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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】高濃度モノクローナル抗体製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20220126BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20220126BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220126BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220126BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220126BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20220126BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220126BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220126BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220126BHJP
   A61P 37/00 20060101ALI20220126BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220126BHJP
【FI】
A61K39/395 M ZNA
A61K39/395 T
A61K39/395 Y
A61K9/10
A61K47/10
A61K47/14
A61K47/26
A61P27/02
A61P29/00 101
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/00
C07K16/18
【請求項の数】 33
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017230012
(22)【出願日】2017-11-30
(62)【分割の表示】P 2015512877の分割
【原出願日】2013-05-17
(65)【公開番号】P2018090581
(43)【公開日】2018-06-14
【審査請求日】2017-12-27
【審判番号】
【審判請求日】2020-05-07
(31)【優先権主張番号】61/649,146
(32)【優先日】2012-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】アームストロング, ニコラス ジェー.
(72)【発明者】
【氏名】ボーウェン, 真由美 エヌ.
(72)【発明者】
【氏名】マー, ユウ-ファン
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】岡崎 美穂
【審判官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2011/0223208(US,A1)
【文献】特表2006-503545(JP,A)
【文献】特表2007-501270(JP,A)
【文献】BIO INDUSTRY,2010年,Vol.27, No.7,p.18-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K39/00-39/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/EMBASE/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水性懸濁ビヒクルに懸濁された濃度200mg/mL以上の噴霧乾燥モノクローナル抗体を含む懸濁製剤であって、該非水性懸濁ビヒクルの粘度が、25℃において20センチポアズ未満であり、該非水性懸濁ビヒクルが、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールを含む、懸濁製剤。
【請求項2】
前記非水性懸濁ビヒクルの粘度が10センチポアズ未満である、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
前記非水性懸濁ビヒクルの粘度が5センチポアズ未満である、請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
前記製剤の注射すべり力が20ニュートン以下である、請求項1から3の何れか一項に記載の製剤。
【請求項5】
前記製剤の注射すべり力が15ニュートン以下である、請求項4に記載の製剤。
【請求項6】
前記製剤の平均粒径が2ミクロンから30ミクロンである、請求項1から5の何れか一項に記載の製剤。
【請求項7】
前記製剤の平均粒径が2ミクロンから10ミクロンである、請求項6に記載の製剤。
【請求項8】
前記製剤の抗体濃度が200mg/mLから500mg/mLである、請求項1から7の何れか一項に記載の製剤。
【請求項9】
前記製剤の抗体濃度が200mg/mLから350mg/mLである、請求項8に記載の製剤。
【請求項10】
糖類をさらに含む、請求項1から9の何れか一項に記載の製剤。
【請求項11】
前記糖類がトレハロース又はスクロースである、請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
糖類:モノクローナル抗体のモル比が50から400:1である、請求項10又は11に記載の製剤。
【請求項13】
糖類:モノクローナル抗体のモル比が100から250:1である、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
界面活性剤をさらに含む、請求項1から13の何れか一項に記載の製剤。
【請求項15】
前記界面活性剤がポリソルベート20又はポリソルベート80である、請求項14に記載の製剤。
【請求項16】
皮下投与に適している、請求項1から15の何れか一項に記載の製剤。
【請求項17】
モノクローナル抗体が完全長モノクローナル抗体である、請求項1から16の何れか一項に記載の製剤。
【請求項18】
モノクローナル抗体がヒトIgG1である、請求項17に記載の製剤。
【請求項19】
モノクローナル抗体がキメラ、ヒト化又はヒト抗体である、請求項1から18の何れか一項に記載の製剤。
【請求項20】
モノクローナル抗体が、CD20、HER2、VEGF、IL6R、β7、Aβ、HER3、EGFR、及びM1’からなる群より選択される抗原に結合する、請求項1から19の何れか一項に記載の製剤。
【請求項21】
前記抗体が、リツキシマブ、トラスツズマブ又はベバシズマブである、請求項20に記載の製剤。
【請求項22】
非水性懸濁ビヒクルが、安息香酸ベンジル、乳酸エチル又はそれらの混合物をさらに含む、請求項1から21の何れか一項に記載の製剤。
【請求項23】
請求項1から22の何れか一項に記載の製剤を中に含む、皮下投与デバイス。
【請求項24】
プレフィルドシリンジを含む、請求項23に記載のデバイス。
【請求項25】
懸濁製剤を作製する方法であって、25℃において20センチポアズ未満の粘度を有する非水性懸濁ビヒクルに噴霧乾燥モノクローナル抗体を懸濁することを含み、該懸濁製剤中のモノクローナル抗体濃度が200mg/mL以上であり、該非水性懸濁ビヒクルがジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールを含む、方法。
【請求項26】
製品を作製する方法であって、請求項1から22の何れか一項に記載の製剤を皮下投与デバイスに充填することを含む、方法。
【請求項27】
水性懸濁ビヒクルに懸濁された濃度200mg/mLから400mg/mLの噴霧乾燥完全長IgG1モノクローナル抗体を含む懸濁製剤であって、非水性懸濁ビヒクルは、25℃において20センチポアズ未満の粘度を有し、前記製剤は、2ミクロンから10ミクロンの平均粒径及び15ニュートン未満の注射すべり力を有し、該非水性懸濁ビヒクルがジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールを含む、懸濁製剤。
【請求項28】
糖類をさらに含み、糖類:モノクローナル抗体のモル比が100から250:1である、請求項27に記載の製剤。
【請求項29】
前記抗体がリツキシマブ、トラスツズマブ又はベバシズマブである、請求項27又は28に記載の製剤。
【請求項30】
患者における疾患又は障害の治療に使用するための、請求項1から22の何れか一項に記載の製剤。
【請求項31】
製剤中のモノクローナル抗体による治療を必要とする患者を治療するための医薬の調製における、請求項1から22の何れか一項に記載の製剤の使用。
【請求項32】
前記医薬が皮下投与のために製剤化される、請求項31に記載の使用。
【請求項33】
前記医薬が、前記製剤を中に含むプレフィルドシリンジによる投与のために製剤化される、請求項31又は32に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2012年5月18日に出願された米国仮出願第61/649146号(この出願は、その全体が出典明示により本明細書に援用される)の利益を主張する。
【0002】
本発明は、例えば、プレフィルドシリンジによる皮下投与に適切な高濃度モノクローナル抗体製剤に関する。特に、本発明は、非水性懸濁ビヒクルに懸濁された濃度約200mg/mL以上の噴霧乾燥モノクローナル抗体を含む製剤であって、前記懸濁ビヒクルの粘度が約20センチポアズ未満である製剤に関する。本発明はまた、その中に前記製剤を有する皮下投与デバイス、前記懸濁製剤を作製する方法、前記懸濁製剤を含む製品を作製する方法、医薬の調製における前記懸濁製剤の使用、及び前記懸濁製剤で患者を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
皮下(SC)注射による高用量のモノクローナル抗体(数mg/kg)の外来投与は、慢性症状を治療するための好ましい送達形態である(Stockwin and Holmes, Expert Opin Biol Ther 3:1133-1152 (2003); Shireら, J Pharm Sci 93:1390-1402 (2004))。シリンジ、自動注射器又は他のデバイスを使用する注射を必要とする皮下投与経路は、一般に、注射容量及び溶液粘度に関して製品製剤を制限し、注射の力及び時間の点でデバイス機能を制限する。注射の時間、容量及び力の制限を伴う高用量のモノクローナル抗体を送達するためには、高濃度モノクローナル抗体製剤(100mg/mL以上)が皮下投与に必要である(Stockwin and Holmes, Expert Opin Biol Ther 3:1133-1152 (2003); Shireら, J Pharm Sci 93:1390-1402 (2004))。高タンパク質濃度製剤の開発における潜在的な課題は、濃度依存性の溶液粘度である。注射力(又はすべり力(glide force))は、溶液粘度、針のサイズ(すなわち、針ゲージ)及び容器/クロージャの表面張力によって影響される複雑な要因である。例えば、26ゲージ以上のより小さな針は、患者に与える痛みの感覚が少ないであろう。Overcashier及び共同研究者は、ハーゲン・ポアズイユの式に基づいて、粘度-すべり力の関係性が針ゲージの関数であることを立証した(Overcashierら, Am. Pharm Rev. 9(6):77-83 (2006))。27ゲージの薄壁(TW)針(内径(ID)、最小:0.241mm)の場合、すべり力が20ニュートンを超えないように、液体粘度を20センチポアズ未満に維持するべきである。残念ながら、製剤科学者は、高モノクローナル抗体濃度及び高溶液粘度の対立する現実に対して絶えず挑戦している(Shireら, J Pharm Sci 93:1390-1402 (2004); Kanaiら, J Pharm Sci 97:4219-4227 (2005))。高モノクローナル抗体濃度液体製剤の別の課題は、タンパク質の物理的安定性である。高モノクローナル抗体濃度液体では、より大きな凝集率及び望ましくないタンパク光が一般に観察される(Alfordら, J Pharm Sci 97:3005-3021 (2008); Salinasら, J Pharm Sci 99:82-93 (2010); Sukumarら, Pharm Res 21:1087-1093 (2004))。
【0004】
塩、アミノ酸又は糖と共に製剤化し、中間イオン強度により斥力及び引力をバランスすることによって、高濃度モノクローナル抗体液体溶液の粘度を減少させるために、様々な製剤化戦略が試行されている(Sukumarら, Pharm Res 21:1087-1093 (2004); Heら, J Pharm Sci 100:1330-1340 (2011))。しかしながら、100mg/mL超のモノクローナル抗体濃度では、又はある特定のモノクローナル抗体の特定の特徴により、これらのアプローチの有効性は限定的であり得る。Dani及び共同研究者は、噴霧乾燥モノクローナル抗体粉末を再構成して、皮下注射前に高モノクローナル抗体濃度液体溶液を調製するアプローチを適用した(Daniら, J Pharm Sci 96:1504-1517 (2007))。このアプローチは、保存寿命の全期間において固体状態のタンパク質安定性を確実に向上させ得るが、噴霧乾燥モノクローナル抗体粉末は注射前に高モノクローナル抗体濃度で再構成する必要があるので、高粘度の問題が依然として残る。モノクローナル抗体結晶粒子懸濁液を使用する粉末ベースのアプローチが最近登場した(Yangら, Proc Natl Acad Sci 100:6934-6939 (2003); Triliskyら, “Crystallization and liquid-liquid phase separation of monoclonal antibodies and Fc-fusion proteins: Screening results,” AICHE online publication DOI 10, 1002/btrp.621 (Wiley Online Libraryによる発刊) (2011))。それは、結晶モノクローナル抗体懸濁液の粘度を同じモノクローナル抗体濃度の液体製剤よりも低くすることができるという知見に基づくものである。しかしながら、これらの参考文献には粘度及び注射力のデータが提示されておらず、このコンセプトは依然として理論上のものであった。さらに、いくつかの成功例が提示されているが、モノクローナル抗体の結晶化は未だに、広範囲のモノクローナル抗体に適用可能な成熟したプロセスプラットフォームではない(Triliskyら, “Crystallization and liquid-liquid phase separation of monoclonal antibodies and Fc-fusion proteins: Screening results,” AICHE online publication DOI 10, 1002/btrp.621 (Wiley Online Libraryによる発刊) (2011))。
【0005】
本発明は、非水性懸濁ビヒクルの高濃度モノクローナル抗体粉末懸濁液を用いる異なる粉末ベースのコンセプトを示す。懸濁液アプローチは総合的に概説されており(Floyd and Jain, “Injectable emulsions and suspensions,” In: Pharmaceutical Dosage Forms: Disperse Systems Volume 2 (編. Lieberman HA, Rieger MM, Banker GS). Dekker, NY, NY, p261-318 (1996); Akersら, J Parent Sci & Techn 41:88-96 (1987))、植物油(例えば、ゴマ油)(Larsenら, Eur J Pharm Sci 29:348-354 (2006); Hiranoら, J Pharm Sci 71:495-500 (1982))、ダイズ油(Salmeronら, Drug Dev Ind Pharm 23:133-136 (1997); Karasuluら, Drug Dev 14:225-233 (2007))及びピーナッツ油(Santucciら, J Contr Rel 42:157-164 (1996))のマイクロスフェア/エマルジョン懸濁液が非経口注射剤として報告されている。非水性懸濁液の特性に影響を与える物理的及び化学的な力は、DLVO理論に関連する電気的効果(対イオン二重層の結果としてのファンデルワールス引力及び静電反発力)が存在しないので、水性懸濁液のものとは全く異なるものであり得る。
