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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】左官用鏝
(51)【国際特許分類】
   E04F 21/16 20060101AFI20220126BHJP
   B05C 17/00 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
E04F21/16 A
B05C17/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017244673
(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公開番号】P2019112770
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】507207465
【氏名又は名称】株式会社銅藤
(74)【代理人】
【識別番号】100129056
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100095739
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】阿久津 一志
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3131101(JP,U)
【文献】実開昭62-16634(JP,U)
【文献】特開平10-61165(JP,A)
【文献】実開昭58-75839(JP,U)
【文献】登録実用新案第3051661(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 21/16
B05C 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鏝板の上面に直立させた鏝首に鏝板の上面と平行な柄を備えた左官用鏝において、
前記鏝首に、鏝板の上面の鏝板の横幅の中央を通る縦方向に沿う中心線上に固着した横断面が同径同形の2本の六角ビットと、前記柄の下面に固着した前記各六角ビットに嵌合可能な六角ソケットと、前記六角ソケットに前記各六角ビットを結合するチャックと、を備え、一旦離脱させた六角ソケットを、塗り面に応じた2本の六角ビットのうちから選択した適切な角度の六角ビットに嵌着可能とする持ち角変換機構を形成し、
前記各六角ビットを、鏝板の上面の上方から見て一方の六角ビットに柄を固定したときには鏝板の中心線に柄の中心線が重なり、他方の六角ビットに柄を固定したときには鏝板の中心線に柄の中心線が重ならないように鏝板に固着したことを特徴とする左官用鏝。
【請求項2】
鏝板の上面に直立させた鏝首に鏝板の上面と平行な柄を備えた左官用鏝において、
前記鏝首に、鏝板の上面の鏝板の横幅の中央を通る縦方向に沿う中心線上に固着した横断面が同径同形の3本の六角ビットと、前記柄の下面に固着した前記各六角ビットに嵌合可能な六角ソケットと、前記六角ソケットに前記各六角ビットを結合するチャックと、を備え、一旦離脱させた六角ソケットを、塗り面に応じた3本の六角ビットのうちから選択した適切な角度の六角ビットに嵌着可能とする持ち角変換機構を形成し、
前記各六角ビットを、鏝板の上面の上方から見て一つは六角ビットに柄を固定したときには鏝板の中心線に柄の中心線が重なり、他の二つは六角ビットに柄を固定したときには鏝板の中心線に柄の中心線が重ならず、且つそれぞれの柄の中心線が平行とならないように鏝板に固着したことを特徴とする左官用鏝。
【請求項3】
鏝板の上面の上方から見て、各六角ビットの柄の中心線と鏝板の中心線との角度を、鏝板の中心線に対して均等分に異なる角度としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の左官用鏝。
【請求項4】
鏝板の上面の上方から見て、一つの六角ビットを、鏝板の中心線に対して柄の中心線の向きが90度となる角度としたことを特徴とする請求項2に記載の左官用鏝。
【請求項5】
チャックが、六角ビットには周溝を備え、六角ソケットには内側に径を絞った内辺縁を有するロックボール孔を備えると共に該ロックボール孔から突出して前記周溝に嵌入可能な径で且つ前記内辺縁の径より大きい径のロックボールを嵌着し、該六角ソケットの外側には前記周溝に嵌入したロックボールを閉じ込める大径内壁面と小径内壁面とを備えた外筒を配着し、該外筒のスライド移動により小径内壁面でロックボールを押圧して前記六角ソケットを前記六角ビットから離脱不能にロックし、該外筒のスライド移動により大径内壁面にロックボールを逃がすことでロックを解除して前記六角ソケットを前記六角ビットから離脱可能としてなることを特徴とする請求項1から4のうちのいずれかに記載の左官用鏝。
【請求項6】
各六角ソケットにいずれか一つの六角ビットを差し込んで、柄を鏝板に固定したとき、他方の六角ビットの上端部と柄の下面との間に指の径より大きい間隔が形成されるように各六角ビットの長さを設定したことを特徴とする請求項1から5のうちのいずれかに記載の左官用鏝。
【請求項7】
