IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ケミコン株式会社の特許一覧

特許7015445導電性カーボン混合物の製造方法及びこの混合物を用いた電極の製造方法
<>
  • 特許-導電性カーボン混合物の製造方法及びこの混合物を用いた電極の製造方法 図1
  • 特許-導電性カーボン混合物の製造方法及びこの混合物を用いた電極の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】導電性カーボン混合物の製造方法及びこの混合物を用いた電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20220127BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20220127BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20220127BHJP
   H01M 4/02 20060101ALI20220127BHJP
   H01G 11/32 20130101ALI20220127BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220127BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M4/02 Z
H01G11/32
H01M4/36 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017136475
(22)【出願日】2017-07-12
(65)【公開番号】P2019019014
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-03-06
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228578
【氏名又は名称】日本ケミコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115509
【弁理士】
【氏名又は名称】佐竹 和子
(72)【発明者】
【氏名】久保田 智志
(72)【発明者】
【氏名】白石 晏義
(72)【発明者】
【氏名】宮本 典之
(72)【発明者】
【氏名】小池 将貴
(72)【発明者】
【氏名】石本 修一
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-096125(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133586(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/05
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 4/02
H01G 11/32
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有し且つ少なくとも一部が糊状である酸化処理カーボンと、
該酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンと、
を含み、前記酸化処理カーボンが前記別の導電性カーボン混合物の表面を被覆している、蓄電デバイスの電極の製造のための導電剤として使用されるべき導電性カーボン混合物であって
該導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比が、前記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比の20~55%の範囲である導電性カーボン混合物の製造方法であって、
導電性を有するカーボン原料に酸化処理を施し、但し前記酸化処理を、該酸化処理によって得られる導電性を有する酸化処理カーボンが圧力を受けると糊状に広がる性質を有するようになるまで行う、酸化段階、及び、
前記酸化段階において得られた酸化処理カーボンと、該酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンと、を乾式混合して、混合の圧力によって前記酸化処理カーボンの少なくとも一部を糊状に広げて前記別の導電性カーボンの表面を被覆させる混合処理を行い、但し前記混合処理を、該混合処理によって得られる導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比が、前記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比の20~55%の範囲になるように行う、混合段階、
を含むことを特徴とする導電性カーボン混合物の製造方法。
【請求項2】
前記酸化段階における酸化処理を、該酸化処理によって得られる導電性を有する酸化処理カーボンが該酸化処理カーボン全体の10質量%以上の親水性部分を有するようになるまで行う、請求項に記載の導電性カーボン混合物の製造方法。
【請求項3】
前記混合段階における混合処理を、該混合処理によって得られる導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比が、前記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比の20~35%の範囲になるように行う、請求項1又は2に記載の導電性カーボン混合物の製造方法。
【請求項4】
蓄電デバイス用の電極であって、
電極活物質と、
導電性を有し且つ少なくとも一部が糊状である酸化処理カーボンと、該酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンと、を含み、前記酸化処理カーボンが前記別の導電性カーボン混合物の表面を被覆している、蓄電デバイスの電極の製造のための導電剤として使用されるべき導電性カーボン混合物であって、該導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比が、前記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比の20~55%の範囲である導電性カーボン混合物と、
を含む活物質層を有し、前記少なくとも一部が糊状である酸化処理カーボンが前記別の導電性カーボンの表面ばかりでなく前記電極活物質の表面も被覆している電極の製造方法であって、