【0006】
Pena及び共同研究者(Penaら, Intl J Pharm 113:89-96 (1995))は、ポリソルベート80を含むか又はこれを含まないカプリル酸/カプリン酸トリグリセリド(MIGLYOL812(登録商標))油の賦形剤フリーウシソマトトロピン(rbSt)粉末(凍結乾燥又は噴霧乾燥)懸濁液に関するレオロジー特性評価を報告した。rbStは、22,000ダルトンの分子量を有する191アミノ酸のペプチドである。Penaらは、ポリソルベート80及び粉末濃度を増加させると、薬物粒子、ポリソルベート80及びMIGLYOL812(登録商標)の間にネットワークが形成されてより高粘度になることが観察されたことを決定した。また、これらの研究では、粒子の形状/形態が懸濁液粘度において重要な役割を果たしていたことが見出された。噴霧乾燥粒子をより小さな球状にすると(より高密度に充填すると)、より大きな不規則形状のフレイクを示した凍結乾燥カウンターパートよりも高粘性の懸濁液が得られた。
【0007】
高濃度モノクローナル抗体濃度懸濁液の非水性粉末ベースのアプローチは、依然として未開拓である。Penaらにおける小さなrbStペプチドを用いた研究は、大きな四量体モノクローナル抗体(約150,000ダルトン)を有効に製剤化する能力を予測するものではない。加えて、Penaらが使用した油ビヒクルは、プレフィルドシリンジ投与における使用を検討するには過度に粘性であった。MIGLYOL812(登録商標)、ゴマ油、ダイズ油、ピーナッツ油の粘度は、それぞれ25℃で約30センチポアズ(cP)、25℃で43cP、25℃で50cP及び37℃で35cPである。加えて、Penaらは、噴霧乾燥粉末の懸濁液性能が凍結乾燥カウンターパートよりも劣っていたと決定した。
【0008】
モノクローナル抗体製剤が記載されている刊行物としては、米国特許第6284282号(Maaら);米国特許第6267958号及び米国特許第6685940号(Andyaら);米国特許第6171586号(Lamら);米国特許第6875432号及び米国特許第7666413号(Liuら);国際公開第2006/044908号(Andyaら);米国特許出願公開第2011-0076273-A1号(Adlerら);米国特許出願公開第2011/0044977号及び国際公開第2011/012637号(Adlerら);米国特許出願公開第2009/0226530A1号(Lassnerら);米国特許出願公開第2003/0190316号(Kakutaら);米国特許出願公開第2005/0214278号及び米国特許出願公開第2005/0118163号(Mizushimaら);米国特許出願公開第2009/0291076号(Morichikaら);及び米国特許出願公開第2010/0285011号(Imaedaら)が挙げられる。
【発明の概要】
【0009】
本研究の目的は、(1)懸濁液性能を決定するプロセスパラメータを特定すること;(2)許容可能な注射性(すなわち、27ゲージの薄壁(TW)針による20N以下の注射力)及び懸濁液の物理的安定性を有するモノクローナル抗体粉末懸濁液(すなわち、モノクローナル抗体250mg/mL以上)を確立する実現可能性を評価すること;及び/又は(3)懸濁液性能の機構を理解することであった。モノクローナル抗体粉末を調製するために、噴霧乾燥を使用した。噴霧乾燥は、拡張可能かつ効率的な成熟した製造過程である。モノクローナル抗体に対する噴霧乾燥の短期的効果を加速温度で研究した。懸濁ビヒクルの選択に重要な基準は、懸濁ビヒクルの粘度が10センチポアズ(cP)未満であることであった。本研究で試験した3つのモデル懸濁ビヒクル(ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール、安息香酸ベンジル及び乳酸エチル)は低粘度であり、この要件を満たしていた。
【0010】
逆ガスクロマトグラフィー(IGC)は、表面エネルギー分析(SEA)に使用されている(Newellら, Pharm Res 18:662-666 (2001); Grimseyら, J Pharm Sci 91:571-583 (2002); Newell and Buckton, Pharm Res 21:1440-1444 (2004); Saleem and Smyth, Drug Devel & Ind Pharm 34:1002-1010 (2008); Panzer and Schreiber, Macromolecules 25:3633-3637 (1992))。IGCでは、目的の粉末を充填したカラム(固定相)にプローブを注入し、プローブがカラムを通過するのに必要な時間(t)は、プローブと固定相との間の相互作用規模の尺度である。表面エネルギーは、通常、極性及び分散性(非極性)成分に分けることができる。したがって、非極性(アルカン)及び極性(電子受容体-供与体又は酸-塩基溶媒)プローブを使用することにより、これら2つの表面エネルギー成分を定量することができた。噴霧乾燥粒子の表面エネルギーは、他の粒子特性よりも関連性がある直接的な懸濁液性能指標として役立ち得る。別のパラメータは吸着熱であり、これは、表面上に吸着した固体と気体分子との間の相互作用強度の直接的な尺度である(Thielmann F., “Inverse gas chromatography: Characterization of alumina and related surfaces,” In “Encyclopedia of Surface and Colloid Science Volume 4 (edit by P. Somasundaran). CRC Press, Boca Raton, FL., p3009-3031 (2006); Thielmann and Butler, “Heat of sorption on microcrystalline cellulose by pulse inverse gas chromatography at infinite dilution,” Surface Measurement Services Application Note 203 (http://www.thesorptionsolution.com/Information_Application_Notes_IGC.php#Aps) (2007))。本研究では、IGC法を用いて、噴霧乾燥粒子と懸濁ビヒクルとの間の吸着熱を測定した。
【0011】
本明細書における実験データは、目的が達成され、皮下投与に適切な高濃度モノクローナル抗体懸濁製剤が開発されたことを実証している。
【0012】
したがって、第1の態様では、本発明は、非水性懸濁ビヒクルに懸濁された濃度約200mg/mL以上の噴霧乾燥モノクローナル抗体を含む懸濁製剤であって、前記懸濁ビヒクルの粘度が約20センチポアズ未満である懸濁製剤に関する。
【0013】
別の態様では、本発明は、約20センチポアズ未満の粘度を有する非水性懸濁ビヒクルに懸濁された濃度約200mg/mLから約400mg/mLの噴霧乾燥完全長ヒトIgG1モノクローナル抗体を含む懸濁製剤であって、約2ミクロンから約10ミクロンの平均粒径及び約15ニュートン未満の注射スライド力(injectionglide force)を有する懸濁製剤に関する。
【0014】
本発明はさらに、その中に前記製剤を含む皮下投与デバイス(例えば、プレフィルドシリンジ)に関する。
【0015】
別の態様では、本発明は、懸濁製剤を作製する方法であって、約20センチポアズ未満の粘度を有する非水性懸濁ビヒクルに噴霧乾燥モノクローナル抗体を懸濁することを含み、前記懸濁製剤の抗体濃度が約200mg/mL以上である方法に関する。
【0016】
加えて、本発明は、製品を作製する方法であって、本明細書における製剤を皮下投与デバイスに充填することを含む方法を提供する。
【0017】
関連態様では、本発明は、前記製剤中のモノクローナル抗体による治療を必要とする患者を治療するための医薬の調製における前記製剤の使用、及び患者を治療する方法であって、前記製剤を、前記製剤中のモノクローナル抗体による治療を必要とする患者に投与することを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】噴霧乾燥(●)及び凍結乾燥(○)ベバシズマブ/トレハロース製剤並びに噴霧乾燥(■)及び凍結乾燥(□)トラスツズマブ/トレハロース製剤の40℃における保存時間に応じた抗体安定性(噴霧乾燥直後からのサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)による%モノマー変化として)。
図2】パイロットスケール又はベンチトップ噴霧乾燥機を用いて噴霧乾燥した3つのモノクローナル抗体(mAb)粉末を含むジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール懸濁液の粘度-粉末濃度プロファイル:パイロットスケールによるベバシズマブ(◇)、ベンチトップによるベバシズマブ(◆)、パイロットスケールによるトラスツズマブ(□)、ベンチトップによるトラスツズマブ(■)、パイロットスケールによるリツキシマブ(△)、ベンチトップによるリツキシマブ(▲)、経験的なフィッティング(実線)及び方程式4からの理論的なフィッティング(破線)。
図3】ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール(△)、乳酸エチル(◇)、安息香酸ベンジル(○)のリツキシマブ粉末懸濁液のすべり力-mAb濃度プロファイル、及びOvercashierら Am. Pharm Rev. 9(6): 77-83 (2006)の図4から抜粋したmAb液体溶液の予測すべり力(■)。
図4】ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール(△)、安息香酸ベンジル(◇)、及び乳酸エチル(○)のリツキシマブ粉末懸濁液の粘度-mAb濃度プロファイル。
図5】ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール(◇)、安息香酸ベンジル(□)、及び乳酸エチル(△)のリツキシマブ懸濁液の粒径分布。
図6A】乳酸エチル(2週間保存後)のリツキシマブ懸濁液(150mg/mL)の写真(注記:テープは懸濁液の一部ではなく、写真撮影時の最適な焦点調節に使用する)。
図6B】乳酸エチル(1日間保存後にボルテックス)のリツキシマブ懸濁液(150mg/mL)の写真(注記:テープは懸濁液の一部ではなく、写真撮影時の最適な焦点調節に使用する)。
図6C】ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール(2週間保存後)のリツキシマブ懸濁液(150mg/mL)の写真(注記:テープは懸濁液の一部ではなく、写真撮影時の最適な焦点調節に使用する)。
図7A】リツキシマブ懸濁液。100/0(◇)、75/25(■)、50/50(□)、25/75(◆)、及び0/100(△)のジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール及び乳酸エチル混合物のリツキシマブ懸濁液の粒径分布(注記:テープは懸濁液の一部ではなく、写真撮影時の最適な焦点調節に使用する)。
図7B】リツキシマブ懸濁液。75/25ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール/乳酸エチル混合物のリツキシマブ懸濁液の2週間保存後の写真(注記:テープは懸濁液の一部ではなく、写真撮影時の最適な焦点調節に使用する)。
図8A-1】図8A-1は、リツキシマブ抗体の重鎖(配列番号1)のアミノ酸配列を提供する。ヒトγ1重鎖定常配列及びヒトκ軽鎖定常配列のように、各可変領域における各フレームワーク領域(FR)及び各相補性決定領域(CDR)領域を特定する。可変重(VH)領域は配列番号3である。CDRの配列識別子は、CDRH1(配列番号5)、CDRH2(配列番号6)、及びCDRH3(配列番号7)である。
図8A-2】図8A-2は、リツキシマブ抗体の重鎖(配列番号1)のアミノ酸配列を提供する。ヒトγ1重鎖定常配列及びヒトκ軽鎖定常配列のように、各可変領域における各フレームワーク領域(FR)及び各相補性決定領域(CDR)領域を特定する。可変重(VH)領域は配列番号3である。CDRの配列識別子は、CDRH1(配列番号5)、CDRH2(配列番号6)、CDRH3(配列番号7)、及びCDRL1(配列番号8)である。
図8B図8Bは、リツキシマブ抗体の軽鎖(配列番号2)のアミノ酸配列を提供する。ヒトγ1重鎖定常配列及びヒトκ軽鎖定常配列のように、各可変領域における各フレームワーク領域(FR)及び各相補性決定領域(CDR)領域を特定する。可変重(VH)領域は配列番号3である。可変軽(VL)領域は配列番号4である。CDRの配列識別子は、CDRL1(配列番号8)、CDRL2(配列番号9)、及びCDRL3(配列番号10)である。
図9A図9Aは、ベバシズマブ抗体の重鎖(配列番号11)のアミノ酸配列を提供する。可変領域の末端を||で示す。可変重(VH)領域は配列番号13である。可変領域における3つのCDRはそれぞれ、下線が付されている。CDRの配列識別子は、CDRH1(配列番号15)、CDRH2(配列番号16)、及びCDRH3(配列番号17)である。
図9B図9Bは、ベバシズマブ抗体の軽鎖(配列番号12)のアミノ酸配列を提供する。可変領域の末端を||で示す。可変軽(VL)領域は配列番号14である。可変領域における3つのCDRはそれぞれ、下線が付されている。CDRの配列識別子は、CDRL1(配列番号18)、CDRL2(配列番号19)、及びCDRL3(配列番号20)である。
図10A図10Aは、トラスツズマブ抗体の重鎖(配列番号21)のアミノ酸配列を提供する。各可変領域の末端を||で示す。可変重(VH)領域は配列番号23である。可変領域における3つのCDRはそれぞれ、枠で囲まれている。CDRの配列識別子は、CDRH1(配列番号25)、CDRH2(配列番号26)、及びCDRH3(配列番号27)である。
図10B図10Bは、トラスツズマブ抗体の軽鎖(配列番号22)のアミノ酸配列を提供する。各可変領域の末端を||で示す。可変軽(VL)領域は配列番号24である。可変領域における3つのCDRはそれぞれ、枠で囲まれている。CDRの配列識別子は、CDRL1(配列番号28)、CDRL2(配列番号29)、及びCDRL3(配列番号30)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
I.定義
用語「医薬製剤」は、活性剤(例えば、モノクローナル抗体)の生物学的活性が有効になるのを可能にするような形態の調製物であって、製剤を投与しようとする被験体にとって許容不可能な毒性の追加成分を含有しない調製物を指す。このような製剤は滅菌されている。一実施態様では、医薬製剤は皮下投与に適切である。
【0020】
医薬製剤中の賦形剤に関する「薬学的に許容され得る」は、賦形剤がヒト患者への投与に適切であることを意味する。
【0021】
「滅菌」製剤は無菌のものであるか、又は全ての生きた微生物及びその胞子を含まないものである。
【0022】
「皮下投与」は、被験体又は患者の皮下に(製剤を)投与することを指す。
【0023】