鏝首近傍の鏝板の上面に、柄を持った手の指で台面を押圧可能な高さの指圧台を設けたことを特徴とする請求項1から6のうちのいずれかに記載の左官用鏝。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は左官工事用の鏝に関する。
【背景技術】
【0002】
左官工事用の鏝は壁等の表面に左官材料を塗る塗鏝と、左官材料を掬うレンガ鏝と、レンガ、タイル等の目地に材料を詰める目地鏝と、コーナー部分の出隅と入隅を整える面引鏝等があり、又それらの鏝は塗る面の種類や仕上げ方に応じた多数の種類があるが、いずれも鏝板、鏝首及び柄を備えている。
これらの鏝で漆喰やモルタル等の左官材料を塗るとき、鏝板の板面の進行方向を少し浮かせて壁面を適度の押圧で鏝板を横向きに滑らせるように塗ることで綺麗な平面とすることができる。
その際、従来の鏝は、手で持つ柄が鏝板の縦方向の中心線と平行に固定されているため、壁面の中間の高さ部分では殆ど手首を曲げずに鏝を楽に使用することができるが、天井付近や腰より低い部分の壁面では肘が伸びて腕が上向き又は下向きになり、鏝板面を壁面に当てるために壁面に向けて小指側や母指側を壁面に向けて手首を大きく曲げて柄を持たなければならず、鏝に力を入れ難い状態となってしまう。この結果、鏝使いが不安定となって綺麗な仕上げ面が得られなくなる。又、綺麗に仕上げようと無理に力を入れて作業すると疲労が増大してしまう。
一方、下記特許文献1には、チャック部材で鏝板から柄を着脱可能な鏝が提案されているが、柄に別の鏝板を交換できるものの、柄は鏝板の縦方向の中心線に対して平行に固定されるので、天井付近の高い壁面や腰より低い壁面を塗る場合は上記の如き従来の鏝と同様な上記問題が解決されず、高所や低所での綺麗な仕上げ面を得ることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第31311011公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、鏝板への柄の着脱に着眼し、着脱の際に柄の固定角度を変えることが可能ではないかと考えて試行錯誤した結果、塗る場所や塗り方等各種の異なる使用に対して多様な対応が可能となる鏝を完成した。
即ち、本発明は一つの柄に対して、多数の鏝板の中から塗る場所に最適なものを選択して使用することができ、且つ塗る場所や塗り方に応じて柄を持つ角度を最適角度に細かく変換できるようにすることで、塗る面に適切な向きに持ち手を変えて塗り難い場所でも楽に綺麗な仕上げ面が得られる左官用鏝を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するため、本発明の左官用鏝の請求項1に記載の発明は、鏝板の上面に直立させた鏝首に鏝板の上面と平行な柄を備えた左官用鏝において、前記鏝首に、鏝板の上面の鏝板の横幅の中央を通る縦方向に沿う中心線上に固着した横断面が同径同形の2本の六角ビットと、前記柄の下面に固着した前記各六角ビットに嵌合可能な六角ソケットと、前記六角ソケットに前記各六角ビットを結合するチャックと、を備え、一旦離脱させた六角ソケットを、塗り面に応じた2本の六角ビットのうちから選択した適切な角度の六角ビットに嵌着可能とする持ち角変換機構を形成し、前記各六角ビットを、鏝板の上面の上方から見て一方の六角ビットに柄を固定したときには鏝板の中心線に柄の中心線が重なり、他方の六角ビットに柄を固定したときには鏝板の中心線に柄の中心線が重ならないように鏝板に固着したことを特徴とする。
【0006】
請求項2に記載の発明は、鏝板の上面に直立させた鏝首に鏝板の上面と平行な柄を備えた左官用鏝において、前記鏝首に、鏝板の上面の鏝板の横幅の中央を通る縦方向に沿う中心線上に固着した横断面が同径同形の3本の六角ビットと、前記柄の下面に固着した前記各六角ビットに嵌合可能な六角ソケットと、前記六角ソケットに前記各六角ビットを結合するチャックと、を備え、一旦離脱させた六角ソケットを、塗り面に応じた3本の六角ビットのうちから選択した適切な角度の六角ビットに嵌着可能とする持ち角変換機構を形成し、前記各六角ビットを、鏝板の上面の上方から見て一つは六角ビットに柄を固定したときには鏝板の中心線に柄の中心線が重なり、他の二つは六角ビットに柄を固定したときには鏝板の中心線に柄の中心線が重ならず、且つそれぞれの柄の中心線が平行とならないように鏝板に固着したことを特徴とする。
【0007】
請求項3に記載の発明は、上記発明において、前記鏝板の上面の上方から見て、各六角ビットの柄の中心線と鏝板の中心線との角度を、鏝板の中心線に対して均等分に異なる角度としたことを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、上記発明において、前記鏝板の上面の上方から見て、一つの六角ビットを、鏝板の中心線に対して柄の中心線の向きが90度となる角度としたことを特徴とする。
【0009】
請求項5に記載の発明は、上記発明において、前記チャックが、前記六角ビットには周溝を備え、前記六角ソケットには内側に径を絞った内辺縁を有するロックボール孔を備えると共に該ロックボール孔から突出して前記周溝に嵌入可能な径で且つ前記内辺縁の口径より大きい径のロックボールを嵌着し、該六角ソケットの外側には前記周溝に嵌入したロックボールを閉じ込める大径内壁面と小径内壁面とを備えた外筒を配着し、該外筒のスライド移動により小径内壁面でロックボールを押圧して前記六角ソケットを前記六角ビットから離脱不能にロックし、該外筒のスライド移動により大径内壁面にロックボールを逃がすことでロックを解除して前記六角ソケットを前記六角ビットから離脱可能としてなることを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、上記発明において、前記各六角ソケットにいずれか一つの六角ビットを差し込んで、柄を鏝板に固定したとき、他方の六角ビットの上端部と柄の下面との間に指の径より大きい間隔が形成されるように各六角ビットの長さを設定したことを特徴とする。
