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特許7015112ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液、並びにこれらの溶液を用いる酸化亜鉛薄膜の製造方法
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  • 特許-ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液、並びにこれらの溶液を用いる酸化亜鉛薄膜の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液、並びにこれらの溶液を用いる酸化亜鉛薄膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/72 20060101AFI20220207BHJP
   C01G 9/02 20060101ALI20220207BHJP
   C07C 69/716 20060101ALI20220207BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20220207BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20220207BHJP
   C07F 3/06 20060101ALN20220207BHJP
【FI】
C07C69/72
C01G9/02 A
C07C69/716
H01B1/20 A
H01B13/00 503B
C07F3/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017017300
(22)【出願日】2017-02-02
(65)【公開番号】P2018123095
(43)【公開日】2018-08-09
【審査請求日】2019-11-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】豊田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】羽賀 健一
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-254481(JP,A)
【文献】特開2016-216292(JP,A)
【文献】特開平11-052600(JP,A)
【文献】特開2008-013653(JP,A)
【文献】特開2011-170979(JP,A)
【文献】特開2011-168407(JP,A)
【文献】国際公開第2012/120918(WO,A1)
【文献】特開2012-087019(JP,A)
【文献】特開2009-120873(JP,A)
【文献】特開2008-088511(JP,A)
【文献】特開2008-120686(JP,A)
【文献】特開2012-184192(JP,A)
【文献】特開2005-350423(JP,A)
【文献】特開2006-342960(JP,A)
【文献】特開平07-182939(JP,A)
【文献】European Journal of Inorganic Chemistry,2015年,pp. 3658-3665
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/72
C01G 9/02
H01B 1/20
H01B 13/00
C07F 3/06
C07C 69/716
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシ基を有するジケトン化合物、下記一般式(1)で表されるジアルキル亜鉛及び/又は当該ジアルキル亜鉛の部分加水分解物、及び溶媒を含有し、前記アルコキシ基を有するジケトン化合物が、下記一般式(2)若しくは一般式(3)で示される化合物、又はそれらの混合物であり、
前記ジアルキル亜鉛の部分加水分解物は、酸化亜鉛及び析出物を含まない、下記一般式(4)で表される部分加水分解物であり、前記溶媒が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、炭化水素系溶媒、エーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、トリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、プロピレングリコールジアルキル化合物、ジプロピレングリコールジアルキル、およびトリプロピレングリコールジアルキル化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の溶媒であり、相対湿度35~80%の雰囲気下で基材に塗布して基材上に、割れ及び剥がれを有さず、かつ550nmの可視光線に対して80%以上の透過率を有する酸化亜鉛薄膜を製造する方法に用いるための溶液。
【化1】
(式中、R10は炭素数1または2のアルキル基である。)
【化2】
(式中、R1は炭素数1~6のアルキル基、フェニル基及びベンジル基から選ばれる置換基を、R2は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【化3】
(式中、R1は炭素数1~6のアルキル基、フェニル基及びベンジル基から選ばれる置換基、R2は炭素数1~6のアルキル基、R3およびR4は水素または炭素数1~6のアルキル基をそれぞれ示す。)
【化4】
(式中、R 10 は炭素数1または2のアルキル基であり、mは1~20の整数である。)
【請求項2】
前記アルコキシ基を有するジケトン化合物が、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸ブチル及びピルビン酸エチル、又はそれらの混合物である、請求項1に記載の溶液。
【請求項3】
前記アルコキシ基を有するジケトン化合物が、ジアルキル亜鉛又はジアルキル亜鉛の部分加水分解物中の亜鉛に対するモル比で0.01~2の範囲で含有される、請求項1~2のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項4】
前記ジアルキル亜鉛がジエチル亜鉛である、請求項1~3のいずれか1項に記載の溶液。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載の溶液を相対湿度35~80%の雰囲気下で基材に塗布する工程を含む、割れ及び剥がれを有さず、かつ550nmの可視光線に対して80%以上の透過率を有する酸化亜鉛薄膜の製造方法。
【請求項6】
基材を加熱する工程を含む請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
500℃以下の温度で基材を加熱した状態において、前記溶液を基材に塗布する請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記塗布を空気中で行う請求項5~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液、並びにこれらの溶液を用いる酸化亜鉛薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
