であると同時にスループットが増加する時点を特定することが可能となる。これに対応するプロセスまたは方法もまた、本発明の重要な、とりわけ独立した発明性のある特徴である。
【0029】
本明細書に開示されている全ての温度分布は、基板ホルダ上の基板の温度分布、または基板ホルダの温度分布とみなすことができる。基板と基板ホルダとの熱的結合は、温度のずれが無視できるほど効率的であることが好ましい。実際には、下側の基板ホルダの加熱時における下側の基板の温度は、下側の基板ホルダの温度よりもわずかに低い可能性がある。上側の基板の温度は、一般的に、本発明による上側の基板ホルダの温度よりもわずかに高い。このわずかな温度差は、基板ホルダと基板との間のそれぞれの熱抵抗がゼロではないことに関係している。
【0030】
以下では試料ホルダとも呼ばれる本発明による基板ホルダによれば、既に上で説明したように発生したあらゆる熱が制御された状態で裏側に放出され、そこで熱交換器を介して変換され、本発明による基板ホルダから排出される。さらには、とりわけ上側の基板ホルダの大きな熱質量は、とりわけ上側の基板の温度安定化をもたらし、これによって付近の周囲環境の熱変動ができるだけ最小化される。本発明によるさらなる重要な特徴は、比較的大きな熱質量によって、ボンディング過程の間における上側の基板の温度、または下側の基板と上側の基板との間の温度差ΔTが安定化されることである。
【0031】
さらには、本発明による基板ホルダを通過する熱輸送を把握することにより、とりわけ上側の基板ホルダまたは上側の基板に関する温度・時間線図を特定することが可能となり、また、本発明による基板ホルダのパラメータを変化させることにより、この線図を変化させることが可能となる。
【0032】
本発明による基板ホルダは、上側および/または下側の基板ホルダとして使用することができる。本発明による基板ホルダは、とりわけ上側の基板ホルダとして構成されており、したがって、その上に位置固定される上側の第1の基板は、とりわけ全面的に位置固定されない限り、重力の方向に変形される。
【0033】
以下では、表面の粗さに関して何度も言及される。粗さは、本明細書においては算術平均粗さ、二乗粗さ、または平均粗さ深さのいずれかとして表される。算術平均粗さの算出値、二乗粗さの算出値、および平均粗さ深さの算出値は、一般的に、測定経路または測定面が同一でもそれぞれ異なっているが、同じ桁数範囲内にある。したがって、粗さに関する以下の数値範囲は、算術平均粗さ、二乗粗さ、または平均粗さ深さのいずれかの値であるとして理解すべきである。
【0034】
本発明による基板ホルダは、とりわけ上側の第1の基板を加熱および/または冷却することができる。熱は、熱伝導体を介してとりわけ上側の第1の基板から排出され、好ましくは冷却流体に伝導される。この場合には、熱伝導体は冷却体である。しかしながら、流体が、熱伝導体に熱を排出して上側の第1の基板を加熱する加熱流体であることも考えられる。この場合には、熱伝導体は加熱体である。
【0035】
冷却流体は、好ましくは周囲雰囲気である。冷却流体の温度は、好ましくは室温である。
【0036】
好ましい実施形態では、前記熱伝導体は、とりわけ前記熱伝導体の、前記位置固定表面とは反対の側(以下では裏側とも呼ばれる)に、前記熱を排出および/または供給するためのリブを有する。これらのリブは、とりわけ熱伝導体の裏側全体に配置することができ、これによって熱交換を改善することが可能となる。
【0037】
熱は、リブを介して比較的大きな表面、すなわちいわゆるリブ表面に沿って分散させることができる。リブは、とりわけ位置固定表面に対して垂直に配置することができる。リブは、好ましくは互いに平行に配置されている。冷却体として機能する熱伝導体が使用される場合には、冷却リブである。加熱体として機能する熱伝導体が使用される場合には、リブを、加熱リブと呼ぶこともでき、これらの加熱リブは、熱を流体から熱伝導体に最適に伝導する。これから、以下の記載においてリブについて説明する。明示的な言及がない限り、以下の記載では主として、熱伝導体は冷却体とみなされ、リブは冷却リブとみなされ、流体は冷却流体とみなされる。
【0038】
本発明による基板ホルダの実施形態は、好ましくはリブが、カプセル封止部内、例えばハウジング内に配置されるように設計されている。カプセル封止部は、好ましくは少なくとも2つのアクセス部を有する。アクセス部の1つは流体の供給のために使用され、もう1つは排出のために使用される。これによって流体を、熱伝導体のリブを介して連続的に、特に周囲環境から空間的に隔離された状態で流れるようにすることが可能となる。このようなコンパクトな構造により、本発明による実施形態を、周囲の構成要素から隔離することも可能になる。冷却が気体冷却、特に空気冷却である場合には、効率的な冷却を保証するためにファンによって気体流、特に空気流をリブに流すだけでもう十分であろう。非常に特に好ましい実施形態では、冷却リブは、周囲雰囲気のみによって冷却される。
【0039】
好ましくは、流体の流速を制御することができる。この場合、流速は、1mm/秒より速く、好ましくは1cm/秒より速く、さらにより好ましくは10cm/秒より速く、最も好ましくは1m/秒より速い。コンパクトなカプセル封止部によって流体を圧力下に置くこともできる。この場合、流体の圧力は、好ましくは周囲圧力に一致する。しかしながら流体を、過圧下で使用することもできる。この場合、圧力は、1バールより大きく、好ましくは2バールより大きく、さらにより好ましくは5バールより大きく、最も好ましくは10バールより大きく、とりわけ最も好ましくは20バールより大きい。カプセル封止部への、ひいてはリブへの流体の供給は、好ましくはアクセス部に接続されたホース系を介して実施される。
【0040】
任意選択の冷却要素および加熱要素
後述する熱伝導体と、その裏側にある熱交換器とに加えて、本発明による基板ホルダは、能動的に制御可能な追加的な冷却要素および/または加熱要素を有することができる。これらの追加的な冷却要素および/または加熱要素は、好ましくは本発明による基板ホルダ内に、特に熱伝導体内に組み込まれている。熱伝導体をできるだけ均質に維持し、追加的に組み込まれた構成要素による温度の跳びを生じさせないために、熱伝導体の周囲に冷却要素および/または加熱要素を取り付けることも考えられる。
【0041】
加熱要素は、好ましくは誘導式ヒータである。しかしながら、比較的小さな温度差に対してのみ温度補償を実施すればよいので、より正確に、より迅速に、より効率的に制御することが可能であり、かつ熱伝導体の温度を輻射熱によって数℃の範囲で上昇させることが可能である赤外線源を、熱伝導体の側面に設置することも考えられる。
【0042】
冷却要素を、追加的に設置されるペルチェ素子とすることもでき、このペルチェ素子は、本来の本発明による熱伝導体とは独立して、本発明による基板ホルダ、とりわけ熱伝導体の追加的な冷却を可能にする。ペルチェ素子は、熱伝導体の材料均質性を破壊しないようにするために、好ましくは熱伝導体の外側に取り付けられる。
【0043】
本発明の本来の発明性のある特徴は、熱伝導体である。
【0044】
熱伝導体
