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特許7015388電気膜プロセスにおける非対称極性反転のための方法とデバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-25
(45)【発行日】2022-02-02
(54)【発明の名称】電気膜プロセスにおける非対称極性反転のための方法とデバイス
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/469 20060101AFI20220126BHJP
   C02F 1/48 20060101ALI20220126BHJP
   B01D 61/52 20060101ALI20220126BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20220126BHJP
   B01D 61/54 20060101ALI20220126BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20220126BHJP
   B01D 65/08 20060101ALI20220126BHJP
【FI】
C02F1/469
C02F1/48 B
B01D61/52 510
B01D61/46
B01D61/54 510
B01D65/02
B01D65/08
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020524659
(86)(22)【出願日】2017-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 CL2017050033
(87)【国際公開番号】W WO2019014781
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】520020546
【氏名又は名称】インベスティガシオネス・フォレスタレス・ビオフォレスト・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アルバロ・マウリシオ・ゴンザレス・ボーゲル
(72)【発明者】
【氏名】オリ・ペッカ・ヨーツィモ
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・エルヴィン・ボルンハルト・ブラハマン
【審査官】富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/143945(WO,A1)
【文献】特表2011-520588(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0272516(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0342028(US,A1)
【文献】特表2011-525146(JP,A)
【文献】特開2007-190495(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44- 1/48
B01D 61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気膜プロセスにおける膜の表面上のファウリングとスケール発生を軽減し、濃度分極を防ぐために極性を非対称に反転させる方法であって、
一方の電極がアノード(5)として機能し他方の電極がカソード(6)として機能する極性反転に適した一対の電極と、複数の膜とを備える電気膜セルを提供することと、
通常動作条件において一部の素子(8、11)が閉じて他の素子(9、10)が開いて電流の方向を制御して強度を調整するためのHブリッジ構成で少なくとも四つの固体電子素子を備えるバイポーラスイッチを提供すること、
前記電気膜プロセスを行う際のシステムの要求に応じて適用される極性反転パルスの周波数とパルス幅を変更するデバイスを提供することと、
前記電気膜セルにエネルギーを伝達するための一つの電源、又はパルスの強度を調整するために互いに異なる二つの電源であって、一方の電源(1)が通常条件において前記電気膜プロセスを促進し、他方の電源(2)が前記電気膜セルに逆極性パルスを印加することを促進する二つの電源を提供することと、
酸化還元反応が行われるように前記一対の電極に向けて異なる方向で前記バイポーラスイッチに直流を流すことと、
前記電気膜セルの異なる区画に向かうイオンの移動を誘起するように前記一対の電極に電気化学ポテンシャルを発生させることと、
極性を変更することを前記バイポーラスイッチに命令するマイクロコントローラ又はパルス発生器を提供することと、
前記電気膜セルの電圧降下及び/又は電気抵抗を連続的に測定することと、
前記電気膜セルの電圧降下及び/又は電気抵抗の閾値を定めることと、
