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特許7015309関節スペーサプロテーゼ及びそれを有する関節プロテーゼ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】関節スペーサプロテーゼ及びそれを有する関節プロテーゼ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/38 20060101AFI20220126BHJP
【FI】
A61F2/38
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019533653
(86)(22)【出願日】2019-04-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-06-17
(86)【国際出願番号】 CN2019081498
(87)【国際公開番号】W WO2020155378
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2019-07-04
(31)【優先権主張番号】201910105642.0
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518160724
【氏名又は名称】北京愛康宜誠医療器材有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】張 衛平
【審査官】森林 宏和
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105816259(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0015750(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0103607(US,A1)
【文献】米国特許第06258126(US,B1)
【文献】国際公開第1994/026204(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/00 - 2/97
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節を形成する第1の骨と第2の骨との間に設置される弾性スペーサ(10)を含み、前記弾性スペーサ(10)は、
前記第1の骨に向かう第1の接触面、前記第2の骨に向かう第2の接触面を有する弾性基体と、
前記弾性基体内に分布し、前記第1の接触面と前記第2の接触面とを連通させ、前記弾性基体の硬さが中央部から外周縁部へと徐々に上昇して前記弾性基体の弾性が中央部から外周縁部へと徐々に低下するように所定の方式で配置されている複数の関節液通路と、を含むことを特徴とする関節スペーサプロテーゼ。
【請求項2】
前記複数の関節液通路は、前記第1の接触面から前記第2の接触面への方向に沿って配置されてそれぞれが複数の収容室(11)を含む複数の収容室層と、それぞれが隣接する2つの前記収容室層の間に接続された複数の流通路(12)と、を含むことを特徴とする請求項1に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項3】
前記複数の収容室層の容積は、前記第1の接触面から前記第2の接触面への方向に沿って徐々に小さくなることを特徴とする請求項2に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項4】
前記複数の収容室(11)は、前記第1の接触面から前記第2の接触面への方向に沿って徐々に小さくなることを特徴とする請求項3に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項5】
同一の前記収容室層内にある複数の前記収容室(11)の容積は、中央部から外周縁部へと徐々に小さくなることを特徴とする請求項2に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項6】
前記関節液通路はさらに、少なくとも1つの前記収容室(11)及び/又は少なくとも1つの前記流通路(12)と連通し、内部に逆止弁(14)が設置された流入通路(13)を含むことを特徴とする請求項2に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項7】