熱伝導体は、できるだけ大きい熱質量を有する構成要素である。熱質量は、比熱容量と物体の質量との積である。密度分布が一定の場合には、質量の代わりに密度と体積との積を使用してもよい。
Cth=m・cm=ρ・V・cm
【0045】
熱質量という概念は、主として工学分野において使用される。科学分野では、主により一般的に使用される概念である熱容量が使用される。熱容量の単位はJ/Kである。熱容量は、特定の温度において熱を蓄える、物体の能力に対する尺度である。大きい熱容量を有する物体は、緩衝要素として使用可能な蓄熱器である。
【0046】
一般的に、使用される冷却流体の温度Tkが上側の基板の温度と異なる場合、熱伝導体を介して温度勾配が低下する。温度勾配の代わりに平均温度を考慮することもできる。本明細書の以下の記載では、温度勾配または平均温度にはTwが付されている。冷却流体の温度は、本発明によるプロセスの実施中には好ましくは一定に維持され、その一方で、温度勾配または平均温度Twは一般的に変化する。温度Twは、好ましくは常に上側の基板の温度に一致しており、この温度からわずかにしか逸脱しない。
【0047】
本発明による重要な認識によれば、とりわけ両基板の間の熱抵抗Rth4が無限大であれば、上側の基板の温度と、本発明による熱伝導体または本発明による上側の基板ホルダの温度とが、冷却流体の温度、すなわちとりわけ周囲温度に一致するはずである。しかしながら、熱抵抗Rth4の値が有限であることにより、下側の基板から上側の基板への熱流量が生じ得る。
【0048】
本発明によれば、「ランアウト」誤差を低減するため、または好ましくは完全に排除するために、とりわけ基板間の間隔dの間の温度差ΔTが既知であって、しかも所期のように調整可能であることが特に重要である。
【0049】
本発明による実施形態の本発明による課題は、基板の温度をできるだけ制御された状態で排出し、またそれに応じて強力に安定化させることであるので、熱伝導体は、できるだけ高い熱容量を有する。効率的な蓄熱を可能にするため、または熱変動をできるだけ効率的に補償するために、熱伝導体の熱容量は、できるだけ大きくなっている。温度安定性は、温度差ΔTの安定性にも反映される。大多数の固体では、温度および圧力が適度である場合、一定の体積における熱容量は、一定の圧力における熱容量とわずかにしか相違しない。したがって以下の記載では、これら2つの熱容量を区別しない。さらには、比熱容量が示される。熱伝導体の比熱容量は、とりわけ0.1kJ/(kg・K)より大きく、好ましくは0.5kJ/(kg・K)より大きく、さらにより好ましくは1kJ/(kg・K)より大きく、最も好ましくは10kJ/(kg・K)より大きく、とりわけ最も好ましくは20kJ/(kg・K)より大きい。熱伝導体の密度および幾何学形状が既知である場合には、上記の式によって比熱容量を絶対熱容量に変換することができる。
【0050】
できるだけ迅速に熱を輸送しなければならないので、熱伝導体の材料はできるだけ高い熱伝導率を有するべきである。熱伝導率は、0.1W/(m・K)~5000W/(m・K)の間、好ましくは1W/(m・K)~2500W/(m・K)の間、さらにより好ましくは10W/(m・K)~1000W/(m・K)の間、最も好ましくは100W/(m・K)~450W/(m・K)の間にある。熱を排出するために最もよく使用される構成材料である銅は、例えば約400W/(m・K)の熱伝導率を有する。熱伝導率によって、所与の温度差において所定の距離にわたって単位時間当たりにどのくらいのエネルギが輸送されるかが規定される。単位時間当たりに輸送されるエネルギまたは熱量は、熱流量と呼ばれる。熱流量は、1J/秒より大きく、好ましく10J/秒より大きく、さらにより好ましくは100J/秒より大きく、最も好ましくは200J/秒より大きく、とりわけ最も好ましくは500J/秒より大きい。
【0051】
熱伝導体は、該熱伝導体の裏側において、好ましくは能動的または受動的に冷却される。受動的な冷却は、とりわけできるだけ大きい表面積を介して熱を放出することによって実施される。能動的な冷却は、冷却流体によって実施される。冷却流体は、気体または液体とすることができる。例えば、以下のものが考えられ得る:
●液体、とりわけ
○水
○油
●気体、とりわけ
○希ガス
・ヘリウム
・アルゴン
○分子ガス
・HFCKW
・HFKW
・FCKW
・PFKW
・CO2
・N2
・O2
●混合気体、とりわけ
○空気、とりわけ
・周囲空気
【0052】
冷却流体は、熱伝導体を介して熱を吸収し、これによって加熱され、それと同時に熱伝導体を冷却する。加熱された冷却流体は、好ましくは冷却回路内で循環され、回路系の異なる地点で熱を排出し、このときに再び冷却され、改めて冷却回路にフィードバックされる。好ましくは、取扱いが容易であるので、冷却ガスが使用される。冷却流体が周囲空気である場合には、冷却は、熱伝導体から周囲空気中へと熱が排出されることによって実施される。局所的に加熱された周囲空気は、その後、周囲雰囲気中を伝播し、これによって温度適応および冷却がもたらされる。
【0053】
比較的大きな表面を介して熱を分散させることにより、冷却流体への放熱または熱伝達の効率が向上する。表面の粗さを意識的に増大させることにより、表面積をさらにより拡大することができる。この場合、粗さは、10nmより大きく、好ましくは100nmより大きく、さらにより好ましくは1μmより大きく、最も好ましくは10μmより大きく、とりわけ最も好ましくは100μmより大きい。
【0054】
リブを有さない熱伝導体を使用することも考えられ、これによって熱伝導体の製造を簡単にすることができる。
【0055】
本発明によるさらなる実施形態では、熱伝導体の少なくとも表側に開放気孔を設けることが考えられ得る。この場合、孔の寸法は、100nmより大きく、好ましくは1μmより大きく、さらにより好ましくは10μmより大きく、最も好ましくは100μmより大きく、とりわけ最も好ましくは約1mmである。冷却流体は開放気孔を通流し、このときに、大きな表面積に基づいてさらに効率的に熱を吸収する。リブの表面積をさらに拡大するために、リブだけに開放気孔を設けることも考えられ得る。
【0056】
本発明による基板ホルダ、とりわけ熱伝導体の主要な課題は、基板の温度の調整および温度の安定化、または下側の基板と上側の基板との間の温度差の調整および温度差の安定化である。これに加えて本発明による基板ホルダは、基板の冷却および/または加熱の必要性に応じて基板に熱を供給し、かつ/または基板から熱を排出する。本発明による基板ホルダによれば、とりわけ最高温度、または上側の基板と下側の基板との間の温度差ΔTを所期のように調整することができるようになり、さらには、とりわけ両基板をボンディングするために必要な期間と同じ期間の間、さらにより好ましくはそれよりも長い期間の間、最高温度または温度差ΔTの温度安定性が保証される。
【0057】
さらなる記載では、それぞれ少なくとも1つの特徴が異なっている複数の本発明による実施形態について言及される。上述した全ての本発明による実施形態を、上述した複数の特徴を組み合わせた本発明によるさらなる対応する実施形態を作成することが可能となるように、任意に互いに組み合わせることができる。
【0058】
