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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】新規融合体及びその検出法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220126BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220126BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220126BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220126BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20220126BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220126BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALI20220126BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20220126BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20220126BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
A61K39/395 Y
A61P35/00
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/63 Z
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6876 Z
C07K14/47
C12N9/12
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2017561206
(86)(22)【出願日】2017-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2017001118
(87)【国際公開番号】W WO2017122816
(87)【国際公開日】2017-07-20
【審査請求日】2020-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2016006471
(32)【優先日】2016-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度 文部科学省、科学技術試験研究委託事業、「チロシンキナーゼ阻害剤によるがん治療の実用化に関する研究」(治療標的となる新規融合型キナーゼの同定)、次世代癌研究戦略推進プロジェクト事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000173588
【氏名又は名称】公益財団法人がん研究会
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】竹内 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】坂田 征士
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 由紀
(72)【発明者】
【氏名】藤田 直也
(72)【発明者】
【氏名】片山 量平
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】PLoS ONE, 2012, Vol.7, Issue 6, e39653, p.1-12
【文献】Database GenBank [online], Accession No. AFN01665, 2012-07-03 uploaded, [retrieved on 2021-01-23], <https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/AFN01665.1?report=genbank&log$=protalign&blast_rank=1&RID=0RFK8BT4013>, SND1-BRAF fusion [Homo sapiens].
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/62
A61K 39/395
A61P 35/00
C07K 19/00
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
C12N 15/63
C12Q 1/6813
C12Q 1/6844
C12Q 1/6876
C07K 14/47
C12N 9/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PXN又はGMDSとBRAFとの融合タンパク質。
【請求項2】
以下の(a)~(d)からなる群から選択されるポリペプチドである、請求項1に記載の融合タンパク質:
(a)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列との同一性が95%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号2又は4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項5】
請求項4に記載のベクターで形質転換された細胞。
【請求項6】
請求項1、又は2の(a)~(d)に記載のいずれかのPXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質の検出方法であって、
被験者から得た試料中の、切断されたBRAFタンパク質を検出する工程を含む検出方法。
【請求項7】
PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質をコードする融合遺伝子の検出方法であって、
前記融合遺伝子が請求項3に記載のポリヌクレオチドであり、
被験者から得た試料中の、切断されたBRAFタンパク質をコードする遺伝子を検出する工程を含む検出方法。
【請求項8】
前記融合遺伝子のDNA又は転写産物であるmRNAを検出する、請求項7記載の検出方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のいずれかのPXN又はGMDSとBRAFとの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合遺伝子の検出用キット。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のいずれかのPXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質の検出用キットであって、
融合点よりN末端側領域のPXN又はGMDSタンパク質のポリペプチドに特異的に結合する抗体と、融合点よりC末端側領域のBRAFタンパク質のポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む、PXN又はGMDSとBRAFとの融合タンパク質の検出用キット。
【請求項11】
BRAFタンパク質をコードするポリヌクレオチド部分から設計されるアンチセンスプライマー及びPXN又はGMDSタンパク質をコードするポリヌクレオチド部分から設計されるセンスプライマーを含む、BRAF遺伝子とPXN又はGMDS遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットであって、アンチセンスプライマーは請求項3に記載のポリヌクレオチドにアニールする核酸分子からなり、センスプライマーは請求項3に記載のポリヌクレオチドの相補鎖にアニールする核酸分子からなるプライマーセット。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のいずれかの融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドを検出するためのプライマーセットであって、
該ポリヌクレオチドが配列番号1又は配列番号3に示される塩基からなるポリヌクレオチドであり、該プライマーセットが配列番号1又は配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにアニールする核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にアニールする核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット。
【請求項13】
請求項12に記載のプライマーセットであって、
以下の(a)~(b)からなる群から選択される、センスプライマー及びアンチセンスプライマー、を含む、プライマーセット:
(a)配列番号1の塩基番号1から962の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー、及び配列番号1の塩基番号963から2067の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマー、又は、
(b)配列番号3の塩基番号1から372の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー、及び配列番号3の塩基番号373から1651の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマー。
【請求項14】
(1)請求項2に記載の(a)~(d)のいずれかのポリペプチド、又は前記ポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドの活性及び/又は発現が阻害されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質を選択する工程
を含む、前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質をスクリーニングする方法。
【請求項15】
前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質が、PXN又はGMDSとBRAFとの融合体陽性のがんの治療剤である、請求項14に記載のスクリーニング方法。
【請求項16】
請求項1、又は2に記載のPXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質の検出方法であって、
被験者から得た試料中の、切断されたPXN又はGMDSタンパク質を検出する工程を含む検出方法。
【請求項17】
PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質をコードする融合遺伝子の検出方法であって、
前記融合遺伝子が請求項3に記載のポリヌクレオチドであり、
被験者から得た試料中の、切断されたPXN又はGMDSタンパク質をコードする遺伝子を検出する工程を含む検出方法。
【請求項18】
請求項1、又は2に記載のいずれかのPXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質の検出方法であって、
前記検出方法が、PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質とから構築される融合タンパク質の存在、を検出する工程を含む検出方法。
【請求項19】
請求項1又は2に記載のいずれかのPXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質をコードする融合遺伝子の検出方法であって、
前記検出方法が、PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質とから構築される融合タンパク質をコードする融合遺伝子の存在、を検出する工程を含む検出方法。
【請求項20】
前記融合遺伝子のDNA又は転写産物であるmRNAを検出する、請求項17又は19に記載の検出方法。
【請求項21】
請求項19に記載の検出方法に用いる検出用キットであって、
PXN又はGMDS遺伝子と融合遺伝子を構成するBRAF遺伝子の3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、PXN又はGMDS遺伝子5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとを含む、PXN又はGMDS融合遺伝子の検出用キット。
【請求項22】
請求項16記載の検出方法に用いる検出用キットであって、
PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域を特異的に認識できる抗PXN又はGMDS抗体、及び、PXN又はGMDSタンパク質のC末端側領域を特異的に認識できる抗PXN又はGMDS抗体を含む、PXN又はGMDS融合タンパク質の検出用キット。
【請求項23】
前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質が、PXN又はGMDSとBRAFとの融合体陽性のがんの治療剤である、請求項14に記載のスクリーニング方法。
【請求項24】
請求項2に記載のいずれかのPXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質を含有する、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合体陽性のがんの治療用医薬組成物であって、
前記医薬組成物がtrametinib、Sorafenib、Dabrafenib、Vemurafenib、Regorafenib、N-{2,4-difluoro-3-[(5-pyridin-3-yl-1H-pyrrolo[2,3-b]pyridin-3-yl)carbonyl]phenyl}ethanesulfonamide、N-{3-[(5-chloro-1H-pyrrolo[2,3-b]pyridin-3-yl)carbonyl]-2,4-difluorophenyl}propane-1-sulfonamide、(1E)-5-(1-piperidin-4-yl-3-pyridin-4-yl-1H-pyrazol-4-yl)-2,3-dihydro-1H-inden-1-one oxime、GDC-0879、RAF-265、AZ628、又はこれらの薬学的に許容される塩を有効成分とする医薬組成物。
【請求項25】
請求項1又は2に記載のいずれかのPXN又はGMDSとBRAFとの融合タンパク質をコードする融合遺伝子の融合点をはさんでその上流のPXN又はGMDS遺伝子由来の16塩基及び、下流のBRAF遺伝子由来の16塩基からなる、連続した32塩基の核酸分子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BRAFキナーゼ領域を含む新規の融合タンパク質又は該融合タンパク質をコードする融合遺伝子、及びそれらの検出方法に関する。
本発明は、PXN又はGMDSの少なくとも一部を含む新規の融合タンパク質又は該融合タンパク質をコードする融合遺伝子、及びそれらの検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
染色体転座の結果、本来は別々の遺伝子が融合して融合遺伝子が作られる。これまで慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABL1融合体や、肺がんにおけるEML4-ALK融合体、肺がんを含む種々のがんにおけるROS1融合体のように、キナーゼ遺伝子の一部を構成要素に含む融合遺伝子はしばしば発がんに本質的な役割を担い、その機能を抑制する薬剤は極めて有効な抗がん剤となることが知られている(非特許文献1、特許文献1、及び特許文献2)。
例えば、チロシンキナーゼ阻害剤のクリゾチニブやエルロチニブの登場により、分子診断とがん治療効果の関係について、臨床で示されつつあり、分子診断による適応患者の選別により、患者を層別化した上での治療薬投与というコンセプトが広がりつつある。
【0003】
BRAF(V-Raf Murine Sarcoma Viral Oncogene Homolog B1)は、Rafキナーゼファミリーに属するセリン/スレオニンキナーゼであり、Ras-GTPと結合することにより活性化される(非特許文献2)。
これまでに、BRAF融合遺伝子が原因であるがんが複数知られている。例えば、脳腫瘍におけるKIAA1549-BRAF、前立腺がんにおけるSLC45A3-BRAF、胃がんにおけるAGTRAP-BRAF等が知られている(非特許文献3~5)。BRAF遺伝子と他の遺伝子の再構成により生じた融合体は、恒常的にキナーゼドメインがリン酸化状態にあり、MAPキナーゼ/ERK経路等にシグナルを送り続けることにより、細胞のがん化に繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4303303号公報
【文献】WO2011/162295号パンフレット
【非特許文献】
【0005】
【文献】Lugo, TG et al., Science. 247, 1079-1082 (1990).
【文献】Stephens RM., Mol. Cell. Biol. 12, 3733-3742 (1992).
【文献】MarK, W, ASCO Educational Book. e436-e440 (2014).
【文献】Palanisamy, N., Nat. Med., 793-799 (2010).
【文献】Mcmahon, M., Nat. Med., 749-750 (2010).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、がんの新たな原因因子である融合体(融合タンパク質及び融合遺伝子)を解明したことに基づき、融合タンパク質又は当該融合タンパク質をコードする融合遺伝子の検出方法、当該検出方法を用いたがんの診断方法、がん治療用医薬組成物の適用対象者の判定方法、前記検出方法のためのキット及びプライマーセット、前記融合タンパク質であるポリペプチドの活性及び/又は発現の阻害物質のスクリーニング方法、ならびに前記阻害物質を含有するがん治療用医薬組成物及び前記がん治療用医薬組成物を投与するがん治療方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、大腸がん患者から得た検体から、PXN遺伝子の一部と、キナーゼであるBRAF遺伝子の一部とが融合した新規の融合遺伝子、及び、GMDS遺伝子の一部と、キナーゼであるBRAF遺伝子の一部とが融合した新規の融合遺伝子を単離同定し(実施例1~3)、当該融合遺伝子が大腸がん患者検体に存在することを見出した(実施例4~5)。
本発明者は、これらの知見から、BRAF融合タンパク質又は該融合タンパク質をコードする融合遺伝子の検出方法を提供し、そのためのキット及びプライマーセットを提供し、この融合タンパク質又は当該融合タンパク質をコードする融合遺伝子を検出することにより、BRAF阻害物質を用いた治療の対象となるがん患者を判別することを可能とし、当該がん患者にBRAF阻害物質を投与する工程を含む、がんの治療方法を提供する。
本発明者は、これらの知見から、PXN又はGMDS融合タンパク質又は該融合タンパク質をコードする融合遺伝子の検出方法を提供し、そのためのキット及びプライマーセットを提供し、この融合タンパク質又は当該融合タンパク質をコードする融合遺伝子を検出することにより、PXN又はGMDS阻害物質を用いた治療の対象となるがん患者を判別することを可能とし、当該がん患者にPXN又はGMDS阻害物質を投与する工程を含む、がんの治療方法を提供する。
【0008】
本発明は、以下の発明に関する:
[1]被験者から得た試料中の、BRAF融合タンパク質又は該融合タンパク質をコードする融合遺伝子の検出方法。
[2]前記検出方法が、BRAFタンパク質の切断、又は、BRAFタンパク質をコードする遺伝子の切断、を検出する工程を含む、[1]に記載の検出方法。
[3]前記検出方法が、BRAFタンパク質とそれ以外の他のタンパク質とから構築される融合タンパク質の存在、又は、前記融合タンパク質をコードする融合遺伝子の存在、を検出する工程を含む、[1]に記載の検出方法。
[4]前記融合タンパク質が、PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質である、[1]~[3]のいずれかに記載の検出方法。
[5]前記融合タンパク質が、以下の(a)~(d)からなる群から選択されるポリペプチドである、[1]~[4]のいずれかに記載の検出方法:
(a)配列番号2(PXN-BRAF)又は配列番号4(GMDS-BRAF)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
[6]前記BRAF融合遺伝子が、[5]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである、[1]~[5]のいずれかに記載の検出方法。
[7]前記融合遺伝子が、DNA又はmRNAである、[1]~[6]のいずれかに記載の検出方法。
[8]前記試料が、消化器由来試料である、[1]~[7]のいずれかに記載の検出方法。
[9]前記消化器由来試料が、消化管由来試料である、[8]に記載の検出方法。
[10]前記消化器由来試料が、下部消化管由来試料である、[8]に記載の検出方法。
[11]前記消化器由来試料が、大腸由来試料である、[8]に記載の検出方法。
[12]BRAF遺伝子5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、BRAF遺伝子3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとを含む、BRAF融合遺伝子の検出用キット。
[13]BRAF遺伝子と共にBRAF融合遺伝子を構成する他の遺伝子の5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、BRAF遺伝子3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとを含む、BRAF融合遺伝子の検出用キット。
[14]BRAFタンパク質をコードするポリヌクレオチドの、5’末端側領域を特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマー、ならびに、前記ポリヌクレオチドの3’末端側領域を特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む、BRAF融合遺伝子の検出用キット。
