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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20220127BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20220127BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20220127BHJP
   H01M 4/587 20100101ALN20220127BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/587
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017219383
(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公開番号】P2019091615
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】井上 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田野井 昭人
【審査官】浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-060520(JP,A)
【文献】特開2015-064975(JP,A)
【文献】国際公開第2012/105052(WO,A1)
【文献】特開2007-087940(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110684(WO,A1)
【文献】特開2018-106903(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05~10/0587
H01M 4/00~ 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体上に正極活物質層を有する正極板と、負極集電体上に負極活物質層を有する負極板とを備える非水電解質二次電池であって、
前記負極活物質層が、
前記正極活物質層に対向する領域である正極対向部と、前記正極活物質層に対向していない領域である正極非対向部とを備え、
前記正極対向部に配置された第1負極活物質層と、前記正極非対向部に少なくとも一部が配置された第2負極活物質層とを相互に接触した状態で含み、
前記第2負極活物質層は、含有する活物質が、充放電過程でケイ酸リチウムを生じない活物質、又はこれとSiOであり、
前記正極対向部が備える負極活物質層は、SiOを備え、
前記正極非対向部が備える負極活物質層は、活物質層の活物質が含有するSiOの質量比率が、前記正極対向部が備える負極活物質層よりも小さい、
非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記第2負極活物質層が、前記正極対向部にも配置された、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記第2負極活物質層が、黒鉛、難黒鉛化性炭素及び易黒鉛化性炭素から選ばれる少なくとも1つを備える、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度が高く、携帯用端末、ハイブリッド自動車等に広く用いられており、近年では、電気自動車の駆動用電源にも使用されている。電気自動車については、航続距離が短いことが普及の障壁となっており、航続距離の向上のために搭載する非水電解質二次電池の充放電容量の向上が不可欠である。現在実用化されている非水電解質二次電池においては、負極活物質に炭素材料が、正極活物質にリチウム遷移金属酸化物が、主に用いられている。
【0003】
充放電容量をさらに向上させるため、炭素材料の理論容量を超えるエネルギー密度を有する負極材料が求められており、Siを構成元素とする金属、合金、又は化合物を負極活物質として用いることが検討されている。
Siを構成元素に含む負極活物質は、Liイオンと固溶体や金属間化合物を形成することにより、Liイオンを多量に貯蔵することができる。なかでも、一般式SiOで表される、Si及びSiOがミクロに相分離した状態で存在する活物質は、約1500mAh/gと、従来の炭素材料の約4倍もの容量を示すことから、高容量非水電解質二次電池の負極材料として期待されている。
【0004】
SiO負極活物質は、初回充放電時に不可逆容量を生じる。このため、SiO負極活物質を用いた非水電解質二次電池の初期効率(初回充放電時のクーロン効率)は、約75%と、炭素材料を負極活物質に用いた場合に比べて低いことが知られている。また、SiO負極活物質は、充放電時の体積膨張・収縮が大きいこと、及び充放電サイクルに伴う容量低下が大きいことも知られている。こうした短所を改善するため、これまでに種々の対策が講じられている(特許文献1~3)。
【0005】
特許文献1には、「集電体と、前記集電体の表面中央部に形成された、リチウムと合金化しうる元素を含有する負極活物質を含む負極活物質層と、を有するリチウムイオン二次電池用負極であって、前記負極活物質層の外周縁部に、当該外周縁部からの前記負極活物質の滑落を防止するための滑落防止手段を備えることを特徴とする、リチウムイオン二次電池用負極。」(請求項1)、及び「前記滑落防止手段として、前記集電体の表面であって前記負極活物質層の外周部に形成された、前記負極活物質層よりもヤング率の小さい緩衝層を有する、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極。」(請求項2)が記載されている。
