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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】光誘発性ウイルス療法の遠隔制御
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/76 20150101AFI20220126BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220126BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220126BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20220126BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220126BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220126BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 7/00 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220126BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220126BHJP
   C12N 15/864 20060101ALN20220126BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20220126BHJP
   C12N 15/861 20060101ALN20220126BHJP
   A61K 9/14 20060101ALN20220126BHJP
【FI】
A61K35/76 ZNA
A61K48/00
A61P35/00
A61K35/761
A61K47/02
A61K45/00
A61K38/16
C12N7/00
C12N7/01
C12N15/12
C12N15/864 100Z
C12N15/867 Z
C12N15/861 Z
A61K9/14
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019523822
(86)(22)【出願日】2017-11-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-06
(86)【国際出願番号】 US2017059882
(87)【国際公開番号】W WO2018085630
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2019-07-08
(31)【優先権主張番号】62/417,946
(32)【優先日】2016-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505008028
【氏名又は名称】中央研究院
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Academia Road,Section 2,Nankang Taipei,Taiwan
(73)【特許権者】
【識別番号】506292158
【氏名又は名称】国立台湾大学
【氏名又は名称原語表記】National Taiwan University
【住所又は居所原語表記】No. 1, Roosevelt Rd. Sec.4, Da‘an District, Taipei,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100111501
【弁理士】
【氏名又は名称】滝澤 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】楊 ▲パン▼池
(72)【発明者】
【氏名】曾 士傑
(72)【発明者】
【氏名】廖 子嫻
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-517448(JP,A)
【文献】特表2013-526616(JP,A)
【文献】特開2009-114066(JP,A)
【文献】国際公開第2005/095621(WO,A1)
【文献】Theranostics,2015年,Vol.5,No.7,p.667-685
【文献】医学のあゆみ,2016年09月,Vol.258,No.11,p.1063-1067
【文献】竹原清人,遺伝学的にコードされた光感受性物質を用いた標的化光線力学ウイルス療法,岡山大学医歯薬学総合研究科病態制御科学専攻 医学博士学位論文,2016年03月,URL:http://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/files/public/5/54260/20160621152646110128/K0005277_abstract_review.pdf[検索日2020.06.22]
【文献】Nano Lett.,2006年,6(4),p.587-591
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 48/00
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性酸化物ナノ粒子と化学的に共役して共有結合を形成したウイルス粒子を含む、磁性ウイルス粒子であって、
光増感剤が前記ウイルス粒子内にカプセル化されており、
前記化学的な共役は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を介した共役であり
前記磁性酸化物ナノ粒子/前記1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)のモル比は、1/1~1/20であり、
前記磁性酸化物ナノ粒子は、酸化鉄ナノ粒子である、前記磁性ウイルス粒子。
【請求項2】
前記磁性ウイルス粒子は、前記磁性酸化物ナノ粒子と化学的に共役して共有結合を形成したウイルス粒子を含む鉄化ウイルス粒子である、請求項1に記載の磁性ウイルス粒子。
【請求項3】
前記磁性酸化物ナノ粒子は、1~100nmの範囲の直径を有する、請求項1または2に記載の磁性ウイルス粒子。
【請求項4】
前記磁性酸化物ナノ粒子は、1~20nmの範囲の直径を有する、請求項3に記載の磁性ウイルス粒子。
【請求項5】
前記ウイルス粒子は、アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子、レンチウイルス粒子、またはアデノウイルス粒子である、請求項1~4のいずれか一項に記載の磁性ウイルス粒子。
【請求項6】
前記ウイルス粒子は、AAV粒子であり、AAV血清型1~9のいずれか1つである、請求項5に記載の磁性ウイルス粒子。
【請求項7】
前記光増感剤は、KillerRedタンパク質を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の磁性ウイルス粒子。
【請求項8】
前記KillerRedタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項7に記載の磁性ウイルス粒子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の磁性ウイルス粒子を含む、腫瘍治療用医薬組成物。
【請求項10】
前記腫瘍部位は、肺、腎臓、心臓、脳、膀胱、皮膚、乳房、または腸にある、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)の存在下で磁性酸化物ナノ粒子とウイルス粒子とが化学的に共役して共有結合を形成する工程を含む、磁性ウイルス粒子の製造方法であって、
光増感剤が前記ウイルス粒子内にカプセル化されており、
前記化学的な共役は、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を介した共役であり
前記磁性酸化物ナノ粒子/前記1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)のモル比は、1/1~1/20であり、
前記磁性酸化物ナノ粒子は、酸化鉄ナノ粒子であ
前記共役が
(i)1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)の存在下で、磁性酸化物ナノ粒子をカルボン酸と混合して、混合物を形成する工程、
(ii)N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)を混合物に入れて、アミン反応性NHSエステルで修飾された磁性酸化物ナノ粒子を形成する工程、および
(iii)修飾された磁性酸化物ナノ粒子をウイルス粒子と共にインキュベートして、磁性ウイルス粒子を形成する工程、
を含む、前記磁性ウイルス粒子の製造方法。
【請求項12】
前記光増感剤は、KillerRedタンパク質を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記KillerRedタンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年11月4日に出願された米国仮特許出願第62/417,946号の出願日の権益を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
癌の革新的な治療法において、ウイルス療法は有望な癌治療薬の一種であり、現在、臨床試験ではいくつかの科からのウイルスが評価されている(Bellら、Cell Host Microbe,2014;Russellら、Nat.Biotechnol.,2012;Miestら、Nat.Rev.Microbiol.,2014)。ウイルス療法のほとんどの臨床試験では、患者は腫瘍内注射によってウイルス療法が行われる(Miestら、Nat.Rev.Microbiol.,2014)。癌治療において、ウイルスの全身性送達の増強は、依然として効果的なウイルス療法の障害である(Ledford,Nature,2015;Bellら、Cell Host Microbe,2014;Russellら、Nat.Biotechnol,2012;Miestら、Nat.Rev.Microbiol.,2014;Kottermanら、Nat.Rev.Genet,2014)。効果的で正確な全身性送達を達成することは、ウイルス療法の機会を大幅に拡大する。
【0003】