【0011】
請求項7に記載の発明は、上記発明において、前記鏝首近傍の鏝板の上面に、柄を持った手の指で台面を押圧可能な高さの指圧台を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、鏝板と柄との間に設けた持ち角変換機構によって、鏝板に対して柄を着脱可能とすると共に柄を差し換え時に次作業の塗り面に応じてその2本の六角ビットのうちから適切な角度を備えた六角ビットを選択して柄を鏝板に方向転換させてチャックで固定することが可能となる。
柄の転換方向は、柄側の六角ソケットを鏝板側の六角ビットに嵌合させるため、差し換え時に一つの六角ビットは6通りの少ない限られた60度毎の方向への転換できるが、鏝板の上面に二つの六角ビットを並設し、その六角形の中心を通る対角線の向きを異なる方向に鏝板に固着したため、柄の角度をさらに細かく12通り方向へ転換させることが可能となる。
そして、その細かい角度の選択により柄を最適な方向に向けて鏝板に固定することで、どのような場所でも塗る際に楽な握り手の姿勢で鏝を押える力を思うように入れられ、この結果、綺麗な塗り面に仕上げることが可能となる。
その際、柄を鏝板に固定したときに、2つの六角ビットのうち一つは鏝板上面の上方から見て柄は鏝板の中心線に柄の中心線が重なるよう固着するため、本発明の鏝は柄の向きが固定されている従来の鏝と同様の使用方法も可能となる。
又、柄を外した嵩張らない交換用の複数の鏝板を身につけて作業すれば、塗る場所や塗り方に応じて使用している一つの柄に対して多種の鏝板の中から最適な鏝板を選択して使用することができるので、作業現場から遠い道具置き場にその都度戻って鏝を交換する必要がなくなり鏝交換のための作業員の移動時間や労力の削減等、作業効率の大幅な向上が可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、鏝板に固着する六角ビットを3本としたものなので、差し換え時の柄の向きの転換や鏝板への着脱等については上記六角ビットが2本の形態の発明と同様の効果が得られるが、六角ビットの本数が1本増えることによって、上記2本の場合よりも更に細かな角度の方向転換が可能となる。
即ち、上記2本場合には差し換え時に12通りの異なる方向に柄の角度を転換させることができるが、3本の場合には18通りの細かい間隔に柄を方向転換させて固定することが可能となる。
そして、より細かい角度の選択により柄を最適な方向に向けて鏝板に固定できるので、高所や低所においても塗る際により無理のない握り手の姿勢で鏝を押える力を最適に制御することが可能となる。この結果、より綺麗な塗り面に仕上げることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明は、前記鏝板上面の上方から見て、各六角ビットの柄の中心線と鏝板の中心線との角度が、鏝板の中心線に対して均等分に異なる角度としたので、各六角ビットが2本の形態では、差し換え時に360度を12等分した30度の間隔の角度で方向転換でき、3本の場合には差し換え時に360度を18等分した20度の細かい間隔に柄の方向転換が可能となる。
又、六角ビットが2本の形態では、一つは六角ビットに柄を固定した時に鏝板の中心線に柄の中心線と平行で上から見て重なるよう鏝板に固着するため、差し換え時にもう一つは柄の中心線の向きを90度となる角度に転換させることが可能となり、高所や低所での作業において柄を最も持ちやすい状態に固定でき、塗る際に楽な握り手の姿勢で鏝を押える力を制御して綺麗な面に仕上げることができる。
【0015】
しかし、上記請求項3に記載の発明は、3本の各六角ビットを六角形の中心を通る対角線の向きを異なる方向を均等とすることで差し換え時に20度毎の間隔で柄の方向転換が可能となるが、一つは六角ビットに柄を固定したとき、鏝板上面の上方から見て、鏝板の中心線に柄の中心線が重なるよう鏝板に固着するため他の六角ビットの柄の中心線の向きは80度又は100度に転換できるが正確に90度まで転換させることができない。
これに対して、請求項4に記載の発明は、3本の各六角ビットを六角形の中心を通る対角線の向きを異なる方向を均等分とはしないので六角ビットの一つは鏝板の中心線に対して柄の中心線の向きを正確に90度の方向へ転換させることが可能となる。
このため、上記請求項2に記載の発明と同様に、90度まで転換させて柄を最適な方向に向けて鏝板に固定でき、高所や低所においても塗る際により楽な握り手の姿勢で鏝を押える力を最適に制御してより綺麗な塗り面に仕上げることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記持ち角変換機構が、六角ビットと六角ソケットとを外筒のスライド移動でロックボールを押えて確実にロックすることと、そのロックを解除することとが可能となる。