前記閾値に達すると、可変周波数と短パルス幅を有し好ましくは通常条件での動作の強度よりも大きな強度を有する逆極性非対称パルスを印加することによって、又は一時停止パルスを印加することによって、前記膜を洗浄することと、を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記膜を洗浄するために極性を反転させる必要性を示す電圧降下及び/又は電気抵抗の閾値が前記マイクロコントローラ又はパルス発生器にプログラムされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高強度の非対称逆極性パルスを印加して、前記固体電子素子を反転させ、閉じていた一部の素子(8、11)が開き、開いていた他の素子(9、10)が閉じ、前記一対の電極の極性を反転させ、アノード(5)として機能していた電極がカソードとして機能し、カソード(6)として機能していた電極がアノードとして機能し、10-5~10秒のパルス幅で10-2~10Hzの周波数を有するパルスを印加することによって、前記膜の洗浄が行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
10-2~10秒のパルス幅で10~10秒毎に印加されるパルスに対応する一時停止パルスを印加し、一時停止が適用されている期間において全ての固体電子素子(8、9、10、11)が開くことによって、前記膜の洗浄が行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電気膜プロセスが連続的であり、閾値周波数に達するまで大きくなる周波数でパルスを印加し、動作を停止し、前記膜を完全に洗浄するために10-1~10秒にわたって10~10Hzの高周波パルスを印加することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
定置洗浄(CIP)法で前記膜を完全に洗浄する必要性を示す閾値周波数が、前記電気膜プロセスのデューティサイクルが80.0から99.9%である際に選択されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記膜の洗浄が従来の定置洗浄(CIP)法と共に行われることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
従来のシステムで達成される限界電流密度と比較して限界電流密度を増大させることによって、前記電気膜プロセスを強化することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記電気膜プロセスが、従来の電気透析(ED)と、極性転換方式電気透析(EDR)と、バイポーラ膜電気透析(BMED)と、容量性脱イオン化(CDI)と、電気脱イオン化(EDI)と、逆電気透析(RED)と、微生物燃料電池(MFC)システムと、イオン濃度分極(ICP)を用いた脱塩とのうちから選択されたプロセスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記電気膜プロセスが極性転換方式電気透析(EDR)プロセスであり、反転極性を維持して通常動作を続け、EDRプロセスの各液体流を変化させて、パルス発生を続けることを特徴とする請求項3又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記パルスの強度が調整されない場合に単一の電源が使用され、前記パルスの強度を増大させる場合又は一時停止を行う場合に二つの電源が使用されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記電気膜プロセスが逆電気透析(RED)プロセスであり、塩濃度勾配で生じる電気化学ポテンシャルが電気エネルギーを発生させて、前記電気エネルギーの一部が前記膜の周期的な自浄と定置洗浄(CIP)法とに使用されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項13】
洗浄プロセスが10-2~10Hzの周波数で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記電圧降下及び/又は電気抵抗の閾値が通常条件における値の1.1~10倍であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
電気膜プロセスにおける膜の表面上のファウリングとスケール発生を軽減し、濃度分極を防ぐために極性を非対称に反転させるシステムであって、
一方の電極がアノード(5)として機能し他方の電極がカソード(6)として機能する極性反転に適した一対の電極と、複数の膜とを備える電気膜セル(4)と、
