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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】リン酸カルシウム粉末
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20220127BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20220127BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220127BHJP
【FI】
C01B25/32 Q
B29C64/165
B33Y70/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021559691
(86)(22)【出願日】2021-07-16
(86)【国際出願番号】 JP2021026806
【審査請求日】2021-10-07
(31)【優先権主張番号】P 2020129675
(32)【優先日】2020-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000237972
【氏名又は名称】富田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】櫛木 陽平
(72)【発明者】
【氏名】板東 明人
(72)【発明者】
【氏名】橋本 望
(72)【発明者】
【氏名】北村 直之
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102153059(CN,A)
【文献】特開2015-174792(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108295306(CN,A)
【文献】特開平07-002505(JP,A)
【文献】特開平09-020508(JP,A)
【文献】特開2002-274822(JP,A)
【文献】特開2019-069866(JP,A)
【文献】特開2008-184359(JP,A)
【文献】国際公開第2013/108597(WO,A1)
【文献】HUANG, A. et al.,Journal of Materials Research and Technology,2019年05月23日,Vol.8,pp.3158-3166,<DOI:10.1016/j.jmrt.2019.02.025>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 25/32
A61L 27/12
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
C04B 35/447
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸カルシウム粉末を含む積層造形用材料であって、
前記リン酸カルシウム粉末は、平均粒子径(D50)が0.1~5.0μmであり、且つガス吸着法によって測定されるメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積が0.01~0.06cc/gである、積層造形用材料
【請求項2】
前記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、α-TCP、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト及びβ-TCPの少なくとも1つを含む、請求項1に記載の積層造形用材料
【請求項3】
前記リン酸カルシウム粉末のBET比表面積が0.1~20m2/gである、請求項1又は2に記載の積層造形用材料
【請求項4】
前記リン酸カルシウム粉末のガス吸着法によって測定されるマクロ孔(細孔径50~200nm)における細孔容積が0.02~0.10cc/gである、請求項1~3のいずれかに記載の積層造形用材料
【請求項5】
前記リン酸カルシウム粉末のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定されるD10が3.0μm以下である、請求項1~4のいずれかに記載の積層造形用材料
【請求項6】
前記D10が1.0μm以下である、請求項に記載の積層造形用材料
【請求項7】
光造形に使用される、請求項1~6のいずれかに記載の積層造形用材料。
【請求項8】
インプラントの製造に使用される、請求項1~7のいずれかに記載の積層造形用材料。
【請求項9】
請求項1~のいずれかに記載の積層造形用材料、及び光硬化性樹脂を含む、積層造形用スラリー。
【請求項10】
下記(1)~(4)の工程を含む、三次元積層造形物の製造方法であって、
(1)請求項に記載の積層造形用スラリーを用いてスラリー層を形成する工程、
(2)前記スラリー層に対して、所定のパターン形状にレーザー光を照射して硬化させる工程、
(3)前記(1)及び(2)の工程を繰り返し、三次元積層硬化物を形成する工程、及び
(4)前記三次元積層硬化物から未硬化の樹脂及び硬化樹脂を除去する工程
を含む三次元積層造形物の製造方法。
【請求項11】
前記三次元積層造形物がインプラントである、請求項10に記載の三次元積層造形物の製造方法。
【請求項12】
平均粒子径(D 50 )が0.1~5.0μmであり、且つガス吸着法によって測定されるメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積が0.01~0.06cc/gであるリン酸カルシウム粉末の、積層造形用材料としての使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形において、優れた分散安定性を有する積層造形用スラリーを調製でき、且つ高強度の三次元積層造形物を作製可能なリン酸カルシウム粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、骨折等の骨疾患の治療のために、骨欠損部に対して人の骨の代替材として人工骨が使用されている。人工骨の素材として、金属、セラミック、高分子材料等が使用されている。
【0003】
セラミックは、機械的強度は金属や高分子材料に劣るものの、生体親和性に優れており、人工骨の素材として有用性が高い。セラミックの内、ハイドロキシアパタイト(HAP)、β-リン酸三カルシウム(β-TCP)等のリン酸カルシウムは、人の骨と同等の組成を持っており、骨誘導性に優れていることから、骨と直接結合したり、骨形成の成分になったりするため、リン酸カルシウムで形成した人工骨の研究が多くなされている。
【0004】
しかしながら、リン酸カルシウムで形成した人工骨は、骨と同等の組成を持った人工骨ではあるが、治療速度は自家骨に及ばないため、リン酸カルシウムで形成した人工骨は、自家骨と同等の構造にするために多孔体や連通孔をもったブロック状や顆粒状のものが開発されているが、未だに治療速度は自家骨に及ばず、また手術時に欠損部位に合わせて成形をする必要がある。
【0005】
このような問題点を解決するために、リン酸カルシウムによる人工骨の形成では、積層造形技術(3Dプリンター)を用いて欠損部位の形状に合わせるだけではなく、骨の内部構造まで再現した人工骨を作成する試みがなされている。人工骨に応用される3Dプリンターには、粉末に硬化液を射出して硬化させる造形方式(粉末積層造形方式)や、セラミック原料を光硬化性樹脂と混練した積層造形用スラリー(造形ペースト)に紫外線照射して硬化させ、得られた硬化物から樹脂を除去する造形方式(光造形方式)等が知られている。
【0006】
非特許文献1には、α-リン酸三カルシウム、リン酸四カルシウム、リン酸水素カルシウム、及びHAPを含む粉末を用いて、粉末積層造形方式で人工骨を作製したことが開示されているが、得られた人工骨の圧縮強度は27MPa程度に止まっている。また、非特許文献2には、粒径12μmのHAPを用いて光造形方式で人工骨を作製したことが開示されているが、得られた人工骨の圧縮強度は15MPa程度に過ぎない。このように、従来、リン酸カルシウムを使用して積層造形技術で作製した人工骨は、圧縮強度が低く、強い負荷がかかる部位(大腿骨等)には適用できないという欠点があった。特許文献1では、積層造形技術に使用するセラミック原料としてアルミナやジルコニア等が検討されているが、これらの原料では一定の強度を有する三次元積層造形物が得られるものの、骨誘導性に劣るという問題がある。
【0007】
また、作製した人工骨は手術中に成形を要しない程度の骨の再現性(造形精度)が求められる。光造形法における造形精度を上げるには、リン酸カルシウム粉末の粒子径を小さくすることが有効になるが、リン酸カルシウム粉末の平均粒子径を1μm以下にまで小さくなると、スラリー中でリン酸カルシウム粉末が凝集し易くなり、均一な分散ができなくなるという傾向が現れる。
【0008】
このような従来技術を背景として、優れた分散安定性を有する積層造形用スラリーを調製でき、積層造形技術を利用して高強度の三次元積層造形物の作製が可能なリン酸カルシウム粉末の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】粉末積層造形法を用いた人工骨成形法の提案-成形骨の多孔質性-生体医工学47(2):142-147,2009
【文献】Additive manufacturing of hydroxyapatite bone scaffolds via digital lightprocessing and in vitro compatibility(Ceramics InternationalVolume 45, Issue 81 June 2019Pages 11079-11086)
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2016/147681号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、積層造形において、優れた分散安定性を有する積層造形用スラリーを調製でき、且つ高強度の三次元積層造形物を作製可能なリン酸カルシウム粉末を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、平均粒子径(D50)が0.1~5.0μmであり、且つガス吸着法によって測定されるメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積が0.01~0.06cc/gであるリン酸カルシウム粉末は積層造形用スラリー中でも分散安定性に優れ、当該リン酸カルシウムを含む積層造形用スラリーを使用して積層造形することにより人工骨等のインプラントに有用な高強度の三次元積層造形物を作製できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 平均粒子径(D50)が0.1~5.0μmであり、且つガス吸着法によって測定されるメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積が0.01~0.06cc/gである、リン酸カルシウム粉末。
項2. 前記リン酸カルシウムが、ハイドロキシアパタイト、リン酸三カルシウム、α-TCP、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト及びβ-TCPの少なくとも1つを含む、項1に記載のリン酸カルシウム粉末。
項3. BET比表面積が0.1~20m2/gである、項1又は2に記載のリン酸カルシウム粉末。