本発明による例示的な実施形態では、本発明による基板ホルダは、別個の位置固定部を有し、この位置固定部の上に熱伝導体が配置される。すなわち熱伝導体と位置固定部とは、それぞれ異なっているが互いに結合された2つの構成要素である。2つの構成要素のできるだけ効率的な熱的結合は、できるだけ平坦な表面を介して実施される。この場合、位置固定部または熱伝導体の互いに接触している表面の粗さは、100μm未満、好ましくは10μm未満、さらにより好ましくは1μm未満、最も好ましくは100nm未満、とりわけ最も好ましくは10nm未満である。熱伝導性ペーストを使用することによって熱移動をさらに改善することができる。
【0059】
さらなる好ましい実施形態では、前記位置固定表面は、前記熱伝導体と一体的に形成されている。換言すれば、熱伝導体自体が、位置固定部として構成されている。熱伝導体と、位置固定部または位置固定表面とは、一体的に形成されている。が、本発明の機能性に決定的な影響を与えるわけではないので、これ以上は取り扱い、図示、または説明しない。本発明による当該実施形態によれば、位置固定部と熱伝導体との間に境界面が存在しないので、熱伝導を改善することが可能である。
【0060】
熱伝導体が一体的であるか、または1つの部分からなる本発明による実施形態は、本発明による最適な実施形態であるので、以下における全ての変形形態は、この基本型に関連するものとする。したがって、位置固定部と熱伝導体とは、以下の記載では同義語として使用される。
【0061】
本発明によるさらなる特に好ましい実施形態では、前記基板ホルダは、前記基板を変形させるための少なくとも1つの、とりわけ移動可能な、好ましくは駆動可能な変形要素を有し、前記少なくとも1つの変形要素は、好ましくは前記基板ホルダの中心に配置されている。前記少なくとも1つの変形要素は、とりわけ前記位置固定表面または位置固定される基板に対して垂直に移動可能であり、とりわけ駆動可能とすることができる。前記少なくとも1つの変形要素は、好ましくは前記基板が前記位置固定表面から離れる方向に変形可能となるように構成されている。基板ホルダまたは熱伝導体は、とりわけ中心に形成された、かつ/または一貫して延在する孔部を有することができ、この孔部の中に少なくとも1つの変形要素がとりわけ移動可能に、好ましくは駆動可能に配置されているか、またはこの孔部が、位置固定された基板を変形させることができる少なくとも1つの変形要素のアクセスを可能にする。少なくとも1つの変形要素は、例えば以下のものである:
●ピン
●スパイク
●球
●ノズル、とりわけ
○ガスノズル
【0062】
変形要素は、所期のように駆動されることによって基板を少なくとも局所的に、好ましくは中心において変形させることができるように、操作または制御される。この場合、変形は、変形要素の側面から見たときに好ましくは凹状である。変形は、とりわけ基板を位置固定部または位置固定表面から解離させるプロセスのために使用される。
【0063】
本発明によるさらなる実施形態では、熱伝導体は、基板と位置固定表面との接触、または基板と熱伝導体の材料との接触をできるだけ少なくなることを保証するために、位置固定表面に少なくとも1つのくぼみ部および/または凹部を有する。これによって、いわゆる有効位置固定表面積が減少する。有効位置固定表面積は、位置固定表面のうちの実際に基板に接触している面積である。好ましくは、位置固定表面に少なくとも1つの凹部が配置され、これによって基板を位置固定表面から離間して保持することができる。本発明による当該実施形態の利点は、熱伝導体の表面による基板の汚染が低減されることにある。熱輸送を効率的に実施するために、これに相応して高い熱伝導率と、これに相応して高い熱容量とを有する気体を少なくとも1つのくぼみ部および/または凹部に導入、とりわけ流入させることができる。この場合、基板は、数個の位置固定要素においてのみ、とりわけ周辺および/または中心に位置する位置固定要素においてのみ位置固定される。このような実施形態は、国際公開第2013/023708号(WO2013/023708A1)に開示されており、この実施形態に関する同文献の開示内容は、本出願の開示内容に明示的に含まれる。
【0064】
本発明によるさらなる実施形態では、少なくとも1つの凹部の中に、突起形状(突起)および/または針形状および/または柱形状の要素が配置されており、これらの要素によって、基板を位置固定表面から離間して保持することができ、これらの要素は、とりわけ基板の方向に先鋭に延在することができる。これらの要素は、熱伝導体の表面まで到達しており、位置固定された基板を支持する。位置固定された基板と熱伝導体との間の熱的結合を保証するために、本発明による当該実施形態では、突起および/または針および/または柱の中間空間に、大きい熱容量を有する流体を通流させることも可能である。
【0065】
位置固定要素
本開示の本発明による実施形態は全て、基板、特にウェーハ、さらにより好ましくは半導体ウェーハを位置固定することができる。この場合、位置固定は、あらゆる任意の位置固定要素によって実施することができる。好ましくは、前記位置固定表面の内部に、表面に、および/または上に、前記基板を位置固定させるための位置固定要素が、とりわけ全面的に配置されている。考えられ得るのは、以下の通りである。
●真空式の位置固定
●静電気式の位置固定
●磁気式の位置固定
●機械式の位置固定、とりわけ
○クランプ
●接着式の位置固定、とりわけ
○接着フィルムによる位置固定
【0066】
前記位置固定表面にわたって全面的に分散されて配置された、真空式の位置固定または真空通路(以下では真空チャネルとも呼ばれる)が特に好ましい。真空式の位置固定は、基板ホルダの位置固定表面に設けられた真空開口部で終端する複数の真空チャネルからなる。
【0067】
本発明による別の実施形態では、真空チャネル同士が互いに結合されており、これによって真空チャネルの排気および/または注気を同時に実施できるようになっている。
【0068】
本発明による別の実施形態では、少なくとも個々の真空チャネル同士が互いに結合されており、対応する真空チャネル群を形成している。この場合、それぞれの真空チャネル群を個別に制御可能であり、これによって基板の区分毎の位置固定および/または解離を実現することができる。本発明による特別な実施形態では、複数の真空開口部は、それぞれ異なる半径を有する複数のセンタリングされた円の中に配置されて、真空チャネル群を形成している。有利には、同じ1つの円に含まれる全ての真空チャネルが同時に制御され、これによって基板の位置固定および/または解離が中心において開始し、半径対称に外側に向かって進行するように制御することができる。これによって、基板を制御された状態で位置固定および/または解離するための特に効率的な手段が得られる。
【0069】
熱抵抗:等価回路図
本発明のさらなる重要な発明性のある特徴は、とりわけ本発明による基板ホルダを通る熱流束の最適化である。熱源とヒートシンクとの間の熱流束は、熱抵抗によって決定的な影響を受ける。それぞれの静的な多粒子系、したがって気体および液体のような流体、ならびに固体は、熱抵抗を有する。熱抵抗の定義は、当業者には周知である。熱抵抗は、純粋な材料パラメータではない。熱抵抗は、熱伝導率、厚さ、および断面積に依存する。
R=d/(A・λ)
【0070】
