(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/18 20060101AFI20220126BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20220126BHJP
C08J 9/228 20060101ALI20220126BHJP
B29K 23/00 20060101ALN20220126BHJP
B29K 105/04 20060101ALN20220126BHJP
【FI】
C08J9/18 CES
B29C44/00 G
C08J9/228
B29K23:00
B29K105:04
(21)【出願番号】P 2020041447
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2021-10-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131810
【氏名又は名称】株式会社ジェイエスピー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大井 貴史
(72)【発明者】
【氏名】太田 肇
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-019980(JP,A)
【文献】特開2012-126816(JP,A)
【文献】特開2015-137061(JP,A)
【文献】国際公開第2016/111017(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/060162(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00- 9/42
B29C 44/00-44/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体であって、
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の成形体倍率X[倍]が55倍以上90倍以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の50%圧縮応力σ
50[kPa]と前記成形体倍率Xとの積X・σ
50の値が6500以上であり、
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ
5が5kPa以上25kPa以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【請求項2】
前記50%圧縮応力σ
50に対する前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ
5の比σ
5/σ
50の値が0.20以下である、請求項1に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【請求項3】
前記被覆層に含まれているポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msが250MPa以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の内部の平均気泡径d
iが80μm以上170μm以下であるとともに、前記平均気泡径d
iに対する前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の表層部の平均気泡径d
s[μm]の比d
s/d
iが0.8以上1.2以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体。
【請求項5】
ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、
ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を有し、
嵩倍率が55倍以上90倍以下であり、
前記芯層と前記被覆層との質量比が、前記芯層:前記被覆層=95:5~88:12であり、
前記芯層に含まれているポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率Mcが800MPa以上1200MPa以下であり、
前記被覆層に含まれているポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msが250MPa以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項6】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子全体の平均気泡径Dが80μm以上170μm以下である、請求項5に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項7】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子全体の平均気泡径Dに対する前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の表層部の平均気泡径Ds[μm]の比Ds/Dが0.80以上1.20以下である、請求項5または6に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項8】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の独立気泡率が85%以上である、請求項5~7のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項9】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の平均粒径が2mm以上8mm以下であり、粒径の変動係数が3%以上15%以下である、請求項5~8のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項10】
前記芯層に含まれているポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率Mcに対する前記被覆層に含まれているポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msの比Ms/Mcが0.05以上0.20以下である、請求項5~9のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項11】
前記被覆層に含まれているポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msが200MPa以下であり、かつ、融点が120℃以下である、請求項5~10のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項12】
前記被覆層に含まれているポリエチレン系樹脂の温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイトが6g/10分以上18g/10分以下である、請求項5~11のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項13】
前記芯層に含まれているポリプロピレン系樹脂の融点が135℃以上150℃以下である、請求項5~12のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項14】
前記芯層に含まれているポリプロピレン系樹脂の温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレイトが6g/10分以上10g/10分以下であり、かつ、多分散度Mw/Mnが4以上25以下である、請求項5~13のいずれか1項に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子。
【請求項15】
曲げ弾性率Mcが800MPa以上1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂が含まれている未発泡状態の芯層と、曲げ弾性率Msが250MPa以下のポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を備え、前記芯層と前記被覆層との質量比が、芯層:被覆層=95:5~88:12であるポリプロピレン系樹脂粒子を造粒する造粒工程と、
密閉容器中において分散媒に分散させた前記ポリプロピレン系樹脂粒子に無機系物理発泡剤を含浸させ、次いで、前記ポリプロピレン系樹脂粒子と前記分散媒とを前記密閉容器から前記密閉容器内よりも低圧下に放出することにより、前記ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、前記ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層とを備えた一段発泡粒子を得る一段発泡工程と、
耐圧容器内において前記一段発泡粒子に無機系ガスを含浸させることにより前記一段発泡粒子の気泡内の圧力を上昇させ、次いで、前記耐圧容器から取り出した前記一段発泡粒子を前記気泡内の圧力よりも低圧下で加熱することにより、前記一段発泡粒子をさらに発泡させて嵩倍率(II)が55倍以上90倍以下のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得る二段発泡工程と、を有する、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項16】
前記一段発泡工程において、前記ポリプロピレン系樹脂粒子に前記無機系物理発泡剤としての二酸化炭素を含浸させる、請求項15に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【請求項17】
前記一段発泡工程において、嵩倍率(I)が25倍以上38倍以下の前記一段発泡粒子を作製し、前記二段発泡工程において、前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩倍率(I)に対する前記嵩倍率(II)の比(II)/(I)の値が1.8以上3.0以下となるように前記一段発泡粒子を発泡させる、請求項15または16に記載のポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発泡粒子を型内成形してなる発泡粒子成形体は、被包装物を保護するための緩衝材や包装材として好適に使用されている。この種の発泡粒子成形体には、例えば、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子からなる発泡粒子成形体が用いられている(例えば、特許文献1)。また、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体よりもさらに被包装物の保護性に優れた発泡粒子成形体として、ポリエチレン系樹脂発泡粒子からなる発泡粒子成形体が用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、被包装物を保護するための緩衝材や包装材としてポリエチレン系樹脂発泡粒子成形体を使用する場合、緩衝材等に求められる剛性を実現しようとすると単位体積当たりの質量が大きくなりやすい。また、この場合、剛性が不十分となりやすく、発泡粒子成形体が自重により撓みやすい、被包装物の質量によって発泡粒子成形体が変形しやすいなどの問題が生じることがあった。
【0005】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、被包装物の保護性及び剛性に優れ、単位体積当たりの質量が小さいポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体、この発泡粒子成形体を形成可能なポリプロピレン系樹脂発泡粒子及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体であって、