項4. ガス吸着法によって測定されるマクロ孔(細孔径50~200nm)における細孔容積が0.02~0.10cc/gである、項1~3のいずれかに記載のリン酸カルシウム粉末。
項5. レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定されるD10が3.0μm以下である、項1~4のいずれかに記載のリン酸カルシウム粉末。
項6. 前記D10が1.0以下である、項1~5のいずれかに記載のリン酸カルシウム粉末。
項7. 項1~6のいずれかに記載のリン酸カルシウム粉末を含む、積層造形用材料。
項8. 光造形に使用される、項7に記載の積層造形用材料。
項9. インプラントの製造に使用される、項7又は8に記載の積層造形用材料。
項10. 項1~6のいずれかに記載のリン酸カルシウム粉末、及び光硬化性樹脂を含む、積層造形用スラリー。
項11. 下記(1)~(4)の工程を含む、三次元積層造形物の製造方法であって、
(1)項10に記載の積層造形用スラリーを用いてスラリー層を形成する工程、
(2)前記スラリー層に対して、所定のパターン形状にレーザー光を照射して硬化させる工程、
(3)前記(1)及び(2)の工程を繰り返し、三次元積層硬化物を形成する工程、及び(4)前記三次元積層硬化物から未硬化の樹脂及び硬化樹脂を除去する工程
を含む三次元積層造形物の製造方法。
項12. 前記三次元積層造形物がインプラントである、項11記載の三次元積層造形物の製造方法。
項13.項1~6のいずれかに記載のリン酸カルシウム粉末の、積層造形用材料としての使用。
【発明の効果】
【0014】
本発明のリン酸カルシウム粉末は、優れた分散安定性を有する積層造形用スラリーを作製できる。また、本発明のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーを使用して作製された三次元積層造形物は、高い強度を具備でき、大腿骨等の荷重部位に使用される人工骨として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例6のリン酸カルシウム粉末について、結晶構造を測定した結果を示す。
図2】実施例7のリン酸カルシウム粉末について、結晶構造を測定した結果を示す。
図3】実施例8のリン酸カルシウム粉末について、結晶構造を測定した結果を示す。
図4】実施例9のリン酸カルシウム粉末について、結晶構造を測定した結果を示す。
図5】実施例1、3及び比較例2のリン酸カルシウム粉末を使用して作製した三次元積層造形物の表面を電界放出形走査電子顕微鏡で観察した像を示す。
図6】実施例6のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーを1100℃で焼結処理することにより得た三次元積層造形物について、結晶構造を測定した結果を示す。
図7】実施例8のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーを1100℃で焼結処理することにより得た三次元積層造形物について、結晶構造を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のリン酸カルシウム粉末は、平均粒子径(D50)が0.1~5.0μmであり、且つガス吸着法によって測定されるメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積が0.01~0.06cc/gであることを特徴とする。以下、本発明のリン酸カルシウムについて詳述する。
【0017】
[リン酸カルシウムの種類]
本発明のリン酸カルシウム粉末の種類については、ハイドロキシアパタイト(HAP:(Ca5(PO43(OH)))、β-TCP(β-Ca3(PO42)、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト(Ca10-z(HPO4z(PO46-z(OH)2-z(ただし、0<Z≦1)、α-リン酸三カルシウム(α-Ca3(PO42)、リン酸三カルシウム(Ca3(PO42)、リン酸八カルシウム(Ca8(PO44(HPO42(OH)2)等のいずれであってもよく、またこれらが2種以上含まれる混合物又は混晶体であってもよい。前記カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトは、無水物又は水和物のいずれであってもよく、水和物のカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの構造式としては、例えば、Ca10-z(HPO4z(PO46-z(OH)2-z・nH2O(ただし、0<Z≦1、0<n≦2.5)が挙げられる。
【0018】
リン酸カルシウムの中でも、HAP及びβ-TCPは、生体適合性に優れ、人工骨の素材として有用であるため、本発明のリン酸カルシウム粉末の好適な例として、HAP粉末、β-TCP粉末、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト粉末、及びこれらの混合体粉末又は混晶体粉末が挙げられる。前記混合粉末又は混晶体粉末の一例として、β-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合粉末又は混晶体粉末等が挙げられる。β-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合粉末又は混晶体粉末において、β-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの含有割合は、特に制限されるものではないが、X線回折測定によるRIR法(Reference Intensity Ratio:参照強度比)に準じて測定される含有量で、β-TCP2~98重量%且つカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト2~98重量%、好ましくはβ-TCP30~98重量%且つカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト2~70重量%が挙げられる。
【0019】
本発明のリン酸カルシウム粉末は、焼成処理された焼結体又は焼成処理されていない非焼結体のいずれであってもよいが、リン酸カルシウム粉末がHAP粉末である場合には、所定の平均粒子径(D50)及びメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積の範囲を好適に具備させるという観点から、非焼結体であることが好ましい。
【0020】
[リン酸カルシウム粉末の物性]
本発明のリン酸カルシウム粉末は、平均粒子径(D50)が0.1~5.0μmである。メソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積を所定値にしつつ、このような平均粒子径を満たすことによって、積層造形用スラリーにおいて優れた分散安定性を備えさせつつ、作製された三次元積層造形物に高い強度を具備させることができる。積層造形用スラリーにおける分散安定性及び作製された三次元積層造形物の強度をより一層向上させるという観点から、本発明のリン酸カルシウム粉末の平均粒子径(D50)の好適な例として、0.1~3.0μm、より好ましくは0.4~1.0μmが挙げられる。また、本発明のリン酸カルシウム粉末の平均粒子径(D50)の他の好適な例として、0.5~5.0μm、より好ましくは1.0~5.0μm、更に好ましくは3.0~5.0μmが挙げられる。なお、本発明において、リン酸カルシウム粉末の「平均粒子径(D50)」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される体積累積基準粒度分布において累積度が50%となる粒子径(メジアン径)である。
【0021】
本発明のリン酸カルシウム粉末のD10については、前記平均粒子径(D50)の範囲を満たすことを限度として特に制限されないが、例えば、3.0μm以下又は1μm以下が挙げられる。本発明のリン酸カルシウム粉末のD10として、好ましくは0.1μm~2.5μm、より好ましくは0.1~0.9μm、更に好ましくは0.2~0.8μmが挙げられる。本発明のリン酸カルシウム粉末のD10が、このような範囲を充足することにより、粒子当たりの細孔容積が大きくなり、積層造形用スラリーにおける分散安定性をより一層向上させることができる。なお、本発明において、リン酸カルシウム粉末の「D10」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される体積累積基準粒度分布において、累積度が10%となる粒子径である。
【0022】
本発明のリン酸カルシウム粉末のD90については、前記平均粒子径(D50)の範囲を満たすことを限度として特に制限されないが、例えば、1~30μm、好ましくは1~20μm、より好ましくは2~18μmが挙げられる。なお、本発明において、リン酸カルシウム粉末の「D90」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される体積累積基準粒度分布において、累積度が90%となる粒子径である。
【0023】
本発明のリン酸カルシウム粉末の個数平均径については、前記平均粒子径(D50)の範囲を満たすことを限度として特に制限されないが、例えば、0.1~3μm、好ましくは0.1~2μm、より好ましくは0.1~1μm、更に好ましくは0.1~0.6μmが挙げられる。なお、本発明において、リン酸カルシウム粉末の「個数平均径」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される個数累計基準粒度分布において、個数計算で累積度50%となる粒子径である。
【0024】
本発明のリン酸カルシウム粉末のガス吸着法によって測定されるメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積は、0.01~0.06cc/gである。前述する平均粒子径(D50)を充足しつつ、このようなメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積を満たすことによって、積層造形用スラリーにおいて優れた分散安定性を備え、積層造形用スラリー中で樹脂と粒子が分離せず、樹脂同士が水素結合等をすることが可能になり、積層造形時に力を加えた際には、その水素結合等が分離し、粘度が下がるという積層造形時に層をつくる際に必要なチクソトロピー性を備えさせることが可能になる。更に、メソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積を満たすことによって、三次元積層造形物の表面において、粒子の凹凸が抑えられ高精度な三次元積層造形物を作製することも可能になる。一方、メソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積が0.01cc/g未満になると、積層造形用スラリーの分散安定性が低下し、積層造形時に力を加えると粒子同士が密集し粘度が高くなるというダイラタンシー性が現れる傾向が生じる。積層造形用スラリーにおける分散安定性及び作製された三次元積層造形物の強度をより一層向上させるという観点から、本発明のリン酸カルシウム粉末のメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積として、好ましくは0.02~0.06cc/g、より好ましくは0.02~0.05cc/gが挙げられる。
【0025】