「安定」製剤は、その中の活性剤(例えば、モノクローナル抗体)が、懸濁及び/又は保存時にその物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を本質的に保持しているものである。好ましくは、製剤は、懸濁及び保存時にその物理的及び化学的安定性並びにその生物学的活性を本質的に保持している。保存期間は、一般に、製剤の目的の保存寿命に基づいて選択される。タンパク質安定性を測定するための様々な分析技術は当技術分野で利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery, 247-301, Vincent Lee編, Marcel Dekker, Inc., New York, New York, Pubs. (1991);及びJones, A. Adv. Drug Delivery Rev. 10: 29-90 (1993)に概説されている。一実施態様では、噴霧乾燥粒子をビヒクルに懸濁して懸濁製剤が生成される頃に、懸濁製剤の安定性を評価する。一実施態様では、製剤を選択期間にわたって選択温度に保持する場合、安定性を評価することができる。一実施態様では、噴霧乾燥の前後に(例えば、噴霧乾燥の前後に40℃の加速温度下で3カ月間にわたって保存)、サイズ分布(モノマーの割合、凝集及び/又は断片化)によってモノクローナル抗体の安定性を評価する。一実施態様では、サイズ排除クロマトグラフィー-高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)を使用して、サイズ分布を評価する。一実施態様では、3カ月間にわたる(SEC-HPLCによって測定した場合の)モノマー減少率は、例えば、40℃の加速温度において約10%未満、例えば5%未満である。一実施態様では、懸濁液の物理的安定性を評価すること(例えば、沈殿及び/又は粒子沈降速度の目視検査)によって、安定性を評価する。
【0024】
「噴霧乾燥」は、タンパク質又はモノクローナル抗体を含む乾燥粉末粒子を生成するように、周囲温度を超える温度で気体(通常は、空気又は窒素)を使用して、タンパク質又はモノクローナル抗体を含む液体又はスラリーを霧化及び乾燥する過程を指す。この過程中に、液体が蒸発して乾燥粒子が形成する。一実施態様では、例えば、約100℃から約220℃の空気入口温度及び約50℃から約100℃の空気出口温度を有する噴霧乾燥機を使用して、噴霧乾燥を実施する。様々な方法、例えばサイクロン、高圧ガス、静電荷などによって、ガスから粒子を分離することができる。本明細書における噴霧乾燥のこの定義は、モノクローナル抗体の凍結乾燥又は結晶化を明確に除外する。
【0025】
本明細書における「乾燥」粒子、タンパク質又はモノクローナル抗体は、乾燥過程に供されてその含水量が有意に減少したものである。一実施態様では、粒子、タンパク質又はモノクローナル抗体は、例えば、化学滴定法(例えば、カールフィッシャー法)又は減量法(高温加熱)によって含水量を測定した場合に、約10%未満、例えば約5%未満の含水量を有する。
【0026】
本明細書における目的では、「噴霧乾燥前調製物」は、モノクローナル抗体(通常は、組換え生産されたモノクローナル抗体であって、1つ以上の精製工程に供されたモノクローナル抗体)及び1つ以上の賦形剤、例えば安定剤(例えば、糖類、界面活性剤及び/又はアミノ酸)及び任意選択的に緩衝液の調製物を指す。一実施態様では、調製物は液体形態である。一実施態様では、調製物は凍結される。
【0027】
「懸濁製剤」は、それが溶解不可能な液相全体に分散した固体粒子(例えば、噴霧乾燥モノクローナル抗体粒子)を含む液体製剤である。一実施態様では、懸濁製剤中の固体粒子は、(例えば、レーザー回折によって分析した場合に)約2から約30ミクロン、例えば約5から約10ミクロンの平均粒径を有する。任意選択的に、懸濁製剤中の固体粒子は、(例えば、レーザー回折によって分析した場合に)約30ミクロン未満、任意選択的に約10ミクロン未満のピーク(最高率)粒径を有する。懸濁製剤は、噴霧乾燥モノクローナル抗体粒子を非水性懸濁ビヒクルと混ぜ合わせることによって調製することができる。一実施態様では、被験体又は患者への皮下投与に適合されるか、又はこれに適切である。
【0028】
本明細書で使用される「非水性懸濁ビヒクル」は、懸濁製剤を作製するために噴霧乾燥モノクローナル抗体粒子を懸濁することができる非水性の薬学的に許容され得る液体を指す。一実施態様では、ビヒクルは、液体脂質又は脂肪酸エステル又はアルコール(例えば、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール)、又は他の有機化合物、例えば安息香酸ベンジル又は乳酸エチルを含む。本明細書におけるビヒクルとしては、2つ以上の液体の混合物、例えばジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール及び乳酸エチルの混合物が挙げられる。好ましくは、非水性懸濁ビヒクルは、約20センチポアズ(cP)未満、任意選択的に約10cP未満、一実施態様では約5cP未満の(25oCにおける)粘度を有する。本明細書における非水性懸濁ビヒクルの例としては、以下の表1のビヒクルが挙げられる:
【0029】
【0030】
「粘度」は、剪断応力又は引張応力の何れかによって変形されている流体の抵抗性の尺度を指す;それは、粘度計又はレオメーターを使用して評価することができる。特に指示がない限り、粘度測定(センチポアズ、cP)は、約25℃におけるものである。本明細書中で使用される粘度は、非水性懸濁ビヒクルそれ自体の粘度又は懸濁製剤の粘度を指し得る。
【0031】
「注射性」は、懸濁製剤を被験体に投与することができる容易性を指す。本発明の一実施態様によれば、所定の懸濁製剤の注射性は、同じモノクローナル抗体濃縮物及び同じ賦形剤(一又は複数)及びその濃縮物(一又は複数)を含む液体製剤の注射性よりも優れたものであり得る。一実施態様では、注射性は注射すべり力を指す。
【0032】
本明細書で使用される「注射すべり力」は、所定のゲージ及び長さの針によって所定の注射速度で溶液を注射するのに必要な力を指す。一実施態様では、それは、(例えば、本明細書の実施例のように「シリンジすべり力測定」を使用して)プレフィルドシリンジ(例えば、25ゲージ以下、又は好ましくは27ゲージ以下の針を有する1.0mLロングシリンジ)を使用して評価され、すべり力は、一定の圧縮率においてシリンジ内部で移動するプランジャーロッドの距離関数として分析及び確立される。手動注射に必要な時間及び力(又は、自動注射器を使用する注射に必要な時間)は、エンドユーザーによる製品の使用性(したがって、製品の使用目的のコンプライアンス)に影響を与え得る。一実施態様では、ハーゲン・ポアズイユの式が、移動(又はすべり)力を推定するのに利用される(式1)。
(式1)
Q=体積流量
μ=流体の粘度
L=針の長さ
R=針の内径
A=シリンジプランジャーの断面積
F=無摩擦の移動力
【0033】
式1によれば、すべり力は、いくつかのパラメータに依存する。製剤科学者が影響を与え得る唯一のパラメータは粘度である。全ての他のパラメータ(針の内径、針の長さ及びシリンジプランジャーの断面積)は、プレフィラブルシリンジそれ自体によって決定される。高粘度を有する製剤が高い注射力及び長い注射時間をもたらし得るのは、両パラメータが粘度に比例するからである。注射力及び注射時間について一般に認められている制限は、例えば、患者集団の適応及び器用さに依存し得る。本明細書に例示される実施態様では、式1のパラメータは以下のものであった:
Q=体積流量=0.1mL/秒
μ=流体の粘度=20センチポアズ
L=針の長さ=1.25cm
R=針の内径=0.0105cm(27ゲージの針)
A=シリンジプランジャーの断面積=0.00316cm
F=無摩擦の移動力=16.6×10ダイン=16.6ニュートン
【0034】
一実施態様では、注射すべり力は、27ゲージの薄壁(TW)ステイクニードルを通して1mLロングシリンジを使用して10秒間に1mLの懸濁製剤を注射することによって、モノクローナル抗体濃度の関数として決定される。
【0035】
一実施態様では、懸濁製剤の注射すべり力は、約20ニュートン以下である。
【0036】
一実施態様では、懸濁製剤の注射すべり力は、約15ニュートン以下である。
【0037】
一実施態様では、注射すべり力は、約2ニュートンから約20ニュートンである。
【0038】
一実施態様では、注射すべり力は、約2ニュートンから約15ニュートンである。
【0039】
一実施態様では、注射すべり力は、約20ニュートン未満である。
【0040】
一実施態様では、注射すべり力は、約15ニュートン未満である。
【0041】
本明細書で使用される「緩衝液」は、その酸-塩基コンジュゲート成分の作用によるpH変化に耐性がある緩衝溶液を指す。(使用される場合)本発明の緩衝液は、一般に、約4.0から約8.0、例えば約5.0から約7.0、例えば約5.8から約6.2のpHを有し、一実施態様ではそのpHは約6.0である。pHをこの範囲内に制御する緩衝液の例としては、酢酸、コハク酸、コハク酸、グルコン酸、ヒスチジン、クエン酸、グリシルグリシン及び他の有機酸の緩衝液が挙げられる。本明細書の一実施態様では、緩衝液はヒスチジン緩衝液である。緩衝液は、一般に、噴霧乾燥前調製物に含まれ、それから調製される懸濁製剤に存在し得る(しかし、その中にある必要はない)。
【0042】
「ヒスチジン緩衝液」は、ヒスチジンイオンを含む緩衝液である。ヒスチジン緩衝液の例としては、塩化ヒスチジン、酢酸ヒスチジン、リン酸ヒスチジン、硫酸ヒスチジンが挙げられる。一実施態様では、ヒスチジン緩衝液は、酢酸ヒスチジン又はヒスチジンHClである。一実施態様では、ヒスチジン緩衝液は、pH5.5から6.5、任意選択的にpH5.8から6.2、例えばpH6.0である。
【0043】
用語「賦形剤」は、例えば、所望のコンシステンシーを達成し(例えば、バルク特性を変化させ)、及び/又は浸透圧を調整するために、例えば安定剤として調製物又は製剤に追加され得る薬剤を指す。本明細書における賦形剤の例としては、限定されないが、安定剤、糖、ポリオール、アミノ酸、界面活性剤、キレート剤及びポリマーが挙げられる。
【0044】
本明細書における「安定剤」は、医薬製剤を安定化する賦形剤又は2つ以上の賦形剤の混合物である。例えば、安定剤は、高温における噴霧乾燥による不安定化を防止し得る。本明細書における例示的な安定剤としては、糖類、界面活性剤及びアミノ酸が挙げられる。
【0045】
本明細書における「糖類」は、一般組成物(CH2O)n及びその誘導体を含み、単糖類、二糖類、三糖類、多糖類、糖アルコール、還元糖、非還元糖などが挙げられる。本明細書における糖類の例としては、グルコース、スクロース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、デキストラン、グリセリン、デキストラン、エリスリトール、グリセロール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、メリビオース、メレジトース、ラフィノース、マンノトリオース、スタキオース、マルトース、ラクツロース、マルツロース、グルシトール、マルチトール、ラクチトール、イソ-マルツロースなどが挙げられる。本明細書における好ましい糖類は、非還元二糖類、例えばトレハロース又はスクロースである。
【0046】
本明細書では、「界面活性剤」は、表面活性剤、好ましくは非イオン性界面活性剤を指す。本明細書における界面活性剤の例としては、ポリソルベート(例えば、ポリソルベート20、及びポリソルベート80);ポロキサマー(例えば、ポロキサマー188);トリトン;ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);ラウリル硫酸ナトリウム;オクチルグリコシドナトリウム;ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-、又はステアリル-スルホベタイン;ラウリル-、ミリスチル-、リノレイル-、又はステアリル-サルコシン;リノレイル-、ミリスチル-、又はセチル-ベタイン;ラウロアミドプロピル-、コカミドプロピル-、リノレアミドプロピル-、ミリスタミドプロピル-、パルミドプロピル-、又はイソステアラミドプロピル-ベタイン(例えば、ラウロアミドプロピル);ミリスタミドプロピル-、パルミドプロピル-、又はイソステアラミドプロピル-ジメチルアミン;ナトリウムメチルココイル-、又はジナトリウムメチルオレイル-タウレート;及びMONAQUAT(商標)シリーズ(Mona Industries, Inc., Paterson, New Jersey);ポリエチルグリコール、ポリプロピルグリコール、及びエチレンとプロピレングリコールのコポリマー(例えば、Pluronics、PF68など)などが挙げられる。一実施態様では、界面活性剤はポリソルベート20又はポリソルベート80である。調製物及び/又は製剤中のモノクローナル抗体の凝集又は変性を防止又は軽減するために、界面活性剤を含めることができる。
【0047】
本明細書で使用される用語「アミノ酸」は、カルボキシル基に対してα位に位置するアミノ部分を有する薬学的に許容され得る有機分子を表す。アミノ酸の例としては、アルギニン、グリシン、オルニチン、リジン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、イソロイシン、ロイシン、アラニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、メチオニン、セリン及びプロリンが挙げられる。用いられるアミノ酸は、任意選択的に、L型である。本明細書における調製物及び/又は製剤中に安定剤として含まれ得るアミノ酸の例としては、ヒスチジン、アルギニン、グリシン及び/又はアラニンが挙げられる。
【0048】
「等張性」は、目的の製剤がヒトの血液と本質的に同じ浸透圧を有することを意味する。等張製剤は、一般に、約250から350mOsmの浸透圧を有するであろう。等張性は、例えば、蒸気圧又は氷凍結型浸透圧計を使用して測定することができる。
【0049】
本明細書で使用される用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体を指す。すなわち、モノクローナル抗体の生産中に生じ得る可能性のある変異体であって、一般に微量で存在している変異体を除き、前記集団を含む個々の抗体は同一であり、及び/又は同じエピトープに結合する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は抗原上の単一の決定基に対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンが混入していない点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られる抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の生産を必要とすると解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって使用されるべきモノクローナル抗体は、Kohlerら, Nature, 256:495 (1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法によって作製され得るか、又は組換えDNA法(例えば、米国特許第4816567号を参照のこと)によって作製され得る。「モノクローナル抗体」はまた、例えば、Clacksonら, Nature, 352:624-628 (1991) 及びMarksら, J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991)に記載されている技術を使用してファージ抗体ライブラリーから単離され得る。本明細書におけるモノクローナル抗体の具体例としては、キメラ抗体、ヒト化抗体、及びヒト抗体が挙げられる。
【0050】
「噴霧乾燥」モノクローナル抗体は、噴霧乾燥に供されたものである。この用語は、粉末形態(すなわち、懸濁前)及び液体形態(すなわち、非水性懸濁ビヒクルに懸濁して懸濁製剤を形成する場合)の噴霧乾燥モノクローナル抗体を含む。
【0051】
本明細書におけるモノクローナル抗体としては、具体的には、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定の種に由来する又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同であるが、鎖(一又は複数)の残りの部分が別の種に由来する又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体における対応する配列と同一又は相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)(但し、それらが所望の生物学的活性を示すことを条件とする)が挙げられる(米国特許第4816567号;Morrisonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))。本明細書における目的のキメラ抗体としては、非ヒト霊長類(例えば旧世界ザル、例えばヒヒ、アカゲザル又はカニクイザル)及びヒト定常領域配列に由来する可変ドメイン抗原結合配列を含む「霊長類化」抗体が挙げられる(米国特許第5693780号)。本明細書におけるキメラ抗体の例は、リツキシマブである。
