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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】多成分試料における物質の構造決定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/20025 20180101AFI20220126BHJP
   G01N 23/207 20180101ALI20220126BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20220126BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20220126BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
G01N23/20025
G01N23/207
G01N30/02 N
G01N30/26 A
G01N30/88 W
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020183312
(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公開番号】P2021119337
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2020-11-02
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2019200020
(32)【優先日】2019-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020014066
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107342
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 修孝
(74)【代理人】
【識別番号】100155631
【弁理士】
【氏名又は名称】榎 保孝
(74)【代理人】
【識別番号】100137497
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100217294
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 尚和
(72)【発明者】
【氏名】谷口 慈将
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真由佳
(72)【発明者】
【氏名】北田 直也
(72)【発明者】
【氏名】三田 穂高
(72)【発明者】
【氏名】西村 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】武士 恵里子
【合議体】
【審判長】井上 博之
【審判官】渡戸 正義
【審判官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-172593(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103382185(CN,A)
【文献】国際公開第2020/105718(WO,A1)
【文献】堀川愛晃,「超臨界流体グロマトグラフィー(SFC)の有効的な使い方」,CHROMATOGRAPHY,2011年12月,Vol.32, No.3,p.153-159,http://chromsoc.jp/Journal/pdf/32-3_153.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N23/00-23/2276
G01N33/00-33/96
G01N1/00-1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上の物質の混合物に含まれる対象物質の構造を決定する方法であって、(A)前記混合物から対象物質を超臨界流体クロマトグラフィーにより分離する工程と、(B)分離した対象物質を結晶スポンジに浸漬させて結晶構造解析用試料を作製する工程と、(C)前記結晶構造解析用試料の結晶構造解析を行う工程とを含んでなり、工程(B)において工程(A)で分離した対象物質を含む前記超臨界流体クロマトグラフィーの移動相の溶媒を結晶スポンジに浸漬させて、対象物質を結晶スポンジの細孔内に捕捉させることにより、工程(A)と工程(B)を連続して実施するものであり、前記対象物質が揮発性化合物であり、前記超臨界流体クロマトグラフィーの移動相の溶媒が水を含まない揮発性溶媒である、方法。
【請求項2】
工程(A)を実施する装置と工程(B)を実施する装置とを連結して工程(A)および工程(B)を実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
2種以上の物質の混合物に含まれる対象物質の構造を決定する方法であって、(A)前記混合物から対象物質を超臨界流体クロマトグラフィーにより分離する工程と、(B)分離した対象物質を結晶スポンジに浸漬させて結晶構造解析用試料を作製する工程と、(C)前記結晶構造解析用試料の結晶構造解析を行う工程とを含んでなり、工程(B)において工程(A)で分離した対象物質を含む前記超臨界流体クロマトグラフィーの移動相の溶媒を結晶スポンジに浸漬させて、対象物質を結晶スポンジの細孔内に捕捉させることにより、工程(A)と工程(B)を連続して実施するものであり、前記超臨界流体クロマトグラフィーの移動相の溶媒が少なくともメタノール、エタノール、アセトニトリル、イソプロパノールおよびメチル-tert-ブチルエーテルからなる群から選択される1種または2種以上を含むものである(但し、前記超臨界流体クロマトグラフィーの移動相の溶媒は水を含まない)、方法。
【請求項4】
前記結晶スポンジが、[(ZnX(tpt)・(solvent)タイプ(ここで、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素などのハロゲン原子を表し、tptは2,4,6-トリ(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジンを表し、solventは細孔に内包された溶媒を表し、aは0以上の任意の数を表し、nは任意の正の整数を表す)、[CuBr(btt)]タイプ(ここで、bttはベンゼン-1,3,5-トリイルトリイソニコチン酸を表す)、[Co(R-man)(bpy)](NOタイプ(ここで、R-manは(R)-マンデル酸を表し、bpyは4,4’-ビピリジンを表す)および[Co(S-man)(bpy)](NOタイプ(ここで、S-manは(S)-マンデル酸を表し、bpyは4,4’-ビピリジンを表す)からなる群から選択される1種または2種以上である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記超臨界流体クロマトグラフィーに用いるカラムの内径が4.6mm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(A)を実施する装置と前記工程(B)を実施する装置とをシームレスに接続して、工程(A)、工程(B)および工程(C)を実施する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記混合物に含まれる対象物質のオクタノール/水分配係数(log Pow)が-4.6以上である、請求項3~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記対象物質が鏡像異性体である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多成分試料における物質の構造決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多成分試料の定性分析は、創薬、食品、化粧品、材料科学などあらゆる産業界で実施されており、研究開発、商品開発における必要不可欠なプロセスである。多成分試料の定性分析は、多成分中から化学物質を分離するステップと分離した化学物質の構造を決定、すなわち分離した化学物質を同定するステップから成り、一般的には容易ではない。化学物質を分離する手法としては、例えばガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、キャピラリー電気泳動などがある。GCは分離能に優れるが、分析対象試料が熱に安定な揮発性化合物に限定されるという制約を伴い、キャピラリー電気泳動は水溶性のイオン化合物に限定されるという制約を伴う。HPLCは分析対象試料の制約が上述の手法に比べて少ないため、多成分試料における化学物質の分離手法として広く普及している。
【0003】
近年、多成分試料における化学物質の分離手法として超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)が注目されている。SFCは、移動相に超臨界流体状態の二酸化炭素を用いるため、HPLCと比べて移動相に使用する有機溶剤量を圧倒的に削減することが可能で、低炭素社会の実現という社会的ニーズの観点から環境負荷が少ない分離分析手法として注目されている。また、分離能が高く、高速分析が可能であるだけでなく、幅広い極性の化学物質の分離が可能で、GCが得意とする揮発性化合物などの低極性化合物からHPLCで分析されている高極性化合物まで分離対象とし得る(非特許文献1~3)。さらに、キラルカラムと組み合わせた鏡像異性体の分離分析にも優れる(非特許文献4)。