また、段落[0030]には、「図2に示すように、本実施形態における負極は、集電体11と、当該集電体の表面中央部に形成された負極活物質層15とを有する。図2に示す形態において、負極活物質層15は、リチウムと合金化しうる元素であるケイ素(Si)を含有する負極活物質(合金系負極活物質)である酸化ケイ素(SiO)を含む。」との記載があり、段落[0031]には、「そして、集電体11の表面の負極活物質層15の外周部には、負極活物質層15よりも厚さの大きい緩衝層23が形成されている。緩衝層23は、導電助剤として、アセチレンブラック(AB)を含む。また、これに加えて、緩衝層23は、バインダとして、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む。かような構成によって、緩衝層23のヤング率は負極活物質層15のヤング率よりも小さくなるように制御されている。」との記載があり、段落[0042]には、「緩衝層23は、上述した合金系負極活物質以外の負極活物質(つまり、リチウムと合金化しうる元素を含まない負極活物質)を含んでもよい。かような負極活物質の具体的な種類については、従来公知の知見が適宜参照されうる。例えば、活性炭、グラファイト、ハードカーボンなどの炭素材料・・・・が、負極活物質として緩衝層23に含まれうる。これらの負極活物質が緩衝層23に含まれることで、電池の容量密度の低下を最小限に抑制しつつ、合金系負極活物質の膨張収縮に起因する当該活物質の滑落を効果的に防止することが可能である。」との記載がある。
そして、実施例には、導電助剤であるアセチレンブラック(AB)(90質量部)及びバインダであるポリイミド(PI)(10質量部)、並びに導電助剤であるアセチレンブラック(AB)(85質量部)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)(9質量部)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)(6質量部)を、それぞれスラリー粘度調整溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の適量に対して添加して調製した緩衝層形成用スラリーを用いて、負極集電体である銅箔の表面外周縁部に緩衝層を形成した後、該緩衝層の内部領域全体に、合金系負極活物質である酸化ケイ素(SiO)(平均粒子径:8μm)(85質量部)及びバインダであるポリイミド(PI)(15質量部)を、スラリー粘度調整溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の適量に対して添加して調製した負極活物質スラリーを用いて負極活物質層を形成して負極を完成させたことが記載されている。(段落[0090]~[0096])
【0006】
特許文献2には、「正極集電体の表面に正極活物質を含む正極活物質層が形成されてなる正極と、負極集電体の表面にケイ素含有負極活物質を含む負極活物質層が形成されてなる負極と、セパレータと、を含む単電池層を含む発電要素を有する電気デバイスであって、前記発電要素を構成する前記単電池層の少なくとも1つにおいて、前記負極活物質層の面積をA[m]とし、前記正極活物質層の面積をC[m]としたときに、式(1):0.91≦C/A<1を満足する、電気デバイス。」(請求項1)、及び「前記式(1)を満足する前記単電池層において、前記負極活物質層が、下記式(4)
[数3]
α(Si材料)+β(炭素材料) (4)
式中、Si材料は、アモルファスSiO粒子とSi粒子との混合体であるSiO(xはSiの原子価を満足する酸素数を表す)およびSi含有合金からなる群から選択される1種または2種以上であり、αおよびβは負極活物質層における各成分の重量%を表し、80≦α+β≦98、3≦α≦40、40≦β≦95である、
で表される負極活物質を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の電気デバイス。」(請求項4)が記載されている。
また、段落[0099]~[0100]には、「従来、一般に、リチウムイオン二次電池等の電気デバイスでは、負極におけるリチウムデンドライトの生成や正負極間での対向ずれといった不具合を抑制してデバイスの性能を向上させる目的で、負極活物質層のサイズを一回り大きく設計することが行われている。本発明者らの検討では、従来このように行われている設計によると、負極活物質層のサイズが正極活物質層に比して相対的に大き過ぎることで、ケイ素含有負極活物質を用いた場合にサイクル耐久性が低下することが判明した。これは、ケイ素含有負極活物質の有する不可逆容量が大きいことに起因するものである。具体的には、不可逆容量の大きいケイ素含有負極活物質を用いて充放電を行うと、充電時において、負極活物質層の正極活物質層と対向した領域(正極対向領域)に吸蔵されたLiが正極活物質層と対向していない領域(正極非対向領域)へと拡散して不可逆化することがある。このような不可逆化は、充放電容量に本来は寄与しないはずの正極非対向領域における不可逆容量によってLiが消費されることを意味する。このため、せっかく潜在的に大きな電気容量を有するケイ素含有負極活物質を用いても、最終的に取り出せる電池容量は低下してしまうことが判明したのである。
これに対し、本実施形態のようにC/Aの値を制御すると、充電の際に負極活物質に吸蔵されたLiが負極活物質層の正極対向領域から正極非対向領域へと移動することによる不可逆化が抑制される。その結果、充放電サイクルの進行に伴う電池容量の低下が防止され、サイクル耐久性に優れた電気デバイスが提供される。」との記載がある。
そして、実施例には、負極活物質としてSiOを1.00重量部及び黒鉛を8.45重量部、導電助剤としてSuperPを0.20重量部、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を0.35重量部、並びに溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を10.0重量部含む負極用スラリーを用いて作製した、活物質層面積が縦2.6cm×横2.1cm(実施例1)、縦2.55cm×横2.05cm(実施例2)又は縦2.525cm×横2.02cm(実施例3)の負極、及び活物質層面積が縦2.5cm×横2.0cmの正極を備えた発電要素を作製したことが記載されている(段落[0161]~[0170],[0173]~[0175))。
【0007】
特許文献3には、「リチウム二次電池の負極活物質層用の負極活物質であって、前記負極活物質は、ケイ素系材料(SiO:0.5≦x≦1.6)を含有し、X線光電子分光法から得られるSi1s波形において結合エネルギーが520eV以上、537eV以下の範囲に少なくとも2つ以上のピークを有するものであることを特徴とする負極活物質。」(請求項1)、及び「前記少なくとも2つ以上のピークは、SiO、LiSiO、LiSiO、LiO、LiCO、LiSi、LiSiから選ばれる少なくとも2種以上に起因するピークであることを特徴とする請求項1に記載の負極活物質。」(請求項2)が記載されている。