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の成形体倍率X[倍]が55倍以上90倍以下であり、
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の50%圧縮応力σ50[kPa]と前記成形体倍率Xとの積X・σ50の値が6500以上であり、
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ5が5kPa以上25kPa以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体にある。
【0007】
本発明の他の態様は、ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、
ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を有し、
嵩倍率が55倍以上90倍以下であり、
前記芯層と前記被覆層との質量比が、前記芯層:前記被覆層=95:5~88:12であり、
前記芯層に含まれているポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率Mcが800MPa以上1200MPa以下であり、
前記被覆層に含まれているポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msが250MPa以下である、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子にある。
【0008】
本発明のさらに他の態様は、曲げ弾性率Mcが800MPa以上1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂が含まれている未発泡状態の芯層と、曲げ弾性率Msが250MPa以下のポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を備え、前記芯層と前記被覆層との質量比が、芯層:被覆層=95:5~88:12であるポリプロピレン系樹脂粒子を造粒する造粒工程と、
密閉容器中において分散媒に分散させた前記ポリプロピレン系樹脂粒子に無機系物理発泡剤を含浸させ、次いで、前記ポリプロピレン系樹脂粒子と前記分散媒とを前記密閉容器から前記密閉容器内よりも低圧下に放出することにより、前記ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、前記ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層とを備えた一段発泡粒子を得る一段発泡工程と、
耐圧容器内において前記一段発泡粒子に無機系ガスを含浸させることにより前記一段発泡粒子の気泡内の圧力を上昇させ、次いで、前記耐圧容器から取り出した前記一段発泡粒子を前記気泡内の圧力よりも低圧下で加熱することにより、前記一段発泡粒子をさらに発泡させて嵩倍率(II)が55倍以上90倍以下のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得る二段発泡工程と、を有する、ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体(以下、「発泡粒子成形体」と省略することがある。)は、ポリプロピレン系樹脂が含まれており発泡状態の芯層と、ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子(以下、「発泡粒子」と省略することがある。)から構成されている。前記発泡粒子成形体は、ポリプロピレン系樹脂を含む前記芯層を備えているため、剛性を確保しつつ成形体倍率Xを高くすることができる。それ故、前記発泡粒子成形体は、高い剛性と、軽量性とを容易に兼ね備えることができる。
【0010】
また、前記発泡粒子成形体は、成形体倍率Xと、50%圧縮応力σ50との積が前記特定の関係を満たすとともに、5%圧縮応力σ5の値が前記特定の範囲内にある。かかる物性を備えたポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は、高い剛性を備え、かつ、被包装物の保護性に優れている。
【0011】
以上のように、前記の態様によれば、被包装物の保護性及び剛性に優れ、単位体積当たりの質量が小さいポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、高温ピークの面積の算出方法を示す説明図である。
【
図2】
図2は、発泡粒子Aの切断面の拡大写真である。
【
図3】
図3は、発泡粒子Eの切断面の拡大写真である。
【
図4】
図4は、発泡粒子Hの切断面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(発泡粒子成形体)
前記発泡粒子成形体は、ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を有するポリプロピレン系樹脂発泡粒子から構成されている。
【0014】
<発泡粒子>
発泡粒子の被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂は、250MPa以下の曲げ弾性率Msを有していることが好ましい。かかるポリエチレン系樹脂を被覆層に採用することにより、発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ5をより小さくするとともに、発泡粒子成形体のスキン面、つまり、型内成形の際に金型の内表面に接触していた面に、被包装物に対してより優しい質感を付与することができる。その結果、前記発泡粒子成形体の保護性をより向上させることができる。
【0015】
発泡粒子の芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂は、800MPa以上1200MPa以下の曲げ弾性率Mcを有していることが好ましい。かかるポリプロピレン系樹脂を芯層に採用することにより、発泡粒子成形体の剛性を維持しつつ、成形体倍率Xを大きくすることができる。
【0016】
なお、発泡粒子成形体に用いられる発泡粒子のより具体的な構成については、後述する。
【0017】
<成形体倍率、50%圧縮応力及び5%圧縮応力>
前記発泡粒子成形体の成形体倍率X[倍]は55倍以上90倍以下であり、50%圧縮応力σ50[kPa]と成形体倍率Xとの積X・σ50の値は6500以上であり、5%圧縮応力σ5は5kPa以上25kPa以下である。前記発泡粒子成形体は、成形体倍率X、50%圧縮応力σ50及び5%圧縮応力σ5の3つの物性値が前記の関係を満たしていることにより、優れた保護性を備え、高い剛性と軽量性とを兼ね備えることができる。
【0018】
発泡粒子成形体の成形体倍率Xが小さすぎる場合には、発泡粒子成形体の単位体積当たりの質量が大きくなりやすい。この場合には、発泡粒子成形体の自重によって、発泡粒子成形体が撓みやすくなるおそれがある。また、被包装物に対する保護性の悪化を招くおそれがある。
【0019】
発泡粒子成形体の成形体倍率Xは、58倍以上であることが好ましく、60倍以上であることがより好ましく、62倍以上であることがさらに好ましく、65倍以上であることが特に好ましい。この場合には、発泡粒子成形体の剛性を確保しつつ、被包装物に対する保護性をより向上させることができる。また、発泡粒子成形体の単位体積当たりの質量をより低減することができる。発泡粒子成形体の剛性をより向上させる観点からは、発泡粒子成形体の成形体倍率Xは85倍以下であることが好ましく、80倍以下であることがより好ましい。
【0020】
なお、前述した発泡粒子成形体の成形体倍率X[倍]は、前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の密度[kg/m3]を発泡粒子成形体の成形体密度ρ(D)[kg/m3]で除した値である。前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の密度は、例えば、JIS K7112:1999に記載された方法により求めることができる。なお、芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の密度は、概ね890kg/m3以上910kg/m3以下である。
【0021】
発泡粒子成形体の成形体密度ρ(D)は、以下の方法により算出される値である。まず、発泡粒子成形体の中心部付近から測定試料を採取する。この測定試料の質量を、寸法に基づいて算出される測定試料の体積で除した値を発泡粒子成形体の成形体密度ρ(D)とする。なお、前述した発泡粒子成形体の中心部とは、発泡粒子成形体に存在するすべてのスキン面から最も離れている部分をいう。発泡粒子成形体の型内成形においては、スキン面の近傍に存在する発泡粒子の二次発泡が金型によって規制される。発泡粒子成形体の中心部付近から測定試料を採取することにより、スキン面の近傍部分が成形体倍率の測定に影響を及ぼすことを回避することができる。
【0022】
50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値は、発泡粒子成形体の軽量性と剛性とのバランスに関連する指標である。発泡粒子成形体の剛性は、50%圧縮応力σ50が大きいほど高くなる傾向がある。また、発泡粒子成形体の単位体積当たりの質量は、発泡粒子成形体の成形体倍率Xが大きいほど小さくなる。発泡粒子成形体の50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値が6500以上であることにより、発泡粒子成形体の剛性と軽量性とをバランスよく向上させることができる。そして、かかる発泡粒子成形体によれば、自重による撓みを小さくすることができるとともに、被包装物の質量が比較的大きい場合であっても、被包装物による発泡粒子成形体の変形や破損を抑制することができる。
【0023】
50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値が小さい発泡粒子成形体においては、50%圧縮応力σ50及び成形体倍率Xの少なくとも一方が小さくなる。従って、この場合には、発泡粒子成形体の単位体積当たりの質量が大きくなる、あるいは、発泡粒子成形体の剛性が低くなるなどの問題が生じやすくなるおそれがある。
【0024】
剛性及び軽量性をより向上させる観点からは、50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値は、7000以上であることが好ましく、7500以上であることがより好ましい。なお、上記の観点からは50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値に上限はないが、前記発泡粒子成形体の構成上、50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値は、通常、9000以下となる。
【0025】
発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ5は、5kPa以上25kPa以下である。5%圧縮応力σ5を前記特定の範囲とすることにより、被包装物に対する保護性を高めることができる。また、この場合には、発泡粒子成形体の復元性を高め、表面が圧縮された場合に、発泡粒子成形体の表面の形状を圧縮前の形状に復元しやすくすることができる。5%圧縮応力σ5が高すぎると、被包装物に対する保護性が損なわれるおそれがある。また、5%圧縮応力σ5が低すぎると、発泡粒子成形体の表面が柔らかくなりすぎ、破れ等が生じやすくなるおそれがある。これらの問題をより確実に回避するとともに、発泡粒子成形体の保護性及び復元性をより高める観点から、5%圧縮応力σ5は15kPa以上24kPa以下であることが好ましい。
【0026】
従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体は5%圧縮応力σ5の値が大きくなりやすいため、用途によっては保護性に劣る場合があった。また、5%圧縮応力σ5の値を小さくしようとして単に成形体倍率Xを高めた場合には、50%圧縮応力σ50の値が小さくなりやすく、発泡粒子成形体の剛性を維持できないおそれがあった。