本発明において、リン酸カルシウム粉末の「ガス吸着法によって測定されるメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積」は、高速比表面積細孔分布測定装置を用いて、以下の方法で測定される値である。先ず、リン酸カルシウム粉末0.1g又は1.0gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で3時間脱気する。次いで、液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、メソ孔(2~50nm)の細孔容積(cc/g)をBJH法によって算出する。
【0026】
本発明のリン酸カルシウム粉末のガス吸着法によって測定される細孔のマクロ孔(50~200nm)の細孔容積については特に制限されないが、例えば0.02~0.10cc/gであり、好ましくは0.02~0.09cc/g、より好ましくは0.02~0.08cc/gが挙げられる。このようなマクロ孔の細孔容積を具備することにより積層造形用スラリーにおける分散安定性をより一層向上させることができる。本発明において、リン酸カルシウム粉末の「ガス吸着法によって測定されるマクロ孔(50~200nm)の細孔容積」は、高速比表面積細孔分布測定装置を用いて、以下の方法で測定される値である。先ず、リン酸カルシウム粉末0.1g又は1.0gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で3時間脱気する。次いで、液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、マクロ孔(50~200nm)の細孔容積(cc/g)をBJH法によって算出する。
【0027】
本発明のリン酸カルシウム粉末のBET比表面積については、特に制限されないが、例えば、20m2/g以下、好ましくは0.1~20m2/g、より好ましくは5~20m2/g、更に好ましくは8~18m2/gが挙げられる。このようなBET比表面積を満たすことにより、作製された三次元積層造形物の脱脂及び/又は焼結時に粒子が密に収縮することができ、より一層高強度の三次元積層造形物を作成することが可能になる。本発明において、リン酸カルシウム粉末の「BET比表面積」は、高速比表面積細孔分布測定装置を用いて、以下の方法で測定される値である。先ず、リン酸カルシウム0.1g又は1.0gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で3時間脱気する。次いで、液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、その吸着等温線を用いて、多点BET法により比表面積(m2/g)を算出する。
【0028】
また、本発明のリン酸カルシウム粉末において、ガス吸着法によって測定される平均細孔径については、特に制限されないが、例えば、10~50nm、好ましくは20~40nm、より好ましくは15~35nmが挙げられる。
【0029】
本発明において、リン酸カルシウム粉末の「ガス吸着法によって測定される平均細孔径」は、以下の方法によって求められる値である。
先ず、高速比表面積細孔分布測定装置を用いて、以下の操作条件で、ガス吸着法による全細孔容積の測定をする。
前処理:リン酸カルシウム粉末0.1g又は1.0gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で3時間脱気する。
測定及び解析:液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、相対圧P/P0(P0:飽和蒸気圧)が0.995におけるガス吸着量から全細孔容積(cc/g)を算出する。
次いで、前記で求めたBET比表面積と全細孔容積(ガス吸着法)を用いて、下記式に従って平均細孔径を算出する。
平均細孔径(nm)=4V/S×1000
V:全細孔容積(ガス吸着法)(cc/g)
S:BET比表面積(m2/g)
【0030】
本発明で使用されるリン酸カルシウム粉末のゆるみ嵩密度については、特に制限されないが、例えば、0.1~1.0g/mL、好ましくは0.1~0.5g/mL、より好ましくは0.1~0.3g/mLが挙げられる。
【0031】
本発明において、リン酸カルシウム粉末の「ゆるみ嵩密度」は、目開き710μmの篩を振幅0.5mmで振動させながら、篩の上からリン酸カルシウム粉末をカップ(容量10cm3、内径2.2cm、高さ2.6cm)に落下させ、リン酸カルシウム粉末がカップからあふれた時点でリン酸カルシウム粉末の落下を停止し、カップ上の盛り上がっている粉末を擦り切り、粉末の入ったカップの重量から、空のカップの重量を差し引きし、1mL当たりの粉末重量を算出することにより求められる値である。
【0032】
本発明で使用されるリン酸カルシウム粉末のかため嵩密度(タップ密度)については、特に制限されないが、例えば、0.2~1.5g/mL、好ましくは0.3~1.0g/mL、より好ましくは0.4~0.8g/mLが挙げられる。
【0033】
本発明において、リン酸カルシウム粉末の「かため嵩密度」は、以下の方法で求められる値である。先ず、目開き710μmの篩を振幅0.5mmで振動させながら、篩の上からリン酸カルシウム粉末をカップ(容量10cm3、内径2.2cm、高さ2.6cm)に落下させ、リン酸カルシウム粉末がカップからあふれた時点でリン酸カルシウム粉末の落下を停止し、カップ上の盛り上がっている粉末を擦り切る。次いで、カップ上部に筒(内径2.2cm、高さ3.2cm)を取り付けて、目開き710μmの篩を振幅0.5mmで振動させながら、篩の上からリン酸カルシウム粉末をカップに落下させて、筒の容量の8割程度までリン酸カルシウム粉末を充填する。この状態でタッピングを開始し、合計180回のタッピングを行う。タッピング中は、筒内のリン酸カルシウム粉末量が筒の容量の2割程度にまで圧縮された際には、再度、振幅0.5mmで振動させている目開き710μmの篩を介してリン酸カルシウム粉末を筒内に落下させて筒の容量の8割程度までリン酸カルシウム粉末を補充する。180回のタッピング終了後、筒を外して、カップ上の盛り上がっている紛体を摺り切り、粉体の入ったカップの重量を測定する。この重量から空のカップの重量を差し引きし、カップ内の粉体重量を計算し、1cm3当たりの粉体重量を求め、かため密度(g/mL)とする。
【0034】
[リン酸カルシウム粉末の製造方法]
本発明のリン酸カルシウム粉末の製造方法については、前述する物性を備えるリン酸カルシウム粉末が得られることを限度として特に制限されないが、例えば、好適な一例として、下記第1-1工程~第1-4工程を含む第1法、下記第2-1工程~第2-4工程を含む第2法、又は下記第3-1工程~第3-2工程を含む第3法が挙げられる。
【0035】
第1法
第1-1工程:(1)カルシウム塩を懸濁させた懸濁液に、リン酸及び/又はリン酸塩をCa/Pのモル比が1.40~1.80になるように滴下し、30℃以上で反応させる湿式法、又は(2)リン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液に、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液をCa/Pのモル比が1.40~1.80になるように滴下し、30℃以上で反応させる湿式法により、リン酸カルシウムを生成させる工程、
第1-2工程:前記第1-1工程で得られたリン酸カルシウムを湿式粉砕し、スラリーを得る工程、
第1-3工程:前記第1-2工程で得られたスラリーを250℃~300℃で水熱処理し、水熱処理物を得る工程、及び
第1-4工程:前記第1-3工程で得られた水熱処理物を乾燥し、リン酸カルシウム粉末を得る工程。
【0036】
第2法
第2-1工程:カルシウム塩を懸濁させた懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液とをCa/Pのモル比が1.40~1.80になるように水性媒体に同時に滴下し、30℃以上で反応させる湿式法により、リン酸カルシウムを生成させる工程、
第2-2工程:前記第2-1工程で得られたリン酸カルシウムを湿式粉砕し、スラリーを得る工程、
第2-3工程:前記第2-2工程で得られたスラリーを150℃~300℃で水熱処理し、水熱処理物を得る工程、及び
第2-4工程:前記第2-3工程で得られた水熱処理物を乾燥し、リン酸カルシウム粉末を得る工程。
【0037】
第3法
第3-1工程:カルシウム塩を懸濁させた50℃以下の懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させた50℃以下のリン酸水溶液とをCa/Pのモル比が1.40~1.80になるように、80℃以上の水性媒体に同時に滴下し、反応させる湿式法により、リン酸カルシウムを生成させる工程であって、前記反応は、pH8.5~9.5、又はpH3.5~4.5の条件下で反応させる工程、及び
第3-2工程:前記第3-1工程で得られたスラリーを乾燥し、リン酸カルシウム粉末を得る工程。
【0038】
以下、前記第1法について具体的に説明する。
【0039】
第1-1工程では、(1)カルシウム塩を懸濁させた懸濁液に、リン酸及び/又はリン酸塩をCa/Pのモル比が1.40~1.80になるように滴下する湿式法、又は(2)リン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液に、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液をCa/Pのモル比が1.40~1.80になるように滴下する湿式法により、カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させて、リン酸カルシウムの合成反応を行う。
【0040】
第1-1工程において、原料として使用されるカルシウム塩の種類については、特に制限されないが、例えば、無機塩及び有機酸塩が挙げられる。無機塩としては、具体的には、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。有機酸塩としては、具体的には、蟻酸カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等が挙げられる。
【0041】
また、第1-1工程において、原料として使用されるリン酸塩の種類については、特に制限されないが、例えば、リン酸のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。リン酸のアルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられ、より具体的には、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸三アンモニウム等が挙げられる。
【0042】
HAP粉末を製造する場合であれば、第1-1工程において、カルシウム塩として水酸化カルシウム、リン酸及び/又はリン酸塩としてリン酸を使用することが好ましい。また、β-TCP粉末、或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を製造する場合であれば、第1-1工程において、カルシウム塩として水酸化カルシウム又は硝酸カルシウム、リン酸及び/又はリン酸塩としてリン酸又はリン酸水素二アンモニウムを使用することが好ましい。
【0043】
また、第1-1工程において、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液にリン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を滴下する場合の滴下速度については、滴下後の反応液のpHが9以下になるように適宜調整すればよい。
【0044】