アデノ随伴ウイルス(AAV)を介した遺伝子送達に係る臨床試験は、多数の単遺伝子性疾患の治療(Kottermanら、Nat.Rev.Genet,2014;Naldini,Nature,2015)および組織工学の開発(Yooら、Adv.Healthc.Mater.,2016)を成功させた。指向性局在化は、治療量を減少させるので、変異誘発をもたらすAAV指向性免疫応答、異所性発現および癌遺伝子活性化の危険性を低下させる。また、AAVキャプシドの工学(Lisowskiら、Nature、2014)およびAAVゲノムからのCpGモチーフの排除(Faustら、J.Clin.Invest、2013)に対する改良されたアプローチは、ヒトのAAVへの自然曝露から生じる中和抗体との結合を回避することを可能にすることにより、AAVの免疫原性を低減する。興味のあることに、AAVキャプシドは、核局在化配列でタグ付けされた光スイッチ可能タンパク質に結合した光依存性因子モチーフを発現するように設計されており、光に曝されると、遺伝子送達効率が有意な向上を示す(Gomezら、ACS Nano.,2016)。しかしながら、適切な投与量で遺伝物質を正確かつ特異的に送達することは、大きな課題となっている。ウイルスが全身投与された際、肝臓は、しばしばデフォルトの目的地となり(Kottermanら、Nat.Rev.Genet,2014)、他の臓器/組織が意図された標的である場合では、障壁となる。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、少なくとも部分的には、磁性ウイルス粒子、例えば、磁場が印加される部位にうまく局在化された、光増感剤タンパク質(例えば、KillerRedタンパク質)を担持する鉄化ウイルス粒子の開発に基づいている。そのような鉄化されたAAV2粒子は、光誘発ウイルス療法に使用される場合、腫瘍増殖をうまく減少させる。
【0005】
ゆえに、本開示の一つの態様は、磁性酸化物ナノ粒子(例えば、酸化鉄ナノ粒子)に共役されたウイルス粒子を含む磁性ウイルス粒子(例えば、鉄化ウイルス粒子)を特徴とする。磁性酸化物粒子は、1~100nmの範囲の直径を有することができる。いくつかの例では、磁性酸化物粒子は、5nmの平均直径を有することができる。いくつかの実施形態では、ウイルス粒子は、アデノ随伴ウイルス(AAV)粒子、例えば、血清型1~9(例えば、AAV2)粒子のいずれか1つ、レンチウイルス粒子、またはアデノウイルス粒子である。いくつかの実施形態では、本明細書に記載の磁性ウイルス粒子のいずれも、配列番号1のアミノ酸配列を含み得るKillerRedタンパク質のような光増感剤タンパク質を担持することができる。
【0006】
別の態様では、本開示は、(i)本明細書に記載のKillerRedタンパク質のような光増感剤を担持する磁性ウイルス粒子(光増感剤を含む)を、有効量で、必要とする対象に投与する工程、(ii)対象の腫瘍部位に磁場を印加することにより、腫瘍部位への磁性ウイルス粒子の局在化を誘導する工程、および(iii)工程(ii)の後に、対象の腫瘍部位に光照射を行う工程を含む、腫瘍の治療方法を提供する。いくつかの実施形態において、工程(iii)は、540~580nm(例えば、561nm)の波長で行われる。あるいは、さらに、腫瘍部位は、肺、腎臓、心臓、膀胱、皮膚、乳房、または腸にある。
【0007】
さらに別の態様では、本開示は、1つ以上の架橋剤の存在下で磁性酸化物ナノ粒子(例えば、酸化鉄ナノ粒子)をウイルス粒子に化学的に共役させる工程を含む、本明細書に記載の鉄化ウイルス粒子のような磁性ウイルス粒子の製造方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記化学的共役は、エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)を介した共役に関与する。
【0008】
いくつかの例では、本明細書に記載の製造方法は、(i)カルボキシル活性化剤の存在下で、酸化鉄ナノ粒子のような磁性酸化物ナノ粒子をカルボン酸と混合して、混合物を形成する工程、(ii)カルボキシル基をアミン反応性NHSエステルに変換させることができる試薬を混合物に入れて、アミン反応性NHSエステルで修飾された磁性酸化物ナノ粒子を形成する工程、および(iii)修飾された磁性酸化物ナノ粒子をウイルス粒子と共にインキュベートして、磁性ウイルス粒子を形成する工程を含む。前記カルボキシル活性化剤は、カルボジイミド化合物、例えば、EDCであってもよい。あるいは、さらに、工程(ii)における試薬は、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)である。
【0009】
また、(i)本明細書に記載の磁性ウイルス粒子のいずれか1つと薬学的に許容可能な担体とを含む、腫瘍治療用の医薬組成物、(ii)腫瘍治療用の医薬を製造するための磁性ウイルス粒子の使用は、本開示の範囲内にある。
【0010】
本発明の1つまたは複数の実施形態の詳細は、以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴または利点は、以下の図面およびいくつかの実施形態の詳細な説明から、そして添付の特許請求の範囲からも明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A-F】図1は遠隔制御の「鉄化」ウイルスを示す図である。図1A:マイクロウイルス療法のための単一尾静脈注射による遠隔指向の鉄化ウイルスの概念である。鉄化AAV2は、磁場強制送達で指向されると、標的腫瘍部位に急速に蓄積する。ここで、KillerRedは、AAV2-KillerRedで感染された腫瘍細胞によって発現される。光は、ウイルス療法を作動させる。KillerRedタンパク質の照射は、ROSとそれに続く細胞内損傷を引き起こして、細胞死を促進する。図1B:EDC/Sulfo-NHSに関与する二段階共役プロセスを使用して、鉄化AAV2を酸化鉄ナノ粒子と共役させるための例示的なプロセスの概略図である。写真は、鉄化AAV2の透明黄色溶液を示す。図1C:カルボン酸を含む酸化鉄ナノ粒子のTEM画像である。スケール=50nm。図1D:ナノ粒子/EDCのモル比(1/20)で調製された鉄化AAV2のTEM画像は、ウイルスと結合した酸化鉄ナノ粒子を示す。スケール=200nm。図1E:フローサイトメトリーにより、ナノ粒子/EDCの様々なモル比についての鉄化AAV2による形質導入6日間後のGFP発現細胞の割合を分析する(#,P>0.25;##,P<0.005;不等分散を仮定した両側t検定に基づく)。データは、6回行った測定の平均値±標準偏差を示す。図1F:ナノ粒子/EDCの様々なモル比において、HEK293細胞を鉄化AAV2へ曝露した後の生存率である。細胞生存率は、非曝露細胞と比較して、処理24時間後に残存する生存細胞の割合として得られる。細胞数は、標準MTSアッセイにより決定される(*,P>0.2;**,P>0.5;不等分散を仮定した両側t検定に基づく)。データは、6回行った測定の平均値±標準偏差を示す。
図2A-E】図2は、マイクロトランスダクションのための遠隔制御「鉄化」ウイルスを示す写真および図を含む。図2A:抗AAV2抗体およびAlexa Fluor(商標)488に共役された二次抗体を用いて免疫染色し、磁場曝露期間(5、10、または30分間)にわたるAAV2分布の代表的な共焦点画像である。図2B:30分間磁化した未修飾AAV2を対照として使用した。スケール=1000μm。30分間磁場曝露(直径:1,500μm)でインキュベートし、その後6日間形質導入した、鉄化AAV2(図2Cおよび図2D)またはAAV2(図2E)で感染したGFP発現細胞の蛍光強度のプロファイル曲線である。鉄化AAV2またはAAV2で感染したGFP陽性細胞を示す画像を共焦点顕微鏡で観察した。画像からの全ての蛍光強度を共焦点顕微鏡で分析した。細胞をDAPIで染色して、細胞核を標識した(赤色蛍光を選択するように調整した)。データは、6回行った測定の平均値を示す。スケール=1000μm。
図3A-D】図3は、インビトロでの光誘発ウイルス療法を示す写真および図を含む。図3A:pAAV-KillerRedの配列図である。AAV2-KillerRedは、pAAV-KillerRedの発現プラスミドおよびパッケージングプラスミド(pHelperおよびpAAV-RC2)によって産生された。図3B図3D:KillerRedタンパク質を照射した後、鉄化AAV2(図3Bおよび図3C)またはAAV2(図3D)で感染した細胞の死滅および核分布の蛍光強度のプロファイルである。細胞は、照射前に、鉄化AAV2またはAAV2で6日間処理し、磁場(直径:1500μm)で30分間インキュベートした。20分間照射した後、Live/Dead(商標)で固定可能な遠赤死亡細胞染色キット(Fixable Far Red Dead Cell Stain Kit)を用いて、感染された細胞を観察した。図3B図3Dの右:代表的な共焦点画像は、赤色蛍光(細胞死)を示す。さらに、処理された細胞をDAPIで染色して細胞核を示し、共焦点画像を赤色蛍光と併合した。画像からの全ての蛍光強度を共焦点顕微鏡により分析した。データは、6回行った測定の平均値を示す。スケール=1000μm。
図4A-J】図4は、インビボでの全身遠隔制御ウイルス療法を示す図および写真を含む。図4A:遠隔制御送達を評価する治療プロトコルであり、様々な条件での光誘発性ウイルス療法である。図4B:磁化(M)および/または光照射(L)下で、尾静脈注射による様々なウイルス処理されたEGFR-TKI耐性HI975(EGFRL858R/T790M)異種移植片腫瘍の腫瘍増殖である。腫瘍サイズは、記載された日に、キャリパーによって測定された(*,P<0.015;**,P<0.001;不等分散を仮定した両側t検定に基づく)。データは、6回行った測定の平均値±標準誤差を示す。図4C図4F:15日目において、様々な処置後、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)(図4C)、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニックエンドラベリング(TUNEL)アッセイ(図4D)、DAPI(図4E)、およびプルシアンブルー(図4F)で染色した、それぞれのグループのマウス(n=6)からの腫瘍切片の代表的な画像である。スケール=500μm。図4G:0日目、2日目、7日目、および14日目において、鉄化AAV2-KillerRedを胸腺欠損BALB/cヌードマウスに投与した後、血液から得られた血清の中で、グルタミン酸-オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)、グルタミン酸-ピルビン酸(GPT)、総ビリルビン(TBIL)、およびクレアチニン(CRE)のレベルの生化学的分析を行った。データは、3回行った測定の平均値±標準偏差を示す。図4H:様々な処置をした後のマウスの体重である。MまたはLへの曝露の有無での尾静脈注射による様々な製剤の処置に応答して、記載された日に、マウスの体重を測定した。データは、6回行った測定の平均値±標準偏差を示す。図4I:検出シグナルとしてAAV2コードルシフェラーゼを使用し、様々な製剤の尾静脈注射後、14日目に、マウスの代表的なIVIS画像を撮影した。図4J:静脈内注射で様々な治療を受けたマウスからの器官の代表的なIVIS画像である。
図5図5は、磁場下での局所化ウイルス形質導入を示す写真を含む。図5A図5B:共焦点顕微鏡によって観察された、鉄化AAV2(図5A)またはAAV2(図5B)で感染したKillerRed陽性細胞を示す画像である。細胞はDAPIで染色して細胞核を標識した(青色蛍光)。スケール=1000μm。
図6図6は、様々な処置後のマウスの腫瘍増殖を示す写真を含む。様々な処置後、15日目に、H1975腫瘍が切除されたH1975異種移植片腫瘍の代表的な写真である。スケール=1cm。
図7図7は、生物発光活性化レベルのインビボモニタリングを示す写真である。様々な製剤を尾静脈注射した後、検出シグナルとしてAAV2-ルシフェラーゼを用いて、7日目に、マウスの代表的なIVIS画像を撮影した。
