(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-03
(54)【発明の名称】ペルオキシカーバメート化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/18 20060101AFI20220127BHJP
C07C 409/38 20060101ALI20220127BHJP
C07C 409/04 20060101ALN20220127BHJP
【FI】
C07F7/18 L
C07C409/38
C07C409/04
(21)【出願番号】P 2018055624
(22)【出願日】2018-03-23
【審査請求日】2021-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠之
(72)【発明者】
【氏名】坂田 雄亮
【審査官】佐溝 茂良
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-340677(JP,A)
【文献】特開昭48-040726(JP,A)
【文献】特開昭47-008516(JP,A)
【文献】米国特許第3772353(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/18
C07C 409/38
C07C 409/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるヒドロキシペルオキシドの水溶液の溶媒を水から炭素数5~12の炭化水素に溶媒置換することによって、水分比率1.0質量%以下のヒドロキシペルオキシドの炭化水素溶液を得る工程(A);
【化2】
(式(1)において、R
1は、炭素数1~4の炭化水素基である)
次いで、前記ヒドロキシペルオキシドの前記炭化水素溶液とフェニルクロロホルメートとを混合し、前記ヒドロキシペルオキシドとフェニルクロロホルメートとを-10℃以上、20℃以下の反応温度で反応させることによって、ペルオキシフェニルモノカーボネートを得る工程(B);および
次いで、前記ペルオキシフェニルモノカーボネートと、式(2)で表されるシリル基含有アミンとを-10℃以上、20℃以下の反応温度で無触媒系で反応させることによって、式(3)で表される化合物を得る工程(C)
【化3】
(式(2)において、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基である)
【化4】
(式(3)において、R
1は炭素数1~4の炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基である)
をこの順で実施することを特徴とする、ペルオキシカーバメート化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシカーバメート化合物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、分子内にアルコシキシリル基および過酸化物結合を1つずつ有する下記式(4)で表されるペルオキシカーバメート化合物が知られている。
【化1】
【0003】
上記の式(4)で表されるペルオキシカーバメート化合物は、熱により過酸化物結合が開裂し、t-ブトキシラジカルと、アルコキシシリル基を有するアミニルラジカルが発生する。このアルコキシシリル基を有するアミニルラジカルは、ラジカル部位がポリマー鎖の生長末端となること、あるいはポリマー鎖へ結合することが可能であり、一方でアルコキシシリル基はガラスや無機微粒子と反応することが可能なため、有機無機ハイブリッドポリマーを合成することが出来るラジカル発生剤として有用であることが知られている。
【0004】
また、式(4)で表されるペルオキシカーバメート化合物の用途は、ガラスや無機微粒子表面をポリマー修飾するための重合触媒として効果が期待される。そのため、シランカップリング反応を促進する目的で、フェノールを含有するものが望まれていた。
【0005】
特許文献1では、t-ブチルヒドロキシペルオキシドと3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアネートとを反応させて、式(1)で表されるペルオキシカーバメート化合物を合成する手法が開示されている。
【0006】
また、非特許文献1にも、式(1)で表されるペルオキシカーバメート化合物を合成する手法が開示されている。更に、特許文献2では、カーボネート化合物と1級アミンとの反応が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Bioorganic & Medidinal Chemistry 14 (2006) 6213-6222
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭48-40726
【文献】WO2014/092161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1に記載の反応では、副生成物としてニトロフェノールが生成するが、ニトロフェノールは強い酸性を示すため、得られたペルオキシカーバメート化合物の分解が促進され、収率が低下するのみならず、安全上の問題がある。このため、ニトロフェノールを発生しない製造方法が望まれる。
【0010】