本明細書の以下の記載では、熱流量が常に同じ断面積を通って流れるものと仮定され、したがって、一定の断面積における熱抵抗は、考慮対象であるそれぞれの材料の熱伝導率および厚さの関数とみなされるべきである。熱抵抗は、図面ではRthおよび添字を用いて略記される。本発明によれば、とりわけ8つの関連する熱抵抗が存在する。Rth1~Rth8は、(i)下側の基板ホルダの熱抵抗、(ii)下側の基板ホルダと下側の基板との間の流体または真空の熱抵抗、(iii)下側の基板の熱抵抗、(iv)両基板の間の流体または真空の熱抵抗、(v)上側の基板の熱抵抗、(vi)上側の基板と上側の基板ホルダとの間の流体または真空の熱抵抗、(vii)熱伝導体の熱抵抗、および(viii)とりわけ冷却リブの間を流れる流体の熱抵抗である。
【0071】
熱流量は、熱源とヒートシンクとの間に加えられる温度差に正比例する。熱抵抗は、比例定数である。したがって、以下のことが当てはまる。
R=(1/ΔT)・(dQ/dt)
【0072】
とりわけ本発明のさらなる重要な発明性のある特徴は、基板の上方および/または下方の熱抵抗を最小化し、かつ基板同士の間の熱抵抗を最大化することである。したがって、本発明によれば、とりわけ以下のようにして熱抵抗を設計すべきである:
・Rth1は、とりわけ高い熱伝導率を有する材料を選択することによって最小化され、
・Rth2は、とりわけ高い熱伝導率を有する流体を選択することによって最小化され、
・Rth3は、高い熱伝導率を有する基板を選択することによって最小化されるべきであり、
・Rth4は、とりわけ低い熱伝導率を有する気体を通流させることによって、および/または真空によって、および/または最適化されたプロセス管理によって、とりわけ間隔を巧妙に選択することによって最大化され、
・Rth5は、高い熱伝導率を有する基板を選択することによって最小化されるべきであり、
・Rth6は、とりわけ高い熱伝導率を有する流体を選択することによって最小化され、
・Rth7は、とりわけ高い熱伝導率を有する材料を選択することによって最小化され、および/または
・Rth8は、とりわけ高い熱伝導率を有する流体を選択することによって最小化される。
【0073】
とりわけ本発明による実施形態の重要な特徴は、上側の基板の温度、または下側の基板と上側の基板との間の温度差ΔTを、所期のように調整することができること、およびボンディング過程の間にできるだけ一定に維持することである。このことは、本発明に基づいて熱抵抗を正しく選択することによって実現される。熱抵抗Rth4を最大化することにより、下側の基板から上側の基板への熱流量が最小化され、それどころか好ましくは完全に遮断される。ただし、熱流量の完全な遮断は実際には実現不可能であるので、実際には上側の基板の温度変化が常に生じることとなる。温度差ΔTは、とりわけ20℃未満、好ましくは10℃未満、さらにより好ましくは5℃未満、最も好ましくは1℃未満、とりわけ最も好ましくは0.1℃未満である。
【0074】
他方では、とりわけ下側の基板の温度を、下側の基板ホルダ内の加熱装置によって正確に調整することができるようにすべきである。とりわけ下側の基板の温度を、下側の基板ホルダの温度に一致させるべきである。下側の基板ホルダは、とりわけ100℃未満、好ましくは75℃未満、さらにより好ましくは50℃未満、最も好ましくは30℃未満の温度に温度調節される。
【0075】
さらには、とりわけ上側の基板の温度を、冷却流体および/または熱伝導体の温度に一致させるべきである。本発明による非常に特別な実施形態では、冷却流体の温度は、特に周囲温度に一致する。これは、とりわけ雰囲気自体を冷却流体として使用する場合に当てはまる。冷却流体は、とりわけ100℃未満、好ましくは75℃未満、さらにより好ましくは50℃未満、最も好ましくは30℃未満の温度に温度調節される。本発明による非常に特別な実施形態では、周囲雰囲気が冷却流体として使用され、したがって室温または周囲温度を有する。
【0076】
基板の直径を変更することはできない。使用される基板の熱伝導率および厚さもまた、大抵は製造条件によって予め決定されているので、本発明による最適化のために利用できないことが多い。本発明に基づいて熱抵抗を正しく選択することによって、とりわけ下側の基板から上側の基板への熱流束が好ましくは最小化され、かつ上側の基板から冷却流体への熱流束が最大化される。したがって、温度差ΔTは、本発明によれば一定のままである。
【0077】
本発明による熱抵抗の選択のさらなる目標は、とりわけ特に、上側の基板の温度を、とりわけ周囲温度で一定に維持することであり、したがって他の熱源、とりわけ下側の基板の熱源による影響を最小化することである。下側の基板ホルダの温度、ひいては下側の基板の温度が一定に維持される場合には、このことは、とりわけ温度領域dにおけるボンディング過程の間に上側の基板と下側の基板との間の温度差ΔTが維持されることと同義である。このことは、特に基板同士の間の熱抵抗Rth4を最大化することによって実現される。これに対して、下側の基板の温度T1uは、加熱装置によってできるだけ効率的に制御可能にすべきである。この場合、下側の基板ホルダの温度にはTpが付されている。好ましくは、下側の基板ホルダの温度Tpは、いずれの時点においても下側の基板の温度T1uと同一である。ヒータから下側の基板への熱の伝導は、特に熱抵抗Rth1およびRth2を最小化することによって実現される。
【0078】
プロセス
本発明による方法または本発明によるプロセスは、いわゆる温度・時間線図に基づいて説明することができる。この温度・時間線図では、温度、とりわけ本発明による基板ホルダに位置固定された基板の温度Tが、時間tの関数として示されている(温度グラフ)。この場合、温度は、温度・時間線図の左端の縦軸上に示される。温度・時間線図に間隔・時間曲線(間隔グラフ)を記載することもでき、この曲線から、両基板の間隔がどの時点でどれだけ大きいかを読み取ることができる。この場合、間隔・時間曲線の縦軸は、温度・時間線図の右端に示される。間隔・時間曲線は、mmからnm範囲までの間隔を示すので、好ましくは対数的にスケーリング(目盛り付)される。ただし、明瞭化のために、図面の間隔・時間曲線は、線形スケーリングによって示されている。なお、以下の記載では、簡略化のために温度・時間線図、または略してT-t線図に関してのみ言及される。位置固定された基板に関するT-t線図の他に、本発明による基板ホルダに関するT-t線図について説明することも可能である。ただし、これら2つのT-t線図は、とりわけ温度軸に沿ったずれが最小であることに鑑みると互いにわずかにしか相違しない。したがって、本明細書の以下の記載では、T-t線図は、位置固定された基板および/または本発明による基板ホルダの温度・時間線図に対して同義的に使用される。この仮定は、特に熱抵抗Rth2およびRth6が最小である場合に正当化されている。この場合には、基板ホルダと基板との間の熱的結合が非常に良好であるので、基板ホルダの温度と基板の温度とは多かれ少なかれ同一であると仮定することができる。
【0079】
それぞれの線図は、一般的に6つの区分、とりわけ時間区分に分割することができる。
【0080】
