(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-24
(45)【発行日】2022-02-01
(54)【発明の名称】水素吸蔵合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/00 20060101AFI20220125BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20220125BHJP
B22F 9/04 20060101ALI20220125BHJP
H01M 4/24 20060101ALI20220125BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220125BHJP
C22C 1/00 20060101ALN20220125BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220125BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20220125BHJP
【FI】
C22C19/00 F
B22F1/00 M
B22F9/04 C
H01M4/24 J
H01M4/38 A
C22C1/00 N
C22F1/00 621
C22F1/00 622
C22F1/00 661C
C22F1/00 687
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692A
C22F1/10 A
(21)【出願番号】P 2021555344
(86)(22)【出願日】2021-04-15
(86)【国際出願番号】 JP2021015577
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020078828
(32)【優先日】2020-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】特許業務法人竹内・市澤国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮之原 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】山口 恭平
【審査官】橋本 憲一郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6608558(JP,B1)
【文献】国際公開第2018/123752(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/085542(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/014871(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00
B22F 1/00
B22F 9/04
C22F 1/00
C22F 1/10
H01M 4/24
H01M 4/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaCu
5型、すなわちAB
5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、
前記MmはLa及びCeからなり、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、
Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35~1.10であり、
当該CaCu
5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であることを特徴とする水素吸蔵合金。
【請求項2】
50%体積累積粒径(D50)が21μm±2μmとなるように粒径調整した水素吸蔵合金粉末を、液温120℃の31質量%KOH水溶液に3時間浸漬させる表面処理を行った後の磁化が1.60emu/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の水素吸蔵合金。
【請求項3】
前記ABx組成におけるAサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合のBサイトを構成する元素の合計モル比(ABx)が5.28以上5.46以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の水素吸蔵合金。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の水素吸蔵合金を含有する、ニッケル水素電池の負極活物質。
【請求項5】
請求項4に記載の負極活物質を用いたニッケル水素電池。
【請求項6】
請求項4に記載の負極活物質を用いた、電気自動車或いはハイブリッド自動車に搭載するニッケル水素電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金に関する。詳しくは、電気自動車及びハイブリッド自動車用途等に搭載するニッケル水素電池に用いる負極活物質として好適な水素吸蔵合金に関する。
【背景技術】
【0002】
水素吸蔵合金は、水素と反応して金属水素化物となる合金であり、室温付近で多量の水素を可逆的に吸蔵・放出し得るため、電気自動車(EV:Electric Vehicle)、ハイブリッド自動車(HEV:Hybrid Electric Vehicle;電気モータと内燃エンジンという2つの動力源を併用した自動車)やデジタルスチルカメラに搭載されるニッケル水素電池(「Ni-MH電池」とも称する)や燃料電池等、様々な分野で電池材料として実用化が進められている。
【0003】
CaCu5型の結晶構造を有するAB5型水素吸蔵合金、例えばAサイトに希土類系の混合物であるMm(ミッシュメタル)を用い、BサイトにNi、Al、Mn、Co等の元素を用いてなる合金(以下、この種の合金を「Mm-Ni-Mn-Al-Co合金」と称する)は、他の合金組成に比べて、比較的安価な材料で負極を構成でき、しかもサイクル寿命が長く、過充電時の発生ガスによる内圧上昇が少ない密閉型ニッケル水素電池を構成できるなどの特徴を備えている。
【0004】