【0004】
一方、多成分分析の定性分析における分離した化学物質を同定するステップに関しては、ガスクロマトグラフィー(GC)の場合は、EI-MS検出器と組み合わせることで分離した化学物質のMSスペクトル情報を得ることができ、検出頻度が高い既知成分についてはMSスペクトル情報がライブラリーとして整備されているため、分離した化学物質のMSスペクトルをライブラリー登録化合物と比較することで、化学物質の同定が可能なケースも多い。しかし、新規化合物などライブラリーに登録されていない化学物質を同定することはできず、また鏡像異性体の絶対立体配置を決定することもできない。HPLCの場合は、一般的にはAPCI-MS検出器やESI-MS検出器を組み合わせるが、イオン化の原理上、測定機種や条件によってフラグメントイオンの生成パターンが異なることから、得られる情報は限定的であり、GC-EIMSのように化学物質の同定を行うことは容易でない。そのため、検出器にNMRを組み合わせたHPLC-NMR法が実用化されている。感度が低く、移動相に重水素化溶媒が必要になるため、高コストな手法ではあるものの、未知化学物質の構造が推定できる場合もある。これらに対しSFCの場合は、EI-MS検出器との組合せ、NMRとの組合せ、いずれも実用化されておらず、GCやHPLCに比べると分離した化学物質の同定力に劣る。
【0005】
このように、様々な化学物質を含む多成分試料の定性分析は、依然として改善の余地を残すものであった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】J. Chromatogr. A, 2012, 1266, 143-148
【文献】J. Agric. Food Chem. 2015, 63(18), 4457-4463
【文献】J. Chromatogr. A, 2014, 1362, 270-277
【文献】Anal. Chim. Acta, 2014, 821, 1-33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、多成分試料における物質の構造を決定する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、多成分試料における対象物質の同定方法について鋭意検討を重ねていたところ、超臨界流体クロマトグラフィー(以下、単に「SFC」ということがある)と結晶スポンジ(以下、単に「CS」ということがある)法を併用することで、多成分試料からの対象物質の分離と、分離した物質の同定が可能であること、さらにMSやNMRでは不可能である絶対立体配置の決定が可能であること、すなわち鏡像異性体の同定が可能であることを見出した。本発明者らはまた、内径4.6mm以下のカラムを用いた分析スケールのSFCとCS法を併用して対象物質の絶対立体配置決定を含む構造決定が可能であること、さらには、これに加えて、SFCの移動相(モディファイア溶媒およびメークアップ溶媒を含む)に用いる溶媒を結晶スポンジ法の実施が可能な溶媒とすることで、SFCによる分離の工程とCS法による構造決定の工程をオンライン上で連続して実施可能であることを見出した。本発明者らはさらに、SFCの移動相に用いる溶媒と、その溶媒に対して耐性がある結晶スポンジの組合せを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0009】
本発明によれば以下の発明が提供される。
[1]2種以上の物質の混合物に含まれる対象物質の構造を決定する方法であって、(A)前記混合物から対象物質を超臨界流体クロマトグラフィーにより分離する工程と、(B)分離した対象物質を結晶スポンジに浸漬させて結晶構造解析用試料を作製する工程と、(C)前記結晶構造解析用試料の結晶構造解析を行う工程とを含んでなる、方法。
[2]工程(A)において、超臨界流体クロマトグラフィーの移動相として揮発性溶媒を用いる、上記[1]に記載の方法。
[3]工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、分離した対象物質から揮発性溶媒を蒸発させる工程をさらに含む、上記[2]に記載の方法。
[4]工程(A)、工程(B)および工程(C)を連続して実施する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]工程(A)の超臨界流体クロマトグラフィーの移動相に用いる溶媒が、工程(B)の結晶スポンジへの浸漬に使用可能な溶媒である、上記[4]に記載の方法。
[6]工程(A)を実施する装置と工程(B)を実施する装置とをシームレスに接続して、工程(A)、工程(B)および工程(C)を実施する、上記[4]または[5]に記載の方法。
[7]前記混合物に含まれる対象物質のオクタノール/水分配係数(log Pow)が-4.6以上である、上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8]前記対象物質が鏡像異性体である、上記[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
【0010】
本発明の方法によれば、分析が困難な多成分試料(特に様々な極性物質の混合物)において対象物質の構造(特に絶対立体配置)を迅速かつ正確に決定することができる点で有利である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、ラセミ体サンプルであるオメプラゾールをSFCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図2図2は、図1ピーク1を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図3図3は、図1ピーク2を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図4図4は、CS法で観測された図1ピーク1のゲスト構造を示す。
図5図5は、CS法で観測された図1ピーク2のゲスト構造を示す。
図6図6は、ラセミ体サンプルであるrac-(4R,5R)-3,5-ジヒドロキシ-4-(3-メチルブタ-2-エン-1-イル)-2-(3-メチルブタノイル)シクロペンタ-2-エン-1-オンをSFCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図7図7は、図6ピーク1を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図8図8は、図6ピーク2を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図9図9は、CS法で観測された図6ピーク1のゲスト構造を示す。
図10図10は、CS法で観測された図6ピーク2のゲスト構造を示す。
図11図11は、ラセミ体サンプルであるtrans-スチルベンオキサイドをSFCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図12図12は、図11ピーク1を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図13図13は、図11ピーク2を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図14図14は、CS法で観測された図11ピーク1のゲスト構造を示す。
図15図15は、CS法で観測された図11ピーク2のゲスト構造を示す。
図16図16は、メタノールに数日間浸漬した後の[CuBr(btt)]タイプの結晶スポンジの結晶構造を示す(左:非対象単位、右:パッキング構造)。
図17図17は、位置異性体混合物サンプルをSFCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図18図18は、図17ピーク1を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図19図19は、図17ピーク2を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図20図20は、CS法で観測された図17ピーク1のゲスト構造を示す。
図21図21は、CS法で観測された図17ピーク2のゲスト構造を示す。
図22図22は、アセトニトリルに数日間浸漬した後の[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジの結晶構造を示す(左:非対象単位、右:パッキング構造)。
図23図23は、立体異性体混合物サンプルをSFCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図24図24は、図23ピーク1を取り込んだ[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図25図25は、図23ピーク2を取り込んだ[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図26図26は、図23ピーク3を取り込んだ[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図27図27は、[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを用いてCS法で観測された図23ピーク1のゲスト構造を示す。
