(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】メタン酸化触媒、それを調製するプロセス、およびそれを使用する方法
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20220207BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20220207BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20220207BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20220207BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20220207BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
B01J37/02 101A
B01J37/08 ZAB
B01J37/02 301B
B01J37/02 301C
B01J23/44 A
B01D53/94 280
F01N3/10 A
F01N3/28 301P
(21)【出願番号】P 2019512004
(86)(22)【出願日】2017-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2017070711
(87)【国際公開番号】W WO2018041630
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-07
(32)【優先日】2016-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(72)【発明者】
【氏名】タネヴ,ピーター・タネヴ
(72)【発明者】
【氏名】ゾアホルツ,マリオ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-156434(JP,A)
【文献】特開2006-181569(JP,A)
【文献】特開2000-176289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/10
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン酸化触媒を調製するためのプロセスであって、以下のステップ、
a.)
ジルコニア前駆体を675~1050℃の範囲の温度で焼成して正方晶ジルコニアを調製するステップであって、
焼成後に、検出可能な単斜晶ジルコニアが存在しないか又は存在する場合には正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニア
の重量比は31:1を超え
、前記ジルコニア前駆体は硫酸化されておらず、かつタングステン変性されていない、ステップと、
b.)ステップa.)から得られた前記ジルコニアに対してメカノケミカル処理を行い、正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアを含むジルコニアを調製するステップであって、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比は1:1~31:1の範囲である、ステップと、
c.)ステップb.)から得られた前記ジルコニアに貴金属前駆体含有含浸溶液を含浸させるステップと、
d.)湿潤な貴金属含浸ジルコニアを120℃以下の温度で乾燥させるステップと、
e.)乾燥させた貴金属含浸ジルコニアを400~650℃の範囲の温度で焼成するステップと、を含み、
前記メカノケミカル処理は、磨砕、圧縮、破砕、および粉砕からなる群から選択される、メタン酸化触媒を調製するためのプロセス。
【請求項2】
ステップa.)
の前記焼成
後に、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの前記重量比が、35:1~1000:1の範囲である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
ステップa.)の前記焼成後に、検出可能な単斜晶ジルコニアが、存在しない、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
ステップ
e.)における焼成後に、前記貴金属含浸ジルコニアを、層、フィルム、またはコーティングの形態で、セラミックモノリス担体または金属モノリス担体上に堆積させることをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
ステップ
b.)で得られた前記ジルコニアを、層、フィルム、またはコーティングの形態で、セラミックモノリス担体または金属モノリス担体上に堆積させ、その後に、ステップ
c.)~
e.)に従って、前記堆積されたジルコニアを含浸させ、処理することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
ステップ
e.)で得られた前記貴金属含浸ジルコニアまたはステップ
b.)で得られた前記ジルコニアが、ウォッシュコートステップによってセラミックモノリスまたは金属モノリス上に堆積される、請求項1~5のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記含浸溶液が、パラジウム化合物、白金化合物、ロジウム化合物、およびそれらの混合物からなる群から選択される貴金属前駆体を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記含浸溶液が、少なくとも1つ以上の貴金属錯化化合物または貴金属キレート化合物を、錯化化合物またはキレート化合物対貴金属のモル比1:1~5:1で含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項9】
ステップa.)における前記焼成が、800~1025℃の範囲の温度で行われる、請求項1~8のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記
ジルコニア前駆体が、正方晶ジルコニアを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項11】
ステップb.)の前記メカノケミカル処理後に、前記単斜晶ジルコニアが、前記正方晶ジルコニアにおいて単斜晶ジルコニアの分散体として存在する、請求項1~
10のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記
セラミックモノリス担体または金属モノリス担体が、細孔チャネル内面を画定する細孔チャネルを含
み、
メタン酸化触媒が、10~250μmの範囲の厚さのコーティング、ウォッシュコート、またはフィルムの形態で前記細孔チャネル内面上に堆積される、請求項4~6のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記乾燥させた貴金属含浸ジルコニアが、貴金属(複数可)と、正方晶および単斜晶ジルコニアとの総重量に基づいて、0.5~15重量%の範囲で貴金属を含む、請求項1~
12のいずれか一項に記載のプロセス。
【請求項14】
請求項1~
13のいずれか一項に記載のメタン酸化触媒を調製するためのプロセスによって調製されるメタン酸化触媒。
【請求項15】
酸素の存在下でメタンを含むガス流を、請求項
14に記載のメタン酸化触媒と接触させ、前記ガス流中の前記メタンの少なくとも一部を酸化して二酸化炭素および水にすることによって、メタンを酸化する方法。
【請求項16】
メタンを含む前記ガス流が、天然ガス燃料エンジンからの排気ガスである、請求項
15に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン酸化触媒、メタン酸化触媒を調製するプロセス、このプロセスによって調製されるメタン酸化触媒、およびそのメタン酸化触媒を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリン、灯油、および軽油等の石油由来燃料に代わる最も豊富に存在し、経済的に採算が取れる選択肢の1つが、天然ガスである。このため、輸送用途および定置用途向けエンジンのメーカーは、従来の石油由来燃料から、より廉価であり、より清浄に燃焼し、より環境にやさしい圧縮天然ガス(CNG)燃料または液化天然ガス(LNG)燃料に関心を移している。近年は、天然ガスを燃料として広範に配備することを可能にするために、天然ガス燃料の供給チェーン/インフラストラクチャを拡大し、天然ガスに特異的なエンジンハードウェアを開発するために、かなりの投資と取り組みが行われている。天然ガスにおける主要成分はメタンである。天然ガス燃料エンジンの排気ガスは、いくらかの残留レベルのメタンを含有する場合があり、現行および将来の環境排出規制を満たすために、排気ガスが大気中に放出される前に残留レベルのメタンを低減しなければならない。排気ガス中の残留メタンのレベルを低減する1つの方法は、触媒によりメタンを酸化して二酸化炭素と水にすることによる。排気ガスを処理するために使用されている今日の触媒コンバータ中の触媒は、メタンを変換するように設計されていない。メタンの燃焼に必要とされる相対的に高い活性化温度のため、メタンは、典型的には、変換されないままそのような触媒コンバータを通過することになる。