また、段落[0047]~[0048]には、「2つ以上のピークが上記範囲内とすることで、ケイ素酸化物内に生成するSiO成分の一部をLi化合物へ選択的に変更することができる。
2つ以上のピークが、SiO、LiSiO、LiSiO、LiO、LiCO、LiSi、LiSiから選ばれる少なくとも2種以上に起因するピークであることが好ましい。
その中でも2つ以上のピークが、LiSiO、LiSiO、LiCO、LiOから選ばれる少なくとも2種以上に起因するピークである場合に、特に良い特性を示す。
選択的化合物(Li化合物)の作成方法としては、電気化学法を用いることが好ましい。
電気化学法において、リチウム対極に対する電位規制や電流規制などの条件を変更することで選択的化合物の作製が可能となる。また、選択的化合物は一部電気化学法により生成した後に、炭酸雰囲気下、又は、酸素雰囲気下などで乾燥させることでより緻密な物質を得られる。
電気化学法による改質回数は特に限定しないが、1度のリチウム挿入及び一部離脱よりも複数回リチウム挿入及び一部離脱を行う方がより安定的な物質生成が可能である。この時、挿入電位/電流、離脱電位/電流、改質回数は、負極活物質の特性改善と密接な関係を有している。」との記載がある。
そして、実施例には、金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉中で気化させて吸着板上に堆積させ、冷却後粉砕した粉末に必要に応じて熱分解CVDで炭素層を被覆し、電気化学法のLi挿入離脱法を用いてバルク内改質を行って作製した、SiO、LiSiO、LiSiO等を含む負極活物質を備えたリチウム二次電池が記載されている(段落[0114],[0123],[0127],表2,3等)。
【0008】
非水電解質二次電池における充放電サイクルに伴う容量低下対策としては、負極活物質層内で電位を異ならせることも知られている(特許文献4,5)。
【0009】
特許文献4には、「正極集電体と、前記正極集電体に保持された正極活物質層と、負極集電体と、前記負極集電体に保持され、前記正極活物質層を覆う負極活物質層と、前記正極活物質層と前記負極活物質層との間に介在したセパレータとを備え、前記負極活物質層は、前記正極活物質層に対向している部位の平衡電位Eaが、前記正極活物質層に対向していない部位の平衡電位Ebよりも高い(Ea>Eb)、二次電池。」(請求項1)及び「負極活物質層は、前記正極活物質層に対向している部位と、前記正極活物質層に対向していない部位とで、異なる負極活物質が用いられている、請求項1に記載された二次電池。」(請求項2)が記載されている。
また、段落[0076]には、「このように、正極活物質層223に対向している部位243aと、正極活物質層223に対向していない部位243b1、243b2とで、異なる負極活物質を用いることによって、平衡電位に差が生じる。リチウムイオン二次電池100の負極活物質には、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、天然黒鉛や人造黒鉛のアモルファスカーボンなどの黒鉛(炭素系材料)を用いることができる。かかる黒鉛は、種類によって負極活物質層の平衡電位が異なる。例えば、負極活物質層の平衡電位を異ならせるのに寄与する黒鉛として、易黒鉛化炭素(soft carbon)や、難黒鉛化性炭素(hard carbon)や、黒鉛質材料(graphite)がある。」との記載があり、段落[0080]には、「本発明者の知見によれば、負極活物質に易黒鉛化性炭素を用いた場合は、負極活物質に難黒鉛化性炭素や黒鉛質材料を用いた場合よりも負極活物質層243の平衡電位が高くなる。また、負極活物質層に難黒鉛化性炭素を用いた場合は、負極活物質に黒鉛質材料を用いた場合よりも負極活物質層243の平衡電位が高くなる。」との記載がある。
そして、作用効果を評価するための試験電池として、正極活物質層に対向している部位に易黒鉛化性炭素を備え、正極活物質層に対向していない部位に黒鉛質材料ないし難黒鉛化性炭素を備えた負極シート、及び正極活物質層に対向している部位に難黒鉛化性炭素を備え、正極活物質層に対向していない部位に黒鉛質材料を備えた負極シート、をそれぞれ備えた試験電池が記載されている(段落[0094]~[0095],[0098],表1)。
【0010】
特許文献5には、「正極集電体上に正極活物質層を有する正極板と、負極集電体上に負極活物質層を有する負極板とを備える非水電解質二次電池において、前記負極活物質層が、第1負極活物質で形成された第1負極活物質層と、第2負極活物質で形成された第2負極活物質層とを相互に接触した状態で含み、前記第1負極活物質層が、前記正極活物質層と対向する領域に配置されており、前記第2負極活物質層の少なくとも一部が、前記正極活物質層と対向していない領域に配置されており、前記第1負極活物質と前記第2負極活物質が示すSOC-OCP曲線をプロットした際に、少なくとも一つのSOC値Xにおいて、当該SOC値Xに対応する前記第1負極活物質のOCP値が、当該SOC値Xに対応する前記第2負極活物質のOCP値よりも大きい値を示す、非水電解質二次電池。」(請求項1)が記載されている。
また、段落[0031]には、「第1負極活物質および第2負極活物質の組み合わせの例として、好ましくは、第1負極活物質が非晶質炭素であり、第2負極活物質が黒鉛である組み合わせ、更に好ましくは第1負極活物質が易黒鉛化性炭素であり、第2負極活物質が黒鉛である組み合わせが挙げられる。」との記載がある。
そして、実施例には、第1負極活物質として易黒鉛化炭素、第2負極活物質として黒鉛を使用した負極板を備えた非水電解質二次電池が記載されている(段落[0049]~[0057])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2010-176980号公報
【文献】WO2015/111187
【文献】特開2015-111547号公報
【文献】WO2012/105052
【文献】特開2015-64975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