図28図28は、[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを用いてCS法で観測された図23ピーク2のゲスト構造を示す。
図29図29は、[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを用いてCS法で観測された図23ピーク3のゲスト構造を示す。
図30図30は、図23ピーク1を取り込んだ[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図31図31は、図23ピーク2を取り込んだ[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図32図32は、図23ピーク3を取り込んだ[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図33図33は、[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを用いてCS法で観測された図23ピーク1のゲスト構造を示す。
図34図34は、[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを用いてCS法で観測された図23ピーク2のゲスト構造を示す。
図35図35は、[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを用いてCS法で観測された図23ピーク3のゲスト構造を示す。
図36図36は、揮発性化合物の構造異性体混合物サンプルをSFCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図37図37は、図36ピーク1を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図38図38は、図36ピーク2を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図39図39は、CS法で観測された図36ピーク1のゲスト構造を示す。
図40図40は、CS法で観測された図36ピーク2のゲスト構造を示す。
図41図41は、揮発性化合物の構造異性体混合物サンプルをSFCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図42図42は、図41ピーク1を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図43図43は、図41ピーク2を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図44図44は、CS法で観測された図41ピーク1のゲスト構造を示す。
図45図45は、CS法で観測された図41ピーク2のゲスト構造を示す。
図46図46は、イソプロパノールに数日間浸漬した後の[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジの結晶構造を示す(左:非対象単位、右:パッキング構造)。
図47図47は、揮発性ラセミ体サンプルをSFCで分析した結果(クロマトグラム)を示す。
図48図48は、図47ピーク1を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図49図49は、図47ピーク2を取り込んだ結晶スポンジの結晶構造解析結果(非対称単位、溶媒分子は省略)を示す。
図50図50は、CS法で観測された図47ピーク1のゲスト構造を示す。
図51図51は、CS法で観測された図47ピーク2のゲスト構造を示す。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明は、多成分試料、すなわち、2種以上の物質の混合物に含まれる対象物質の構造を決定する方法である。構造決定の対象となる物質は、工程(A)で分離可能であり、工程(C)で構造解析が可能である物質であれば特に限定されるものではないが、有機化合物が構造決定の主たる対象となり、ペプチドや核酸なども構造決定の対象となる。
【0013】
本発明の方法は、(A)2種以上の物質の混合物から対象物質を超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)により分離する工程と、(B)分離した対象物質を結晶スポンジ(CS)に浸漬させて結晶構造解析用試料を作製する工程と、(C)前記結晶構造解析用試料の結晶構造解析を行う工程とを含んでなるものである。
【0014】
工程(A)では、構造決定の対象物質を混合物からSFCを使用して分離し、対象物質が含まれる溶液を分取する。SFC法は揮発性化合物や、疎水性の高い化合物から親水性化合物まで、幅広い極性の物質を分離することができる。SFCの基本的な操作は公知であり、SFCや高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で通常行われている手順に従って対象物質の分離ないし分取を行うことができる。またSFCを市販の装置を用いて実施する場合にはその操作手順に従って対象物質の分離ないし分取を行うことができる。
【0015】
SFCの移動相は多くの場合、二酸化炭素とともにモディファイアと呼ばれる化合物の分離を調整するための溶媒を添加したものが用いられる。モディファイアには揮発性の有機溶媒、揮発性の酸および揮発性の塩基が用いられることが多い。SFCで分離された対象物質を分取する際、移動相中の二酸化炭素は気化されるため、モディファイア溶媒に溶解した状態となってフラクションコレクタなどに回収される。メークアップ溶媒は、対象物質がカラムで分離してからフラクションコレクタなどに回収される間に別途添加される溶媒であり、対象物質の溶解性を向上する目的などで添加される。分取された対象物質はモディファイア溶媒に溶解した状態であっても、モディファイア溶媒とメークアップ溶媒の混合溶媒に溶解した状態であってもよい。
【0016】
工程(A)でSFCに供される混合物は2種以上の物質を含むものであり、2種以上の物質が含まれる限りその形態は特に限定されるものではない。SFCに供される混合物としては、例えば、食品組成物(飲料組成物を含む)、医薬組成物、ヘルスケア組成物、オーラルケア組成物、香料、天然物(例えば、果実、野菜、香辛料、ハーブなどの食品素材)およびその抽出物、有機合成化合物(例えば、塗料、顔料、農薬、殺虫剤)、生体試料(例えば、血液、尿、唾液、鼻水、生体組織、臓器)、環境試料(例えば、河川水、湖水、海水、土壌)、酵素反応物などが挙げられる。本発明の方法によれば、類似した物質を複数種含む多成分試料に含まれる物質の構造を決定できることから、本発明の方法は類似した物質を複数種含む可能性がある天然物や有機合成化合物に対して好ましくは適用することができる。また、混合物中の対象物質は極性が高い物質であってもよく、例えば、オクタノール/水分配係数(log Pow)の値が-4.6以上の極性物質を対象物質とすることができる。ここで、オクタノール/水分配比率は、オクタノールと水の2相において、ある化合物がオクタノール相に溶解している濃度と、水に溶解している濃度の比(Kow)として定義され、本明細書ではオクタノール/水分配係数としてKowの常用対数であるlog Powを使用する。
【0017】
工程(B)では、工程(A)で分取した対象物質が含まれる溶液を結晶スポンジに浸漬させて結晶構造解析用試料を作製する。ここで結晶スポンジとは、規則正しい細孔構造を有する単結晶であり、例えば、金属有機構造体(MOF)、共有結合性有機構造体(COF)、細孔性有機分子結晶(POMC)、ゼオライトのような無機化合物などから得ることができるが、細孔内に化合物をゲストとして取り込む性質を有する単結晶であれば、その由来について限定されるものではない。金属有機構造体から構成される結晶スポンジとしては、配位性部位を2つ以上有する配位子と中心金属としての金属イオンとを含む三次元ネットワーク構造を有する高分子金属錯体が挙げられる。ここで、「三次元ネットワーク構造」とは、配位子(配位性部位を2つ以上有する配位子およびその他の単座配位子)と金属イオンが結合して形成された構造単位が、三次元的に繰り返されてなる網状の構造をいう。結晶スポンジとして使用可能な金属有機構造体の単結晶は、例えば、Nature 2013, 495, 461-466、Chem. Commun. 2015, 51, 11252-11255、Science 2016, 353, 808-811、Chem. Commun. 2016, 52, 7013-7015、Chem. Asian J. 2017, 12, 208-211、J. Am. Chem. Soc. 2017, 139, 11341-11344、Chem 2017, 3, 281-289、特許第5969616号などに記載されている。単結晶の調製しやすさなどの汎用性を考慮するとNature 2013, 495, 461-466、Chem. Commun. 2015, 51, 11252-11255などに記載されている[(ZnX(tpt)・(solvent)タイプの結晶スポンジが好適である(ここで、Xは、塩素、臭素、ヨウ素、フッ素などのハロゲン原子を表し、tptは2,4,6-トリ(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジンを表し、solventは細孔などに内包された溶媒を表し、aは0以上の任意の数を表し、nは任意の正の整数を表す。以下同様。)。結晶構造解析用試料を調製するために対象物質を結晶スポンジに浸漬させてゲストとして細孔内に取り込ませる方法は、対象物質がゲストとして細孔内に取り込まれる限り、特に限定されるものではない。例えば、IUCrJ 2016, 3, 139-151、Chem. Eur. J. 2017, 23, 15035-15040、CrystEngComm, 2017, 19, 4528-4534、Org. Lett. 2018, 20, 3536-3540、Science 2016, 353, 808-811、Chem. Commun. 2015, 51, 11252-11255などに記載の方法によって対象物質をゲストとして細孔内に取り込ませることができる。