前記第1の骨と前記第2の骨との間に設置され、内部に前記弾性スペーサ(10)が設置された収容溝(21)を有し、硬さが前記弾性スペーサ(10)より大きいスペーサ基体(20)をさらに含むことを特徴とする請求項1-6のいずれか一項に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項8】
前記弾性基体の周方向側壁に位置決め凸部(15)が設置され、前記収容溝(21)の、前記位置決め凸部(15)に対応する位置に位置決め溝(25)が設置されることを特徴とする請求項7に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項9】
前記スペーサ基体(20)の底面に流通溝(26)が設置され、前記収容溝(21)の底部に連通孔(27)が設置され、かつ前記流通溝(26)と連通することにより、関節液が前記流通溝(26)及び前記連通孔(27)を通過して前記収容溝(21)に入ることができることを特徴とする請求項7に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項10】
請求項6に記載の関節スペーサプロテーゼであり、前記スペーサ基体(20)はさらに、入口が前記スペーサ基体(20)の頂面まで延伸して出口が給液通路と連通する連通通路(28)を含むことを特徴とする請求項7に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項11】
前記スペーサ基体(20)の周方向の外側に設置された補強リング(30)をさらに含むことを特徴とする請求項7に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項12】
前記補強リング(30)は、前記スペーサ基体(20)と接触して融合できる浸入層(33)と、前記関節周囲の軟組織が成長して入ることができる整合層(31)と、前記浸入層(33)と前記整合層(31)との間に設置された隔離層(32)と、を含むことを特徴とする請求項11に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項13】
前記浸入層(33)と前記整合層(31)は、いずれも多孔質構造であり、前記浸入層(33)の多孔質構造の孔径が500μm~3000μmにあり、前記整合層(31)の多孔質構造の孔径が400μm~2000μmにあることを特徴とする請求項12に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項14】
前記弾性スペーサ(10)は、弾性を有する透明な高分子材料又は複合材料で製造されることを特徴とする請求項1に記載の関節スペーサプロテーゼ。
【請求項15】
関節スペーサプロテーゼを含む関節プロテーゼであって、前記関節スペーサプロテーゼは、請求項1-14のいずれか一項に記載の関節スペーサプロテーゼであることを特徴とする関節プロテーゼ。
【請求項16】
前記関節プロテーゼは、さらに脛骨プラトープロテーゼと、大腿骨顆部プロテーゼを含む膝関節プロテーゼであることを特徴とする請求項14に記載の関節プロテーゼ。製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工プロテーゼ置換の分野に関し、具体的には、関節スペーサプロテーゼ及びそれを有する関節プロテーゼに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の人工膝関節置換術に使用される膝関節プロテーゼについては、通常、大腿骨側に医療用金属、例えばステンレス鋼又はコバルト合金で製造された大腿骨顆部プロテーゼを使用し、脛骨側に超高分子量ポリエチレンで製造されたスペーサを使用しいている。膝関節運動学上の需要のために、大腿骨顆部プロテーゼの金属関節面は、一般的には複雑で連続的な空間曲面に設計されるが、脛骨側の超高分子量ポリエチレン関節面スペーサは、直立時の安定を保証するために、特定な位置(例えば直立位置)の場合に大腿骨関節面と高い一致度を有する曲面に設計するほかはない。しかしながら、膝関節の動きに伴い、大腿骨顆部プロテーゼと関節面スペーサとの間の接触面積が理想値より遥かに小さくなることで、大腿骨顆部プロテーゼと関節面スペーサとの間に圧力度が高くなり、関節面スペーサの摩耗損傷を加速することがある。また、術後に関節の周囲の靭帯及び軟組織と埋め込まれた人工関節プロテーゼとの間には本来の関節生物組織の間のような緊密な関係を確立することができないため、バランスの維持に軟組織に大きく依存する力学的システムである膝関節の安定性が大幅に低下する。