電極活物質と、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法によって得られた導電性カーボン混合物と、を混合して、混合の圧力により前記酸化処理カーボンをさらに糊状に広げて前記別の導電性カーボンの表面ばかりでなく前記電極活物質の表面も被覆させた電極材料を得る、調製段階、及び、
前記調製段階において得られた電極材料を用いて集電体上に活物質層を形成し、該活物質層に圧力を印加して、該圧力により、前記酸化処理カーボンをさらに糊状に広げて前記電極活物質の表面をさらに被覆させると共に前記導電性カーボン混合物を緻密化させる、加圧段階
を含むことを特徴とする電極の製造方法。
【請求項5】
前記調製段階において用いられる前記電極活物質と前記導電性カーボン混合物との割合が、質量比で、97:3~99.5:0.5の範囲である、請求項に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスの電極の製造において使用される導電性カーボン混合物に関する。本発明はまた、上記導電性カーボン混合物を用いた電極及びこの電極を備えた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池、電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ及びハイブリッドキャパシタなどの蓄電デバイスは、携帯電話やノート型パソコンなどの情報機器の電源、電気自動車やハイブリッド自動車などの低公害車のモーター駆動電源やエネルギー回生システム等のために広く応用が検討されているデバイスであるが、これらの蓄電デバイスにおいて、高性能化、小型化の要請に答えるために、エネルギー密度及びサイクル寿命の向上が望まれている。
【0003】
これらの蓄電デバイスでは、電解質(電解液を含む)中のイオンとの電子の授受を伴うファラデー反応或いは電子の授受を伴わない非ファラデー反応により容量を発現する電極活物質が、エネルギー貯蔵のために利用される。そして、これらの電極活物質は一般に導電剤との複合材料の形態で使用される。導電剤としては、通常、カーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンが使用される。これらの導電性カーボンは、導電性の低い活物質と併用されて、複合材料に導電性を付与する役割を果たすが、これだけでなく、活物質の反応に伴う体積変化を吸収するマトリックスとしても作用し、また、活物質が機械的な損傷を受けても電子伝導パスを確保するという役割も果たす。
【0004】
ところで、これらの活物質と導電性カーボンとの複合材料は、一般に活物質粒子と導電性カーボン粒子を混合する方法により製造される。導電性カーボンは基本的に蓄電デバイスのエネルギー密度の向上に寄与しないため、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスを得るためには、単位体積あたりの導電性カーボン量を減少させて活物質量を増加させる必要がある。しかしながら、活物質粒子間に導電性カーボン粒子を効率よく進入させることが困難であり、したがって活物質粒子間の距離を接近させて単位体積あたりの活物質量を増加させることが困難であるという問題が存在していた。
【0005】
この問題に対し、出願人は、特許文献1(特開2016-96125号公報)において、蓄電デバイスの電極の製造のための導電性カーボン混合物を提案している。この導電性カーボン混合物は、空隙を有するカーボン原料に強い酸化処理を施すことによって得られた酸化処理カーボンと、上記酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンと、の乾式混合により得られる。強い酸化処理を施した酸化処理カーボンは、圧力を受けると少なくとも一部が糊状に変化する性質を有するが、乾式混合の過程で上記酸化処理カーボンに及ぼされる圧力により、上記酸化処理カーボンの糊状化が進行し、この少なくとも一部が糊状に変化した酸化処理カーボンが上記別の導電性カーボンの表面に付着する。
【0006】
上記導電性カーボン混合物は電極活物質となじみが良く、この導電性カーボン混合物と電極活物質とを混合して蓄電デバイス用の電極材料を製造する過程で、導電性カーボン混合物のうちの少なくとも一部が糊状の酸化処理カーボンが電極活物質の表面を被覆する。そして、集電体上にこの電極材料を用いて活物質層を形成し、活物質層に圧力を印加して電極を製造すると、その圧力により、酸化処理カーボンの糊状化がさらに進行し、糊状化した酸化処理カーボンによる電極活物質の表面の被覆がさらに進行するとともに、糊状化した酸化処理カーボンとこれに被覆された別の導電性カーボンとが共に接近した電極活物質の粒子間に押し出されて緻密化する。その結果、活物質層における電極活物質の含有量を増加させることができ、高い電極密度を有する電極を得ることができる。また、得られた電極を用いて蓄電デバイスを構成すると、蓄電デバイス中の電解液の電極内への含浸が抑制されないにもかかわらず、導電性カーボン混合物が電極活物質の電解液への溶解を抑制することがわかっている。したがって、上記導電性カーボン混合物により、蓄電デバイスのエネルギー密度及びサイクル寿命の向上がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2016-96125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
蓄電デバイスには、常にサイクル寿命のさらなる向上が要請されている。そこで、本発明の目的は、特許文献1の知見を基にして、蓄電デバイスのサイクル寿命をさらに長期化させる導電性カーボン混合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、酸化処理カーボンとこれとは別の導電性カーボンとの乾式混合の強度を広範囲に変更して導電性カーボン混合物を得、得られた混合物をレーザラマン分光光度計により調査したところ、乾式混合強度が高まるにつれて、上記導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比が低下することを発見した。Dバンドはエッジ酸化不規則黒鉛に由来するラマンバンドであり、2Dバンドはその倍音モードである。以下、ラマンスペクトルにおける2Dバンドのピーク強度のDバンドのピーク強度に対する比を「R2D/D」で表す。また、本発明において、「酸化処理カーボン」とは、導電性を有するカーボン原料に強い酸化処理を施すことによって得られた、圧力を受けると少なくとも一部が糊状に変化する性質を有するカーボンを意味し、「糊状」とは、倍率25000倍で撮影したSEM写真において、カーボン一次粒子の粒界が認められず、非粒子状の不定形なカーボンがつながっている状態を意味する。そして、発明者は、鋭意検討した結果、ラマンスペクトルにおけるR2D/Dが上記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下、好ましくは20~55%、特に好ましくは20~35%の値を示す導電性カーボン混合物を使用して蓄電デバイスを構成すると、蓄電デバイスのサイクル寿命が顕著に改善されることを発見し、発明を完成させた。