第1の最初の区分aでは、比較的間隔が大きい状態から基板同士が接近される。区分aにおける両基板の間の間隔は、1mmより大きく、好ましくは2mmより大きく、さらにより好ましくは3mmより大きく、最も好ましくは10mmより大きく、とりわけ最も好ましくは20mmより大きい。区分aにおける基板の移動は、他方の基板、とりわけ下側の第2の基板による温度上昇、または一般的に室温を上回る温度まで加熱され得る他方の基板ホルダ、とりわけ下側の第2の基板ホルダによる温度上昇をもたらさない。第2の下側の基板または第2の下側の基板ホルダの熱放射による影響、および/または上側の第1の基板の周囲の気体の熱対流による影響が生じる程に、両基板の間の間隔が減少すると、上側の第1の基板において穏やかな温度上昇が生じる。
【0081】
この穏やかな温度上昇の領域bは、粗大接近領域と呼ばれる。この場合、両基板の間隔は、10mm~0mmの間、好ましくは5mm~0mmの間、さらにより好ましくは1mm~0μmの間、最も好ましくは100μm~0μmの間にある。
【0082】
基板同士をさらに互いに接近させると、粗大接近領域bの最後で上側の第1の基板の温度が急激に上昇する。両基板の間で一種の熱的結合が生じるのである。基板間隔対基板直径の間隔・直径比が小さいので、熱によって上側の第1の基板が加熱される。熱放射によって加熱された周囲気体は、もはや両基板の中間空間から十分な速度で拡散することができないので、好ましくは熱を、下側の第2の基板から上側の第1の基板へと直接的に伝達する。実質的にまだ上側の第1の基板の表面に到達する可能性しか有さない熱放射にも、同様の考察が当てはまる。基板が強力に加熱されるこの領域は、近接接近領域cと呼ばれる。この場合、両基板の間隔は、1mm~0mmの間、好ましくは100μm~0μmの間、さらにより好ましくは10μm~0μmの間、最も好ましくは1μm~0μmの間にある。
【0083】
近接接近領域cからいわゆる温度飽和領域dへの温度分布の移行は、好ましくは数学的にはできるだけ定常的であるが区別することができない移行によって実施される。移行を連続的に実施し、これによって領域cとdとの分離を一義的に実施することができないようにすることも考えられる。温度・時間線図の形は、「サメのひれ」のように見える。しかしながら、また別の形状も考えられ得る。
【0084】
本発明によるボンディング過程は、好ましくは温度飽和領域dにおいて実施される。基板同士の並進的な接近が停止され、すなわち基板同士の間の間隔は一定のままである。この時点では、上側の第1の基板は、温度飽和領域dの長さに相当する十分に定義された期間t1の間、一定の温度T4oを有する。一定の温度T4oとは、最大温度変動が最大でも4K、好ましくは最大でも3K、さらに好ましくは最大でも2K、最も好ましくは最大でも1K、とりわけ最も好ましくは最大でも0.1Kであることを意味する。両基板の間隔は、この領域では一定であり、1mm~0mmの間、好ましくは100μm~0μmの間、さらにより好ましくは10μm~0μmの間、最も好ましくは1μm~0μmの間にある。本発明による特別な実施形態では、領域dにおいて両基板をさらに接近させることも可能である。ただし、この場合には、本来のボンディング過程のためにまだ十分な時間を残しておかなければならないことに注意すべきである。温度飽和領域dではさらに、下側の基板と上側の基板との間の温度差ΔTは一定のままである。この場合、温度差ΔTの変動は、4K未満、好ましくは3K未満、さらにより好ましくは2K未満、最も好ましくは1K未満、とりわけ最も好ましくは0.1K未満である。とりわけ温度差ΔTは、熱抵抗および/または熱源、とりわけ下側の基板ホルダ内のヒータの選択によって、および/またはヒートシンク、とりわけ冷却流体の選択によって正確かつ再現可能に調整することができる。
【0085】
とりわけ、前記間隔d3が一定であって前記一定の温度T4oが生じている期間t1は、5秒より長く、好ましくは10秒より長く、さらに好ましくは15秒より長く、さらにより好ましくは20秒より長く、最も好ましくは40秒より長い。これによって有利には、ボンディング過程のために十分な時間が残される。
【0086】
さらには、とりわけ前記期間t1、前記間隔d3、および/または前記一定の温度T4oは、前記第1のステップの前に、とりわけ経験によって、好ましくは前記第2の基板の温度を考慮して、かつ/または前記基板ホルダ、前記熱伝導体、および/または前記基板の材料を考慮して、かつ/または接近速度を考慮して決定される。したがって、とりわけ有利には、本方法の最適なパラメータを決定することが可能となるように、本方法を第1のステップの前に規定または較正することができる。
【0087】
ボンディング過程、とりわけヒュージョンボンディング過程は、とりわけ期間t1の長さ以下の期間t2を必要とする。本発明によるさらに重要な特徴は、ボンディング過程が、好ましくは所与の温度T4oにおける温度飽和領域dの期間内に実施されることである。このことは、第1の基板の温度が変化することなくボンディング過程を実施することができるという利点を有しており、これによって上で説明されたランアウト誤差を回避すること、少なくとも低減することが可能となる。
【0088】
これに続く冷却領域eでは、上側の第1の基板が、とりわけ指数関数的に冷却される。
【0089】
最後に、これに続く領域fでは、接近過程の前の第1の区分aにおける上側の第1の基板の初期温度よりも高い一定の飽和温度が生じる。ただし、この飽和温度は、一般的に下側の第2の基板または基板ホルダの温度よりも低い。温度T6oにおける領域fにおいてボンディング過程を実施することも考えられ得る。
【0090】
好ましくは本発明による方法を使用する前に、温度・時間線図に関する正確な判断を得ることを可能にする全ての所要の物理的パラメータが求められる。本来のボンディング過程時に、両基板の最適なボンディングを可能にし、特に相応のスループットももたらすような温度・時間分布が生成されることが保証されるまで、物理的パラメータを変化させることによって、本発明による方法を変化させる必要がある。相応の熱質量、正しい冷却流体、正しい冷却流体圧力、正しい冷却流体流速、正しい接近分布などを有する、本発明による相応の熱伝導体を使用することにより、領域dにおける飽和温度T4o、領域dの期間t1、ならびに温度・時間線図の他の全ての所期の領域を、相応に調整することができる。
【0091】
一旦、温度・時間挙動に対してシステムが較正されると、上側の第1の基板が十分に定義された時点に十分に定義された温度を有することも保証され、また、この温度に到達した開始時点から、とりわけ真空によって引き起こされる位置固定の曲げおよび/または解除によって本来のボンディング過程を実施するために十分に定義された時間を利用できることも保証される。既に領域dの早い時期からボンディングが可能であることによって、本発明の基礎である2つの重要な特徴が得られる。第1には、ボンディングを早期に開始することが可能となり、これによってスループットが大幅に増加する。第2には、十分に定義された期間内において基板が極めて一定の温度を有することが保証されている。これによって本発明によれば、従来技術において実によく知られているランアウト問題を完全に回避することが可能となる。領域dの期間中、両基板が実質的に一定の温度を有すること、およびボンディング過程の間、当該領域dの温度が実質的に変化しないことが保証されている。この関連において、上記の一定の温度の状態は、両基板が同一の温度を有していなければならないということを意味するわけではないことを改めて明示的に言及すべきである。両基板のうちの少なくとも一方を、予め比較的高温まで加熱することまたは比較的低温まで冷却することが非常に望ましいとすることができ、熱膨張を所期のように強制的に引き起こすことにより、所期の強制的な基板寸法が調整され、これによって初めて、両基板の両機能ユニットの一致がもたらされる。しかしながら、本発明によれば、これらの一旦調整された温度はボンディング過程の間一定に維持される。
