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  • 特許-レール破断検知装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】レール破断検知装置
(51)【国際特許分類】
   E01B 35/00 20060101AFI20220126BHJP
   B61L 1/08 20060101ALI20220126BHJP
   B61L 23/00 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
E01B35/00
B61L1/08 Z
B61L23/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018111437
(22)【出願日】2018-05-25
(65)【公開番号】P2019203367
(43)【公開日】2019-11-28
【審査請求日】2020-08-14
(73)【特許権者】
【識別番号】517251812
【氏名又は名称】株式会社社会システム開発研究所
(72)【発明者】
【氏名】中村 英夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋子
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特公昭44-031843(JP,B1)
【文献】特開2011-225192(JP,A)
【文献】米国特許第04389033(US,A)
【文献】特開2012-188009(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01B 27/00-37/00
B61L 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道回路を持たない鉄道線区において、
破断の有無を調べる対象のレール(1)と、送電用ボンド(22)と2本の受電用ボンド(21)、交流電源(3)、両端の該受電用ボンド(21)に装着した破断診断ボックス(6)、及びリターン電流線(4)から成り、
破断診断区間の両端には受電ボンド(21)を、破断診断区間のほぼ中央には送電用ボンド(22)を配置して、それぞれ左右2本のレール(1)を電気的に接続し、
該送電用ボンド(22)の中央を交流電源(3)の一端と接続し、交流電源(3)のもう一端をリターン電流線(4)に接続し、リターン電流線(4)のもう一端を、上記受電用ボンド(21)の中央部と接続することで、左右2本のレール(1)にそれぞれ上り方レール電流(101)、下り方レール電流(102)が流れるようにし、両端の受電用ボンド(21)に装着された破断診断ボックス(6)により、左右のレール(1)から該受電用ボンド(21)に流れ込む電流量が等しいことを診断し、等しくなければレール破断ありとすることで中央の送電用ボンド(22)と両端の受電用ボンド(21)間のレールの破断を検知するレール破断検知装置。
【請求項2】
特許請求項1に記載のレール破断検知装置において、送電用ボンド(22)と受電用ボンド(21)の間の任意の位置の左右のレール(1)に、診断用ボンド(23)を必要な本数取り付けるものとし、該診断用ボンド(23)には、電流検知ボックス(7)が装着され、
該電流検知ボックス(7)は、該診断用ボンド(23)に流れる電流の有無を常時診断し、電流がない時には破断なしとして、固有に割り当てられた周波数信号(50)を、結合トランス(8)を介してリターン電流線(4)に流れるリターン電流(103または104)に重畳させ、上記受電用ボンド(21)にある破断診断ボックス(6)に伝達することで、破断診断ボックス(6)によるレール破断箇所の特定を可能にしたレール破断検知装置。
【請求項3】
特許請求項1および特許請求項2に記載のレール破断検知装置において、破断診断ボックス(6)は、電流センサー(15)と、
該電流センサー(15)からの情報を受信する破断分析部(12)を配置するとともに、左右のレールに流れた電流の帰路となるリターン電流線(4)から結合トランス(8)を介して電流を得て動作電源とする構成とし、
該電流センサー(15)は、左のレールから流れこむ電流と右のレールから流れこむ電流の差分を検出して、その情報を破断分析部(12)に送り、該破断分析部(12)で診断して、レール破断の有無を検知するほか、
