(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】樹脂積層体、及び樹脂積層体を含むカード
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20220126BHJP
B42D 25/23 20140101ALI20220126BHJP
B42D 25/45 20140101ALI20220126BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B42D25/23
B42D25/45
(21)【出願番号】P 2019504483
(86)(22)【出願日】2018-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2018006999
(87)【国際公開番号】W WO2018163889
(87)【国際公開日】2018-09-13
【審査請求日】2021-01-05
(31)【優先権主張番号】P 2017041639
(32)【優先日】2017-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597003516
【氏名又は名称】MGCフィルシート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100156476
【氏名又は名称】潮 太朗
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 聖英
(72)【発明者】
【氏名】浅野 淳也
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-104910(JP,A)
【文献】特開2010-194757(JP,A)
【文献】国際公開第2015/093516(WO,A1)
【文献】特開2014-124854(JP,A)
【文献】特開2012-068381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/36
B42D 25/23
B42D 25/45
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の樹脂シートが積層された樹脂積層体であって、前記樹脂積層体の最外層を構成する最外層樹脂シートが、粘度平均分子量が
34,000以上、60,000以下であるポリカーボネート樹脂(A)を含有
し、
さらに粘度平均分子量15,000以上29,000以下であるポリカーボネート樹脂(B)を含有する、樹脂積層体。
【請求項2】
前記最外層樹脂シートが、さらに粘度平均分子量
20,000以上29,000以下である
前記ポリカーボネート樹脂(B)を含有する、請求項1に記載の樹脂積層体。
【請求項3】
前記最外層樹脂シートにおける前記ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の質量比が、
90:10~30:70である、請求項1又は2に記載の樹脂積層体。
【請求項4】
前記最外層樹脂シートの厚みが、20~200μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項5】
前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートを、1~7層有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項6】
前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートが、ポリエステル樹脂、ポリエステル-ポリカーボネート樹脂のアロイ、ポリカーボネート樹脂、及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群のうち、いずれか一種以上を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項7】
前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートが、ポリカーボネート樹脂を含有する樹脂シートであり、かつ前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、15,000以上29,000以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項8】
前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートの少なくともいずれか一層が、レーザーマーキング層である、請求項1~7のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項9】
前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートの少なくともいずれか一層が、ホワイトコア層である、請求項1~8のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項10】