例えば、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液にリン酸及び/又はリン酸塩を添加して、HAPを合成する場合であれば、カルシウム(Ca)原子1molに対し、リン(P)原子が0.05~0.7mol/h、好ましくは0.1~0.6mol/h、より好ましくは0.2mol/hとなる範囲が挙げられる。また、リン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液にカルシウム塩を懸濁させた懸濁液を添加して、HAPを合成する場合であれば、リン(P)原子1molに対し、カルシウム(Ca)原子が0.05~2.0mol/h、好ましくは0.1~1.0mol/h、より好ましくは0.5~0.6mol/hとなる範囲が挙げられる。
【0045】
例えば、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液にリン酸及び/又はリン酸塩を添加して、β-TCP或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を合成する場合であれば、カルシウム(Ca)原子1molに対し、リン(P)原子が0.01~0.6mol/h、好ましくは0.1~0.4mol/h、より好ましくは0.2~0.3mol/hとなる範囲が挙げられる。また、リン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液にカルシウム塩を懸濁させた懸濁液を添加して、β-TCPを合成する場合であれば、リン(P)原子1molに対し、カルシウム(Ca)原子が0.05~1.8mol/h、好ましくは0.1~1.0mol/h、より好ましくは0.5~0.6mol/hとなる範囲が挙げられる。
【0046】
また、第1-1工程において、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液の滴下量、又はカルシウム塩を懸濁させた懸濁液の滴下量については、滴下終了時のCa/Pのモル比が1.40~1.80の範囲内となるように製造目的のリン酸カルシウムの種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、HAP粉末を製造する場合であれば、滴下終了時のCa/Pのモル比を、好ましくは1.0~2.5、より好ましくは1.5~1.8、更に好ましくは1.67程度に設定すればよい。また、β-TCP粉末或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を製造する場合であれば、滴下終了時のCa/Pのモル比を、好ましくは0.5~2.0、より好ましくは1.0~1.7、更に好ましくは1.50程度に設定すればよい。
【0047】
また、第1-1工程において、カルシウム塩とリン酸及び/又はリン酸塩とを共存させる際の温度(反応温度)については、滴下量、滴下速度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、30℃以上、好ましくは40~100℃、より好ましくは80~100℃、更に好ましくは90~100℃が挙げられる。さらに効率的にカルシウムイオンとリン酸イオンを反応させ、反応液を生成させるために、カルシウム塩とリン酸及び/又はリン酸塩とを全量共存させた後に、前記温度条件で熟成させることが望ましい。本発明において、熟成とは、静置又は撹拌下で一定時間置いておくことを指す。第1-1工程における熟成時間については、滴下量、滴下速度、反応温度等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、10分間以上、好ましくは10~120分間、更に好ましくは30~90分間が挙げられる。ここで、「熟成時間」とは、カルシウム塩とリン酸及び/又はリン酸塩の全量が水中に共存した時点を0分として、静置又は撹拌下で置いておく時間を指し、例えば、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液にリン酸及び/又はリン酸塩の水溶液を滴下する場合であれば、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液の滴下終了時点を0分として算出される時間である。
【0048】
斯くして第1-1工程を行うことにより、リン酸カルシウムが生成した反応液が得られる。
【0049】
第1-2工程では、前記第1-1工程で得られたリン酸カルシウムを湿式粉砕し、スラリー(湿式粉砕処理物)を得る。
【0050】
第1-2工程では、第1-1工程後の反応液をそのまま湿式粉砕に供してもよいが、第1-1工程後の反応液を濃縮した濃縮液や、第1-1工程後の反応液からリン酸カルシウムを脱水・水洗等により回収して水やアルコール等の有機溶媒に新たに懸濁させた懸濁液を湿式粉砕に供してもよい。
【0051】
第1-2工程において、湿式粉砕の方法は特に制限されず、例えば衝撃、せん断式、磨砕式、圧縮、振動等のいずれの方式で行ってもよい。また、湿式粉砕装置の種類についても、特に制限されず、例えば、高圧流体衝突ミル、高速回転スリットミル、アトライター、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、リング状粉砕媒体ミル、高速旋回薄膜ミル等のいずれの装置であってもよい。これらの装置自体は公知又は市販のものを使用することができる。これらの湿式粉砕装置の中でも、ビーズミルを好適に用いることができる。
【0052】
湿式粉砕装置としてビーズミルを使用する場合は、ビーズの種類については、特に制限されないが、ジルコニア系材料からなるビーズが好適である。ビーズの大きさは、例えば、直径0.1~3mm程度であればよい。ビーズの充填量については、用いる装置の大きさ等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、50~90体積%程度の範囲内で適宜調整すれば良い。
【0053】
第1-2工程において、湿式粉砕の程度は、適宜調節すればよいが、本発明のリン酸カルシウム粉末を効率的に製造するという観点から、湿式粉砕後のリン酸カルシウム粉末が、平均粒子径10μm以下、好ましくは0.1~5μm、最大粒子径50μm以下、好ましくは0.1~30μmとなるように調整することが望ましい。本発明において、湿式粉砕後のリン酸カルシウム粉末の「平均粒子径」と「最大粒子径」は、それぞれ、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される体積累積基準粒度分布において累積度が50%となる粒子径(メジアン径)及び最大粒子径である。
【0054】
第1-2工程において、湿式粉砕をする際の液温は特に制限されず、用いる装置の耐熱性等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0~100℃程度、好ましくは5~60℃程度が挙げられる。
【0055】
第1-3工程では、前記第1-2工程で得られたスラリーを水熱処理(水熱合成ともいう。)することにより水熱処理物を得る。水熱処理に供されるスラリーの固形分濃度は特に制限されないが、通常は1~30重量%、より好ましくは5~20重量%程度であればよい。水熱処理に供されるスラリー中の固形分濃度を調整する場合、前記第1-2工程で得られたスラリーを脱水・水洗し、所望の固形分濃度になるように再懸濁すればよい。
【0056】
第1-3工程における水熱処理は、例えばオートクレーブ等の公知の装置を用いて実施することができる。
【0057】
第1-3工程における水熱処理の温度は、250℃~300℃であればよいが、好ましくは260~280℃が挙げられる。第1-3工程における水熱処理の温度が250℃を下回る場合、製造されるリン酸カルシウム粉末が前述する物性を充足しなくなり、本発明のリン酸カルシウム粉末が得られなくなる。
【0058】
第1-3工程における水熱処理の時間は、所望のリン酸カルシウムが生成するのに十分な時間とすれば良いが、通常は1~5時間、好ましくは1~3時間程度が挙げられる。本発明において、「水熱処理の時間」とは、前記水熱処理の温度に到達している間の時間であり、前記水熱処理の温度に到達させるまでの昇温時間、及び前記水熱処理後の降温時間は含まれない。
【0059】
第1-4工程では、前記第1-3工程で得られた水熱処理物を乾燥し、リン酸カルシウム粉末を得る。
【0060】
第1-4工程で使用される乾燥方式については、特に制限されないが、例えば、棚段乾燥、スプレードライ(噴霧乾燥)、箱形乾燥、バンド乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、マイクロ波乾燥、ドラムドライヤ、流動乾燥等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは棚段乾燥が挙げられる。
【0061】
第1-4工程における乾燥温度については、特に制限されないが、例えば、30~150℃程度、好ましくは80~105℃程度が挙げられる。
【0062】
第1-4工程後に得られたリン酸カルシウム粉末は、必要に応じて、焼成処理に供してもよい。焼成処理の温度条件としては、特に制限されないが、通常200~1300℃、好ましくは200~800℃、より好ましくは350~750℃、更に好ましくは300℃~600℃が挙げられる。また、焼成処理の時間については、焼成温度を勘案した上で、前述する物性を具備するリン酸カルシウム粉末が得られる範囲で適宜設定すればよく、前記温度条件に一瞬でも達していればよいが、前記温度条件の保持時間として、好ましくは0.1~10時間、更に好ましくは1~5時間が挙げられる。
【0063】
また、第1-4工程後又は焼成処理後に、粒子径を調整する目的で、必要に応じて、リン酸カルシウム粉末を解砕や粉砕等の処理を施してもよい。また、第1-4工程後又は焼成処理後のリン酸カルシウム粉末は、篩を用いて、前述する物性から外れる大きな粒子径のものを取り除いておくことが望ましい。使用する篩の目開きについては、特に制限されないが、例えば150μm以下、好ましくは100~40μmが挙げられる。
【0064】
次に、前記第2法について具体的に説明する。
【0065】
第2-1工程では、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液とをCa/Pのモル比が1.40~1.80になるように水性媒体に同時に滴下する湿式法により、カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させて、リン酸カルシウムの合成反応を行う。
【0066】
第2-1工程において、原料として使用されるカルシウム塩やリン酸塩の種類、HAP粉末を製造する場合の好適な原料、β-TCP粉末或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を製造する場合の好適な原料等については、前記第1-1工程の場合と同様である。
【0067】
第2-1工程において、滴下対象物となる水性媒体は、水であることが好ましい。
【0068】
第2-1工程において、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液の滴下量については、滴下終了時のCa/Pのモル比が1.40~1.80の範囲内となるように製造目的のリン酸カルシウムの種類に応じて適宜設定すればよく、HAP粉末を製造する場合の好適なCa/Pのモル比、及びβ-TCP粉末或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を製造する場合の好適なCa/Pのモル比については、前記第1-1工程の場合と同様である。
【0069】