二つの素子(8、11)が閉じて他の二つの素子(9、10)が開いて逆極性パルスの強度を調整するためのHブリッジ構成で少なくとも四つの固体電子素子(8、9、10、11)を備えるバイポーラスイッチ(3)と、
前記電気膜プロセスが行われる際のシステムの要求に応じて印加される逆極性パルスの周波数とパルス幅を変更するデバイスと、
前記電気膜セル(4)にエネルギーを伝達するための一つの電源又はパルスの強度を調整するための互いに異なる二つの電源(1,2)と、
前記電気膜プロセスの変数に応じて前記バイポーラスイッチが極性を変化させることを命令するマイクロコントローラ又はパルス発生器と、を備え、
前記マイクロコントローラが前記バイポーラスイッチ(3)の回路に組み込まれていて、
前記バイポーラスイッチ(3)が前記電源(1、2)の中に位置するか又は前記電源(1、2)と前記電気膜セル(4)との間に位置することを特徴とするシステム。
【請求項16】
前記バイポーラスイッチ(3)が、導入済みの電気膜プロセスシステムの電源(1,2)と電気膜セル(4)との間に位置することを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記電気膜セル(4)が、従来の電気透析(ED)、極性転換方式電気透析(EDR)、バイポーラ膜電気透析(BMED)、容量性脱イオン化(CDI)、電気脱イオン化(EDI)、逆電気透析(RED)、微生物燃料電池(MFC)システム、又は、イオン濃度分極(ICP)を用いた脱塩用のセルに対応することを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項18】
前記電気膜セル(4)の膜がイオン交換膜又はバイポーラ膜に対応していることを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項19】
前記固体電子素子(8、9、10、11)が、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)型又はIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)型のトランジスタで使用される素子に対応していることを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項20】
前記固体電子素子(8、9、10、11)が、多量のエネルギーをセルに供給するために並列で接続されていることを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項21】
前記固体電子素子(8、9、10、11)が、セルの区画の塩濃度勾配によって生じる逆起電力から保護する保護ダイオードを有することを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項22】
前記バイポーラスイッチ(3)に組み込まれているマイクロコントローラが、パルス印加変数を変更するためにシステムからの情報を処理することを特徴とする請求項15に記載のシステム。
【請求項23】
パルスの強度を調整しない場合には単一の電源を使用し、パルスの強度を増大させる場合又は一時停止を適用する場合に二つの電源を使用することを特徴とする請求項17に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、従来の電気透析(ED,electrodialysis)、極性転換方式電気透析(EDR,electrodialysis reversal、膜の自浄のために15~30分毎に極性を反転させる)、バイポーラ膜電気透析(BMED,bipolar membrane electrodialysis)、容量性脱イオン化(CDI,capacitive deionization)、電気脱イオン化(electrodeionization)、逆電気透析(RED,reverse electrodialysis、塩濃度勾配を用いてエネルギーを得る)、微生物燃料電池(MFC,microbial fuel cell)システム、イオン濃度分極(ICP)を用いた脱塩等の電気膜(EM,electromembrane)プロセスにおけるファウリング(汚染)とスケール(水垢)発生の軽減並びに濃度分極の防止、また、上記全てのシステムに関する動作の改善の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
現状では、電気膜プロセスにおけるファウリング及びスケール発生がこの技術の応用を制限するものであって問題となっている。極性反転によるファウリング及びスケール発生の軽減はEDR法において一般的に用いられている手法であり、反転作用を15~30分毎に適用して、その各時点で電気極性を反転させて、脱塩水の区画を濃縮物の区画に変え、またその逆とする。また、この手法は、液流の各流路の変化も要する。これが、複雑な液流と、少なくとも40秒間はかかる自動弁の制御との必要性をもたらす。結果としての時間のロスと逆流による生成物の混合とが、生産全体の5%程度を占める不可避な損失となる。結果として、EDRは、時間のロス、労力、高価な生成物のためにファインケミカルの生産には用いられていない。