【0027】
これに対し、前記発泡粒子成形体は、50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値を6500以上として発泡粒子成形体の剛性を維持しつつ、従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体に比べて5%圧縮応力σ5の値を小さくすることができる。そのため、前記発泡粒子成形体は、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡粒子から構成されているにもかかわらず、表面を軟らかくすることができ、被包装物に衝撃が加わった場合などに、発泡粒子成形体の表面が被包装物に追従して変形しやすくなる。その結果、ポリエチレン系樹脂発泡粒子成形体と同等以上の優れた保護性を実現することができる。
【0028】
前記発泡粒子成形体における50%圧縮応力σ50に対する5%圧縮応力σ5[kPa]の比σ5/σ50の値は0.20以下であることが好ましく、0.19以下であることがより好ましい。50%圧縮応力σ50に対する5%圧縮応力σ5の比σ5/σ50の値は、被包装物の保護性と剛性とのバランスに関連する指標である。前記発泡粒子成形体は、従来のポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体に比べてσ5/σ50の値を小さくすることができる。そのため、前記発泡粒子成形体は、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡粒子から構成されているにもかかわらず、表面をより軟らかくすることができ、被包装物に衝撃が加わった場合などに、発泡粒子成形体の表面が被包装物に追従して変形しやすくなる。
【0029】
さらに、前記発泡粒子成形体は、5%圧縮応力σ5に比べて50%圧縮応力σ50が十分に大きいため、表面をより柔軟にしつつ、発泡粒子成形体の剛性をより高めることができる。従って、前記発泡粒子成形体は、剛性に優れるとともに、ポリエチレン系樹脂発泡粒子成形体と同等以上の優れた保護性をより確実に実現することができる。
【0030】
高い剛性と優れた保護性とを両立させる観点からは50%圧縮応力σ50に対する5%圧縮応力σ5の比σ5/σ50の値に下限はないが、前記発泡粒子成形体の構成上、50%圧縮応力σ50に対する5%圧縮応力σ5の比σ5/σ50の値は、通常、0.15以上となる。
【0031】
発泡粒子成形体の50%圧縮応力σ5は、80kPa以上150kPa以下であることが好ましく、100kPa以上140kPa以下であることがより好ましい。この場合には、被包装物に対する保護性を確保しつつ、緩衝材や包装材として使用する際に好適な剛性をより確実に実現することができる。
【0032】
なお、発泡粒子成形体の50%圧縮応力σ50及び5%圧縮応力σ5の値は、JIS K6767:1999に規定された方法により測定することができる。
【0033】
また、発泡粒子成形体の成形体密度ρ(D)に対する表層部の見掛け密度ρ(E)の比ρ(E)/ρ(D)は1.1以上1.6以下であることが好ましく、1.2以上1.5以下であることがより好ましい。この場合には、緩衝材や包装材として使用する際の被包装物に対する保護性をより向上させることができる。
【0034】
本明細書において、発泡粒子成形体の表層部とは、発泡粒子成形体のスキン面と、スキン面からの深さが3mmとなる面との間の領域をいう。発泡粒子成形体の表層部の見掛け密度ρ(E)は、次の方法により求めることができる。まず、発泡粒子成形体を、スキン面からの深さが3mmとなる面で切断し、表層部を採取する。次に、表層部を適当な大きさに切り分け、厚み方向における一方面がスキン面である小片を採取する。この小片を温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に1日静置した後、小片の質量を測定する。この小片の質量を、小片の外径寸法に基づいて算出した体積で除すことにより表層部の見掛け密度ρ(E)[kg/m3]を求めることができる。
【0035】
前記発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diは、80μm以上170μm以下であることが好ましい。発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diを前記特定の範囲とすることにより、発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ5をより容易に小さくすることができる。その結果、発泡粒子成形体の保護性をより向上させることができる。また、発泡粒子成形体をスライスして使用する場合にも、所望の物性をより確実に発揮させることができる。発泡粒子成形体の保護性をより向上させる観点からは、発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diは、100μm以上165μm以下であることがより好ましく、120μm以上160μm以下であることがさらに好ましく、130μm以上150μm以下であることが特に好ましい。
【0036】
発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diは、以下の方法により算出される値である。まず、発泡粒子成形体の中心部付近から、スキン面を有さない直方体小片を切り出す。
【0037】
走査型電子顕微鏡を用い、この小片における厚み方向に平行な表面の拡大写真を取得する。この際、拡大写真中に気泡が20個以上存在するように拡大写真を得る。得られた拡大写真上に厚み方向の中央を通る線分を引き、線分と交差する気泡の数を数える。そして、前述した線分の長さを線分と交差する気泡の数で除した値を、発泡粒子成形体の内部における平均気泡径di[μm]とする。
【0038】
前記発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diに対する前記発泡粒子成形体の表層部の平均気泡径ds[μm]の比ds/diは、0.80以上1.20以下であることが好ましい。このように、発泡粒子成形体の表層部の平均気泡径dsと発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diとの差を小さくすることにより、発泡粒子成形体が圧縮されたときに、発泡粒子成形体の表層部における気泡の潰れ方を内部における気泡の潰れ方により近づけることができる。これにより、発泡粒子成形体の物性のバラつきをより低減し、ひいては発泡粒子成形体の保護性をより向上させることができる。
【0039】
前述の作用効果をより確実に奏する観点からは、発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diに対する表層部の平均気泡径ds[μm]の比ds/diは0.85以上1.18以下であることがより好ましく、0.90以上1.15以下であることがさらに好ましく、1.00以上1.12以下であることが特に好ましい。
【0040】
発泡粒子成形体の表層部の平均気泡径dsは、以下の方法により算出される値である。まず、発泡粒子成形体の表層部から、略立方体の小片を採取する。走査型電子顕微鏡を用い、この小片における、厚み方向に平行な表面の拡大写真を取得する。この際、拡大写真中に気泡が20個以上存在するように拡大写真を得る。得られた拡大写真上に、スキン面からの深さ(つまり、厚み方向における距離)が50μmとなるようにしてスキン面と平行な線分を引き、線分と交差する気泡の数を数える。そして、前述した線分の長さを線分と交差する気泡の数で除した値を、発泡粒子成形体の表層部における平均気泡径ds[μm]とする。
【0041】
発泡粒子成形体の表層部における平均気泡径dsは、80μm以上200μm以下であることが好ましく、110μm以上180μm以下であることがより好ましく、140μm以上160μm以下であることがさらに好ましい。この場合には、発泡粒子成形体の表面が圧縮された際の形状の復元性をより高くすることができ、被包装物に対する保護性をより向上させることができる。
【0042】
(発泡粒子成形体の製造方法)
前記発泡粒子成形体は、例えば次のようにして製造される。まず、所望する成形体の形状に対応したキャビティを有する金型内に発泡粒子を充填し、スチームなどの加熱媒体により金型内で多数の発泡粒子を加熱する。キャビティ内の発泡粒子は、加熱によってさらに発泡すると共に、相互に融着する。これにより、多数の発泡粒子が一体化し、キャビティの形状に応じた発泡粒子成形体が得られる。
【0043】
(発泡粒子)
前記発泡粒子成形体を形成するために用いられるポリプロピレン系樹脂発泡粒子は、以下の構成を有していてもよい。すなわち、前記発泡粒子は、
ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、
ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を有し、
嵩倍率が55倍以上90倍以下であり、
前記芯層と前記被覆層との質量比が、前記芯層:前記被覆層=95:5~88:12であり、
前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率Mcが800MPa以上1200MPa以下であり、
前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msが250MPa以下である。
【0044】
前記の構成を備えた発泡粒子を型内成形することにより、前記発泡粒子成形体を容易に得ることができる。
【0045】
<芯層>
前記発泡粒子の芯層は、ポリプロピレン系樹脂を含む発泡体から構成されている。本明細書において、ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレンに由来する構造単位を50質量%以上含むプロピレン系共重合体をいう。芯層には、プロピレン単量体の単独重合体及びプロピレン系共重合体からなる群より選択される1種のポリプロピレン系樹脂が含まれていてもよいし、2種以上のポリプロピレン系樹脂が含まれていてもよい。
【0046】
プロピレン単量体の単独重合体としては、例えば、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレンを使用することができる。
【0047】
プロピレン系共重合体としては、例えば、プロピレンと、エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、3-メチル-1-ヘキセンなどの炭素数4~10のα-オレフィンとの共重合体や、プロピレン-アクリル酸共重合体、プロピレン-無水マレイン酸共重合体等を使用することができる。これらの共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。また、共重合体は、二元系共重合体であってもよいし、三元系あるいはそれ以上の多元系共重合体であってもよい。前記共重合体中におけるプロピレンに由来する構造単位以外の構造単位の含有量は、25質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることが更に好ましい。
【0048】
芯層には、気泡調整剤、触媒中和剤、滑剤、結晶核剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。芯層中の添加剤の含有量は、例えば、芯層の全質量に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
【0049】
芯層中に帯電防止剤を添加することにより、発泡粒子の内部に帯電防止効果を付与することができる。そのため、かかる発泡粒子によれば、例えば、型内成形後に切断して使用する場合にも、発泡粒子成形体全体が帯電防止効果を備えた発泡粒子成形体を得ることができる。
【0050】