診断用ボンド(23)を接続した構成の場合には、結合トランス(8)を介して取り込んだリターン電流(103または104)の周波数を上記破断分析部(12)で分析し、各電流検知ボックス(7)で重畳された周波数信号(50、50、・・・、50、・・・、50)を検出することにし、各電流検知ボックス(7)に割り当てられた固有の周波数信号(50)が全て揃っていた時にはレール破断なしと判断する一方、一部の周波数信号(50,・・・)に欠落があった場合には、欠落した周波数信号の組み合わせからレールの破断箇所(90)を特定する破断診断ボックス(6)を備えたレール破断検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道回路を用いずにレールの破断を検知する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道の一部単線区間や無線式列車制御システム(CBTC)の導入線区などに見られる軌道回路を用いないシステムでは、省設備によるコスト削減や信頼性向上効果が期待できるものの、軌道回路によるレール破断検知ができない問題がある。レール破断は鉄道の安全を阻害する要因ともなるので、軌道回路を用いない線区に適用できるレール破断検知装置が望まれている。
【0003】
この解決には、レール破断検知装置を設備することであり、これまでにもいくつかの発明がなされている(たとえば特許文献1から6)。
【0004】
特許文献1に記載の「レール破断検知方法およびレール破断検知装置とその装置を用いたレール破断箇所検出方法」においては、左右のレール踏面から数十センチメートルの高さにそれぞれ装着した車上のアンテナで、左右のレールに流れる帰線電流を受信し、レールが破断した箇所では帰線電流が不平衡になるため、左右のアンテナによって受信される電流レベルに差が生じることを利用して、レールの破断を検出する方法である。この方法は電車電流が流れる力行時には確実に検出できるものの、惰行時には帰線電流が少ないため検出能力が低下する問題がある。さらに、列車で検出するため列車が通過する前にあらかじめ検出することができない問題があった。
【0005】
特許文献2に記載の「レール破断検知システム及びレール破断検知装置」は、軌道回路を用いて軌道リレーが落下した場合に、レール破断に起因するものか列車が進入してきたことによるものかの判別を、列車制御システムが管理する列車位置情報をもとに判断することを特徴としている。このほかにも、現行軌道回路に手を加えてレール破断位置を特定しようとする発明もいくつか報告されているが、そもそも軌道回路を用いている点で目的や作用が異なっている。
【0006】
軌道回路を用いないレール破断検知方法として、車両走行に伴うレールの振動を利用した発明が「レール破断検知装置」の名称で特許文献3や特許文献4のように出願されている。しかし、そもそも列車が走行しないとわからないという根本的課題があり、他の方法が求められていた。
【0007】
また、軌道回路を用いないでレール破断を検知する方法として、特許文献5では、左右のレールに流れる帰線電流が、レール破断によって不平衡になることを利用し、レールの帰線電流を監視することで不平衡を検知する方法や、特許文献6に記載の方法のように、車上の2本の車輪・車軸と左右2本のレールによってできる閉回路に電流を流しておき、2本の車輪・車軸に挟まれたレールが破断した時には、電流が流れなくなることを車上で検知する発明などがある。しかし、これらも列車が走行しないと破断がわからないという致命的な問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-321110
【文献】特許番号5728332
【文献】特開2012-158919
【文献】特開2015-34452
【文献】特開2012-091671
【文献】特開2002-294609
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、軌道回路を用いずに、列車が走行する前にレールの破断を地上で検知することである。
【0010】
また、レール破断の検知対象区間を細かくすると、破断検知後の保守作業を迅速に行うことができ効果的であるが、そのために多くの装置を設置することはコスト増を招き現実的ではない。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、簡単な装置構成で、列車が走行してくる前にレールの破断を検知できるほか、検知区間も必要に応じて細かくできるレール破断検知装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
