IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲーの特許一覧

特許7014893軸受構成部材を製造する方法ならびに軸受構成部材
<>
  • 特許-軸受構成部材を製造する方法ならびに軸受構成部材 図1
  • 特許-軸受構成部材を製造する方法ならびに軸受構成部材 図2
  • 特許-軸受構成部材を製造する方法ならびに軸受構成部材 図3
  • 特許-軸受構成部材を製造する方法ならびに軸受構成部材 図4
  • 特許-軸受構成部材を製造する方法ならびに軸受構成部材 図5
  • 特許-軸受構成部材を製造する方法ならびに軸受構成部材 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】軸受構成部材を製造する方法ならびに軸受構成部材
(51)【国際特許分類】
   B24B 39/04 20060101AFI20220125BHJP
   F16C 33/64 20060101ALI20220125BHJP
   F16C 33/32 20060101ALI20220125BHJP
   B23P 9/02 20060101ALI20220125BHJP
   B23P 15/00 20060101ALI20220125BHJP
   B23P 25/00 20060101ALI20220125BHJP
   C23C 22/62 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
B24B39/04 Z
F16C33/64
F16C33/32
B23P9/02
B23P15/00 Z
B23P25/00
C23C22/62
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020511339
(86)(22)【出願日】2018-09-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 DE2018100781
(87)【国際公開番号】W WO2019057242
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2020-02-21
(31)【優先権主張番号】102017121629.4
(32)【優先日】2017-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515009952
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アー・ゲー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Industriestr. 1-3, 91074 Herzogenaurach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ベアトラム ハーグ
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ゲシュヴィントナー
(72)【発明者】
【氏名】トーニ ブラース
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル メアク
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-019961(JP,A)
【文献】特開2011-117489(JP,A)
【文献】特開2004-270888(JP,A)
【文献】特開昭53-037151(JP,A)
【文献】米国特許第03319314(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 39/04
F16C 33/64
F16C 33/32
B23P 9/02
B23P 15/00
B23P 25/00
C23C 22/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受構成部材(1)を製造する方法であって、
軸受構成部材中間製品(2)が鉄ベースの金属製の基体(3)と、変換層(4)とを有しており、
該変換層(4)が、少なくとも部分的に前記金属製の基体(3)上に形成されていて0.5マイクロメートル以上で3マイクロメートルよりも小さな初期層厚(d)を有しており、
変換層(4)として、鉄酸化物ベースの黒染め処理層を形成し、該黒染め処理層を、前記金属製の基体(3)をアルカリ処理浴を用いて少なくとも部分的に処理することにより形成し、