また、芯層には、ポリプロピレン系樹脂の他に、本発明の目的及び作用効果を損なわない範囲で他の樹脂やエラストマー等のポリプロピレン系樹脂以外の材料が含まれていてもよい。ポリプロピレン系樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が例示される。また、ポリプロピレン系樹脂以外のエラストマーとしては、オレフィン系熱可塑エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等が例示される。芯層中におけるポリプロピレン系樹脂以外の樹脂やエラストマー等の含有量は、芯層の全質量に対して20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%、つまり、芯層がポリプロピレン系樹脂以外の樹脂やエラストマー等を含有しないことが特に好ましい。
【0051】
発泡粒子の芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂は、800MPa以上1200MPa以下の曲げ弾性率Mcを有している。かかる発泡粒子を型内成形することにより、発泡粒子成形体の剛性を確保しつつ成形体倍率をより高くすることができ、軽量かつ剛性に優れた発泡粒子成形体を容易に得ることができる。なお、ポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に記載の測定法に準拠して測定することにより求めることができる。
【0052】
前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の融点は135℃以上150℃以下であることが好ましい。この場合には、前記発泡粒子の嵩密度をより容易に低くすることができる。また、この場合には、前記発泡粒子を型内成形して得られる発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ5をより小さくすることができる。
【0053】
前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の融点は、JIS K7121:1987に記載された熱流束示差走査熱量測定法により測定することができる。具体的には、まず、ポリプロピレン系樹脂からなる試験片の状態調節を行う。その後、10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温し、次いで10℃/分の冷却速度で23℃まで降温する。その後、再び10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温した際に得られるDSC曲線により定まる吸熱ピークの頂点温度を芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の融点とすることができる。なお、DSC曲線に複数の吸熱ピークが現れている場合には、最も面積の大きな吸熱ピークの頂点温度を融点とする。試験片は、発泡粒子の表面から被覆層を除去することにより芯層を露出させ、芯層から直接採取してもよい。
【0054】
前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂のメルトフローレイト(以下、「MFR」という。)は2g/10分以上18g/10分以下であることが好ましく、4g/10分以上12g/10分以上であることがより好ましく、6g/10分以上10g/10分以下であることがさらに好ましい。この場合には、前記発泡粒子の製造過程及び型内成形時における発泡性をより向上させることができる。また、この場合には、発泡粒子の嵩密度をより容易に低くするとともに、発泡粒子の製造過程において、嵩密度の制御をより容易に行うことができる。
【0055】
前述したポリプロピレン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0056】
また、前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の多分散度Mw/Mnは4.0以上25以下であることが好ましく、4.1以上10以下であることがより好ましい。この場合には、前記発泡粒子の製造過程及び型内成形時における発泡性をより向上させることができる。また、この場合には、発泡粒子の嵩密度をより容易に低くするとともに、発泡粒子の製造過程において、嵩密度の制御をより容易に行うことができる。さらに、発泡粒子の成形性をより向上させることができる。
【0057】
ポリプロピレン系樹脂の多分散度Mw/Mnは、ポリスチレンを標準物質とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により測定された重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した値である。
【0058】
前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂は、チーグラー・ナッタ系重合触媒の存在下で重合して得られたポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。チーグラー・ナッタ系重合触媒を用いて製造されたポリプロピレン系樹脂は、メタロセン触媒を用いて製造されたポリプロピレン系樹脂と比較して分子量分布が広くなる傾向がある。そのため、チーグラー・ナッタ系重合触媒を用いて製造されたポリプロピレン系樹脂の多分散度Mw/Mnは前記範囲内に入りやすい。それ故、この場合には、前記発泡粒子の製造過程及び型内成形時における発泡性をより向上させることができる。
【0059】
前記発泡粒子の製造過程及び型内成形時における発泡性をより向上させる観点からは、芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂のMFRは6g/10分以上10g/10分以下であり、かつ、多分散度Mw/Mnは4以上25以下であることがより好ましい。
【0060】
<被覆層>
前記芯層の表面は、ポリエチレン系樹脂を含む被覆層により覆われている。被覆層は、芯層全体を被覆していてもよいし、芯層の一部を被覆していてもよい。また、被覆層は発泡状態であってもよいし、非発泡状態であってもよい。発泡粒子の融着性をより確実に向上させる観点からは被覆層は非発泡状態であることが好ましい。
【0061】
被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂としては、種々の重合触媒を用いて重合したポリエチレン系樹脂を用いることができる。被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂は、メタロセン系重合触媒の存在下で重合して得られたポリエチレン系樹脂であることが好ましい。かかるポリエチレン系樹脂は、融点が低く、融着性により優れているため、発泡粒子の融着性をより向上させることができる。
【0062】
本明細書において、ポリエチレン系樹脂とは、エチレン単量体の単独重合体及びエチレン単量体に由来する構造単位を50質量%以上含むエチレン系共重合体をいう。被覆層には、エチレン単量体の単独重合体及びエチレン系共重合体からなる群より選択される1種のポリエチレン系樹脂が含まれていてもよいし、2種以上のポリエチレン系樹脂が含まれていてもよい。
【0063】
ポリエチレン系樹脂としては、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸アルキルエステル共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体等を使用することができる。
【0064】
被覆層には、ポリエチレン系樹脂としての直鎖状低密度ポリエチレンが含まれていることが好ましい。この場合には、発泡粒子成形体のスキン面に被包装物に対してより優しい質感を付与することができる。その結果、前記発泡粒子成形体の保護性をより向上させることができる。かかる作用効果をより高める観点から、ポリエチレン系樹脂中の直鎖状低密度ポリエチレンの比率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%、つまり、ポリエチレン系樹脂が直鎖状低密度ポリエチレンから構成されていることが特に好ましい。
【0065】
なお、前述した直鎖状低密度ポリエチレンとは、直鎖状を呈する、エチレンとα-オレフィンとの共重合体をいう。具体的には、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体、エチレン-オクテン共重合体等が好ましく例示される。
【0066】
被覆層には、触媒中和剤、滑剤、結晶核剤、帯電防止剤等の添加剤が含まれていてもよい。被覆層中の添加剤の含有量は、被覆層の全質量に対して15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。特に、被包装物に対してより優しい質感を付与する観点からは、被覆層中の高分子型帯電防止剤の含有量は、被覆層の全質量に対して5質量%以下であることが好ましい。
【0067】
また、被覆層には、ポリエチレン系樹脂の他に、本発明の目的及び作用効果を損なわない範囲で他の樹脂やエラストマー等のポリエチレン系樹脂以外の材料が含まれていてもよい。ポリエチレン系樹脂以外の樹脂としては、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の熱可塑性樹脂が例示される。また、ポリエチレン系樹脂以外のエラストマーとしては、オレフィン系熱可塑エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー等が例示される。被覆層中におけるポリエチレン系樹脂以外の樹脂やエラストマー等の含有量は、被覆層の全質量に対して20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、0質量%、つまり、被覆層がポリエチレン系樹脂以外の樹脂やエラストマー等を含有しないことがさらに好ましい。
【0068】
前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msは、250MPa以下である。かかる発泡粒子を型内成形することにより、成形体倍率Xと50%圧縮応力σ50との積X・σ50及び5%圧縮応力σ5の値が前記特定の範囲内である発泡粒子成形体を容易に得ることができる。また、得られる発泡粒子成形体のスキン面に、被包装物に対してより優しい質感を付与し、発泡粒子成形体の保護性をより高めることができる。
【0069】
これらの作用効果をより確実に奏する観点から、前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msは、200MPa以下であることが好ましく、150MPa以下であることがさらに好ましい。被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msの下限は特に制限はないが、概ね80MPa以上である。なお、ポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率は、JIS K7171:2008に記載の測定法に準拠して測定することにより求めることができる。
【0070】
また、前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の曲げ弾性率Mcに対する前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msの比Ms/Mcは、0.05以上0.20以下であることが好ましく、0.08以上0.15以下であることがより好ましい。この場合には、発泡粒子成形体の剛性を十分に確保しつつ、被包装物に対する保護性をより確実に向上させることができる。
【0071】
