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特許7015463グルコース輸送阻害剤及びグルコース輸送阻害用の機能性食品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-26
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】グルコース輸送阻害剤及びグルコース輸送阻害用の機能性食品
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7016 20060101AFI20220207BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220207BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220207BHJP
   A61K 31/7028 20060101ALI20220207BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220207BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
A61K31/7016
A61P35/00
A61P43/00 111
A61K31/7028
A23L33/105
A61P3/10
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017162174
(22)【出願日】2017-08-25
(65)【公開番号】P2019038776
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(73)【特許権者】
【識別番号】304026180
【氏名又は名称】株式会社ダイアベティム
(74)【代理人】
【識別番号】100094477
【弁理士】
【氏名又は名称】神野 直美
(74)【代理人】
【識別番号】100078813
【弁理士】
【氏名又は名称】上代 哲司
(72)【発明者】
【氏名】岩城 正宏
(72)【発明者】
【氏名】島田 紘明
(72)【発明者】
【氏名】村岡 修
(72)【発明者】
【氏名】森川 敏生
(72)【発明者】
【氏名】二宮 清文
【審査官】一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-271227(JP,A)
【文献】特開2014-084319(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105878401(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104288170(CN,A)
【文献】Carcinogenesis,Vol.28/No.9,P.1928-1936
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00-9/72
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクテオシド又は/及びエキナコシドを有効成分として含み、ナトリウム依存性グルコース輸送体SGLT1による細胞内へのグルコース輸送を阻害する作用を有することを特徴とするグルコース輸送阻害剤。
【請求項2】
アクテオシド又は/及びエキナコシドを有効成分として含み、ナトリウム依存性グルコース輸送体SGLT1による細胞内へのグルコース輸送を阻害する作用を奏することを特徴とするグルコース輸送阻害用の機能性食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルエタノイド配糖体を含むことを特徴とし、細胞内への糖輸送担体を介したグルコース輸送を阻害する生物活性を有し、ヒト又は動物用の医薬として用いられるグルコース輸送阻害剤、及び、細胞内へのグルコース輸送を阻害する作用を奏するグルコース輸送阻害用の機能性食品に関する。
【背景技術】
【0002】
フェニルエタノイド配糖体であるアクテオシド(acteoside)及びエキナコシド(echinacoside)は、ハマウツボ科(Orobanchaceae)の寄生植物であるカンカニクジュヨウ(学名:Cistanche tubulosa(Shrenk)R.Wight)に含まれる化合物であり、カンカニクジュヨウの肉質茎を、低級脂肪族アルコールの含水物等により抽出した抽出液、抽出エキスを分離、精製することにより得ることができる(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。また、アクテオシド及びエキナコシドは、ニクジュヨウ(Cistanche salsa G.BeckやCistanche deserticola Y.C.Ma)の肉質茎等にも主成分の一つとして含まれる(非特許文献2、非特許文献3)。