【0092】
上述した本発明による方法のいずれにおいても、基板を前処理および/または後処理することができる。前処理として、特に以下のものが考えられる。
●クリーニング、とりわけ
○化学的プロセスによって、とりわけ
・液体によって、とりわけ
●水によって
○物理的プロセスによって、とりわけ
・スパッタリングによって、とりわけ
●イオンによって、とりわけ
○プラズマ活性化によって
●非帯電粒子によって
●研削
●研磨
●アライメント、とりわけ
○機械式のアライメント、および/または
○光学式のアライメント
●堆積
【0093】
後処理として、とりわけ以下のものが考えられる。
●クリーニング、とりわけ
○化学的プロセスによって、とりわけ
・液体によって、とりわけ
●水によって
○物理的プロセスによって、とりわけ
・スパッタリングによって、とりわけ
●イオンによって
●非帯電粒子によって
●研削
●研磨
●検査、とりわけ
○ボンディング界面の検査、とりわけ
・欠陥箇所(ボイド)に関して
・アライメント誤差に関して、とりわけ
●ランアウト誤差に関して
●熱処理、とりわけ
○炉内
○ヒータプレート
●とりわけ国際公開第2013/091714号(WO2013/091714A1)に記載の方法による、基板の再剥離
【0094】
本発明による実施形態によれば、特に従来技術で知られているランアウト誤差を補償することが可能となる。したがって、場合によっては基板同士を特別な方法によって、とりわけ国際公開第2013/091714号(WO2013/091714A1)に記載の方法によって再び互いに剥離させることを目的として、アラインメント精度が十分に最小化されたことを確認するために、両基板のボンディング後にボンディング界面を検査することが特に重要である。これによって両基板または基板積層体全体の喪失が回避され、必要に応じて基板を改めて互いにアライメントおよびボンディングすることができる。
【0095】
本発明による装置または本発明によるプロセスによって達成可能なアライメント精度は、100μmより良好であり、好ましくは10μmより良好であり、さらにより好ましくは500nmより良好であり、最も好ましくは200nmより良好であり、とりわけ最も好ましくは100nmより良好である。アラインメント精度は、とりわけ基板積層体のどの位置においても同じであり、このことは、ランアウト誤差の補償の成功の決定的かつ特徴的な特徴である。この場合、基板積層体の全てのアライメント誤差を平均することによって算出されるアライメント精度の標準偏差は、1μm未満、好ましくは500nm未満、さらにより好ましくは250nm未満、最も好ましくは100nm未満、とりわけ最も好ましくは50nm未満である。
【0096】
本発明によるボンディング過程の後、任意選択であるが実施することが好ましい検査の結果が肯定的であった場合には、必要に応じて基板が熱処理される。この熱処理は、とりわけヒュージョンボンディングされた基板のために必要である。この場合には、熱処理によってもはや解離不可能な両基板のパーマネントボンディング(永久接合)が生成される。本発明によるボンディング過程後に基板の熱処理がもはや必要でない場合には、それに応じて熱処理は省略される。
【0097】
本発明による方法では、両基板のボンディングは、領域dにおいてとりわけ上側の第1の基板を変形させることによって実施される。変形は、好ましくは既に説明された変形要素によって中心において実施される。本発明による第1のプロセスの利点は、特にスループットにある。ボンディング過程は既に区分dにおいて実施されており、上側の第1の基板の冷却を待つ必要がないので、スループット(すなわち本発明による実施形態を用いて単位時間当たりに処理できる基板の個数)を従来技術に比べて増加させることが可能である。上側の第1の基板の冷却は、主として周囲雰囲気によって、および/または下側の第2の基板または下側の第2の基板ホルダによって予め決められた周囲温度に適合させるプロセスである。
【0098】
本発明による別のプロセスでは、両基板のボンディングは、領域fにおいてとりわけ上側の第1の基板を変形させることによって実施される。変形は、好ましくは既に説明された変形要素によって中心において実施される。
【0099】
温度T4o、T6oは、本発明による基板ホルダによって、とりわけ熱質量、冷却要素および装置、冷却プロセス、冷却流体などによって変化され、かつ最適に適合されることができる。
【0100】
本発明のさらなる利点、特徴、および詳細は、好ましい実施例の以下の説明から、図面に基づいて明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【
図1】本発明による基板ホルダの第1の実施形態の、縮尺通りでない概略横断面図である。
【
図2】本発明による基板ホルダの第2の実施形態の、縮尺通りでない概略横断面図である。
【
図3】本発明による基板ホルダの第3の実施形態の、縮尺通りでない概略横断面図である。
【
図4】本発明による基板ホルダの第4の実施形態の、縮尺通りでない概略横断面図である。
【
図5】本発明による基板ホルダの第5の実施形態の、縮尺通りでない概略横断面図である。
【
図6】
図6aは、本発明による方法の第1のステップの、縮尺通りでない概略横断面図であり、
図6bは、第2のステップの、縮尺通りでない概略横断面図であり、
図6cは、第3のステップの、縮尺通りでない概略横断面図であり、
図6dは、第4のステップの、縮尺通りでない概略横断面図であり、
図6eは、第5のステップの、縮尺通りでない概略横断面図であり、
図6fは、第6のステップの、縮尺通りでない概略横断面図である。
【
図7】
図7aは、第1の温度・時間線図および間隔・時間線図の概略図であり、
図7bは、第2の温度・時間線図および間隔・時間線図の概略図である。
【0102】
図面中、同一の構成部分および同一機能を有する構成部分には、同じ符号が付されている。
【0103】
図1は、位置固定部4および熱伝導体2を有する基板ホルダ1の本発明による第1の実施形態を示す。位置固定部4は、位置固定要素5、特に真空通路、さらにより好ましくは個別制御可能な真空通路を有し、これらの位置固定要素5によって、図示されていない第1の基板11を位置固定表面4oに位置固定させることができる。熱伝導体2は、好ましくは複数のリブ3を有し、これらのリブ3は、該リブ3のリブ表面3oを介して図示されていない流体に熱を放出することができる。熱伝導体2は、境界面6を介して位置固定部4に結合されている。
【0104】