前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の融点は前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の融点よりも低いことが好ましい。この場合には、発泡粒子の型内成形性をより向上させることができる。かかる作用効果をより確実に奏する観点からは、前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の融点から前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の融点を差し引いた値は、5℃以上であることがより好ましく、10℃以上であることがさらに好ましい。
【0072】
前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の融点は120℃以下であることが好ましく、115℃以下であることがより好ましく、110℃以下であることがさらに好ましい。ポリエチレン系樹脂の融点を120℃以下とすることにより、発泡粒子の型内成形性をより向上させることができる。そして、かかる発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、型内成形時の成形圧をより低くすることができる。その結果、発泡粒子成形体の表面に存在する気泡がつぶれることをより効果的に抑制し、被包装物に対する保護性をより向上させることができる。また、被包装物に対してより優しい質感を有する発泡粒子成形体をより容易に得ることができる。
【0073】
前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂の融点は、前述した芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂と同様の方法により測定することができる。なお、試験片としては、ポリエチレン系樹脂からなる小片を用いてもよいし、発泡粒子の表面から採取した、主として被覆層を含む小片を用いてもよい。
【0074】
発泡粒子の成形性、及び得られる発泡粒子成形体の保護性をより向上させる観点からは、前記被覆層に含まれているポリエチレン系樹脂の曲げ弾性率Msが200MPa以下であり、かつ、融点が120℃以下であることが好ましい。
【0075】
前記被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂のメルトフローレイト(MFR)は6g/10分以上18g/10分以下であることが好ましく、8g/10分以上15g/10分以下であることがより好ましい。被覆層に含まれるポリエチレン系樹脂のMFRが上記範囲内であると、被覆層によって芯層をより均一に被覆することができる。その結果、得られる発泡粒子成形体の全面において、保護性をより確実に向上させることができる。
【0076】
前述したポリエチレン系樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される値である。
【0077】
<発泡粒子の嵩倍率>
前記発泡粒子の嵩倍率は、55倍以上90倍以下である。発泡粒子の嵩倍率を前記特定の範囲とすることにより、発泡粒子を型内成形してなる発泡成形体の成形体倍率Xを容易に所望の範囲とすることができる。その結果、剛性及び保護性に優れ、単位体積当たりの質量が小さい発泡粒子成形体を容易に得ることができる。優れた剛性を確保しつつ、被包装物に対する保護性をより向上させるとともに発泡粒子成形体の単位体積当たりの質量をより低減する観点からは、発泡粒子の嵩倍率は58倍以上であることが好ましく、60倍以上であることがより好ましく、62倍以上であることがさらに好ましく、65倍以上であることが特に好ましい。発泡粒子成形体の剛性をより向上させる観点からは、発泡粒子の嵩倍率は85倍以下であることが好ましく、80倍以下であることがより好ましい。
【0078】
発泡粒子の嵩倍率が前記特定の範囲よりも小さい場合には、得られる発泡粒子成形体の成形体倍率Xが小さくなりやすい。そのため、発泡粒子成形体の軽量性が損なわれやすくなるおそれがある。また、被包装物に対する保護性の悪化を招くおそれがある。発泡粒子の嵩倍率が前記特定の範囲よりも大きい場合には、得られる発泡粒子成形体の剛性の低下を招くおそれがある。
【0079】
前述した発泡粒子の嵩倍率は、以下の方法により算出される値である。まず、十分に乾燥させた発泡粒子を、容積1Lのメスフラスコ内に自然に堆積するようにして標線まで充填する。このメスフラスコ内の発泡粒子の質量を測定し、単位換算して発泡粒子の嵩密度[kg/m3]を求める。次に、前記芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の密度[kg/m3]を前記発泡粒子の嵩密度[kg/m3]で除すことにより発泡粒子の嵩倍率を求めることができる。
【0080】
<芯層と被覆層との比率>
発泡粒子における芯層と被覆層との質量比は、芯層:被覆層=95:5~88:12の範囲内である。芯層と被覆層との質量比を前記特定の範囲とすることにより、発泡粒子成形体の保護性を向上させることができる。被覆層の質量比が前記特定の範囲よりも小さい場合には、発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ5が高くなりやすく、被包装物に対する保護性が低下するおそれがある。被覆層の質量比が前記特定の範囲よりも大きい場合には、発泡粒子の嵩倍率を高くすることが難しくなり、軽量性が損なわれるとともに、発泡粒子成形体の5%圧縮応力σ5の上昇を招くおそれがある。前述した作用効果をより確実に奏する観点からは、芯層と被覆層との質量比は、芯層:被覆層=93:7~89:11であることがより好ましい。
【0081】
<発泡粒子の平均粒径及び粒径の変動係数>
前記発泡粒子の平均粒径は2mm以上8mm以下であり、粒径の変動係数は3%以上15%以下であることが好ましい。このように、粒度分布が狭く、粒径のバラつきの小さい発泡粒子を用いて型内成形を行うことにより、発泡粒子成形体の物性のバラつきをより低減することができる。その結果、発泡粒子成形体全体において、より確実に所望の剛性と保護性とを発揮させることができる。
【0082】
発泡粒子の平均粒径は、発泡粒子の体積基準の粒度分布に基づいて算出されるメジアン径(つまり、累積50%粒径d50)の値である。また、粒径の変動係数は、前述した平均粒径を、体積基準の粒度分布に基づいて算出した標準偏差で除した値である。
【0083】
平均粒径及び粒径の変動係数を算出するにあたっては、測定に用いる発泡粒子の数を多くするほど、より正確な平均粒径及び粒径の変動係数の値を算出することができる。測定に用いる発泡粒子の数は、例えば、100個以上であればよい。また、粒子径基準における発泡粒子の粒度分布は、粒度分布測定装置(例えば、日機装株式会社製「ミリトラック JPA」)などを用いて測定することができる。
【0084】
発泡粒子の1個当たりの平均質量は、型内成形における金型への充填性と発泡粒子間の融着性等をより良好にする観点から、0.05mg以上10mg以下であることが好ましく、0.1mg以上5mg以下であることがより好ましく、0.5mg以上3mg以下であることがさらに好ましい。発泡粒子の1個当たりの平均質量は、後述の造粒工程において、樹脂粒子の質量を適宜調整することにより制御することができる。
【0085】
<発泡粒子全体の平均気泡径>
前記発泡粒子全体の平均気泡径Dは、80μm以上180μm以下であることが好ましく、100μm以上170μm以下であることがより好ましく、120μm以上160μm以下であることがさらに好ましく、130μm以上150μm以下であることが特に好ましい。発泡粒子全体の平均気泡径Dを前記特定の範囲とすることにより、発泡粒子成形体の剛性を高めることができる。また、5%圧縮応力σ5をより容易に小さくすることができ、発泡粒子成形体の保護性をより向上させることができる。
【0086】
発泡粒子全体の平均気泡径Dは、以下の方法により算出される値である。まず、発泡粒子を概ね2等分となるように分割する。走査型電子顕微鏡を用い、分割により露出した切断面が視野内に全て納まるように拡大写真を取得する。得られた拡大写真上に、発泡粒子の最表面から中央部を通って反対側の最表面まで、4本の線分を隣り合う線分同士のなす角度が等しくなるように引く。すなわち、隣り合う線分同士のなす角度は45°となる。
【0087】
このようにして得られた4本の線分の長さの合計を、線分と交差する気泡の総数で除することにより、個々の発泡粒子における発泡粒子全体の気泡径を算出する。以上の操作を無作為に抽出した10個の発泡粒子に対して行い、それぞれの発泡粒子について得られた発泡粒子全体の気泡径を相加平均した値を、発泡粒子の平均気泡径Dとする。
【0088】
<発泡粒子の表層部の平均気泡径>
前記発泡粒子全体の平均気泡径Dに対する前記発泡粒子の表層部の平均気泡径Ds[μm]の比Ds/Dは、0.80以上1.20以下であることが好ましい。このように、発泡粒子の表層部の平均気泡径Dsと発泡粒子全体の平均気泡径Dとの差を小さくすることにより、型内成形時の二次発泡に伴う気泡の成長がより均一となり、発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diに対する表層部の平均気泡径dsの比ds/diが前述した好ましい範囲内である発泡粒子成形体をより容易に得ることができる。その結果、発泡粒子成形体の物性のバラつきをより低減し、ひいては発泡粒子成形体の保護性をより向上させることができる。
【0089】
前述の作用効果をより確実に奏する観点からは、発泡粒子全体の平均気泡径Dに対する発泡粒子の表層部の平均気泡径Ds[μm]の比Ds/Dは、0.87以上1.10以下であることがより好ましく、0.85以上1.18以下であることがさらに好ましく、0.88以上1.05以下であることが特に好ましい。
【0090】
発泡粒子の表層部における平均気泡径Dsは、80μm以上180μm以下であることが好ましく、110μm以上170μm以下であることがより好ましく、120μm以上160μm以下であることがさらに好ましい。かかる発泡粒子を型内成形することにより、発泡粒子成形体の被包装物に対する保護性をより向上させることができる。
【0091】
発泡粒子の表層部の平均気泡径Dsは、以下の方法により算出される値である。まず、発泡粒子を概ね2等分となるように分割する。走査型電子顕微鏡を用い、分割により露出した切断面が視野内に全て納まるように拡大写真を取得する。得られた拡大写真における発泡粒子の最表面の周長、つまり、切断面における発泡粒子の外周端縁の長さを、発泡粒子の外周端縁に接する気泡の数で除することにより、個々の発泡粒子における表層部の気泡径を算出する。この操作を無作為に抽出した10個の発泡粒子に対して行い、それぞれの発泡粒子について得られた表層部の気泡径を相加平均した値を、発泡粒子の表層部における平均気泡径Dsとする。
【0092】
<独立気泡率>
前記発泡粒子の独立気泡率は85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましい。この場合には、発泡粒子の成形性や得られる発泡粒子成形体の剛性等をより向上させることができる。発泡粒子の独立気泡率は、ASTM-D2856-70に基づき空気比較式比重計を用いて測定することができる。
【0093】
<高温ピーク>
前記発泡粒子は、熱流束DSCにより得られるDSC曲線において、芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂固有の吸熱ピーク(以下、「固有ピーク」という。)の頂点よりも高温側に、1つ以上の吸熱ピーク(以下、「高温ピーク」という。)が現れる結晶構造を有していることが好ましい。この場合には、発泡粒子の独立気泡率をより高めることができるとともに、発泡粒子成形体を成形する際の成形条件を広い範囲から選択することができる。また、得られる発泡粒子成形体の剛性をより高めることができる。かかる観点からは、高温ピークにおける吸熱量(以下、「高温ピーク熱量」という。)は、5~50J/gであることが好ましく、8~40J/gであることがより好ましい。
【0094】
発泡粒子の高温ピーク熱量は、例えば以下の方法により算出することができる。まず、1~3mgの発泡粒子を用いて熱流束DSCを行い、DSC曲線を取得する。このときの測定開始温度は10~40℃、測定終了温度は220℃、昇温速度は10℃/分とする。発泡粒子が高温ピークを有する場合、DSC曲線には、