可視光線に対して高い透過性を有する透明な酸化亜鉛薄膜は、光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、CIGS、有機薄膜太陽電池のバッファ層、色素増感太陽電池の電極膜、帯電防止膜、薄膜トランジスタ、化合物半導体発光素子、蛍光体素子、抗菌・脱臭膜、圧電膜、バリスタ膜、メッキ膜、等に使用され、幅広い用途を持つ(非特許文献1)。
【0003】
透明な酸化亜鉛薄膜の製造方法として種々の方法が知られている(非特許文献2)が、真空容器を用いる必要がなく装置が簡便で、膜形成速度が速いため生産性も高く膜製造コストが低い塗布法による製造が望ましい。
【0004】
塗布法として、スピンコート法(特許文献1)、ディップコート法(非特許文献3)、スプレー熱分解法(非特許文献4)等がある。
【0005】
上記スピンコート法、ディップコート法、スプレー熱分解法では、それぞれ塗布後に基板温度を350℃以上に加熱することで酸化亜鉛薄膜を得ている。
【0006】
しかし、透明な酸化亜鉛薄膜は、基板としてプラスチック基板を用いるようになってきている。そのため、透明な酸化亜鉛薄膜の形成時に適用される加熱は、プラスチック基板の耐熱温度以下で実施される必要がある。しかるに、上記スピンコート法、ディップコート法、スプレー熱分解法では、プラスチックの耐熱温度以下の加熱では、透明な酸化亜鉛薄膜を得ることはできない。
【0007】
そこで、本発明者らの検討により、ジアルキル亜鉛と水を反応させたジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を用いることで、300℃以下の温度でも透明な酸化亜鉛薄膜を形成する方法が見出された(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平7-182939号公報
【文献】特開2010-254481号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】“酸化亜鉛透明導電膜:次世代ディスプレイに向けて“ ハクスイ株式会社総合情報誌 インフォ, 第13巻 (2005) p1
【文献】日本学術振興会透明酸化物光電子材料166委員会編, 透明導電膜の技術 改訂2版, (2006) p165~173
【文献】Y.Ohya et al, J. Mater. Sci., 29,4099~4103頁 (1994)
【文献】J.Aranovich et al, J. Vac. Sci. Technol., 16(4), 994~1002頁(1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、ジエチル亜鉛部分加水分解物含有溶液は、水又は水分との反応性があり、そのため、透明な酸化亜鉛薄膜を形成するためには、通常、水又は水分が除去された乾燥状態で供給される窒素、アルゴン等の不活性ガスや乾燥処理を施した空気中で製膜をする方法が採られていた。しかし、不活性ガスや空気の乾燥状態を維持しつつ操作をするには、不活性ガス、不活性ガス供給設備、または空気の乾燥装置、さらにはグローブボックス等のガス保持設備を必要とし、酸化亜鉛薄膜の形成コストが通常の塗布法よりやや高くなるという課題があった。
【0011】
本発明の目的は、酸化亜鉛薄膜の形成を乾燥処理を施していない空気(大気)中で行うことが可能なジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液を提供することである。加えて本発明は、空気中での実施も可能な、酸化亜鉛薄膜の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の通りである。
[1]
アルコキシ基を有するジケトン化合物、下記一般式(1)で表されるジアルキル亜鉛及び/又は当該ジアルキル亜鉛の部分加水分解物、及び溶媒を含有する溶液。
【化1】
(式中、R10は炭素数1~6の直鎖または分岐したアルキル基である。)
[2]
前記アルコキシ基を有するジケトン化合物が、アルコキシ基を有するαジケトン化合物、アルコキシ基を有するβジケトン化合物、αケト酸エステル及びβケト酸エステルからなる群から選ばれる1又は2以上のジケトン化合物である、[1]に記載の溶液。
[3]
前記アルコキシ基を有するジケトン化合物が、次の一般式(2)又は一般式(3)で示される化合物、又はそれらの混合物である、[1]又は[2]に記載の溶液。
【化2】
(式中、R1は炭素数1~6のアルキル基、フェニル基及びベンジル基から選ばれる置換基を、R2は炭素数1~6のアルキル基を示す。)

【化3】
(式中、R1は炭素数1~6のアルキル基、フェニル基及びベンジル基から選ばれる置換基、R2は炭素数1~6のアルキル基、R3およびR4は水素または炭素数1~6のアルキル基をそれぞれ示す)
[4]
前記アルコキシ基を有するジケトン化合物が、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸ブチル及びピルビン酸エチル、又はそれらの混合物である、[1]~[3]のいずれか1項に記載の溶液。
[5]
前記アルコキシ基を有するジケトン化合物が、ジアルキル亜鉛又はジアルキル亜鉛の部分加水分解物中の亜鉛に対するモル比で0.01~2の範囲で含有される、[1]
~[4]のいずれか1項に記載の溶液。
[6]
前記ジアルキル亜鉛がジエチル亜鉛である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の溶液。
[7]
前記ジアルキル亜鉛の部分加水分解物が、ジアルキル亜鉛の亜鉛に対してモル比が0.4~0.9の範囲の水で加水分解した部分加水分解物である、[1]~[6]のいずれか1項に記載の溶液。
[8]
前記ジアルキル亜鉛の部分加水分解物が、下記一般式(4)で表される部分加水分解物である[1]~[7]のいずれか1項に記載の溶液。
【化4】
(式中、R10は炭素数1~6の直鎖または分岐したアルキル基であり、mは1~20の整数である。)
[9]
前記溶媒は、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、炭化水素系溶媒、エーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、トリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、プロピレングリコールジアルキル化合物、ジプロピレングリコールジアルキル、トリプロピレングリコールジアルキル化合物、鎖状アミド化合物および環状アミド化合物から成る群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である、[1]~[8]のいずれか1項に記載の溶液。
[10]