図2は、本発明による基板ホルダ1’の本発明による好ましい第2の実施形態を示し、この基板ホルダ1’は、位置固定部としても同時に機能する熱伝導体2’を有する。換言すれば、熱伝導体2’と位置固定部とは、
図1の実施形態とは異なり1つの部分から、すなわち一体的に形成されている。これによって位置固定部と熱伝導体2’との間に境界面が存在しなくなるので、有利には、図示されていない第1の基板11からリブ3の周囲を流れる図示されていない流体への熱の輸送を妨げる熱障壁が存在しなくなっている。
【0105】
図3は、本発明による基板ホルダ1’’の本発明によるさらにより好ましい第3の実施形態を示し、この基板ホルダ1’’は、熱伝導体2’’に孔部7を有する。孔部7は、図示されていない基板11の変形要素8、とりわけスパイクが、図示されていない裏側11oにアクセスできるようにするためのものである。本実施形態は、その他の点については
図2の実施形態と一致しているので、
図2の説明が参照される。
【0106】
図4は、本発明による基板ホルダ1’’’の本発明による第4の実施形態を示し、この基板ホルダ1’’’は、図示されていない第1の基板11の図示されていない裏側(図示せず)との接触を最小化するために、
図3に記載された特徴に加えてさらに位置固定表面4oに凹部9を有する。この最小化は、位置固定表面4oによる基板の汚染、特に金属汚染を回避するために役立つ。この最小化はさらに、粒子による基板の局所的な変形を回避するために役立つ。熱的結合を増加させるために凹部9を、熱容量および/または熱伝導率の高い流体で満たすことができる。
【0107】
図5は、本発明による基板ホルダ1
IVの本発明による第5の実施形態を示し、この基板ホルダ1は、図示されていない第1の基板11の図示されていない裏側との接触を最小化するために、かつ第1の基板11のほぼ全面的な支持を保証するために、
図4に記載された特徴に加えて突起および/または針および/または柱10で満たされた凹部9を有する。この最小化も同様にして汚染、とりわけ金属汚染を回避するために役立つ。熱的結合を増加させるために凹部9を、熱容量および/または熱伝導率の高い流体で満たすことができる。
【0108】
図6aは、本発明による例示的な方法の第1ステップを示し、この第1のステップでは始めに第1の上側の基板11が、第2の下側の基板11’から間隔d1を置いて位置している。このプロセスステップは、対応するT-t線図の、既に上で定義された領域aにおいて実施される。両基板11,11’が互いに接近され、このとき、下側の第2の基板11’または下側の基板ホルダ14による上側の第1の基板11への熱的影響は、既に上で説明したように間隔が比較的大きいことによって最大限に排除されている。
【0109】
これに続くステップでは、両基板11,11’が間隔d2まで互いに接近される。この時点では本システムは、既に上で定義された領域bに、すなわちいわゆる粗大接近領域に位置しており、この領域bでは既に、とりわけ下側の基板11’の熱放射によって、上側の第1の基板11の比較的わずかな加熱が実施される。
【0110】
これに続くステップでは、両基板11,11’が、既に上で説明したように十分に定義された間隔d3までさらに互いに接近される。この時点では本システムは、既に上で定義された領域cに、すなわちいわゆる近接接近領域に位置しており、この領域cでは、とりわけ熱放射および熱対流によって、上側の第1の基板11の急激な加熱が実施される。
【0111】
これに続く
図6dのステップでは、両基板11,11’のボンディング過程が実施される。両基板11,11’は、一定して間隔d3を置いて位置している。この時点では基板11,11’は、既に上で定義された領域dに、すなわちいわゆるボンディング領域に位置しており、この領域dでは、温度T4oが期間t1にわたって一定である。
【0112】
これに続く
図6eのステップでは、既に上で定義された領域eにおいて、基板11および/または11’の冷却が実施される。冷却自体は、上側の第1の基板11の温度を、周囲温度に、とりわけ周囲雰囲気の温度および/または下側の第2の基板11’または下側の基板ホルダ14の温度に適合させる過程である。しかしながら、この時点では両基板11,11’の結合は、とりわけプレボンディングによって既に実施されている。
【0113】
既に上で定義された領域fをさらなる図面によって図示することは省略する。なぜなら、ここから重要な知識を得ることはできないからである。明細書の記載において既に開示されているように、ボンディング過程を、領域fにおける一定の温度領域において実施することも可能である。
【0114】
図7aは、上側の水平軸上に示された、既に上で定義された6つの特徴的な温度領域a,b,c,d,e,fを有する、既に上で説明された温度・時間線図を示す。下側の水平軸上には、時間tが秒単位で示されており、左側の垂直軸上には、温度Tがケルビン単位でプロットされている。右側の垂直軸上には、両基板11と11’の間のスケーリングされていない間隔d(a.u.)がプロットされている。さらには、4つの温度グラフ12,12’,12’’,および12’’’が記入されている。温度グラフ12は、第1の基板11の温度を表す。温度グラフ12’は、冷却流体の温度Tkに多かれ少なかれ一致している熱伝導体2,2’,2’’,2’’’,2
IVの温度を表す。この温度は、両基板11,11’が互いに接近される前は、上側の基板11の温度T1oにもほぼ一致している。温度グラフ12’’は、第2の基板11’の温度を表す。温度グラフ12’’’は、下側の基板ホルダ14の温度を表す。第2の基板11’と下側の基板ホルダ14との間の熱的結合が十分に大きい場合には、これらの2つの温度はほぼ同一となる。
【0115】
さらには、両基板11および11’の間の間隔dを表す間隔グラフ13も示されている。間隔グラフ13は、もっぱらシンボルとしてのみ解釈されるべきであり、実際には、基板を負に加速、すなわち制動しなければならないので、領域cから領域dへの比較的穏やかな移行を示すことになる。とりわけ基板は、接近段階において自身の速度を変化させることもできる。温度飽和領域dにおける下側の基板の温度と上側の基板の温度との間の温度差ΔTは、熱抵抗によって、および/または熱源、とりわけ下側の試料ホルダ14内のヒータによって、および/またはヒートシンク、とりわけ冷却流体によって、正確かつ再現可能に調整することができる。
【0116】
本発明による例示的な方法の実施中における温度グラフ12および間隔グラフ13の推移は、以下に示す通りである:本方法の開始時に、すなわちaが付された領域(いわゆる温度領域a)における時間スケールの最も左側において、両基板11,11’が互いに接近され、これによって基板11,11’の間の間隔dが減少する。本方法の開始時には、両基板11,11’の間の間隔はd1であり、この間隔d1が連続的に低減される。温度領域aでは、第1または上側の基板11の温度は、実質的に一定してT1oである。
【0117】
温度領域aには時間的に見て温度領域bが続き、この温度領域bでは、基板11の温度が比較的わずかに上昇し(温度曲線区間T2o)、その一方で、基板11,11’の間の間隔dはさらに減少する。
【0118】