【0003】
メタン酸化のための触媒は、以前に報告されている。WO2009/057961では、二元燃料、すなわちディーゼルおよびLNGを燃料とする車両からの排気ガスを処理するための、アルミナ上に担持されたパラジウムおよび白金を含有する触媒が開示されている。それらの触媒は、1.0:0.1~0.3の好ましいパラジウム:白金比を有すると言われ、アルミナ担体上に堆積される。しかしながら、これらのパラジウム-白金/アルミナ材料の性能上の利点は、フィード中にH2Oが存在しない状態で実証されたものである。輸送用途および定置用途における天然ガス燃料エンジンからの排気ガスは、通常は9~17体積%の範囲の、非常に高レベルのH2Oを含有することがよく知られている。排気ガス中のこれらの顕著なH2Oレベルは、パラジウム-白金/アルミナ触媒の活性、およびメタン酸化反応におけるこれらの触媒の安定性に対して、非常に顕著な悪影響を及ぼすことが知られている。したがって、これらの先行技術のアルミナ系触媒は、顕著なレベルの水を含有する排気ガス内でのメタンの変換を含む商用用途において、過大な活性損失率および活性低下率に苦しむであろうと予想される。
【0004】
US5741467は、それぞれ燃料リーンなメタン酸化または燃料リッチなメタン酸化のためのメタン酸化触媒として使用される、混合されたパラジウム/アルミナおよびパラジウム/セリア/ランタナアルミナのウォッシュコート配合物を開示している。さらに、US5741467は、ロジウムを使用してパラジウムを完全に、または部分的に置き換えることができることを開示している。しかしながら、これらの触媒配合物は、50体積%のメタン変換(当技術分野では一般にT50(CH4)と称する)のためのそれらの高い温度要件(500℃超)によって例示されるように、エージング後に非常に低いメタン酸化活性を呈する。これらの触媒が呈する低いメタン酸化活性および急速な活性低下が示唆するように、これらの触媒配合物は、商用天然ガス燃料エンジンの排気ガス処理用途におけるメタン排除に関して採用されない可能性または有用ではない可能性が高いであろう。
【0005】
US660248は、メタンおよび過剰な酸素を含有する排気ガスから炭化水素を除去するための触媒を開示している。その触媒は、ジルコニア、硫酸化ジルコニア、およびタングステン-ジルコニアから選択される少なくとも1つの担体上に担持されたパラジウムまたはパラジウム/白金を含む。開示されたジルコニア系触媒は、メタン酸化活性に関して既に考察したアルミナ系触媒と比較して改善された性能を示しているが、これらの触媒の活性は、報告されたように、商用用途で魅力的なものとなるには依然として低すぎる。
【0006】
したがって、天然ガス燃料エンジンからの排気ガスから未燃焼メタンを効率的に除去するために、より高いメタン酸化活性を呈するメタン酸化触媒に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0007】
ジルコニア上に担持された1つ以上の貴金属を含む触媒は、ジルコニアが正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアを特定の重量比範囲で含むとき、改善されたメタン酸化性能を示し得ることが、今では判明している。
【0008】
したがって、本発明は、下記のステップ、すなわち、a)非変性ジルコニア前駆体を675~1050℃の範囲の温度で焼成して、正方晶ジルコニアを調製するステップであって、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニア(存在する場合)の重量比は31:1を超える、ステップと、b)ステップa.)から得られたジルコニアに対してメカノケミカル処理を行い、正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアを含むジルコニアを調製するステップであって、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比は1:1~31:1の範囲である、ステップと、c)ステップb.)から得られたジルコニアに貴金属前駆体含有含浸溶液を含浸させるステップと、d)湿潤な貴金属含浸ジルコニアを120℃以下の温度で乾燥させるステップと、e)乾燥させた貴金属含浸ジルコニアを400~650℃の範囲の温度で焼成するステップと、を含み、メカノケミカル処理は、磨砕、圧縮、破砕、および粉砕からなる群から選択される、メタン酸化触媒を調製するためのプロセスを提供する。
【0009】
このプロセスによって作製されたメタン酸化触媒は、そのより低いT50(CH4)温度によって証明されるように、より高いメタン酸化活性、ならびに先行技術において知られているそれらのメタン酸化触媒と比較してより良好な長期水熱安定性を提供する。
【0010】
さらなる態様では、本発明は、酸素の存在下でメタンを含むガス流を本発明によるメタン酸化触媒と接触させ、ガス流中のメタンの少なくとも一部を酸化して二酸化炭素と水にすることによって、メタンを酸化する方法を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ジルコニア上に担持された1つ以上の貴金属を含み、そのジルコニアが正方晶ジルコニア(t-ZrO2とも称する)と単斜晶ジルコニア(m-ZrO2とも称する)との両方を含む、メタン酸化触媒を提供する。
【0012】
本発明の触媒で使用される正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアの両方を含むジルコニアは、正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとの物理的混合物ではなく、同様に正方晶ジルコニアの結晶相と単斜晶ジルコニアの結晶相との物理的混合物でもない。そうではなくて、本発明の触媒で使用されるジルコニアは、前駆体材料を、正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアの両方を含むジルコニアに変換、例えば熱変換およびメカノケミカル変換し、正方晶ジルコニア相と単斜晶ジルコニア相との分散体をもたらすことによって、得られたものである。正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアの両方を含み、前駆体材料の変換によって調製されるそのようなジルコニアは、本明細書においてさらにtm-ZrO2とも称される。そのようなtm-ZrO2上に担持された貴金属を含む本発明のメタン酸化触媒は、驚くべきことに、同じレベルの貴金属充填において、先行技術のメタン酸化触媒と比較して、著しく優れたメタン酸化性能、特にメタン酸化活性を呈することが判明した。さらに、そのようなtm-ZrO2上に担持された貴金属を含む本発明のメタン酸化触媒はまた、驚くべきことに、正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとが同じ重量比で物理的に混合されていた、正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとの物理的混合物上に担持された同じレベルの貴金属を含むメタン酸化触媒と比較して、著しく優れたメタン酸化活性を呈することが判明した。
【0013】
本発明によるメタン酸化触媒は、ジルコニア上に担持された1つ以上の貴金属を含む。本明細書において、「の上に担持された(supported on)」という用語への言及は、ジルコニアの任意の内部細孔構造の壁面上を含む、ジルコニアの内部構造面および外部構造面上に担持される貴金属を指す。
【0014】
本明細書で上記したように、上に貴金属が担持される本発明のジルコニアは、ジルコニアの少なくとも2つの結晶相、すなわち正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアを含む。正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比は、1:1~31:1の範囲、好ましくは2:1~31:1の範囲、さらにより好ましくは2:1~28:1、なおより好ましくは5:1~28:1、さらになおより好ましくは10:1~27.5:1の範囲、その上さらにより好ましくは15:1~25:1の範囲、その上なおさらにより好ましくは15:1~23:1である。上記の正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアに対する重量比範囲を有するtm-ZrO2上に担持された貴金属を含む触媒は、同じ貴金属充填を有するメタン酸化のための他の先行技術のジルコニア含有触媒またはアルミナ含有触媒と比較して、改善されたメタン酸化活性、すなわちより低いT50(CH4)値をもたらすことが判明している。少なくとも50体積%のメタンが酸化される温度を、本明細書においてT50(CH4)と称する。T50(CH4)値は触媒のメタン酸化活性に関する尺度である。より低いT50(CH4)値は触媒のより高いメタン酸化活性を示す。実質的に同一の試験条件下で測定するとき、T50(CH4)値を使用して、2つ以上の触媒のメタン酸化活性を比較することができる。また、本発明によるメタン酸化触媒における正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアに対する重量比を提供することは、水熱条件下で長期の使用期間にわたって改善されたメタン酸化活性安定性をもたらし得ることも判明した。