【発明の概要】
【0003】
本発明は、関節スペーサプロテーゼ及びそれを有する関節プロテーゼを提供して、従来技術において大腿骨顆部プロテーゼと関節スペーサプロテーゼとの間の接触面積が保証されず、局所の圧力度が大き過ぎ、関節スペーサプロテーゼが深刻に摩耗され、患者の関節プロテーゼの耐用年数を短縮させる可能性があるという問題を効果的に解決するとともに、人工関節プロテーゼと人体関節の周囲の軟組織との間の有効な関係を確立して関節の安定を向上させることができる。
【0004】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係る関節スペーサプロテーゼは、関節を形成する、本発明の関節スペーサプロテーゼと顕著な摺動摩擦関係を形成する第1の骨と本発明の関節スペーサプロテーゼが固定される第2の骨との間に設置される弾性スペーサを含み、弾性スペーサは、第1の骨に向かう第1の接触面、第2の骨に向かう第2の接触面を有する弾性基体と、弾性基体内に分布し、第1の接触面と第2の接触面とを連通させ、弾性基体の硬さが中央部から縁部へと徐々に上昇して弾性基体の弾性が中央部から縁部へと徐々に低下するように所定の方式で配置されている複数の関節液通路と、を含む。
【0005】
さらに、複数の関節液通路は、第1の接触面から第2の接触面への方向に沿って配置されてそれぞれが複数の収容室を含む複数の収容室層と、それぞれが隣接する2つの収容室層の間に接続された複数の流通路と、を含む。
【0006】
さらに、複数の収容室層の容積は、第1の接触面から第2の接触面への方向に沿って徐々に小さくなる。
【0007】
さらに、複数の収容室は、第1の接触面から第2の接触面への方向に沿って徐々に小さくなる。
【0008】
さらに、同一の収容室層内にある複数の収容室の容積は、中央部から縁部へと徐々に小さくなる。
【0009】
さらに、関節液通路はさらに、少なくとも1つの収容室及び/又は少なくとも1つの流通路と連通し、内部に逆止弁が設置された流入通路を含む。
【0010】
さらに、関節スペーサプロテーゼは、第1の骨と第2の骨との間に設置され、内部に弾性スペーサが設置された収容溝を有し、硬さが弾性スペーサより大きいスペーサ基体をさらに含む。
【0011】
さらに、弾性基体の周方向側壁に位置決め凸部が設置され、収容溝の、位置決め凸部に対応する位置に位置決め溝が設置される。
【0012】
さらに、スペーサ基体の底面に流れ通過溝が設置され、収容溝の底部に連通孔が設置され、かつ流通溝と連通することにより、関節液が流通溝及び連通孔を通過して収容溝に入ることができる。
【0013】
さらに、スペーサ基体はさらに、入口がスペーサ基体の頂面まで延伸して出口が給液通路と連通する連通通路を含む。
【0014】
さらに、関節スペーサプロテーゼは、スペーサ基体の周方向外側に設置された補強リングをさらに含む。
【0015】
さらに、補強リングの浸入層及び整合層は、いずれも多孔質構造であり、浸入層は、スペーサ基体と接触して融合でき、関節の周囲の軟組織が整合層内に成長して入ることができ、浸入層と整合層との間に隔離層が設置される。
【0016】
さらに、補強リングの浸入層及び整合層は、いずれも多孔質構造であり、浸入層の多孔質構造の孔径が500μm~3000μmにあり、整合層の多孔質構造の孔径が400μm~2000μmにある。
【0017】
さらに、弾性スペーサは、弾性を有する透明な高分子材料又は複合材料で製造される。
【0018】
本発明の別の態様によれば、上記関節スペーサプロテーゼを含む関節プロテーゼを提供する。
【0019】
さらに、関節プロテーゼは、さらに脛骨プラトープロテーゼと、大腿骨顆部プロテーゼを含む膝関節プロテーゼである。
【0020】
