IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユニマテック株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】アクリルゴムおよびその架橋性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/18 20060101AFI20220125BHJP
   C08K 5/18 20060101ALI20220125BHJP
   C08K 5/31 20060101ALI20220125BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20220125BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20220125BHJP
【FI】
C08F220/18
C08K5/18
C08K5/31
C08L33/08
C09K3/10 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021525930
(86)(22)【出願日】2020-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2020017040
(87)【国際公開番号】W WO2020250570
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019110275
(32)【優先日】2019-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】峠 大地
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003342(WO,A1)
【文献】特開2006-193559(JP,A)
【文献】特開平11-343378(JP,A)
【文献】特開2008-214418(JP,A)
【文献】特開2017-114958(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168395(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/114108(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/087876(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/18
C08K 5/18
C08K 5/31
C08L 33/08
C09K 3/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数1~8のアルキル基を有するフマル酸モノアルキルエステル単量体を架橋性共単量体として、共重合体中に1~3重量%共重合させた共重合体であって、架橋性共単量体以外の他の共単量体100重量%中、n-ブチルアクリレートを45~65重量%、2-メトキシエチルアクリレートを12~32重量%およびエトキシエトキシエチルアクリレートを11~30重量%の割合で共重合させてなるアクリルゴム。
【請求項2】
炭素数1~8のアルキル基を有するフマル酸モノアルキルエステル単量体を架橋性共単量体として、共重合体中に1~2.5重量%共重合させた請求項1記載のアクリルゴム。
【請求項3】
架橋性共単量体以外の他の共単量体100重量%中、n-ブチルアクリレートを56~62重量%、2-メトキシエチルアクリレートを12~23重量%およびエトキシエトキシエチルアクリレートを19~26重量%の割合で共重合させた請求項1記載のアクリルゴム。
【請求項4】
さらに2重量%以下のビニル単量体またはオレフィン単量体を共重合させた請求項1記載のアクリルゴム。
【請求項5】
ムーニー粘度ML1+4(100℃)が5~100である請求項1、2、3または4記載のアクリルゴム。
【請求項6】
請求項1または4記載のアクリルゴムおよび芳香族ジアミン加硫剤を含有してなる架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項7】
さらにグアニジン化合物加硫助剤を含有してなる請求項6記載の架橋性アクリルゴム組成物。
【請求項8】
請求項6記載の架橋性アクリルゴム組成物から架橋成形された架橋成形品。
【請求項9】
TR-10値が-41℃以下である請求項8記載の架橋成形品。
【請求項10】
シール材として用いられる請求項8記載の架橋成形品。
【請求項11】
シール材として用いられる請求項9記載の架橋成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリルゴムおよびその架橋性組成物に関する。さらに詳しくは、耐寒性を向上させつつ、耐油性の低下を抑制し得るアクリルゴムおよびその架橋性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の超耐寒グレードのアクリルゴムは、耐寒性(TR10値)が-40℃程度である。アクリルゴムをオイルシール成形材料として使用した場合、極寒冷地での使用は、耐寒性の観点からみて、それの使用が困難である。近年、極寒冷地での自動車の使用需要が高まっており、極寒冷地でも使用可能なオイルシール成形材料としてのアクリルゴムが求められている。