【0010】
したがって、本発明はまず、導電性を有する酸化処理カーボンと、該酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンと、を含み、上記酸化処理カーボンが上記別の導電性カーボンの表面を被覆している、蓄電デバイスの電極の製造のための導電性カーボン混合物であって、該導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおけるR2D/Dが、上記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下、好ましくは20~55%、特に好ましくは20~35%の範囲であることを特徴とする導電性カーボン混合物に関する。この導電性カーボン混合物において、上記酸化処理カーボンの少なくとも一部が糊状であるのが好ましい。
【0011】
図1は、酸化処理カーボンとしてのケッチェンブラックに強い酸化処理を施すことによって得られた酸化処理ケッチェンブラック、及び、酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンとしてのアセチレンブラックについて、レーザラマン分光光度計(励起光:KTP/532レーザー:波長532nm)を用いてラマンスペクトルを測定した結果を示している。図1に示されている、波数2670cm-1付近に認められるラマンバンドが2Dバンドであり、波数1300~1350cm-1の間に認められるラマンバンドがDバンドである。また、Gバンドは理想黒鉛に由来するラマンバンドであり、D+GバンドはD,Gの結合モードである。図1から把握されるように、酸化処理ケッチェンブラック及びアセチレンブラックについて得られたラマンスペクトルを、Dバンドのピーク強度で規格化すると、両者は2Dバンドのピーク強度において大きく異なっている。
【0012】
酸化処理ケッチェンブラックとアセチレンブラックとをボールミルに導入して乾式混合を行うと、乾式混合の過程で、酸化処理ケッチェンブラックの少なくとも一部が糊状に変化し、この変化した酸化処理ケッチェンブラックがアセチレンブラックの表面を被覆する。乾式混合により得られた導電性カーボン混合物のラマンスペクトルを図2に示す。図2のラマンスペクトルもまた、Dバンドのピーク強度で規格化されている。図2から把握されるように、ボールミルの振動数を増やす、混合時間を長くする、などの方法によって混合強度を高めるほど、2Dバンドのピーク強度が低下する。このことは、混合強度を高めるほど、酸化処理ケッチェンブラックの糊状化が進行するとともに、この糊状化が進行した酸化処理ケッチェンブラックによるアセチレンブラックの表面の被覆が進行することに対応していると考えられる。また、同様に図2から把握されるように、隣接するD+Gバンド等の強度は混合強度の影響をほとんど受けない。したがって、導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおけるR2D/Dの値は、酸化処理ケッチェンブラックによるアセチレンブラックの表面の被覆状態を反映した値となる。なお、ボールミルとは別の混合装置を用いて混合強度を高めても、図2と同様の2Dバンドのピーク強度の低下が認められ、さらに、酸化処理カーボンとしてケッチェンブラック以外のカーボン原料から得られたものを選択し、酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンとしてアセチレンブラック以外のものを選択して混合強度を高めても、図2と同様の2Dバンドのピーク強度の低下が認められる。
【0013】
そして、乾式混合により得られた導電性カーボン混合物、すなわち、上記酸化処理カーボンが上記別の導電性カーボンの表面を被覆している導電性カーボン混合物について測定されたラマンスペクトルにおけるR2D/Dが、上記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下、好ましくは20~55%、特に好ましくは20~35%の範囲であると、蓄電デバイスのサイクル寿命が顕著に改善されることがわかった。
【0014】
上記導電性カーボン混合物における酸化処理カーボンが、親水性部分を含み、該親水性部分の含有量が酸化処理カーボン全体の10質量%以上であるのが好ましい。ここで、カーボンの「親水性部分」とは、以下の意味を有する。すなわち、pH11のアンモニア水溶液20mLに0.1gのカーボンを添加し、1分間の超音波照射を行ない、得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させる。沈殿せずにpH11のアンモニア水溶液に分散している部分が「親水性部分」である。また、親水性部分のカーボン全体に対する含有量は、以下の方法により求められる。上記固相部分の沈殿後、上澄み液を除去した残余部分を乾燥させ、乾燥後の固体の重量を測定する。乾燥後の固体の重量を最初のカーボンの重量0.1gから差し引いた重量が、pH11のアンモニア水溶液に分散している「親水性部分」の重量である。そして、「親水性部分」の重量の最初のカーボンの重量0.1gに対する重量比が、カーボンにおける「親水性部分」の含有量である。
【0015】
従来の蓄電デバイスの電極において導電剤として使用されているカーボンブラック、天然黒鉛、カーボンナノチューブ等の導電性カーボンにおける親水性部分の割合は全体の5質量%以下である。しかし、カーボン原料に酸化処理を施すと、カーボン粒子の表面から酸化され、カーボンにヒドロキシ基、カルボキシ基やエーテル結合が導入され、またカーボンの共役二重結合が酸化されて炭素単結合が生成し、部分的に炭素間結合が切断され、粒子表面に親水性部分が生成する。そして、酸化処理の強度を強めていくと、カーボン粒子における親水性部分の割合が増加して親水性部分がカーボン全体の10質量%以上を占めるようになる。そして、このような酸化処理カーボンは、圧力を受けると一体的に圧縮されて糊状に広がりやすく且つ緻密化しやすいため好ましい。