SiO負極活物質の短所のうち、初期効率が低い点については、初回のLi吸蔵時に、活物質中のSiOとLiとの反応により、不可逆成分であるLiSiOが生成することが原因として考えられている(特許文献2の段落[0008])。
【0013】
特許文献1,2には、SiO負極活物質を用いた非水電解質二次電池の初期効率を向上させることについての記載はなく、負極活物質層内で活物質の組成を変えることも開示されていない。
【0014】
特許文献3には、SiO負極活物質を用いたリチウム二次電池の初回効率向上について記載されているが、初回効率向上のための手段は、活物質中にLiSiOやLiSiO等の化合物を生成させることであり、負極活物質層内で活物質の組成を変えることは開示されていない。
【0015】
特許文献4,5には、非水電解質二次電池の初期効率を向上させることについての記載はなく、また負極活物質にSiOを用いた非水電解質二次電池は具体的に示されていない。
【0016】
本発明は、高容量で初期効率の高い非水電解質二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の一側面は、「正極集電体上に正極活物質層を有する正極板と、負極集電体上に負極活物質層を有する負極板とを備える非水電解質二次電池であって、前記負極活物質層が、前記正極活物質層に対向する領域である正極対向部と、前記正極活物質層に対向していない領域である正極非対向部とを備え、前記正極対向部に配置された第1負極活物質層と、前記正極非対向部に少なくとも一部が配置された第2負極活物質層とを相互に接触した状態で含み、前記第2負極活物質層は、含有する活物質が、充放電過程でケイ酸リチウムを生じない活物質、又はこれとSiO であり、前記正極対向部が備える負極活物質層は、SiOを備え、前記正極非対向部が備える負極活物質層は、活物質層の活物質が含有するSiOの質量比率が、前記正極対向部が備える負極活物質層よりも小さい、非水電解質二次電池」を採用する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高容量で初期効率の高い非水電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】充放電サイクル前後のSiO-黒鉛混合負極のXAFSプロファイル
図2】本実施形態に係る非水電解質二次電池の一例である、角形非水電解質二次電池の概略斜視図
図3】本実施形態に係る非水電解質二次電池における、正極板及び負極板の位置関係を示す概略断面図
図4】本実施形態に係る非水電解質二次電池における、負極活物質層の構造及び配置を示す概略断面図
図5】本実施形態における第1負極活物質層と第2負極活物質層とが相互に接触した状態を示す概略断面図
図6】本実施形態に係る非水電解質二次電池における、第1負極活物質層及び第2負極活物質層の配置例を示す概略断面図
図7】本実施形態に係る非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0021】
本発明者は、上述した課題を解決するための調査及び検討の過程で、SiOを含む負極について、充放電サイクル前後のX線吸収微細構造解析(X-ray Absorption Fine Structure:XAFS)を行い、図1に示す結果を得た。この結果から、SiOを含む負極では、充放電サイクルの初期においては、不可逆成分であるLiSiOだけでなく、SiOとLiとが反応してLiSiOを生成する過程における中間生成物であるLiSiO及び未反応のSiOも存在していること、並びに充放電サイクルを繰り返すとLiSiOの割合が増加し、反対にLiSiO及びSiOの割合は減少することが判明した。このことは、初回数サイクルの充放電だけでは、LiSiOは完全に生成しきっておらず、充放電サイクルの繰り返しによりSiOやLiSiOから徐々にLiSiOが生成することを示唆している。SiOやLiSiOからLiSiOが生成する反応は、Liを消費する反応であるため、SiOを含む負極を備える非水電解質二次電池の初期数サイクルにおける低い効率は、LiSiOの生成によるLiの消費に起因するものと考えられる。
【0022】
一般に、非水電解質二次電池の負極は、正極に比べて面積を広くし、正極非対向部を有するように設計される。これは、正極非対向部が存在しない場合、正負極の対向位置が非水電解質二次電池製造時にわずかでもずれた際に、有効面積が低下するだけでなく、Li電析が生じやすくなり安全性が低下する虞があるためである。非水電解質二次電池の充電時には、負極の正極対向部にLiが吸蔵されるが、吸蔵されたLiの一部は正極非対向部へと拡散する。この正極非対向部に拡散したLiは、対向する正極が存在しないため、放電時に正極に戻り難い。すなわち、負極中にLiがトラップされることになるため、放電容量が低下する原因となる。
負極活物質がSiOの場合には、充放電サイクルの初期に正極非対向部において上述したLiを消費する反応が進行するため、正極対向部に吸蔵されたLiの正極非対向部への拡散が促進されると共に、正極非対向部に拡散したLiが放電時に正極に一層戻り難くなる結果、従来の炭素材料よりも初期数サイクルにおける効率の低下が顕著になると考えられる。
【0023】
そこで、本発明者は、負極の正極非対向部にSiO以外の負極活物質を含む負極活物質層を配置すれば、上述したLiを消費する反応によるLiの消費量が減少し、初期効率の低下を抑制できると考え、本発明を完成するに至った。
【0024】
以下、本発明の一実施形態(以下、「本実施形態」という)に係る非水電解質二次電池について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
[非水電解質二次電池の全体構造]
本実施形態の非水電解質二次電池は、正極集電体上に正極活物質層を有する正極板と、負極集電体上に負極活物質層を有する負極板とを備えている。当該正極板と負極板との間にはセパレータが介在されて電極群が形成され、上記電極群は非水電解質と共に電池ケースに収納される。
【0026】
図2に、本実施形態の一例として、角形非水電解質二次電池の概略斜視図を示す。なお、本実施形態に係る非水電解質二次電池の構成についてはこれに限定されない。電極群は、それぞれ1枚の正極板、負極板、及びセパレータが積層され、断面円形状、又は断面略楕円形状に捲回されて構成されたものを採用できる。あるいは、それぞれ複数枚の正極板、負極板、及びセパレータが積層されて構成されたものを採用できる。そして、上記電極群を収納し、円筒型電池、扁平型電池、角型電池、等とすることができる。