前記黒染め処理層の形成前に前記軸受構成部材中間製品(2)の前記金属製の基体(3)を肌焼入れ、高周波焼入れ、浸炭窒化、窒化、浸炭、マルテンサイト化焼入れまたはベイナイト焼入れにより硬化し、
前記軸受構成部材(1)を得るために、前記軸受構成部材中間製品(2)を少なくとも前記変換層(4)の領域においてボール状のボディ(6)によりローリング加工し、この際に、前記変換層(4)を該領域において圧縮して、前記初期層厚(d)の95%よりも小さい最終層厚(d)を有する前記軸受構成部材(1)の保護層(8)を形成する、軸受構成部材(1)を製造する方法。
【請求項2】
前記ボール状のボディ(6)が、ハイドロスタティック式のバニシング加工工具またはディープローリング加工工具(5)の構成部材である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
硬質合金またはセラミックスから成るボール状のボディ(6)を使用する、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
ローリング加工により、前記変換層(4)を圧縮し、前記保護層(8)が、前記変換層(4)の硬度(HU)の少なくとも150パーセントに相当する硬度(HU)を有している、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記ローリング加工により、前記変換層(4)を圧縮し、前記軸受構成部材(1)が、少なくとも前記保護層(8)の領域において、500メガパスカルよりも大きな残留応力(σ)を有している、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記軸受構成部材中間製品(2)を前記変換層(4)の領域においてスリップなしにローリング加工する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
軸受構成部材中間製品製造ステップが前記ローリング加工に先行し、前記軸受構成部材中間製品製造ステップでは、中間製品幾何形状を有する前記軸受構成部材中間製品(2)を製造し、前記軸受構成部材中間製品(2)は、前記ローリング加工後に、最終幾何形状を有する前記軸受構成部材(1)を形成する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記変換層(4)の前記ローリング加工時の圧力が、2000メガパスカルよりも大きく選択されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記黒染め処理層を形成するために、前記基体の表面が酸化される、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受構成部材中間製品が、鉄ベースの金属製の基体と変換層とを有しており、変換層が、少なくとも部分的に金属製の基体上に形成されていて初期層厚を有している、軸受構成部材を製造する方法に関する。さらに、本発明は、軸受構成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
軸受構成部材および転がり軸受は、多数の日常必需品に、かつ工業用途のために、たとえば風力発電機またはホイール軸受に使用される。このような軸受構成部材は、寿命を有している。このような寿命は、故障に至るまでの回転数または運転時間であると理解される。軸受構成部材の故障は、しばしば材料の損傷および/または材料の疲労に基づいている。このような材料損傷の1つの頻繁な現象は、ホワイトエッチングクラック(英語でwhite-etching-cracks、略してWEC)である。先行技術では、このような早期の疲労現象には、たとえば黒染め処理(Bruenieren)による不動態化層の被着によって対応する。しかしながら、このような不動態化層を備えた軸受構成部材でも、材料疲労現象は特に初期にも生じてしまう。
【0003】
独国特許出願公開第102007055575号明細書は、軌道エレメントが、少なくとも1つの転動軌道を有しており、転動軌道上には鋼から成る転動体が設けられている、転がり軸受の軌道エレメントを記載している。軌道エレメントは、転動軌道の表面下の0~約40マイクロメートルの深さ領域全体に、少なくとも400メガパスカルの高さの圧縮残留応力を有しているように形成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の根底を成す課題は、軸受構成部材を製造する方法と、延長された寿命を有する軸受構成部材を提供することにある。特に、軸受構成部材を製造する方法が、疲労しにくい保護層を有している軸受構成部材を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、請求項1に記載の特徴を備えた、軸受構成部材を製造する方法、ならびに請求項9に記載の特徴を備えた軸受構成部材によって解決される。本発明の好適かつ/または有利な実施形態は、従属請求項、以下の説明および/または添付の図面から明らかになる。