【0003】
アクテオシド及びエキナコシドの生物活性については、多くの研究がされており、その報告がされている。例えば、非特許文献4には、生殖能の改善について、非特許文献5には、耐糖能改善作用について、非特許文献6には、抗炎症作用について研究報告がされている。又、特許文献3、4には、アクテオシドが、α-グルコシダーゼ阻害活性、血中グルコース濃度の上昇を抑制する作用を有し、糖尿病治療薬として使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-196905号公報
【文献】特開2014-84319号公報
【文献】特開2005-82546号公報
【文献】特開平3-271227号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Journal of Chromatography A,1501巻,39-50頁(2017年)
【文献】Journal of Chemical and Pharmaceutical Research,7(5)巻,120-122頁(2015年)
【文献】PLoS One,10(2)巻,e0116490/1-0116490/12(2015年)
【文献】Journal of Ethnopharmacology,193巻,321-328頁(2016年)
【文献】Journal of Natural Medicines,68巻,561-566頁(2014年)
【文献】Planta Medica,76巻,1512-1518頁(2010年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アクテオシド又は/及びエキナコシドを有効成分として含有することを特徴とし、細胞膜に存在する糖輸送担体を介した細胞内へのグルコース輸送を阻害する生物活性を有し、ヒト又は動物用医薬として用いることができるグルコース輸送阻害剤を提供することを課題とする。
本発明は、又、前記グルコース輸送阻害剤を含有することを特徴とする抗がん剤を提供することを課題とする。
本発明は、又、細胞内へのグルコース輸送を阻害する生物活性を有するグルコース輸送阻害用の機能性食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、エキナコシド及びアクテオシドについて、種々の生物活性の検討を鋭意行った結果、これらの化合物が、細胞膜に存在する糖輸送担体を介した細胞内へのグルコース輸送を抑制する生物活性があることを見出した。そして、これらの化合物を有効成分として含む薬剤/組成物が、糖輸送担体を介した細胞内へのグルコース輸送を阻害するグルコース輸送阻害剤となり、ヒト又は動物用の医薬として用いられることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
本発明は、その第1の態様として、アクテオシド又は/及びエキナコシドを有効成分として含み、ナトリウム依存性グルコース輸送担体SGLT1による細胞内へのグルコース輸送を阻害する作用を有することを特徴とするグルコース輸送阻害剤(請求項1)を提供する。
【0009】
アクテオシド及びエキナコシドは、糖輸送担体の中でもナトリウム依存性グルコース輸送担体(sodium-dependent glucose transporter:SGLT)の内、主に小腸からのグルコースの吸収に関わるSGLT1によるグルコース輸送を阻害する生物活性を有する。アクテオシド及びエキナコシドを有効成分として含有する薬剤/組成物は、小腸からのグルコースの吸収に関わるSGLT1のグルコース輸送を阻害する生物活性を有するグルコース輸送阻害剤となる。このグルコース輸送阻害剤を投与することにより、結果として小腸から血中へのグルコースの移行を阻害することができ、食後の血糖上昇を抑制することができる。従って、食後の過血糖を抑制するヒト又は動物用の医薬または機能性食品として用いることができる。
【0010】
食後の過血糖を抑制することにより、食後に血糖を制御するのに必要なインスリンの分泌が低下する。生体内におけるインスリンの作用としては、細胞内への糖輸送担体GLUT4を介したグルコース輸送のみではなく、細胞内における脂肪合成を亢進することが知られており、血糖制御に必要なインスリン分泌を低下させることで、肥満の是正、予防に寄与することが知られている。アクテオシド又は/及びエキナコシドを有効成分として含む薬剤/組成物を投与することにより、栄養素としてのグルコースの体内への吸収の抑制とともに、食後の過血糖を抑制してインスリン分泌を低下させ細胞内における脂肪合成を抑制することが考えられる。従って、本発明の第1の態様のグルコース輸送阻害剤は、抗肥満剤としての用途が考えられる。