前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シート単層の厚みが、30~700μmである、請求項1~9のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項11】
前記積層体全体の厚みが、680~840μmである、請求項1~10のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項12】
前記最外層樹脂シートが、前記樹脂積層体の両面の最外層を構成する、請求項1~11のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項13】
前記最外層樹脂シートを形成する樹脂が130℃以上のガラス転移温度を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項に記載の樹脂積層体を含む、セキュリティカード又はIDカード。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い耐久性、及び耐熱性を有するとともに、加工が容易である樹脂を含む樹脂シートの積層体、及びそのような樹脂積層体を含むカードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、セキュリティカード、IDカード、e-パスポート、及び非接触型ICカード等において、樹脂フィルムが使用されている。このような樹脂フィルムの材料として、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)を用いることが知られている一方、PET-Gを始めとするポリエチレンテレフタレート系の非ポリ塩化ビニル樹脂を用いることも知られている(特許文献1及び2参照)。
【0003】
また、各種カード用の樹脂組成物として、ポリエステル樹脂組成物を用いることも知られている(特許文献3参照)。特許文献1においては、PETを主な成分としたポリエステル樹脂と、芳香族ポリカーボネート樹脂とを含むポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4281554号公報
【文献】特開2004-17614号
【文献】特開2002-97361号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
カード用の樹脂組成物として、PVC、及びPET-G等のポリエチレンテレフタレート系の樹脂を用いた場合、これらの樹脂の耐久性、及び耐熱性が必ずしも十分ではないため、カードの機械的強度が問題となり得る。一方、優れた耐久性を有する樹脂は、一般に加工が容易でないことが多いため、耐久性に優れた樹脂によるカード等の製造は必ずしも容易ではないという問題があった。
【0006】
また、特許文献3においては、上述のポリエステル樹脂組成物が、耐熱性、及び耐衝撃性等に優れていることが記載されている。しかしながら、このようなポリエステル樹脂組成物は、透明性に劣り、印刷部の解像度を低下させてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、ポリカーボネートを含む所定の樹脂が、高い耐久性、及び耐熱性を有するとともに、透明性を保ちつつ加工容易性にも優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下に示す所定の樹脂により形成される樹脂積層体、及び樹脂積層体を含むカードに関する。
【0008】
(1)複数の樹脂シートが積層された樹脂積層体であって、前記樹脂積層体の最外層を構成する最外層樹脂シートが、粘度平均分子量30,000以上60,000以下であるポリカーボネート樹脂(A)を含有する、樹脂積層体。
(2)前記最外層樹脂シートが、さらに粘度平均分子量15,000以上29,000以下であるポリカーボネート樹脂(B)を含有する、上記(1)に記載の樹脂積層体。
(3)前記最外層樹脂シートにおける前記ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)の質量比が、100:0~20:80である、上記(1)又は(2)に記載の樹脂積層体。
(4)前記最外層樹脂シートの厚みが、20~200μmである、上記(1)~(3)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(5)前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートを、1~7層有する、上記(1)~(4)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(6)前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートが、ポリエステル樹脂、ポリエステル-ポリカーボネート樹脂のアロイ、ポリカーボネート樹脂、及びポリ塩化ビニル樹脂からなる群のうち、いずれか