その際、外筒のスライド移動は柄を持った手の指で上げ下げできるので、容易に鏝板に柄を着脱させることと、差し換え時に柄の向きを転換させて鏝板に嵌着させることとが可能となる。
そして、作業中でも柄の着脱が容易に行えるため、頻繁に塗り場所が変わる作業現場において、左官材料の乾き具合や硬化時間に追われて行われる塗り作業を鏝板の交換を行いつつ鏝塗りのタイミングを逃さずに円滑に進行させることが可能となる。
【0017】
請求項6に記載の発明は、前記各六角ソケットのいずれか一つの六角ビットに六角ソケットを差し込んで柄を鏝板に固定したとき、他方の六角ビットの上端部と柄の下面との間に形成される指の径より大きい間隔によって、柄を持ったときの示指と中指で鏝首を挟んで握る場合や鏝首に近い位置を握ろうとしたときに他方の六角ビットが邪魔にはならなくなる。
【0018】
請求項7に記載の発明は、前記鏝首近傍の鏝板の上面に設けた指圧台の台面は鏝板の上面よりも柄に近くなるので、柄を持った手の指で指圧台を容易に押圧することがでる。
このため、柄を持ったままその指で鏝板を押して塗り面に対して強く鏝押え作業を行うことが可能となる。
そして、鏝首から鏝先までの距離が大きい通常の鏝板の場合には、柄から離れた鏝先まで鏝板を均等に加圧することが難しいが、指圧台は鏝首の固着位置よりも鏝先に近いので、該指圧台の台面を指で押圧することは鏝先まで鏝板を均等に加圧するのに有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の六角ビットが2本の形態の(イ)は柄を外した状態を示し、(ロ)は柄を後側の六角ビットに固定した状態を示し、(ハ)は柄を斜めに固定した状態を示し、(ニ)は柄を90度に固定した状態を示す各斜視図である。
図2】本発明の六角ビットが3本の形態の(イ)は柄を外した状態を示し、(ロ)は柄を固定した状態を示す各斜視図である。
図3】持ち角変換機構の要部を拡大し、(イ)は柄を外す途中の状態を示し、(ロ)は柄を固定した状態を示す各縦断側面図である。
図4】鏝板の中心線に対して(イ)は柄を平行にした状態を示し、(ロ)は柄を30度変換した状態を示し、(ロ)は柄を90度変換した状態を示し、(ニ)は柄を逆方向に90度変換した状態を示す各平面図である。
図5】鏝板に2本の六角ビットを固定した状態を示す模式的平面図である。
図6】鏝板に3本の六角ビットを固定した状態を示し、(イ)は六角ビットの角度を均等分にした形態、(ロ)は一つの六角ビットを90度とした形態の各模式的平面図である。
図7】固定した柄を握った指の位置を示す要部の縦断側面である。
図8】指が指圧台を押した状態の鏝首の周辺を拡大した要部の側面図である。
図9】指圧台を備えた形態の斜視図である。
図10】別の形態の(イ)は柄を外した状態を示し、(ロ)は柄を固定した状態を示す各斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
従来の左官用鏝には塗鏝、レンガ鏝、目地鏝、面引鏝等用途に応じた多数の種類があるが、いずれも鏝板、鏝首及び柄を備えている。
その材質は、鏝板には木、ステンレス、鉄、プラスチック、ゴム等が使用され、柄には木、ステンレス、鉄等が使用される。木、プラスチック等の鏝板の上面には補強のために中央縦に細い金属製の背板を固着したものもある。
左官工事では多数の鏝を道具箱に入れて持ち運び、一つの建設現場であっても塗る場所に応じて1人の職人が多種類の鏝を使い分けて使用する。
本発明の左官用鏝は鏝板に鏝首で柄を繋いで固定した上記の如き全ての左官工事用の鏝を対象とする。
以下本発明の左官用鏝の実施形態を図面を参照して説明する。
【0021】
本発明の左官用鏝を、図1に示すように、縦長な5角形の鏝板1の上面1aに直立させた鏝首3の上部に円柱形の柄2を固定した全てステンレス製とした塗鏝を例に以下説明する。
【0022】
鏝首3は、図1の(イ)に示すように、横90mmで、縦270mmの中央先端部が尖った左右対称な5角形の塗鏝の鏝板1の上面1aに直立状態に溶接で固着する。
前記柄2は、例えば、手に持ち易い直径が35mmで長さが130mmの両端部をステンレス板で塞いだステンレスパイプを用いることができる。
そして、前記鏝首3と柄2との間に、柄2の差し換え時に鏝首3を中心に柄2の持ち角を転換して固定可能とする持ち角変換機構4を設ける。
【0023】
本発明で使用する「持ち角」とは、図1の(ハ)に示すように、鏝板1の上面1aの鏝板1の横幅の中央を通る縦方向に沿う中心線Aと、柄2の横幅の中央を通る縦方向に沿う中心線Bとの交差角度の意味である。該柄2の中心線Bは前記鏝板1の上面1aとは平行とする。
例えば、図1の(ロ)に示す如く、鏝首3に柄2を固定したとき、鏝板1の上面1aの上方から見て、鏝板1の中心線Aに柄2の中心線Bが重なる場合の「持ち角」を基準となる0度とし、図1の(ニ)に示す如く、鏝板1の中心線Aと柄2の中心線Bが直交している場合の「持ち角」を90度とする。
なお、図1の(ハ)は30度に斜めの「持ち角」とした状態を示す。
通常、柄2を手の母指と他の4指との間に挟んで握り、図7に示す如く、更に示指Fと中指Fとで鏝首3を挟みつけて使用する。
図4の(ロ)に示すように、柄2を手で持ったときの鏝板1の中心線Aは柄2の中心線Bに対して一定の方向を向くこととなるが、本発明では鏝板1の中心線Aを基準として柄2の中心線Bの方向を決めるため鏝板1の中心線Aに対する柄2の中心線Bの交差角度を「持ち角」とした。