図1に示すように、固有ピークΔH1と、固有ピークΔH1の頂点よりも高温側に頂点を有する高温ピークΔH2とが現れる。
【0095】
次に、DSC曲線上における80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Tに相当する点βとを結ぶ直線L1を引く。なお、融解終了温度Tは、高温ピークΔH2における高温側の端点、つまり、DSC曲線における、高温ピークΔH2と、高温ピークΔH2よりも高温側のベースラインとの交点である。
【0096】
直線L1を引いた後、固有ピークΔH1と高温ピークΔH2との間に存在する極大点γを通り、グラフの縦軸に平行な直線L2を引く。この直線L2により固有ピークΔH1と高温ピークΔH2とが分割される。高温ピークΔH2の吸熱量は、DSC曲線における高温ピークΔH2を構成する部分と、直線L1と、直線L2とによって囲まれた部分の面積に基づいて算出することができる。
【0097】
なお、前述の方法によってDSC曲線を取得した後、発泡粒子を一旦冷却し、再度DSC曲線を取得した場合、DSC曲線には固有ピークΔH1のみが現れ、高温ピークΔH2はDSC曲線から消失する。
【0098】
(発泡粒子の製造方法)
前記発泡粒子は、例えば、以下の工程を備える二段発泡方法により作製することができる。すなわち、前記発泡粒子の製造方法は、
曲げ弾性率Mcが800MPa以上1200MPa以上のポリプロピレン系樹脂が含まれている未発泡状態の芯層と、曲げ弾性率Msが250MPa以下のポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層と、を備え、前記芯層と前記被覆層との質量比が、芯層:被覆層=95:5~88:12であるポリプロピレン系樹脂粒子を造粒する造粒工程と、
密閉容器中において分散媒に分散させた前記ポリプロピレン系樹脂粒子に無機系物理発泡剤を含浸させ、次いで、前記ポリプロピレン系樹脂粒子と前記分散媒とを前記密閉容器から前記密閉容器内よりも低圧下に放出することにより、前記ポリプロピレン系樹脂が含まれている発泡状態の芯層と、前記ポリエチレン系樹脂が含まれており前記芯層を被覆する被覆層とを備えた一段発泡粒子を得る一段発泡工程と、
耐圧容器内において前記一段発泡粒子に無機系ガスを含浸させることにより前記一段発泡粒子の気泡内の圧力を上昇させ、次いで、前記耐圧容器から取り出した前記一段発泡粒子を前記気泡内の圧力よりも低圧下で加熱することにより、前記一段発泡粒子をさらに発泡させて嵩倍率(II)が55倍以上90倍以下のポリプロピレン系樹脂発泡粒子を得る二段発泡工程と、を有していることが好ましい。
【0099】
前述した工程を備える二段発泡方法により製造された発泡粒子は、被包装物の保護性及び剛性に優れ、単位体積当たりの質量が小さいポリプロピレン系樹脂発泡粒子成形体を形成することができる。また、発泡粒子の独立気泡率の低下をより確実に抑制することができる。以下、各工程についてより詳細に説明する。
【0100】
<造粒工程>
造粒工程における前記ポリプロピレン系樹脂粒子(以下、「樹脂粒子」と省略する。)の作製方法は、特に限定されることはない。例えば、押出成形によって芯層の周囲が被覆層によって覆われたストランドを作製し、次いで、ペレタイザー等によりストランドを所望の寸法に切断することにより、前記樹脂粒子を得ることができる。かかる方法により得られる樹脂粒子は、芯層の周囲に帯状の被覆層が形成された、複層構造を有している。
【0101】
樹脂粒子の1個当たりの平均質量は、前記発泡粒子の金型への充填性と融着性等をより良好にする観点から、0.05mg~10mgであることが好ましく、0.1mg~5mgであることがより好ましく、0.5mg~3mgであることがさらに好ましい。
【0102】
<一段発泡工程>
一段発泡工程においては、まず、樹脂粒子を密閉容器内に入れ、水などの水性の分散媒中に分散させる。この際、必要に応じて、密閉容器内の分散媒に樹脂粒子を分散させるための分散剤を添加してもよい。
【0103】
分散剤としては、例えば、酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、マイカ等の無機微粒子や、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤を使用することができる。分散剤としては、これらの無機微粒子及び界面活性剤から選択された1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0104】
密閉容器を密封した後、容器内に無機系物理発泡剤を加え、無機系物理発泡剤を樹脂粒子に含浸させる。この際、密閉容器内を加圧しつつ加温することにより、樹脂粒子への無機系物理発泡剤の含浸を促進することができる。そして、発泡剤が十分に樹脂粒子に含浸した後に、密閉容器の内容物を容器の内圧よりも低い圧力下に放出することにより、樹脂粒子を発泡させて一段発泡粒子とすることができる。
【0105】
一段発泡工程において、無機系物理発泡剤を用いて樹脂粒子を発泡させることにより、最終的に、発泡倍率が高く、粒度分布の狭い発泡粒子を容易に得ることができる。無機系物理発泡剤としては、例えば、二酸化炭素、窒素、空気等の無機系ガス及び水等を使用することができる。無機系物理発泡剤としては、これらの物質を単独で使用してもよいし、2種以上の物質を併用してもよい。一段発泡工程における無機系物理発泡剤としては、発泡倍率が高く、粒度分布の狭い発泡粒子をより容易に得る観点から二酸化炭素を使用することが好ましい。
【0106】
前記無機系物理発泡剤の添加量は、芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の種類や発泡剤の種類、目的とする発泡粒子の嵩倍率等に応じて適宜設定することができるが、芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.1質量部~30質量部、好ましくは0.5質量部~15質量部、より好ましくは1質量部~10質量部が使用される。
【0107】
前記一段発泡工程は、樹脂粒子を発泡させる前に、前述した高温ピークを生成させる工程を含んでいてもよい。高温ピークを生成させる方法としては、例えば、密閉容器内で樹脂粒子を分散媒内で特定温度範囲内に保持して熱処理を行う方法を採用することができる。熱処理を行うタイミングは特に限定されることはなく、発泡剤の含浸前、含浸中及び含浸後のいずれかの時点で熱処理を行ってもよいし、前述した時点のうち2以上の時点にまたがって行われてもよい。この熱処理により、ポリプロピレン系樹脂固有の結晶に由来する融解ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークよりも高温側に位置する融解ピーク(高温ピーク)を示す結晶構造を有する発泡粒子を得ることができる。
【0108】
一段発泡粒子の嵩倍率(I)は、最終的に得ようとする発泡粒子の嵩倍率よりも低い値であり、25倍以上38倍以下とすることが好ましい。一段発泡工程における嵩倍率を前記特定の範囲とすることにより、一段発泡粒子における、粒子全体の気泡径を小さくするとともに、粒子全体の気泡径と粒子の表層部の気泡径との差をより小さくすることができる。なお、一段発泡粒子の嵩倍率(I)[倍]は、芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の密度[kg/m3]を一段発泡粒子の嵩密度[kg/m3]で除した値である。
【0109】
<二段発泡工程>
二段発泡工程においては、まず、耐圧容器内に一段発泡粒子を充填する。次いで、耐圧容器内を無機系ガスで加圧し、一段発泡粒子に無機系ガスを含浸させる。このようにして無機系ガスを含浸させることにより、一段発泡粒子の気泡内の圧力を含浸前よりも上昇させることができる。
【0110】
二段発泡工程においては、耐圧容器内の一段発泡粒子を加温しながら加圧してもよい。この場合には、一段発泡粒子への無機系ガスの含浸をより促進することができる。二段発泡工程において一段発泡粒子を加温する場合、ブロッキング、つまり、一段発泡粒子同士が融着して塊を形成する現象を抑制する観点から、一段発泡粒子の加熱温度を被覆層の融点よりも低くすることが好ましい。
【0111】
二段発泡工程において使用する無機系ガスとしては、二酸化炭素、窒素、空気、スチーム等を使用することができる。これらの無機系ガスは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。二段発泡工程において使用する無機系ガスは、スチームと空気との混合ガスであることが好ましい。この場合には、一段発泡粒子を適度に加温して無機系ガスの含浸をより促進するとともに、一段発泡粒子のブロッキングをより効果的に抑制することができる。
【0112】
なお、気泡内の圧力(内圧)は、例えば特開2003-201361号公報に記載された方法により測定することができる。
【0113】
一段発泡粒子への無機系ガスの含浸が完了した後、一段発泡粒子を耐圧容器から取り出す。この一段発泡粒子を気泡の内部の圧力よりも低圧下でスチーム等を用いて加熱して、個々の気泡を膨張させることができる。その結果、一段発泡粒子の嵩倍率を上昇させ、所望の嵩倍率を備えた発泡粒子を得ることができる。
【0114】
一段発泡粒子のブロッキングをより効果的に抑制する観点からは、二段発泡工程において無機系ガスとしての空気とスチームとの混合ガスを含浸させることにより、前記一段発泡粒子の気泡内の圧力をゲージ圧において0.40MPa(G)以上0.60MPa(G)とし、次いで、前記耐圧容器から取り出した前記一段発泡粒子をゲージ圧において0.05MPa(G)以上0.25MPa(G)以下のスチームで加熱することが好ましい。
【0115】
前記発泡粒子の嵩倍率(I)に対する一段発泡粒子の嵩倍率(II)の比(II)/(I)、つまり、二段発泡工程における嵩倍率の上昇率、は、1.8以上3.0以下とすることが好ましく、1.8以上2.8以下とすることがより好ましい。二段発泡工程における嵩倍率の上昇率を前記特定の範囲とすることにより、発泡粒子の気泡の過度の膨張を抑制することができる。これにより、発泡粒子全体の平均気泡径をより小さくするとともに、発泡粒子の内部における気泡径と表層部における気泡径との差をより小さくすることができる。そして、かかる発泡粒子を型内成形することにより、所望の物性を備えた発泡粒子成形体をより容易に得ることができる。
【0116】
前述した作用効果をより確実に奏する観点からは、前記一段発泡工程において、嵩倍率(I)が25倍以上38倍以下の前記一段発泡粒子を作製し、前記二段発泡工程において、前記ポリプロピレン系樹脂発泡粒子の嵩倍率(I)に対する前記嵩倍率(II)の比(II)/(I)の値が2.0以上3.0以下となるように前記一段発泡粒子を発泡させて嵩倍率(II)が55倍以上90倍以下の発泡粒子を得ることが好ましい。
【0117】
本明細書において、一段発泡工程において使用する容器を「密閉容器」、二段発泡工程において使用する容器を「耐圧容器」と称したが、いずれも密閉可能であり、圧力を付与できる容器であればよく、同一の容器を使用してもよい。
【実施例】
【0118】
前記発泡粒子成形体及び発泡粒子の実施例を説明する。なお、本発明に係る発泡粒子成形体、発泡粒子及びその製造方法の態様は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0119】
(樹脂)
本例において使用した樹脂は、表1に示した通りである。なお、表1の「材質」欄における記号「r-PP」はポリプロピレンランダム共重合体、「PP」はポリプロピレン、「LLDPE」は直鎖状低密度ポリエチレンの略である。
【0120】
表1に示した樹脂の物性は、以下のようにして測定される。
【0121】
<曲げ弾性率>
まず、発泡粒子を230℃でヒートプレスすることにより厚み4mmのシートを作製した。このシートから長さ80mm×幅10mm×厚さ4mmの寸法を有する試験片を切り出した。この試験片を用い、JIS K 7171:2008に準拠して樹脂の曲げ弾性率を測定した。なお、圧子の半径R1及び支持台の半径R2は共に5mm、支点間距離は64mmとし、試験速度は2mm/minとした。
【0122】
<融点>