【0003】
更に、EMプロセスに固有の現象である濃度分極も、そのシステムの動作を制限する。システムを流れる電流が増加していくと、或る時点において、濃度分極に起因して最終的には限界に達する。EMプロセスの動作において、この値は限界電流密度(LCD,limit current density)と称され、LCDは多数のパラメータに依存するので、通常は実験的に決定される。LCDの値(又はその値以上)で動作していると、水の解離に起因してEMセルのpHが制御不能となり、スケールとファウリングの問題を生じさせる。実際には、LCDの80~90%のみが適用される。LCD値を増やして、プロセスを強化し、使用する膜の面積を減らし、結果として設備のサイズ及び資本コストを減らすことが一般的には望ましいものとなる。
【0004】
直流サイクルの使用が50年以上も前に特許文献1に記載されている。特許文献2には、電気透析における電気パルスの印加が漠然に記載されていて、その方法を実行するためのデバイスについては詳細に言及されていない。特許文献3には、ED、RED、CDI及びMFC用の電気パルスの反転を用いた膜の自浄方法が記載されていて、電気透析デバイスに言及しているが、パルス電場(PEF,pulsed electrical field)を生成するための装置は記載されていない。特許文献3は、逆極性電気パルスを用いて膜を洗浄するためのデバイス及び方法を特許請求しているが、パルス幅の適用のための関数の生成について言及しているだけであり、使用される電子回路についての詳細は全く無く、プロセスのパラメータに基づいた非対称パルスの印加、Hブリッジの使用、パルスの強度と周波数と幅をどのように変調させるのかについては記載されていない。特許文献4には、多様な方法を用いて電気透析の性能を改善するための方法が記載されていて、特にパルス逆極性について記載されている。特許文献4では、パルスの印加のみで電極を洗浄することが記載されていて、システムの電子機器や液体系統は変更する必要がないと記載されているが、Hブリッジの使用、非対称パルスを用いた膜の表面上のファウリングとスケール発生の防止、動作時におけるセルの電気抵抗に対する周波数と強度とパルス幅の変更については言及されていない。
【0005】
更に、特許文献5には、MOSFET及び一つの電源でのハーフブリッジ構成を用いて非対称パルス方形波を生成するための方法が記載されている。この回路は、二つの電源によって電力供給されるHブリッジ(フルブリッジ)の構成とは全く異なる。また、そのデバイスの目的はパルス幅変調(PWM,pulse width modulation)を発生させることであって、EMプロセスへの応用については言及されていない。特許文献6には、非対称パルスを用いたゼロ電圧動作を達成するためのハーフブリッジ構成に基づいたDC/DC(直流/直流)コンバータが記載されている。特許文献6に記載されている回路及び応用は本発明とは全く異なる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第3029196号明細書
【文献】米国特許第8038867号明細書
【文献】国際公開第2010/143945号
【文献】米国特許出願公開第2016/0228820号明細書
【文献】中国特許出願公開第104022676号明細書
【文献】米国特許出願公開対2014/0254204号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、EMプロセスを改善し、ファウリングとスケール発生を減らし、濃度分極現象を防ぐことによってLCD値を増大させ、EDRにおける電気及び液体の極性反転サイクルを改善することを可能にするデバイスが望まれている。これは、極性を反転させるのに適した一対の電極(例えばEDRが有するもの等)と、第二電源と、本願記載のデバイスとを要する。本デバイスは、周波数とパルス幅と強度が可変である非対称逆極性パルスの印加のために電源に組み込まれ得る。非対称との用語は、各システムの要求に応じたパルスの周波数とパルス幅(時間)と強度の動的(ダイナミック)な変更のことを称する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
可変周波数及び強度での電気極性の周期的な反転によって、電気膜技術における汚れを防止することができ、これが、適切な反転電極(二つの電極がアノード又はカソードとして使用可能である)と、第二電源と、この種の応用のために設計されたバイポーラスイッチとを有することで提供される。逆極性パルスは、新たな鉱物スケールや有機物質の汚れの形成を防ぎ、イオン交換膜やバイポーラ膜の不可逆的な損傷を回避する。更に、周期的な逆極性パルスが、乱流を発生させることで濃度分極現象を防ぎ、より大きな限界電流密度(LCD)が達成可能であることに起因してプロセスの強度を高めることができる。また、濃度分極の防止が、pH値の確立に役立ち、スケールの発生を減らす。