【0018】
用いる結晶スポンジの種類によっては、水の存在により結晶スポンジ自体の構造が破壊されるため、工程(A)で分離された対象物質を含む試料は、工程(B)に供するに当たって水分を含まないものとしてもよい。特に様々な化合物をゲストとして取込め、構造決定の実績に優れる[(ZnX(tpt)・(solvent)タイプの結晶スポンジは溶媒として水が含まれる環境では結晶構造が破壊されるため、水の混入は避ける必要がある。前述のようにSFCはその分離手順において揮発性移動相を用いることから、工程(A)で分離された対象物質を含むフラクションは揮発性溶媒を一部または全部蒸発させた後、直ちに工程(B)の結晶構造解析用試料の作製工程に供することができる点で有利である。
【0019】
すなわち、本発明の方法では工程(A)において、揮発性溶媒(好ましくは水を含まない揮発性溶媒)をSFCの移動相に用いることが好ましい。本発明の方法ではまた、工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、分離した対象物質から揮発性溶媒を一部または全部蒸発させる工程を含んでいてもよい。また、工程(B)では対象物質の濃度を調整するために適宜溶媒を添加してもよい。このような工程を採用することにより、本発明の方法は工程(A)、工程(B)および工程(C)を連続して実施することができる点で有利である。ここで、連続して実施するとは、オフライン上でこれらの操作を連続して実施するのみならず、SFCを実施する装置とCS法を実施する装置を連結し、工程(A)、工程(B)および工程(C)をオンラインで実施することを含む。
【0020】
前記の連続した実施では、工程(A)のSFCの移動相に用いる溶媒(モディファイア溶媒およびメークアップ溶媒を含む)として、工程(B)の結晶スポンジへの浸漬に使用可能な溶媒を使用して実施することができる。すなわち、工程(A)の溶媒は、工程(B)で用いる溶媒と共通のものを用いることができ、あるいは、工程(B)で用いる溶媒と異なるものを用いる場合には、結晶スポンジに悪影響(結晶スポンジの破壊、溶解など)を及ぼさない溶媒を選択することができる。例えば、後記実施例(例5~20)で記載するように、結晶スポンジが溶媒に浸った状態のバイアルなどを工程(B)の前に準備しておき、SFC装置で分離された物質をSFCの移動相に用いる溶媒とともにこのバイアルに直接分取してもよい。この場合、工程(A)の後、かつ、工程(B)の前に、分離した対象物質から揮発性溶媒を一部または全部蒸発させる工程を省略することができることから、工程(A)を実施する装置と工程(B)を実施する装置をシームレスに接続し、対象物質の構造解析を迅速に実施できる点で有利である。特に揮発性化合物は揮発ロスする性質を有するため、微量サンプルの構造解析が困難であるが、工程(A)を実施する装置と工程(B)を実施する装置をシームレスに接続し、混合物から分離した解析対象化合物をそのまま結晶スポンジの細孔内に捕捉させることで、揮発ロスすることなく微量サンプルの構造解析が可能な点で極めて有利である。
【0021】
結晶スポンジに悪影響を与えない溶媒は、例えば、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプの結晶スポンジについてはn-ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素類、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、ジメトキシエタン(DME)などのエーテル類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトン、2-ブタノンなどのケトン類、超臨界、亜臨界、気体または液体状態の二酸化炭素などであり、[CuBr(btt)]タイプの結晶スポンジについては上記炭化水素類、エーテル類、エステル類、ケトン類および二酸化炭素に加えて、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類などであり、[Co(R-man)(bpy)](NOタイプおよび[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジについては上記炭化水素類、エーテル類、エステル類、ケトン類、二酸化炭素およびアルコール類に加えて、アセトニトリルなどのニトリル類などである。さらに結晶スポンジに悪影響を与えない上記溶媒は任意の組合せ、割合で混合して用いてもよい。
【0022】
工程(C)では、工程(B)で作製した結晶解析用試料を結晶構造解析することにより、対象物質の分子構造を決定することができる。結晶構造解析には、X線回折、中性子線回折および電子線回折のいずれの方法も使用することができる。また、測定データの解析、すなわち、対象物質の構造解析は公知の方法に従って実施することができる。例えば、工程(B)と工程(C)は国際公開第2014/038220号やIUCrJ 2016, 3, 139-151の記載に従って実施することができる。
【0023】
本発明の方法によれば、分析が困難な多成分試料において対象物質の構造を迅速かつ正確に決定することができる点で有利である。対象物質が異性体の混合物であっても、それらを分離し、構造を同定し、決定することができる。異性体としては、構造異性体および立体異性体があり、構造異性体には位置異性体などが含まれ、立体異性体には配座異性体および配置異性体が含まれる。また、配置異性体には、鏡像異性体(エナンチオマー)およびジアステレオ異性体(ジアステレオマー)が含まれる。医薬品や機能性表示食品の有効成分あるいは有効成分の候補となる化合物、呈味・香気化合物などは鏡像異性体の一方のみが有効成分として機能する場合があることから、本発明の方法は多成分試料に含まれる化合物の絶対立体配置を迅速かつ正確に決定することができるので非常に有利である。
【実施例
【0024】
以下の例に基づき本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0025】
例1:SFCによるラセミ体サンプルの鏡像異性体分離(1)
例1では、内径10mm以上のカラムの使用が適した分取型のSFC装置を使用してラセミ体サンプルの鏡像異性体分離を行った。
(1)方法
ラセミ体サンプルとして、市販医薬品の有効成分であり、一般試薬として入手可能なオメプラゾール(東京化成工業社)を用いた。オメプラゾール(ラセミ体)をメタノールで10mg/mLに調製し、以下の条件で超臨界流体クロマトグラフィー(SFC)(Waters Thar Supercritical Fluid Chromatography System、Waters社)に供した。
【0026】
【表1】
【0027】
(2)結果
上記条件で分析したクロマトグラムの結果は、図1に示す通りであった。オメプラゾールの2種の鏡像異性体を5分以内に分離度:10.5の高分離度で分離することができた。
【0028】
例2:CS法による絶対立体構造決定(1)
例2では、例1で分離、分取したラセミ体化合物の2種の鏡像異性体についてCS法により絶対立体構造の決定を行った。
【0029】
(1)方法
例1の図1に示す2つのピーク(ピーク1および2)の各成分を分取し、一部(40μg相当)をV底型1.2mLバイアルに移し、溶出液であるメタノール(MeOH)を窒素気流下で蒸発させた。その後、結晶スポンジ1粒(大きさを100μm×100μm×100μmとし、密度を1.3g/cmとしたときの理論量:1.3μg)をメチル-t-ブチルエーテル(MTBE)およびジメトキシエタン(DME)(体積比9:1)の混合溶媒20μLとともに添加した。バイアルに蓋をし、50℃で1日インキュベートした後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定した。
【0030】
結晶スポンジはChem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って作製した、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプのものを用いた。結晶スポンジは使用前までn-ヘキサン(n-hexane)に浸して保存し、使用直前に上記MTBE/DME混合溶媒に置換してから実験に用いた。
【0031】
測定データは、Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って解析した。
【0032】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例1の図1のピーク1、ピーク2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
ピーク1および2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図2および図3にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図4および図5に示した。これらの結果から、ピーク1の鏡像異性体がオメプラゾールのS体、ピーク2がオメプラゾールのR体と決定、同定することができた。