【0052】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。その大部分について、ヒト化抗体は、レシピエント由来の超可変領域の残基が、マウス、ラット、ウサギ又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域であって所望の特異性、親和性、及び能力を有する超可変領域由来の残基によって置換されたヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合では、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基は、対応する非ヒト残基によって置換されている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体に見られない残基を含み得る。これらの改変は、抗体の性能をさらに高めるために行われ得る。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含み、ここで、超可変領域の全て又は実質的に全ては非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、FRの全て又は実質的に全ては、上記FR置換(一又は複数)を除いてヒト免疫グロブリン配列のものである。ヒト化抗体はまた、任意選択的に、免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンのものを含むであろう。さらなる詳細については、Jonesら, Nature 321:522-525 (1986); Riechmannら, Nature 332:323-329 (1988); 及びPresta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596 (1992)を参照のこと。本明細書における例示的なヒト化抗体としては、トラスツズマブ及びベバシズマブが挙げられる。
【0053】
本明細書における「ヒト抗体」は、ヒトB細胞から得られ得る抗体のアミノ酸配列構造に対応するアミノ酸配列構造を含むものである。このような抗体は、限定されないが、免疫感作により、内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体を産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)の生産(例えばJakobovitsら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551 (1993); Jakobovitsら, Nature, 362:255-258 (1993); Bruggermannら, Year in Immuno., 7:33 (1993);及び米国特許第5591669号、米国特許第5589369号及び米国特許第5545807号を参照のこと));ヒト抗体を発現するファージディスプレイライブラリーからの選択(例えば、McCaffertyら, Nature 348:552-553 (1990); Johnsonら, Current Opinion in Structural Biology 3:564-571 (1993); Clacksonら, Nature, 352:624-628 (1991); Marksら, J. Mol. Biol. 222:581-597 (1991); Griffithら, EMBO J. 12:725-734 (1993);米国特許第5565332号及び米国特許第5573905号を参照のこと);インビトロで活性化されたB細胞による生成(米国特許第5567610号及び米国特許第5229275号を参照のこと);並びにヒト抗体を産生するハイブリドーマからの単離を含む様々な技術によって同定又は作製することができる。本明細書におけるヒト抗体の例は、オファツムマブである。
【0054】
本明細書における「多重特異性抗体」は、2つ以上の異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。
【0055】
「二重特異性抗体」は、2つの異なるエピトープに対して結合特異性を有する抗体である。本明細書で具体的に企図される二重特異性抗体の例は、HER3/EGFR二重作用Fab(DAF)分子、例えばヒトIgG1重鎖を含むDL11fである(米国特許出願公開第2010/0255010号;国際公開第2010/108127号)。
【0056】
本明細書における抗体は、抗原結合又は生物学的活性が変化した「アミノ酸配列変異体」を含む。このようなアミノ酸変化の例としては、抗原に対する親和性が増強された抗体(例えば、「親和性成熟」抗体)、及びFc領域が変化した抗体、例えば、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)及び/又は補体依存性細胞傷害活性(CDC)が変化した(増加又は減少した)抗体(例えば、国際公開第00/42072号,Presta,L.及び国際公開第99/51642号,Iduosogieらを参照のこと);及び/又は血清半減期が増加又は減少した抗体(例えば、国際公開第00/42072号,Presta,L.を参照のこと)が挙げられる。
【0057】
「親和性成熟変異体」は、親和性成熟変異体の結合を改善する親抗体(例えば、親キメラ、ヒト化又はヒト抗体)の1つ以上の置換された超可変領域残基を有する。
【0058】
本明細書における抗体は、例えば、半減期若しくは安定性を増加させるか、又は別の方法で抗体を改善するために、「異種分子」とコンジュゲートされ得る。例えば、抗体は、様々な非タンパク質ポリマー、例えばポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、又はポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーの1つに連結され得る。
【0059】
本明細書における抗体は、そのFc領域に付着した任意の炭水化物が変化しているような「グリコシル化変異体」であり得る。例えば、抗体のFc領域に付着したフコースを欠く成熟炭水化物構造を有する抗体が、米国特許出願公開第2003/0157108号(Presta,L.)に記載されている。米国特許出願公開第2004/0093621号(Kyowa Hakko Kogyo Co., Ltd)も参照のこと。抗体のFc領域に付着した炭水化物において二分N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)を有する抗体が、国際公開第2003/011878号,Jean-Mairetら及び米国特許第6602684号,Umanaらで言及されている。抗体のFc領域に付着したオリゴ糖内に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体が、国際公開第1997/30087号,Patelらに報告されている。そのFc領域に付着した炭水化物が変化した抗体に関する国際公開第1998/58964号(Raju,S.)及び国際公開第1999/22764号(Raju,S.)も参照のこと。改変グリコシル化を有する抗体が記載されている米国特許出願公開第2005/0123546号(Umanaら)も参照のこと。
【0060】
用語「超可変領域」は、本明細書で使用される場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」又は「CDR」のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基24-34(L1)、50-56(L2)及び89-97(L3)、並びに重鎖可変ドメインの31-35(H1)、50-65(H2)及び95-102(H3);Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))及び/又は「超可変ループ」のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基26-32(L1)、50-52(L2)及び91-96(L3)並びに重鎖可変ドメインの26-32(H1)、53-55(H2)及び96-101(H3);Chothia and Lesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))を含む。「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書で定義される超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。リツキシマブ、ベバシズマブ及びトラスツズマブのCDRは、それぞれ図8A-B、9A-B及び10A-Bに開示されている。
【0061】
「完全長抗体」は、抗原結合可変領域並びに軽鎖定常ドメイン(CL)及び重鎖定常ドメイン、CH1、CH2及びCH3を含むものである。定常ドメインは、天然配列定常ドメイン(例えば、ヒト天然配列定常ドメイン)又はそのアミノ酸配列変異体であり得る。好ましくは、完全長抗体は、1つ以上のエフェクター機能を有する。一実施態様では、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226又はPro230から重鎖のカルボキシル末端に及ぶ。しかしながら、Fc領域のC末端リジン(Lys447)は存在してもよいし、又は存在しなくてもよい。特に本明細書で明記されない限り、Fc領域又は定常領域におけるアミノ酸残基の番号付けは、Kabatら, Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されているように、EUインデックスとも称されるEU番号付けシステムに従う。リツキシマブ、トラスツズマブ及びベバシズマブは、完全長抗体の例である。
【0062】
「ネイキッド抗体」は、細胞傷害性部分、ポリマー、又は放射性標識などの異種分子にコンジュゲートされていないモノクローナル抗体である。リツキシマブ、トラスツズマブ及びベバシズマブは、ネイキッド抗体の例である。
【0063】
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列Fc領域又はアミノ酸配列変異体Fc領域)に起因するそれらの生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害活性(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害活性(ADCC)などが挙げられる。
【0064】
それらの重鎖定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、完全長抗体を様々なクラスに割り当てることができる。完全長抗体の主要なクラスは5つあり:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgM、これらのいくつかは、「サブクラス」(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、及びIgA2にさらに分けることができる。様々な抗体クラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、及びμと称される。様々な免疫グロブリンクラスのサブユニット構造及び三次元構成が周知である。本発明の一実施態様によれば、本明細書における抗体は、ヒトIgG1である。
【0065】
本明細書における「ヒトIgG1」抗体は、ヒトIgG1重鎖定常ドメインを含む完全長抗体を指す。
【0066】
本明細書で使用される用語「組換え抗体」は、モノクローナル抗体をコードする核酸を含む組換え宿主細胞により発現されるモノクローナル抗体(例えばキメラ、ヒト化、又はヒトモノクローナル抗体)を指す。組換え抗体を生産するための「宿主細胞」の例としては、(1)哺乳動物細胞、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、COS、骨髄腫細胞(Y0細胞及びNS0細胞を含む)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、HeLa及びVero細胞;(2)昆虫細胞、例えば、sf9、sf21及びTn5;(3)植物細胞、例えばタバコ(Nicotiana)属(例えば、ニコチアナタバクム(Nicotianatabacum))に属する植物;(4)酵母細胞、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属(例えば、出芽酵母(Saccharomycescerevisiae))、又はアスペルギルス(Aspergillus)属(例えば、クロコウジカビ(Aspergillusniger))に属するもの;(5)細菌細胞、例えば大腸菌(Escherichia coli)細胞又は枯草菌(Bacillus subtilis)細胞などが挙げられる。
【0067】
本明細書で使用される「特異的に結合」又は「特異的に結合する」は、抗原に対する抗体の選択的又は優先的結合を指す。好ましくは、抗原に対する結合親和性は、10-9mol/l以下(例えば、10-10mol/l)のKd値、好ましくは10-10mol/l以下(例えば、10-12mol/l)のKd値である。結合親和性は、表面プラズモン共鳴技術(BIACORE(登録商標))などの標準的な結合アッセイを用いて決定される。
【0068】
「治療用モノクローナル抗体」は、ヒト被験体の治療に使用されるモノクローナル抗体である。本明細書で開示される治療用モノクローナル抗体としては、B細胞悪性腫瘍(例えば、非ホジキンリンパ腫又は慢性リンパ性白血病)又は自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ及び血管炎)の治療のためのCD20抗体;癌(例えば、乳癌又は胃癌)のためのHER2抗体;癌、加齢黄斑変性、黄斑浮腫を治療するためのVEGF抗体などが挙げられる。
【0069】
本明細書における目的のために、「リツキシマブ」は、配列番号3の可変重アミノ酸配列及び配列番号4の可変軽アミノ酸、及び任意選択的に配列番号1の重鎖アミノ酸配列及び配列番号2の軽鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。この用語は、バイオシミラーのリツキシマブを特に含む。
【0070】
本明細書における目的のために、「ベバシズマブ」は、配列番号13の可変重アミノ酸配列及び配列番号14の可変軽アミノ酸、及び任意選択的に配列番号11の重鎖アミノ酸配列及び配列番号12の軽鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。この用語は、バイオシミラーのベバシズマブを特に含む。
【0071】
本明細書における目的のために、「トラスツズマブ」は、配列番号23の可変重アミノ酸配列及び配列番号24の可変軽アミノ酸、及び任意選択的に配列番号21の重鎖アミノ酸配列及び配列番号22の軽鎖アミノ酸配列を含む抗体を指す。この用語は、バイオシミラーのトラスツズマブを特に含む。
【0072】
本明細書で製剤化されるモノクローナル抗体は、好ましくは本質的に純粋であり、望ましくは本質的に均一である(すなわち、混入タンパク質などを含まない)。「本質的に純粋な」抗体は、組成物の総重量基準で少なくとも約90重量%、好ましくは少なくとも約95重量%の抗体を含む組成物を意味する。「本質的に均一な」抗体は、組成物の総重量基準で少なくとも約99重量%の抗体を含む組成物を意味する。
【0073】
II.本明細書で製剤化されるべきモノクローナル抗体