一種以上を含有する、上記(1)~(5)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(7)前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートが、ポリカーボネート樹脂を含有する樹脂シートであり、かつ前記ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が、15,000以上29,000以下である、上記(1)~(6)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(8)前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートの少なくともいずれか一層が、レーザーマーキング層である、上記(1)~(7)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(9)前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シートの少なくともいずれか一層が、ホワイトコア層である、上記(1)~(8)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(10)前記樹脂積層体における前記最外層樹脂シート以外の樹脂シートである内部樹脂シート単層の厚さが、30~700μmである、上記(1)~(9)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(11)前記積層体全体の厚みが、680~840μmである、上記(1)~(10)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(12)前記最外層樹脂シートが、前記樹脂積層体の両面の最外層を構成する、上記(1)~(11)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(13)前記最外層樹脂シートを形成する樹脂が130℃以上のガラス転移温度を有する、上記(1)~(12)のいずれか一項に記載の樹脂積層体。
(14)上記(1)~(13)のいずれか一項に記載の樹脂積層体を含む、セキュリティカード又はIDカード。
【発明の効果】
【0009】
本発明の樹脂積層体は、上述のように、所定の範囲の粘度を有するポリカーボネート樹脂を含む樹脂シートを少なくとも最外層に有しており、耐久性に優れ、特に曲げ疲労に対して非常に高い耐久性を有する。さらに、本発明の樹脂積層体においては、材料の樹脂の加熱による加工も容易である。以上のように、優れた性質を有する本発明の樹脂積層体は、様々なシート状部材、特に、カード等として好適に用いられるものであり、例えば、セキュリティカード、IDカード、e-パスポート、及び非接触型ICカード等として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】樹脂積層体(IDカード)の具体例を示す断面図である。
【
図2】透明層のみで形成された樹脂積層体の具体例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、発明の効果を有する範囲において任意に変更して実施することができる。
【0012】
[樹脂積層体]
本発明の樹脂積層体は、複数の互いに積層された樹脂シートを有する。そして、樹脂積層体の樹脂シートには、最外層を構成する最外層樹脂シートと、樹脂積層体の内部、すなわち最外層樹脂シートよりも積層体の内側に配置された内部樹脂シートが含まれる。
これらの樹脂シートを積層させて樹脂積層体を形成する手法に関しては、特に限定されないものの、各樹脂シートを熱プレスにより溶融させた状態で融着させることが好ましい。このようにして得られる樹脂積層体は、積層された樹脂シート間の界面が平滑となる。
樹脂積層体の厚さ、すなわち、樹脂積層体の全ての樹脂シートの合計の厚さは、特に制限されないが、好ましくは680~840μmであり、より好ましくは720~800μmである。
また、詳細を後述するように、耐久性、及び加工容易性に優れている最外層樹脂シートを有する樹脂積層体は、カード等のシート状部材、例えば、セキュリティカード、又はIDカードとして好適に用いられる。
【0013】
[最外層樹脂シート]
最外層樹脂シートは、粘度平均分子量30,000以上60,000以下であるポリカーボネート樹脂(A)を含有する。ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量は、好ましくは、32,000以上55,000以下、より好ましくは、34,000以上50,000以下、特に好ましくは36,000以上45,000以下である。このように、分子量の大きいポリカーボネート樹脂(A)を含む最外層樹脂シートは、特に耐久性に優れている。