【0006】
したがって、この課題は、軸受構成部材を製造するための本発明に係る方法のために、軸受構成部材中間製品が、鉄ベースの金属製の基体と、変換層とを有しており、変換層が、少なくとも部分的に金属製の基体上に形成されていて初期層厚を有しており、変換層として、鉄酸化物ベースの黒染め処理層を形成し、黒染め処理層を、アルカリ処理浴を用いて金属製の基体を少なくとも部分的に処理することにより形成することによって解決される。軸受構成部材を得るために、軸受構成部材中間製品の金属製の基体を硬化し、軸受構成部材中間製品を少なくとも変換層の領域においてボール状のボディによりローリング加工(Ueberrollen、押し付け加工)し、変換層をこの領域において圧縮し、初期層厚の95%よりも小さい最終層厚を有する軸受構成部材の保護層を形成する。
【0007】
特に、軸受構成部材は、転がり軸受または滑り軸受の構成部材、特に軸受レース、軌道エレメントまたは転動体である。
【0008】
軸受構成部材は、特に軸受構成部材中間製品に基づいている。軸受構成部材中間製品は、鉄ベースの金属製の基体と、変換層とを有している。変換層は、金属製の基体の材料の化学的な変換により基体の表面に形成され、特に金属製の基体の酸化により基体の表面に形成される。鉄ベースの金属製の基体は、特に鋼または特殊鋼から、好適には軸受鋼から形成されている。軸受構成部材中間製品は、好適には、旋削加工された軸受構成部材中間製品、研削加工された軸受構成部材中間製品および/またはホーニング加工された軸受構成部材中間製品である。
【0009】
軸受構成部材中間製品は、変換層を有している。変換層は、好適には完全に軸受構成部材中間製品の表面を覆っている。代替的には、変換層は軸受構成部材中間製品の表面に部分的または区分的に存在している。変換層は、黒染め処理層の形の黒色の縁部酸化層である。
【0010】
補足的に、変換層は、変換層の後処理を介して導入される有機材料、たとえばプラスチックを含んでいてもよい。変換層は、初期層厚を有している。好適には、初期層厚は、軸受構成部材中間製品の全領域において同一の大きさである。初期層厚は、好適には0.5マイクロメートルよりも大きく、特に1マイクロメートルよりも大きい。変換層は、特に塑性変形可能であり、好適にはローリング加工による塑性変形後に形状安定的である。
【0011】
軸受構成部材は、軸受構成部材中間製品から軸受構成部材中間製品のローリング加工により得られる。変換層は少なくとも部分的にローリング加工される。ローリング加工時に、変換層には力および/または圧力が加えられる。ローリング加工時の圧力は、特に2000メガパスカルよりも大きく、好適には5000メガパスカルよりも大きく、特に7000メガパスカルよりも大きい。
【0012】
変換層は、ローリング加工後に、軸受構成部材の保護層を形成する。したがって、保護層は、ローリング加工により圧縮され平滑化された変換層により形成されている。軸受構成部材の保護層は、最終層厚を有している。特に、保護層の最終層厚は、軸受構成部材の全領域において同一の大きさである。最終層厚は、特に1.8マイクロメートルよりも小さく、好適には1.5マイクロメートルよりも小さく、特に1マイクロメートルよりも小さい。変換層のローリング加工は、最終層厚が初期層厚の95%よりも小さく、特に初期層厚の90%よりも小さく、特に初期層厚の80%よりも小さい厚さを有しているように変換層が圧縮されるように、実施される。
【0013】
本発明によれば、均一に圧縮され連続的な保護層を有している軸受構成部材を製造する方法が提供される。変換層のローリング加工は、たとえば、軸受構成部材の規定可能なパラメータの下での穏やかな慣らし(Einlaufen)かつ/または人為的な慣らしを意味する。しかし、先行技術では、軸受構成部材の実際の使用におけるコーティングされた軸受構成部材の慣らし時に不均一な慣らしが生じる。変換層は、あらゆる箇所において均一に圧縮されず、したがって保護層はあらゆる箇所において均一に形成されない。さらに、軸受構成部材中間製品の変換層が、組込み時にぶつかり、かつ/または引っかかってしまうので、変換層は部分的に破壊される。破壊かつ/または損傷された区分において、急速に疲労が生じる。これに対して、変換層の本発明による意図的なローリング加工により、連続的かつ特に均一な保護層を形成することができ、したがって軸受構成部材の長期安定性を高めることができる。
【0014】