【0009】
EMプロセスでは、この極性の変化を、可変周波数で、短パルス幅で、通常動作値よりも高い強度の非対称パルスとして適用しなければならない。従って、EMプロセス用に設計されていて、単純であり、資本コストと導入コストと動作コストに関して低コストである適切なバイポーラスイッチが必要とされる。EDRとは異なり、非対称なパルスを用いることで、液流の変化が必要とされず、結果として複雑な流路を有する自動弁の使用が必要とされない。
【0010】
本バイポーラスイッチは、回転方向を変化させるために電気モータで使用されている手法であるHブリッジ構成に基づく。Hブリッジが電気膜システムに使用されるのは今回が初めてであり、逆極性パルスの強度を調整するための二つの異なる電源によってHブリッジに電力供給する。また、プロセスの特性に応じて周波数と強度とパルス幅が自動的に調整されるのも今回が初めてである。本方法は、多様な電気膜システムの極性反転を可能にして、濃度分極現象を防ぐことによって、化学物質の追加とシステムのメンテナンスを減らし、膜の安定性と寿命を向上させ、プロセスを(高限界電流密度を用いて)強化する。
【0011】
本開示のシステムは、一つ又は二つの電源(電力源又はエネルギー源)と、バイポーラスイッチと、EMセルで構成される。電気膜セルは総称的な用語であって、上述の多様なプロセスのものが含まれ、パルスの強度を調整しない場合には単一の電源が使用され、パルスの強度を増大させる場合又は一時停止を行う場合には二つの電源が使用される。セルは二つの電極と、複数の膜(通常はイオン交換膜及び/又はバイポーラ膜)を含む。電気膜セルの電極は、アノードとカソードとして機能するのに適したものでなければならず、極性反転中の劣化の危険性を減らす。パルスの強度を調整したい場合には、第二電源がその機能を可能にする。電源は、バイポーラスイッチを介して電気膜にエネルギーを伝達する。直流の電流がバイポーラスイッチを流れて、その電流の方向を制御する。電気エネルギーを電極が受けて、酸化還元反応を行う。電極に生じる電気化学ポテンシャルが、セルの異なる区画に向かうイオンの移動、水分子の解離等を誘起する。一部のプロセスでは、塩濃度勾配によって生じる電気化学ポテンシャルが電気エネルギーを発生させ得て、この場合、発生したエネルギーの一部が、膜の周期的な自浄と、定置洗浄(CIP,cleaning in place)法のために使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】周期的に極性を反転させるためのバイポーラスイッチに結合された電気膜プロセスの概略図である。
図2】第二電源を用いて可変強度で電気膜プロセスの極性を反転させるためのHブリッジの回路である。
図3A】従来の電気膜プロセス、極性転換方式電気透析、逆極性非対称パルスを用いる電気膜システムにおける膜の積層体を介する近似的な電圧降下及び/又は電気抵抗である。
図3B】従来の洗浄法を実行する際に可変周波数で任意で高周波パルスを使用する逆極性パルスとして印加される近似的な波形である。
図4A】各反転サイクルの間に非対称極性反転パルスを印加して、液流の変化のための自動弁を維持するEDR動作モードである。パルスの印加周波数は可変であり、膜の化学洗浄を行う際に任意選択的に高周波パルスを使用することができる。
図4B】洗浄法を適用する際に可変周波数で任意選択的に高周波パルスで非対称極性反転パルスを印加する電気膜プロセスの動作モードである。
図5A】定置洗浄法を行う際に通常動作よりも高い強度で可変周波数で任意選択的に高周波で非対称極性反転パルスを印加する改善されたEDR動作モードである。各反転サイクルの間にシステムにパルスが印加され、液流の変化のための自動弁を維持する。
図5B】従来の洗浄法を行う際に通常動作よりも高強度で可変周波数で任意選択的に高周波で非対称極性反転パルスを印加する電気膜プロセスの動作モードである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、電気膜プロセスにおける膜の表面上の汚れとスケールを軽減し、濃度分極を防ぐための非対称極性反転の方法に関し、本方法は以下のステップを備える:
‐ 一方の電極がアノード(5)として機能し他方の電極がカソード(6)として機能する極性反転に適した一対の電極と、複数の膜とを備える電気膜セル(4)を提供するステップ;
‐ 通常動作条件において一部の素子(8、11)が閉じて他の素子(9、10)が開いて各方向に電流を流すように電流の方向を制御するためのHブリッジ構成で少なくとも四つの固体電子素子を備えるバイポーラスイッチを提供するステップ;