【0015】
本明細書において、正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアに対する重量比は、市販のソフトウェアを使用して定量的XRD相分析によって判定される重量比である。そのようにして判定された正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比1:1~31:1は、2θ=30.1°(正方晶ジルコニアに特有)における信号強度と2θ=28.1°(単斜晶ジルコニアに特有)における信号強度とのXRD信号強度比0.8:1~12.5:1の範囲に対応する。本発明で使用される定量的XRD相分析のより詳細な説明は本明細書において以下で提供する。
【0016】
正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアに対する重量比を判定するために、任意の他のジルコニア、例えば物理的混合によって触媒に添加されるジルコニアバインダー材料は考慮に入れない。
【0017】
本明細書で上記したように、上に貴金属(複数可)が担持されるジルコニアは、正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアを含む。好ましくは、単斜晶ジルコニアは、正方晶ジルコニア中の単斜晶ジルコニアの分散体として、またはさらには(準)連続の正方晶ジルコニアマトリクス中の単斜晶ジルコニアの分散体として存在する。そのような構造は、例えば、本発明によるメタン酸化触媒を調製するためのプロセスによる単一のジルコニア前駆体の熱変換およびメカノケミカル変換によって調製することができる。ジルコニア前駆体は、好ましくは675~1050℃の範囲の温度で焼成ステップによって熱処理し、次いでその焼成されたジルコニアを磨砕、圧縮、破砕、および/または粉砕することによってメカノケミカル処理する。他の適切なメカノケミカル処理としては、材料の結晶相特性の変化を強いる触媒またはジルコニア前駆体に関する機械的エネルギーの影響をもたらす全ての操作が挙げられる。
【0018】
いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、正方晶ジルコニア結晶相と単斜晶ジルコニア結晶相とのそのような分布は、正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとを物理的に混合することによっては達成することはできないと考えられる。さらに、いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、本発明の触媒のジルコニア、すなわちtm-ZrO2を単一のジルコニア前駆体から調製することによって、tm-ZrO2中に得られる正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとの分布は、得られる触媒上に貴金属または貴金属酸化物の高度な分散体を生成することを可能にすると考えられる。さらに、これは、有利に高い貴金属の表面積および/または貴金属酸化物の表面積を有する触媒を提供し得る。tm-ZrO2において得られる正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとの分布は、調製中に、ならびに典型的な水熱メタン酸化運転条件下における使用を含む使用中に、貴金属または貴金属酸化物の拡散、移動、および/または凝集を制限すると考えられる。これは、例えば水熱条件下、例えば、天然ガス燃料エンジンからの排気ガスを処理する際に典型的に遭遇する条件下で、メタン酸化活性に恩恵をもたらし、本発明の触媒のメタン酸化活性の安定性を改善する。
【0019】
本明細書において以下でより詳細に説明するように、ジルコニア前駆体は、高温への曝露時にジルコニアに変換される任意のジルコニウム含有化合物であり得る。またジルコニア前駆体は、正方晶ジルコニアを含んでいてもよく、正方晶ジルコニアからなっていてもよく、または正方晶ジルコニアから本質的になっていてもよい。いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、ジルコニア前駆体を高温に曝露すると、最初に正方晶ジルコニアが形成され、その後その正方晶ジルコニアは、メカノケミカル処理に曝露されると、単斜晶ジルコニアに部分的に変換され得ると考えられる。1つ以上の熱処理ステップおよびメカノケミカル処理ステップにより単一のジルコニア前駆体から本発明のジルコニアを調製することによって、正方晶ジルコニア中の単斜晶ジルコニアの分散体を得ることができる。本明細書で上記したように、好ましくは、上に貴金属が担持されるジルコニアは、(準)連続したマトリクス構造を形成する正方晶ジルコニアを含み、そのマトリクス構造内に組み込まれた単斜晶ジルコニアを有する。本明細書では以下において適切なジルコニア前駆体が提供される。
【0020】
上に貴金属が担持されるジルコニアは、好ましくは10~200m2/gの範囲の比表面積を含むことができる。
【0021】
本発明によるメタン酸化触媒は1つ以上の貴金属を含む。2つ以上の貴金属の任意の組み合わせを使用することができる。好ましくは、メタン酸化触媒は、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、オスミウムおよびイリジウムからなる群から選択される1つ以上の貴金属を含む。好ましくは、メタン酸化触媒は、パラジウム、白金、およびロジウムからなる群から選択される1つ以上の貴金属を含む。貴金属の好ましい組み合わせは、(1)パラジウムおよび白金、(2)パラジウムおよびロジウム、ならびに(3)パラジウム、白金、およびロジウムを含む。貴金属のそのような組み合わせは、より高いメタン酸化活性、すなわちより低いT50(CH4)値およびより安定したメタン酸化活性を有するメタン酸化触媒を提供し得る。
【0022】
メタン酸化触媒は、貴金属(複数可)の総組み合わせ重量およびtm-ZrO2の総重量に基づき0.5~15重量%の範囲で貴金属を含むことができる。好ましくは、メタン酸化触媒は、貴金属(複数可)の総組み合わせ重量およびtm-ZrO2の総重量に基づき少なくとも1重量%の貴金属を含む。
【0023】
典型的には、メタンを酸化するための貴金属の触媒活性形態は、その貴金属酸化物形態である。これは、例えばパラジウムについて当てはまる。しかしながら、場合によっては、例えばパラジウムと白金の両方が触媒上に存在する場合には、貴金属の一部分は金属形態のままであろう。したがって、好ましくは、貴金属(複数可)の少なくとも一部は、貴金属酸化物の形態でメタン酸化触媒中に存在する。
【0024】
メタン酸化触媒は、粉末、粒子、コーティング、ウォッシュコート、フィルム、押出成形物、リング、ペレット、タブレット、または様々な形状およびサイズのセラミックモノリスを含む任意の適切な形状または形態を有することができる。好ましくは、メタン酸化触媒は、0.1~500μm、好ましくは0.5~500μmの範囲の平均粒径を有する粒子として提供される。粒子は、例えば、粉末またはウォッシュコートの形態であり得る。メタン酸化触媒は、上記のより大きな触媒構造を形成するように造形されたジルコニア粒子を含んでいてもよい。メタン酸化触媒は、例えば、押出および噴霧乾燥を含むプロセスで造形されてもよい。
【0025】
メタン酸化触媒は、任意選択的にバインダー材料を含有することができる。
【0026】
メタン酸化触媒は、コーティング、ウォッシュコート、またはフィルムの形態でモノリス担体上に堆積することができる。本明細書において、ウォッシュコートへの言及は、担体の表面積上に、材料の分散体、この場合は、メタン酸化触媒粒子の分散体を指し、ウォッシュコートされる材料は、担体の表面上で薄層を形成する。適切な担体としては、セラミックモノリスおよび金属モノリスが挙げられる。そのようなセラミックモノリスおよび金属モノリスは、ほぼ均一な、輪郭のはっきりした細孔構造またはチャネル構造を有する担体である。セラミックモノリスおよび金属モノリスは、1平方インチあたりの細孔チャネル数によって特徴付けることができ、この単位は、当技術分野において、1平方インチあたりのセルすなわちCPSIとも称される。好ましくは、セラミックモノリス担体または金属モノリス担体は、1平方インチあたり50~10,000個の範囲の細孔チャネル(1cm2あたり323~64500個の細孔チャネル)、より好ましくは1平方インチあたり150~1000個の細孔チャネル(1cm2あたり968~6450個の細孔チャネル)を含む。