変換層は、鉄ベースの黒染め処理層であり、好適には鉄酸化物を含み、特に鉄混合酸化物を含んでいる。黒染め処理層を形成するために、鉄ベースの予め硬化された金属製の基体の表面が酸化される。さらに、変換層が有機材料によって後処理されること、たとえば、プラスチックコーティング(たとえばラックまたはワックスから成る)を備えていることが規定されてよい。しかし、潤滑材、特にオイル、グリースまたは水をはじく媒体による変換層の含侵が規定されていてよい。変換層が、シェフラー社の名称Durotect-B(登録商標)(鉄混合酸化物、主に磁鉄鉱)の黒染め処理層であると特に有利である。
【0015】
金属製の基体の硬化は、通常の硬化法により行うことができる。特に、肌焼入れ(Einsatzhaerten)、高周波焼入れ、浸炭窒化、窒化、浸炭、マルテンサイト化焼入れまたはベイナイト焼入れが実施される。黒染め処理層の形成前の金属製の基体の硬化が、ローリング加工による黒染め処理層の特に均一な圧縮を可能にすることが示された。
【0016】
特に、黒染め処理層をローリング加工するためのボール状のボディが、ハイドロスタティック式のバニシング加工(Glattwalz)工具またはディープローリング加工(Festwalz)工具の構成部材であることが規定されている。特に、ハイドロスタティック式の転がり加工工具は、ローリング加工時の圧力が意図的に調節されるように運転可能である。さらに、ハイドロスタティック式の転がり加工工具のボール状のボディは、軸受構成部材中間製品の表面全体を転動することが規定されていてよい。この場合、ハイドロスタティック式の転がり加工工具および/または軸受構成部材中間製品を運動させる。
【0017】
特に、ボール状のボディが、硬質合金ボールまたはセラミックスボールにより形成されている。特に、ボール状のボディとして硬質合金ボールまたはセラミックスボールを備えるハイドロスタティック式の転がり加工工具が形成されている。特に、転がり加工工具が、ボールを有していて、ボールが交換可能であり、かつ/または転がり加工工具のボール直径が変更可能であることが規定されていてよい。たとえば、転がり加工工具を様々な直径のボールで運転することができ、転がり加工工具内のボールが交換可能であり、交換時にボール直径を変更することができる。たとえば、ボールは2ミリメートルよりも大きな、または6ミリメートルよりも大きな、または13ミリメートルよりも大きな直径を有している。
【0018】
特に有利には、ローリング加工により、変換層が圧縮されて、このときに保護層が、変換層の硬度の最低で120%に相当する硬度を有している。さらに、保護層の硬度が、変換層の硬度の少なくとも150%に相当し、特に保護層の硬度が、変換層の硬度の少なくとも200%に相当することが規定されている。保護層の硬度を高めることにより、特に軸受構成部材の転動耐負荷能力が高まる。
【0019】
さらに、ローリング加工により変換層が圧縮されるだけではなく、さらに変換層の表面の粗さを減じることができる。特に、変換層のローリング加工時に、表面が平滑化されるので、保護層は、変換層よりも小さな粗さを有している。
【0020】
特に好適には、ローリング加工により変換層が圧縮され、この場合に軸受構成部材が少なくとも保護層の領域において表面下で150メガパスカルよりも大きな圧縮残留応力を有していて、好適には250メガパスカルよりも大きな、特に500メガパスカルよりも大きな圧縮残留応力を有している。好適には、ローリング加工により、変換層および/または軸受構成部材中間製品が、800メガパスカルよりも大きな、特に1000メガパスカルよりも大きな圧縮残留応力を有していることが規定されている。軸受構成部材および/または保護層の残留応力は、特に転がり加工工具のボールサイズにより調節可能である。さらに、ローリング加工時の冷却液圧力によって残留応力を調節することができる。ローリング加工時の冷却液圧力は特に10バールよりも大きく、特に200バールよりも大きい。さらに、冷却液圧力は450バールよりも小さいことが規定されている。
【0021】
任意には、ローリング加工時に軸受構成部材中間製品がスリップなしにローリング加工されることが規定されている。この構成は、先行技術での変換層を有する軸受構成部材中間製品の実際の使用における通常の慣らし時にスリップが生じ、このスリップにより保護層の不均一な形成が生じるという考察に基づいている。軸受構成部材中間製品の意図的なローリング加工時の制御されたスリップのない慣らしにより、保護層が均一に形成されて、小さな故障率が生じることを保証することができる。
【0022】