【0016】
本発明の導電性カーボン混合物は、蓄電デバイスの電極の製造のために、電極活物質と混合された形態で使用される。本発明の導電性カーボン混合物と電極活物質とを混合して電極材料を得る過程で、上記酸化処理カーボンの糊状化が進行して電極活物質の表面をも被覆する。さらに、集電体上にこの電極材料を用いて活物質層を形成し、活物質層に圧力を印加して電極を製造する過程で、圧力により、酸化処理カーボンの糊状化がさらに進行して電極活物質の表面の被覆がさらに進行するとともに、導電性カーボン混合物が緻密化する。ラマンスペクトルにおけるR2D/Dが上記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下、好ましくは20~55%、特に好ましくは20~35%の範囲である本発明の導電性カーボン混合物は、電極材料及び電極の製造の過程で電極活物質の表面を特に良好に被覆しつつ緻密化するため、得られた電極を備えた蓄電デバイスのサイクル寿命が長期化する。したがって、本発明はまた、蓄電デバイス用の電極であって、電極活物質と本発明の導電性カーボン混合物とを含む活物質層を有し、上記酸化処理カーボンが上記電極活物質の表面を被覆していることを特徴とする電極に関し、さらには、該電極を備えた蓄電デバイスに関する。
【0017】
上記電極の活物質層において、電極活物質と導電性カーボン混合物との割合には厳密な制限はないが、導電性カーボン混合物が電極活物質の表面を特に良好に被覆して活物質層に導電性を付与するとともに緻密化するため、活物質層中の電極活物質の量を増加させることができる。電極活物質の増量は、蓄電デバイスのエネルギー密度の向上につながる。電極活物質と導電性カーボン混合物との割合は、質量比で95:5~99.5:0.5の範囲であるのが好ましく、97:3~99.5:0.5の範囲であるのが特に好ましい。導電性カーボン混合物の割合が上述の範囲より少ないと、活物質層の導電性が不足し、また導電性カーボン混合物による活物質の被覆率が低下してサイクル特性が低下する傾向がある。
【発明の効果】
【0018】
導電性を有する酸化処理カーボンと該酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンとを含み、上記酸化処理カーボンが上記別の導電性カーボンの表面を被覆している導電性カーボン混合物において、ラマンスペクトルにおけるR2D/Dが上記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下である本発明の導電性カーボン混合物は、電極材料及び電極の製造の過程で電極活物質の表面を特に良好に被覆しつつ緻密化するため、得られた電極を備えた蓄電デバイスのサイクル寿命が長期化する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】酸化処理ケッチェンブラックとアセチレンブラックのラマンスペクトルとを比較した図である。
図2】酸化処理ケッチェンブラックとアセチレンブラックとを乾式混合した導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおける混合強度の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)導電性カーボン混合物
本発明の蓄電デバイスの電極の製造のための導電性カーボン混合物は、導電性を有する酸化処理カーボンと、該酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンと、を含み、上記酸化処理カーボンが上記別の導電性カーボンの表面を被覆している。好ましくは上記酸化処理カーボンの少なくとも一部が糊状である。そして、この導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおけるR2D/Dが、上記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下、好ましくは20~55%、特に好ましくは20~35%の範囲である。
【0021】
上記別の導電性カーボンとの混合の過程で少なくとも一部が糊状に変化する酸化処理カーボンは、導電性を有するカーボン原料に比較的強い酸化処理を施すことにより得ることができる。使用されるカーボン原料には特に制限がないが、酸化の容易性の点から、多孔質炭素粉末、ケッチェンブラック、空隙を有するファーネスブラック、カーボンナノファイバ及びカーボンナノチューブのような空隙を有するカーボンが好ましく、また、BET法で測定した比表面積が300m/g以上の空隙を有するカーボンが好ましい。中でも、特にケッチェンブラックや空隙を有するファーネスブラックなどの球状の粒子が好ましい。
【0022】
カーボン原料の酸化処理のためには、公知の酸化方法を特に限定なく使用することができる。例えば、酸又は過酸化水素の溶液中でカーボン原料を処理することにより、酸化処理カーボンを得ることができる。酸としては、硝酸、硝酸硫酸混合物、次亜塩素酸水溶液等を使用することができる。また、カーボン原料を酸素含有雰囲気、水蒸気、二酸化炭素中で加熱することにより、酸化処理カーボンを得ることができる。さらに、カーボン原料をアルカリ金属水酸化物と混合して酸素含有雰囲気中で加熱し、水洗などによりアルカリ金属を除去することにより、酸化処理カーボンを得ることができる。また、カーボン原料の酸素含有雰囲気中でのプラズマ処理、紫外線照射、コロナ放電処理及びグロー放電処理、オゾン水又はオゾンガスによる処理、水中での酸素バブリング処理により、酸化処理カーボンを得ることができる。
【0023】
カーボン原料、好ましくは上述した空隙を有するカーボン原料に酸化処理を施すと、カーボン粒子の表面から酸化され、カーボンにヒドロキシ基、カルボキシ基やエーテル結合が導入され、またカーボンの共役二重結合が酸化されて炭素単結合が生成し、部分的に炭素間結合が切断され、粒子表面に親水性に富む部分が生成する。このような親水性部分を有する酸化処理カーボンは、上記別の導電性カーボンの表面に付着しやすく、上記別の導電性カーボンの凝集を効果的に抑制する。そして、酸化処理の強度を強めていくと、カーボン粒子における親水性部分の割合が増加し、上記別の導電性カーボンと混合の過程で少なくとも一部が糊状に変化する酸化処理カーボンが得られる。酸化処理カーボンにおける親水性部分の含有量は、酸化処理カーボン全体の10質量%以上であるのが好ましい。このような酸化処理カーボンは、圧力を受けると一体的に圧縮されて糊状に広がりやすく且つ緻密化しやすい。親水性部分の含有量が全体の12質量%以上30質量%以下であるのが特に好ましい。