【0035】
例3:SFCによるラセミ体サンプルの鏡像異性体分離(2)
例3では、内径4.6mm以下のカラムの使用が適した分析スケールのSFC装置(Shimadzu Nexera UC(島津製作所社))にフラクションコレクタ(FRC-40 SF(島津製作所社))を併用してラセミ体サンプルの鏡像異性体分離を行った。
【0036】
(1)方法
ラセミ体天然物サンプルとして、J. Inst. Brew. 1990, 96, 137-141に記載の方法に従って、rac-(4R,5R)-3,5-ジヒドロキシ-4-(3-メチルブタ-2-エン-1-イル)-2-(3-メチルブタノイル)シクロペンタ-2-エン-1-オン(rac-(4R,5R)-3,5-dihydroxy-4-(3-methylbut-2-en-1-yl)-2-(3-methylbutanoyl)cyclopent-2-en-1-one)(本化合物は互変異性化により、rac-(4R,5R)-3,4-ジヒドロキシ-5-(3-メチルブタ-2-エン-1-イル)-2-(3-メチルブタノイル)シクロペンタ-2-エン-1-オン(rac-(4R,5R)-3,4-dihydroxy-5-(3-methylbut-2-en-1-yl)-2-(3-methylbutanoyl)cyclopent-2-en-1-one)の構造をとりうる)を調製した。本ラセミ体化合物をメタノールで86mg/mLに調製し、表3の条件でSFCに供した。SFC装置はShimadzu Nexera UC(島津製作所社)を用い、分離した化合物は、フラクションコレクタFRC-40 SF(島津製作所社)により回収した。サンプルの回収効率を上げるために、フラクションコレクタにメークアップ溶媒を一定流量で添加した。
【0037】
【表3】
【0038】
(2)結果
上記条件で分析したクロマトグラムの結果は、図6に示す通りであった。本ラセミ体化合物の2種の鏡像異性体を10分以内に分離度2.0で分離することができた。
【0039】
例4:CS法による絶対立体構造決定(2)
例4では、例3で分離、分取したラセミ体化合物の2種の鏡像異性体についてCS法により絶対立体構造の決定を行った。
【0040】
(1)方法
例3の図6に示す2つのピーク(ピーク1および2)の各成分を分取し、一部(1回の分取量の約1/40量である5μg相当)をV底型1.2mLバイアルに移し、溶出液である移動相Bとメークアップ溶媒の混合溶液(メタノール、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸から成る)を窒素気流下で蒸発させた。その後、結晶スポンジ1粒(大きさを100μm×100μm×100μmとし、密度を1.3g/cmとしたときの理論量:1.3μg)をn-ヘキサン50μLとともに添加した。バイアルに蓋をし、蓋に注射針を刺して50℃でインキュベートし、溶媒を緩やかに揮発させた。1日後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定した。
【0041】
結晶スポンジはChem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って作製した、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプのものを用いた。結晶スポンジは使用前までn-ヘキサン(n-hexane)に浸して保存した。
【0042】
測定データは、Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って解析した。
【0043】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例3の図6のピーク1、ピーク2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表4に示す。
【0044】
【表4】
【0045】
ピーク1および2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図7および図8にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図9および図10に示した。これらの結果から、ピーク1の鏡像異性体が(4S,5S)-3,5-ジヒドロキシ-4-(3-メチルブタ-2-エン-1-イル)-2-(3-メチルブタノイル)シクロペンタ-2-エン-1-オン)((4S,5S)-3,5-dihydroxy-4-(3-methylbut-2-en-1-yl)-2-(3-methylbutanoyl)cyclopent-2-en-1-one)、ピーク2の鏡像異性体が(4R,5R)-3,5-ジヒドロキシ-4-(3-メチルブタ-2-エン-1-イル)-2-(3-メチルブタノイル)シクロペンタ-2-エン-1-オン)((4R,5R)-3,5-dihydroxy-4-(3-methylbut-2-en-1-yl)-2-(3-methylbutanoyl)cyclopent-2-en-1-one)と決定、同定することができた。例3および例4の結果から、分析スケールのSFC装置を使用した場合であっても、すなわち対象物質の精製量が数十μg程度であっても、本発明による方法により対象物質の構造決定が可能であることが確認された。
【0046】
例5:SFCによるラセミ体サンプルの鏡像異性体分離(3)
例5では、例3と同様のSFC装置およびフラクションコレクタを使用し、分離溶媒にはCS法に用いる溶媒と同様のものを使用してラセミ体サンプルの鏡像異性体分離を行った。
【0047】
(1)方法
ラセミ体サンプルとして、一般試薬として入手可能なtrans-スチルベンオキサイドのラセミ体(東京化成工業)を用いた。trans-スチルベンオキサイド(ラセミ体)をメチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)で10mg/mLに調製し、表5の条件でSFCに供した。例3と同様に、SFC装置はShimadzu Nexera UC(島津製作所社)を用い、分離した化合物は、フラクションコレクタFRC-40 SF(島津製作所社)により回収した。サンプルの回収効率を上げるために、フラクションコレクタにメークアップ溶媒を一定流量で添加した。
【0048】
【表5】
【0049】
上記条件で分析したクロマトグラムの結果は、図11に示す通りであった。本ラセミ体化合物の2種の鏡像異性体を3分以内に分離度2.4で分離することができた。
【0050】
例6:CS法による絶対立体構造決定(3)
例6では、例5で分離、分取したラセミ体化合物の2種の鏡像異性体についてCS法により絶対立体構造の決定を行った。
【0051】
(1)方法
Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って作製した、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプの結晶スポンジ1粒(大きさを100μm×100μm×100μmとし、密度を1.3g/cmとしたときの理論量:1.3μg)をV底型1.2mLバイアルにn-ヘキサンとともに移した。n-ヘキサンを除去し、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)を50μL添加し、結晶スポンジ内の溶媒をMTBEに置換した。このバイアルを複数本用意し、フラクションコレクタにセットした。
【0052】
例5の図11に示す2つのピーク(ピーク1および2)の各成分を上述の結晶スポンジが入ったバイアルに直接分取した(各ピーク約10μg)。50℃で50μL程度まで溶媒を揮発させた後、バイアルに蓋をして、注射針を蓋に刺して50℃でインキュベートすることで緩やかに残溶媒を揮発させた。1日後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定した。
【0053】
測定データは、Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って解析した。
【0054】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例5の図11のピーク1、ピーク2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
ピーク1および2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図12および図13にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図14および図15に示した。これらの結果から、ピーク1の鏡像異性体がtrans-スチルベンオキサイドのRR体((2R,3R)-2,3-ジフェニルオキシラン)、ピーク2がtrans-スチルベンオキサイドのSS体((2S,3S)-2,3-ジフェニルオキシラン)と決定、同定することができた。例5および例6の結果から、結晶スポンジが入ったバイアルにSFCで分離した化合物を直接回収し、結晶スポンジに取り込ませ、構造解析することが可能であることが確認された。
【0057】
例7:メタノール耐性結晶スポンジの作製
SFCの分離溶媒としてメタノールを使用する場合には、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプの結晶スポンジはメタノール耐性がなくSFCとCS法をシームレスに実施することができなかった。そこで、例7では、メタノールに耐性のある結晶スポンジの作製について検討した。