【0011】
又、糖輸送担体SGLT1は、ある種のがん細胞内へのグルコース輸送に関与していることが報告されている。例えば、Jpn.J.Cancer Res.,92巻,874-879頁(2001年)には肺がん細胞について、Cancer Investig.,26巻,852-859頁(2008年)には膵臓がん細胞について、Med.Oncol.,28巻,S197-S203(2011年)には結腸直腸がん細胞について、Odontology,100巻,156-163頁(2011年)には口腔扁平上皮がん細胞について、Arch.Gynecol.Obstet.,285巻,1455-1461頁(2012年)には卵巣がん細胞について、SGLT1を介したがん細胞内へのグルコースの取り込みが報告されている。
【0012】
アクテオシド及びエキナコシドは、SGLT1によるグルコース輸送を阻害する生物活性を有するので、アクテオシド又は/及びエキナコシドを有効成分として含むことを特徴とする薬剤/組成物は、SGLT1を介した栄養としてのグルコースのがん細胞内への取り込みを抑制し、がん細胞の増殖を抑制すると考えられる。従って、本発明の第1の態様のグルコース輸送阻害剤は、がん細胞増殖抑制剤、すなわち抗がん剤として使用できると考えられる。
【0013】
そこで本発明は、その第2の態様として、前記グルコース輸送阻害剤を含有することを特徴とする抗がん剤を提供する。
【0014】
本発明は、その第3の態様として、アクテオシド又は/及びエキナコシドを有効成分として含み、細胞内へのグルコース輸送を阻害する作用を奏することを特徴とするグルコース輸送阻害用の機能性食品を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の第1の態様のグルコース輸送阻害剤をヒト又は動物に投与することにより、及び第3の態様のグルコース輸送阻害用の機能性食品をヒト又は動物が摂取することにより、小腸から血中へのグルコース吸収を阻害することができる。その結果食後の血糖上昇、過血糖を抑制することができる。
又、本発明のグルコース輸送阻害剤は、がん細胞内への栄養素としてのグルコースの取り込みを阻害することから、がん細胞の生体内における増殖を抑制する優れた生物活性を有するので、抗がん剤として使用できると考えられる。
又、食後の血糖上昇、過血糖の抑制により、食後のインスリン分泌を低下させ細胞内における脂肪合成を抑制するので、本発明のグルコース輸送阻害剤は抗肥満剤として用いることができると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態につき説明するが、本発明の範囲はこの実施の形態のみに限定されるものではない。
【0017】
第1の態様のグルコース輸送阻害剤、第3の態様の機能性食品に有効成分として含まれるアクテオシドは、下記の構造式で表される化合物である。
【0018】
【化1】
【0019】
第1の態様のグルコース輸送阻害剤、第3の態様の機能性食品に有効成分として含まれるエキナコシドは、下記の構造式で表される化合物である。
【0020】
【化2】
【0021】
前記のアクテオシド及びエキナコシドは、特許文献1、2等に記載されているように、カンカニクジュヨウの肉質茎を、水、低級脂肪族アルコール、低級脂肪族アルコールの含水物等により抽出した抽出液やこの抽出液を濃縮した抽出エキスを分離、精製することにより得ることができる。また、カンカニクジュヨウの肉質茎、前記抽出液や抽出エキスは、アクテオシド及びエキナコシドを含むので、前記抽出液や抽出エキスをそのまま含ませることにより、本発明の第1の態様のグルコース輸送阻害剤や第3の態様の機能性食品を得ることができる。さらに、カンカニクジュヨウの肉質茎、前記抽出液や抽出エキスそのものも、第1の態様のグルコース輸送阻害剤として用いることができる。
【0022】
[アクテオシド及びエキナコシドの製法の例]
以下に、カンカニクジュヨウからアクテオシド及びエキナコシドを得る方法の一例を説明する。なお、アクテオシド及びエキナコシドは、カンカニクジュヨウの他に、種々の植物に含まれていることが、これまでに報告されている。すなわち、以下に説明する方法は、アクテオシド及びエキナコシドを得る方法の一例であり、本発明のグルコース輸送阻害剤や機能性食品に含まれるアクテオシドやエキナコシドの原料は、カンカニクジュヨウに限定されない。例えば、アクテオシド及びエキナコシドは、和光純薬社などから市販されているが、これらの市販品を本発明の用途に使用することもできる。