【0024】
前記持ち角変換機構4は、鏝板1に直立した鏝首3と柄2とを着脱可能とすると共に差し換え時に前記鏝首3を中心に一つの六角ビット5では前記柄2の持ち角を60度毎に変えて適切な持ち角で前記鏝板1に前記柄2を固定可能とする機構である。
図1の(イ)及び図2の(イ)に示すように、鏝板1に直立させて溶接で固着した同径同形の2本又は3本の六角ビット5と、柄2の下部に溶接して固着した前記六角ビット5に挿嵌可能な六角ソケット6との組み合わせ構造を備える。
【0025】
なお、図10は、鏝板に六角ビットを設けるのではなく、鏝板1に円柱状の鏝首支柱14上部に雄ネジ15を備えた鏝首3を直立させて固着し、柄2には上下に貫くネジ孔18を形成し、つまみ17付きの雌ネジ16を前記柄2のネジ孔18に上から差し込んで鏝首支柱14上部の雄ネジ15に羅着し、前記雄ネジ15に雌ネジ16を嵌脱させることで柄2を着脱可能とし、前記雌ネジ16を締め付けることで固定可能とした形態を示している。
この形態では、柄2の差し換え時に鏝板1に柄2が鏝首3を中心に持ち角を自由に変えて固定可能となる。
なお、図10の(イ)は柄2を外した状態を示し、図11の(ロ)は柄2を固定した状態を示す。
【0026】
前記持ち角変換機構4には、電動ドリル等の電動工具で替え刃の接続部分に使用されているものと同様の正六角形の六角ビット5a、5b、5cと、該六角ビット5a、5b、5cを挿嵌可能な六角ソケット6とを着脱可能に固定する六角ソケット6と一体となったチャック7等が使用可能である。
【0027】
前記チャック7には外筒スライド式のチャック7が使用できる。
該チャック7は、図3の(イ)に示すように、鏝板1側の外径が6mmの六角ビット5a、5b、5cと、柄2側の該六角ビット5a、5b、5cを嵌合可能な外径が10mmで内径が前記六角ビット5とほぼ同径の前記六角ソケット6とを備える。
そして、前記六角ソケット6には内側に径を絞った内辺縁10aを有するロックボール孔10を備えると共に該ロックボール孔10から突出可能な前記内辺縁10aの径より大きい径のロックボール8を嵌着し、前記六角ビット5a、5b、5cには前記内辺縁10aから突出したロックボール孔10を嵌入可能な深さの周溝5dを備える。
そして、六角ソケット6の外側には前記周溝5dに嵌入したロックボール8を閉じ込める大径内壁面9bと小径内壁面9bとを備えた外筒9を配着し、図4の(ロ)に示すように、該外筒9のスライド移動により小径内壁面9bでロックボール8を押圧して前記六角ソケット6を前記六角ビット5a、5b、5cから離脱不能にロックし、図4の(イ)に示すように、該外筒9のスライド移動により大径内壁面9bにロックボール8を逃がすことでロックを解除して前記六角ソケット6を前記六角ビット5a、5b、5cから離脱可能とするものである。
【0028】
図3の(ロ)は、外径が7mmの六角ビット5aの上端部近くに設けた周溝5dに入ったロックボール8の外側から長さ17mm、外径が六角ソケット6の内径とほぼ等しい7mmの内径で外径が14mmの外筒9の小径のロックボール押出し面9bが、ロックボール8を周溝5dから出ないように押さえつけた状態を示している。
この図3の(ロ)の状態においては、六角ビット5aは六角ソケット6からは抜けられず、この状態のときロックボール8と周溝5dとの遊びが殆どないように周溝5dを形成すれば、固定した両者の緩みが生じないように固定できる。即ち、鏝板1と柄2とは、軸方向においても軸回転方向においても殆ど緩まない状態に結合されることとなる。
なお、図3は、外筒9を押し上げて離脱する態様を示すが、それとは逆に押し下げて離脱させる態様も可能である。
【0029】
そして、鏝板1に連結した柄2に遊びが殆どないようにするには、周溝5dを遊び空間が生じないようにできるだけ小さく形成すれば良い。
又、鏝板1は直立状態に鏝首3が溶接で固着されるので、前記六角ビット5aと六角ソケット6の連結部分に遊びがなければ柄2は鏝板1に振れることなく強く固定されるので、使用したとき、手振れがなく壁面等に平滑で綺麗な塗面が得られる。
【0030】
鏝を使用中に鏝板1と柄2とを分離する際には、外筒9を上げてロックボール逃がし面9aがロックボール8に到達すると、ロックボール8は大径のロックボール逃がし面9a内に自由に抜け出せるようになり、柄2から鏝板1を下げることで六角ビット5aを下ろすと、図3の(イ)に示すように、ロックボール8は周溝5dから抜けて六角ビット5aの六角面に押されて外筒9のロックボール逃がし面9aに接近し、そのまま六角ビット5aは抵抗なく引き出されて、六角ソケット6から柄2を外すことができる。
この態様では、内径が小径のロックボール押出し面9bと大径のロックボール逃がし面9aとの間は段差のないテーパー面とすることで、ロックボール8をロックボール押出し面9bとロックボール逃がし面9aの両側へ円滑に移動させるができる。
【0031】
以上の如く、鏝板1と柄2とは指で外筒9をスライドさせることで簡単に分離させることができ、接続する際には、外筒9を指で引き上げてロックボール逃がし面9aにロックボール8を逃がして六角ビット5aを差し込みそのまま深く押し入れれば周溝5dにロックボール8が落とし込まれてロックされるので簡単に固定することができる。