【0058】
(1)方法
Chem. Asian J. 2017, 12, 208-211に記載の方法に従って、ベンゼン-1,3,5-トリイルトリイソニコチン酸(btt)とCuBrから合成した[CuBr(btt)]タイプの結晶スポンジを作製した。この結晶スポンジを数日間メタノールに浸漬した後、その結晶構造を解析した。
【0059】
(2)結果
Chem. Asian J. 2017, 12, 208-211では、[CuBr(btt)]タイプの結晶スポンジは、メタノールに浸漬するとひび割れし、分析に適した良好な回折が得られないと報告されていた。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、本例で作製した[CuBr(btt)]タイプの結晶スポンジは、驚くことにメタノールに数日間浸漬した後であっても、結晶構造を精度よく測定、観測することが可能であることを見出した(図16)。
【0060】
例8:SFCによる位置異性体混合物サンプルの分離
例8では、例3と同様のSFC装置およびフラクションコレクタを使用し、分離溶媒にはCS法に用いる溶媒と同様のものを使用して位置異性体混合物サンプルの分離を行った。
【0061】
(1)方法
位置異性体混合物サンプルとして、1-アセチルナフタレン(東京化成工業)および2-アセチルナフタレン(東京化成工業)を用い、メタノール(MeOH)で各化合物が20mg/mL含まれる溶液を調製し、表7の条件でSFCに供した。例3と同様に、SFC装置はShimadzu Nexera UC(島津製作所社)を用い、分離した化合物は、フラクションコレクタFRC-40 SF(島津製作所社)により回収した。サンプルの回収効率を上げるために、フラクションコレクタにメークアップ溶媒を一定流量で添加した。
【0062】
【表7】
【0063】
(2)結果
上記条件で分析したクロマトグラムの結果は、図17に示す通りであった。本例で用いた位置異性体混合物サンプル(2種の位置異性体化合物)を6分以内に分離することができた。
【0064】
例9:CS法による位置異性体構造決定
例9では、例8で分離、分取した2種の位置異性体化合物について、例7で作製した結晶スポンジを用いてCS法により構造決定を行った。
【0065】
(1)方法
例7で作製した[CuBr(btt)]タイプの結晶スポンジ1粒(大きさを100μm×100μm×100μmとし、密度を1.5g/cmとしたときの理論量:1.5μg、使用前までクロロホルム中で保存)をV底型1.2mLバイアルにクロロホルムとともに移した。クロロホルムを除去し、メタノールを50μL添加し、結晶スポンジ内の溶媒をメタノールに置換した。このバイアルを複数本用意し、フラクションコレクタにセットした。
【0066】
例8の図17に示す2つのピーク(ピーク1および2)の各成分を上述の結晶スポンジが入ったバイアルに直接分取した(各ピーク約100μg)。50℃で20μL程度まで溶媒を揮発させた後、バイアルに蓋をしてさらに50℃で4日間インキュベートした。4日後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定した。
【0067】
測定データは、Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040およびChem. Asian J. 2017, 12, 208-211に記載の方法に準じて解析した。
【0068】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例8の図17のピーク1、ピーク2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表8に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
ピーク1および2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図18および図19にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図20および図21に示した。これらの結果から、ピーク1の位置異性体が1-アセチルナフタレン、ピーク2の位置異性体が2-アセチルナフタレンと決定、同定することができた。例8および例9の結果から、メタノール耐性のある結晶スポンジを用いることで、結晶スポンジが入ったバイアルにSFC(移動相にメタノールを含む)で分離した化合物を直接回収し、結晶スポンジに取り込ませ、構造解析することが可能であることが確認された。
【0071】
例10:アセトニトリル耐性結晶スポンジの作製
SFCの分離溶媒としてアセトニトリルを使用する場合には、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプの結晶スポンジはアセトニトリル耐性がなくSFCとCS法をシームレスに実施することができなかった。そこで、例10では、アセトニトリルに耐性のある結晶スポンジの作製について検討した。
【0072】
(1)方法
J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 12045-12049に記載の方法に従って、4,4’-ビピリジン(bpy)、(S)-マンデル酸(S-man)または(R)-マンデル酸(R-man)と、Co(NOから合成した[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジおよび[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを作製した。これらの結晶スポンジを数日間アセトニトリルに浸漬した後、その結晶構造を解析した。
【0073】
(2)結果
[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジおよび[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジは、アセトニトリルに数日間浸漬した後であっても、結晶構造を精度よく測定、観測することが可能であることを見出した(図22)。
【0074】
例11:SFCによる立体異性体混合物サンプルの分離
例11では、例3と同様のSFC装置およびフラクションコレクタを使用し、分離溶媒にはCS法に用いる溶媒と同様のものを使用して立体異性体混合物サンプルの分離を行った。
【0075】
(1)方法
立体異性体混合物サンプルとして、RR体とSS体等量混合物のrac-ヒドロベンゾイン(東京化成工業)およびmeso-ヒドロベンゾイン(東京化成工業)を用い、アセトニトリル(MeCN)でそれぞれが20mg/mL(ラセミ体として)および10mg/mL含まれる溶液を調製し、表9の条件でSFCに供した。例3と同様に、SFC装置はShimadzu Nexera UC(島津製作所社)を用い、分離した化合物は、フラクションコレクタFRC-40 SF(島津製作所社)により回収した。サンプルの回収効率を上げるために、フラクションコレクタにメークアップ溶媒を一定流量で添加した。
【0076】
【表9】
【0077】
(2)結果
上記条件で分析したクロマトグラムの結果は、図23に示す通りであった。本例で用いた立体異性体混合物サンプル(3種の立体異性体化合物)を5XX分以内に分離することができた。
【0078】
例12:CS法による立体異性体構造決定(1)
例12では、例11で分離、分取した3種の立体異性体化合物について、例10で作製した[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを用いてCS法により構造決定を行った。
【0079】
(1)方法
例10で作製した[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジ1粒(大きさを100μm×100μm×100μmとし、密度を1.4g/cmとしたときの理論量:1.4μg、使用前までクロロホルム中で保存)をV底型1.2mLバイアルにクロロホルムとともに移した。クロロホルムを除去し、アセトニトリルを50μL添加し、結晶スポンジ内の溶媒をアセトニトリルに置換した。このバイアルを複数本用意し、フラクションコレクタにセットした。
【0080】
例11の図23に示す3つのピーク(ピーク1、2および3)の各成分を上述の結晶スポンジが入ったバイアルに直接分取した(各ピーク約100μg)。50℃で20μL程度まで溶媒を揮発させた後、バイアルに蓋をしてさらに50℃で3日間インキュベートした。3日後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定した。
【0081】
測定データは、Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040およびJ. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 12045-12049に記載の方法に準じて解析した。
【0082】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例11の図23のピーク1、ピーク2、ピーク3として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表10に示す。
【0083】
【表10】
【0084】
