(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】新規な環式ジオール化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 43/23 20060101AFI20220207BHJP
【FI】
C07C43/23 D CSP
(21)【出願番号】P 2018047408
(22)【出願日】2018-03-15
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000191250
【氏名又は名称】新日本理化株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森 一紘
(72)【発明者】
【氏名】辻本真也
【審査官】高森 ひとみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-046430(JP,A)
【文献】特開2005-126433(JP,A)
【文献】特開2003-327625(JP,A)
【文献】特表2010-520938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
[式中、R
1~R
12は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子若しくは
メチル基、エチル基、イソブチル基、tert-ブチル基を示す。]
で表される環式ジオール化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な環式ジオール化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂やポリカーボネート樹脂の樹脂原料として各種のジオール化合物が知られている。しかし、工業的に入手可能な環式ジオール化合物としては、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオールや2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(水素化ビスフェノールA)があるが種類は少ない(特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平5-310900号公報
【文献】特開2003-048966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、新規な環式ジオール化合物を提供することを目的とする。その新規な環式ジオール化合物は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂等の樹脂原料や樹脂改質剤として有用である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を達成すべく鋭意検討の結果、特異な構造を有する環式ジオール化合物が文献未記載の化合物であり、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂及びポリメタクリル酸エステル樹脂等の樹脂原料や樹脂改質剤として有用なことを見出し、かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明は、以下の項目を要旨とする新規な環式ジオール化合物を提供するものである。
【0007】
[項1]
一般式(1)
【化1】
[式中、R
1~R
12は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6~10の芳香族基を示す。また、R
1~R
12のうち、2つの基が互いに結合して2価の基を形成していてもよい。]
で表される環式ジオール化合物。
【0008】
[項2]
一般式(1)
【化2】
[式中、R
1~R
12は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6~10の芳香族基を示す。また、R
1~R
12のうち、2つの基が互いに結合して2価の基を形成していてもよい。]
で表される環式ジオール化合物の、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂又はポリメタクリル酸エステル樹脂の樹脂原料としての使用方法。
【0009】
[項3]
一般式(1)
【化3】
[式中、R
1~R
12は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6~10の芳香族基を示す。また、R
1~R
12のうち、2つの基が互いに結合して2価の基を形成していてもよい。]
で表される環式ジオール化合物からなる、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂又はポリメタクリル酸エステル樹脂の樹脂改質剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の新規な環式ジオール化合物は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂等の樹脂原料又は樹脂改質剤として使用出来る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1で得られた5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ビス(2-ヒドロキシエチルオキシ)-1,1’-ビナフチルのIRスペクトルである。
【
図2】実施例1で得られた5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ビス(2-ヒドロキシエチルオキシ)-1,1’-ビナフチルの
1H-NMRスペクトルである。
【
図3】実施例1で得られた5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ビス(2-ヒドロキシエチルオキシ)-1,1’-ビナフチルの
13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の新規な環式ジオール化合物は、下記一般式(1)
【化4】
[式中、R
1~R
12は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6~10の芳香族基を示す。また、R
1~R
12のうち、2つの基が互いに結合して2価の基を形成していてもよい。]
で表される、環式ジオール化合物である。
【0013】
一般式(1)において、R1~R12表される置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基のアルキル基としては、特に制限ないが、例えば、直鎖状若しくは分岐鎖状の炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基が挙げられる。このうち好ましくは、メチル基、エチル基、イソブチル基、tert-ブチル基である。
【0014】
一般式(1)において、R1~R12表される置換基を有していてもよい炭素数6~10の芳香族基の芳香族基としては、特に制限ないが、例えば、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,3-キシリル基、2,4-キシリル基、2,5-キシリル基、2,6-キシリル基、3,4-キシリル基、3,5-キシリル基、3,6-キシリル基、4,6-キシリル基、メシチル基、ナフチル基等の芳香族が挙げられる。このうち好ましくは、フェニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基である。