簡易な装置でレール破断を検知するために、本発明では、左右のレールをつなぐ3本のボンドを用意し、中央に位置する送電用ボンドを介して、左右のレールに電流を流し、端末の受電用ボンドで左右のレールに流れた電流を合流させリターン電流線を用いて電源に戻す。端末の受電用ボンドには破断診断ボックスを挿入し、左右のレールから流入する電流量が等しいか否かを常時診断する。レール破断時には、左右のレールから流入する電流値に差ができることを利用しレール破断を検出する。
【0013】
また、本発明のレール破断検出装置では、破断検知区間を細かい単位で検知できるようにするために、送電用ボンドと受電用ボンドの間の任意の箇所のレールに、電流検知ボックスを装備した診断用ボンドを接続する。上記電流検知ボックスでは、隣接する左右のレールに破断があった際にのみ診断用ボンドに電流が流れることを利用し、診断用ボンドへの電流の有無によりレール破断を検知する。なお、その検知結果をリターン電流線に流れる電流に重畳することで、破断検知区間全体のレール破断箇所の診断を一箇所で行えるようにする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中央の送電用ボンドを介して電源電流が、上り方レール電流と下り方レール電流として分かれて流れる。さらに、その分かれた電流が、それぞれ左右のレールに平衡して流れ、受電用ボンドで合流し、リターン電流線を介して電源側に戻る。しかし、破断したレールには電流が流れないため、端末の受電用ボンドに左右のレールから流入する電流量に差があるか否かを診断することでレール破断が検知できる。この方法によれば、列車の走行によらずレールが破断すれば直ちに検知できる。
【0015】
本発明のレール破断検知装置は、送電用ボンドと受電用ボンドの間のレールの任意の箇所に、電流検知ボックスを装備した診断用ボンドを左右のレールに接続するだけで、レール破断の検知個所を細かく区分できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】 レール破断検知装置の構成と原理を示す図である。
図2】 レール破断検知装置の破断検知分解能の向上策を説明する図である。
図3】 レール破断発生時の電流の流れの変化を説明する図である。
図4】 レール破断検知装置の破断診断ボックスの構成と原理を示す図である。
図5】 レール破断検知装置の電流検知ボックスの構成と原理を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、レール破断検知装置の構成と原理を示す図である。レール破断検知装置は、レール破断を検知したい区間の中央に送電用ボンド22を、そしてレール破断を検知したい区間の両端に、受電用ボンド21を配置し、該送電用ボンド22と受電用ボンド21は、左右のレール1をそれぞれ電気的に接続する。中央に位置する送電用ボンド22には交流電源3の端子を接続し、交流電源3からの電源電流100を上り方のレールと下り方のレールに送電する。電源電流100は、上り方レール電流101と下り方レール電流102に分かれて流れるが、それぞれ受電用ボンド21を介して左右のレールの電流が合流し、上り方はリターン電流103として、また下り側はターン電流104として、それぞれリターン電流線4を通って流れ、交流電源3に戻る。
【0018】
通常は、中央の送電用ボンド22から左右のレールに等しい量の電流が流出し、両端の受電用ボンド21を通って左右のレールから等しい量の電流が流入する。これら左右のレールからの電流量が等しいことを受電用ボンド21に挿入された破断診断ボックス6で計測しているが、万一左右のレールのどちらかにレール破断があった場合には、そのレールには電流が流れないため、該破断診断ボックス6では左右のレールからの流入電流量が異なって計測される。このことを利用し、流入する電流に差がないときには、該破断診断ボックス6は、レール破断がないと判断し、一方、左右のレールから流入する電流に差があるときには破断診断ボックス6は、レール破断有りと判断する。
【0019】
次に、図2を用いて、レール破断検知装置の破断検知個所を細かく分割して、レール破断検出分解能を向上させる方法について説明する。送電用ボンド22と受電用ボンド21に挟まれた区間の破断個所をより細かく識別するには、電流検知ボックス7を挿入した診断用ボンド23を任意の数だけ左右のレールに接続すればよい。電流検知ボックス7は診断用ボンド23に電流が流れるか否かを計測するものであり、診断用ボンド23と隣接するボンド間のレールに破断が無ければ、診断用ボンド23には電流が流れない。この計測結果を、受電用ボンド21に挿入した破断診断ボックス6に伝達し、破断個所の特定を可能とする。破断時のレール電流の流れや破断診断ボックスの動作については、図3図4および図5を用いて説明する。
【0020】