ピーク1、2および3として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図24図25および図26にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図27図28および図29に示した。これらの結果から、ピーク1の立体異性体が(S,S)-ヒドロベンゾイン、ピーク2の立体異性体がmeso-ヒドロベンゾイン、ピーク3の立体異性体が(R,R)-ヒドロベンゾインと決定、同定することができた。例11および例12の結果から、アセトニトリルに耐性がある結晶スポンジを用いることで、結晶スポンジが入ったバイアルにSFC(移動相にアセトニトリルを含む)で分離した化合物を直接回収し、結晶スポンジに取り込ませ、構造解析することが可能であることが確認された。
【0085】
例13:CS法による立体異性体構造決定(2)
例13では、例11で分離、分取した3種の立体異性体化合物について、例10で作製した[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを用いてCS法により構造決定を行った。
(1)方法
例12で用いた[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジをその鏡像異性体である[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジに変更したこと以外は例12と同様の方法で分析、解析を行った。
【0086】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例11の図23のピーク1、ピーク2、ピーク3として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表11に示す。
【0087】
【表11】
【0088】
ピーク1、2および3として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図30図31および図32にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図33図34および図35に示した。これらの結果から、ピーク1の立体位置異性体が(S,S)-ヒドロベンゾイン、ピーク2の立体異性体がmeso-ヒドロベンゾイン、ピーク3の立体異性体が(R,R)-ヒドロベンゾインと決定、同定することができた。例11および例13の結果から、アセトニトリル耐性のある結晶スポンジを用いることで、結晶スポンジが入ったバイアルにSFC(移動相にアセトニトリルを含む)で分離した化合物を直接回収し、結晶スポンジに取り込ませ、構造解析することが可能であることが確認された。
【0089】
なお、[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジにピーク1を取り込ませた結晶構造と、[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジにピーク3を取り込ませた結晶構造は鏡像の関係にある。同様に、[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジにピーク3を取り込ませた結晶構造と[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジにピーク1を取り込ませた結晶構造は鏡像の関係にある。さらに、[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジにピーク2を取り込ませた結晶構造と、[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジにピーク2を取り込ませた結晶構造も鏡像の関係にある。
【0090】
例14:SFCによる揮発性の構造異性体混合物サンプルの分離(1)
例14では、例3と同様のSFC装置およびフラクションコレクタを使用し、分離溶媒にはCS法に用いる溶媒と同様のものを使用して揮発性化合物の構造異性体混合物サンプルの分離を行った。
【0091】
(1)方法
構造異性体混合物サンプルとして、揮発性の高いモノテルペンである(+)-イソメントン(東京化成工業)および(-)-イソプレゴール(シグマアルドリッチ)を用い、MTBEで各化合物が10mg/mL含まれる溶液を調製し、表12の条件でSFCに供した。例3と同様に、SFC装置はShimadzu Nexera UC(島津製作所社)を用い、分離した化合物は、フラクションコレクタFRC-40 SF(島津製作所社)により回収した。サンプルの回収効率を上げるために、フラクションコレクタにメークアップ溶媒を一定流量で添加した。
【0092】
【表12】
【0093】
(2)結果
上記条件で分析したクロマトグラムの結果は、図36に示す通りであった。本例で用いた構造異性体混合物サンプル(2種の揮発性モノテルペン化合物)を7分以内に分離することができた。
【0094】
例15:CS法による絶対立体構造決定
例15では、例14で分離、分取した揮発性モノテルペン化合物の2種の構造異性体についてCS法により絶対立体構造の決定を行った。
【0095】
(1)方法
Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って作製した、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプの結晶スポンジ1粒(大きさを100μm×100μm×100μmとし、密度を1.3g/cmとしたときの理論量:1.3μg)をV底型1.2mLバイアルにn-ヘキサンとともに移した。n-ヘキサンを除去し、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)を50μL添加し、結晶スポンジ内の溶媒をMTBEに置換した。このバイアルを複数本用意し、フラクションコレクタにセットした。
【0096】
例14の図36に示す2つのピーク(ピーク1および2)の各成分を上述の結晶スポンジが入ったバイアルに直接分取した(各ピーク約200μg)。50℃で50μL程度まで溶媒を揮発させた後、バイアルに蓋をして、注射針を蓋に刺して50℃でインキュベートすることで緩やかに残溶媒を揮発させた。1日後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定した。
【0097】
測定データは、Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って解析した。
【0098】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例14の図36のピーク1、ピーク2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表13に示す。
【0099】
【表13】
【0100】
ピーク1および2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図37および図38にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図39および図40に示した。これらの結果から、ピーク1が(+)-イソメントン((2R,5R)-5-メチル-2-(プロパン-2-イル)シクロヘキサノン)、ピーク2が(-)-イソプレゴール((1R,2S,5R)-2-イソプロペニル-5-メチルシクロヘキサノール)と決定、同定することができた。例14および例15の結果から、結晶スポンジが入ったバイアルにSFCで分離した揮発性化合物を直接回収し、結晶スポンジに取り込ませ、構造解析することが可能であることが確認された。
【0101】
例16:SFCによる揮発性の構造異性体混合物サンプルの分離(2)
例16では、例3と同様のSFC装置およびフラクションコレクタを使用し、分離溶媒にはCS法に用いる溶媒と同様のものを使用して揮発性化合物の構造異性体混合物サンプルの分離を行った。
(1)方法
構造異性体混合物サンプルとして、揮発性セスキテルペンである(+)-β-ユーデスモール(富士フイルム和光純薬)および(-)-α-ビサボロール(シグマアルドリッチ)を用い、MTBEで各化合物が10mg/mL含まれる溶液を調製し、表14の条件でSFCに供した。例3と同様に、SFC装置はShimadzu Nexera UC(島津製作所社)を用い、分離した化合物は、フラクションコレクタFRC-40 SF(島津製作所社)により回収した。サンプルの回収効率を上げるために、フラクションコレクタにメークアップ溶媒を一定流量で添加した。
【0102】
【表14】
【0103】
(2)結果
上記条件で分析したクロマトグラムの結果は、図41に示す通りであった。本例で用いた構造異性体混合物サンプル(2種の揮発性セスキテルペン化合物)を9分以内に分離することができた。
【0104】
例17:CS法による絶対立体構造決定
例17では、例16で分離、分取した揮発性セスキテルペン化合物の2種の構造異性体についてCS法により絶対立体構造の決定を行った。
【0105】
(1)方法
Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って作製した、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプの結晶スポンジ1粒(大きさを100μm×100μm×100μmとし、密度を1.3g/cmとしたときの理論量:1.3μg)をV底型1.2mLバイアルにn-ヘキサンとともに移した。n-ヘキサンを除去し、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)を50μL添加し、結晶スポンジ内の溶媒をMTBEに置換した。このバイアルを複数本用意し、フラクションコレクタにセットした。