‐ EMプロセスを行う際のシステムの要求に応じて極性反転を適用するパルスの周波数とパルス幅を変更するデバイスを提供するステップ;
‐ 電気膜セルにエネルギーを伝達するための一つの電源、又はパルスの強度を調整するために互いに異なる二つの電源であって、一方の電源(1)が通常条件において電気膜プロセスを促進し、他方の電源(2)が電気膜セルに逆極性パルスを印加することを促進する二つの電源を提供するステップ;
‐ 酸化還元反応が行われるように電極に向けて異なる方向で前記バイポーラスイッチに直流を流すステップ;
‐ 電気膜セルの異なる区画に向かうイオンの移動を誘起するように電極に電気化学ポテンシャルを誘起するステップ;
‐ 極性を変更することをスイッチに命令するマイクロコントローラ又はパルス発生器を提供するステップ;
‐ 電気膜セルの電圧降下及び/又は電気抵抗を連続的に測定するステップ;
‐ 電気膜セルの電圧降下及び/又は電気抵抗の閾値を定めるステップ;
‐ 閾値に達すると、可変周波数と短パルス幅で好ましくは通常条件での動作の強度よりも大きな強度で逆極性非対称パルスを印加することによって、又は一時停止パルスを印加することによって、前記膜を洗浄するステップ。
【0014】
更に、本発明は、電気膜プロセスにおける膜の表面上の汚れとスケールを軽減し、濃度分極を防ぐための非対称極性反転のシステムに関し、本システムは以下を備える:
‐ 一方の電極がアノード(5)として機能し他方の電極がカソード(6)として機能する極性反転に適した一対の電極と、複数の膜とを備える電気膜セル(4);
‐ 二つの素子(8、11)が閉じて他の二つの素子(9、10)が開いて電流の方向を制御するためのHブリッジ構成で少なくとも四つの固体電子素子(8、9、10、11)を備えるバイポーラスイッチ(3);
‐ 電気膜プロセスが行われる際のシステムの要求に応じて印加される逆極性パルスの周波数とパルス幅を変更するデバイス;
‐ 電気膜セル(4)にエネルギーを伝達するための一つの電源又はパルスの強度を調整するための互いに異なる二つの電源(1、2);
‐ 電気膜プロセスの変数に応じてスイッチが極性を変化させることを命令するマイクロコントローラ又はパルス発生器(マイクロコントローラはバイポーラスイッチ(3)の回路に組み込まれている);
‐ ここで、バイポーラスイッチ(3)は電源(1、2)の中に位置するか又は電源(1、2)と電気膜セル(4)との間に位置し得る。
【0015】
マイクロコントローラは、プロセスからの情報を取り込んで、プロセスの要求に応じて強度と周波数とパルス幅を調整することができる。パルス発生器は、プロセスの要求に応じて自動調整が必要無い場合に、固定された周波数と強度とパルス幅で極性反転を制御することができる。
【0016】
図1は、セル(槽)4の極性を周期的に反転させるためのバイポーラスイッチ3を用いて改善された電気膜プロセスの概略図を示す。第二電源2を用いてパルスの強度を調整することができる一方、通常の動作は電源1で駆動される。
【0017】
図2は、本発明の主たる実施形態の概略図である。マイクロコントローラ又はパルス発生器(図示せず)が、具体的なプロセスのために予め確立された最適な条件に基づいて、又は、電気膜セル4の電圧降下又は電気抵抗の連続的な測定を用いて自動的に、回路12、13、14及び15を介してHブリッジ素子の開閉を制御する。プロセスは通常は電源1を用いて行われ、高強度パルスを印加するために電源2が用いられる。両電源は同じ接地7を共有する。
【0018】
以下、通常動作を説明する。電源1は、セル4中の電気膜プロセスを特定の電流密度/電圧で連続的に促進する。電極5がアノードとして機能し、電極6がカソードとして機能する。少なくとも四つの固体素子8、9、10及び11が存在する。この時点では、素子8と11が閉じていて、素子10と9が開いている。上記全ての固体素子は、セルの区画と区画との間の塩濃度勾配によって生じる逆起電力から固体素子を保護するための還流ダイオードを有することが望ましい。
【0019】
通常動作の強度よりも大きな強度の逆極性パルスについては、電源1がセル4中の電気膜プロセスを促進する一方、第二電源2を用いて極性反転を適用して、電源1を用いた強度よりも大きな強度で短時間にわたってプロセスを促進する。この場合、電極5がカソードとして機能し、電極6がアノードとして機能する。この時点では、固体素子8と11が開いていて、固体素子9と10が閉じている。この極性反転は、マイクロコントローラ又はパルス発生器にプログラムされ得る。この極性反転は、10-2~10Hzの周波数と10-5~10秒のパルス幅で印加されるパルスとみなすことができるものである。周波数とパルス幅と振幅又は強度は、スケールの発生と、析出物の化学的性質に応じて定められるパラメータである。電源1を通常動作と極性反転の両方で用いる場合には、全動作時間にわたる汚れやスケールの軽減に関して最適な電気膜プロセスの性能を維持するために、パルス幅及び/又は周波数を可変にしなければならない。パルスの目的が濃度分極を防いでプロセスを強化させることだけである場合には、印加されるパルスの周波数を固定で維持し得る。