図2に、本発明に係る非水電解質二次電池の一実施形態である矩形状の非水電解質二次電池1の概略図を示す。なお、同図は、容器内部を透視した図としている。図2に示す非水電解質二次電池1は、電極群2が電池容器3に収納されている。電極群2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して捲回されることにより形成されている。正極は、正極リード4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極リード5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0027】
[正極板と負極板の構造及び配置]
図3及び図4に、本実施形態の非水電解質二次電池における、正極板及び負極板の構造及び配置の概略断面図を示す。図3は、正極板及び負極板の位置関係を説明しており、図4は、負極活物質層の構造及び配置を説明している。図3に示すように、本実施形態の非水電解質二次電池は、正極集電体61上に正極活物質層62を有する正極板6、及び負極集電体71上に負極活物質層72を有する負極板7を備え、負極集電体71上の負極活物質層72は、正極活物質層62と対向する領域(正極対向部)72aと、正極活物質層62に対向しない領域(正極非対向部)72bとを備える。正極対向部72aと正極非対向部72bとの比率は、一般に非水電解質二次電池で採用されている値を採用できる。
【0028】
負極活物質層72は、図4に示すように、正極対向部72aに配置された第1負極活物質層721と、正極非対向部72bに少なくとも一部が配置された第2負極活物質層722とを、相互に接触した状態で含む。
ここで、「相互に接触した状態」とは、機能的には、相互にリチウムイオンが伝導しうる状態で接続されていればよく、構造的には、各活物質層が層面の少なくとも一部を露出した状態で、層の端部同士が接触された状態を意味する。図5(a)~(c)に示すような、活物質層同士が一部重なった状態も、ここでいう「相互に接触した状態」に含まれる。
なお、図3図5では、便宜上、正極集電体61及び負極集電体71の片面に正極活物質層62及び負極活物質層72を設けた場合の例を挙げているが、正極活物質層62及び負極活物質層72は、正極集電体61及び負極集電体71の両面に形成されていてもよい。
【0029】
第1負極活物質層721は、正極対向部72aのみに配置されてもよく(図4図6(a))、また正極対向部72aに配置されつつ、その一部が正極非対向部72bに配置されてもよい(図6(b),(c))。
また、第2負極活物質層722は、正極非対向部72bのみに配置されてもよく(図4図6(b),(c))、また正極非対向部72bに配置されつつ、その一部が正極対向部72aに配置されてもよい(図6(a))。
第2負極活物質層722は、非水電解質二次電池の初期効率の向上効果を高める点で、正極対向部72aにも配置されることが好ましい。
第1負極活物質層721に対する第2負極活物質層722の面積比率は、0.01~0.2が好ましく、0.05~0.15がより好ましい。該比率を0.01以上とすることで、正極非対向部の本来の機能である、Li電析の防止効果が確実に得られ、0.2以下とすることで、高容量の非水電解質二次電池が得られる。なお、各負極活物質層の面積は、セパレータ8に対向する面に露出している部分で決定する。その際、複数の正極板、負極板、及びセパレータを積層して極板群を構成する場合は、一枚の負極板7に形成された各負極活物質層721及び722の総面積を該各活物質層の面積とし、長尺シート形状の正極板、負極板、及びセパレータを捲回して極板群を構成する場合は、長尺シート形状の負極集電体上の、幅方向に第1負極活物質層721及び第2負極活物質層722が共に形成された単位長さの領域における各負極活物質層721及び722の総面積を、該各活物質層の面積とする。
【0030】
[負極板]
本実施形態の負極板7は、上述の構造を有すると共に、負極活物質層72における正極対向部72aがSiOを備え、負極活物質層72における正極非対向部72bの活物質が含有するSiOの質量比率が、正極対向部72aよりも小さくなるよう構成される。ここで、ある領域がSiOを「備える」とは、該領域に含まれる負極活物質の全質量に対するSiOの質量割合が、概ね5質量%以上であることを意味する。
このように構成された負極板7の詳細を、以下に説明する。
【0031】
正極対向部72aに配置された第1負極活物質層721は、活物質としてSiOを備える。ここで、SiOとは、アモルファス構造を有するケイ素酸化物からなる物質、又は、粒径が概ね数十nm以下であるケイ素(Si)の結晶相が、酸化ケイ素(SiO)のマトリックス中に分散した構造を有する物質を意味する。従って、SiOのxは、0<x<2の範囲で種々の値を取りうる。xの値は、0.8≦xが好ましい。また、x≦1.2が好ましい。SiO活物質は、粒子表面が炭素材料等の導電性物質で被覆されていてもよい。また、前記SiOは、あらかじめLiをプリドープすることによって、LiSiO及びLiSiO、LiSi、LiSiのうち少なくとも1種以上を含有した状態でもよい。
【0032】
第1負極活物質層721は、SiO以外の活物質を含んでもよい。併用する負極活物質に制限はなく、例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム-シリコン、リチウム-アルミニウム,リチウム-鉛,リチウム-スズ,リチウム-アルミニウム-スズ,リチウム-ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム-チタン)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛(グラファイト)、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)及び易黒鉛化性炭素(ソフトカーボン)等)等が挙げられる。なかでも、導電性が高く不可逆容量が小さい点で、炭素材料が好ましく、黒鉛がより好ましい。