本発明の技術的解決手段を応用し、弾性スペーサ内に所定の方式で関節液通路を配置し、弾性基体の硬さが中央部から縁部へと徐々に上昇するとともに、弾性が中央部から縁部へと徐々に低下するように、関節液通路の断面形状、孔径、長さ、容積、位置及び配置方向並びに疎密度などのパラメータを調整することにより、弾性スペーサにおける各々異なる所定の部位で異なる弾性及び硬さ指標を実現し、弾性スペーサをできるだけ人体の関節の力学的特性に接近するようにして、関節が動く時に弾性スペーサと関節骨とを十分に接触させ、さらに接触面の間の圧力度を理想的な範囲内に保持し、関節スペーサプロテーゼの使用効果及び耐用年数を保証することができる。また、この補強リングの整合層の孔径が400μm~2000μmの多孔質構造に設計されることにより、術後に関節スペーサプロテーゼの周囲に覆う関節嚢及び本来の靭帯残留などの軟組織が整合部の多孔質構造の孔隙内に入るまで成長して生体型組織整合を形成することができ、術後の治癒過程において、靭帯などの軟組織が多孔質構造の孔隙内に成長して入ることができ、これにより術後の膝関節システムがより安定になることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本願の一部となる明細書の図面は本発明をさらに理解するためのものであり、本発明の例示的な実施例及びその説明は本発明を解釈するためのものであり、本発明を不適に限定するものではない。
【0022】
図1】本発明に係る関節スペーサプロテーゼの実施例1の分解構造概略図を示す。
図2図1の関節スペーサプロテーゼの組み合わせ状態での断面構造概略図を示す。
図3図2の関節スペーサプロテーゼのC箇所の局所拡大構造概略図を示す。
図4図1の関節スペーサプロテーゼの補強リングのA方向の構造概略図を示す。
図5図1の関節スペーサプロテーゼのB箇所の局所拡大構造概略図を示す。
図6図1の関節スペーサプロテーゼの給液原理概略図を示す。
図7図1の関節スペーサプロテーゼの給液原理概略図を示す。
図8】本発明に係る関節スペーサプロテーゼの実施例2の分解構造概略図を示す。
図9図8の関節スペーサプロテーゼの異なる姿勢での構造概略図を示す。
図10図8の関節スペーサプロテーゼの異なる姿勢での構造概略図を示す。
図11図8の関節スペーサプロテーゼの異なる姿勢での構造概略図を示す。
図12図8の関節スペーサプロテーゼの弾性スペーサの断面構造概略図を示す。
図13図8の関節スペーサプロテーゼの給液原理概略図を示す。
図14図8の関節スペーサプロテーゼの給液原理概略図を示す。
図15図8の関節スペーサプロテーゼのスペーサ基体の底部構造概略図を示す。
図16】本発明に係る関節スペーサプロテーゼの実施例3の分解構造概略図を示す。
図17】本発明に係る関節スペーサプロテーゼの実施例4の分解構造概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本願の関節スペーサプロテーゼは、人工関節の置換術に用いるのに適し、関節が動くときに生じた衝撃を吸収し、関節骨の間の摩擦損傷を軽減する。例えば、人体の膝関節内に、大腿骨が脛骨に対して揺動し、回転して脚の曲げ及び回転の動作を実現し、大腿骨の下端(大腿骨顆部)及び脛骨の上端(脛骨プラトー)上の軟骨及び半月板構造が大腿骨と脛骨との間にスペーサの役割を果たす。半月板構造の上面と下面は、それぞれ大腿骨の下端曲面及び脛骨の上端曲面の湾曲傾向に類似し、関節の接触面積を増加させ、関節の安定性を向上させ、圧力度を低下させる。同時に半月板構造はさらに、良好な弾性を有し、適切に変形して衝撃と振盪を吸収し、かつ膝関節が動くときに大腿骨の下端の解剖形態に適応し、膝関節の幾何学的な形態の協調を保証して、膝関節の運動の協調を維持することができる。
【0024】
従来の人工膝関節置換術に使用される膝関節プロテーゼについては、大腿骨側に通常医療用金属、例えばステンレス鋼又はコバルト合金で製造された大腿骨顆部プロテーゼを使用し、脛骨側に超高分子量ポリエチレンで製造されたスペーサを使用し、スペーサの材料が単一で、構造が単一で、一定の弾性を有するが、原生半月板の構造及び軟骨の変形幅並びに緩衝と摩耗低下の効果を復元することができない。また、超高分子量ポリエチレンで製造されたスペーサは十分な弾性に乏しいため、膝関節が屈曲運動を開始するとき、大腿骨と脛骨との間の位置、角度の変化に伴い、大腿骨顆部プロテーゼとスペーサとの間の有効な接触面積が非常に小さい可能性があり、さらにいくつかの位置で線接触又は点接触しか満足できず、かつこれら位置で局所な高圧が生じて関節面の摩耗を加速させ、さらに膝関節全体の耐用年数に影響を与え、患者の術後生活に影響を与え、また、術後に本来の関節の周囲の靭帯及び軟組織と埋め込まれた人工関節プロテーゼとの間に本来の緊密な関係を失うため、バランスの維持に軟組織に大きく依存する力学的システムである膝関節の安定性が大幅に低下する。本願は、上記問題に対して、スペーサの構造を改良する。