【0024】
全体の10質量%以上の親水性部分を含む酸化処理カーボンは、
(a)空隙を有するカーボン原料を酸で処理する工程、
(b)酸処理後の生成物と遷移金属化合物とを混合する工程、
(c)得られた混合物を粉砕し、メカノケミカル反応を生じさせる工程、
(d)メカノケミカル反応後の生成物を非酸化雰囲気中で加熱する工程、及び、
(e)加熱後の生成物から、上記遷移金属化合物及び/又はその反応生成物を除去する工程
を含む製造方法によって、好適に得ることができる。
【0025】
(a)工程では、空隙を有するカーボン原料、好ましくはケッチェンブラック、を酸に浸漬して放置する。この浸漬の際に超音波を照射しても良い。酸としては、硝酸、硝酸硫酸混合物、次亜塩素酸水溶液等のカーボンの酸化処理に通常使用される酸を使用することができる。浸漬時間は酸の濃度や処理されるカーボン原料の量などに依存するが、一般に5分~5時間の範囲である。酸処理後のカーボンを十分に水洗し、乾燥した後、(b)工程において遷移金属化合物と混合する。
【0026】
(b)工程においてカーボン原料に添加される遷移金属化合物としては、遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩等の無機金属塩、ギ酸塩、酢酸塩、蓚酸塩、メトキシド、エトキシド、イソプロポキシド等の有機金属塩、或いはこれらの混合物を使用することができる。これらの化合物は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。異なる遷移金属を含む化合物を所定量で混合して使用しても良い。また、反応に悪影響を与えない限り、遷移金属化合物以外の化合物、例えば、アルカリ金属化合物を共に添加しても良い。酸化処理カーボンは、蓄電デバイスの電極の製造において、電極活物質と混合されて使用されることから、電極活物質を構成する元素の化合物をカーボン原料に添加すると、電極活物質に対して不純物となりうる元素の混入を防止することができるため好ましい。
【0027】
(c)工程では、(b)工程で得られた混合物を粉砕し、メカノケミカル反応を生じさせる。遷移金属化合物がメカノケミカル反応によりカーボン原料の酸化を促進するように作用し、この工程でカーボン原料の酸化が迅速に進む。この反応のための粉砕機の例としては、ライカイ器、石臼式摩砕機、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ハイブリダイザー、メカノケミカル複合化装置及びジェットミルを挙げることができる。粉砕時間は、使用する粉砕機や処理されるカーボンの量などに依存し、厳密な制限が無いが、一般には5分~3時間の範囲である。(d)工程は、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気などの非酸化雰囲気中で行われる。加熱温度及び加熱時間は使用される遷移金属化合物に応じて適宜選択される。続く(e)工程において、加熱後の生成物から遷移金属化合物及び/又はその反応生成物を酸で溶解する等の手段により除去した後、十分に洗浄し、乾燥する。これらの工程を介して、全体の10質量%以上、好ましくは全体の12質量%以上30質量%以下の親水性部分を含む酸化処理カーボンを得ることができる。
【0028】
本発明の導電性カーボン混合物は、得られた酸化処理カーボンと、この酸化処理カーボンとは別の導電性カーボンと、を乾式混合することにより、得ることができる。
【0029】
上記酸化処理カーボンと混合される別の導電性カーボンとしては、従来の蓄電デバイスの電極のために使用されている導電性カーボンを特に限定なく使用することができ、例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化ケッチェンブラック、メソポーラス炭素、気相法炭素繊維が挙げられる。これらは、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。少なくとも一部が糊状である酸化処理カーボンより高い導電率を有する導電性カーボンが使用されるのが好ましく、特にアセチレンブラックの使用が好ましい。
【0030】
上記酸化処理カーボンと上記別の導電性カーボンとの割合は、質量比で、3:1~1:3の範囲が好ましく、2.5:1.5~1.5:2.5の範囲がより好ましい。乾式混合のために、ライカイ器、石臼式摩砕機、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ハイブリダイザー、メカノケミカル複合化装置及びジェットミルを使用することができる。乾式混合の時間は、混合に処される上記酸化処理カーボン及び上記別の導電性カーボンの合計量や使用する混合装置により変化するが、一般には10分~1時間の間である。
【0031】
乾式混合の過程で酸化処理カーボンの少なくとも一部が糊状に変化して、上記別の導電性カーボンの表面を被覆するため、別の導電性カーボンの凝集を抑制することができる。そして、乾式混合後の導電性カーボン混合物についてラマンスペクトルを測定すると、図2に示すように、乾式混合における混合強度が高くなるほど、言い換えると、少なくとも一部が糊状の酸化処理カーボンによる上記別の導電性カーボンの表面の被覆が進行するほど、2Dバンドのピーク強度が低下する。本発明の導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおけるR2D/Dは上記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下、好ましくは20~55%、特に好ましくは20~35%の範囲であるが、この範囲に調整するための乾式混合条件は簡単な予備実験により定めることができる。本発明の導電性カーボン混合物は、以下に示す電極材料及び電極の製造の過程で、電極活物質の表面を特に良好に被覆しつつ緻密化するため、得られた電極を備えた蓄電デバイスのサイクル寿命が長期化する。上記酸化処理カーボンと上記別の導電性カーボンとの乾式混合強度を導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおけるR2D/Dが別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの20%未満になるまで高めると、導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおけるR2D/Dが別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%を超えるような不十分な乾式混合強度を採用した場合と比較すると蓄電デバイスのサイクル寿命が長期化するものの、導電性カーボン混合物のラマンスペクトルにおけるR2D/Dが別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの20~55%の範囲である好適な乾式混合強度を採用した場合と比較すると、蓄電デバイスのサイクル寿命が短縮する傾向が認められる。現在のところ、その理由は明確ではない。