本発明の構成は、軸受構成部材中間製品の変換層を形成するための不動態化ステップがローリング加工に先行することを規定している。この不動態化ステップにおいて、変換層が形成され、金属製の基体の鉄材料が表面において鉄酸化物(混合酸化物)へと移行する。特に、金属製の基体の金属製の表面は、不動態化ステップで非晶質の酸化層へと変換される。特に好適には、不動態化ステップでは、非晶質の酸化層として、鉄混合酸化物層が基体上に形成される。このために、軸受構成部材中間製品が高温のアルカリ溶液によって処理される。この処理時に、金属製の基体の金属が表面において酸化物へと移行し、この酸化物が変換層を形成する。不動態化ステップにより形成された変換層は、好適には、0.5マイクロメートル以上の厚さを有しており、さらに3マイクロメートルよりも小さな厚さを有している。
【0023】
さらに、軸受構成部材中間製品製造ステップがローリング加工に先行することが特に規定されている。軸受構成部材中間製品製造ステップでは、中間製品幾何形状を有する軸受構成部材中間製品が製造される。軸受構成部材は、ローリング加工後に最終幾何形状を有している。中間製品幾何形状は、好適には最終幾何形状とは異なっている。特に中間製品幾何形状は、軸受構成部材が軸受構成部材中間製品の転がり加工後に所望の最終幾何形状を有しているように、選択されている。
【0024】
本発明の別の対象は、本発明に係る方法によって製造される軸受構成部材である。軸受構成部材は、たとえば転がり軸受構成要素および特に軌道を備えた転がり軸受構成要素である。特に、軸受構成部材は、軸受レースまたは転動体として形成されている。任意には、大型転がり軸受のための軸受レースおよび/または転がり軸受構成要素および/または転動体が形成され、かつ/または500mmよりも大きな部分円直径を有している。
【0025】
好適には、変換層は専ら、または少なくとも軸受レースの軌道上に被着されている。特に、転動体および/または軸受レースの表面全体が、変換層を有している。部分区分、特に軸受レースの軌道および/または転動体の転動面のみがローリング加工されて、保護層を有している。特に好適には、転がり軸受構成要素および/または軸受レースおよび/または転動体は、風力発電設備用の構成部材として、特にロータ支承のために形成され、かつ/または円錐ころ軸受の構成部材を形成する。軸受構成部材は、硬化した金属製の基体上に保護層を有しており、保護層は、変換層のローリング加工により形成されている。
【0026】
本発明の別の特徴、利点および作用が、本発明の好適な実施例の以下の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】軸受構成部材を製造するための軸受構成部材中間製品の加工の概略図である。
図2】軸受構成部材中間製品のローリング加工の概略的な詳細図である。
図3】軸受構成部材中間製品のローリング加工による縁部領域の影響を示す図である。
図4】軸受構成部材におけるローリング加工後の残留応力を示す図である。
図5】方法のフローチャートを示す図である。
図6】転がり軸受の概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、軸受構成部材1を製造する方法の実施時における軸受構成部材1と、軸受構成部材中間製品2とを概略的に示している。図1は、2つの区分I、IIに区分される。区分Iは、軸受構成部材中間製品2を示し、区分IIは、軸受構成部材1を示している。軸受構成部材1は、特に軸受構成部材中間製品2の本方法による加工に基づいて形成されている。
【0029】
軸受構成部材中間製品2は、基体3を有している。基体3は、硬化された金属製の基体3、たとえば鋼である。特に、金属製の基体3が、鉄ベースの別の金属合金であることも可能である。硬化された金属製の基体3は、ここでは円筒形状を形成している。基体3の表面上、特に金属製の基体3の円筒外周面上には、黒染め処理層の形の変換層4が形成されている。変換層4は、ここでは、鋼から成る基体3に基づいて、鉄混合酸化物から形成されている。変換層4は、初期層厚dで表す厚さを有している。初期層厚dは、1.5マイクロメートルよりも大きく、特に0.5マイクロメートルよりも大きい。金属製の基体3および変換層4は一緒に、直径dである、円筒形の軸受構成部材中間製品2を形成する。
【0030】
軸受構成部材中間製品2は、転がり加工工具5によりローリング加工される。転がり加工工具5は、ボール6を有している。このボール6は、変換層4、ひいては軸受構成部材中間製品2に直接に接触する。転がり加工工具5は、ハイドロスタティック式の転がり加工工具5として構成されていて、ハイドロスタティック式のテレスコープ型補償部7を有している。転がり加工工具5は、軸受構成部材中間製品2に力Fを加え、力Fを加えることにより、変換層4が圧縮されて保護層8を形成する。
【0031】