また、第2-1工程において、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液の滴下速度については、特に制限されず、例えば、滴下中の反応液のpHが5~9になるように、製造スケール等に応じて適宜調整すればよい。また、第2-1工程において、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液の滴下量、並びにカルシウム塩を懸濁させた懸濁液の滴下量については、滴下終了時のCa/Pのモル比が1.40~1.80の範囲内となるように製造目的のリン酸カルシウムの種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、HAP粉末を製造する場合であれば、滴下終了時のCa/Pのモル比を、好ましくは1.0~2.5、より好ましくは1.5~1.8、更に好ましくは1.67程度に設定すればよい。また、β-TCP粉末或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を製造する場合であれば、滴下終了時のCa/Pのモル比を、好ましくは0.5~2.0、より好ましくは1.0~1.7、更に好ましくは1.50程度に設定すればよい。
【0070】
第2-1工程において、カルシウム塩とリン酸及び/又はリン酸塩とを共存させる際の温度(反応温度)については、前記第1-1工程の場合と同様である。
【0071】
第2-1工程において、所定の反応温度で熟成させることが好ましい。熟成時間については、前記第1-1工程の場合と同様である。
【0072】
第2-2工程では、前記第2-1工程で得られた反応液を湿式粉砕し、スラリー(湿式粉砕処理物)を得る。第2-2工程において、湿式粉砕の方法、湿式粉砕の程度、湿式粉砕時の液温等については、前記第1-2工程の場合と同様である。
【0073】
第2-3工程では、前記第2-2工程で得られたスラリーを水熱処理することにより水熱処理物を得る。第2-3工程において、水熱処理に供されるスラリーの固形分濃度、水熱処理の装置等は、前記第1-3工程の場合と同様である。第2-3工程における水熱処理の温度は、150℃~300℃であればよいが、好ましくは200~300℃、より好ましくは200~280℃が挙げられる。第2-3工程における水熱処理の時間は、前記第1-3工程の場合と同等である。
【0074】
第2-4工程では、前記第2-3工程で得られた水熱処理物を乾燥し、リン酸カルシウム粉末を得る。
【0075】
第2-4工程において、乾燥方式、乾燥温度等については、前記第1-4工程の場合と同様である。
【0076】
第2-4工程後に得られたリン酸カルシウム粉末は、必要に応じて、焼成処理に供してもよい。焼成処理の温度条件は前記第1法の場合と同様である。また、第2-4工程後又は焼成処理後に、粒子径を調整する目的で、必要に応じて、リン酸カルシウム粉末を解砕や粉砕、篩い分け等の処理を施してもよい。篩い分けの場合、使用する篩の目開きについては前記第1法の場合と同様である。
【0077】
次に、前記第3法について具体的に説明する。
【0078】
第3-1工程では、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液とをCa/Pのモル比が1.40~1.80になるように、80℃以上の水性媒体に同時に滴下する湿式法により、カルシウムイオンとリン酸イオンを反応させて、リン酸カルシウムの合成反応を行う。
【0079】
第3-1工程において、原料として使用されるカルシウム塩やリン酸塩の種類、HAP粉末を製造する場合の好適な原料、β-TCP粉末或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を製造する場合の好適な原料等については、前記第1-1工程の場合と同様である。
【0080】
第3-1工程において、原料として使用されるカルシウム塩を懸濁させた懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液の温度については、いずれも50℃以下であればよく、好ましくは40℃以下、より好ましくは30℃以下、特に好ましくは1~30℃に設定すればよい。
【0081】
第3-1工程において、滴下対象物となる水性媒体は、水であることが好ましい。
【0082】
第3-1工程において、水性媒体の温度については、80℃以上であればよく、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上、特に好ましくは95℃~100℃に設定すればよい。
【0083】
第3-1工程において、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液の滴下量については、滴下終了時のCa/Pのモル比が1.40~1.80の範囲内となるように製造目的のリン酸カルシウムの種類に応じて適宜設定すればよく、HAP粉末を製造する場合の好適なCa/Pのモル比、及びβ-TCP粉末或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を製造する場合の好適なCa/Pのモル比については、前記第1-1工程の場合と同様である。
【0084】
また、第3-1工程において、カルシウム塩を懸濁させた懸濁液とリン酸及び/又はリン酸塩を水に溶解させたリン酸水溶液の同時滴下の速度については、滴下中の反応液がpH8.5~9.5又はpH3.5~4.5になるように設定すればよい。具体的には、HAP粉末を製造する場合であれは、滴下中の反応液のpHが8.5~9.5になるように同時滴下の速度を設定すればよい。また、β-TCP粉末或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合体粉末又は混晶体粉末を製造する場合は、滴下中の反応液のpH3.5~4.5になるように同時滴下の速度を設定すればよい。
【0085】
また、第3-1工程において、リン酸及び/又はリン酸塩の水溶液の滴下量、並びにカルシウム塩を懸濁させた懸濁液の同時滴下量については、滴下終了時のCa/Pのモル比が1.40~1.80の範囲内となるように製造目的のリン酸カルシウムの種類に応じて適宜設定すればよい。例えば、HAP粉末を製造する場合であれば、滴下終了時のCa/Pのモル比を、好ましくは1.0~2.5、より好ましくは1.5~1.8、更に好ましくは1.67程度に設定すればよい。また、β-TCP粉末、或はβ-TCPとカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトの混合粉末又は混晶体粉末を製造する場合であれば、滴下終了時のCa/Pのモル比を、好ましくは0.5~2.0、より好ましくは1.0~1.7、更に好ましくは1.50程度に設定すればよい。
【0086】
第3-1工程において、カルシウム塩とリン酸及び/又はリン酸塩とを共存させる際の温度(反応温度)については、80℃以上であればよく、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上、特に好ましくは95℃~100℃に設定すればよい。
【0087】
第3-1工程において、所定の反応温度で熟成させることが好ましい。熟成時間については、前記第1-1工程の場合と同様である。
【0088】
第3-2工程では、前記第3-1工程で得られた反応液を乾燥し、リン酸カルシウム粉末を得る。第3-2工程において、乾燥方式、乾燥温度等については、前記第1-4工程の場合と同様である。
【0089】
第3-2工程後に得られたリン酸カルシウム粉末は、必要に応じて、焼成処理に供してもよい。焼成処理の温度条件は前記第1法の場合と同様である。また、第3-2工程後又は焼成処理後に、粒子径を調整する目的で、必要に応じて、リン酸カルシウム粉末を湿式粉砕、解砕や粉砕、篩い分け等の処理を施してもよい。湿式粉砕の場合、湿式粉砕の方法、湿式粉砕の程度、湿式粉砕時の液温等については、前記第1-2工程の場合と同様である。また、篩い分けの場合、使用する篩の目開きについては前記第1法の場合と同様である。
【0090】
[用途/積層造形用材料]
本発明のリン酸カルシウム粉末の用途については、特に制限されないが、積層造形用材料として好適に使用される。本発明において、「積層造形用材料」とは、三次元積層造形物の基材となる物質である。
【0091】
本発明のリン酸カルシウム粉末を積層造形用材料として使用する場合、光造形方式又は粉末積層造形方式等のいずれに適用してもよいが、光造形用の積層造形用材料として好適である。
【0092】
本発明のリン酸カルシウム粉末を光造形用の積層造形用材料として使用する場合、本発明のリン酸カルシウム及び光硬化性樹脂(紫外線硬化性樹脂)含む積層造形用スラリー(造形用ペースト)を調製して光造形に供すればよい。
【0093】
積層造形用スラリーに含まれる本発明のリン酸カルシウム粉末の含有量については、積層造形用スラリーがチクソトロピー性を発現できる範囲であればよいが、例えば、40~90重量%、好ましくは60~90重量%、より好ましくは70~85重量%が挙げられる。
【0094】
積層造形用スラリーに使用される光硬化性樹脂の種類については、特に制限されないが、例えば、アクリル系光硬化性樹脂等が挙げられる。積層造形用スラリーに含まれる光硬化性樹脂の含有量については、5~60重量%、好ましくは5~57重量%、より好ましくは6~24重量%が挙げられる。
【0095】
また、積層造形用スラリーには、本発明の効果を妨げない範囲で、光重合開始剤、分散剤(ポリカルボン酸等)、増粘剤、酸化防止剤、光安定剤等が含まれていてもよい。積層造形用スラリーに光重合開始剤を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.5~15重量%、好ましくは0.5~10重量%が挙げられる。また、積層造形用スラリーに分散剤を含有させる場合、その含有量については、特に制限されないが、例えば、0.1~50重量%、好ましくは8~40重量%が挙げられる。
【0096】
本発明のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーを用いて光造形により三次元積層造形物を製造するには、以下の(1)~(4)工程を経ればよい。
(1)当該積層造形用スラリーを用いてスラリー層を形成する工程、
(2)前記スラリー層に対して、所定のパターン形状にレーザー光を照射して硬化させる工程、
(3)前記(1)及び(2)の工程を繰り返し、三次元積層硬化物を形成する工程、及び(4)前記三次元積層硬化物から未硬化の樹脂及び硬化樹脂を除去する工程。
【0097】
前記(1)の工程において、スラリー層は、例えば5~200μm程度の厚みに調整すればよい。また、前記(2)の工程で使用されるレーザー光の種類は光硬化性樹脂を硬化できるものであればよく、例えば、紫外線レーザー等が挙げられる。
【0098】
前記(4)の工程において、未硬化の樹脂を除去するには、例えばエタノール等で洗浄すればよい。
【0099】
また、前記(4)の工程において、硬化樹脂を除去するには、例えば脱脂処理を行えばよい。「脱脂処理」とは、加熱により硬化樹脂を除去する処理である。脱脂処理は、加熱することができる電気炉等を使用すればよい。
【0100】
脱脂処理の温度条件としては、特に制限されないが、通常100~600℃、好ましくは300~600℃が挙げられる。また、脱脂処理の時間については、硬化樹脂を除去できる範囲で適宜設定すればよいが、通常1~100時間、好ましくは10~50時間、より好ましくは10~20時間となる範囲が挙げられる。
【0101】
また、三次元積層造形物の強度を高める目的で、前記(4)の工程後に焼結処理を行っても良い。焼結処理には脱脂処理で使用する装置を使用することができる。