この種のAB5型水素吸蔵合金については、例えば特許文献1(WO2006/085542号公報)において、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタル、4.0≦a≦4.7、0.30≦b≦0.65、0.20≦c≦0.50、0<d≦0.35、5.2≦a+b+c+d≦5.5)で表すことができるCaCu5型結晶構造を有する低Co水素吸蔵合金であって、当該CaCu5型結晶構造の結晶格子のa軸長が499.0pm以上であり、かつc軸長が405.0pm以上であって、45℃における圧力-組成等温線図(PCT曲線)において、水素吸蔵量(H/M)0.5における平衡水素圧が0.06MPa以下であることを特徴とする低Co水素吸蔵合金が開示されている。
【0005】
また、特許文献2(WO2007/040277号公報)には、一般式MmNiaMnbAlcCodFee(式中、MmはLaを含むミッシュメタル、0.2≦d≦0.5、5.025≦a+b+c+d+e≦5.200)で表すことができるCaCu5型結晶構造を有する水素吸蔵合金であって、Laの含有量が水素吸蔵合金中13~27wt%であり、X線回折測定と共に格子定数の精密化を行って得られる、CaCu5型結晶構造の格子体積が88.70×106(pm3)以下であって、且つ、(002)面の半値全幅が0.29(°)以下であることを特徴とする水素吸蔵合金が開示されている。
【0006】
ところで、Mm-Ni-Mn-Al-Co合金の構成元素において、Coは合金の微粉化を抑制し、寿命特性の向上に効果を発揮する重要な元素である。しかし、Coは非常に高価な金属であるため、Coを低減することが望まれているが、Coを低減すれば、出力特性や寿命特性の低下につながるため、出力特性及び寿命特性を維持しつつCoを低減することが求められてきた。
【0007】
かかる課題に鑑み、Co量を低減しつつ、出力特性や寿命特性などの電池特性を維持するための提案が種々開示されている。
例えば、特許文献3(WO2005/14871号公報)には、Coの含有率が極めて低く、かつ出力特性(特にパルス放電特性)、活性(活性度)及び寿命特性を高水準に維持可能な水素吸蔵合金として、一般式MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタル、4.0≦a≦4.7、0.3≦b≦0.65、0.2≦c≦0.5、0<d≦0.35、5.2≦a+b+c+d≦5.5)で表すことができるCaCu5型結晶構造を有する低Co水素吸蔵合金であって、当該CaCu5型結晶構造の結晶格子のa軸長が499pm以上であり、かつc軸長が405pm以上であることを特徴とする低Co水素吸蔵合金が開示されている。
【0008】
特許文献4(WO2018/123752号公報)には、CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、Aサイトは、Laを含有する希土類元素から構成され、且つ、Bサイトは、Coを含有せず、Ni、Al及びMnを少なくとも含有し、Alの含有量(モル比)に対するMnの含有量(モル比)の割合(Mn/Al)が0.60以上1.56未満であり、且つ、Alの含有量(モル比)とMnの含有量(モル比)の合計含有量に対するLaの含有量(モル比)の割合(La/(Mn+Al))が0.92より大きいことを特徴とする水素吸蔵合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】WO2006/085542号公報
【文献】WO2007/040277号公報
【文献】WO2005/14871号公報
【文献】WO2018/123752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
Mm-Ni-Mn-Al-Co合金の構成元素において、CoとともにMmも水素吸蔵合金の価格を低下させるのを妨げる要因の一つであった。
従来一般的に使われてきたMmは、La、Ce、Pr、Nd、Sm等の希上類系の混合物であった。これをLaとCeからなるMmに置き換えることで、価格を低下させることができる。しかしその場合、寿命特性が低下することが問題であった。特に、Co量を低下させつつ、LaとCeからなるMmを用いた場合には、寿命特性を維持することは容易なことではなかった。
【0011】
そこで本発明の課題は、Mm-Ni-Mn-Al-Co合金系のAB5型水素吸蔵合金に関し、Co量を低下させつつ、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金においても、ニッケル水素電池の負極活物質として使用した場合に電池の寿命特性の低下を防ぐことができる、新たな水素吸蔵合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、CaCu5型、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金であって、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、MmはLa及びCeからなり、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35~1.10であり、当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であることを特徴とする水素吸蔵合金を提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明が提案する水素吸蔵合金によれば、Co量が十分に低く、且つ、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金であっても、ニッケル水素電池の負極活物質として使用した場合に、電池の寿命特性の低下を防ぐことができる。よって、本発明が提案する水素吸蔵合金は、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載されるニッケル水素電池の負極活物質として好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<本水素吸蔵合金>
本実施形態の水素吸蔵合金(以下「本水素吸蔵合金」という)は、インターナショナルテーブル番号191(P6/mmm)の空間群を有するCaCu5型結晶構造、すなわちAB5型の結晶構造の母相を有する水素吸蔵合金である。