特許文献1記載の方法では、t-ブチルヒドロキシペルオキシドが水溶液であるため、水が存在するとイソシアネートが水と反応して失活してしまい、目的の化合物が効率よく得られない問題があった。また、フェノールが生成しないので、反応系に対して別途フェノールを添加する必要があった。
【0011】
特許文献2に記載の反応では、カーボネート化合物と1級アミンとの反応が開示されているが、温度50℃で、かつナトリウムメトキシド・メタノール溶液を反応触媒として用いる反応であるため、この反応条件で有機過酸化物を合成すると、生成物が分解して収率が低下するのみならず、安全上の問題がある。
【0012】
本発明の課題は、特定のペルオキシカーバメート化合物を安全かつ簡便に高収率で合成するための製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
すなわち、本発明は以下のものである。
(1) 式(1)で表されるヒドロキシペルオキシドの水溶液の溶媒を水から炭素数5~12の炭化水素に溶媒置換することによって、水分比率1%以下のヒドロキシペルオキシドの炭化水素溶液を得る工程(A);
【化2】
(式(1)において、R
1は、炭素数1~4の炭化水素基である)
次いで、前記ヒドロキシペルオキシドの前記炭化水素溶液とフェニルクロロホルメートとを混合し、前記ヒドロキシペルオキシドとフェニルクロロホルメートとを-10℃以上、20℃以下の反応温度で反応させることによって、ペルオキシフェニルモノカーボネートを得る工程(B);および
次いで、前記ペルオキシフェニルモノカーボネートと、式(2)で表されるシリル基含有アミンとを、炭素数5~12の炭化水素中で-10℃以上、20℃以下の反応温度で反応させることによって、式(3)で表される化合物を得る工程(C)
【化3】
(式(2)において、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基である)
【化4】
(式(3)において、R
1は炭素数1~4の炭化水素基であり、R
2、R
3、R
4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~4の炭化水素基である)
をこの順で実施することを特徴とする、ペルオキシカーバメート化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、前記原料化合物を脱水した上、-10℃~20℃の条件下でペルオキシカーボネート化合物と1級アミンとを反応させることにより、目的とする式(3)で表されるペルオキシカーバメート化合物を安全かつ簡便に高収率で得ることができた。また、反応の副生成物としてフェノールが含まれるため、別途フェノールを添加する必要がないものであった。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(工程(A))
工程(A)は、式(1)で表されるヒドロキシペルオキシドの水溶液の溶媒を水から炭素数5~12の炭化水素に溶媒置換することによって、水分比率1.0質量%以下のヒドロキシペルオキシドの炭化水素溶液を得る工程である。
【0016】
この溶媒置換方法としては以下を例示できる。
(a) ヒドロキシペルオキシド水溶液を脱水し、次いで得られたヒドロキシペルオキシドを炭素数5~12の炭化水素溶媒に再溶解する。
(b) ヒドロキシペルオキシド水溶液に、炭化水素溶媒と無機塩とを加えて混合し、油相と水相を分離し、油相を炭化水素溶液として工程(B)に使用する。
【0017】
ここで、方法(b)のほうがより好ましい。この際、無機塩としては公知のものが使用でき、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の塩化物、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム(硫安)等の硫化物、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の硝酸塩等が用いられる。中でも塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸アンモニウムが好ましい。無機塩を用いる理由としては、水相の比重を大きくし、油相との分離性を良くするためである。
【0018】
更に、炭化水素溶液に対して脱水剤を加えることで、水分をより低減することができる。脱水剤としては公知のものが使用できる。硫酸ナトリウム10水和物(芒硝)および硫酸マグネシウム7水和物が好ましい。
【0019】
工程(B)、(C)の各反応は禁水系で行う必要があるため、工程(A)で得られた炭化水素溶液の水分比率は1.0質量%以下とするが、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0020】
工程(A)で使用する溶媒は炭素数5~12の炭化水素とする。具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、イソペンタン、イソヘキサン、イソヘプタン、イソオクタン、イソノナン、イソデカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素等が用いられる。中でもトルエン、エチルベンゼン、m-キシレン、p-キシレンが好ましい。また、アルコール類、エーテル類、ケトン類、エステル類、カルボン酸、アミド類、スルホキシド類等の極性溶媒よりも、非極性溶媒のほうが好ましい。また、炭化水素溶媒は一種でもよく、複数種類の混合物でもよい。
【0021】
(工程(B))