[15]PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質であるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合遺伝子の検出用キット。
[16]以下の(a)~(d)からなる群から選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合遺伝子の検出用キット:
(a)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
[17]BRAFタンパク質のN末端側領域を特異的に認識できる抗BRAF抗体、及び、BRAFタンパク質のC末端側領域を特異的に認識できる抗BRAF抗体を含む、BRAF融合タンパク質の検出用キット。
[18]BRAFタンパク質と共にBRAF融合タンパク質を構成する他のタンパク質のN末端側領域のポリペプチドに特異的に結合する抗体と、BRAFタンパク質のC末端側領域のポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む、BRAF融合タンパク質の検出用キット。
[19]前記他のタンパク質が、PXN又はGMDSタンパク質である、[18]に記載のキット。
[20]BRAFタンパク質をコードするポリヌクレオチド部分から設計されるアンチセンスプライマー及びPXN又はGMDSタンパク質をコードするポリヌクレオチド部分から設計されるセンスプライマーを含む、PXN又はGMDS遺伝子とBRAF遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットであって、アンチセンスプライマーは[16]に記載のポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でアニールする核酸分子からなり、センスプライマーは[16]に記載のポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でアニールする核酸分子からなるプライマーセット。
[21]PXN又はGMDS遺伝子とBRAF遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットであって、配列番号1又は配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でアニールする核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下でアニールする核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット。
[22]以下の(a)~(b)からなる群から選択される、センスプライマー及びアンチセンスプライマー、を含む、プライマーセット:
(a)配列番号1の塩基番号1から962の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー、及び配列番号1の塩基番号963から2067の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマー、及び、
(b)配列番号3の塩基番号1から372の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー、及び配列番号3の塩基番号373から1651の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマー。
[23](1)[5]に記載のポリペプチド、又は前記ポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドの活性及び/又は発現が阻害されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質を選択する工程
を含む、前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質をスクリーニングする方法。
[24]前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質が、BRAF融合体陽性のがんの治療剤である、[23]に記載のスクリーニング方法。
[25]前記がんが、消化器がんである、[24]に記載のスクリーニング方法。
[26]前記がんが、消化管がんである、[25]に記載のスクリーニング方法。
[27]前記がんが、下部消化管がんである、[25]に記載のスクリーニング方法。
[28]前記がんが、大腸がんである、[25]に記載のスクリーニング方法。
[29]BRAF融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質を含有する、BRAF融合体陽性のがんの治療用医薬組成物。
[30]前記BRAF融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質が、キナーゼ阻害剤である、[29]に記載の医薬組成物。
[31]前記BRAF融合タンパク質が、[5]に記載のポリペプチドである、[29]又は[30]に記載の医薬組成物。
[32]前記がんが、消化器がんである、[29]~[31]のいずれかに記載の医薬組成物。
[33]前記がんが、消化管がんである、[32]に記載の医薬組成物。
[34]前記がんが、下部消化管がんである、[32]に記載の医薬組成物。
[35]前記がんが、大腸がんである、[32]に記載の医薬組成物。
[36]BRAF融合タンパク質。
[37]PXN又はGMDSとBRAFとの融合タンパク質。
[38]以下の(a)~(d)からなる群から選択されるポリペプチドである、[36]に記載の融合タンパク質:
(a)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
[39][36]~[38]のいずれかに記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[40][39]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[41][40]に記載のベクターで形質転換された細胞。
[42]被験者から得た試料中の、PXN又はGMDS融合タンパク質又は該融合タンパク質をコードする融合遺伝子の検出方法。
[43]前記検出方法が、PXN又はGMDSタンパク質の切断、又は、PXN又はGMDSタンパク質をコードする遺伝子の切断、を検出する工程を含む、[42]に記載の検出方法。
[44]前記検出方法が、PXN又はGMDSタンパク質とそれ以外の他のタンパク質とから構築される融合タンパク質の存在、又は、前記融合タンパク質をコードする融合遺伝子の存在、を検出する工程を含む、[42]に記載の検出方法。
[45]前記融合タンパク質が、PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質である、[42]~[44]のいずれかに記載の検出方法。
[46]前記融合タンパク質が、以下の(a)~(d)からなる群から選択されるポリペプチドである、[42]~[45]のいずれかに記載の検出方法:
(a)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
[47]前記PXN又はGMDS融合遺伝子が、[46]に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである、[42]~[46]のいずれかに記載の検出方法。
[48]前記融合遺伝子が、DNA又はmRNAである、[42]~[47]のいずれかに記載の検出方法。
[49]前記試料が消化器由来試料である、[42]~[48]のいずれかに記載の検出方法。
[50]前記消化器由来試料が、消化管由来試料である、[49]に記載の検出方法。
[51]前記消化器由来試料が、下部消化管由来試料である、[49]に記載の検出方法。
[52]前記消化器由来試料が、大腸由来試料である、[49]に記載の検出方法。
[53]PXN又はGMDS遺伝子5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、PXN又はGMDS遺伝子3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとを含む、PXN又はGMDS融合遺伝子の検出用キット。
[54]PXN又はGMDS遺伝子と共にPXN又はGMDS融合遺伝子を構成する他の遺伝子の3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、PXN又はGMDS遺伝子5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとを含む、PXN又はGMDS融合遺伝子の検出用キット。
[55]PXN又はGMDSタンパク質をコードするポリヌクレオチドの、5’末端側領域を特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマー、ならびに、前記ポリヌクレオチドの3’末端側領域を特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む、PXN又はGMDS融合遺伝子の検出用キット。
[56]PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質であるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合遺伝子の検出用キット。
[57]以下の(a)~(d)からなる群から選択されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを含む、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合遺伝子の検出用キット:
(a)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
[58]PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域を特異的に認識できる抗PXN又はGMDS抗体、及び、PXN又はGMDSタンパク質のC末端側領域を特異的に認識できる抗PXN又はGMDS抗体を含む、PXN又はGMDS融合タンパク質の検出用キット。
[59]PXN又はGMDSタンパク質と共にPXN又はGMDS融合タンパク質を構成する他のタンパク質のC末端側領域のポリペプチドに特異的に結合する抗体と、PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域のポリペプチドに特異的に結合する抗体を含む、PXN又はGMDS融合タンパク質の検出用キット。
[60]前記他のタンパク質が、BRAFタンパク質である、[59]に記載のキット。
[61]BRAFタンパク質をコードするポリヌクレオチド部分から設計されるアンチセンスプライマー及びPXN又はGMDSタンパク質をコードするポリヌクレオチド部分から設計されるセンスプライマーを含む、BRAF遺伝子とPXN又はGMDS遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットであって、アンチセンスプライマーは[57]に記載のポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でアニールする核酸分子からなり、センスプライマーは[57]に記載のポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件でアニールする核酸分子からなるプライマーセット。
[62]PXN又はGMDS遺伝子とBRAF遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットであって、配列番号1又は配列番号3に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でアニールする核酸分子からなるアンチセンスプライマー及び該ポリヌクレオチドの相補鎖にストリンジェントな条件下でアニールする核酸分子からなるセンスプライマーを含むプライマーセット。
[63]以下の(a)~(b)からなる群から選択される、センスプライマー及びアンチセンスプライマー、を含む、プライマーセット:
(a)配列番号1の塩基番号1から962の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー、及び配列番号1の塩基番号963から2067の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマー、及び、
(b)配列番号3の塩基番号1から372の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー、及び配列番号3の塩基番号373から1651の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマー。
[64](1)[46]に記載のポリペプチド、又は前記ポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドの活性及び/又は発現が阻害されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質を選択する工程
を含む、前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質をスクリーニングする方法。
[65]前記ポリペプチドの活性及び/又は発現を阻害する物質が、PXN又はGMDS融合体陽性のがんの治療剤である、[64]に記載のスクリーニング方法。
[66]前記がんが、消化器がんである、[65]に記載のスクリーニング方法。
[67]前記がんが、消化管がんである、[66]に記載のスクリーニング方法。
[68]前記がんが、下部消化管がんである、[66]に記載のスクリーニング方法。
[69]前記がんが、大腸がんである、[66]に記載のスクリーニング方法。
[70]PXN又はGMDS融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質を含有する、PXN又はGMDS融合体陽性のがんの治療用医薬組成物。
[71]前記PXN又はGMDS融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質が、キナーゼ阻害剤である、[70]に記載の医薬組成物。
[72]前記PXN又はGMDS融合タンパク質が、[46]に記載のポリペプチドである、[70]又は[71]に記載の医薬組成物。
[73]前記がんが、消化器がんである、[70]~[72]のいずれかに記載の医薬組成物。
[74]前記がんが、消化管がんである、[73]に記載の医薬組成物。
[75]前記がんが、下部消化管がんである、[73]に記載の医薬組成物。
[76]前記がんが、大腸がんである、[73]に記載の医薬組成物。
[77]PXN又はGMDS融合タンパク質。
[78]PXN又はGMDSとBRAFとの融合タンパク質。
[79]以下の(a)~(d)からなる群から選択されるポリペプチドである、[77]に記載の融合タンパク質:
(a)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
[80][77]~[79]のいずれかに記載の融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
[81][80]に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[82][81]に記載のベクターで形質転換された細胞。
[83]BRAF融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質が、キナーゼ阻害剤である、BRAF融合体陽性のがんの治療方法。
[84]BRAF融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質の、BRAF融合体陽性のがんの治療用医薬組成物の製造への使用。
[85]PXN又はGMDS融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質が、キナーゼ阻害剤である、PXN又はGMDS融合体陽性のがんの治療方法。
[86]PXN又はGMDS融合タンパク質の活性及び/又は発現を阻害する物質の、PXN又はGMDS融合体陽性のがんの治療用医薬組成物の製造への使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明の検出方法は、BRAF融合体陽性のがん(特に消化器がん)を検出する方法として利用できる。また、本発明の検出方法によれば、被験者におけるBRAF融合体陽性のがんを診断することができ、更に、BRAF阻害物質の適用対象者であるか否かを判定することができる。本発明の検出用キット及びプライマーセットは、本発明の検出方法に用いることができる。更に、本発明の阻害物質スクリーニング方法によれば、当該融合体陽性のがん患者の治療に有効な物質をスクリーニングすることができる。前記スクリーニング方法により得られた物質は、BRAF融合体陽性のがんの治療用医薬組成物の有効成分として使用することができ、また、BRAF融合体陽性のがんの治療に用いることができる。
本発明の検出方法は、PXN又はGMDS融合体陽性のがん(特に消化器がん)を検出する方法として利用できる。また、本発明の検出方法によれば、被験者におけるPXN又はGMDS融合体陽性のがんを診断することができ、更に、PXN又はGMDS阻害物質の適用対象者であるか否かを判定することができる。本発明の検出用キット及びプライマーセットは、本発明の検出方法に用いることができる。更に、本発明の阻害物質スクリーニング方法によれば、当該融合体陽性のがん患者の治療に有効な物質をスクリーニングすることができる。前記スクリーニング方法により得られた物質は、PXN又はGMDS融合体陽性のがんの治療用医薬組成物の有効成分として使用することができ、また、PXN又はGMDS融合体陽性のがんの治療に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】NIH3T3繊維芽細胞に融合遺伝子PXN-BRAFを導入し、7日間培養後の状態を示す、図面に代わる顕微鏡写真である。
図2】NIH3T3繊維芽細胞に融合遺伝子GMDS-BRAFを導入し、7日間培養後の状態を示す、図面に代わる顕微鏡写真である。
図3】融合遺伝子PXN-BRAF又はGMDS-BRAFを導入した3T3繊維芽細胞を皮下に接種したヌードマウスにおける、接種後1乃至8日後の腫瘍サイズの経時的変化を示すグラフである。
図4】PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドを発現するBa/F3細胞におけるBRAF阻害剤(trametinib)に対する感受性を示すグラフである。
図5】PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドを発現するBa/F3細胞をBRAF阻害剤で処理した後、各培養細胞由来の抽出物のウェスタンブロッティングを実施した結果を示す、図面に代わる写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪定義等≫
<融合点>
本明細書における「BRAF融合遺伝子における融合点」とは、BRAF融合遺伝子における、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドと、BRAF遺伝子と共に融合遺伝子を構築する他の遺伝子由来のポリヌクレオチドとが結合した箇所を意味する。
本明細書における「PXN又はGMDS融合遺伝子における融合点」とは、PXN又はGMDS融合遺伝子における、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドと、PXN又はGMDS遺伝子と共に融合遺伝子を構築する他の遺伝子由来のポリヌクレオチドとが結合した箇所を意味する。
【0012】
例えば、BRAF融合遺伝子、あるいは、PXN又はGMDS融合遺伝子が、配列番号1で表されるPXN-BRAF融合遺伝子(PXNex6-BRAFex11)の場合、前記融合点とは、PXN遺伝子由来のポリヌクレオチドの3’末端の塩基(第962番)と、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドの5’末端の塩基(第963番)との結合した箇所(第962/963番)である。
また、BRAF融合遺伝子、あるいは、PXN又はGMDS融合遺伝子が、配列番号3で表されるGMDS-BRAF融合遺伝子(GMDSex1-BRAFex9)の場合、前記融合点とは、GMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドの3’末端の塩基(第372番)と、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドの5’末端の塩基(第373番)との結合した箇所(第372/373番)である。
【0013】
本明細書における「BRAF融合タンパク質における融合点」とは、BRAF融合タンパク質における、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドと、BRAF遺伝子と共に融合遺伝子を構築する他の遺伝子由来のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドとが結合した箇所を意味する。
本明細書における「PXN又はGMDS融合タンパク質における融合点」とは、PXN又はGMDS融合タンパク質における、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドと、PXN又はGMDS遺伝子と共に融合遺伝子を構築する他の遺伝子由来のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドとが結合した箇所を意味する。
【0014】
例えば、BRAF融合タンパク質、あるいは、PXN又はGMDS融合タンパク質が、配列番号2で表されるPXN-BRAF融合タンパク質の場合、前記融合点とは、PXNタンパク質由来のポリペプチドのC末端のアミノ酸(第277番)と、BRAFタンパク質由来のポリペプチドのN末端のアミノ酸(第278番)との結合した箇所(第277/278番)である。