軸受構成部材中間製品2のローリング加工のために、軸受構成部材中間製品2を回転させる。この回転は所定の回転数で行われる。特に、回転数は調節可能である。軸受構成部材中間製品2の回転中に、転がり加工工具5を送り方向9で運動させる。軸受構成部材中間製品2の回転中に送り方向9で転がり加工工具5を運動させることにより、ボール6が軸受構成部材中間製品2の表面を走行する。軸受構成部材1を製造する方法での調節可能な大きさとして、特に送りfが挙げられる。送りfは、回転数と送り方向9または送り速度との組み合わせに基づいて調節可能である。
【0032】
軸受構成部材中間製品2のローリング加工により、変換層4が圧縮され、平滑化され、かつ硬化される。ローリング加工された変換層4は、保護層8を形成する。保護層8は、最終層厚dを形成する厚さを有している。最終層厚dは、初期層厚dの80%よりも小さい。軸受構成部材中間製品2の変換層4が変形可能であり衝突に対して敏感である一方で、保護層8は変形せず、衝突に対して鈍感である。したがって、保護層8は、圧縮された変換層4により形成されている。
【0033】
変換層4から保護層8を形成するために、軸受構成部材中間製品2はローリング加工される。この場合、ローリング加工は適切なパラメータで行われる。このパラメータは、ローリング加工時に所望の材料特性を達成するために必要とされる。図2図4には、対応するパラメータを有する軸受構成部材1の可能な特性が図示されている。
【0034】
図2は、変換層4、保護層8およびボール6の詳細部分図を示している。変換層4は、粗い表面を有している。この粗い表面は、深い刻み目および溝10を有している。ローリング加工後に、形成された保護層8は、より小さな粗さを有する比較的平滑な表面を有している。ボール6は、軸受構成部材中間製品2の表面に、変換層4の領域において力Fを加える。力Fは、特に5000メガパスカルよりも大きい。
【0035】
軸受構成部材中間製品2および/または軸受構成部材1の内部では、ローリング加工中に、対応する領域内に複数の応力が占めている。応力の1つとして、引張応力11が挙げられる。引張応力11は、表面に対して、つまり変換層4または保護層8に対してほぼ同一方向を向いている。圧縮応力12は、力Fと反対方向を向いている。さらに、図2には、塑性変形13の領域が記入されており、同一の相当応力14のラインが記入されている。これらの相当応力14は、似た形状経過を有している。
【0036】
図2の右側部分には、3つのグラフが記載されている。グラフ15は、表面距離Zに対する相当応力σを示しており、グラフ16は、表面距離Zに対する残留応力σを示していて、グラフ17は表面距離Zに対する硬度HUを示している。
【0037】
グラフ15では、相当応力σが表面距離Zに関して比較的複雑な経過をとっていることが判る。相当応力σは、降伏応力σに対して観察することができる。表面の領域では、相当応力σは、降伏応力σよりも幾らか小さい。表面距離Zが増えるにつれて、相当応力σは、降伏応力σよりも大きくなり、表面距離Zがさらに増えるにつれて、相当応力σは、降伏応力σを再び下回り、最小値へと近づく。表面距離の、相当応力σが降伏応力σよりも大きい範囲は、理想的な弾性範囲を表し、相当応力σが降伏応力σよりも小さな範囲は、実際の塑性範囲を表す。
【0038】
グラフ16は、表面距離Zに対する残留応力σを示している。残留応力σが軸受構成部材1の表面から内部まで常にマイナスであり、開始値からさらに低下し、最小値になる。この最小値から、残留応力σはゼロに近づく。したがって、最大の残留応力σの点は、表面から幾らか離れている。
【0039】
グラフ17は、表面距離Zに対する硬度HUを示している。このために、基準値として、基本硬度HUが記載されている。硬度は、軸受構成部材1の表面では基本硬度HUと同一である。表面を起点として、表面距離が増えるにつれて硬度HUは増大し、最大値へと近づく。この最大値から、硬度HUは再び基本硬度HUへと向かう。
【0040】
図3は、様々な力Fで変換層4を転がり加工することによって得られた保護層8の表面粗さPを表す複数のグラフ18,19,20を示している。グラフ18は、送り経路Lに沿った表面粗さPを示している。10メガパスカルでのローリング加工により、1.40マイクロメートルの平均表面粗さが生じる。
【0041】
グラフ19には、20メガパスカルの力Fでローリング加工された軸受構成部材のための、送り経路Lに沿った表面粗さPが図示されている。ここでは1.28マイクロメートルの平均表面粗さが生じる。グラフ20には、40メガパスカルでローリング加工された軸受構成部材1の表面粗さPが送り経路Lに沿って図示されている。保護層8について、0.98マイクロメートルの平均表面粗さが生じる。ここでは、力Fが増加するにつれて、表面粗さP、特に平均表面粗さが減少することが明らかである。