【0032】
(2)電極
本発明の導電性カーボン混合物は、二次電池、電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ及びハイブリッドキャパシタなどの蓄電デバイスの電極の製造のために、蓄電デバイスの電解質中のイオンとの電子の授受を伴うファラデー反応或いは電子の授受を伴わない非ファラデー反応により容量を発現する電極活物質と混合された形態で使用される。
【0033】
本発明の導電性カーボン混合物と併用される電極活物質としては、従来の蓄電デバイスにおいて正極活物質又は負極活物質として使用されている活物質を特に限定なく使用することができる。これらの活物質は、単独の化合物であっても良く、2種以上の化合物の混合物であっても良い。
【0034】
二次電池の正極活物質の例としては、まず、層状岩塩型LiMO、層状LiMnO-LiMO固溶体、及びスピネル型LiM(式中のMは、Mn、Fe、Co、Ni又はこれらの組み合わせを意味する)が挙げられる。これらの具体的な例としては、LiCoO、LiNiO、LiNi4/5Co1/5、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNi1/2Mn1/2、LiFeO、LiMnO、LiMnO-LiCoO2、LiMnO-LiNiO、LiMnO-LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMnO-LiNi1/2Mn1/2、LiMnO-LiNi1/2Mn1/2-LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiMn、LiMn3/2Ni1/2が挙げられる。また、イオウ及びLiS、TiS、MoS、FeS、VS、Cr1/21/2などの硫化物、NbSe、VSe、NbSeなどのセレン化物、Cr、Cr、VO、V、V、V13などの酸化物の他、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiVOPO、LiV、LiV、MoV、LiFeSiO、LiMnSiO、LiFePO、LiFe1/2Mn1/2PO、LiMnPO、Li(POなどの複合酸化物が挙げられる。
【0035】
二次電池の負極活物質の例としては、Fe、MnO、MnO、Mn、Mn、CoO、Co、NiO、Ni、TiO、TiO、SnO、SnO、SiO、RuO、WO、WO、ZnO等の酸化物、Sn、Si、Al、Zn等の金属、LiVO、LiVO、LiTi12などの複合酸化物、Li2.6Co0.4N、Ge、Zn、CuNなどの窒化物が挙げられる。
【0036】
電気二重層キャパシタの分極性電極における活物質としては、比表面積の大きな活性炭、カーボンナノファイバ、カーボンナノチューブ、フェノール樹脂炭化物、ポリ塩化ビニリデン炭化物、微結晶炭素などの炭素材料が例示される。ハイブリッドキャパシタでは、二次電池のために例示した正極活物質を正極のために使用することができ、この場合には負極が活性炭等を用いた分極性電極により構成される。また、二次電池のために例示した負極活物質を負極のために使用することができ、この場合には正極が活性炭等を用いた分極性電極により構成される。レドックスキャパシタの正極活物質としてはRuO、MnO、NiOなどの金属酸化物を例示することができ、負極はRuO等の活物質と活性炭等の分極性材料により構成される。
【0037】
電極活物質の粒子形状や粒径には限定がないが、活物質の平均粒径が2μmより大きく25μm以下であるのが好ましい。この比較的大きな平均粒径を有する活物質は、それ自体で電極密度を向上させる上に、電極材料及び電極の製造の過程で、その押圧力により、導電性カーボン混合物のうちの少なくとも一部が糊状の酸化処理カーボンの糊状化及び緻密化を促進させる。また、活物質が、0.01~2μmの平均粒径を有する微小粒子と、該微小粒子と同じ極の活物質として動作可能な2μmより大きく25μm以下の平均粒径を有する粗大粒子と、から構成されていても良い。粒径が小さい粒子は凝集しやすいといわれているが、導電性カーボン混合物のうちの少なくとも一部が糊状の酸化処理カーボンが粗大粒子の表面ばかりでなく微小粒子の表面にも付着して表面を覆うため、活物質の凝集を抑制することができ、活物質と導電性カーボン混合物との混合状態を均一化させることができる。
【0038】
混合される電極活物質と導電性カーボン混合物との質量比には特に限定がないが、高いエネルギー密度を有する蓄電デバイスを得るために、質量比で、90:10~99.5:0.5の範囲であるのが好ましい。ラマンスペクトルにおけるR2D/Dが上記別の導電性カーボンのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下、好ましくは20~55%、特に好ましくは20~35%の範囲である本発明の導電性カーボン混合物は、電極材料及び電極の製造の過程で電極活物質の表面を特に良好に被覆しつつ緻密化するため、電極活物質をさらに増量させることができ、電極活物質と導電性カーボン混合物との割合は、質量比で95:5~99.5:0.5の範囲であるのが好ましく、97:3~99.5:0.5の範囲であるのが特に好ましい。導電性カーボン混合物の割合が上述の範囲より少ないと、活物質層の導電性が不足し、また導電性カーボン混合物による活物質の被覆率が低下してサイクル寿命が低下する傾向がある。
【0039】
本発明の導電性カーボン混合物と電極活物質とをバインダ及び溶媒と共に混合することにより、電極の製造のために使用するスラリー形態の電極材料を得ることができる。