また、最外層樹脂シートは、さらに、粘度平均分子量15,000以上29,000以下であるポリカーボネート樹脂(B)を含有することが好ましい。ポリカーボネート樹脂(B)の粘度平均分子量は、好ましくは、20,000以上29,000以下、より好ましくは、22,000以上28,500以下、特に好ましくは24,000以上28,000以下である。このように、分子量の相対的に小さいポリカーボネート樹脂(B)を用いることにより、最外層樹脂シートの製造工程における加工が容易である。
【0014】
ポリカーボネート樹脂(A)とポリカーボネート樹脂(B)との質量比は、好ましくは100:0~20:80であり、より好ましくは90:10~30:70であり、さらに好ましくは80:20~40:60であり、特に好ましくは、70:30~50:50である。
【0015】
最外層樹脂シートにおけるポリカーボネート樹脂(A)及び(B)以外の熱可塑性樹脂として、ポリエステル樹脂、粘度の値がポリカーボネート樹脂(A)及び(B)とは異なるポリカーボネート樹脂などを含んでいても良い。
また、最外層樹脂シートは、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)以外の成分として、以下の添加剤を含んでいても良い。すなわち、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、紫外線吸収剤、離型剤及び着色剤から成る群から選択された少なくとも1種類の添加剤などである。所望の諸物性を著しく損なわない限り、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等を添加してもよい。
最外層樹脂シートにおいて、ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)は、80質量%以上含まれていることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、含まれている。
【0016】
最外層樹脂シートの厚さは、特に制限されないが、好ましくは20~200μmであり、より好ましくは30~150μm、特に好ましくは50~100μmである。
【0017】
また、最外層樹脂シートは、樹脂積層体の両面の最外層を構成することが好ましい。このように、例えばカード等として利用する樹脂積層体の表側と裏側のいずれにおいても最外層樹脂シートを配置することにより、一方のみに最外層樹脂シートを配置した場合に比べ、樹脂積層体の耐久性をさらに向上させることができる。
【0018】
[内部樹脂シート]
本発明の樹脂積層体は、最外層樹脂シートよりも内側に配置された内部樹脂シートを含む。内部樹脂シートの数は、特に制限されないが、例えば1~7層、あるいは2~5層程度である。
内部樹脂シートは、ポリエステル樹脂、ポリエステル-ポリカーボネート樹脂のアロイ、ポリカーボネート樹脂、及び、ポリ塩化ビニル樹脂のうち、いずれか一種以上を含有することが好ましい。内部樹脂シートは、より好ましくは、ポリカーボネート樹脂を含む。内部樹脂シートに含まれるポリカーボネート樹脂は、粘度平均分子量が、15,000以上29,000以下であるものが好ましく、より好ましくは、20,000以上29,000以下、より好ましくは、22,000以上28,500以下、特に好ましくは24,000以上28,000以下である。
【0019】
内部樹脂シートは、例えば、レーザー発色剤を含むレーザーマーキング層である。レーザーマーキング層は、マーキング処理による印字が可能であり、改ざん防止が特に必要とされるカードにおいて有用である。このようなレーザーマーキング層を設けた樹脂積層体によりレーザーマーキングシートを製造することができる。レーザー発色剤としては、カーボンブラック、アンチモンドープ酸化錫、ビスマス酸化物系発色剤等が使用され、好ましくは、カーボンブラックが使用される。レーザー発色剤の含有量は、内部樹脂シートの質量を基準として、0.0001~0.2質量%であり、好ましくは0.0005~0.15質量%、より好ましくは0.001~0.1質量%である。
【0020】
例えば、レーザー発色剤としてカーボンブラックが使用される場合、カーボンブラックの含有量は、樹脂組成物全体の質量を基準として、1~100質量ppm、好ましくは5~20質量ppmである。また、上述の金属酸化物系のレーザー発色剤が使用される場合、レーザー発色剤の含有量は、例えば、樹脂組成物全体の質量を基準として、50~5000質量ppm、好ましくは80~3000質量ppm、より好ましくは100~2000質量ppmである。
【0021】
また、内部樹脂シートは、例えば、白色顔料を含有するコア層(ホワイトコア層)である。ホワイトコア層としての内部樹脂シートは、例えば、IDカード等のアンテナを含む。すなわち、このようなホワイトコア層を設けた樹脂積層体により、アンテナ・チップが埋め込まれたシートを製造することができる。
白色顔料としては、酸化チタン、タルク、カオリン、クレー、マイカ等が使用され、好ましくは、酸化チタンが使用される。白色顔料の含有量は、内部樹脂シートの質量を基準として、10~30質量%であり、好ましくは13~25質量%、より好ましくは15~20質量%である。
【0022】