【0025】
なお、本願における実施例、実施例における特徴は、矛盾しない限り、互いに組み合わせることができる。以下、膝関節を例として、図面及び実施例を参照しながら本発明を詳細に説明する。
【0026】
図1図2及び図8に示すように、実施例1の関節スペーサプロテーゼ及び実施例2の関節スペーサプロテーゼは、いずれも弾性スペーサ10を含み、弾性スペーサ10は、大腿骨構造と脛骨構造との間に設置され、弾性基体及び弾性基体内に分布する複数の関節液通路を含む。弾性基体は、大腿骨構造に向かう第1の接触面、脛骨構造に向かう第2の接触面を有し、複数の関節液通路は、関節液が弾性基体を通過して弾性基体内で流動できるように、第1の接触面と第2の接触面とを連通させる。複数の関節液通路は、弾性基体の硬さが中央部から縁部へと徐々に上昇して弾性基体の弾性が中央部から縁部へと徐々に低下するように所定の方式で配置されている。
【0027】
図9に示すように、膝部が荷重せずに自然に伸びている状態で、関節スペーサプロテーゼ2は、脛骨プラトープロテーゼ3に設置され、関節スペーサプロテーゼ2において弾性スペーサ10の上面が大腿骨顆部プロテーゼ1と貼り合わせられ、図10に示すように、人体の重量及び衝撃力が関節スペーサプロテーゼ2の弾性スペーサ10にかかり、弾性スペーサ10は、圧縮変形して緩衝する役割を果たし、この場合、スペーサ基体20と弾性スペーサ10とは共に大腿骨顆部プロテーゼから伝達された力学的荷重を負担し、図11に示すように、膝関節が屈曲している状態で、弾性スペーサ10は、局所が受圧して変形し、この場合、外側が比較的に硬さが高くて弾性が低く、内部が弾性が高くて硬さが低いという特性により、弾性スペーサは、不均一な荷重でも大腿骨顆部と相対的に十分な接触面積を保証し、かつ基体20と共に大腿骨顆部プロテーゼから伝達された力学的荷重を負担することができる。
【0028】
本実施例の技術的解決手段を応用し、弾性基体の硬さが中央部から縁部へと徐々に上昇するとともに、弾性が中央部から縁部へと徐々に低下するように、弾性スペーサ10内に所定の方式で関節液通路を配置し、関節液通路の断面形状、孔径、長さ、容積、位置、配置方向及び疎密度などのパラメータを調整することにより、弾性スペーサ10における各々異なる所定の部位で異なる弾性及び硬さを実現して、弾性スペーサ10をできるだけ人体の膝関節の力学的特性に接近するようにして、膝関節が動く時に弾性スペーサ10と大腿骨顆部とを十分に接触させ、さらに接触面の間の圧力度を理想的な範囲内に保持し、関節スペーサプロテーゼの使用効果及び耐用年数を保証することができる。
【0029】
好ましくは、本実施例の弾性スペーサ10は、弾性を有する透明な高分子材料又は複合材料で製造される。図2及び図3に示すように、実施例1の弾性スペーサ10において、関節液通路は、複数の収容室層(T1、T2、T3、T4)と、複数の流通路12を含み、収容室層T1~収容室層T4は、第1の接触面から第2の接触面への方向に沿って配置され、各収容室層は、それぞれ複数の収容室11を含み、流通路12は、隣接する2つの収容室層の間に接続される。例えば、流通路12bは、収容室層T1の収容室11aと収容室層T2の収容室11bとを連通させ、流通路12cは、収容室11bと収容室層T3の収容室11cとを連通させ、流通路12dは、収容室11cと収容室層T4の収容室とを連通させる。
【0030】
具体的には、図3に示すように、本実施例の複数の収容室11は、収容室層T1から収容室T4へ徐々に小さくなり、各収容室層の全体的な容積は、第1の接触面から第2の接触面への方向に沿って徐々に小さくなる。関節液通路をこのように配置することにより、弾性基体の第1の接触面に接近する側の弾性が高くなり、第2の接触面に接近する側の弾性が低くなり、第1の接触面と大腿骨顆部との接触に役立つ。
【0031】