【0027】
好ましい一実施形態では、本発明のメタン酸化触媒は、細孔チャネル内面を画定する細孔チャネルを含むセラミックモノリス担体または金属モノリス担体上に設けられ、メタン酸化触媒は、10~250μmの範囲の厚さのコーティング、ウォッシュコート、またはフィルムの形態でモノリスの細孔チャネル内面上に存在する。好ましくは、1立方メートルのモノリス担体あたり50~400kgの範囲、より好ましくは75~300kgの範囲のメタン酸化触媒が、モノリス担体上に担持される。好ましくは、モノリス上の得られる貴金属含有量は、モノリス担体の1~16kg/m3の範囲、より好ましくはモノリス担体の1~8kg/m3の範囲である。
【0028】
先行技術で知られているメタン酸化触媒と比較して、本発明によるメタン酸化触媒がより高いメタン酸化活性、すなわちより低いT50(CH4)値、ならびにより良好な長期水熱安定性を提供することは、本発明によるメタン酸化触媒の特有の利点である。
【0029】
本発明によるメタン酸化触媒がNOのNO2への変換に対する活性も示し得ることは、本発明によるメタン酸化触媒のさらなる特有の利点である。これは、NOをNO2に変換するメタン酸化触媒と、次いでNOおよび/またはNO2をN2に還元する市販のSCR(選択接触還元)触媒との組み合わせを使用することは、メタンとは別に、NO(および任意選択的にNO2)を環境に無害なN2に変換するという要望が存在する用途においてメタン酸化触媒が使用されるとき、特に価値があり得る。これは、例えば、処理されるべき排気ガスがメタンおよびNOを含む場合に当てはまり得る。そのようなガス流の一例は、天然ガス燃料エンジンからの排気ガスであろう。したがって、本発明の特定の実施形態において、メタン酸化触媒は、SCR触媒、例えば、酸化チタン(IV)(TiO2)、酸化タングステン(VI)(WO3)、酸化バナジウム(V)(V2O5)、酸化モリブデン(VI)、貴金属、遷移金属交換されたゼオライトまたはゼオライトを含むSCR触媒と組み合わせて提供してもよい。NOとNO2との混合物がSCR触媒に提供される場合、ほとんどのSCR触媒はより最適なN2への変換を示すので、メタン酸化触媒はNOの一部をNO2に変換する必要があるのみである。
【0030】
本明細書で上記したように、本発明の触媒は、メタン、特にガス流を含む希薄メタン中に存在するメタンを酸化する際に得られるより低いT50(CH4)値によって証明されるように、改善されたメタン酸化活性を示す。特に、全ガス流の体積に基づき5000ppmv未満のメタンおよび残部が窒素からなるガス流中のメタンを酸化する場合、本発明による触媒に関しては、メタン酸化触媒のT50(CH4)は405℃以下であり得る。t/m-ZrO2中の正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比が5:1~28:1の範囲にある特定の場合には、メタン酸化触媒のT50(CH4)値は400℃以下であり得る。t/m-ZrO2中の正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比が15:1~25:1の範囲にある特定の場合には、メタン酸化触媒のT50(CH4)値は395℃以下であり得る。より特に、全ガス流の体積に基づき2000ppmvのCH4、1000ppmvのCO、150ppmvのNO、7.5体積%のCO2、6体積%のO2、15体積%のH2O、および残部がN2からなる組成を有するガス流中のメタンを酸化する場合、本発明による触媒に関しては、メタン酸化触媒のT50(CH4)値は405℃以下であり得る。t/m-ZrO2中の正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比が5:1~28:1の範囲にある特定の場合には、メタン酸化触媒のT50(CH4)値は400℃以下であり得る。t/m-ZrO2中の正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比が15:1~25:1の範囲にある特定の場合には、メタン酸化触媒のT50(CH4)値は395℃以下であり得る。
【0031】
別の態様では、本発明は、メタン酸化触媒を調製するためのプロセスを提供する。メタン酸化触媒を調製するためのプロセスであって、以下のステップ、
a.)非変性ジルコニア前駆体を675~1050℃の範囲の温度で焼成して正方晶ジルコニアを調製するステップであって、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニア(存在する場合)の重量比は31:1を超える、ステップと、
b.)ステップa.)から得られたジルコニアに対してメカノケミカル処理を行い、正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアを含むジルコニアを調製するステップであって、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比は1:1~31:1の範囲である、ステップと、
c.)ステップb.)から得られたジルコニアに貴金属前駆体含有含浸溶液を含浸させるステップと、
d.)湿潤な貴金属含浸ジルコニアを120℃以下の温度で乾燥させるステップと、
e.)乾燥させた貴金属含浸ジルコニアを400~650℃の範囲の温度で焼成するステップと、を含み、
メカノケミカル処理は、磨砕、圧縮、破砕、および粉砕からなる群から選択される、メタン酸化触媒を調製するためのプロセス。
【0032】
ステップa.)において、ジルコニア前駆体は焼成形態で提供することができる。好ましくは、単一のジルコニア前駆体が提供される。正方晶ジルコニアおよび単斜晶ジルコニアの分散体に熱変換およびメカノケミカル変換され得る任意のジルコニア前駆体を使用することができる。
【0033】
一実施形態において、ジルコニア前駆体は正方晶ジルコニアである。ステップa.)における焼成中、正方晶ジルコニアの少なくとも一部は単斜晶ジルコニアに変換され得る。場合によっては、ステップa.)中に、正方晶マトリックスにおいて単斜晶ジルコニアの小さな核が生成され、それは粉末XRD測定では識別できない可能性がある。これらの場合、ステップ(a)の焼成ジルコニアの磨砕、圧縮、破砕、または粉砕の間に達成されるもの等のその後のメカノケミカル処理は、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの望ましい有益な重量比を有する正方晶および単斜晶ジルコニアマトリクスへのジルコニアの変換を開始させるのに十分であろう。
【0034】
あるいは、ジルコニア前駆体は、非晶質ジルコニア、またはジルコニウム含有前駆体、例えば水酸化ジルコニウムであり得る。いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、非晶質ジルコニアまたはジルコニウム含有前駆体の場合、非晶質ジルコニアまたはジルコニウム含有前駆体は、ステップ(a)の焼成中、最初に正方晶ジルコニアに変換され、その後正方晶ジルコニアの一部が単斜晶ジルコニアに変換されると考えられる。
【0035】
したがって、本発明のtm-ZrO2を調製するためのジルコニア前駆体としては、正方晶ジルコニア、非晶質ジルコニア、およびジルコニウム含有前駆体が挙げられるがそれらには限定されず、適切なジルコニウム含有前駆体としては、ジルコニウム水酸化物、ならびに水酸化ジルコニウムゾル、水酸化ジルコニウムゲル、ZrOCl2、ZrCl4、ZrO(NO3)2、Zr(NO3)4、乳酸ジルコニウム、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアセタート、Zr(CH2CHCO2)4、炭酸ジルコニウム(IV)、Zr(HPO4)2、およびZr(SO4)2が挙げられるが、それらに限定されない。
【0036】
ジルコニア前駆体は、不純物、および前駆体化合物中に自然に存在するか、またはジルコニア製造プロセス中に非故意に導入される他の元素を含有し得る。あり得る不純物および元素の群としては、ハフニウム化合物およびシリコン化合物、例えば、ハフニアおよびシリカからなる群が挙げられるが、それらに限定されない。
【0037】
本発明のジルコニアは非変性ジルコニアである。非変性ジルコニアは、メタン酸化触媒製造プロセス中に別の元素または化合物で変性またはドープされていないジルコニアまたはジルコニウム含有化合物と定義される。本発明の非変性ジルコニアは、硫酸化ジルコニアまたはタングステン変性ジルコニアを含まない。実施例に示すように、変性ジルコニア(すなわち、硫酸化ジルコニアまたはタングステン変性ジルコニア)は、本発明のメタン酸化触媒を含む非変性ジルコニアと比較して、メタン酸化性能が劣っている。上記のように、不純物、およびハフニウム等のジルコニア前駆体化合物中に自然に存在する他の元素、またはシリコンもしくはシリカ等のジルコニア製造プロセス中に非故意もしくは故意に導入される他の元素の存在は、ジルコニアを変性ジルコニアにはしない。