[1]~[9]のいずれか1項に記載の溶液を基材に塗布する工程を含む酸化亜鉛薄膜の製造方法。
[11]
基材を加熱する工程を含む[10]に記載の製造方法。
[12]
500℃以下の温度で基材を加熱した状態において、前記溶液を基材に塗布する[10]又は[11]に記載の製造方法。
[13]
前記塗布を空気中で行う[10]~[12]のいずれか1項に記載の製造方法。
[14]
前記塗布を相対湿度35~80%の雰囲気下で行う[10]~[13]のいずれか1項に記載の製造方法。
[15]
前記酸化亜鉛薄膜が、550nmの可視光線に対して80%以上の透過率を有する薄膜である、[10]~[14]に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、空気中で透明な酸化亜鉛薄膜を形成しうるジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液を提供することができ、かつ、本発明のジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つ含有する溶液を用いれば、空気中での成膜においても基材への密着性の高い透明な酸化亜鉛薄膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例21で得られた酸化亜鉛薄膜の垂直透過率スペクトル。
図2】実施例21で得られた酸化亜鉛薄膜のATR法によるIRスペクトル。
図3】実施例57で得らえた酸化亜鉛薄膜の垂直透過率スペクトル。
図4】実施例57で得られた酸化亜鉛薄膜のATR法によるIRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ジアルキル亜鉛含有溶液]
本発明の第一の態様は、一般式(1)で表されるジアルキル亜鉛を含有する、ジアルキル亜鉛含有溶液であって、さらにアルコキシ基を有するジケトン化合物を含むものである。
【0016】
【化5】
(式中、R10は炭素数1~6の直鎖または分岐したアルキル基である。)
アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基を挙げることができるが、これらに限定される意図ではない。
【0017】
[ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液]
また、本発明の第二の態様は、一般式(1)で表されるジアルキル亜鉛の部分加水分解物及び溶媒を含有する、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液であって、さらにアルコキシ基を有するジケトン化合物を含むものである。
【0018】
さらに、前記部分加水分解物は、前記ジアルキル亜鉛中の亜鉛に対して、モル比が0.4~0.9の範囲の水で加水分解したものである。前記部分加水分解物は、前記ジアルキル亜鉛と溶媒との混合物に対して水を添加してジアルキル亜鉛を加水分解することで得られる物であることが、加水分解の操作により、本発明のジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を得ることができることから適当である。
【0019】
【化6】
(式中、R10は炭素数1~6の直鎖または分岐したアルキル基である。)
アルキル基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基を挙げることができるが、これらに限定される意図ではない。
【0020】
[ジアルキル亜鉛]
一般式(1)で表されるジアルキル亜鉛の例としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛、ジイソブチル亜鉛、ジ-tert-ブチル亜鉛等をあげることができる。価格が安価であるという観点から、ジエチル亜鉛が好ましい。但し、これらの化合物に限定される意図ではない。
【0021】
[ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液]
本発明においては、前述のジアルキル亜鉛溶液とジアルキル亜鉛部分加水分解物はそれぞれ単独して用いてもよく、またそれらを混合して用いてもよい。即ち、ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液を用いることが出来る。
【0022】
[溶媒]
ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液で用いることのできる溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、オクタン、n-デカン、等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、等の芳香族炭化水素;ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル、等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、t-ブチルメチルエーテル、ジn-プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサラン、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル化合物;1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン等のエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のトリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;プロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキル化合物;ジプロピレングリコールジメチル等のジプロピレングリコールジアルキル;トリプロピレングリコールジメチル等のトリプロピレングリコールジアルキル化合物、N,N,ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド等の鎖状アミド化合物、N-メチル-2-ピロリドン(NMPと略記することがある)、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン等の環状アミド化合物、又はそれらの混合物等を挙げることができる。
【0023】
[ジアルキル亜鉛含有溶液の製造]
ジアルキル亜鉛含有溶液は前記ジアルキル亜鉛と溶媒とを混合することにより調製される。具体的には、ジアルキル亜鉛との反応性を考慮すると、例えば、乾燥雰囲気(例えば、乾燥状態で供給される不活性ガス雰囲気)下、前記ジアルキル亜鉛を前記溶媒に溶解することにより調製される。
【0024】
前記ジアルキル亜鉛含有溶液中のジアルキル亜鉛の濃度は、0.1~50質量%とすることができ、0.1~30質量%の範囲であることが、塗布における造膜性(形成された膜の密着性、均一性等)の容易さという観点から好ましい。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0025】