図3図7に示すように、本実施例の関節液通路はさらに流入通路13を含み、流入通路13が収容室11と連通することにより、給液通路13が各収容室層内の各収容室11、及び各収容室層の間に接続された流通路12と連通する。さらに、図6及び図7に示すように、流入通路13内に逆止弁14が設置され、図7に示すように、弾性スペーサ10が荷重によって押し付けられて変形するとき、逆止弁14は、関節液の逆方向の圧力で閉じられ、このときに関節液が上向きに収容室11及び流通路12を通過して第1の接触面に排出することのみ可能で、第1の接触面と大腿骨顆部との間の摩擦を低減し、図6に示すように、弾性スペーサ10の受けた荷重が消えると、弾性基体が復元し、かつ関節液通路内に負圧が形成され、逆止弁14が開かれ、関節液が流入通路13を通過して収容室11及び流通路12に入ることができる。このように、膝関節が動くときに関節液が補給されて摩擦面へと注入されるという循環を達成することができる。
【0032】
図1図3に示すように、本実施例の関節スペーサプロテーゼは、大腿骨構造と脛骨構造との間に設置され、内部に弾性スペーサ10が設置された収容溝21を有し、硬さが弾性スペーサ10より大きいスペーサ基体20をさらに含む。好ましい材料の配合方式は、ポリウレタン材料を用いて弾性スペーサを製造することであり、スペーサ基体20は、超高分子量ポリエチレンを用いて製造され、その収容溝21の環状縁部が生理学的半月板と類似する機能を果たし、弾性スペーサ10の支持効果及び耐摩耗性能を向上させることができる。弾性スペーサ10内に関節液通路など構造は、フェムト秒レーザ技術により透明なポリウレタン材料の内部で彫刻し融蝕して形成され得る。
【0033】
図3に示すように、関節液を関節液通路に導入するために、本実施例のスペーサ基体20はさらに、入口がスペーサ基体20の頂面まで延伸し出口が流入通路13と連通する連通通路28を含む。
【0034】
弾性スペーサ10を固定するために、図1及び図5に示すように、本実施例の弾性基体の周方向の側壁に位置決め凸部15が設置され、収容溝21の、位置決め凸部15に対応する位置に位置決め溝25が設置される。弾性スペーサ10が収容溝21内に配置された後、位置決め凸部15は、位置決め溝25内に伸び込んで弾性スペーサ10の脱出を防止することができる。
【0035】
図1に示すように、スペーサ基体20はさらに、膝蓋骨及びその靭帯と適合する膝蓋骨溝29を含む。
【0036】
図1及び図4に示すように、本実施例の関節スペーサプロテーゼは補強リング30をさらに含み、補強リング30はスペーサ基体20の周方向外側の補強リング収容溝23内に設置され、かつ好ましくは医療用金属材料を採用する。補強リング30は、スペーサ基体20の周方向の外側に嵌設され、関節スペーサプロテーゼの結合強度を向上させる。具体的には、本実施例の補強リング30は、浸入層33、隔離層32及び整合層31を含み、浸入層33及び整合層31が多孔質構造を採用する。好ましくは、本実施例の補強リング30の浸入層33の孔径が500μm~3000μmにあり、整合層31の孔径が400μm~2000μmにある。モールディング過程において、スペーサ基体20を形成する超高分子量ポリエチレン材料は、浸入層33の多孔質構造内に浸入してスペーサ基体20と接触融合し、補強リング30とスペーサ基体20との間の接続固定を実現することができる。整合層31が外部に露出し、術後に関節スペーサプロテーゼの周囲の対応する部位を覆う膝関節の靭帯及び軟組織細胞が成長して整合層31の孔隙内に入って、生物学的組織結合を形成し、このような生物学的結合により脛骨プラトースペーサと関節の周囲の軟組織とが人体の正常な生理学的膝関節に類似する軟組織安定化システムを形成して、埋め込まれた膝関節プロテーゼの安定性を向上させる。隔離層32は、実体構造であり、浸入層33と整合層31との間に設置され、製造過程において溶融したポリエチレンが外側の整合層31内に浸入することを止める。術後の治癒過程において、靭帯などの軟組織が多孔質構造の孔隙内に入るまで成長することができるため、術後の膝関節システムがより安定になることができる。
【0037】
本実施例の弾性スペーサ10は、関節を形成する2つの骨の間に独立して設置されてもよく、一定の緩衝及び摩耗低減の機能を奏して、骨の間の接触面積を増加させるという効果を達成することができる。
【0038】