【0016】
(組成)
本水素吸蔵合金は、ABx組成におけるAサイトをミッシュメタル(「Mm」と称する)が構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する合金である。よって、本水素吸蔵合金は、例えば一般式:MmNiaMnbAlcCod(式中、Mmはミッシュメタルであり、a、b、c及びdはMmのモル比を1.00とした場合の各元素のモル比であり、0.0以上の数値である。)で表すことができるAB5型水素吸蔵合金である。
【0017】
Mmは、La及びCeからなる。
Mm中のCe含有量比率は、寿命特性の観点から、13質量%以上であるのが好ましく、中でも15質量%以上、その中でも17質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、出力特性の観点から、24質量%以下であるのが好ましく、中でも22質量%以下、その中でも20質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0018】
Coについては、コスト低減の観点から、Aサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比、すなわち上記一般式におけるCoのモル比(d)が0.0以上0.11以下であるのが好ましい。中でも0.09以下、中でも0.06以下、中でも0.05以下、その中でも0.03以下、その中でも特に含有しないことがさらに好ましい。
【0019】
本水素吸蔵合金において、Aサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合の、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)は0.35~1.10であるのが好ましい。
本水素吸蔵合金をニッケル水素電池の負極活物質として使用した場合、電池の寿命特性の低下を防ぐためには、本水素吸蔵合金が電解液(アルカリ水溶液)に接触した際の腐食を抑制することが一つの解決手段となる。そのためには、Co量が十分に低く、且つ、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金に関しては、Mn量に対するAl量の比率(Al/Mn)を所定の範囲に調整することが好ましいことが分かった。
かかる観点から、本水素吸蔵合金において、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)は0.35以上であるのが好ましく、中でも0.45以上、その中でも0.50以上、さらにその中でも0.54以上であるのがさらに好ましい。他方、1.10以下であるのが好ましく、中でも1.05以下、その中でも0.97以下、さらにその中でも0.88以下であるのがさらに好ましい。
【0020】
本水素吸蔵合金において、ABx組成におけるAサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合のBサイトを構成する元素の合計モル比(すなわち、上記式の「a+b+c+d」、「ABx」とも称する)は、特に限定するものではない。
例えば電気自動車(「EV」と称する)及びハイブリッド自動車(「HEV」と称する)に搭載するNi-MH電池の負極活物質に使用する観点からは、5.28≦ABx≦5.46であるのが好ましい。中でも、ABxを高めることで、水素の吸蔵を繰り返し行うことに伴う水素吸蔵合金粒子の割れを抑制することができるから、かかる観点から、ABxは5.29以上であるのがより好ましく、5.30以上、特に5.31以上であるのがさらに好ましい。他方、出力特性の観点からはABxが高すぎないことが好ましいから、5.45以下であるのがより好ましく、5.44以下、特に5.43以下であるのがさらに好ましい。
【0021】
本水素吸蔵合金において、Ni、Mn及びAlそれぞれのモル比は、本発明の課題を解決する観点からは特に限定するものではない。但し、EV及びHEVに搭載するNi-MH電池の負極活物質に使用する観点からは、次のように考えることができる。
【0022】
Niについては、Aサイトを構成するMmのモル比を1.00とした場合のNiのモル比、すなわち上記一般式におけるNiのモル比(a)は、4.45以上4.64以下であるのが好ましく、中でも4.47以上或いは4.63以下、その中でも特に4.48以上或いは4.61以下であるのがさらに好ましい。
【0023】
Mnについては、上記一般式におけるMnのモル比(b)は、0.39以上0.60以下であるのが好ましく、中でも0.41以上或いは0.57以下、その中でも特に0.43以上或いは0.53以下であるのがさらに好ましい。
【0024】
Alについては、上記一般式におけるAlのモル比(c)は、0.21以上0.43以下であるのが好ましく、中でも0.25以上或いは0.41以下、さらにその中でも0.28以上或いは0.39以下であるのがさらに好ましい。
【0025】
本水素吸蔵合金は、本発明の効果に影響しない範囲で不純物を含むことを許容する。例えばTi,Mo,W,Si,Ca,Pb,Cd,Mgのいずれかの不純物を0.05質量%程度以下であれば含んでいてもよい。
【0026】
本水素吸蔵合金における各元素の含有量乃至組成比率は、化学成分分析測定から得ることができる。
なお、水素吸蔵合金が、EV及びHEVに搭載するNi-MH電池の負極活物質として使用された場合、電池の製造過程や電池の使用過程でAl、Mnのモル比は多少変化するが、その変化量は0.03モル比程度以内であることが分かっている。したがって、使用されたNi-MH電池から負極活物質を採取して分析すれば、電池に使用する前の状態の水素吸蔵合金の元素モル比を推定することができる。
【0027】
(結晶構造)
本水素吸蔵合金をニッケル水素電池の負極活物質として使用する場合、電池の寿命特性の低下を防ぐためには、水素の吸蔵を繰り返し行っても、水素吸蔵合金粒子が割れるのを抑制することが一つの解決手段となる。そのためには、水素の吸蔵に伴う膨張・収縮に耐えられるように、結晶構造を最適化するのが好ましい。
かかる観点から、本水素吸蔵合金では、当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であるのが好ましく、中でも0.8098以上、その中でも0.8100以上であるのがさらに好ましい。他方、合金が割れることが影響する出力特性の観点からは、0.8200以下であるのが好ましく、中でも0.8115以下、その中でも0.8110以下であるのが好ましい。