【0023】
1.抽出液の作製
抽出液は、カンカニクジュヨウの肉質茎をそのまま、水、低級脂肪族アルコール及び低級脂肪族アルコールの含水物より選ばれる抽出溶媒により抽出しても得られるが、肉質茎を、粉砕、破砕、切断、すりつぶしなどによる形状変化を行った後、前記抽出溶媒により抽出する方法が、抽出効率の面で好ましい。
【0024】
抽出溶媒として用いられる低級脂肪族アルコールとしては、炭素数1~4の低級アルコール類が挙げられ、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール又はこれらの混液が挙げられる。抽出溶媒としては、好ましくはこれらのアルコール、又はこれらのアルコールに30容量%までの水を含有する含水アルコールが用いられる。前記のアルコールの中でもメタノール又はエタノールが好ましい。これらの抽出溶媒を、前記抽出材料、すなわち、カンカニクジュヨウの肉質茎、又はそれを粉砕、破砕、切断、すりつぶしなどによる形状変化を行ったもの等に対して、1~50質量倍程度、好ましくは10~30質量倍程度用いる。
【0025】
抽出温度は、室温~抽出溶媒の沸点の間で任意に設定できる。抽出は、例えば50℃~抽出溶媒の沸点の温度で、振盪下もしくは非振盪下又は還流下に、前記の抽出材料を、前記の抽出溶媒に浸漬することにより行うのが適当である。
【0026】
好ましい抽出時間は、抽出温度や抽出の際の振盪の有無等により変動し、特に限定されない。例えば、抽出材料を振盪下に浸漬する場合には、30分間~10時間程度行うのが適当であり、非振盪下に浸漬する場合には、1時間~20日間程度行うのが適当である。又、抽出溶媒の還流下に抽出するときは、30分間~数時間加熱還流するのが好ましい。なお、50℃より低い温度で浸漬して抽出することも可能であるが、その場合には、前記の時間よりも長時間浸漬するのが好ましい。抽出操作は、同一材料について1回だけ行ってもよいが、複数回、例えば2~5回程度繰り返すのが好ましい。
【0027】
2.抽出エキスの作製
前記の抽出工程により得られた抽出液にはカンカニクジュヨウの肉質茎の含有成分が溶出されている。第1の態様のグルコース輸送阻害剤、第3の態様の機能性食品の製造には、このようにして得られた抽出液をそのまま用いてもよいが、前記抽出液を濃縮して抽出エキスにして用いてもよい。濃縮は、低温で減圧下に行うのが好ましい。なお、濃縮する前にろ過してろ液を濃縮してもよい。抽出エキスは、濃縮したままの状態で第1の態様のグルコース輸送阻害剤として用いることができる。又、濃縮を乾固するまで行い粉末状として又は凍結乾燥品等として第1の態様のグルコース輸送阻害剤とすることができる。濃縮する方法、粉末状及び凍結乾燥品とする方法は、当該分野での公知の方法を用いることができる。
【0028】
3.精製処理
前記のようにして得られる抽出液又は抽出エキスを、精製処理に付し、含有される各成分に分離することにより、前記構造式のアクテオシド及びエキナコシドが得られる。
【0029】
精製処理は、例えば、クロマトグラフ法、イオン交換樹脂を使用する溶離法、溶媒による分配抽出等を単独又は組み合わせて行うことができる。クロマトグラフ法としては、順相クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、遠心液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を挙げることができ、これらのいずれか又はそれらを組み合わせで行う方法が挙げられる。この際の担体、溶出溶媒等の精製条件は、各種クロマトグラフィーに対応して適宣選択することができる。
【0030】
[グルコース輸送阻害剤の製造]
カンカニクジュヨウの肉質茎、前記抽出液、抽出エキス、又はアクテオシド及びエキナコシドからなる群から選ばれる化合物を含有させて、第1の態様のグルコース輸送阻害剤、第3の態様の機能性食品を製造することができる。ヒト又は動物用医薬である第1の態様のグルコース輸送阻害剤を製造する場合は、そのままの状態で又は適当な媒体で希釈して、医薬品等の製造分野における公知の方法により製造することができ、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又は液剤等の種々の形態とすることができる。
【0031】
適当な媒体としては、医薬的に許容される賦形剤、例えば結合剤(例えばシロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビトール、トラガント又はポリビニルピロリドン)、充填剤(例えば乳糖、砂糖、トウモロコシ澱粉、リン酸カルシウム、ソルビトール又はグリシン)、錠剤用滑剤(例えばステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール又はシリカ)、崩壊剤(例えば馬鈴薯澱粉)又は湿潤剤(例えばラウリル硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0032】