焼結処理の温度条件としては、特に制限されないが、通常600~1500℃、好ましくは800~1500℃、より好ましくは1000~1400℃、特に好ましくは1100℃~1300℃が挙げられる。焼結処理の時間については、脱脂処理を勘案した上で適宜設定すればよく、通常1~12時間、好ましくは1~5時間が挙げられる。
【0102】
また、三次元積層硬化物に対して脱脂処理と焼結処理を一連の操作で行ってもよい。脱脂処理と焼結処理を一連の操作で行う場合、電気炉等の温度条件を段階的に設定すればよい。例えば、前記脱脂処理の温度条件及び保持時間を経た後に、昇温して焼結処理の温度条件及び保持時間を維持するように設定することで、硬化樹脂の脱脂とリン酸カルシウム粉末の焼結を一連の操作で行うことができる。
【0103】
本発明のリン酸カルシウム粉末を用いて作製された三次元積層造形物は、例えば、人工関節、人工歯根、人工骨等のインプラント等として使用される。また、本発明のリン酸カルシウム粉末を用いて作製された三次元積は、高い強度を具備できるので、大腿骨等の強い負荷がかかる部位の人工骨として好適に使用することができる。
【実施例
【0104】
以下に実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
1.リン酸カルシウム粉末の製造及び評価
1-1.リン酸カルシウム粉末の製造
実施例1
Ca/Pモル比が1.67になるように、20重量%水酸化カルシウム懸濁液1200.0g及び32重量%リン酸水溶液742.1gを調製した。それぞれの液を、予め80℃に加温しておき、300rpmで攪拌している98℃に加温した水1785.0mL中に、温度98℃、反応液のpHが7.0~7.5の範囲を維持するように調節しながら1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌して熟成させた後に、析出したハイドロキシアパタイトの結晶を濾過、水洗した。
【0106】
その後、ハイドロキシアパタイトが10重量%になるように水で懸濁し、ウルトラアペックスミル(寿工業株式会社、UAM-015)を用いて41.6Hz、ポンプ速度2、ジルコニアビーズ径0.3mm、ビーズ量400g(充填量64%)の条件で湿式粉砕した。次いで、得られた溶液をオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社、TAS-09-20-300型)にて200℃、3時間の条件で水熱処理した。更に送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKM400)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0107】
実施例2
Ca/Pモル比が1.67になるように、20重量%水酸化カルシウム懸濁液1200.0g及び32重量%リン酸水溶液742.1gを調製した。それぞれの液を、予め80℃に加温しておき、300rpmで攪拌している98℃に加温した水1785.0mL中に、温度98℃、反応液のpHが7.0~7.5の範囲を維持するように調節しながら、1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌して熟成させた。
【0108】
次いで、析出したハイドロキシアパタイトの結晶をウルトラアペックスミル(寿工業株式会社、UAM-015)を用いて41.6Hz、ポンプ速度2、ジルコニアビーズ径0.3mm、ビーズ量400g(充填量64%)の条件で湿式粉砕した。次いで、得られた溶液をオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社、TAS-09-20-300型)にて280℃、3時間の条件で水熱処理した。更に送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKM400)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0109】
実施例3
Ca/Pモル比が1.67になるように、8.4wt%水酸化カルシウム懸濁液3514.1g及び50wt%リン酸水溶液464.5gを調製した。300rpmで攪拌している95℃に加温した水酸化カルシウム懸濁液に、リン酸を3時間かけて滴下後、更に1時間撹拌して熟成させた。
【0110】
その後、ウルトラアペックスミル(寿工業株式会社、UAM-015)を用いて41.6Hz、ポンプ速度2、ジルコニアビーズ径0.3mm、ビーズ量400g(充填量64%)の条件で湿式粉砕した。次いで、得られた溶液をオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社、TAS-09-20-300型)にて280℃、3時間の条件で水熱処理した。更に送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKM400)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0111】
実施例4
実施例2で得られたHAP粒子に対して、電気炉(草葉化学株式会社、KY-5NX)を用いて600℃で3時間焼成(昇温速度100℃/h)を行い、リン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0112】
実施例5
焼成温度を300℃に変更したこと以外は、実施例4と同条件でリン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0113】
実施例6
Ca/Pモル比が1.67になるように、20重量%水酸化カルシウム懸濁液92.5kg及び32重量%リン酸水溶液45.7kgを調製した。それぞれの液を、98℃に加温した水112.5kg中に、反応液のpHが8.5~9.5の範囲を維持するように調節しながら1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌して熟成させた後に、濾過、水洗した。
【0114】
その後、送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKN812)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、コーミル(株式会社パウレック、QUADRO COMIL 194)及びACMパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、10A)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム粉末を得た。得られたリン酸カルシウム粉末について、X線回折により結晶構造を分析したところ、図1に示す通り、ハイドロキシアパタイト(HAP)であることが確認された。
【0115】
実施例7
Ca/Pモル比が1.67になるように、20重量%水酸化カルシウム懸濁液92.5kg及び32重量%リン酸水溶液45.7kgを調製した。それぞれの液を、98℃に加温した水112.5kg中に、反応液のpHが8.5~9.5の範囲を維持するように調節しながら、1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌して熟成させた後に、濾過、水洗した。
【0116】
その後、リン酸カルシウム粉末が10重量%になるように水で懸濁し、ダイノーミル(株式会社シンマルエンタープライゼス、MULTI LAB型)を用いて20rpm、ジルコニアビーズ径1.0mm、ビーズ量4.03kg(充填量80%)の条件で湿式粉砕した。更に送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKN812)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム粉末を得た。得られたリン酸カルシウム粉末について、X線回折により結晶構造を分析したところ、図2に示す通り、ハイドロキシアパタイト(HAP)であることが確認された。
【0117】
実施例8
Ca/Pモル比が1.50になるように、20重量%水酸化カルシウム懸濁液90.0kg及び32重量%リン酸水溶液49.6kgを調製した。それぞれの液を、98℃に加温した水111.5kg中に、反応液のpHが3.5~4.5の範囲を維持するように調節しながら1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌して熟成させた後に、濾過、水洗した。
【0118】
その後、送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKN812)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、コーミル(株式会社パウレック、QUADRO COMIL 194)及びマイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をした。更に電気炉(有限会社北村電気炉製作所、角型電気炉 酸化焼成用 KSO-40型 上蓋巻き上げ式)を用いて650℃で3時間焼成(昇温速度100℃/h)を行った。放冷後、ACMパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、10A)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム粉末を得た。得られたリン酸カルシウム粉末について、X線回折により結晶構造を分析したところ、図3に示す通り、ハイドロキシアパタイト(49重量%)に相当するピークとβ-TCP(51重量%)に相当するピークが認められた。また、後述するように、得られたリン酸カルシウム粉末を使用した積層造形用スラリーを1100℃で焼結処理した三次元積層造形物について、X線回折により結晶構造を分析したところ、図7に示すように、β-TCPのピークのみが認められ、ハイドロキシアパタイトのピークが認められなかった。このことから、図3で認められたハイドロキシアパタイトのピークは熱処理により構造変化が生じるカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトのピークであることが分かった。これらの分析結果から、得られたリン酸カルシウム粉末は、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイト49重量%とβ-TCP51重量%の混晶体であることが確認された。
【0119】
実施例9
Ca/Pモル比が1.50になるように、20重量%水酸化カルシウム懸濁液90.0kg及び32重量%リン酸水溶液49.6kgを調製した。それぞれの液を、98℃に加温した水111.5kg中に、反応液のpHが3.5~4.5の範囲を維持するように調節しながら1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌して熟成させた後に、濾過、水洗した。
【0120】
その後、送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKN812)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、コーミル(株式会社パウレック、QUADRO COMIL 194)及びマイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をした。更に電気炉(草葉化学株式会社、KY-5NX)を用いて750℃で3時間焼成(昇温速度100℃/h)を行った。放冷後、10重量%になるように水で懸濁し、ダイノーミル(株式会社シンマルエンタープライゼス、MULTI LAB型)を用いて20rpm、ジルコニアビーズ径1.0mm、ビーズ量4.03kg(充填量80%)の条件で湿式粉砕した。更に送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKN812)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム(β-TCP)粒子を得た。得られたリン酸カルシウム粉末について、X線回折により結晶構造を分析したところ、図4に示す通り、β-TCPであり、β-TCP含有量が99重量%であることが確認された。