【0028】
本発明において、水素吸蔵合金のa軸長及びc軸長は、粉末X線回折測定から得ることができる。
その際、粉末X線回折測定用の粉末の粒度は、-500μmの粉末を篩分けして、さらに、篩目開き20μmにて篩分けした篩下品、すなわち-20μmの粉末を測定サンプルとする。なお、当該篩分けだけでは測定サンプルが足りない場合は、測定に必要量の粉末を得る目的で、-500μmの粉末を粉砕して-20μmの粉末を得るようにしもよい。
なお、粉砕する場合には、水素吸蔵合金の結晶構造を変化させてしまうことがない条件で粉砕する必要がある。そのため、粉砕有りと粉砕なしの条件で、それぞれa軸長、c軸長及び格子体積を測定して、両者を比較して、同等である粉砕条件であることを確認することが好ましい。
上記のa軸長及びc軸長は、後述する実施例のように、X線回折の測定をして、解析には、後述する実施例での解析のようにFundamentalParameterを採用し、Pawley法により求められる値である。
【0029】
また、本水素吸蔵合金をニッケル水素電池の負極活物質として使用する場合、電池の寿命特性の低下を防ぐためには、合金自身の電解液に対する耐腐食性を向上することが一つの解決手段となる。そのためには、強アルカリ溶液への腐食を抑制するのが好ましい。
かかる観点から、本水素吸蔵合金は、粉砕乃至篩分けなどによって、50%体積累積粒径(D50)が21μm±2μmとなるように粒径調整して、液温120℃の31質量%KOH溶液に3時間浸漬させる表面処理を行った後の磁化が1.60emu/g以下であるのが好ましく、中でも1.50emu/g以下であるのがさらに好ましく、その中でも1.45emu/g以下、さらにその中でも1.40emu/g以下であるのがさらに好ましい。
【0030】
ここで、「液温120℃の31質量%KOH溶液に3時間浸漬させる表面処理」は、電解液による腐食反応の代替反応としての意味を有している。当該表面処理によって、水素吸蔵合金の表面にNiリッチ層が形成されて磁化が高まる。そのため、当該表面処理後の磁化が高ければ、表面処理の影響を受け易く、電解液によって腐食が進み易いことを示すことになる。
また、上記50%体積累積粒径(D50)は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による50%体積累積粒径(D50)であり、体積基準粒度分布のチャートにおいて体積換算した粒径測定値の累積百分率表記の細かい方から累積50%の径を意味する。
【0031】
本水素吸蔵合金において、a軸長に対するc軸長の比率、及びアルカリ処理後磁化を調整する方法としては、組成比率を変更したり、鋳造後の冷却手段やその条件を変更したり、熱処理条件を変更したりする方法を挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0032】
<本水素吸蔵合金の製造方法>
本水素吸蔵合金は、例えば、所定の合金組成となるように各水素吸蔵合金原料を秤量及び混合し、例えば誘導加熱による高周波加熱溶解炉を用いて上記水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯となし、この溶湯を回転するロール上に出湯して冷却し、さらに熱処理を行った後、必要に応じて粉砕、分級などを行うことで、薄片状乃至薄帯状の水素吸蔵合金を得ることができる。
但し、本水素吸蔵合金の製造方法がこのような製法に限定されるものではない。
【0033】
(溶解)
上述のように、水素吸蔵合金原料を溶解して溶湯とする際、溶湯の温度は1300~1600℃が好ましく、中でも1350℃以上或いは1550℃以下、その中でも1400℃以上或いは1500℃以下であるのがさらに好ましい。
【0034】
(冷却)
上述のように、溶湯を回転するロール上に出湯する際、当該ロールの回転速度は、溶湯の冷却速度と箔の厚みの観点から、50~200rpmであるのが好ましく、中でも55rpm以上或いは190rpm以下、その中でも60rpm以上或いは180rpm以下であるのがさらに好ましい。
【0035】
(熱処理)
上記熱処理する際の雰囲気は不活性ガス、例えばAr、N2などが好ましい。
熱処理する際の温度制御としては、900~1100℃の温度(「熱処理温度」と称する)を1~10時間維持する熱処理を行い、次いで、500℃まで降温速度10~30℃/分で冷却後、100℃以下まで自然冷却する。さらに、前記と同条件にて熱処理及び冷却を2回或いは3回以上行うのがより好ましい。
上記熱処理において、1回の熱処理時間は1時間以上10時間以下が好ましく、中でも2時間以上或いは8時間以下、さらに2時間以上或いは6時間以下であるのが好ましい。
【0036】
また、900~1100℃の温度(「熱処理中心温度」と称する)まで昇温し、その熱処理中心温度から温度を上げた後、短時間のうちに前記熱処理中心温度まで再び戻し、次に、前記熱処理中心温度から温度を下げて、短時間のうちに熱処理中心温度まで再び戻すという温度制御を、必要に応じて所定の間隔をおいて、複数回行うパルス制御を行うようにしてもよい。
このようなパルス制御においては、熱処理中心温度から2℃~10℃上下するように昇温及び降温するのが好ましく、中でも2℃~8℃、その中でも2℃~5℃上下するように昇温及び降温するのがさらに好ましい。
また、上記パルス制御において、昇降温速度は0.1~1.0℃/分、中でも0.1~0.8℃/分、その中でも0.2℃/分以上或いは0.5℃/分以下であるのが好ましい。
上記パルス制御での熱処理時間、すなわち合計熱処理時間は1時間~10時間が好ましく、中でも2時間以上或いは8時間以下、その中でも2時間以上或いは5時間以下であるのが好ましい。
そしてこのようなパルス制御での熱処理後、500℃まで降温速度10~30℃/分で冷却後、100℃以下まで自然冷却するのが好ましい。
【0037】
(粉砕・分級)
得られた薄片状乃至薄帯状の水素吸蔵合金は、例えば500μmの篩目を通過する粒子サイズ(-500μm)まで粉砕するのが好ましい。但し、粗砕の程度は、必要に応じて1000μmの篩目を通過する粒子サイズ(-1000μm)までの粉砕であっても、また、850μmの篩目を通過する粒子サイズ(-850μm)までの粉砕であってもよい。