錠剤とする場合は、通常の製薬における周知の方法でコートしてもよい。液体製剤とする場合は、例えば水性又は油性の懸濁液、溶液、エマルジョン、シロップ又はエリキシルの形態であってもよい。又、使用前に水や他の適切な賦形剤と混合する乾燥製品として提供してもよい。
【0033】
こうした液体製剤は、通常の添加剤、例えば、ソルビトール、シロップ、メチルセルロース、グルコースシロップ、ゼラチン水添加食用脂等の懸濁化剤、レシチン、ソルビタンモノオレエート、アラビアゴム等の乳化剤(食用脂を含んでもよい)、アーモンド油、分画ココヤシ油又はグリセリン、プロピレングリコールやエチレングリコールのような油性エステル等の非水性賦形剤、p-ヒドロキシ安息香酸メチル又はプロピル又はソルビン酸等の保存剤を含んでもよく、さらに所望により着色剤又は香料等を含んでもよい。
【0034】
[グルコース輸送阻害用の機能性食品の製造]
グルコース輸送阻害用の機能性食品は、カンカニクジュヨウの肉質茎、前記抽出液、抽出エキス、又はアクテオシド及びエキナコシドからなる群から選ばれる化合物を、それぞれを単独で又は2種以上の混合物として、食品又は機能性食品に、混合又は塗布、噴霧等により添加して、前記食品又は機能性食品にグルコース輸送阻害作用を与えることにより製造することができる。食品又は機能性食品への添加は、これらの食品の製造工程において行うこともできるし、又は最終製品に行うこともできる。
【0035】
ここで、機能性食品とは、通常の食品よりも積極的な意味で、保健、健康維持・健康増進等を目的とした食品を意味する。食品又は機能性食品の形態としては、例えば、液体又は半固形、固形の製品、具体的にはクッキー、せんべい、ゼリー、ようかん、ヨーグルト、まんじゅう等の菓子類、清涼飲料、お茶類、栄養飲料、スープ等の形態が挙げられる。
【0036】
本発明の第1の態様のグルコース輸送阻害剤や第3の態様の機能性食品における、カンカニクジュヨウの肉質茎、前記抽出液、抽出エキス、又はアクテオシド及びエキナコシドからなる群から選ばれる化合物の使用量は、濃縮、精製の程度、活性の強さ等、使用目的、対象疾患や自覚症状の程度、使用者の体重、年齢等によって適宣調整される。例えば、グルコース輸送阻害剤として成人について使用する場合は、1回の投与毎に、抽出液又は抽出エキスでは、1mg~20g程度の範囲で使用し、この範囲内で精製度や水分含量等に応じて調整することが適当な場合が多い。又、アクテオシド及び/又はエキナコシドを化合物として使用する場合は、アクテオシド及びエキナコシドの合計で1mg~1g程度が適当な場合が多い。
【0037】
又、機能性食品として使用する場合は、食品の味や外観に悪影響を及ぼさない量、例えば、対象となる食品1kgに対して、カンカニクジュヨウの肉質茎、前記抽出液、抽出エキス、又は、アクテオシド及びエキナコシドからなる群から選ばれる化合物を、1mg~20g程度の範囲で添加することが適当な場合が多い。
【実施例
【0038】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0039】
実施例1
(1)カンカニクジュヨウメタノール抽出エキスの調製
乾燥したカンカニクジュヨウ(C.tubulosa)の肉質茎部を粉砕し、これに約10質量倍量のメタノールを加え、加熱還流下3時間抽出した。抽出後、ひだ折りろ紙でろ過した後、抽出残渣に再度、前記とほぼ同量のメタノールを加え、3時間加熱還流し、同様にろ過作業を行った。前記抽出操作を合計3回行い、その抽出液をあわせ、ロータリーエバポレーターを用いて、減圧下に溶媒を留去して、カンカニクジュヨウのメタノール抽出エキスを得た。
【0040】
(2)アクテオシド及びエキナコシドの単離
アクテオシド及びエキナコシドは、前記で得られたメタノール抽出エキスより、特開2007-191416号公報の実施例2の「メタノール抽出エキスの分離及び精製」に記載の方法、条件により単離した。
【0041】
実施例2 アクテオシド及びエキナコシドのナトリウム依存性グルコース取込み阻害作用の評価
実施例1で得られたアクテオシド、エキナコシド、及び典型的SGLT阻害剤であるフロリジン(陽性対照薬)について、次に示す方法によりナトリウム依存性グルコース取り込み阻害作用を評価した。評価は、以下に示す1)、2)、3)の手順で行った。
1)被験物質の存在下及び非存在下のそれぞれについて、ナトリウム存在下及び非存在下での糖取り込み量を測定した。