前記ジアルキル亜鉛への溶媒の添加は、混合する原料の種類や容量等により適宜設定できるが、例えば、1分~10時間の範囲とすることができる。添加時の温度は-20~150℃の間の任意の温度を選択できる。但し、安全性等を考慮すると-20~80℃の範囲であることが好ましい。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0026】
溶媒の添加後に、前記ジアルキル亜鉛の混合を進行させるために、必要に応じて0.1~50時間熟成させることができる。熟成温度は-20~150℃の間で任意の温度を選択できる。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0027】
前記溶媒、ジアルキル亜鉛は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入できる。反応容器の圧力は制限されない。ジアルキル亜鉛含有溶液の調製の工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく特に制限はないが、回分操作式が好ましい。
【0028】
[ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の製造]
ジアルキル亜鉛部分加水分解物の調製は、前記ジアルキル亜鉛に対するモル比が0.4~0.9の範囲で、水、又は水を含有する溶液を用いて行う。ジアルキル亜鉛に対する水のモル比が0.4未満では、溶媒を乾燥除去した後も液状になり易く(固体になりにくく)均一な酸化亜鉛薄膜を形成することが困難である。均一な酸化亜鉛薄膜を形成するという観点からは、ジアルキル亜鉛に対する水のモル比が0.6以上であることがより好ましい。一方、ジアルキル亜鉛に対する水のモル比が0.9を超えると溶媒に不溶なゲル、固体が析出し、ゲル、固体による均一な酸化亜鉛薄膜の形成が困難になる。析出したゲルや固体は、ろ過除去することも可能であるが、亜鉛分の損失に繋がるので好ましくない。
【0029】
前記ジアルキル亜鉛部分加水分解物の調製は、具体的には、ジアルキル亜鉛との反応性を考慮すると、例えば、乾燥雰囲気(例えば、乾燥状態で供給される不活性ガス雰囲気)下、前記ジアルキル亜鉛を前記溶媒に溶解した溶液に、水、又は水を含有する溶液を添加して行うことができる。水自身(溶媒との混合物ではない純粋な水)を添加してもよいが、ジアルキル亜鉛と水の反応時の発熱制御の点からは水を含有する溶液を添加して行うことが好ましい。水を含有する溶液の溶媒は、水の溶媒への溶解度、製造の簡易さ、という観点から、前記溶媒のうち、エーテル化合物、エチレングリコールジアルキルエーテル化合物、ジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、トリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物、プロピレングリコールジアルキル化合物、ジプロピレングリコールジアルキル、トリプロピレングリコールジアルキル化合物、鎖状アミド化合物、環状アミド化合物、又はそれらの混合物を用いることが好ましい。
【0030】
水、又は水を含有する溶液を添加する前記ジアルキル亜鉛溶液中のジアルキル亜鉛の濃度は、0.1~50質量%とすることができ、0.1~30質量%の範囲であることが、塗布における造膜性(形成された膜の密着性、均一性等)の容易さという観点から好ましい。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0031】
前記ジアルキル亜鉛溶液への水、又は水を含有する溶液の添加は、混合する原料の種類や容量等により適宜設定できるが、例えば、1分~10時間の範囲とすることができる。添加時の温度は-20~150℃の間の任意の温度を選択できる。但し、安全性等を考慮すると-20~80℃の範囲であることが好ましい。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0032】
水、又は水を含有する溶液の添加後に、前記ジアルキル亜鉛の水による部分加水分解をさらに進行させるために、0.1~50時間熟成させることができる。熟成温度は-20~150℃の間で任意の温度を選択できる。但し、この範囲は例示であり、この範囲に限定される意図ではない。
【0033】
前記溶媒、ジアルキル亜鉛、水、又は水を含有する溶液は、あらゆる慣用の方法に従って反応容器に導入できる。反応容器の圧力は制限されない。ジアルキル亜鉛部分加水分解反応工程は回分操作式、半回分操作式、連続操作式のいずれでもよく特に制限はないが、回分操作式が好ましい。
【0034】
上記部分加水分解により、上記ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液が得られる。部分加水分解物の組成についての解析は古くから行われている。しかし、報告により生成物の組成結果が異なり、生成物の組成が明確に特定されていない。また、溶媒、濃度、水の添加モル比、添加温度、反応温度、反応時間、等によっても生成物の組成は変化する。
【0035】
本発明の方法におけるジアルキル亜鉛部分加水分解物は下記一般式(4)で表される構造単位を含む化合物の混合物であると推定される。
【0036】
【化7】
(式中、R10は一般式(1)におけるR10と同じであり、mは1~20の整数である。)
【0037】
前記部分加水分解は、固体(ゲル)等が析出しない条件で行うことが好ましく、固体(ゲル)等は、ジアルキル亜鉛の加水分解が進んだ、完全加水分解物(酸化亜鉛)であるか、または、上記一般式(4)におけるmが20を超え、分子中のアルキル基R10の量が低下して、溶媒に対する溶解度が低下した部分加水分解物である。部分加水分解終了後、このような固体(ゲル)等が析出している場合には、ろ過、遠心分離、デカント等の方法により精製することで固体等を除去することができ、この除去操作により、溶媒に溶解した部分加水分解物のみを実質的に含有し、透明性が良好な酸化亜鉛薄膜調製に適したジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液を得ることができる。
【0038】
上記ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液は、例えば、濃縮(溶媒除去)により固形分濃度を調整する(増大させる)ことができる。また、濃縮後または濃縮することなく、加水分解反応に使用した溶媒、加水分解反応に使用したものとは異なる溶媒を添加して、固形分濃度、極性、粘度、沸点、経済性等を適宜調整することもできる。
【0039】