本発明にしたがって製剤化され得るモノクローナル抗体を生産するための例示的な技術は以下の通りである。一実施態様では、抗体が結合する抗原は生物学的に重要なタンパク質であり、疾患又は障害を患っている哺乳動物に抗体を投与することにより、その哺乳動物において治療上の利益が得られ得る。しかしながら、非ポリペプチド抗原(例えば、腫瘍関連糖脂質抗原;米国特許第5091178号を参照のこと)に対する抗体も企図される。
【0074】
抗原がポリペプチドである場合、それは膜貫通分子(例えば、受容体)又は増殖因子などのリガンドであり得る。例示的な抗原としては、分子、例えばレニン;ヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモンを含む成長ホルモン;成長ホルモン放出因子;副甲状腺ホルモン;甲状腺刺激ホルモン;リポタンパク質;α-1-抗トリプシン;インスリンA鎖;インスリンB鎖;プロインスリン;卵胞刺激ホルモン;カルシトニン;黄体形成ホルモン;グルカゴン;因子VIIIC、因子IX、組織因子(TF)及びフォンヴィレブランド因子などの凝固因子;プロテインCなどの抗凝固因子;心房性ナトリウム利尿因子;肺界面活性剤;ウロキナーゼ又はヒト尿又は組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)などのプラスミノーゲン活性化因子;ボンベシン;トロンビン;造血性増殖因子;腫瘍壊死因子-α及び-β;エンケファリナーゼ;RANTES(regulatedon activation normally T-cell expressedand secreted);ヒトマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-1-α);ヒト血清アルブミンなどの血清アルブミン;ミュラー管阻害物質;リラキシンA鎖;リラキシンB鎖;プロリラキシン;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;βラクタマーゼなどの微生物タンパク質;DNase;IgE;CTLA-4などの細胞傷害性T-リンパ球関連抗原(CTLA);インヒビン;アクチビン;血管内皮細胞増殖因子(VEGF);ホルモン又は増殖因子の受容体;プロテインA又はD;リウマチ因子;神経栄養因子、例えば骨由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン-3、-4、-5、又は-6(NT-3、NT-4、NT-5、又はNT-6)、又は神経増殖因子、例えばNGF-b;血小板由来増殖因子(PDGF);aFGF及びbFGFなどの繊維芽細胞増殖因子;上皮増殖因子(EGF);TGF-α及びTGF-b1、TGF-b2、TGF-b3、TGF-b4、又はTGF-b5を含むTGF-βなどのトランスフォーミング増殖因子(TGF);TNF-α又はTNF-βなどの腫瘍壊死因子(TNF);インスリン様増殖因子-I及び-II(IGF-I及びIGF-II);des(1-3)-IGF-I(脳IGF-I)、インスリン様増殖因子結合タンパク質;CD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD22及びCD40などのCDタンパク質;エリスロポエチン;骨誘導因子;抗毒素;骨形成タンパク質(BMP);インターフェロン-α、-β及び-γなどのインターフェロン;例えば、M-CSF、GM-CSF、G-CSFなどのコロニー刺激因子(CSF);例えば、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9及びIL-10などのインターロイキン(IL);スーパーオキシドジスムターゼ;T細胞受容体;表面膜タンパク質;崩壊促進因子;例えば、AIDSエンベロープの一部などのウイルス抗原;輸送タンパク質;ホーミング受容体;アドレシン;制御タンパク質;CD11a、CD11b、CD11c、CD18、ICAM、VLA-4及びVCAMなどのインテグリン;HER2、HER3又はHER4受容体などの腫瘍関連抗原;並びに上記列挙されたポリペプチドの何れかの断片が挙げられる。
【0075】
本発明によって包含される抗体の例示的な分子標的としては、CDタンパク質、例えばCD3、CD4、CD8、CD19、CD20、CD22、CD34及びCD40;EGF受容体、HER2、HER3又はHER4受容体などのErbB受容体ファミリーのメンバー;B細胞表面抗原、例えばCD20又はBR3;DR5を含む腫瘍壊死受容体スーパーファミリーのメンバー;前立腺幹細胞抗原(PSCA);LFA-1、Mac1、p150.95、VLA-4、ICAM-1、VCAM、α4/β7インテグリン、及びそのα又はβサブユニットの何れかを含むαv/β3インテグリン(例えば、抗CD11a、抗CD18又は抗CD11b抗体)などの細胞接着分子;増殖因子、例えばVEGF及びその受容体;組織因子(TF);腫瘍壊死因子(TNF)、例えばTNF-α又はTNF-β、αインターフェロン(α-IFN);IL-8などのインターロイキン;IgE;血液型抗原;flk2/flk3受容体;肥満(OB)受容体;mp1受容体;CTLA-4;プロテインCなどが挙げられる。
【0076】
任意選択的に他の分子にコンジュゲートされる可溶性抗原又はその断片は、抗体を作製するための免疫原として使用され得る。受容体などの膜貫通分子については、これらの断片(例えば、受容体の細胞外ドメイン)が免疫原として使用され得る。あるいは、膜貫通分子を発現する細胞が免疫原として使用され得る。このような細胞は天然供給源(例えば、癌細胞株)に由来し得るか又は、膜貫通分子を発現させる組換え技術により形質転換された細胞であり得る。抗体を調製するのに有用な他の抗原及びその形態は当業者には明らかであろう。
【0077】
本発明にしたがって製剤化され得る例示的な抗体としては、限定されないが、以下のものが挙げられる:抗ErbB抗体、例えば抗HER2抗体(例えば、トラスツズマブ又はペルツズマブ);B細胞表面マーカー、例えばCD20に結合する抗体(例えば、リツキシマブ及びヒト化2H7/オクレリズマブ)、CD22、CD40又はBR3;IgEに結合する抗体、例えばGenentechから市販されているオマリズマブ(XOLAIR(登録商標))、E26、HAE1、そのFc領域の265位にアミノ酸置換を有するIgE抗体(米国特許出願公開第2004/0191244A1号)、Hu-901、IgE抗体(国際公開第2004/070011号)、又はIgE上の小さな細胞外セグメントM1’に結合する抗体(例えば、47H4v5;米国特許第8071097号を参照のこと)、Prestaら, J. Immunol. 151:2623-2632 (1993);国際公開第95/19181号;1998年2月3日に発行された米国特許第5714338号;1992年2月25日に発行された米国特許第5091313号;1993年3月4日に公開された国際公開第93/04173号;1999年1月14日に公開された国際公開第99/01556号;及び米国特許第5714338号も参照のこと;血管内皮増殖因子(VEGF)(例えば、ベバシズマブ)又はVEGF受容体に結合する抗体;抗IL-8抗体(St Johnら, Chest, 103:932 (1993)、及び国際公開第95/23865号);抗PSCA抗体(国際公開第01/40309号);抗CD40抗体、例えばS2C6及びそのヒト化変異体(国際公開第00/75348号);抗CD11a抗体、例えばエファリズマブ(RAPTIVA(登録商標))(米国特許第5622700号、国際公開第98/23761号、Steppeら, Transplant Intl. 4:3-7 (1991)、及びHourmantら, Transplantation 58:377-380 (1994));抗CD18抗体(1997年4月22日に発行された米国特許第5622700号又は1997年7月31日に公開された国際公開第97/26912号);抗Apo-2受容体抗体(1998年11月19日に公開された国際公開第98/51793号);抗TNF-α抗体、例えばcA2(REMICADE(登録商標))及びアダリムマブ(HUMIRA(登録商標))、CDP571及びMAK-195(アフェリモマブ)(1997年9月30日に発行された米国特許第5672347号、Lorenzら J. Immunol. 156(4):1646-1653 (1996)、及びDhainautら Crit. Care Med. 23(9):1461-1469 (1995)を参照のこと);抗組織因子(TF)(1994年11月9日に許可された欧州特許第0420937B1号);抗ヒトα4βインテグリン(1998年2月19日に公開された国際公開第98/06248号);抗EGFR抗体、例えばキメラ化又はヒト化225抗体(1996年12月19日に公開された国際公開第96/40210号);抗CD3抗体、例えばOKT3(1985年5月7日に発行された米国特許第4515893号);抗CD25又は抗tac抗体、例えばCHI-621(SIMULECT(登録商標))及び(ZENAPAX(登録商標))(1997年12月2日に発行された米国特許第5693762号を参照のこと);抗CD4抗体、例えばcM-7412抗体(Choyら Arthritis Rheum 39(1):52-56 (1996));抗CD52抗体、例えばアレムツズマブ(CAMPATH-1H(登録商標))(Riechmannら Nature 332:323-337 (1988);抗Fc受容体抗体、例えばFcγRIに対するM22抗体(Grazianoら J. Immunol. 155(10):4996-5002 (1995));抗癌胎児性抗原(CEA)抗体、例えばhMN-14(Sharkeyら Cancer Res. 55(23Suppl): 5935s-5945s (1995);胸部上皮細胞に対する抗体、例えばhuBrE-3、hu-Mc3及びCHL6(Cerianiら Cancer Res. 55(23): 5852s-5856s (1995);及びRichmanら Cancer Res. 55(23 Supp): 5916s-5920s (1995));結腸癌細胞に結合する抗体、例えばC242(Littonら Eur J. Immunol. 26(1):1-9 (1996));抗CD38抗体、例えば、AT13/5(Ellisら J. Immunol. 155(2):925-937 (1995));抗CD33抗体、例えばHuM195(Jurcicら Cancer Res 55(23 Suppl):5908s-5910s (1995)及びCMA-676又はCDP771;抗CD22抗体、例えばLL2又はLymphoCide(Juweidら Cancer Res 55(23 Suppl):5899s-5907s (1995);抗EpCAM抗体、例えば17-1A(PANOREX(登録商標));抗GpIIb/IIIa抗体、例えばアブシキシマブ又はc7E3Fab(REOPRO(登録商標));抗RSV抗体、例えばMEDI-493(SYNAGIS(登録商標));抗CMV抗体、例えばPROTOVIR(登録商標);抗HIV抗体、例えばPRO542;抗肝炎抗体、例えば抗HepB抗体OSTAVIR(登録商標);抗CA 125抗体OvaRex;抗イディオタイプGD3エピトープ抗体BEC2;抗αvβ3抗体VITAXIN(登録商標);抗ヒト腎細胞癌抗体、例えばch-G250;ING-1;抗ヒト17-1A抗体(3622W94);抗ヒト結腸直腸腫瘍抗体(A33);GD3ガングリオシドに対する抗ヒト黒色腫抗体R24;抗ヒト扁平上皮癌(SF-25);及び抗ヒト白血球抗原(HLA)抗体、例えばSmartID10及び抗HLA DR抗体Oncolym(Lym-1);抗CCR5(PRO140);ABT-325;ABT-308;ABT-147;抗β7(エトロリズマブ);抗HER3/EGFRDAF(DL11f);抗インターロイキン6受容体(IL6R)、例えばトシリズマブ(ACTEMRA(登録商標));及び抗Aβ(国際公開第2003/070760号及び国際公開第2008/011348号を参照のこと)など。
【0078】
一実施態様では、本明細書で製剤化される抗体はCD20に結合し、リツキシマブ、オクレリズマブ/ヒト化2H7(Genentech)、オファツムマブ(国際公開第04/035607号、Genmab,Denmark)、フレームワークパッチ/ヒト化1F5(国際公開第03/002607号、Leung,S.)、AME-133(Applied Molecular Evolution)、及びヒト化A20抗体(米国特許出願公開第2003/0219433号、Immunomedics)から選択される。
【0079】
一実施態様では、製剤化される抗体はHER2に結合し、トラスツズマブ又はペルツズマブである。
【0080】
一実施態様では、製剤化される抗体はVEGFに結合し、ベバシズマブである。
【0081】
一実施態様では、本明細書で製剤化される抗体はヒト化抗体である。
【0082】
一実施態様では、製剤化される抗体は組換え抗体である。
【0083】
一実施態様では、製剤化される抗体は、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって発現されたものである。
【0084】
一実施態様では、製剤化される抗体は完全長抗体である。
【0085】
一実施態様では、製剤化される抗体は、完全長ヒトIgG1抗体である。
【0086】
一実施態様では、製剤化される抗体は、完全長ヒト化IgG1抗体である。
【0087】
一実施態様では、製剤化される抗体は完全長組換えヒト化IgG1抗体である。
【0088】
一実施態様では、製剤化される抗体は、組換えチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって発現された完全長ヒト化IgG1抗体である。
【0089】
一実施態様では、製剤化される抗体は、CD20(例えば、リツキシマブ)、HER2(例えば、トラスツズマブ)、VEGF(ベバシズマブ)、IL6R(トシリズマブ)、β7(エトロリズマブ)、Aβ、HER3及びEGFR(DL11f)、及びM1’(47H4v5)から選択される抗原に結合する。
【0090】
一実施態様では、製剤化される抗体はリツキシマブである。
【0091】
一実施態様では、製剤化される抗体はトラスツズマブである。
【0092】
一実施態様では、製剤化される抗体はベバシズマブである。
【0093】
III.噴霧乾燥前調製物
噴霧乾燥に供されるべきモノクローナル抗体調製物(本明細書におけるいわゆる「噴霧乾燥前調製物」)は、一般に調製される。
【0094】
一実施態様では、噴霧乾燥前調製物は、1つ以上の事前の精製工程、例えばアフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAクロマトグラフィー)、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー(陰イオン及び/又は陽イオン交換クロマトグラフィー)、ウイルス濾過などに供されたモノクローナル抗体調製物を含む。したがって、抗体調製物は精製されたもの、本質的に純粋なもの及び/又は本質的に均一なものであり得る。
【0095】
一実施態様では、噴霧乾燥前調製物中のモノクローナル抗体は濃縮される。抗体を濃縮するための例示的な方法としては、濾過(例えば、タンジェンシャルフロー濾過又は限外濾過)、透析などが挙げられる。
【0096】
噴霧乾燥前調製物は、液体又は凍結されたものであり得る。
【0097】
噴霧乾燥前調製物のpHは、緩衝液によって任意選択的に調整される。緩衝液は、例えば、約4から約8、例えば約5から7、例えば5.8から6.2のpHを有し得、一実施態様では約6.0である。ヒスチジン緩衝液は、本明細書における例示的な実施態様である。緩衝液の濃度は、少なくとも部分的には所望のpHによって決定される。緩衝液の例示的な濃度は、約1mMから約200mM、又は約10mMから約40mMである。
【0098】
噴霧乾燥前調製物はまた、任意選択的に、噴霧乾燥過程中の抗体の変性及び/又は凝集を防止する1つ以上の安定剤を含む。このような安定剤の例としては、糖類(例えば、スクロース又はトレハロース)及び/又は界面活性剤(例えば、ポリソルベート20又はポリソルベート80)及び/又はアミノ酸(例えば、ヒスチジン、アルギニン、グリシン及び/又はアラニン)が挙げられる。安定剤は、一般に、最終製剤の粘度増加を防ぐことが可能な最低安定剤量でモノクローナル抗体を保護及び/又は安定化する量(一又は複数)で追加される。
【0099】