また、BRAF融合タンパク質、あるいは、PXN又はGMDS融合タンパク質が、配列番号4で表されるGMDS-BRAF融合タンパク質の場合、前記融合点とは、GMDSタンパク質由来のポリペプチドのC末端のアミノ酸(第34番)と、BRAFタンパク質由来のポリペプチドのN末端のアミノ酸(第35番)との結合した箇所(第34/35番)である。
【0015】
<BRAF遺伝子又はBRAFタンパク質の切断>
更に、本明細書において、「BRAF遺伝子の切断」又は「BRAF遺伝子が切断されている」とは、遺伝子の転座又は逆位等によりBRAF遺伝子の連続性が失われている状態、すなわち、BRAF遺伝子がBRAFキナーゼ領域を含むポリヌクレオチドと、それ以外のポリヌクレオチドと、の少なくとも2つのポリヌクレオチドとに分かれている状態を指す。なお、BRAF遺伝子の切断点(break point)は、BRAF遺伝子が切断されてできたポリヌクレオチドの少なくとも一つがコードするタンパク質がBRAFキナーゼ活性を保持する範囲で限定されない。
また、「BRAF遺伝子以外の他の遺伝子の切断」又は「BRAF遺伝子以外の他の遺伝子が切断されている」とは、遺伝子の転座又は逆位等により他の遺伝子の連続性が失われている状態、すなわち、他の遺伝子が少なくとも2つのポリヌクレオチドに分かれている状態を指す。
【0016】
また、本明細書において、「BRAFタンパク質の切断」又は「BRAFタンパク質が切断されている」とは、BRAF遺伝子が、前述のように切断されている状態であることに基づき、BRAFタンパク質の連続性が失われている状態、すなわち、BRAFタンパク質がBRAFキナーゼ領域を含むポリペプチドと、それ以外のポリペプチドと、の少なくとも2つのポリペプチドに分かれている状態を指す。なお、BRAFタンパク質の切断点は、BRAFタンパク質が切断されてできたポリペプチドの少なくとも一つがBRAFキナーゼ活性を保持する範囲で限定されない。
また、「BRAFタンパク質以外の他のタンパク質の切断」又は「BRAFタンパク質以外の他のタンパク質が切断されている」とは、他の遺伝子が、前述のように切断されている状態であることに基づき、他のタンパク質の連続性が失われている状態、すなわち、他のタンパク質が少なくとも2つのポリペプチドに分かれている状態を指す。
【0017】
<PXN又はGMDS遺伝子又はPXN又はGMDSタンパク質の切断>
更に、本明細書において、「PXN又はGMDS遺伝子の切断」又は「PXN又はGMDS遺伝子が切断されている」とは、遺伝子の転座又は逆位等によりPXN又はGMDS遺伝子の連続性が失われている状態を指す。なお、PXN又はGMDS遺伝子の切断点(break point)は、PXN又はGMDS遺伝子と共にPXN又はGMDS融合遺伝子を構築する他の遺伝子がコードするタンパク質の機能(例えば、当該タンパク質がキナーゼドメインを有する場合、キナーゼ活性)を保持する範囲で限定されない。
また、「PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子の切断」又は「PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子が切断されている」とは、遺伝子の転座又は逆位等により他の遺伝子の連続性が失われている状態、すなわち、他の遺伝子が少なくとも2つのポリヌクレオチドに分かれている状態を指す。
【0018】
また、本明細書において、「PXN又はGMDSタンパク質の切断」又は「PXN又はGMDSタンパク質が切断されている」とは、PXN又はGMDS遺伝子が、前述のように切断されている状態であることに基づき、PXN又はGMDSタンパク質の連続性が失われている状態、すなわち、PXN又はGMDSタンパク質が少なくとも2つのポリペプチドに分かれている状態を指す。なお、PXN又はGMDSタンパク質の切断点は、PXN又はGMDSタンパク質と共にPXN又はGMDS融合タンパク質を構築する他のタンパク質の機能(例えば、当該他のタンパク質がキナーゼドメインを有する場合、キナーゼ活性)を保持する範囲で限定されない。
また、「PXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質の切断」又は「PXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質が切断されている」とは、他の遺伝子が、前述のように切断されている状態であることに基づき、他のタンパク質の連続性が失われている状態、すなわち、他のタンパク質が少なくとも2つのポリペプチドに分かれている状態を指す。
【0019】
<5’末端側領域/3’末端側領域、N末端側領域/C末端側領域>
5’末端側領域とは、融合遺伝子の場合は、融合点より5’末端側のポリヌクレオチド、野生型遺伝子(融合遺伝子でない遺伝子)の場合は、当該野生型遺伝子が融合遺伝子を構築した場合の、切断点より5’末端側のポリヌクレオチドを示す。なお、5’末端側領域は、ゲノムDNA、mRNA、及びcDNAのいずれにおける領域であってもよく、例えば、ゲノムDNAの場合は、5’末端側ゲノム領域ともいう。
3’末端側領域とは、融合遺伝子の場合は、融合点より3’末端側のポリヌクレオチド、野生型遺伝子(融合遺伝子でない遺伝子)の場合は、当該野生型遺伝子が融合遺伝子を構築した場合の、切断点より3’末端側のポリヌクレオチドを示す。なお、3’末端側領域は、ゲノムDNA、mRNA、及びcDNAのいずれにおける領域であってもよく、例えば、ゲノムDNAの場合は、3’末端側ゲノム領域ともいう。
【0020】
N末端側領域とは、融合タンパク質の場合は、融合点よりN末端側のポリペプチド、野生型タンパク質(融合タンパク質でないタンパク質)の場合は、当該野生型タンパク質が融合遺伝子を構築した場合の、切断点よりN末端側のポリヌクレオチドを示す。
C末端側領域とは、融合タンパク質の場合は、融合点よりC末端側のポリペプチド、野生型タンパク質(融合タンパク質でないタンパク質)の場合は、当該野生型タンパク質が融合遺伝子を構築した場合の、切断点よりC末端側のポリヌクレオチドを示す。
【0021】
例えば、配列番号1で表されるPXN-BRAF融合遺伝子(PXNex6-BRAFex11)の場合、5’末端側領域は、第1~第962番、3’末端側領域は、第963~2067番の塩基配列からなるポリヌクレオチドである。配列番号2で表されるPXN-BRAF融合タンパク質の場合、N末端側領域は、前記PXNex6-BRAFex11の5’末端側領域のCDS(配列番号1の第132~962番塩基)にコードされるポリペプチド(配列番号2の第1~277番アミノ酸)であり、C末端側領域は、前記PXNex6-BRAFex11の3’末端側領域のCDS(配列番号1の第963~1949番塩基)にコードされるポリペプチド(配列番号2の第278~605番アミノ酸)である。
【0022】
配列番号3で表されるGMDS-BRAF融合遺伝子(GMDSex1-BRAFex9)の場合、5’末端側領域は、第1~第372番、3’末端側領域は、第373~1651番の塩基配列からなるポリヌクレオチドである。配列番号4で表されるGMDS-BRAF融合タンパク質の場合、N末端側領域は、前記GMDSex1-BRAFex9の5’末端側領域のCDS(配列番号3の第271~372番塩基)にコードされるポリペプチド(配列番号4の第1~34番アミノ酸)であり、C末端側領域は、前記GMDSex1-BRAFex9の3’末端側領域のCDS(配列番号3の第373~1533番塩基)にコードされるポリペプチド(配列番号4の第35~420番アミノ酸)である。
【0023】
<cDNAリファレンス配列>
また、本明細書において、各由来遺伝子のcDNAリファレンス配列として、BRAFはENST00000288602、PXNはENST00000267257、GMDSはENST00000380815を、タンパク質のアミノ酸リファレンス配列としては、BRAFはENSP00000288602、PXNはENSP00000267257、GMDSはENSP00000370194を用いた。
【0024】
<ストリンジェントな条件>
本明細書における「ストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーションのための条件として、「5×SSPE、5×Denhardt’s液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、200μg/mL鮭精子DNA、42℃オーバーナイト」、洗浄のための条件として、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」の条件である。「よりストリンジェントな条件」とは、ハイブリダイゼーションのための条件として、「5×SSPE、5×Denhardt’s液、0.5%SDS、50%ホルムアミド、200μg/mL鮭精子DNA、42℃オーバーナイト」、洗浄のための条件として、「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」の条件である。
【0025】
<腫瘍形成能>
あるポリペプチドが「腫瘍形成能を有する」ことは、公知の方法、例えば、WO2011/162295の実施例4の方法、あるいは、後述の実施例6の方法で確認することができる。具体的には、当該ポリペプチドを発現するプラスミドを導入した宿主(3T3繊維芽細胞)をヌードマウスの皮下に接種し、腫瘍形成の有無で判断する方法で確認する。
【0026】
≪本発明の検出方法に係る試料≫
<対象臓器>
本発明に係る検出方法は、対象臓器に生じるがんの検出に好適に用いることができる。被験者の被験部位(対象臓器)としては、本発明に係る融合体が存在している範囲で限定されないが、消化器が好ましく、消化管がより好ましく、胃腸が更に好ましく、下部消化管が更に好ましく、大腸が特に好ましい。
被験部位の組織型は、本発明に係る検出方法が適用可能な範囲で制限されず、扁平上皮組織でも、腺組織でもよいが、扁平上皮組織が好ましい。
【0027】
<被験者からの採取物>
本発明に係る検出方法における、被験者から得た試料としては、被験者からの採取物(生体から分離した試料)、具体的には、任意の採取された体液(好ましくは血液)、被験者患部からの摘出検体、生検試料又は擦過検体、糞便、尿、消化管洗浄液等を用いることができる。前記消化管洗浄液は、消化管全体の洗浄液であっても、あるいは、少なくとも被験部位を含む消化管の洗浄液、例えば、下部消化管の洗浄液、大腸の洗浄液であってもよい。検出感度を考慮すると、前記対象臓器における被験部位の細胞が含まれる試料が好ましく、被験者の被験部位からの摘出検体又は生検試料が更に好ましい。
【0028】
<採取物の調製>
本発明に係るBRAF融合遺伝子、又は、BRAF融合タンパク質の検出方法は、被験者から得た試料の組織切片、又は、細胞懸濁液等を作成し、組織切片又は細胞懸濁液に含まれる細胞に対し、当業者に周知の技法により、BRAF融合遺伝子、又は、BRAF融合タンパク質を検出することにより実施できる。あるいは、前述の被験者から得た試料から、可溶化液を調製し、ここに含まれる遺伝子、又は、タンパク質を抽出し、この抽出試料において、当業者に周知の技法により、BRAF融合遺伝子、又は、BRAF融合タンパク質を検出してもよい。なお、BRAF融合遺伝子の検出とは、BRAF融合遺伝子のゲノムDNAの検出、当該ゲノムDNAの転写産物であるmRNA、又は、mRNAを鋳型として得られるcDNAの検出のいずれであってもよい。
【0029】
本発明に係るPXN又はGMDS融合遺伝子、又は、PXN又はGMDS融合タンパク質の検出方法は、被験者から得た試料の組織切片、又は、細胞懸濁液等を作成し、組織切片又は細胞懸濁液に含まれる細胞に対し、当業者に周知の技法により、PXN又はGMDS融合遺伝子、又は、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することにより実施できる。あるいは、前述の被験者から得た試料から、可溶化液を調製し、ここに含まれる遺伝子、又は、タンパク質を抽出し、この抽出試料において、当業者に周知の技法により、PXN又はGMDS融合遺伝子、又は、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出してもよい。なお、PXN又はGMDS融合遺伝子の検出とは、PXN又はGMDS融合遺伝子のゲノムDNAの検出、当該ゲノムDNAの転写産物であるmRNA、又は、mRNAを鋳型として得られるcDNAの検出のいずれであってもよい。
【0030】
≪本発明の検出方法に係る検出対象≫
本発明の検出方法には、被験者から得た試料中の、BRAF融合体の検出方法、すなわち、BRAFキナーゼ領域を含む融合タンパク質(「BRAF融合タンパク質」ともいう)の検出方法、又は、前記融合タンパク質をコードする融合遺伝子(「BRAF融合遺伝子」ともいう)の検出方法が含まれる。
本発明の検出方法には、被験者から得た試料中の、PXN又はGMDS融合体の検出方法、すなわち、PXN又はGMDS融合タンパク質の検出方法、又は、前記融合タンパク質をコードする融合遺伝子(「PXN又はGMDS融合遺伝子」ともいう)の検出方法が含まれる。
【0031】
<BRAF融合体:BRAF融合タンパク質とBRAF融合遺伝子>
本発明に係るBRAF融合体は、BRAF融合タンパク質とBRAF融合遺伝子を含む。
本発明に係るBRAF融合タンパク質は、BRAFタンパク質由来のポリペプチドと、BRAFタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドと、から構築される融合ポリペプチドであって、前記BRAFタンパク質由来のポリペプチドは、BRAFタンパク質における少なくともBRAFキナーゼ領域のポリペプチドを含み、BRAFタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドは、他のタンパク質における少なくとも一部のポリペプチドを含む範囲で特に制限されない。
【0032】
前記他のタンパク質としては、BRAFキナーゼドメインを含むBRAFタンパク質の一部と融合することにより、構築されたBRAF融合タンパク質が腫瘍形成能を有するものであれば特に制限されない。構築されたBRAF融合タンパク質において、BRAFキナーゼ活性化が恒常的に維持されることにより、BRAF融合タンパク質が腫瘍形成能を有することが好ましい。
【0033】
また、BRAF融合タンパク質は、BRAFキナーゼ活性化が恒常的に維持され、構築されたBRAF融合タンパク質が腫瘍形成能を有する範囲で、BRAFタンパク質由来のポリペプチド、及び、BRAFタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドのいずれでもない、第3のポリペプチドを含んでいてもよい。第3のポリペプチドは、BRAF融合タンパク質のN末端に位置していても、C末端に位置していても、或いは、BRAFタンパク質由来のポリペプチドとBRAFタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドとの間に位置していてもよい。
【0034】
BRAF融合タンパク質としては、前記他のタンパク質が、PXN又はGMDSタンパク質である融合タンパク質が特に好ましい。すなわち、少なくともBRAFキナーゼ領域のポリペプチドを含む、BRAFタンパク質由来のポリペプチドと、PXN又はGMDSタンパク質の少なくとも一部のポリペプチドを含む、PXN又はGMDSタンパク質由来のポリペプチドと、から構築された、PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質(以下、PXN-BRAF融合タンパク質又はGMDS-BRAF融合タンパク質、あるいは、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合タンパク質、あるいは、PXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質ともいう)であることが好ましい。
【0035】
<PXN又はGMDS融合体:PXN又はGMDS融合タンパク質とPXN又はGMDS融合遺伝子>
本発明に係るPXN又はGMDS融合体は、PXN又はGMDS融合タンパク質とPXN又はGMDS融合遺伝子を含む。
本発明に係るPXN又はGMDS融合タンパク質は、PXN又はGMDSタンパク質由来のポリペプチドと、PXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドと、から構築される融合ポリペプチドであって、前記PXN又はGMDSタンパク質由来のポリペプチドは、PXN又はGMDSタンパク質における少なくとも一部のポリペプチドを含み、PXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドは、他のタンパク質における少なくとも一部のポリペプチドを含む範囲で特に制限されない。
【0036】
前記他のタンパク質としては、PXN又はGMDSタンパク質の一部と融合することにより、構築されたPXN又はGMDS融合タンパク質が腫瘍形成能を有するものであれば特に制限されない。当該他のタンパク質の有する機能性ドメイン(好ましくは、キナーゼドメイン)の活性化が恒常的に維持されることにより、PXN又はGMDS融合タンパク質が腫瘍形成能を有することが好ましい。
【0037】
また、PXN又はGMDS融合タンパク質は、PXN又はGMDSタンパク質の一部と融合することによりPXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質の機能性ドメインの活性化が恒常的に維持され、構築されたPXN又はGMDS融合タンパク質が腫瘍形成能を有する範囲で、PXN又はGMDSタンパク質由来のポリペプチド、及び、PXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドのいずれでもない、第3のポリペプチドを含んでいてもよい。第3のポリペプチドは、PXN又はGMDS融合タンパク質のN末端に位置していても、C末端に位置していても、或いは、PXN又はGMDSタンパク質由来のポリペプチドとPXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドとの間に位置していてもよい。
【0038】
PXN又はGMDS融合タンパク質としては、前記他のタンパク質が、BRAFタンパク質である融合タンパク質が特に好ましい。すなわち、PXN又はGMDSタンパク質の少なくとも一部のポリペプチドを含む、PXN又はGMDSタンパク質由来のポリペプチドと、少なくともBRAFキナーゼ領域のポリペプチドを含む、BRAFタンパク質の少なくとも一部のポリペプチドと、から構築された、PXN又はGMDSタンパク質とBRAFタンパク質との融合タンパク質(以下、PXN-BRAF融合タンパク質又はGMDS-BRAF融合タンパク質、あるいは、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合タンパク質、あるいは、PXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質ともいう)であることが好ましい。
【0039】
「PXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質」としては、下記(a)~(d)に記載のポリペプチドが特に好ましい:
(a)配列番号2(PXN-BRAF)又は配列番号4(GMDS-BRAF)で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド(以下、相同ポリペプチドと称する)、及び
(d)配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/又は挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド(以下、機能的等価改変体と称する)。
【0040】
配列番号2で表されるアミノ酸配列は、配列番号1で表される塩基配列、特には配列番号1の塩基番号132~1949で表される塩基配列(CDS)によりコードされる配列である。配列番号1で表される塩基配列は、PXN遺伝子の5’-UTR配列、PXN遺伝子の開始コドンATGからエクソン6まで、BRAF遺伝子のエクソン11からエクソン18の停止コドンまで、及びBRAF遺伝子の3’-UTR配列の塩基配列からなる。配列番号1で表される塩基配列の内、塩基番号1~962の配列はPXN遺伝子に由来し、塩基番号963~2067の配列はBRAF遺伝子に由来する。本明細書において、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び、これをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む)を、PXNex6-BRAFex11融合体(または、PXNex6-BRAFex11という場合もある)と称する。
【0041】
配列番号4で表されるアミノ酸配列は、配列番号3で表される塩基配列、特には配列番号3の塩基番号271~1533で表される塩基配列(CDS)によりコードされる配列である。配列番号3で表される塩基配列は、GMDS遺伝子の5’-UTR配列、GMDS遺伝子の開始コドンATGからエクソン1まで、BRAF遺伝子のエクソン9からエクソン18の停止コドンまで、及びBRAF遺伝子の3’-UTR配列の塩基配列からなる。配列番号3で表される塩基配列の内、塩基番号1~372の配列はGMDS遺伝子に由来し、塩基番号373~1651の配列はBRAF遺伝子に由来する。本明細書において、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、及び、これをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(配列番号3で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを含む)を、GMDSex1-BRAFex9融合体(または、GMDSex1-BRAFex9という場合もある)と称する。
【0042】
「機能的等価改変体」において置換、欠失、及び/又は挿入可能なアミノ酸数は、1~数個であるが、好ましくは1~10個、更に好ましくは1~7個、最も好ましくは1~5個である。
【0043】
「相同ポリペプチド」は、「配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、腫瘍形成能を有するポリペプチド」であるが、該同一性が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上であるアミノ酸配列を含むポリペプチドが好ましい。なお、「配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも、腫瘍形成能を有するポリペプチド」には、前記同一性を示し、且つ、少なくとも1つの置換、欠失、及び/又は挿入(好ましくは置換)を有するポリペプチド(狭義の相同ポリペプチド)と、同一性が100%であるポリペプチドとが含まれる。