【0020】
一時停止パルスについては、一時停止(オフ状態)を適用して、電源1がセル4中の電気膜プロセスを促進する。この時点では、各一時停止時間にわたって全ての固体素子8から11が開いている。一時停止は、セルの電圧降下とパルス幅に応じて10~10秒毎に適用されるパルスとみなすことができるものである。一時停止の時間は、選択された電気膜プロセスの析出物やスケールの特性に依存する。典型的なパルス幅の値は10-2~10秒である。本開示の装置は、一時停止パルスを生成することができるものではあるが、強度に関する逆極性パルスを印加して、動作時間の損失を最小にし、システムのサイズと結果としての資本コストを低減することが好ましい。
【0021】
図3Aは、近似的な電圧降下又は電気抵抗を、EMセルについて17で、EDRについて18で、非対称極性反転を用いるEMについて19で示す。ファウリング又はスケールの発生率は、処理される液体流の組成と、pHや温度等の物理化学的条件と、事前処理の有効性に依存する。
【0022】
印加されるパルスの周波数は、膜の表面上のファウリングに依存する。典型的な値は10-2~10Hzである。例えば、膜が汚れている場合、膜の積層体の電気抵抗が増大して、結果としてセルの電圧降下が大きくなる。電圧降下又は電気抵抗が所定の閾値21に達したことをデバイスが検出すると、10-5~10秒の短期間(パルス幅)にわたって、膜の表面上の析出物を防ぐ目的で極性を反転させる。この電気膜プロセスが連続的である場合、膜が動作の時間経過と共に汚染され易くなる。結果として、印加されるパルスの周波数を所定の値20に達するまで徐々に増加させる。閾値周波数に達すると、動作を停止させて、任意選択的に、10-1~10秒にわたって略10~10Hzの高周波(洗浄)パルスを印加し、好ましくは従来のCIP法と共に用いて、汚れてスケールが付着した膜を回復させる。この時点において、極性を永続的に反転させて、その極性において通常動作で動作することができる。この永続的な反転は、システムが液流をそれぞれ変化させても機能するEDRである場合のみに可能である。
【0023】
図3Bは、通常動作における動作振幅A1での電気膜プロセスの近似的な波形である。動作周波数F1は略10-2~10Hzで、20で示されるディープクリーニングに対応する所定の閾値周波数の値に達するまで、プロセスの開始時よりも値が大きくなっていく。この時点において、任意選択的に、最適動作とCIP用の化学物質の使用に基づいて膜の機能の完全な回復のために決定される処理時間T2にわたって、10-8~10-2秒の短パルス幅で、可変振幅A2で、周波数が10~10Hzの範囲内の値を有するより高い値F2に変わる。膜の回復に続いて、動作周波数F1が、再び所定の閾値周波数に達するまで初期条件に戻る。パルスの振幅A3は好ましくは通常動作で用いられる電流密度/電圧よりも高くなるが、膜を損傷させ得るオゾンの発達のため高電圧値(膜毎に3Vよりも高い)を避ける必要がある。パルス幅T3は振幅A3の関数として変化する。従って、強度が低いほどより長い時間が、濃度分極又は析出物の形成を妨げるために必要とされる。単一の電源が使用される場合、A3はA1と等しい。一時停止パルスが適用される場合、A3は0に等しい。上述のように、パルスの振幅A3はパルス幅T3を定める。そうすると、振幅A3が減少すると、新たな析出物を防ぐためにT3の値を増大させる必要があり、T1での動作時間が失われる。
【0024】
[例]
以下の例では、電気膜システムに結合されたバイポーラスイッチを用い、好ましくはマイクロコントローラ、そうでなければパルス発生器にプログラムすることで、システムの極性を変化させる。バイポーラスイッチは、理想的には電源に組み込まれ得て、又は、電源と電気膜セルとの間の個別部品として物理的に配置され得る。後者の選択肢は、既に導入済みのプロセスを改善するために好適である。
【0025】
全ての処理において、動作周波数は動的であり、ファウリングとスケールの発生に応じて10-2~10Hzとなり得る。パルスの印加の目的がプロセスの強化である場合には、上述と同じ周波数範囲を用いて、周波数を固定で維持し得る。
【0026】
パルスとして極性を反転させる時点を示す電圧降下/電気抵抗の閾値は、上記通常動作における値に基づいて決定され、通常の動作値の1.1~10倍の間の値を有する。CIP法で膜を完全に洗浄するための時間を示す周波数の閾値は、デューティサイクルが80.0~99.9%である際に選択される。この値は各システムについて最適化され得る。例えば、80.0%のデューティサイクルは、20.0%の時間が逆極性条件にあることを意味する。このデューティサイクルは、逆パルスのパルス幅と周波数に基づいて計算される。変数のうち特に、処理される流れの化学的組成、物理化学的パラメータ、膜の特性、動作時間が、全ての上記値を定め、具体的な各プロセス用に最適化される。専用マイクロコントローラを備えるバイポーラスイッチが、電圧降下、電流密度、電気抵抗等の関連する情報を取得して、自動的にパルスを発生させてシステムを洗浄するための最適な時間を推定することができる。