加水分解反応に使用したものとは異なる溶媒としては、例えば、n-ヘキサン、オクタン、n-デカン、等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン、等の芳香族炭化水素;ミネラルスピリット、ソルベントナフサ、ケロシン、石油エーテル、等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、t-ブチルメチルエーテル、ジn-プロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサラン、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル化合物;1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン等のエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル等のジエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のトリエチレングリコールジアルキルエーテル化合物;プロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキル化合物;ジプロピレングリコールジメチル等のジプロピレングリコールジアルキル;トリプロピレングリコールジメチル等のトリプロピレングリコールジアルキル化合物、N,N,ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルプロピオンアミド、ヘキサメチルホスホリルアミド等の鎖状アミド化合物、N-メチル-2-ピロリドン(NMPと略記することがある)、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン等の環状アミド化合物、又はそれらの混合物を挙げることができる。
【0040】
本発明のジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液におけるジアルキル亜鉛部分加水分解物の含有量は、用途に応じて適宜決定できる。含有量は、使用する溶媒の量を調整することで調整できる。ジアルキル亜鉛部分加水分解物の含有量は、例えば、0.1~50質量%の範囲で、後述する酸化亜鉛薄膜の製造に適した性状等も考慮して、適宜調整できる。但し、この範囲に限定される意図ではない。
【0041】
[本発明のアルコキシ基を有するジケトン化合物を含有する溶液]
本発明においては、ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液に、さらにアルコキシ基を有するジケトン化合物を含有する。
【0042】
本発明で用いることのできる、アルコキシ基を有するジケトン化合物としては、特に具体的には、αまたはβケト酸エステルを挙げることが出来る。
本発明で用いるα-ケトン酸エステルは、次の一般式(2)で示される化合物である。
【0043】
【化8】
(式中、R1は炭素数1~6のアルキル基、フェニル基及びベンジル基から選ばれる置換基を、R2は炭素数1~6のアルキル基を示す。)
【0044】
αケト酸エステルの具体例として、例えば、グリオキシル酸メチル、グリオキシル酸エチル、グリオキシル酸n-プロピル、グリオキシル酸イソプロピル、グリオキシル酸n-ブチル、グリオキシル酸n-ペンチル、グリオキシル酸n-ヘキシル等のグリオキシル酸エステル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸n-プロピル、ピルビン酸イソプロピル、ピルビン酸n-ブチル、ピルビン酸n-ペンチル、ピルビン酸n-ヘキシル等のピルビン酸エステル、フェニルグリオキシル酸メチル、フェニルグリオキシル酸エチル、フェニルグリオキシル酸n-プロピル、フェニルグリオキシル酸イソプロピル、フェニルグリオキシル酸n-ブチル、フェニルグリオキシル酸n-ペンチル、フェニルグリオキシル酸n-ヘキシル等のフェニルグリオキシル酸エステル、フェニルピルビン酸メチル、フェニルピルビン酸エチル、フェニルピルビン酸n-プロピル、フェニルピルビン酸i-プロピル、フェニルピルビン酸n-ブチル、フェニルピルビン酸n-ペンチル、フェニルピルビン酸n-ヘキシル等のフェニルピルビン酸エステルなどを挙げることができる。
【0045】
本発明で用いるβケト酸エステルは、次の一般式(3)で示される化合物である。
【化9】
(式中、R1は炭素数1~6のアルキル基、フェニル基及びベンジル基から選ばれる置換基、R2は炭素数1~6のアルキル基、R3およびR4は水素または炭素数1~6のアルキル基をそれぞれ示す。)
【0046】
1としては、炭素原子数1~6のアルキル基がよく、アルキル基は直鎖状あるいは分岐状であってもよく、さらに好ましくはメチル基,エチル基がよい。R2としては、炭素原子数1~6のアルキル基がよく、アルキル基は直鎖状あるいは分岐状であってもよく、さらに好ましくはメチル基,エチル基がよい。
【0047】
βケト酸エステルの具体例として、例えば、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸-n-プロピル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸-n-ブチル、アセト酢酸-sec-ブチル、アセト酢酸-t-ブチル等のアセト酢酸エステル、プロピオニル酢酸メチル、プロピオニル酢酸エチル、プロピオニル酢酸プロピル、プロピオニル酢酸イソプロピル、プロピオニル酢酸ブチル、プロピオニル酢酸イソブチル、プロピオニル酢酸アミル,プロピオニル酢酸イソアミル等のプロピオニル酢酸エステル、ブチリル酢酸エチル、イソブチリル酢酸エチル、バレリル酢酸エチル,イソバレリル酢酸エチル、ピバロイル酢酸エチル、カプロイル酢酸エチル,イソカプロイル酢酸エチル、ヘプタノイル酢酸エチル、フェニルアセト酢酸メチル、α-メチルアセト酢酸メチル等などを挙げることが出来る。
【0048】
これらの中でも特に、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセト酢酸イソプロピル、アセト酢酸ブチル、およびピルビン酸エチルを用いることが好ましい。
アルコキシ基を有するジケトン化合物は、上記化合物を単独、又はそれらの混合物として用いることが出来る。
【0049】
前記アルコキシ基を有するジケトン化合物の含有量は、前記ジアルキル亜鉛含有溶液またはジアルキル亜鉛部分加水分解物中の亜鉛に対するモル比で0.02~2とすることが、化学的に安定なジアルキル亜鉛含有溶液または部分加水分解物含有溶液を得るとの観点から好ましい。好ましくは、前記ジアルキル亜鉛含有溶液またはジアルキル亜鉛部分加水分解物中の亜鉛に対するモル比は、0.05~1.5、さらに好ましくは0.1~1.2である。上限は、ジアルキル亜鉛またはジアルキル亜鉛の部分加水分解物の溶液中の濃度や、溶媒の種類やそれらの含有量などに応じて適宜設定できる。尚、ジアルキル亜鉛を部分加水分解物とすることで、空気に対する化学的安定性はジアルキル亜鉛に比べれば向上するが、依然として安定性に欠けることから、化学的により安定な部分加水分解物含有溶液を得るという観点から、上記所定量のアルコキシ基を有するジケトン化合物との混合物とすることが好ましい。