【0044】
なお、本明細書における前記「同一性」とは、NEEDLE program(J Mol Biol 1970; 48: 443-453)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値Identityを意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
Gap penalty = 10
Extend penalty = 0.5
Matrix = EBLOSUM62
【0045】
本発明に係るBRAF融合遺伝子は、BRAF融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。本明細書において、BRAF融合タンパク質およびBRAF融合遺伝子をあわせて「BRAF融合体」と称することがある。
【0046】
本発明に係るPXN又はGMDS融合遺伝子は、PXN又はGMDS融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。すなわち、PXN融合遺伝子は、PXN融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、GMDS融合遺伝子は、GMDS融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドである。本明細書において、PXN又はGMDS融合タンパク質およびPXN又はGMDS融合遺伝子をあわせて「PXN又はGMDS融合体」と称することがある。
【0047】
本発明に係るBRAF融合体においては、PXNex6-BRAFex11融合体バリアント、又はGMDSex1-BRAFex9融合体バリアントが好ましい。特に、本発明に係るBRAF融合タンパク質においては、PXNex6-BRAFex11融合タンパク質バリアント、又はGMDSex1-BRAFex9融合タンパク質バリアントが好ましい。また、本発明に係るBRAF融合遺伝子においては、PXNex6-BRAFex11融合遺伝子バリアント、又はGMDSex1-BRAFex9融合遺伝子バリアントが好ましい。
【0048】
本発明に係るPXN又はGMDS融合体においては、PXNex6-BRAFex11融合体バリアント、又はGMDSex1-BRAFex9融合体バリアントが好ましい。特に、本発明に係るPXN又はGMDS融合タンパク質においては、PXNex6-BRAFex11融合タンパク質バリアント、又はGMDSex1-BRAFex9融合タンパク質バリアントが好ましい。また、本発明に係るPXN又はGMDS融合遺伝子においては、PXNex6-BRAFex11融合遺伝子バリアント、又はGMDSex1-BRAFex9融合遺伝子バリアントが好ましい。
【0049】
≪本発明の検出方法の態様(融合タンパク質及び融合遺伝子の検出方法)≫
本発明の検出方法には、被験者から得た試料中の、BRAFタンパク質の切断、又は、BRAFタンパク質をコードするBRAF遺伝子の切断、を検出する工程を含む検出方法と、被験者から得た試料中の、BRAFタンパク質とBRAFタンパク質以外の他のタンパク質とから構築される融合タンパク質の存在、又は、前記融合タンパク質をコードする融合遺伝子の存在、を検出する工程を含む検出方法が含まれる。
本発明の検出方法には、被験者から得た試料中の、PXN又はGMDSタンパク質の切断、又は、PXN又はGMDSタンパク質をコードするPXN又はGMDS遺伝子の切断、を検出する工程を含む検出方法と、被験者から得た試料中の、PXN又はGMDSタンパク質とPXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質とから構築される融合タンパク質の存在、又は、前記融合タンパク質をコードする融合遺伝子の存在、を検出する工程を含む検出方法が含まれる。
【0050】
<BRAF融合遺伝子を検出する態様>
以下、BRAF融合遺伝子を検出する態様について述べるが、これらに限定されるものではない。
なお、以下の各態様における遺伝子の特定の領域の検出は、その例示に関わらず、あらかじめ解析した塩基配列に基づいて設計されたプローブ又はプライマーを用いて行っても、あるいは、シーケンシングによって行ってもよい。
【0051】
〔BRAF融合遺伝子を検出する態様(1)〕
〈BRAF融合遺伝子を検出する態様(1-a)〉
BRAF融合遺伝子を検出する一態様として、BRAF融合遺伝子が構築されているとき、BRAF遺伝子が2つ以上のポリヌクレオチドに切断されていることに基づき、BRAF遺伝子が切断されている状態、すなわち、BRAF遺伝子の5’末端側領域とBRAF遺伝子の3’末端側領域との連続性が失われていることを検出することにより、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
具体的には、例えば、BRAF遺伝子の5’末端側領域に特異的にハイブリダイズする第1のプローブと、BRAF遺伝子の3’末端側領域に特異的にハイブリダイズする第2のプローブを用い、当該2つの遺伝子領域が染色体上で離れていることを検出することにより、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
なお、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドと融合して融合遺伝子を構築している他の遺伝子が切断されている状態を前記方法で確認することにより、BRAF融合遺伝子を検出してもよい。
【0052】
〈BRAF融合遺伝子を検出する態様(1-b)〉
他の一態様として、BRAF遺伝子の、5’末端側領域と、3’末端側領域の発現量をそれぞれ特異的に検出し、その発現量の比を求めることにより、BRAF融合遺伝子を検出することができる。具体的には、例えば、BRAF遺伝子の5’末端側領域の発現量と、BRAF遺伝子3’末端側領域の発現量とが異なる場合、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
あるいは、BRAF遺伝子と共にBRAF融合遺伝子を構築しているBRAF遺伝子以外の他の遺伝子について、前記方法で確認することにより、BRAF融合遺伝子を検出してもよい。
【0053】
〈BRAF融合遺伝子を検出する態様(1-c)〉
他の一態様として、BRAF融合遺伝子の形成過程において、BRAF遺伝子又はBRAF遺伝子以外の他の遺伝子の少なくとも一部の複製(duplication)を伴う場合、すなわち、BRAF遺伝子由来の重複したポリヌクレオチドと、BRAFと共にBRAF融合遺伝子を構築しているBRAF遺伝子以外の他の遺伝子由来の重複したポリヌクレオチドとからBRAF融合遺伝子が構築されている場合、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチド又は前記他の遺伝子由来のポリヌクレオチドの重複を検出することにより、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
【0054】
〔BRAF融合遺伝子を検出する態様(2)〕
BRAF融合遺伝子を検出する一態様として、BRAF融合遺伝子が、BRAF遺伝子由来ポリヌクレオチドと、BRAF遺伝子以外の他の遺伝子由来のポリヌクレオチドと融合して構築されていることに基づき、BRAF融合遺伝子における、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドの少なくとも一部と、BRAF遺伝子以外の遺伝子由来のポリヌクレオチドの少なくとも一部とが連続して含まれる融合ポリヌクレオチドを検出することにより、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
具体的には、例えば、BRAF遺伝子以外の他の遺伝子由来のポリヌクレオチドの5’末端側領域に特異的にハイブリダイズする第1のプローブと、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドの3’末端側領域に特異的にハイブリダイズする第2のプローブを用い、当該2つの遺伝子領域が染色体上で近接していることを検出することにより、BRAF融合遺伝子を検出することができる。BRAF遺伝子以外の他の遺伝子が、PXN又はGMDS遺伝子の場合、すなわちBRAF融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子である場合、第1のプローブはPXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドの5’末端側領域に特異的にハイブリダイズするプローブを用いればよい。
【0055】
〔BRAF融合遺伝子を検出する態様(3)〕
BRAF融合遺伝子を検出する一態様として、BRAF融合遺伝子が、BRAF遺伝子由来ポリヌクレオチドと、BRAF遺伝子以外の他の遺伝子由来ポリヌクレオチドとが、融合点において融合して構築されていることに基づき、BRAF融合遺伝子における、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドの少なくとも一部と、BRAF遺伝子以外の他の遺伝子由来のポリヌクレオチドの少なくとも一部とが、融合点を含んで連続して含まれる融合ポリヌクレオチドを検出することにより、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
具体的には、例えば、BRAF遺伝子以外の他の遺伝子由来のポリヌクレオチドの5’末端側領域に特異的にアニールする第1のプライマーと、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドの3’末端側領域に特異的にアニールする第2のプライマーとを用いてPCR反応を行い、融合点の存在を示す所定のPCR産物が得られることを確認することにより、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
【0056】
<BRAF融合タンパク質を検出する態様>
以下、BRAF融合タンパク質を検出する態様について述べるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
〔BRAF融合タンパク質を検出する態様(1)〕
〈BRAF融合タンパク質を検出する態様(1-a)〉
BRAF融合タンパク質を検出する態様として、BRAF融合遺伝子が構築されているとき、BRAF遺伝子にコードされるBRAFタンパク質も切断されていることに基づき、BRAFタンパク質が切断されている状態、すなわち、BRAFタンパク質のN末端側領域とC末端側領域との連続性が失われていることを検出することにより、BRAF融合タンパク質を検出することができる。
具体的には、例えば、BRAFタンパク質のN末端側領域に特異的に結合する第1の抗体と、BRAFタンパク質のC末端側領域に特異的に結合する第2の抗体を用い、当該2つの領域が、同一のタンパク質に存在しないことを確認することにより、BRAF融合タンパク質を検出することができる。
あるいは、BRAFタンパク質と共に融合タンパク質を構築しているBRAFタンパク質以外の他のタンパク質が切断されている状態を前記方法により確認することで、BRAF融合タンパク質を検出してもよい。
【0058】
〈BRAF融合タンパク質を検出する態様(1-b)〉
他の一態様として、BRAFタンパク質の、N末端側領域と、C末端側領域の発現量をそれぞれ特異的に検出し、その発現量の比を求めることにより、BRAF融合タンパク質を検出することができる。具体的には、例えば、BRAFタンパク質のN末端側領域の発現量と、BRAFタンパク質C末端側領域の発現量とが異なることを指標として、BRAF融合タンパク質を検出することができる。
あるいは、BRAFタンパク質と共にBRAF融合タンパク質を構築しているBRAFタンパク質以外の他のタンパク質について、前記方法で確認することにより、BRAF融合タンパク質を検出してもよい。
【0059】
〔BRAF融合タンパク質を検出する態様(2)〕
BRAF融合タンパク質を検出する一態様では、BRAF融合タンパク質が、BRAFタンパク質由来ポリペプチドと、BRAFタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドとが融合して構築されていることに基づき、BRAF融合タンパク質における、BRAFタンパク質由来のポリペプチドの少なくとも一部と、前記他のタンパク質由来のポリペプチドの少なくとも一部が連続して含まれる融合ポリペプチドを検出することにより、BRAF融合タンパク質を検出することができる。
具体的には、例えば、BRAFタンパク質以外の他のタンパク質のN末端側領域に特異的に結合する第1の抗体と、BRAFタンパク質のC末端側領域に特異的に結合する第2の抗体を用い、当該2つの領域が、同一のタンパク質に存在することを確認することにより、BRAF融合タンパク質を検出することができる。
【0060】
〔BRAF融合タンパク質を検出する態様(3)〕
BRAF融合タンパク質を検出する一態様では、BRAF融合タンパク質が、BRAFタンパク質由来ポリペプチドと、BRAFタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドとが融合点で融合して構築されていることに基づき、BRAF融合タンパク質における、前記融合点を含むBRAFタンパク質由来のポリペプチドの少なくとも一部と、前記他のタンパク質由来のポリペプチドの少なくとも一部が連続して含まれる融合ポリペプチドを検出することにより、BRAF融合タンパク質を検出することができる。
具体的には、例えば、BRAF融合タンパク質の融合点を含むポリペプチドを特異的に認識する抗体を用いた免疫学的測定法により、BRAF融合タンパク質を検出することができる。
【0061】
〔BRAF融合タンパク質を検出する態様(4)〕
BRAF融合タンパク質を検出する一態様では、BRAF融合タンパク質の活性を指標にBRAF融合タンパク質を検出することができる。
具体的には、例えば、野生型BRAFタンパク質に対して阻害活性のある物質を用いて野生型BRAFタンパク質の活性を阻害した上で、BRAFタンパク質のキナーゼ活性を測定し、BRAF融合タンパク質を含まない(野生型BRAFタンパク質のみを含む)場合に比較して、活性が高いことを指標にBRAF融合タンパク質を検出することができる。なお、BRAFタンパク質のキナーゼ活性の測定には当業者に周知の方法を適宜選択することができ、例えば、BRAFによりリン酸化を受ける分子のリン酸化状態を検出してもよい。
【0062】
なお、BRAF融合タンパク質の検出は、BRAF融合タンパク質を構成する全長ポリペプチドの存在、あるいは、BRAF融合タンパク質の一部を構成するポリペプチドの存在を指標として行ってもよく、BRAF融合タンパク質の存在が確認できる範囲で制限されない。
【0063】
<PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様>
以下、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様について述べるが、これらに限定されるものではない。
なお、以下の各態様における遺伝子の特定の領域の検出は、その例示に関わらず、あらかじめ解析した塩基配列に基づいて設計されたプローブ又はプライマーを用いて行っても、あるいは、シーケンシングによって行ってもよい。
【0064】
〔PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様(1)〕
〈PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様(1-a)〉
PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する一態様として、PXN又はGMDS融合遺伝子が構築されているとき、PXN又はGMDS遺伝子が2つ以上のポリヌクレオチドに切断されていることに基づき、PXN又はGMDS遺伝子が切断されている状態、すなわち、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側領域とPXN又はGMDS遺伝子の3’末端側領域との連続性が失われていることを検出することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
具体的には、例えば、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側領域に特異的にハイブリダイズする第1のプローブと、PXN又はGMDS遺伝子の3’末端側領域に特異的にハイブリダイズする第2のプローブを用い、当該2つの遺伝子領域が染色体上で離れていることを検出することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
なお、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドと融合して融合遺伝子を構築している他の遺伝子が切断されている状態を前記方法で確認することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出してもよい。
【0065】
〈PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様(1-b)〉
他の一態様として、PXN又はGMDS遺伝子の、5’末端側領域と、3’末端側領域の発現量をそれぞれ特異的に検出し、その発現量の比を求めることにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。具体的には、例えば、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側領域の発現量と、PXN又はGMDS遺伝子3’末端側領域の発現量とが異なる場合、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
あるいは、PXN又はGMDS遺伝子と共にPXN又はGMDS融合遺伝子を構築しているPXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子について、前記方法で確認することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出してもよい。
【0066】
〈PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様(1-c)〉
他の一態様として、PXN又はGMDS融合遺伝子の形成過程において、PXN又はGMDS遺伝子、あるいは、PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子の少なくとも一部の複製(duplication)を伴う場合、すなわち、PXN又はGMDS遺伝子由来の重複したポリヌクレオチドと、PXN又はGMDSと共にPXN又はGMDS融合遺伝子を構築しているPXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子由来の重複したポリヌクレオチドとからPXN又はGMDS融合遺伝子が構築されている場合、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチド又は前記他の遺伝子由来のポリヌクレオチドの重複を検出することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
【0067】
〔PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様(2)〕
PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する一態様として、PXN又はGMDS融合遺伝子が、PXN又はGMDS遺伝子由来ポリヌクレオチドと、PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子由来のポリヌクレオチドと融合して構築されていることに基づき、PXN又はGMDS融合遺伝子における、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドの少なくとも一部と、PXN又はGMDS遺伝子以外の遺伝子由来のポリヌクレオチドの少なくとも一部とが連続して含まれる融合ポリヌクレオチドを検出することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
具体的には、例えば、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドの5’末端側領域に特異的にハイブリダイズする第1のプローブと、PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子由来のポリヌクレオチドの3’末端側領域に特異的にハイブリダイズする第2のプローブを用い、当該2つの遺伝子領域が染色体上で近接していることを検出することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子が、BRAF遺伝子の場合、すなわちPXN又はGMDS融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子である場合、第2のプローブはBRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドの3’末端側領域に特異的にハイブリダイズするプローブを用いればよい。
【0068】
〔PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様(3)〕
PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する一態様として、PXN又はGMDS融合遺伝子が、PXN又はGMDS遺伝子由来ポリヌクレオチドと、PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子由来ポリヌクレオチドとが、融合点において融合して構築されていることに基づき、PXN又はGMDS融合遺伝子における、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドの少なくとも一部と、PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子由来のポリヌクレオチドの少なくとも一部とが、融合点を含んで連続して含まれる融合ポリヌクレオチドを検出することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