図8図8は、ゲル電気泳動およびpAAV-KillerRedの構築を示す写真を含む。プラスミドpAAV-KillerRedは、pKillerRed-dMitoおよびpAAV-MCSから構築された。KillerRedフラグメント(0.71kb)は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)および方法の節に記載されているプライマーの配列を使用することによって、KillerRed配列のEcoRIおよびSalI部位に付加した。
図9図9は、鉄化AAV2混合溶液の例示的な精製および溶媒交換プロセスを示す概略図である。鉄化AAV2の合成は、図1Bにおける化学的共役に従って調製した。共役反応の後、PBS溶液に溶媒交換されたサイズ脱塩カラム(分子量カットオフ:100K)により、鉄化AAV2の黄色混合溶液を精製した。
図10図10は、相対ウイルス力価の決定を示す図を含む。AAV-KillerRed DNAの検出は、方法の節に記載されているプライマーの配列を用いて逆転写PCR(RT-PCR)により決定した。様々な数のゲノムコピー(GC)でのAAV2-KillerRedのRT-PCR産物を、アガロースゲル電気泳動によって分析した(図の上半部)。得られた断片は、予想サイズの539bpと一致した。標準曲線は、AAV-KillerRedのGC番号のデータ点とImage Jソフトウェアによって得られたそれらのバンド強度を表示した(図の下半部)。未知の含有量を有する(図9より)鉄化AAV2-KillerRedのRT-PCRサンプルは、精製および溶媒交換の後に、線形回帰によって定量的に校正した。ラダー:分子サイズマーカー、NTC:テンプレート制御なし。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書に係る磁性(例えば、鉄化)ウイルス粒子、例えば、AAV2ウイルス粒子は、磁場が印加される部位にうまく戻ることが示される。このような磁性ウイルス粒子は、KillerRedのような光増感剤タンパク質を担持し、磁場の誘導を介して腫瘍部位に帰着するとき、腫瘍に対して光誘発毒性を示す。
【0013】
磁性ウイルス粒子およびその製造方法
本明細書に記載の磁性ウイルス粒子は、酸化鉄ナノ粒子のような磁性粒子に付着した任意のウイルス粒子であってもよい。いくつかの場合において、ウイルス粒子は、ウイルス遺伝物質(例えば、ウイルスの種類に応じるDNAまたはRNA)を封入したウイルスタンパク質を含有してもよく、これは、ウイルス粒子の集合を容易にすることができる。当該ウイルス遺伝物質としては、野生型対応物に比べて、本明細書に記載の方法に使用されるウイルス粒子が自己複製することができないような、欠陥があるものであることが好ましい。さらに、当該ウイルス粒子は、天然の宿主細胞に感染することができないように修飾されてもよく、例えば、細胞受容体との相互作用に関与するウイルスタンパク質に欠陥がある。あるいは、本明細書に記載のウイルス粒子は、ウイルス遺伝物質を含まない。このようなウイルス粒子は、ウイルス様粒子(VLP)としても知られており、当技術分野において公知の方法によって調製することができる。当該ウイルス粒子は、適切なウイルス起源に由来することができる。いくつかの実施形態において、ウイルス粒子は、レンチウイルス、アデノウイルス、またはアデノ随伴ウイルスに由来する。
【0014】
酸化鉄ナノ粒子のような磁性酸化物ナノ粒子は、磁性酸化物粒子(例えば、酸化鉄粒子)である。本明細書で使用される「ナノ粒子」という用語は、例を挙げると、100nm以下の粒径のものを指し、例えば、約0.5nm~約100nm、約1nm~約50nm、約1nm~約25nm、または約1nm~約10nmである範囲が挙げられる。粒径は、金属粒子の平均直径を指し、TEM(透過型電子顕微鏡)のような従来の方法によって決定することができる。一般的に、本明細書に記載の方法から得られた金属ナノ粒子には、複数の粒径が存在することができる。いくつかの実施形態において、異なるサイズの金属含有ナノ粒子の存在は許容可能である。
【0015】
本明細書に記載の酸化鉄ナノ粒子のような磁性酸化物ナノ粒子は、1~100nmの範囲の直径を有することができる。いくつかの場合において、当該酸化鉄ナノ粒子は、マグネタイト(Fe34)またはその酸化形態であり得る。酸化フェライト(マグネタイト)は、天然産の鉱物であり、MRI、磁気分離、磁性薬物送達のような多様な生物学的用途に超常磁性ナノ粒子の形で広く使用されている(Modyら、Applied Nano science,2014,4(4):pp385~392)。本開示で使用される酸化鉄ナノ粒子は、1~80nmの範囲の直径を有することができ、例えば、1~60nm、1~50nm、1~40nm、1~30nm、1~20nm、1~10nm、3~10nmまたは5~10nmである。特定の一例では、本開示で使用される酸化鉄ナノ粒子は、20nm、15nm、10nm、5nm、または2nmの平均直径を有する。いくつかの実施形態において、全体における酸化鉄ナノ粒子の直径は、平均直径の50%以内(例えば、40%、30%、20%、または10%)の変動がある。
【0016】
本明細書に記載の磁性ウイルス粒子は、1つ以上の架橋剤を用いて、磁性酸化物ナノ粒子をウイルス粒子(例えば、ウイルスタンパク質またはウイルス核酸)に共役させる任意の従来の方法を使用することにより、製造することができる。タンパク質、核酸および薬物は、当技術分野で公知のいくつかの手順に従ってナノ粒子に共役することができ、例えば、1層ずつ、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドを使用するか、または、1-エチル-3-[3-ジメチルアミノプロピル]カルボジイミドとポリエチレンイミンを使用する。図1Bは、鉄化AAV2ウイルス粒子を製造するためのフローチャートの例示的説明図を提供する。この例示的なプロセスでは、酸化鉄ナノ粒子のような磁性酸化物ナノ粒子は、カルボキシル活性化剤(例えば、EDC)の存在下で、適切な条件により、適切な期間にわたって、カルボン酸とインキュベートすることができる。カルボキシル基をアミン反応性NHSエステルに変換することができる試薬、例えば、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)を反応混合物に添加し、適切な条件下で適切な時間でインキュベートし、アミノ反応性NHSエステルで修飾された磁性酸化物ナノ粒子を形成することができ、当該磁性酸化物ナノ粒子は、ウイルスタンパク質の所定のアミノ酸側鎖と反応して共有結合を形成する。次いで、修飾された磁性酸化物ナノ粒子は、適切な溶液(例えば、PBS)の中で、組換えウイルス粒子と混合され、例えば、磁性酸化物ナノ粒子が化学的共役を介してウイルス粒子に共役される。
【0017】
本明細書に記載の磁性ウイルス粒子は、従来の方法によってウイルス粒子でカプセル化することが可能な治療薬を担持することができる。いくつかの例では、治療薬は光増感剤であり、当該光増感剤は、光化学的プロセス、例えば、光を照射することにより、細胞毒性剤に変換することができる分子である。光増感剤は、光線力学療法に使用されることにより、様々な疾患、例えば、癌を治療することができる。
【0018】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の磁性ウイルス粒子は、光毒性蛍光タンパク質のようなタンパク質系光増感剤(光増感剤タンパク質)を担持する。例としては、KillerRedタンパク質(例えば、Fransenら、Methods Mol.Biol.,1595:165~179;2017を参照)、KillerOrangeタンパク質(例えば、Sarkisyanら、Plos One,10(12):e0145287;2015を参照)、またはSupernovaタンパク質(例えば、Takemotoら、Sci.Rep.3:2629;2013を参照)を含む。以下、例示的なKillerRedタンパク質のアミノ酸配列を提供する。
MGSEGGPALFQSDMTFKIFIDGEVNGQKFTIVADGSSKFPHGDFNVHAVCETGKLPMSWKPICHLIQYGEPFFARYPDGISHFAQECFPEGLSIDRTVRFENDGTMTSHHTYELDDTCVVSRITVNCDGFQPDGPIMRDQLVDILPNETHMFPHGPNAVRQLAFIGFTTADGGLMMGHFDSKMTFNGSRAIEIPGPHFVTIITKQMRDTSDKRDHVCQREVAYAHSVPRITSAIGSDED
(配列番号1)
【0019】
光を照射すると、KillerRedタンパク質は活性酸素種(ROS)を生成することができ、これは癌細胞のような疾患細胞を殺すために使用できる。KillerRedタンパク質の光毒性は、540~580nmでの緑色光照射によって誘発され、通常の方法で決定可能な光強度照射時間とタンパク質濃度に依存する。
【0020】
本開示に使用されるKillerRedタンパク質は、配列番号1に対して少なくとも75%(例えば、80%、85%、90%、95%、98%、または99%)の配列同一性を有することができ、また、光毒性活性が保存する。2つのアミノ酸配列の「同一性百分率」は、Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264-68,1990のアルゴリズムを用いて決定され、Karlin and Altschul Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873-77,1993のように修飾される。このようなアルゴリズムは、NBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403-10,1990)。本発明のタンパク質分子と一致するアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて、BLASTタンパク質検索を実施することができる。2つの配列の間にギャップが存在する場合は、Altschulら、Nucleic Acids Res.25(17):3389-3402,1997に記載されているように、Gapped BLASTを使用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用するとき、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを使用することができる。
【0021】
他の例示的なKillerRedタンパク質および光毒性蛍光タンパク質は、当該分野では公知であり、また、それらのアミノ酸配列は、公共の遺伝子データベース、例えば、GenBankから、配列番号1をクエリとして用いることにより得ることができる。例としては、GenBank登録番号AAY40168、3A8S_A、2WIQ_A、BAN81984、3GB3_A、4B30_Bおよび4B30_Aに記載されているものが挙げられるが、これらに限定されない。例示的なKillerOrangeタンパク質は、登録番号AQY79141、4ZFS_Aおよび4ZBL_Aで、GenBankに見出すことができる。例示的なSupernovaタンパク質は、登録番号3WCK_AでGenBankに提供されている。
【0022】
