(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】流し込み施工用の不定形耐火物
(51)【国際特許分類】
C04B 35/66 20060101AFI20220125BHJP
【FI】
C04B35/66
(21)【出願番号】P 2021150492
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2021-09-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000170716
【氏名又は名称】黒崎播磨株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001601
【氏名又は名称】特許業務法人英和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前野 翔平
(72)【発明者】
【氏名】貞名 晟弥
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-020829(JP,A)
【文献】特開平02-160673(JP,A)
【文献】特開2018-052757(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火原料と、Al
2O
3含有量が65質量%以上であるハイアルミナセメントとを含む原料配合物100質量%に対して、酸化亜鉛を0.1質量%以上1質量%以下、オキシカルボン酸を0.01質量%以上0.1質量%以下添加してなり、前記原料配合物100質量%中の前記ハイアルミナセメントの含有量が3質量%以上20質量%以下である、流し込み施工用の不定形耐火物。
【請求項2】
酸化亜鉛の添加量が0.1質量%以上0.5質量%以下、オキシカルボン酸の添加量が0.04質量%以上0.1質量%以下である、請求項1に記載の流し込み施工用の不定形耐火物。
【請求項3】
前記原料配合物100質量%中の前記ハイアルミナセメントの含有量が5質量%以上10質量%以下である、請求項1又は2に記載の流し込み施工用の不定形耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流し込み施工用の不定形耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
流し込み施工用の不定形耐火物はキャスタブル耐火物とも呼ばれ、施工時に流し込み施工を行うため、不定形耐火物中に含まれるアルミナセメントなどの硬化剤の作用による硬化を遅らせて可使時間を確保する必要がある。そのため、従前よりクエン酸などを硬化遅延剤として使用していた(例えば特許文献1)。一方、近年、不定形耐火物の技術分野では、耐食性を得るために、硬化剤としてCaO含有量が少なくAl2O3含有量が多いハイアルミナセメントが使用されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らが硬化剤としてハイアルミナセメントを使用した不定形耐火物を流し込み施工したところ、耐食性は得られるものの、可使時間が短いという問題があった。そこで、可使時間を確保するために硬化遅延剤を多量に添加してみたが、従来の硬化遅延剤では添加量を多くしたとしても、十分な可使時間を得られない場合があった。また、硬化遅延剤の添加量を増やすと不定形耐火物の流動性が失われ、流し込み施工ができなくなるという問題もあった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、硬化剤としてハイアルミナセメントを使用した流し込み施工用の不定形耐火物において、十分な可使時間と流動性を確保できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明者らが試験研究を重ねたところ、硬化剤としてハイアルミナセメントを使用した不定形耐火物の硬化遅延剤として酸化亜鉛が有効であることがわかった。また、酸化亜鉛の単独使用では十分な可使時間は得られず、オキシカルボン酸との併用が必要であることもわかった。
【0007】
すなわち、本発明の一観点によれば、次の流し込み施工用の不定形耐火物が提供される。
耐火原料と、Al2O3含有量が65質量%以上であるハイアルミナセメントとを含む原料配合物100質量%に対して、酸化亜鉛を0.1質量%以上1質量%以下、オキシカルボン酸を0.01質量%以上0.1質量%以下添加してなり、前記原料配合物100質量%中の前記ハイアルミナセメントの含有量が3質量%以上20質量%以下である、流し込み施工用の不定形耐火物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の不定形耐火物によれば、十分な可使時間と流動性を確保できることから、流し込み施工を行いやすくなる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の流し込み施工用の不定形耐火物(以下「流し込み材」という。)は、耐火原料及びハイアルミナセメントを含む原料配合物に、酸化亜鉛及びオキシカルボン酸を添加してなる。