【0038】
ステップ(a)中、ジルコニア前駆体は675~1050℃の範囲の温度で焼成される。使用される前駆体の性質に応じて、正方晶ジルコニアが存在している場合があり、または500℃超の焼成温度で形成されることになるが、例えば正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアへの有意な変換は675℃以上の温度で発生し得る。場合によっては、単斜晶ジルコニアは、この焼成ステップ中に形成されないか、または少なくとも検出可能なレベルでは形成されない。一方、1100℃以上の非常に高い温度で焼成すると、主にほぼ純粋な単斜晶ジルコニアが得られる。好ましくは、ジルコニア前駆体は750~1050℃の範囲の温度で焼成され、次いでメカノケミカル処理される。それは、これらのステップによって得られるtm-ZrO2は、本発明による正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアに対する重量比を有するメタン酸化触媒をもたらすことが判明したためである。そのようにして得られた触媒は、改善されたメタン酸化活性を有することが判明した。さらにより好ましくは、ジルコニア前駆体は、800~1025℃の範囲の温度で焼成され、次いで、メカノケミカル処理される。それは、これらのステップによって得られるtm-ZrO2がさらにもっと改善されたメタン酸化活性を有するメタン酸化触媒をもたらすことが判明したためであった。
【0039】
ジルコニア前駆体を少なくとも30分間焼成することが好ましい。得られるジルコニア前駆体は、正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニア(存在する場合)とを含み、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比は31:1を超える範囲にある。
【0040】
焼成後、ジルコニアはメカノケミカル処理され、得られたメタン酸化触媒中のジルコニアは、正方晶ジルコニアと単斜晶ジルコニアとを含み、正方晶ジルコニア対単斜晶ジルコニアの重量比は1:1~31:1の範囲であり、好ましくは2:1~31:1の範囲であり、さらにより好ましくは2:1~28:1であり、なおより好ましくは5:1~28:1であり、さらになおより好ましくは10:1~27.5:1の範囲であり、その上さらにより好ましくは15:1~25:1の範囲であり、その上なおさらにより好ましくは15:1~23:1である。焼成プロセスは当技術分野でよく知られており、最も適切な焼成温度および焼成時間の選択はジルコニア前駆体の選択によって左右される。焼成条件のそのような選択は当業者の技能に属する。
【0041】
正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアに対する重量比が本発明によって提供される範囲にある場合、そのような重量比に至るために使用された、ジルコニア前駆体、焼成手順および焼成温度、ならびにメカノケミカル処理手順の正確な選択は、それほど重要ではない。
【0042】
好ましくは、ジルコニア前駆体を、焼成し、メカノケミカル処理するステップは、酸素含有雰囲気、好ましくは空気中で行う。
【0043】
本プロセスのステップ(c)では、ステップ(b)で得られたジルコニアに貴金属前駆体含有含浸溶液を含浸させる。好ましくは、含浸溶液は水性貴金属前駆体含有含浸水溶液である。貴金属前駆体含有含浸溶液は、1つ以上の貴金属前駆体、好ましくはパラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、およびイリジウムからなる群から選択される1つ以上の貴金属を含むことができる。より好ましくは、貴金属前駆体含有含浸溶液は、パラジウム、白金、およびロジウムからなる群から選択される1つ以上の貴金属を含む。あるいは、ステップ(c)の含浸は、同じまたは異なる貴金属前駆体含有含浸溶液による2つ以上の逐次含浸ステップを含む。異なる含浸溶液を使用することは、ジルコニアに異なる貴金属を含浸させることを達成する代替的な方法を可能にし得る。含浸溶液に可溶性である任意の貴金属前駆体を使用することができる。適切なパラジウム、白金、およびロジウム貴金属前駆体としては、Pd(NO3)2、Pd(NH3)4(CH3CO2)2、Pd(NH3)4Cl2、PdCl2、Pd(CH3CO2)2、Pd(NH3)4(HCO3)2、パラジウム(II)アセチルアセトネート、クエン酸パラジウム(II)、シュウ酸パラジウム(II)、K2PdCl4、K2PdCl6、Pd(NH3)2Cl4、PdO、Pd(NH3)2Cl4、Pt(NH3)2Cl4、H2Pt(OH)6、PtBr2、PtCl2、PtCl4、(NH4)2PtCl6、Pt(NH3)2Cl2、Pt(CN)2、Pt(NO3)2、Pt(NO3)4、PtO2、白金(II)アセチルアセトネート、白金(II)アセテート、Na2PtCl6、K2PtCl6、H2PtCl6、K2PtCl4、クエン酸白金(II)、シュウ酸白金(II)、RhCl3、Rh4(CO)12、Rh2O3、RhBr3、ロジウム(II)アセチルアセトネート、クエン酸ロジウム(II)、シュウ酸ロジウム(II)、およびRh(NO3)3が挙げられるが、それらに限定されない。
【0044】
含浸溶液は、少なくとも1つ以上の貴金属錯化化合物または貴金属キレート化合物を、錯化化合物またはキレート化合物対貴金属のモル比1:1~5:1で含むことが有利であり得る。適切な錯化化合物またはキレート化合物としては、クエン酸、ソルビトール、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸、エチレンジアミン四酢酸、酢酸、クラウンエーテル、ビピリジン、ビピリミジン、アセチルアセトン、エチルジアミン、フェナントロリン、クエン酸三ナトリウム、クエン酸アンモニウム、乳酸、パントイン酸、ヒドロキシピルビン酸、マニトール、グルコース、フルクトース、ヒドロキシ酪酸、およびメチルセルロースが挙げられるが、それらに限定されない。そのような貴金属錯化化合物または貴金属キレート化合物、特にクエン酸をパラジウム前駆体含有含浸溶液に添加すると、メタン酸化に関するより高い触媒活性につながり得ることが判明した。
【0045】
含浸後に、ステップ(d)において、湿潤な貴金属含浸ジルコニアを120℃以下の温度で乾燥させる。好ましくは、ステップ(d)において、湿潤な貴金属含浸ジルコニアを少なくとも1時間にわたって乾燥させる。その後ステップ(e)において、乾燥させた貴金属含浸ジルコニアを400~650℃、好ましくは450~600℃の範囲の温度で焼成する。好ましくは、ステップ(e)において、乾燥させた含浸ジルコニアを少なくとも1時間にわたって焼成する。好ましくは、貴金属含浸ジルコニアを焼成するステップは、酸素含有雰囲気、好ましくは空気中で行う。ステップ(e)において、焼成中、貴金属の少なくとも一部が貴金属酸化物に変換されることになる。
【0046】
依然として湿潤な貴金属含浸ジルコニアをステップ(d)および(e)において乾燥させ、その後焼成する前に、湿潤な貴金属含浸ジルコニアを少なくとも1時間にわたって、好ましくは1~5時間にわたってエージングすることは有利であり得る。そのようなエージングステップはメタン酸化に関してより高い触媒活性を有するメタン酸化触媒をもたらし得ることが判明している。
【0047】
好ましくは、貴金属(複数可)の総組み合わせ重量およびtm-ZrO2の総重量に基づき0.5~15重量%の範囲で貴金属を含むメタン酸化触媒を提供するために十分な量の貴金属が含浸中に提供される。好ましくは、このようにして得られたメタン酸化触媒は、貴金属(複数可)の総組み合わせ重量およびtm-ZrO2の総重量に基づき少なくとも1重量%の貴金属を含む。
【0048】
メタン酸化触媒は、粒子の形態、特に0.1~500μmの範囲のサイズを有する粒子の形態で調製することができる。使用されるジルコニア前駆体のタイプに応じて、ジルコニア前駆体は、ステップ(b)の前に、所望の粒径の粒子に造形してもよく、あるいはステップ(b)から得られたジルコニアは、所望の粒径の粒子に造形してもよい。所望の粒径のジルコニア粒子またはジルコニア前駆体粒子を調製するための適切な方法としては、湿式粉砕、湿式磨砕、乾式磨砕、混練、熱処理、沈殿、または噴霧乾燥が挙げられるが、それらに限定されない。そのようなジルコニア粒子は、高い表面積を有し、ジルコニア上の貴金属の分布の改善を可能にし、それは、最終触媒のメタン酸化活性にとって有益である。ジルコニア粒子またはジルコニア前駆体粒子の粒径を低減するいくつかの方法は、ジルコニアの結晶相の組成に対する変更、すなわち、ジルコニア中の正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアに対する重量比の変更を引き起こし得ることが判明している。特に、湿式粉砕、湿式磨砕、または乾式磨砕等の方法を使用するとき、高温での以前の焼成後に存在していた正方晶ジルコニアが部分的に単斜晶ジルコニアに変換され得ることが観察されている。この場合、tm-ZrO2中の正方晶ジルコニアの単斜晶ジルコニアに対する重量比は、わずかに低減され得る。いずれの特定の理論にも束縛されるものではないが、この単斜晶ジルコニアのさらなる形成は、粒子間の摩擦により引き起こされる局所的な温度上昇の発生によって、かつ/または、一般に、正方晶ジルコニアの結晶構造に対する粉砕プロセスのエネルギー衝撃により引き起こされると考えられる。この温度上昇は、正方晶ジルコニアから単斜晶ジルコニアへの少量のさらなる熱変換を局所的にもたらし得る。