なお、本実施形態における黒鉛とは、層間距離d002が0.34nm未満の炭素材料を指し、易黒鉛化炭素は、層間距離d002が0.34nm以上0.36nm未満、難黒鉛化炭素は、0.36nm以上の炭素材料である。
【0033】
第1負極活物質層721は、負極を高容量とする点で、活物質中のSiOの質量比率が20質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。また、充放電サイクルに伴う負極の容量低下を抑制し、非水電解質二次電池を長寿命化する点で、活物質中のSiOの質量比率が98質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
正極非対向部72bに少なくとも一部が配置された第2負極活物質層722は、含有する負極活物質中のSiOの質量比率が、第1負極活物質層721よりも小さくなるように構成される。第2負極活物質層722における負極活物質としては、上述したSiO以外の活物質が使用可能であり、SiOを含有してもよい。SiO以外の活物質としては、充放電過程でケイ酸リチウムを生じない活物質が、不可逆容量が小さい点で好ましい。なかでも、不可逆容量が特に小さく導電性も高い点で、炭素材料がより好ましく、黒鉛がさらに好ましい。第2負極活物質層722にSiOよりも不可逆容量が小さい活物質を使用して、正極非対向部72bの活物質が含有するSiOの質量比率を正極対向部72aよりも小さくし、正極非対向部72bの不可逆容量を正極対向部72aより小さくすることで、非水電解質二次電池の初期効率の低下を効果的に抑制できる。
【0035】
第1負極活物質層721及び第2負極活物質層722は、層内で活物質の組成が一定であってもよく、これが変化してもよい。負極活物質層72全体で活物質の組成が連続的又は段階的に変化する場合でも、正極対向部72aがSiOを備え、正極非対向部72bの活物質が含有するSiOの質量比率が、正極対向部72aよりも小さくなっていれば、初期効率の低下は抑制できる。
【0036】
第1負極活物質層721及び第2負極活物質層722には、前記負極活物質の他に、必要に応じて、導電剤、結着剤及びフィラー等の添加剤が含まれていてもよい。添加剤の量は、負極を高容量とする点から、各負極活物質層の総質量に対して80質量%未満が好ましく、50質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。すなわち、各負極活物質層における負極活物質の量は、該各負極活物質層の総質量に対して20質量%を超えることが好ましく、50質量%を超えることがより好ましく、80質量%を超えることがさらに好ましい。
【0037】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば制限はなく、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料が挙げられる。これらの導電剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。導電剤の添加量は、各負極活物質層の総質量に対して0.1質量%~50質量%が好ましく、0.5質量%~30質量%がより好ましい。
【0038】
結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸又はその塩、ウレタン化合物、ポリアクリロニトリル、フッ素ゴム等が挙げられる。これらの結着剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、結着剤としてスチレン-ブタジエンゴムを使用する場合、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加することが好ましい。結着剤の添加量は、各負極活物質層の総質量に対して0.5~30質量%が好ましく、1~20質量%がより好ましい。
【0039】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば制限はない。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、負極活物質層の総質量に対して30質量%以下が好ましい。
【0040】
負極板7に使用される負極集電体71に制限はなく、例えば、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼、クロムメッキ鋼等の金属材料が挙げられる。これらの中でも、加工し易さとコストの点から、銅が好ましい。
【0041】
本発明で使用される負極板7は、負極活物質及び添加剤を混練して合剤とし、該合剤をN-メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合して、第1負極活物質層用及び第2負極活物質層用の混合液ないしペーストをそれぞれ作製し、負極集電体71上に所定の形状となるように該各混合液ないしペーストをそれぞれ塗工し、乾燥、ロールプレス等で負極活物質層の密度及び厚みを調整することによって調製される。塗布、乾燥等の方法や条件については周知のものを採用すればよい。
【0042】
[正極板]
上述の構造を有する正極板6について、以下に詳細を説明する。
【0043】
正極活物質層62には、正極活物質が含まれる。正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出できれば限定されず、無機化合物であってもよく、また有機化合物であってもよい。正極活物質として使用される無機化合物としては、例えば、リチウムニッケル複合酸化物(例えばLiNiO等)、リチウムコバルト複合酸化物(例えばLiCoO等)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(例えばLiNi1-yCo等)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(例えばLiNiCoMn1-x-y等)、スピネル型リチウムマンガン複合酸化物(LiMn等)、オリビン構造を有するリチウムリン酸化物(例えばLiFePO、LiFe1-yMnPO、LiCoPO等)等が挙げられる。また、正極活物質として使用される有機化合物としては、例えば、ポリアニリン、ポリピロール等の導電性ポリマー材料、ジスルフィド系ポリマー材料、フッ化カーボン等が挙げられる。これらの正極活物質は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