【0050】
ジアルキル亜鉛含有溶液またはジアルキル亜鉛加水分解物含有溶液へのアルコキシ基を有するジケトン化合物の含有の方法としては、ジアルキル亜鉛含有溶液を用いる場合においては、例えば、ジアルキル亜鉛と溶媒との混合後にアルコキシ基を有するジケトン化合物を添加する方法、溶媒にアルコキシ基を有するジケトン化合物を添加した後にジアルキル亜鉛と混合する等の方法を用いることが出来る。また、ジアルキル亜鉛加水分解物含有溶液を用いる場合においては、例えば、ジアルキル亜鉛加水分解物含有溶液を調製時あるいは調製後にアルコキシ基を有するジケトン化合物を混合する等の方法を用いることが出来る。
【0051】
前記アルコキシ基を有するジケトン化合物を用いることで、空気に対する安定性が向上する理由は定かではなく、また理論に拘泥する意図はないが、前記アルコキシ基を有するジケトン化合物は、その化合物構造中の酸素の非共有電子対の亜鉛への配位結合等により空気に対する安定性が大きく向上すると推定される。
【0052】
また、本発明の溶液においては、Mg、B、Al、Ga、In、Sn、Si、Ti、Zr、Ge等の他の元素が共存していてもよい。
【0053】
例えば、B、Al、Ga、Inといった第13族元素を共存させた溶液を用いて成膜を行うことで、Al、Ga、Inがドープされた酸化亜鉛薄膜を得ることが出来る。これらのドープされた酸化亜鉛薄膜は、例えば、透明導電膜として用いることが出来る。
【0054】
これらの元素はその形態として有機化合物、無機化合物として添加が可能である。例えば、B、Al、Ga、Inにおいては、トリエチルアルミニウム、トリエチルガリウム、トリメチルガリウム、トリメチルインジウム等のアルキル化化合物、酢酸アルミミウム、酢酸ガリウム、酢酸インジウム等のカルボン酸塩、アルミニウムアセチルアセトナト、ガリウムアセチルアセトナト、インジウムアセチルアセトナト等のアセチルアセトナト塩、アルミニウムトリイソプロポキシド、ガリウムトリエトキシド、インジウムイソプソポキシ等のアルコキシ化合物等の有機化合物や、それらの塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機化合物、およびそれらの混合物の形で用いることが出来る。
【0055】
[酸化亜鉛薄膜の製造方法]
本発明の第2の態様は、酸化亜鉛薄膜の製造方法であり、この方法は、前記本発明のジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液を基材に塗布することを含む、酸化亜鉛薄膜の製造方法である。
【0056】
前記基材への前記溶液の塗布は、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、バーコート法、スリットコート法、ダイコート法、グラビアコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スプレー熱分解法、静電スプレー熱分解法、インクジェット法、ミストCVD法、等の慣用の方法で行うことができる。
【0057】
前記基材への前記溶液の塗布を行う雰囲気は特に制限はなく、例えば、不活性雰囲気下でも空気雰囲気下でも行うことができる。但し、経済性の観点から、空気雰囲気下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0058】
さらに、前記基材への前記溶液の塗布を行う雰囲気の湿度は特に制限はなく、例えば、相対湿度35~80%の雰囲気下で行うことができる。
【0059】
前記基材への前記溶液の塗布は、加圧下や減圧下でも実施できるが、経済性の点から、大気圧下で行うことが装置も簡便となり好ましい。
【0060】
前記基材は、特に制限はないが、例えば、鉛ガラス、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、等のガラス;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、複合酸化物、等の酸化物;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリメチルメタクレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン、環状ポリオレフィン(COP)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリイミド、ポリアミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリウレタン、トリアセテート、トリアセチルセルロース(TAC)、セロファン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、等の高分子、等を挙げることができる。
【0061】
前記基材の形状は、特に制限はないが、例えば、粉、フィルム、板、又は三次元形状を有する立体構造物を挙げることができる。
【0062】
本発明のジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液を塗布した基材は、所定の温度において溶媒を乾燥し、次いで所定の温度で焼成するか、または所定の温度で乾燥と焼成を並行して行うことにより酸化亜鉛薄膜を形成させることができる。尚、塗布を、スプレー熱分解法、静電スプレー熱分解法、インクジェット法、ミストCVD法により行う場合には、塗布前に基材を所定の温度に加熱できるため、塗布と同時に溶媒を乾燥、または、乾燥と同時に焼成させることができる。
【0063】
前記溶媒を乾燥させるための所定の温度は、基材の耐熱性を考慮すると300℃以下が好ましく、20~250℃の間がさらに好ましい。前記溶媒を、例えば、0.5~60分かけて乾燥させることができる。但し、これらの範囲に限定される意図ではない。
【0064】
前記酸化亜鉛を形成させるための焼成は、例えば、50~550℃の範囲の任意の温度で実施することができる。但し、基材の種類(耐熱性)を考慮して、基材がダメージを受けない温度に設定することが適当であり、耐熱性の低い基材に対しても基材にダメージを与えることなく酸化亜鉛薄膜を形成させることができるという観点からは、本発明の方法においては、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液の塗布膜を300℃以下の温度で焼成することより、酸化亜鉛薄膜を形成させることが適当である。焼成させる所定の温度が、溶媒を乾燥させる所定の温度と同一な場合、溶媒の乾燥と焼成を並行して行うことができる。焼成時間は、溶媒を乾燥して前駆膜を得た後に異なる温度で焼成する場合、および溶媒乾燥と焼成を並行して行う場合の何れの場合にも、例えば、0.5~300分かけて焼成させることができ、焼成時間は、焼成温度、ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液、塗布膜の膜厚などにより適宜設定できる。
【0065】