温度領域bには時間的に見て温度領域cが続き、この温度領域cでは、基板11の温度が温度領域bに比べて比較的大きく増加し(温度曲線区間T3o)、その一方で、基板11,11’の間の間隔dはさらに減少する。温度領域cの最後には、基板11,11’の間に実質的に一定の最終的な間隔dが実現されている。
【0119】
温度領域cには温度領域dが続き、この温度領域dでは、間隔dが一定のままであり、かつ第1の基板11の温度T4oが実質的に一定である。下側の基板11’と上側の基板11との間の温度差ΔTについても同じことが当てはまる。この一定の温度T4oは、時間t1の間、維持される。とりわけ、温度領域c(いわゆる近接接近領域c)から温度領域d(いわゆるボンディング領域d)への移行が急激に実施されるということを指摘しておく。
【0120】
温度領域dには温度領域eが続き、この温度領域eでは、基板11の温度が低下し(温度曲線区間T5o)、その一方で、間隔dは実質的に一定のままである。これに続く温度領域fでは、基板11の温度は実質的に一定である(温度曲線区間T6oを参照)。
【0121】
図7bは、既に上で定義された6つの特徴的な温度領域a,b,c’,d’,e,fを有する、別の温度・時間線図を示す。間隔グラフ13は、
図7aの間隔グラフと同一である。温度グラフ12は、温度領域a,b,c,fにおいては
図7aの温度グラフに一致しているので、これらの領域については
図7aの説明が参照される。
図7aとの相違点は、
図7aの領域cおよびdと比較してみると、領域c’およびd’において明らかとなる。この例では、近接接近領域c’からボンディング領域d’への移行は、
図7aのように急激に実施されるのではなく連続的に緩やかに実施される。
【0122】
図8は、
図I.~VII.において、上側の基板11の上側の構造体15と下側の基板11’の下側の構造体15’との間に起こり得る、既に上で説明または定義された複数のオーバレイ誤差を示し、これらのうちの少なくともいくつかは本発明を用いて回避することができる。オーバレイ誤差のいくつかは、ランアウト(run-out)誤差という名称で知られている。
【0123】
図8-I.のオーバレイ誤差は、上側の構造体15と下側の構造体15’との重ね合わせの非一致であり、ランアウト誤差の典型的な結果である。構造体15,15’は、形状的には同じであるが、一致していない。この種類の誤差の原因は、(i)基板11,11’上の構造体15,15’が根本的に不正確に製造されていること、および/または(ii)ボンディング前における、とりわけ基板11,11’の歪みによる構造体15,15’の歪み、および/または(iii)ボンディング中における、とりわけ基板11,11’の歪みによる構造体15,15’の歪み、である。さらなる別の可能性は、両基板11,11’が互いに全体的に変位することにある。ただし、この場合には、2つの基板の互いの全体的なアライメントに関する基本的なアライメント問題が原因となっており、ランアウトという概念とはほとんど関連していない。
【0124】
図8-II.は、互いに対して回転する2つの構造体15および15’のさらなる別のオーバレイ誤差を示す。両構造体15および15’の互いの回転は誇張されて図示されており、実際には数度だけ、特に数10分の1度だけしか生じていない。このような回転が生じるのは、(i)両構造体15,15’が両基板11,11’上に正しく製造されなかった場合、および/または(ii)ボンディング過程の前に、構造体15,15’の近傍にとりわけ局所的な歪みが生じ、これに対応してとりわけ局所的に両構造体15,15’が互いに回転される場合、および/または(iii)ボンディング過程の間に、構造体15,15’の近傍にとりわけ局所的な歪みが生じ、これに対応してとりわけ局所的に両構造体15,15’が互いに回転される場合、である。さらなる別の可能性は、両基板11,11’が互いに全体的にねじれることにある。この場合には、8-II.の形式のオーバレイ誤差は、両基板11,11’の間の複数の位置において、とりわけ内側から外側に向かって放射状に増加していることが見て取れることとなるはずである。
【0125】
図8-III.~8-VII.のオーバレイ誤差は、主として、(i)不正確な製造によって生じるスケーリング誤差、および/または(ii)ボンディング前における、とりわけ基板11,11’の歪みによる構造体15,15’の歪みによって生じるスケーリング誤差、および/または(iii)ボンディング中における、とりわけ基板11,11’の歪みによる構造体15,15’の歪みによって生じるスケーリング誤差である。これらは、典型的にはランアウト誤差とは呼ばれない。
【0126】
図9は、熱抵抗Rth1~Rth8の上で説明された等価回路図を有する、本発明による基板ホルダの、縮尺通りでない部分概略断面図を示す。とりわけ加熱装置(図示せず)を有する下側の基板ホルダ14から下側の基板11’への熱伝導を最大化することができるようにするために、熱抵抗Rth1~Rth3をできるだけ最小化すべきである。これによって本発明によれば、下側の基板11’の効率的かつ迅速な加熱が可能となる。さらには、一連の最小の熱抵抗によって、下側の基板11’の温度T1uの非常に迅速な変化を実現することができる。
【0127】
熱抵抗Rth4は、本発明によれば最大であるべきである。熱抵抗Rth4が無限大である純粋に理論上の理想的なケースであれば、下側の基板11’から上側の基板11に熱量が到達することはない。熱抵抗Rth4の有限性により、無視できないわずかな熱量が、常に下側の基板11’から上側の基板11に到達する。両基板11と11’の間の真空または特別な混合気の選択によって、熱抵抗Rth4を比較的容易かつ正確に調整することができる。
【0128】
本発明によれば、冷却流体、とりわけ雰囲気と、上側の基板11との間の熱伝導をできるだけ最大に、ひいては効率的にすることができるようにするために、熱抵抗Rth5~Rth8も最小化するべきである。温度飽和領域dにおけるボンディング過程の間、上側の温度T4oを、または上側の基板11の温度T4oと下側の基板11’の温度T1uとの間の温度差ΔTを、正確に、所期のように、かつ再現可能に調整することが、本発明によれば決定的に重要である。このことは、本発明によれば特に、(i)熱抵抗Rth1~Rth8のうちの少なくとも1つを所期のように選択すること、および/または(ii)とりわけ下側の基板ホルダ14内の加熱装置を用いて下側の温度T1u~Tpを調整すること、および/または(iii)とりわけ本発明による冷却流体を用いて上側の温度T1o~Tkを調整することによって実現される。
【符号の説明】
【0129】
1,1’,1’’,1’’’,1IV 基板ホルダ
2,2’,2’’,2’’’,2IV 熱伝導体
3 リブ
3o リブ表面
4 位置固定部
4o 位置固定表面
5 位置固定要素
6 境界面
7 孔部
8 変形要素
9 凹部/くぼみ部/へこみ部
10 突起/針
11,11’ 基板
12,12’,12’’,12’’’ 温度グラフ
13 間隔グラフ
14 下側の基板ホルダ
15,15’ 構造体
d1,d2,d3 基板間隔
t1 期間
T1o,T2o,T3o 温度/温度曲線区間
T4o,T5o 温度/温度曲線区間
Tp 基板ホルダの温度
Tw 熱伝導体の温度
Tk 冷却流体の温度
a,b,c,c’,d,d’,e,f 温度領域