【0106】
例16の図41に示す2つのピーク(ピーク1および2)の各成分を上述の結晶スポンジが入ったバイアルに直接分取した(各ピーク約200μg)。50℃で50μL程度まで溶媒を揮発させた後、バイアルに蓋をして、注射針を蓋に刺して50℃でインキュベートすることで緩やかに残溶媒を揮発させた。1日後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定した。
【0107】
測定データは、Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040に記載の方法に従って解析した。
【0108】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例16の図41のピーク1、ピーク2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表15に示す。
【0109】
【表15】
【0110】
ピーク1および2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図42および図43にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図44および図45に示した。これらの結果から、ピーク1が(+)-β-ユーデスモール((3R,4aS)-デカヒドロ-5-メチレン-α,α,8aβ-トリメチル-3β-ナフタレンメタノール)、ピーク2が(-)-α-ビサボロール((2S)-6-メチル-2-[(1S)-4-メチルシクロヘキサ-3-エン-1-イル]ヘプタ-5-エン-2-オール)と決定、同定することができた。例16および例17の結果から、結晶スポンジが入ったバイアルにSFCで分離した揮発性化合物を直接回収し、結晶スポンジに取り込ませ、構造解析することが可能であることが確認された。
【0111】
例18:イソプロパノール耐性結晶スポンジの作製
SFCの分離溶媒としてイソプロパノールを使用する場合には、[(ZnCl(tpt)・(n-hexane)タイプの結晶スポンジはイソプロパノール耐性がなくSFCとCS法をシームレスに実施することができなかった。そこで、例18では、イソプロパノールに耐性のある結晶スポンジの作製について検討した。
【0112】
(1)方法
J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 12045-12049に記載の方法に従って、4,4’-ビピリジン(bpy)、(S)-マンデル酸(S-man)または(R)-マンデル酸(R-man)と、Co(NOから合成した[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジおよび[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジを作製した。これらの結晶スポンジを数日間イソプロパノールに浸漬した後、結晶構造を解析した。
【0113】
(2)結果
[Co(R-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジおよび[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジは、イソプロパノールに数日間浸漬した後であっても、結晶構造を精度よく測定、観測することが可能であることを見出した(図46)。
【0114】
例19:SFCによる揮発性ラセミ体の鏡像異性体分離
例19では、例3と同様のSFC装置およびフラクションコレクタを使用し、分離溶媒にはCS法に用いる溶媒と同様のものを使用して揮発性ラセミ体の鏡像異性体分離を行った。
【0115】
(1)方法
揮発性ラセミ体サンプルとして、揮発性モノテルペンラセミ体であるrac-テルピネン-4-オール(富士フイルム和光純薬)を用い、イソプロパノールで20mg/mLに調製し、表16の条件でSFCに供した。例3と同様に、SFC装置はShimadzu Nexera UC(島津製作所社)を用い、分離した化合物は、フラクションコレクタFRC-40 SF(島津製作所社)により回収した。サンプルの回収効率を上げるために、フラクションコレクタにメークアップ溶媒を一定流量で添加した。
【0116】
【表16】
【0117】
(2)結果
上記条件で分析したクロマトグラムの結果は、図47に示す通りであった。揮発性モノテルペンラセミ体化合物の2種の鏡像異性体を5分以内に分離することができた。
【0118】
例20:CS法による絶対立体構造決定
例20では、例19で分離、分取した鏡像異性体化合物について、例18で作製した結晶スポンジを用いてCS法により絶対立体構造決定を行った。
【0119】
(1)方法
例18で作製した[Co(S-man)(bpy)](NOタイプの結晶スポンジ1粒(大きさを100μm×100μm×100μmとし、密度を1.4g/cmとしたときの理論量:1.4μg、使用前までクロロホルム中で保存)をV底型1.2mLバイアルにクロロホルムとともに移した。クロロホルムを除去し、イソプロパノールを50μL添加し、結晶スポンジ内の溶媒をイソプロパノールに置換した。このバイアルを複数本用意し、フラクションコレクタにセットした。
【0120】
例19の図47に示す2つのピーク(ピーク1および2)の各成分を上述の結晶スポンジが入ったバイアルに直接分取した(各ピーク約200μg)。窒素気流下で緩やかに溶媒を50μL程度まで揮発させた後、バイアルに蓋をして50℃で3日間インキュベートした。3日後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定した。
【0121】
測定データは、Chem. Eur. J.2017,23, 15035-15040およびJ. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 12045-12049に記載の方法に準じて解析した。
【0122】
(2)結果
単結晶X線回折装置による測定と測定データの解析の結果、結晶スポンジに取り込まれたゲスト化合物の構造を観測することができた。例19の図47のピーク1、ピーク2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の結晶データを表17に示す。
【0123】
【表17】
【0124】
ピーク1および2として溶出される化合物を取り込ませた結晶スポンジを解析した際の非対称単位の結晶構造を図48および図49にそれぞれ示す。点線で囲った分子が結晶スポンジに取り込まれたゲストである。また、観測されたゲスト構造のみをそれぞれ図50および図51に示した。これらの結果から、ピーク1の鏡像異性体がS-テルピネン-4-オール((4S)-4-イソプロピル-1-メチル-1-シクロヘキセン-4-オール)、ピーク2の鏡像異性体がR-テルピネン-4-オール((4R)-4-イソプロピル-1-メチル-1-シクロヘキセン-4-オール)と決定、同定することができた。例18、19および例20の結果から、イソプロパノール耐性の結晶スポンジを用いることで、結晶スポンジが入ったバイアルにSFC(移動相にイソプロパノールを含む)で分離した揮発性化合物を直接回収し、結晶スポンジに取り込ませ、構造解析することが可能であることが確認された。
【0125】
例21:イソプロパノールを窒素気流化で除去した場合の、従来の結晶スポンジを使用したCS法による絶対立体構造決定
イソプロパノールは[(ZnCl(tpt)タイプの結晶スポンジを破壊してしまう。そこで、例21では、分取液に含まれるイソプロパノールを窒素気流化により除去する工程を含めた場合に、揮発性化合物のCS法による絶対立体構造決定が可能か検討した。具体的には、次の手順で行った。
【0126】
まず、フラクションコレクタに空のバイアルをセットし、例19の図47に示す2つのピーク(ピーク1および2)の各成分をそこに分取した(各ピーク約200μg)。分取液に含まれるイソプロパノールを窒素気流化で除去した後(イソプロパノールは[(ZnCl(tpt)タイプの結晶スポンジを破壊してしまう)、[(ZnCl(tpt)タイプの結晶スポンジをMTBE50μLとともに添加した。バイアルに蓋をして、注射針を蓋に刺して50℃でインキュベートすることで緩やかに残溶媒を揮発させた。1日後、バイアルから結晶スポンジを取り出し、単結晶X線回折装置(Cu Kα λ=1.5418Å)で測定したが、解析対象化合物を観測することができなかった。その要因として、イソプロパノールを分取液から除去する工程で揮発性解析対象化合物も失われてしまったためではないかと考えられた。
【0127】
したがって、例18、19および20の結果が示すように、SFCとCS法をシームレスに実施することは、微量揮発性化合物を解析する場合に特に有利であることが確認された。

図1
図2
図3
図4
図5
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図7
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図9
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図11
図12
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