前記のようにして得られる酸化亜鉛薄膜の膜厚は、例えば、0.005~3μmであることができる。1回の操作で成形される酸化亜鉛薄膜の膜厚は、ジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液の組成や濃度、塗布方法や条件を調整することで調整でき、さらに必要に応じ、前記の塗布、乾燥、焼成の工程を複数回繰り返すことにより、前述の膜厚より厚いものを得ることもできる。
【0066】
必要に応じて前記のようにして得られた酸化亜鉛薄膜を、酸素等の酸化ガス雰囲気下、水素等の還元ガス雰囲気下、多量に水分が存在する水蒸気雰囲気下、またはアルゴン、窒素、酸素等のプラズマ雰囲気下で、所定の温度で加熱することにより酸化亜鉛の結晶性、緻密性を向上させることもできる。紫外線等の光照射やマイクロ波処理により得られた酸化亜鉛薄膜中の残存有機物等を除去することができる。
【実施例
【0067】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0068】
本発明のジアルキル亜鉛およびジアルキル亜鉛部分加水分解物の少なくともいずれか1つを含有する溶液の調製は、窒素ガス雰囲気下で行い、溶媒は全て脱水および脱気して使用した。
【0069】
<物性測定>
本発明のジアルキル亜鉛含有溶液、ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液をC66に溶解させた後、NMR装置(JEOL RESONANCE社製「JNM-ECA500」)にて1H-NMR測定を実施した。
【0070】
本発明の製造方法により作成された酸化亜鉛薄膜は、FT-IR分光装置(日本分光社製「FT/IR-4100」)にてZnSeプリズムを用いたATR(Attenuated Total Reflection:全反射)法によりATR補正なしで相対的にIR測定を実施した。
【0071】
本来ZnSeプリズムを用いた場合、屈折率が1.7を超える薄膜の測定は難しく、一般的な酸化亜鉛の屈折率が1.9であることを考えると測定は難しいと想定された。しかし、驚くべきことに測定が可能であった。
【0072】
本発明の製造方法により作成された酸化亜鉛薄膜の膜厚測定は、膜の一部をナイフで削り取り、触針式表面形状測定装置(ブルカーナノ社製、DektakXT-S)を用いて実施した。
【0073】
酸化亜鉛薄膜の均質性(割れ・剥がれの有無)については、光学顕微鏡を用いて、目視で、割れ、剥がれの有無を確認し、以下の評価とした(表2、3)。

○・・・薄膜に割れ・剥がれ等が見られない。
△・・・薄膜に剥がれはないが、割れがわずかにみられる。
×・・・薄膜に割れ・剥がれ等が顕著に観察される。
【0074】
[参考例1]
1,2-ジエトキシエタン360.02gとジエチル亜鉛40gを室温で混合したものを-11℃に冷却し、撹拌下で12.3質量%水含有THF溶液28.5g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.6)を3.5時間かけて滴下して加えた。-10℃で40分熟成した後、25℃まで放温しながら、終夜攪拌を続けることにより熟成反応を行い、薄黄色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物1,2-ジエトキシエタン溶液(組成物A)を得た。
【0075】
[参考例2]
トルエン15.0gとトリエチルガリウム0.91gとを室温で混合したものを-8℃に冷却し、撹拌下で2.8質量%水含有THF溶液3.6gを15分かけて滴下した。得らえた反応混合物に、冷却した状態でトルエン283gとジエチル亜鉛36gの混合物を2時間かけて加えた。滴下終了後、30分撹拌の後、-10℃に冷却した状態で、8.3質量%水含有THF溶液36g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.6)を5.4時間かけて滴下して加えた。-10℃で30分熟成した後、25℃まで放温しながら、終夜攪拌を続けることにより熟成反応を行い、薄黄色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物トルエン溶液(組成物B)を得た。
【0076】
[参考例3]
1,2-ジエトキシエタン30.0gとトリエチルガリウム1.02gとを室温で混合したものを-11℃に冷却し、撹拌下で2.34質量%水含有THF溶液5.12gを10分かけて滴下した。得らえた反応混合物に、冷却した状態で1,2-ジエトキシエタン325gとジエチル亜鉛40gの混合物を4.4時間かけて加えた。滴下終了後、10分撹拌の後、-10℃に冷却した状態で、11.2質量%水含有THF溶液28.4g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.6)を1.25時間かけて滴下して加えた。-10℃で30分熟成した後、25℃まで放温しながら、終夜攪拌を続けることにより熟成反応を行い、無色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物1,2-ジエトキシエタン溶液(組成物C)を得た。
【0077】
[参考例4]
キシレン20.0gとトリエチルガリウム2.03gとを室温で混合したものを-11℃に冷却し、撹拌下で7.2質量%水含有THF溶液3.23gを10分かけて滴下した。得らえた反応混合物に、冷却した状態でキシレン420gとジエチル亜鉛80gの混合物を3時間かけて加えた。滴下終了後、26分撹拌の後、-13℃に冷却した状態で、10.1質量%水含有THF溶液66.77g([水]/[ジエチル亜鉛]=0.6)を3.4時間かけて滴下して加えた。-12℃で15分熟成した後に、25℃まで放温しながら、終夜攪拌を続けることにより熟成反応を行った。熟成後に得られた溶液について微量の濁りを濾過することで、薄黄色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物キシレン溶液(組成物D)を得た。
【0078】
[参考例5]
N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMP)204.56gとジエチル亜鉛22.73gとを室温で混合したものを-11℃に冷却し、撹拌下で11.4質量%水含有NMP溶液17.49gを1.7時間かけて滴下した。-10℃で30分熟成した後、さらに、撹拌下で12.8質量%水含有NMP溶液1.17gを1時間かけて滴下した(水の添加量の合計として、[水]/[ジエチル亜鉛]=0.65(モル比))。25℃まで放温しながら、終夜攪拌を続けることにより熟成反応を行い、無色透明なジエチル亜鉛部分加水分解組成物1,2-ジエトキシエタン溶液(組成物E)を得た。
【0079】
[実施例1~20]
上記、参考例1~5の各ジアルキル亜鉛部分加水分解物含有溶液に、アルコキシ基を有するジケトン化合物を表1に記載の量比で窒素雰囲気下で添加し、室温で混合することで本発明の溶液(組成物1~20)を調製した。
また、参考例1~5の組成物A~Eも、酸化亜鉛薄膜形成の評価のために各25gずつ小分けした。
【0080】
【表1】
【0081】