その際、図3の(イ)に示すように、コイルバネ11で外筒9は六角ソケット6から出る方向に付勢され、六角ソケット6の端部には外筒ストッパ12に外筒9先端のストッパ突当り部13が突き当たって停止するようにすれば使用中に外筒9は自然に移動することはなく抜けることもない。
なお、図3中の符号6a、9cはコイルバネ11を両側で挟んで止めるバネ止である。
【0032】
以上持ち角変換機構4について詳述したが、次に、図1に示すように、鏝板1に2本の六角ビット5a、5bを設けた形態と、図2に示すように、3本の六角ビット5a、5b、5cを設けた形態とを説明する。
【0033】
図1の2本の六角ビット5a、5bを設けた形態も、図2の3本の六角ビット5a、5b、5cを設けた形態も、各六角ビット5a、5b、5cは鏝板1に夫々少しの間隔を置いて直立状態に固着するが、各六角ビット5a、5b、5cは全て同径同形とし、且つ六角ビット5a、5b、5cの六角形の向きは相互に異なるようにする。
本発明における六角ビット5a、5b、5cの向きとは、六角ビット5a、5b、5cの中心軸線の向きではなく、六角形の中心を通る対角線方向の向きのことである。
但し、鏝首3に柄2を固定したとき、鏝板1の上面1aの上方から見て、鏝板1の中心線Aに柄2の中心線Bが重なる場合の持ち角が0度となるのは、六角形の対角線の向きが図5の下側に示す六角ビット5aと図6の中央に示す六角ビット5aは、六角形の対角線と重なる方向で示したが、六角形の対角線の向きと、柄2の中心線Bの向きとは必ずしも一致するものではなく、六角形の対角線が柄2の中心線Bの向きと異なる方向であっても、鏝首3に柄2を固定したときに、鏝板1の上面1aの上方から見て、鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bが重なる場合を持ち角が基準の0度とし、この基準に対して各六角ビット5a、5b、5cの六角形の対角線の方向が相互に異なる角度とする。
【0034】
鏝板1に2本の六角ビット5a、5bを設けた形態では、各六角ビット5a、5bに柄2を固定したときに、例えば、六角ビットは、図5の下側に示した一方の六角ビット5aでは、鏝板1の中心線Aと柄2の中心線Bとが重なるように取り付け角度を決めて鏝板1に固着し、図5の上側に示した他方の六角ビット5bでは、鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bが前記六角ビット5aとは柄2の中心線の向きが90度となるように30度の異なる取り付け角度αとする。
この形態では、六角形の対角線の角度αは全て30度に均等分される。
【0035】
又、鏝板1に3本の六角ビット5a、5b、5cを設けた形態では、相互に異なる角度の六角ビット5a、5b、5cは、そのうち一本の六角ビット5aは、鏝板1の中心線Aと柄2の中心線Bとが重なるように取り付け角度を決めて鏝板1に固着する。
そして、図6の(イ)に示すようにこの一本の六角ビット5aを基準に相互に異なる角度はβ、γとするが、角度はβを20度とし、角度γを40度とすると六角形の対角線の角度を全て20度に均等分することができる。
【0036】
そして、3本の各六角ビット5a、5b、5cを六角形の中心を通る対角線の向きを均等分すると、20度毎の間隔で柄の方向転換が可能となるので、一つは六角ビット5aに柄を固定した時には鏝板の中心線に柄の中心線が重なるよう鏝板に固着できるため、鏝板1の上面1aの上方から見て、一つの六角ビット5aの鏝板1の中心線Aと重なる方向に固定できるようにすると、その柄2の方向に対して柄1の中心線Aの向きを80度又は100度には転換できるので10度違いで90度に近い角度とはなるが、正確に90度に転換させることができない。
そこで、図6の(ロ)に示すように、他の2つのうち各六角ビット5b、5cを六角形の中心を通る対角線の向きを異なる方向を均等分とはせず、六角ビットの一つは鏝板の中心線に対して柄2の中心線Bの向きが90度となる方向への転換が可能となる30度の角度α(図6の(ロ)の下側の六角ビット5cに示す)とする。
即ち、鏝板1に3本の六角ビット5a、5b、5cを設けた形態では、図6の(イ)及び(ロ)に示すように、六角ビット5a、5b、5cの相互に異なる角度の内の一つは、六角ソケット6を差し込んで柄2を連結したとき、鏝板1の中心線Aと柄2の中心線Bとが平行となるように取り付け角度を決めるが、他の2つは使い方に応じた相互に異なる角度とすることができる。
【0037】
上述の如く、本発明の柄2を握ったときの持ち角は、2本の六角ビット5a、5bを設けた形態では、図1の(ロ)に示す鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bが平行な角度である0度から途中の図1の(ハ)に示す30度変換した状態と、図1の(ニ)に示す90度まで30度間隔で12通りの変換ができ、又、3本の六角ビット5a、5b、5cを設けた形態では、均等分すれば更に細かい20度間隔で18通りの角度の変換が可能となる。
このため、図4では鏝板1が壁に塗る際に天井に近い高い位置の場合、鏝を頭より高く掲げて鏝を水平方向(図の左右の方向)に進行させて使用することとなるが、その際、柄2を握った手Hは、図4の(ハ)の如く柄を90度変換した状態では無理がないが、図4の(イ)の鏝板1の中心線Aに対して柄2を平行にした状態では手首を前に大きく曲げるため無理があり、力が入らない。