また、正極活物質層62には、前記正極活物質の他に、必要に応じて、導電剤、結着剤、フィラー等の添加剤が含まれていてもよい。これらの添加剤の種類及び好ましい添加量については、第1負極活物質層721及び第2負極活物質層722に配合される添加剤と同様である。
【0045】
正極板6に使用される正極集電体61に制限はなく、例えば、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、およびこれらの金属を含む合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素質材料等が挙げられる。これらの中でも、アルミニウムが好ましい。
【0046】
本発明で使用される正極板6は、正極活物質及び添加剤を混練して合剤とし、該合剤をN-メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合して混合液ないしペーストを作製し、正極集電体61上に所定の形状となるように該混合液ないしペーストを塗工し、乾燥、ロールプレス等で正極活物質層の密度及び厚みを調整することによって調製される。塗布、乾燥等の方法や条件については周知のものを採用すればよい。
【0047】
[非水電解質]
本実施形態に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質に制限はなく、一般に非水電解質二次電池への使用が提案されているものが使用可能である。非水電解質に用いる非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、フッ素化エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル、フッ素化プロピオン酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジブトキシエタン、メチルジグライム、フッ素化エーテル等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
非水電解質に用いる電解質塩にも制限はなく、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n-CNClO,(n-CNI,(CN-maleate,(CN-benzoate,(CN-phthalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0049】
さらに、LiPF又はLiBFと、LiN(CSOのようなパーフルオロアルキル基を有するリチウム塩とを混合して用いることにより、さらに電解質の粘度を下げることができるので、低温特性をさらに高めることができ、また、自己放電を抑制することができ、より好ましい。
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0050】
非水電解質における電解質塩の濃度としては、高い電池特性を有する非水電解質二次電池を確実に得るために、0.1mol/L~5mol/Lが好ましく、さらに好ましくは、0.5mol/L~2.5mol/Lである。
【0051】
さらに、本実施形態に係る非水電解質二次電池に用いる非水電解質には、前記溶質と非水溶媒の他に、必要に応じて、過充電防止剤、負極被膜形成剤、正極保護剤等の添加剤が含まれていてもよい。過充電防止剤としては、具体的には、ビフェニル、シクロヘキシルベンゼン等が挙げられる。また、負極被膜形成剤としては、具体的には、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等が挙げられる。また、正極保護剤としては、具体的には、プロパンスルトン等が挙げられる。これらの添加剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。また、非水電解質におけるこれらの添加剤の含有量については、特に制限されず、当該添加剤の種類等に応じて適宜設定すればよいが、例えば0.01~15質量%、好ましくは0.1~10質量%、さらに好ましくは0.2~10質量%が挙げられる。
【0052】
[セパレータ]
セパレータ8としては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質二次電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0053】
セパレータ8の空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0054】
また、セパレータ8は、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質をゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0055】
さらに、セパレータ8は、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため好ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0056】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、電子線(EB)照射、又は、ラジカル開始剤を添加して加熱若しくは紫外線(UV)照射を行うこと等により、架橋反応を行わせることが可能である。
【0057】
[他の構成要素]
本実施形態に係る非水電解質二次電池におけるその他の電池の構成要素としては、端子、絶縁板、電池ケース等があるが、本発明の非水電解質二次電池において、これらの構成要素は従来用いられているものをそのまま用いても差し支えない。
【0058】
[蓄電装置の構成]
本実施形態は、上述の非水電解質二次電池を複数個集合した蓄電装置としても実現することができる。本発明の一態様に係る蓄電装置を図7に示す。図7において、蓄電装置30は、複数の蓄電ユニット20を備えている。それぞれの蓄電ユニット20は、複数の非水電解質二次電池1を備えている。前記蓄電装置30は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として搭載することができる。