【0040】
バインダとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、ポリフッ化ビニル、カルボキシメチルセルロースなどの公知のバインダが使用される。バインダの含有量は、電極材料の総量に対して1~30質量%であるのが好ましい。1質量%以下であると活物質層の強度が十分でなく、30質量%以上であると、電極の放電容量が低下する、内部抵抗が過大になるなどの不都合が生じる。溶媒としては、N-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、イソプロピルアルコール、水等の電極材料中の他の構成要素に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。バインダは、溶媒に溶解させた形態で使用することができる。使用される溶媒の量には、以下に示す電極の活物質層の形成に支障がなければ、特に限定がない。
【0041】
スラリー形態の電極材料は、本発明の導電性カーボン混合物と電極活物質とを乾式混合した後、得られた混合物をバインダ及び溶媒と共に混合する方法により製造することができる。導電性カーボン混合物と電極活物質との乾式混合の過程で、導電性カーボン混合物のうちの少なくとも一部が糊状の酸化処理カーボンがさらに糊状に広がって電極活物質の表面をも被覆する。乾式混合のために、ライカイ器、石臼式摩砕機、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ローラミル、攪拌ミル、遊星ミル、振動ミル、ハイブリダイザー、メカノケミカル複合化装置及びジェットミルを使用することができる。乾式混合の時間は、混合に処される導電性カーボン混合物及び電極活物質の合計量や使用する混合装置により変化するが、一般には10分~1時間の間である。続くバインダ及び溶媒との湿式混合における混合方法には特別な限定がなく、乳鉢を用いて手混合により行っても良く、攪拌機、ホモジナイザー等の公知の混合装置を用いて行っても良い。湿式混合の時間はやはり混合される材料の量や使用する混合装置によって変化するが、一般には10分~1時間の間である。
【0042】
また、本発明の導電性カーボン混合物はバインダ及び溶媒と馴染みが良いため、上記方法に代えて、導電性カーボン混合物、電極活物質、バインダ及び溶媒の全部を湿式混合する方法を採用しても良く、或いは、導電性カーボン混合物とバインダと溶媒とを湿式混合し、さらに電極活物質を加えて湿式混合する方法を採用しても良く、或いは、導電性カーボン混合物と電極活物質と溶媒とを湿式混合し、さらにバインダを加えて湿式混合する方法を採用しても良い。これらの湿式混合においても、混合方法に特別な限定はなく、混合時間も混合装置や混合量に応じて適宜選択される。微細なカーボン粒子はバインダ及び溶媒と馴染みにくいといわれているが、導電性カーボン混合物の利用により、混合方法にかかわらず、各構成要素が均一に混合された電極材料を容易に得ることができる。
【0043】
次いで、スラリー形態の電極材料を蓄電デバイスの正極又は負極を構成するための集電体上に塗布することにより活物質層を形成し、必要に応じてこの活物質層を乾燥した後、活物質層に圧延処理により圧力を印加して電極を得る。得られた電極材料を所定形状に成形し、集電体上に圧着した後、圧延処理を施しても良い。
【0044】
蓄電デバイスの電極のための集電体としては、白金、金、ニッケル、アルミニウム、チタン、鋼、カーボンなどの導電材料を使用することができる。集電体の形状は、膜状、箔状、板状、網状、エキスパンドメタル状、円筒状などの任意の形状を採用することができる。活物質層の乾燥は、必要に応じて減圧・加熱して溶媒を除去すれば良い。圧延処理により活物質層に加えられる圧力は、一般には50000~1000000N/cm、好ましくは100000~500000N/cmの範囲である。また、圧延処理の温度には特別な制限がなく、処理を常温で行っても良く加熱条件下で行っても良い。
【0045】
集電体上の活物質層に圧力を加えていくと、導電性カーボン混合物のうちの少なくとも一部が糊状の酸化処理カーボンがさらに糊状に広がって、活物質粒子の表面を覆いながら緻密化し、活物質粒子が互いに接近し、これに伴って糊状に変化した酸化処理カーボンが活物質粒子の表面を覆いながら隣り合う活物質粒子の間に形成される間隙部ばかりでなく活物質粒子の表面に存在する孔の内部にも上記別の導電性カーボンと共に押し出されて緻密に充填される。そのため、電極における単位体積あたりの活物質量が増加し、電極密度が増加する。また、緻密に充填された導電性カーボン混合物は、導電剤として機能するのに十分な導電性を有する上に、電極活物質の電解液への溶解を抑制する。
【0046】
(3)蓄電デバイス
本発明の電極は、二次電池、電気二重層キャパシタ、レドックスキャパシタ及びハイブリッドキャパシタなどの蓄電デバイスの電極のために使用される。蓄電デバイスは、一対の電極(正極、負極)とこれらの間に配置された電解質とを必須要素として含むが、正極及び負極の少なくとも一方が本発明の電極である。
【0047】
蓄電デバイスにおいて正極と負極との間に配置される電解質は、セパレータに保持された電解液であっても良く、固体電解質であっても良く、ゲル状電解質であっても良く、従来の蓄電デバイスにおいて使用されている電解質を特に限定なく使用することができる。以下に、代表的な電解質を例示する。リチウムイオン二次電池のためには、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート等の溶媒に、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を溶解させた電解液が、ポリオレフィン繊維不織布、ガラス繊維不織布などのセパレータに保持された状態で使用される。この他、LiLaNb12、Li1.5Al0.5Ti1.5(PO、LiLaZr12、Li11等の無機固体電解質、リチウム塩とポリエチレンオキサイド、ポリメタクリレート、ポリアクリレート等の高分子化合物との複合体からなる有機固体電解質、電解液をポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル等に吸収させたゲル状電解質も使用される。電気二重層キャパシタ及びレドックスキャパシタのためには、(CNBF等の第4級アンモニウム塩をアクリロニトリル、プロピレンカーボネート等の溶媒に溶解させた電解液が使用される。ハイブリッドキャパシタのためには、リチウム塩をプロピレンカーボネート等に溶解させた電解液や、第4級アンモニウム塩をプロピレンカーボネート等に溶解させた電解液が使用される。