樹脂の融点は、JIS K7121:1987に記載されている熱流束示差走査熱量測定法に基づいて測定した。まず、試験片を温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に1日以上静置して状態調節した。状態調節後の試験片を10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温した後に、10℃/分の冷却速度で23℃まで降温し、再度10℃/分の昇温速度で23℃から200℃まで昇温した。そして、2回目の昇温時に得られるDSC曲線により定まる吸熱ピークの頂点温度を樹脂の融点とした。なお、上記2回目のDSC曲線に複数の吸熱ピークが表れる場合は、最も面積の大きな吸熱ピークの頂点温度を融点とした。DSC曲線の取得には、熱流束示差走査熱量測定装置(TAインスツルメント社製「DSC Q1000」)を用いた。
【0123】
<メルトフローレイト>
樹脂のMFRは、JIS K7210-1:2014に準拠して測定した。ポリプロピレン系樹脂のMFRは温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定された値であり、ポリエチレン系樹脂のMFRは温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定された値である。
【0124】
<多分散度Mw/Mn>
芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の多分散度Mw/Mnは、以下の方法により測定した。まず、ポリスチレンを標準物質としたゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法により樹脂のクロマトグラムを取得した。
【0125】
クロマトグラムの取得にはWATERS社製の150Cを使用した。測定試料としての樹脂を1,2,4-トリクロロベンゼンに溶解させて濃度2.2mg/mlの試料溶液を調製した後、TSKgel(登録商標) GMHHR-H(S)HTをカラムとし、溶離液:1,2,4-トリクロロベンゼン、流量:1.0ml/分、温度:145℃という分離条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定試料を分子量の違いによって分離し、クロマトグラムを得た。
【0126】
そして、標準ポリスチレンを用いて作成した較正曲線によって得られたクロマトグラムにおける保持時間を分子量に換算し、微分分子量分布曲線を得た。この微分分子量分布曲線から樹脂の数平均分子量Mnおよび重量平均分子量Mwを算出し、次いで多分散度Mw/Mnを算出した。ポリプロピレン系樹脂の多分散度Mw/Mnは表1に示す通りであった。なお、本例においては、被覆層として使用した樹脂の多分散度Mw/Mnの測定は行っていない。そのため、PP3,PE1及びPE2の多分散度Mw/Mnの欄には、測定を行っていないことを示す記号「-」を記載した。
【0127】
(発泡粒子の作製)
<造粒工程>
表2に示す発泡粒子A~発泡粒子Gの作製に当たっては、内径65mmの芯層形成用押出機および内径30mmの被覆層形成用押出機が併設され、多数本の複層ストランド状の共押出が可能なダイが出口側に付設された共押出機を使用してストランドを作製した。芯層形成用押出機には、表2の「芯層」欄に示した樹脂を供給した。また、被覆層形成用押出機には、表2の「被覆層」欄に示した樹脂を供給した。
【0128】
その後、各押出機から、芯層と被覆層との質量比が表2に示す値となるように溶融混練物を共押出した。各押出機から押し出された溶融混練物は、ダイ内で合流し、押出機先端に取り付けた口金の細孔から、芯層の外周が被覆層により覆われた複層のストランド状に押し出される。この共押出物を水冷することにより、複層のストランドを得た。
【0129】
得られたストランドを、ペレタイザーを用いて表2に示す質量となるように切断した。これにより、未発泡状態の芯層と、芯層の側周面を覆う被覆層とを備えた樹脂粒子を得た。
【0130】
表2に示す発泡粒子Hの作製に当たっては、共押出機に替えて、単一の押出機を使用してストランドを作製した以外は、前述の方法と同様にして樹脂粒子を得た。
【0131】
<一段発泡工程>
内容積3m3の密閉容器内に、400kgの樹脂粒子と、分散媒としての水2000Lと、分散剤としてのカオリン7000gと、界面活性剤と、硫酸アルミニウム150gとを封入した。界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(第一工業製薬株式社製「ネオゲンS-20F」)を使用した。また、界面活性剤は、有効成分量が800gとなるように添加した。
【0132】
次いで、密閉容器内に、発泡剤としての二酸化炭素を、容器内の圧力が表2の「密閉容器内の圧力」の欄に示した値(ゲージ圧)となるよう供給して容器内を加圧した。この状態で容器内を攪拌しながら加熱し、表2に示す発泡温度まで容器内を昇温させた。この発泡温度を10分間保持した後、二酸化炭素で加圧することにより密閉容器内の圧力を表2の「密閉容器内の圧力」欄に示した値(ゲージ圧)に維持した状態で密閉容器を開放し、内容物を大気圧下に放出することにより樹脂粒子を発泡させた。以上により、発泡状態の芯層と、芯層を覆う被覆層とを備えた複層構造の一段発泡粒子を得た。なお、密閉容器から放出した直後の一段発泡粒子は水分を含んでいるため、23℃の温度で24時間養生させた。
【0133】
<二段発泡工程>
耐圧容器内に一段発泡粒子を充填した後、耐圧容器内に無機系ガスとしての空気を注入することにより、無機系ガスを気泡内に含浸させた。次いで、耐圧容器から取り出した一段発泡粒子にスチームと空気とを供給し、大気圧下で加熱した。耐圧容器から取り出した一段発泡粒子における気泡内の圧力(ゲージ圧)は表2に示す値であった。また、加熱時に供給した空気の圧力(ゲージ圧)は0.20MPa(G)とし、スチームの圧力(ゲージ圧)は表2に示す通りとした。以上により、一段発泡粒子の嵩倍率を上昇させ、発泡粒子(二段発泡粒子)を得た。
【0134】
(一段発泡粒子及び発泡粒子)
表2に示した一段発泡粒子及び発泡粒子の物性は、以下のようにして測定される。
【0135】
<発泡直後の一段発泡粒子の嵩密度ρ(A)>
一段発泡工程において、密閉容器から放出した直後の一段発泡粒子を採取し、表面に付着した水分を拭き取った。この一段発泡粒子を、容積1Lのメスフラスコ内に自然に堆積するようにして標線まで充填した。そして、メスフラスコ内の一段発泡粒子の質量[g/L]を測定し、単位を換算することにより発泡直後の一段発泡粒子の嵩密度ρ(A)[kg/m3]とした。
【0136】
<養生後の一段発泡粒子の嵩密度ρ(B)>
一段発泡工程において、密閉容器から放出し、次いで養生した後の一段発泡粒子を用いた以外は、前述の方法と同様にしてメスフラスコ内に一段発泡粒子を充填した。そして、メスフラスコ内の一段発泡粒子の質量[g/L]を測定し、単位を換算することにより養生後の一段発泡粒子の嵩密度ρ(B)[kg/m3]とした。
【0137】
<一段発泡粒子の嵩倍率(I)>
芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の密度を養生後の一段発泡粒子の嵩密度ρ(B)で除した値を一段発泡粒子の嵩倍率(I)とした。
【0138】
<発泡粒子の嵩密度ρ(C)>
一段発泡粒子に替えて発泡粒子を用いた以外は、前述した養生後の一段発泡粒子の嵩密度の測定方法と同様にしてメスフラスコ内に発泡粒子を充填した。そして、メスフラスコ内の発泡粒子の質量[g/L]を測定し、単位を換算することにより発泡粒子の嵩密度ρ(C)[kg/m3]とした。
【0139】
<発泡粒子の嵩倍率(II)>
芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の密度を発泡粒子の嵩密度ρ(C)で除した値を発泡粒子の嵩倍率(II)とした。
【0140】
<平均粒径及び粒径の変動係数>
約200個の発泡粒子を用いて、粒度分布測定装置(日機装株式会社製「ミリトラック JPA」)により発泡粒子の体積基準における粒度分布を測定した。得られた粒度分布におけるメジアン径、つまり、累積50%粒径を発泡粒子の平均粒径とした。また、発泡粒子の平均粒径を、前述した粒度分布に基づいて算出した粒径の標準偏差で除した値を粒径の変動係数とした。
【0141】
<独立気泡率>
独立気泡率の値は、ASTM-D2856-70に基づき空気比較式比重計を用いて求めた値である。
【0142】
<高温ピーク熱量>
前述した方法により発泡粒子の高温ピーク熱量を測定した。即ち、約3mgの発泡粒子を用いて熱流束DSCを行い、得られたDSC曲線における高温ピークのピーク面積を発泡粒子の高温ピーク熱量とした。熱流束DSCにおける測定開始温度は23℃、測定終了温度は200℃、昇温速度は10℃/分とした。DSC曲線の取得には、熱流束示差走査熱量測定装置(TAインスツルメント社製「DSC Q1000」)を用いた。
【0143】
<発泡粒子全体の平均気泡径D>
発泡粒子を概ね2等分となるように分割した後、走査型電子顕微鏡を用い、分割により露出した切断面が視野内に全て納まるように拡大写真を取得した。拡大写真の一例として、
図2に発泡粒子A、
図3に発泡粒子E、
図4に発泡粒子Hの切断面の拡大写真を示す。発泡粒子の切断面1に現れた発泡粒子の最表面2、つまり、切断面1の輪郭は、概ね円形を呈している。また、発泡粒子の切断面1には、樹脂膜3によって区画された多数の気泡4が現れている。
【0144】
これらの拡大写真上に、発泡粒子の最表面2から中央部を通って反対側の最表面2まで、4本の線分5を隣り合う線分5同士のなす角度が等しくなるように引いた。すなわち、隣り合う線分5同士のなす角度が45°となるように4本の線分5を引いた。このようにして得られた4本の線分5の長さの合計を、線分5と交差する気泡4の総数で除することにより、個々の発泡粒子における発泡粒子全体の気泡径を算出した。以上の操作を無作為に抽出した10個の発泡粒子に対して行い、それぞれの発泡粒子について得られた発泡粒子全体の気泡径を相加平均した値を、発泡粒子の平均気泡径Dとした。
【0145】
<発泡粒子の表層部の平均気泡径Ds>
まず、発泡粒子を概ね2等分となるように分割したのち、走査型電子顕微鏡を用い、分割により露出した切断面の拡大写真を取得した。得られた拡大写真における切断面1に現れた発泡粒子の最表面2の周長、つまり、切断面1の輪郭の長さを、最表面2に接する気泡の数で除することにより、個々の発泡粒子における表層部の気泡径を算出した。この操作を無作為に抽出した10個の発泡粒子に対して行い、それぞれの発泡粒子について得られた表層部の気泡径を相加平均した値を、発泡粒子の表層部における平均気泡径Dsとした。
【0146】
(発泡粒子成形体の作製)
本例では、以下の方法により縦300mm×横250mm×厚み60mmの寸法を有する平板状の発泡粒子成形体を作製した。まず、平板状の発泡粒子成形体を形成可能な金型を準備し、金型のキャビティに、クラッキング充填法により発泡粒子を充填した。クラッキング充填法は、発泡粒子を金型内に充填する前に、所定のクラッキング隙間分だけ成形空間を広げておき、充填後に金型を閉じて成形空間を狭くすることで発泡粒子を機械的に圧縮する方法である。
【0147】
本例においては、クラッキング隙間の容積が、得ようとする発泡粒子成形体の体積の10%となるように、発泡粒子成形体の厚み方向に成形空間を6mm広げた状態で発泡粒子を充填した。そして、金型を閉じた後、成形空間を発泡粒子成形体の厚み方向に狭くし、所望の寸法とした。この状態で、金型内に表3及び表4の「成形圧」欄に示すゲージ圧のスチームを供給し、表3及び表4の「本加熱時間」欄に記載された時間本加熱を行うことにより型内成形した。なお、型内成形中の金型の受ける圧力(ゲージ圧)は、表3及び表4の「面圧」欄に示す値であった。以上により、平板状の発泡粒子成形体(実施例1~実施例3、比較例1~比較例4、参考例1)を得た。得られた発泡粒子成形体を30℃、12時間静置し、静置後の発泡粒子成形体を用いて以下の物性を測定した。
【0148】
(発泡粒子成形体の物性)
表3及び表4に示した発泡粒子成形体の物性は、以下のようにして測定される。
【0149】
<成形体密度ρ(D)>