二糖類(例えば、トレハロース又はスクロース)などの糖類安定剤に関して、糖類:モノクローナル抗体(又は二糖類:モノクローナル抗体)のモル比は、任意選択的に、約50から約400:1、例えば約100から約250:1である。換言すれば、噴霧乾燥前調製物中の例示的な糖類濃度は、例えば、約10mMから約1M、例えば約50mMから約300mMである。
【0100】
界面活性剤(噴霧乾燥前製剤に含まれる場合)に関して、ポリソルベート20又はポリソルベート80は、含まれ得る界面活性剤の例である。界面活性剤は、一般に、噴霧乾燥過程中のモノクローナル抗体の変性及び/又は凝集を軽減又は防止する量で含まれる。界面活性剤(例えば、ポリソルベート20又はポリソルベート80)濃度は、任意選択的に、約0.0001%から約1.0%、例えば約0.01%から約0.1%である。
【0101】
噴霧乾燥前調製物は、以下のセクションに記載されているものなどの噴霧乾燥手順に供され得る。
【0102】
IV.調製物の噴霧乾燥
本明細書における噴霧乾燥は、それが周囲温度を超える温度で実施される限り、モノクローナル抗体製剤を調製するのに一般的に使用される凍結乾燥と区別される。噴霧乾燥温度は、一般的に、「空気入口」及び「空気出口」温度と表される。一実施態様では、噴霧乾燥は、約100℃から約220℃(例えば、約120℃から約160℃)の空気入口温度及び約50℃から約100℃(例えば、約60℃から約80℃)の空気出口温度で実施される。
【0103】
噴霧乾燥過程は、一般に、液体フィードの噴霧化;液滴の乾燥;及び乾燥した生成物の分離又は回収を含む。
【0104】
本明細書における噴霧器の実施態様としては、ロータリーアトマイザー、空気圧ノズル噴霧器、超音波ノズル噴霧器、ソニックノズルなどが挙げられる。
【0105】
液体フィードと乾燥空気との接触は、2つの異なるモードで行うことができる。並流システムでは、乾燥空気及び粒子(液滴)は、乾燥チャンバーを通って同方向に移動する。乾燥空気及び液滴が反対方向に移動する場合、これは向流モードと称される。向流モードで生成された粒子は、通常、排気空気よりも高い温度を示す。排気空気それ自体はシステムから離れ得るか、又は再循環し得る。様々な噴霧乾燥機デザイン(サイズ、噴霧器、滅菌条件など)から選択し、様々なプロセスパラメータ(乾燥空気流、乾燥空気温度など)を調整することによって、粒子のサイズ、形状及び構造又はさらには滅菌性のような最終粉末特性を改変することができる。回収した粉末の得られる水分が十分に少なくない場合、例えば、流動床乾燥機及び冷却器、接触乾燥機又はさらにはマイクロ波乾燥機の形で後処理が必要とされ得る。
【0106】
液体フィードが噴霧化されると、その表面質量比が増加し、空気と液滴との間の熱伝達が促進され、液滴が比較的迅速に乾燥し得る。2つの対流過程が関与し得る:熱伝達(空気から液滴)及び水分物質移動(液滴から空気)。後者では、水分は、各液滴を囲む境界層を通って浸透する。移動速度は、温度、湿度、周囲空気の輸送特性、液滴直径、及び液滴と空気との間の相対速度によって影響され得る。
【0107】
噴霧乾燥過程の最終工程は、典型的には、空気/気体からの粉末の分離、及び乾燥生成物の回収である。いくつかの実施態様では、この工程は、高い粉末収率を得ること、及び大気への粉末の放出による大気汚染を防止するのに可能な限り有効である。この目的のために、サイクロン、バッグフィルター、静電集塵器、高圧ガス、帯電及びそれらの組み合わせなどの様々な方法が利用可能である。
【0108】
噴霧乾燥過程は、モノクローナル抗体を含む粒子を生成する。
【0109】
一実施態様では、噴霧乾燥粉末の特徴は、以下の何れか1つ以上を含む:
(a)平均粒径:約2ミクロンから約30ミクロン;例えば、約2ミクロンから約10ミクロン;
(b)粒子形態:主に球状粒子、粒子中にいくつかの窪み又は穴、「ドライレーズン」形状;
(c)含水量:例えば、化学滴定法(例えば、カールフィッシャー法)又は減量法(高温加熱)によって含水量を測定した場合に、約10%未満、例えば約5%未満;及び
(d)安定性:例えば、粒子をビヒクルに懸濁し、懸濁調製物の物理的安定性及び/又は化学的安定性及び/又は生物学的活性を評価することによって評価する。一実施態様では、このような調製物のモノマーの割合は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって評価した場合に95%から100%である。
【0110】
V.懸濁製剤
先のセクションに記載されているように調製した噴霧乾燥モノクローナル抗体粒子を非水性懸濁ビヒクルと混ぜ合わせて、懸濁製剤を作製する。この製剤は、被験体への投与に適切である。一般に、その前又は後の何れかに、懸濁製剤を凍結乾燥又は結晶化に供しない。一実施態様では、懸濁製剤を皮下投与デバイス(例えば、プレフィルドシリンジ)に充填し、製剤を投与するのに使用する(デバイス及び治療方法に関するより詳細な開示については以下を参照のこと)。
【0111】
本発明はまた、懸濁製剤を作製する方法であって、噴霧乾燥モノクローナル抗体を非水性懸濁ビヒクルに懸濁することを含む方法を提供する。
【0112】
一実施態様では、懸濁製剤中の抗体濃度は、約200mg/mL以上である。
【0113】
一実施態様では、懸濁製剤中の抗体濃度は、約200mg/mLから約500mg/mLである。
【0114】
一実施態様では、懸濁製剤中の抗体濃度は、約250mg/mLから約400mg/mLである。
【0115】
一実施態様では、懸濁製剤中の抗体濃度は、約250mg/mLから約350mg/mLである。
【0116】
非水性懸濁ビヒクルは、好ましくは、25℃において、約20センチポアズ未満、例えば約10センチポアズ未満、及び任意選択的に約5センチポアズ未満の粘度を有する。
【0117】
本発明の一実施態様によれば、懸濁製剤の粘度は、25℃において、約5から約100センチポアズ、例えば約10から約70センチポアズである。一実施態様では、懸濁製剤の粘度は、コーンプレートレオメーター(例えば、AR-G2 TA Instrumentレオメーター)を使用して測定される。
【0118】
一実施態様では、懸濁製剤の平均粒径は、約2ミクロンから約30ミクロン、例えば約5ミクロンから約10ミクロンである。
【0119】
一実施態様では、懸濁製剤は、約20ニュートン未満、例えば約15ニュートン未満の注射すべり力を有する。このような注射すべり力は、27ゲージのTWステイクニードルを通して1mLロングシリンジを使用して10秒間に1mLの懸濁液を注射することによって、モノクローナル抗体濃度の関数として決定され得る。
【0120】
一実施態様では、非水性懸濁ビヒクルは、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール、安息香酸ベンジル、乳酸エチル又はそれらの2つ若しくは3つの混合物から選択される。
【0121】
一実施態様では、非水性懸濁ビヒクルは、乳酸エチルを含む。
【0122】
一実施態様では、非水性懸濁ビヒクルは、少なくとも2つの非水性懸濁ビヒクルの混合物:ビヒクルA+ビヒクルBを含み、ここで、ビヒクルAの粘度はビヒクルBのものよりも小さいが、ビヒクルBにおけるモノクローナル抗体の安定性は、ビヒクルAのものよりも大きい。このような混合物の実施態様は、(例えば)乳酸エチル及びジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールの混合物によって例示される。
【0123】
一態様では、懸濁製剤は、約20センチポアズ未満の粘度を有する非水性懸濁ビヒクルに懸濁された濃度約200mg/mLから約400mg/mLの噴霧乾燥完全長ヒトIgG1モノクローナル抗体を含み、ここで、前記製剤は、約2ミクロンから約10ミクロンの平均粒径及び約15ニュートン未満の注射すべり力を有する。
【0124】
懸濁製剤は、任意選択的に、1つ以上の賦形剤又は安定剤をさらに含む。このような安定剤の例としては、糖類(例えば、スクロース又はトレハロース)及び/又は界面活性剤(例えば、ポリソルベート20又はポリソルベート80)及び/又はアミノ酸(例えば、ヒスチジン、アルギニン、グリシン及び/又はアラニン)が挙げられる。安定剤は、一般に、懸濁製剤の粘度増加を防ぐことが可能な最低安定剤量でモノクローナル抗体を保護及び/又は安定化する量で存在する。一実施態様では、安定剤は、噴霧乾燥前調製物に追加し、及び/又は所望により懸濁製剤に追加した結果として懸濁製剤中に存在する。
【0125】
二糖類(例えば、トレハロース又はスクロース)などの糖類安定剤に関して、懸濁製剤中の糖類:モノクローナル抗体(又は二糖類:モノクローナル抗体)のモル比は、任意選択的に、約50から約400:1、例えば約100から約250:1である。換言すれば、懸濁製剤中の例示的な糖濃度は、例えば、約10mMから約1M、例えば約50mMから約300mMである。
【0126】
界面活性剤(噴霧乾燥前調製物に含まれる場合)に関して、ポリソルベート20又はポリソルベート80は、懸濁製剤中に存在し得る界面活性剤の例である。界面活性剤(例えば、ポリソルベート20又はポリソルベート80)濃度は、任意選択的に、約0.0001%から約1.0%、例えば約0.01%から約0.1%である。
【0127】
懸濁製剤は一般に滅菌されており、ヒト被験体への投与に適切な滅菌医薬製剤を作製するための当業者に公知の手順であって、懸濁製剤を調製する前又はその後に滅菌濾過膜を通して濾過することを含む手順にしたがってこれを達成することができる。
【0128】
また、製剤は、望ましくは、保存時に安定であることが実証されたものである。製剤の安定性を確認するために、様々な安定性アッセイが熟練実践者に利用可能である。製剤化時の前後に、並びに様々な温度及び時点における保存後に、懸濁製剤中の抗体の物理的安定性、化学的安定性及び/又は生物学的活性を評価することによって、安定性を試験することができる。一実施態様では、噴霧乾燥の前後に(例えば、噴霧乾燥の前後に40℃の加速温度下で3カ月間にわたって保存)、サイズ分布(モノマーの割合、凝集及び/又は断片化)によってモノクローナル抗体の安定性を評価する。一実施態様では、サイズ排除クロマトグラフィー-高速液体クロマトグラフィー(SEC-HPLC)を使用して、サイズ分布を評価する。一実施態様では、3カ月間にわたる(SEC-HPLCによって測定した場合の)懸濁製剤中のモノマー減少率は、約10%未満、例えば約5%未満である。
【0129】
一実施態様では、本発明は、医薬製剤を作製する方法であって、本明細書に記載される懸濁製剤を調製すること、及び前記製剤の以下の特性の何れか1つ以上を評価することを含む方法を提供する:
(a)懸濁液中のモノクローナル抗体の物理的安定性、化学的安定性及び/又は生物学的活性(例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを使用してモノマーの割合を測定する);
(b)懸濁製剤の粘度;
(c)懸濁製剤の注射性又は注射すべり力;
(d)表面エネルギー分析(SEA)又は吸着熱(例えば、逆ガスクロマトグラフィー(IGC)によって粒子-懸濁ビヒクル相互作用を評価する);
(e)粒径(例えば、レーザー回折分析器による、例えば平均及び/又はピーク粒径);及び/又は
(e)懸濁液の物理的安定性(沈殿、経時的な均一性、粒子の沈降速度など)。
【0130】
これらの特性に関する例示的なアッセイのさらなる詳細は、以下の実施例で提供される。
【0131】
1つ以上のさらなる他の薬学的に許容され得る担体、賦形剤又は安定剤、例えばRemington's Pharmaceutical Sciences 16th edition, Osol, A.編(1980)に記載されているものは、それらが製剤の所望の特徴に有害な影響を与えない限り、製剤に含まれ得る。許容され得る担体、賦形剤又は安定剤は、用いられる投与量及び濃度でレシピエントに無毒であり、さらなる緩衝剤;共溶媒;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);ポリエステルなどの生分解性ポリマー;保存剤;及び/又はナトリウムなどの塩形成対イオンが挙げられる。
【0132】
VI.懸濁製剤を使用する医薬及び治療
一実施態様では、本発明は、被験体における疾患又は障害を治療する方法であって、本明細書に記載される懸濁製剤を、前記疾患又は障害を治療するのに有効な量で被験体に投与することを含む方法を提供する。
【0133】
したがって、本発明は、前記懸濁製剤中のモノクローナル抗体による治療を必要とする患者を治療するための本明細書に記載される懸濁製剤;及び、前記懸濁製剤中のモノクローナル抗体による治療を必要とする患者を治療するための医薬の調製における前記懸濁製剤の使用を提供する。代替的な実施態様では、本発明は、患者における疾患又は障害を治療するための本明細書に記載される製剤;及び、患者における疾患又は障害を治療するための医薬の調製における前記製剤の使用を提供する。
【0134】
加えて、本発明は、患者を治療する方法であって、前記被験体における疾患又は障害を治療するために、本明細書に記載される製剤を患者に投与することを含む方法を提供する。好ましくは、製剤を被験体又は患者に皮下投与する。一実施態様では、その中に製剤を含有するプレフィルドシリンジによって、製剤を投与する。
【0135】
製剤中の抗体がHER2に結合する場合、懸濁製剤は、好ましくは、癌を治療するのに使用される。癌は、一般に、本明細書におけるHER2抗体が癌細胞に結合することができるように、HER2発現細胞を含むであろう。したがって、本実施態様における本発明は、被験体におけるHER2発現癌を治療する方法であって、HER2抗体医薬製剤を、前記癌を治療するのに有効な量で前記被験体に投与することを含む方法に関する。HER2抗体(例えば、トラスツズマブ又はペルツズマブ)を用いて本明細書で治療されるべき例示的な癌は、HER2陽性乳癌又は胃癌である。
【0136】
製剤中の抗体がCD20などのB細胞表面マーカーに結合する場合、製剤は、B細胞悪性腫瘍、例えばNHL若しくはCLL又は自己免疫疾患(例えば、関節リウマチ又は血管炎)を治療するのに使用され得る。
【0137】
製剤中の抗体がVEGFに結合する場合(例えば、ベバシズマブ)、製剤は、血管新生を阻害するために、癌(例えば、結腸直腸癌、非小細胞肺(NSCL)癌、グリア芽腫、乳癌及び腎細胞癌腫)を治療するために、又は加齢性黄斑変性症(AMD)若しくは黄斑浮腫を治療するために使用され得る。
【0138】
適応症が癌である場合、患者は、懸濁製剤及び化学療法剤の組み合わせで治療され得る。併用投与は、別個の製剤又は単一の医薬製剤を使用する同時投与(coadministration又はconcurrentadministration)、及び何れかの順序での逐次投与を含み、ここで、両方の(又は全ての)活性剤がその生物学的活性を同時に発揮する期間が存在する。したがって、化学療法剤は、組成物の投与前又はその後に投与することができる。この実施態様では、化学療法剤の少なくとも1回の投与と製剤の少なくとも1回の投与との間のタイミングは、好ましくは、約1カ月間以下であり、最も好ましくは約2週間以下である。あるいは、化学療法剤及び製剤を、単一の製剤又は別個の製剤で患者に同時投与する。
【0139】
懸濁製剤による治療は、疾患又は障害の兆候又は症候の改善をもたらすであろう。また、化学療法剤及び抗体製剤の組み合わせによる治療は、相乗作用的な又は相加作用よりも大きな治療上の利益を患者にもたらし得る。
【0140】
製剤は、公知の方法にしたがって、例えばボーラスとして静脈内投与、又は一定期間にわたる連続注入によって、筋肉内投与、腹腔内投与、脳脊髄内投与、皮下投与、関節内投与、滑液包内投与若しくは髄腔内投与によって、ヒト患者に投与される。
【0141】
抗体組成物の筋肉内投与又は皮下投与が好ましく、皮下投与が最も好ましい。
【0142】
皮下送達の場合、製剤は、シリンジ(例えば、プレフィルドシリンジ);自動注射器;注射デバイス(例えば、INJECT-EASE(商標)及びGENJECT(商標)デバイス);注射ペン(例えば、GENPEN(商標));又は、懸濁製剤を皮下投与するのに適切な他のデバイスを介して投与され得る。本明細書における好ましいデバイスは、プレフィルドシリンジである。
【0143】