樹脂積層体における最外層樹脂シート以外の各層の厚さ、すなわち、内部樹脂シート(単層)の厚さは、特に制限されないが、好ましくは30~700μmである。そして内部樹脂シートが、例えば上述のレーザーマーキング層であれば、より好ましい厚さの範囲は30~150μm、特に好ましい範囲は50~100μmである。内部樹脂シートが、例えば上述のホワイトコア層であれば、より好ましい厚さの範囲は100~500μm、特に好ましい範囲は150~300μmである。また、内部樹脂シートの合計厚さは、好ましくは300~750μmであり、より好ましくは350~700μm、特に好ましくは400~600μmである。
【0023】
[ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート樹脂(A)及び(B)等の樹脂積層体に含まれるポリカーボネート(PC)樹脂は、分子主鎖中に炭酸エステル結合を含む-[O-R-OCO]-単位(Rが脂肪族基、芳香族基、又は脂肪族基と芳香族基の双方を含むもの、さらに直鎖構造あるいは分岐構造を持つもの)を含むものであれば、特に限定されるものではないが、ビスフェノールA骨格を有するポリカーボネート等が好ましく、ビスフェノールA骨格を有するポリカーボネートが特に好ましい。
【0024】
また、樹脂積層体の各層を形成する樹脂、特に、最外層樹脂シートを形成する熱可塑性樹脂、及び、最外層樹脂シートを形成する熱可塑性樹脂の主成分たるポリカーボネート樹脂は、130℃以上のガラス転移温度(Tg)を有することが好ましく、より好ましくは135℃以上、さらに好ましくは140℃以上、特に好ましくは145℃以上のガラス転移温度(Tg)を有する。また、熱可塑性樹脂、及びポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)の上限は、これらの樹脂を層状に加工する工程の妨げとならない範囲で調整可能であるが、例えば、200℃以下、あるいは、180℃以下である。
【0025】
[樹脂シート及び樹脂積層体の製造方法]
本発明の樹脂積層体の製造においては、まず、各シートが製造される。樹脂シートの製造において、樹脂組成物を層状(シート状)に加工する方法としては、従来の手法が採用され得る。例えば、押出成形、キャスト成形による方法である。
押出成形の例としては、本発明の樹脂組成物のペレット、フレークあるいは粉末を押出機で溶融、混練後、Tダイ等から押出し、得られる半溶融状のシートをロールで挟圧しながら、冷却、固化してシートを形成する方法が挙げられる。
【0026】
そして上述の各シート、すなわち、最外層樹脂シート及び内部樹脂シートを積層させて樹脂積層体を製造できる。樹脂シートを積層させる方法としては、詳細を後述するように、例えば、非接触型ICカード製造装置(NIC300型:日精樹脂工業製)等のカード製造装置を用いる方法等が挙げられる。
このように、本発明の樹脂積層体は、接着剤、及び、接着層等を必要とせずに、比較的少ない工程で各層を積層させることによっても製造可能であるものの、接着剤、又は、接着層を用いて各シート間の接着性を高めても良い。
【0027】
樹脂積層体の具体例としては、
図1に示されるIDカード10が挙げられる。IDカード10は、第1最外層樹脂シート12、第2最外層樹脂シート14、第1レーザーマーキング層16、第2レーザーマーキング層18、第1ホワイトコア層20、及び第2ホワイトコア層22を含む積層体である。
第1最外層樹脂シート12、及び第2最外層樹脂シート14は無色透明であり、第1レーザーマーキング層16、及び第2レーザーマーキング層18においては、レーザー光源で光Lを照射することによる印字が可能である。第1ホワイトコア層20、及び第2ホワイトコア層22は白色顔料を含んでいるため白色であり、第1ホワイトコア層20においては、アンテナ・チップ24が埋め込まれている。アンテナ・チップ24が受信する外部からの電磁波に応じてICチップ(図示せず)の情報が上書きされる。
【0028】
IDカード10においては、第1最外層樹脂シート12、及び第2最外層樹脂シート14が、上述の高粘度かつ高分子量のポリカーボネート樹脂(A)を含んでおり、特に、表面の耐久性に優れている。また、ポリカーボネート樹脂(A)とともに、比較的、低粘度かつ平均分子量が低いポリカーボネート樹脂(B)を含む樹脂混合物(アロイ)を用いて第1最外層樹脂シート12、及び第2最外層樹脂シート14等を形成することにより、樹脂からシート又はフィルムへの加工が容易となる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
【0030】
<耐久性>
各実施例、及び比較例の樹脂積層体の耐久性は、以下のように評価した。まず、表1及び2において示されている樹脂を用いて厚み約0.8mmの樹脂積層体を作成し、ICカード曲げ・ねじり試験機(株式会社東洋精機製作所製)を用いてカード曲げ試験を実施し、樹脂積層体に割れ(クラック)が発生するまでの曲げ回数を測定した。この動的曲げ試験は、JIS X6305-1(ISO/IEC10373-1)に準拠して行い、割れ(クラック)が発生するまでの曲げ回数の数値によって以下のように評価した。
130,000回以上:良好
50,000回以上130,000回未満:やや不良
50,000回未満:不良