実施例2の関節スペーサプロテーゼは、実施例1に比べて、主に関節液通路の配置方式及び給液方式が変更されている。図8図15に示すように、実施例2の弾性スペーサ10において、弾性基体の下面に関節液収容溝が設置され、流入通路13の開口が関節液収容溝の底部に設置され、図14に示すように、弾性スペーサ10が荷重によって押し付けられると、関節液収容溝とスペーサ基体20との間に密封空間が形成され、関節液が上向きに収容室11及び流通路12を通過して第1の接触面に排出され、第1の接触面と大腿骨顆部との間の摩擦を低下させることができ、図13に示すように、弾性スペーサ10の受けた荷重が消えると、弾性基体が復元し、関節液収容溝とスペーサ基体20とが分離して関節液通路内に負圧が形成され、関節液が流入通路13を通過して収容室11及び流通路12に入ることができる。このように、膝関節が動くときに関節液が補給されて摩擦面へと注入されるという循環を達成することができる。
【0039】
図15に示すように、本実施例のスペーサ基体20の底面に流通溝26が設置され、収容溝21の底部に連通孔27が設置され、流通溝26と連通することにより、関節液が流通溝26及び連通孔27を通過して収容溝21に入ることができる。
【0040】
好ましくは、本実施例では、弾性スペーサ10の弾性、硬さの分布が人体の本来の軟骨組織により近いように、同一の収容室層内にある複数の収容室11の容積が中央部から縁部へと徐々に小さくなる。
【0041】
実施例1及び実施例2の関節スペーサプロテーゼは、双顆膝関節置換術に適用され、実施例3の関節スペーサプロテーゼは、単顆膝関節置換術に適用され、その全体構造が実施例1及び実施例2の関節スペーサプロテーゼに類似し、ここで説明を省略する。
【0042】
実施例4の関節スペーサプロテーゼは、大腿骨顆部の代替物であり、単顆膝関節置換術に適用され、スペーサ基体20が大腿骨顆部4に設置され、弾性スペーサ10がスペーサ基体20に設置される。
【0043】
本願はさらに、関節プロテーゼを提供し、図9図11に示すように、本実施例の関節プロテーゼは、関節スペーサプロテーゼ2、脛骨プラトープロテーゼ3及び大腿骨顆部プロテーゼ1を含む膝関節プロテーゼである。関節スペーサプロテーゼ2は、上記技術的特徴の一部又は全部を含む関節スペーサプロテーゼであり、本実施例の関節プロテーゼは、接触面の間の圧力度が小さく、耐用年数が長いという利点を有する。
【0044】
理解できるように、本実施例の技術的思想を肩関節、寛骨関節などの他の関節構造に応用することもできる。
【0045】
以上の説明から分かるように、本発明の上記実施例は、以下の技術的効果を達成する。
【0046】
弾性スペーサ内に所定の方式で関節液通路を配置し、弾性基体の硬さが中央部から縁部に向かって徐々に上昇するとともに、弾性が中央部から縁部に向かって徐々に低下するように、関節液通路の断面形状、孔径、長さ、容積、位置及び配置方向並びに疎密度などのパラメータを調整することにより、弾性スペーサにおける各々異なる所定の部位で異なる弾性及び硬さ指標を実現し、弾性スペーサをできるだけ人体の関節の力学的特性に接近させるようにして、関節が動く時に弾性スペーサと関節骨とを十分に接触させ、さらに接触面の間の圧力度を理想的な範囲内に保持し、関節スペーサプロテーゼの使用効果及び耐用年数を保証することができる。
【0047】
以上の記載は、本発明の好ましい実施例に過ぎず、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明に対する様々な変更と変化を行うことができる。本発明の精神及び要旨を逸脱しない範囲において行われる任意の修正、等効置換、改良などは、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるべきである。
【符号の説明】
【0048】
1、大腿骨顆部プロテーゼ、2、関節スペーサプロテーゼ、3、脛骨プラトープロテーゼ、4、大腿骨顆部、5、膝蓋骨構造、10、弾性スペーサ、11、収容室、11a、収容室、11b、収容室、11c、収容室、12、流通路、12b、流通路、12c、流通路、12d、流通路、13、流入通路、14、逆止弁、15、位置決め凸部、20、スペーサ基体、21、収容溝、23、補強リング収容溝、25、位置決め溝、26、流通溝、27、連通孔、28、連通通路、29、膝蓋骨溝、30、補強リング、31、整合層、32、隔離層、33、浸入層。
図1
図2
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