【0048】
但し、正極と負極との間の電解質として、固体電解質又はゲル状電解質が使用される場合には、活物質層におけるイオン伝導パスを確保する目的で、電極材料の調製工程において、上述した各構成要素に固体電解質を加えて調製する。
【実施例
【0049】
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0050】
実施例1
60%硝酸300mLにケッチェンブラック(商品名EC300J、ケッチェンブラックインターナショナル社製、BET比表面積800m/g)10gを添加し、得られた液に超音波を10分間照射した後、ろ過してケッチェンブラックを回収した。回収したケッチェンブラックを3回水洗し、乾燥することにより、酸処理ケッチェンブラックを得た。この酸処理ケッチェンブラック0.5gと、Fe(CHCOO)1.98gと、Li(CHCOO)0.77gと、C・HO1.10gと、CHCOOH1.32gと、HPO1.31gと、蒸留水120mLとを混合し、得られた混合液をスターラーで1時間攪拌した後、空気中100℃で蒸発乾固させて混合物を採集した。次いで、得られた混合物を振動ボールミル装置に導入し、20hzで10分間の粉砕を行なった。粉砕後の粉体を、窒素中700℃で3分間加熱し、ケッチェンブラックにLiFePOが担持された複合体を得た。
【0051】
濃度30%の塩酸水溶液100mLに、得られた複合体1gを添加し、得られた液に超音波を15分間照射させながら複合体中のLiFePOを溶解させ、残った固体をろ過し、水洗し、乾燥させた。乾燥後の固体の一部を、TG分析により空気中900℃まで加熱し、重量損失を測定した。重量損失が100%、すなわちLiFePOが残留していないことが確認できるまで、上述の塩酸水溶液によるLiFePOの溶解、ろ過、水洗及び乾燥の工程を繰り返し、LiFePOフリーの酸化処理カーボンを得た。
【0052】
次いで、得られた酸化処理カーボンの0.1gをpH11のアンモニア水溶液20mLに添加し、1分間の超音波照射を行なった。得られた液を5時間放置して固相部分を沈殿させた。固相部分の沈殿後、上澄み液を除去した残余部分を乾燥させ、乾燥後の固体の重量を測定した。乾燥後の固体の重量を最初の酸化処理カーボンの重量0.1gから差し引いた重量の最初の酸化処理カーボンの重量0.1gに対する重量比を、酸化処理カーボンにおける「親水性部分」の含有量とした。親水性部分の含有量は、15.2質量%であった。
【0053】
得られた酸化処理カーボンとアセチレンブラック(R2D/D:0.4)とを1:1の質量比で振動ボールミル装置に導入し、10hzで20分間の乾式混合を行い、導電性カーボン混合物を得た。この混合物について、レーザラマン分光光度計(励起光:KTP/532レーザー:波長532nm)を用いてラマンスペクトルを測定し、R2D/Dの値を算出した。
【0054】
得られた導電性カーボン混合物の2質量部と、2質量部のポリフッ化ビニリデンと、適量のN-メチルピロリドンと、96質量部の市販のLiNi1/3Mn1/3Co1/3粒子(平均粒径5μm)とを湿式混合してスラリーを形成し、得られたスラリーをアルミニウム箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の正極を得た。また、黒鉛93質量部と、アセチレンブラックの1質量部と、6質量部のポリフッ化ビニリデンと、適量のN-メチルピロリドンとを湿式混合してスラリーを形成し、得られたスラリーを銅箔上に塗布して乾燥した後、圧延処理を施して、リチウムイオン二次電池用の負極を得た。正極の容量と負極の容量は、容量比が1:1.2になるように調整した。この正極と負極とを用いて、1MのLiPFのエチレンカーボネート/ジメチルカーボネート1:1溶液に1質量%のビニレンカーボネートを添加した液を電解液として、リチウムイオン二次電池を作成した。得られた電池について、25℃、1Cの充放電レートの条件下、4.2~3.0Vの範囲で充放電を繰り返し、200サイクル経験後の容量維持率を求めた。
【0055】
実施例2
実施例1における導電性カーボン混合物を得るための振動ボールミル装置による乾式混合条件を、10hzでの20分間の条件から20hzでの10分間の条件に変更した点を除いて、実施例1を繰り返した。
【0056】
実施例3
実施例1における導電性カーボン混合物を得るための振動ボールミル装置による乾式混合条件を、10hzでの20分間の条件から20hzでの20分間の条件に変更した点を除いて、実施例1を繰り返した。
【0057】
実施例4
実施例1における導電性カーボン混合物を得るための振動ボールミル装置による乾式混合条件を、10hzでの20分間の条件から20hzでの30分間の条件に変更した点を除いて、実施例1を繰り返した。
【0058】
実施例5
実施例1における導電性カーボン混合物を得るための振動ボールミル装置による乾式混合条件を、10hzでの20分間の条件から30hzでの20分間の条件に変更した点を除いて、実施例1を繰り返した。
【0059】
実施例6
実施例1における導電性カーボン混合物を得るための振動ボールミル装置による乾式混合条件を、10hzでの20分間の条件から30hzでの30分間の条件に変更した点を除いて、実施例1を繰り返した。
【0060】
比較例
実施例1における導電性カーボン混合物を得るための振動ボールミル装置による乾式混合条件を、10hzでの20分間の条件から10hzでの10分間の条件に変更した点を除いて、実施例1を繰り返した。
【0061】
表1に、実施例1~6及び比較例の導電性カーボン混合物及びリチウムイオン二次電池について、ラマンスペクトルから算出されたR2D/D、導電性カーボン混合物のR2D/DのアセチレンブラックのR2D/D(0.4)に対する割合、及び、200サイクル経験後の容量維持率をまとめて示す。
【表1】
【0062】
表1から明らかなように、ラマンスペクトルにおけるR2D/DがアセチレンブラックのラマンスペクトルにおけるR2D/Dの55%以下である実施例1~6の導電性カーボン混合物の使用により、リチウムイオン二次電池の高い容量維持率が得られ、したがってリチウムイオン二次電池のサイクル寿命の長期化が達成された。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の導電性カーボン混合物の使用により、良好なサイクル寿命を有する蓄電デバイスが得られる。
図1
図2