【0003】
アクリルゴムの耐寒性は、アルキル基側の鎖長が従来のものよりも長いアクリル酸アルキルエステルモノマーを導入することで向上させることができると考えられる。しかしながら、アルキル鎖を単純に延長した場合には、オイルシール成形材料として重要な特性である耐油膨潤性が大きくなりすぎて、実用的な成形材料とはなり得ない。
【0004】
特許文献1には、シリカ配合アクリルゴム組成物であって、その耐熱性を低下させることなく、押出性およびロール加工性を改善せしめたものが記載されている。そのアクリルゴムとしては、アルキル(メタ)アクリレート-アルコキシアルキル(メタ)アクリレート共重合体等が用いられ、アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基は、その鎖長が長い程耐寒性の点では有利になるが、耐油性の点では不利となり、鎖長が短くなるとこれらの性質は逆になること、アルコキシアルキルアクリレートは、側鎖にエーテル結合を有するので、耐寒性および耐油性にすぐれていることが記載されている。耐寒性および耐油性のバランスの点からは、アルキルアクリレートとしてはエチルアクリレートおよびn-ブチルアクリレートが好ましく、アルコキシアルキルアクリレートとしては2-メトキシエチルアクリレートおよび2-エトキシエチルアクリレートが好ましいと述べられている。
【0005】
また、特許文献2には、過酸化物架橋性アクリルゴム組成物であって、加硫速度が速く、しかも常態物性や耐圧縮永久歪特性にすぐれた加硫物を与え得るアクリルゴム組成物が記載されており、そのアクリルゴムとして、アルキル(メタ)アクリレートおよび側鎖を形成するエーテル基を有する(メタ)アクリレートの共重合体ゴムが用いられている。
【0006】
その側鎖エーテル基を有する(メタ)アクリレートとして、例えば(メタ)アクリル酸のメトキシメチル、メトキシエチル、エトキシエチル、ブトキシエチル、エトキシプロピル、フェノキシエチル等のアルコキシアルキルエステル、アリールオキシアルキルエステルの他、(メタ)アクリル酸の
メトキシトリエチレングリコールエステル(実施例2)
MeO(CH2CH2O)3COCH=CH2
フェノキシジエチレングリコールエステル
PhO(CH2CH2O)2COCH=CH2
フェノキシポリエチレングリコール
PhO(CH2CH2O)nCOCH=CH2
が挙げられている。
【0007】
しかしながら、メトキシトリエチレングリコールエステル(メトキシエトキシエトキシエチルアクリレート〔MTGA〕)を用いた場合、後記比較例9~10の結果に示されるように、各実施例と比較して、引張強さおよび破断時伸びが悪化しており、またムーニー粘度ML1+4(100℃)の値が高く、成形性が良くないといった問題点がみられる。
【0008】
特許文献3には、(a)炭素数1~8のアルキル基を有するアルキルアクリレート30~90重量%、(b)炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルアクリレート9.9~70重量%、(c)フマル酸モノ低級アルキルエステル0.1~10重量%および(d)これらと共重合可能なビニル単量体またはオレフィン単量体0~30重量%を共重合させて得られたアクリルエラストマーに、芳香族ジアミン化合物加硫剤およびグアニジン化合物加硫助剤を含有してなるアクリルエラストマー組成物が開示され、これは耐金属腐食性、耐油性および圧縮永久歪特性などにすぐれ、金属部材やオイルなどと接触される部位に使用されるシール材またはホース材の加硫成形材料などとして有効に用いられると記載されている。このアクリルエラストマー組成物から得られる加硫成形品は、TR-10値が-37.1℃と所望の耐寒性を満足させることができない。
【0009】
さらに、特許文献4には、n-ブチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレートおよびモノクロロ酢酸ビニルの3元共重合アクリルゴムと該共重合ゴムにさらにCH2=CHCOOC2H4O(COC5H10O)mCOCH3(m:平均2.11)を共重合反応させた4元共重合アクリルゴムとのブレンド体を加硫すると、TR-10値が-44℃と耐寒性にすぐれた加硫物を与えるが、3元共重合アクリルゴム単体の加硫物のTR-10値は-40℃にすぎないことが記載されている。また、TR-10値が-44℃を示すブレンド物について圧縮永久歪値を測定すると、59%という値が示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2009-40922号公報
【文献】特開2007-186631号公報
【文献】特開平11-92614号公報
【文献】特開平6-145257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、TR-10値によって示される耐寒性を向上させつつ、耐油性の低下を抑制し得るアクリルゴムおよびその架橋性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる本発明の目的は、炭素数1~8のアルキル基を有するフマル酸モノアルキルエステル単量体を架橋性共単量体として、共重合体中に1~3重量%共重合させた共重合体であって、架橋性共単量体以外の他の共単量体100重量%中、n-ブチルアクリレートを45~65重量%、2-メトキシエチルアクリレートを12~32重量%およびエトキシエトキシエチルアクリレートを11~30重量%の割合で共重合させてなるアクリルゴムによって達成される。