本明細書に記載の磁性ウイルス粒子のいずれかは、薬学的に許容可能な担体(賦形剤)と混合して、本明細書に記載の治療方法に使用される医薬組成物を形成することができる。「許容可能な」とは、担体が、組成物の活性成分と相溶性があり(好ましくは、活性成分を安定化させることができる)、また治療されるべき対象には有害であってはならないことを意味する。薬学的に許容可能な賦形剤(担体)は、当技術分野において周知である緩衝剤を含む(Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.(2000)Lippincott Williams and Wilkins,Ed.K.E.Hooverを参照)。薬学的に許容可能な担体の非限定的な例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、食塩水、シロップ、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリアクリル酸、滑沢剤(例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱油)、湿潤剤、乳化剤、懸濁剤、保存料(例えば、メチル-、エチル-、プロピル-ヒドロキシ- ベンゾエート)、pH調整剤(例えば、無機および有機の酸、ならびに塩基)、甘味剤、ならびに香味剤が挙げられる。
【0023】
本方法に使用される医薬組成物は、凍結乾燥製剤または水溶液タイプの薬学的に許容可能な担体、賦形剤、または安定化剤を含むことができる(Remington:The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.(2000)Lippincott Williams and Wilkins,Ed.K.E.Hoover)。許容可能な担体、賦形剤、または安定化剤は、使用される投与量および濃度では受試者に無毒であり、例えば、リン酸塩、クエン酸塩および他の有機酸のような緩衝剤;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(例えば、塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメトニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンのようなアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンのようなタンパク質;ポリビニルピロリドンのような親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、またはリジンのようなアミノ酸;グルコース、マンノース、またはデキストランを含む単糖類、二糖類、および他の炭水化物;EDTAのようなキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールのような糖類;ナトリウムのような塩形成対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);及び/またはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)のような非イオン性界面活性剤を含むことができる。
【0024】
インビボ投与に使用される医薬組成物は、無菌でなければならない。これは、例えば、滅菌濾過膜を通して濾過することにより容易に達成される。治療用ウイルス粒子組成物は、通常、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルに入れる。
【0025】
本明細書に記載の医薬組成物は、例えば、カプセル剤、散剤、顆粒剤、液剤もしくは懸濁剤のような単位剤形、または非経口投与用の坐剤であり得る。
【0026】
錠剤のような固体組成物を調製するために、主な活性成分を、薬学的担体、例えば、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトール、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウムまたはガムのような従来の錠剤化成分、および水のような他の医薬希釈剤と混合することにより、本発明の化合物またはその無毒性の薬学的に許容可能な塩の均一混合物を含有する固体予備製剤組成物を形成することができる。これらの予備製剤組成物を均質として言及するとき、活性成分が組成物中に均一に分散されているので、組成物は錠剤、丸剤およびカプセル剤のような同等に有効な単位剤形に容易に細分されることができる。次いで、この固体予備製剤組成物を、0.1~約500mgの本発明の活性成分を含有する上記の種類の単位剤形に細分する。新規組成物の錠剤または丸剤は、コーティングするか、または他の方法で配合することにより、長期作用の利点を提供する剤形を提供することができる。例えば、錠剤または丸剤は、内側剤形および外側剤形の組成成分を含むことができ、後者は前者を覆うエンベロープの形態である。この2つの組成成分は、腸溶層によって分離することができ、当該腸溶層は、胃での崩壊に抵抗し、内部成分が十二指腸に無傷で通過すること、または放出を遅らせることを可能にする。このような腸溶層またはコーティングは、様々な材料を使用することができ、その材料には、多くのポリマー酸、およびポリマー酸とシェラック、セチルアルコールや酢酸セルロースのような材料との混合物が含まれる。
【0027】
適切な界面活性剤としては、特に、ポリオキシエチレンソルビタン(例えば、Tween(商標)20、40、60、80または85)および他のソルビタン(例えば、Span(商標)20、40、60、80または85)のような非イオン性剤が挙げられる。界面活性剤を含む組成物は、便利上では、0.05~5%の界面活性剤を含み、また、0.1~2.5%を含んでもよい。必要に応じて、他の成分、例えば、マンニトールまたは他の薬学的に許容可能なビヒクルを加えてもよいことが理解されよう。
【0028】
適切なエマルジョンは、市販の脂肪エマルジョン、例えば、Intralipid(商標)、Liposyn(商標)、Infonutrol(商標)、Lipofundin▲およびLipiphysan(商標)を使用して調製することができる。活性成分は、予め混合されたエマルジョン組成物に溶解されてもよく、あるいは油(例えば、大豆油、ベニバナ油、綿実油、ゴマ油、コーン油またはアーモンド油)に溶解されてリン脂質(例えば、卵リン脂質、大豆リン脂質または大豆レシチン)および水と混合してエマルジョンを形成してもよい。エマルジョンの張度を調整するために、他の成分、例えば、グリセロールまたはグルコースを添加してもよいことが理解されよう。適切なエマルジョンは、典型的には、20%以下、例えば、5~20%の油を含有する。
【0029】
エマルジョン組成物は、磁性ウイルス粒子を、Intralipid(商用)またはその成分(大豆油、卵リン脂質、グリセロールおよび水)と混合することによって調製することができる。
【0030】
磁性ウイルス粒子を用いた腫瘍の光誘発ウイルス療法
磁性ウイルス粒子は、磁場によって標的化されることができ、または、磁気温熱療法に使用されることができる(Chan(2005); Ito(2005))。1つ以上の光増感剤を担持する任意の磁性ウイルス粒子は、磁場によって所望の部位(例えば、腫瘍部位)に標的化されることができる。光増感剤は、光を照射すると、細胞傷害剤を生成し、それは所望の部位で腫瘍細胞のような罹患細胞を殺すことができる。
【0031】
本明細書に開示の方法を実施するために、有効量の本明細書に記載の医薬組成物を、静脈内投与のような適切な経路、例えば、ボーラスまたは一定期間にわたる持続注入として、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑液内、または髄腔内経路によって、治療を必要とする対象(例えば、ヒト)に投与することができる。液体製剤用の市販のネブライザーは、ジェットネブライザーおよび超音波ネブライザーを含み、投与に有用である。液体製剤は、直接噴霧することができ、凍結乾燥粉末は、再構成後に噴霧することができる。あるいは、本明細書に記載の磁性ウイルス粒子を含有する医薬組成物は、フルオロカーボン製剤および定量吸入器を用いてエアロゾル化するか、または凍結乾燥粉末として吸入することができる。
【0032】
本明細書に記載の方法によって治療される対象は、哺乳動物であってもよく、より好ましくはヒトであり得る。哺乳動物には、家畜、スポーツ動物、ペット、霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、マウスおよびラットが含まれるが、これらに限定されない。治療を必要とするヒト対象は、癌のような標的となる疾患/障害を有するか、有する危険性があるか、または有することが疑われるヒト患者であり得る。標的となる疾患または障害を有する対象は、日常的な健康診断、例えば、実験室検査、臓器機能検査、CTスキャン、または超音波検査によって特定することができる。このような標的となる疾患/障害のいずれかを有することが疑われる対象は、疾患/障害の1つ以上の症状を示すことが可能である。疾患/障害の危険性がある対象は、その疾患/障害の危険因子のうちの1つ以上を有する対象であり得る。
【0033】
本明細書で使用される「有効量」という用語とは、単独または1つ以上の他の活性剤と組み合わせることにより、対象に治療効果を付与するための必要な各活性剤の量をいう。当業者による認識されるように、有効量は、治療される特定の症状、症状の重症度、年齢、体調、体格、性別および体重を含む個々の患者のパラメータ、治療の期間、併用療法の性質(もしあれば)、特定の投与経路、および医療従事者の知識と専門知識に含まれる要因のようなものによって異なる。これらの要因は、当業者にはよく知られており、日常的な実験だけで対処することができる。一般には、個々の成分またはそれらの組み合わせの最大用量、すなわち、正しい医学的判断による最も高い安全用量を使用することが好ましい。
【0034】
半減期のような経験的な考慮事項は、通常、投与量の決定に寄与するであろう。投与頻度は、治療の過程において決定および調整することができ、一般には、標的となる疾患/障害の治療および/または抑制、および/または改善、および/または遅延に基づくが、必ずしもそうとは限らない。
【0035】
一般に、本明細書に記載の磁性ウイルス粒子のいずれかを投与する場合、最初の候補投与量は、磁性ウイルス粒子に含まれる光増感剤が約2mg/kgであり得る。本開示の目的を達成するために、典型的な投与量は、上記の要因によって、約0.1μg/kg~3μg/kg~30μg/kg~300μg/kg~3mg/kg~30mg/kg~100mg以上までの範囲とすることができる。必要に応じて、症状により、磁性ウイルス粒子を繰り返し投与して、所望の症状の抑制が起こるまで、または標的となる疾患もしくは障害もしくはその症状を軽減するのに十分な治療レベルが達成されるまで、治療を続けることができる。一つの例示的な投与計画は、約2mg/kgの初期用量、その後の毎週の約1mg/kgの光増感剤の維持用量、またはその後の隔週の約1mg/kgの維持用量の投与を含む。しかしながら、施術者が達成したい薬物動態学的崩壊のパターンに応じて、他の投与計画も有用であり得る。例えば、毎週に1~4回の投与が考えられる。いくつかの実施形態において、約3μg/mg~約2mg/kgの範囲の投与量(例えば、約3μg/mg、約10μg/mg、約30μg/mg、約100μg/mg、約300μg/mg、約1mg/kgおよび約2mg/kg)を使用することができる。いくつかの実施形態では、投与頻度は、毎週1回、2週間ごとに1回、4週間ごとに1回、5週間ごとに1回、6週間ごとに1回、7週間ごとに1回、8週間ごとに1回、9週間ごとに1回、もしくは10週間ごとに1回であり、または、毎月1回、2ヶ月ごとに1回、もしくは3ヶ月ごとに1回、または、それ以上の期間であり得る。この治療法の進行は、従来の技術および分析により、容易にモニターされる。投与計画(使用される光増感剤を含む)は、経時的に変わり得る。