【0121】
比較例1
反応槽に水6L及び酸化カルシウム1kgを投入して水和反応させた後に、懸濁液に水を加え、合計15Lに調整した。次いで、50℃に加温し、pH8になるまでリン酸水溶液を添加した。得られた溶液を95℃で2時間加温して熟成させた。
【0122】
次いで、得られた反応液をディスク式の噴霧手段を備えたスプレードライヤを用いて、噴霧乾燥を行い、乾燥物を回収した。更に、得られた乾燥物に対して、電気炉(草葉化学株式会社、KY-5NX)を用いて1150℃で3時間焼成(昇温速度65℃/h)を行った。放冷後、ACMパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、10A)で粉砕し、リン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0123】
比較例2
市販されているHAP粒子(富士フイルム和光純薬株式会社、アパタイトHAP、単斜晶)を使用した。
【0124】
比較例3
オートクレーブ温度を200℃に変更したこと以外は、実施例3と同条件でリン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0125】
比較例4
Ca/Pモル比が1.67になるように、8.4重量%水酸化カルシウム懸濁液3514.1g及び50重量%リン酸水溶液464.5gを調製した。300rpmで攪拌している20℃の水酸化カルシウム懸濁液に、リン酸を3時間かけて滴下後、更に1時間撹拌して熟成させた。
【0126】
その後、ウルトラアペックスミル(寿工業株式会社、UAM-015)を用いて41.6Hz、ポンプ速度2、ジルコニアビーズ径0.3mm、ビーズ量400g(充填量64%)の条件で湿式粉砕した。次いで、得られた溶液をオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社、TAS-09-20-300型)にて280℃、3時間の条件で水熱処理した。更に送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKM400)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0127】
比較例5
比較例3で得られたHAP粒子に対して、電気炉(草葉化学株式会社、KY-5NX)を用いて1000℃で3時間焼成(昇温速度100℃/h)を行い、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0128】
比較例6
Ca/Pモル比が1.67になるように、20重量%水酸化カルシウム懸濁液1200.0g及び32重量%リン酸水溶液742.1gを調製した。それぞれの液を、予め80℃に加温しておき、300rpmで攪拌している98℃に加温した水1785.0mL中に、温度98℃、反応液のpHが7.0~7.5の範囲を維持するように調節しながら1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌して熟成させた。次いで、送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKM400)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、リン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0129】
比較例7
Ca/Pモル比が1.67になるように、20重量%水酸化カルシウム懸濁液1200.0g及び32重量%リン酸水溶液742.1gを調製した。それぞれの液を、予め80℃に加温しておき、300rpmで攪拌している98℃に加温した水1785.0mL中に、温度98℃、反応液のpHが7.0~7.5の範囲を維持するように調節しながら1時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に30分間攪拌し、析出したハイドロキシアパタイトの結晶をウルトラアペックスミル(寿工業株式会社、UAM-015)を用いて41.6Hz、ポンプ速度2、ジルコニアビーズ径0.3mm、ビーズ量400g(充填量64%)の条件で湿式粉砕した。次いで、送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社、DKM400)を用いて100℃の温度条件で棚段乾燥させ、マイクロパルベライザ(ホソカワミクロン株式会社、AP-B)で乾式粉砕をしてリン酸カルシウム(HAP)粒子を得た。
【0130】
1-2.リン酸カルシウム粉末の物性の評価方法
得られた各リン酸カルシウム粉末について、以下の方法で、平均粒子径・粒度分布・個数平均径、細孔容積(ガス吸着法)、BET比表面積、平均細孔径(ガス吸着法)、ゆるみ嵩密度、かため嵩密度、結晶構造及び含量を評価した。
【0131】
[平均粒子径・粒度分布・個数平均径]
水5g中にリン酸カルシウム粉末0.4g、分散剤(品名「セルナD-305」(中京油脂株式会社製))0.02gを添加して作製した懸濁液を水中に分散させて、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社、マイクロトラック MT3300EXII」)を用いて、粒度分布を測定し、D10(累積度が10%となる粒子径)、D50(平均粒子径)、D90(累積度が90%となる粒子径)、及び個数平均径(個数計算で累積度50%となる粒子径)を求めた。
【0132】
[メソ孔(2~50nm)の細孔容積(ガス吸着法)]
高速比表面積細孔分布測定装置(Quantachrome Corporation、NOVA-4000)を用いて、以下の手法でメソ孔(2~50nm)の細孔容積を求めた。先ず、リン酸カルシウム粉末0.1g又は1.0gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で3時間脱気した。次いで、液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、メソ孔(2~50nm)の細孔容積(cc/g)をBJH法によって算出した。
【0133】
[マクロ孔(50~200nm)の細孔容積(ガス吸着法)]
高速比表面積細孔分布測定装置(Quantachrome Corporation、NOVA-4000)を用いて、以下の手法でマクロ孔(50~200nm)の細孔容積を求めた。先ず、リン酸カルシウム粉末0.1g又は1.0gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で3時間脱気した。次いで、液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、マクロ孔(50~200nm)の細孔容積(cc/g)をBJH法によって算出した。
【0134】
[BET比表面積]
高速比表面積細孔分布測定装置(Quantachrome Corporation、NOVA-4000)を用いて、以下の操作条件でBET比表面積の測定を行った。
前処理:リン酸カルシウム粉末0.1g又は1.0gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で3時間脱気した。
測定及び解析:液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、その吸着等温線を用いて多点BET法により比表面積(m2/g)を算出した。
【0135】
[平均細孔径]
先ず、高速比表面積細孔分布測定装置(Quantachrome Corporation、NOVA-4000)を用いて、以下の操作条件で、ガス吸着法による全細孔容積の測定を行った。
前処理:リン酸カルシウム粉末0.1g又は1.0gを正確に量り、吸着管に封入し、105℃で3時間脱気した。
測定及び解析:液体窒素ガス温度下で窒素ガスの吸着等温線を求め、相対圧P/P0(P0:飽和蒸気圧)が0.995におけるガス吸着量から全細孔容積(cc/g)を算出した。
【0136】
前記で得られたBET比表面積と全細孔容積(ガス吸着法)を用いて、下記式に従って平均細孔径(ガス吸着法)を算出した。
平均細孔径(nm)=4V/S×1000
V:全細孔容積(ガス吸着法)(cc/g)
S:BET比表面積(m2/g)
【0137】
[ゆるみ嵩密度]
パウダテスタ(ホソカワミクロン株式会社、PT-X)を用いて、装置の「ゆるみかさ密度」を選択し、カップ容量10cm3、目開き710μmの篩、振動時間50秒、振幅0.5mmの条件で行い、リン酸カルシウム粉末がカップからあふれた所で粉体の落下を止めた。カップ上の盛り上がっている粉末を擦り切り、粉末の入ったカップの重量から、空のカップの重量を差し引きすることで、1cm3当たりの粉末重量を求め、ゆるみ嵩密度(g/mL)とした。
【0138】
[かため嵩密度(タップ密度)]
前記ゆるみ嵩密度の測定後、引き続き装置の表示に従い、カップ上部にタップ密度測定用の筒(内径2.2cm、高さ3.2cm)を取り付けた。次いで、振幅0.5mmで振動させている目開き710μmの篩を介してリン酸カルシウム粉末を筒内に落下させ、筒の容量の8割程度までリン酸カルシウム粉末を充填した。この状態でタッピングを開始し、合計180回のタッピングを行った。タッピング中は、筒内のリン酸カルシウム粉末量が筒の容量の2割程度にまで圧縮された際には、装置の表示に従って、再度、振幅0.5mmで振動させている目開き710μmの篩を介してリン酸カルシウム粉末を筒内に落下させて筒の容量の8割程度までリン酸カルシウム粉末を補充した。タッピング終了後、筒を外して、カップ上の盛り上がっている紛体を摺り切り、粉体の入ったカップの重量を測定した。この重量から空のカップの重量を差し引きし、カップ内の粉体重量を計算し、1cm3当たりの粉体重量を求め、かため嵩密度(g/mL)とした。
【0139】
[結晶構造]
X線回折装置(株式会社リガク、SmartLab)を用いて、以下の条件で測定を行った。測定条件は、管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:30mA、スキャン軸2θ/θ、スキャンモード:連続、範囲指定:絶対、スキャン範囲:2θ=20~40°、スキャンスピード/計数時間:4.0°/min、ステップ幅:0.02°、入射スリット:2/3°、長手制限スリット:10mm、受光スリット1:10mm、受光スリット2:10mm、検出器:D/teX Ultra)で測定した。
【0140】
[含量]
前記結晶構造の測定結果から統合粉末X線解析ソフトウェアPDXL2のRIR法(Reference Intensity Ratio:参照強度比)を用いてβ-TCP及びHAPの含量を測定した。そのときのDBカード番号はβ-TCPは2128、HAPは01-076-0694を使用した。
【0141】
2.積層造形用スラリーの製造及び評価
2-1.積層造形用スラリーの製造