図4の(ロ)の如く柄を30度変換した状態では塗る高さによっては最適な角度となる。
【0038】
なお、図1及び図2に示すように、前記各六角ビット5a、5b、5cは、鏝板1の中心線A上に夫々少し間隔を開けて配着する。
その間隔は、使用する際に相互に小さい間隔であるほど鏝板1の上面1a面内で相互に違和感のない取り付け位置となるので好ましいが、六角ビット5a、5b、5cに着脱するチャック7が当ってしまうほど近づけると干渉して着脱できなくなるので、少なくともチャック7が着脱可能な取り付け間隔とする。
【0039】
又、図7に示すように、一方側又は中央側の六角ビット5aを他の六角ビット5b、5cより指Fの径程度開くLの長さに形成することができる。
この形態では、各六角ソケット6のいずれかに六角ビット5を差し込んで、柄2を鏝板1に固定したとき、他方の六角ビット5の上端部と柄2の下面との間に指Fの径より大きい間隔が形成されるように各六角ビット5の長さを設定する。
しかし、鏝首3がその長さより過度に長いと塗る際に鏝の動きが腰高で不安定となる場合があるので好ましくない。
そして、この形態では前記各六角ソケット6のいずれか一つの六角ビット5に六角ソケット6を差し込んで柄2を鏝板1に固定したとき、他方の六角ビット5の上端部と柄2の下面2aとの間に形成される指の径より大きい間隔Lによって、柄2を持ったときの示指と中指で鏝首3を挟んで握る場合や鏝首3に近い位置を握ろうとしたときに他方の六角ビット5が邪魔にはならなくなる。
【0040】
又、前記鏝首3近くの鏝板1の上面1aに、図8及び図9に示すように、柄2を持った手Hの指Tで台面19aを押圧可能な高さの指圧台19を設けた形態が可能である。
前記鏝首3近くの鏝板1の上面1aに設けた指圧台19は鏝板1の上面1aよりも柄2に近くなるので、柄2を持った手Hの指Fで指圧台19を容易に押圧することができ、柄2を持ったままその指Fで鏝板1を押して、塗り面に対して強く鏝押え作業を行うことが可能となる。
この形態では、鏝首3から鏝先までの距離が大きい通常の鏝板1の場合には、鏝先まで鏝板1を均等に加圧することが難しいが、指圧台19の台面19aは鏝首3の固着位置よりも鏝先に近いので、該指圧台19を指で押圧することは鏝先まで鏝板1の全面をできるだけ均等に加圧することが可能となる。
【0041】
本発明は、図4の(イ)に示すように、鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bが平行な状態に固定した従来と鏝と同様な持ち角で使用することもできるが、図4の(ロ)、(ハ)及び(ニ)に示すように、柄2の中心線Bが平行ではない従来とは異なった持ち角で使用することとが可能である。
【0042】
ここで、柄2を持つ手及び腕の、鏝に対する力の入り方を鏝板1に対する柄2の方向との関係で解剖学的に説明する。
手は、腕の上腕骨に肘関節で繋がった2本並行な尺骨と橈骨に、多数平面的に並んだ手首の手根骨を介して手のひらの第1から第5の中手骨で繋がっている。このような骨格となっているため、手首は手のひらと平行な方向へは曲げにくくなっている。
そして、手首を曲げるための筋肉の腱が手首に繋がっているが、手首に繋がる大きい腕橈骨筋と橈側手屈筋は尺骨と橈骨の内側にあって上腕骨に繋がっていて、手首を手のひらの表方向に曲げる働きをする。
しかし、手のひらと平行に曲げる長橈側手根伸筋、短橈側手根伸筋及び尺側手根屈筋は細いので大きな力が出せない。
即ち、手は腕の先で手のひらの表の方向へは大きく大きい力で曲げられるが、手のひらと平行な横方向へは強い力で大きく曲げることができない骨格及び筋肉の構造となっている。
【0043】
又、天井付近の高い壁面や腰より低い部分の壁面の鏝作業を行うと、上腕と前腕は大きく開いて肘が伸びて手は身体の重心から遠く離れてしまうため手を壁面へ押し付けようとしたとき手には殆ど体重を掛られなくなってしまい、手と腕で鏝を壁面に押し付けるには上記の如き骨格を動かす腕の筋肉に頼らなければならない。
次に、鏝板1を横へ(図4の左右の方向)進行させつつ適度な力で塗る場合の鏝の使用方法につて説明する
【0044】
胸に近い壁面中間の高さの作業では、図4の(イ)に示すように、鏝板1の中心線Aと柄2の中心線Bとが平行な持ち角0度で塗り作業をする。これは従来の柄が固定されている鏝と同じ塗り方となる。
【0045】
次に、図4の(ハ)に示すように、鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bを90度に変換して固定した場合について説明する。
この持ち角は、天井付近の高い壁面の作業に適し、柄2を握った手Hは頭より高く上げて柄2を持ち、手は手のひらの方向(壁面方向)に曲げて鏝を壁に押し付けることとなるので、太い腕橈骨筋、橈側手屈筋、上腕内頭筋等の筋肉によって鏝に対して大きな力を加えることが可能となる。
この結果、安定した鏝使いで楽に綺麗な仕上げ面が得られる。
これに対して、従来の鏝では鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bが平行に固定されているため天井に近い位置ほど手首を手のひらと平行となる小指の方向に大きく曲げなければならず、使用される長橈側手根筋や上腕外頭筋等の筋肉も細いので手首が壁面に向けて曲げ難い上に鏝に力が入らないので綺麗な仕上げ面が得られない。