【0036】
いくつかの実施形態において、正常体重の成人患者に対しては、約0.3~5.00mg/kgの範囲の用量が投与されることができる。いくつかの例では、本明細書に記載の磁性ウイルス粒子における光増感剤(例えば、KillerRed)の投与量は10mg / kgであってもよい。特定の投与計画、すなわち、用量、タイミングおよび繰り返し回数は、特定の個体およびその個体の病歴、ならびに個々の薬剤の特性(例えば、薬剤の半減期、および当分野でよく知られている他の考慮事項)に依存するであろう。
【0037】
本開示の目的のために、本明細書に記載の光増感剤の適切な投与量は、使用される具体的な光増感剤(またはその組成物)、疾患/障害の種類および重症度、以前の治療、患者の病歴および光増感剤に対する反応、ならびに担当医の裁量に依存する。典型的には、臨床医は、所望の結果を達成する投与量に達するまで、光増感剤を含む磁性ウイルス粒子を投与する。いくつかの実施形態において、所望の結果は、血栓症の減少である。投与量が所望の結果をもたらしたか否かを決定する方法は、当業者にとっては明らかである。同じまたは異なる光増感剤を担持する1つまたは複数の磁性ウイルス粒子の投与は、例えば、受験者の生理学的状態および当業者にとって公知の他の要因に応じて、連続的または断続的であることができる。磁性ウイルス粒子の投与は、予め選択された期間、例えば、標的となる疾患または障害の発症前、発症中、発症後のいずれかにおいて、本質的に連続的であってもよく、または一連の間隔をあけた投与量であってもよい。
【0038】
医薬組成物を対象に投与するために、治療の標的となる疾患の種類または疾患の部位に応じて、医学の当業者に知られている従来の方法を使用することができる。この組成物は、他の従来の経路、例えば、経口投与、非経口投与、吸入スプレー投与、局所投与、直腸投与、経鼻投与、口腔投与、経膣投与、または埋め込み型リザーバーを介して投与されることもできる。本明細書で使用される「非経口」という用語は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液内、胸骨内、髄腔内、病巣内および頭蓋内注射または注入技術を含む。さらに、1ヶ月、3ヶ月または6ヶ月でデポー注射可能または生分解可能な材料および方法を使用するような注射可能なデポー投与経路により、対象に投与することができる。いくつかの例では、医薬組成物は眼内または硝子体内に投与される。
【0039】
注射用組成物は、植物油、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、およびポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)のような様々な担体を含むことができる。静脈内注射の場合には、水溶性抗体は点滴法によって投与することができ、それにより、光増感剤および生理学的に許容可能な賦形剤を担持する磁性ウイルス粒子を含有する医薬製剤を注入する。生理学的に許容可能な賦形剤としては、例えば、5%デキストロース、0.9%食塩水、リンゲル液または他の適切な賦形剤を含むことができる。筋肉内製剤、例えば、適切な可溶性塩形態の光増感剤の無菌製剤は、注射用水、0.9%食塩水、または5%グルコース溶液のような医薬賦形剤に溶解して投与することができる。
【0040】
治療を必要とする受験者(例えば、癌患者)に磁性ウイルス粒子を投与した後、その受験者の所望の部位、例えば、腫瘍部位に磁場を印加することにより、磁性ウイルス粒子を所望の部位に引き寄せるができる。磁場を発生させるために使用する例示的な磁石としては、帯電磁石が電気パルスを所望の部位に送達して静止し(非帯電)、治療領域に一定期間固定することにより、連続治療を送達することを含むが、これに限定されない。磁性ウイルス粒子を所望の部位にホーミングすることを可能にするために、適切な期間において磁場を所望の部位に印加することができる。その後、適切な光照射を同じ部位に適用して、磁性ウイルス粒子に含まれる光増感剤を作動させ、細胞毒性分子を放出して罹患細胞(例えば、腫瘍細胞)を死滅させることができる。光照射の適切な波長、強度、および持続時間は、治療に使用される光増感剤(例えば、光毒性蛍光タンパク質)の種類および/または投与量に依存する。一つの例では、KillerRedタンパク質を使用し、緑色光(例えば、540~580nmの波長)を使用して、KillerRedタンパク質の光毒性を誘発することができる。上記のKillerOrangeおよびSupernovaを含む他の光毒性蛍光タンパク質も使用することができる。
【0041】
本明細書に記載の光誘発ウイルス療法は、固形腫瘍のような癌を治療するために適用することができる。本明細書で使用される「治療する」という用語とは、標的となる疾患または障害、疾患/障害の症状、または疾患/障害に対する素因を有する受験者に、1つ以上の活性剤を含む組成物を適用または投与して、障害、疾患の症状、または疾患または障害に対する素因を治療、治癒、緩和、軽減、変更、善後、改善、改進または影響することを目的としたものを意味する。
【0042】
標的となる疾患/障害を緩和することは、疾患の発展もしくは進行を遅延させること、または、疾患の重症度を軽減することを含む。病気を緩和することは、必ずしも治療結果が必要とは限らない。本明細書で使用される「標的となる疾患または障害の発展を『遅延させる』」とは、疾患の進行を延期、妨害、徐行、後回、安定化、および/または遅らせることを意味する。この遅延は、疾患および/または治療されている個体の病歴に応じて、様々な長さの時間であり得る。疾患の発展を「遅延させる」もしくは緩和させるまたは疾患の発症を遅延させる方法は、この方法を使用しない場合と比較して、所定の期間内において疾患の1つ以上の症状を発展する確率および/または所定の期間内において症状の程度を低減させる方法である。このような比較は、通常、統計的に有意な結果を得るのに十分な数の対象を用いた臨床試験に基づいている。
【0043】
疾患の「発展」または「進行」とは、疾患の初期兆候および/またはその後の進行を意味する。疾患の発展は、当技術分野において周知の標準的な臨床技術を使用して、検出および評価することができる。しかし、発展とは、検出できないかもしれない進行をも意味する。本開示の目的のために、発展または進行とは、症状の生物学的過程を意味する。「発展」とは、発生、再発および発症を含む。本明細書で使用される「標的となる疾患または障害の『発症』または『発生』」とは、初期発症および/または再発を含む。
【0044】
光誘発ウイルス療法に使用されるキット
本開示は、癌のような疾患細胞が関与する疾患/障害の治療に使用されるキットをも提供する。このようなキットは、少なくとも1つの光増感剤を担持する本明細書に記載の磁性ウイルス粒子のいずれかを含む、1つ以上の容器を含むことができる。
【0045】
いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載の任意の方法に従って使用される説明書を含むことができる。含まれる説明書は、癌のような標的疾患に対する光誘発ウイルス療法に使用される磁性ウイルス粒子の投与についての説明を含むことができる。キットは、個体が標的疾患を有するか否かを同定することにより、治療に適した個体を選択することについての説明をさらに含むことができる。さらに、他の実施形態では、説明書は、標的疾患の危険性がある個体に磁性ウイルス粒子を投与することについての説明を含む。
【0046】
磁性ウイルス粒子および/またはその中に含まれる光増感剤の使用に関する説明書は、一般に、意図される治療の投与量、投与スケジュール、および投与経路に関する情報を含む。容器は、単位用量、バルクパッケージ(例えば、複数回用量パッケージ)またはサブユニット用量であることができる。本発明のキットで提供される説明書は、典型的には、ラベルまたは添付文書(例えば、キットに含まれる紙のシート)上に書かれた説明書であるが、機械可読の説明書(例えば、磁気または光学記憶ディスク上で記録された指示)も許容可能である。
【0047】
ラベルまたは添付文書は、癌のような標的疾患の治療、発症の遅延および/または緩和のために組成物を使用することを示す。本明細書に記載の方法のいずれかを実施するための説明書を提供することができる。
【0048】
本開示のキットは、適切な包装中にある。適切な包装としては、バイアル、ボトル、ジャー、可撓性包装(例えば、密封マイラーまたはビニール袋)などが挙げられるが、これらに限定されない。また、吸入器、経鼻投与装置(例えば、アトマイザー)のような特定の装置またはミニポンプのような注入装置と組み合わせて使用するパッケージも考えられる。キットは、滅菌アクセスポートを有することができる(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであり得る)。容器は、滅菌アクセスポートを有することができる(例えば、容器は、皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルであり得る)。組成物の中の少なくとも1つの活性剤は、本明細書に記載のような光増感剤を担持する磁性ウイルス粒子である。
【0049】
キットは、緩衝液および解釈情報のような追加の構成要素を選択的に提供してもよい。通常、キットは、容器、および容器上にあるまたは付随するラベルもしくは添付文書を含む。いくつかの実施形態において、本発明は、上記のキットの内容物を含む製品を提供する。
【0050】
一般的な技術