なお、この段階で細かく粉砕し過ぎると磁選効率が低下するため、ある程度微粉化してもよいが、150μmオーバーの粗粉が50質量%以上含まれるように粗砕するのが好ましい。
【0038】
<本水素吸蔵合金の利用>
本水素吸蔵合金は、必要に応じて磁選処理を行った後、電池の負極材料として利用することができる。すなわち、本水素吸蔵合金に多くの不純物が含まれていると、水素吸蔵量が低下する可能性があるばかりか、過放電のような厳しい条件下で充放電を繰り返すうちに不純物が電解液(アルカリ性溶液)に溶出し、セパレータを貫通して短絡(電圧降下)を生じる可能性があるため、必要に応じて、磁選処理を行うことにより、短絡の原因となる不純物を除去するのが好ましい。
但し、本水素吸蔵合金は、磁選処理を行わないで、電池の負極材料として利用することも可能である。
【0039】
本水素吸蔵合金を電池の負極材料として利用する場合、必要に応じて磁選処理を行った後、例えば公知の方法により、電池用負極を調製することができる。すなわち、公知の方法により結着剤、導電助剤などを混合、成形することにより水素吸蔵合金負極を構成することができる。
【0040】
このようにして得られる水素吸蔵合金負極、すなわち、公知の方法により、本水素吸蔵合金に結着剤、導電助剤などを混合、成形することにより得られる水素吸蔵合金負極は、二次電池のほか一次電池(燃料電池含む)にも利用することができる。例えば、水酸化ニッケルを活物質とする正極と、アルカリ水溶液よりなる電解液と、セパレータとから、Ni-MH電池を構成することができる。
特に本水素吸蔵合金は、耐食性に優れており、出力を低下させずに寿命特性を高めることができるため、これらの特性が求められるEVやHEVなどに搭載するNi-MH電池として特に好適に用いることができる。
【0041】
<語句の説明>
本明細書において「α~β」(α,βは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「α以上β以下」の意と共に、「好ましくはαより大きい」或いは「好ましくはβより小さい」の意も包含する。
また、「α以上」或いは「α≦」(αは任意の数字)或いは「β以下」或いは「≦β」(βは任意の数字)と表現した場合、「αより大きいことが好ましい」或いは「β未満であるのが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例】
【0042】
次に、実施例に基づいて、本発明についてさらに説明する。但し、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
各元素の質量比率が、Mm:31.27、Ni:59.32、Co:0.66、Mn:7.40、Al:1.35となるように原料を秤量し、混合した。
なお、LaおよびCeからなるMmを用いた。
【0044】
得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4~10-5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1500℃まで加熱して溶湯とし、次いで15kgの溶湯を、80rpmで回転する銅ロール上に鋳造することで冷却して、薄帯状の水素吸蔵合金を得た。さらに、得られた水素吸蔵合金をステンレス鋼製容器に入れて真空熱処理装置にセットし、アルゴンガス雰囲気中で熱処理を行い、薄片状の水素吸蔵合金を得た。
この際、前記熱処理は、アルゴンガス雰囲気中で913℃まで1時間で昇温し、さらに1068℃まで30分、1078℃まで10分で昇温し、1078℃を5時間維持するように高温保持処理を行った後、降温速度20℃/分で500℃まで冷却し、次いで100℃以下まで自然冷却した。
【0045】
次に、吉田製作所製ブラウンミル(型式1025-HBG)を用いて、アルゴンガス雰囲気中で上記の水素吸蔵合金を500μmの篩目を通過する粒子サイズ(-500μm)まで粉砕して水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0046】
得られた水素吸蔵合金(サンプル)は、ICP分析により、MmNi4.50Al0.22Co0.05Mn0.60(ABx=5.369)であることが確認された。
【0047】
(実施例2)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.38、Ni:60.16、Co:0.00、Mn:6.79、Al:1.67に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0048】
(実施例3)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.45、Ni:60.33、Co:0.00、Mn:6.31、Al:1.91に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0049】
(実施例4)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.47、Ni:60.36、Co:0.00、Mn:6.19、Al:1.98に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0050】
(実施例5)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.49、Ni:60.40、Co:0.00、Mn:6.07、Al:2.04に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0051】
(実施例6)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.49、Ni:59.73、Co:0.67、Mn:6.07、Al:2.04に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0052】
(実施例7)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.60、Ni:60.61、Co:0.00、Mn:5.40、Al:2.39に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0053】