【0015】
また、一般式(1)において、R1~R12のうち、2つの基が互いに結合して2価の基としては、特に制限ないが、例えば、ベンゼン環、テトラリン環等が挙げられる。
【0016】
本発明の新規な環式ジオール化合物は、例えば、下記反応式に示すようにして製造される。
(反応式)
【化5】
上記式(1)~式(3)において、R
1~R
12は、同一又は異なって、それぞれ、水素原子若しくは置換基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基又は置換基を有していてもよい炭素数6~10の芳香族基を示す。また、R
1~R
12のうち、2つの基が互いに結合して2価の基を形成していてもよい。
【0017】
具体的には、本発明の新規な環式ジオール化合物の製造方法は、一般式(2)で表される1,1’-ビ-2-ナフトール誘導体を貴金属触媒存在下で水素化反応して、一般式(3)で表されるオクタヒドロ-2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル誘導体とした後、塩基性化合物の存在下、炭酸エチレンを用いてヒドロキシエチルエーテル化反応させる製造方法である。
【0018】
一般式(2)で表される1,1’-ビ-2-ナフトール誘導体の水素化反応としては、特開2005-126433号公報に記載に準じた方法が挙げられる。
【0019】
また、一般式(3)で表されるオクタヒドロ-2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチル誘導体のヒドロキシエチルエーテル化反応としては、特開2014-227388号公報及び特開2015-168658号公報に記載に準じた方法が挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を掲げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、本実施例において、環式ジオール化合物の各種測定は以下の方法により測定した。また、特に言及していない化合物は試薬を使用した。
【0021】
<使用化合物>
1,1’-ビ-2-ナフトール:東京化成工業株式会社製
【0022】
<ガスクロマトグラフィー(GC)による分析>
脂環式ジオール化合物の純度(GC面積%)はガスクロマトグラフィー(GC)により測定した。
【0023】
[測定条件]
機器:島津製作所製 GC-2014
カラム:アジレント・テクノロジー株式会社製DB-1 30mx0.25mm×0.25μm
カラム温度:100~320℃(昇温速度15℃/min)
インジェクション温度/検出器温度:300℃/325℃
検出器:FID
キャリアガス:ヘリウム
ガス流量:1.13ml/min
試料:1質量%のアセトン溶液
注入量:1μl
【0024】
<赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)>
脂環式ジオール化合物のIRスペクトルは、赤外分光分析装置(株式会社パーキンエルマージャパン製Spectrum400)を用い、ATR法(減衰全反射法)で行った。
【0025】
<プロトン核磁気共鳴スペクトル(1H-NMR)>
脂環式ジオール化合物の1H-NMRは、重クロロホルムに溶かした後、核磁気共鳴装置(Bruker社製DRX-500)を用い、1H-NMR(500MHz)測定で行った。
【0026】
<カーボン核磁気共鳴スペクトル(13C-NMR)>
脂環式ジオール化合物の13C-NMRは、重クロロホルムに溶かした後、核磁気共鳴装置(Bruker社製DRX-500)を用い、13C-NMR(125.8MHz)測定で行った。
【0027】
[実施例1]
500mLの電磁撹拌機付きオートクレーブに、1,1’-ビ-2-ナフトール45.0g(0.16mol)、5%Pd/Al2O33.00g及びエタノール105gを仕込み、撹拌しながら、水素圧力5MPa、反応温度130℃で5時間反応を行った。反応混合物を室温に冷却した後、触媒を濾過除去した。得られた濾液を常圧で室温から徐々に温度を上げてエタノールを留去し、その後、シリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン/ジエチルエーテル=2/1)にて精製し、純度99.6GC面積%の5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチルを得た。
【0028】
攪拌器、窒素吹込管、温度計及び冷却管を備えた300mlのガラス製反応器に、5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ジヒドロキシ-1,1’-ビナフチルを40.0g(0.14mol)、トルエン10.0g(0.109mol)、エチレンカーボネート18.6g(0.211mol)及びトリフェニルホスフィン2.0g(0.008mol)を仕込み、115℃で11時間撹拌し、反応を完結した。反応終了後、反応粗物にトルエン、15質量%水酸化ナトリウム水溶液を加え、85℃で1時間撹拌洗浄後、静置し、下層(水層)を分離した。同様に洗浄操作を2度行い、その後、さらに有機層を3回水洗した。得られた有機層を減圧留去し、粗5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ビス(2-ヒドロキシエチルオキシ)-1,1’-ビナフチルを得た。酢酸エチルを用いて得られた粗物を再結晶精製することにより、純度99.4GC面積%の5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ビス(2-ヒドロキシエチルオキシ)-1,1’-ビナフチルを得た。
【0029】
得られた5,5’,6,6’,7,7’,8,8’-オクタヒドロ-2,2’-ビス(2-ヒドロキシエチルオキシ)-1,1’-ビナフチルについて、IRスペクトル、
1H-NMRスペクトル及び
13C-NMRスペクトルを測定した。
図1~3に示した。なお、
1H-NMRスペクトルの7.25ppm付近のピーク及び
13C-NMRスペクトルの77ppm付近のピークは溶媒の重クロロホルムに由来するピークである。
【0030】
IR(cm-1):3393,2923,2855,1591,1474,1450,1255,1236,1076,1036,953,797
【0031】
1H-NMR(500MHz,ppm):1.70(m,8H),2.16(m,4H),2.32(s,2H),2.76(t,4H),3.61(m,2H),3.67(m,2H),3.93(m,2H),4.08(m,2H),6.79(d,2H),7.04(d,2H)
【0032】
13C-NMR(125.8MHz,ppm):23.0,23.1,27.3,29.3,61.2,70.8,111.4,126.7,128.9,130.9,136.8,152.9
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の新規な環式ジオール化合物は、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂及びポリメタクリル酸エステル樹脂等の樹脂原料や樹脂改質剤として使用することができる。