本発明の実施は、他に示さない限り、当該分野の技術の範囲内にある分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技術を使用する。このような技術は、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual, second edition(Sambrookら、1989)Cold Spring Harbor Press、Oligonucleotide Synthesis(M.J.Gait,ed.,1984)、Methods in Molecular Biology,Humana Press; Cell Biology:A Laboratory Notebook(J.E.Cellis,ed.,1998)Academic Press、Animal Cell Culture(R.I.Freshney,ed.,1987)、Introduction to Cell and Tissue Culture(J.P.Mather and P.E.Roberts,1998)Plenum Press、Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures(A.Doyle,J.B.Griffiths,and D.G.Newell,eds.,1993-8)J.Wiley and Sons、Methods in Enzymology(Academic Press,Inc.)、Handbook of Experimental Immunology(D.M.Weir and C.C.Blackwell,eds.)、Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells(J.M.Miller and M.P.Calos,eds.,1987)、Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら、eds.,1987)、PCR: The Polymerase Chain Reaction(Mullisら、eds.,1994)、Current Protocols in Immunology(J.E.Coligan et al.,eds.,1991)、Short Protocols in Molecular Biology(Wiley and Sons,1999)、Immunobiology(C.A.Janeway and P.Travers,1997)、Antibodies(P.Finch,1997)、Antibodies: a practical approach(D.Catty.,ed.,IRL Press,1988-1989); Monoclonal antibodies: a practical approach(P.Shepherd and C.Dean,eds.,Oxford University Press,2000)、 Using antibodies:a laboratory manual(E.Harlow and D.Lane(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1999)、The Antibodies(M.Zanetti and J.D.Capra,eds.,Harwood Academic Publishers,1995)などの文献に十分に説明されている。
【0051】
さらに詳述しなくても、当業者であれば、上記の説明に基づいて本発明を最大限に利用することができると考えられる。したがって、以下の特定の実施例は、単なる例示として解釈されるべきであり、いかなる意味においても本開示の残りの部分を限定するものではない。本明細書で引用された全ての刊行物は、本明細書で参照された目的または主題のために参照により組み込まれる。
【実施例
【0052】
臨床ウイルス療法は、米国食品医薬品局(FDA)により、癌治療への使用が承認されているが、ウイルス療法をより広く開発するために、多くの改善が求められている。特別な挑戦としては、ウイルス療法を全身的に投与し、腫瘍内、特に、敏感な臓器内の複雑な腫瘍に対する注射の制限を克服することである。目的を達成するために、酸化鉄ナノ粒子(~5nm)と化学的に共役された組換えアデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)を構築し、これは磁場下で顕著な遠隔誘導能力を示した。形質導入は、マイクロスケールの精度で行われた。さらに、感光性タンパク質KillerRedを産生するための遺伝子をAAV2ゲノムに導入するころにより、光線力学療法(PDT)または光誘発性のウイルス療法を実現した。インビボ実験は、尾静脈注射された「鉄化」AAV2-KillerRedの磁気誘導がPDTと結合して、アポトーシスにより、腫瘍増殖を有意に減少させることを示した。この原理の証明は、誘導および高度に局所化されたマイクロスケールの光誘発ウイルス療法を実証している。
【0053】
材料および方法
材料と細胞培養
カルボン酸を有する酸化鉄ナノ粒子(ロット番号:051413A、サイズ:5nm、ゼータ電位:-30mV~-50mV)は、Ocean NanoTech(San Diego、CA)から購入した。(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)(EDC)、N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)、および2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝食塩水は、Thermo Scientific Inc.(Rockford、IL)から購入した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)は、Sigma Co.(St.Louis、MO)から購入した。分岐ポリエチレンイミン(PEI、Mw=25,000)は、Aldrich(ミルウォーキー、MI)から購入した。pKillerRed-dMitoのプラスミドDNAは、Evrogen JSC(Moscow、Russia)から購入した。ウイルス(AAV2-ルシフェラーゼ)およびpHelper、pAAV-RC2、pAAV-GFP、およびpAAV-MCSのプラスミドDNAは、Cell Biolabs(San Diego、CA)から購入した。プラスミドpAAV-KillerRedは、以下のようにして構築した。まず、以下のプライマー配列:5'-GGCGAATTCGCCACCATGGGTTCAGAGGGCGGCCCCGCCC-3'(配列番号5)および5'-ACGCGTCGACTTAATCCTCGTCGCTACCGATGGCGCTGGT-3'(配列番号2)を用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用することにより、pKillerRed-dMitoからのKillerRedフラグメントにEcoRIおよびSalI部位を付加した。次いで、PCRで生成したKillerRed cDNA(0.71kb)をpAAV-MCSのEcoRI-Sall部位にクローニングして、pAAV-KillerRedを得た(図3Aおよび図8)。
【0054】
ヒト胚腎臓293(HEK293、CRL-1573、ATCC)および293T(CRL-3216、ATCC)細胞株を、10%ウシ胎児血清(FBS)、100U mL-1のペニシリン、および100μg mL-1のストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中で培養した。細胞は、5%CO2を含む37℃のインキュベーター中で培養した。
【0055】
ウイルスの生産、精製および滴定
AAV-2ヘルパーフリー包装システム(Cell Biolabs)を用いて、AAV2-GFPまたはAV2-KillerRedの生産を行った。簡単に説明すると、AAV2レポーターは、293T細胞において、プラスミドDNA(pHelper、pAAV-RC2、およびpAAVトランスジーン)のPEI媒介同時トランスフェクションにより、産生された。各100mm皿について、293T細胞を20μgのpHelper、10μgのpAAV-RC2およびpAAV-GFP(またはpAAV-KillerRed)でトランスフェクトした。3つのプラスミドDNAを無血清培地に40μgのPEIと混合し、次いで、ボルテックス混合により、30~60秒間徹底的に混合し、少なくとも20~30分間放置した。トランスフェクション時間は30分間だけ行った。トランスフェクションの3日間後に、トランスフェクションした細胞を採取した。ウイルス形質導入のために、ViraBind(商標)AAV精製キット(Cell Biolabs)およびQuickTiter(商標)AAV定量キット(Cell Biolabs)のプロトコールに従って、AAV2-GFPまたはAAV2-KillerRedの精製および滴定を行った。ウイルス生産の各バッチ(8×100mmディッシュ)について、AAV2-GFPまたはAAV2-KillerRedストックのミリリットル当たりのゲノムコピー数(GC)は、1011~1012の範囲であった。精製ウイルスを使用するまで-80℃で保存した。
【0056】
鉄化ウイルスの調製と特徴
鉄化AAV2は、化学共役の手順に従って調製された(図1B)。MES緩衝食塩水中に、カルボン酸を有する酸化鉄ナノ粒子(25μg、0.1725nmol)、EDC(0.1725、0.865、1.73、3.46、4.325、8.65または17.3nmol)を含有する反応混合物を調製し、混合物にSulfo-NHSを穏やかに添加しながら25℃で15分間撹拌し、アミン反応性Sulfo-NHSエステルを有する酸化鉄ナノ粒子の均一溶液を得た。PBS中のAAV2ストック(0.5μL、1×1012GC mL-1)を混合物に滴下して加えた後、25℃の一定温度で120分間反応させた。化学的共役プロセスの後、黄色溶液を、PBSで平衡化されPBSに溶媒交換されたサイズ脱塩カラム(分子量カットオフ:100K)を用いて精製した(図9)。精製工程の後、AAV2-KillerRed用のプライマー配列:5'-GCCCATGAGCTGGAAGCC-3'(配列番号3)および5'-CGATGGCGCTGGTGATGC-3'(配列番号4)を用いたPCRを使用することにより、~90%の再リサイクル収率が得られた(図10)。得られたAAV2-KillerRedのPCR断片は、予想サイズ539bpと一致した。
【0057】
透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL JEM-1400)の分析においては、1滴の鉄化AAV2溶液をFormvar炭素被覆の200メッシュ銅グリッドの上で風乾させた。次に、加速電圧100kVで動作するJEOL-1400顕微鏡により、TEM画像を取得した。
【0058】
形質導入
ウイルス感染および形質導入のすべての実験は、10%FBS、100U mL-1ペニシリンおよび100μg mL-1ストレプトマイシンを含む培地を使用した。磁場を用いずに、鉄イオン化ウイルスまたは非鉄イオン化ウイルスの形質導入能力を測定するために、AAV2-GFP(緑色蛍光タンパク質)をシグナル指標として使用した。HEK293細胞を24ウェルプレートに1×105細胞 ウェル-1で播種し、翌日感染させた。様々なモル比のナノ粒子/EDCおよびAAV2-GFPのみの鉄化AAV2の試験サンプルを、それぞれ、10%FBSを含むDMEM中の細胞に添加し、6日間形質導入させた。
【0059】
ウイルス形質導入によるGFP発現細胞を、フローサイトメトリー(Beckman Coulter、Fullerton、CA、USA)によって定量的に評価した。細胞を0.025%トリプシンで分離し、懸濁液をマイクロチューブに移し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。細胞を前方散乱および側方散乱によって適切にゲート制御し、サンプルあたり10,000個のイベントを収集した。未処理細胞を陰性対照として使用した。
【0060】
鉄化ウイルスの毒性
7×104個のHEK293細胞を24ウェルプレートの各ウェルに播種し、培地を12時間供給した。次いで、細胞を、異なるモル比のナノ粒子/EDCで試験鉄化AAV2に曝露し、pH7.4で24時間インキュベートした。24時間インキュベートした後、試験サンプルを含有するトランスフェクション培地を除去した。さらに、酸化鉄ナノ粒子またはAAV2は、pH7.4で24時間インキュベートしただけであった。CellTiter 96(商標)AQueous one solution細胞増殖アッセイシステム(Promega、Madison、WI、USA)を用いて、以前の研究に従って細胞増殖を決定した。490nmにおけるホルマザンの13,16光学密度(O.D.)は、細胞生存率を定量化した。この試薬は、テトラゾリウム化合物3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム、分子内塩(MTS)を含有し、未処理細胞によって達成されたMTSの減少は100%に設定し、試験細胞のそれは未処理細胞の百分率として表した。