疾患の予防又は治療のために、モノクローナル抗体の適切な投与量は、上に定義した治療されるべき疾患の種類、疾患の重症度及び経過、モノクローナル抗体を予防又は治療目的で投与するか、以前の治療、患者の病歴及びモノクローナル抗体に対する応答性、及び担当医の判断に依存するであろう。抗体は、単回又は一連の治療で患者に適切に投与される。例えば1回以上の別個の投与によるか又は連続注入によるかに関わらず、疾患の種類及び重症度に応じて、約1μg/kgから50mg/kg(例えば、0.1mg/kg-20mg/kg)の抗体が患者への投与の初回投与量候補である。抗体の投与量は、一般に、約0.05mg/kgから約10mg/kgであろう。化学療法剤が投与される場合、それは、通常、その公知の投与量で投与されるか、又は任意選択的に、化学療法剤の投与に起因する複合的な薬物作用若しくは負の副作用のために低投与量で投与される。このような化学療法剤の調製及び投与スケジュールは、製造業者の説明書にしたがって、又は熟練実践者によって経験的に決定されるように使用され得る。このような化学療法の調製及び投与スケジュールはまた、Chemotherapy Service編, M.C. Perry, Williams & Wilkins, Baltimore, MD (1992)に記載されている。
【0144】
VII.製品
本明細書では、本発明はまた、その中に懸濁製剤を有するデバイスに関する。好ましくは、デバイスは、プレフィルドシリンジなどの皮下投与デバイスである。
【0145】
関連態様では、本発明は、製品を作製する方法であって、前記懸濁製剤を容器に充填することを含む方法を提供する。
【0146】
製品における容器の実施態様としては、シリンジ(例えば、プレフィルドシリンジ)、自動注射器、ボトル、バイアル(例えば、二重チャンバーバイアル)及び試験管などが挙げられる。容器は懸濁製剤を保持し、容器上の又は容器に付されたラベルは使用法を示し得る。製品は、先のセクションに示されているように、商業的及び使用者の観点から望ましい他の材料、例えば他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び使用説明を含む添付文書をさらに含み得る。
【0147】
以下の実施例を参照することによって、本発明はより詳細に理解されるであろう。しかしながら、それらは、本発明の範囲を限定するものと解すべきではない。全ての文献及び特許引用文献は、出典明示により本明細書に援用される。
【実施例
【0148】
皮下(SC)投与用の高濃度モノクローナル抗体液体製剤(200mg/mL以上)の開発は多くの場合に挑戦的なものであり、粘度増加が注射を困難にする。この調査は、非水性粉末懸濁液のアプローチを使用して、この障害を克服することを目的としていた。3つのヒトIgG1モノクローナル抗体を噴霧乾燥し、異なるモノクローナル抗体濃度で懸濁ビヒクルに懸濁した。ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール、安息香酸ベンジル、及び乳酸エチルをモデル懸濁ビヒクルとして用いた。粘度、粒径及び注射性について、懸濁液を特性評価した。懸濁液の物理的安定性を目視検査した。一般に、懸濁液は、同じモノクローナル抗体濃度でより高粘度であるにもかかわらず、注射性の点で液体溶液よりも性能が優れていた。粉末製剤及び粉末特性は、懸濁液の粘度又は注射性に対してほとんど影響がないように思われた。3つの懸濁ビヒクルの中では、乳酸エチル懸濁液が、333mg/mLという高いモノクローナル抗体濃度(総粉末濃度500mg/mL)において、20センチポアズ未満の最低粘度及び15ニュートン未満の最低シリンジ注射すべり力を有していた。懸濁液の逆ガスクロマトグラフィー(IGC)分析により、懸濁ビヒクルが、懸濁液性能に影響を与える最重要因子であったという結論が支持された。乳酸エチルは、他の懸濁ビヒクルよりも吸着熱を大きくした。何れか1つの理論に縛られるものではないが、これは、強力な粒子-懸濁ビヒクル相互作用が、粒子-粒子の自己会合を減少させて低い懸濁液粘度及びすべり力をもたらし得ることを示している。しかしながら、乳酸エチル懸濁液は、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール及び安息香酸ベンジルが示した懸濁液の物理的安定性を欠いていた。特定の乳酸エチル及びジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール混合物は、高モノクローナル抗体濃度懸濁液における全体的な懸濁液性能を改善した。
【0149】
とりわけ、これらの実施例により、SC投与用の懸濁製剤における高モノクローナル抗体濃度(300mg/mL超)の実現可能性が実証された。
【0150】
材料及び方法
ヒトIgG1サブクラスベバシズマブ、トラスツズマブ及びリツキシマブの3つの組換えキメラ/ヒト化モノクローナル抗体は、Genentech (South San Francisco, CA)によって製造された。これらの抗体は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株によって発現された。タンジェンシャルフロー濾過ユニット(PELLICON3(登録商標) 10kD, Millipore, Billerica, MA)を使用して、全ての抗体薬物質の液体溶液を100mg/mLに濃縮し、トレハロース二水和物で製剤化した。全てのバルクを約pH6.0に緩衝した。抗体粉末懸濁液の調製のために、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール(Batch # 091125, SASOL, Hamburg, Germany)、安息香酸ベンジル(Cat # B9550, Sigma-Aldrich, St Loius, MO)、及び乳酸エチル(Lot #BCBC7752, Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を懸濁ビヒクルとして使用した。
【0151】
噴霧乾燥
本研究では、2種類の噴霧乾燥機(パイロットスケールユニット(MS-35, SPX Flow Technology Systems, Inc., Elkridge, MD)及びベンチトップユニット(B-191, Buchi Corp., New Castle, DE))を使用した。MS-35は、処理能力がB-191よりも約2倍大きい(すなわち、最大水分蒸発量が2.5対1.6kg/時であり、最大圧縮空気消費量が35対20kg/時である)。パイロットスケールユニットは、断熱性のステンレス鋼で主に構成されていたが(乾燥チャンバー、サイクロンなど)、ベンチトップユニットはガラス製であった。パイロットスケールユニットは、高効率のサイクロンを備えていた。粉末回収の収率を計算するために、レシーバー内で回収した粉末のみをパイロットスケールユニットに関するものとみなし、サイクロン及びレシーバーの蓋の上で回収した粉末をベンチトップユニットに関するものとした。噴霧乾燥条件、及び両噴霧乾燥機を使用して生産した乾燥粉末の特徴を表2に記載する。
【0152】
【0153】
凍結乾燥
乾燥状態の安定性を噴霧乾燥サンプルと比較するために、モノクローナル抗体溶液も凍結乾燥した。液体製剤を2ccガラスバイアルに1mL分注し、ブチル栓を置き、次いで、凍結乾燥機(Model# LYOMAX2(登録商標), BOC Edward, Tewksbury, MA)内の-50℃の予冷棚上に置いた。圧力を100mTorrに低下させ、一次乾燥中に棚温度を-25℃に上げて、続いて35℃で二次乾燥を行うことによって、サンプルを乾燥した。凍結乾燥サイクルの総時間は約60時間であった。
【0154】
粒径の分析
レーザー回折分析装置(LA-950, Horiba Instruments, Kyoto, Japan)を使用して、粒径分布を測定した。LA-950は、2つの光源(青色LAD、赤色レーザー)、粒子及び入射光の相互作用を制御するサンプルハンドリングシステム、並びに広範囲の角度にわたって散乱光を検出する高品質フォトダイオードアレイからなる。検出器上で集光した散乱光は、ミー理論を使用して分析したサンプルの粒径分布を計算するために使用した。噴霧乾燥サンプルについては、LA-950上に取り付けたミニフローセル中で、数ミリグラムの乾燥粉末を50mLのイソプロピルアルコールに分散させ、やはりLA-950上に取り付けた超音波処理器を使用して分析前に約1分間超音波処理した。ビヒクルに懸濁した粒子については、フラクションセル中で各ビヒクルで希釈し、LA-950上に取り付けた撹拌器を用いて分析前に混合した。
【0155】
密度の分析
体積測定用シリンダーにおいて、500mgの粉末を4mLのジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール油中に混合し、置き換わった油の体積を粉末容積として測定することによって、粉末密度を決定した。粉末密度は、粉末の重量及び体積を使用して計算することができる。
【0156】
走査電子顕微鏡
環境制御型走査電子顕微鏡(XL30, FEL, Hillsboro, OR)を使用して、噴霧乾燥サンプルの表面形態を調べた。各サンプルをアルミニウムスタブ上にマウントし、10nmのAuPd層でスパッタコーティングし、2kVの電圧でスキャンし、1000及び2000倍率で写真を撮影した。
【0157】
含水量の分析
体積測定用カールフィッシャー滴定分析装置(DL31, Mettler-Toledo)を使用して、噴霧乾燥サンプル中の残留水分を決定した。無水メタノールを含有する滴定セルに、約100mgの各サンプルを注入した。Hydranal composite 2体積測定用試薬(Cat# 34696, Hiedel-deHaen, Heidelberg, Germany)を滴定液として使用した。
【0158】
サイズ排除クロマトグラフィー
サイズ排除クロマトグラフィーによって、サイズ変異体の定量を決定した。この分析は、HPLCシステム(1100, Agilent)で作動するG3000SWXLカラム(内径7.8mm×30cm、5μm)(TOSOH BioScience)を利用した。移動相は、ベバシズマブの場合には0.2Mリン酸カリウム及び0.25M塩化カリウム(pH6.2)であり、トラスツズマブの場合には0.1Mリン酸カリウム(pH6.8)であり、リツキシマブの場合には0.2Mリン酸カリウム及び0.25M塩化カリウム(pH7.0)である。均一濃度で、クロマトグラフィーを流速0.5mL/分で30分間行った。カラム温度は、ベバシズマブ及びリツキシマブの場合には周囲温度に維持し、トラスツズマブの場合には30℃に維持し、溶離液の吸光度を280nmでモニタリングした。各モノクローナル抗体をその各製剤緩衝液で希釈し、ベバシズマブの場合には25mg/mLにし、トラスツズマブ及びリツキシマブの場合には両方とも10mg/mLにした。それらの注入容量は、ベバシズマブの場合には10μLであり、トラスツズマブ及びリツキシマブの場合には両方とも20μLである。
【0159】
噴霧乾燥及び凍結乾燥粉末製剤におけるモノクローナル抗体の物理的安定性
噴霧乾燥及び凍結乾燥粉末サンプルを2ccガラスバイアルに分注した(約25モノクローナル抗体)。各バイアルをゴム栓及びFLIP-OFF(登録商標)キャップで密封し、40℃で最大3カ月間保存した。時間0(乾燥直後)、1、2、3カ月の安定時点において、各乾燥サンプルを1mLの精製水で再構成し、SEC-HPLCを使用してタンパク質サイズ分布(%モノマー、凝集及び断片化)によって抗体の物理的安定性を決定した。
【0160】
懸濁製剤の調製
粉末を計量して2mLバイアルに入れた。決定した粉末密度に基づいて、適切な量の懸濁ビヒクルを追加して粉末濃度(1mLの懸濁液容量にmg単位の粉末)を調製した。次いで、Tempest Virtishearホモジナイザー(Virits Corp, Gardiner, NY)で0.5cmチッププローブを使用して、サンプルを7500rpmで2分間ホモジナイズした。
【0161】
粘度の測定
コーンプレートレオメーター(AR-G2 TA Instrument, New Castle, DE)を使用して、溶液及び懸濁液サンプルの粘度を測定した。各サンプルを下部測定プレートにロードし、25℃で熱平衡にした。AR-G2上に備え付けた溶媒トラップを使用して、測定中の溶液の蒸発を防止した。直径20mm及び角度1度のコーンを使用して剪断速度1000/秒で、サンプルの粘度を2分間にわたって10秒毎に測定した。
【0162】
シリンジすべり力の測定
1mLの懸濁液を1.0mL長の27GTW”ステイクニードルシリンジ(BD, Franklin Lakes, NJ)に入れて、プランジャーストッパー(W4023/FLT, West Pharmaceutical, Lionville, PA)で密封した。シリンジの内部バレルを0.5mgのシリコーンオイル(Dow 360 Medical Fluid, 1,000 cSt)でコーティングした。ロードセルを備える材料試験システム(Model 5542, Instron, Grove City, PA)を使用して、190mm/分の安定した圧縮速度を適用した。すべり力プロファイルを分析し、シリンジバレル内部で移動するプランジャーロッドの距離関数として確立した。
【0163】
逆ガスクロマトグラフィー(IGC)
表面エネルギー分析(SEA)システム(MSM-iGC 2000, Surface Measurement Services Ltd, Allentown, PA)を使用して、IGC実験を実施した。約200mgの粉末サンプルを個々のシラン化ガラスカラムに充填し、シラン化ガラスウールを使用してカラムの両端を密封し、サンプルの移動を防止した。30℃及び相対湿度(RH)0%でIGCSEAからオクタン吸着等温線を測定することによって、粉末サンプルの比表面積を決定した。続いて、分圧範囲(10%から35%P/P)内でそれらの対応するオクタン等温線から、サンプルのBET比表面積を計算した。分散表面エネルギーを決定するためのアルカンプローブとして、デカン、ノナン、オクタン及びヘプタンを使用した。アセトン、アセトニトリル、エタノール及び酢酸エチルを使用して、特定の酸-塩基ギブス自由エネルギーも測定した。吸着熱測定のために、懸濁ビヒクルを気体プローブとして使用した。ヘリウムキャリアガスを用いて30℃で、全てのサンプルをインサイチューで2時間プレコンディショニングし、キャリアガス流速10cm/秒で全ての測定を30℃で行った。
【0164】
結果及び考察
噴霧乾燥抗体/トレハロース粉末
1:2のトレハロース:抗体重量比でトレハロース(これは、モノクローナル抗体に対して炭水化物安定剤として機能する)を含有する液体溶液中で、噴霧乾燥前に3種類のモノクローナル抗体を製剤化した。その体積寄与を最小限に抑える目的のために、約220:1のモル比に相当するこの低重量比(これは、凍結乾燥保護剤としてタンパク質を安定化する糖について一般的に使用される最小モル比300:1(Shireら, J Pharm Sci 93:1390-1402 (2004))を下回っていた)を使用した。400mg粉末/mL懸濁液は、1:2のトレハロース:抗体重量比においてさえ270mg抗体/mLの濃度に相当し、これが本研究の目標抗体濃度の下限であったことに留意する。
【0165】
50mg/mLのトレハロースを用いて100mg/mLで製剤化した3つのモノクローナル抗体を、ベンチトップ噴霧乾燥機(B-191)及びパイロットスケール噴霧乾燥機(MS-35)を使用して噴霧乾燥した。噴霧乾燥条件及び粉末特性評価結果は表2に要約されている。出口温度は、噴霧乾燥能力を決定する重要なパラメータと考えられたので(Maaら, Pharm Dev Technol 2:213-223 (1997); Lee G. Spray Drying of Proteins, in "Rational Protein Formulation: Theory and Practice" (Eds. Carpenter J, Manning M), Pharmaceutical Biotechnology Series (編Borchardt R). Plenum Press, pp. 135-158 (2002); Mauryら Eur. J. Pharm. Biopharm. 59:566-573 (2005); Maaら Biotech. Bioeng. 60:301-309 (1998);及びMaaら J. Pharm. Sci. 87:152-159 (1998))、全てのサンプルについて同程度の出口温度87-89℃を用いた。パイロットスケール噴霧乾燥機は粉末回収収率(96%超)及び含水量4-5%の点で優れた性能を示したが、ベンチトップ噴霧乾燥機によって乾燥したサンプルでは、収率60%及び含水量7-9%であった。パイロットスケール乾燥機はまた、8-11μm(D50)のより大きな粒子を生成することができたのに対して、ベンチトップ乾燥機は2-5μm(D50)の粒子を生成した。パイロットスケール乾燥機の利点は、効率的なエネルギー利用及びより高い粉末回収効率に起因し得る。全ての抗体についての粒子形状及び形態は、一般に、窪みを有する球状であり、これは抗体依存性であった。噴霧乾燥機の種類は、粒子形態に影響を与えなかった。全体的に、乾燥機の性能及び抗体の種類は、粒子特性にある程度の変動をもたらした。これらの変動は劇的ではないが、それらにより本発明者らは、懸濁液性能に対するそれらの影響を評価することができた。