【0027】
[例1]
図4Aは、逆極性パルスを用いて改善されたEDRである。所定の閾値周波数F4は、23における液流の変化を伴う永続的な極性反転のための指標である。液流の変化と同時に、任意選択的に、10~10秒にわたって10~10Hzの値で高周波パルスを印加し得る。単一の電源1がEDRセル22にエネルギーを伝達しているので、動作期間における処理の振幅A4又は強度は、パルスの振幅A5に等しい。この場合、パルス幅T4は可変であり得て、その値はプロセスの特性に依存する。
【0028】
この改善は、電気的及び液的極性反転のサイクルとサイクルとの間の動作時間を増やすことを可能にし、結果として、サイクルとサイクルとの間で液体系が変化する際の生成物の混合があまり頻繁に行われなくなるので生産性の損失が減る。この動作モードに必要なのはバイポーラスイッチ3のみである。
【0029】
[例2]
図4Bは、逆極性パルスを用いた電気膜プロセスの改善を示す。所定の閾値周波数F4は、20におけるCIP用の指標である。単一の電源1でシステムを駆動させているので、動作の振幅A4又は強度は適用されるパルスの振幅A5に等しい。この改善に必要なのは、バイポーラスイッチ3と、セル4の極性反転に適した一対の電極5と6である。
【0030】
[例3]
図5Aは、通常動作の強度よりも大きな強度を有する逆極性パルスを用いたEDRの改善を示す。所定の周波数F4は、23における液流の変化を伴う永続的な極性反転のための指標である。液流を変化させるのと同時に、任意選択的に、10~10秒にわたって10~10Hzの値を有する高周波パルスを印加することができる。二つの電源1と2でシステムに電力供給しているので、動作期間における処理の振幅A6又は強度は、パルスA7の振幅と異なる。パルスの振幅A7は、短時間で析出物を防ぐ程度に高強度のものとなり得る。また、パルスの振幅A7は、一時停止で動作させるために0ともなり得るが、プロセスの強化とシステムの自浄が目的である場合には、このモードは推奨されない。結果として、析出物の形成や濃度分極現象の防止に関して同様の結果を得るためには、パルス幅又はパルス時間T5は、強度が高いほど短くなり、強度が低いほど長くなる。この改善は、EDRの電気的及び液体的な極性反転のサイクルとサイクルとの間の動作時間を延ばし、液体流の混合と液体系を変更するための時間に起因する生産性の損失を減らす。この動作モードに必要なのは、バイポーラスイッチ3と、第二電源2である。
【0031】
[例4]
図5Bは、通常動作の強度よりも大きな強度を有する逆極性パルスを用いたEDRの改善を示す。二つの電極1と2を用いることで、EMセル4に通常動作とは異なる強度を与えることができる。第二電源2が、極性を変更する際の良好な安定性と性能を保証する。パルスの振幅A7は、膜の表面上の析出物を簡単に防ぐ程度に高強度のものとなり得る。振幅A7がゼロである場合には一時停止を適用することもできるが、この動作モードは、自浄と限界電流密度の増加のためにはあまり向いていない。結果として、周期的洗浄において同じ効果を達成するためには、パルスのパルス幅T5は、強度が高いほど狭くなり、強度が低いほど広くなる。この動作に必要なのは、第二電源2と、バイポーラスイッチ3と、極性を反転させるのに適した一対の電極5と6である。
【0032】
[本発明の利点]
本発明の方法及びシステムを適用することによって、従来技術と比較して以下の利点を達成することができる:
システムの永続的な自浄性能を有することで、膜の機能を回復するのに必要な化学物質の量と洗浄の頻度が減る;
濃度分極を防ぐことで、従来のシステムと比較して限界電流密度が増大して、電気膜プロセスが強化される;
プロセスを強化することによって、システムのサイズが小さくなり、作業時間が減り、プロセスが加速される;
濃度分極を防ぐことで、pHがより良好に制御されて、水の解離を防ぎ、結果として、鉱物スケールとコロイド析出物の形成を防ぐ;
鉱物スケールが減ることで、スケール防止用の化合物の使用が減る;
極性転換方式電気透析のサイクルの変化の間の時間が増えることによって、生産性が増大する;
高濃度の有機物やスケール性の種を有する新たな種類のサンプルを処理することができる。
【符号の説明】
【0033】
1 第一電源
2 第二電源
3 バイポーラスイッチ
4 電気膜(EM)セル
5 電極
6 電極
8、9、10、11 固体電子素子
12、13、14、15 回路
22 極性転換方式電気透析(EDR)セル
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B