【0061】
外部磁場によるマイクロトランスダクション
図1Eおよび図1Fの結果からわかるように、以下のインビトロおよびインビボ試験のために、鉄化ウイルスを最適化するためのナノ粒子/EDCのモル比が1/20である鉄化AAV2が選択された。HEK293細胞を、2.5×105細胞 ウェル-1で35mm皿に播種し、翌日感染させた。鉄化AAV2またはAAV2のみの試験サンプルを、10%FBSを含むDMEM中の細胞とインキュベートし、1,500μm直径を有する外部磁場(2,000~2,200ガウス)の異なるタイムコース(0、5、10、または30分)で分析した。続いて、サンプルを4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、AAV2の主要コートタンパク質VP3のアミノ酸75~86に特異的な抗AAV抗体(abeam、Cambridge、MA)を用いて、ウイルスの免疫染色を実施することにより、AAV2の配布を観察した。Alexa Fluor(商標)488(abeam)に共役されたヤギ抗ウサギIgG H&Lを用いて、シグナル増幅を展開し、共焦点顕微鏡で観察した。あるいは、6日間の形質導入後に、感染された細胞は、共焦点顕微鏡でGFP発現を観察して分析した。感染された細胞をDAPIで染色して細胞核を標識した。
【0062】
KillerRed活性化に関する以前の研究(Tsengら、Nat.Commun、2015年)に従って、研究において最適化されたROSの生成およびKillerRedの光毒性のために、561nmのアルゴンレーザーを用いて、20分の照射時間を選択した。KillerRedの照射後、製造元の記載に従って、Live/Dead(商標)で固定可能な遠赤死亡細胞染色キット(Thermo Fisher Scientific Inc.)を使用して、感染された細胞を観察した。処理された細胞をDAPIで染色して細胞核を標識した。
【0063】
マウス研究
動物に関するすべての手順は、中央研究院の施設内動物管理および利用委員会(AS IACUC)によって許可された。胸腺欠損BALB/cヌードマウス(6週齢のオス)は、国立実験動物センター(台湾)から提供された。マウスは、12時間/12時間の明/暗サイクルで制御された環境に養われ、最大5つのグループに収容され、食物と水を自由に摂取させた。
【0064】
インビボでの光誘発ウイルス療法の有効性
腫瘍部位に対する外部磁場の有無にかかわらず、鉄化AAV2または未修飾AAV2の光誘発性ウイルス療法効果を評価するために、図4Aの試験調製に従って、L858RおよびT790Mを有するEGFR-TKI耐性H1975細胞を、皮下注射で2×106個の細胞を6週齢の雄の胸腺欠損ヌードマウスの腹部に注入することにより、異種移植腫瘍を確立した。腫瘍体積が~200mm3に達したら、マウスを5つのグループにランダムで分け、鉄化AAV2(5×109GC/マウス)またはAAV2(5×109GC/マウス)を有する100μLのPBSを尾静脈注射した。PBS注射処置を対照マウスとして用いた。標的腫瘍に磁場を印加する処置において、H1975(EGFRL858R/T790M)異種移植腫瘍を1.5Tガウスで磁場に2時間曝露した。
【0065】
3日目に、KillerRed活性化のために、動物を1.5mW mm-2の総照射量で処置した。レーザーファイバーの先端を、動物に対して垂直に腫瘍の上に取り付けた。この計画は、最初の最適化実験に従って決定された(Tsengら、Nat.Commun.,2015)。図4Aに記載されているように、注射後3日目から、5日間毎日20分間、レーザー治療を腫瘍に与えた。毎日の治療後、キャリパーを用いて腫瘍増殖を測定した。腫瘍の長さ(L)および幅(W)を測定し、以下の式に従って腫瘍体積を計算し:腫瘍体積=(0.5L2)W。最後の治療の24時間後に、腫瘍サイズの検査を行った。
【0066】
組織学的および免疫組織化学的分析
H1975(EGFRL858R/T790M)異種移植腫瘍を、接種後15日目に採取した。採取した異種移植腫瘍を10%ホルマリン中で固定し、パラフィン包埋し、5mm切片をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色し、顕微鏡で検査した。異種移植片腫瘍切片は、プルシアンブルーまたはAlexa Fluor(商標)594(Molecular Probes、Eugene、Oregon)を有するClick-iT(商標)Plus TUNELアッセイをも用いて染色し、腫瘍内の鉄化AAV2の酸化鉄ナノ粒子を検出するか、またはin situアポトーシス検出を観察した。
【0067】
血液分析
0日目、2日目、7日目、および14日目に、鉄化AAV2-KillerRedを投与した後、眼窩洞採血を用いて、胸腺欠損BALB/cヌードマウスからの血清を採取した。グルタミン酸-オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT)、グルタミン酸-ピルビン酸(GPT)、総ビリルビン(TBIL)、およびクレアチニン(CRE)のレベルの生化学的分析を評価した。GOTおよびGPTレベルの決定のために、相対するアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の活性を測定する酵素的方法を使用した。また、肝癌および肝炎を含む肝細胞損傷の指標であるTBILのレベルは、製造元の指示に従って、Randox診断テストキットを用いて決定した。腎機能の指標とするCREレベルは、Randox診断テストキットを用いて試験した。
【0068】
インビボでの生物発光イメージング
無菌濾過したPBS溶液(全量100μLにおける5×109GC AAV2を含有)中の鉄化AAV2-ルシフェラーゼまたはAAV2-ルシフェラーゼを、異種移植腫瘍に外部磁場を用いるかまたは用いていないマウスに、尾静脈注射した。生物発光イメージングは、治療後7日目と14日目に達成された。マウスを、酸素中に2%のイソフルランで満たしたチャンバー内で麻酔した。ルシフェリン(~240μL、Caliper Life Sciences Inc.、Hopkinton、MA)の腹腔内(IP)注射後、発光イメージは、インキュベーション後5~10分間において、5分間の一定の画像取得時間(Bin:16/4、FOV:12)で、IVISイメージングシステム(Living Imageソフトウェアを有するXenogen IVIS-50)によって捕捉した。インビボでの生物発光シグナルは、全身の関心領域からのバックグラウンド減算(光子束 秒-1cm-2sr-1)の後、各マウスについての伏臥時取得および仰向け取得の両方の合計として計算した。
【0069】
統計分析
データは、6回行った実験の平均値±標準偏差として示す。インビボでの腫瘍体積の測定において、データは、6回行った実験の平均値±平均値の標準誤差として示す。統計的有意差検定では、不等分散を仮定して両側t検定を使用してP値を計算した。
【0070】
結果
(1)ウイルス用の鉄スーツの製造
この新しい概念を厳密に検証するために、AAV表面タンパク質のアミノ基を介したEDC/N-ヒドロキシスルホスクシンイミド(Sulfo-NHS)共役により、アデノ随伴ウイルス血清型2(AAV2)を、様々なモル比のナノ粒子/1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)で、カルボン酸を有する酸化鉄ナノ粒子(サイズ:5nm)と化学的に共役した(図1B)。酸化鉄ナノ粒子または鉄化AAV2の透過型電子顕微鏡(TEM)画像は、ca.5nm(図1C)または30~40nm(図1D)の直径を有した。
【0071】
ウイルス感染のインビトロ特徴付けおよびアッセイは、完全培地(10%ウシ胎児血清、100U mL-1のペニシリンおよび100μg mL-1のストレプトマイシン)の中で行った。AAV2-GFP(緑色蛍光タンパク質)アッセイおよびフローサイトメトリーを使用して、AAV2形質導入効率に対する化学的共役の影響を評価した(図1E)。磁場なしの形質導入後6日目に、鉄化AAV2で処理した細胞は、AAV2の対照処理と比較して、1/1~1/20のモル比(P>0.25)で一定のGFP発現を維持した。形質導入効率は、1/25のモル比では55.6%(P<0.005)に低下し、1/100のモル比では38.7%(P<0.005)に低下した。これらのデータから、酸化鉄ナノ粒子をカルボン酸とAAV2表面のタンパク質に共有結合させるために使用される化学結合の性質は、表面リガンドの競合により、ウイルス形質導入の効率に影響を与えることを示した(Lochrieら、J.Virol.,2006)。いずれかのモル比の鉄化AAV2をヒト胚腎臓(HEK293)細胞とインキュベートしても、細胞傷害性が観察されなかった(図1F)。全体として、最適化されたモル比1/20の鉄化AAV2は、磁気誘導の形質導入および光増感のために、低毒性のAAV2により、細胞を効率的に感染させるのに適していた。
【0072】
(2)鉄化AAV2分布の遠隔磁性制御
鉄化AAV2の遠隔磁気制御能力をさらに評価するために、抗AAV2抗体と蛍光色素ALEXA FLUOR(商標)488に共役された二次抗体とを利用した免疫染色アッセイにより、細胞培養中のAAV2分布を観察した。5分間、10分間または30分間の磁場(2,000~2,200ガウス)への曝露で、相当な蛍光が蓄積して、AAV2分布の局所的制御を生じさせた(図2A)。これに対して、修飾されていないAAV2は、30分間の磁場曝露で、均一にランダムな分布を示した(図2B)。同様に、鉄化AAV2で感染した細胞のGFP発現は、処置した細胞を直径1500μmの円筒形磁石を有する同じ磁場に曝露して最大30分間インキュベートした後、形質導入後6日目に調べた。GFP発現細胞の分布は、図2Cおよび図2D中の蛍光強度によって表され、直径2,000μmの「マイクロトランスダクション」プロファイルを示す。これに対して、GFPを発現する未修飾AAV2処理細胞は、ランダムに分布していた(図2E)。
【0073】
(3)鉄化AAV2-KillerRedを用いた光誘発ウイルス療法
細胞のマイクロ形質導入が成功したことを確認するデータを用いて、561nmの対応する波長およびAAV2-KillerRed(図3A)を利用して、20分間照射することにより、光誘発ウイルス療法を行った(Tsengら、Nat.Commun.,2015)。観察された鉄化AAV2に感染したGFP発現細胞と一致して、KillerRed発現は、円形領域のみをもたらした(図5A)。また、GFP発現と一致して、AAV2-KillerRed対照は、優先的な空間形質導入を示さなかった(図5B)。KillerRedは、光誘発毒性を有するので、KillerRedタンパク質を発現する細胞において、黄色光の照射後には細胞死が観察された。AAV2-KillerRedに感染していない場合には、細胞死の分布は、磁場の微小スポットに効果的に蓄積され、光毒性を示さなかったため(図3Bおよび図3C)、未修飾AAV2と比較して、光誘発ウイルス療法のための遠隔制御鉄化AAV2を実証した(図3D)。