【0042】
グラフ18aが、10メガパスカルの力Fについて、表面距離Zに対する残留応力の経過を示す一方で、グラフ18bは、10メガパスカルの力Fでのローリング加工に対する硬度HUを示している。グラフ19aは、20メガパスカルの力Fに対しての残留応力を示しており、グラフ20aは、40メガパスカルの力Fに対しての残留応力を示している。力Fが増加するにつれて残留応力も増加し、残留応力の最大値は、力Fが増加するにつれて、軸受構成部材1および/または保護層8の内部へと移動することが明らかである。
【0043】
グラフ19bが、20メガパスカルの力Fに対する硬度HUを示している一方で、グラフ20bは、40メガパスカルの力Fに対する硬度HUを示している。力Fが増加するにつれて、硬度HUも増加し、硬度HUの最大値は、力Fが増加するにつれて、軸受構成部材1および/または保護層8の内部へと移動することが明らかである。
【0044】
図4は、ボール6の様々な直径に対しての、表面距離Zに対する残留応力σを示している。グラフ21aでは、ボール6の直径が3ミリメートルである場合の、10メガパスカルの力Fに対する残留応力が図示されている。グラフ21bには、ボール6の直径が6ミリメートルである場合の、10メガパスカルの力Fに対する残留応力σが図示されており、グラフ21cには、ボール6の直径が13ミリメートルである場合の、10メガパスカルの力Fに対する残留応力σが図示されている。10メガパスカルの同一の力Fに対して、ボール6の直径が増加すると、小さな表面距離Zに対しては、残留応力σの上昇がより穏やかになり、残留応力σの最大値からの低下も、ボール6のより大きな直径に対して、経過がより穏やかになる。
【0045】
図5は、一実施例としての提案方法のフローを概略的に示している。製造ステップ100では、鉄ベースの金属製の材料から金属製の基体3が製造される。製造ステップ100は、金属製の基体3を形成するための材料の旋削加工、ホーニング加工、フライス加工、カシメ加工および/または成形加工を含んでいてよい。金属製の基体3は、次いで硬化される。不動態化ステップ200では、硬化された金属製の基体3に変換層4が設けられる。このために、金属製の基体3が、アルカリ溶液内で処理される。その際に、金属製の基体3の表面が、金属酸化物に変換される。この金属酸化物が変換層4を形成する。変換層4を有する金属基体3は、軸受構成部材中間製品2を形成する。ローリング加工ステップ300では、軸受構成部材中間製品2が、少なくとも変換層4の領域においてローリング加工される。特に、軸受構成部材中間製品2の区分、たとえば転がり軸受レースの軌道面または転動体の転動面のみがローリング加工される。ローリング加工ステップ300では、変換層4が圧縮されて保護層8を形成する。ローリング加工ステップ300により、軸受構成部材中間製品2は軸受構成部材1に移行する。
【0046】
図6は、転がり軸受22の断面を概略的に示している。転がり軸受22は、インナーレース23とアウターレース24とを有している。インナーレース23およびアウターレース24は互いに同心に配置されており、共通の軸線Aを中心として互いに対して回転可能である。インナーレース23とアウターレース24との間には複数の転動体25が配置されている。インナーレース23、アウターレース24および転動体25は、それぞれ1つの軸受構成部材26を形成する。軸受構成部材26は、その表面にそれぞれ1つの保護層8を有している。インナーレース23およびアウターレース24は、保護層8をそれぞれ軌道上に有している。軌道は、転動体25のための転動面を有し、かつ/または形成する。転動体25は、保護層8を転がり面全体に有している。ここでは、ボール状の転動体25のために、転動体25の表面全体が保護層8によって覆われている。
【符号の説明】
【0047】
1,26 軸受構成部材
2 軸受構成部材中間製品
3 金属製の基体
4 変換層
5 転がり加工工具
6 ボール状のボディまたはボール
7 テレスコープ型補償部
8 保護層
9 送り方向
10 溝
11 引張応力
12 圧縮応力
13 変形加工
14 相当応力
15 グラフ
16 グラフ
17 グラフ
18a,b グラフ
19a,b グラフ
20a,b グラフ
21a,b,c グラフ
22 転がり軸受
23 インナーレース
24 アウターレース
25 転動体
I 第1の区分
II 第2の区分
初期層厚
直径
F 力
送り
最終層厚
σ 相当応力
Z 表面距離
σ 残留応力
HU 硬度
σ 相当応力
σ 降伏応力
HU 基本硬度
送り経路
A 軸線
P 表面粗さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6