【0049】
本発明によるメタン酸化触媒は、上記の粒子、粉末、押出成形物、リング、ペレット、タブレット、またはモノリスを含むがそれらには限定されない任意の適切な形態またはサイズで調製することができる。メタン酸化触媒は、層、フィルム、またはコーティングの形態で担体上に堆積することができる。好ましい一実施形態において、本発明によるメタン酸化触媒を調製するためのプロセスは、ステップ(e)における焼成後に貴金属含浸ジルコニアを層、フィルム、またはコーティングの形態で、セラミックモノリス担体または金属モノリス担体上に堆積させることを含む。同様に好ましい実施形態において、本発明によるメタン酸化触媒を調製するためのプロセスは、ステップ(b)で得られたジルコニアを層、フィルム、またはコーティングの形態でセラミックモノリス担体または金属モノリス担体上に堆積させ、その後ステップ(c)~(e)に従ってモノリス担体上に堆積されたジルコニアを含浸させ処理することを含む。好適なセラミックモノリスまたは金属モノリスは本明細書で上記されている。ジルコニアまたは含浸ジルコニアは、好ましくは水溶性であるジルコニアの懸濁液に、または含浸ジルコニア粒子、特に0.1~500μmの範囲のサイズを有する粒子に、モノリスを接触させることによって、堆積されることが好ましい。好ましくは、ステップ(e)で得られた貴金属含浸ジルコニアまたはステップ(b)で得られたジルコニアは、ウォッシュコートステップによってセラミックモノリスまたは金属モノリス上に堆積される。典型的に、ステップ(e)で得られた貴金属含浸ジルコニアまたはステップ(b)で得られたジルコニアは、懸濁液の形態でウォッシュコートステップに提供される。ウォッシュコートステップでは、ジルコニア粒子または貴金属含浸ジルコニア粒子は、モノリス担体への塗布前にウォッシュコート懸濁液中に懸濁される。担体をウォッシュコートすると、ジルコニア粒子または貴金属含浸ジルコニア粒子の薄層がモノリス担体の細孔チャネルの表面上に堆積され、それにより、メタンの酸化に利用可能な触媒の触媒活性表面が最大化される。ステップ(e)で得られた貴金属含浸ジルコニアまたはステップ(b)で得られたジルコニアが、ウォッシュコートステップによってセラミックモノリス担体または金属モノリス担体上に堆積される場合、ウォッシュコートにおける貴金属含浸ジルコニア粒子またはジルコニア粒子の好ましい粒径は、光散乱により判定すると、0.1~50μmの範囲であり、より好ましくは0.1~20μmの範囲である。ジルコニアの粒径が大きすぎる場合、ウォッシュコート懸濁液は、ジルコニア粒子または含浸ジルコニア粒子の粒径を上記範囲のサイズに低減するために、湿式粉砕にかけることができる。
【0050】
一実施形態では、メタン酸化触媒を調製するためのプロセスは、ステップ(b)の後で、かつステップ(c)の前に、下記のステップ、
(i)全懸濁液の重量に基づき10~65重量%の範囲のジルコニアを含有するジルコニアの水性懸濁液を調製するステップと、
(ii)ジルコニア粒子の水性懸濁液に酸を添加して、懸濁液のpHを3~6、好ましくは3.5~4.5の範囲のpHに調節するステップと、
(iii)ジルコニア粒子の水性懸濁液を、光の散乱によって判定すると最大20μmの体積平均粒径のジルコニア粒子を含むまで湿式粉砕し、任意選択的に、粉砕された懸濁液のpHを酸により再調節して、それを3~6、好ましくは3.5~4.5の範囲に維持するステップと、
(iv)ステップ(iii)で得られた懸濁液の層をセラミックモノリス担体または金属モノリス担体の表面上にウォッシュコートするステップと、
(v)ウォッシュコートされたセラミックモノリス担体または金属モノリス担体を120℃以下の温度で少なくとも1時間にわたって乾燥させるステップと、を含む。
【0051】
後続のステップ(c)では、ウォッシュコートされたセラミックモノリス担体または金属モノリス担体、および特にウォッシュコート中のジルコニアに貴金属前駆体含有含浸溶液を含浸させ、その後、ステップ(d)および(e)に従って乾燥させ、焼成して、完成メタン酸化触媒を製造する。任意選択的に、ステップ(v)のウォッシュコートされたセラミックモノリス担体または金属モノリス担体は、貴金属含浸溶液を含浸させる前に、400~650℃、好ましくは450~600℃の範囲の温度で少なくとも1時間にわたって焼成される。
【0052】
代替的な実施形態では、ステップ(i)~(v)は、貴金属含浸ジルコニアを使用してステップ(i)の水性懸濁液を調製するステップ(e)の後に行われる。そのような場合、ステップ(v)の後で、乾燥させたウォッシュコートされたセラミックモノリス担体または金属モノリス担体を450~650℃、好ましくは450~600℃の範囲の温度で少なくとも1時間にわたって焼成して、完成メタン酸化触媒を製造する。
【0053】
ウォッシュコートステップは、(1)モノリス担体を懸濁液中に浸漬すること、(2)懸濁液をモノリス担体上に注ぎかけること、または(3)懸濁液をモノリス担体の細孔チャネル中に通過させること、を含むがそれらには限定されない任意の適切なウォッシュコート手順を使用して行うことができる。
【0054】
任意選択的に、ステップ(iii)の前に、ジルコニアの重量に基づき5~20重量%の範囲のバインダー材料をジルコニア粒子懸濁液に添加してもよい。さらに、任意選択的に、ステップ(iii)の前に、ステップ(i)で調製された懸濁液中のジルコニアの重量に基づき1~20重量%の範囲の粘度調整化合物を、ジルコニア粒子懸濁液に添加してもよい。適切な粘度調整化合物としては、酢酸、クエン酸、メチルセルロース、キチン、澱粉、グルコース、およびフルクトースが挙げられるが、それらに限定されない。
【0055】
アルミナまたはジルコニアをバインダーとして使用してもよいが、バインダーとして触媒中に導入されるアルミナまたはジルコニアの量は、メタン酸化触媒の重量に基づき20重量%未満に限定されるべきである。使用する場合、アルミナまたはジルコニアの量は、1重量%~20重量%の範囲、好ましくは2重量%~10重量%の範囲であるべきである。
【0056】
バインダーとして添加された全てのジルコニアを除いて、1m3のモノリス担体あたり好ましくは50~400kg、より好ましくは75~300kgの範囲のジルコニアを、モノリス担体上にウォッシュコートする。好ましくは1m3のモノリス担体あたり1~16kgの範囲の貴金属を含み、より好ましくは1m3のモノリス担体あたり1~8kgの範囲の貴金属を含む最終触媒を得るために、貴金属含有含浸溶液の含浸中に、ある量の貴金属前駆体をジルコニア上に吸収させ、または吸着させ、または堆積させる。
【0057】
別の態様では、本発明は、本発明によるメタン酸化触媒を調製するためのプロセスによって調製されたメタン酸化触媒を提供する。
【0058】
さらなる態様では、本発明は、メタンを酸化する方法を提供する。この方法は、メタンを含むガス流を、本明細書に記載のように、酸素の存在下で本発明によるメタン酸化触媒と接触させることと、ガス流中のメタンの少なくとも一部を酸化して二酸化炭素および水にすることと、を含む。ある特定の例では、メタンを含むガス流は、天然ガス燃料エンジンからの排気ガスである。天然ガス燃料エンジンは、大気圧天然ガス、圧縮天然ガス、液化天然ガス、またはそれらの組み合わせを含む燃料を燃料としてもよい。特定の態様では、天然ガスを燃料とするエンジンは、圧縮天然ガスまたは液化天然ガスを燃料とする。天然ガス燃料は、火花点火式であっても、またはディーゼル点火式であってもよい。あるいは、天然ガス燃料エンジンは、天然ガスと、ガソリン、灯油、ディーゼル、または軽油を含むがそれらに限定されない1つ以上の他の炭化水素燃料との混合物、特に、圧縮天然ガスまたは液化天然ガスとディーゼルまたは軽油との混合物を燃料とする。別の代替物では、天然ガス燃料エンジンは、天然ガスまたは炭化水素燃料のいずれかを燃料とすることができる。
【0059】