2)1)で測定された糖取り込み量について、ナトリウム存在下及び非存在下での差を算出した。この差(算出値)は、SGLT1による糖取り込み量を示す。
3)2)で算出されたSGLT1による糖取り込み量について、被験物質の非存在下での糖取り込み量を100%とし、被験物質の存在下での糖取り込み量の相対値を算出し、グルコース取込み阻害作用(糖輸送阻害活性)を評価した。その結果を表1に示す。
【0042】
評価のための試験では、蛍光性グルコース誘導体(2-deoxy-2-[(7-nitro-2,1,3-benzoxadiazol-4-yl)amino]-D-glucose:2-NBDG)及びヒト腸管上皮モデルCaco-2細胞を用いて行った。
使用した2-NBDGはCayman Chemical社(Ann Arbor、MI)から、フロリジンは和光純薬社から購入した。
Caco-2細胞は、理化学研究所バイオリソースセンター(茨城、日本)から購入し、定法により培養して試験に供した。
【0043】
Caco-2細胞は、10%(v/v)ウシ胎児血清(Sigma-Aldrich社製、St.Louis、MO)、1%(v/v)非必須アミノ酸(和光純薬社製)、100units/ml penicillin及び100μg/ml streptomycin(和光純薬社製)を含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM、Sigma-Aldrich社製)を用いて、COインキュベーター内(5%CO、37℃)で培養した。その後、Caco-2細胞を、5.0×103cells/wellで96穴培養プレートに播種し、16-20日間培養した。培地は2日おきに交換した。
【0044】
2-NBDG取り込みのナトリウム依存性(ナトリウム存在下及び非存在下での糖取り込み量の差)を測定するために、Na(+)transport buffer中(ナトリウム存在下)とNa(-)transport buffer中(ナトリウム非存在下)での糖取り込み量を測定しその差異を算出した。この算出値は、ナトリウム依存性の糖取り込み量であり、Caco-2細胞中のSGLT1による糖取り込み量を示す。それぞれのバッファーの組成は、Na+(+)transport bufferは、125mM NaCl、4.8mM KCl、1.2mM KHPO、1.2mM MgSO、1.2mM CaCl及び25mM HEPES(pH 7.4)であり、Na(-)transport bufferは、Na(+)transport bufferのNaClを等モルのcholine chlorideに置き換えたものを用いた。
【0045】
細胞を96穴培養プレートで16-20日間培養した後、培地をアスピレーターにより吸引除去後、Na(+)transport buffer又はNa(-)transport bufferでそれぞれ細胞を洗浄後、Na(+)transport buffer又はNa(-)transport buffer中で15分間保温(プレインキュベーション)を行った。その後、150μMの2-NBDGを含むNa(+)transport buffer又はNa(-)transport bufferをそれぞれ添加することにより2-NBDGの取り込み反応を開始した。
【0046】
2時間後、氷冷したNa(+)transport buffer又はNa(-)transport bufferにより、それぞれ細胞を洗浄し、取り込み反応を停止させた。培養プレート内に残存した細胞を0.1%(w/v)Triton X-100により溶解後、細胞内に取り込まれた2-NBDG由来の蛍光をマイクロプレートリーダーにより測定し、その結果より2-NBDG(糖)取り込み量を算出した。
【0047】
上記試験を、実施例1で得られたアクテオシド、エキナコシド及びフロリジンを表1に示す濃度で存在させた場合(被験物質存在下)及び被験物質非存在下の場合について行った。それぞれの場合について、ナトリウム存在下とナトリウム非存在下での糖取り込み量の差異(Caco-2細胞中のSGLT1による糖取り込み量)を測定した。被験物質非存在下を対照群とし、その測定値を100%とし、被験物質の存在下での測定値の相対値(% of control)を算出し、表1の2-NBDG取り込み量の欄に、平均値±標準誤差(N=3~4)で表した。対照群との差異の検定には、Dunnett’s testを使用しp<0.05を有意と判定し、表中数字に*の記号を付した。
【0048】
【表1】
【0049】
表1に示したように、アクテオシド及びエキナコシドは、SGLT1を介した細胞内へのナトリウム依存性2-NBDG取込みを、陽性対照薬として使用したフロリジンよりも強力に阻害することが見いだされた。