図3を用いて多数の診断用ボンド23が接続されている状態でレール破断があった時の電流の流れを説明する。右側のレールの破断個所90においてレール破断が発生したとする。破断個所90を越えては電流が流れない。従って破断個所90の手前の診断用ボンド23には右側のレールに流れていた電流101が流れ込み、破断個所90の左側のレールの電流は電流101の2倍の電流103となり、次の診断用ボンド23で左右のレールに分かれる。その先の左右のレールのインピーダンスは等しいから、左右のレールには平衡した電流が流れ、端末の受電用ボンド21までの診断用ボンド23には電流が流れない。端末の受電用ボンド21で左右のレールからの電流101が合流し、リターン電流線4を通って交流電源3に戻る。この原理を利用してレール破断個所を細かく診断する方法を次に説明する。
【0021】
図4は、レール破断検知装置の上り方に用いる破断診断ボックス6の構成と原理を説明する図であるが、下り方の破断診断ボックス6も構成は同一である。該破断診断ボックス6は、破断分析部12、電流センサー15、及び交流電源信号共用線9を備え、リターン電流線4に流れる電流の一部を結合トランス8から取り込み、診断検知部14の電源とする。
【0022】
該受電用ボンド21に接続されたレールに破断がない時には、該破断診断ボックス6を装着した受電用ボンド21に、右側のレール1から流れ込む電流101と右側のレール1から流れ込む電流101の大きさは等しい。一方、受電用ボンド21に隣接する送電用ボンド22(図2に示す構成の場合には診断用ボンド23)と該受電用ボンド21との間のレールに破断があった場合には、左右のレールから流れ込む電流に差が生じる。電流センサー15は、この差を検出するものであり、ここでは、受電用ボンド21の線材をループ状にして交叉させ、交叉部の電流を電流センサー15によって検知することにより、左右のレールから流れ込む電流の差分が取り込まれる(もちろん、電流センサー15を2つ用意し、右側のレールから流れ込む電流と左側のレールから流れ込む電流をそれぞれ検測してその差分を算出してもよい)。電流センサー15によって取り込まれた電流の差分の計測値は、破断分析部12に取り込まれ、差分の有無により隣接するレールに破断があったか否かが判定される。
【0023】
図5は、レール破断検知装置の電流検知ボックス7の構成と原理を説明する図である。該電流検知ボックス7は、レールを細かく分割して破断個所を検知するために用いられる診断用ボンド23の構成部品で、破断検知部13、電流センサー15、及び検知信号結合トランス11を備え、結合トランス8を用いてリターン電流線4に流れる電流を取り込み電源とする。電流センサー15は上記診断用ボンド23に流れる電流を取り込むもので、その結果は破断検知部13に入力される。該破断検知部13は電流センサー15からの値が基準値以下であればレール破断なしとして、電流検知ボックス7に固有に割り当てられた周波数信号50を、検知信号結合トランス11を介して交流電源信号共用線9に送信する。その結果、周波数信号50は、結合トランス8を介してリターン電流線4の電流(この例の場合は、上り方リターン電流103)に重畳される。
【0024】
また図4に示す破断診断ボックス6は、レールを細かく分割して破断個所を検知する場合のレール破断箇所識別にも用いられる。該破断診断ボックス6の破断分析部12には、結合トランス8を介してリターン電流線4に流れる交流電流(この例の場合は、上り方リターン電流103)の一部が取り込まれる。この電流は、上記破断診断ボックス6を動作させる電源として利用されるが、同時にこの電流には各電流検知ボックス7によって生成された周波数信号50、50、・・・、50、・・・、50が重畳されている。該破断診断ボックス6の破断分析部12では、交流電源の周波数分析を行い、重畳されているはずの周波数信号の有無を診断する。各電流検知ボックス7に割り当てられた固有の周波数信号50、50、・・・、50、・・・、50が全て揃っていた時にはレール破断なしと判断するが、一方、一部の周波数信号に欠落があった場合には、欠落した周波数信号の組み合わせからレール破断の場所を特定する。
【符号の説明】
【0025】
1 レール
3 交流電源
4 リターン電流線
6 破断診断ボックス
7 電流検知ボックス
8 結合トランス
9 交流電源信号共用線
11 検知信号結合トランス
12 破断分析部
13 破断検知部
15 電流センサー
22 送電用ボンド
21 受電用ボンド
23 診断用ボンド
50、50、・・・、50、・・・、50 周波数信号
90 破断個所
100 電源電流
101 上り方レール電流
102 下り方レール電流
103 上り方リターン電流
104 下り方リターン電流
図1
図2
図3
図4
図5