具体的には、例えば、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドの5’末端側領域に特異的にアニールする第1のプライマーと、PXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子由来のポリヌクレオチドの3’末端側領域に特異的にアニールする第2のプライマーとを用いてPCR反応を行い、融合点の存在を示す所定のPCR産物が得られることを確認することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
【0069】
<PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様>
以下、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様について述べるが、これらに限定されるものではない。
【0070】
〔PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様(1)〕
〈PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様(1-a)〉
PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様として、PXN又はGMDS融合遺伝子が構築されているとき、PXN又はGMDS遺伝子にコードされるPXN又はGMDSタンパク質も切断されていることに基づき、PXN又はGMDSタンパク質が切断されている状態、すなわち、PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域とC末端側領域との連続性が失われていることを検出することにより、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。
具体的には、例えば、PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域に特異的に結合する第1の抗体と、PXN又はGMDSタンパク質のC末端側領域に特異的に結合する第2の抗体を用い、当該2つの領域が、同一のタンパク質に存在しないことを確認することにより、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。
あるいは、PXN又はGMDSタンパク質と共に融合タンパク質を構築しているPXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質が切断されている状態を前記方法により確認することで、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出してもよい。
【0071】
〈PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様(1-b)〉
他の一態様として、PXN又はGMDSタンパク質の、N末端側領域と、C末端側領域の発現量をそれぞれ特異的に検出し、その発現量の比を求めることにより、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。具体的には、例えば、PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域の発現量と、PXN又はGMDSタンパク質C末端側領域の発現量とが異なることを指標として、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。
あるいは、PXN又はGMDSタンパク質と共にPXN又はGMDS融合タンパク質を構築しているPXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質について、前記方法で確認することにより、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出してもよい。
【0072】
〔PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様(2)〕
PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する一態様では、PXN又はGMDS融合タンパク質が、PXN又はGMDSタンパク質由来ポリペプチドと、PXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドとが融合して構築されていることに基づき、PXN又はGMDS融合タンパク質における、PXN又はGMDSタンパク質由来のポリペプチドの少なくとも一部と、前記他のタンパク質由来のポリペプチドの少なくとも一部が連続して含まれる融合ポリペプチドを検出することにより、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。
具体的には、例えば、PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域に特異的に結合する第1の抗体と、PXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質のC末端側領域に特異的に結合する第2の抗体を用い、当該2つの領域が、同一のタンパク質に存在することを確認することにより、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。
【0073】
〔PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様(3)〕
PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する一態様では、PXN又はGMDS融合タンパク質が、PXN又はGMDSタンパク質由来ポリペプチドと、PXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質由来のポリペプチドとが融合点で融合して構築されていることに基づき、PXN又はGMDS融合タンパク質における、前記融合点を含むPXN又はGMDSタンパク質由来のポリペプチドの少なくとも一部と、前記他のタンパク質由来のポリペプチドの少なくとも一部が連続して含まれる融合ポリペプチドを検出することにより、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。
具体的には、例えば、PXN又はGMDS融合タンパク質の融合点を含むポリペプチドを特異的に認識する抗体を用いた免疫学的測定法により、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。
【0074】
〔PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する態様(4)〕
PXN又はGMDS融合タンパク質を検出する一態様では、PXN又はGMDS融合タンパク質の活性を指標にPXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。
具体的には、例えば、PXN又はGMDSタンパク質と共に融合タンパク質を構築するPXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質が酵素活性を有するタンパク質である場合、PXN又はGMDS融合タンパク質を含まない(野生型PXN又はGMDSタンパク質のみを含む)場合に比較して、当該酵素活性が高いことを指標に、PXN又はGMDS融合タンパク質を検出することができる。なお、酵素活性の測定には当業者に周知の方法を適宜選択することができ、例えば、前記他のタンパク質がキナーゼ活性を有するタンパク質(好ましくはBRAFタンパク質)である場合、PXN又はGMDS融合タンパク質によりリン酸化を受ける分子のリン酸化状態を検出してもよい。
【0075】
なお、PXN又はGMDS融合タンパク質の検出は、PXN又はGMDS融合タンパク質を構成する全長ポリペプチドの存在、あるいは、PXN又はGMDS融合タンパク質の一部を構成するポリペプチドの存在を指標として行ってもよく、PXN又はGMDS融合タンパク質の存在が確認できる範囲で制限されない。
【0076】
≪検出方法に用いる技法≫
以下、BRAF融合遺伝子(ゲノムDNA、mRNA、又はcDNA)の検出、PXN又はGMDS融合遺伝子(ゲノムDNA、mRNA、又はcDNA)の検出、BRAF融合タンパク質の検出、PXN又はGMDS融合タンパク質の検出の各工程及び各検出技法について、より詳細に説明するが、これらに制限されるものではない。
なお、被験者から得た試料から、遺伝子(ゲノムDNA、又は、mRNA)又は、タンパク質を抽出した場合、あるいは、組織切片、又は、細胞懸濁液等を作成した場合において、調製された試料においてBRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子、あるいは、BRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDS融合タンパク質を検出するために好適な技法は、当業者が適宜選択することができる。
【0077】
<融合遺伝子の検出>
BRAF融合遺伝子、又は、PXN又はGMDS融合遺伝子の検出は、BRAF融合遺伝子、又は、PXN又はGMDS融合遺伝子のゲノムDNAの検出、当該ゲノムDNAの転写産物であるmRNAの検出、又は、mRNAを鋳型として得られるcDNAの検出のいずれであってもよい。
被験者から得た試料中の、BRAF融合遺伝子(ゲノムDNA、又は、mRNA)又はPXN又はGMDS融合遺伝子(ゲノムDNA、又は、mRNA)を検出する技法としては、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部にハイブリダイズするプローブ(核酸プローブ等)を使用したハイブリダイゼーション技術、あるいは、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部にアニールするプライマーを用いた遺伝子増幅技術等、遺伝子の検出に用いられる当業者に周知のいかなる技法、及び、これらの技法を応用した技法を用いることができる。
すなわち、PCR、LCR(Ligase chain reaction)、SDA(Strand displacement amplification)、NASBA(Nucleic acid sequence-based amplification)、ICAN(Isothermal and chimeric primer-initiated amplification of nucleic acids)、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法、TMA法(Gen-Probe’s TMA system)、インサイチュハイブリダイゼーション法、マイクロアレイ法、ノーザンハイブリダイゼーション、サザンハイブリダイゼーション、ドットブロット法、RNAプロテクション法、DNAシーケンス、RNAシーケンス等のいかなる技法を用いてもよい。
【0078】
〔ゲノムDNAの検出〕
ゲノムDNAの検出には、インサイチュハイブリダイゼーション技術を好適に用いることができる。インサイチュハイブリダイゼーション技術を利用した検出は、例えば、公知のFISH法に従って実施することができる。又は、クロモジェニックインサイチュハイブリダイゼーション(CISH)法とシルバーインサイチュハイブリダイゼーション(SISH)法を組み合わせたフュージョンアッセイ(fusion assay)で実施することができる。好適には、以下に詳述のFISH法スプリットアッセイ、又は、FISH法フュージョンアッセイで検出することができる。
【0079】
あるいは、ゲノムDNAの検出には、DNAシーケンス技術を好適に用いることができる。シーケンシングには、従来のサンガー法に基づくシーケンサーを使用してもよいが、解析の効率を考慮すると、次世代シーケンサーを使用することが好ましい(例えば、Metzker ML、Nat Rev Genet. 2010 Jan;11(1):31-46参照)。次世代シーケンサーとしては、Illumina社のMiSeq/HiSeq、Life Technogies社のSOLiDシステム、Roche社の454シーケンスシステム(GS FLX+/GS Junior)等が例示できる。シーケンシングにおいては、シーケンスキャプチャ技術等を用いて、融合遺伝子が存在している可能性がある領域を濃縮(enrich)することで、解析の効率を向上させることができる。シーケンスキャプチャ技術としては、Roche社のRoche NimbleGen、Agilent Technologies社のSure Select等が例示できる。
以下に、ゲノムDNAの検出のための代表的な方法を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0080】
〈FISH法スプリットアッセイ〉
BRAF融合遺伝子のFISH法スプリットアッセイでは、検出用プローブとして、BRAF遺伝子の5’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって蛍光標識したものと、同遺伝子の3’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって別の蛍光色素で標識したものとの組み合わせを使用する。正常な場合(野生型BRAF遺伝子の場合)には、2つの遺伝子領域(各遺伝子ごとの5’末端側領域と3’末端側領域)が近接しているため、2つのシグナルが重なった色(例えば、赤色蛍光色素と緑色蛍光色素を使用する場合には、黄色)として検出されるのに対して、転座又は逆位により2つの遺伝子領域が切断されている場合は、2種類の蛍光色素に由来するシグナル(例えば、赤色と緑色)が別々に離れて検出される。従って、FISH法スプリットアッセイでは、BRAF遺伝子の5’末端側ゲノム領域とBRAF遺伝子3’末端側ゲノム領域とが染色体上で離れていることを検出することにより、BRAF融合遺伝子の存在を検出している。
【0081】
また、PXN又はGMDS融合遺伝子のFISH法スプリットアッセイでは、検出用プローブとして、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって蛍光標識したものと、同遺伝子の3’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって別の蛍光色素で標識したものとの組み合わせを使用する。正常な場合(野生型PXN又はGMDS遺伝子の場合)には、2つの遺伝子領域(各遺伝子ごとの5’末端側領域と3’末端側領域)が近接しているため、2つのシグナルが重なった色(例えば、赤色蛍光色素と緑色蛍光色素を使用する場合には、黄色)として検出されるのに対して、転座又は逆位により2つの遺伝子領域が切断されている場合は、2種類の蛍光色素に由来するシグナル(例えば、赤色と緑色)が別々に離れて検出される。従って、FISH法スプリットアッセイでは、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側ゲノム領域と同遺伝子の3’末端側ゲノム領域とが染色体上で離れていることを検出することにより、PXN又はGMDS融合遺伝子の存在を検出している。
【0082】
BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、検出用プローブとして、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって蛍光標識したものと、同遺伝子の3’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって別の蛍光色素で標識したものとの組み合わせ、あるいは、BRAF遺伝子の5’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって蛍光標識したものと、同遺伝子の3’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって別の蛍光色素で標識したものとの組み合わせを使用することにより、PXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子を検出することができる。
【0083】
〈FISH法フュージョンアッセイ〉
BRAF融合遺伝子のFISH法フュージョンアッセイでは、例えば、BRAF融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、検出用プローブとして、BRAF遺伝子の3’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって蛍光標識したものと、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって別の蛍光色素で標識したものとの組み合わせを使用することができる。正常な場合(野生型BRAF遺伝子の場合)には、2種類の蛍光色素に由来するシグナル(例えば、赤色と緑色)が別々に離れて検出されるのに対して、転座又は逆位により2つの遺伝子領域が近接している場合は、2つのシグナルが重なった色(例えば、黄色)として検出される。
【0084】
また、PXN又はGMDS融合遺伝子のFISH法フュージョンアッセイでは、例えば、PXN又はGMDS融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、検出用プローブとして、BRAF遺伝子の3’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって蛍光標識したものと、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側ゲノム領域をカバーするポリヌクレオチドであって別の蛍光色素で標識したものとの組み合わせを使用することができる。正常な場合(野生型PXN又はGMDS遺伝子の場合)には、2種類の蛍光色素に由来するシグナル(例えば、赤色と緑色)が別々に離れて検出されるのに対して、転座又は逆位により2つの遺伝子領域が近接している場合は、2つのシグナルが重なった色(例えば、黄色)として検出される。
【0085】
〈FISH法を用いた遺伝子重複の検出〉
BRAF融合遺伝子構築に伴う遺伝子重複は、例えば、BRAF融合遺伝子が、PXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、検出用プローブとして、BRAF遺伝子の3’末端側ゲノム領域の少なくとも一部をカバーするポリヌクレオチドであって蛍光標識したものを使用することができる。そして、野生型BRAF遺伝子のみを含む場合に比較して強いシグナル、例えば、2倍以上のシグナルが得られることを検出することで、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
なお、BRAF遺伝子由来のポリヌクレオチドと融合して融合遺伝子を構築している他の遺伝子(例えば、BRAF融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、PXN又はGMDS遺伝子)の5’側ゲノム領域の検出用プローブを使用し、前記方法で、BRAF融合遺伝子を検出してもよい。
【0086】
PXN又はGMDS融合遺伝子構築に伴う遺伝子重複は、例えば、PXN又はGMDS融合遺伝子が、PXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、検出用プローブとして、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側ゲノム領域の少なくとも一部をカバーするポリヌクレオチドであって蛍光標識したものを使用することができる。そして、野生型PXN又はGMDS遺伝子のみを含む場合に比較して強いシグナル、例えば、2倍以上のシグナルが得られることを検出することで、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
なお、PXN又はGMDS遺伝子由来のポリヌクレオチドと融合して融合遺伝子を構築している他の遺伝子(例えば、PXN又はGMDS融合遺伝子がBRAF-PXN又はGMDS融合遺伝子の場合、BRAF遺伝子)の3’側ゲノム領域の検出用プローブを使用し、前記方法で、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出してもよい。
【0087】
〈CGHアレイ解析を用いた遺伝子重複の検出〉
BRAF融合遺伝子構築又はPXN又はGMDS融合遺伝子構築に伴う遺伝子重複は、比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)アレイ解析(例えば、Agilent CGH/CNV Array解析;アジレントテクノロジー社)により、検出することができる。
【0088】
〈次世代シーケンサーを用いた遺伝子重複の検出〉
BRAF融合遺伝子構築又はPXN又はGMDS融合遺伝子構築に伴う遺伝子重複は、次世代シーケンサーにより、検出することができる。具体的には、次世代シーケンサーを用いた解析において、遺伝子重複部分のカバレッジが高い(解析対象としたDNA断片のシーケンスをリファレンス配列にアノテーションした際の該当部分の冗長度が高い)ことを検出することで、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
【0089】
〈検出に用いるプローブ(ゲノム用)〉
BRAF融合遺伝子を検出するための、ハイブリダイゼーションに用いるプローブとしては、BRAF融合遺伝子の少なくとも一部のヌクレオチド又はそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下で(好ましくはよりストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズするプローブが好ましい。
【0090】
例えば、融合点を含むBRAF融合遺伝子のゲノムDNAを検出する場合、BRAF融合遺伝子の融合点をはさんでその上流及び下流のそれぞれ16塩基からなる、連続した少なくとも32塩基の核酸分子、又はそれらの相補鎖を含むプローブを用いてもよい。
【0091】
PXN又はGMDS融合遺伝子を検出するための、ハイブリダイゼーションに用いるプローブとしては、PXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部のヌクレオチド又はそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下で(好ましくはよりストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズするプローブが好ましい。