【0010】
耐火原料としては、アルミナ原料、マグネシア原料、スピネル原料、シリカ原料、炭素原料等、一般的に流し込み材に使用されている耐火原料を使用することができる。
【0011】
本発明においてハイアルミナセメントとは、Al2O3含有量が65質量%以上のセメントをいい、ハイアルミナセメントのAl2O3含有量は80質量%以上であることがより好ましい。本発明においてハイアルミナセメントの含有量は、流し込み材の可使時間、流動性等を考慮して適宜決定するが、具体的には原料配合物100質量%中に占める割合で3質量%以上20質量%以下とし、5質量%以上10質量%以下とすることがより好ましい。これはハイアルミナセメントの量が少なすぎると強度が低くなり、多すぎると耐食性が低くなるので、ハイアルミナセメントの添加量を5質量%以上10質量%以下とすることで、高強度で高耐食性の流し込み材を得ることができるためである。
【0012】
本発明において原料配合物は、上述の耐火原料及びハイアルミナセメントのほかに、分散剤、爆裂防止剤などの各種添加剤を適宜含有し得る。
分散剤は耐火物の施工時の流動性を付与するもので、具体例としては、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ウルトラポリリン酸ソーダ、酸性ヘキサメタリン酸ソーダ、ホウ酸ソーダ、炭酸ソーダ、ポリメタリン酸塩などの無機塩、クエン酸ソーダ、酒石酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ、スルホン酸ソーダ、ポリカルボン酸塩、β-ナフタレンスルホン酸塩類、ナフタリンスルフォン酸等である。
爆裂防止剤の具体例は、有機質ファイバー、有機発泡剤、塩基性乳酸アルミニウム、金属アルミニウム等である。有機質ファイバーの具体例は、ビニロン(ポリビニールアルコールを含む)、レーヨン、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの高分子有機質ファイバーである。
【0013】
本発明の流し込み材は、このような原料配合物100質量%に対して、酸化亜鉛を0.1質量%以上1質量%以下、オキシカルボン酸を0.01質量%以上0.1質量%以下添加してなる。なお、本発明の流し込み材は、粒径8mm以上の大粗粒を含有することもできる。この大粗粒は耐火物組織に発生した亀裂の進展を防止する役割をもち、その材質としては、アルミナ、スピネルあるいはこれらを主材とした耐火物廃材を使用することができる。ただし、本発明の流し込み材において大粗粒は耐火原料に含まれないものとする。すなわち、本発明の流し込み材において大粗粒は、酸化亜鉛及びオキシカルボン酸と同様に、原料配合物100質量%に対して外掛けで添加するものとする。
【0014】
本発明の流し込み材の施工は、従来の流し込み材と同様に、水を適量添加して混練し、流し込み施工する。水の添加量は3質量%以上10質量%以下程度とすることができ、4質量%以上8質量%以下程度とすることが好ましい。
【0015】
本発明のように硬化剤としてハイアルミナセメントを使用した流し込み材において、酸化亜鉛及びオキシカルボン酸をそれぞれ適量添加することにより十分な可使時間と流動性を確保できるメカニズムは必ずしも明確ではないが、オキシカルボン酸の添加によって施工時に添加する水のpHが下がり、その水に対する酸化亜鉛の溶解度が上がるためと推定される。すなわち、ハイアルミナセメントに対して硬化遅延効果を及ぼしているのは水中に溶解した水酸化亜鉛イオンと推定される。一方で、酸化亜鉛及びオキシカルボン酸の添加量が多すぎると流し込み材の流動性が失われ、流し込み施工ができなくなる。なお、流し込み材の流動性を確保するために施工時の水の添加量を多くすることが考えられるが、水の添加量が多すぎると施工不良を招くことになるから、水の添加量は上述の通り3質量%以上10質量%以下程度の範囲内に収める必要がある。
【0016】
以上より本発明では、酸化亜鉛の添加量を0.1質量%以上1質量%以下、オキシカルボン酸の添加量を0.01質量%以上0.1質量%以下としている。
酸化亜鉛の添加量が0.1質量%未満であると、酸化亜鉛の溶解による十分な硬化遅延効果が得られず十分な可使時間を確保できない。一方、酸化亜鉛の添加量が1質量%を超えると、流動性が低下する。酸化亜鉛の添加量は、0.1質量%以上0.5質量%以下であることが好ましい。