発泡粒子成形体の中心部付近から、縦50mm×横50mm×厚み10mmの表層部を有さない測定試料を採取した。この測定試料の質量を、寸法に基づいて算出される測定試料の体積で除した値を発泡粒子成形体の成形体密度ρ(D)[kg/m3]とした。
【0150】
<成形体倍率X>
芯層に含まれるポリプロピレン系樹脂の密度を発泡粒子成形体の成形体密度ρ(D)で除した値を成形体倍率X[倍]とした。
【0151】
<表層部の見掛け密度ρ(E)>
発泡粒子成形体をスキン面からの厚み方向における深さが3mmとなる面で切断し、発泡粒子成形体の表層部を切り出した。この表層部を縦50mm×横50mmの正方形に切り分け、縦50mm、横50mm、厚み3mmの寸法を有し、厚み方向における一方の面がスキン面である小片を採取した。小片を温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に1日静置した後、小片の質量を測定した。そして、小片の質量を、小片の寸法に基づいて算出した体積で除した値を表層部の見掛け密度ρ(E)[kg/m3]とした。
【0152】
<発泡粒子成形体の内部の平均気泡径di>
まず、発泡粒子成形体の中心部付近から、一辺が10mmの立方体状を呈し、スキン面を有さない小片を採取した。走査型電子顕微鏡を用いて小片を観察し、発泡粒子成形体の厚み方向に平行な表面の拡大写真を取得した。得られた拡大写真上に厚み方向の中央を通る線分を引き、線分と交差する気泡の数を数えた。そして、前述した線分の長さを線分と交差する気泡の数で除した値を、発泡粒子成形体の内部における平均気泡径di[μm]とした。
【0153】
<発泡粒子成形体の表層部の平均気泡径ds>
まず、発泡粒子成形体の縦300mm×横250mmの面上に、縦方向に平行であり、成形体の横方向を2等分する直線L1を引いた。次いで、この直線L1を4等分するように横方向に平行な3本の直線L2を引いた。そして、直線L1と直線L2との3か所の交点が面の中央となるようにして、いずれか1の面がスキン面であり、一辺3mmの立方体状を呈する3個の小片を採取した。
【0154】
走査型電子顕微鏡を用いて各小片を観察し、発泡粒子成形体の厚み方向に平行な表面の拡大写真を取得した。得られた拡大写真上に、スキン面からの深さ(つまり、厚み方向における距離)が50μmとなるようにしてスキン面と平行な線分を引き、線分と交差する気泡の数を数えた。そして、前述した線分の長さを線分と交差する気泡の数で除した値を、各小片の表層部における気泡径とし、3個の小片における表層部における気泡径の算術平均値を発泡粒子成形体の表層部における平均気泡径dsとした。
【0155】
<内部融着率>
発泡粒子成形体から厚み方向の両側に存在する表層部を除去した後、発泡粒子成形体を長手方向に概ね等分となるように破断させた。破断面に露出した発泡粒子のうち無作為に選択した100個以上の発泡粒子を目視により観察し、粒子内部で破断した発泡粒子(つまり、材料破壊した発泡粒子)であるか、発泡粒子同士の界面で破断した発泡粒子であるかを判別した。そして、観察した発泡粒子の総数に対する粒子内部で破断した発泡粒子の数の比率を百分率で表した値を、発泡粒子成形体の内部融着率として表3及び表4に示した。
【0156】
内部融着率の評価においては、内部融着率が90%以上である場合を融着性に優れているため合格とし、90%未満である場合を融着性が不十分であるため不合格とした。
【0157】
<二次発泡性>
発泡粒子成形体の厚み方向における一方のスキン面の中央部に100mm×100mmの正方形を描き、次いでこの正方形のいずれか1の角から対角線を引いた。そして、対角線上に存在するボイド、つまり、発泡粒子同士の間に形成される隙間のうち、1mm×1mm以上の大きさを有するボイドの数を数えた。表3及び表4の「二次発泡性」欄には、ボイドの数が2個以下の場合には記号「A」、3個以上の場合には記号「B」を記載した。二次発泡性の評価においては、ボイドの数が2個以下である記号「A」の場合を型内成形時に発泡粒子が十分に二次発泡したため合格とし、3個以上である記号「B」の場合を二次発泡性が不十分であるため不合格とした。
【0158】
<回復性>
発泡粒子成形体を厚み方向から見た平面視における4か所の角からスキン面の中央に向かって10mm離れた位置で発泡粒子成形体の厚みを測定した。そして、これらの厚みのうち、最も大きい値を発泡粒子成形体の角部の厚みとした。これとは別に、発泡粒子成形体を厚み方向から見た平面視における、縦方向及び横方向のいずれにおいても中央となる位置で発泡粒子成形体の厚みを測定し、この値を発泡粒子成形体の中央部の厚みとした。そして、発泡粒子成形体の角部の厚みに対する中央部の厚みの比(%)を算出した。
【0159】
表3及び表4の「回復性」欄には、角部の厚みに対する中央部の厚みの比が95%以上の場合に記号「A」、95%未満の場合に記号「B」を記載した。回復性の評価においては、角部の厚みに対する中央部の厚みの比が95%以上である記号「A」の場合を成形後の中央部の収縮量が小さく回復性に優れているため合格とし、95%未満である記号「B」の場合を成形後の中央部の収縮量が大きく回復性に劣るため不合格とした。
【0160】
<表面硬度>
発泡粒子成形体から採取した厚み60mmの直方体状の試験片を温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に1日以上静置した。この試験片のスキン面に、JIS K7312:1996に準拠したタイプCデュロメータ(アスカーゴム硬度計C型)を接触させ、接触した時点から3秒経過後の目盛りの値を記録した。この操作を、スキン面上で無作為に選択した5点について行い、得られた目盛りの値の相加平均を発泡粒子成形体の表面硬度とした。
【0161】
<軽量性の評価>
軽量性の評価においては、成形体倍率Xが55倍以上の場合を単位体積当たりの質量が小さく、軽量性に優れているため合格と判定し、「評価」欄に記号「Good」を記載した。また、成形体倍率Xが55倍未満の場合を単位体積当たりの質量が大きく、軽量性に劣るため不合格と判定し、「評価」欄に記号「Poor」を記載した。
【0162】
<5%圧縮応力σ5及び50%圧縮応力σ50>
JIS K6767:1999の規定に従って5%圧縮応力σ5及び50%圧縮応力σ50を測定した。まず、発泡粒子成形体の中心部付近から縦50mm、横50mm、厚み25mmのスキン面を有さない試験片を採取した。この試験片を温度23℃、相対湿度50%RHの環境下に24時間静置して状態調節を行い、状態調節後の試験片を用いて10mm/分の圧縮速度で圧縮試験を行った。なお、圧縮試験には、万能試験機(株式会社エー・アンド・デイ製「テンシロン RTF-1350」)を使用した。得られた圧縮応力-ひずみ曲線における、ひずみが5%の時の圧縮応力を5%圧縮応力σ5とし、ひずみが50%の時の圧縮応力を50%圧縮応力σ50とした。
【0163】
<保護性の評価>
保護性の評価においては、5%圧縮応力σ5の値が25kPa以下である場合を保護性に優れているため合格と判定し、「評価」欄に記号「Good」を記載した。また、σ5の値が25kPaよりも大きい場合を保護性に劣るため不合格と判定し、「評価」欄に記号「Poor」を記載した。
【0164】
<質感>
質感の評価は、官能試験により行った。具体的には、当業者10人をパネルとし、目隠しをした状態で発泡粒子成形体のスキン面を手で触れることにより、スキン面がしっとりした質感を有しているか否かを評価した。そして、パネルを構成する10人のうち8人以上がしっとりした触感を有していると評価した場合には、発泡粒子成形体のスキン面が被包装物に対して優しい質感を有していると判定し、「評価」欄に記号「Good」を記載した。また、パネルを構成する10人のうち2人以下がしっとりした触感を有していると評価した場合には、発泡粒子成形体のスキン面が被包装物に対して優しい質感を有していないと判定し、「評価」欄に記号「Poor」を記載した。
【0165】
<剛性の評価>
剛性の評価においては、50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値が6500以上の場合を、剛性と軽量性とのバランスに優れているため合格と判定し、「評価」欄に記号「Good」を記載した。また、50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値が6500未満の場合を、剛性と軽量性とのバランスに劣るため不合格と判定し、「評価」欄に記号「Poor」を記載した。
【0166】
(成形可能範囲の評価)
スチーム圧を0.18~0.40MPa(G)の間で0.02MPa(G)間隔で変化させた以外は前述した発泡粒子成形体の作製方法と同様にして発泡粒子成形体を成形した。得られた成形体を用い、前述した方法と同様にして内部融着率、二次発泡性及び回復性の評価を行った。そして、3項目すべてにおいて合格となったスチーム圧を、発泡粒子成形体を成形することが可能と判断した。表2の「成形可能範囲」欄には、発泡粒子成形体を成形可能なスチーム圧の範囲を示した。
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
表3に示したように、実施例1~4の発泡粒子成形体は、成形体倍率X、50%圧縮応力σ50と成形体倍率Xとの積X・σ50の値及び5%圧縮応力σ5が前記特定の範囲内にある。そのため、これらの発泡粒子成形体は、優れた剛性と保護性とを備え、単位体積当たりの質量を低減することができる。これらの発泡粒子成形体のスキン面は、ポリエチレン系樹脂発泡粒子成形体のような、被包装物に対して優しい質感を有している。また、発泡粒子成形体のスキン面における表面硬度の値が小さく、保護性に優れている。
【0172】
表4に示したように、比較例1の発泡粒子成形体は、実施例1~4に比べて嵩倍率(II)の低い発泡粒子Dを用いて型内成形されている。そのため、比較例1の発泡粒子成形体は、実施例1~4に比べて成形体倍率Xが低く、軽量性及び被包装物に対する保護性に劣っている。
【0173】
比較例2の発泡粒子成形体は、芯層と被覆層との両方がポリプロピレン系樹脂から構成された発泡粒子Eを用いて型内成形されている。そのため、比較例2の発泡粒子成形体は、実施例1~4に比べて5%圧縮応力σ5が大きくなり、保護性に劣っている。また、比較例2の発泡粒子成形体は、質感に劣っている。
【0174】
比較例2の発泡粒子成形体は、実施例1~4、比較例3~4及び参考例1に比べて成形体倍率Xが高いにもかかわらず、5%圧縮応力σ5が特に大きかった。これは、被覆層がポリプロピレン系樹脂で構成されていることに加え、発泡粒子成形体の内部の平均気泡径diが大きく、前記平均気泡径diに対する前記発泡粒子成形体の表層部の平均気泡径ds[μm]の比ds/diが大きいことが原因と考えられる。比較例2の発泡粒子成形体がこのような気泡構造となる理由は、発泡粒子Eの粒子全体の平均気泡径Dが大きく、前記平均気泡径Dに対する表層部の平均気泡径Dsの比Ds/Dが小さいため、表層部に位置する気泡が、型内成形の際に内部の気泡の二次発泡により押しつぶされて扁平化したためであると考えられる。
【0175】
比較例3の発泡粒子成形体は、実施例1~4に比べて曲げ弾性率Msの高いポリエチレン系樹脂からなる被覆層を備えた発泡粒子Fを用いて型内成形されている。そのため、比較例4の発泡粒子成形体は、実施例1~4に比べて5%圧縮応力σ5が大きくなり、保護性に劣っている。また、比較例3の発泡粒子成形体は、質感に劣っている。
【0176】
比較例4の発泡粒子成形体は、実施例1~4に比べて被覆層の比率が小さい発泡粒子Gを用いて型内成形されているため、被覆層による効果を十分に得ることができない。そのため、比較例4の発泡粒子成形体は、実施例1~4に比べて5%圧縮応力σ5が大きくなり、保護性に劣っている。また、比較例4の発泡粒子成形体は、質感に劣っている。
【0177】
参考例1は、ポリエチレン系樹脂発泡粒子Hを型内成形してなる発泡粒子成形体である。参考例1の発泡粒子成形体は、5%圧縮応力σ5の値が小さく、保護性に優れる反面、50%圧縮応力σ50[kPa]と成形体倍率Xとの積X・σ50の値が小さく、用途によっては包装材や緩衝材に要求される剛性を満足できない。
【符号の説明】
【0178】
1 切断面
2 発泡粒子の最表面
3 樹脂膜
4 気泡