【0092】
例えば、融合点を含むPXN又はGMDS融合遺伝子のゲノムDNAを検出する場合、PXN又はGMDS融合遺伝子の融合点をはさんでその上流及び下流のそれぞれ16塩基からなる、連続した少なくとも32塩基の核酸分子、又はそれらの相補鎖を含むプローブを用いてもよい。
【0093】
例えば、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子が、PXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、FISH法フュージョンアッセイに用いることのできるプローブとしては、BRAF遺伝子又はPXN又はGMDS遺伝子のいずれか一方の遺伝子の5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、残る一方の遺伝子の3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとの組み合わせ(好ましくは、BRAF遺伝子の3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとの組み合わせ)を用いることができる。
一方、例えば、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子が、PXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、FISH法スプリットアッセイに用いることのできるプローブとしては、BRAF遺伝子5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、BRAF遺伝子の3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとの組み合わせ、あるいは、PXN又はGMDS遺伝子5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、PXN又はGMDS遺伝子3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとの組み合わせ(好ましくは、BRAF遺伝子の5’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第1のプローブと、BRAF遺伝子の3’末端側ゲノム領域を特異的に認識できる第2のプローブとの組み合わせ)を用いることができる。
【0094】
〔mRNAの検出〕
mRNAの検出は、ノーザンハイブリダイゼーション法等によりmRNA自体を解析することにより行っても、又は、当業者に周知の方法によりmRNAを鋳型として合成した、相補的DNA(cDNA)を解析することにより行ってもよい。
上記RNAの検出には、シーケンス技術を好適に用いることができる。シーケンシングには、解析の効率を考慮すると、次世代シーケンサーを使用することが好ましい(例えば、Metzker ML、Nat Rev Genet. 2010 Jan;11(1):31-46参照)。次世代シーケンサーとしては、Illumina社のMiSeq/HiSeq、Life Technogies社のSOLiDシステム、Roche社の454シーケンスシステム(GS FLX+/GS Junior)等が例示できる。シーケンシングにおいては、後述の遺伝子増幅反応方法、シーケンスキャプチャ技術等を用いて、融合遺伝子が存在している可能性がある領域を濃縮(enrich)することで、解析の効率を向上させることができる。シーケンスキャプチャ技術としては、Roche社のRoche NimbleGen、Agilent Technologies社のSure Select等が例示できる。
【0095】
〈遺伝子増幅反応方法による検出〉
mRNAは、検出対象であるBRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部のポリヌクレオチドを特異的に増幅できるように設計したプライマーを用いた、遺伝子増幅反応方法にて検出することができる。以下に、mRNAの検出のための代表的な方法を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0096】
==PCR法==
例えば、PCR法では、PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分析し、エチジウムブロマイド染色等によって目的とするサイズの増幅断片が得られたか否かを確認できる。目的とするサイズの増幅断片が得られた場合は、被験者から得た試料において、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子が存在していたことになる。このように、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
本発明のBRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の検出方法としては、被験者から得た試料中の、特定のポリヌクレオチドを遺伝子増幅反応により増幅する工程に加え、更に目的とするサイズの増幅断片が得られたか否かを検出する工程を含むことが好ましい。
【0097】
PCR法は、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子を定量的に検出することに適している。
従って、前述の<BRAF融合遺伝子を検出する態様(1-b)>に記載のように、BRAF遺伝子の5’末端側領域と3’末端側領域の発現量をそれぞれ特異的に検出し、その発現量の比を求めることによってBRAF融合遺伝子を検出することができる。或いは、BRAF遺伝子と共にBRAF融合遺伝子を構築しているBRAF遺伝子以外の他の遺伝子の5’末端側領域と3’末端側領域の発現量をそれぞれ特異的に検出し、その発現量の比を求めることによって、BRAF融合遺伝子を検出することができる。
また、前述の<PXN又はGMDS融合遺伝子を検出する態様(1-b)>に記載のように、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側領域と3’末端側領域の発現量をそれぞれ特異的に検出し、その発現量の比を求めることによってPXN又はGMDS融合遺伝子を検出する方法に好適に用いることができる。あるいは、PXN又はGMDS遺伝子と共にPXN又はGMDS融合遺伝子を構築しているPXN又はGMDS遺伝子以外の他の遺伝子の5’末端側領域と3’末端側領域の発現量をそれぞれ特異的に検出し、その発現量の比を求めることによって、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出することができる。
【0098】
なお、PCR法、及び、これに用いるプライマー設計法は、公知の方法に従って当業者が行うことができる。
例えば、BRAF遺伝子の5’末端側領域を特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマー、ならびに、BRAF遺伝子の3’末端側領域を特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いることができる。
例えば、PXN又はGMDS遺伝子の5’末端側領域を特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマー、ならびに、PXN又はGMDS遺伝子の3’末端側領域を特異的に増幅できるように設計したセンスプライマー及びアンチセンスプライマーを用いることができる。
【0099】
==リアルタイムPCR法==
更には、PCR法においては、遺伝子の増幅過程においてPCR増幅モニター(リアルタイムPCR)法(Genome Res., 6(10), 986, 1996)を用いることにより、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の検出において、より定量的な解析を行うことが可能である。PCR増幅モニター法としては、例えば、ABI PRISM7900(PEバイオシステムズ社)を用いることができる。リアルタイムPCRは公知の方法であり、そのための装置及びキットは市販されており、これらを利用して簡便に行える。
【0100】
より具体的には、例えばBRAF融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子であって、mRNAを指標にしてBRAF融合遺伝子を検出する場合、センスプライマー(5’-プライマー、フォワードプライマー)を、PXN又はGMDS遺伝子由来の任意の部分から、アンチセンスプライマー(3’-プライマー、リバースプライマー)を、BRAF遺伝子由来の任意の部分から設計する。
また、例えばPXN又はGMDS融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子であって、mRNAを指標にしてPXN又はGMDS融合遺伝子を検出する場合、センスプライマー(5’-プライマー、フォワードプライマー)を、PXN又はGMDS遺伝子由来の任意の部分から、アンチセンスプライマー(3’-プライマー、リバースプライマー)を、BRAF遺伝子由来の任意の部分から設計する。
【0101】
==マルチプレックスPCR==
BRAF融合遺伝子を検出するためのPCR法では、BRAF遺伝子と融合してBRAF融合遺伝子を構成する他の各遺伝子、及び、複数の融合点に対応した上記センスプライマーを混ぜることにより、1反応液により全ての融合ポリヌクレオチドを検出するマルチプレックスPCR(Multiplex PCR)を設計することもできる。
PXN又はGMDS融合遺伝子を検出するためのPCR法では、PXN又はGMDS遺伝子と融合してPXN又はGMDS融合遺伝子を構成する他の各遺伝子、及び、複数の融合点に対応した上記センスプライマーを混ぜることにより、1反応液により全ての融合ポリヌクレオチドを検出するマルチプレックスPCR(Multiplex PCR)を設計することもできる。
【0102】
==質量分析による検出==
上記遺伝子増幅反応方法を用いた検出方法において、増幅断片の解析のために、特開2012-100628号公報に記載の質量分析法を用いることができる。
【0103】
==検出に用いるプライマーセット==
本発明のBRAF融合遺伝子を検出するための検出方法に用いられるプライマーセットは、検出対象であるBRAF融合遺伝子の少なくとも一部を特異的に増幅でき、BRAF融合遺伝子を検出できるものであれば、特には限定されず、当業者が、検出対象ポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計することができる。
本発明のPXN又はGMDS融合遺伝子を検出するための検出方法に用いられるプライマーセットは、検出対象であるPXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部を特異的に増幅でき、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出できるものであれば、特には限定されず、当業者が、検出対象ポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計することができる。
PCR増幅モニター法におけるプライマー設計は、プライマー設計ソフトウェア(例えば、Primer Express; PE Biosystems)などを利用してできる。また、PCR産物のサイズが大きくなると増幅効率が悪くなるため、センスプライマーとアンチセンスプライマーは、mRNA又はcDNAを対象に増幅したときの増幅産物の大きさが1kb以下になるように設定するのが適切である。
【0104】
〈ハイブリダイゼーション法による検出〉
mRNAは、検出対象であるBRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部のポリヌクレオチドにハイブリダイズするプローブを用いた、ハイブリダイゼーション法にて検出することができる。
ハイブリダイゼーション技術を利用した検出は、例えば、ノーザンハイブリダイゼーション、ドットブロット法、DNAマイクロアレイ法、RNAプロテクション法などが挙げられる。
【0105】
==プローブ(mRNA用)==
ハイブリダイゼーションに用いるプローブとしては、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部又はそれらの相補鎖にストリンジェントな条件下で(好ましくはよりストリンジェントな条件下で)ハイブリダイズするプローブが好ましい。
【0106】
<融合タンパク質の検出>
被験者から得た試料中の、BRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDSタンパク質を検出する技法としては、タンパク質を解析するために用いられる当業者に周知いかなる技法、又は、これらの技法を応用したいかなる技法を用いてもよい。
【0107】
例えば、BRAF融合タンパク質の検出に用いる方法としては、BRAFタンパク質、又は、BRAFタンパク質と共にBRAF融合タンパク質を構築するBRAFタンパク質以外の他のタンパク質を特異的に認識する抗体、あるいは、BRAF融合タンパクを特異的に認識する抗体を用いた免疫学的測定法(イムノアッセイ法)、酵素活性測定法(ELISA法)、2抗体サンドイッチELISA法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、免疫沈降法、iAEP(intercalated antibody-enhanced polymer)法、FRET法を例示することができる。あるいは、これらと組み合わせて、または単独で、質量分析法、アミノ酸シーケンス法を用いることができる。
【0108】
例えば、PXN又はGMDS融合タンパク質の検出に用いる方法としては、PXN又はGMDSタンパク質、又は、PXN又はGMDSタンパク質と共にPXN又はGMDS融合タンパク質を構築するPXN又はGMDSタンパク質以外の他のタンパク質を特異的に認識する抗体、あるいは、PXN又はGMDS融合タンパクを特異的に認識する抗体を用いた免疫学的測定法(イムノアッセイ法)、酵素活性測定法(ELISA法)、2抗体サンドイッチELISA法、蛍光免疫測定法、放射免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、免疫沈降法、iAEP(intercalated antibody-enhanced polymer)法、FRET法を例示することができる。あるいは、これらと組み合わせて、または単独で、質量分析法、アミノ酸シーケンス法を用いることができる。
以下に、タンパク質の検出のための代表的な方法を例示するが、これらに限定されるものではない。
【0109】
〔検出に用いる代表的な手法〕
抗体を用いる検出方法としては、上記公知の方法によればよいが、例えば以下の方法を用いることができる。
【0110】
〈免疫組織化学法〉
例えば、検出対象のBRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDS融合タンパク質が、PXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質の場合、検出対象の融合タンパク質が存在している可能性のある組織切片に対し、BRAFタンパク質のC末端側領域のポリペプチドに結合する抗BRAF抗体及びPXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域のポリペプチドに結合する抗PXN又はGMDS抗体を用いた免疫染色を行い、それらの抗体が近接していることを指標に、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。また、BRAFタンパク質のN末端側領域のポリペプチドに特異的に結合する抗体と、BRAFタンパク質のC末端側領域のポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いた免疫染色を行い、それらの抗体が離れて局在していることを指標に、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。また、PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域のポリペプチドに特異的に結合する抗体と、PXN又はGMDSタンパク質のC末端側領域のポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いた免疫染色を行い、それらの抗体が離れて局在していることを指標に、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。また、融合点を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体を用いた免疫染色を行い、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。
【0111】
〈ウェスタンブロッティング法〉
例えば、検出対象のBRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDS融合タンパク質がPXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質の場合、検出対象の融合タンパク質が存在している可能性のある細胞抽出液を、当業者に周知の方法により電気泳動して細胞抽出液中のタンパク質を分離した後、メンブレンにブロッティングする。
そして、タンパク質がブロッティングされたメンブレンに対し、BRAFタンパク質のN末端側領域のポリペプチドに結合する抗BRAF抗体及びPXN又はGMDSタンパク質のC末端側領域に結合する抗PXN又はGMDS抗体を用いた免疫染色を行い、メンブレン上の所望の位置に、抗BRAF抗体と抗PXN又はGMDS抗体が結合していることを指標に、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。
また、融合点を含むポリペプチドに特異的に結合する抗体を用い、当該抗体がメンブレン上の所望の位置に結合していることを指標に、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。
あるいは、抗BRAF抗体を用い、当該抗体が、メンブレン上のPXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質に結合していることを指標に、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。この際、メンブレン上で野生型BRAFタンパク質が予測される位置とは異なる位置に抗BRAF抗体が結合することを指標に、検出対象の融合タンパク質の存在を検出してもよい。
抗PXN又はGMDS抗体を用い、抗BRAF抗体を用いた場合と同じ原理で、PXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質を検出してもよい。
【0112】
〈免疫沈降法〉
例えば、検出対象のBRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDS融合タンパク質が、PXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質の場合、検出対象の融合タンパク質が存在している可能性のある細胞抽出液に対し、BRAFタンパク質のC末端側領域のポリペプチドに結合する抗BRAF抗体又はPXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域のポリペプチドに結合する抗PXN又はGMDS抗体のいずれか一方の抗体で免疫沈降を行い、その沈降物に対して残るもう一方の抗体で検出することで、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。上記の通り、免疫沈降と検出をした後、更には、検出抗体により、検出したポリペプチドが目的の検出対象ポリペプチドの大きさであることを確認することが好ましい。
【0113】
あるいは、検出対象のBRAF融合タンパク質が存在している可能性のある細胞抽出液に対し、BRAFタンパク質のC末端側領域のポリペプチドに結合する抗BRAF抗体で免疫沈降を行い、更にその沈降物の質量分析を行うことにより、野生型BRAFと異なる質量の抗BRAF抗体と結合するタンパク質の存在を確認することで、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。
検出対象のPXN又はGMDS融合タンパク質が存在している可能性のある細胞抽出液に対し、PXN又はGMDSタンパク質のN末端側領域のポリペプチドに結合する抗PXN又はGMDS抗体で免疫沈降を行い、さらにその沈降物の質量分析を行うことにより、野生型PXN又はGMDSと異なる質量の抗PXN又はGMDS抗体と結合するタンパク質の存在を確認することで、検出対象の融合タンパク質の存在を検出することもできる。
【0114】
〔検出に用いる抗体〕
なお、本発明に係る検出方法に用いる抗体は、BRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDS融合タンパク質の所望の部位に特異的に結合する範囲で特に制限されず、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を組みあわせて用いることもできる。前記抗体としては、免疫グロブリンそれ自体であっても、抗原結合能を保持した抗体断片、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、又はFvでもよい。また、抗体の結合を検出するため、当業者に周知のいかなる標識やシグナル増幅法が用いられてもよい。
【0115】
<標識手法>
上記遺伝子(ゲノムDNA、mRNA、cDNA等)及びタンパク質の検出方法において、プローブ、プライマー、増幅産物、抗体等の標識は公知の技術を用いればよい。例えば、蛍光標識、化学発光標識、放射性標識、酵素標識、ビオチン標識、アビジン標識等を挙げることができる。
プローブを用いた検出方法において、プローブを標識する場合、その標識方法は上記のとおり、公知の方法によればよく、例えば、BACクローンから、標識された核酸プローブを作製する場合、ニックトランスレーション、ランダムプライム法等の公知手法を用いることができる。またその際、ビオチン-dUTP(例えば、Roche Applied Science社製)を用いてプローブをビオチン標識し、アビジンと結合させた、蛍光体、放射性同位体、酵素等、を更に処理することでプローブを標識することができる。