【0074】
(4)血流を通した前臨床試験における抗腫瘍活性と体内分布
EGFR-TKI耐性HI 975(EGFRL858R/T790M)異種移植腫瘍を有する胸腺欠損BALB/cヌードマウスにおいて、遠隔鉄化AAV2-KillerRedを用いて、光誘発ウイルス療法治療を行った(図4A)。注目すべきことに、H&E(ヘマトキシリンおよびエオシン)染色により示される大面積の腫瘍壊死(図4C)、TUNEL(末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼdUTPニックエンドラベリング)アッセイによる広範囲の陽性染色(図4D)、およびDAPI(4',6-ジアミジノ-2-フェニルインドール)染色により標識された核酸(図4E)を対照することにより、他の治療法と比較して、鉄化AAV2-KillerRedによる治療は、腫瘍増殖の強力な抑制と関連することを示した(図4Bおよび図6)。また、プルシアンブルーで染色された淡青色の領域は、磁場および鉄化AAV2に露出されたサンプルにおいて、鉄の分布および存在量の増加を示した(図4F)。尾静脈注射により鉄化AAV2-KillerRedの単回投与は、有意な腫瘍増殖の抑制をもたらしたが、長期抑制を欠いた。印象的なことに、8日目に鉄化AAV2-KillerRedを再度注射した場合、さらなる5日間では腫瘍の体積増加を完全に停止したことが達成され、これを超えると、有意に抑制された(P<0.015)。これに対して、磁化場または光照射しない場合には、AAV2-KillerRedのみまたは鉄化AAV2-KillerRedの送達は、統計的に関連のある抗腫瘍効果をもたらさなかった。全身送達を達成する際に本質的に困難な課題を克服するのを助けるために、同時送達は他の研究と一致している(Ledford,Nature,2015;Bellら、Cell Host Microbe,2014;Russellら、Nat.Biotechnol,2012;Miestら、Nat.Rev.Microbiol,2014;Kottermanら、Nat.Rev.Genet.,2014)。
【0075】
鉄化AAV2-KillerRedで処置した動物は、肝臓および腎臓の機能をモニターするために、グルタミン酸オキサロトランスアミナーゼ(GOT)、ピルビン酸オキサロトランスアミナーゼ(GPT)、総ビリルビン(TBIL)、およびクレアチニン(CRE)のレベルについても評価した。これらの生化学的分析は、有意な肝臓または腎臓の毒性を全く示さなかった(図4G)。すべての実験グループにおいて、体重の有意な減少は検出されず、厳重な鉄化ウイルス、磁場露出、または光照射に関連した毒性の欠如を表している(図4H)。鉄化AAV2-ルシフェラーゼで処理された以外にインビボ試験と同様に処理された動物についての生物発光を用いて、7日目(図7)および14日目(図4I)に生体内分布を検討した。これらの発見と一致して、磁気誘導が利用された7日目および14日目に、腫瘍において有意な生物発光が観察され、図4Bに示される腫瘍抑制と一致した。これは、送達における遠隔制御の特定性への動的な依存性を強化する。予想通り、肝臓でも生物発光が観察され、ウイルスおよびナノ粒子のクリアランス経路は一致していた(図4J)(Tsengら、Nat.Commun.,2015)。
【0076】
上記内容を要約すると、遠隔誘導「鉄化」ウイルス送達を用いて達成される光誘発ウイルス療法による、抗腫瘍効果の特異性が実証されている。このような技術的概念は、血流を介した全身送達に利用して、治療効果および正確性を改善することができる。本開示の鉄化AAV2には、いくつかの際立った特徴、例えば、標的化送達、ウイルス療法の光誘発活性化、組換えの欠如およびゲノム統合(Kottermanら、Nat.Rev.Genet,2014)、ならびに強力な前臨床安全記録(Kottermanら、Nat.Rev.Genet,2014)があり、これらは、概念の潜在的な利点を定義する。さらに、磁気共鳴画像法(MRI)機器は、所望の方向に、パルス状の磁場勾配を作り出すために適用することができ(Muthanaら、Nat.Commun.,2015)、それは内部3Dボリューム内の蓄積を形作る見込みを提供することができる。
【0077】
他の実施形態
本明細書に開示されている全ての特徴は、任意の組み合わせで組み合わせることができる。本明細書に開示されている各特徴は、同じ、同等、または類似の目的を果たす代替の特徴によって置き換えられてもよい。ゆえに、他に明示的に述べられていない限り、開示された各特徴は、包括的な一連の同等または類似の特徴の一例にすぎない。
【0078】
上記の説明から、当業者は本発明の本質的な特徴を容易に確認することができ、本発明の精神および範囲から逸脱しない限り、本発明を様々な用途および条件に適合させるように様々な変更および修正を加えることができる。ゆえに、他の実施形態も特許請求の範囲内にある。
【0079】
同価
本明細書ではいくつかの本発明の実施形態を説明して例示しましたが、当業者は、機能の実行かつ/または結果の獲得のために、様々な他の手段および/または構造および/または1つ以上の説明した利点を容易に想起し、そして、このような変形および/または修正の各々は、本明細書に記載の発明の実施形態の範囲内にあると見なされる。より一般的に言えば、当業者は、本明細書に記載のすべてのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成は、特定の用途に依存するまたは本発明の教示が使用されることを容易に理解する。当業者であれば、本明細書に記載の特定の実施形態に対する多くの均等物を認識し、または日常的な実験のみを用いて確かめることができる。したがって、前記の本発明の実施形態は、例としてのみ提示され、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、具体的に説明および特許請求される以外の方法で本発明の実施形態を実施できることを理解されたい。本開示の実施形態は、本明細書に記載されている個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法のそれぞれに関する。さらに、このような特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法が互いに矛盾していない場合、このような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の2つ以上の任意の組み合わせも本開示の発明の範囲に含まれる。
【0080】
本明細書に限定および使用されるすべての定義は、辞書の定義、参照により組み込まれる文書中の定義、および/または定義された用語の通常の意味を示すと理解されるべきである。
【0081】
本明細書に開示されている全ての参考文献、特許および特許出願は、それぞれが引用されている主題に関して参照により組み込まれており、場合によっては、文書の全体を包含することがある。
【0082】
本明細書および特許請求の範囲に使用される不定冠詞「a」および「an」は、そうでないことが明確に示されていない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0083】
本明細書および特許請求の範囲に使用される「および/または」という句は、要素の「いずれかまたは両方」の結合、すなわち、場合によっては結合的に存在し、他の場合には分離的に存在する要素を意味すると理解されたい。「および/または」で列挙された複数の要素は、同じように解釈されるべきであり、すなわち、「1つ以上」の要素の結合である。具体的に識別された要素に関連するかどうかにかかわらず、「および/または」という句によって具体的に識別された要素以外の他の要素が任意に存在してもよい。ゆえに、非限定的な例として、「含む」というオープンエンド言語と共に使用される場合の「Aおよび/またはB」への参照は、一つの実施形態では、Aのみ(場合によりB以外の要素を含む);別の実施形態では、Bのみ(場合によりA以外の元素を含む);さらに別の実施形態では、AとBの両方(場合により他の要素を含む);等を指すことができる。
【0084】
本明細書および特許請求の範囲に使用されるように、「または」は、上記で定義されたような「および/または」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内の項目を分離するとき、「または」あるいは「および/または」は包括的、すなわち、少なくとも1つの要素を含むが、1つより多くの要素をも含み、また、要素のリストおよびオプションで追加のリストにない項目をも含む。反対のことを明確に示す用語のみ、例えば、「1つのみ」または「1つだけ」、または特許請求の範囲で使用されている「のみからなる」は、厳密に1つの要素または要素のリストの包含を指す。一般的に、本明細書で使用される「または」という用語は、「どちらか」、「その中の1つ」、「その中の1つだけ」または「1つだけ」のような独占の用語が先行する場合には、排他的な選択肢(すなわち、「両方の中の一方または他方であるが、両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈されるものとする。「本質的に~からなる」は、特許請求の範囲で使用されるとき、特許法の分野で使用されるときのその通常の意味を有するものとする。
【0085】
本明細書および特許請求の範囲に使用される1つ以上の要素のリストにおける「少なくとも1つ」という句は、要素のリスト中の任意の1つの要素から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきであるが、要素のリスト内に具体的に列挙された各要素およびすべての要素の少なくとも1つを必ずしも含まず、また、要素リストの要素の組み合わせを除外しない。具体的に特定された要素に関連しているかどうかにかかわらず、当該「少なくとも1つ」の定義は、要素のリスト内で具体的に特定された要素以外の要素が任意に存在し得ることを可能にする。ゆえに、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも一方」(または「AまたはBの少なくとも一方」に相当、あるいは「Aおよび/またはBの少なくとも一方」に相当)は、一つの実施形態では、少なくとも1つの任意選択で1つより多いAを含むが、Bを含まず(および任意選択でB以外の元素を含む);別の実施形態では、少なくとも1つの任意選択で1つより多いBを含むが、Aを含まず(および任意選択でA以外の元素を含む);さらに別の実施形態では、少なくとも1つの任意選択で1つより多いAを含み、少なくとも1つの任意選択で1つより多いB(および任意選択で他の元素を含む);等を指すことができる。
【0086】
反対に、明確に示されていない限り、1つより多い工程または動作を含む本明細書に請求される方法において、方法の工程または動作の順序は必ずしもその順序に限定されないことも理解されるべきである。
図1A-F】
図2A-E】
図3A-D】
図4A-G】
図4H-J】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
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