【0013】
このエトキシエトキシエチルアクリレート共重合アクリルゴムは、そこにその芳香族ジアミン加硫剤を配合せしめることにより、架橋性組成物を形成させる。
【発明の効果】
【0014】
特許文献3により公知の、炭素数1~8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、炭素数2~8のアルコキシアルキル基を有するアルコキシアルキルアクリレートおよびフマル酸モノ低級アルキルエステルを共重合させて得られた共重合体中に、この文献に例示されていないエトキシエトキシエチルアクリレートを共重合させたアクリルゴムは、側鎖長の大きいエトキシエトキシエチルアクリレートを導入することにより、低温域でのアクリル共重合体分子鎖同士の凝集が阻害され、Tgが低下して耐寒性を向上させる。
【0015】
また、側鎖長が大きいオクチルアクリレート等のアルキルアクリレートに比べ、エトキシエトキシエチルアクリレートは極性が大きいため、耐寒性を向上させつつ、耐油性の低下を抑制することができる。
【0016】
このアクリルゴムは、ゴム中に導入された架橋性基であるカルボキシル基に架橋反応する芳香族ジアミン加硫剤により架橋することができ、かかる架橋性組成物から得られる加硫物は、-41.0℃以下とTR-10の値を低下させて耐寒性を向上させる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に係るアクリルゴムは、n-ブチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレートおよび炭素数1~8のアルキル基を有するフマル酸モノアルキルエステルを含有してなるアクリル共重合体中に、さらにエトキシエトキシエチルアクリレートを共重合させてなる。
【0018】
エトキシエトキシエチルアクリレート C2H5O(CH2CH2O)CH2CH2OCOCH=CH2は、得られるアクリル共重合体の架橋性共単量体を除く残りの他の共単量体100重量%中、約11~30重量%、好ましくは約19~26重量%を占めるような割合で用いられる。これの共重合割合がこれよりも少ないと、所望の耐寒性の向上効果が得られず、一方これよりも多い割合で用いられると、耐油性、引張強さ、耐圧縮永久歪特性が悪化するようになる。
【0019】
また、エトキシエチルアクリレートの代りに高級アルキルアクリレートが用いられると、後記比較例7~8に示されるように耐油性が悪化することとなる。
【0020】
アクリル共重合体の主成分となるn-ブチルアクリレートは、共重合体の架橋性共単量体を除く残りの他の共単量体100重量%中、約45~65重量%、好ましくは約56~62重量%の割合で用いられる。
【0021】
また、2-メトキシエチルアクリレートは、共重合体の架橋性共単量体を除く残りの他の共単量体100重量%中、約12~32重量%、好ましくは約12~23重量%の割合で用いられる。2-メトキシエチルアクリレートがこれより多い割合で用いられると所望の耐寒性の向上効果が望めず、一方これより少ない割合で用いられると破断時伸びが悪化するようになる。
【0022】
アクリル共重合体中には、その特性を阻害しない範囲内(一般に約2重量%以下)で、他のビニル単量体またはオレフィン単量体、例えばスチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、ビニルナフタレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、酢酸ビニル、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレート等を共重合させることもできる。
【0023】
これらを主成分とするアクリル共重合体中に共重合される炭素数1~8のアルキル基を有するフマル酸モノアルキルエステル単量体は、共重合体中約1~3重量%、好ましくは約1~2.5重量%を占めるような割合で用いられる。炭素数1~8のアルキル基を有するフマル酸モノアルキルエステル単量体がこれより少ない割合で用いられると、引張強さ、耐圧縮永久歪特性が悪化するようになる。一方、これよりも多い割合で用いられると、破断時伸びが低下するようになる。
【0024】
炭素数1~8のアルキル基を有するフマル酸モノアルキルエステル単量体としては、例えばフマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、フマル酸モノイソプロピル、フマル酸モノn-ブチル、フマル酸n-ヘキシル、フマル酸2-エチルヘキシル等が挙げられ、好ましくはフマル酸モノn-ブチルが用いられる。
【0025】
以上の各共重合成分よりなるアクリル共重合体は、一般的なアクリルゴムの共重合方法によって製造される。共重合反応は、乳化重合法、けん濁重合法、溶液重合法、塊状重合法など任意の方法で行ない得るが、好ましくは乳化重合法またはけん濁重合法が用いられ、約-10~100℃、好ましくは約5~80℃の温度で反応が行われる。