抗体を用いた検出方法において、抗体を標識する場合、その標識方法は上記のとおり、公知の方法によればよいが、例えば、下記の標識方法が挙げられる。
【0116】
〔iAEP(intercalated antibody-enhanced polymer)法〕
検出対象となるタンパク質に結合する第一抗体と、ポリマー試薬の間に介在抗体を入れることにより、染色感度を上げることが可能である(Takeuchiら、Clin Cancer Res, 2009 May 1; 15(9):3143-3149)。
【0117】
〔蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)〕
2つの抗体の近接を検出する手法として、例えば、FRET現象を利用したプローブ(FRETプローブ)を用いることができる。抗体の一つをドナー蛍光物質(CFP等)で標識し、他の抗体をアクセプター蛍光物質(YFP等)で標識した場合、両者が十分に近い距離にあると、FRET現象により、YFPが励起状態となり、基底状態に戻る際に蛍光を発する。この蛍光を検出することで、2つの抗体が近接していることを検出することができる。
【0118】
≪BRAF阻害物質による治療の適用対象の判定≫
本発明の検出方法における検出対象のBRAF融合遺伝子又は検出対象のBRAF融合タンパク質が、被験者から得た試料から検出された場合は、当該被験者は、BRAF融合体陽性のがんを有する対象(患者)であり、BRAF阻害物質による治療の適用対象となる。
【0119】
≪PXN又はGMDS阻害物質による治療の適用対象の判定≫
本発明の検出方法における検出対象のPXN又はGMDS融合遺伝子又は検出対象のPXN又はGMDS融合タンパク質が、被験者から得た試料から検出された場合は、当該被験者は、PXN又はGMDS融合体陽性のがんを有する対象(患者)であり、PXN又はGMDS阻害物質による治療の適用対象となる。
【0120】
≪検出用キット≫
本発明の検出用キットには、検出対象のBRAF融合遺伝子の検出用キット、又は、検出対象のBRAF融合タンパク質の検出用キットが含まれる。
本発明の検出用キットには、検出対象のPXN又はGMDS融合遺伝子の検出用キット、又は、検出対象のPXN又はGMDS融合タンパク質の検出用キットが含まれる。
【0121】
本発明の検出対象のBRAF融合遺伝子の検出用キット、又は、PXN又はGMDS融合遺伝子の検出用キットには、本発明の検出方法においてFISH法フュージョンアッセイ又はFISH法スプリットアッセイに用いることのできるプローブ、あるいは、本発明の検出方法における検出対象のBRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部を特異的に増幅できるように設計したセンス及びアンチセンスプライマーが含まれる。センス及びアンチセンスプライマーセットは、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部のポリヌクレオチドであり、かつ、増幅対象であるポリヌクレオチドの増幅用のプライマーとして機能するポリヌクレオチドのセットである。
【0122】
また、本発明の検出対象のBRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDS融合タンパク質の検出用キットには、本発明の検出方法に用いることができる抗体が含まれる。
【0123】
<プローブ>
本発明のBRAF融合遺伝子の検出用キットは、BRAF融合遺伝子の少なくとも一部のポリヌクレオチド、又は、その相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、前記BRAF融合遺伝子を検出できるプローブを1種類、あるいは、2種類以上の組み合わせで含むことができる。
本発明のPXN又はGMDS融合遺伝子の検出用キットは、PXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部のポリヌクレオチド、又は、その相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、前記PXN又はGMDS融合遺伝子を検出できるプローブを1種類、あるいは、2種類以上の組み合わせで含むことができる。
【0124】
プローブとして、前述の≪検出方法に用いる技法≫に記載したいずれか1種類以上のプローブが例示できる。
例えば、BRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子がPXN又はGMDS-BRAF融合遺伝子の場合、BRAF遺伝子由来ポリヌクレオチドにハイブリダイズする1種類以上の(好ましくは2種類以上の)プローブ、又は、PXN又はGMDS遺伝子由来ポリヌクレオチドにハイブリダイズする1種類以上の(好ましくは2種類以上の)プローブ、のいずれかのみを含んでも、BRAF遺伝子由来ポリヌクレオチドにハイブリダイズする1種類以上のプローブ、及び、PXN又はGMDS遺伝子由来ポリヌクレオチドにハイブリダイズする1種類以上のプローブ、の両方を含んでも、あるいは、BRAF融合遺伝子の融合点を含むポリヌクレオチドにハイブリダイズする1種類以上のプローブ、又は、PXN又はGMDS融合遺伝子の融合点を含むポリヌクレオチドにハイブリダイズする1種類以上のプローブを含んでもよい。
【0125】
<プライマーセット>
本発明のBRAF融合遺伝子の検出用キットは、BRAF融合遺伝子の少なくとも一部を特異的に増幅でき、BRAF融合遺伝子を検出できるプライマーセットを1セット、あるいは、2セット以上の組み合わせで含むことができる。
本発明のPXN又はGMDS融合遺伝子の検出用キットは、PXN又はGMDS融合遺伝子の少なくとも一部を特異的に増幅でき、PXN又はGMDS融合遺伝子を検出できるプライマーセットを1セット、あるいは、2セット以上の組み合わせで含むことができる。
プライマーセットとして、前述の≪本発明の検出方法の態様≫又は≪検出方法に用いる技法≫に記載したいずれか1種類以上のプライマーセットが例示できる。
【0126】
本発明のプライマーセットには、好ましくは、
(1)BRAFタンパク質をコードするポリヌクレオチド部分から設計されるアンチセンスプライマー及びPXN又はGMDSタンパク質をコードするポリヌクレオチド部分から設計されるセンスプライマーを含む、BRAF遺伝子とPXN又はGMDS遺伝子との融合遺伝子を検出するためのプライマーセットであって、アンチセンスプライマーは「検出対象ポリヌクレオチド」にストリンジェントな条件下(好ましくは、よりストリンジェントな条件下)でアニールする核酸分子(好ましくは、少なくとも16塩基の核酸分子)からなり、センスプライマーは「検出対象ポリヌクレオチド」の相補鎖にストリンジェントな条件(好ましくは、よりストリンジェントな条件下)でアニールする核酸分子(好ましくは、少なくとも16塩基の核酸分子)からなるプライマーセット、が含まれる。
【0127】
また、前記プライマーセット(1)のより具体的な態様として、本発明のプライマーセットには、以下の(2)~(5)のプライマーセットが含まれる。
【0128】
(2)配列番号1(PXNex6-BRAFex11)の塩基番号1から962の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー、及び配列番号1の塩基番号963から2067の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセット。
(3)配列番号3(GMDSex1-BRAFex9)の塩基番号1から372の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドからなるセンスプライマー、及び配列番号3の塩基番号373から1651の間の任意の連続する少なくとも16塩基のオリゴヌクレオチドに対して相補的であるオリゴヌクレオチドからなるアンチセンスプライマーのプライマーセット。
(4)配列番号1で表されるBRAF融合遺伝子を検出するための、以下のプライマーセット。
PXN-441F:CCTGCTGCTGGAACTGAAC(配列番号8)
BRAF-1444R:CTGCCACATCACCATGCCACT(配列番号9)
(5)配列番号3で表されるBRAF融合遺伝子を検出するための、以下のプライマーセット。
GMDS-1F:GACATGGCACACGCACCG(配列番号10)
BRAF-1444R:CTGCCACATCACCATGCCACT(配列番号9)
【0129】
また、本発明のプライマーセットは、前述の〈遺伝子増幅反応方法による検出〉==PCR法==に記載のように、BRAF遺伝子の5’末端側領域と3’末端側領域の発現量を検出するためのプライマーセット、又は、BRAF遺伝子と共に融合遺伝子を構築する他の遺伝子の5’末端側領域と3’末端側領域の発現量を検出するためのプライマーセットであってもよい。
【0130】
これらのプライマーセット(1)~(5)においては、センスプライマーとアンチセンスセンスプライマーの選択位置の間隔が1kb以下であるか、あるいは、センスプライマーとアンチセンスセンスプライマーにより増幅される増幅産物の大きさが1kb以下であることが好ましい。
また、本発明のプライマーは、通常、15~40塩基、好ましくは16~24塩基、更に好ましくは18~24塩基、特に好ましくは20~24塩基の鎖長を有する。
【0131】
本発明のプライマーセットは、本発明の検出方法において、検出対象ポリヌクレオチドを増幅及び検出するために用いることができる。また、本発明のプライマーセットに含まれる各プライマーは、特に限定されるものではないが、例えば、化学合成法によって製造することができる。
【0132】
<抗体>
本発明のBRAF融合タンパク質の検出用キットには、BRAF融合タンパク質の任意の部位に特異的に結合する抗体を1種類、あるいは、2種類以上の組み合わせで含むことができる。具体的には、前述の<融合タンパク質の検出>に記載した抗体が例示できる。
本発明のPXN又はGMDS融合タンパク質の検出用キットには、PXN又はGMDS融合タンパク質の任意の部位に特異的に結合する抗体を1種類、あるいは、2種類以上の組み合わせで含むことができる。具体的には、前述の<融合タンパク質の検出>に記載した抗体が例示できる。
例えば、BRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDS融合タンパク質が、PXN又はGMDS-BRAF融合タンパク質の場合、BRAFタンパク質由来ポリペプチドに結合する1種類以上の(好ましくは2種類以上の)抗体、又は、PXN又はGMDSタンパク質由来ポリペプチドに結合する1種類以上の(好ましくは2種類以上の)抗体、のいずれかのみを含んでも、BRAFタンパク質由来ポリペプチドに結合する1種類以上の抗体、及び、PXN又はGMDSタンパク質由来ポリペプチドに結合する1種類以上の抗体、の両方を含んでも、あるいは、BRAF融合タンパク質の融合点を含むポリペプチドに結合する1種類以上の抗体、又は、PXN又はGMDS融合遺伝子の融合点を含むポリヌクレオチドに結合する1種類以上の抗体を含んでもよい。
【0133】
≪阻害物質のスクリーニング方法≫
<ポリペプチドを阻害する物質をスクリーニングする工程>
本発明の、阻害物質のスクリーニング方法は、前記検出対象ポリペプチドを阻害する物質をスクリーニングすることができ、
(1)検出対象ポリペプチド、又は前記ポリペプチドを発現している細胞に試験物質を接触させる工程、
(2)前記ポリペプチドが阻害されるか否かを分析する工程、及び
(3)前記ポリペプチドを阻害する物質を選択する工程
を含む。
【0134】
本明細書において、「ポリペプチドの阻害」には、ポリペプチドの活性の阻害と、ポリペプチドの発現の阻害とが含まれる。また、「阻害」は、少なくとも一部の阻害を意味する。
【0135】
<阻害物質スクリーニング工程とその指標>
本発明のスクリーニング方法には、
(A)精製又は粗製のポリペプチドを用いて、インビトロでポリペプチドの活性阻害を指標とする方法、
(B)ポリペプチドを発現している細胞を用いて、ポリペプチドの活性阻害を指標とする方法、
(C)ポリペプチドを発現している細胞を用いて、ポリペプチドの発現阻害を指標とする方法
が含まれる。
【0136】
〔(A)精製又は粗製ポリペプチドを用い、活性阻害を指標とする方法〕
前記方法(A)には、インビトロでポリペプチドに試験物質を添加して接触させる工程、前記試験物質により前記ポリペプチドの活性が阻害されたか否かを、対照(試験物質を接触させなかったポリペプチド)と比較して分析する工程、ポリペプチドの活性を阻害した物質を選択する工程を含む方法が含まれる。
インビトロにおけるポリペプチド活性の測定は、公知のキナーゼ活性測定法を用いることができ、例えば、キナーゼ反応により生成するADP量を指標としても、あるいは、ポリペプチドのチロシンリン酸化レベルを指標としてもよく、市販のキナーゼ活性測定キットを用いることもできる。
【0137】
〔(B)ポリペプチド発現細胞を用い、活性阻害を指標とする方法〕
前記方法(B)には、ポリペプチドを発現している細胞に試験物質を添加して接触させる工程、前記試験物質により前記ポリペプチドの活性が阻害されたか否かを、対照(試験物質を接触させなかった細胞)と比較して分析する工程、ポリペプチドの活性を阻害した物質を選択する工程を含む方法が含まれる。
前記細胞におけるポリペプチド活性の測定は、公知のキナーゼ活性測定法を用いることができ、例えば、キナーゼ反応により生成するADP量を指標としても、あるいは、ポリペプチドのチロシンリン酸化レベルを指標としてもよく、市販のキナーゼ活性測定キットを用いることもできる。
【0138】
〔(C)ポリペプチド発現細胞を用い、発現阻害を指標とする方法〕
前記方法(C)には、ポリペプチドを発現している細胞に試験物質を添加して接触させる工程、前記試験物質により前記ポリペプチドの発現が阻害されたか否かを、対照(試験物質を接触させなかった細胞)と比較して分析する工程、ポリペプチドの発現を阻害した物質を選択する工程を含む方法が含まれる。
前記細胞におけるポリペプチドの発現は、タンパク質又はmRNAの量を測定することにより分析することができる。タンパク質量の測定には、例えば、ELISA法、イムノブロット法を用いることができ、mRNA量の測定には、例えば、RT-PCR法、ノーザンブロット法を用いることができる。
【0139】
ここで、BRAF融合遺伝子は、腫瘍形成能を有する遺伝子である。従って、本発明の阻害物質スクリーニング方法で選択したポリペプチド阻害物質は、BRAF融合体陽性のがんの治療用医薬組成物の有効物質又はその候補物質として有用であり、本発明方法は、所望により、前記阻害物質がBRAF融合体陽性のがんに対する治療活性を有することを確認する工程を更に含むことができる。
また、PXN又はGMDS融合遺伝子は、腫瘍形成能を有する遺伝子である。従って、本発明の阻害物質スクリーニング方法で選択したポリペプチド阻害物質は、PXN又はGMDS融合体陽性のがんの治療薬又はその候補物質として有用であり、本発明方法は、所望により、前記阻害物質がPXN又はGMDS融合体陽性のがんに対する治療活性を有することを確認する工程を更に含むことができる。
前記確認工程は、公知の評価系を用いて実施することができ、例えば、培養細胞を用いるインビトロ評価系、腫瘍細胞を移植した担がんモデル動物を用いる評価系などを挙げることができる。前記担がんモデル動物としては、手術により患者から摘出した腫瘍組織を、一度培養により細胞株として樹立してから移植することもできるし、あるいは、前記腫瘍組織を直接、移植することもできる。後者の担がんモデル動物は、PDX(patient-derived xenograft)モデル動物として知られており、細胞株を移植したモデル動物と比較して、継代を繰り返した皮下腫瘍組織における遺伝子発現プロファイルが原発巣とより類似しているため、評価系として好ましい。
【0140】
前記ポリペプチド発現細胞は、本発明のポリヌクレオチドを、常法に従って、所望の細胞に導入することで得ることもできる(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual 4th Edition(2012)、Cold Spring Harbor Laboratory Press参照)。具体的には、例えば、本発明のBRAF融合遺伝子又はPXN又はGMDS融合遺伝子であるcDNAを、組換えベクターに導入し、これを更に細胞に導入することで、前記ポリペプチド発現細胞(形質転換細胞)を得ることができる。
【0141】
≪阻害物質を含有するがん治療用医薬組成物≫
本発明の、BRAF融合体陽性のがんの治療用医薬組成物は、BRAF融合遺伝子又はその転写産物に対する阻害物質を含む。例えば、本発明の阻害物質スクリーニング方法で得られる阻害物質(例えば、低分子化合物、二重鎖核酸(siRNAを含む)、タンパク質(抗体又は抗体断片を含む)、ペプチド、又はそれ以外の化合物)を有効成分として含有し、所望により、製剤学的に許容される担体を含有することができる。
本発明のPXN又はGMDS融合体陽性のがんの治療用医薬組成物は、PXN又はGMDS融合遺伝子又はその転写産物に対する阻害物質を含む。例えば、本発明の阻害物質スクリーニング方法で得られる阻害物質(例えば、低分子化合物、二重鎖核酸(siRNAを含む)、タンパク質(抗体又は抗体断片を含む)、ペプチド、又はそれ以外の化合物)を有効成分として含有し、所望により、製剤学的に許容される担体を含有することができる。
【0142】
<BRAF融合遺伝子又は転写産物、あるいは、PXN又はGMDS融合遺伝子又は転写物に対する阻害物質>
BRAF融合遺伝子又はその転写産物に対する阻害物質としては、キナーゼ阻害剤、例えば、BRAF阻害物質、又は、BRAF遺伝子と共に融合遺伝子を構築するもう一方の遺伝子又はその転写物質に対する阻害物質を挙げることができる。
PXN又はGMDS融合遺伝子又はその転写産物に対する阻害物質としては、キナーゼ阻害剤、例えば、PXN又はGMDS阻害物質、又は、PXN又はGMDS遺伝子と共に融合遺伝子を構築するもう一方の遺伝子又はその転写物質に対する阻害物質を挙げることができる。
【0143】
〔低分子化合物〕
前記阻害物質のうち、低分子化合物の具体例としては、trametinib (Japan Tobacco Inc.)、Sorafenib(Bayer Healthcare Pharmaceuticals Inc.)、Dabrafenib(GlaxoSmithKline LLC.)、Vemurafenib(PLX-4032, Hoffmann-La Roche Inc.)、Regorafenib(Bayer Healthcare Pharmaceuticals)、N-{2,4-difluoro-3-[(5-pyridin-3-yl-1H-pyrrolo[2,3-b]pyridin-3-yl)carbonyl]phenyl}ethanesulfonamide、N-{3-[(5-chloro-1H-pyrrolo[2,3-b]pyridin-3-yl)carbonyl]-2,4-difluorophenyl}propane-1-sulfonamide、(1E)-5-(1-piperidin-4-yl-3-pyridin-4-yl-1H-pyrazol-4-yl)-2,3-dihydro-1H-inden-1-one oxime、GDC-0879((E)-2,3-Dihydro-5-[1-(2-hydroxyethyl)-3-(4-pyridinyl)-1H-pyrazol-4-yl]-1H-inden-1-one oxime)、RAF-265(1-methyl-5-(2-(5-(trifluoromethyl)-1H-imidazol-2-yl)pyridin-4-yloxy)-N-(4-(trifluoromethyl)phenyl)-1H-benzo[d]imidazol-2-amine)、AZ628(3-(2-cyanopropan-2-yl)-N-(4-methyl-3-(3-methyl-4-oxo-3,4-dihydroquinazolin-6-ylamino)phenyl)benzamide)、および、これらの薬学的に許容される塩等を挙げることができる。
【0144】
〔二重鎖核酸〕
二重鎖核酸は、二重鎖の核酸(RNA又はDNA)部分と、好ましくはセンス鎖及びアンチセンス鎖の3’末端のオーバーハングとからなり、RNAiを誘導する。RNAiは進化的に保存された現象で、RNaseIIIエンドヌクレアーゼによって生じる21~23塩基の二重鎖核酸を介して起こる(Genes Dev. 15, 485-490, 2001)。3’側のオーバーハングはそれぞれ1又は2塩基の任意の核酸であるが、2塩基が好ましい。なお、前記塩基数(21~23塩基)は、オーバーハングを含むセンス鎖又はアンチセンス鎖の各々の塩基数である。また、センス鎖及びアンチセンス鎖は、同じ塩基数であることもできるし、異なる塩基数であることもできるが、同じ塩基数であることが好ましい。
【0145】
二重鎖核酸の3’側オーバーハングを構成するリボ核酸としては、例えば、U(ウリジン)、A(アデノシン)、G(グアノシン)、又はC(シチジン)を用いることができ、3’側のオーバーハングを構成するデオキシリボ核酸としては、例えば、dT(デオキシチミジン)、dA(デオキシアデノシン)、dG(デオキシグアノシン)、又はdC(デオキシシチジン)を用いることができる。
【0146】
本発明の医薬組成物の有効成分として用いることのできる二重鎖核酸は、BRAF融合遺伝子に対する阻害作用又はPXN又はGMDS融合遺伝子に対する阻害作用を有するものであれば、特に限定されない。例えば、二重鎖部分が融合点を含むポリヌクレオチドの塩基配列、例えば、配列番号1の第962番~第963番を含む塩基配列、あるいは、配列番号3の第372番~第373番を含む塩基配列に基づいて設計することができる。あるいは、二重鎖部分が、キナーゼ部分をコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて設計することができる。本発明の二重鎖核酸は、常法(例えば、J. Am. Chem. Soc., 120, 11820-11821, 1998; 及びMethods, 23, 206-217, 2001)により製造することができる。また、二重鎖核酸を委託製造する会社(例えば、RNAi社)は、当業者によく知られており、二重鎖核酸の製造に利用できる。また、siRNA配列設計システム(商用siDirect(登録商標);RNAi社)により、二重鎖核酸を設計することができる。
【0147】
〔タンパク質・抗体〕
本発明の医薬組成物の有効成分として用いることのできる抗体は、BRAF融合遺伝子の転写産物又はPXN又はGMDS融合遺伝子の転写物、好ましくは、PXN又はGMDS-BRAF遺伝子の転写産物を阻害するものであれば、限定されない。例えば、BRAF融合タンパク質又はPXN又はGMDS融合タンパク質の活性、好ましくはキナーゼ活性を阻害するものが挙げられる。