リン酸カルシウム粉末20.0gを正確に計りとって撹拌脱泡装置用の容器に入れた。次いで、紫外線硬化性樹脂及び分散剤の混合液を添加していき、撹拌脱泡装置で撹拌した。なお、実施例1~5、7、9及び比較例1~7のリン酸カルシウム粒に対しては、紫外線硬化性樹脂(株式会社エスケーファイン、SZシリーズ専用アクリル系光硬化性樹脂)及び分散剤(株式会社エスケーファイン、ポリカルボン酸系分散剤)の混合液を使用し、実施例6及び8のリン酸カルシウム粒に対しては、紫外線硬化性樹脂(株式会社エスケーファイン、SZシリーズ専用アクリル系光硬化性樹脂)及び分散剤(株式会社エスケーファイン、ポリカルボン酸系分散剤、脂肪酸アミド類系分散剤)の混合液を使用した。流動性が出た時点で混合液の添加を止め、積層造形用スラリーを得た。ここで、流動性が出た時点とは、前記混合液を添加しスラリーが形成された時点であり、混合液の添加によりリン酸カルシウム粉末の凝集がなくなった時点である。
【0142】
積層造形用スラリー中のリン酸カルシウム粉末の濃度(重量%)は、積層造形用スラリーの重量に対するリン酸カルシウム粉末の重量の割合から求め、積層造形用スラリー中のリン酸カルシウム粉末の濃度(体積%)は、積層造形用スラリーの体積に対するリン酸カルシウム粉末の体積(リン酸カルシウム粉末の重量(g)/HAP粉末の真密度(3.2g/cm3)又はβ-TCP粉末の真密度(3.1g/cm3))から求めた。
【0143】
2-2.積層造形用スラリーの物性の評価方法
前記で得られた積層造形用スラリーから10~14mLを分取し、15mLの遠心管Aに入れ3日静置した。静置後、遠心管A内で分離している液を別の15mL遠心管Bに移し、その時の液量を分離液量Xとした。さらに遠心管Aを45°傾け、分離液を採取した遠心管Bに遠心管Aからチクソトロピー性がなく落下した液が入るようにセットし、2時間静置した。2時間静置後、液の落下がないことを確認し、遠心管A内に残り、かつ粉体の凝集が見られた液を沈降液量Yとした。この操作後に、遠心管A内に残り、且つ粉体の凝集が見られた液は固形分が沈殿して流動性を失っており、積層造形に使用すると、造形装置内で分離するおそれがあり、造形濃度の不均一化や装置の詰まりに繋がるといえる。分離液量X及び沈降液量Yの値から、以下の式に従って、分離率及び沈降率を求めた。
【数1】
【0144】
3.三次元積層造形物の製造及び評価
3-1.三次元積層造形物の製造
前記「2-1.積層造形用スラリーの製造」と同様の方法で得られた積層造形用スラリーを用いて、光造形装置(株式会社写真化学、セラミック用高精細光造形装置SZシリーズ)で、三次元積層造形物の形状が直径5mm、高さ12.5mmの円柱形になるように光造形を行い、三次元積層硬化物を得た。次いで、エタノールで未硬化の樹脂を除去した後に、後述する条件で温電気炉(アドバンテック東洋株式会社、FUH732PA)を用いて脱脂処理及び焼結処理を行い、三次元積層造形物を得た。実施例1~5及び比較例1~7のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーで形成した三次元積層硬化物の場合には、昇温時間(30℃/h)で600℃まで昇温させて脱脂処理を行い、引き続き昇温速度100℃/hで1300℃まで昇温して、1300℃で3時間維持することにより焼結処理を行って三次元積層造形物を得た。実施例6のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーで形成した三次元積層硬化物の場合には、昇温時間(30℃/h)で500℃まで昇温させ、500℃を6時間維持し脱脂処理を行い、引き続き昇温速度100℃/hで1000℃、1100℃、及び1300℃までそれぞれ昇温して、前記昇温温度を3時間維持することにより焼結処理を行い、焼結処理温度が異なる三次元積層造形物を得た。実施例8のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーで形成した三次元積層硬化物の場合には、1000℃、1100℃までそれぞれ昇温したこと以外は、実施例6と同条件で三次元積層造形物を得た。
【0145】
3-2.三次元積層造形物の製造適性、及び三次元積層造形物の物性の評価方法
以下の方法で、造形性、反り・変形・破損性、圧縮強度、外観、及び結晶構造を評価した。
【0146】
[造形性]
以下の基準で造形性を評価した。
A:10mm以上の積層造形をすることができる。
B:10mm以上の積層造形をすることができない。
C:造形装置の積層台に積層造形用スラリーを展開できるが、塗布面にムラが生じ、積層されず造形できない。
D:スラリーの固形分が沈降し造形装置の積層台に積層造形用スラリーを展開することができず、造形できない。
【0147】
[反り・変形・破損性]
三次元積層造形物の外観を目視にて確認し、以下の基準で反り、変形及び破損性を評価した。
A:三次元積層造形物が三次元積層硬化物から未硬化の樹脂を除去した物と比較して反り、変形及び破損がなかった。
B:三次元積層造形物が三次元積層硬化物から未硬化の樹脂を除去した物と比較して反りや変形のみがあった。
C:三次元積層造形物が三次元積層硬化物から未硬化の樹脂を除去した物と比較して破損のみがあった。
D:三次元積層造形物が三次元積層硬化物から未硬化の樹脂を除去した物と比較して反り、変形及び破損があった。
【0148】
[圧縮強度]
精密万能材料試験機(インストロン・ジャパン株式会社、4507型)を用いて、三次元積層造形物の圧縮強度を測定した。具体的には、JIS R1608(2003)に準じて、5kNのロードセル、圧子φ50mm、試験速度0.5mm/minの条件で、三次元積層造形物の積層面(底面)に垂直方向に圧縮することで三次元積層造形物の圧縮強度を測定した。
【0149】
[外観]
電界放出形走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ、SU-8220)を用いて、100倍及び1000倍で、三次元積層造形物の外観を観察した。
【0150】
[結晶構造]
X線回折装置(株式会社リガク、SmartLab)を用いて、以下の条件で測定を行った。測定条件は、管球:Cu、管電圧:40kV、管電流:30mA、スキャン軸2θ/θ、スキャンモード:連続、範囲指定:絶対、スキャン範囲:2θ=20~40°、スキャンスピード/計数時間:4.0°/min、ステップ幅:0.02°、入射スリット:2/3°、長手制限スリット:10mm、受光スリット1:10mm、受光スリット2:10mm、検出器:D/teX Ultra)で測定した。
【0151】
4.結果
得られた結果を表1~4、並びに図1~7に示す。図1に実施例6のリン酸カルシウム粉末の結晶構造を測定した結果、図2に実施例7のリン酸カルシウム粉末の結晶構造を測定した結果、図3に実施例8のリン酸カルシウム粉末の結晶構造を測定した結果、及び図4に実施例9のリン酸カルシウム粉末の結晶構造を測定した結果を示す。また、図5には、実施例1、3及び比較例2のリン酸カルシウム粉末を使用して製造した三次元積層造形物の表面を電界放出形走査電子顕微鏡で観察した像を示す。図6には、実施例6のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーを1100℃で焼結処理することにより得た三次元積層造形物の結晶構造を測定した結果を示す。図7には、実施例8のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーを1100℃で焼結処理した三次元積層造形物の結晶構造を測定した結果を示す。
【0152】
実施例1~9のリン酸カルシウム粉末では、平均粒子径が0.1~5.0μmであり、且つメソ孔(細孔径2~50nm)における細孔容積が0.01~0.06cc/gを満たしており、長時間放置しても紫外線硬化性樹脂と分離しない分散安定性に優れた積層造形用スラリーを作製できた。
【0153】
また、実施例1~5のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーを用いて光造形を行うことにより、脱脂及び焼結時に破損が起こらず、圧縮強度が84~195MPaの高強度な三次元積層造形物を作成することができた。また、実施例6のリン酸カルシウム粉末を含む積層造形用スラリーを用いて光造形を行うことにより、脱脂及び焼結の温度を変動させても破損が起こらず、圧縮強度が51~113MPa程度の高強度な三次元積層造形物を作成することができた。更に、実施例8のリン酸カルシウム粉末を使用した三次元積層造形物においても、同様に脱脂及び焼結の温度を変動させても破損が起こらず、一般的にHAPよりも強度が劣るとされているβ-TCPであるにもかかわらず圧縮強度が78~221MPa程度の高強度な三次元積層造形物を作成することができた。これらの結果から、本発明のリン酸カルシウム粉末を使用することによって、高強度の領域で三次元積層造形物の強度を任意に変動させることができるため、所望の部位に適した高強度の人工骨を作製できることを示している。
【0154】
一方、比較例1及び5のリン酸カルシウム粉末は、メソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積が0.01cc/g未満と小さいことから積層造形用スラリー製造時の分散性が悪く、沈降が見られた。比較例2及び6のリン酸カルシウム粉末はメソ孔の細孔容積は満たしているが、平均粒子径が5.0μm超と大きいことから粒子当たりの細孔容積が小さくなってしまい、積層造形用スラリーに必要なチクソトロピー性がなく、分散安定性も低く、塗布面にムラが生じて積層されず造形できなかったり、10mm以上積層造形をすることができなかった。また、比較例3、4及び7のリン酸カルシウム粉末では、メソ孔の細孔容積が0.06cc/g超と大きいことから、積層造形用スラリー中での光硬化性樹脂の割合が高くなり、光造形に供すると、脱脂・焼結後の造形物の収縮量が大きくなり、三次元積層造形物の反り、変形、破損又は強度不足に繋がった。
【0155】
また、図5で示したとおり、実施例1及び3のリン酸カルシウム粉末を使用して製造した三次元積層造形物(光造形物)は、比較例2の場合に比べて、三次元積層造形物の表面に凹凸が少なく、滑らかであった。即ち、この結果は、本発明のリン酸カルシウム粉末を使用することにより、ミクロな観点でも表面に凹凸がなく表面が平坦で高精度な三次元積層造形物を作製できることを示している。
【0156】
図6で示したとおり、実施例6のリン酸カルシウム粉末は、三次元積層造形物でもハイドロキシアパタイトの結晶構造を維持していることが分かる。
【0157】
また、図7で示したとおり、実施例8のリン酸カルシウム粉末を使用した三次元積層造形物はβ-TCPの単結晶になっていたが、図3で示したとおり、実施例8のリン酸カルシウム粉末は、X線回折によりハイドロキシアパタイトに相当するピークとβ-TCPに相当するピークが認められた。つまり、図3におけるハイドロキシアパタイトに相当するピークは、熱処理により構造変化が生じるカルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトのピークであり、実施例8のリン酸カルシウム粉末は、カルシウム欠損型ハイドロキシアパタイトとβ-TCPの結晶構造が存在している混晶体であることが分かる。
【0158】
【表1】
【0159】
【表2】
【0160】
【表3】
【要約】
本発明の目的は、積層造形において、優れた分散安定性を有する積層造形用スラリーを調製でき、且つ高強度の三次元積層造形物を作製可能なリン酸カルシウム粉末を提供することである。
平均粒子径(D50)が0.1~5.0μmであり、且つガス吸着法によって測定されるメソ孔(細孔径2~50nm)の細孔容積が0.01~0.06cc/gであるリン酸カルシウム粉末は積層造形用スラリー中でも分散安定性に優れ、当該リン酸カルシウムを含む積層造形用スラリーを使用して積層造形することにより人工骨等のインプラントに有用な高強度の三次元積層造形物を作製できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7