【実施例
【0059】
以下、実施例により、本実施形態に係る非水電解質二次電池の負極板の作製手順を具体的に説明する。
【0060】
[実施例1]
(第1負極活物質層の形成)
SiOと黒鉛を20.4:79.6の質量比率で含有する負極活物質、導電助剤としてカーボンブラック、結着剤としてスチレン-ブタジエンゴム、及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを用い、水を分散媒とする第1負極活物質層用ペーストを作製する。該ペースト中の前記負極活物質、前記導電助剤、前記結着剤、及び前記増粘剤の質量比率は、94.8:1.9:2.1:1.2である。この第1負極活物質層用ペーストを、長尺シート形状の負極集電体である厚さ8μmの銅箔の両面に対して、幅方向の両端部を除く中央部に、両面の塗布形状が同じで、かつ幅が正極の正極活物質層と同じになるように塗布し、100℃で乾燥することで、第1負極活物質層を形成する。
【0061】
(第2負極活物質層の形成)
負極活物質として黒鉛、結着剤としてスチレン-ブタジエンゴム、及び増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを用い、水を分散媒とする第2負極活物質層用ペーストを作製した。該ペースト中の前記負極活物質、前記結着剤、及び前記増粘剤の質量比率は96.7:2.1:1.2である。この第2負極活物質層用ペーストを、第1負極活物質層が形成された前記銅箔の両面に対して、第1負極活物質層を形成しなかった幅方向の両端部の一部に、両面の塗布形状が同じで、かつ第1負極活物質層と第2負極活物質層とが相互に接触するように塗布し、100℃で乾燥することで第2活物質層を形成し、実施例1に係る負極板を得る。
このとき、長尺シート形状の負極集電体上の、幅方向に第1負極活物質層及び第2負極活物質層を共に形成した単位長さの領域における、第1負極活物質層に対する第2負極活物質層の面積比は、0.09である。
【0062】
(正極板の作製)
90質量%のLiNi0.333Co0.333Mn0.333、5質量%のPVdF及び5質量%のアセチレンブラックを含む混合物に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えて正極活物質形成用ペーストを作製する。
厚さ15μmのアルミニウム箔製の正極集電体の両面に、ダイヘッドコータを用いて、前記正極活物質形成用ペーストを、前記負極板上の第1負極活物質層と同形状となるように塗布する。
その後、乾燥処理によってNMPを揮散させた後に、プレス機にて圧延することにより正極活物質層の厚さを調整し、実施例1に係る正極板を作製する。
【0063】
(非水電解質二次電池の作製)
非水電解質として、フルオロエチレンカーボネート(FEC):エチルメチルカーボネート(EMC)=1:9(体積比)の混合溶媒にLiPFを1mol/Lとなるように溶解した溶液を用意する。セパレータとして、ポリプロピレン製の微孔膜を用意する。また、外装体として、アルミニウム製の角形電槽缶を用意する。
負極板上の第1負極活物質層が正極板上の正極活物質層と対向するように、前記負極板及び正極板をセパレータを介して配置し、図4に示す態様の電極体を作製した。その後、前記外装体に前記電極体を収納し、正極及び負極を2つの外部端子それぞれに電気的に接続させた後に、ケース本体に蓋板を取り付けた。さらに、前記非水電解質を外装体の蓋板に形成された注液孔から外装体内に注液後、注液孔を封止して、実施例1に係る非水電解質二次電池を作製する。
【0064】
[実施例2]
(第1負極活物質層の形成)
SiOと黒鉛を68.2:31.8の質量比率で含有する負極活物質、導電助剤としてカーボンブラック、結着剤としてポリアクリル酸ナトリウムを用い、水を分散媒とする第1負極活物質層用ペーストを作製する。該ペースト中の前記負極活物質、前記導電助剤、及び前記結着剤の質量比率は88:2:10である。この第1負極活物質層用ペーストを、実施例1と同様の方法で集電体に塗布及び乾燥することで、第1負極活物質層を形成する。
【0065】
(第2負極活物質層の形成)
負極活物質として難黒鉛化性炭素(ハードカーボン)、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを用い、N-メチルピロリドンを分散媒とする第2負極活物質層用ペーストを作製する。該ペースト中の前記負極活物質と結着剤との質量比率は95:5である。この第2負極活物質層用ペーストを、第1負極活物質層が形成された前記銅箔の両面に対して、第1負極活物質層を形成しなかった幅方向の両端部の一部に、両面の塗布形状が同じで、かつ第1負極活物質層と第2負極活物質層とが相互に接触するように塗布し、120℃で乾燥することで第2活物質層を形成し、実施例2に係る負極板を得る。
このとき、長尺シート形状の負極集電体上の、幅方向に第1負極活物質層及び第2負極活物質層を共に形成した単位長さの領域における、第1負極活物質層に対する第2負極活物質層の面積比は、0.09である。
【0066】
(正極板の作製)
実施例1と同様の方法で、実施例2に係る正極板を作製する。
【0067】
(非水電解質二次電池の作製)
実施例1と同様の方法で、実施例2に係る非水電解質二次電池を作製する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の一側面に係る非水電解質二次電池は、高容量で初期効率が高いため、ハイブリッド自動車用、電気自動車用の非水電解質二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 非水電解質二次電池(リチウム二次電池)
2 電極群
3 電池容器
4 正極端子
4’ 正極リード
5 負極端子
5’ 負極リード
20 蓄電ユニット
30 蓄電装置
6 正極板
61 正極集電体
62 正極活物質層
7 負極板
71 負極集電体
72 負極活物質層
72a 正極対向部
72b 正極非対向部
721 第1負極活物質層
722 第2負極活物質層
8 セパレータ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7