【0148】
《本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、ベクター、形質転換細胞》
<本発明のポリペプチド>
本発明の検出方法に係る検出対象であるPXN又はGMDS融合タンパク質、好ましくはPXN-BRAF融合タンパク質又はGMDS-BRAF融合タンパク質は、それ自体、新規タンパク質である。
【0149】
本発明のポリペプチドであるPXN-BRAF融合タンパク質としては、下記(a)~(d)に記載のポリペプチドが好ましい:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
【0150】
本発明のポリペプチドであるGMDS-BRAF融合タンパク質としては、下記(a)~(d)に記載のポリペプチドが好ましい:
(a)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、
(c)配列番号4で表されるアミノ酸配列との同一性が80%以上であるアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド、及び
(d)配列番号4で表されるアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、しかも腫瘍形成能を有するポリペプチド。
【0151】
<本発明のポリヌクレオチド>
本発明の検出方法に係る検出対象であるPXN又はGMDS融合遺伝子、好ましくはPXN-BRAF融合遺伝子又はGMDS-BRAF融合遺伝子は、それ自体、新規遺伝子である。
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチド(すなわち、PXN又はGMDS融合タンパク質、好ましくはPXN-BRAF融合タンパク質又はGMDS-BRAF融合タンパク質)をコードするポリヌクレオチド(すなわち、PXN又はGMDS融合遺伝子、好ましくはPXN-BRAF融合遺伝子又はGMDS-BRAF融合遺伝子)である限り、特に限定されるものではない。なお、「PXN-BRAF融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド」は、PXN-BRAF融合遺伝子において翻訳領域のみからなるポリヌクレオチドであっても、PXN-BRAF融合遺伝子のゲノムDNA全長であっても、PXN-BRAF融合遺伝子のmRNAやcDNAであってもよい。また、「GMDS-BRAF融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド」は、GMDS-BRAF融合遺伝子において翻訳領域のみからなるポリヌクレオチドであっても、GMDS-BRAF融合遺伝子のゲノムDNA全長であっても、GMDS-BRAF融合遺伝子のmRNAやcDNAであってもよい。
【0152】
<本発明のベクター>
本発明のベクターは、前記本発明のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではなく、真核生物又は原核生物の宿主細胞を形質転換できる適当なベクターに当該ポリヌクレオチドを組み込むことにより調製することができる。前記ベクターは、当該ポリヌクレオチドの発現に必要な配列、例えば、プロモーター、エンハンサーを含むことができ、更に、宿主への導入確認に必要な配列、例えば、薬剤耐性遺伝子を含むことができる。
【0153】
<本発明の形質転換細胞>
本発明の形質転換細胞は、本発明のベクターにより、適当な宿主細胞、例えば、真核生物又は原核生物の宿主細胞を形質転換することにより調製することができる。本発明の形質転換細胞は、本発明のポリペプチドを製造するのに用いることができる。
【実施例
【0154】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、実施の形態及び実施例に特に説明がない場合には、J. Sambrook, E. F. Fritsch & T. Maniatis (Ed.), Molecular cloning, a laboratory manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, New York (2001); F. M. Ausubel, R. Brent, R. E. Kingston, D. D. Moore, J.G. Seidman, J. A. Smith, K. Struhl (Ed.), Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons Ltd.などの標準的なプロトコール集に記載の方法、あるいはそれを修飾したり、改変した方法を用いる。また、市販の試薬キットや測定装置を用いている場合には、特に説明が無い場合、それらに添付のプロトコールを用いる。
【0155】
[実施例1]臨床検体でのBRAF遺伝子異常のFISH法による検出
目的遺伝子の5’末端側領域及び3’末端側領域を異なる色素で染め、遺伝子の転座又は逆位等を観察する方法が知られている。FISH法の一種であるこの方法はスプリットアッセイ(split assay)と呼ばれている。スプリットアッセイでは、染色体転座又は逆位等を調べたい目的遺伝子の5’末端側領域及び3’末端側領域のそれぞれを異なる蛍光色素で標識したプローブで染める。例えば、テキサスレッド(TexasRed)(赤)標識及びFITC(緑)標識した2種類のプローブにて蛍光標識することにより、正常な場合(融合遺伝子が構築されていない場合)は1つの黄色のシグナル(緑色と赤色のシグナルが近傍に存在している状態)として検出され、転座又は逆位等が起きている場合は、離れた緑色と赤色のシグナルとして検出される。
【0156】
臨床検体でのBRAF遺伝子異常をFISH法スプリットアッセイで検出した。手術により摘出され、20%ホルマリンで固定化されパラフィンに包埋された大腸がん組織を4μmの厚さで切り、スライドガラス上に乗せ病理切片を作製した。FISH法は文献(Takeuchi K, Choi YL, Soda M, Inamura K, Togashi Y, Hatano S, Enomoto M, Takada S, Yamashita Y, Satoh Y, Okumura S, Nakagawa K, Ishikawa Y, Mano H. Multiplex reverse transcription-PCR screening for EML4-ALK fusion transcripts. Clin Cancer Res. 2008;14:6618-6624.)の方法に従い行った。作製した未染色の切片は、Histology FISHアクセサリーキット(Dako社)で処理し、続いて、赤(TexasRed)の蛍光標識したBRAF遺伝子5’末端側領域をカバーするBAC(bacterial artificial chromosome)クローン(クローン番号 RP11-159M20)と、緑(FITC)の蛍光標識したBRAF遺伝子3’末端側領域をカバーするBACクローン(クローン番号 RP11-759K14, CTD-2337E12)とを用いてハイブリダイゼーションした。更に続いて4,6-ジアミノ-2-フェニルインドール(4,6-diamino-2-phenylindole)で染色を行った。蛍光観察は蛍光顕微鏡BX51(Olympus社)を使用した。緑と赤のシグナルが離れて観察されるゲノム構造異常が示唆される切片を見出した。約1500例の病理検体での検討から2例のBRAF遺伝子領域のゲノム構造異常を示唆する検体(結腸がん患者由来)を見出した。
【0157】
[実施例2]臨床検体でのBRAF融合ポリヌクレオチド遺伝子の同定
FISH法解析によりBRAFゲノム構造異常が示唆された組織由来のRNAをテンプレートに、Sure Select Human Kinome RNA Kit(Agilent社)およびMiseq(Illumina社)を用いて、キャプチャーシークエンスを行いBRAF遺伝子キナーゼ領域の5’側に存在する遺伝子を調べた。その結果、PXN遺伝子又はGMDS遺伝子の一部がBRAF遺伝子キナーゼ領域の5’側に融合していることが明らかとなった。
【0158】
[実施例3]臨床検体でのPXN-BRAF、GMDS-BRAF融合ポリヌクレオチド遺伝子の単離
FISH法解析によりBRAFゲノム構造異常が示唆され、融合する遺伝子が同定された大腸がん臨床検体由来のcDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ(PrimeStar HS DNAポリメラーゼ)を用いてPCRを行い、増幅産物をpT7Blue-2にクローニングした。PXN-BRAF融合ポリヌクレオチド遺伝子の単離用プライマーセットとしては、フォワードプライマーGMDS-5’UTR(配列番号5)とリバースプライマーBRAF-3’UTR(配列番号6)との組合せを用いた。また、GMDS-BRAF融合ポリヌクレオチド遺伝子の単離用プライマーセットとしては、フォワードプライマーGMDS-5’UTR(配列番号7)とリバースプライマーBRAF-3’UTR(配列番号6)との組合せを用いた。
【0159】
得られた増幅産物(1914bpおよび1440bp)の配列を確認した結果、PXN遺伝子の開始コドンATGからエクソン6までと、BRAF遺伝子のエクソン11からエクソン18の停止コドンまでの塩基配列からなるポリヌクレオチド(PXNex6-BRAFex11;配列番号1)が取得できた。また、GMDS遺伝子の開始コドンATGからエクソン1までと、BRAF遺伝子のエクソン9からエクソン18の停止コドンまでの塩基配列からなるポリヌクレオチド(GMDSex1-BRAFex9;配列番号3)が取得できた。
【0160】
なお、PXNex6-BRAFex11がコードするアミノ酸配列(配列番号2)に関して、PXNの登録アミノ酸配列(Ensemble database, Protein ID: ENSP00000288602)との比較により、S73Gの1箇所のアミノ酸置換が認められた。なお、前記アミノ酸置換において、最初のアミノ酸(例:S73Gにおける「S」)は登録アミノ酸配列におけるアミノ酸を、その後のアミノ酸番号(例:S73Gにおける「73」)は配列番号2におけるアミノ酸番号を、最後のアミノ酸(例:S73Gにおける「G」)は配列番号2で表されるアミノ酸配列におけるアミノ酸を、それぞれ、意味する。また、前記アミノ酸置換を生じさせる、配列番号1で表される塩基配列における第348番のCは、一塩基多型(rs4767884)として報告されている。
【0161】
【表1】
【0162】
[実施例4]PXN-BRAF融合遺伝子、GMDS-BRAF融合遺伝子の検出
表1に示すプライマーを用いて、融合部を含む領域を直接増幅するRT-PCRで融合遺伝子の検出を行い、融合遺伝子cDNAががん組織に存在していることを示した。具体的には、PXN-BRAF融合遺伝子に関しては、検体由来RNAテンプレートに対して、PXN遺伝子上に設計したフォワードプライマーPXN-441F(配列番号8)とBRAF遺伝子上に設計したリバースプライマーBRAF-1444R(配列番号9)とを使用してPCRを行った。増幅産物を電気泳動したところ、プライマー設定位置から予想されるサイズのバンド(521bp)が観察された。GMDS-BRAF融合遺伝子に関しては、検体由来RNAテンプレートに対して、GMDS遺伝子上に設計したフォワードプライマーGMDS-1F(配列番号10)とBRAF遺伝子上に設計したリバースプライマーBRAF-1444R(配列番号9)とを使用してPCRを行った。増幅産物を電気泳動したところ、プライマー設定位置から予想されるサイズのバンド(396bp)が観察された。臨床検体を用いた融合遺伝子の検出が、これらの遺伝子上にプライマーを設計することによって可能であることが示された。
【0163】
[実施例5]臨床検体でのPXN-BRAF融合遺伝子、GMDS-BRAF融合遺伝子のFISH法フュージョンアッセイによる検出
融合遺伝子がゲノム上で融合していることを確認するため、FISH法フュージョンアッセイにて検出を行った。
FISH法フュージョンアッセイでは染色体転座又は逆位等によって近接する二つの目的遺伝子領域を異なる蛍光色素で標識したプローブで染める。例えば、TexasRed(赤)標識及びFITC(緑)標識した2種類のプローブにて蛍光標識することにより、正常な場合(融合遺伝子が構築されていない場合)は赤と緑はそれぞれのシグナル(赤色と緑色のシグナルが離れて存在している状態)として検出され、転座又は逆位等が起きることにより2つの遺伝子領域が近接している場合は、赤色と緑色のシグナルが重なり黄色として検出される。
【0164】
具体的には、PXN-BRAF融合遺伝子に関しては、赤(TexasRed)の蛍光標識をした、PXN遺伝子5’末端側領域をカバーするBACクローン(クローン番号 CTD-2308L15, CTD-3139J18)と、緑(FITC)の蛍光標識をした、BRAF遺伝子3’末端側領域をカバーするBACクローン(クローン番号 RP11-759K14, CTD-2337E12)との組み合わせを使用した。
GMDS-BRAF融合遺伝子に関しては、赤(TexasRed)の蛍光標識をした、GMDS遺伝子5’末端側領域をカバーするBACクローン(クローン番号 RP1-33B19, RP1-80B9, RP1-136B1)と、緑(FITC)の蛍光標識をした、BRAF遺伝子3’末端側領域をカバーするBACクローン(クローン番号 RP11-759K14, CTD-2337E12)との組み合わせを使用した。
蛍光観察は蛍光顕微鏡BX51(Olympus社)を使用した。実施例4において融合遺伝子が陽性であった病理切片上でのフュージョンアッセイの結果、PXN遺伝子5’末端側領域とBRAF遺伝子3’末端側領域との近接したシグナル(黄)、あるいは、GMDS遺伝子5’末端側領域とBRAF遺伝子3’末端側領域との近接したシグナル(黄)が観察され、融合遺伝子が染色体転座又は逆位等により生成されたことが確かめられた。
この方法が当該融合遺伝子の存在を検出する方法として使えることがわかった。
【0165】
[実施例6]PXN-BRAF、GMDS-BRAF融合ポリペプチドの腫瘍形成能の検討
本実施例では、PXN-BRAF融合ポリペプチドをコードするcDNAとして、実施例3において大腸がん臨床検体から取得した配列番号1のPXN-BRAF融合遺伝子を使用して、また、GMDS-BRAF融合ポリペプチドをコードするcDNAとして、実施例3において大腸がん臨床検体から取得した配列番号3のGMDS-BRAF融合遺伝子を使用して、各融合ポリペプチドの腫瘍形成能を検討した。前記の各cDNAを発現ベクターpLenti6(Invitrogen(登録商標)(Life Technologies社))に挿入して得られたpLenti6-PXN-BRAF又はpLenti6-GMDS-BRAFをマウス繊維芽細胞株NIH3T3細胞に導入し7日間培養したところ、図1(PXN-BRAF)及び図2(GMDS-BRAF)に示すように形質転換フォーカスが観察された。遺伝子導入試薬のみの処理をしたNIH3T3細胞(control)、LacZを導入したNIH3T3細胞においては、形質転換フォーカスは認められなかった(図示せず)。すなわち、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドを発現するベクターを導入した場合に限り、形質転換フォーカスが観察された。
【0166】
PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドを発現するベクターを導入したNIH3T3細胞、遺伝子導入試薬処理のみをおこなったNIH3T3細胞(control)、LacZを導入したNIH3T3細胞を、それぞれ、ヌードマウスの皮下に1×10個ずつ接種したところ、融合ポリペプチドを発現するベクターを導入したNIH3T3細胞を接種したマウスにおいて腫瘍形成が確認された。遺伝子導入試薬処理のみをおこなったNIH3T3細胞(control)を接種したマウスにおいては、腫瘍形成は確認されなかった。接種1日目以降の両マウスにおける腫瘍サイズを図3に示す。
この結果より、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドが腫瘍形成能を持っていたことから、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリヌクレオチドは、がんの原因遺伝子であることが示された。
なお、全長のBRAFポリペプチドをコードするcDNAをNIH3T3細胞に導入したところ、形質転換フォーカスは観察されず、全長のBRAFポリペプチドは腫瘍形成能を有しないことが確認された。
【0167】
[実施例7]PXN-BRAF、GMDS-BRAF融合ポリペプチド発現細胞のBRAF阻害剤に対する感受性の検討
マウスリンパ系細胞株Ba/F3細胞は、増殖因子であるIL-3依存性細胞株であり、その増殖にIL-3を必要とするが、がん化遺伝子(例えば、チロシンキナーゼ融合遺伝子)を導入することにより、IL-3を添加しなくても増殖できるようになることが知られている(Daley GQ and Baltimore D. Proc Natl Acad Sci USA. 1988 Dec;85(23):9312-9316.)。
本実施例では、親株Ba/F3細胞及び実施例6で作製したpLenti6-PXN-BRAF又はpLenti6-GMDS-BRAFを導入したBa/F3細胞について、細胞数2000の状態から、所定濃度のBRAF阻害剤(trametinib)を添加し、72時間培養した後の細胞数をカウントすることにより、BRAF阻害剤に対する感受性を検討した。より具体的な試験方法については、例えば、Katayamaらの文献(Katayama R et al., Sci Transl Med, 2012(4):120ra17)を参照することができる。
【0168】
結果を図4に示す。コントロールである親株Ba/F3細胞(IL-3濃度=0.5ng/mL)では、BRAF阻害剤の濃度が細胞毒性を示す過剰量を超えない場合には、細胞増殖能に影響は認められなかった。一方、pLenti6-PXN-BRAF又はpLenti6-GMDS-BRAFを導入したBa/F3細胞(IL-3非添加)では、いずれの融合遺伝子においても、BRAF阻害剤により、濃度依存的に細胞増殖が顕著に抑制された。
この結果は、BRAF阻害剤が、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合遺伝子陽性のがん患者の治療に有効であることを示すと同時に、pLenti6-PXN-BRAF又はpLenti6-GMDS-BRAFを導入したBa/F3細胞を用いる本評価系が、当該融合遺伝子陽性のがん患者の治療に有効な薬剤をスクリーニングするために用いることができることを示すものである。
【0169】
[実施例8]PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチド発現細胞におけるBRAF阻害剤によるPXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドのリン酸化抑制の検討
実施例7で確認した、BRAF阻害剤によるPXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチド発現細胞の増殖抑制が、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドのMEK(MAPK/ERK kinase)に対するキナーゼ活性が阻害されたことによるものであることを確認するために、BRAF阻害剤で処理した各培養細胞由来抽出物のウェスタンブロッティングを行った。
結果を図5に示す。リン酸化MEKの検出には抗リン酸化MEK抗体を使用し(図5におけるpMEK)、MEKの検出には抗MEK抗体を使用した。MEKのポリペプチド量については、BRAF阻害剤の処理の有無(及び処理濃度)に関してほとんど差異は認められなかった。一方、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドのMEKに対するリン酸化は、BRAF阻害剤による処理により、濃度依存的に顕著に減少しており、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドのキナーゼ活性が阻害されることにより、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合ポリペプチドのMEKに対するリン酸化が抑制されることが確認された。
【0170】
以上より、本発明において、一部の消化器がん患者においてPXN又はGMDS遺伝子とBRAF遺伝子との融合遺伝子が存在し、その遺伝子ががんの原因となっていることが明らかとなった。即ち、BRAF阻害薬物治療の対象となるがん患者を、PXN-BRAF又はGMDS-BRAF融合遺伝子を検出することで、好ましくは、PXNex6-BRAFex11又はGMDSex1-BRAFex9を検出することで選別できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0171】
本発明の検出方法は、BRAF融合体陽性のがん患者の判定に有用である。本発明の検出用キット及びプライマーセットは、前記検出方法に用いることができる。本発明の阻害物質スクリーニング方法は、当該融合体陽性のがん患者の治療に有効な物質をスクリーニングするのに用いることができる。前記スクリーニングにより得られる物質は、当該融合体陽性のがんの治療用医薬組成物の有効成分として使用することができる。前記検出方法により、当該融合体陽性のがん患者と判定された患者に、前記物質を投与することにより、がんを治療することができる。
本発明の検出方法は、PXN又はGMDS融合体陽性のがん患者の判定に有用である。本発明の検出用キット及びプライマーセットは、前記検出方法に用いることができる。本発明の阻害物質スクリーニング方法は、当該融合体陽性のがん患者の治療に有効な物質をスクリーニングするのに用いることができる。前記スクリーニングにより得られる物質は、当該融合体陽性のがんの治療用医薬組成物の有効成分として使用することができる。前記検出方法により、当該融合体陽性のがん患者と判定された患者に、前記物質を投与することにより、がんを治療することができる。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表フリーテキスト】
【0172】
配列表の配列番号5~10の配列で表される塩基配列は、合成プライマー配列である。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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