工程(B)では、前記したヒドロキシペルオキシドの炭化水素溶液とフェニルクロロホルメートとを混合し、-10℃~20℃の反応温度で反応させることによって、ペルオキシフェニルモノカーボネートを得る。
【0022】
工程(B)において、反応温度は、-10℃~20℃、好ましくは0℃~10℃である。反応温度が低いと、反応の進行が遅くなり、収率が低下する。一方、反応温度が高いと、得られたペルオキシフェニルモノカーボネートが分解して収率が低下するのみならず、反応温度が高すぎると急速分解するため、安全上の問題がある。
【0023】
工程(B)における反応時間は、好ましくは30分~240分、更に好ましくは60分~120分である。反応時間を30分以上とすることで、十分に反応を進行させ易く、収率が向上する。一方、反応時間を240分以下とすることによって、得られたペルオキシフェニルモノカーボネートの分解を抑制でき、これによって収率が向上する。
【0024】
(工程(C))
工程(C)では、前記ペルオキシフェニルモノカーボネートと、式(2)で表されるシリル基含有アミンとを、炭素数5~12の炭化水素中で-10℃以上、20℃以下の反応温度で反応させることによって、式(3)で表される化合物を得る。
【0025】
工程(C)においては、反応温度は-10℃~20℃、好ましくは0℃~10℃である。反応温度が低いと、反応の進行が遅くなり、収率が低下する。一方、反応温度が高いと、得られたペルオキシカーバメート化合物が分解して収率が低下するのみならず、反応温度が高すぎると急速分解するため、安全上の問題がある。
【0026】
反応時間は、好ましくは15分~240分、更に好ましくは30分~120分である。反応時間を15分以上とすることによって、十分に反応が進行し、収率が一層向上する。一方、反応時間を240分以下とすることによって、得られたペルオキシフェニルモノカーボネートの分解を抑制し、収率を向上させることができる。
【0027】
本工程(C)では、触媒を必要とせず、無触媒反応である。
一般的にモノカーボネートと1級アミンの反応には、水酸化ナトリウムやナトリウムメトキシド等の触媒を使用するが、本反応ではこうした触媒を使用しなくても、上記の反応条件で十分に反応が進行する。一方で触媒を使用した場合、強塩基にさらされることでペルオキシカーバメート化合物が分解して収率が低下する。さらに、触媒を除去するために水洗が必要となるため、ペルオキシカーバメート化合物が水に晒されてアルコキシシリル基が加水分解するため、好ましくない。
【0028】
また、本工程(C)では、前記した炭素数5~12の炭化水素溶媒を更に添加することもできる。この場合、t-ブチルペルオキシフェニルモノカーボネートの質量を100質量部としたときに、炭素数5~12の炭化水素溶媒の質量は10~1000質量部とすることが好ましい。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例を挙げて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の範囲に限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
(工程(A))
200mlのフラスコに、純度69%のt-ブチルヒドロキシペルオキシド水溶液106gと、トルエン32gと、硫安12gとを加え、室温で15分間攪拌した後に、分液漏斗で油相/水相を分離した。油相に硫酸マグネシウム5gを加え、脱水および濾過をすることで、純度68%のt-ブチルヒドロキシペルオキシドのトルエン溶液100gを得た。
得られたt-ブチルヒドロキシペルオキシドトルエン溶液の収率は99%であり、水分は0.1%であった。
【0031】
(工程(B))
1000mlのフラスコに、工程(A)で得られたt-ブチルヒドロキシペルオキシドトルエン溶液100gとピリジン36gとを加えて5℃で混合した。一方、フェニルクロロホルメート60gとトルエン24gとを混合して得られたトルエン溶液を滴下した後、そのままの温度(5℃)で60分反応させた。得られた反応物を4%の塩酸水溶液、次いで水で洗浄し、脱水、および濾過をすることで、t-ブチルペルオキシフェニルモノカーボネート150gを得た。
得られた(C)t-ブチルペルオキシフェニルモノカーボネートの収率は88%であった。
【0032】
(工程(C))
1000mlのフラスコに、工程(B)で得られたt-ブチルペルオキシフェニルモノカーボネート150gと、3-(トリエトキシシリル)プロピルアミンと、トルエン10gとを加えて5℃で混合し、60分反応させることで、目的のペルオキシカーバメート化合物を得た。
【0033】
この結果、工程(C)における収率は96%であった。上記工程(A)~工程(C)の全体にわたるトータルの収率は84%であった。得られたペルオキシカーバメート化合物の純度は50%、フェノールの含有量は15%であった。
【0034】
(比較例1)
工程(A)および工程(B)は実施例1と同様に実施した。次いで、最終工程(D)においては、触媒として28%ナトリウムメトキシド・メタノール溶液0.5gを反応系に加え、かつ反応温度50℃にて反応を行った。それ以外は、実施例1の工程(C)と同様の操作を実施し、目的のペルオキシカーバメート化合物を得た。
【0035】
最終工程(D)における収率は12%であった。また、工程(A)、゛(B)および(D)の全体にわたるトータルの収率は10%であった。ペルオキシカーバメート化合物の純度は6%、フェノールの含有量は15%であった。