(実施例8)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.64、Ni:60.69、Co:0.00、Mn:5.15、Al:2.52に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0054】
(実施例9)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.28、Ni:60.67、Co:0.00、Mn:6.03、Al:2.02に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0055】
(実施例10)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.71、Ni:60.13、Co:0.00、Mn:6.11、Al:2.05に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0056】
(実施例11)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.63、Ni:59.49、Co:1.34、Mn:5.39、Al:2.15に変更し、さらに、鋳造方法をブックシェル型銅鋳型への鋳造に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。すなわち、実施例1における「得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4~10-5Torrまで減圧した後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1500℃まで加熱して溶湯とし、次いで15kgの溶湯を、80rpmで回転する銅ロール上に鋳造することで冷却」する代わりに、得られた混合物をルツボに入れて高周波溶解炉に固定し、10-4~10-5Torrまで減圧にした後、アルゴンガスを導入し、アルゴンガス雰囲気中で1450℃まで加熱し、次いで総重量200kgの銅鋳型(ブックシェル型銅鋳型)に10kgの溶湯を4kg/秒で流し込み、水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0057】
(実施例12)
実施例11において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.51、Ni:59.48、Co:1.07、Mn:5.94、Al:2.00に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:30.84、Ni:59.15、Co:0.00、Mn:10.01、Al:0.00に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0059】
(比較例2)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:30.84、Ni:59.15、Co:0.00、Mn:10.01、Al:0.00、鋳造方法をブックシェル型Cu鋳型への鋳造に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0060】
(比較例3)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.27、Ni:59.98、Co:0.00、Mn:7.40、Al:1.35、鋳造方法をCu鋳型への鋳造に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0061】
(比較例4)
実施例1において、原料を混合する際の各元素の質量比率を、表1に示すように、Mm:31.64、Ni:60.69、Co:0.00、Mn:5.15、Al:2.52、鋳造方法をCu鋳型への鋳造に変更した以外、実施例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0062】
(比較例5)
比較例1において、熱処理温度を1028℃に変更した以外、比較例1と同様にして水素吸蔵合金(サンプル)を得た。
【0063】
<評価方法>
実施例・比較例で得た水素吸蔵合金粉末(サンプル)について、次のようにして各種評価を行った。
【0064】
<a軸長・c軸長の測定>
実施例及び比較例で得た水素吸蔵合金(サンプル)を、目開き20μmの篩で分級して、-20μm(20μmの篩目を通過する粒子)の水素吸蔵合金粉末(測定サンプル)を得た。
得られた測定サンプルを、サンプルホルダーに充填し、X線回折装置(ブルカー・エイエックスエス(株)製D8ADVANCE)を使用して測定を行い、a軸長、c軸長及び格子体積を求めた。同様に作製した水素吸蔵合金(サンプル)についてn数3回測定、その平均値を求めた。
なお、使用したX線回折装置仕様・条件等は以下の通りである。
【0065】
(装置仕様)
管球:CuKα線
【0066】
・入射ビームパス
[Tubemount]
Voltage:40[kV]
Current:40[mA]
Element:Cu
[Optics_Primary_MortorizedSlit]
Opening: 0.30[°]
[SlitMount]
No Slit 10.5[mm]10.5[mm]
Width:18[mm]
Height:10.5[mm]
Deflection:0[°]
[SollerMount]
Axial Soller 2.5[°]2.5[°]
AxialDivergence:2.5[°]
EquatorilDivergence:0[°]
Deflection:0[°]
【0067】
・受光側ビームパス
検出器:LYNXEYE XE
[LYNXEYE_XE]
モード:LYNXEYE_XE(1Dモード)
Deflection:0[°]
ActivatonLimit:200000[1/s]
DeactivatonLimit:150000[1/s]
LowerDiscriminator:0.212[V]
Bining:1
Counter 1D:0[counts]
Scan Counter:0[counts]
Counter 0D:0[counts]
UpperDiscriminator:0.230[V]
Orientation:0[°]
[DetectorOpticsMount2]