任意の天然ガス燃料エンジンが企図される。例示的な天然ガス燃料エンジンとしては、大型輸送エンジン、例えばトラック輸送業、鉱業、海運業、および鉄道業で使用されるエンジンが挙げられる。追加の例示的な天然ガス燃料エンジンとしては、定置型サービスエンジン、例えば天然ガス圧縮機、ガスタービン、および発電所サービスエンジンが挙げられる。天然ガス燃料エンジンは、燃料リーン燃焼モードまたは燃料リッチ燃焼モードで作動することができる。燃料リーン燃焼モードは、過剰な空気、すなわち酸素と共に燃料が燃焼されるエンジン運転を指す。例えば、燃料リーン燃焼モードでは、酸素分子およびメタン分子は、最大100:1の酸素分子対メタン分子のモル比(O2:CH4比とも称する)で天然ガス燃料エンジンに提供することができる。本明細書で使用する場合、燃料リッチ燃焼モードは、約2の酸素分子の炭化水素分子に対する化学量論比、すなわちO2:CH4比を維持することを意味する。好ましくは、天然ガス燃料エンジンは燃料リーン燃焼モードで作動される。天然ガス燃料エンジンを燃料リーンモードで作動させることによって、排気ガス中のメタンを酸化するために必要とされる酸素の少なくとも一部、好ましくは全部が、排気ガスの一部として提供される。
【0060】
本発明によるメタンを酸化する方法は、10000体積ppm(ppmv)以下、好ましくは25ppmv~10000ppmv、より好ましくは50~5000ppmv、さらにより好ましくは100~3000ppmvの範囲のメタン濃度を含有する排気ガスで使用することができる。
【0061】
メタンおよび酸素は、好ましくは少なくとも2:1、より好ましくは少なくとも10:1、さらにより好ましくは少なくとも30:1、なおさらにより好ましくは少なくとも50:1、その上より好ましくは少なくとも100:1のO2:CH4比でメタン酸化触媒と接触する。メタンおよび酸素は、好ましくは2:1~200:1、より好ましくは10:1~200:1、さらにより好ましくは30:1~200:1、なおさらにより好ましくは50:1~200:1、その上より好ましくは100:1~200:1の範囲のO2:CH4比でメタン酸化触媒と接触する。
【0062】
メタンおよび酸素は、好ましくは120~650℃、より好ましくは250~650℃、さらにより好ましくは300~600℃の範囲の温度でメタン酸化触媒と接触する。
【0063】
メタンを酸化するために使用される酸素は、メタンを含むガス流の一部として、例えば排気ガスの一部として提供することができ、かつ/または外部ソースから、例えば空気、酸素富化空気、純酸素、もしくは酸素と1つ以上の他のガス、好ましくは不活性なガスとの混合物から提供することができる。任意選択的に、酸素の一部または全部が排気ガス以外のソースから提供される場合、酸素をメタンと接触させる前に、酸素を予熱することが有利であり得る。
【0064】
メタンを含むガス流は、0~20体積%の範囲、好ましくは8~15体積%の範囲の水をさらに含み得る。
【0065】
メタンを含むガス流は、0~50体積ppmのSO2、好ましくは0~30体積ppmのSO2をさらに含み得る。硫黄は、貴金属触媒を失活させるその能力で当業者に知られている。したがって、硫黄由来の触媒の失活を低減するために、本発明による方法は、メタンを含むガス流を、メタン酸化触媒に接触させる前に、SO2吸収剤と接触させて、メタンを含むガス流からSO2の少なくとも一部を除去することを含むことができる。
【0066】
特定の用途では、メタンを含む流体をメタン酸化触媒に接触させるステップは、10,000~120,000hr-1の範囲、好ましくは20,000~100,000hr-1の範囲のストリームガス空間速度(GHSV,stream gas hourly space velocity)において起こる。
【0067】
特定の用途では、メタンを酸化する方法は、排気ガス内のメタンの少なくとも50体積%が、450℃以下、好ましくは405℃以下、より好ましくは400℃以下、なおより好ましくは395℃以下、さらになおより好ましくは390℃以下の温度で酸化される結果をもたらす。
【実施例】
【0068】
以下の実施例は、本発明を例示するものであるが、本発明の範囲を限定することを意図していない。
【0069】
以下の試験手順を使用した。
試験手順
触媒性能評価試験
ステンレス鋼製の48個の固定床反応器(各反応器は1mLの全容積を有する)を有する完全自動化された並列高ハイスループット触媒試験リグ内で触媒のメタン酸化活性測定を行った。余剰酸素(燃料リーン)で作動される天然ガス燃料エンジンのものに似たシミュレートされた排気ガス組成および運転条件を使用して触媒を試験した。試験に使用した条件を表1に示す。
【表1】
【0070】
315~500μmの粒径を有する触媒のふるい分け画分を、触媒性能試験に使用した。反応器の充填については、所望の触媒質量を、同じ粒径画分の不活性材料(鋼玉)により希釈して1mLの全反応器容積にした。これは、1リットルの触媒体積(モノリス担体を含む)あたり200gのメタン酸化触媒ウォッシュコートの堆積を有するモノリス担体上に設けられるメタン酸化触媒を模擬するために行った。
【0071】
T50(CH4)値(>100時間の流体上時間後の50体積%のCH4変換のための温度要件)を、メタン酸化活性の評価のための基準として使用した。メタン酸化活性の比較を、全ての触媒について等しい貴金属充填レベル(4重量%)で行った。これらの試験中のCO変換は、表1に記載の温度範囲では全ての試験された触媒材料について100%であると判定された。
【0072】
正方晶および単斜晶ZrO2の結晶相組成の定量的分析
Bruker D8 Advance X線回折システム(Diffrac.EVAソフトウェア、ブラッグ-ブレンターノ型ジオメトリ、高分解能LYNXEYE XE検出器、5°~140°の2θ範囲のCuKα線(λ=1.5406Å)、1°ステップ、走査速度0.02°/秒、角度計半径28cm、Niフィルター、印加電力40kV/40mA)上でジルコニア系触媒材料の粉末XRD結晶相分析を行った。
【0073】
Bruker社から入手可能なTOPASソフトウェアパッケージ(バージョン4.2)を使用して試料の回折パターンについて定量的相分析を行った。ピーク同定のために基準物質を使用した[正方晶ジルコニア(00-050-1089)/単斜晶ジルコニア(00-037-1484)/酸化パラジウム(00-041-1107)]。これらの基準物質データはTOPASソフトウェアパッケージで利用可能である。ソフトウェア支援Rietveld解析を使用して定量的相分析を行った。その解析は、測定された粉末回折パターンに対する理論的な粉末回折パターンの最小2乗フィッティングによって行った。そのフィッティングは、格子定数および結晶子径をオープンパラメータとして有しながら、Chebychev多項式フィッティングおよびPearsonVIIプロファイルフィッティングの関数を含んでいた。各フィッティングされた粉末回折パターンについて、正方晶ジルコニア、単斜晶ジルコニア、および酸化パラジウムの存在を検証した。定量化法は、正方晶ジルコニア相の含有量を単斜晶ジルコニア相の含有量により除算することによって、相の重量比を計算するために使用される相の含有重量をもたらした。あるいは、正方晶ジルコニア相の単斜晶ジルコニア相に対する比率は、正方晶ジルコニア相に特有の2θ=30.1°における信号強度と単斜晶ジルコニア相に特有の2θ=28.1°における信号強度との比率として判定することができた。
【0074】
試料および試料の調製
本発明を裏付けるメタン酸化触媒のいくつかの試料を調製した。
【0075】
試料1(非晶質水酸化ジルコニウムの焼成により調製されたt-ZrO2)
平均粒径5.5μm、600℃の空気中で判定された33.2重量%の点火損失(LOI)、および非晶質結晶相構造を有する10gの水酸化ジルコニウム粉末を、空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して850℃の温度に焼成し、この温度で12時間保持した。
【0076】
試料1A(tm-ZrO2)
tm-ZrO2の調製のために、2.5gの量の試料1を、液圧プレス(Maassen MP250、内径13mm)に入れ、10tで30秒間プレスすることによるメカノケミカル処理にかけた。得られたタブレットを破砕し、ふるい分けして、315~500μmの範囲の粒径を有するtm-ZrO2粒子の画分を得た。
【0077】
試料1B(Pd/tm-ZrO2触媒)
Pd/tm-ZrO2触媒の調製のために、ジルコニアの細孔容積に合致するように、含浸前に、0.287mLの脱イオン(さらにDIと称する)水で希釈された0.213mLのHNO3含有Pd(NO3)2水溶液(Pd濃度3.651mol/L)を、2gの量の試料1Aに含浸させた。次いで、その含浸された湿潤な試料を密閉容器内で室温で3時間にわたってエージングし、乾燥炉内で80℃で16時間乾燥させた。その後、そのようにして調製された触媒試料を、炉内に配置し、空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して600℃に焼成し、この温度で12時間保持した。最終Pd/ZrO2触媒のPd含有量は、触媒試料全体に基づき4重量%であると判定された。
【0078】
比較試料4(t-ZrO2)
正方晶ジルコニア粉末(Saint-Gobain、ID#SZ61152、直径3mm、ロット#2005820395)を破砕し、ふるい分けして、315~500μmの範囲の粒径を有する画分を得た。次いで、得られた粉末を空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して650℃に焼成し、この温度で12時間保持した。