【0046】
次に、図4の(ニ)に示すように、鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bを逆方向に90度変換して固定した場合について説明する。
この持ち角は、腰より低い部分の壁面の作業に適し、柄2を握った手Hは腰より低く下げて柄2を持ち、手Hは手のひらの方向(壁面方向)に曲げて鏝を壁に押し付けることとなるので、鏝に対して太い腕橈骨筋、橈側手屈筋、上腕筋、上腕二頭筋等の筋肉によって大きな力を加えるここと可能となる。
この結果、安定した鏝使いで楽に綺麗な仕上げ面が得られる。
そして、綺麗に仕上げようと無理に力を入れて作業することもないので大きな疲労を起こさない。
これに対して、従来の鏝では鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bが平行に固定されているため床に近い位置ほど手首を手のひらと平行となる母指の方向に大きく曲げなければならず、使用される手根筋等の筋肉も細いので手首を壁面に向けて曲げ難い上に鏝に力が入らないので綺麗な仕上げ面が得られない。
なお、本発明は図4の(ロ)の如く柄2を30度変換した状態とすれば塗る高さによっては最適な角度とすることができる。
【0047】
又、本発明では1本の柄2に対して複数の鏝板1の交換ができるが、一つの六角ソケット6を備えた柄2に対して該六角ソケット6が挿嵌可能な六角ビット5を有する同じ持ち角変換機構4を備えた多数の多種の鏝板1を用意しておくことで、建設現場において、当面使用すると考えられる複数の鏝板1を身につけて作業すれば、多種の鏝板1の中から最適な鏝板1を選択して即座に使用することができるので、作業現場から遠い道具置き場にその都度戻って鏝を交換する必要がなくなり鏝交換のための作業員の移動時間や労力の削減等、作業効率の大幅な向上が可能となる。
その際、柄2についても、ステンレス製の他に木製の柄2等、着脱交換できるものを数個用意しておけば、更に多様な対応が可能となる。
そして、例えば、腰に、六角ビット5を差し込むソケットをベルトの外側に向けて鏝板1の横幅間隔に複数固定した専用ベルトを使用することで、左官作業の現場において腰に複数の鏝板1を着けたままで作業を行うことができる。そして、時々刻々と硬化や乾燥が進行して行くので最適なタイミングで塗り付けることが求められる左官材料に対応し、又、刻々と変わって行く塗る場所に対応して手を伸ばして簡単に別の鏝板1と交換して最適なタイミングで最適な鏝板1を使用することが可能となる。
又、モルタルなどの左官材料は、鏝板1に付着した状態で放置すると数時間で固まってしまい、一旦固まると容易には落とせないが、鏝板1が汚れたら柄2からその鏝板1を外して水中に漬けて硬化を防ぎ、別の鏝板1を使用し、随時交換しつつ使用すれば汚れを落し易い状態で容易に洗浄できるようになる。
【0048】
次に柄2の握り方について説明する。
鏝板1中央部に力を加え易いように柄2は示指と中指との間に鏝首3を挟んで握って使用するが、鏝首3が短いと、図4の(イ)に示すように、鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bが重なる状態で使用すると、特に3本の六角ビット5a、5b、5c間は、図2の(ロ)に示すように、広い間隔となるため指の間を大きく開かなければならない。これを避けるため、図7に示すように、六角ソケット6を指の径程度の長さとすることで握ったとき隣の六角ビット5bの上の空間に指を入れ、1本の六角ビット5及び六角ソケット6のみを挟んで柄2を握ることが可能となり柄2が握りやすくなる。
又、図4の(ロ)、(ハ)及び(ニ)に示すように、鏝板1の中心線Aに対して柄2の中心線Bを90度に変換した状態や斜めの状態で使用すると、六角ビット5a、5bは両指の隙間の方向に並ぶため、示指と中指との間に両六角ビット5a、5bを同時に挟んで使用でき、指で挟む力を利用して鏝を制御することが可能となる。
なお、力を入れて鏝を壁に押し付けて使用するとき、鏝首3に示指と中指の側部面が強く当るため、鏝首3にはゴムなどのクッション材や、布等を巻き付けることで指への圧迫痛を和らげることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は主として左官工事に使用される鏝であるが、左官工事以外の塗装等各種工事に使用される鏝にも利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 鏝板
1a 鏝板の上面
2 柄
3 鏝首
4 持ち角変換機構
5 六角ビット
5a 六角ビット
5b 六角ビット
5c 六角ビット
5d 周溝
6 六角ソケット
6a バネ止
7 チャック
8 ロックボール
9 外筒
9a 大径内壁面
9b 小径内壁面
9c バネ止
10 ロックボール孔
10a 内辺縁
11 コイルバネ
12 外筒ストッパ
13 ストッパ突当り部
14 鏝首支柱
15 雄ネジ
16 雌ネジ
17 雌ネジのつまみ
18 ネジ孔
19 指圧台
19a 台面
A 鏝板の中心線
B 柄の中心線
α 持ち角
β 持ち角
γ 持ち角
H 手
F 指
L 六角ビットの上端部と柄の下面との間隔


図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10