【0026】
反応の重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルヒドロパーオキサイド、クミルヒドロパーオキサイド、p-メチレンヒドロパーオキサイド等の有機パーオキサイドまたはヒドロパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソブチルアミジン等のジアゾ化合物、過硫酸アンモニウムによって代表されるアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等の過酸化物塩などが単独であるいはレドックス系として用いられる。
【0027】
特に好ましい乳化重合法に用いられる乳化剤としては、アニオン系またはノニオン系の界面活性剤が、必要に応じて酸または塩基によりpH調整され、無機塩で緩衝溶液とした水溶液などとして用いられる。
【0028】
重合反応は、単量体混合物の転化率が90%以上に達する迄継続される。得られた水性ラテックスは、塩-酸凝固法、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウムの如き塩を用いる方法、ホウ酸、ホウ砂等のホウ素化合物を用いる方法、熱による凝固法、凍結凝固法などによって凝固させ、得られた共重合体は十分に水洗、乾燥される。このアクリルゴムは、約5~100、好ましくは約20~80のムーニー粘度ML1+4(100℃)を有する。
【0029】
得られたアクリルゴムは、芳香族ジアミン化合物加硫剤、好ましくはさらにグアニジン化合物加硫助剤が配合されて架橋成形される。
【0030】
芳香族ジアミン化合物としては、例えば4,4′-メチレンジアニリン、m-フェニレンジアミン、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル、p-フェニレンジアミン、p,p′-エチレンジアニリン、4,4′-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、4,4′-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ジアニリン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、4,4′-ジアミノジフェニルスルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェノール、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン等が用いられ、好ましくはp-ジアミノ置換体が用いられる。
【0031】
これらの芳香族ジアミン化合物は、アクリル共重合体100重量部当り約0.1~5重量部、好ましくは約0.2~4重量部、更に好ましくは約0.5~3重量部の割合で用いられる。これより少ない配合割合では、架橋が不十分となり、十分な耐圧縮永久歪特性が得られず、一方これより多い割合で用いられると、スコーチが起り、架橋が行われなくなる。これに対して、脂肪族ジアミン化合物または脂環状ジアミン化合物を用いた場合には、極めてスコーチし易くなり、加工安定性の確保が困難となる。
【0032】
また、グアニジン化合物としては、例えばグアニジン以外に、ジフェニルグアニジン、テトラメチルグアニジン、テトラエチルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩等が用いられ、中でもジフェニルグアニジン、ジ-o-トリルグアニジンが好んで用いられる。
【0033】
これらのグアニジン化合物は、アクリル共重合体100重量部当り約0.1~10重量部、好ましくは約0.3~6重量部、更に好ましくは約0.5~4重量部の割合で用いられる。配合割合がこれよりも少ないと、架橋速度が遅くなり、二次架橋に長時間を要するようになり、実用的ではない。一方、これより多い割合で用いられると、架橋が阻害され、十分な耐圧縮永久歪特性が得られなくなる。加硫助剤として、グアニジン化合物以外のものを用いた場合には、十分な耐圧縮永久歪特性が得られなくなる。
【0034】
アクリル共重合体は、密閉式混練機を用いて補強剤、充填剤、安定剤、加工助剤等を添加した後、オープンロールを用いて加硫剤および加硫促進剤を添加して架橋性組成物とした後、約150~200℃、約1~30分間のプレス架橋を行った後、必要に応じて約150~180℃、約1~16時間のオーブン架橋(二次架橋)が行われる。なお、ホース状体の成形およびそれの架橋は、射出成形または押出成形によって行われる。
【実施例
【0035】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0036】
比較例1、実施例1~7
(1) 温度計、攪拌機、窒素ガス導入管およびジムロート冷却管を備えたセパラブルフラスコ内に、
水 187重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 1.6 〃
ポリオキシエチレンラウリルエーテル 1.6 〃
n-ドデシルメルカプタン(連鎖移動剤) 0.01 〃
仕込み単量体混合物 100 〃
を仕込み、窒素ガス置換を行って系内の酸素を十分に除去した後、
ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート 0.011重量部
(和光純薬工業製品ロンガリット)
第3ブチルハイドロパーオキサイド 0.0063 〃
(日本油脂製品パーブチルH)
からなるレドックス系開始剤を加えて、室温条件下で重合反応を開始させ、重合転化率が90%以上になるまで反応を継続した。形成された水性ラテックスを、10重量%硫酸ナトリウム水溶液で凝析させ、水洗、乾燥して、アクリルゴムを得た。
【0037】
用いられた仕込み単量体混合物の使用量(重量部)および生成したアクリルゴムの生成量(重量部)は、次の表1に示される。
注)n-BA:n-ブチルアクリレート
2-MEA:2-メトキシエチルアクリレート
EEEA:エトキシエトキシエチルアクリレート
St:スチレン
MBF:フマル酸モノn-ブチル
【0038】
得られたアクリルゴムの共重合割合、ムーニー粘度ML1+4(100℃)およびTgの値は、表2に示される。n-ブチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレートおよびエトキシエトキシエチルアクリレートの各単量体成分の合計が100重量%または100モル%として示されている。
注)中和滴定によりアクリルゴム中のMBF量(カルボキシル基量)を定量した
【0039】
(2) 比較例1および各実施例で得られたアクリルゴムを用い、
アクリルゴム 100重量部
FEFカーボンブラック 60 〃
ステアリン酸 2 〃
老化防止剤(大内新興化学製品ノクラックCD; 2 〃
4,4′-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)
滑剤(東邦化学工業製品フォスファノールRL-210) 1 〃
を密封型混練機を用いて混練し、その後
加硫剤(ユニマテック製品Cheminox CLP 5250) 2.5 〃
加硫促進剤(大内新興化学製品ノクセラーDT) 1.0 〃
を加え、オープンロールで混練し、架橋性アクリルゴム組成物を調製した。この組成物を、180℃で8分間プレス架橋した後、175℃で4時間オーブン架橋(二次架橋)して、アクリルゴム成形品を得た。
【0040】
このアクリルゴム架橋成形品について、次の各項目の測定を行った。
常態物性:ISO 7619-1:2010に対応するJIS K-6253(2010)、
ISO 37:2005に対応するJIS K-6251(2010)準拠
耐油膨潤性試験:ISO 1817:1999に対応するJIS K-6258(2010)準拠
IRM 903油使用、150℃、70時間浸漬後の体積変化率
ΔV100を測定
TR試験:ISO 2921:1997に対応するJIS K-6261(2006)準拠
TR-10値を測定
圧縮永久歪:ISO 815-1:2008、ISO 815-2:2008に対応する
JIS K-6262(2013)準拠、150℃、70時間での測定値
【0041】
以上の測定結果は、次の表3に示される。なお、各物性値の許容目安は、引張強さ10.0MPa以上、破断時伸び130%以上、耐油膨潤性(ΔV100)38%以下、TR-10 -41℃以下、圧縮永久歪15%以下である。
【0042】
比較例2~10
(1)実施例において、仕込み単量体混合物の使用量(重量部)が、それぞれ次のように変更された。
注)HA:n-ヘキシルアクリレート
OA:n-オクチルアクリレート
MTGA:メトキシエトキシエトキシエチルアクリレート
【0043】
得られたアクリルゴムの共重合割合、ムーニー粘度ML1+4(100℃)およびTgの値は、次の表5に示される。比較例7では、HAの1H-NMRのピークがn-BAのそれと重なってしまい、また比較例9~10では、MTGAの1H-NMRのピークが2-MEAのそれと重なってしまい、判別が不可能であるため、共重合割合が不明である。
【0044】
(2) 比較例2~10で得られたアクリルゴムを用い、比較例1および実施例1~6と同様にして、架橋および各項目の測定を行った。測定結果は、次の表6に示される。
【0045】
以上の結果より、次のことがいえる。
(1) エトキシエトキシエチルアクリレート〔EEEA〕を11~30重量%、好ましくは19~26重量%共重合させることで、従来のアクリルゴムの耐寒性(TR-10)を改善することができる(各実施例)。
(2) 架橋性モノマーが少なすぎると、架橋密度の低下により圧縮永久歪が悪化してしまう(比較例2)。
(3) 架橋性モノマーが多すぎる場合、ゴム組成物が硬化し、伸びおよび圧縮永久歪が悪化してしまう(比較例3)。
(4) EEEAが少なすぎる場合には、耐寒性の改善効果が十分に発揮されない(比較例1、4)。
(5) EEEAが多い場合、耐寒性は良くなるものの、常態値(および圧縮永久歪)が悪化し、耐油膨潤性も大きくなってしまう(比較例5~6)。
(6) エトキシエトキシエチルアクリレートではなく、n-BA対比で長鎖のアルキルアクリレートを使用すると、耐寒性の改善はみられるが、耐油膨潤が著しく大きくなってしまい実用的ではない(比較例7~8)。
(7) 長鎖アルコキシアクリレートのメトキシトリエチレングリコールアクリレート〔MTGA〕を使用すると、耐寒性は改善するものの、常態物性(引張強さ、破断時伸び)の悪化がみられる(比較例9~10)。