【0079】
比較試料4A(Pd/t-ZrO2触媒)
含浸前に、0.636mLのDI水で希釈された1.164mLのHNO3含有Pd(NO3)2水溶液(Pd濃度1mol/L)を含浸させた試料4の3gのジルコニアを使用してメタン酸化触媒を調製した。その含浸試料を、密閉容器内で室温で3時間エージングし、80℃で乾燥炉内で16時間乾燥させた。その後、その触媒試料を炉内に配置し、空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して600℃に焼成し、この温度で12時間保持した。最終触媒試料のPd含有量は、触媒試料全体に基づき4重量%であると判定された。
【0080】
比較試料5(m-ZrO2)
単斜晶ジルコニア粉末(Saint-Gobain、ID#SZ31164、直径3.175mm、ロット#SN2004910029)を破砕し、ふるい分けして、315~500μmの範囲の粒径を有する画分を得た。得られた粉末を空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して650℃に焼成し、この温度で12時間保持した。
【0081】
比較例5A(Pd/m-ZrO2触媒)
3gの量の比較試料5に、含浸前に、1.238mLのDI水で希釈された1.162mLのHNO3含有Pd(NO3)2水溶液(Pd濃度1mol/L)を含浸させた。次いで、その含浸試料を、密閉容器内で室温で3時間エージングし、80℃で乾燥炉内で16時間乾燥させた。その後、その触媒試料を炉内に配置し、空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して600℃に焼成し、この温度で12時間保持した。最終触媒試料のPd含有量は、触媒試料全体に基づき4重量%であると判定された。
【0082】
比較試料6(ガンマ-Al2O3)
315~500μmの範囲の粒径を有する画分を得るために、アルミナ押出物試料(Saint-Gobain、ID#SA6175、直径1.59mm、ロット#9608006)を破砕し、ふるい分けした。次いで、得られた粉末を空気中で650℃で12時間焼成した。
【0083】
比較試料6A(Pd/Al2O3触媒)
50gの量の試料6のガンマ-アルミナに、含浸前に、31.22mLのDI水で希釈された18.78mLの水性HNO3含有Pd(NO3)2の溶液(濃度1mol/L)を含浸させた。次いで、その含浸された湿潤な触媒試料を、密閉容器内で室温で3時間エージングし、80℃で乾燥炉内で16時間乾燥させた。その後、その乾燥させた触媒試料を、5℃/分で600℃に加熱し、この温度で12時間保持することによって、空気流中で焼成した。そのようにして得られた先行技術の触媒試料のPd含有量は、触媒試料全体に基づき4重量%であることが判明した。
【0084】
比較試料7(PdPt/ガンマ-Al2O3触媒)
315~500μmの範囲の粒径を有する画分を得るために、アルミナ押出物試料(Saint-Gobain、ID#SA6175、直径1.59mm、ロット#9608006)を破砕し、ふるい分けした。次いで、得られた粉末を空気中で650℃で12時間焼成した。貴金属を含浸させるために、アルミナ画分の3gに、含浸前に、0.62mLのDI水で希釈された0.97mLの水性HNO3含有Pd(NO3)2(濃度1mol/L)と0.22mLの水性HNO3含有Pt(NO3)2(濃度0.5mol/L)とを含有する溶液を含浸させた。その得られた湿潤な触媒試料を、密閉容器内で室温で3時間エージングし、80℃で乾燥炉内で16時間乾燥させた。その後、そ触媒を空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して600℃に焼成し、この温度で12時間保持した。最終触媒の貴金属含有量(PdおよびPt)は、触媒試料全体に基づき4重量%、すなわち3.6重量%のPdと0.4重量%のPtであると判明した。
【0085】
比較試料8(t-ZrO2とm-ZrO2との物理的混合)
正方晶ジルコニア粉末(Saint-Gobain、ID#SZ61152、直径3mm、ロット#2005820395)を破砕し、ふるい分けして、315~500μmの粒径を有する画分を得た。次いで、得られた粉末を空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して650℃に焼成し、この温度で12時間保持して、t-ZrO2に属するXRD反射のみを示すジルコニア(ジルコニア粉末A)を得た。単斜晶ジルコニア粉末(Saint-Gobain、ID#SZ31164、直径3.175mm、ロット#SN2004910029)を破砕し、ふるい分けして、315~500μmの粒径を有する画分を得た。得られた粉末を空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して650℃に焼成し、この温度で12時間保持して、純m-ZrO2に属する粉末XRD反射を呈するジルコニア(ジルコニア粉末B)を得た。両ジルコニア粉末を混合して、正方晶対単斜晶の重量比19:1に相当する95重量%(t-ZrO2、ジルコニア粉末A)と5重量%(m-ZrO2、ジルコニア粉末B)の比率を含有する物理的混合物を調製した。
【0086】
比較試料8A(Pd/物理的混合物t-ZrO2/m-ZrO2触媒)
1.5gの量の比較試料8の物理的に混合されたt-/m-ZrO2粉末に、0.582mLのHNO3含有Pd(NO3)2水溶液(Pd濃度1mol/L)を含浸させた。含浸前に、上記Pd(NO3)2溶液を0.093mLのDI水で希釈した。次いで、その湿潤な触媒試料を、密閉容器内で室温で3時間エージングし、80℃で乾燥炉内で16時間乾燥させた。その後、乾燥させた触媒試料を炉内に配置し、空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して600℃に焼成し、この温度で12時間保持した。最終触媒のPd含有量は、発明触媒試料全体に基づき4重量%であると判定された。
【0087】
比較試料9(t-ZrO2-S)
正方晶の硫黄変性ジルコニア粉末(Saint-Gobain、ID#SZ61192、直径3mm、ロット#2013820069)を破砕し、ふるい分けして、315~500μmの範囲の粒径を有する画分を得た。得られた粉末を空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して650℃に焼成し、この温度で12時間保持した。
【0088】
比較試料9A(Pd/t-ZrO2-S触媒)
3gの量の比較試料9に、含浸前に、0.036mLのDI水で希釈された1.163mLのHNO3含有Pd(NO3)2水溶液(Pd濃度1mol/L)を含浸させた。次いで、その含浸されたt-ZrO2-S試料を、密閉容器内で室温で3時間エージングし、80℃で乾燥炉内で16時間乾燥させた。その後、その触媒試料を炉内に配置し、空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して600℃に焼成し、この温度で12時間保持した。最終PD/t-ZrO2-S触媒試料のPd含有量は、触媒試料全体に基づき4重量%であると判定された。
【0089】
比較試料10(t-ZrO2-W)
正方晶のタングステン変性ジルコニア粉末(Saint-Gobain、ID#SZ61143、直径3mm、ロット#2014820006)を破砕し、ふるい分けして、315~500μmの範囲の粒径を有する画分を得た。得られた粉末を空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して650℃に焼成し、この温度で12時間保持した。
【0090】
比較試料10A(Pd/t-ZrO2-W触媒)
3gの量の比較試料10に、含浸前に、0.560mLのDI水で希釈された0.580mLのHNO3含有Pd(NO3)2水溶液(Pd濃度1mol/L)を含浸させた。次いで、その含浸試料を、密閉容器内で室温で3時間エージングし、80℃で乾燥炉内で16時間乾燥させた。その後、その試料に二度目として、含浸前に、0.560mLのDI水で希釈された0.580mLのHNO3含有Pd(NO3)2水溶液(Pd濃度1mol/L)を含浸させた。次いで、その含浸試料を、密閉容器内で室温で3時間エージングし、80℃で乾燥炉内で16時間乾燥させた。最後に、その触媒試料を炉内に配置し、空気流中で5℃/分の加熱速度を使用して600℃に焼成し、この温度で12時間保持した。最終Pd/t-ZrO2-W触媒試料のPd含有量は、触媒試料全体に基づき4重量%であると判定された。
【0091】
結果
本発明の種々の試料および先行技術の種々の試料についての粉末XRDパターンの分析により、以下の正方晶および単斜晶の結晶相比が判定された(表2参照)。
【表2】
【0092】
表3は、ジルコニア系触媒試料1Bならびに比較触媒試料4Aおよび5AのT
50(CH
4)値を示す。表3に、アルミナベースの比較触媒試料6Aに関するT
50(CH
4)値をさらに示す。
【表3】