Soller_25 2.5[°]2.5[°]
AxialDivergence:2.5[°]
EquatorilDivergence:0[°]
Deflection:0[°]
[DetectorOpticsMount1]
Slit_Open_1 0[mm]0[mm]
Width:14[mm]
Height:0[mm]
Deflection:0[°]
[SollerMount]
Deflection:0[°]
[SllitMount]
No Slit 10.5[mm]10.5[mm]
Width:18[mm]
Height:10.5[mm]
Deflection:0[°]
【0068】
(測定条件)
測定モード:Two Theta/Theta
モード:PSD高速スキャン
時間・/ステップ:0.280[s]
開始:20.0000[°]
停止:120.0046[°]
ステップ幅:0.007175469952
【0069】
測定により得られたX線回折パターン(回折角2θ=20~120°の範囲)を用いて、解析用ソフトウエア(ソフト名:TopasVersion5)で解析した。
解析には、FundamentalParameterを採用し、Spacegroup:P6/mmmを選択し、a軸長、c軸長及びCrystal size-Lを変数とした状態でPawley法による精密化を行った。
【0070】
解析を行う際に使用したX線回折パターンのピークは、以下の通りである。
・20.5°付近にあるミラー指数(010)で指数付けされるピーク
・21.9°付近にあるミラー指数(001)で指数付けされるピーク
・30.1°付近にあるミラー指数(011)で指数付けされるピーク
・35.8°付近にあるミラー指数(110)で指数付けされるピーク
・41.6°付近にあるミラー指数(020)で指数付けされるピーク
・42.4°付近にあるミラー指数(111)で指数付けされるピーク
・44.6°付近にあるミラー指数(002)で指数付けされるピーク
・47.5°付近にあるミラー指数(021)で指数付けされるピーク
・49.5°付近にあるミラー指数(012)で指数付けされるピーク
・56.1°付近にあるミラー指数(210)で指数付けされるピーク
・58.5°付近にあるミラー指数(112)で指数付けされるピーク
・60.9°付近にあるミラー指数(211)で指数付けされるピーク
・62.6°付近にあるミラー指数(022)で指数付けされるピーク
・64.4°付近にあるミラー指数(030)で指数付けされるピーク
・68.9°付近にあるミラー指数(031)で指数付けされるピーク
・69.4°付近にあるミラー指数(003)で指数付けされるピーク
・73.2°付近にあるミラー指数(013)で指数付けされるピーク
・74.3°付近にあるミラー指数(212)で指数付けされるピーク
・76.0°付近にあるミラー指数(220)で指数付けされるピーク
・79.7°付近にあるミラー指数(310)で指数付けされるピーク
・80.2°付近にあるミラー指数(221)で指数付けされるピーク
・80.7°付近にあるミラー指数(113)で指数付けされるピーク
・81.8°付近にあるミラー指数(032)で指数付けされるピーク
・83.9°付近にあるミラー指数(311)で指数付けされるピーク
・84.3°付近にあるミラー指数(023)で指数付けされるピーク
・90.6°付近にあるミラー指数(040)で指数付けされるピーク
・92.7°付近にあるミラー指数(222)で指数付けされるピーク
・94.7°付近にあるミラー指数(041)で指数付けされるピーク
・95.2°付近にあるミラー指数(213)で指数付けされるピーク
・96.3°付近にあるミラー指数(312)で指数付けされるピーク
・98.8°付近にあるミラー指数(004)で指数付けされるピーク
・101.5°付近にあるミラー指数(320)で指数付けされるピーク
・102.5°付近にあるミラー指数(014)で指数付けされるピーク
・102.6°付近にあるミラー指数(033)で指数付けされるピーク
・105.8°付近にあるミラー指数(321)で指数付けされるピーク
・107.4°付近にあるミラー指数(042)で指数付けされるピーク
・109.0°付近にあるミラー指数(410)で指数付けされるピーク
・110.0°付近にあるミラー指数(114)で指数付けされるピーク
・113.4°付近にあるミラー指数(411)で指数付けされるピーク
・113.9°付近にあるミラー指数(024)で指数付けされるピーク
・114.0°付近にあるミラー指数(223)で指数付けされるピーク
・118.0°付近にあるミラー指数(313)で指数付けされるピーク
・119.2°付近にあるミラー指数(322)で指数付けされるピーク
【0071】
<比表面積増加量>
上記実施例及び比較例で得られた水素吸蔵合金(サンプル)を、20gを、サイクロミル((型式1033-200)吉田製作所製)で30秒間粉砕し、篩目20μm、篩目53μmの篩を用いて、両篩間で篩い分けしてD50=45μm±0.5μmに調整し、測定サンプルを得た。この際、D50と同時にCS値(比表面積)も測定した。
当該CS値は、粒子が球形と仮定し、測定された粒径から計算上得られた比表面積である。
【0072】
上記D50、CS値(比表面積)は、粒度分布測定装置(マイクロトラック、日機装(株)、HRA9320-X100)を使用して下記条件設定の下で測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートからD50、CS値(比表面積)を求めた。
(Set Zero時間):30sec
(測定時間):30sec
(測定回数):1回
(溶媒および屈折率):水、1.33
(粒子条件透過性):反射
(流速):60ml/sec
【0073】
次いで、得られた測定サンプル2gをPCTホルダー内に入れて、活性化装置で次の活性化処理を行った。
活性化処理:マントルヒーター(300℃)中、PCTホルダーを加熱した状態で1hr真空引きを実施し、次いで、1.75MPaの水素を導入し、30分間放置後、真空引きを行う一連の操作を2回実施した。
【0074】
次に、マントルヒーターからPCTホルダーを取り出し、PCTホルダーをPCT特性測定装置((株)鈴木商館)に接続し、45℃の恒温槽内にPCTホルダーを入れて該PCTホルダーの真空引きを45分間行い、その後、水素吸蔵・放出サイクルを下記条件設定の下で行った。
(導入圧力)2.9MPa
(吸蔵時間)300sec