また、オキシカルボン酸の添加量が0.01質量%未満であると、水に対する酸化亜鉛の溶解度を上げる効果が得られず、結果として十分な硬化遅延効果が得られず十分な可使時間を確保できない。一方、オキシカルボン酸の添加量が0.1質量%を超えると、流動性が低下する。オキシカルボン酸の添加量は0.04質量%以上0.1質量%以下であることが好ましい。なお、オキシカルボン酸としてはクエン酸、乳酸、酒石酸、グルコン酸等が挙げられ、本発明ではこれらオキシカルボン酸から選択される1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0017】
ここで、本発明における「可使時間」とは、流し込み材の混練終了時点(混練バッチが複数ある場合は、混練バッチ毎における混練終了時点)から流し込み材の可塑性がなくなるまでの時間、具体的には、JHS A601「土壌硬度試験法」に基づいて流し込み材をプッシュコーンで貫入した際、プッシュコーンの貫入値が24mm以上となったときまでの時間のことをいう。そして本発明では、この可使時間を60分以上とすることを目的としている。
また、本発明における「流動性」は、JIS R 2521に準拠して測定するタップフロー値により評価する。そして本発明では、このタップフロー値を140mm以上とすることを目的としている。
【実施例】
【0018】
表1及び表2に、本発明の実施例と比較例を示している。
表1では原料配合物中の耐火原料としてアルミナ原料とシリカ原料を使用し、表2ではアルミナ原料とシリカ原料に加えてマグネシア原料を使用した。具体的には、アルミナ原料としては粒径8mm未満の範囲で粒度調整を行ったアルミナと仮焼アルミナ、シリカ原料としてはシリカヒューム、マグネシアとしては粒径0.075mm未満のマグネシア微粉を使用した。また、表1及び表2において酸化亜鉛としては粒径0.075mm未満の酸化亜鉛微粉を使用した。さらに、表1ではオキシカルボン酸としてクエン酸、乳酸、酒石酸及びグルコン酸を使用し、表2ではオキシカルボン酸としてクエン酸を使用した。
【0019】
表1及び表2に示す各例の流し込み材に対して外掛けで6質量%の水を添加し、上述の要領で可使時間と流動性を評価した。可使時間の評価では、可使時間が60分以上の場合を○(合格)、60分未満の場合を×(不合格)とした。流動性の評価では、タップフロー値が140mm以上の場合を○(合格)、140mm未満の場合を×(不合格)とした。そして総合評価では、可使時間評価と流動性評価の両方が○(合格)の場合を○(合格)、少なくとも一方が×(不合格)の場合を×(不合格)とした。
【0020】
【0021】
【0022】
表1及び表2中の実施例1~11は、いずれも本発明の範囲内にある流し込み材であり、総合評価は○(合格)となり、十分な可使時間と流動性を確保することができた。なお、表1中の実施例2,3,5,7及び表2中の実施例10,11は、オキシカルボン酸の添加量と酸化亜鉛の添加量がそれぞれ上述の好ましい範囲内にあり、他の実施例と比べてさらに十分な可使時間と流動性を確保することができた。
【0023】
表1中の比較例1、表2中の比較例11、表3中の比較例21、表4中の比較例31及び表5中の比較例41は、オキシカルボン酸と酸化亜鉛の両方を添加していない例で、可使時間評価が×(不合格)となった。
表1中の比較例2~4及び表2中の比較例12~14は、オキシカルボン酸のみを添加し酸化亜鉛を添加していない例で、可使時間評価が×(不合格)となった。また、オキシカルボン酸の添加量が0.1質量%を超えている表1中の比較例4及び表2中の比較例14では、流動性評価も×(不合格)となった。
【0024】
表1中の比較例5,6及び表2中の比較例15,16は、酸化亜鉛のみを添加しオキシカルボン酸を添加していない例で、可使時間評価が×(不合格)となった。
【0025】
表1中の比較例7及び表2中の比較例17は、オキシカルボン酸と酸化亜鉛の両方を添加しているものの、オキシカルボン酸の添加量が少ない例で、可使時間評価が×(不合格)となった。
表1中の比較例8及び表2中の比較例18は、オキシカルボン酸と酸化亜鉛の両方を添加しているものの、酸化亜鉛の添加量が少ない例で、可使時間評価が×(不合格)となった。
表1中の比較例9及び表2中の比較例19は、オキシカルボン酸と酸化亜鉛の両方を添加しているものの、オキシカルボン酸の添加量が多い例で、流動性評価が×(不合格)となった。
表1中の比較例10及び表2中の比較例20は、オキシカルボン酸と酸化亜鉛の両方を添加しているものの、酸化亜鉛の添加量が多い例で、流動性評価が×(不合格)となった。
【要約】
【課題】硬化剤としてハイアルミナセメントを使用した流し込み施工用の不定形耐火物において、十分な可使時間と流動性を確保できるようにする。
【解決手段】耐火原料と、Al2O3含有量が65質量%以上であるハイアルミナセメントとを含む原料配合物100質量%に対して、酸化亜鉛を0.1質量%以上1質量%以下、オキシカルボン酸を0.01質量%以上0.1質量%以下添加してなり、前記原料配合物100質量%中の前記ハイアルミナセメントの含有量が3質量%以上20質量%以下である、流し込み施工用の不定形耐火物。
【選択図】なし