<耐熱性>
各実施例、及び比較例の最外層樹脂シートの耐熱性は、以下のように評価した。測定対象樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)を示差熱走査熱量分析計(株)日立ハイテクサイエンス製のEXSTAR DSC 7020(DSC)で測定し、耐熱性を以下のように評価した。測定においては、窒素雰囲気下で樹脂成分が溶融する温度(270℃)に15℃/minで昇温し、30℃まで20℃/minで冷却後、再度15℃/minで昇温(2ndrun)した。得られたDSC曲線から算出した補外開始温度に基づき、ガラス転移温度を求めた(JIS K 7121,JIS K 0129,及び、ISO3146参照)。
ガラス転移温度:145℃以上:良好
ガラス転移温度:120℃以上145度未満:やや不良
ガラス転移温度:120℃未満:不良
<透明性>
各実施例、及び比較例の最外層樹脂シートの透明性は、以下のように評価した。測定対象樹脂組成物を用いて厚み0.3mmのフィルムを成形し、ヘーズメーター(村上色彩技術研究所製HM-150)を用いてHaze値を測定し、透明性を次のように評価した。
Haze値の測定は、JIS K 7136に準拠して行った。
Haze値:1%未満:良好
Haze値:1%以上5%未満:やや不良
Haze値:5%以上:不良
<加工容易性>
各実施例、及び比較例の最外層樹脂シートのシート成形時における加工容易性は、以下のように評価した。測定対象樹脂組成物の流れ値(Q値)を、高化式フローテスターを用い、JIS K7210に準拠して測定し、以下のように評価した。
流れ値(Q値):0.3以上:良好
流れ値(Q値):0.3未満:不良
【0031】
<樹脂シートの製造>
実施例1~7、及び比較例1~5の樹脂積層体を形成するための樹脂組成物を、以下のように製造した。すなわち、下記表1及び表2に示す組成となるように、各成分をタンブラーにてブレンドし、二軸押出機(東芝機械製、TEM26SS)の根元から投入し、シリンダー温度300℃にて溶融混練を行い、ペレット状の樹脂組成物を作成した。
(1)PC樹脂K-4000(三菱瓦斯化学株式会社製のビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量:39,000))
(2)PC樹脂E-2000(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のビスフェノールA型芳香族ポリカーボネート樹脂「ユーピロン(登録商標)E-2000」(粘度平均分子量:27,500))
(3)PETG S2008(SK Chemicals製「SKYGREEN(登録商標)S2008」変性ポリエチレンテレフタレート樹脂(粘度平均分子量:31,000))
【0032】
上述の樹脂組成物(ペレット)を用いて、以下のように樹脂シートを製造した。まず、バレル直径100mm、スクリューのL/D=32.0の単軸押出機からなるTダイ溶融押出機を用い、吐出量100kg/h、スクリュー回転数30rpmで幅1200mmのシートを成形した。シリンダー・ダイヘッド温度は、300℃の設定で行った。そして上述の耐久性の評価のために、樹脂組成物から表1及び2に記載の厚さのシートを成形した。
【0033】
<樹脂積層体の製造>
上述の製法により製造した各樹脂シートを以下のように積層させて、実施例1~7及び比較例1~5の樹脂積層体を製造した。すなわち、最外層樹脂シート/内部樹脂シート/最外層樹脂シートの層構成となるように、非接触型ICカード製造装置(NIC300型:日精樹脂工業製)を用いて、加熱温度180℃、タクトタイム2分(予熱、加熱融着、放冷)にて総厚が約800μmとなるように各樹脂シートをプレスした後、打抜いて積層体を作成した。
【0034】
上述の各樹脂積層体のうち、透明層のみを有する実施例1、2及び比較例1~3の樹脂積層体の耐久性を評価した。これらの実施例1、2及び比較例1~3の樹脂積層体は、
図2に示される構造を有しており、互いに同じ材質の樹脂で形成される透明層1(
図2における第1透明シート42、44、46、及び48)と、互いに同じ材質の樹脂で形成される透明層2(第2透明シート52、54、56、及び58)を有する。これらの積層体の動的曲げ試験回数を測定したところ、結果は表1の通りであった。
【表1】
【0035】
以上より、高粘度のポリカーボネート樹脂が、積層体の耐久性の向上に有用であること、及び、最外層においてポリカーボネート樹脂を用いることが、耐久性の向上に特に有効であることが確認された。
そこで、最外層に高粘度のポリカーボネート樹脂を用いつつ、
図1に例示したIDカードに類似するもののアンテナ・チップを含まない積層体を複数、製造し、最外層の樹脂の組成、樹脂シートの数、及び厚さを調整した実施例3以下、及び比較例4以下について、耐久性を評価した結果を表2に示す。
【表2】
【符号の説明】
【0036】
10 IDカード(樹脂積層体)
12 第1最外層樹脂シート
14 第2最外層樹脂シート
16 第1レーザーマーキング層
18 第2レーザーマーキング層
20 第1ホワイトコア層
22 第2ホワイトコア層
24 アンテナ・チップ