【0166】
噴霧乾燥及び凍結乾燥粉末製剤における抗体の物理的安定性
生物製剤の噴霧乾燥に関する一般的な懸念は、特に180℃超の高い入口温度を有していたパイロット乾燥機の場合には高温ストレスであった。噴霧乾燥の前後に40℃の加速温度下で3カ月間にわたって保存し、SEC-HPLCを使用してタンパク質サイズ分布(%モノマー、凝集及び断片化)によって、乾燥サンプルの抗体の物理的安定性を精製水による再構成時に決定した(図1)。パイロットスケール噴霧乾燥機で使用した乾燥温度は高いにもかかわらず、(%)モノマーに対する乾燥過程の影響は最小限であった。3カ月にわたって40℃で(%)モノマーの変化をモニタリングすることによって、噴霧乾燥ベバシズマブ及びトラスツズマブに関する抗体の物理的安定性を凍結乾燥カウンターパートと比較した。加速条件では主に凝集により全てのサンプルの(%)モノマーが減少したが、製剤中の抗体を保護するトレハロースが準最適量であることを考慮すると、これは驚くべきことではない。しかしながら、噴霧乾燥サンプルでは、抗体の物理的安定性が凍結乾燥サンプルよりも高かった。噴霧乾燥トラスツズマブ及びベバシズマブの(%)モノマーはそれぞれ約2%及び約4%減少したのに対して、両凍結乾燥抗体は、約0.8%の低含水量にもかかわらず、3カ月間で約6.5%のより高い(%)モノマー減少に悩まされた。したがって、噴霧乾燥は、懸濁製剤開発用の抗体粉末の作製において、過程及び安定性の観点から実現可能なアプローチである。
【0167】
懸濁ビヒクルの選択
溶液の粘度に関するアインシュタインの式(Einstein, A., Annalen der Physik 34:591-92 (1911))によれば、懸濁ビヒクルの粘度は懸濁液粘度に直線的に寄与するであろうから、懸濁ビヒクルの主な選択基準を低粘度、好ましくは10Cp未満とした。
η=η(1+2.5φ)(式2)
式中、ηは懸濁液粘度であり、ηは純粋な懸濁ビヒクルの粘度であり、φは溶質の体積分率である。
【0168】
本研究のために選択した3つの懸濁ビヒクル(ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール、安息香酸ベンジル、及び乳酸エチル)は、この基準を満たしていた(表3)。MIGLYOL840(登録商標)はMIGLYOL(登録商標)中性油ファミリーのカプリル酸及びカプリン酸のプロピレングリコールジエステルである。MIGLYOL810(登録商標)及びMIGLYOL812(登録商標)は静脈内注射及び筋肉内注射について承認されているが、それらは周囲温度で30cp超の粘性である。このファミリーでは粘性が最小(約9cp)のジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールは、経皮適用に使用されている(Mahjourら, Intl J Pharm 95:161-169 (1999); Seniro, W., Intl J Toxicol 18:35-52 (1999))。安息香酸ベンジルは、粘度(約9cp)の点でジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールに類似しており、液体注射物質中、濃度10%未満で保存剤として使用されていることが多い。乳酸エチルは、その毒性が比較的低いので、医薬調製物、食品添加物及び香料に一般的に使用されている。乳酸エチルは非経口的には未だに承認されていないが、筋肉内注射及び静脈内注射の場合、マウスにおいて低毒性であった(Spiegel and Noseworthy, J Pharm Sci 52:917-927 (1963); Mottuら, PDA J. Pharm. Sci. Technol. 54:456-469 (2000))。乳酸エチルは、水のような粘度(約2cp)を有する。
【0169】
【0170】
懸濁液粘度に対する抗体の種類及び粉末特性の影響
ベンチトップ噴霧乾燥機及びパイロットスケール噴霧乾燥機の両方によって乾燥した全ての抗体(表2)をジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールに懸濁した。懸濁液粘度を抗体濃度の関数として測定し、抗体液体溶液と比較した(図2)。全ての抗体の懸濁液粘度は、試験した抗体濃度の範囲内で類似していたが、これは、抗体の種類及び粉末特性(粒径、形態及び水分含量)の変動が懸濁液粘度に対してほとんど影響がなかったことを示唆している。
ηMiglyol 840=8.24e0.0088(粉末濃度)(式3)
と表され得る抗体濃度を指数関数的に増加させると、懸濁液粘度が増加した。
【0171】
確実に、それは、主として希薄懸濁液に関するアインシュタインの式(式2)とは非常に異なる。式2の修正版である式4では、より濃縮された懸濁液の相互作用が考慮されたが(Kunitz, M., J. General Physiology pp.715-725 (July 1926))、それは経験データを依然として極めて過小評価していた(図2の破線を参照のこと)。
η/η=(1+0.5φ)/(1-φ)(式4)
【0172】
興味深いことに、懸濁液粘度は、同じ抗体濃度の対応する抗体液体溶液の粘度よりも実際には高かったことが見出された。抗体の種類は液体粘度に有意な影響を与えたが、抗体間で懸濁液粘度の差異は観察されなかった。
【0173】
IGCによる噴霧乾燥粉末の表面エネルギー
Kanai及び共同研究者(Kanaiら, J. Pharm. Sci. 97:4219-4227 (2005))は、相補性決定領域(CDR)領域のアミノ酸配列が異なる同じ構築物から構成される2つの抗体を用いて水溶液中で試験したそれらの粘度研究において、Fab-Fab相互作用の結果としての可逆的な自己会合を見出した。非水性ビヒクルの粉末懸濁液では、抗体の種類によるこのような粘度の差異は観察されなかった(図2)。この観察結果は、粉末懸濁液中の粒子の表面エネルギー分布の観点から解釈することができた。粒子の表面エネルギー(極性及び非極性(分散)エネルギー成分の組み合わせ)は、懸濁ビヒクルと粒子との相互作用レベルを決定し得る。IGCは、表面エネルギー測定の一般的なツールである。プローブとしてデカン、ノナン、オクタン及びヘプタンを使用して粒子の分散表面エネルギーを測定し、プローブとしてアセトン、酢酸エチル、エタノール及びアセトニトリルを使用して特定の酸-塩基(極性)ギブス自由エネルギーを測定した。表面エネルギーは粉末サンプルの粒径分布に応じた分布であるが、50%値の表面エネルギーのみを表4に報告した。3つの抗体全てについて、分散表面エネルギーγ50は、36から38mJ/mの狭い範囲内にあった。4つの酸-塩基プローブに応じたこれらの抗体の特定の酸-塩基ギブス自由エネルギーの差異ΔG50も、8から13mJ/mの狭い範囲内にあった。3つの抗体粉末間の表面エネルギー分布が同程度であることから、粒子-懸濁ビヒクル相互作用及び粒子-粒子相互作用が類似しており、それが、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールにおける同程度の懸濁液粘度をもたらすと説明することができる(図2)。
【0174】
【0175】
3つのビヒクルの懸濁液の注射性
粘度測定よりも関連性のある性能指標であるすべり力測定によって、注射性をモニタリングすることができる。27ゲージのTWステイクニードルを通して1mL長のシリンジを使用して10秒間に1mLの懸濁液を注射することによって、3つのビヒクルのリツキシマブ粉末懸濁液のすべり力を抗体濃度の関数として測定した(図3)。全ての懸濁液のすべり力が抗体濃度と共に増加したが、それは高粘度にもかかわらず、200mg/mLの抗体濃度においてさえ20N未満であった(図2)。参考文献3の図4から抜粋した抗体液体溶液の予測すべり力は、懸濁液のすべり力よりも高かった。試験した3つの懸濁ビヒクルの中では、乳酸エチル懸濁液のすべり力が最低であった。333mg抗体/mLにおける乳酸エチル懸濁液のすべり力は、約半分の抗体濃度(167mg/mL)における他の2つの懸濁ビヒクルのものと同等であり、333mg/mLの高い抗体濃度においてさえ目標閾値15ニュートンを依然として下回っていた。液体溶液と懸濁液との間の粘度-すべり力の関係不一致の理由は不明である。
【0176】
懸濁液粘度に対する懸濁ビヒクルの影響
噴霧乾燥リツキシマブ粉末を含有する3つのビヒクルにおいて、懸濁液粘度を試験した(図4)。3つのビヒクルの中では、乳酸エチルの粘度が最低であった;333mg抗体/mLにおける乳酸エチル懸濁液の粘度は、約半分の抗体濃度(167mg/mL)におけるジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール及び安息香酸ベンジルの懸濁液のものと同等であった。
【0177】
IGCによる収着熱及び粒径
収着熱(ΔH収着)は、表面上に吸着した固体と気体分子との間の相互作用強度の直接的な尺度である(Thielmann F., “Inverse gas chromatography: Characterization of alumina and related surfaces,” In “Encyclopedia of Surface and Colloid Science Volume 4 (P. Somasundaran編) CRC Press, Boca Raton, FL., p3009-3031 (2006); Thielmann and Butler, “Heat of sorption on microcrystalline cellulose by pulse inverse gas chromatography at infinite dilution,” Surface Measurement Services Application Note 203 (http://www.thesorptionsolution.com/Information_Application_Notes_IGC.php#Aps) (2007))。
【0178】
IGC法を用いて、噴霧乾燥粒子と懸濁ビヒクルとの間の吸着熱を測定した(表4)。ベバシズマブ及びリツキシマブの両方については、乳酸エチル懸濁液では、吸着熱が他の2つの懸濁ビヒクルよりも高かった。3つの懸濁液間で、懸濁粒子の粒径も比較した(図5)。それぞれジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール、安息香酸ベンジル及び乳酸エチルについて、ピーク粒径(最高割合)は28、25、及び7mmであった。吸着熱及び粒径の両方のデータが、乳酸エチル懸濁液におけるより高い吸着熱が粒子-粒子相互作用よりも高い粒子-懸濁ビヒクル相互作用を示したこと、及び乳酸エチルにおける粒子の自己会合度はジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール又は安息香酸ベンジルにおけるものよりも低かったことを示している。
【0179】
懸濁液の物理的安定性
乳酸エチル懸濁液における粘度及びすべり力は低いにもかかわらず、それは、時間関数として固有の懸濁液の物理的安定性を示した。乳酸エチル懸濁液中の粉末が底に沈殿し、1日間の周囲保存後に懸濁液表面に浮かんだ(図6A)。ボルテックスすることによって、乳酸エチル懸濁液の均一性を回復させることができた(図6B)。反対に、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールにおける懸濁液の物理的安定性はかなり安定しており、2週間にわたって依然として十分に懸濁していた(図6C)。
【0180】
それぞれ1.03g/cm及び0.92g/cm並びに2cP及び9cPという乳酸エチル及びジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールの密度及び粘度に基づいて、ストークの法則(以下の式4)によって決定した粒子の沈降速度によれば、乳酸エチル中の粒子は、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール中よりも約4.5倍速く沈殿するであろう。したがって、ストークの法則のみでは、乳酸エチル中の粒子の沈殿がジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールと比較して極めて速いという観察結果を十分に説明することができず、これは、表面電荷(すなわち、ゼータ電位)などの他の機構が役割を果たし得ることを示唆している。しかしながら、噴霧乾燥粒子の密度は乳酸エチルより高いので、粒子の一部が乳酸エチル表面の上部に浮かぶ現象は説明困難である。
s=d(ρ-ρ)g/(18η)(式5)
式中、sは沈降速度であり、dは粒子の直径であり、ρは粒子の密度であり、ρは懸濁ビヒクルの密度であり、gは重力加速度であり、ηは懸濁ビヒクルの粘度である。
【0181】
懸濁液性能を改善する懸濁ビヒクル混合物
リツキシマブ懸濁液の物理的安定性を試験するための懸濁ビヒクルとして、乳酸エチル及びジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールの混合物を使用した。これらの混合懸濁液について、粒径を決定した(図7A)。混合物におけるジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールの寄与を減少させると粒径が減少し、それぞれ100:0、75:25、50:50、25:75、及び0:100のジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール:乳酸エチル混合物について、ピーク粒径は28、13、11、8及び7μmであった。図7Bで実証されているように(2週間の周囲保存後において、25:75ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール:乳酸エチル混合物のリツキシマブ粉末では、均一な懸濁が維持された)、懸濁液の物理的安定性の観点から、少量のジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコールと混合することによって、乳酸エチルの乏しい懸濁安定性が改善された。懸濁ビヒクル混合物を使用して、全体的な懸濁液性能を改善することができることが実証された。
【0182】
結論
これらの実施例により、高モノクローナル抗体濃度のSC投与には非水性粉末懸濁液アプローチが適していたことが実証された。噴霧乾燥による乾燥粉末調製物は、高効率の噴霧乾燥過程を使用して拡張可能であった。全体的な懸濁液性能の最重要パラメータは、懸濁ビヒクルの種類であると決定された。333mg/mLという高い抗体濃度(総粉末濃度500mg/mL)において、乳酸エチルの粉末懸濁液は、27ゲージのTWステイクニードルを介して15N未満の低いすべり力で優れた懸濁液注射性を示した。何れか1つの理論に縛られるものではないが、低粘度及び注射性は、粒子-粒子凝集塊が懸濁液中でより大きな粒径になるのを防止する強力な粒子-懸濁ビヒクル相互作用に起因する可能性があった。しかしながら、この機構は、懸濁液の物理的安定性を支持しなかった。乾燥抗体粒子は、ジカプリル酸/ジカプリン酸プロピレングリコール中よりも乳酸エチル懸濁液中で沈殿する傾向が高かった。懸濁ビヒクル混合物を使用するアプローチは、全体的な懸濁液性能を改善するために有効であることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A-1】
図8A-2】
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
【配列表】
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