(放出時間)420sec
(サイクル数)10サイクル
【0075】
10サイクル終了後、PCTホルダーの真空引きを30分間行った後、PCTホルダーからサンプルを取り出し、10サイクル後のサンプルを得た。
【0076】
10サイクル後のサンプルのCS値(比表面積、「サイクル後CS値」)を、実施例及び比較例で得られた水素吸蔵合金(サンプル)のCS値(比表面積、「サイクル前CS値」)と同様に測定し、次式により比表面積増加量を求めた。
(式):比表面積増加量(ΔCS)=(サイクル後CS値―サイクル前CS値)
【0077】
<アルカリ処理3hr後磁化の測定>
実施例・比較例で得られた水素吸蔵合金(サンプル)20gを、サイクロミル((型式1033-200)吉田製作所製)で1分間粉砕し、目開き32μmの篩で分級して、D50=21μm±2μmの水素吸蔵合金粉末(測定サンプル)を得た。
【0078】
この際、上記D50の測定は、粒度分布測定装置(マイクロトラック、日機装(株)、HRA9320-X100)を使用して下記条件設定の下で測定し、得られた体積基準粒度分布のチャートからD50を求めた。
(SetZero時間):30sec
(測定時間):30sec
(測定回数):1回
(溶媒および屈折率):水、1.33
(粒子条件透過性):反射
(流速):60ml/sec
【0079】
得られた測定サンプル3gを、120℃、濃度31質量%のKOH水溶液30ml中に投入して、振とう機を用いてで3時間振とうさせてアルカリ処理を行った。次いで、水洗・濾過・乾燥を実施し、測定サンプルを得た。
測定サンプルを、VSM(Vibration Sample Magnetometer:試料振動式磁束計、株式会社玉川製作所製「TM-VSM1014-MRO-M型」,電磁石:TM-WTF51.406-101.5FA型、サンプルホルダー:TM-VSMSH-21-3型、サンプル容器:TM-VSMPCA-C型)を使用してヒステリシスループの測定を行い、磁化を測定した。
なお、実施例・比較例で得た水素吸蔵合金(サンプル)は、上記測定前に、標準試料(99.998%純度のNi)を用いたキャリブレーション作業を実施し、装置校正を行い、装置が正常であることを確認した。その後、上記のようにして磁化の測定を行った。
【0080】
(振動試料型磁力計の測定条件)
・max magnetic field・・・10(kOe)
・time constant lock-in amp・・・100(msec)
・measuring method・・・sweep{speed1:5sec/1kOe speed2:10sec/1kOe(1~-1[kOe])}
・angle・・・fix 0[°]
・gap of pole chips・・・14mm
・measuring loop・・・half
【0081】
得られたヒステリシスループから磁化を以下のように求めた。
磁化(emu/g)={M(10)-2{M(10)-M(5)}}/測定合金重量
ここで、M(10)とは、X軸が10[kOe]時の磁化であり、M(5)とは、X軸が5[kOe]時の磁化である。
【0082】
<比表面積増加量(ΔCS)×アルカリ処理3hr後磁化>
実施例・比較例で得られた水素吸蔵合金(サンプル)について、上記のように測定して得られた比表面積増加量(ΔCS)及びアルカリ処理後3hr磁化を使用して、これらの積の値(比表面積増加量(ΔCS)×アルカリ処理3hr後磁化)を算出した。
【0083】
電池の寿命特性の低下は、充放電を繰り返すことで、水素吸蔵合金粒子が割れることによる比表面積の増加と、その合金表面からの腐食によって引き起こされる。このように、割れと腐食が同時進行して電池特性が低下するため、それらの相乗効果による影響を評価する電池の寿命の評価方法として、比表面積増加量(ΔCS)とアルカリ処理3hr後磁化との積の値(比表面積増加量(ΔCS)×アルカリ処理3hr後磁化)を基準として評価することとした。(比表面積増加量(ΔCS)×アルカリ処理3hr後磁化)が低ければ、電池の寿命特性が低下し難いことを確認することができる。
【0084】
【0085】
【0086】
(考察)
上記実施例・比較例で得られた水素吸蔵合金(サンプル)について、前記a軸長の測定同様に、X線回折法による構造解析を行ったところ、P6/mmmの空間群にて十分な解析精度が得られたこと、並びに、化学分析から得られた成分の構成から、上記実施例・比較例で得られた水素吸蔵合金(サンプル)はいずれもAB5型の結晶構造の母相を有することが確認された。
【0087】
上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果などから、Mm-Ni-Mn-Al-Co合金系のAB5型水素吸蔵合金において、Co量が低く、すなわち、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.11以下であり、且つ、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金に関しては、<比表面積増加量×アルカリ処理後磁化率>を十分に低くするためには、Mmのモル比を1.00とした場合のMnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35~1.10であることが好ましいことが分かった。
また、<比表面積増加量×アルカリ処理後磁化率>を十分に低くするためには、a軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上であることが好ましいことも分かった。
さらに、ABxが5.32以上であれば、<比表面積増加量×アルカリ処理後磁化率>をより一層低くできる点で、さらに好ましいことが分かった。
【要約】
AB5型水素吸蔵合金に関し、Co量が低く、LaとCeからなるMmを用いた水素吸蔵合金において、寿命特性の低下を防ぐことができる水素吸蔵合金を提供する。
ABx組成におけるAサイトをMmが構成する一方、BサイトをNi、Co、Mn及びAl、又は、Ni、Mn及びAlが構成する水素吸蔵合金であって、MmはLa及びCeからなり、Mmのモル比を1.00とした場合のCoのモル比が0.0以上0.11以下であり、Mnのモル比に対するAlのモル比の比率(Al/Mn)が0.35~1.10であり、当該CaCu5型結晶構造におけるa軸長に対するc軸長の比率が0.8092以上である水素吸蔵合金である。