[実施例21]
ジエチル亜鉛部分加水分解組成物1,2-ジエトキシエタン溶液(組成物A)にアセト酢酸エチルを添加した実施例1の組成物(組成物1)を、湿気を含む空気雰囲気下(湿度:65%)、室温(温度:23℃)で、15mm角のガラス基板(コーニング社製、EagleXG)上に50μl滴下し、スピンコーターにより1000rpm、20秒間スピンして塗布した。100℃で2分乾燥を兼ねた加熱を実施することで薄膜を形成させた。得られた酸化亜鉛薄膜の垂直透過率を測定した。スペクトルを図1に示す。得られた薄膜の550nmの光の垂直透過率は99%であった。紫外領域の垂直透過率が低いことから酸化亜鉛の形成が確認された。また、膜に剥がれや割れ等は見られなかった。得られた薄膜の膜厚は90nmであった。
【0082】
ATR法によるIR測定したところ、図2のようなスペクトルが得られた。550から1500cm-1付近にブロードなZn-O-Znの振動ピークが確認され、Zn-O-Znの形成が確認できた。したがって、酸化亜鉛薄膜の形成が確認された。3000cm-1付近の有機物の振動ピークがほとんどないため、残存有機物が少ないことが確認できた。
【0083】
[比較例1]
参考例1で得られたジエチル亜鉛部分加水分解組成物1,2-ジエトキシエタン溶液(組成物A)のみを用いたこと以外は実施例1と同様にして薄膜を形成させた。垂直透過率を測定したところ、550nmの光の垂直透過率は65%であり、80%未満の不透明な薄膜になった。また、膜に剥がれが見られ基板への密着性も劣っていた。
【0084】
[実施例22~27]
実施例1で得られた組成物1、実施例7で得られた組成物7、実施例6で得られた組成物6、および、実施例8で得られた組成物8について、それぞれ、実施例21記載の方法で基板に塗布し、100℃あるいは500℃で2分乾燥を兼ねた加熱を実施することでそれぞれ薄膜を形成させた。成膜時の相対湿度は、得られた酸化亜鉛薄膜はいずれも90%以上の透明な薄膜で、膜に剥がれや割れ等は見られなかった。
【0085】
[比較例2~6]
参考例1で得られた組成物A、参考例4で得られた組成物D、および、参考例3で得られた組成物Cについて、それぞれ、実施例21記載の方法で基板に塗布し、100℃あるいは500℃で2分乾燥を兼ねた加熱を実施することでそれぞれ薄膜を形成させた。100℃で成膜した酸化亜鉛薄膜はいずれも膜に剥がれが見られた。また、500℃で成膜した酸化亜鉛薄膜は、膜に剥がれが見られるとともに、いずれも80%未満の不透明な薄膜になった。
【0086】
[実施例28~35]
実施例2~5で得られた、組成物Bに濃度の異なるアセト酢酸エチルを共存させた組成物2~5について、それぞれ、実施例21記載の方法で基板に塗布し、100℃あるいは500℃で2分乾燥を兼ねた加熱を実施することでそれぞれ薄膜を形成させた。得られた酸化亜鉛薄膜はいずれも90%以上の透明な薄膜であった。亜鉛に対するアルコキシ基を有するジケトン化合物のモル比が0.1以上の組成物は膜に剥がれや割れ等は見られなかった。また、前記モル比が0.05、0.02の組成物であっても、わずかにひび割れが観測される程度であり、顕著な剥がれ等は見られなかった。
【0087】
[比較例7、8]
参考例2で得られた組成物Bのみについて、それぞれ、実施例21記載の方法で基板に塗布し、100℃あるいは500℃で2分乾燥を兼ねた加熱を実施することでそれぞれ薄膜を形成させた。100℃あるいは500℃で成膜した酸化亜鉛薄膜のいずれからも、膜に剥がれが見られるとともに、いずれも80%未満の不透明な薄膜になった。
【0088】
[実施例36、37]
実施例20で得られた組成物20について、それぞれ、実施例21記載の方法で基板に塗布し、100℃あるいは500℃で2分乾燥を兼ねた加熱を実施することでそれぞれ薄膜を形成させた。得られた酸化亜鉛薄膜はいずれも95%以上の透明な薄膜であった。亜鉛に対するアルコキシ基を有するジケトン化合物のモル比が0.1以上の組成物を用いて得られた酸化亜鉛薄膜に剥がれや割れ等は見られなかった。
【0089】
[実施例38~56]
種々のアルコキシ基を有するジケトン化合物を組成物Bに添加することで得られた実施例10~19の各組成物10~19について、それぞれ、実施例21記載の方法で基板に塗布し、100℃あるいは500℃で2分乾燥を兼ねた加熱を実施することでそれぞれ薄膜を形成させた。得られた酸化亜鉛薄膜はいずれも90%以上の透明な薄膜であった。また、得られた酸化亜鉛薄膜に剥がれや割れ等は見られなかった。
【0090】
[実施例57]
トルエン155.72g、ジエチル亜鉛17.30g、トリエチルガリウム0.44g、および、アセト酢酸エチル0.59gを室温で混合し、アルコキシ基を有するジケトン化合物を含むジエチル亜鉛を含むトルエン溶液(組成物F)を調製した。
【0091】
この組成物Fをスプレーノズルより1ml/分で32分間、200℃に加熱された基板に吹き付けて、大気中でスプレー成膜を行った。成膜時の相対湿度は73~75%であった。
【0092】
得られた薄膜の垂直透過率を測定したところ、図3のようなスペクトルが得られ、550nmの光の垂直透過率は91%であった。紫外領域の垂直透過率が低いことから酸化亜鉛の形成が確認された。ATR法によるIR測定したところ、図4のようなスペクトルが得られた。550から1500cm-1付近にブロードなZn-O-Znの振動ピークが確認され、Zn-O-Znの形成が確認できた。したがって、酸化亜鉛薄膜の形成が確認された。3000cm-1付近の有機物の振動ピークがほとんどないため、残存有機物が少ないことが確認できた。得らえた薄膜の膜厚は821nmであった。また、波長254nmのUV照射5分により薄膜は低抵抗化し、1080Ω/□を得た。
【0093】
[実施例58]
実施例57において、トリエチルガリウムを含まないこと以外は、実施例57の方法と同様にして、アルコキシ基を有するジケトン化合物を含むジエチル亜鉛を含むトルエン溶液(組成物G)を調製した。
この組成物Fをスプレーノズルより1ml/分で32分間、200℃に加熱された基板に吹き付けて、大気中でスプレー成膜を行った。成膜時の相対湿度は73~75%であった。
【0094】
実施例57と同様に、得られた薄膜の垂直透過率を測定したところ、550nmの光の垂直透過率は92%であり、紫外領域の垂直透過率は低かった。また、実施例57と同様に得られた薄膜について、ATR法によるIR測定を行い、Zn-O-Znの形成を確認した。以上より、実施例57の操作において酸化亜鉛薄膜の形成が確認された。3000cm-1付近の有機物の振動ピークがほとんどないため、残存有機物が少ないことが確認できた。
【表2】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、酸化亜鉛薄膜の製造分野に有用である。酸化亜鉛薄膜は光触媒膜、紫外線カット膜、赤外線反射膜、CIGS、有機薄膜太陽電池のバッファ層、色素増感太陽電池の電極膜、帯電防止膜、薄膜トランジスタ、化合物半導体発光素子、蛍光体素子、抗菌・脱臭膜、圧電膜、バリスタ膜、メッキ膜などに供することができる。
図1
図2
図3
図4